JP3939160B2 - 腎臓における外来遺伝子発現方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、腎臓における外来遺伝子の発現方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、腎疾患に対するin vivoまたはex vivo遺伝子治療等のための外来遺伝子の導入とその長期間の発現を可能とする新しい遺伝子発現方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
腎臓への遺伝子導入は、遺伝子性腎疾患、糸球体腎炎や糖尿病性腎症、急性および慢性腎不全、移植腎等の腎疾患過程の理解を深め、あるいはそれらの腎疾患治療法を革命的に変えるための最も重要なツールの1つとなる可能性を秘めている。
【0003】
これまでにも、腎臓への遺伝子導入・発現のための種々の方法が報告されているが、発現タンパクの量や発現の持続時間が治療用途には十分ではなかった(Gene Ther. 4, 426-431, 1997; J. Clin. Invest. 101, 1320-1325, 1998; Kidney Int. 57, 1973-1980, 2000; Hum. Gene Ther. 8, 1243-1251, 1997; Gene Ther. 7, 279-285, 2000; Biochem. Biophys. Res. Commun. 186, 129-34, 1992; J. Clin. Invest. 92, 2597-2601, 1993; Biochem. Biophys. Res. Commun. 206, 525-532, 1995)。
【0004】
また、外来遺伝子(治療用遺伝子)を導入するためのベクターとしては、導入効率の点から主にウイルスベクター(アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)が使用されている。しかしながら、これらのウイルスベクターの使用は、安全性の確保や抗原性の排除等の点に課題を残している。
【0005】
また、非ウイルスベクターとして、カチオニック・リポソームとの複合体(リボプレックス)、カチオニック・ポリマーとの複合体(ポリプレックス)等の合成高分子を用いて導入効率を向上させる方法も提案されている。ただし、これらの合成高分子をベクターとする場合には、そのアジュバント作用による免疫系の障害等の問題が存在する。
【0006】
一方、組換えプラスミドベクターを哺乳動物の骨格筋、皮膚または心筋内に直接注入し、プラスミドベクターに組み込まれた遺伝子がコードする蛋白質やポリペプチドを細胞内で発現させる方法が提案されている。この方法は、Wolff等によって報告されたプラスミドDNA(naked DNA)の興味深い特性に基づいている。すなわち、Wolff等は、種々の酵素(β−カラクトシターゼ、ルシフェラーゼなど)をコードする遺伝子によって組換えたプラスミドベクターを哺乳動物の筋肉内に直接注射すると、組換えプラスミドDNAは複製されたり宿主のゲノムに組み込まれたりせずに、エピゾーム(染色体外要素)として長期にわたり(数ヶ月間)筋肉細胞内に存在し、インサート遺伝子にコードされた酵素を発現し続けることを報告している(Science, 247:1465-1468, 1990)。以来、このプラスミドベクターの筋肉内注射による遺伝子導入発現法は、組換えウイルスベクター等に代わって、今後の遺伝子治療の主流となるものと期待され、その応用範囲が様々に検討されている。例えば、抗原性蛋白質をコードするDNA断片を組み込んだプラスミドベクターを筋注することによって筋肉細胞内に抗原を発現させ、この抗原特異的な免疫応答を刺激して宿主に免疫防御能を獲得させる方法が開発されている。この手法は「DNAワクチン」と名付けられ、従来の不活化または弱毒化ウイルスワクチンに比較して費用や安全性の面で優れているため、次世代のワクチンとして注目されている。また、免疫防御能獲得のためのDNAワクチンとしての使用のほか、組換えプラスミドベクターの直接導入法は、生理活性物質等による全身機能の調節にも有効であることが示されている。例えばサイトカイン(IL-2、IL-4、TGFβ1)をコードする組換えプラスミドベクターをマウスの筋肉内に注射することによって、筋肉細胞内で発現されたサイトカインが体循環に入り、全身性に作用することが報告されている(Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 93:10876-10880, 1996 )。なお、この出願の発明者の一人は、組換えプラスミドベクターの細胞内への効率的な導入手段として、エレクトロポーレーションを利用した方法を発明し、既に特許出願している(特開平2000-004715号公報)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前記のとおり、組換えプラスミドベクター(naked DNA)を用いた遺伝子導入は、従来、筋細胞等の組織細胞に直接ベクターを導入する手段として用いられており、生体内の臓器に外来遺伝子を導入するためのベクターとしては利用されていなかった。
【0008】
この発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、腎臓への遺伝子導入ベクターとして組換えプラスミドベクターを利用し、導入遺伝子の長期間の発現を可能とする新しい方法を提供することを課題としている。
【0009】
また、各皮質レベルで静脈と連結する間質血管網(network of interstitial vessel)を含む腎臓の尿細管周囲毛細血管(peritubular capillary: PTC)は、腎機能および血行動態維持の重要な役割を果たすことが知られている[The kidney Vol. 1, 6th edn. (ed. Brenner, B. M. ) 277-318, W. B. Saunders, Philadelphia, USA, 2000]。PTCおよび尿細管の損失によって併発する進行性尿細管間質性線維化は、全進行性腎疾患に共通しているが(J. Am. Soc. Nephrol. 7, 2495-2508, 1996)、糸球体損傷よりもむしろ慢性尿管間質変化の重症度の方が、腎機能の低下とその長期予後に強く関連している(Lancet. 2, 363-366, 1968; Hum. Pathol. 1, 631-641, 1970; Nephrol. Dial. Transplant. 5. 889-893, 1990; Kidney Blood Press. Res. 19, 191-195, 1996; J. Am. Soc. Nephrol. 9, 231-242, 1998; J. Am. Soc. Nephrol. 11, 47-56, 2000)。さらに、PTCの内皮は、急性および慢性腎移植拒絶の主な標的の1つであることも知られている(17. J. Am. Soc. Nephrol. 10, 2208-2214, 1999; Lab. Invest. 80, 815-830, 2000; J. Am. Soc. Nephrol. 12, 574-582, 2001)。
【0010】
従って、この出願の発明は、PTCの内皮近傍の線維芽細胞において外来遺伝子を長期間に渡って発現させることをさらに具体的な課題としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この出願は、前記の課題を解決するための発明として、外来遺伝子によって組み換えたプラスミドベクターを経腎静脈的投与により腎臓に導入し、外来遺伝子を主として腎臓間質の線維芽細胞で発現させることを特徴とする遺伝子発現方法を提供する。
【0012】
この発明の方法においては、外来遺伝子が腎疾患治療用遺伝子であることを好ましい態様としている。また、経皮的静脈カテーテルを介して経腎静脈的投与を行うことを別の好ましい態様としてもいる。
【0013】
さらにこの発明方法においては、移植可能な状態で人体より摘出した腎臓または腎細胞に組換えプラスミドを導入することをさらに別の態様としている。
【0014】
以下、この出願の発明について、実施形態を詳しく説明する。
【0015】
【発明の実施の形態】
この発明の方法において、プラスミドベクターを組換えるために使用する外来遺伝子は、例えば腎臓機能に影響を及ぼす各種サイトカインやホルモンをコードする遺伝子(DNAやRNA等のポリヌクレオチド)である。また、この発明方法の用途に応じては、腎疾患の治療用遺伝子を用いることもできる。さらにこの発明の方法では、腎疾患以外の疾患の治療用遺伝子(例えば、ファブリ病に対するα-galactocidase A遺伝子、βサラセミアに対するEpo遺伝子)を用いることができる。すなわちこの発明方法では、例えば2μg程度の少量のプラスミドベクターを導入することによっても導入遺伝子を長期間に渡って腎臓で発現させることが可能であるため、腎臓を遺伝子発現の工場(biofactory)として使用して、分泌性タンパク質の供給による各種疾患の治療も可能となる。
【0016】
このような遺伝子(ポリヌクレオチド)は、ゲノム遺伝子をそのまま用いることもでき、あるいは遺伝子から転写されたmRNAや、mRNAから合成されたcDNAを用いることもできる。また、mRNAやcDNAを用いる場合には、腎臓での遺伝子発現を制御するプロモーター/エンハンサー配列等をポリヌクレオチドに連結するようにする。
【0017】
プラスミドベクターは特に制限はなく、動物細胞発現用に通常用いられているプラスミドDNAを適宜に使用することができる。プラスミドDNAへの外来遺伝子ポリヌクレオチドの挿入も、公知の方法によって行うことができる。
【0018】
このようにして構築した組換えプラスミドベクターは、腎静脈を介して逆行性に腎臓内に投与される。対象とする腎臓は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物の腎臓である。ヒト腎臓を対象とする場合は、遺伝子治療としての効果が期待される。また非ヒト動物の場合は、例えば腎疾患モデル動物を対象とすることによって、導入した治療用遺伝子の効果を動物個体レベルで確認することができる。あるいは、腎疾患の原因遺伝子を個体内で発現させることによって、新しい腎疾患動物モデルを作出することもできる。
【0019】
腎臓への組換えプラスミドの導入は、注射液に組換えプラスミドを混合し、一時的にクランプした腎静脈にプラスミド溶液を注射することによって行うことができる。あるいはまた、大腿静脈、頸静脈、鎖骨下静脈、肘静脈等に経皮的静脈カテーテルを刺入し、このカテーテルを介してプラスミド溶液を注入するようにしてもよい。注射液中のプラスミドの濃度や注射液の投与量は、対象とする動物種によって異なるが、ヒトの場合には、プラスミド1μg〜20mg程度を投与すればよい。
【0020】
以上の方法によって組換えプラスミドベクターを投与された腎臓は、ベクターに保持された外来遺伝子が少なくとも6ヶ月間発現するため、腎機能の改善や、あるいは遺伝子による腎疾患治療効果が長期間維持される。
【0021】
この発明の方法はまた、移植可能な状態として人体より摘出した腎臓組織を対象として行うこともできる。この場合も、腎臓はその静脈とともに摘出し、この静脈を介してプラスミド溶液を腎臓内に投与する。そして組換えプラスミドベクターを注入した腎臓を人体内に移植することによって、導入遺伝子が腎臓内で発現し、長期間に渡っての腎機能改善や腎疾患の治療効果が計られる。
【0022】
以下、実施例を示してこの出願の発明についてさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0023】
【実施例】
1. 方法
1.1 プラスミドDNA
文献(Hum. Gene Ther. 11, 429-437, 2000)に記載されたQiagen EndoFree plasmid Giga kit(Qiagen GmbH, Hilden, Germany)を用いた方法によって、CAG(サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチンハイブリッド)プロモーターを有するpCAGGS発現ベクター(Gene. 108, 193-199, 1991)のXhoI部位にエリスロポエチン(Epo)のcDNAを挿入し、組換えプラスミドベクターpCAGGS-Epoを構築した。コントロールとしては、Epo cDNAを挿入しない空のpCAGGSプラスミドを使用した。
1.2 ラット
8週齢の雄Wistarラットを、Charles-River Japan Inc.(Tokyo, Japan)から購入し、遺伝子導入に使用した。
1.3 プラスミドDNAの注入
プラスミドDNAをリンゲル溶液で希釈した。ラットをジエチルエーテルで麻酔し、腹部正中断面の切開の直後にプラスミドDNA溶液を注射し、左側の腎静脈および腎動脈をクランプした。24ゲージのカテーテル(SURFLO I.V.; Terumo, Tokyo, Japan)を用いて、静脈にプラスミドDNA溶液を注射し、注射直後に血流を再開させた。インキュベーションは行わなかった。5秒間圧迫し、注射部位を止血した。
1.4 全組織のDNA抽出とPCR
注射1日目と24週目に、100μgのpCAGGS-Epoを投与したラットを全身麻酔下で屠殺し、両腎臓、脳、心臓、肺、肝臓、脾臓、筋肉、皮膚、精巣および血液を単離した。Laird等(Nucleic Acids Res. 19: 4293, 1991)に従って組織サンプルからDNAを単離し、以下の特異的プライマーを用いて、pCAGGS-Epoに含まれるサイトメガロウイルス(CMV)のimmediate-earlyエンハンサー領域をPCR増幅した。
【0024】
CMV-1フォワードプライマー:5'-GGGTCATTAGTTCATAGCC-3'(配列番号1)
CMV-2リバースプライマー:5'-GGCATATGATACACTTGAT-3'(配列番号2)
PCRの手続は、[95℃1分:60℃2分:74℃2分]×1サイクルと、[94℃1分:60℃1分:72℃1分]×29サイクルとした。PCR産物は4%アガロースゲルに泳動し、215bpのCMVエンハンサーDNAを解析した。
1.5 全組織のRNA抽出とRT-PCR
注射1日目に、100μgのpCAGGS-EpoまたはpCAGGSを投与したラットを全身麻酔下で屠殺し、両腎臓、脳、心臓、肺、肝臓、脾臓、筋肉、皮膚および精巣を単離した。Isogen(Nippon Gene, Tokyo, Japan)を用いて組織サンプルから全RNAを単離し、以下の特異的プライマーを用いたRT-PCRによってEpo mRNAと、コントロールとしてのグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)mRNAの発現を検出した。
【0025】
Epoリバースプライマー:5'-GCCCAGAGGAATCAGTAGCA-3'(配列番号3)
Epoフォワードプライマー:5'-TCTGACTGACCGCGTTACTC-3'(配列番号4)
G3PDHリバースプライマー:5'-TCCACCACCCTGTTGCTGTA-3'(配列番号5)
G3PDHフォワードプライマー:5'-ACCACAGTCCATGCCATCAC-3'(配列番号6)
なお、Epoフォワードプライマーは、CAGプロモーターの転写開始部位のすぐ下流の配列にハイブリダイズするようにを設計した。すなわち、pCAGGS-Epo中のCAGプロモーターとEpo cDNAとの間にはイントロンが存在するため、このイントロンを含むようにEpo RNA検出用のプライマーセットを設計して、プラスミドDNAまたはゲノムDNAからのPCR産物と区別できるようにした。G3PDH mRNA検出用のプライマーセットも、イントロンを含むように設計した。4%アガロースゲル電気泳動によってRT-PCR産物を分析した。予想産物の長さは、Epo mRNAでは170bp、G3PDH mRNAでは452bpである。
1.6 血液分析
文献(Hum. Gene Ther. 11, 429-437, 2000; Gene Ther. 8, 461-468, 2001)の記載に従って、Epoレベル、ヘマトクリット、網状赤血球および血清中クレアチニンを測定した。
1.7 X-galおよび免疫組織化学的染色
pCAGGS-lacZは、Escherichia coliのβガラクトシダーゼを発現する(Gene. 108, 193-199, 1991)。100μgのpCAGGS-lacZを注射した腎臓を組織化学的に解析した。注射1日後にX-gal染色用に両側の腎臓を採取し、Tissue-Tek O.C.T.化合物(Sakura Finetechnical Co.Ltd., Tokyo)に包埋し、ドライアイスおよびアセトンの混合物中で凍結した。クリオスタットで連続切片(厚さ5μm)に切断し、3-アミノプロピルトリエトキシシランでコートしたガラススライド上に貼り付けた。切片を1.5%グルタルアルデヒド中、室温で10分間固定し、冷リン酸緩衝化生理食塩水で3回洗浄し(5分/洗浄)、1mg/ml X-gal、2 mM MgCl2、5 mM K4Fe(CN)6、5 mM K3Fe(CN)6、0.5% Nonidet P-40(pH 7.4)を含むX-gal染色溶液中、37℃で3時間インキュベートした。文献(Nature Biothechnol. 16, 867-870, 1998)記載の方法に従って切片をX-galで染色し、nuclear fast redで核染色を行った。
【0026】
腎臓の血管内皮を同定するために、マウス抗ラット内皮細胞モノクローナル抗体RECA-1(Cosmobio, Tokyo, Japan)(Lab. Invest. 66, 459-466, 1992)を含むEnvion+mouse(Dako,Tokyo, Japan)を用いて連続切片を免疫染色し、ヘマトキシリンで核染色した。
1.8 二重免疫蛍光染色
PTCにおける導入遺伝子の発現部位を特定するため、100μgのpCAGGS-lacZを注射した腎臓を分析した。注射1日後の腎臓を5μ厚で切片化し、4℃で5分間、アセトンで固定した。この切片を、ウサギ抗E. coliβガラクトシダーゼ抗体(1:200希釈、Biogenesis, Poole, UK)およびマウス抗ラット内皮細胞モノクローナル抗体RECA-1(1:100希釈、Cosmobio)と共に30分間室温でインキュベーションし、次いで、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)を標識したブタ抗ウサギIgG(1:20希釈、DAKO)またはテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)を標識したヤギ抗マウスIgG(1:20希釈、Southern Biotechnology Associates, AL, USA)と共に室温で30分間インキュベートした。各切片は、BX50システム顕微鏡(Olympus Promerketing, Tokyo, Japan)を使用して分析した。全ての顕微鏡像は、PM-30フォトマイクログラフィーシステム(Olympus Promerketing)を使用し、FITCおよびTRITC用にセッティングしたビルターを用いて撮影した。画像処理にはAdobe Photoshop(Adobe Systems, CA)を使用した。導入遺伝子部位は緑色蛍光で、PTCは赤色蛍光で検出した。
1.9 免疫電子顕微鏡
PTCの導入遺伝子発現部位をさらに微細構造レベルで確認するため、100μgのpCAGGS-lacZを注射した腎臓を分析した。注射1日後、ラットをジエチルエーテルで全身麻酔し、大動脈を介して、50μlのPBSを、次いで50μlのperiodate-lysine-paraformaldehydeを灌流した。腎臓はperiodate-lysine-paraformaldehyde固定剤で4℃4時間固定し、PBS中1%ショ糖で1時間処理し、Tissue-Tek O.C.T.化合物で包埋し、そしてヘキサン中-80℃で凍結させた。クリオスタットで4μm厚に切片化し、ウサギ抗E. coliβガラクトシダーゼ抗体(1:800希釈、Biogenesis)と共に室温で30分間インキュベートした。PBSで洗浄後、各切片をヤギ抗ウサギIg EnVision+ ペルオキシダーゼウサギ抗体(1:10希釈、DAKO)と共に1時間インキュベーションした。次いで、各切片をPBSで洗浄し、0.01% H2O2を含むTrisバッファー(pH 7.6)中で0.02% diaminobenzidine(DAB)と共に3分間インキュベートした。PBSで洗浄後、2.5% glutaraldehydeで室温3分間固定した。各切片をPBSで洗浄後、0.1 Mリン酸バッファー(pH 7.2)中で1% OsO4で3分間さらに固定し、蒸留水で洗浄し、エタノールで段階的に脱水し、Eponの同等物であるEpok 812(Oken, Tokyo, Japan)に水平包埋した。Epok 812で重合した後、光学顕微鏡で分析し、選択領域をウルトラミクロトームを用いて100nm厚に切片化した後、H-600電子顕微鏡(Hitachi, Ibaragi, Japan)を用いてDAB染色部位を分析した。
1.10 腎臓の組織学的分析
プラスミドDNAの注射後1日目、7日目および24週間目の腎臓を回収し、10%緩衝化ホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋処理し、通常の光学顕微鏡観察を行った。次いで、遺伝子導入法による組織損傷を検出するため、過ヨウ素酸−Schiff(PAS)で5μmの切片を染色した。
1.11 肝臓機能
組換えヒトEpo治療の一つの副作用は、尿毒症ラットにおける腎機能の低下である(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85: 142-146, 1988)。この尿毒症ラットにおける腎機能傷害は、エレクトロポーレーション法による筋へのEpo遺伝子導入によって増強される(Gene Ther. 8:461-468, 2001)。その理由として、Epo遺伝子導入によって引き起こされる多血症が遺伝子導入腎臓の機能に対して好ましくない作用を及ぼすことが考えられる。そこで、1.0mlの100μg pCAGGSの腎静脈内注入(これ自体は導入遺伝子発現によって腎機能に影響を及ぼさない)の直後に腎臓が正常に機能するか否かを調べた。なお、一方の非注入腎臓が注入腎臓の機能障害を補償することを防ぐため、左腎臓にプラスミドを注入し、右腎臓は摘出した。正常ラットと、DNA非注入の片側腎摘出ラットをコントロールとし、腎機能の内因性マーカーである血清クレアチンレベルを測定した。
1.12 統計的分析
数値データは平均値±平均標準偏差として示した。Macintosh用のStatView統計プログラム(SAS, Cary, NC)を用いて全データを分析した。統計的有意性をunpaired t検定で評価した。P<0.05を統計的有意性とみなした。
2. 結果
2.1 墨汁の移送部位
プラスミドDNA溶液が逆行性腎静脈注射によってPTCに到達することができるかどうかを調べるために、最初に墨汁を注射した。静脈から間質領域への墨汁の移行が検出され、出血することなくPTCが拡張した(図1a)。糸球体または尿細管組織のいずれかへの墨汁の移行は認められなかった。
2.2 pCAGGS-lacZ遺伝子発現の局在化
導入遺伝子の発現部位を明らかにするために、腎臓に100μgのpCAGGS-lacZまたはpCAGGSを移送した。pCAGGS-lacZを注射した腎臓間質のみがX-gal染色され(図1b)、pCAGGSを注射した腎臓は染色されなかった(データ示さず)。5匹のラットにpCAGGS-lacZを導入し、全ての注入腎臓にX-gal染色が再現されることを確認した。PTCおよび糸球体毛細血管の内皮はRECA-1抗体と反応した(図1c)。2つの連続切片を比較すると、一方はX-galで染色され、他方はRECA-1で染色され、導入遺伝子の発現がPTCを含む間質に限局することを示した。
【0027】
導入遺伝子の発現部位を明確化するため、二重免疫蛍光染色によって腎臓切片を分析した。pCAGGS-lacZの発現は、ウサギポリクローナル抗E. coliβガラクトシダーゼ抗体と、FITC標識ブタ抗ウサギIgGによる免疫染色によって、幾つかのPTCが交叉する部位に、広い緑色蛍光として検出された(図2a)。PTC内皮細胞は、RECA-1と、TRITC標識ヤギ抗マウスIgGとによる染色によって、細い赤色蛍光として検出された(図2b)。この二重免疫染色は、黄色がかった緑色領域を取り囲むような黄色蛍光を示したが、このことは、導入遺伝子がPTCの限られた領域内またはその近傍で発現することを示唆する(図2c)。
【0028】
導入遺伝子発現細胞は、さらに免疫電子顕微鏡で調べ(図3)、腎間質細胞の形態学(Anat. Embryol. 193:303-318, 1996)に基づいて特定した。その結果、DAB産物は一様に、PTC近傍の線維芽細胞の細胞質に検出された(図3a,b,c)。線維芽細胞は、長い細胞質突起を伸長し、PTC内皮細胞の細胞質および尿細管にしっかりと接着していた(図3a,b,c)。内皮細胞、マクロファージ、樹状細胞および外膜細胞にはDAB産物は全く観察されなかった。
【0029】
以上の結果は、導入遺伝子の発現部位が、PTC近傍の線維芽細胞であることを示している。
2.3 遺伝子導入効率に対する注射特性の効果
プラスミドベクターpCAGGS-Epo注入後の血清Epo測定および赤血球分析によって、導入遺伝子(Epo)の生理学的効果を調べた。
【0030】
始めに、ラット腎臓が適応できる最大注射容積を測定した。8週齢の雄Wistarラットの平均腎容量は1.0±0.02ml(n=10)であった。遺伝子導入効率に対する注射時間(5〜60秒)および容積(0.5〜2.0ml)を変化させ、800μgのプラスミドDNA注射の1週間前および1週間後の血清Epoレベルを測定して効果を評価した。プラスミドDNA溶液を5秒以内(図4a)で1.0mlの容積(図4b)で注射した場合、最大Epo発現が得られた。注射中、腎臓は少し膨張した。次に、5秒間の注射時間および1.0mlの容積でDNAの注射量を変化させたときの効果を評価した。Epoレベルと、注射した100μgまでのDNA量との間に容量依存的相関が認められた。実質的なEpo遺伝子発現レベルはわずか10μgのDNAで認められた(図4c)。
2.4 主要臓器におけるEpo導入遺伝子とmRNAのPCR分析
腎静脈への逆行性注入は、プラスミドDNAを解剖学的に腎臓へ導入させるが、その腎臓特異的発現を保障する技術的特徴は何ら存在しない。そこで、プラスミッドDNAが注入腎臓にのみ特異的に導入され、そこで特異的に発現するか否かを確認することが必要である。図5に示したように、注射1日後、PCRによってpCAGGS-Epoを注射した左腎臓のみでEpo DNAが検出されたが、他の如何なる組織でもそれは検出されなかった。また、RT-PCRによっても、導入遺伝子に由来するEpo mRNAが注射した左腎臓でのみ検出されたが(図6a)、他の組織では全く検出されなかった。さらに、コントロールpCAGGSを注射した腎臓ではEpo mRNAは検出されなかった(データ示さず)。全ての注射腎臓でコントロールのG3PDH mRNAが検出された。同様に、PCRによってEpo導入遺伝子DNAが検出され(データ示さず)、注射24週後でもEpo mRNAがRT-PCRによって検出された。
【0031】
以上の結果から、腎静脈を介して逆行性に注射した導入遺伝子の発現は、注射1日後には注射した側の腎臓にのみ特異的となり、それは24週間以上維持されることが確認された。
2.5 pCAGGS-Epo注射後の時間経過
DNA注射量を変化させて、Epo発現の時間経過を調べた。注射液の量は1.0ml、注射時間は5秒間に統一した。ラットは4群(各3匹)に分けた:pCAGGS-Epo 100μg群、pCAGGS-Epo 30μg群、pCAGGS-Epo 2μg群、pCAGGS 100μg群。
【0032】
100μgのpCAGGS-Epoの注射後、血清Epoレベルは5週目に208.3±71.8mU/mlでピークに達し、24週目までに116.2±38.7mU/mlに徐々に減少した(図7a)。24週目まで、2μg群および30μg群でも同様のパターンが観察された。導入遺伝子に由来するEpo分泌により網状赤血球増加症を発症した(図7b)。ヘマトクリットレベルは、試験の最後の時点である少なくとも24週目で、2μg群ラットですらpCAGGS注射コントロールよりも有意に高かった(図7c)。pCAGGS-Epo導入は生物活性Epoを継続的に産生するので、網状赤血球およびヘマトクリットレベルを投与量依存的に有意に上昇させた。
2.6 腎臓損傷の組織学的試験
腎臓損傷の可能性を評価するために、プラスミドDNAを含む1.0mlのリンゲル液を注射したラット由来の腎臓切片を分析し、注射していない正常なラットと比較した(図8a)。正常ラットからの腎臓切片(図8a)と比較して、1日目(図8b)または7日目(図8c)では、遺伝子導入した腎臓切片においてPTCの内皮細胞を特定することはやや困難であったが、pCAGGS-Epo注射の1日目(図8b)または7日目(図8c)で得た皮質、延髄、または乳頭切片では明かな病理学的変化は認められなかった。同様に、pCAGGS-Epo注射後の24週目でヘマトクリットを90%まで増加させたラットにおいても明らかな病理学的変化は認められなかった。
2.7 注射後の腎機能
1.0mlの100μg pCAGGSを静脈注射直後では、腎臓は正常に機能することができ、導入遺伝子発現による腎機能に影響を及ぼさない。未注射の腎臓は、機能的問題を代償し、データの解釈を狂わせる可能性があるので、注射した腎臓の機能を試験するために、未注射の腎臓を取り出す必要があった。したがって、左側の腎臓に注射し、右側の腎臓を摘出した。正常で手術していないラットおよびDNA注射せずに片側を腎摘出したラットをコントロールとして使用した。腎機能の内因性マーカーである血清中クレアチニンレベルを測定した。成長するにつれて血清中クレアチニン濃度が増加し、この増加は片側腎摘出によって有意に上昇した。血清中クレアチニンレベルは、DNA注射に関係なく任意の時点で片側腎摘出群の間で有意差はなかった(図9)。全てのラットが手術および注射に耐え、正常であった。
【0033】
以上の結果から、逆行性の腎静脈注射を介した遺伝子導入後の腎臓が正常に機能することが確認された。
2.8 pCAGGS-Epo導入24週間後のラット腎機能
pCAGGS-Epo導入24週間後にヘマトクリットを90%まで増加させたラットの腎機能を調べた。注射1週間前の時点では、pCAGGS-Epo 100μg群ラットとpCAGGS群ラットとの間で、血清クレアチンレベルには差は見られなかった(0.5±0.0mg/dl対0.6±0.1mg/dl)が、注射24週後では、pCAGGS-Epo 100μg群ラットの血清クレアチンレベルはpCAGGS群ラットよりも有意に高かった(0.6±0.1mg/dl対0.5±0.1mg/dl(p<0.05)。しかしながら、血清クレアチンレベルは、両群とも正常範囲内であった。
2.9 腎臓標的化遺伝子発現におけるCAGプロモーターの役割
腎臓標的化遺伝子導入実験においては、CMVプロモーター/エンハンサー領域を含む発現プラスミドベクターが一般的に使用されている(Science 261:209-211, 1993; Hum. Gene Ther. 8:1243-1251, 1997; Gene Ther. 4:426-431, 1997; J. Clin. Invest. 101:1320-1325, 1998; Gene Ther. 7:279-285, 2000)。従って、遺伝子導入方法の違いによる効果と、プロモーターの効果とを区別することが重要である。そこで、CMV系コンストラクト(pCI-Epo)を用いて逆行性腎静脈注射法を実施した。すなわち、pCAGGS-Epoを制限酵素EcoRIで切断し、726bpのラットEpo cDNA断片を得、CMV immediate-early遺伝子プロモーター/エンハンサーを保有するpCI発現ベクター(Promega,Madison, WI)のEcoRIサイトに挿入し、プラスミドpCI-Epoを構築し、文献(Hum. Gene Ther. 11:429-437, 2000)に記載のとおりにプラスミドを調製した。また、空のpCIプラスミドをコントロールとした。ラットは4群(各6匹)に分けた:pCAGGS-Epo 100μg群、pCAGGS 100μg群、pCI-Epo 100μg群、pCI 100μg群。血清Epoレベルを、各プラスミド注射の1週間前と1週間後に測定した。また、RT-PCRによって、pCI-Epoを注射した腎臓におけるEpo mRNAを確認した(データ示さず)。図10に示したように、しかしながら、pCI-Epoを導入した場合の血清Epoレベルは極めて低かった。これに対し、pCAGGS-Epoを導入した場合には、高い血清Epoレベルが得られた。
【0034】
以上の結果から、CAGプロモーターは、逆行性の腎静脈注射法によって腎臓標的化遺伝子導入にとって重要な要素の一つであることが確認された。
3. 考察
以上の結果から、組換えプラスミドベクターの逆行性腎静脈注射により、PTC近傍の間質線維芽細胞における外来遺伝子の長期的な発現が可能であることが確認された。
【0035】
すなわち、電子顕微鏡検査によって導入遺伝子の発現部位がPTC近傍の線維芽細胞であることが確認された。また、図3bに示したように、線維芽細胞はPTC内皮細胞に接着していた。ラット腎臓の間質組織構造は、既に報告されている(Cell Tissue Res. 264:269-281, 1991; Anat. Embryyol. 193:303-318, 1996)。線維芽細胞のこのような特徴が、二重免疫染色の結果(殆どの黄色がかった緑色領域が黄色領域の外側に位置する)を説明すると思われる。
【0036】
間質線維芽細胞は、腎障害の発病原因において鍵となる要素である。多くの進行性腎疾患の共通経路は線維症過程であり、これは腎線維芽細胞の増殖とこれらの細胞による細胞外マトリックスの分泌を含んでいる(kidney Int. 39:550-556, 1991)。線維芽細胞への有効なin vivo遺伝子導入は、線維症治療方法の開発という観点からも、線維症の基礎的な生物学的メカニズムの解明という観点からも極めて重要である(Nephrol. Dial. Transplant. 14:1615-1617, 1999)。興味深いことに、管周囲の線維芽細胞はEpo生産の主要部位である(J. Histochem. Cytochem. 41:335-341, 1993; Kidney Int. 51:479-482, 1997; Kidney Int. 44:1149-1162, 1993)。今回の研究は、逆行性腎静脈注射法が、内因性のEpo生産部位に外因性のEpo遺伝子を導入させることができることを初めて示した。
【0037】
この発明の方法では、遺伝子導入用の特異的ベクターや特別なデバイスを用いずに逆行性腎静脈注射を行った。リポプレックスまたはポリプレックス調製と比較してプラスミドDNA溶液の調製は簡単である。遺伝子導入に起因する腎毒性は、プラスミドDNAを注射した腎臓の組織学的試験または機能試験のいずれによっても生じなかった。この発明の方法では、DNA注射前にもインキュベーションも、腎臓のフラッシングも必要がない。注射中の血流の遮断によって発症する虚血は2分間未満である。同様に、機械的ストレスを受けやすい内皮への効率的な遺伝子発現は、この発明方法の安全性を支持するものである。
【0038】
効率的な導入遺伝子発現の重要なパラメーターは、注射量および注射速度であった。導入遺伝子発現の最適注射量(1.0ml)は、腎臓容量と等しかった。DNAが血液と混合する前に、迅速な注射によりPTC内皮にDNA分子が直接暴露されるので、DNA溶液の適切な容量の迅速な注射は、血清および細胞ヌクレアーゼによるDNA分解から注入プラスミドDNAを保護することができる。
【0039】
さらに、導入遺伝子発現にとってCAGプロモーターを選択することが有効であり、CMVプロモーターはこの発明方法によって腎臓を標的とする遺伝子導入を行うためにはふさわしくないことも確認された。
【0040】
Epo遺伝子の導入は、投与量依存的に赤血球造血を生じさせた。100μgのpCAGGS-Epoを腎静脈注射した後の血清Epoレベルは、エレクトロポーレーション法によって400μgのpCAGGC-Epoを筋中に導入した場合のレベル(Hum. Gene Ther. 11:429-437, 2000; Gene Ther. 8:461-468, 2001)と同等かまたはそれ以上であった。pCAGGS-Epoを腎静脈注射した後の24週目の血清Epoレベルは、最高値のEpoレベルの約1/2であり、これは筋肉へ遺伝子導入した場合の5週目のレベルと同一である(Gene Ther. 8:461-468, 2001)。従って、腎静脈注射による遺伝子導入効率と、遺伝子発現の持続性は、in vivoエレクトロポーレーション法による筋注射よりも優れていることが確認された。
【0041】
また、この発明の方法は、以前の報告(Gene Ther. 4, 426-431, 1997; J. Clin. Invest. 101, 1320-1325, 1998; Kidney Int. 57, 1973-1980, 2000; Hum. Gene Ther. 8, 1243-1251, 1997; Gene Ther. 7, 279-285, 2000; Biochem. Biophys. Res. Commun. 186, 129-34, 1992; J. Clin. Invest. 92, 2597-2601, 1993; Biochem. Biophys. Res. Commun. 206, 525-532, 1995)と比較して、長期の遺伝子発現を可能とする。線維芽細胞の寿命は知られていないが、かなり長期である。線維芽細胞への遺伝子導入の局在化は長期の遺伝子発現において重要な要因である。このことは、この発明方法が、非ウイルスベクターによる腎臓遺伝子導入法における重要な問題(トランスフェクション効率の低さおよび短期発現)を克服するものであることを示している。
【0042】
さらにまた、この発明方法は、容易にヒトに適用することができる。カテーテル法を実用すれば、非侵襲的に治療遺伝子を腎臓に移送することもできる。この発明方法はまた、腎移植の際のex vivoでの遺伝子導入に有用である。移植の成功は、主に急性拒絶の抑制に依存する(Transplantation. 55, 752-757, 1993; N. Engl. J Med. 342, 605-612, 2000)。PTCへの特異的遺伝子導入は、免疫細胞機能または炎症過程のメディエーターのいずれかを抑制する治療タンパク質の長期導入にも有用である。
【0043】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、安全かつ効率的に外来遺伝子を腎臓に導入し、長期間に渡って導入遺伝子を発現させることのできる方法が提供される。これによって、腎疾患の遺伝子治療の可能性が大きく前進する。
【0044】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】aは墨汁注射直後のPAS染色ラット腎臓切片の顕微鏡写真である。倍率は350倍。bおよびcは、それぞれX-galおよび抗RECA-1抗体で免疫組織学的に染色したpCAGGS-lacZ注射1日後のラット腎臓の連続切片の顕微鏡写真である。倍率は260倍。
【図2】 pCAGGS-lacZ注射1日後のラット腎臓切片の二重免疫染色の結果である。切片は、抗E. coliβ-ガラクトシダーゼ抗体(a、緑色蛍光)、抗ラット内皮細胞抗体(b、赤色蛍光)、または両方の抗体(c、黄色蛍光)で染色した。
【図3】 pCAGGS-lacZ注射1日後のラット腎臓の微薄切片の免疫電子顕微鏡分析の結果である。DAB産物は線維芽細胞の細胞質全体に分布している(a, b, c)。線維芽細胞は長い細胞質プロセスを有し、内皮細胞の細胞質に接着している。Cは毛細血管小胞体、Eは内皮細胞、Fは線維芽細胞、PTは尿細管。倍率はaが3,200倍、bが3,000倍、cが4,000倍である。
【図4】 Epoレベルに対する注射特性の効果を示したグラフである。血清Epoを、プラスミドDNA注射の1週間前(白四角印)および1週間後(黒四角印)に測定した。aおよびbは、800μgのpCAGGS-EpoまたはpCAGGSを用いた血清Epoレベルに対する注射時間(a)または容量(b)に対する効果である。n=4/群。cは、血清Epoレベルに対するDNA注射量変化の効果である。n=5/群。コントロールラットとの各時点での比較は、*がP<0.05、**がP<0.01、***がP<0.001、および****がP<0.0001、各群内での注射前と注射後との相違は、#がP<0.05、##がP<0.01、###がP<0.001、および#####がP<0.0001である。
【図5】 pCAGGS-Epo注射1日後の主要臓器におけるpCAGGS-Epo DNAのPCR分析の結果である。Bは脳、Hは心臓、Luは肺、Liは肝臓、Spは脾臓、LKは左腎臓、RKは右腎臓、Muは筋肉、Skは皮膚、Tは精巣、Blは血液。
【図6】主要な臓器におけるEpo mRNAについてのRT-PCR分析の結果である。B:脳、H:心臓、Lu:肺、Li:肝臓、Sp:脾臓、LK:左側の腎臓、RK:右側の腎臓、Mu:筋肉、Sk:皮膚、T:精巣である。
【図7】 100μgのプラスミドDNA注射後の血清Epoレベル(a)、網状赤血球数(b)およびヘマトクリット(c)の経時的変化を示すグラフである。pCAGGS-Epoとコントロールラットとの各時点での比較であり、*がP<0.05、**がP<0.01、***がP<0.001、および****がP<0.0001、n=3/群である。
【図8】遺伝子導入による潜在的な腎臓損傷についての組織学的試験の結果を示す顕微鏡写真である。腎臓切片をPASで染色した。aは未注射ラットの腎臓切片、bおよびcはpCAGGS-Epo注射から1日後(b)および7日後(c)のラットの腎臓切片である。倍率は140倍。
【図9】注射した腎臓の機能分析の結果を示すグラフである。丸印はpCAGGS注射を行った腎片側摘出ラット、白四角印はpCAGGS注射を行わなかった腎片側摘出ラット、黒四角印は未注射の非手術ラット。n=6/群。正常ラットとの各時点での比較は、*がP<0.05および**がP<0.01。
【図10】 腎臓を標的とした遺伝子発現におけるCAGプロモーターの役割を調べた結果である。naked DNA注射の1週間前(白四角)および1週間後(黒四角)に血清Epoレベルを調べた。n=6/群。各群間の注入前および注入後のEpoレベルの相違は、*がP<0.05、****がP,0.0001である。pCAGGS群との比較(各時点での比較)は††††がP<0.0001、pCI群との比較(各時点での比較)は####がP<0.0001、pCI-Epo群との比較(各時点での比較)は$$$$がP<0.0001。
Claims (4)
- 外来遺伝子によって組み換えたプラスミドベクターを経腎静脈投与によって非ヒト動物の腎臓に導入し、外来遺伝子を腎臓間質の繊維芽細胞で発現させることを特徴とする遺伝子発現方法。
- 外来遺伝子が腎疾患治療用遺伝子である請求項1の方法。
- 経皮的静脈カテーテルを介して経腎静脈投与を行う請求項1または2の方法。
- 非ヒト動物体より、移植可能な状態でその静脈とともに腎臓を摘出し、この腎臓の静脈に組換えプラスミドを導入する請求項1または2の方法。
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