JP3924610B2 - 自己組織単分子膜をからなるステンシルマスクおよびステンシルマスクを用いる微細加工方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、ステンシルマスクと、このステンシルマスクを用いた微細加工方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、直接描画型マイクロイオンプロジェクションパターニング法等において、粒子線衝撃により固体表面に発生する応力を低減することができる、より高速で、高精度な磁性体の微細加工を可能とするステンシルマスクと、このステンシルマスクを用いた微細加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
磁気記録技術は高度情報化社会にとって不可欠な技術であり、その産業規模は半導体に匹敵すると共に、技術的には半導体技術と相補的である。ここで用いられている磁気記録媒体の容量の上限は、メディア上の記録面密度をいかに高めるかにかかってくるが、容量増大の鍵となる磁性体の微細加工技術は、半導体と比較すると遅れているのが現状であって、磁性体の微細加工技術の早急な開発が望まれている。
【0003】
近年、次世代の高密度磁性記録媒体の製造のための微細パターン描写技術として、直接描画型マイクロイオンプロジェクションパターニング(Ion Projection Direct Structuring;IPDS)法が注目され、その実用化が期待されている。このIPDS法は、ステンシルマスク構造を非接触でそのまま磁区構造に反映できるため、レジストによる膜の汚染がなく、極めて平坦な磁性のパターン面が得られるという利点がある。また、収束イオンビーム等によるパターン作成に比較して、短時間で、かつ安価にパターニングができる可能性がある等といった利点も有している。
【0004】
しかしながら、このIPDS法においては、描画に用いるステンシルマスクがイオン照射下で歪んでしまい、結果としてパターンが乱れてしまうという問題があった。このステンシルマスクの歪みの原因は、イオン照射による欠陥発生、温度上昇、帯電、構造変化などによる表面応力の発生であることが知られている。またその結果として、長時間の使用および高線量照射によるイオン照射損傷がステンシルマスクの寿命に大きな影響を及ぼしてしまうという問題も残されている。
【0005】
そこで、たとえば、ヘリウム(He)イオン衝撃下でイオン描画を行う場合には、シリコンステンシルマスクにアモルファスカーボンをコーティングすることで、ヘリウムイオン衝撃による応力を充分に緩和し、応力の安定化を行う対策が取られている。しかしながら、このアモルファスカーボンのコーティングは、ヘリウムより質量の重い、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等のイオンに対しての応力緩和率は十分ではないという問題があった。ヘリウムによるイオン描画では、描画速度や描画エネルギーを十分に得ることができないため、パターニングの高速化のためには、ヘリウムより重いイオンに対する応力緩和効果のあるマスクの実現が期待されている。
【0006】
また一方で、ステンシルマスクの形状を変えて応力によるパターン歪みの発生が低減されるような工夫もされている。しかしながら、この方法によると、応力が繰り返し発生することになり、ステンシルマスクが劣化しやすいという問題がある。
【0007】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、直接描画型マイクロイオンプロジェクションパターニング法等において、粒子線衝撃により基材表面に発生する応力を低減することができる新しいステンシルマスクと、このステンシルマスクを用いた微細加工方法を提供することを課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで、この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の通りの発明を提供する。
【0009】
すなわち、まず第1には、この出願の発明は、粒子線照射により圧縮応力が生じる基材の表面に粒子線照射により引張り応力が生じる自己組織単分子膜が設けられていることを特徴とするステンシルマスクを提供する。
【0010】
そして、この出願の発明は、上記の発明について、第2には、基材表面に金属膜を設け、その上に自己組織単分子膜が設けられていることを特徴とするステンシルマスクを、第3には、自己組織単分子膜がアルカンチオール単分子膜であるステンシルマスクを、第4には、そのアルカンチオール単分子膜がオクタンチオールあるいはドデカンチオールあるいはアルカンチオールの化学式CH 3 (CH 2 ) n-1 SHのうち7≦n<14のものである
ことを特徴とする自己組織単分子膜からなるステンシルマスクを提供する。
【0011】
また、この出願の発明は、第5には、上記ステンシルマスクを用いてイオン照射することを特徴とする微細加工方法を、第6には、上記ステンシルマスクを用いて電子線照射することを特徴とする微細加工方法を、第7には、上記ステンシルマスクを用いて光照射することを特徴とする微細加工方法を提供する。
【0013】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0014】
この出願の発明者らは、試料表面の反応や構造変化、欠陥生成等に伴って生じる微小な応力を検出することができるシステムを既に提案(特願2000−34695)している。そしてこの応力検出システムを用いてさまざまな固体表面に発生する微小応力について鋭意研究を重ねた結果、たとえば単結晶等の固体表面に粒子線照射を行うと欠陥生成により圧縮応力が生じるのに対し、自己組織単分子膜に粒子線照射を行うと、引張り応力が生じることを見出した。そしてこの出願の発明は、上記の現象と自己組織単分子膜の機能性を巧みに利用することで、粒子線照射環境下において固体表面に発生する微小な応力が制御可能となることに着目してなされたものである。
【0015】
すなわち、この出願の発明の自己組織単分子膜は、固体表面に配設された自己組織単分子膜であって、粒子線照射により固体表面に引張り応力を生じさせることを特徴としている。自己組織単分子膜とは、外部から加熱等の処理を施さなくても、金属や無機等の表面に機能性分子が自己組織的に集合して形成する単分子膜のことである。そして、この出願の発明において特徴的な自己組織単分子膜(SAM:Self−Assembled Monolayer)としては、上記の通り、粒子線照射により引張り応力を生じる各種のものを考慮することができる。ここで粒子線としては、イオン線、電子線あるいは光線等の各種の粒子線とすることができる。さらにイオン線については、IPDS法等の微細加工技術において極めて有用となる、分子量が比較的大きいAr+線、Kr+線、Xe+線であってもよい。このような粒子線照射により引張り応力を生じる自己組織単分子膜としては、たとえば、アルカンチオール系自己組織単分子膜等に代表されるの有機硫黄自己組織単分子膜や、シランカップリング剤を用いた有機シラン系自己組織単分子膜等の各種の自己組織単分子膜を例示することができる。より限定的には、一般式CH3(CH)n-1SH(nは1以上の整数を示す)で示されるアルカンチオール分子からなる単分子膜であることが好ましく、中でも、前式における7≦n≦14のアルカンチオール分子であることが好適な例として示される。n>14のアルカンチオール分子は、市販されていないため入手しにくいのと、炭素鎖が長すぎて固体表面への成膜に適していないために好ましくない。具体的には、オクタンチオール(n=8)やドデカンチオール(n=12)等を用いること等が例示される。
【0016】
このような自己組織単分子膜は、固体表面に配設されて粒子線を照射されることにより、固体表面に引張り応力を生じさせることができるのである。この引張り応力は、アルカンチオール分子においては、アルキル鎖間の反応によるものと考えることができる。
【0017】
そこで、この出願の発明が提供する自己組織単分子膜構成体は、固体表面に、上記の自己組織単分子膜を有することを特徴としている。そしてこの自己組織単分子膜構成体に粒子線が照射されることにより、固体表面には引張り応力が生じることになる。ここで固体としては、その材質および形状等に特に制限はなく、各種の無機質材料、有機質材料、金属材料等で構成される、バルク状、単層もしくは多層の膜状等の各種の形態のものを考慮することができる。自己組織単分子膜がアルカンチオール系自己組織単分子膜である場合には、固体の少なくとも表面がAu等の金属であることが、アルカンチオール系自己組織単分子膜の配設が簡便となるために好ましい。
【0018】
そして、この出願の発明では、この自己組織単分子膜構成体の特性をより特徴的なものとするために、固体として、粒子線照射により欠陥発生、温度上昇、帯電、構造変化等が誘起されて表面に圧縮応力が生じるものを選択することができる。このような相異なる粒子線反応性を示す材料の組み合わせによって、固体に生じる微小な応力を緩和あるいは相殺するなどして様々に制御することができる。また、たとえば固体として、粒子線照射により表面に圧縮応力が発生する金属の薄膜等を選択することにより、粒子線反応性を有するアクチュエーターを実現することなどもできる。
【0019】
加えて、この出願の発明が提供するステンシルマスクは、表面の少なくとも一部に、上記の自己組織単分子膜を有することを特徴としている。一般に、イオン照射、電子線照射あるいは光照射等の粒子線の照射による微細加工において、ステンシルマスクは、たとえ保護のための金属被覆がなされていても、粒子線の照射によって基材および金属被覆の温度が上昇し、圧縮応力が発生してしまう。また粒子線の照射時間とともに表面欠陥が増大することでも圧縮応力が発生してしまう。
【0020】
しかしながら、上記のこの出願の発明の自己組織単分子膜を表面に備えているこの出願の発明のステンシルマスクは、粒子線照射下において引張り応力が誘起され、基材および金属被覆の温度上昇に起因する圧縮応力が補償されると同時に、時間とともに増大する表面欠陥に起因する圧縮応力もが低減される。驚くべきことに、この引張り応力は、イオン照射、電子線照射および光照射等によってステンシルマスクの基材およびその金属被覆等に発生する圧縮応力と同程度〜3、4倍の大きさを有するのである。したがって、粒子線照射による微細加工においてステンシルマスクの撓みが抑えられ、描写パターンの乱れの問題を解消することができる。さらに、このステンシルマスクは、使用の度に繰返し応力が加わらないため、寿命が長大化されるという特長もある。
【0021】
なお、このステンシルマスクは、各種の材料を基材とすることができる。たとえば、従来よりマスク材として多用されているシリコン等は、好ましい材料の1つとして例示することができる。そしてこの基材には、もちろん、イオン照射による構造の乱れや欠陥発生に起因する圧縮応力、およびマスクの帯電をある程度緩和する効果のある金属膜を被覆することを考慮することができる。
【0022】
一方でこの出願の発明が提供する微細加工方法は、上記のステンシルマスクを用いて、イオン照射、電子線照射、あるいは光照射することを特徴ととしている。このステンシルマスクは充分に大きな応力緩和能力を有しているため、描写パターンにひずみを生じることなくパターニングが可能とされる。また、たとえばイオン照射においては、比較的質量の重いAr、Kr、Xe等のイオンを用いたイオン照射等による微細加工であっても容易に実現することができる。これによって、たとえば直接描画型マイクロイオンプロジェクションパターニング技術を確立することができ、磁気記憶媒体、コンピューターメモリー等の記憶容量を著しく増大することができ、携帯電話機に内臓可能なHDDの実現なども期待される。
【0023】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0024】
【実施例】
表面に自己組織単分子膜(SAM)を備えた金属薄膜を試料とし、表面応力の変化を調べた。自己組織単分子膜としては、オクタンチオール(n=8)およびドデカンチオール(n=12)の2種類のアルカンチオール分子を用いた。金属薄膜としては、表面応力の測定を容易にするために厚さ約2.5μmのシリコン(Si)薄膜を基材として用いた。これはカンチレバーとして市販されているものであり、ステンシルマスクとして用いられるSiメンブレンと同程度の厚さを有するものである。また、この金属薄膜には、あらかじめ、電子線蒸発法によりチタン(Ti)を厚さ約1nm、金(Au)を厚さ約20nmそれぞれ被覆した。
【0025】
このようにして作成した試料をアルカンチオール分子の蒸気に曝露してAu表面にアルカンチオールの単分子膜を自己組織的に形成させ、アルカンチオール単分子膜の形成時と、このアルカンチオール単分子膜へのイオン(Ar+)照射時の表面応力の変化を、光てこ法(マイクロメカニカルカンチレバー屈曲法)により測定した。
【0026】
応力測定には、この出願の発明者らが提案している欠陥性応力検出センサー(特願2000−34695)を用いた。この応力測定装置は、図1に示したように真空金属フランジ内部に組立てられている。このフランジは、図1aに示したように、アクリル箱の上に載せ単分子膜形成時の試料の屈曲を、また図1bに示したように、高真空系に取付けてArイオン照射時の試料の屈曲を、in-situで測定することができる。なお、この応力測定装置は、レーザービームの光学的配置や反射位置検出器を備えていて、アルカンチオールの吸着・脱着においてレーザースポットを常にほぼ同位置に保っておくことができるので、試料のレーザースポット位置に起因する誤差を最小にすることができる。
【0027】
アルカンチオール分子の暴露実験は、ガラスビーカー中に入れた約0.5mlのアルカンチオールの小滴によって作られる気相環境において、気相吸着法によって行なった。このガラスビーカーは、高真空シリコングリースを塗ってスライドガラスで蓋をした状態として、金属薄膜試料の下約10mmの所に置き(図1a)、屈曲信号のドリフトが0.04nm/sより小さくなるまで試料のたわみを記録してから、蓋を取って試料をアルカンチオールの蒸気に曝露させるようにした。この屈曲信号から、蓋を開く前に記録したデータのベースラインをもとめ、このベースライン値を後に記録する全ての測定データから差し引くようにした。
【0028】
Arイオン照射については、高真空チャンバーに移って、室温でArプラズマを用いて行った。チャンバー内の標準圧力は、ターボ分子ポンプによりチャンバーを加熱脱ガスすることなく、1×10-5Paまで排気した。Arプラズマは、Arガスの13.56MHz高周波放電により発生させた。ガス圧は1.3Paで、出力は500Wに調整した。ラングミュアープローブ測定によると、プラズマ密度は6×10-6/cm-3と極端に低く、プラズマ電位は試料付近、即ち無線周波数コイルから約100cmの位置で+5Vであった。浮遊電位が−1Vであったことから、このArイオンの運動エネルギーは6eVであることがわかった。Arイオン電流は1×10-6A/cm、Arイオンの線量率は6.25×1012イオン・sec-1・cm-2とした。ここで、Al被覆した同じ金属薄膜試料を用い、そのバイメタル効果を用いてArプラズマ照射による温度上昇を測定したところ、1℃未満であった。なお、この温度上昇により、ここで用いたAu被覆した試料は約1nmの屈曲を生じる。したがって、熱ドリフトのみによる試料のたわみは、2.5×10-3nm/sより小さいと推察され、この実験誤差は無視できるものであるといえる。プラズマ照射は、試料の屈曲が飽和する一般的な時間である1000秒間で施した。
【0029】
この実施例において、表面応力変化:Δσは、下記に示すStoneyの式を用いて算出した。
【0030】
Δσ=Eh2/6ΔR(1−v)t
式中、Eはヤング率、vはステンシルマスク材料のポアソン比、hは試料の厚さ、tはSAM層の厚さを示している。また、試料の曲率変化ΔRは、近似式1/ΔR=3δ/2L2を用いて試料のたわみから算出した。近似式中、δは長さLの長方形試料の自由端におけるたわみである。試料のSi側へのたわみは、増大する圧縮表面応力(正のΔσ)に相当するのに対し、Au側へのたわみは引張表面応力(負のΔσ)に相当する。
【0031】
<I> まず最初に、気相吸着するアルカンチオール分子に対する応力測定を、図1aに示した装置を用いて上記のとおりの手順で行い、試料Cをオクタンチオールおよびドデカンチオール蒸気に曝露させて生じた表面応力変化を、図2のIの領域にそれぞれ曲線a、bとしてそれぞれプロットした。図2の縦軸は試料に発生する応力を示し、正方向が圧縮応力(基材に対してアルカンチオール吸着層が伸びようとする力)を、負方向が引張り応力(基材に対してアルカンチオール吸着層が縮もうとする力)に相当する。領域Iにおける曲線a、bの飽和応力は、オクタンチオールでΔσsat=0.07±0.005N/m、ドデカンチオールでΔσsat=0.11±0.01N/mであった。このことから、分子量が小さい程、より早く表面応力が飽和することがわかった。なお、この実施例の場合、アルカンチオール吸着層の生成は、オクタンチオールで約250秒後に、ドデカンチオールでは約400秒後に安定することがわかった。また、光学定数n=1.50−0iを用いた分光偏光解析法により、飽和応力Δσsatにおいてアルカンチオール吸着層は、共に単分子膜であることが確認された。
【0032】
<II> 次いで、図1bに示したように、フランジを真空チャンバー中に設置し、高真空条件が安定するまで真空排気したのち高周波プラズマのスイッチを入れ、片面をアルカンチオール単分子膜で被覆した試料Cに対してイオンエネルギー6eVのArイオン照射を開始した。比較として、アルカンチオール単分子膜なしの試料へのAr照射では−0.08N/mの応答を生じるが、この応答は、プラズマのスイッチを再び切ると完全に元に戻ることから、位置敏感検出器を照らしているArプラズマによる付加的な光に起因する応答であると判断された(図2中の拡大図参照)。この比較実験から、このエネルギーのArイオンを照射されても、試料は永久たわみを起こさないことが確認された。そこで、全てのアルカンチオール被覆試料の表面応力曲線について一定の補正値−0.08N/mを差し引くことで、ArイオンとSAMの相互作用に起因する表面応力の実質的な表面応力変化(Δσ)を求めた。
【0033】
図2のIIの領域に、Arイオン照射時間に対するΔσの依存性を示した。2種類のアルカンチオール被覆試料について、引張表面応力の変化としてあらわれる試料のAu側への屈曲を、Arイオンの照射開始とともに直ちに測定した。a、bの2つの表面応力曲線は、同条件のArイオン照射に対する時間依存性を示しており、Δσは直線的に減少して飽和値Δσsat.irradに達した。オクタンチオールおよびドデカンチオール被覆試料の応力は、およそ65秒および68秒後にそれぞれ−0.66N/m±0.03N/mおよび−0.70N/m±0.04N/mの値で飽和した。これらの表面応力値は予想外に大きく、また、両アルカンチオール被覆試料のΔσsat.irrad.は実験誤差内で同じと判断される。そしてこのΔσsat. irrad.での表面応力は、自由末端におけるステンシルマスクのたわみの370nm±20nmに相当していた。
【0034】
同様に作成したステンシルマスクをオージェ電子分光分析したところ、Ar照射後に硫黄ピークの増加と炭素ピークの減少が確認された。これは、Ar照射によってアルカンチオールのC−C結合が解裂するものの、硫黄およびアルキル鎖の一部はAu表面に依然吸着して残存していることを示す。このことは、たとえば、SAMを5mm×5mmの四角い開口部を有するシャドウマスクを使って試料表面をイオン照射し、試料に部分的にイオン照射損傷を設けるようにした実験によっても確認された。この開口部を通して試料にArイオンを照射すると、表面をエタノールで洗浄した後にはイオン照射損傷が観察された。次いで、この試料をアルカンチオールエタノール溶液中に浸漬して、Arイオンを照射された部分の表面にアルカンチオール分子が新たに吸着するかどうかを調べた。12時間浸漬後、表面をエタノールで洗浄すると、5mm×5mmの損傷部分は依然と観察することができた。すなわち、Arイオン照射後でも、最初の単分子膜のアルカンチオール分子の一部は依然Au表面に結合していると結論づけられる。
【0035】
以上の実験から、固体表面にアルカンチオール分子単分子膜を備えることにより、粒子線照射下において、アルカンチオール分子のない表面と比較して、0.7N/mオーダーの引張応力変化を、分子の種類によらず一様に導けることが示された。これは、たとえば、厚さ2μm、長さ500μmのステンシルマスクの自由末端における約0.37μmのたわみに相当する応力である。このように、例えば4×1014イオン/cm2を超過する線量のArイオン照射において表面応力を一定に保つことができるということは、Arイオン照射時においても安定した単分子膜が形成されていることを示唆するものである。このような特徴的な引張り応力特性を示す自己組織単分子膜を、たとえばステンシルマスクの保護膜とすることで、IPDS法などの微細パターン描写技術をより高速化、精密化できることが示される。
【0036】
もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0037】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この発明によって、直接描画型マイクロイオンプロジェクションパターニング法等において、粒子線衝撃により固体表面に発生する応力を低減することができる新しい自己組織単分子膜と、自己組織単分子膜構成体、および、より高速で、高精度な磁性体の微細加工を可能とするステンシルマスクと、このステンシルマスクを用いた微細加工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)実施例において金属薄膜試料のAu表面にアルカンチオールの単分子膜を自己組織的に形成させた際と、(b)このアルカンチオール単分子膜へArイオンを照射した際の、表面応力の変化を測定する様子を例示した図である。
【図2】金属薄膜試料の表面応力変化を示す図であって、太線:SAM(ドデカンチオール)/Au/Ti/Si(100)試料について、破線:SAM(オクタンチオール)/Au/Ti/Si(100)試料について、点線(比較データ):(I部)Au/Si(100)試料および(II部)SAMなし/Au/Ti/Si(100)試料についてである。
Claims (7)
- 粒子線照射により圧縮応力が生じる基材の表面に粒子線照射により引張り応力が生じる自己組織単分子膜が設けられていることを特徴とするステンシルマスク。
- 基材表面に金属膜を設け、その上に自己組織単分子膜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のステンシルマスク。
- 自己組織単分子膜がアルカンチオール単分子膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のステンシルマスク。
- アルカンチオール単分子膜がオクタンチオール単分子膜あるいはドデカンチオール単分子膜であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の記載のステンシルマスク。
- 請求項1〜4に記載のステンシルマスクを用いてイオン照射することを特徴とする微細加工方法。
- 請求項1〜4に記載のステンシルマスクを用いて電子線照射することを特徴とする微細加工方法。
- 請求項1〜4に記載のステンシルマスクを用いて光照射することを特徴とする微細加工方法。
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