JP3910917B2 - 放射温度計を用いた温度測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄塔等の架空送電線とがいし或いは送電線同士を接続している圧縮接続管や電線等の対象物の温度測定方法に係り、特に、その対象物を遠く離れた位置から放射温度計を用いて測定するための放射温度計を用いた温度測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
送電線路の保守管理として、圧縮接続管(引留クランプ、圧縮直線スリーブ、ジャンパスリーブ、T型スリーブ、圧縮端子類など)の劣化による発熱を測定することが行われている。
【0003】
図9は、送電線鉄塔を示したものであり、送電線50は、がいし連56を介して鉄塔51の腕金52に支持され、その送電線50同士がジャンパ線53で接続される。
【0004】
圧縮接続管は、図10(a)に示すように送電線50同士を接続する直線スリーブ55や図10(b)に示すように送電線50をがいし連56に接続する引留クランプ54、その他図には示していないが、T型スリーブ、ジャンパスリーブなど種々のものがある。
【0005】
この圧縮接続管は、劣化が進むと抵抗値が増大して電線部分に比べて発熱量が増大するため、送電線の通電中に、その発熱を検知すべく、異常温度となるとその形状が変化する形状記憶合金を圧縮接続管にコイル状に巻き付け、そのコイルピッチの変化を望遠鏡により観察することで異常加熱を検出することが知られている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−167860号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、送電線路の圧縮接続管は多数であり、その圧縮接続管毎に形状記憶合金を巻き付けたのでは、コストがかかる問題がある。
【0008】
そこで、本発明者等は、赤外線放射温度計を用いて圧縮接続管の温度を直接測定することを検討した。
【0009】
この赤外線放射温度計を用いた圧縮接続管の温度の測定は、既設の送電線路の圧縮接続管すべてを測定でき、しかも、安価に測定できる利点がある。
【0010】
ところで、圧縮接続管は、細く、しかも鉄塔の腕金近傍の高い位置にあるため、圧縮接続管が、赤外線放射温度計の瞬時視野角(空間分解能)に十分に収まるまで近づいて測定することは困難であり、どうしても遠い位置からの測定になってしまい、市販されている現状の放射温度計では、圧縮接続管の温度を精度良く測定することは困難であることが分かった。
【0011】
測定に用いた放射温度計のセンサの画素数は、76,800画素(横320画素×縦240画素)であり、その画素毎に温度が測定可能とされており、圧縮接続管が1画素内に収まれば、その温度は測定できるとされているが、現実には、圧縮接続管が1画素に収まりその温度を測定しても実際の温度とは大きな隔たりがあった。
【0012】
この理由は、上述のように76,800画素あり、各画素は基準温度の補正や放射率の補正などが施されるため、1画素は、その周囲の画素の温度影響を受けて温度を表示することに起因するものと思われ、1画素周りの温度が大きく違った場合には、その画素の温度を正確に表示することはできない。
【0013】
実際に放射温度計のメーカ推奨値では、76,800画素中のある画素において、1つの画素が実際に観ている範囲は、被測定物の温度が一様であった場合、1画素は、3×3画素の範囲で90%、5×5画素の範囲で100%の放射エネルギーを測定できるとしている。
【0014】
また、この放射温度計は、その瞬時視野角(空間分解能)が、標準レンズで1.3mrad、5°の望遠レンズを用いても0.29mradが限度であり、圧縮接続管の径にもよるが、20mmの径の直線スリーブの温度測定には、標準レンズを用いたとき、少なくとも5m程度、40mmの径で10m程度近づかなくては精度良い測定はできないこととなり、放射温度計による温度測定は現実的に困難である。
【0015】
実際に、66kV、154kV、275kV以上の電圧階級の送電線で、圧縮接続管に現実に近づける位置で測定した場合に、90%以上の精度で測定できる圧縮接続管の全設備数に対する割合は、66kV送電線で5.4%、154kV送電線で5.0%、275kV以上の送電線で26.0%程度しか測定ができないことが判明した。
【0016】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、放射温度計を用いて圧縮接続管や電線などの対象物の温度を測定するに際し、対象物に対してより遠くの位置で測定しても精度良く温度を測定することができる放射温度計を用いた温度測定方法を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、架空送電線の圧縮接続管や電線からなる対象物を放射温度計を用いて温度測定するに際して、放射温度計の1画素の瞬時視野角を予め求め、その1画素で黒体炉から既知の被測定物温度を検出させると共にその1画素に対して1つ目、或いは1つ目と2つ目で隣接する各画素に既知の背景温度を検出させ、その1画素が検出した被測定物放射エネルギーと隣接する各画素が検出した背景放射エネルギーとから1画素で検出した被測定物放射エネルギーが被測定物温度の放射エネルギーとなる補正式を算出しておき、その放射温度計で圧縮接続管や電線からなる対象物の温度を測定する際に上記補正式を基に温度補正を行うようにした放射温度計を用いた温度測定方法である。
【0018】
請求項2の発明は、被測定物温度から求められる放射エネルギーをA、背景温度から求められる放射エネルギーをBとし、被測定物温度を検出した1画素の放射エネルギーPの重み付け係数をa、1画素を中心に、背景温度を検出した縦横1つ目の画素の重み付け係数をb、斜め1つ目の画素の重み付け係数をc、縦横2つ目の画素の重み付け係数をd、斜め2つ目の画素の重み付け係数をeとし、その各画素の放射エネルギーを基に、算出式を、
被測定物が1×1の範囲のとき、
A=(P−4bB−4cB−4dB−8eB)/a
被測定物が3×3の範囲のとき、
A=(P−4dB−8eB)/(a+4b+4c)
とし、
重み付け係数a〜eは、黒体炉から既知の温度を1画素に入力すると共にその1画素に隣接する画素に既知の背景温度を入力し、これら温度と各画素が検出したエネルギーから予め求めておく請求項1記載の放射温度計を用いた温度測定方法である。
【0019】
請求項3の発明は、対象物が、細長な圧縮接続管や電線であり、その幅が1画素の範囲のとき、
A=(P−2bB−4cB−2dB−8eB)/(a+2b+2d)
対象物の幅が3画素の範囲のとき、
A=(P−2dB−4eB)/(a+4b+4c+2d+4e)
として求める請求項2記載の放射温度計を用いた温度測定方法である。
【0020】
請求項4の発明は、対象物の幅をW、1画素の1片の大きさをrとし、対象物の幅Wが1画素以上3画素未満の範囲のとき、
A=(P−βB)/α
但し、
α+β=1、
α=a+b(1+W/r)+2c(W/r−1)+2d+2e(W/r−1)、
β=b(3−W/r)+2c(3−W/r)+2d+2e(5−W/r)、
として求める請求項3記載の放射温度計を用いた温度測定方法である。
【0021】
請求項5の発明は、対象物の幅をW、1画素の1片の大きさをrとし、対象物の幅Wが3画素以上5画素未満の範囲のとき、
A=(P−βB)/α
但し、
α+β=1、
α=a+4b+4c+d(W/r−1)+2e(W/r−1)
β=d(5−W/r)+2e(5−W/r)
として求める請求項3記載の放射温度計を用いた温度測定方法である。
【0022】
請求項6の発明は、放射温度計で圧縮接続管や電線からなる細長の対象物の熱画像を撮影する際に、その細長の対象物が熱画像に対して水平になるように放射温度計をロールさせて撮影する請求項1〜5いずれかに記載の放射温度計を用いた温度測定方法である。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0024】
先ず、放射温度計の一つの画素がどれぐらいの範囲まで測定しているのか(視野の広がり)について図4、図5により説明する。
【0025】
先ず、図5に示すように、現在圧縮接続管や電線の温度測定に使用する赤外線放射温度計(カメラ)10は、その撮影面11が、横320画素、縦240画素の76,800画素であり、その撮影面11中、1画素が1つの温度として表示している領域12は、放射温度計10と被測定物までの距離Lで、その大きさも異なるが、1画素の範囲の瞬時視野角(空間分解能)θは、1.3mradとなっている。
【0026】
そこで、図4(a)、(b)に示すように、1画素が正しく温度測定がなされるか、黒体炉13を用いて、1画素の測定温度を測定した。
【0027】
この場合、図4(b)に示すように黒体炉13の赤外線出口窓14を、10mm×10mm角の穴15をあけたステンレス板16で覆い、図4(a)に示すように放射温度計10の光軸Oを、黒体炉13の窓14を覆ったステンレス板16の穴15の中心に一致するようにし、瞬時視野角(空間分解能)θを考慮して黒体炉13と放射温度計10との距離Lθ(この場合7.5m)を調節して、穴15が1画素に収まるようにした。
【0028】
また、比較のため穴径30mm×30mm角のステンレス板も用いて測定を行った。
【0029】
測定は、黒体炉の温度を50℃、79℃、118℃として、穴に相当する放射エネルギーを測定した。また、穴周りのステンレス板温度(背景温度)は24℃に保った。
【0030】
ここで、測定される温度をTとすると、画素での放射エネルギーEの算出式は、下式となる。
【0031】
E=218000/[{exp(1488.6/(T+273)}−1]
上記式より、T= 50℃の放射エネルギーは、E=2194
T= 79℃の放射エネルギーは、E=3223
T=118℃の放射エネルギーは、E=4952
であり、また背景温度24℃の放射エネルギーは、E=1461
である。
【0032】
しかし、実際に、それぞれ3回測定した1画素相当分の放射エネルギーは、
T= 50℃(E=2194)で、2018(44.3℃)、1979(43.0℃)、1991(43.4℃)であり、
T= 79℃(E=3223)で、2770(67.0℃)、2702(65.1℃)、1991(63.0℃)であり、
T=118℃(E=4952)で、4034(98.4℃)、3977(97.1℃)、3946(96.4℃)であり、背景温度の影響を大きく受けて正しい放射エネルギーEを示さない。
【0033】
これに対して、30mm×30mmの穴のステンレス板を用いた放射エネルギーは、90%以上の測定精度を示した。
【0034】
この10mm×10mmの穴の1画素を中心とした隣接する8つの画素の放射エネルギーを調べたところ、背景温度の放射エネルギーの測定値は、50℃で、約1550〜1460と背景放射エネルギー(E=1461)に対して0〜90程度放射エネルギーが高く、79℃で、放射エネルギー範囲が約1580〜1460と背景放射エネルギー(E=1461)に対して0〜120程度放射エネルギーが高くなり、118℃で、放射エネルギー範囲が約1710〜1460と背景放射エネルギー(E=1461)に対して0〜250程度放射エネルギーが高くなっていることが分かった。
【0035】
このことは、被測定物が1画素に収まっていても、その画素は背景温度の影響を受け、逆にその1画素と隣接する画素は、被測定物の画素の測定温度の影響を受けていることを示している。
【0036】
そこで、1画素に対して、縦横、斜めに、1つ目と2つ目で隣接する画素(5×5画素)について、ステンレス板を1画素ずつ移動させて、それぞれの画素の放射エネルギーを測定した。
【0037】
図6は、5×5画素20(但し5×5画素中の4隅の画素は影響を受けないために無視して合計21画素とする)の感知範囲モデルを示したものである。
【0038】
先ず、図6(a)は、5×5画素20の中心画素20aに穴が位置して黒体炉の温度を測定する場合(条件1)、図6(b)は、中心画素20aに対して上下左右に1つずらした画素20bに穴が位置した場合(条件2)、図6(c)は、中心画素20aに対して斜めに1つずらした画素20cに穴が位置した場合(条件3)、図6(d)は、中心画素20aに対して上下左右に2つずらした画素20dに穴が位置した場合(条件4)、図6(e)は、中心画素20aに対して斜めに2つずらした画素20eに穴が位置した場合(条件5)を示している。
【0039】
この図6で、各画素には、被測定物の放射エネルギーAが入射するときにAを表示し、背景エネルギーBが入射するときにBを表示し、中心画素20aに係数aを、中心画素20a(係数a)に対して、上下左右1つ目で隣接する画素に係数b、斜め1つ目で隣接する画素に係数c、上下左右2つ目で隣接する画素に係数dを、斜め2つ目で隣接する画素に係数eを付与して重み付けを行って表示した。
【0040】
そこで、各条件1〜5での表示エネルギーP1〜P5としたとき、
条件1: P1=aA+4bB+4cB+4dB+8eB
条件2: P2=aB+3bB+4cB+4dB+8eB+bA
条件3: P3=aB+4bB+3cB+4dB+8eB+cA
条件4: P4=aB+4bB+4cB+3dB+8eB+dA
条件5: P5=aB+4bB+4cB+4dB+7eB+eA
となる。
【0041】
但し、a+4b+4c+4d+8e=1である。
【0042】
次に、図7は、被測定物が5×5画素20のどの範囲にあるかを示した図で、図7(a)は、被測定物が、1×1の画素の範囲にある場合、図7(b)は、被測定物が、3×3の画素の範囲にある場合、図7(c)は、被測定物が、5×5の画素の範囲にある場合を示している。
【0043】
図7(a)の1×1画素の場合の真のエネルギー算出式は、
A=(P−4bB−4cB−4dB−8eB)/a
となる。
【0044】
但し、斜め2つ目の画素の係数eは、略ゼロに近いため、算出式を簡便にするため、
A=(P−4bB−4cB−4dB)/a
とした。
【0045】
また図7(b)の3×3画素が被測定物の放射エネルギーが入射する場合の真のエネルギー算出式は、
A=(P−4dB−8eB)/(a+4b+4c)
となり、同様に、斜め2つ目の画素の係数eは、略ゼロに近いため、算出式を簡便にするため、
A=(P−4dB)/(a+4b+4c)
とした。
【0046】
さらに図7(c)の5×5画素が被測定物の放射エネルギーが入射する場合の真のエネルギー算出式は、
A=P
であり、補正式は不要となる。
【0047】
次に、これら係数a〜dを求めた結果を図8により説明する。
【0048】
図8は、図4、図6で説明したように、被測定物温度(黒体温度)が50℃(図8(a))、79℃(図8(b))、118℃(図8(c))の場合の各画素の温度、各画素の放射エネルギー、隣接する画素毎の放射エネルギーの平均をそれぞれ示したものである。
【0049】
この図8(a)〜図8(c)においては、説明の便宜上、各黒体温度に対して1データしか示していないが、放射温度計の補正式となる係数a〜dをより正確に求めるためには、多数温度を測定しておく。
【0050】
さて、中心画素(係数a)の表示エネルギーをP1とし、隣接する画素の表示エネルギー値を、上下左右1つ目で隣接する画素(係数b)の平均表示エネルギー値をP2、斜め1つ目で隣接する画素(係数c)の平均エネルギー値をP3、上下左右2つ目で隣接する画素(係数d)の平均表示エネルギー値をP4とし、上記条件1〜4の式(但し、係数eはゼロ)から、それぞれのP1〜P4の表示エネルギーを代入して係数a〜dを求めると以下の通りとなる。
【0051】
黒体温度 50℃ 79℃ 118℃
係数a 0.716184 0.734286 0.731051
係数b 0.057541 0.051671 0.054879
係数c 0.016765 0.014589 0.013123
係数d 0.002154 0.00284 0.00281
以下、測定をそれぞれ3回行った時の係数を下表に示す。
【0052】
表1の全体平均の係数(a=0.715803、b=0.053578、c=0.014790、d=0.002263)を用いて温度を補正した結果を表2に示す。
【0053】
またエネルギー表示では表3となる。
【0054】
このように、1画素の温度、表示エネルギーを係数a〜dを用いて補正することで、実際の温度、放射エネルギーに対して誤差率±5%以内に納めることができ、より信頼性の高い温度測定が行える。
【0055】
次に、温度を測定する対象物として、実際に圧縮接続管の温度を測定する例を図1により説明する。
【0056】
図1は、赤外線放射温度計10で、圧縮接続管として、鉄塔51の引留クランプ54の温度を測定する例を示している。
【0057】
先ず、温度測定を行う引留クランプ54と放射温度計10までの距離Lを距離センサ(図示せず)で計測し、その放射線温度計10で撮影された熱画像G中、引留クランプ54が収まる範囲Sを設定すると共に、その引留クランプ54が水平となるように赤外線放射温度計10と三脚22間に設けたローリング装置24で放射温度計10を光軸周りにロールさせることで、引留クランプ54の温度測定部位25に相当する画素領域26(図では5×5画素)を水平にした状態で、その各画素20の表示エネルギーを取り込みこれを記憶する。
【0058】
このように、引留クランプ54の温度測定部位25の温度データを取り込んだならば他の部位を更に測定する。
【0059】
図2は、放射線温度計10で測定した画素領域26からその温度測定部位25を演算する温度測定装置30のブロック図を示したものである。
【0060】
温度測定装置30には、送電線路毎に送電線名、鉄塔番号、送電線の線番、電線種類、圧縮接続管の種類とその圧縮接続管の番号などがデータベースとして格納された送電線路データ31、送電線路データ31から圧縮接続管の種類とその圧縮接続管の番号が入力されて電線外径や圧縮接続管の径のデータが格納され、かつ放射線温度計10より、データ入力装置32よりの圧縮接続管の温度測定部位25の温度データを記憶する圧縮接続管データ33、上述した重み付け係数a〜dのデータが格納された係数データ部34、入力された測定距離から瞬時視野角を割り出す瞬時視野角割出部35、圧縮接続管データ33からの圧縮接続管のデータ及び温度データと瞬時視野角割出部35からの視野角及び係数データ部34からの係数a〜dを基に圧縮接続管の温度を上述した補正式を用いて演算する温度測定演算処理部36と、温度測定演算処理部36で求めた温度から圧縮接続管の良否を判定する良否判定部37とを備え、その温度データがデータ保存部38に格納されると共に外部のデータ保存装置39に保存され、またデータ出力部40よりプリンタ41に出力されるようになっていると共に、これらデータをディスプレイ42で表示できるようになっている。
【0061】
またデータ入力装置32には、測定時の天候、気温(背景温度となる)、風向、風速が入力され、圧縮接続管の周囲の背景温度が設定できるようにされ、更に測定時に送電線に流れている電流(潮流)も入力できるようになっている。
【0062】
この温度測定装置30は、温度測定演算処理部36で温度を補正するにあたって、圧縮接続管データ33からの圧縮接続管の径と、瞬時視野角割出部35からの瞬時視野角θで、放射線温度計10で測定した画素領域26が、圧縮接続管のどの領域を計測しているかを判断して、上述した重み付け係数a〜dで演算するかを決定する。
【0063】
次に、重み付け係数a〜dを用いて、実際の圧縮接続管の温度を補正する補正式を説明する。
【0064】
先ず、図6は、係数a〜dを求めるための条件式であり、また図7は、被測定物のエネルギーが、1×1、3×3、5×5の画素範囲で説明した。しかし、実際の圧縮接続管は、細長であり、その幅Wは、1画素、3画素、5画素の範囲に入るが、長さ方向には5画素分が入る場合が多いため、上述した1×1、3×3、5×5の画素範囲の補正式の他に、この横方向の5画素分を考慮した補正式とする方がより正確な補正式が得られる。
【0065】
これを図3により説明する。
【0066】
図3(a)に示すように、5×5の画素20が、圧縮接続管44の領域に全て収まって被測定物温度を計測している場合、図3(b)に示すように、上下2つ目の画素20dが圧縮接続管44からはみ出して一部背景温度を計測している場合(3×5の画素)、図3(c)に示すように上下1つ目の画素20bと斜め1つ目の画素20cが一部背景温度を計測している場合(1×5)、更に、図3(d)に示すように、中央の画素20aに圧縮接続管44の温度と背景温度を同時に計測している場合とがある。
【0067】
そこで、先ず図3(a)の5×5の画素20が、圧縮接続管44の領域に全て収まって被測定物温度を計測している場合には、温度測定演算処理部36は、係数a〜dを用いずに、そのまま画素20aの表示エネルギーを測定温度(P=A)とする。
【0068】
また、図3(d)のように1画素20a内に背景温度が入る場合には、演算せずに、測定不可とする。
【0069】
図3(b)の3×5画素が圧縮接続管44の領域に入る場合には、
上述した3×3の補正式
A=(P−4dB−8eB)/(a+4b+4c)
中、圧縮接続管の温度を測定している画素の放射エネルギーAが図3(b)に示すように3×5=15画素となるため、
A=(P−2bB−4cB−2dB−8eB)/(a+4b+4c+4e)
で求める。
【0070】
次に図3(c)の1×5の1画素の場合
上述した補正式
A=(P−4bB−4cB−4dB−8eB)/a
中、圧縮接続管の温度を測定している画素の放射エネルギーAが図3(c)に示すように1×5=5画素となるため、
A=(P−2bB−4cB−8eB)/(a+2b+2d)
で求める。
【0071】
ここで、Aは、被測定物のエネルギー、Bは、背景エネルギーで、空が映っていれば、その空のエネルギー、Pは、画素20aで表示されるエネルギーである。
【0072】
また、圧縮接続管の幅が連続的に変化した場合の補正方法は、圧縮接続管の幅をW、1画素の1片の大きさをrとし、圧縮接続管の幅Wが1画素以上3画素未満の範囲のときは、
A=(P−βB)/α
但し、
α+β=1
α=a+b(1+W/r)+2c(W/r−1)+2d+2e(W/r−1)
β=b(3−W/r)+2c(3−W/r)+2d+2e(5−W/r)
として求める。
【0073】
また、圧縮接続管の幅Wが3画素以上5画素未満の範囲のときは、
A=(P−βB)/α
但し、
α+β=1
α=a+4b+4c+d(W/r−1)+2e(W/r−1)
β=d(5−W/r)+2e(5−W/r)
として求める。
【0074】
このように視野角θを基準に、温度測定する領域を、画素がどの程度の範囲で撮影できているかで、補正式を選択することで、更により精度の高い温度測定が行える。
【0075】
以上において、従来では、66kV、154kV、275kV以上の電圧階級の送電線で、圧縮接続管に現実に近づける位置で測定した場合に、90%以上の精度で測定できる圧縮接続管の全設備数に対する割合は、66kV送電線で5.4%、154kV送電線で5.0%、275kV以上の送電線で26.0%程度しか測定ができなかったが、本発明では、従来の3倍の距離でも、66kV送電線で99.1%、154kV送電線で99.7%、275kV以上の送電線で92.9%の圧縮接続管の温度を精度良く測定できると判断される。
【0076】
なお、上述の実施の形態では圧縮接続管の温度測定で説明したが、圧縮接続管に限らず、送電線、鉄塔等の細長の形状の対象物はもとより、変圧器など細長の形状ではない種々の対象物の温度測定にも、本発明が適用できることは勿論である。
【0077】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、放射温度計を用いて遠い距離からでも圧縮接続管などの対象物の温度を精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態を示し、放射温度計で圧縮接続管を撮影する状態を示した図である。
【図2】本発明における温度測定装置のブロック図である。
【図3】本発明において、温度測定する圧縮接続管に対する放射温度計の画素の領域を説明する図である。
【図4】本発明において、補正式を求めるための黒体炉と放射温度計の説明図である。
【図5】本発明において、放射温度計の視野角を説明する図である。
【図6】本発明において、補正式を求めるための5×5画素の放射エネルギーと係数の関係を示す図である。
【図7】本発明において、5×5画素中の被測定物の範囲と補正式の関係を示す図である。
【図8】図4の状態で、黒体炉の温度を測定した時の放射温度計における5×5画素のの温度、表示エネルギーを示す図である。
【図9】圧縮接続管が使用される鉄塔を示す図である。
【図10】圧縮接続管の詳細を示す図である。
【符号の説明】
10 放射温度計
13 黒体炉
20 画素
44 圧縮接続管(対象物)
53 引留クランプ(圧縮接続管)
50 送電線
51 鉄塔
Claims (6)
- 架空送電線の圧縮接続管や電線からなる対象物を放射温度計を用いて温度測定するに際して、放射温度計の1画素の瞬時視野角を予め求め、その1画素で黒体炉から既知の被測定物温度を検出させると共にその1画素に対して1つ目、或いは1つ目と2つ目で隣接する各画素に既知の背景温度を検出させ、その1画素が検出した被測定物放射エネルギーと隣接する各画素が検出した背景放射エネルギーとから1画素で検出した被測定物放射エネルギーが被測定物温度の放射エネルギーとなる補正式を算出しておき、その放射温度計で圧縮接続管や電線からなる対象物の温度を測定する際に上記補正式を基に温度補正を行うことを特徴とする放射温度計を用いた温度測定方法。
- 被測定物温度から求められる放射エネルギーをA、背景温度から求められる放射エネルギーをBとし、被測定物温度を検出した1画素の放射エネルギーPの重み付け係数をa、1画素を中心に、背景温度を検出した縦横1つ目の画素の重み付け係数をb、斜め1つ目の画素の重み付け係数をc、縦横2つ目の画素の重み付け係数をd、斜め2つ目の画素の重み付け係数をeとし、その各画素の放射エネルギーを基に、算出式を、
被測定物が1×1の範囲のとき、
A=(P−4bB−4cB−4dB−8eB)/a
被測定物が3×3の範囲のとき、
A=(P−4dB−8eB)/(a+4b+4c)
とし、
重み付け係数a〜eは、黒体炉から既知の温度を1画素に入力すると共にその1画素に隣接する画素に既知の背景温度を入力し、これら温度と各画素が検出したエネルギーから予め求めておく請求項1記載の放射温度計を用いた温度測定方法。 - 対象物が、細長な圧縮接続管や電線であり、その幅が1画素の範囲のとき、
A=(P−2bB−4cB−2dB−8eB)/(a+2b+2d)
対象物の幅が3画素の範囲のとき、
A=(P−2dB−4eB)/(a+4b+4c+2d+4e)
として求める請求項2記載の放射温度計を用いた温度測定方法。 - 対象物の幅をW、1画素の1片の大きさをrとし、対象物の幅Wが1画素以上3画素未満の範囲のとき、
A=(P−βB)/α
但し、
α+β=1、
α=a+b(1+W/r)+2c(W/r−1)+2d+2e(W/r−1)、β=b(3−W/r)+2c(3−W/r)+2d+2e(5−W/r)、
として求める請求項3記載の放射温度計を用いた温度測定方法。 - 対象物の幅をW、1画素の1片の大きさをrとし、対象物の幅Wが3画素以上5画素未満の範囲のとき、
A=(P−βB)/α
但し、
α+β=1、
α=a+4b+4c+d(W/r−1)+2e(W/r−1)
β=d(5−W/r)+2e(5−W/r)
として求める請求項3記載の放射温度計を用いた温度測定方法。 - 放射温度計で圧縮接続管や電線からなる細長の対象物の熱画像を撮影する際に、その細長の対象物が熱画像に対して水平になるように放射温度計をロールさせて撮影する請求項1〜5いずれかに記載の放射温度計を用いた温度測定方法。
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