JP3904154B2 - 軽合金ホイールおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に車両用の軽合金ホイールを鋳造し、その後熱処理を施しても全体のフレやリムのひずみを低減した軽合金ホイールおよびそのための製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のロードホイールには種々の材質、構造のものがあるが、自動車の軽量化及び外観や意匠性の向上を目的として、アルミホイールに代表される軽合金ホイールを装着する比率が増大している。この軽合金ホイールは、通常低圧鋳造法で製造されることが多い。これは低圧鋳造法では、溶湯が金型キャビティ内に低速で充填されるので、ガスの巻込み及び酸化物の発生が他の鋳造法に比べて極力抑制されるからである。
【0003】
一般に軽合金製ホイール30は、図6に示すようにボルトとナットにより車軸に取付けられる厚肉のハブ31と厚肉部と薄肉部が混在してデザインとなるスポーク33からなるディスク部32と、タイヤが取着される薄肉のリム部34から構成されている。リム部の形状は規格により厳しく規定されている。アウターフランジ35とインナーフランジ36、およびアウター側のビードシート37とインナー側のビードシート38はタイヤが接触して内部の空気を密封するための形状であり特に重要な部分である。またディスク部32には車両と連結するための貫通孔39(ハブ穴)が形成される。
【0004】
従来、上記ホイールを低圧鋳造で製造・加工する場合、図7に示す以下の工程から製造される。まず低圧鋳造により車両用のホイール素材が鋳造される。次にこのホイール素材の湯口で凝固した不用部分を削除する。熱処理前のホイール素材は一般にF材と言われる(以後、熱処理前のホイール素材をF材とする)。その後、このホイール素材にT6処理などの熱処理を施す。熱処理されたホイール素材は図8に示す順で加工される。図中、破線の矢印は切削場所および切削方向を示す。図8(a)に示すようにまずアウターフランジをクランプにより保持・固定され、このアウターフランジの端面全体を加工基準部として旋盤加工機のチャック装置に固定されインナーフランジ側の内周面と外周面を切削加工される。この際、ディスク面の裏側まで旋盤加工することが多い。次に図8(b)に示すようにハブ穴やボルト穴をドリル加工する。その後、図8(c)に示すように最終形状となったインナーフランジ側をクランプにより保持・固定し、アウターフランジ側を旋盤加工する。この際、必要によりスポーク部表面やディスク面も加工する。これにより最終製品形状に加工され、塗装・焼きつけ処理などを施して最終製品となる。
【0005】
近年の軽合金ホイールの傾向として大口径化が目立つ。これは径の小さいホイールではスチール製ホイールと比較して重量の差がないが、径が大きくなることに比例して軽量化の効果が現れ、車両に装着した際に燃費向上等の機能を発揮するからである。しかしながら、重要保安部品で有る車両用ホイールでは大口径化されても小口径のものと同等の寸法精度を要求される。基本的に車両メーカの規格となる基準は(1)リムの円筒度および真円度、(2)ホイールのバランス(フレ)、(3)強度、である。(3)の強度はホイールを肉厚にするなど設計事項で対処できることが多い。
【0006】
特開平9−94709号公報では前記(1)(2)に係わる加工精度の向上を計るため好適な方法として旋盤加工で用いるフィンガーチャック構造を開示している。この公報ではクランプ座および芯出し部材の存在が開示されており、軽合金ホイールを旋盤加工する際に加工機の回転軸とホイールの軸中心がずれることなくクランプされ、精度良い加工ができる工夫が成されている。また、特開平9−66407号公報や特開平8−257812号公報にも同様の構造が記載されており、芯出しするためのセンターガイドなどが記載され、ホイールがチャック装置にズレなく固定できる配慮がなされている。
【0007】
しかしながらどの公報においてもホイールが真円かつリム端面が平面であることを前提に考慮されている。実際は鋳造製軽合金ホイールでは鋳造後の熱処理・冷却をした際にディスク部でもゆがんで変形している。そのために、ゆがんだリム端を平面に押しつけてクランプされることになり、チャック装置とホイールが芯出しして固定された状態にならず、精密な加工精度が出せない。熱処理の際に各ホイールのリム内周面に円板状のジグを入れるなどひずみを低減させる試みが各社で成されているがラインの簡素化、サイクルタイムの短縮などの制約のなかで改善することは実質困難である。
【0008】
前記(1)のリムの円筒度および真円度に関しては、次のことが寸法精度を悪化させる要因と考えられる。リム自体の厚さは非常に薄く、車両用ホイール素材の時点でも10mm程度である。これは小口径でも大口径でも必要とされる素材肉厚は変わらない。小口径であればさほど問題はないが、大口径化されると円筒状のリム部の径に対して肉厚が薄くなるため、非常に変形が起きやすい。このリム部の変形は主に熱処理時、およびその後の焼入れ処理(水焼入れ)時に起こることが確認された。多量の鋳造熱処理品を一同に焼入れしようとしても、各ホイール素材のリム部に円周方向に渡って均一に冷却することは困難であり、これを起因としてリム部が歪むことが考えられる。
【0009】
前記(2)のホイールのバランスに関しても同様のことが原因となる。バランスが悪いとホイールの回転中に軸(シャフト)が振動を受ける。シャフトが結合するハブ穴が偏心することが主な原因であるが、従来では図8(b)に記載したようにまず熱処理した後のリム端面を加工基準部として加工機に固定しハブ穴を最終加工している。しかしながらこのリム端面は熱処理により変形してひずんでおり、このリム端面を加工基準部として加工機にクランプしても厳密には曲がった状態で固定・加工されているために目標とする寸法誤差範囲から外れやすいと考えられる。
【0010】
又、鋳造直後のF材は、リム部の軸断面を見ると、完全な真円ではない。周方向にリムの肉厚を見ていくと、横型分割面ではリムの肉厚は比較的厚肉である。それに対して、横型中央部では薄肉である。つまり90°毎にリム厚が厚肉→薄肉→厚肉・・と変化する。実際は数mm程度の違いであり、従来当業者のなかでは特にこれがひずみを起す要因として全く捕らえられていなかった。しかしながらホイールの大口径化のニーズが高まるにつれ、所定のサイズ以上のホイールではこのF材リム肉厚の違いさえもひずみ低減の検討要因としてとりあげる必要があることが確認された。
【0011】
【特許文献1】
特開平9−94709号公報(第4頁、第5図)
【特許文献2】
特開平9−66407号公報(第3−4頁、第1図)
【特許文献3】
特開平8−257812号公報(第3頁、第1図)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
よって本発明は上記問題を解決するために当業者間では常識とされてきた製法・工程全体を見直すことで従来よりもはるかに精度よく大量生産可能な軽合金ホイールの製造方法を提供し、かつそれによって製造したフレを低減した軽合金ホイールを提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、熱処理時に発生する歪みの影響を極力減らすこと、および熱処理前の歪みのないF材の時点で熱処理後の加工基準となる部分を先に加工しておくことを考慮し本発明に想到した。つまり第1の本発明は、鋳造後のホイール素材を少なくとも一部加工して加工基準部を形成する工程と、その後熱処理を行う工程と、前記熱処理の後に前記加工基準部をもとにリム部を加工する工程と、を有することを特徴とする軽合金ホイールの製造方法である。本発明において加工基準部とは加工機にホイール素材を実質的に固定する接触部分を指す。
【0015】
具体的な一例として、第2の発明は、リム部とディスク部からなるホイール素材を鋳造する工程と、前記ディスク部にハブ穴を加工して加工基準部を形成する工程と、その後熱処理を行う工程と、前記熱処理の後に前記加工基準部をもとにリム部を加工する工程と、を有することを特徴とする軽合金ホイールの製造方法である。熱処理前にハブ穴を精度よく加工しておけば、熱処理後のひずんだリムを加工基準にしなければならないものより遥かに精度のよい加工基準部が得られる。従来でもハブ穴は熱処理前にドリルで穴を開けて湯口の凝固片を除外することもある。しかしこれはここが金型の湯口となるセンターゲート方案において単に製品の湯口の溶湯凝固片を除去するためのものである。この加工によるハブ穴では表面粗さや内径などの寸法精度は全く考慮されていない粗いものである。ハブ穴の最終的な仕上げは熱処理後の旋盤加工によるものであって、当然このハブ穴を熱処理前に精度よく加工しておき、熱処理後の加工基準部とする発想は全くなされていない。もちろんドリル加工だけでなく、旋盤加工によって精度を出しても良い。
【0016】
前記第2の発明の利点は回転軸に近いハブ穴を加工基準部としてリム部を加工するため、ホイール全体がずれて固定されやすい従来のアウターフランジ固定方式よりもフレの少ないホイールが製造可能である。また、これはハブ穴がホイールの形状上ひずみが起きにくい部位であり熱処理を施しても他の部位と比較してリム部の加工基準部として最適なためである。
【0017】
前記したように熱処理後にハブ穴を形成して加工基準部にしても本発明の目標とする軽合金ホイールの寸法精度は得がたい。これは熱処理することによりリム部は変形するため、図8(b)に示すようにどちらのフランジを固定してもチャック装置とのずれが生じ、ドリルや旋盤の加工軸とホイールの回転軸とがずれるためである。歪みの起こりずらい部分を歪みの小さいF材時に加工しておき、熱処理後にその加工部を加工基準とすることで熱処理時の歪みの影響を低減して加工できることが本発明の最大の利点である。
【0018】
このハブの加工は縦型旋盤を用いた。大口径の場合、機械剛性を考えると縦型旋盤の方が有利である。ハブ穴の加工は真円度が1.0mm以内であり、かつホイール素材との同心度が0.5mm以内で加工すれば目標とするフレ・歪みの少ない軽合金ホイールをさらに得やすい。好ましい真円度としては0.3mm、さらには0.1mm以内であり、また好ましい同心度は0.1mm、さらには0.05mm以内である。ハブ穴の径はφ50〜65mm程度である。同心度はホイール素材のリム部を真円としたデータム形状に対するものである。
【0019】
第3の本発明は、インナーフランジとアウターフランジを有するリム部とディスク部からなるホイール素材を鋳造する工程と、前記ホイール素材のアウターフランジを加工機に固定する工程と、インナーフランジの少なくとも一部を加工して加工基準部を形成する工程と、その後熱処理を行う工程と、前記加工基準部をもとにアウターフランジを加工する工程と、を有することを特徴とする軽合金ホイールの製造方法である。
【0020】
これは第2の発明がアウターフランジ、インナーフランジの両方のフレを改善するものに対し、第3の発明はアウターフランジの寸法精度を特に改善するものである。これはホイールが略円筒状でありディスク面により剛性の高いアウターフランジと中空で剛性の低いインナーフランジを有する形状であることを考慮したものである。つまりディスク面のあるアウターフランジは機械的な変形に強く、熱処理により歪んでしまうと加工機のチャック装置で強制的にクランプしても歪む以前の真円かつ端部が平らな形状に戻しがたい。よってその歪みは図8(a)に示すようにそのままクランプ時の精度を狂わせてインナーフランジの旋盤加工精度を悪化させる。しかしながらインナーフランジはリムの端部であり機械的に変形がしやすい。よって熱処理前に旋盤加工して最終形状に仕上げておけば熱処理により歪んでもチャック装置にクランプすることで歪みが矯正され、最適な状態でアウターフランジの旋盤加工が行なえる。熱処理前にインナーフランジの加工をしていないとインナーフランジは厚肉のままであるから前記したようなチャック装置による形状の矯正がしずらい。
【0021】
また第4の本発明は第2と第3の本発明の利点を併せ持つものであって、インナーフランジとアウターフランジを有するリム部とディスク部からなるホイール素材を鋳造する工程と、前記ディスク部にハブ穴を加工して第1の加工基準部を形成する工程と、前記第1の加工基準部をもとにインナーフランジを加工して第2の加工基準部を形成する工程と、その後熱処理を行う工程と、前記第2の加工基準部をもとにアウターフランジを加工する工程と、を有することを特徴とする軽合金ホイールの製造方法である。
【0022】
第3と第4の発明において、インナーフランジの加工基準部は、真円度の公差が0.3mm以下、好ましくは0.2mm以下、さらに好ましくは0.15mm以下となるように加工できれば本発明の意図するフレ・歪みのないホイールを製造可能である。
【0023】
フランジを固定するチャック装置の構造としては例えば図4に示すようなものが上げられる。施行中の様態を示すため、破線にて車両用ホイール30を記載する。チャック装置10はチャック装置本体16に従来のホイール固定手段と同様の形態である第1のアーム(クランプ)11aの他、従来にない構造である第2のアーム12aおよび/または13aを具備している。第1のアーム11aはホイールのインナーフランジを外側から引っ掛けるようにして固定するものである。しかしながらこの構造では第1のアームの先端はインナー側のビードシート38の周囲に配置されてしまう。第2のアームは少なくともインナー側のビードシート38の周囲を覆わない形状とし、インナーフランジを固定しながらインナー側のビードシート38を旋盤加工できる構造である。例えば図4中第2のアームである12aは最大径となるリム端の部分で外周側から接触させて固定する構造である。また、他の形態の第2のアーム13aはリムの内周側から接触させて固定する構造である。高速回転するためアーム12aおよび13aは併用することが望ましい。また、周方向へ幅を持たせて接触させればよりチャック装置と車両用ホイールの固着力を高めることができる。この場合は第2のアームの接触部は弧形状となるが車両用ホイールの径によりこの弧形状が変わるため交換する必要が有り汎用性が落ちる。アームの個数をふやすことで改善するなど車両用ホイールの重量、形状、旋盤加工時に必要な固着力などを見極めた上で適宜選択することが重要である。
【0024】
また、第3のアームとして車両用ホイールのデザイン面を位置固定する固定手段15を設ければより固着力が高まる。これをハブの貫通孔の加工基準用の固定方法としてもよいし、コレットチャックなどを用いてもよい。第3のアーム15はチャック装置の固着力を高める他、加工する車両用ホイールのセンターを正確に旋盤の回転中心軸に併せる役割を担う。図中この第3のアーム15はボルトによりチャック装置本体16と固定される。また、チャック装置本体16は旋盤加工機に固定部17を介して回転力が与えられる。
【0025】
本発明でのハブ穴とは車体と連結するためのディスク面に形成される回転軸の穴およびその周囲に形成されるボルトでかしめるための穴を指す。また、本発明はディスク部の中央となる金型キャビティ位置を湯口(センターゲート)として溶湯を注湯する低圧鋳造方案、またはセンターゲートとリムとなる金型キャビティ位置を湯口として相互から溶湯を注湯する低圧鋳造方案(マルチゲート方案)において適用することが好ましい。特にリムの周方向によって曲率の変わりやすいマルチゲート方案に適用することで本発明の製造方法を適用しないものに比べ真円度の高いホイールを製造可能である。
【0026】
又、リム部とディスク部からなるホイール素材を鋳造する工程と、前記リム部の少なくとも一部を周方向に沿って肉厚が均一になるように加工する工程と、その後熱処理を行う工程と、前記熱処理の後にリム部を最終製品形状に加工する工程と、を有する製造方法を用いても良い。
【0027】
ホイールのF材は完全な真円ではなくてリムの肉厚が周方向で変動する。これは図9に示すように鋳造機の横型がホイールからかじることなく離型させるために、リム外周部を形成する型割れ面側のキャビティは、横型の移動方向に対して抜け勾配が設けられているためである。これにより型割れ面で成形されたリムは横型中央部で成形されたリムと比較してセンターゲート法案では2〜4mm程度、リムに湯口が設けられるサイドゲート法案やマルチゲート法案では8〜12mm程度厚くなっている。この肉厚差を残したまま熱処理を行うと厚い部分と薄い部分での熱変形量が変わるためにリムがひずむ主要因となることが解った。よって熱処理前に一度リム部を旋盤加工をするなどして、均一な厚さにしておくことがひずみを抑制する為に有効な手段である。
【0028】
熱処理前にリム部を肉厚が均一になるように加工する場合、リム部を形成する金型に湯口が設けられるサイドゲート法案や、ディスク部とリム部の各々に湯口が設けられるマルチゲート法案に適用することが好ましい。これらの法案では湯口の部分の凝固片がリム部周面に残留する。そのため前記したようにディスク部から溶湯を供給するセンターゲート法案よりもリム肉厚が変動している。特にマルチゲート法案は大口径のホイール製造に最適な法案であるから、この大口径ゆえのひずみ抑制作業に本発明を適用させたときの効果は一段と大きい。
【0029】
肉厚を均一にするための加工は製品目的寸法に対して0.05mm〜3mm以内の均一な加工代を残して加工することが好ましい。0.05mm未満であると、他の要因で若干のひずみを起した場合、最終目標寸法に加工する際に加工代が不足する可能性がある。但し熱処理前に最終目標寸法、つまりは0.05mm以内に加工することも本発明が包含する範囲である。また、肉厚を均一にするための加工はリムの内周側および外周側の両方に施すことが好ましいがこれに特に限定されず、内周面または外周面のみに加工するものでもよい。
【0030】
鋳造する合金の組成は既知のもの、例えばアルミホイール用途として使用されるAC4C,AC4CH材の他、Al−Si―Cu系、Al−Si−Mg系、Al−Mg系合金製など、例えばADC3材,ADC5材,ADC10材、ADC12材などでも適宜使用できる。さらに、本発明は16インチ以上のホイール製造に対してより優位な効果を発揮するが、それより小さなホイールでもその効果自体は同一で大きさにより限定されるものではない。これら本発明の方法をいくつか述べたが、当然ながらそれらの複数の方法を組合せて使用することも考慮してホイールのひずみ低減を計ることでさらなる効果が得られる。16インチ以上のホイールであっても、インナー側のビードシート部でのフレが0.30mm以内、さらには0.25mm以内、アウター側のビードシート部でのフレが0.20mm以内、さらには18mm以内である軽合金ホイールを製造できる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細を述べるが本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
本発明の工程の流れの一例を図1に示す。まず軽合金ホイールは低圧鋳造した一体鋳造ホイールを用いた。低圧鋳造においてはAC4C材などを溶湯原料として用い、金型はホイールのディスク部の中心位置、およびリム部の周囲に湯口を設けるマルチゲート方案のものを用いた。これによりリム部とディスク部が一体型であるホイール素材(F材)を得た(Step1a)。このF材のディスク部中心位置に旋盤加工によりφ53mmのハブ穴を形成した。但し最終ハブ穴寸法(56mm)に対して加工代を1.5mm残している。また、ディスク部のボルト穴も同様にして形成した。ハブ穴の加工においてはオークマ社製加工機LAW−V24型を用い、軸方向の送り速度を5mm/sとした。これによりハブ穴の内面は最終製品寸法として規定される真円度0.2mm以下、同軸度0.03mmのものを加工できた(STEP2a)。その後、このハブ穴を加工したホイール素材を545℃×4.0hで熱処理後に水冷し、その後140℃×2.0h熱処理するT6処理を行なった(STEP3a)。この熱処理によりディスク面に歪みが生じた。歪みの測定はホイールのアウターフランジを平坦面に接触させ、アウターフランジと平坦面の間に生じる隙間を隙間ゲージにより測定した。試料数は30個である。これによる隙間の発生は17インチ用のホイールでは平均0.55mm、18インチ用のホイールでは平均0.61mmであった。
【0032】
この熱処理後のホイール素材に対してハブ穴を加工基準部として加工を行った。内径基準治具であるコレットチャックを用いてアウターフランジ側から旋盤加工機のチャック装置に装着した。その後インナーリムの端部3ヶ所を軸方向に挟み(径方向フリー)補助的な固着力としてチャック装置に固定した(STEP4a)。このハブ穴を加工基準とした状態で回転させ、切削用のバイトをリム部のアウターフランジからインナーフランジに向って移動させ、リムの中程からインナーフランジ外周面を旋盤加工した。その後、バイトをリムの内周側にも移動させ、インナーフランジからアウターフランジ方向へバイトを移動させてハブの裏側まで加工した。これによりチャック装置から外すことなくリムの外周面から内周面に渡って連続的に加工を行った。
その後コレットチャックからホイール素材を外し、今度はインナーフランジ側からコレットチャックをハブ穴に挿入して固定した。その後バイトを加工していない残りのリム部のところに移動させ、アウターフランジ側の旋盤加工を行い、かつ再度ハブ穴の最終加工を行って最終製品形状のホイール加工品を得た(STEP5a)。この車両用ホイールの回転軸に対する外径のばらつきを測定した。ハブ穴に試験用の回転軸を固定しインナー側とアウター側のビードシートの外周面に表面粗さ計の針を接触させながらホイールを回転させて目標寸法に対する誤差(フレ)を測定した。測定位置は等角度に10ヶ所(36°おき)とした。表1に本発明のインナー側とアウター側のビードシートの目標寸法に対するフレの最大値、及びその標準偏差を示す。インナー側のビードシートのフレは0.30mm以下、アウター側のビードシートのフレも0.2mm以下であり標準偏差も0.1以下と小さいものであった。
【0033】
【表1】
【0034】
(比較例1)
図7に示すような従来の工程で比較実験を行なった。実施例1と同様にF材の製造を行った後、ハブ穴を湯口除去するための簡易的なドリル加工のみ施し、直ちに熱処理を行なった。熱処理されたホイール素材を図8(a)に示すようにまずアウターフランジ端面を平面またはF材形状に対して嵌合するジグに押し当てた。その後クランプにより保持・固定し、このアウターフランジの素材形状を加工基準として旋盤加工機のチャック装置に固定してインナーフランジ側の内周面と外周面を切削加工した。その後、図8(b)に示すようにハブ穴やボルト穴をドリル加工し、その後、図8(c)に示すように最終形状となったインナーフランジ側をクランプにより保持・固定してアウターフランジおよびディスク面、ハブ穴を旋盤加工した。表1に比較例1のインナー側とアウター側のビードシートでのフレ最大値及びその標準偏差を併記する。
【0035】
(実施例2)
実施例1と同様にしてF材の鋳造、ハブ穴の加工、熱処理を行なった。これを図4に示すチャック装置に装着した。チャック装置の装着にはまずコレットチャック15をインナー側からハブ穴に装着して固定した。その後インナーリムの端部をアーム11を用い3ヶ所で軸方向に挟み(径方向フリー)補助的な固着力としてチャック装置に固定した。
【0036】
このハブ穴を加工基準部とした状態で回転させ、切削用のバイトをリム部のアウターフランジからインナー側のビードシート手前まで所定の形状になるよう移動させ、リムのアウター側を形成した。その後、アーム11を開き、アーム12および13にてインナーフランジを固定した。このアーム12および13はリムを径方向にゆがませることなくインナーフランジの開口している部分を懸架する程度の力で作動させた。その後バイトを移動させインナー側のビードシートを旋盤加工した。その後チャック装置からホイール素材を外し、今度はアウターフランジ側からコレットチャックをハブ穴に挿入して固定した。その後バイトを加工していない残りのインナーフランジ、リム内周およびスポーク部の裏側まで移動させ、旋盤加工を終了した。この車両用ホイールの回転軸に対する外径のばらつきを実施例1と同様に測定した。表1に実施例2のインナー側とアウター側のビードシートのフレの最大値と標準偏差を併記する。実施例1と比較して実施例2のフレが小さいのは補助的にアーム11、12および13を用いたことによるものである。特にインナー側のビードシートにおいてはインナー側が固定されているために旋盤の回転による振動が押さえられているためと思われる良好な結果が得られた。
【0037】
(実施例3)
図2のフローチャートを用いて本発明の別の実施例を詳細に説明する。軽合金ホイールは低圧鋳造した一体鋳造ホイールとした。低圧鋳造でAC4CH材を溶湯原料として用い、金型はホイールのディスク部の中心位置、およびリム部の周囲に湯口を設けるマルチゲート方案のものを用いた。これによりリム部とディスク部が一体型であるホイール素材(F材)を得た(Step1b)。このF材のアウターフランジをコレットチャック15を取り外した図4に示すチャック装置に固定した(Step2b)。このアウターフランジを加工基準とした状態で回転させ、切削用のバイトを移動させて、インナー側のリム側面、リムの内周面およびスポーク部裏側の順に所定の形状になるよう旋盤加工した。リムの内周面側の寸法誤差は0.3mm以内で加工されていた(STEP3b)。その後、この加工したF材を実施例1と同様のT6処理を施した(STEP4b)。
【0038】
この熱処理後のホイール素材を前記に示すチャック装置にインナーフランジ側をアーム11、12および13によって矯正的に固定した。各アームは約9.8kNでインナーフランジを押さえ、リムが真円であると想定される形状までゆがみを強制していた(STEP5b)。その後、バイトを加工していない残りのリム部外周面に移動させ、アウターフランジ側の旋盤加工を行った。また、インナー側のビードシートの加工では、アーム11を開き、アーム12および13のみで固定した。これによりアームをインナーフランジ側に固定しながらインナー側のビードシートを旋盤加工した(STEP6b)。この車両用ホイールの回転軸に対する外径のばらつきを実施例1と同様に測定した。表1に実施例3のインナー側とアウター側のビードシートのフレの平均値及びその標準偏差を併記する。
【0039】
(実施例4)
図3のフローチャートを用いて本発明の別の実施例を詳細に説明する。軽合金ホイールは低圧鋳造した一体鋳造ホイールとした。低圧鋳造でAC4CH材を溶湯原料として用い、金型はホイールのディスク部の中心位置、およびリム部の周囲に湯口を設けるマルチゲート方案のものを用いた。これによりリム部とディスク部が一体型であるホイール素材(F材)を得た(Step1c)。このF材のディスク部に旋盤加工によりφ53mmのハブ穴を設けた。但し最終ハブ穴寸法に対して加工代を1.5mm残している。また、ディスク部のボルト穴も同様にして形成した。これによりハブ穴の内面は最終製品寸法として規定される真円度0.2mm以下、同軸度0.03mmのものを加工できた(STEP2c)。このハブ穴を形成したF材をアウター側からコレットチャックを用いて旋盤加工機のチャック装置に装着した。その後アウターリムの端部を3ヶ所で軸方向に挟み(径方向フリー)補助的な固着力としてチャック装置に固定した。(STEP3c)。
このハブ穴を加工基準部とした状態で回転させ、切削用のバイトをインナー側のリム側面、リムの内周面およびスポーク部裏側の順に所定の形状になるよう移動させ、インナーフランジを形成した(STEP4c)。その後、この加工したF材に実施例1と同様のT6処理を施した(STEP5c)。
【0040】
この熱処理後のホイール素材を図4に示すチャック装置に固定した。その際インナーフランジ側をアーム11、12および13によって矯正的に固定した。各アームは約9.8kNでインナーフランジを押さえ、リムが真円であると想定される形状までゆがみを矯正させている(STEP6c)。その後、バイトを加工していない残りのリム部外周に沿って移動させ、アウターフランジ側の旋盤加工を行った。また、インナー側のビードシートの加工では、アーム11を開き、アーム12および13のみで固定した。これによりアームをインナーフランジ側に固定しながらインナー側のビードシートを旋盤加工した(STEP7c)。この車両用ホイールの回転軸に対する外径のばらつきを実施例1と同様に測定した。表1に実施例3のインナー側とアウター側のビードシートのフレの最大値および標準偏差を併記する。
【0041】
(実施例5)
図5のフローチャートを用いて本発明の別の実施例を詳細に説明する。軽合金ホイールは低圧鋳造した17インチ径の一体鋳造ホイールとした。低圧鋳造でAC4C材を溶湯原料として用い、金型はホイールのディスク部の中心位置、およびリム部の周囲に湯口を設けるマルチゲート方案のものを用いた。これによりリム部とディスク部が一体型であるホイール素材(F材)を得た(Step1d)。このF材のリム中央部の厚さを鋳造時の横型型割れ面とその90度方向の横型中央部とで測定した。横型の型割れ面では湯口だった位置に溶湯の凝固片が残留しており、そのすぐ横を最大の肉厚として測定した。この部分でのリムの肉厚は8mmであり、横型中央部のリムの肉厚は湯口バリも含め16mmであった。
その後、F材のアウターフランジをチャック装置に固定した。最終目標寸法の外径、内径に対してどちらにおいても1.5mmの加工代を残すように旋盤加工を施した。また、実施例1と同様にしてハブ穴の加工を行った。旋盤加工した部分のリム周方向の厚さの誤差は0.3mm以内であった(Step2d)。この加工したF材に実施例1と同様のT6処理を施した(STEP3d)。
【0042】
この熱処理後のホイール素材に対してハブ穴を加工基準部として加工を行った。内径基準治具であるコレットチャックを用いてアウターフランジ側から旋盤加工機のチャック装置に装着した。その後アウターリムの端部三ヶ所を軸方向に挟み(径方向フリー)補助的な固着力としてチャック装置に固定した(STEP4d)。
このハブ穴を加工基準とした状態で回転させ、切削用のバイトをリム部のアウターフランジよりからインナーフランジに向って移動させ、リムの中央近傍からインナーフランジ外周面を旋盤加工した。その後、バイトをリムの内周側にも移動させ、アウターフランジからインナーフランジ方向へバイトを移動させてハブの裏側まで加工した。これによりチャック装置から外すことなくリムの外周面から内周面に渡って連続的に加工を行った。また、インナーフランジ側のビードシート部は下記のSTEP5dで再加工して寸法精度をさらに上げるために加工代を0.2mm残している(STEP5d)。
その後コレットチャックからホイール素材を一旦外し、図4に示すチャック装置を用いインナーフランジ側からコレットチャック15をハブ穴に挿入して固定した。その後インナーリムの端部3ヶ所を軸方向に挟み(径方向フリー)補助的な固着力としてチャック装置に固定した(STEP6d)。その後バイトをディスク部に移動させアウターフランジの旋盤加工を行った。また、インナー側のビードシート部およびハブ穴の最終加工を行って最終的なホイール加工品を得た(STEP7d)。
この車両用ホイールの回転軸に対する外径のばらつきを実施例1と同様に測定した。表1に実施例3のインナー側とアウター側のビードシートのフレ最大値及びその標準偏差を併記する。
【0043】
以上に記述の如く、本発明によれば、ハブ穴を加工基準とすることで、熱処理によりリム部にひずみが発生しているものでもホイール回転軸を中心とした加工が行えるため、ひずみのすくないリム部を旋盤加工により得ることができた。
また、熱処理前のゆがみのないF材の段階で加工基準部を形成しておくことで、熱処理によりゆがんだアウターフランジを加工基準部とすることなく、ひずみのすくないリム部を旋盤加工により得ることができた。
これらの本発明の製造方法を適用することにより、大口径の軽合金ホイールであってもインナー側のビードシート部でのフレが0.30mm以内、アウター側のビードシート部でのフレが0.20mm以内のものを安定的に製造することに成功している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の別の製造工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明の別の製造工程を示すフローチャートである。
【図4】本発明に適用したチャック装置の一例である。
【図5】本発明の別の製造工程を示すフローチャートである。
【図6】車両用ホイールの断面図である。
【図7】従来の製造工程を示すフローチャートである。
【図8】従来の車両用ホイールの旋盤加工工程を示す図である。
【図9】横型の抜け勾配位置を示す図である。
【符号の説明】
1 横型、10 チャック装置、11 第1のアーム、12,13 第2のアーム、15 第3のアーム、16 チャック装置本体、17 固定部、30 車両用ホイール、31 ハブ、32 ディスク部、33 スポーク、34 リム部、35 アウターフランジ、36 インナーフランジ、37 アウター側のビードシート、38 インナー側のビードシート
Claims (7)
- 鋳造後のホイール素材を少なくとも一部加工して加工基準部を形成する工程と、その後熱処理を行う工程と、前記熱処理の後に前記加工基準部をもとにリム部34を加工する工程と、を有することを特徴とする軽合金ホイールの製造方法。
- リム部34とディスク部32からなるホイール素材を鋳造する工程と、前記ディスク部32にハブ穴39を加工して加工基準部を形成する工程と、その後熱処理を行う工程と、前記熱処理の後に前記加工基準部をもとにリム部34を加工する工程と、を有することを特徴とする軽合金ホイールの製造方法。
- 前記ハブ穴39の内周面は真円度公差が1.0mm以内であり、かつホイール素材との同心度公差が0.5mm以内で加工したものである請求項2に記載の軽合金ホイールの製造方法。
- インナーフランジ35とアウターフランジ36を有するリム部34ならびにディスク部32からなるホイール素材を鋳造する工程と、前記ホイール素材のアウターフランジ36を加工機に固定する工程と、インナーフランジ35の少なくとも一部を加工して加工基準部を形成する工程と、その後熱処理を行う工程と、前記加工基準部をもとにアウターフランジ36を加工する工程と、を有することを特徴とする軽合金ホイールの製造方法。
- インナーフランジ35とアウターフランジ36を有するリム部34ならびにディスク部32からなるホイール素材を鋳造する工程と、前記ディスク部32にハブ穴39を加工して第1の加工基準部を形成する工程と、前記第1の加工基準部をもとにインナーフランジ35を加工して第2の加工基準部を形成する工程と、その後熱処理を行う工程と、前記第2の加工基準部をもとにアウターフランジ36を加工する工程と、を有することを特徴とする軽合金ホイールの製造方法。
- 前記インナーフランジ35の加工基準部は真円度公差が0.3mm以内である請求項4または5に記載の軽合金ホイールの製造方法。
- 請求項1乃至6のいずれかに記載の製造方法により製造した、ホイール径が16インチ以上であり、かつインナー側のビードシート部37でのフレが0.30mm以内、アウター側のビードシート部38でのフレが0.20mm以内であることを特徴とする軽合金ホイール。
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