JP3891338B2 - 物質の精密構造解析方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機物、高分子材料である物質の原子位置、さらに電子結合状態を含めた電子密度、または原子核密度を得て、その物質の機能を解明する為に、X線または中性子線を用いる物質構造の構造解析において、マキシマム・エントロピー法(Maximum Entropy Method、以下MEMと略称する。)を適用した巨大な系の物質構造の精密構造解析方法、プログラム、システム、および物質に関する。
【0002】
【従来の技術】
分子量として約2〜3千以上、即ち有機物質類、蛋白質、複合蛋白質等の大きな分子、すなわち高分子材料の結晶構造のX線構造解析に必要な回折データは、シンクロトロン放射光の登場により良質で分解能の高いものが、短時間で得られるようになった。
【0003】
しかし、従来の構造解析では電子密度を求めるのにフーリエ法が用いられているが、フーリエ法の限界(無限フーリエ級数を有限で扱うために生ずる打切りの影響等)により高精度な電子密度が得られない。すなわち、多くの場合、物理的に意味のない負の電子密度領域が存在した。その結果、立体構造を決定する際にゴーストピークをとり入れる可能性がある。かようなフーリエ法から構造モデルを構築する場合には、特に、高分子材料のX線構造解析によるモデル構築には、困難を極め、精密化に限界があり精密化の度合を示す信頼度因子の指数も20%程度にとどまっている。従って、構造パラメーターの精密化にも限界があった。
【0004】
その原因の1つは球状の電子密度分布、または原子核密度分布で近似された孤立原子にもとづいて構造モデルを構築しているので、蛋白質の分子を構成する原子間に存在する多くの共有結合の情報が含まれていなかったことである。また、フーリエ法とは異なる情報理論に基づくMEMを用いて高分子材料のX線構造解析方法をCollins等は試みている(Nature 298(1982)49)。この場合においてはフーリエ法で求めた電子密度ρを事前電子密度分布τとしたため、収斂が悪く解が得られない欠点があった。最終的に高分子材料の構造、機能が分かるような詳細な電子密度は得られなかった。
【0005】
一方、発明者等は、MEMの開発を推進し、金属内包フラーレンの構造解析を世界ではじめて実用レベルで行うことに成功した(Nature (1995) 377, 46-49;Nature(2000)408、426-427)。しかし、これまでの発明者らの解析方法、解析プログラムにも限界があり、適用できる物質は構成する原子数の少ない無機物に限られていた。
【0006】
したがって、いずれにしても従来のMEMにもとづく解析方法、解析プログラムでは、高分子材料の結晶構造解析においては、膨大な記憶容量と、演算時間が必要となり、精密構造解析には無力であり、実用化されず、適用が出来なかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
近年、ポストゲノムの医薬開発においてX線または中性子線による蛋白質構造解析を行い、得られた分子構造に基づいて蛋白質の機能を明らかにすることは、必要不可欠なものである。特に、市場要求の激化によって、構造解析の解析精度の飛躍的向上と高速化が切望されている。
【0008】
この中で、高分子材料のX線構造解析または中性子線構造解析において、電子密度分布または原子核密度分布を鮮明にし、分子の立体(三次元)構造を構築する際に、フーリエ法で現れるゴーストピークを減少させることが必要である。また、高分子材料のX線構造解析または中性子線構造解析による構造の精密化の度合を示す信頼度因子の指数も少なくとも10%程度以下にすることにある。
【0009】
本発明は、高分子材料の中に含まれる5員環、6員環やヘリックス等の非常に詳細な電子密度を明らかにするので、原子の結合形態を直接観察することもでき、高分子材料、特に蛋白質等の機能を検討できるので、高分子材料の構造解析を一新させる。これまでのフーリエ法では、解析結果の信頼度因子が20%程度であったが、これを少なくとも10%以下、更には2〜5%まで格段に向上させることにある。信頼度因子の定義を以下の(4)式に示しておく。
【0010】
【数4】
Figure 0003891338
【0011】
本発明は、高分子材料の結晶構造解析に対して、MEMを用いたX線構造解析または中性子線構造解析において、新たなアルゴリズムを作成し、数値計算に並列処理を取り入れ、膨大な記憶容量を緩和し、計算を高速化し、実施可能な構造解析システムを構築することにある。
【0012】
本発明の解析方法は、最終的に得られる電子密度または原子核密度として、高分子材料の構造から、その機能が判るような詳細な電子密度分布または原子核密度分布を得る方法、プログラム、システムを実用化にすることにある。また、様々な並列処理システムに簡単に対応させることにある。
【0013】
そして、本発明は、高分子材料の精密構造解析を可能とし、原子位置、原子間距離、及び結合電子の描象を決定させることにある。
特に、蛋白質においても電子密度のイメージングにより、その機能活性部位における構造と機能の精緻な関係を原子間の結合形態から明らかにさせ、無機物のみならず、高分子材料である有機物、及び生体関連物質のデザインに必要なこれまでにない詳細な情報を提供することにある。
【0014】
よって、本発明による精密構造解析の方法、プログラム、システムは、理学は勿論のこと、工学、医学等の様々な分野において広く普及すると期待され、本発明は非常に優れたものとしてその市場性、経済性が期待できる。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は下記に示す項目1〜19によって達成された。
項目1:高分子材料の結晶構造解析に対して、マキシマム・エントロピー法を適用する方法において、
事前の電子密度または原子核密度として、均一な電子密度または原子核密度を用い、マキシマム・エントロピー法にもとづく逐次解法を行い、精密な電子密度分布または原子核密度分布を求める方法であって、
その際、前記いずれかの密度分布の精密化は、実験的に得られた観測結晶構造因子と、
マキシマム・エントロピー法により得られた前記電子密度または原子核密度のいずれかの密度分布から計算された結晶構造因子との差が、許容範囲に収まるまで前記いずれかの密度分布を逐次解法を繰り返しておこなうことにより、
分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料のもつ機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0016】
項目2:X線回折の手段を用いる電子密度の分布または中性子回折の手段を用いる原子核密度の分布による結晶構造解析において、
分子量が少なくとも2千以上からなる高分子材料の構造解析に対して、マキシマム・エントロピー法を適用し、分子を構成する原子の位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を解明し、求めた前記構造にもとづいて、
前記高分子材料のもつ機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0017】
項目3:項目1または2において、実験的に得られた観測結晶構造因子と、マキシマム・エントロピー法により得られた電子密度分布または原子核密度分布から計算された結晶構造因子との差で表現できる精密化の度合を示す信頼度因子において、
少なくとも10%以下が得られる構造解析を行うことを可能としたことにより、
分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造と、前記高分子材料のもつ機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0018】
項目4:項目1または2において、実験的に得られた観測結晶構造因子データの強度および事前に設定した位相、空間群の情報すなわち結晶の対称性、および事前電子密度分布または事前原子核密度分布を条件とし、
前記いずれかの密度分布の精密化のアルゴリズムを実施する上で、実空間における単位胞内で連続的な電子密度分布または原子核密度分布を、少なくとも、最隣接原子間結合距離以下の格子状に細分化することにより情報処理することを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0019】
項目5:項目4において、電子密度分布または原子核密度分布の精密化のアルゴリズムを実施する上で、
連続的な電子密度分布または原子核密度分布を離散化して情報処理する上で、前記情報処理は並列処理することを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0020】
項目6:項目1、2または3におけるX線回折または中性子線回折の手段を用いる電子密度または原子核密度の分布による高分子材料の構造解析において、
前記電子密度分布または原子核密度分布の精度を高めるために、入力設定データの位相の精密化を行う方法であって、
その際、精密化の方法は、先ず、
(1)事前に設定した初期位相を用いた観測結晶構造因子でマキシマム・エントロピー法による電子密度分布または原子核密度分布を求め、
(2)求められたマキシマム・エントロピー法の電子密度分布または原子核密度からマキシマム・エントロピー法の結晶構造因子を計算し、新しい位相を得て、
(3)観測構造因子の位相をマキシマム・エントロピー法の電子密度分布または原子核密度分布から新たに得られた位相に更新し、
(4)位相更新された観測結晶構造因子で、マキシマム・エントロピー法の電子密度分布または原子核密度分布を再び得て、
(5)実験的に得られた観測結晶構造因子と、マキシマム・エントロピー法により得られた電子密度分布または原子核密度分布から計算された結晶構造因子とにおいて、許容差の範囲内に収まるまで、前記計算フローを繰り返して行うことであり、
該位相の精密化のプロセスにおいては、
位相を更新する前のマキシマム・エントロピー法の解析で得られた電子密度または原子核密度から逐次解法を行う場合と、位相の更新ごとに一様な電子密度または原子核密度から逐次解法を行う場合と、および、それら双方を組み合わせる場合とにより、
分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料のもつ機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0021】
項目7:項目4または5において、事前電子密度から実空間上の各メッシュポイントでの新しい電子密度分布または原子核密度分布をマキシマム・エントロピー法の演算に従って求める際に、
電子密度分布または原子核密度分布はメッシュポイントに関してブロック分割して並列処理を行う方法とし、
あらかじめ、電子密度または原子核密度を対称化し、等価なメッシュポイントでの電子分密度分布または原子核密度分布を等しくするとともに、
次に、マキシマム・エントロピー法の計算による結晶構造因子をマキシマム・エントロピー法から求めた電子密度分布または原子核密度分布に並列処理高速フーリエ変換をかけることで求めた後、
前記マキシマム・エントロピー法の密度分布から求まる結晶構造因子と実験的に観測された結晶構造因子の差の評価をおこなう方法であって、
それぞれの結晶構造因子を回折斑点についてブロック分割し並列処理することとし、
かかる方法による分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料のもつ機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0022】
項目8:項目4または5において、結晶の対称性から実空間における単位胞全体の構造を記述するのに必要な最小単位を割り出し、その最小単位を少なくとも最隣接原子間結合距離以下に分割し、格子状に構造を細分化するとともに、
結晶の対称操作により重複する部分の計算を省くことで演算回数を減らす方法であって、
あらかじめ、フーリエ変換のための係数
【0023】
【外7】
Figure 0003891338
【0024】
を計算し、
【0025】
【外8】
Figure 0003891338
【0026】
に記憶し、
フーリエ変換は、回折斑点jもしくは実空間のメッシュポイントkに関して並列に行い、各コンピュータで分割してデータを記憶し、
次に、事前電子密度分布または原子核密度分布から実空間上の各メッシュポイントでの新しい電子密度分布または原子核密度分布をマキシマム・エントロピー法の計算に従って求め、
ここでは電子密度分布または原子核密度分布はメッシュポイントに関してブロック分割して並列処理を行い、
更に、
【0027】
【外9】
Figure 0003891338
【0028】
を用いてデータ分割の仕方に従って並列処理直接フーリエ変換によりマキシマム・エントロピー法の電子密度分布または原子核密度分布から結晶構造因子を求め、
前記電子密度分布または原子核密度分布から求まる結晶構造因子と実験的に観測された結晶構造因子の差の評価をおこなう方法であって、
ここでは、それぞれの結晶構造因子を回折斑点についてブロック分割し並列処理することとし、
かかる方法による分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料のもつ機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0029】
項目9:項目4または5において、
結晶の対称性から実空間における単位胞全体の構造を記述するのに必要な最小単位を割り出し、その最小単位を少なくとも最隣接原子間結合距離以下に分割し、格子状に構造を細分化するとともに、
a、b、c軸方向の3次元の行列で与えられる電子密度分布または原子核密度分布において、
結晶の対称操作により重複する部分の計算を省くことで演算回数を減らす方法であって、
あらかじめ、
【0030】
【外10】
Figure 0003891338
【0031】
を計算し、
位相項は
【0032】
【数5】
Figure 0003891338
【0033】
で与え、
フーリエ変換のため、
【0034】
【外11】
Figure 0003891338
【0035】
を記憶しておき、
フーリエ変換は、回折斑点jもしくは実空間のメッシュポイントkに関して並列処理を行い、
次に、事前電子密度分布または原子核密度分布から実空間上の各メッシュポイントkでの新しい電子密度分布または原子核密度分布をマキシマム・エントロピー法の計算に従って求め、
ここでは電子密度分布をメッシュポイントkに関してブロック分割して並列処理を行い、
求めた
【0036】
【外12】
Figure 0003891338
【0037】
を用いて並列処理直接フーリエ変換によりマキシマム・エントロピー法の電子密度または原子核密度から結晶構造因子を求め、
計算にあたっては,回折斑点jもしくは実空間のメッシュポイントkに関して並列処理を行い、
マキシマム・エントロピー法の電子密度分布または原子核密度分布から求まる結晶構造因子と実験的に観測された結晶構造因子の差の評価をおこなう方法であって、
ここでは、それぞれの結晶構造因子を回折斑点jについてブロック分割し並列処理することとし、
かかる方法による分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料のもつ機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0038】
項目10:項目1または2において、中性子回折データを扱う場合、
原子核密度分布は、原子間での重なり合いはなく、正の散乱振幅を持つ原子と、負の散乱振幅を持つ原子の分布については独立事象としてエントロピーの式を得ることとし、
結晶構造因子のそれぞれの原子の散乱振幅b+、b-式は、下記(6)式であり、
【0039】
【数6】
Figure 0003891338
【0040】
マキシマム・エントロピー法による原子核密度分布の表式は下記(7)式であり、
【0041】
【数7】
Figure 0003891338
【0042】
それぞれの、原子核密度分布を独立に求めて、後で合成する方法であって、
かかる方法による分子の原子位置および原子の結合状態を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料の示す機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0043】
項目11:項目1ないし10のいずれかの方法により、分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料の示す機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析プログラム。
【0044】
項目12:項目1ないし10のいずれかの方法により、分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料の示す機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析システム。
【0045】
項目13:項目1または2において、
高分子材料に含まれる結晶物質の溶媒分子において、前記溶媒分子を少なくとも原子間の結合距離以下に分割し、マキシマム・エントロピー法による電子密度分布または原子核密度分布を計算し、前記物質をとりまく溶媒分子の存在を仮定し、または溶媒分子の存在を仮定することなく、いずれの場合においても、溶媒分子の存在を特定されることとした分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、
前記高分子材料のもつ機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0046】
項目14:項目1または2において、高分子材料等に含まれる結晶物質の水分子において、前記水分子を少なくとも原子間の結合距離以下に分割し、マキシマム・エントロピー法による電子密度分布または原子核密度分布を計算し、前記物質をとりまく水分子の存在を仮定し、または水分子の存在を仮定することなく、いずれの場合においても、水分子の存在を特定されることとした分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料の示す機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0047】
項目15:項目1または2において、分子の配位結合の異方性を見出すことを可能とし、
分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記高分子材料のもつ機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析方法。
【0048】
項目16:項目1または2において、高分子材料の構造解析に対して、マキシマム・エントロピー法を適用し、分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた立体構造に描象表示することにより、前記高分子材料の立体構造の機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析プログラム。
【0049】
項目17:項目1、または2において、高分子材料と、少なくとも低分子材料との、複合体の構造解析に対して、マキシマム・エントロピー法を適用し、少なくとも、低分子材料と高分子材料の配位結合レベルにおいて、前記複合体の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにし、前記複合体の機能を解明しうることを特徴とした物質の精密構造解析システム。
【0050】
項目18:項目1、2または17において、高分子材料と、少なくとも低分子材料との、複合体の構造解析に対して、マキシマム・エントロピー法を適用し、少なくとも低分子材料と高分子材料の結合レベルにおいて、
複合体の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造の機能を解明することにより、前記少なくとも低分子材料を特定することを特徴とした少なくとも低分子材料の製造方法。
【0051】
項目19:項目18において、高分子材料と、少なくとも低分子材料との、複合体の構造解析に対して、マキシマム・エントロピー法を適用し、少なくとも低分子材料と高分子材料の結合レベルにおいて、
複合体の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造の機能を解明することにより、前記少なくとも低分子材料を特定することを特徴とした少なくとも低分子材料の生成物。
【0052】
【発明の実施の形態】
MEM構造解析
ここで、MEM構造解析について簡単に説明する。
【0053】
MEM構造解析では、単位胞を格子状に細かく分割し、分割されたそれぞれのメッシュ点では電子密度または原子核密度は一定として電子密度分布または原子核密度分布を離散化する。
【0054】
こうして得られた離散的な電子密度分布または原子核密度分布を「情報」として扱い、回折法により観測されたX線回折強度の実験データを再現する電子密度分布または原子核密度分布のうち「情報のエントロピー」が最大になるもの(従って実験データを再現する電子密度分布のうち最も変化の緩やかなもの)を最も確からしい電子密度分布または原子核密度分布として選択する。
【0055】
これは、与えられた情報(観測された回折データ)をもとに,欠落した情報(観測されていない回折データ)をできるだけ自然な形で補外していることになる。その結果、MEM構造解析を用いると、X線回折データから、原子の結合状態などを含めた詳細な電子密度分布または原子核密度分布を実空間で調べることが可能になる。
【0056】
MEM構造解析プログラムにおいて、具体的な入力データは実験から得られたX線回折データまたは中性子回折データと結晶の対称性のデータであり、出力データは3次元電子密度分布または原子核密度分布と計算の途中の収束状況を示すデータである。
【0057】
以下にMEM構造解析のフォーマリズムを電子密度解析を例に簡単に説明する。原子核密度の場合は取り扱いが多少異なるがそれについては後述する。
X線回折における結晶構造因子
【0058】
【外13】
Figure 0003891338
【0059】
は、下記(8)式のフーリエ変換で与えられる。
【0060】
【数8】
Figure 0003891338
【0061】
ここで
【0062】
【外14】
Figure 0003891338
【0063】
は回折斑点の指数であり、
【0064】
【外15】
Figure 0003891338
【0065】
は座標
【0066】
【外16】
Figure 0003891338
【0067】
での電子密度分布である。
一方、結晶の電子密度分布は単位胞を周期とする周期関数であるから電子密度分布
【0068】
【外17】
Figure 0003891338
【0069】

【0070】
【外18】
Figure 0003891338
【0071】
を用いて、フーリエ級数和を示す下記(9)式で与えられる。
【0072】
【数9】
Figure 0003891338
【0073】
ここで
【0074】
【外19】
Figure 0003891338
【0075】
は結晶の単位胞の体積である。
実空間の単位胞を格子状に細分割し、分割されたそれぞれのメッシュ上では電子密度は一定として電子密度分布を離散化する。このとき、
【0076】
【外20】
Figure 0003891338
【0077】
番目のメッシュの座標を
【0078】
【外21】
Figure 0003891338
【0079】
、そこでの電子密度を
【0080】
【外22】
Figure 0003891338
【0081】
とすると、(8)式、(9)式は、下記(10)式、(11)式と書き直せる。ここでNはメッシュの総数である。
【0082】
【数10】
Figure 0003891338
【0083】
【数11】
Figure 0003891338
【0084】
電子数は単位胞内で保存しなければいけないので全電子数を
【0085】
【外23】
Figure 0003891338
【0086】
とすると、下記(12)式が成り立つ。
【0087】
【数12】
Figure 0003891338
【0088】
ここで、
【0089】
【外24】
Figure 0003891338
【0090】
を用いて規格化し無次元化した電子密度分布
【0091】
【外25】
Figure 0003891338
【0092】
ならびに事前電子密度分布
【0093】
【外26】
Figure 0003891338
【0094】
を、下記(13)式により定義する。
【0095】
【数13】
Figure 0003891338
【0096】
ここで、
【0097】
【外27】
Figure 0003891338
【0098】
は逐次近似で求める際の事前電子密度である。
このとき、電子密度分布を情報として扱ったときのエントロピーは、下記(14)式により定義される。
【0099】
【数14】
Figure 0003891338
【0100】
このエントロピーを最大にする電子密度分布を見つければ、それが実験結果を再現する電子密度分布のうち、未測定の構造因子に対してもっともバイアスのかからない自然な推定を行った密度分布となる。
【0101】
このとき2つの束縛条件が必要になる。
1つは総電子数の保存で、下記(15)式であらわされる。
【0102】
【数15】
Figure 0003891338
【0103】
もうひとつは、MEMにより計算される結晶構造因子
【0104】
【外28】
Figure 0003891338
【0105】
と、実験的に得られる観測結晶構造因子
【0106】
【外29】
Figure 0003891338
【0107】
との差が一定の標準偏差
【0108】
【外30】
Figure 0003891338
【0109】
の中に入っているという条件である。これは、下記(16)式で与えられる。
【0110】
【数16】
Figure 0003891338
【0111】
ここで
【0112】
【外31】
Figure 0003891338
【0113】
は構造解析に用いる回折斑点数(回折データ本数)である。
【0114】
【外32】
Figure 0003891338
【0115】
は、MEM構造解析により得られる電子密度分布から、下記(17)式で与えられる。
【0116】
【数17】
Figure 0003891338
【0117】
ラグランジュの未定係数法を用いて(15)式、(16)式の束縛条件の元に(14)式を最大にする電子密度分布を求めるには、下記(18)式が極値を持つ様にすれば良く、
【0118】
【数18】
Figure 0003891338
【0119】
これは下記(19)式に示す連立方程式を解くことに等しい。
【0120】
【数19】
Figure 0003891338
【0121】
なお,本関係式は発明者による論文として認められ、まてりあ第40巻第3号第267頁から276頁に「MEM/Rietveld法による精密構造物性の研究」として紹介されている。
【0122】
実際のプログラムでは、(16)式の2番目の式の左辺が1または、1以下となるまで遂次的に計算することでこれを解く。
以下、図1に示す基本説明図、図2に示す基本フローチャートを参照しながら、図2に従って、本発明の解析方法、およびプログラムの基本的手順について述べる。
【0123】
巨大な系からなる高分子材料の結晶精密構造解析に対して、MEMを適用し、実験的に得られた観測結晶構造因子データFobs(hj)の振幅および事前に設定した位相、空間群の情報すなわち結晶の対称性、および事前に設定した事前電子密度分布または事前原子核密度分布τkを条件とする。
【0124】
前記いずれかの密度分布の精密化のアルゴリズムを実施する上で、
先ず最初に、事前電子密度分布または事前原子核密度分布τkとして、均一な電子密度または原子核密度を用い電子密度または原子核密度ρkを求める。
【0125】
ここで、実空間における単位胞を少なくとも最隣接原子間結合距離以下に分割し、格子状に構造を細分化されることにより、連続的な電子密度分布または原子核密度分布を離散化することにより情報として扱い情報処理を行なう。
【0126】
MEMの結晶構造因子FMEM(hj)は、情報として扱う電子密度または原子核密度ρkから計算され、得られる。
次に、実験的に得られた観測結晶構造因子Fobs(hj)と、MEMの計算により得られた結晶構造因子FMEM(hj)との差を求める。
【0127】
新たに求められた電子密度または原子核密度ρkを、次の事前電子密度または事前原子核密度τkとして置き換え、次の電子密度または原子核密度ρkを求め、次のMEMの結晶構造因子FMEM(hj)を得る。
【0128】
さらに、実験的に得られた観測結晶構造因子Fobs(hj)と、MEMの計算により得られた結晶構造因子FMEM(hj)との差が、許容範囲に収まるまで、電子密度または原子核密度の精密化の逐次解法を繰り返しておこなう。
【0129】
実際の計算では、メモリーを効率的に利用して巨大な系にも適用できるようにし、また計算を高速化するためにデータ分割による並列処理を行う。並列化の詳細については後ほど述べる。
【0130】
位相の精密化
X線回折データから実験的に得られる観測結晶構造因子は、絶対値として得られ、位相の情報は得られない。
【0131】
そこで、本発明の解析方法、およびプログラムによるMEM電子密度解析または原子核密度解析において、観測結晶構造因子の位相は、事前に設定する初期モデルの位相を用いる。
【0132】
解析対象の結晶の空間群が対称中心を持つ場合は、位相は0度と180度の2種類しかない。この場合は、構造モデルの精密化の過程で位相を確定することができる。
【0133】
しかし対称中心を持たない場合、すべてのデータは任意の位相を持つため、事前に設定した結晶構造因子の位相とMEM構造解析から得られた電子密度または原子核密度から計算される結晶構造因子の位相が異なる場合があり、より解析の精度を上げるために位相の精密化を行う場合がある。
【0134】
位相の精密化の方法として、本発明の解析方法およびプログラムでは、
1)事前に設定した初期位相を用いた観測結晶構造因子
【0135】
【外33】
Figure 0003891338
【0136】
でMEMによる電子密度分布または原子核密度分布を求める。
2)求められたMEM電子密度分布またはMEM原子核密度からMEMの結晶構造因子
【0137】
【外34】
Figure 0003891338
【0138】
を計算し、新しい位相を得る。
3)観測構造因子
【0139】
【外35】
Figure 0003891338
【0140】
の位相をMEM電子密度分布またはMEM原子核密度分布から新たに得られた位相に更新する。
4)位相更新された観測結晶構造因子
【0141】
【外36】
Figure 0003891338
【0142】
で、MEM電子密度分布またはMEM原子核密度分布を再び得る。
5)実験的に得られた観測結晶構造因子と、MEMにより得られた電子密度分布または原子核密度分布から計算された結晶構造因子とにおいて、許容差の範囲内に収まるまで、前記計算フローを繰り返して行う。
【0143】
図3のフローチャートに、このプロセスが示されている。
位相の精密化のプロセスにおいては、位相を更新する前のMEM解析で得られた電子密度または原子核密度から逐次解法を行う場合と、位相の更新ごとに均一な電子密度分布または原子核密度から逐次解法を行う場合と、および、それらを組み合わせる場合とがある。
【0144】
位相の精密化の詳細を式を用いて説明する。
上記3)のプロセスで実行される位相更新は下記(20)式で表される。
【0145】
【数20】
Figure 0003891338
【0146】
上記2)〜4)のプロセスの収束条件は以下の様に行う。
一つの構造因子を考えた時、MEMで推定した結晶構造因子が、位相を考慮した位相空間での許容差の範囲で観測構造因子と一致したとき、すなわち複素(ガウス)平面上で、
【0147】
【外37】
Figure 0003891338
【0148】
を中心としたその値の許容差
【0149】
【外38】
Figure 0003891338
【0150】
を半径とする円の範囲中で位相更新された
【0151】
【外39】
Figure 0003891338
【0152】
の値が一致したとき、MEMの収束条件が成立する。
よって、完全に収束した場合は
【0153】
【外40】
Figure 0003891338
【0154】
の位相差は下記(21)式となるはずである。
【0155】
【数21】
Figure 0003891338
【0156】
ここで、
【0157】
【外41】
Figure 0003891338
【0158】
がガウス分布をしていると仮定すると、その平均値は下記(22)式となる。
【0159】
【数22】
Figure 0003891338
【0160】
これを位相の許容差σp(k)とみなし収束条件
【0161】
【外42】
Figure 0003891338
【0162】
の一般式を下記(23)式で与える。
【0163】
【数23】
Figure 0003891338
【0164】
ここで、Nは位相の精密化を行った構造因子の数である。
位相の精密化を含めてMEM構造解析を行う場合は、上記(19)式、(23)式が成立するまで逐次的に計算をすることでこれを解くことになる。
【0165】
プログラムの並列化
ここで、例えば分子量として約2〜3千以上、即ち有機物質類、蛋白質、複合蛋白質等の大きな分子、すなわち高分子材料のMEMによる精密構造解析において、プログラムの中で最も時間のかかるのは、前記(17)式の計算である。
【0166】
そこで本発明では、この部分を中心にプログラムを並列化し、また並列処理を行うことで解析を高速化するとともに、メモリーを最大限有効に活用することで巨大な系からなる高分子材料への適用を可能にしている。
【0167】
本発明において、計算を高速化するための方法として3通りの方法を、電子密度解析を例に以下に述べる。原子核密度解析も同様に行われる。
(1)並列処理高速フーリエ変換による方法
(17)式は基本的にフーリエ変換なので高速フーリエ変換(FFTと呼称する)を用いて演算回数を減らす方法である。さらにFFTをデータ分割して並列処理することで膨大な記憶容量を確保し、計算時間の短縮を実現する。以下これをFFT法と呼ぶことにする。
【0168】
この方法は蛋白質などに代表される巨大な系からなる高分子材料のMEM構造解析において、観測されている回折斑点数が多い時に高速化が期待できる。
図4にFFT法のフローチャートを示し、以下各ステップごとに簡単にプログラムを説明する。
(a)事前電子密度から実空間上の各メッシュポイントkでの新しい電子密度分布をMEM基本式に従って計算する。ここでは電子密度分布をメッシュポイントに関してブロック分割して並列処理を行う。
(b)FFTのアルゴリズム上、空間群による束縛条件はかけられないので、あらかじめ電子密度
【0169】
【外43】
Figure 0003891338
【0170】
を対称化しておく(対称操作により等価なメッシュポイントでの電子分密度分布を等しくする)。
(c)MEMによる結晶構造因子をMEMから求めた電子密度分布にFFTをかけることで求める。ここでは並列化したFFTを用いることで並列処理を行う。具体的にはa、b、およびc軸方向の3次元の行列で与えられる電子密度分布を初めはc軸方向にそれぞれのCPUでデータ分割してaおよびb軸方向に対するFFTを並列に処理し、次にaもしくはb軸方向にそれぞれのCPUでデータ分割しなおしてc軸方向のFFTを並列に処理する。
(d)MEM電子密度分布から求まる結晶構造因子と実験的に観測された結晶構造因子の許容差を標準偏差を尺度に評価をおこなう。ここでは、それぞれの結晶構造因子を回折斑点についてブロック分割し並列処理する。
【0171】
(2)並列処理直接フーリエ変換による方法1(DFT1法)
この方法では、まず結晶の対称性から実空間における単位胞全体の構造を記述するのに必要な最小単位を割り出し、その最小単位を少なくとも最隣接原子間結合距離以下に分割し、格子状に構造を細分化する。結晶の対称操作により重複する部分の計算を省くことで計算回数を減らすのである。
【0172】
(17)式のフーリエ変換の位相項
【0173】
【外44】
Figure 0003891338
【0174】
は逐次計算において変化しない。従って、この方法ではプログラムの最初で1度だけ、下記(24)式を計算して記憶しておき、直接フーリエ変換を行う。
【0175】
【数24】
Figure 0003891338
【0176】
(24)式で与えられるテーブル
【0177】
【外45】
Figure 0003891338
【0178】
はプログラム中で最も記憶容量をとる部分である.そこでこれを回折斑点jもしくは実空間のメッシュポイントkに関してデータ分割して各CPUで記憶し、(17)式のフーリエ変換はこのデータ分割の仕方に従って並列処理を行う。比較的小規模なフーリエ変換(数10×数10×数10程度の次元、即ち数万の次元)では、パイプライン処理や並列化を考慮すると、パイプライン処理を阻害するFFTよりもDFTのほうが高速に処理されることがある。またMEMの特性上、すべての逆格子についてフーリエ係数が必要なわけではなく、観測にかかっている回折に対してだけフーリエ係数が必要なので、回折斑点数が少ないときはDFTの方が高速に計算できるという特徴がある。
【0179】
図5にDFT1法のフローチャートを示し、以下にステップごとに簡単にプログラムを説明する。
(a)フーリエ変換のための係数
【0180】
【外46】
Figure 0003891338
【0181】
をあらかじめ演算し、
【0182】
【外47】
Figure 0003891338
【0183】
に記憶しておく。この演算は、回折斑点jもしくは実空間のメッシュポイントkに関して並列に行い各CPUで分割してデータを記憶する。
(b)事前電子密度から実空間上の各メッシュポイントkでの新しい電子密度分布をMEM基本式に従って計算する。ここでは電子密度分布をメッシュポイントに関してブロック分割して並列処理を行う。
(c)前記(a)で求めた
【0184】
【外48】
Figure 0003891338
【0185】
を用いてDFTによりMEM電子密度から結晶構造因子を求める。計算にあたっては、
【0186】
【外49】
Figure 0003891338
【0187】
のデータ分割の仕方に従って並列処理を行う。
(d)MEM電子密度分布から求まる結晶構造因子と実験的に観測された結晶構造因子の差を標準偏差を尺度に評価をおこなう。ここでは、それぞれの結晶構造因子を回折斑点についてブロック分割し並列処理する。
【0188】
(3)並列処理直接フーリエ変換による方法2(DFT2法)
この方法は,(2)の「並列処理直接フーリエ変換による方法1(DFT1法)」とほとんど同じであるが、フーリエ変換の位相項をテーブルとして記憶しない点で異なる。結果として処理速度はDFT1法に比べて5,6倍低速になるが、メモリーはFFT法と同等に節約できる。以下この方法をDFT2法と呼ぶ。
【0189】
DFT1法と同様に、この方法では結晶の対称性から実空間における単位胞全体の構造を記述するのに必要な最小単位を割り出し、その最小単位を少なくとも最隣接原子間結合距離以下に分割し、格子状に構造を細分化する。結晶の対称操作により重複する部分の計算を省くことで演算回数を減らす点はDFT1法と同じである。
【0190】
a、b、c軸方向の3次元の行列で与えられる電子密度分布において、(17)式のフーリエ変換のために、プログラムの最初であらかじめ、下記の(25)式を計算する。
【0191】
【数25】
Figure 0003891338
【0192】
すると
【0193】
【外50】
Figure 0003891338
【0194】
は、下記の(26)式という形で書けるので、
【0195】
【数26】
Figure 0003891338
【0196】
位相項は下記の(27)式で与えられる。
【0197】
【数27】
Figure 0003891338
【0198】
(17)式のフーリエ変換は、回折斑点jもしくは実空間のメッシュポイントkに関して並列処理を行う。
後述するように、回折斑点数の多い場合、1CPUではFFT法に比べても遅くなるが並列処理まで念頭に入れると計算時間でFFT法に勝る場合がでてくる。FFT法を並列化した場合、大きなデータ通信が発生し既存の通信技術では並列化による高速化率は比較的少数のCPU数で飽和してしまうが、DFT2法を並列化した場合、データ通信量が少なく、並列化による高速化率は数十CPUまでスケーラブルに伸びるためである。
【0199】
図6にDFT2法のフローチャートを示し、以下にステップごとに簡単にプログラムを説明する。
(a)フーリエ変換のため、
【0200】
【外51】
Figure 0003891338
【0201】
をあらかじめ計算し、記憶しておく。
(b)事前電子密度から実空間上の各メッシュポイントkでの新しい電子密度分布をMEM基本式に従って計算する。ここでは電子密度分布をメッシュポイントに関してブロック分割して並列処理を行う。
(c)上記(a)で求めた
【0202】
【外52】
Figure 0003891338
【0203】
を用いてDFTによりMEM電子密度から結晶構造因子を求める。計算にあたっては、回折斑点jもしくは実空間のメッシュポイントkに関して並列処理を行う。
(d)MEM電子密度分布から求まる結晶構造因子と実験的に観測された結晶構造因子の許容差を標準偏差を尺度に評価をおこなう。ここでは、それぞれの結晶構造因子を回折斑点についてブロック分割し並列処理する。
【0204】
3つの方法の比較1
ここで、FFT法、DFT1法、DFT2法でMEMを行うのに必要なホットスポットでの計算ステップ数と全メモリー容量を表1にまとめておく。
【0205】
【表1】
Figure 0003891338
【0206】
ここで、
【0207】
【外53】
Figure 0003891338
【0208】
は観測される回折斑点数、
【0209】
【外54】
Figure 0003891338
【0210】
は対称操作の数、na,nb,ncはそれぞれa軸,b軸,c軸方向の実空間におけるメッシュポイントの数である。
これから、計算時間は、FFT法では回折斑点数によらず一定であるのに対して2つのDFT法では回折斑点数に比例して計算時間は増加して、回折斑点数が
【0211】
【外55】
Figure 0003891338
【0212】
を超えるとFFT法はDFT2法よりも高速となり、また
【0213】
【外56】
Figure 0003891338
【0214】
を超えるあたりでDFT1法よりも高速となる。
例えば8個の対称操作がある系について256×256×256のメッシュで計算する場合を考えると、回折斑点数が100点程度でFFTはDFT2より高速となり、また580点程度でDFT1法よりも高速となる。メモリー容量からみるとDFT1の場合は、回折斑点数が増えてくると計算が難しくなる。例えば同上の条件で回折斑点数100で計算しようとすると7GBのメモリー容量が必要である。DFT2法は、メモリー容量はFFT法と同等である。
【0215】
3つの方法の比較2
回折斑点数の多い場合、1CPUではDFT2法はFFT法に比べて遅くなるが並列処理まで念頭に入れると計算時間でFFT法に勝る場合がでてくる。FFT法を並列化した場合、大きなデータ通信が発生し既存の通信技術では並列化による高速化率は比較的少数のCPU数で飽和してしまうが、DFT2法を並列化した場合,データ通信量が少なく、並列化による高速化率は数十CPUまでスケーラブルに伸びるためである。
【0216】
図7は8個の対称操作がある系について256×256×256のメッシュに分割し回折斑点数500点のときに、400Mbpsの転送速度を持つ並列処理系で計算した場合の1回のMEM逐次計算にかかる時間をCPU数の関数として予測しプロットしたものである。CPU数が60近傍でDFT2法がFFT法よりも高速になることが予測される。
【0217】
なお、現在進められている、蛋白質の中性子線回折データの測定が、将来本格化した場合はシステムとして本発明のMEM構造解析方法により蛋白質の詳細な高分解能な原子核密度分布も明らかにすることができる。
【0218】
よって本発明のMEM構造解析方法、プログラム、システムにより中性子回折データを解析すると、物質の原子核密度分布が得られる。また、X線に比べて、中性子は軽元素の散乱振幅(散乱長)が重原子とそれほど大きく変わらないので、軽元素の構造解明には非常に有利である。
【0219】
得られる核密度分布から原子の位置や、熱振動の様子を明らかにすることができる。ここで、中性子の散乱では散乱振幅が水素、Li、Ti、V、Mn、で負の値になるという特徴がある。これは、他の多くの元素から中性子が散乱させられるときに比較して、πだけ位相変化があるためである。そのため、そのままフーリエ変換をした結果得られる分布は、これらの原子については、負の密度分布を得ることになる。
【0220】
しかしMEMではエントロピー表式の際に、分布関数の対数を用いるため、負の分布は扱うことができない。そこで、中性子回折データを扱う場合は、原子核の確率密度分布である原子核密度分布を以下の様に取り扱う。
【0221】
原子核密度分布は、通常、原子の周りにのみ分布しており、原子間での重なり合いはない。よって、正の散乱振幅を持つ原子と、負の散乱振幅を持つ原子の分布については、原子核密度分布は独立事象として、エントロピーの表式を以下の(28)式のように変更する。
【0222】
【数28】
Figure 0003891338
【0223】
ここで、S+は正の散乱振幅を持つ原子、S-は負の散乱振幅を持つ原子の分布についての情報エントロピーである。
従って、構造因子の式は、それぞれの原子の散乱振幅b+、b-を用いて以下の(29)式のように表される。
【0224】
【数29】
Figure 0003891338
【0225】
であるから、MEMによる原子核密度分布の表式は以下の(30)式のようになる。
【0226】
【数30】
Figure 0003891338
【0227】
それぞれの、原子核密度分布を独立に求めて、後で合成する。その様子を模式図で示したのが図8である。
従って、当然、既に記述してきたX線回折データの場合と同様に、中性子回折データにも応用でき、巨大な系からなる高分子材料の結晶構造解析に対して、MEMを適用し、高分子材料の精密構造解析方法、プログラム、およびシステムにもとづき、詳細な核密度分布を得ることも可能である。
【0228】
この結果、分子の原子位置および原子の結合状態を含めた構造を解明し、求めた前記構造にもとづいて、分子の示す機能を解明することが可能となる。また、いかなる分子の結晶構造の立体構造のイメージングも可能となっている。
【0229】
X線回折データの場合と同様に、本発明の方法による解析では、無機材料だけではなく、高分子材料である蛋白質の構造も電子密度レベルで明らかになり蛋白質、生体機能の解明に大きく寄与させられる。
【0230】
ここで精密構造解析プログラムとは、上述の精密構造解析方法のアルゴリズムをプログラムとして計算(演算)、数値処理するための記億媒体等に記憶したソフトウエアである。
【0231】
精密構造解析システムとは、上述の精密構造解析の方法、およびプログラムを実行する少なくとも、コンピュータを主体とし、表示装置、記録媒体駆動装置を含み、更には、X線回折システムまたは中性子回折システムを含む構成システムである。
【0232】
【実施例】
本発明のX線回折の手段を用いる電子密度の分布、または中性子回折の手段を用いる原子核密度の分布の、前記いずれかの分布による物質の構造解析において、本発明のMEM電子構造解析方法、プログラム、システムを適用し、蛋白質のような巨大な系からなる分子の原子位置および電子の結合状態を含めた構造を解明し、分子のもつ機能を解明した具体的実施例を以下詳細に述べる。
【0233】
本発明のMEM電子構造解析方法では、測定データに対して、その許容差内で、出来るだけ一致する様な電子密度分布を構築し、高分子材料に含まれるヘリックスはもちろん6員環や5員環などが鮮明に描画され、信頼度因子が2〜5%程度の電子密度分布を得ることができる。結果的にはMEMは、図9に示すように、測定データのみならず未測定のデータについても推定を行う。
【0234】
MEMによって得られた電子密度分布から計算された構造因子
【0235】
【外57】
Figure 0003891338
【0236】
から位相因子
【0237】
【外58】
Figure 0003891338
【0238】
の寄与を除いた、原子散乱因子
【0239】
【外59】
Figure 0003891338
【0240】
をその反射の回折角についてプロットしたものを○で示してある。MEMの解析に用いた観測値は+で示してある。○と+は良く一致している。また観測置+がない反射についてもMEMにより○で示し値を推定している。
【0241】
図10(a)は上記の本発明により開発したFFT版のMEM電子構造解析方法、プログラムを用い、シンクロトロン放射光データの解析から得られた蛋白質の1つである硫酸還元菌チトクロムc−553の電子密度分布である。比較のために対応する原子構造モデルを図10(b)に示す。
【0242】
原子位置を特定できるほど詳細な電子密度分布が得られていることがわかる。もう少し具体的に、タンパク質の電子密度分布の計算結果例を、図11、図12に示す。図11の79残基のアミノ酸残基からなる1本のポリペプチド鎖と1個のc型ヘムからなるチトクロムcの一種である硫酸還元菌チトクロムc−553の解析例は電子伝達蛋白質として知られており、電子伝達の仕組みについてはヘムが重要な役割をしていると言われている。
【0243】
チトクロムc−553は分子量9000、
回折斑点数(回折データ本数)は13227点、
空間群はP43212(tetragonal)、
格子定数はa=b=42.7Å,c=103.4Å、
分解能は1.6Å、
である。従来の構造解析により得られている信頼度因子は19.4%である。
【0244】
従来のフーリエ法による構造解析により、精密化され得られた1個のヘム分子の構造モデルを図13に示した。
また同じデータを用い、本発明によるMEM電子構造解析方法、プログラム、システムによって電子密度計算を行った。
【0245】
この物質は溶媒分子を除いても単位胞に5000個程度の原子を含み、かつまた回折斑点数も17000点と多い。この系に対して十分な空間分解能を持って計算を行おうとすると512×256×256のメッシュが必要で、またこの系の対称操作の数は8である(対称操作で拡大した数のこと、8倍の意味)。
【0246】
計算に関する本発明のシステムとしての実施データは以下の通りである。
計算機CPU:DEC Alpha(21264) 667MHz、MEMORY:1.5GB、
MEM逐次計算の回数(iteration):5969回、
メッシュ:512×256×256、
FFT版で、並列なしの場合では、計算時間が約70時間となり、CPUの並列数4の場合は、計算時間が約23時間となる。CPUの並列数と計算時間とが反比例しないのはCPU間の通信速度の制約にある。今後、技術の進歩・発展で更に計算時間は当然短縮可能である。なお、DFTを用いて解析した場合はFFTに比べ30倍近くの計算時間が必要となり、メモリーは140GB必要になり事実上不可能である。従って、DFT版MEMでは計算速度とメモリー容量の両方の制約から解析が不可能であった。
【0247】
解析システムでは、構造因子は最初に、初期位相としてモデル位相のものを与えて、フラットな電子密度から逐次計算を行う。その後で、得られたMEM電子密度の位相をもとに位相の精密化を行う。それはMEM電子密度分布から計算された位相を観測構造因子に与えて、再びフラットな電子密度からMEM解析を行うことで、変更した位相と得られた位相が誤差の範囲内で一致するまで、この位相の精密化を行う。
【0248】
今回の実施例では、位相の精密化の前では精密化の度合いを示す信頼度因子は2.7%、位相の精密化後は2.2%と向上したが、図14に見られるように基本的なMEM電子密度の描像は位相精密化の前後で変わらなかった。
【0249】
また、主な反射について調べたところ、初期位相とMEM電子密度から求めた位相はある程度違っていたが、位相精密化後の変化量はそれに比べて非常に少ないことが図15より判る。
【0250】
最終的に得られたMEM電子密度とモデル図を並べて描いたものが図16である。原子位置、並びとその間の結合電子の描象が詳細にわかる。
ヘムの部分の電子密度分布を示したのが図17である。原子モデルを重ねて書いてある。原子とその間の結合電子の描像がはっきりと見え、5員環の描像もはっきりと確認できる。
【0251】
これまでは、ヘム中の鉄イオンはポルフィリンの4個の窒素原子からの配位結合によって固定されていると信じられていた。隣の構造モデル図18がそれを表したものである。
【0252】
しかし、本発明のMEM電子構造解析方法・プログラムによるMEM電子密度を詳細に見ると、配位結合しているFe−N1,Fe−N3と,していないFe−N2,Fe−N4とが存在し、配位結合に異方性があることが明らかになった。この様な原子の結合の様子は、従来法ではもちろん明らかになっておらず、本実施例で初めて観察された。
【0253】
結論として、本発明のMEM電子構造解析方法、プログラム、およびシステムにより、チトクロームc−553についてはヘム部の配位結合の異方性を見出し、これまでヘム部の露出度だけからの議論では説明できなかったこの物質の電子伝達能の特異性を解明するための新しい知見が得られた。
【0254】
この様に、原子の作るネットワークが、本発明のMEM電子構造解析方法・プログラムによるMEM電子密度からはっきりと捕らえることができる。このことは、蛋白質のモデル構築を本発明が容易にすることを示している。
【0255】
従来のフーリエ法による電子密度分布を示すマップを参考までに図19に示す。
本発明のMEMの電子密度から結合距離を求める事も可能である。
下の表2にその結果を示す。
【0256】
【表2】
Figure 0003891338
【0257】
フーリエ法で決定されたモデル構造のものより、結合距離は長くなり、結合距離の異方性もMEM電子密度では大きいことが明らかになった。
この様に本発明のMEM電子構造解析方法・プログラム、システムにより、構造パラメーターの精密化も可能である。よって、プロトンポンプ部位などで注目されている、蛋白質のわずかな立体構造の変化や、それに伴う結合の様子の変化も明らかにすることができるはずである。
【0258】
図20はヘム部を横から見た図である。ヘム部のFeイオンは2つの配位結合をヘム面に垂直な方向に形成することが可能であるといわれている。
図20から、ヒスチジン(HIS14)とメチオニン(MET57)の2つのアミノ酸が配位結合しているのが分かる。
【0259】
以上のことから、このヘムについては、ヘム面の位置で2つの配位座が空いた状態であることが明らかになった。
また、図20から、Feの周りの、半径1.2Åの球の領域の電子の数を数えたところ、FeがFe2+イオンの状態であることも明らかになった。
この様に、原子に局在した電子の数も数えることができ、そのイオン性についても原理的に決定可能である。
【0260】
蛋白質の機能やその立体構造の起源を知るためには、蛋白質を形成する原子の結合形態を明らかにできる詳細な電子密度レベルでの構造情報が必要となる。
従来の孤立原子にもとづく球状近似された構造モデルでは、蛋白質を構成する原子間に多く存在する共有結合の情報は含まれていないが、本発明のMEM電子構造解析方法、プログラムを用いて解析すると、チトクロームCの電子密度で示したようにヘム周辺の共有結合電子の特異性が非常に鮮明に明らかにされる。
【0261】
このように、本発明による新しい解析法は、蛋白質等の高分子材料の立体構造解明に非常に大きなメリットが期待できる。
また、蛋白質の機能を知るためには、蛋白質を形成する原子の結合形態を明らかにできる詳細な電子密度レベルでの構造情報が重要であり、本発明により期待できる。
【0262】
また、本発明のMEM電子構造解析方法、プログラムでは、蛋白質の分子そのものの構造についても、ある程度ラフな分子モデルからスタートして分子構造決定を行うことも可能である。
【0263】
このことは、すでに無機物の金属内包フラーレンの構造決定で実証されていることを、上述の方法、プログラムを使えば高分子材料でも可能でなる。
このように、本発明による新しい解析法は、蛋白質等の巨大な系からなる高分子材料の立体構造解明に非常に大きなメリットとなる。
【0264】
次に、原子レベルの立体構造は電子密度分布を基に構築するが、蛋白質結晶構造解析の分野では、従来フーリエ変換により電子密度分布が求められている。その折、分解能1.5Å程度のデータによるフーリエ合成ではフーリエ法の限界(フーリエ級数打ち切りの影響)が1.5Åで現れるので精度の高い議論をするには大きな問題であった。
【0265】
しかしMEMの電子密度構造解析方法、プログラム、システムを使用すると、この問題が解決される。
図21は、この効果が分解能1.5Åでどの程度なのかを示すためにヘキサメチレンテトラミンの分解能1.5Åにおけるフーリエ合成により得られた電子密度分布と同じ分解能を用いてMEMにより得られた電子密度分布を比較した。また、参考として分解能0.75Åにおける両者の電子密度分布および原子模型も示した。
【0266】
図21から以下の結論が得られる。
1)1.5Å分解能では、フーリエ法の電子密度分布はピーク密度も低く、原子以上の広がりを生じ、原子の分解能に達していない。また、物理的に意味のない電子密度が負となる領域も存在する。一方、本発明のMEMの電子密度構造解析方法、プログラムの電子密度分布は、原子の大きさから判断すると原子レベルの分解能に達している。原子位置でのピーク密度はむしろ低く、共有結合に電子が配分されていることが分かる。
2)一方、0.75Åの分解能では、フーリエ法およびMEMの電子密度分布とも原子レベルの分解能に達している。但し、フーリエ法の場合では級数打ち切り効果による正と負の電子密度が混在するリップルが多数見られるので、解析を進めて、溶媒の水分子を同定するには、大きな障害になっていた。
【0267】
また、従来の場合、溶媒である水分子は適当に仮定していたので、それらは、フーリエ法の級数打ち切り効果によるリップルに対応している可能性が充分あって、決められた水分子の位置は、あまり信用できない。
【0268】
それに対して、本発明のMEMの電子密度構造解析方法の電子密度分布では溶媒の存在が完全に特定できる特色がある。
また、ある程度ラフな分子モデルからスタートして分子構造決定を行うことも可能である。
【0269】
蛋白質の構造解析によって重要な問題の一つに、蛋白質分子を取り巻く溶媒分子の位置の決定がある。本発明のMEMの電子密度構造解析方法、プログラムはラフな構造モデルから詳細な構造を推定することができる。
【0270】
図22(a)は溶媒分子を一切含まないのモデルであり、図22(b)溶媒分子(水)を含むモデルである。
本発明のMEMの電子密度構造解析方法、プログラム、システムにより、結晶構造因子の位相を計算しその位相を用いてMEM電子密度を求めたのが図23である。
【0271】
溶媒分子を仮定して本発明のMEM電子密度構造解析方法、プログラム、システムによりMEM電子密度を求めた場合は、灰色で示した溶媒分子のところにはっきりと電子密度の局在が認められ、そこに溶媒分子が存在することがわかる。しかし、溶媒分子を仮定しなくても本発明のMEMの電子密度構造解析方法、プログラム、システムによるMEM電子密度では密度の大きさに多少の差はあるが、同じ位置に電子密度の局在が再現された。
【0272】
結論として、本発明による本発明のMEMの電子密度構造解析方法、プログラム、システムによるMEM電子密度解析により、溶媒分子を仮定することなく構造解析を進め、溶媒分子は、MEM電子密度解析による推定から決定することができることが分かった。
【0273】
本発明のMEMによる精密構造解析方法、プログラム、システムを適用し、高分子材料、または高分子材料に含まれる分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた具体的な平面構造、立体構造の描象は立体構造に描象表示することにより、分子の立体構造の機能を解明しうることは、既に、上述の図10(a)、図16、図17、図20、図21、図22、図23等に示されている。
【0274】
【発明の効果】
本発明のMEMによる電子密度構造解析方法、プログラム、システムにより、これまで、コンピュータの計算時間や、記憶容量の問題で実質的に不可能と言われていた分子量として約2〜3千以上、即ち有機物質類、蛋白質、複合蛋白質等、これまで不可能であった大きく、複雑な分子、すなわち巨大な系からなる高分子材料に対して、高分子材料の結晶構造の電子密度解析、または原子核密度の解析を、高速で実行し、高分解能で詳細な密度分布を可視化し、立体構造のイメージングを可能とした。分子の結晶構造における原子位置、電子結合状態の分解能に達しているので、立体構造が電子密度分布から直接構築することが出来た。
【0275】
本発明によって、ポストゲノムの医薬開発において、蛋白質等の高分子材料の構造解析を、直接その高分子材料の機能を議論できる電子密度レベル、原子核密度レベルでの構造解析、すなわち精密構造解析へステップアップさせる事ができ、その結果、蛋白質等の生体機能の解明に大きく寄与させられる革新的な発明である
また、本発明のMEMによる精密構造解析方法、プログラム、システムを適用し、高分子材料と少なくとも低分子材料との複合体の構造解析に対して、少なくとも低分子材料と高分子材料の配位結合レベルにおいて、その複合体の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた構造を明らかにした後、その複合体の機能を解明することは、上述の方法により容易である。
【0276】
よって、少なくとも低分子材料の構成、機能を選定し、特定し、仕様を決定することも当然容易となる。
かかる方法により、その少なくとも低分子材料の製造仕様を決定されている、その少なくとも低分子材料の製造提供された際の経緯を示すプロセスを容認し、確認することも容易である。この製造プロセスを少なくとも低分子材料の製造方法として採用させられる。
【0277】
更には、少なくとも低分子材料の構成、機能を特定し、仕様が決定され、製造された生成物を、高分子材料等に投与し、作用させる投与剤、薬剤等として活用できる。
【0278】
この生成物を生体に投与機能させられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の解析方法の基本手順を説明する図。
【図2】図1に示す基本手順を実行するフローチャートを示す図。
【図3】MEMによる観測構造因子の位相の精密化のフローチャートを示す図。
【図4】高速フーリエ変換(FFT)を用いて演算回数を減らすフローチャートを示す図。
【図5】並列処理直接フーリエ変換による方法1(DFT1法)のフローチャートを示す図。
【図6】並列処理直接フーリエ変換による方法2(DFT2法)のフローチャートを示す図。
【図7】8個の対称操作がある系について256×256×256のメッシュに分割し回折斑点数500点のときに、400Mbpsの転送速度を持つ並列処理系で計算した場合の1回のMEM逐次計算にかかる時間をCPU数の関数として予測しプロットした図。
【図8】中性子回折データを扱う場合に、正の散乱振幅を持つ原子と、負の散乱振幅を持つ原子の分布の原子核の確率密度分布を独立に求めて後で合成する様子を示す模式図。
【図9】本発明のMEM電子構造解析方法で、測定データのみならず未測定のデータについても推定を行った結果を示す図。
【図10】(a)は本発明により開発したFFT版のMEM電子構造解析方法、プログラムを用い、シンクロトロン放射光データの解析から得られた蛋白質の1つである硫酸還元菌チトクロムc−553の電子密度分布を示す図、(b)は比較のために対応する原子構造モデルを示す図。
【図11】本発明によるタンパク質の電子密度分布の計算結果例を、79個のアミノ酸残基からなる1本のポリペプチド鎖について示した図。
【図12】本発明によるタンパク質の電子密度分布の計算結果例を、186個の水分子について示した図。
【図13】従来のフーリエ法による構造解析により、精密化され得られた1個のヘム分子の構造モデルを示す図。
【図14】MEM電子密度の描像を位相精密化の前後で比較した図。
【図15】主な反射での位相精密化による位相変化を示す図。
【図16】本発明により最終的に得られたMEM電子密度とモデル図を並べて描いた図。
【図17】ヘムの部分の電子密度分布を示した図。
【図18】従来のヘムの構造モデルを示す図。
【図19】蛋白質のモデル構造についての従来のフーリエ法による電子密度分布を示すマップ。
【図20】本発明によりヘム部の電子密度分布を横から見た図。ヒスチジン(HIS14)とメチオニン(MET57)の2つのアミノ酸が配位結合していることがわかる。
【図21】蛋白質結晶構造解析をMEMの電子密度構造解析方法により得られた電子密度分布とフーリエ合成により得られた電子密度分布とを同じ分解能で比較した結果を示す図。
【図22】(a)は蛋白質分子を取り巻く溶媒分子を一切含まないのモデルを示す図、(b)は溶媒分子(水)を含むモデルを示す図。
【図23】上記図22に対応して、本発明のMEMの電子密度構造解析方法、プログラム、システムにより、結晶構造因子の位相を計算しその位相を用いてMEM電子密度を求めた結果を示す図。

Claims (2)

  1. 分子量が少なくとも2000以上からなる高分子材料の結晶構造解析に対して、マキシマム・エントロピー法を適用するに当たって、
    事前の電子密度分布または原子核密度分布としての均一な電子密度分布または原子核密度分布として、X線回折手段を用いる電子密度分布または中性子回折手段を用いる原子核密度分布を用い、マキシマム・エントロピー法にもとづく逐次解法を行い、精密な電子密度分布または原子核密度分布を求める際に、
    前記いずれかの密度分布の精密化は、事前のX線回折データ又は中性子回折データから実験的に得られた結晶構造因子と、マキシマム・エントロピー法により得られた前記いずれかの密度分布から計算された結晶構造因子との差が、所定の許容範囲に収まるまで前記いずれかの密度分布を逐次解法を繰り返して行い、且つ
    前記電子密度分布または原子核密度分布の精密化を実施する際には、連続的な電子密度分布または原子核密度分布を離散化した状態で情報処理し、前記情報処理は並列処理を行うことによる、前記高分子材料のもつ機能を解明する精密構造解析方法において、
    事前に設定した観測結晶構造因子の位相(結晶の対称性)とマキシム・エントピー法による電子密度分布または原子核密度分布から得られた結晶構造因子の位相が異なる場合があることから、前記電子密度分布または原子核密度分布の精度を高めるために、入力設定データの位相の精密化を行う際に、その際の精密化の方法が、
    (1)事前に設定した初期位相を用いたX線回折データから実験的に得られた観測結晶構造因子でマキシマム・エントロピー法による電子密度分布または原子核密度分布を求め、
    (2)求められたマキシマム・エントロピー法の電子密度分布または原子核密度分布からマキシマム・エントロピー法の結晶構造因子を計算し、新しい位相を得て、
    (3)観測構造因子の位相をマキシマム・エントロピー法の電子密度分布または原子核密度分布から新たに得られた位相に更新し、
    (4)位相更新された観測結晶構造因子で、マキシマム・エントロピー法の電子密度分布または原子核密度分布を再び得て、
    (5)実験的に得られた観測結晶構造因子と、マキシマム・エントロピー法により得られた電子密度分布または原子核密度分布から計算された結晶構造因子とにおいて、許容差の範囲内に収まるまで、前記計算フローを繰り返して行うことであり、
    前記位相の精密化のプロセスにおいては、位相を更新する前のマキシマム・エントロピー法の解析で得られた電子密度または原子核密度から逐次解法を行う場合と、位相の更新ごとに一様な電子密度または原子核密度から逐次解法を行う場合と、および、それら双方を組み合わせる場合とにより、高分子材料に含まれる分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた高分子材料の結晶構造を明らかにし、求めた構造にもとづいて、前記高分子材料のもつ機能を解明することを特徴とした、前記方法。
  2. 分子量が少なくとも2000以上からなる高分子材料の結晶構造解析に対して、マキシマム・エントロピー法を適用するに当たって、
    事前の電子密度分布または原子核密度分布としての均一な電子密度分布または原子核密度分布として、X線回折手段を用いる電子密度分布または中性子回折手段を用いる原子核密度分布を用い、マキシマム・エントロピー法にもとづく逐次解法を行い、精密な電子密度分布または原子核密度分布を求める際に、
    前記いずれかの密度分布の精密化は、事前のX線回折データ又は中性子回折データから実験的に得られた結晶構造因子と、マキシマム・エントロピー法により得られた前記いずれかの密度分布から計算された結晶構造因子との差が、所定の許容範囲に収まるまで前記いずれかの密度分布を逐次解法を繰り返して行い、且つ
    前記電子密度分布または原子核密度分布の精密化を実施する際には、連続的な電子密度分布または原子核密度分布を離散化した状態で情報処理し、前記情報処理は並列処理を行うことによる、前記高分子材料のもつ機能を解明する精密構造解析方法において、
    実空間における単位胞内で連続的な電子密度分布または原子核密度分布を、少なくとも、最隣接原子間結合距離以下のメッシュ状に細分化し、
    事前電子密度から実空間上の各メッシュポイントでの新しい電子密度分布または原子核密度分布をマキシマム・エントロピー法の計算に従って求める際に、
    電子密度分布または原子核密度分布はメッシュポイントに関してブロック分割して並列処理を行う方法とし、
    あらかじめ電子密度または原子核密度を対称化し、等価なメッシュポイントでの電子密度分布または原子核密度分布を等しくするとともに、
    マキシマム・エントロピー法の演算による結晶構造因子をマキシマム・エントロピー法から求めた電子密度分布または原子核密度分布に並列処理高速フーリエ変換をかけることで求めた後、
    前記マキシマム・エントロピー法の密度分布から求まる結晶構造因子と実験的に観測された結晶構造因子の差の評価を行う際に、
    それぞれの結晶構造因子を回折斑点についてブロック分割し並列処理することにより、
    高分子材料に含まれる分子の原子位置、電子密度での電子結合状態または原子核密度を含めた高分子材料の結晶構造を明らかにし、求めた構造にもとづいて、前記高分子材料のもつ機能を解明することを特徴とした、前記方法。
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