JP3886616B2 - セルロース系繊維の吸放湿性能の改善法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はセルロース系繊維の吸放湿性能の改善法に関し、詳しくはセルロース系繊維本来の風合いを損なわず、かつ繊維を脆化させることなく繊維のもつ吸放湿性能を向上させたセルロース系繊維の改質法、及び該改質法により吸放湿性能が改善されたセルロース系繊維に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
セルロース系繊維は、その自然な風合いや高い親水性のため古くから親しまれ、化学繊維興隆の昨今においても衣料素材の大部分を占めている。衣料素材あるいはタオル等の家庭用品には吸水性能は勿論のこと、その他に吸放湿性能等様々な機能が要求される。特に吸放湿性能、即ち、吸湿・放湿性能は衣服内の湿度調節の役割を果たすのみならず、身体の温熱調節においても極めて重要な機能であることが知られている。
【0003】
セルロース系繊維においては、従来よりカルボキシル基やその他の親水性置換基を導入したり、あるいはセルロース溶解剤やセルラーゼ処理することでセルロース系繊維の親水性をより高くする試みがなされている。しかしながら、置換基を導入することでセルロース系繊維本来の風合いが損なわれたり、またセルロース溶解剤やセルラーゼ処理によって繊維強度が低下する等の欠点が指摘されていた。例えば「繊維学会誌」48, P487-492(1992)にはセルロースを特定セルロース溶解剤で処理すると結晶化度が低下して吸水性が向上することが開示されているが、この方法では繊維本来の風合い、強度等が損なわれるという欠点がある。また、特公昭60−28848号公報にはセルロースを第3級アミン−N−オキサイドに溶解し、延伸の後セルロースを沈殿させて得られるセルロース成型品が開示されているが、この場合もセルロース系繊維を完全に溶解させているので繊維の強度が低下してしまうという欠点がある。一方、公知の如く、単純にセルラーゼを用いて加水分解処理を行えば、セルロース系繊維は細分化・糖化され、脆化を促してしまい、有効な改質は期待できない(Fermentation Technology Today, p.719-725, Society of Fermentation Technology, Osaka(1972)及びBiochem. J., 128, P1183-1192(1972)) 。
【0004】
セルラーゼという名称はセルロース及びその誘導体に作用し、これらをグルコース、セロビオース、あるいはセロオリゴ糖に加水分解する酵素の総称として用いられており、その作用機作の多様性から種々の名称がセルラーゼ以外にも用いられているが、セルロース加水分解機構については完全に解明されている訳ではない。セルラーゼはセルロース及びセルロース誘導体に対する作用機作の違いから、セルロース系繊維の吸水性向上等様々なセルロース系繊維の改質の他、汚れの除去、手粗さ軽減、色物衣料の色あせ防止効果等種々の効果がセルラーゼ種を変えることで期待できる。
【0005】
これまでセルラーゼは一般に大きく2つのグループ、即ちエンド型セルラーゼ(1,4-(1,3;1,4)-β-D-glucan 4-glucanohydrolase, EC 3.2.1.4) とエキソ型セルラーゼ(1,4-β-D-glucan cellobiohydrolase, EC 3.2.1.91)に分類されると考えられてきた(International Union of Biochemistry and Molecular Biology, Enzyme Nomenclature, P347 and 358, Academic Press, New York(1992))。エンド型セルラーゼとは、セルロース鎖をランダムに加水分解し種々のセロオリゴ糖を生成するセルラーゼの総称であり、エキソ型セルラーゼとは、セルロース末端よりセロビオシル単位で加水分解するセルラーゼの総称である。しかし、近年の研究からこうした画一的な考え方ではセルロース加水分解機構を十分説明することができず、同タイプのセルラーゼでも様々な作用機作が認められている。但し、一般にエキソ活性の強いセルラーゼは結晶性セルロースの分解能が強く、木綿単繊維表面にクラックを形成させるなど(J. Biochem., 114, P236-245(1993))、必然的に木綿繊維を劣化させてしまう恐れが強い。
【0006】
セルロース系繊維の吸放湿性能はセルロースの非晶領域に大きく影響されると考えられ、よってセルロースの結晶領域に大きな影響を与えず非晶領域のみに効率よく変化を与えることができれば、これらセルロース系繊維を脆化させることなく有効に改質することができるものと考えられる。よってセルロースの非晶領域に効率良くランダム機作で作用するエンド型セルラーゼは、こうした繊維処理用途に適したセルラーゼであると考えられる。エンド型セルラーゼのなかには木綿の非晶領域にランダムに作用することで、加水分解過程の初期に木綿の結合水量を著しく増大させるものが知られている(J.Biochem., 115, P837-842(1994)) 。また特公平4−43119号公報には結晶性セルロースに比べて非晶性セルロースに対して高い分解活性を有するセルラーゼ(非破壊性指数 500以上のセルラーゼ) が開示され、このセルラーゼを洗浄剤組成物として用いればセルロース系繊維の損傷を殆ど起こさず高い洗浄力を示すことが記載されている。この他、特公平3−504080号公報にはセルロース結合ドメインを有し、結晶性セルロースに対する吸着能に優れるセルラーゼが開示され、このセルラーゼは主に木綿含有布の手粗さ軽減に効果があることが記載されている。
【0007】
しかしながら、これまで見出されたいかなるセルラーゼを用いて一般的な方法でセルロース系繊維を処理しても、吸放湿性能の向上等、セルロースの非晶領域のみを効率良く改質させることは難しく、有効なセルロース系繊維の吸放湿性能の改善法の開発が望まれていた。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは対セルロース繊維加水分解系における各種セルラーゼの改質効果を鋭意検討した結果、従来知られていた各種セルラーゼを単独ないし複数セルラーゼの混合系としてセルロース系繊維の処理に用いる場合、エキソ型活性量が大きいとセルロース繊維の劣化を招いてしまうが、ある特定のエンド型セルラーゼを用いて特定条件(ゆるやかな条件)で繊維を処理することで著しくセルロース系繊維の吸放湿性能を向上させることができることを見出した。即ち、セルロース繊維中の結晶領域では強固なセルロース分子間水素結合力が形成されていて水分子とセルロース分子との間に水素結合の形成が起こらないのに対し、非晶領域ではセルロース分子間水素結合力が弱く侵入した水分子の一部は結合水とよばれる束縛水として存在していることが知られている(Textile Res. J. 51, P607-613(1981)) 。従って、セルロース中の結合水量を測定することで非晶領域の量を見積もることができ、更に、セルロースの吸放湿性能に大きく係わる非晶領域に対するランダム作用性が大きく、同領域のセルロース分子鎖に揺らぎを与え自由度を増大させることができるセルラーゼ程、目的とするセルロース改質効果が大きいことを見出した。即ち該セルラーゼを用いてセルロースを処理することによってセルロース分子鎖の自由度が大きくなるほど、水分子の吸着サイトが多くなり、低蒸気圧環境下から高蒸気圧環境下に移行したときの吸湿量が増大し、同時に高蒸気圧環境下から低蒸気圧環境下に移行した場合においては、吸着していた水分子の脱着量(放湿量)も増大することを見出した。即ち、繊維の重量減量が殆ど起こらない様な加水分解過程の初期段階においてセルロースの結合水量を大きく増加させる性質を有し、かつAvicelase 活性が非常に小さいエンド型セルラーゼでセルロース系繊維を処理することにより、繊維を劣化させることなく従来にない高い吸放湿性能を付与することができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
即ち、本発明は、下記で定義されるセルロース結合水量変動活性値が 105以上であり、かつAvicelase 活性がCMCase活性1Unit当たり10-2Unit以下であるエンド型セルラーゼにより、セルロース系繊維を処理することを特徴とするセルロース系繊維の吸放湿性能の改善法、及び該改善法により吸放湿性能が改善されたセルロース系繊維を提供するものである。
【0010】
<セルロース結合水量変動活性値>
基質としてコットンパウダーを用い、セルラーゼを作用させた時の結合水量の初期変動を、セルラーゼ未処理のコットンパウダーの結合水量を 100として相対的に表した値。
【0011】
なお、本発明において、吸放湿性能とは吸湿・放湿性能のことである。また、「セルロース系繊維」とは、パルプ、コットン、麻、レーヨン、あるいはそれらと他の非セルロース系繊維との混紡繊維等を意味する。
【0012】
また、本発明は換言すれば、上記で定義したエンド型セルラーゼでセルロース系繊維を処理することにより吸放湿性能(Hygroscopicity) を改善したセルロース系繊維の製造方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いられるセルラーゼは、可能な限り精製されたものが好ましく、即ちセルラーゼ中の上記の如く規定したエンド型セルラーゼの含有量はできるだけ高い方が良い。但し、本発明に用いられるセルラーゼは単独で高いセルロース結合水量変動活性値を有するものを用いることが好ましいが、単独のセルラーゼに限らず複数のセルラーゼの混合系であってもセルロース結合水量変動活性値が105 以上であることが大きなセルロース系繊維改質効果を発揮する上で重要であり、単独のセルラーゼであることに限定されない。また、セルロース結合水量変動活性値は更には 110以上であることが望ましい。
【0015】
尚、セルロース結合水量変動活性値は、上記で定義した値であるが、具体的には以下の様にして求める。
【0016】
・セルロース結合水量変動活性値の測定方法
▲1▼ コットンのセルラーゼ処理
終濃度 2.0%(w/v)のコットンパウダー(J. Biochem., 114, P230-235(1993)記載のもの)を懸濁させた50mM緩衝液(酸性域(pH 5.0 以下)の場合は酢酸ナトリウム緩衝液、中性域(pH 5.0 〜8.0)の場合はリン酸緩衝液、弱アルカリ域 (pH 8.0 以上)の場合はグリシン緩衝液)中に、終濃度50 CMCase-Unit/ml となる様にセルラーゼを加え、30℃、100rpmで1〜3時間反応させた(セルラーゼ未処理コットンパウダーとしては、緩衝液のみで30℃,100rpmで3時間処理したコットンを用いた)。反応終了後、反応残渣をガラスフィルターで濾別し、蒸留水→エタノール→アセトンの順に洗浄した。
【0017】
▲2▼ 示差走査熱量計(DSC)による結合水量の測定
既法(J. Biochem., 115, P837-842(1994))を参考に以下の方法でコットン中の結合水量をDSCにより測定した。
【0018】
即ち、上記▲1▼で得られたセルラーゼ処理又は未処理コットンパウダーを約1週間減圧下におき絶乾状態とした。DSC用密封セル(Ag70μl;セイコー電子)に上記コットンパウダーとコットンパウダーに対し20〜160 %(w/w) の超純水を加えて完全密封した後、高温(50℃)及び低温(凍結)環境下に数回さらすことで、コットンサンプル中に超純水を均一に浸透させた。この様に水分率を逐次変えた試料セルを一つのコットンサンプルにつき最低4点用意した。水の相転移を測定するための熱分析装置としてDSC(SSC-5200H;セイコー電子)を用い、試料セルを30℃から−50℃まで8℃/分の速度で冷却することで、−14℃前後に生じる自由水の凍結に伴う発熱ピークを測定した。各コットンサンプルの結合水量は、水分率を逐次変えたコットンサンプルのDSC曲線から自由水の凍結時の発熱量(J/g−コットン)を求め、Y軸に発熱量、X軸に水分率をプロットした時のX線切片から求め、各コットンサンプルの絶乾重量に対する重量%で表した。
【0019】
▲3▼ セルロース結合水量変動活性値の算出
セルラーゼ未処理のコットンサンプルの結合水量(%)を 100として、セルラーゼを作用させたコットンサンプルの結合水量の相対値を算出し、セルロース結合水量変動活性値とした。尚、各酵素のコットン結合水量変動活性値は、1〜3時間セルラーゼを作用させたコットンサンプルのうち、最も結合水量が増加した時点での値を用いた。
【0020】
ここで、結合水量の変動を測定する方法は、"J.Biochem, 115, p837-842(19 94) " に記載されている方法である。
【0021】
また、本発明で用いられるエンド型セルラーゼは、Avicelase 活性がCMCase活性1Unit当たり10-2Unit以下であることが必要である。Avicelase 活性がCMCase活性1Unit当たり10-2Unitを超えると本発明の効果を得ることができない。なお、セルラーゼのCMCase活性及びAvicelase 活性は以下の如く測定した。
【0022】
・CMCase活性の測定法
反応液中でのカルボキシメチルセルロース(CMC, 平均分子量55,000、重合度 250、置換度0.65〜0.75;日本製紙(株)製)の終濃度が1%(w/v) となる様な基質溶液 0.9ml(酸性域(pH 5.0以下)の場合は終濃度50mMの酢酸ナトリウム緩衝液、中性域(pH 5.0〜8.0)の場合は終濃度50mMのリン酸緩衝液、弱アルカリ域(pH 8.0以上)の場合は終濃度100mM のグリシン緩衝液)に、適当濃度の酵素溶液 0.1mlを加えて40℃で20分間反応させた。反応後1mlのDNS発色液(NaOH 1.6%(w/v) 、 3,5−ジニトロサリチル酸 0.5%(w/v) 、酒石酸カリウムナトリウム30%(w/v))を加えて5分間煮沸し発色させた。発色後直ちに氷冷し(15分程度)、4mlのイオン交換水を加えてよく混合した後、535 nmでの吸光度を測定した。生成した還元糖量を同時に作成したグルコース検量線から算出し、酵素活性値を求めた。尚、酵素活性は1分間に1mgのグルコース等量の還元糖を生成する酵素量を100 Unitと定義した。
【0023】
・Avicelase 活性の測定法
反応系でのアビセル(Avicel, Art.2331;E. Merck社製) の終濃度が1%(w/v)となる様な基質溶液3ml(酸性域(pH 5.0以下)の場合は終濃度50mMの酢酸ナトリウム緩衝液、中性域(pH 5.0〜8.0)の場合は終濃度50mMのリン酸緩衝液、弱アルカリ域(pH 8.0以上)の場合は終濃度100mM のグリシン緩衝液)に、適当濃度の酵素溶液1mlを加えて40℃、1時間、100rpmにて反応させた。反応後、反応液を5分間煮沸し、遠心分離(3,000rpm 、10分)によってアビセル残渣を沈殿させた。上澄液2mlを分取し、1mlのPHBAH発色液(4-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド 1.5%(w/v) 、NaOH2.0%(w/v))を加えて10分間煮沸して発色させた。発色後、直ちに氷冷し(15分程度)、4mlのイオン交換水を加えてよく混合した後、410 nmでの吸光度を測定した。生成した還元糖量を同時に作成したグルコース検量線から算出し、酵素活性値を求めた。尚、酵素活性は1分間に1mgのグルコース等量の還元糖を生成する酵素量を100 Unitと定義した。
【0024】
本発明に用いられるセルラーゼとしては、動植物、細菌、菌類に広く分布しているものが使用でき、特にエンド型セルラーゼ成分の含量の高いそれらの精製分画物を用いることが望ましい。
【0025】
本発明に用いられるセルラーゼの起源としては以下に示すものが例示されるが、本発明のセルラーゼ成分はセルロース結合水量変動活性値が 105以上で、かつAvicelase 活性がCMCase活性1Unit当たり10-2 Unit 以下であることのみが必須であり、何ら起源を限定するものではない。
【0026】
[1] 細菌に起源するものとして
[2] 菌類に起源するものとして
[3] 前記セルロース結合水量変動活性値を有するエンド型セルラーゼ成分をコードするDNA配列を組み込まれた組換え体DNAベクターで形質転換された宿主細胞を、該エンド型セルラーゼ成分が発現する条件下、培地中で培養し、次いで培地よりエンド型セルラーゼ成分を回収することによって生産可能であるセルラーゼ等。
【0027】
本発明に用いられる上記特定のエンド型セルラーゼとしては、具体的には、例えばStreptomyces sp. KSM-26 株(〒305 茨城県つくば市東1−1−3、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所、寄託番号 FERM P-13548)、Bacillus sp. KSM-366株(同上の工業技術院生命工学工業技術研究所、菌寄託番号 FERM P-14772)、Bacillus sp. UC-4 株(同上の工業技術院生命工学工業技術研究所、菌寄託番号 FERM P-14451)、Bacillus sp. UC-43株(同上の工業技術院生命工学工業技術研究所、菌寄託番号 FERM P-14452)、Irpex lacteus(J. Biochem., 87, P1625-1634(1980)記載)等の生産する酵素系から分離、精製することによって入手可能である。
【0028】
本発明において、上記のような特定のエンド型セルラーゼを用いてセルロース系繊維を処理する方法としては、特に限定されないが、エンド型セルラーゼが、CMCase活性として0.01〜10,000Unit/リットル、好ましくは 0.1〜1,000 Unit/リットル、更に好ましくは1〜500 Unit/リットル、セルロース系繊維が 0.001〜80重量%となる割合で調製した水溶液でセルロース系繊維を処理することが望ましい。また、本発明に用いられるエンド型セルラーゼのセルロース結合水量変動活性値は 105以上、更には 110以上であることが好ましい。
【0029】
本発明のセルロース系繊維の改質法は、通常の衣料、下着類の素材としては勿論、タオルやスポーツ用衣料、清掃用シート、除湿用シート等、高吸放湿性の要求されるあらゆる用途に用いられるセルロース系繊維の吸放湿性能の改善に利用できる。また、セルロース系繊維及びその構造体の形態も限定されず、単繊維、糸、織布、編布、紙、不織布、スポンジ、その他の可撓性基体等、あらゆる繊維製品に対しても本発明の改質法は適用できる。
【0030】
本発明によれば、セルロース系繊維本来の風合いを損なわず、且つ繊維を脆化させることなく吸放湿性を向上させることができる。しかも本発明の方法はセルロース系繊維の種類を問わず、木綿、麻等の天然繊維に限られず、レーヨン、テンセル等の再生セルロースや半再生セルロース、又はそれらの混紡品であってもその改質効果が得られる。
【0031】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尚、実施例及び比較例においては以下の酵素を使用した。
【0032】
▲1▼ Streptomyces sp. KSM-26 株(同上の工業技術院生命工学工業技術研究所、寄託番号 FERM P-13548)を、ニュートリエント・ブロスを基本培地として総計 72時間培養した後、菌体を遠心分離して得られた培養液を硫安分画(30〜80% (w/v) 飽和画分)し、生成する固型分を凍結乾燥して酵素粉末を得た。本酵素を以後セルラーゼC-1 と略記する。
【0033】
▲2▼ Bacillus sp. UC-4 株(同上の工業技術院生命工学工業技術研究所、寄託番号 FERM P-14451)を、ニュートリエント・ブロスを基本培地として総計72時間培養した後、菌体を遠心分離して得られた培養液を硫安分画(30〜80%(w/v)飽和画分)し、生成する固型分を凍結乾燥して酵素粉末を得た。本酵素を以後セルラーゼC-2 と略記する。
【0034】
▲3▼ Bacillus sp. UC-43株(同上の工業技術院生命工学工業技術研究所、寄託番号 FERM P-14452)を、ニュートリエント・ブロスを基本培地として総計72時間培養した後、菌体を遠心分離して得られた培養液を硫安分画(30〜80%(w/v)飽和画分) し、生成する固型分を凍結乾燥して酵素粉末を得た。本酵素を以後セルラーゼC-3 と略記する。
【0035】
▲4▼ Bacillus sp. KSM-366株(同上の工業技術院生命工学工業技術研究所、寄託番号 FERM P-14772)を、ニュートリエント・ブロスを基本培地として総計72時間培養した後、菌体を遠心分離して得られた培養液を硫安分画(30〜80%(w/v ) 飽和画分)し、生成する固型分を凍結乾燥して酵素粉末を得た。本酵素を以後セルラーゼC-4 と略記する。
【0036】
▲5▼ Irpex lacteusの生産するエンド型セルラーゼEn-1
(J. Biochem., 87, P1625-1634(1980) に記載の方法で得た精製品)
▲6▼ 特公平4−43119号公報及びAgric. Biol. Chem., 53, p1275-1281(198 9)に記載されているBacillus sp. KSM-635株の生産するセルラーゼK
▲7▼ Irpex lacteusの生産するエキソ型セルラーゼEx-1
(J. Biochem., 84, P1217-1226(1978)に記載の方法で得た精製品)
▲8▼ 市販セルラーゼであるセルザイム(ノボノルディスク社製)
表1にこれら使用セルラーゼの諸性質を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例1〜15及び比較例1〜12
セルロース系繊維構造体として、下記の3種類を用意し、油剤等の処理剤を除去するため、予め十分前処理し精練したものを用いた。
▲1▼ コットン平織り布(20番手金巾;洗濯科学協会から入手した平織り布、坪量 142.9g/m2 、密度0.32g/cm3)
▲2▼ コットンタオル(市販品、坪量250g/m2)
▲3▼ レーヨン平織り布(坪量 130g/m2、密度 0.25g/cm3)
酵素反応液を終濃度として、各セルラーゼ;10〜 100 CMCase Unit/ml-緩衝液、各セルロース系繊維構造体; 2.5%(w/v) となる様調製し、脱気操作によりセルロース系繊維構造体に酵素液をよく浸透させた後、40℃にて30分間〜2日間浸透・浸漬した。その後、十分に水洗し、風乾後、30℃、55%相対湿度(RH)の環境下に24時間放置した。同環境下で重量を測定した後、素早く30℃、85%RHの環境下に移動し、5分後の重量増加量を測定し、各セルロース系構造体の単位面積当たりの吸湿速度(g/m2・min)を算出した。
尚、吸湿速度は、上記反応条件のうち、最も大きく向上した値を実施例及び比較例の結果として示した。
【0039】
また、上記の酵素処理後の各セルロース系繊維の脆化程度を、吸湿速度が最も向上した時点において、酵素反応液中に遊離してくる生成還元糖量及びセルロース系繊維の重量減少率の測定、及び引張強度、風合いの変化を下記方法で測定することで評価した。
【0040】
▲1▼ 生成還元糖量の測定
酵素処理後の反応上澄液を遠心分離後、 1.0mlを還元糖の測定に供した。還元糖の測定は定法である 3,5−ジニトロサリチル酸法(DNS法)に従った。
【0041】
▲2▼ 重量減少率の測定
酵素処理後の各セルロース系繊維構造体を十分に水洗し、風乾後、25℃、65%RHの環境下に72時間放置した後、重量を測定し、以下の式から重量減少率を算出した。
【0042】
【数1】
【0043】
▲3▼ 引張強度の測定
酵素処理後の各セルロース系繊維構造体を十分に水洗し、風乾後、25℃、65%RHの環境下に72時間放置した後、引張強度試験に供した。引張強度試験法は、JIS L-1096A法(ラベルドストリップ法)に準じた。具体的には上記方法で処理した各試料から試験片の幅が 2.5cmになる様切り出し、織物引張試験機にて荷重し、切断時の強さ(kgf) を測定した。結果は縦方向及び横方向それぞれ3回の平均値で示した。
【0044】
▲4▼ 風合い比較
酵素処理後の各セルロース系繊維構造体を室内で風乾後、25℃、65%RHの環境下に72時間放置した。その後、セルラーゼ未処理繊維構造体を対照にして一対比較を行い、下記評価基準により評価した。
【0045】
表2〜4に各セルラーゼ処理による各セルロース系繊維構造体の吸湿速度及び各物性変化の測定結果を示す。
表2〜4の結果から、本発明の改質方法が、比較の改質方法に比べて繊維を脆化することなく、高い吸湿性能を付与する上で極めて有効であることがわかる。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
Claims (5)
- 下記で定義されるセルロース結合水量変動活性値が 110 〜 122であり、かつAvicelase 活性がCMCase活性1Unit当たり0.08×10-2〜0.19×10-2Unitであるエンド型セルラーゼにより、セルロース系繊維を処理することを特徴とするセルロース系繊維の吸放湿性能の改善法。
<セルロース結合水量変動活性値>
基質としてコットンパウダーを用い、セルラーゼを作用させた時の結合水量の初期変動を、セルラーゼ未処理のコットンパウダーの結合水量を 100として相対的に表した値。 - エンド型セルラーゼが、CMCase活性として0.01〜10,000Unit/リットル、セルロース系繊維が 0.001〜80重量%となる割合で調製した水溶液でセルロース系繊維を処理することを特徴とする請求項1記載の改善法。
- エンド型セルラーゼが、細菌又は菌類により生産されるものである請求項1又は2記載の改善法。
- エンド型セルラーゼが、Streptomyces sp. KSM-26 株(FERM P-13548)、Bacillus sp. KSM-366株(FERM P-14772)、Bacillus sp. UC-4 株(FERM P-14451)、Bacillus sp. UC-43株(FERM P-14452)、又はIrpex lacteus(J. Biochem., 87, P1625-1634(1980)記載)により生産されるものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の改善法。
- 請求項1〜4のいずれか一項に記載の改善法により吸放湿性能が改善されたセルロース系繊維。
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