JP3877028B2 - 強度、靭性及び溶接性に優れた厚鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強度、靭性及び溶接性に優れた厚鋼板の製造方法に関する。より詳しくは、引張強さ(TS)が570MPa以上、JIS4号シャルピー衝撃試験片を用いた衝撃試験における破面遷移温度(VTS)が−5℃未満で、気温0℃の環境でも溶接施工時の予熱を必要としない、板厚が75mmを超える厚鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
橋梁などの鉄鋼構造物に対して、TSが570MPa以上の鋼板が広く用いられるようになってきた。更に、近年では施工コストを削減する目的で橋梁の少主桁化設計が行われるようになり、これにともなってフランジ部の板厚を増大させる必要が生じている。このため、従来の板厚が75mmまでの鋼板に代わって、それをはるかに超える100mm前後の板厚を持つTSが570〜720MPaの高張力鋼板が求められるようになっている。
【0003】
しかし、一般に板厚が厚くなると、鋼板を強制冷却する際の冷却速度が低下するので充分な焼入れ組織が得られず、強度と靭性が低下してしまう。強度低下を補うために、Cを初めとする焼入れ性向上元素の含有量を増やせば、靭性の一層の低下を招くことが多い。
【0004】
更に、橋梁などの鉄鋼構造物の場合、その建設施工現場で溶接が行われる。このため、溶接前に予熱を行わなくても溶接割れが発生しない鋼材が求められ、従来は溶接施工時の予熱を行わなくとも、約25℃の温度で溶接割れの発生がない鋼材が用いられてきた。ところが、冬季の山間部における工事など、気温が約0℃の環境で溶接施工を行わなければならない場合がある。したがって、気温0℃の環境でも溶接施工時の予熱を必要としない鋼材に対するニーズが極めて大きくなっている。
【0005】
一方、溶接性を向上させるためには、炭素等量や、溶接割れ感受性を表す指数として知られている下記(1)式で表されるPcmに従って含有元素量を低く抑えることが必要になるが、炭素等量やPcm値を低くすると、一般に強度の低下が生じ、所望のTSを確保することが難しくなる。なお、(1)式における元素記号はその元素の重量%での含有量を示す。
【0006】
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・(1)
厚肉の高張力鋼版に関する技術が、例えば、特開平9−3596号公報や特開平9−13143号公報に開示されている。
【0007】
このうち特開平9−3596号公報には、板厚100mmまでの、耐溶接割れ性に優れた降伏強さ(YS)が440MPa以上、引張強さ(TS)が590MPa以上の低降伏比型高張力鋼板及びその製造方法が提案されている。しかし、この公報で開示された鋼板はVを必須の元素として含むものである。そのため、靭性が低い場合があり、必ずしも、JIS4号シャルピー衝撃試験片を用いた衝撃試験における破面遷移温度(VTS)が−5℃未満という優れた靭性が得られるものではなかった。更に、溶接性に関しては、単に上記したPcm値しか考慮されていないので、気温0℃の環境では溶接施工時の予熱が必要であった。
【0008】
特開平9−13143号公報には、溶接性と板厚中心部の機械的性質に優れた600MPa級の厚肉高張力鋼板及びその製造方法が開示されている。しかし、この公報で提案された鋼板は、Tiの含有量が0.005%未満であるため、TiNによるオーステナイト粒の細粒化効果が得られず、必ずしも、JIS4号シャルピー衝撃試験片を用いた衝撃試験における破面遷移温度(VTS)が−5℃未満という優れた靭性が得られるものではなかった。更に、溶接性に関しては、特開平9−3596号公報に記載の技術におけると同様、単にPcm値しか考慮されていないので、気温0℃の環境では溶接施工時の予熱が必要であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みなされたもので、その目的は、TSが570MPa以上、JIS4号シャルピー衝撃試験片を用いた衝撃試験におけるVTSが−5℃未満で、気温0℃の環境でも溶接施工時の予熱を必要としない、板厚が75mmを超える厚鋼板の製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)に示す化学組成を有する鋼片を素材とする、下記(2)の厚鋼板の製造方法にある。
【0011】
(1) 重量%で、C:0.05〜0.14%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.5〜1.6%、Cr:0〜0.875%、Mo:0.05〜0.4%で、且つ、0.4×Cr(%)+Mo(%):0.2〜0.4%)、Nb:0.02〜0.045%、Ti:0.005〜0.030%、Al:0.005〜0.10%、N:0.001〜0.007%を含み、残部はFe及び不可避不純物からなり、不純物中のPは0.02%以下、Sは0.005%以下、Cuは0.15%以下、Niは0.15%以下、Bは0.0005%以下、Vは0.004%以下で、更に、前記(1)式で表されるPcmの値が0.20%以下、下記(2)式で表されるPcm *の値が0.22%以下である化学組成を有する鋼片。
【0012】
Pcm *=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/3)+(Nb/2)+23B*・・・(2)
なお、(2)式におけるB*は、N>(Ti/3.4)のとき、B*=B−(10.8/14.1)×{N−(Ti/3.4)}(但し、B*<0となる場合にはB*=0とする)で、N≦(Ti/3.4)のとき、B*=Bである。ここで(2)式における元素記号もその元素の重量%での含有量を示す。
【0013】
(2)上記(1)に記載の化学組成を有する鋼片を1050〜1250℃の温度域の温度に加熱し、熱間圧延仕上げ温度が900〜800℃となるように熱間圧延し、続いて700℃以上から圧延後直接焼入れし、更に、350℃以上550℃未満の温度で焼戻しする溶接性に優れた引張強さが570MPa以上、JIS4号シャルピー衝撃試験片を用いた衝撃試験における破面遷移温度が−5℃未満の板厚が75 mm を超える厚鋼板の製造方法。
【0014】
なお、「圧延後直接焼入れ」とは、JIS G 0201の番号3101に記載されているとおり、「オーステナイト状態で圧延を行い、その後、圧延ライン上で直ちに行う焼入れ」を指す。
【0015】
本発明者らは、気温0℃の環境でも溶接施工時の予熱を必要としないという優れた溶接性を有し、板厚中央部のTSが570MPa以上であり、しかも橋梁などの構造物に用いるために必要な母材靭性(JIS4号シャルピー衝撃試験片を用いた衝撃試験におけるVTSが−5℃未満、以下、簡単のために、「JIS4号シャルピー衝撃試験片を用いた衝撃試験におけるVTS」を単に「VTS」という)を併せ持つ、板厚が75mmを超える厚鋼板と、この鋼板を直接焼入れで製造する方法について種々研究を行い、先ず、下記の知見を得た。
【0016】
(a)気温0℃の環境でも溶接施工時の予熱を必要としない鋼板とするためには、前記(1)式で表されるPcmの値を0.20%以下、且つ、前記(2)式で表されるPcm *の値を0.22%以下にすれば良い。
【0017】
そこで次に、上記のPcmとPcm * による制約内で、板厚75mmを超える鋼板について、板厚中央部のTSが570MPa以上で、しかも、VTSが−5℃未満になる条件を種々検討し、下記の知見を得た。
【0018】
(b)VTSが−5℃未満という優れた靭性を確保するためには、V及びBを含有させないことが重要で、不純物元素としてのVとBの含有量はそれぞれ0.004%以下、0.0005%以下に抑える必要がある。
【0019】
(c)Nbを含有させることにより、板厚中央部のTSが570MPa以上という強度目標と、VTSが−5℃未満という靭性目標を両立させることができる。
【0020】
(d)CrとMoは強度上昇に有効であるが、これらの元素を多量に含有させると靭性が低下する。
【0021】
そこで次に、重量%で、0.08%C、0.2%Si、1.5%Mn、0.008%P、0.002%S、0.03%Nb、0.02%Ti、0.04%Al、0.004%Nを基本の化学組成とし、CrとMoの含有量を種々変化させた鋼のスラブを1150℃に加熱して圧延し、820℃で100mmの板厚に仕上げ、770℃で水冷を開始する圧延後直接焼入れを行い、冷却途中350℃で水冷を停止し、次いで、400℃で焼戻して板厚中心部のTSとVTSを測定した。その結果を図1に示す。この図1から下記の知見が得られた。
【0022】
(e)重量%で、0.4×Cr(%)+Mo(%)の値が0.2〜0.4%であれば、板厚中央部のTSが570MPa以上という強度目標と、VTSが−5℃未満という靭性目標を両立させることができる。
【0023】
更に、製造条件に関して下記の知見を得た。
【0024】
(f)鋼板の加熱温度はNbを完全に固溶させる温度以上とすれば良い。
【0025】
(g)良好な靭性の確保のためには、圧延仕上げ温度、圧延後直接焼入れのための冷却開始温度を適正な範囲に設定すれば良い。
【0026】
(h)直接焼入れ後、550℃未満で焼戻しを行うと、板厚が75mmを超える100mm前後の厚鋼板でも良好な強度と靭性を付与させることができる。
【0027】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学成分の含有量の「%」は「重量%」を意味する。
【0029】
(A)素材鋼片の化学組成
C:
Cは、強度の確保に有効な元素である。しかし、その含有量が0.05%未満ではTSで570MPa以上の強度の確保が困難になるし、焼入れ性向上元素を多量に含有させることが必要となりコストの上昇を招く。一方、Cの含有量が0.14%を超えると溶接性と靭性が低下する。したがって、Cの含有量を0.05〜0.14%とした。なお、強度−靭性バランスを良好にするために、C含有量は0.07〜0.09%とすることが好ましい。
【0030】
Si:
Siは、強度を確保するのに有効な元素で、0.01%以上含有させる。しかし、0.5%を超えて含有させると靭性を劣化させる。したがって、Siの含有量を0.01〜0.5%とした。なお、強度−靭性バランスを良好にするために、Si含有量は0.1〜0.3%とすることが望ましい。
【0031】
Mn:
Mnは、強度の確保に有効な元素である。しかし、その含有量が0.5%未満ではTSで570MPa以上の強度の確保が困難になる。一方、Mnの含有量が1.6%を超えると溶接性と靭性が低下する。したがって、Mnの含有量を0.5〜1.6%とした。なお、強度−靭性バランスを良好にするために、Mn含有量は1.3〜1.6%とすることが望ましい。
【0032】
Cr:
Crは添加しなくても良い。添加すれば、強度を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Crは0.05%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.875%を超えると溶接性と靭性を損なう。したがって、Crの含有量を0〜0.875%とした。なお、強度−靭性バランスを良好にするために、Cr含有量は0.3〜0.6%とすることが好ましい。
【0033】
Mo:
Moは、強度の確保に有効な元素である。しかし、その含有量が0.05%未満ではTSで570MPa以上の強度の確保が困難になる。一方、Moの含有量が0.4%を超えると溶接性と靭性が低下する。したがって、Moの含有量を0.05〜0.4%とした。なお、強度−靭性バランスを良好にするために、Mo含有量は0.05〜0.15%とすることが好ましい。
【0034】
0.4×Cr(%)+Mo(%):
0.4×Cr(%)+Mo(%)の値が0.2%未満では、TSで570MPa以上の強度が得られない。一方、前記の値が0.4%を超えるとVTSが−5℃以上となって靭性が低下する。したがって、0.4×Cr(%)+Mo(%)の値を0.2〜0.4%とした。
【0035】
Nb:
Nbは強度と靭性の確保に有効な元素である。しかし、その含有量が0.02%未満では添加効果に乏しい。一方、その含有量が0.045%を超えると、圧延に際して鋼中にNbを固溶させるための加熱温度が上昇するので生産コストが増大してしまう。更に、溶接性が劣化する。したがって、Nbの含有量を0.02〜0.045%とした。なお、母材及び溶接部の強度−靭性バランスを良好にするために、Nb含有量は0.03〜0.045%とすることが好ましい。
【0036】
Ti:
Tiはオーステナイト粒を微細にして靭性を高める作用を有する。しかし、その含有量が0.005%未満では添加効果に乏しく、一方、0.030%を超えると却って靭性の低下を招く。したがって、Tiの含有量を0.005〜0.030%とした。なお、靭性を一層高めて、−5℃未満のVTSを安定して確保するために、Tiの含有量を0.010〜0.024%とすることが好ましい。
【0037】
Al:
Alは、脱酸に有効な元素である。しかし、その含有量が0.005%未満では添加効果に乏しく、一方、0.10%を超えると靭性が損なわれる。したがって、Al含有量を0.005〜0.10%とした。
【0038】
N:
Nは、Tiとともに窒化物を形成し、オーステナイト粒を微細にして靭性を高める作用を有する。しかし、その含有量が0.001%未満では添加効果に乏しく、一方、0.007%を超えると却って靭性の低下を招く。したがって、Nの含有量を0.001〜0.007%とした。
【0039】
本発明においては、不純物元素としてのP、S、Cu、Ni、B及びVの含有量は下記のとおりに制限する。
【0040】
P:
Pは靭性を低下させてしまう。特にその含有量が0.02%を超えると靭性の低下が著しい。したがって、Pの含有量を0.02%以下とした。
【0041】
S:
Sは靭性を低下させてしまう。特にその含有量が0.005%を超えると靭性の低下が著しい。したがって、Sの含有量を0.005%以下とした。
【0042】
Cu:
Cuは靭性と溶接性を低下させてしまう。特にその含有量が0.15%を超えると靭性と溶接性の低下が著しい。したがって、Cuの含有量を0.15%以下とした。なお、極めて良好な靭性を確保するためにCu含有量を0.05%以下とすることが好ましい。
【0043】
Ni:
Niはスケール疵を発生させ易くする。特にその含有量が0.15%を超えるとスケール疵の発生が著しい。したがって、Niの含有量を0.15%以下とした。なお、Niの含有によるスケール疵発生の弊害をほぼ完全に防止するためには、Ni含有量を0.05%以下とすることが好ましい。
【0044】
B:
Bは靭性を低下させてしまう。特にその含有量が0.0005%を超えると靭性の低下が著しい。したがって、Bの含有量を0.0005%以下とした。なお、極めて良好な靭性を確保するためにBの含有量を0.0002%以下とすることが好ましい。
【0045】
V:
Vは靭性を劣化させてしまう。更に、溶接性の低下をも招く。特にその含有量が0.004%を超えると靭性と溶接性の低下が著しい。したがって、Vの含有量を0.004%以下とした。
【0046】
Pcm 及びPcm *:
Pcm 及びPcm *は溶接割れ感受性を表す指標であり、前記(1)式で表されるPcmの値が0.20%以下で、且つ、前記(2)式で表されるPcm *の値を0.22%以下であれば気温0℃の環境でも溶接施工時の予熱を必要としない。したがって、Pcmの値が0.20%以下、且つ、Pcm *の値を0.22%以下とした。
【0047】
(B)厚鋼板の製造条件
(B−1)熱間圧延前の加熱温度
Nbを鋼中に固溶させて、強度と靭性の確保を図るため、加熱温度は1050℃以上にする必要がある。しかし、加熱温度が1250℃を超えると燃料コストが嵩む。更に、スケール発生も多くなって歩留りの低下が生じ、生産効率が低下する。したがって、上記(A)に記載した化学組成を有する鋼片の熱間圧延前の加熱温度を1050〜1250℃とした。なお、加熱温度の上限は1160℃とすることが好ましい。
【0048】
(B−2)熱間圧延仕上げ温度
−5℃未満のVTSを安定して確保するためには、熱間圧延仕上げ温度を900℃以下とする必要がある。しかし、熱間圧延仕上げ温度が800℃を下回るとTSで570MPa以上の強度の確保が困難になるし、組織の異方性が生じる。したがって、熱間圧延仕上げ温度を900〜800℃とした。この熱間圧延仕上げ温度は880〜830℃とすることが好ましい。なお、良好な強度−靭性バランスを付与するため、熱間圧延するに際しては、900℃以下での累積圧下率を30%以上とすることが好ましい。
【0049】
(B−3)圧延後直接焼入れ
本発明鋼においては、熱間圧延を終了した後、700℃以上から鋼板を強制冷却し、圧延後直接焼入れ処理を施す。直接焼入れする温度が700℃を下回るとTSで570MPa以上の強度を確保することが困難になる。したがって、700℃以上から圧延後直接焼入れすることとした。なお、圧延後直接焼入れは750℃以上から行うことが望ましい。上記の圧延後直接焼入れは、水などの冷却媒体を用いて鋼板を均一に冷却することによって行い、この際の冷却速度は、板厚中央部で1℃/秒以上となるようにすれば良い。好ましい冷却速度は2℃/秒以上である。ここで、上記の冷却速度は、直接焼入れの開始、つまり強制冷却の開始から450℃までの平均冷却速度のことを指す。
【0050】
(B−4)焼戻し
焼戻しは、強度−靭性バランスを高め、板厚方向の機械的性質を均一にするために行う。圧延後直接焼入れした後に行う焼戻しの温度が550℃以上であると、前記(A)に記載した化学組成を有する板厚が75mmを超える厚鋼板に所望の強度と靭性を、つまり、TSで570MPa以上の強度とVTSで−5℃未満の靭性を、両方併せて確保させることが困難となる。一方、焼戻し温度が350℃を下回るとVTSで−5℃未満の靭性が確保できない。したがって、圧延後直接焼入れ後に350℃以上550℃未満の温度で焼戻しすることとした。
【0051】
【実施例】
表1に示す化学組成を有する鋼を通常の方法によって180kg真空炉溶製した。表1における鋼A1〜A4は化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例、鋼B1〜B5は成分のいずれかが本発明で規定する含有量の範囲から外れた比較例である。
【0052】
【表1】
【0053】
次いで、これらの鋼を通常の熱間鍛造によって厚さ300mmの鋼片とした後、1150℃に加熱してから熱間圧延した。なお、熱間圧延は900℃以下での累積圧下率が40〜50%となるようにし、圧延仕上げ温度を820℃として、板厚85mm又は110mmに仕上げた。熱間圧延後、770℃から水で強制冷却して圧延後直接焼入れし、更に400〜600℃で焼戻しを行った。表2に、900℃以下での累積圧下率と焼戻し温度の詳細を示す。
【0054】
【表2】
【0055】
こうして得られた板厚85mmと110mmの鋼板の板厚中央部から、JIS4号引張試験片を圧延方向と垂直な方向に採取し、又、JIS4号シャルピー衝撃試験片を圧延方向と平行な方向に採取し、母材の機械的性質を調査した。
【0056】
更に、JIS Z 3158に準拠した斜めy型溶接割れ試験を実施して溶接割れ感受性を評価した。なお、溶接割れ試験はいずれも600MPa級鋼用低水素タイプの溶接材料(商品名SCH−60(住金溶接工業株式会社製))を用いて、温度5℃、湿度60%の雰囲気で、試験片初期温度0℃の条件で実施した。
【0057】
表2に、各種試験結果を併せて示す。
【0058】
表2における試験番号1〜4は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼を、本発明で規定する条件で製造した板厚110mmの鋼板である。又、試験番号5〜8は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼を、本発明で規定する条件で製造した板厚85mmの鋼板である。いずれもTSで570MPa以上の強度とVTSで−5℃未満の靭性が得られており、しかもy型割れ試験で割れが生じていない。
【0059】
試験番号9〜13は、成分のいずれかが本発明で規定する含有量の範囲から外れた比較例の鋼を、本発明で規定する条件で製造した板厚110mmの鋼板である。これらの鋼板はいずれもTSで570MPa以上の強度を有するが、VTSは−5℃よりも高く靭性が低い。更に、試験番号10〜12の場合にはy型割れ試験で割れも発生している。
【0060】
試験番号14は、Pcm及びMoとCuの含有量が本発明で規定する範囲から外れた比較例の鋼B2を、本発明で規定する条件で製造した板厚85mmの鋼板である。この鋼板はTSで570MPa以上の強度とVTSで−5℃未満の靭性を有しているものの、y型割れ試験で割れが生じている。
【0061】
試験番号15及び16は化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼を、本発明で規定する条件から外れた600℃で焼戻処理して製造した板厚110mmの鋼板である。いずれもTSで570MPa以上の強度が得られ、y型割れ試験で割れが生じていないが、VTSは−5℃より高く靭性が低い。
【0062】
【発明の効果】
本発明の方法で製造される厚鋼板は、板厚が75mmを超えていても570MPa以上のTSと−5℃未満のVTSを有し強度と靭性のバランスに優れ、しかも、気温0℃の環境でも溶接施工時の予熱を必要としない。このため、冬季の山間部など寒冷地における橋梁などの鉄鋼構造物に用いることができる。本発明の方法によれば、この厚鋼板を比較的容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】0.08%C−0.2%Si−1.5%Mn−0.008%P−0.002%S−0.03%Nb−0.02%Ti−0.04%Al−0.004%Nを基本の化学組成とし、CrとMoの含有量を種々変化させた鋼のスラブを1150℃に加熱して圧延し、820℃で100mmの板厚に仕上げ、770℃で水冷を開始する圧延後直接焼入れを行い、冷却途中350℃で水冷を停止し、次いで、400℃で焼戻した場合の、板厚中心部のTSとVTSとの関係を示す図である。
Claims (1)
- 重量%で、C:0.05〜0.14%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.5〜1.6%、Cr:0〜0.875%、Mo:0.05〜0.4%で、且つ、0.4×Cr(%)+Mo(%):0.2〜0.4%、Nb:0.02〜0.045%、Ti:0.005〜0.030%、Al:0.005〜0.10%、N:0.001〜0.007%を含み、残部はFe及び不可避不純物からなり、不純物中のPは0.02%以下、Sは0.005%以下、Cuは0.15%以下、Niは0.15%以下、Bは0.0005%以下、Vは0.004%以下で、更に、下記(1)式で表されるPcmの値が0.20%以下、下記(2)式で表されるPcm *の値が0.22%以下である鋼片を、1050〜1250℃の温度域の温度に加熱し、熱間圧延仕上げ温度が900〜800℃となるように熱間圧延し、続いて700℃以上から圧延後直接焼入れし、更に、350℃以上550℃未満の温度で焼戻しする溶接性に優れた引張強さが570MPa以上、JIS4号シャルピー衝撃試験片を用いた衝撃試験における破面遷移温度が−5℃未満の板厚が75 mm を超える厚鋼板の製造方法。
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)
+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・(1)
Pcm *=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)
+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/3)+(Nb/2)+23B*・・・(2)
なお、(2)式のB*は、N>(Ti/3.4)のとき、B*=B−(10.8/14.1)×{N−(Ti/3.4)}(但し、B*<0となる場合にはB*=0とする)で、
N≦(Ti/3.4)のとき、B*=Bである。
ここで各式における元素記号はその元素の重量%での含有量を示す。
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