JP3857570B2 - 塗膜劣化促進方法及び塗膜劣化促進装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、種々の基材の表面に形成された塗膜に、所定の波形条件のパルス高電圧を用いてコロナ放電処理を施し、塗膜の酸化分解やエッチングを急速に進行させるようにした塗膜劣化促進方法及び塗膜劣化促進装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、良好な美観(外観)や耐久性(耐候性)が求められる物品、例えば、車両、建材、家具、電気製品等には塗料が塗布されるが、かかる塗料ないしは塗膜は経時的に劣化する。このため、これらの物品(被塗装物)に塗装を施す場合、塗料は、その経時的な劣化特性を考慮して選定することが必要である。また、その前提として、各塗料の経時的な劣化特性を予め知ることが必要である。そこで、塗料の経時的な劣化特性を測定するために、塗膜劣化試験が行われる。
【0003】
かかる塗膜劣化試験は、通常、基材の表面に塗料を塗布して、基材表面に塗膜が形成されてなる塗膜試験試料を製作し、この塗膜試験試料を、該塗料が塗布される被塗装物の使用環境下(屋外)で曝露し、塗膜の性状の経時変化を測定することにより行われる。例えば、塗膜の外観の経時変化は、その表面光沢値や色相等を測定することにより行われる。しかしながら、このように塗膜試験試料を被塗装物の使用環境下で曝露して行う塗膜劣化試験(以下、「屋外曝露試験」という。)では、年単位の極めて長い期間を必要とするといった問題がある。
【0004】
そこで、塗膜試験試料の劣化を人為的に促進して、短期間でその性状の経時変化を測定し、その結果から該塗料の実際の経時的な劣化特性を予測ないしは類推するといった塗膜劣化試験(以下、「促進曝露試験」という。)が種々用いられている。
【0005】
例えば、JIS−K5600に規定された、塗膜試験試料にキセノンアーク灯の光を照射しながら一定間隔で水の霧を吹き付けて塗膜の劣化を促進するようにした促進曝露試験(以下、「キセノンアーク灯試験」という。)が用いられている。
また、JIS−A1415には、プラスチック建築材料に、紫外線カーボンアーク灯又はサンシャインカーボンアーク灯の光を照射しながら所定の噴霧サイクルで水を噴霧してその劣化を促進するようにした促進劣化試験が規定されているが、これを塗膜劣化試験に転用した促進曝露試験(以下、「サンシャインウェザーメータ試験」という。)も用いられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの促進曝露試験でも、数年間にわたる屋外曝露試験によって生じる外観劣化の再現には、通常、数百〜数千時間の試験期間を必要とするので、塗料の劣化特性の経時的な変化を迅速に得ることは困難であるといった問題がある。
【0007】
なお、本願出願人は、特開平9−178727号公報において、塗膜等の有機材料に、酸素プラズマ発生装置等により生成されたプラズマを減圧下で照射し、おおむね20分以内に塗膜等の有機材料を劣化させるようにした有機材料の試験装置ないしは試験方法を開示している。しかしながら、この試験装置ないしは試験方法では、交流高周波によって惹起される減圧プラズマ(グロー)を利用しているので、塗膜試験試料の基材が含気性物又は含水性物である場合、あるいは金属板である場合は、塗膜試験試料について種々の制約がある。
【0008】
すなわち、基材がセラミックボンドや木材などといった、水分や気泡を含む材料からなるときは、十分な減圧度が得られず、プラズマ処理は困難である。このため、プラズマ処理に先だって、基材を乾燥させて水分を除去することが必要であるが、この基材の乾燥に長時間を要する。また、予備減圧や完璧なマスキングが必要とされるので、試験の手順ないしは操作が煩雑である。
【0009】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであって、屋外曝露試験ないしは従来の促進曝露試験よりも短時間で、減圧プラズマを用いる促進曝露試験よりも簡便な操作で、種々の基材を用いた塗膜試験試料の塗膜の劣化を安定した条件下で促進することができる手段を提供することを解決すべき課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するためになされた本発明にかかる塗膜劣化促進方法は、(i)放電極と対向電極との間に、基材の表面に塗膜が形成されてなる塗膜試験試料を配置し、(ii)放電極と対向電極との間に高電圧(以下、「電極間高電圧」という。)を印加して両電極間にコロナ放電を惹起し(プラズマを生成し)、該コロナ放電(プラズマ活性雰囲気)により塗膜の性状(特性)の劣化を促進するようになっていて、( iii )さらに放電極と塗膜試験試料との距離を一定値に保ち、かつ電極間距離を一定値に保つようにして、放電極を揺動させ、又は塗膜試験試料及び対向電極を一体的に揺動させることを特徴とするものである。上記塗膜の性状としては、例えば表面光沢値、色相ないしは色差(ΔE)等があげられる。ここで、基材としては、樹脂、セラミック、木材、ガラス、紙等の誘電体、あるいは鉄、ステンレススチール(SUS)、銅、アルミニウム等の金属素材(導電体)からなる板状、シート状又はフィルム状の材料を用いることができる。
【0011】
この塗膜劣化促進方法によれば、常温常圧下で、両電極間にコロナ放電が惹起され、安定したプラズマ活性雰囲気が生成される。そして、このプラズマ活性雰囲気(コロナ放電処理)により、塗膜試験試料の塗膜の性状、例えば表面光沢値、色相等が短時間で劣化(変化)させられる。例えば、塗膜試験試料(塗膜)を、数年間にわたって屋外に曝露したり、数百時間にわたって従来の促進曝露試験装置(例えば、キセノンアーク灯試験機、サンシャインウェザーメータ試験機等)にセットして得られるのと同等以上の表面光沢や色相ないしは色差(ΔE)などの外観の変化を、数十分間の処理で再現することができる。
【0012】
したがって、塗料開発や性能確認に要する時間を大幅に短縮することができる。また、このコロナ放電は常温常圧下で惹起されるので、塗膜試験試料の基材に水分や気泡が含まれていても、該曝露試験に何ら支障は生じない。つまり、屋外曝露試験あるいは従来の促進曝露試験よりも短時間で、減圧プラズマを用いる促進曝露試験よりも簡便な操作で、種々の基材を用いた塗膜試験試料の塗膜の劣化を安定した条件下で促進することができる。また、塗膜の表面全体を、均一にかつ同一速度で劣化させることができる。
【0013】
上記塗膜劣化促進方法においては、電極間高電圧として、(印加電圧波高値)/(電極間距離)で定義される平均電界強度が4〜50KV/cmであり、パルス頻度が10pps以上であるパルス状の波形を有するパルス高電圧を用いるのが好ましい。このようにすれば、安定したコロナ放電を惹起することができ、塗膜全面を均一に劣化させることができる。
【0014】
上記塗膜劣化促進方法においては、電極間高電圧として、基材が導電体である場合はパルス幅が10〜200nsecであるパルス状の波形を有するパルス高電圧を用い、基材が誘電体である場合はパルス幅が10〜1000nsecのパルス状の波形を有するパルス高電圧を用いるのが好ましい。このようにすれば、パルス幅が狭いので、パルス電圧の立ち上がり又は立ち下がりが急峻となり、放電領域内の空気に含まれる各分子の分子運動が抑制され、塗膜試験試料の発熱が抑制される。このため、発熱の影響を受けずに塗膜を劣化させることができ、該曝露試験の精度ないしは信頼度を高めることができる。
【0016】
本発明にかかる塗膜劣化促進装置は、(i)所定の電極間距離を隔てて対向して配置される放電極及び対向電極と、(ii)放電極と対向電極との間に高電圧を印加する高電圧生成回路とが設けられ、(iii)基材の表面に塗膜が形成されてなる塗膜試験試料が放電極と対向電極との間に配置されたときに、放電極と対向電極との間に印加された高電圧(電極間高電圧)により両電極間にコロナ放電を惹起してプラズマを生成し、該プラズマにより塗膜の性状の劣化を促進するようになっていて、( iv )さらに放電極と塗膜試験試料との距離が一定値に保たれ、かつ電極間距離が一定値に保たれるようにして、放電極を揺動させ、又は塗膜試験試料及び対向電極を一体的に揺動させる揺動手段が設けられていることを特徴とするものである。上記塗膜の性状としては、例えば表面光沢値、色相ないしは色差等があげられる。ここで、基材としては、樹脂、セラミック、木材、ガラス、紙等の誘電体、あるいは鉄、ステンレススチール(SUS)、銅、アルミニウム等の金属素材(導電体)からなる板状、シート状又はフィルム状の材料を用いることができる。
【0017】
この塗膜劣化促進装置によれば、上記塗膜劣化促進方法の場合と同様に、屋外曝露試験あるいは従来の促進曝露試験よりも短時間で、減圧プラズマを用いる促進曝露試験よりも簡便な操作で、種々の基材を用いた塗膜試験試料の塗膜の劣化を安定した条件下で促進することができる。さらに、上記塗膜劣化促進方法の場合と同様に、塗膜の表面全体を、均一にかつ同一速度で劣化させることができる。
【0018】
上記塗膜劣化促進装置においては、高電圧生成回路が、電極間高電圧として、平均電界強度が4〜50KV/cmであり、パルス頻度が10pps以上であるパルス状の波形を有するパルス高電圧を両電極間に印加するようになっているのが好ましい。このようにすれば、上記塗膜劣化促進方法の場合と同様に、安定したコロナ放電を惹起することができ、塗膜全面を均一に劣化させることができる。
【0019】
上記塗膜劣化促進装置においては、高電圧生成回路が、電極間高電圧として、基材が導電体である場合はパルス幅が10〜200nsecであるパルス状の波形を有するパルス高電圧を両電極間に印加し、基材が誘電体である場合はパルス幅が10〜1000nsec(1μsec)のパルス状の波形を有するパルス電圧を両電極間に印加するようになっているのが好ましい。このようにすれば、上記塗膜劣化促進方法の場合と同様に、発熱の影響を受けずに塗膜を劣化させることができ、該曝露試験の精度ないしは信頼度を高めることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
図1に示すように、本発明にかかる塗膜劣化促進装置TRは、所定の電極間距離を隔てて対向して配置された放電極1と対向電極2との間に、基材の表面に塗膜が形成されてなる塗膜試験試料3(塗膜サンプル)を配置し、放電極1と対向電極2との間にパルス高電圧を印加し、両電極間にコロナ放電を惹起してプラズマ活性雰囲気を生成し、このプラズマ活性雰囲気により塗膜の性状、例えば表面光沢値、色相ないしは色差(ΔE)等の劣化を促進するようになっている。なお、塗膜試験試料3は、対向電極2の上に載せられた火花放電防止用の誘電板4(絶縁板)の上に配置されている。
【0022】
ここで、放電極1の形態ないしは形状は、塗膜試験試料3の表面(上面)との距離Lを一定に保つことができるものであればとくには限定されない。例えば、1個又は複数個の、スリット状、針状、棒状等の、種々の形状の電極を用いることができる。また、対向電極2と誘電板4と塗膜試験試料3とは、揺動手段(図示せず)によって、放電極1と塗膜試験試料3との距離Lを一定値に保ち、かつ電極間距離を一定値に保つようにして、両矢印Jで示す方向に一体的に揺動させられる。なお、対向電極2と誘電板4と塗膜試験試料3とを静止させ、放電極1を両矢印Jで示す方向に揺動させてよい。
【0023】
塗膜試験試料3の基材としては、例えば、樹脂、セラミック、木材、ガラス、紙等の誘電体、あるいは鉄、ステンレススチール(SUS)、銅、アルミニウム等の金属素材(導電体)からなる板状、シート状又はフィルム状の材料を用いることができる。
【0024】
両電極間に印加されるパルス高電圧は、負極性高電圧電源回路S1と波形成形回路S2とで構成されるパルス高電圧生成回路Sによって生成される。負極性高電圧電源回路S1には低圧の直流電源5が設けられ、この直流電源5のマイナス側出力端子とプラス側出力端子とには、それぞれ、第1導線6と第2導線7とが接続されている。第1導線6の先端と第2導線7の先端とは(直流電源5に接続されていない方の端部)、それぞれ、波形成形回路S2を経由して、放電極1と対向電極2とに接続されている。なお、第2導線7は、P1点とP8点とでそれぞれ接地(アース)されている。
【0025】
負極性高電圧電源回路S1内において、第1導線6には、第1インダクタンスコイル8と保護抵抗9とが直列に介設されている。また、第1インダクタンスコイル8と保護抵抗9との間に位置する第1導線6のP2点と、第2導線のP3点とを接続する第3導線10には、コンデンサ11が介設されている。かくして、負極性高電圧電源回路S1は、低圧の直流電源5から所定の高電圧を生成する。
【0026】
波形成形回路S2内において、第1導線6のP4点と第2導線7のP5点とを接続する第4導線12には、P4点側からP5点側に向かって順に、第2インダクタンスコイル13と、第1球電極14aと第2球電極14bとからなるスパークギャップスイッチ14とが直列に介設されている。また、第1導線6には充放電コンデンサ15が介設されている。さらに、第1導線6のP6点と第2導線7のP7点とを接続する第5導線16には、負荷抵抗17が介設されている。なお、パルス高電圧の波形は、波形観察用オシロスコープ21で観察することができる。
【0027】
かくして、波形成形回路S2は、およそ次のようなプロセスで、所定のパルス幅と波高値とパルス頻度とを伴ったパルス高電圧を生成する。
すなわち、直流電源5ないしは負極性高電圧電源回路S1がオンされると、充放電コンデンサ15には電圧が印加されて電荷が蓄積される。この充放電コンデンサ15への電荷の蓄積と並行して、スパークギャップスイッチ14に印加される電圧が急激に上昇する。
【0028】
そして、充放電コンデンサ15に電荷が飽和状態まで蓄積されるのとほぼ同時に、第1球電極14aと第2球電極14bとの間には火花放電が発生する。この火花放電によりスパークギャップスイッチ14は短絡状態ないしは導通状態となる。これに伴って、充放電コンデンサ15に蓄積されていた電荷がほぼ瞬時に放出され、この電荷は、充放電コンデンサ15の静電容量と両電極1、2間の静電容量の比率とで定まる電圧値(波高値)と、第2インダクタンスコイル13のインダクタンス値と負荷抵抗17の抵抗値とによって定まる波形とを伴ったパルス高電圧を生成する。なお、このパルス高電圧は第1導線6と第2導線7との間に生成される。
【0029】
このようなプロセスが繰り返され、第1導線6と第2導線7との間、ひいては放電極1と対向電極2との間には所定の波形特性を伴ったパルス高電圧が印加される。このとき、放電極1と対向電極2との間において、大気中にはコロナ放電が惹起され、このコロナ放電によって安定したプラズマ活性雰囲気20が生成される。
【0030】
このプラズマ活性雰囲気20により、塗膜試験試料3の塗膜の性状、例えば表面光沢値、色相ないしは色差ΔE等が短時間で劣化(変化)させられる。これにより、例えば塗膜試験試料3を、数年間にわたって屋外に曝露したり、数百時間にわたって従来のキセノンアーク灯試験機、サンシャインウェザーメータ試験機等にセットして得られるのと同等以上の表面光沢や色相ないしは色差(ΔE)などの外観の変化を、数十分間の処理で再現することができる。したがって、塗料開発や性能確認に要する時間を大幅に短縮することができる。また、このコロナ放電は常温常圧下で惹起されるので、塗膜試験試料3の基材に水分や気泡が含まれていても、該曝露試験に何ら支障は生じない。
【0031】
ここで、パルス高電圧の波高値(両電極1、2間の印加電圧波高値)は、平均電界強度が4〜50KV/cmとなるように設定される。なお、平均電界強度とは、(印加電圧波高値)/(電極間距離)で定義される値である。パルス高電圧のパルス頻度は、10pps以上に設定される。パルス電圧をこのように設定すれことにより、安定したコロナ放電を惹起することができ、塗膜全面を均一に劣化させることができる。
【0032】
また、パルス電圧のパルス幅は、塗膜試験試料3の基材が導電体である場合は10〜200nsecに設定され、基材が誘電体である場合は10〜1000nsecに設定される。このようにすれば、パルス幅が狭いので、パルス電圧の立ち上がり又は立ち下がりが急峻となり、放電領域内の空気に含まれる各分子の分子運動が抑制され、塗膜試験試料の発熱が抑制される。このため、発熱の影響を受けずに塗膜を劣化させることができ、該曝露試験の精度ないしは信頼度を高めることができる。
【0033】
以下、塗膜劣化促進装置TRを用いた具体的な塗膜劣化促進方法を説明する。
まず、好ましいパルス高電圧の印加方法を説明する。前記のとおり、塗膜劣化促進装置TRでは、塗膜試験試料3を放電極1と対向電極2との間に配置し、両電極間にパルス高電圧を印加してコロナ放電を発生させることにより、塗膜表面にコロナ放電処理(プラズマ活性雰囲気処理)を施すようにしている。ここで、放電極1に印加されるパルス高電圧の波形は、以下のように設定ないしは制御される。
【0034】
パルス高電圧のパルス幅は、塗膜試験試料3の基材の種類に応じて好ましく設定される。
塗膜試験試料3の基材が金属等の導電体(例えば、鉄、ステンレススチール(SUS)、銅、アルミニウム等)である場合には、パルス幅は10〜200nsecに設定される。パルス幅が10nsec未満のパルス高電圧を生成するのは技術的に困難だからである。また、パルス幅が200nsecを超えると、高電界強度のときに火花放電が起こりやすくなり、塗膜全面を均一に劣化させるのが困難だからである。
【0035】
他方、塗膜試験試料3の基材が誘電体(例えば、樹脂ないしプラスチック、セラミック、木材、ガラス、紙等)である場合、あるいは塗膜試験試料3が基材を備えていない樹脂塗膜単品である場合は、パルス幅は、10nsec以上、好ましくは10〜1000nsec(1μsec)に設定される。パルス幅が1000nsec(1μsec)を超えると、連続放電時に塗膜試験試料3の表面に熱がかかりやすく、高温による変性、変形が起きる可能性があるからである。なお、パルス幅を10nsec以上とする理由は、基材が導電体である場合と同一である。
【0036】
パルス高電圧の平均電界強度(印加電圧波高値/電極間距離)は、4KV/cm以上、好ましくは4〜50KV/cmに設定される。平均電界強度が4KV/cm未満の場合は、有効なコロナ放電が発生しにくいからである。他方、平均電界強度が50KV/cmを超える場合は、有害な火花放電(スパーク)や発熱が発生しやすくなり、また電源容量の増加により装置のコストアップを招くからである。
【0037】
パルス高電圧のパルス頻度は、10pps以上、好ましくは100pps以上に設定される。パルス頻度が10pps未満の場合は、有効なコロナ放電が発生しにくいからである。なお、パルス幅が100pps以上の場合は、とくに安定した放電が発生する。
【0038】
次に、好ましい電極1、2及び塗膜試験試料3の形態ないしは設置方法を説明する。
外観の劣化を評価するための塗膜試験試料3は、塗膜のみをシート状あるいはフィルム状に採取(サンプリング)した状態でも、また種々の基材上に塗布した状態でもよい。
【0039】
本発明にかかる塗膜劣化促進装置TRでは、電極間距離が大きい(電極間隙間が広い)場合でも、常温常圧の大気中にプラズマ活性雰囲気を生成・維持することができる。このため、塗膜あるいは基材が気泡や水分を含んでいても、減圧プラズマを用いる劣化促進方法(特開平9−178727号公報)の場合のように減圧不足により放電が不安定ないしは不均一となるおそれはない。また、基材の厚さが数cmであっても、放電領域を確保することができる。かつ、塗膜試験試料3を数十分間連続して放電雰囲気中に曝露した場合でも、自然曝露(屋外曝露)では起こり得ないような塗膜の熱変性が起こることもない。後で詳しく説明するとおり、パルス高電圧のパルス幅が小さいので、各パルスでの電圧の立ち上がりが急峻となり、塗膜試験試料3の温度上昇を惹起する大気中の分子運動を抑制することができるからである。
【0040】
放電極1は、ナイフエッジ状、針状、棒状、メッシュ状等、種々の形状に形成することができるが、塗膜試験試料3全体を均一に劣化処理するには、次のような工夫が必要である。すなわち、コロナ放電処理中は、塗膜試験試料3の大きさに応じて、その全面にコロナ放電ないしはプラズマが一様に照射されるよう、塗膜試験試料3を載せている対向電極2を両矢印Jで示すように揺動させる。なお、放電極1側を揺動させるようにしてもよい。塗膜試験試料3は、放電極1と塗膜表面との距離Lを均一にして、その外観の劣化を均一に進行させることができるよう、平板状であることが望ましい。
【0041】
塗膜試験試料3の基材の材質には、とくには制約はない。ただし、基材が金属板等の導電性素材で形成されている場合は、コロナ放電中に火花放電が発生するのを防止するため、対向電極2上に厚さ1mm以上の誘電体を設置するのが望ましい。そこで、この実施の形態では、対向電極2の上に誘電板4(絶縁板)が配置されている。なお、一般に、パルス幅が小さい(狭い)ほど火花放電は起きにくくなるので、波形条件によっては、誘電板4はなくてもよい。
【0042】
塗膜の劣化を促進すべき塗膜試験試料3は、対向電極2上に、誘電板4を介して(あるいは直接)配置される。そして、塗膜試験試料3と対向し、塗膜表面との距離Lが一定となるように放電極1が配置される。かくして、放電極1と対向電極2との間に、前記の条件を満たすパルス波形を有するパルス高電圧が印加され、塗膜試験試料3を挟んで放電極1と対向電極2との間にコロナ放電が惹起され、塗膜試験試料3にコロナ放電処理が施される(プラズマが照射される)。このコロナ放電処理(プラズマ活性雰囲気)により、塗膜試験試料3(塗膜)の表面は、大気中の酸素等から生成される活性種による酸化・エッチング作用を受け、時間の経過とともに、塗膜表面の光沢や色相ないし色差に変化があらわれる。
【0043】
塗膜の劣化の度合いは、パルス波形の調整や処理時間により制御することができる。そこで、すでに屋外曝露試験について数年分の劣化データ(曝露データ)が採取されている塗料ないしは塗膜(以下、「ベース塗料」ないしは「ベース塗膜」という。)を用い、所定期間だけ屋外曝露された後の表面光沢値や色差(ΔE)が数十分で再現されるように、放電条件が設定される。このベース塗料の組成や塗装条件を変えて新たな塗料ないしは塗膜(以下、「新規塗料」ないしは「新規塗膜」という。)を調製したときに、新規塗膜に対してベース塗膜のときと同じ条件で放電処理を施せば、新規塗膜を所定期間(数年間)だけ屋外曝露したときの外観が、ベース塗膜と比べて良好か否かを、数十分オーダーの試験で予測することができる。
【0044】
一般に、塗膜等の有機物の屋外曝露による外観劣化の原因は、主として、太陽光中の紫外線等による光(酸化)劣化、雨水による汚損、昼夜あるいは季節の温度差、高温又は低温による熱劣化であるといわれている。本発明にかかる塗膜劣化促進装置による劣化促進は、上記原因のうち、雨水や熱に起因する劣化によるものではない。この点において、本発明にかかる劣化促進は、自然の劣化要因の忠実な再現を目指したJIS−K5400等に規定されている既存の劣化促進手法とは大きく異なる。
【0045】
従来の劣化促進手段でも、数年にわたる実曝劣化を、数百〜数千時間の比較的短い時間で再現することはできる。しかしながら、現実の塗料開発では、数年の外観性能を保証する新たな製品を、数十日間で開発しなければならない場合もある。したがって、試作品や新製品の曝露に対する外観劣化特性を一刻も早く知りたいという要望が塗料の開発側及びユーザ側の双方にある。
【0046】
本発明では、劣化要因のうち酸化劣化のみを対象とし(特化し)、その劣化作用を強化している。これにより、既存の劣化促進手段では劣化が明確にあらわれるまでに数百時間を要することが多かった表面光沢や色差などの外観変化の発現までの時間を、数十分にまで短縮することができる。水や熱の影響をあえて無視した手法であるがゆえ、本発明にかかる促進曝露試験で合格したからとて、必ずしも数年にわたる屋外曝露試験に合格するという保証はない。しかしながら、本発明にかかる促進曝露試験に合格しないものは、屋外曝露試験に合格する可能性は少ないものと判断することができる。
【0047】
すなわち、本発明にかかる塗膜劣化促進装置ないしは塗膜劣化促進方法は、ある塗膜に対して簡便かつ短時間の外観劣化促進試験を実施し、その結果が実曝数年後の保証値を満たすものであれば、実際に労力と時間をかけて屋外曝露試験あるいはその他の促進曝露試験を行う価値ないしは必要があるものと判定するといったスクリーニング手段を提供するものであるといえる。
【0048】
常温常圧の大気中に配置された両電極間に、特定の波形をもったパルス高電圧を印加すると、両電極間中に、強力な酸化作用を有するプラズマ活性雰囲気を生成・維持することができる(コロナ放電によるプラズマ処理)。このプラズマ活性雰囲気中に塗膜等を配置すれば、塗膜表面の樹脂層が酸化分解によりエッチングされ、これが処理時間の経過とともに塗膜の表面光沢や色相ないしは色差などの外観に影響を与える。この外観変化は、波形の調整や塗膜種にもよるが、通常は数分〜数十分の放電で発現する。したがって、本発明にかかる塗膜劣化促進装置ないしは塗膜劣化促進方法は、特定の劣化原因(酸化劣化)に絞った外観劣化促進手段であるといえる。
【0049】
かくして、本発明にかかる塗膜劣化促進装置ないしは塗膜劣化促進方法によれば、塗膜表面にパルス高電圧で生成されたプラズマ活性雰囲気(コロナ放電によるプラズマ)を照射することにより、塗膜表面(樹脂表面)に著しい酸化分解・エッチング作用を施すことができる。その結果、非常に短時間で表面光沢や色差などの外観特性の劣化を促進することができる。これは、塗料等、屋外の長時間曝露後に一定の外観特性を有することを求められる商品の開発、性能試験課程において、長期間にわたる屋外曝露試験(実曝試験)や従来の種々の促進曝露試験に比べて、はるかに短い時間で外観に関する劣化度の傾向を把握することができ、該開発品の諸性能をスクリーニングするための有効な手段となる。これに要する時間が従来の試験方法より短くなるのはもちろん、そのランニングコストも従来の試験方法よりも低くすることができる。
【0050】
前記のとおり、本発明にかかる塗膜劣化促進装置ないしは塗膜劣化促進方法では、パルス高電圧のパルス幅は、基材が導電体である場合は10〜200nsec、基材が誘電体である場合は10〜1000nsecと、非常に狭い(小さい)値に設定される。このように、パルス幅を狭くすることにより、次のような効果を奏する。
なお、図2(a)に、かかるパルス高電圧の波形の一例を示す。また、図2(b)に、パルス高電圧中の1つのパルスを時間軸方向に拡大した波形を示す。
【0051】
第1に、放電領域内の塗膜試験試料3が、コロナ放電による発熱の影響を受けるのを抑制することができる。
パルス幅が広い場合は、電圧(波形)が所定の波高値に達するまでの立ち上がり及び立ち下がり(電圧の上昇速度及び下降速度)が緩慢になる。この間に、電極間空間内の気体に分子運動が起こり、その結果電極間空間内に熱が発生しやすくなる。したがって、同一の波高値を得るとしても、電圧の立ち上がりを急峻にして、すなわちパルス幅を狭くして、この熱の発生の原因となる分子運動を抑制しつつプラズマを発生させる方が、コロナ放電処理(プラズマ処理)される塗膜試験試料3での発熱も抑制される。
【0052】
第2に、火花放電が起きにくくなる(とくに、基材が導電体の場合)。
放電極1と対向電極2との間に高電圧を印加すると、放電極1のまわりの空気が電離を起こしつつ対向電極2(アース側)に向かってゆくといった現象、すなわち電子なだれが起こる。この空気の電離した状態がプラズマ状態であるが、この電子なだれがある時間(極めて短時間)で対向電極2(アース側)に達してそのままの状態が続くと、火花放電(スパーク)となる。ここで、パルス幅が広い場合は、電圧(波形)の立ち下りが緩慢になり、この間電流が流れ続けて電子なだれを引き起こしやすくなる(とくに、対向電極2の上に電子なだれを防止する誘電体がない場合)。それゆえ、パルス幅を狭くすれば、電流が流れ続けなくなり、火花が起きにくくなり、放電が安定する。
【0053】
ところで、コロナ放電処理ないしはプラズマ処理は、樹脂ないしはプラスチック等からなる成形品に対して塗装、接着等を施す際における、濡れ性やコーティング剤の付着性などを高めるための表面改質処理としても用いられている(例えば、特開平5−339397号公報、特開平6−336529号公報参照)。しかしながら、このような表面改質処理におけるコロナ放電処理ないしはプラズマ処理と、本発明にかかる塗膜劣化促進装置ないしは塗膜劣化促進方法を用いた塗膜劣化促進処理におけるコロナ放電処理ないしはプラズマ処理とは、その態様がかなり相違する。したがって、表面改質処理におけるコロナ放電処理手法を、そのまま塗膜劣化促進処理に用いたのでは、塗膜試験試料3の基材の発熱や処理の不均一化が生じ、所期の劣化データが得られない可能性が高い。例えば、数十分間にわたるコロナ放電処理で塗膜試験試料3が高温になると、塗膜内に熱による化学反応が起こり、自然曝露では起きない変性ないしは変形が生じる可能性がある。
【0054】
以下、この相違点を具体的に説明する。
本発明にかかる塗膜劣化促進処理におけるコロナ放電処理と表面改質処理におけるコロナ放電処理とは、装置面で根本的な違いがあるというわけではない。しかし、本発明にかかる塗膜劣化促進処理におけるコロナ放電処理は、塗膜を劣化させることを目的とするので、表面改質処理の場合とは、コロナ放電条件ないしはプラズマ照射条件が大きく異なる。すなわち、塗膜の劣化は、塗膜表面を過度に改質することであると考えられるので、本発明にかかる塗膜劣化促進処理では、塗膜に与えるエネルギの量を多くするため、処理時間をとくに長くしている。また、表面改質処理では、何ら言及されていないパルス幅を規定し、プラズマの熱への変換を最小限に抑制するととももに、火花放電の発生を防止するようにしている。
【0055】
本発明にかかる塗膜劣化促進処理では、数十分間にわたる連続的なコロナ放電処理でも塗膜表面に過剰な熱負荷がかからないようにする必要があるので、パルス幅に関しては、表面改質処理の場合とは異なり、大きな制約を受ける。すなわち、前記のとおり、パルス幅は、基材が導電体である場合は10〜200nsec、基材が誘電体である場合は10〜1000nsecと、非常に狭い(小さい)範囲に限定される。他方、表面改質処理の場合は、このような制約はない。
【0056】
本発明にかかる塗膜劣化促進処理では、コロナ放電処理の処理時間は、同様のパルス高電圧を利用する表面改質処理におけるコロナ放電処理と比較して、大幅に長くする必要がある。他方、表面改質処理におけるコロナ放電処理では、濡れ性や付着性をできるだけ早く向上させるために、なるべく大きなエネルギでもって短時間(例えば、数秒〜数分)で放電処理を終了するようにしているので、被処理物がプラズマ活性雰囲気下に滞留する時間は非常に短い。このため、表面改質処理では、プラズマ活性雰囲気下に被処理物を滞留させたときに起こりやすい、発熱による被処理物の変性ないしは変形や、放電の一極集中による処理の不均一化を考慮する必要性は非常に小さい。例えば、特開平5−339397号公報あるいは特開平6−336529号公報に開示されたコロナ放電処理では、数秒〜数分の短時間の連続処理で成形品の水漏れ性や付着性を向上させるようにしているので、放電条件や被処理物の制約条件についてはとくには言及していない。
【0057】
これに対して、本発明にかかる塗膜劣化促進処理では、塗膜試験試料3がかなり長時間にわたってプラズマ活性雰囲気下に滞留させられるので、発熱による被処理物の変性ないしは変形や、放電の一極集中による処理の不均一化を避けるための工夫を必要とする。すなわち、本発明にかかる塗膜劣化促進処理では、塗膜に外観劣化を生じさせるため、表面改質効果の原因である酸化工程をさらに樹脂エッチングにまで進展させなければならないので、塗膜に対する放電照射時間を長くする必要がある。このため、本発明にかかる塗膜劣化促進処理では、表面改質処理の場合には無視しうるリスクに対応するために、放電条件等を規定することが必要となる。
【0058】
なお、前記のとおり、特開平9−178727号公報には、塗膜等の有機材料に、プラズマを減圧下で照射し、塗膜等の有機材料を劣化させるようにした有機材料の試験装置ないしは試験方法(以下、「減圧プラズマ劣化促進処理」という。)が開示されている。しかしながら、この減圧プラズマ劣化処理は、以下の点において、本発明にかかる塗膜劣化促進処理とは相違する。
【0059】
本発明にかかる塗膜劣化促進処理と減圧プラズマ劣化促進処理とは、用いるコロナ放電ないしはプラズマの種類が全く異なる。すなわち、本発明にかかる塗膜劣化促進処理では常温常圧下でのプラズマが用いられるが、減圧プラズマ劣化促進処理では減圧プラズマが用いられる。ここで、減圧プラズマ劣化促進処理には、2つの問題点がある。1つは火花放電が起こることであり、もう1つは減圧に伴う操作の煩雑化等の問題である。なお、減圧に伴う問題は、「発明が解決しようとする課題」の欄に記載したとおりである。
【0060】
一般に、減圧プラズマ処理では、被処理物に導電性部分が存在すると、その部分に火花放電が生じ、所期の処理を行うことができない。他方、耐候性試験等に用いられる塗膜試験試料は、一般に、鋼鈑からなる基材上に塗膜が形成されたものであり、塗膜形成後の鋼鈑の側面及び裏面は、導電体(鋼鈑)が露出したままである。この露出部分を電気的に完全にマスクすることは不可能ではないが、非常に手間のかかる作業となるため効率的ではない。
【0061】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
図3(a)、(b)に、2液イソシアネート硬化型ウレタン塗料の塗膜を伴った塗膜試験試料に対して、平均電界強度を種々変えて本発明にかかる塗膜劣化促進処理を実施し、60°光沢と色差ΔEとを測定して得た結果(外観劣化挙動)を示す。
【0062】
また、図4(a)、(b)に、この塗膜試験試料に対して屋外曝露試験を実施し(沖縄にて実曝)、60°光沢と色差ΔEとを測定して得た結果(外観劣化挙動)を示す。
なお、60°光沢は、JIS−Z8741に規定されている「60度鏡面光沢度測定方法」を用いて測定した。また、色差ΔEは、JIS−Z8730に規定されている「色差表示方法」を用いて測定した。
【0063】
塗膜劣化促進装置の各回路定数は、次のような特性をもつパルス高電圧が得られるように調整した。
パルス幅:70nsec
平均電界強度:10KV/cm、9KV/cm、7KV/cm
パルス頻度:約500pps
【0064】
放電極には、幅40cmのナイフエッジ状の銅製スリットを配置したものを用いた。対向電極には、ステンレス板上に厚さ5mmの塩化ビニル板を置いたものを用いた。対向電極は、塗膜試験試料(7cm角の平板状のもの)の幅に合わせて、一定速度で揺動できるようにした。
【0065】
塗膜試験試料には、プライマー処理が施された厚さ3mmのPP板(基材)上に、2液イソシアネート硬化型ウレタン塗料(ソリッド白)が塗布されたものを用いた。
そして、放電極の下方において対向電極(塩化ビニル板)の上に塗膜試験試料を配置し、塗膜試験試料を載せた対向電極を0.5m/分の速度で揺動させた。揺動幅は、塗膜試験試料板が、その全幅にわたって放電極の下で揺動するように設定した。コロナ放電処理は、60分間連続して実施した。コロナ放電処理の途中で適宜サンプリングし、塗膜表面の60°光沢と色差(ΔE)とを測定した。
【0066】
図3(a)、(b)及び図4(a)、(b)によれば、本発明にかかる塗膜劣化促進処理では、平均電界強度を10KV/cmに設定した場合、60°光沢については、約20分間で、24か月(2年間)にわたる屋外曝露試験の劣化と同等の劣化が生じていることがわかる。また、平均電界強度を9KV/cmに設定した場合、60°光沢については、約60分間で、24か月(2年間)にわたる屋外曝露試験の劣化と同等の劣化が生じていることがわかる。
【0067】
(実施例2)
図5(a)、(b)に、一液メラミン硬化型メタリックベース/クリヤー塗料の塗膜を伴った塗膜試験試料に対して、平均電界強度を種々変えて本発明にかかる塗膜劣化促進処理を実施し、60°光沢と色差ΔEとを測定して得た結果(外観劣化挙動)を示す。
また、図6(a)、(b)に、この塗膜試験試料に対してサンシャインウェザーメータ試験(WOM促進試験)を実施し、60°光沢と色差ΔEとを測定して得た結果(外観劣化挙動)を示す。
【0068】
この実施例2における処理態様ないしは処理条件は、塗膜試験試料として、プライマー処理されたPP板(基材)上に、一液メラミン硬化型メタリックベース/クリヤー塗膜(Meシルバー)が塗布されたものを用いた点を除けば、実施例1の場合と同一である。
【0069】
図5(a)、(b)及び図6(a)、(b)によれば、本発明にかかる塗膜劣化促進処理では、平均電界強度を10KV/cmに設定した場合、60°光沢については、約10分間で、2400時間にわたるサンシャインウェザーメータ試験の劣化と同等の劣化が生じていることがわかる。また、平均電界強度を9KV/cmに設定した場合、60°光沢については、約20分間で、2400時間にわたるサンシャインウェザーメータ試験の劣化と同等の劣化が生じていることがわかる。
【0070】
(実施例3)
図7(a)、(b)に、アクリルエマルジョン塗料の塗膜を伴った塗膜試験試料に対して、平均電界強度9KV/cmに設定して本発明にかかる塗膜劣化促進処理を実施し、60°光沢と色差ΔEとを測定して得た結果(外観劣化挙動)を示す。
また、図8(a)、(b)に、この塗膜試験試料に対して屋外曝露試験を実施し(沖縄にて実曝)、60°光沢と色差ΔEとを測定して得た結果(外観劣化挙動)を示す。
【0071】
この実施例3における処理態様ないしは処理条件は、塗膜試験試料として、厚さ1cmの建材用スレート基材上にアクリルエマルジョン塗料(グレー)が塗布されたものを用い、平均電界強度を9KV/cmに設定した点を除けば、実施例1の場合と同一である。
【0072】
図7(a)、(b)及び図8(a)、(b)によれば、本発明にかかる塗膜劣化促進処理(平均電界強度は9KV/cm)では、60°光沢については、約50分間で、5年間にわたる屋外曝露試験の劣化と同等の劣化が生じていることがわかる。また、色差ΔEについても、約50分間で、5年間にわたる屋外曝露試験の劣化と同等の劣化が生じていることがわかる。
【0073】
【発明の効果】
以上、本発明にかかる塗膜劣化促進装置ないしは塗膜劣化促進方法によれば、屋外曝露試験あるいは従来の促進曝露試験よりも短時間で、減圧プラズマを用いる促進曝露試験よりも簡便な操作で、種々の基材を用いた塗膜試験試料の塗膜の劣化を安定した条件下で促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかる塗膜劣化促進装置の構成を示す回路図である。
【図2】 (a)は、放電極と対向電極との間に印加されるパルス高電圧の波形を示すグラフであり、(b)は(a)に示すパルス高電圧の1つのパルスを時間軸方向に拡大して示したグラフである。
【図3】 (a)及び(b)は、それぞれ、2液イソシアネート硬化型ウレタン塗料の塗膜を伴った塗膜試験試料に対して本発明にかかる塗膜劣化促進処理を実施し、60°光沢及び色差ΔEを測定して得た結果を示すグラフである。
【図4】 (a)及び(b)は、それぞれ、2液イソシアネート硬化型ウレタン塗料の塗膜を伴った塗膜試験試料に対して屋外曝露試験を実施し、60°光沢及び色差ΔEを測定して得た結果を示すグラフである。
【図5】 (a)及び(b)は、それぞれ、一液メラミン硬化型メタリックベース/クリヤー塗料の塗膜を伴った塗膜試験試料に対して本発明にかかる塗膜劣化促進処理を実施し、60°光沢及び色差ΔEを測定して得た結果を示すグラフである。
【図6】 (a)及び(b)は、それぞれ、一液メラミン硬化型メタリックベース/クリヤー塗料の塗膜を伴った塗膜試験試料に対してサンシャインウェザーメータ試験を実施し、60°光沢及び色差ΔEを測定して得た結果を示すグラフである。
【図7】 (a)及び(b)は、それぞれ、アクリルエマルジョン塗料の塗膜を伴った塗膜試験試料に対して本発明にかかる塗膜劣化促進処理を実施し、60°光沢及び色差ΔEを測定して得た結果を示すグラフである。
【図8】 (a)及び(b)は、それぞれ、アクリルエマルジョン塗料の塗膜を伴った塗膜試験試料に対して屋外曝露試験を実施し、60°光沢及び色差ΔEを測定して得た結果を示すグラフである。
【符号の説明】
TR…塗膜劣化促進装置、S…パルス高電圧生成回路、S1…負極性高電圧電源回路、S2…波形成形回路、1…放電極、2…対向電極、3…塗膜試験試料、4…誘電板、5…直流電源、6…第1導線、7…第2導線、8…第1インダクタンスコイル、9…保護抵抗、10…第3導線、11…コンデンサ、12…第4導線、13…第2インダクタンスコイル、14…ギャップスイッチ、14a…第1球電極、14b…第2球電極、15…充放電コンデンサ、16…第5導線、17…負荷抵抗、20…プラズマ活性雰囲気、21…波形観察用オシロスコープ。
Claims (10)
- 放電極と対向電極との間に、基材の表面に塗膜が形成されてなる塗膜試験試料を配置し、
放電極と対向電極との間に高電圧を印加して両電極間にコロナ放電を惹起し、該コロナ放電により上記塗膜の性状の劣化を促進するようにした塗膜劣化促進方法であって、
放電極と塗膜試験試料との距離を一定値に保ち、かつ電極間距離を一定値に保つようにして、放電極を揺動させ、又は塗膜試験試料及び対向電極を一体的に揺動させることを特徴とする塗膜劣化促進方法。 - 上記塗膜の上記性状が表面光沢値及び/又は色相であることを特徴とする請求項1に記載の塗膜劣化促進方法。
- 上記高電圧として、(印加電圧波高値)/(電極間距離)で定義される平均電界強度が4〜50KV/cmであり、パルス頻度が10pps以上であるパルス状の波形を有する電圧を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜劣化促進方法。
- 上記高電圧として、上記基材が導電体である場合はパルス幅が10〜200nsecであるパルス状の波形を有する電圧を用い、上記基材が誘電体である場合はパルス幅が10〜1000nsecのパルス状の波形を有する電圧を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の塗膜劣化促進方法。
- 上記基材として、樹脂、セラミック、木材、ガラス、紙、鉄、ステンレススチール、銅又はアルミニウムからなる板状、シート状又はフィルム状の材料を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の塗膜劣化促進方法。
- 所定の電極間距離を隔てて対向して配置される放電極及び対向電極と、
放電極と対向電極との間に高電圧を印加する高電圧生成回路とが設けられていて、
基材の表面に塗膜が形成されてなる塗膜試験試料が放電極と対向電極との間に配置されたときに、放電極と対向電極との間に印加された高電圧により両電極間にコロナ放電を惹起し、該コロナ放電により上記塗膜の性状の劣化を促進するようになっている塗膜劣化促進装置であって、
放電極と塗膜試験試料との距離が一定値に保たれ、かつ電極間距離が一定値に保たれるようにして、放電極を揺動させ、又は塗膜試験試料及び対向電極を一体的に揺動させる揺動手段が設けられていることを特徴とする塗膜劣化促進装置。 - 上記塗膜の上記性状が表面光沢値及び/又は色相であることを特徴とする請求項6に記載の塗膜劣化促進装置。
- 上記高電圧生成回路が、上記高電圧として、(印加電圧波高値)/(電極間距離)で定義される平均電界強度が4〜50KV/cmであり、パルス頻度が10pps以上であるパルス状の波形を有する電圧を両電極間に印加するようになっていることを特徴とする請求項6又は7に記載の塗膜劣化促進装置。
- 上記高電圧生成回路が、上記高電圧として、上記基材が導電体である場合はパルス幅が10〜200nsecであるパルス状の波形を有する電圧を両電極間に印加し、上記基材が誘電体である場合はパルス幅が10〜1000nsecのパルス状の波形を有する電圧を両電極間に印加するようになっていることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1つに記載の塗膜劣化促進装置。
- 上記基材が、樹脂、セラミック、木材、ガラス、紙、鉄、ステンレススチール、銅又はアルミニウムからなる板状、シート状又はフィルム状の材料であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1つに記載の塗膜劣化促進装置。
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