JP3855055B2 - Wx遺伝子発現抑制方法および該方法に用いられる遺伝子 - Google Patents

Wx遺伝子発現抑制方法および該方法に用いられる遺伝子 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物胚乳のアミロース産生量を制御する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、イネを始めとする植物の育種は、変異の収集(野性種)、栽培種からの無作為的な変異の誘発、あるいはそれらの交配により行われてきた。これは方向性のない雑多な変異の中から目的の形質を持つものを選び出し、純系を作り上げるという、実に多大な労力と時間を要するプロセスである。
【0003】
これに対して遺伝子操作を用いた組換え植物の作出は、目的の形質を司る遺伝子のみを対象にして人工的に改変し導入するので、極めて方向性の高い育種方法を提供することができる。
【0004】
ところで、イネ種子においてデンプン成分の一種であるアミロースは、その含有量によって炊飯米の食味や、コメデンプンの加工特性を左右する。日本人の米飯に供されるうるち米は、デンプンの15−30%程度がアミロース、70−85%程度がアミロペクチンであるが、一般にアミロース含量の低い、従って、粘りのある物が良食味の傾向にある。また、アミロースを全くもたないものは、もち米としてうるち米と区別して食している。
【0005】
胚乳のアミロース産生を司るのはデンプン合成酵素であるということがトウモロコシの遺伝生化学的解析から明らかにされ、またイネ胚乳のアミロース含量は登熟期におけるデンプン合成酵素タンパク質の生産量および活性に依存することが判明している。デンプン合成酵素(WXタンパク質)の遺伝子(Wx遺伝子)はトウモロコシ、大麦、イネ、ジャガイモなどで単離され、各配列が決定されている。
【0006】
このアミロース合成の鍵酵素であるWx遺伝子の発現を制御し、アミロース量を変える方法として、アンチセンス法が試みられてきた。しかしながらこの方法の欠点は、直接導入法を用いているために形質転換植物の作成効率が悪く、抑制効果が低いことである。また、アンチセンス遺伝子を導入した個体毎に抑制効果にばらつきが生じるという問題もある(例えば特許文献1および2を参照)。
【0007】
さらにアンチセンス遺伝子導入のためのプロモーターを換えることによって遺伝子発現の抑制程度を変える方法では、様々なプロモーターを単離し、転写活性を調べたうえでベクターに用いなければならない。
【0008】
近年、遺伝子発現の抑制法としてRNAi法が利用されつつある。RNAi(RNA interference)とは、dsRNA(2本鎖RNA)の細胞内への導入によって、dsRNAと相同な配列を持つ遺伝子の発現が抑制される現象であり、様々な生物種で遺伝子機能解析に用いられている。ただし、一般的に植物では、細胞壁が存在しdsRNAを細胞内に直接導入することが難しいとされている。
【0009】
【特許文献1】
特開平5−153981号公報
【特許文献2】
特開平5−168482号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的はデンプン合成遺伝子であるWx遺伝子の発現を効率よく抑制する方法、およびWx遺伝子発現の抑制量を調節する方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、dsRNA(2本鎖RNA)の細胞内での発現により、dsRNAと相同な配列を持つ遺伝子の発現が抑制される現象であるRNAi(RNA interference)法を利用して、遺伝子導入植物において胚乳特異的に顆粒結合型デンプン合成遺伝子であるWx遺伝子の発現を抑制する方法、および、Wx遺伝子発現の抑制量を調節する方法を開発した。
【0012】
即ち、本発明は、上流から順に、胚乳で発現するプロモーター、Wx遺伝子の第1エクソンと相同な正方向配列、および、該正方向配列に相補的な逆方向配列を含む遺伝子を提供する。
【0013】
「胚乳で発現するプロモーター」は、胚乳で発現するものであれば特に限定されないが、ベクターの構築が容易であるため、特にWx遺伝子由来のプロモーターが好適に用いられる。
【0014】
Wx遺伝子の第1エクソンと相同な正方向配列」とは、Wx遺伝子の第1エクソンの配列に対して相同性を有する配列であって、その長さが21bp以上の配列からなり、ベクターなどのコンストラクトにおいて転写と同じ方向に挿入された配列のことを指す。
【0015】
「該正方向配列に相補的な逆方向配列」とは、上記の「Wx遺伝子の第1エクソンと相同な正方向配列」に対して相補性を有する配列からなる。即ち、ベクターなどのコンストラクトにおいて正方向配列と相同性を有する配列が転写と逆方向に挿入された配列を指す。
【0016】
本発明の遺伝子を植物に導入することによって、胚乳におけるWx遺伝子の発現が抑制される。
【0017】
即ち、Wx遺伝子の第1エクソンと相同な正方向配列、および、該正方向配列に相補的な逆方向配列を含むDNAは、胚乳においてプロモーターにより誘導されてmRNAへと転写される。正方向配列から転写された一本鎖RNAと逆方向配列から転写された一本鎖RNAは、相補的であるため互いに水素結合により、二本鎖RNA(dsRNA)を形成し、これがRNAi、即ち、標的Wx遺伝子の発現の抑制を引き起こすと考えられる。
【0018】
Wx遺伝子の第1エクソンは、Wx遺伝子の5’UTR領域に位置するが、RNAiはこのような非コード領域の配列を用いることによっても起こる現象である。
【0019】
正方向配列と逆方向配列とは直接連結していてもよいが、それらの間に介在するスペーサー配列を有していてもよい。スペーサー配列は特に限定されないが、例えばイントロン配列、具体的には、Wx遺伝子由来の第1イントロン配列が好適に用いられる。
【0020】
本発明による第1の態様において好適に用いられるイントロンとしては、イネWx遺伝子由来の第1イントロン、例えば、野生型イネ対立遺伝子Wx a 由来の第1イントロンが挙げられる。イネ対立遺伝子Wx a 遺伝子の塩基配列を図1〜5(配列番号1)に示す。
【0021】
本発明の第2の態様においては、スペーサー配列として、Wx遺伝子の第1イントロンのスプライスコンセンサス配列に置換配列を持つ配列が用いられる。このような置換配列を有する対立遺伝子由来の第1イントロンをスペーサー配列として用いることによって、イントロンのスプライシングによる切り出し効率が変化し、Wx遺伝子発現の抑制の程度が変化する。
【0022】
本発明は、上述したような遺伝子を含有するベクターを提供する。更に本発明は、該ベクターを植物、好ましくはイネ科植物、さらに好ましくは、イネに導入することによって、胚乳においてWx遺伝子の発現を抑制する方法を提供する。
【0023】
本発明はまた、上記のような遺伝子を導入した植物を提供する。
【0024】
本発明はさらに、スペーサー配列をWx遺伝子の第1イントロン配列とし、その切り出し効率を変化させることによって、Wx遺伝子の発現の抑制量を制御する方法を提供する。
【0025】
【発明の実施の態様】
本発明において用いるWx遺伝子の第1エクソンとしては、あらゆる植物由来のものを用いることができるが、イネ科植物、特にイネ由来のものが好適である。
【0026】
また、遺伝子を導入される標的植物の起源と、導入するWx遺伝子の起源は、同じであっても異なっていてもよい。標的遺伝子と導入遺伝子の相同性を考慮すると、同じ植物種由来のものが特に好ましい。
【0027】
本発明において、Wx遺伝子発現の抑制に用いる「胚乳で発現するプロモーター」としては、植物へ導入した際に胚乳で目的とする遺伝子を発現させることができるものであれば特に限定されない。かかるプロモーターは当業者によく知られており、例えば、Wxプロモーター、アクチン1、ユビキチン、Adh、イネアレルゲンタンパク質、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターなどが挙げられる。これらの中では、ベクターの構築が容易であることからWxプロモーターが好適に用いられる。Wxプロモーターとしては、イネおよびトウモロコシ由来のものが特に好適に用いられる。
【0028】
本発明の遺伝子において、正方向配列および逆方向配列と標的遺伝子Wxとの完全な相同性は、必須ではない。即ち、遺伝子の突然変異、多型、又は進化上の分岐による配列の変動は容認される。標的遺伝子に対する挿入、欠失、及び一塩基点突然変異を有するdsRNA鎖もまた、抑制に有効である。具体的には、RNAiに用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を有するものが好適に用いられる。
【0029】
また、正方向配列と逆方向配列は、転写された後に二本鎖RNAを形成し得るものであればよい。両者の相補性は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%であると、効率的にdsRNAが形成される。
【0030】
正方向配列および逆方向配列の長さは、RNAiが起こり得る長さであればよく、典型的には、21bp以上、好ましくは90bp以上、最も好ましくは第1エクソンの全長である。
【0031】
本発明の第1の態様においては、イネの野生型対立遺伝子である、Wx a 遺伝子由来の第1イントロンが好適に用いられる。この場合、イントロン配列はスプライシングによって効率的に切り出され、正方向配列と逆方向配列とからなるdsRNAによるRNAiが高い抑制効率で起こる。
【0032】
本発明の第2の態様においては、スペーサー配列として、Wx遺伝子のスプライスコンセンサス配列に置換配列を持つ第1イントロンが用いられる。例えば、イネの対立遺伝子であって、Wx a と比較した場合、第一イントロンの5’側に位置するスプライスコンセンサス配列AG/GTにおいて、第1イントロンの5’末端に置換変異AG/TTを有することによりスプライス効率が低くなっている、Wx b 遺伝子由来の第1イントロンが好適に用いられる。この場合、イントロンのスプライシングによる切り出し効率が低く、dsRNAによるRNAi阻害効果が、第1の態様による場合と比べて低くなる。
【0033】
本発明において標的とする植物は、単子葉穀類、好ましくはイネ科植物、例えばイネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ等、さらに好ましくはイネである。植物へのベクターの導入には、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。それぞれの方法に適したベクターの調製、形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki S, et al: Plant Physiol 100: 1503, 1995)。
【0034】
例えば、イネにおいて形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールを用いてプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta SK: In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg, Eds) pp.66-74, 1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki S, et al: Plant Physiol 100: 1503, 1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou P,et al: Biotechnology 9: 957, 1991)、およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei Y, et al: Plant J 6: 271, 1994)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0035】
本発明において、Wx遺伝子発現の抑制のために植物を遺伝子へ導入する際に用いるベクターは、遺伝子導入手段に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、アグロバクテリウムによる遺伝子導入法を用いる場合は、薬剤耐性遺伝子などの選択用の遺伝子を有するバイナリーベクター、例えば、pPZP2H−lac等が好適に用いられる。
【0036】
本発明のベクターの作成方法としては、特に限定されず、当業者に周知のいかなる方法を用いてもよい。本発明のベクターにおいては、3’末端側へターミネーターを挿入するが、ターミネーターとしては公知のものがいずれも好適に用いられ、nosT、CMV35Sなどが例示される。
【0037】
第1の態様の具体例として、上流から順に、イネWx a プロモーター、Wx a 第一エクソンの正方向配列、Wx a 第一イントロンおよびWx a 第一エクソンの逆方向配列が含まれる遺伝子を用いる場合、イントロンの効率的な切り出しによって、Wx遺伝子の発現が高度に抑制される。
【0038】
一方、第2の態様の具体例として、上流から順に、イネWx b プロモーター、Wx b 第一エクソンの正方向配列、Wx b 第一イントロンおよびWx b 第一エクソンの逆方向配列が含まれる遺伝子である場合、イントロンの切り出し効率が低いため、Wx遺伝子の発現の抑制は中程度のものとなる。
【0039】
したがって、本発明はまた、上流から順に、胚乳で発現するプロモーター、Wx遺伝子の第1エクソンと相同な正方向配列、Wx遺伝子由来の第1イントロン、および、該正方向配列に相補的な逆方向配列を含む遺伝子を導入して胚乳においてWx遺伝子の発現を抑制する方法であって、イントロンの切り出し効率を変化させることによって、胚乳におけるWx遺伝子の発現を制御する方法を提供する。
【0040】
好適な態様において、イントロンの切り出し効率は、スプライスコンセンサス配列に変異を導入することによって変化させることができる。なお、イントロンをスペーサー配列として用いた場合、イントロンが切り出されない状況では成熟したmRNAとして核外に放出されず、RNAiをトリガーすることはできないと考えられる。したがって、例えば、イントロンのスプライス効率を変える方法としては、スプライス部位の認識・受容部位の置換、切り出しに関わる遺伝子産物の発現量の変化、温度感受性の導入、イントロンの構造の改変などによって、RNAiの効果を制御することができ、それによって標的Wx遺伝子の発現量を調節することができる。特に、スプライスコンセンサス配列に変異を誘導することによって好適な制御が可能となる。
【0041】
具体的には上述の第2の態様におけるように、スペーサー配列として、イネWx遺伝子の第一イントロンの5’側に位置するスプライスコンセンサス配列AG/GTにおいて、第1イントロンの5’末端の置換変異AG/TTを有することによりスプライス効率が低くなっている(Isshiki et al.,Plant J 15, 133-138, 1998)、Wx b 遺伝子由来の第1イントロンを用いた場合はイントロンのスプライシングによる切り出し効率が低く、dsRNAによるRNAi阻害効果が、第1の態様、即ちイネ野生型対立遺伝子Wx a 遺伝子由来の第1イントロンを用いた場合と比べて低くなる。このようにスプライスコンセンサス配列を置換変異を持つWx b 型配列へ換えることによりスプライシング効率を低く抑え、dsRNAの合成量を低下させ、遺伝子発現の中程度の抑制が可能となる。
【0042】
本明細書中、塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sei. USA 87:2264-2268, 1990、Karlin S &Altschul SF: Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0043】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はその要旨を越えない限り本実施例に制約されるものではない。
【0044】
イネ種子においてデンプン成分の一種であるアミロースの合成を担うWx遺伝子のプロモーターの下流に第1エクソンの逆向反復配列(即ち、正方向配列と逆方向配列の反復)の中心に野生型遺伝子Wx a 由来の第一イントロンをスペーサーとして挿入することにより、高い効率でWx遺伝子の発現を抑制するWxRNAi遺伝子(WRI−A)を構築した(図6)。
このWRI−A遺伝子を持つバイナリーベクター(pWRI−A)をアグロバクテリウム法によりイネに導入したところ、高い効率でWx遺伝子の発現を抑制した。具体的には、95%以上の遺伝子導入イネにおいて胚乳特異的にデンプン合成遺伝子の発現を抑制した。
【0045】
一方、Wx a 第1イントロンの5’側切り出し部位のコンセンサス配列AG/GTがAG/TTとなっているWx b 遺伝子由来の第1イントロンをスペーサーとして挿入した、WxRNAi遺伝子(WRI−B)を構築した(図6)。
このWRI−Bを持つバイナリーベクター(pWRI−B)を導入したところ、中程度の抑制効果が見られ、スプライス効率を変化させることでdsRNAの合成量を低下させ、遺伝子発現効率を変化させることを可能にした。
【0046】
実施例1
WRI−Aを含むバイナリベクターpWRI−Aの構築
イネWx遺伝子の野生型対立遺伝子であるWx a のプロモーター、第一イントロン、およびcDNAを含むpWxR( 図7, Itoh et al., 1997 Mol. Gen. Genet. 255, 351-358,)を鋳型として、プロモーター5'末端側ベクター配列(表1,PUC−Fプライマー)より、第一イントロンの下流にある制限酵素BglIIの切断部位下流(表1,WAXY−Rプライマー)までの領域をPCR法を用いて増幅した。得られた増幅産物は制限酵素BglIIにより部分消化し、1%アガロースゲル電気泳動で分画後、約3.4kbpのバンドをゲルより切り出し、DNA断片を精製・回収した。この断片を制限酵素SmaIおよびBamHIで二重消化したpUC19と連結したpWRIA−1を作成した(図7)。
【0047】
次にpWRIA−1の第一イントロン3'側に第一エクソンを逆向きに挿入する為に、第一エクソン領域を増幅するプライマーを作成した。この際5'側プライマー(表1,Wx1exHFプライマー)にはHindIII認識配列、3'側プライマー(表1,Wx1exSseRプライマー)配列にはSse8387Iの認識配列が含まれるように作成した(表1)。次にPCR法により増幅した目的DNA断片(約140bp)を、上記のHindIII及びSse8387Iで切断し、HindIII及びSse8387Iで切断したpWRIA−1に連結し、pWRIA−2を作成した(図8)。
【0048】
アグロバクテリウム法を用いての遺伝子導入を行うためのバイナリーベクターとしてpPZP2H−lac(Fuse et al., 2001, Plant Biotechnology 18, 219-222;独立行政法人農業物資源研究所 矢野昌裕博士より分譲)を使用した。また、カリフラワーモザイクウイルス35S−RNA遺伝子由来のターミネーターを用いた。pCKR532(Shimamoto et al., 1993, Mol. Gen. Genet. 239:354-360)1μgを制限酵素KpnI及びSalIを用いて二重消化し、1%アガロースゲル電気泳動によって200bpの断片(ターミネーターシグナル配列)を分画・精製し、KpnI及びSalIで切断したpPZP2H−lacに連結した(pPZP2H−35ST)。
【0049】
pWRIA−2をSacI及びHindIIIで切断し、アガロースゲル電気泳動によって、約3.5kbpの断片を分画・精製し、SacIおよびHindIIIで二重消化したpPZP2H−35Sと連結したpWRI−Aを構築し、形質転換用のプラスミドとした(図9)。pWRI−Aをアグロバクテリウム(EHA101株)に導入した。
【0050】
実施例2
WRI−Bを含むバイナリベクターpWRI−Bの構築
PCR増幅の鋳型にはWx b を持つキヌヒカリゲノムDNAを用い、pWRIB−1構築の際のPCRプライマーにはPUC−Fプライマーの代わりにWxProEKプライマーを、WAXY−Rプライマーの代わりにWxORFBgRプライマー(共に表1)を使用した(図10)。その後はpWRI−Aの構築と同様に行い、pWRI−Bを構築した。
【0051】
実施例3
pWRI−AおよびpWRI−Bを導入した形質転換カルスの選抜
粳米(品種:金南風)の完熟種子由来カルスの形成及びアグロバクテリウム法を利用した遺伝子導入法(Hiei et al., 1994, Plant J 6:271-282)に準じて行い、50%次亜塩素酸ナトリウム溶液で表面消毒した金南風の完熟種子約300粒をカルス誘導培地(N6培地)に植え、2〜3週間28℃暗所で静置した。その後、直径1〜3mm程度のカルスをpWRI−Aを持つアグロバクテリウムとN6CO培地を用いて3日間28℃で共存培養した。その後、500μg/mlのクラフォランを含む滅菌水でカルスを除菌洗浄し、50μg/mlのハイグロマイシンを含むN6SE選抜培地にて28℃暗所にて2〜3週間培養した。形質転換したカルスは再生培地である30μg/mlハイグロマイシン/MSRE培地に移植し、16hr明期/8hr暗期,TAITEC社の人工気象器で培養し、植物体を再生させた。シュートの生じたカルスを発根培地であるMSRT(ハイグロマイシンを含む)に移植し、再生したイネをプラスチックポットに移植し、閉鎖系温室にて生育させた。
【0052】
実施例4
形質転換植物の選抜
ハイグロマイシンによって選抜し再生した形質転換イネよりゲノムDNAを抽出し、サザンハイブリダイゼーション法によってさらに選抜した。ゲノムDNAはヌクレアーペレット(nuclear pellet)法(Walbot and Warren,1988, Mol. Gen. Genet., 211, 27-34,)に準じて次のように調整した。形質転換体50〜100mgを緩衝液(15%ショ糖、50mMトリスー塩酸(pH8.0)、50mM Na2EDTA、500mM塩化ナトリウム)中で磨砕し、核画分を遠心分離した。これを界面活性剤(1.5%SDS、20mMトリスー塩酸(pH8.0)、10mM Na2EDTA)で処理し、遊離した核内成分を0.6倍容のイソプロパノールで沈殿させて核酸を得、これを70%エタノールで洗浄後乾燥させてゲノム画分とした。この画分5μgをサザンハイブリダイゼーションに用いた。ゲノムDNAを切断する酵素としてHindIIIを用いることにより、導入遺伝子のコピー数を調べた。
【0053】
5μgのDNAを3μlのHindIIIで100μlのスケールで一晩切断し、エタノール沈殿で回収した。沈殿を10μlのTE緩衝液(50mMトリスー塩酸、10mM Na2EDTA、pH8.0)で懸濁し、0.7%アガロースゲル(1xTBEバッファー)で20V、一晩電気泳動した。
ナイロン膜への転写及びハイブリダイゼーションは別冊細胞工学「遺伝子工学の基礎」に準じて行った。電気泳動終了後のゲルを加水分解液(0.25M HCl)で10分間、変性溶液(1.5M NaOH, 0.5M NaCl)で30分間振とうさせた。アルカリトランスファー緩衝液(0.4M NaOH)を用いてナイロン膜(Nylon Membrane positively charged:Roche diagnostics社)にキャピラリートランスファーした。一晩トランスファーしたナイロン膜は2xSSC(Molecular Cloning, Maniatis)で洗浄後、80℃2時間で核酸を固定した。
【0054】
内在性Wx遺伝子および導入遺伝子の両方を検出するために、WxProP−Fプライマー及びWxProP−Rプライマー(表1)を用いてWx遺伝子のプロモーター領域3'側約500bpの領域をPCRによって増幅し、[α−32P]dCTPによって標識し、プローブとして用いた。その結果、内在性のWx遺伝子は約14.7kbに単一のバンドとして、導入したpWRI−A,pWRI−Bはその他の分子サイズに検出された。そのバンド数により、導入遺伝子が1コピー保有系統から10数コピー保有される系統まで分類し、WRI−AおよびWRI−Bの効果を検討した。結果を表2および表3に示す。
【0055】
WRI−A遺伝子を持つバイナリーベクター(pWRI−A)をアグロバクテリウム法によりイネに導入、内在Wx遺伝子の発現を抑制する効率を調べたところ、95%以上の独立の形質転換個体でWx遺伝子の発現が抑制された。また、WRI−B遺伝子を持つバイナリーベクター(pWRI−B)を同様にイネに導入したところ、独立の形質転換個体のうち100%の個体において、Wx遺伝子の発現を抑制し、その抑制の程度は中間的であった。
【0056】
実施例5
pWRI−AおよびpWRI−B導入イネにおけるWx遺伝子の機能抑制と遺伝pWRI−AおよびpWRI−B導入イネにおけるWx遺伝子の機能抑制と遺伝を、胚乳のヨード染色により調べた。機能が抑制されない場合、青紫色、完全に機能抑制が働いた場合、茶褐色の表現型(モチ型胚乳)を示し、機能抑制の程度が弱ければその中間型の表現型になる。実験では10−20粒の自殖種子の胚乳を用いた。
【0057】
その結果、pWRI−Aを導入して得られた独立の再生植物体60個体のうち58個体(96%)で強い機能抑制が観察された。つぎに、pWRI−Bを導入して得られた独立の再生植物体53個体ではすべての個体の胚乳において抑制表現型が見られたが、抑制の程度は低かった。
さらに1コピーのみ遺伝子が導入された系統に限定して詳細な評価を行った。pWRI−Aを導入して得られた1コピー導入系統では、18系統のうち17系統に完全なモチ型が観察された。また、pWRI−Bを導入して得られた1コピー導入系統の胚乳では18系統のうち17系統に中間型の抑制表現型が観察された。残りの1系統ではほぼ完全なモチ型を示す胚乳が一部に見られた。
【0058】
実施例おいて使用したプライマーを以下の表1に示す。
【0059】
【表1】
Figure 0003855055
【0060】
【表2】
Figure 0003855055
Figure 0003855055
【0061】
【表3】
Figure 0003855055
Figure 0003855055
【0062】
本発明によるWRI−AおよびWRI−B遺伝子をイネに導入した結果、均一で高い遺伝子機能抑制効果と、スプライス効率を変えて抑制程度を変化させることが可能になった。
【0063】
即ち、Wx RNAi遺伝子(WRI−A)遺伝子を導入することで、形質転換イネ個体においてデンプン合成遺伝子の発現を胚乳特異的に抑制することができた。さらに、Wx RNAi遺伝子(WRI−A)内に挿入したWx第一イントロンの切り出し部位の配列に置換変異を導入したWxRNAi遺伝子(WRI−B)によって、Wx遺伝子と相同な配列を持つdsRNAの発現量を低いレベルに制御し、アミロース合成を中程度に抑制する事が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 公知のWx a 遺伝子の配列を示す図である。
【図2】 公知のWx a 遺伝子の配列(図1の続き)を示す図である。
【図3】 公知のWx a 遺伝子の配列(図2の続き)を示す図である。
【図4】 公知のWx a 遺伝子の配列(図3の続き)を示す図である。
【図5】 公知のWx a 遺伝子の配列(図4の続き)を示す図である。
【図6】 WRI−A遺伝子とWRI−B遺伝子の構造を示す図である。
【図7】 pWRI−Aの作成過程(1)を示す図である。
【図8】 pWRI−Aの作成過程(2)を示す図である。
【図9】 pWRI−Aの作成過程(3)を示す図である。
【図10】 pWRI−Bの作成過程を示す図である。
【配列表】
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Claims (18)

  1. 上流から順に、胚乳で発現するプロモーター、Wx遺伝子の第1エクソンと相同な正方向配列、および、該正方向配列に相補的な逆方向配列を含む遺伝子。
  2. プロモーターがWx遺伝子由来のプロモーターである請求項1に記載の遺伝子。
  3. 正方向配列と逆方向配列との間にスペーサー配列を含む請求項1または2に記載の遺伝子。
  4. スペーサー配列がWx遺伝子由来の第1イントロンである請求項3に記載の遺伝子。
  5. Wx遺伝子由来の第1イントロンが、イネの野生型Wx対立遺伝子であるWx a 遺伝子由来の第1イントロンである請求項4に記載の遺伝子。
  6. 上流から順に、イネWx a プロモーター、Wx a 第1エクソンの正方向配列、Wx a 第1イントロン、および、Wx a 第1エクソンの逆方向配列を含む、請求項5に記載の遺伝子。
  7. スペーサー配列がWx遺伝子のスプライスコンセンサス配列に置換配列を持つ第1イントロンである請求項3に記載の遺伝子。
  8. Wx遺伝子のスプライスコンセンサス配列に置換配列を持つ第1イントロンが、イネのWx a 遺伝子の第1イントロンの5’側スプライスコンセンサス配列AG/GTにおいて、第1イントロンの5’末端に置換変異AG/TTを有するものである、請求項7に記載の遺伝子。
  9. 上流から順に、イネWx b プロモーター、Wx b 第1エクソンの正方向配列、Wx b 第1イントロン、および、Wx b 第1エクソンの逆方向配列を含む、請求項8に記載の遺伝子。
  10. 請求項1〜9いずれかに記載の遺伝子を含むベクター。
  11. 請求項1から9のいずれかに記載の遺伝子を導入した植物。
  12. 植物がイネ科植物である請求項11に記載の植物。
  13. 植物がイネである、請求項12に記載の植物。
  14. 請求項10記載のベクターを植物に導入することによって、胚乳特異的に Wx遺伝子の発現を抑制する方法。
  15. 植物がイネ科植物である請求項14に記載の方法。
  16. 植物がイネである請求項15に記載の方法。
  17. 上流から順に、胚乳で発現するプロモーター、Wx遺伝子の第1エクソンと相同な正方向配列、Wx遺伝子由来の第1イントロン、および、該正方向配列に相補的な逆方向配列を含む遺伝子を植物へ導入して胚乳特異的に Wx遺伝子の発現を抑制する方法であって、イントロンの切り出し効率を変化させることによって、胚乳特異的に Wx遺伝子の発現を制御する方法。
  18. イントロンの切り出し効率をスプライスコンセンサス配列に変異を導入することによって変化させる、請求項17記載の方法。
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