JP3847650B2 - 改質植物繊維およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物繊維、特にジュート繊維などの靭皮繊維の性質を改良した改質植物繊維およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、繊維強化プラスチック(FRP)繊維強化複合材料が、自動車の材料や建築材料等の各種用途に用いられている。繊維強化複合材料は、強度向上のための補強繊維と、補強繊維を結合する結合材とからなるものである。従来の繊維強化複合材料としては、樹脂(マトリックス樹脂)を結合材として用いた繊維強化プラスチック(FRP)が一般的であり、また、ガラス繊維を補強繊維として用いたガラス繊維強化複合材料が一般的である。
【0003】
これに対し、近年、地球環境問題などから、ガラス繊維強化複合材料に代えて、生分解が可能なジュート繊維などの植物繊維を補強繊維として用いた天然繊維強化複合材料の開発がドイツを中心にして進められている(J.Gassan and A.K.Bledzki, J.Appl.Polym.Sci., 71, 623(1999))。また、このような天然繊維強化複合材料は、製品化もされている。例えば、ドイツでは、ベンツ社やフォルクス・ワーゲン社等で、自動車の内装材として、一部、天然繊維強化複合材料が使用されている。日本でも、一部に、天然繊維強化複合材料を自動車の内装材として使用しようとする動きがある。
【0004】
特に靭皮繊維を補強繊維として用いた天然繊維強化複合材料は、将来、ガラス繊維強化複合材料にとって代わり、世界で年間1千万トン以上の需要が見込まれるとの予測もある。
【0005】
また、ジュート繊維などの天然繊維は、繊維強化複合材料の補強繊維としてのみならず、川堤防の安定化などの土木用などの用途に繊維製品として用いられている。
【0006】
これらの用途に用いる繊維に求められる要件は、上述したように、地球環境問題の面では生分解が可能である(生分解性を有する)か、あるいは容易に燃焼廃棄処分できることであるが、繊維自体の性能として強度や弾性率などの機械的特性に優れていることも重要な要件である。
【0007】
これらの要件を十分に満たす繊維としては、植物繊維の一種であるジュート繊維、ケナフ繊維などの靭皮繊維がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、通常の植物繊維を含む天然繊維強化複合材料は、紫外線による劣化が起こり易く、耐候性が比較的低いという問題を有している。これは、通常の植物繊維が、土壌から混入した微量の金属イオン(鉄イオン、ナトリウムイオン等)を含むために、紫外線が長期間照射されると、混入した金属イオンによる酸化作用によって劣化を起こしやすいからである。
【0009】
特に、補強繊維として用いられるジュート繊維やケナフ繊維などの靭皮繊維は、植物から繊維を分離・精製する過程において土壌から鉄イオン等の金属イオンが混入しやすく、金属イオンにより紫外線による酸化劣化が促進されることが、確認されている(G.S.Egerton, J.Soc.Dyer.Colour., 65, 764(1949))。また、繊維細胞の接合によって形成されている靭皮繊維は、細胞内および細胞間の接合部が保管中に微生物の生命活動によって劣化される恐れがあり、品質管理の上で、靭皮繊維は、ガラス繊維に比べて注意が必要である。
【0010】
それゆえ、天然繊維強化複合材料のさらなる用途展開を進めるために、植物繊維の耐候性を向上することが要望されている。
【0011】
また、より多くの用途でガラス繊維強化複合材料の置き換えが可能となるような強度特性に優れた天然繊維強化複合材料を提供するために、植物繊維の強度を向上することが要望されている。
【0012】
なお、N.Ikuta, A.Onishi, and A.Yanagawa, "Uses of keratin protein as a film former for glassfiber composites", Proceedings of the 3rd. joint Canada-Japan workshop on composites, Kyoto, 55-59(2000)には、ガラス繊維強化複合材料の成形において、シラン系カップリング剤を塗布したガラス繊維表面にケラチン分解物を被覆することで、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等のマトリックス樹脂に対する接着性が向上したことが開示されている。しかしながら、上記の開示は、ケラチン分解物による被覆処理が、ガラス繊維とマトリックス樹脂との接着性の改善に有効であることを示しているのみであり、ガラス繊維以外の繊維に対する、ケラチン分解物による被覆処理の有効性は何ら示唆していない。
【0013】
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、強度および耐候性に優れた改質植物繊維およびその製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本願発明者は、上記の課題を解決するために、植物繊維の特性を向上できる改質処理について鋭意検討した結果、植物繊維(特にジュート繊維などの靭皮繊維)を、繊維状蛋白質の分解物(特に羊毛や羽毛に含まれるケラチンの加水分解物)で処理することによって、強度および耐候性が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明の改質植物繊維は、上記の課題を解決するために、植物繊維、好ましくは靭皮繊維を、繊維状蛋白質の分解物、好ましくはケラチンの分解物で処理したものであることを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、紫外線遮蔽性を持つ繊維状蛋白質の分解物によって植物繊維の表面が被覆されるので、紫外線による植物繊維の酸化劣化を防止できる。したがって、耐候性(耐酸化劣化性)に優れた改質植物繊維を提供することができる。
【0017】
また、上記構成によれば、繊維状蛋白質の分解物によって植物繊維の強度が向上する。植物繊維の強度が向上する理由は、現時点では完全には解明されていないが、繊維状蛋白質の分解物(特にケラチン)が、繊維状および螺旋状の分子構造を持つことから植物繊維中の繊維細胞間の非晶部(ペクチン)へ入りやすく、また、植物繊維(特に靭皮繊維)と親和性が良好であることが要因であると考えられる。このような繊維状蛋白質の分解物の性質により、繊維状蛋白質の分解物が、植物繊維中の繊維細胞間の非晶部へ浸透し、植物繊維を補強する効果を示したものと考えられる。また、繊維状蛋白質の分解物が植物繊維中の繊維細胞間の非晶部へ浸透することも、耐候性の向上に寄与していると考えられる。
【0018】
以上のことから、本発明によれば、強度および耐候性に優れた改質植物繊維を提供することができる。
【0019】
また、植物繊維は、繊維強化プラスチックの補強繊維として用いる場合には、繊維強化プラスチックを構成するマトリックス樹脂との親和性の良いことも重要である。本発明の改質植物繊維では、繊維状蛋白質(特にケラチン)の分解物が繊維表面に存在することで、繊維強化プラスチックの補強繊維として用いた場合に、処理を施していない通常の植物繊維と比較して、マトリックス樹脂との親和性が向上する。その結果、本発明の改質植物繊維は、繊維強化プラスチックの補強繊維として重要な補強効果が向上し、強度特性に優れた天然繊維強化プラスチックが提供可能になる。
【0020】
なお、「繊維状蛋白質」とは、全体の形状が、細長く、球では近似できない蛋白質である。また、「繊維状蛋白質の分解物」とは、羊毛や羽毛等のような高分子量の繊維状蛋白質に対して、繊維状蛋白質の分子内に存在する結合(アミド結合やジスルフィド結合)の一部を加水分解する処理を行うことにより、繊維状蛋白質を低分子量化したものを指す。
【0021】
本発明の改質植物繊維の製造方法は、上記の課題を解決するために、植物繊維、好ましくは靭皮繊維を、繊維状蛋白質の分解物、好ましくはケラチンの分解物で処理する処理工程を含むことを特徴としている。
【0022】
上記方法によれば、前述した特徴および利点を有する本発明の改質植物繊維を製造することができる。したがって、強度および耐候性に優れた改質植物繊維を製造することができる。また、マトリックス樹脂との親和性が良好であり、繊維強化プラスチックの補強繊維として好適な改質植物繊維を製造することができる。
【0023】
上記製造方法は、上記処理工程の前に、繊維状蛋白質をアルカリ加水分解(酸化剤や還元剤等を用いることなく)する加水分解工程をさらに含むことが好ましい。
【0024】
これにより、処理工程で用いる繊維状蛋白質の分解物を、酸化剤や還元剤等を用いることなく製造することが可能となる。したがって、改質植物繊維を簡便に、かつ安価に製造することができる。
【0025】
なお、「アルカリ加水分解」とは、アルカリの作用によって起こる加水分解を指し、アルカリ性媒体中での酸化剤による加水分解等は含まないものとする。
【0026】
上記加水分解工程では、繊維状蛋白質として羽毛を用いることが好ましい。羽毛は、加水分解したときに有害ガスである硫化水素をほとんど発生しない。それゆえ、上記加水分解工程に繊維状蛋白質として羽毛を用いると、硫化水素をほとんど発生させることなく、改質植物繊維を簡便に、かつ安価に製造することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明の改質植物繊維は、植物繊維を、繊維状蛋白質の分解物を含む繊維処理剤で処理する処理工程を含む製造方法によって得られるものである。
【0028】
上記植物繊維としては、ジュート(黄麻)繊維、フジ繊維(フジツル繊維)、亜麻繊維、苧麻(ラミー)繊維、大麻繊維等の靱皮繊維;マニラ麻繊維、サイザル麻繊維、ニュージーランド麻繊維等の葉脈繊維;ヤシ果実繊維等の果実繊維;綿繊維やカポック繊維等の種子毛繊維等が挙げられる。
【0029】
上記植物繊維としては、靱皮繊維、葉脈繊維、および果実繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、靱皮繊維がより好ましい。靱皮繊維は、長さ1.5〜250mm、幅10〜80μmで、不正多角形状の横断面を持つ繊維細胞の集合体からなる。このため、靱皮繊維を用いた場合、繊維状蛋白質の分解物による処理の効果が大きく、強度および耐候性の向上効果が大きいと考えられる。
【0030】
靱皮繊維の中でも、ジュート繊維(黄麻と呼ばれる植物の茎の靭皮部の繊維束から得られる繊維)が最も好ましい。なぜなら、ジュート繊維は、ガラス繊維より安価(1000円/kg程度)であり、かつ、天然繊維強化複合材料の補強繊維として重要な特性である弾性率がガラス繊維並み(Eガラス繊維のヤング弾性率28GPa、ジュート繊維のヤング弾性率26.5GPa)であり、補強繊維として優秀な植物繊維であるからである。また、ジュート繊維は、鉄イオンが混入しているために紫外線照射による引張強度の低下が大きいことが、本願発明者の実験(後述)で確認されている。したがって、ジュート繊維の耐候性を改善することは、特に重要である。
【0031】
上記植物繊維は、織物の状態で処理に供してもよい。また、植物繊維は、植物繊維と他の繊維(例えば、ポリエステル、レーヨン等)との混紡糸あるいはその織物の状態で処理に供してもよく、さらには、植物繊維からなる紡糸と他の繊維との交織布の状態で処理に供してもよい。
【0032】
また、上記植物繊維は、表面に付着した紡績油やワックスを除去するために、有機溶媒で洗浄した後で処理工程に供することが好ましい。洗浄に用いる有機溶媒としては、紡績油やワックスを選択的に溶解することが可能な溶媒であればよいが、エタノールとベンゼンとの混合溶媒が好適である。
【0033】
また、上記植物繊維は、金属イオンを除去するために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA;Ethylene Diamine Tetraacetic Acid)等のキレート剤を含む水溶液を用いた洗浄処理(脱金属処理)を施した後で処理工程に供することが好ましい。
【0034】
繊維状蛋白質の分解物としては、ケラチンの分解物(ケラトース)、コラーゲンの分解物、絹フィブロイン等のフィブロインの分解物、ミオシンの分解物、エラスチンの分解物等が挙げられる。
【0035】
上記繊維状蛋白質の分解物としては、これらのうち、ケラチンの分解物が特に好ましい。ケラチンの分解物は、ケラチン(ジスルフィド結合を有する蛋白質の一種)を分解することにより得られるものである。ケラチンの分解物は、水溶液として、熱的に安定であり、経時的に安定であるので、浸漬法(dipping)や塗布法(coating)に適する。また、ケラチンの分解物は、植物繊維を補強する効果も良好である。
【0036】
ケラチンの分解物の中でも、羊毛ケラチンを弱反応系で加水分解することにより得られる羊毛ケラチンの加水分解物が、植物繊維を補強する効果に優れていることから最も好ましい。なお、ケラチンには、フィブリルを形成している結晶性ケラチンと、マトリックスを形成している非結晶性ケラチンとがある。そのため、ケラチンの分解物には、結晶性ケラチンを分解したもの(α−ケラトース)と、非結晶性ケラチンを分解したもの(γ−ケラトース)とがあるが、どちらを用いてもよい。
【0037】
上記繊維状蛋白質の分解物の重量平均分子量(Mw)は、400〜200,000の範囲内であることが好ましく、5,000〜100,000の範囲内であることがより好ましく、10,000〜50,000の範囲内であることがさらに好ましく、20,000〜35,000の範囲内であることが最も好ましい。重量平均分子量を上記範囲内とすることにより、植物繊維をより一層補強することができる。
【0038】
繊維状蛋白質の分解物は、繊維状蛋白質を分解することにより得られるものである。繊維状蛋白質を分解する方法としては、繊維状蛋白質をアルカリ加水分解するアルカリ加水分解法、過酸化水素等の酸化剤を用いて繊維状蛋白質を分解する酸化分解法、メルカプトエタノールやメルカプトエチルアミン等の還元剤を用いて繊維状蛋白質を分解する還元法、プロテアーゼ等の蛋白質分解酵素を用いて繊維状蛋白質を分解する酵素法、塩酸や硫酸等の酸を用いて加水分解する方法等が挙げられる。
【0039】
繊維状蛋白質として羽毛(羽毛ケラチン)を用いる場合、改質植物繊維を簡便に、かつ安価に製造することができる点で、アルカリ加水分解法が好ましい。アルカリ加水分解法は、羊毛などの一般的な繊維状蛋白質を用いた場合には、硫化水素を発生するために行われていない。これに対し、羽毛を用いた場合、加水分解したときに有害ガスである硫化水素をほとんど発生しない。この理由は、不明であるが、反応が適当なところで平衡状態になるためであると考えられる。なお、羽毛からアルカリ加水分解法によりケラチンの加水分解物を得る方法は、新規の技術である。
【0040】
アルカリ加水分解法では、アルカリを含む水性媒体中に繊維状蛋白質を溶解して繊維状蛋白質をアルカリ加水分解するとよい。
【0041】
アルカリを含む水性媒体としては、アルカリの水溶液が最も好ましいが、アルコールと水との混合溶媒中にアルカリを溶解した溶液を用いてもよい。上記アルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;アルカリ土類金属水酸化物;アンモニア等が挙げられるが、アルカリ加水分解がより効率的に進行することから、アルカリ金属水酸化物が特に好ましい。また、水性媒体中におけるアルカリの濃度は、0.5mol/L〜2mol/Lの範囲内であることが好ましい。アルカリの濃度が0.5mol/Lより低いと、アルカリ加水分解の進行が速やかに進行しない恐れがある。アルカリの濃度が2mol/Lより高いと、繊維状蛋白質が細かく分解されすぎて補強効果が小さくなる恐れがある。
【0042】
アルカリ加水分解を行うときの温度は、50℃〜90℃の範囲内であることが好ましい。温度が50℃より低いと、アルカリ加水分解の進行が速やかに進行しなくなる。温度が90℃より高いと、繊維状蛋白質が細かく分解されすぎて補強効果が小さくなる恐れがある。アルカリ加水分解を行う時間は、1時間〜5時間の範囲内であることが好ましい。アルカリ加水分解を行う時間が1時間より短いと、アルカリ加水分解が十分に進行しない恐れがある。アルカリ加水分解を行う時間が5時間より長いと、繊維状蛋白質が細かく分解されすぎて補強効果が小さくなる恐れがある。
【0043】
アルカリ加水分解の後には、余分なアルカリを除去するために、酸で中和することが好ましい。用いる酸としては、中和状態を得ることが可能なものであればよいが、中和状態を容易に得ることができることから、酢酸が好適である。また、室温より高い温度でアルカリ加水分解を行った場合、中和時の過熱を避けるために、室温まで放冷した後に中和を行うことが好ましい。
【0044】
上記繊維処理剤は、溶液状態であることが好ましい。すなわち、上記繊維処理剤は、繊維状蛋白質の分解物が溶媒中に溶解した溶液であることが好ましい。上記溶媒としては、水が最も好ましいが、繊維状蛋白質の分解物を溶解させることが可能な溶媒であればよく、アルコール等であってもよい。
【0045】
羊毛ケラチンを弱反応系で加水分解することにより得られる羊毛ケラチン加水分解物の水溶液(加水分解ケラチン液)を含む混合溶液は、現在、保湿剤などとして市販されている(例えば、一丸ファルコス株式会社製の高分子量ケラトースシリーズ「PROTICUTE(登録商標)」)。したがって、溶液状態の繊維処理剤として、市販されている羊毛ケラチンの加水分解物の水溶液を含む混合溶液を用いることができる。
【0046】
なお、アルカリ加水分解法により得られた繊維状蛋白質の加水分解物を含む溶液を用いて、溶液状態の繊維処理剤による処理を行う場合、上記溶液をそのまま溶液状態の繊維処理剤として用いてもよく、上記溶液から繊維状蛋白質の加水分解物を固体として回収した後、この固体を溶媒に再溶解して溶液状態の繊維処理剤として用いてもよい。また、繊維処理剤は、繊維状蛋白質の分解物以外の成分を含んでいてもよい。
【0047】
溶液状態の繊維処理剤における繊維状蛋白質の分解物の濃度は、5重量%以上であることが好ましい。濃度が5重量%より低いと、植物繊維の内部に十分な量の繊維状蛋白質の分解物が浸透せず、植物繊維の特性(強度や耐候性)を十分に向上できない恐れがある。
【0048】
植物繊維を繊維処理剤で処理する方法としては、植物繊維を溶液状態の繊維処理剤中に浸漬する浸漬法、植物繊維表面に溶液状態の繊維処理剤を塗布する塗布法等が挙げられるが、植物繊維の内部に繊維状蛋白質の分解物が十分に浸透することから、浸漬法が特に好ましい。
【0049】
処理時間は、5分以上であればよいが、10分間〜2時間の範囲内であることが好ましい。処理時間が5分より短いと、植物繊維の内部に繊維状蛋白質の分解物が十分に浸透せず、植物繊維の特性(強度や耐候性)を十分に向上できない恐れがある。一方、処理時間が2時間より長くなると、植物繊維の内部に浸透する繊維状蛋白質の分解物の量がほとんど増加しなくなるので、処理が十分に進行せず、繊維状蛋白質の加水分解物の付着量が格別増加することはない。
【0050】
また、処理温度は、25℃以上100℃以下の範囲内であることが好ましく、30℃〜60℃の範囲内であることがより好ましい。25℃より低い温度では、処理に長時間を要し、100℃を超えると、繊維状蛋白質の加水分解物のゲル化が生じやすくなり、蛋白質の変性によって付着効率が悪くなる。
【0051】
植物繊維を繊維処理剤で処理することで、繊維状蛋白質の分解物が植物繊維中に吸着されると共に植物繊維表面に付着する。このとき、植物繊維表面の付着物の中には、剥がれ易い付着物もある。このような付着物は、改質植物繊維の使用時に、塵を発生させる。そこで、本発明の製造方法においては、上記処理工程の後、植物繊維表面の余分な付着物を除去するために植物繊維を洗浄することが好ましい。洗浄方法としては、例えば、水で洗浄する方法が挙げられる。
【0052】
処理工程後や洗浄後の植物繊維は、水等の溶媒を含んでいる。そこで、処理工程後や洗浄後に得られた改質植物繊維は、風乾等により十分に乾燥した後で使用することが望ましい。また、繊維状蛋白質の分解物を植物繊維に強固に固着させるために、得られた改質植物繊維に対して加熱処理を行ってもよい。
【0053】
以上のようにして、植物繊維を繊維状蛋白質の分解物で処理した改質植物繊維が得られる。
【0054】
改質植物繊維における繊維状蛋白質の分解物の含有量は、0.5〜40重量%の範囲内であることが好ましく、3〜10重量%の範囲内であることがより好ましい。繊維状蛋白質の分解物の含有量が0.5重量%未満では、特性(強度や耐候性)を十分に向上できない恐れがある。一方、繊維状蛋白質の分解物の含有量が40重量%を超える改質植物繊維は、製造することが難しい。
【0055】
本発明は、以下の実験による知見に基づいてなされたものである。
【0056】
〔靭皮繊維中における混入金属元素の分析〕
靭皮繊維中における混入金属元素の分析を行った。具体的には、靭皮繊維である、ジュート繊維(g)、ジュート繊維(i)、およびヤシ果実繊維(以下、単にヤシ繊維と記す)中に含まれる混入金属元素の分析を、蛍光X線分析装置(「System3270」、理学電機株式会社製)を用いた蛍光X線分析によって行った。
【0057】
なお、ジュート繊維(g)は、ドイツのシルゲン社(J.Schilgen GmbH & Co.)製のモロヘイヤ(Tossa jute;ジュートの一種)繊維の糸であり、約280g/km(tex)の繊度および135N・m/g(13.5cN/tex)の強度(tenacity)を持つものである。ジュート繊維(i)は、ジュート繊維(g)に類似した市販の輸入品であり、brown jute(Corchorus obitorius)の茎の靭皮部の繊維束から得られたものである。ヤシ繊維は、市販の輸入品である。これらの繊維は、紡績油を除去するために、エタノールとベンゼンとの容量比1:1の混合溶媒を用いて3時間ソックスレー抽出処理した後、実験に供した。
【0058】
蛍光X線分析の結果、ジュート繊維(i)においては100ppmオーダーの鉄イオンが、ヤシ繊維においては1,000ppmオーダーのナトリウムイオンが検出された。また、ジュート繊維(g)では、1ppm未満の鉄イオンの痕跡が認められた。鉄イオンの混入は、繊維を精製する過程において鉄製の容器等が使用されたためと考えられる。ナトリウムイオンの混入は、ヤシから繊維を分離するとき、しばしば海水に長期間浸漬する処理がなされているためと推測される。
【0059】
〔金属イオンの混入が靭皮繊維の紫外線劣化に及ぼす影響の検討〕
次に、紫外線と金属イオンによる植物の酸化劣化促進作用を調べるために、金属イオンの混入が靭皮繊維の紫外線劣化に及ぼす影響を、紫外線照射処理による引張強度の変化から検討した。
【0060】
すなわち、まず、ジュート繊維(i)およびヤシ繊維の各試料について、引張強度を測定した。具体的には、各試料を、長さ25mmのゲージ長の紙製の枠に接着剤で固定し、枠の支え(試料の固定箇所を繋ぐ2本の梁の部分)を切り離して、各試料について引張速度10mm/minの条件下で引張応力の測定を行った。そして、各試料の30点以上で引張応力を測定し、これら測定により得られた値の平均を引張応力の測定値とした。また、各試料の断面積は、次のようにして求めた。まず、各試料の試料の太さを顕微鏡で測定した。次いで、各試料の断面を円とみなして、得られた試料の太さの測定値の半分(円の半径に相当)の二乗に円周率πを乗算した値を各試料の断面積として求めた。そして、各試料について引張応力の測定値(平均値)を断面積で除算することにより、引張強度を求めた。
【0061】
次に、ジュート繊維(i)およびヤシ繊維の各試料に対して、紫外線照射処理を行った。すなわち、外光を遮断し、水蒸気存在下で、試料の上方に配置した殺菌灯からの紫外線を1日間試料に照射した。殺菌灯としては、ピーク波長が253.7nmである10Wの殺菌灯(「GL−10」、松下電器産業株式会社製)を2本用いた。また、殺菌灯は、試料から30mmの高さに設置した。
【0062】
次に、紫外線照射後の各試料について、上述した方法で引張強度を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0063】
表1に示すように、ジュート繊維(i)では、紫外線照射処理によって49.2%もの著しい強度低下が生じた。一方、ヤシ繊維においては、紫外線照射処理による強度低下は16.1%と緩やかであった。
【0064】
このように、ジュート繊維(i)において紫外線照射処理によって著しい強度低下が生じた要因としては、ジュート繊維(i)に混入した鉄イオンのレドックス反応によって植物の酸化劣化過程で生成するペルオキシド基の分解とラジカルの発生が促進されたことが考えられるが、少なくとも混入した金属イオンによって紫外線照射で誘発される酸化劣化が促進されたことが1つの大きな要因であると考えられる。
【0065】
〔靭皮繊維の紫外線劣化における金属イオン除去処理の効果〕
そこで、次に、靭皮繊維の紫外線劣化における金属イオン除去処理の効果を調べるために、上記のジュート繊維(i)およびヤシ繊維に対してEDTAを用いた脱金属処理(以下、適宜、EDTA処理と称する)を行った後、紫外線照射処理を行い、引張強度の変化を調べた(表1)。
【0066】
EDTA処理は、以下のようにして行った。まず、靭皮繊維1容量部を、0.03mol/LのEDTA水溶液50容量部(浴比1:50)に室温で5分間浸漬することにより洗浄した。次に、EDTA水溶液を新しいEDTA水溶液50容量部と交換して洗浄処理を再度行った。すなわち、洗浄処理は2回繰り返した。その後、水による洗浄(水洗)を行い、風乾した。
【0067】
【表1】
【0068】
いずれの靭皮繊維においても、EDTA処理を施した試料3・4では、EDTA処理を施していない試料1・2と比較して、引張強度に低下が生じた。これは、EDTAが靭皮繊維の繊維細胞の接合部に作用したためと考えられる。EDTA処理を施した靭皮繊維(試料3・4)の引張強度を、EDTA処理を施していない靭皮繊維(試料1・2)と比較すると、紫外線照射前の引張強度は低下したものの、紫外線照射後の引張強度は向上した。このことから、靭皮繊維を精製するときに金属の混入を避けることは、品質管理の上で極めて重要と言える。
【0069】
〔ジュート繊維の紫外線酸化劣化がマトリックス樹脂に及ぼす影響の検討〕
次に、ジュート繊維の紫外線酸化劣化で生成するラジカルが天然繊維強化複合材料のマトリックス樹脂の構造に及ぼす影響を調べるために、補強繊維としてのジュート繊維(g)と、マトリックス樹脂としてのポリエチレン樹脂(以下、適宜「PE」と略記する)とを用いて、(メルトプレス成形(加熱加圧成形)によって、天然繊維強化複合材料からなるフィルムを作製し、紫外線照射処理を行った。
【0070】
上記メルトプレス成形は、以下のようにして行った。まず、細かく切断したジュート繊維(g)10mgを、添加剤を含まないポリエチレン樹脂1gと混合し、成形材料を得た。次に、金型を140℃で1分間予熱した後、金型内に成形材料を投入し、同じ温度(140℃)で980Pa(100kgf/cm2)以上の圧力で3分間プレス(加圧)してフィルムを成形した。なお、成形は、フィルムに金属粉が混入することを防ぐために、成形材料をポリイミドフィルム(商品名「カプトンフィルム(デュポン社の登録商標)」)の間に挟んで行った。
【0071】
成形されたフィルムのラマン散乱スペクトルを、顕微レーザーラマン分光分析機(「JRS−system2000」、日本電子株式会社製)により分析した。そして、ポリエチレン樹脂の結晶構造に関連する1295cm-1のラマン散乱帯の半値幅(FWHM)(G.R.Strobl and W.Hagedom, J.Polym.Sci., 16, 1181(1978)参照)について、繊維の近傍と繊維から充分離れた部位での紫外線照射による変化を調べた。得られた結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
繊維近傍における半値幅の増加が大きく、靭皮繊維で生成するラジカルが靭皮繊維に接しているポリエチレン樹脂の微結晶を破壊していることが示唆される。このため、紫外線照射による靭皮繊維とマトリックス樹脂との界面における剥離強度の低下が予測される。
【0074】
【実施例】
次に、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらに限定されるものではない。
【0075】
〔実施例1〕
本実施例では、植物繊維としてフジ繊維(フジツル繊維)を用いた。このフジ繊維には、以下の前処理を施した。すなわち、まず、前処理として、実験室でガラス器具を用いてアルカリ精練を行うことにより、フジ繊維を精製した。アルカリ精練は、フジ繊維1容量部を20容量部の7%水酸化ナトリウム水溶液で1時間煮沸することにより行った。さらに、前処理として、繊維表面に付着した紡績油を除去するために、精製したフジ繊維に対して、エタノールとベンゼンとの容量比1:1の混合溶媒を用いたソックスレー抽出処理(ソックスレー抽出器を用いて溶媒に可溶な成分を抽出除去する処理)を3時間かけて行った。そして、これらの前処理を施したフジ繊維を用いて実験を行った。
【0076】
本実施例では、繊維処理液として、羊毛由来の加水分解ケラチン液(羊毛ケラチンの加水分解物の水溶液)を含む市販の天然高分子保湿剤(一丸ファルコス株式会社製、商品名「PROTICUTE(登録商標)Uα」;以下、羊毛ケラチン加水分解物の溶液(A)と記す)を用いた。
【0077】
羊毛ケラチン加水分解物の溶液(A)は、加水分解ケラチン液55重量%、尿素30重量%、1,3−ブチレングリコール10重量%、およびラウリル硫酸ナトリウム5重量%の混合物である。また、羊毛ケラチン加水分解物の溶液(A)は、重量平均分子量(Mw)が25,000〜35,000、pHが6.0〜8.0、蒸発残留物(固形分濃度)が40.0〜60.0重量%である。また、上記加水分解ケラチン液は、羊毛のケラチン蛋白質をゆっくりと溶解させ、その中から特に疎水性アミノ酸を多く含むミクロ繊維由来の結晶性ケラチンを抽出し還元処理したα−ケラトース溶液である。
【0078】
上記羊毛ケラチン加水分解物の溶液(A)に、上記の前処理を施したフジ繊維を40〜45℃で20分間浸漬して、改質植物繊維を得た。その後、改質植物繊維を水洗(水による洗浄)し、風乾(室温で自然乾燥)した。得られた改質植物繊維におけるケラチン加水分解物の付着量は5.5重量%であった。
【0079】
〔実施例2〕
本実施例では、植物繊維として、実施例1で用いた前処理を施したフジ繊維を用いた。
【0080】
本実施例では、繊維処理液として、加水分解ケラチン液(羊毛ケラチンの加水分解物の水溶液)を含む市販の天然高分子保湿剤(一丸ファルコス株式会社製、商品名「PROTICUTE(登録商標)Hγ」;以下、羊毛ケラチン加水分解物の溶液(B)と記す)を用いた。
【0081】
羊毛ケラチン加水分解物の溶液(B)は、加水分解ケラチン89.83重量%、1,3−ブチレングリコール10重量%、およびパラベン類0.17重量%の混合物である。また、羊毛ケラチン加水分解物の溶液(B)は、重量平均分子量が20,000〜30,000、pHが6.0〜8.0である。また、上記加水分解ケラチンは、羊毛ケラチンをゆっくりと溶解させ、その中から特に水溶性成分を精製したγ−ケラトースである。
【0082】
そして、上記羊毛ケラチン加水分解物の溶液(B)に、上記の前処理を施したフジ繊維を40〜45℃で20分間浸漬して、改質植物繊維を得た。その後、改質植物繊維を水洗し、風乾した。得られた改質植物繊維におけるケラチン付着量は6.0重量%であった。
【0083】
〔実施例3〕
本実施例では、ケラチン分解物処理による植物繊維の補強効果が、ケラチン分解物の由来によって影響されるかどうかを検討するために、羽毛ケラチンの加水分解物の溶液を用いて植物繊維を処理した。
【0084】
本実施例では、植物繊維として、前述したジュート繊維(g)(モロヘイヤ繊維の糸)に対して実施例1と同様の前処理を施したものを用いた。
【0085】
羽毛ケラチンの加水分解物の溶液としては、以下の方法で調製した羽毛ケラチンの加水分解物の水溶液を用いた。すなわち、まず、アヒルの羽毛1容量部を1mol/L(1N)水酸化ナトリウム水溶液9容量部(浴比1:9)に溶解し、得られた溶液を70℃で3時間加熱してアヒルの羽毛ケラチンのアルカリ加水分解を行った。その後、水溶液を室温まで放冷した後、酢酸で中和し、羽毛ケラチンの加水分解物の水溶液を得た。
【0086】
そして、上記羽毛ケラチンの加水分解物の水溶液に、上記の前処理を施したフジ繊維を40〜45℃で20分間浸漬して、改質植物繊維を得た。その後、改質植物繊維を水洗し、風乾した。得られた改質植物繊維におけるケラチン加水分解物の付着量は6.5重量%であった。したがって、実施例1〜3において得られた改質植物繊維におけるケラチン加水分解物の付着量は3〜10重量%の範囲内であった。
【0087】
〔比較例1〕
比較用の植物繊維(対照)として、ケラチン分解物による処理を施していないフジ繊維を用意した。ただし、このフジ繊維は、実施例1で用いたものと同じフジ繊維に対して実施例1と同様の前処理を施したものを使用した。
【0088】
〔比較例2〕
比較用の植物繊維(対照)として、ケラチン分解物による処理を施していないジュート繊維を用意した。ただし、このジュート繊維は、実施例3で用いたものと同じジュート繊維(g)に対して実施例1と同様の前処理を施したものを使用した。
【0089】
実施例1〜3の改質植物繊維および比較例1・2の植物繊維について、強度および耐候性を評価するために、引張強度と、紫外線照射処理による引張強度の変化とを調べた。
【0090】
まず、実施例1〜3の改質植物繊維、および比較例1・2の植物繊維の各試料について、前述した実験と同様の方法で引張強度を測定した。すなわち、各試料を、長さ25mmのゲージ長の紙製の枠に接着剤で固定し、枠の支え(試料の固定箇所を繋ぐ2本の梁の部分)を切り離して、各試料について引張速度10mm/minの条件下で引張応力の測定を行った。そして、各試料の30点以上で引張応力を測定し、これら測定により得られた値の平均を引張応力の測定値とした。また、各試料の断面積は、次のようにして求めた。まず、各試料の試料の太さを顕微鏡で測定した。次いで、各試料の断面を円とみなして、得られた試料の太さの測定値の半分(円の半径に相当)の二乗に円周率πを乗算した値を各試料の断面積として求めた。そして、各試料について引張応力の測定値(平均値)を断面積で除算することにより、引張強度を求めた。
【0091】
次に、実施例1・2の改質植物繊維、および比較例1の植物繊維の各試料に対して、前述した実験と同様の操作で紫外線照射処理を行った。すなわち、外光を遮断し、水蒸気存在下で、試料の上方に配置した殺菌灯からの紫外線を1日間試料に照射した。殺菌灯としては、ピーク波長が253.7nmである10Wの殺菌灯(「GL−10」、松下電器産業株式会社製)を2本用いた。また、殺菌灯は、試料から30mmの高さに設置した。
【0092】
次に、紫外線照射後の各試料について、上述した方法で引張強度を測定した。得られた結果を表3にまとめて示す。
【0093】
【表3】
【0094】
表3の実施例1・2と比較例1との比較から明らかなように、いずれの羊毛ケラチンの加水分解物の溶液(A)(B)を用いて処理した場合においても、処理後の植物繊維の引張強度は、未処理の植物繊維と比較して著しく向上した。また、表3の実施例3と比較例2との比較から明らかなように、羽毛ケラチンの加水分解物の溶液を用いて処理した場合においても、処理後の植物繊維の引張強度は、未処理の植物繊維と比較して著しく向上し、ケラチン分解物処理による強度向上効果が認められた。
【0095】
また、表3の実施例1・2と比較例1との比較から、羊毛ケラチンの加水分解物の溶液(A)または(B)を用いて処理した後の植物繊維は、未処理の植物繊維に比べて、紫外線照射処理による劣化が顕著に抑えられていることが分かる。
【0096】
なお、羽毛ケラチンの加水分解物を用いた実施例3が、羊毛ケラチンの加水分解物を用いた実施例1・2に比べて補強効果が低いのは、羽毛ケラチンの加水分解物が水酸化ナトリウムを用いた厳しい加水分解により得たものであるため、低分子量化していることや、両者のアミノ酸組成の違い(W.A.Schroeder and L.M.Kay, J.Am.Chem.Soc., 77, 3901(1955)およびW.H.Ward, C.H.Binkley, and N.S.Snell, Text.Res.J., 25, 314(1955)参照)が影響したと考えられる。
【0097】
【発明の効果】
本発明の改質植物繊維は、以上のように、植物繊維を、繊維状蛋白質の分解物で処理したものである。
【0098】
本発明によれば、紫外線遮蔽性を持つ繊維状蛋白質の分解物によって植物繊維の表面が被覆されるので、紫外線による植物繊維の酸化劣化を防止できる。また、本発明によれば、繊維状蛋白質の分解物が植物繊維中の繊維細胞間の非晶部へ浸透することによって、植物繊維の強度が向上する。したがって、本発明は、強度および耐候性に優れた改質植物繊維を提供することができるという効果を奏する。
【0099】
本発明に係る改質植物繊維は、上述したように強度および耐候性に優れることから、天然繊維強化プラスチックの補強繊維として好適である。
【0100】
本発明の改質植物繊維の製造方法は、以上のように、植物繊維を、繊維状蛋白質の分解物で処理する処理工程を含む方法である。
【0101】
これにより、前述した特徴および利点を有する本発明の改質植物繊維を製造することができる。したがって、本発明は、強度および耐候性に優れた改質植物繊維を製造することができるという効果を奏する。
Claims (10)
- キレート剤を含む水溶液を用いた洗浄処理を施した植物繊維を、ケラチン、コラーゲン、フィブロイン、ミオシンおよびエラスチンからなる群より選ばれる1以上の繊維状蛋白質の分解物で処理したものであることを特徴とする改質植物繊維。
- 上記繊維状蛋白質の分解物の重量平均分子量が400〜200,000の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の改質植物繊維。
- 上記繊維状蛋白質の分解物の濃度が、溶液状態の繊維処理剤において5重量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の改質植物繊維。
- 繊維状蛋白質の分解物の含有量が0.5〜40重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の改質植物繊維。
- 上記植物繊維は、靭皮繊維であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の改質植物繊維。
- 上記繊維状蛋白質の分解物は、ケラチンの分解物であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の改質植物繊維。
- キレート剤を含む水溶液を用いた洗浄処理を施した植物繊維を、ケラチン、コラーゲン、フィブロイン、ミオシンおよびエラスチンからなる群より選ばれる1以上の繊維状蛋白質の分解物で処理する処理工程を含むことを特徴とする改質植物繊維の製造方法。
- 上記繊維状蛋白質の分解物の重量平均分子量が400〜200,000の範囲内であることを特徴とする請求項7に記載の改質植物繊維の製造方法。
- 上記繊維状蛋白質の分解物の濃度が、溶液状態の繊維処理剤において5重量%以上であることを特徴とする請求項7または8に記載の改質植物繊維の製造方法。
- 上記処理工程の前に、繊維状蛋白質をアルカリ加水分解する加水分解工程をさらに含み、
上記加水分解工程では、繊維状蛋白質として羽毛を用いることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の改質植物繊維の製造方法。
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