JP3846704B2 - スタッドの溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、サブマージアークプレス溶接法(SAP溶接法と略す)やアークスタッド溶接法等のスタッドを母材に溶植する場合の溶接方法に関する。より詳しくは、電源装置として高価な溶接機を用いることなく、既存の溶接機によっても安価に良質の溶接状態が得られるように改良したスタッドの溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図6はスタッドの溶接に使用されている従来の溶接装置の全体を例示した構成概念図である。図中、1は交流又は直流の溶接機であり、一般的にSAP溶接法の場合には交流溶接機、アークスタッド溶接法の場合には直流溶接機が用いられる。図示のように、溶接機1には、制御装置2を介して溶接銃3に接続された溶接用ケーブル4,5と、母材6に接続された接地側ケーブル7とが接続され、これらによって溶接電流供給回路を構成している。なお、直流溶接機を用いる場合には、プラス側を母材6に接続される接地側ケーブル7に、マイナス側を溶接銃3に接続される溶接用ケーブル4,5に接続する。また、前記制御装置2は、制御用ケーブル8を介して溶接機1に、制御用ケーブル9を介して溶接銃3に、制御用ケーブル10を介して操作部11に接続されている。操作部11には溶接開始ボタンや緊急停止ボタン等が設置されており、制御装置2は、その操作部11からの動作指令に基づいて溶接銃3の動作を制御するように構成されている。しかして、操作部11の溶接開始ボタンが押されると、前記溶接電流供給回路を通じて溶接銃3に対する溶接電流の供給が開始され、溶接銃3に保持されたスタッド12と母材6との間でアーク溶接が開始されることになる。その間、制御装置2において経過時間が計時され、設定時間が経過した時点でスタッド12を母材6側の溶融金属中に押込み、溶接電流の供給を停止して当該スタッドの溶接工程が終了することになる。なお、制御装置2には溶接時間変更ダイヤルが設置されており、溶接時間を調整できるように構成されている。
【0003】
図7はSAP溶接法に一般的に使用される溶接機の外部特性を例示した外部特性図である。また、図8はアークスタッド溶接法に一般的に使用される溶接機の外部特性を例示した外部特性図である。それぞれ縦軸に出力電圧、横軸に出力電流をとって外部特性を例示したものである。図中、特性曲線A〜CあるいはD〜Fは、それぞれの溶接機において外部特性を調整した場合の特性に関する変化の状態を例示したものである。溶接機側の出力電流値を調整する際には、以上の外部特性を調整することによって行うことになる。例えば、同じアーク電圧値を一定に維持しながら溶接電流値を大きくする場合には、溶接機の外部特性を特性曲線A,DからC,Fの側へ移行することによって可能である。なお、この溶接機側の出力電流値に関する調整作業は、外観的には前記溶接機1に備えられた出力電流値の設定部においてその設定電流値を調整することによって行われる作業形態が一般的であるが、実質的にみれば、以上の溶接機の外部特性の調整を介して出力電流値の調整が行われていることにほかならない。
【0004】
ところで、一般的に溶接機の外部特性、とりわけ図7に例示した外部特性の場合は、理想的な定電流特性から相当ずれた垂下特性を有するため、外部の抵抗やインピーダンスの値が変化すると、出力電流値すなわち溶接電流値が大きく変動してしまうことになる。したがって、図6に示した溶接銃3に供給される溶接電流値は、制御装置2を介して溶接銃3に接続された溶接用ケーブル4,5と、母材6に接続された接地側ケーブル7とから構成される前記溶接電流供給回路の抵抗値やインピーダンス値の変動により大きな影響を受ける。すなわち、溶接用ケーブル4,5の長さや、溶接電流による溶接用ケーブル4,5自体の発熱ないし外気温度の影響による抵抗値の変化、あるいは溶接用ケーブル4,5の途中にできるU字状ないしループ状のたるみ等によるインダクタンスの影響などにより溶接電流が大きく変動し、実際の溶接電流値が溶接機1側の設定電流値と大きく異なってしまうことになる。
【0005】
因みに、例えば直径が30mm前後の鉄筋からなるスタッドを交流溶接機を使用してSAP溶接した場合に、当該溶接機の垂下特性にもよるが、数百アンペア程度の変動が生じることもめずらしくないことが実験的に確認されている。同様に、直流溶接機を使用してアークスタッド溶接を行った場合にも、数十アンペア程度の変動が生じることがめずらしくないことも実験的に確認されている。以上のような実際上の溶接電流値に関する変動は溶接結果にも影響し、溶接電流の過不足により良好なアーク状態が得られなくなり、溶接品質の低下を招く原因にもなっていた。ところが実際の溶接電流値を簡便に測定できる手段が備えられていなかったこともあり、現場における溶接作業に際して、作業者が溶接電流値を実測して溶接品質の改善のために用いるということはなかった。現場においては、溶接品質の低下を回避するため、専ら作業者の経験上の感によって溶接結果を観察しながら溶接機1側の出力電流値を調整するという手法が行われている。しかしながら、このような経験的な手法では、実際の溶接電流値を的確に調整することはきわめて困難であり、また作業者による個人差も増長されることから、良質の溶接状態を安定的に維持することは技術的に困難であった。
【0006】
そこで、以上の溶接電流値に関する変動を解消する技術手段として、溶接電流の変動をフィードバック制御することにより溶接電流値を常に一定に保持する制御装置を備えた電源装置も開発されている(特開昭63−299880号公報、特開平11−291036号公報)。しかしながら、この種のフィードバック制御装置を備えた溶接機は高価なものになり、また買換えのためのコストも無視できないのが実情である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような従来の技術状況に鑑みて発明したものであり、高価な溶接機を用いず、また現在使用している溶接機を買換えることなく、良質の溶接状態が安定的かつ安価に得られるようにスタッドの溶接方法を改良することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記課題を解決するため、請求項1の発明では、スタッドを母材に溶植するに際して、溶接銃又はその近傍にて溶接電流値Ia,Ibを実測し、その溶接電流値Ia,Ib[A]が予めスタッドの直径D[mm]に応じて定めた範囲外にある場合には、溶接機の外部特性を手動にて再設定するとい技術手段を採用した。本発明によれば、溶接銃又はその近傍にて溶接電流値Ia,Ibを実測するようにしたので、溶接位置が溶接機から離れた場合でも手元において簡便かつ速やかに溶接電流値Ia,Ibを測定することができ、そのときどきの溶接電流供給回路の置かれた状態に基づく溶接電流値Ia,Ibの変動に対して迅速かつ的確に対応することができる。しかも、その溶接電流値Ia,Ib[A]が予めスタッドの直径D[mm]に応じて定めた範囲外にある場合に、溶接機の外部特性を手動にて再設定するという技術手段を採用したので、作業者による個人差が大幅に低減され、良質の溶接結果をより安定的に維持することができる。なお、溶接電流値Ia,Ibは、スタッドを溶植するたびに毎回実測してもよいが、必ずしもその必要はなく実測のタイミングは必要に応じて任意に設定し得ることはいうまでもない。
【0009】
SAP溶接法による場合には、スタッドを母材に溶植するに際して実測した溶接電流値Ia[A]がスタッドの直径D[mm]に応じて26D〜30Dの範囲外にある場合に、前記溶接機の外部特性に関する再設定を実施するようにすれば、前記溶接電流供給回路の抵抗値やインピーダンス値による通常の変動をカバーしながら良好な溶接状態を安定的に維持することが可能である(請求項2)。その溶接機の外部特性に関する再設定において、溶接電流値がIa=28Dを満たすように設定すれば、再設定作業の頻度の少ない、より効率的な調整作業が可能である(請求項3)。
【0010】
アークスタッド溶接法による場合には、スタッドを母材に溶植するに際して実測した溶接電流値Ib[A]がスタッドの直径D[mm]に応じて72D〜84Dの範囲外にある場合に、前記溶接機の外部特性に関する再設定を実施するようにすれば、前記溶接電流供給回路の抵抗値やインピーダンス値に関する通常の変動をカバーしながら良好な溶接状態を安定的に維持することが可能である(請求項4)。その溶接機の外部特性に関する再設定において、溶接電流値がIb=78Dを満たすように設定すれば、再設定作業の頻度の少ない、より効率的な調整作業が可能である(請求項5)。
【0011】
前記溶接機の外部特性の再設定に際して、溶接機側の設定電流値から溶接銃又はその近傍にて実測した前記溶接電流値Ia又はIbを引いた差分を28D又は78Dに加えるとともに、更に前記差分を前記設定電流値で除した設定電流値1[A]当りの変動率を前記差分に乗じた結果を上乗せして再設定電流値を求め、その再設定電流値に基づいて溶接機側の出力電流値を再設定するようにすれば、溶接機側の設定電流値に関する目盛を基準にした、より的確な外部特性の再設定が可能である(請求項6)。なお、溶接機側の設定電流値と実測電流値との差分に対応する溶接機に対する再設定電流値を予め図表にして備えておけば、作業者の手動による再設定作業を更に標準化することができ、より簡便に的確な溶接電流値が得られる(請求項7)。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、SAP溶接法やアークスタッド溶接法等のスタッド溶接方法として広く適用することが可能である。溶接銃又はその近傍において溶接電流値を実測するには、溶接銃やその近傍に組込んだ形態の電流計や、溶接銃やその近傍の溶接電流値の実測に適合し得る携帯型の電流計等が使用される。なお、実測した溶接銃又はその近傍の溶接電流値に基づいて溶接機側の出力電流値を調整する場合には、理論的には前述の特性曲線A〜CあるいはD〜Fで示したように、溶接機の外部特性を調整することによって行うことになるが、具体的には、溶接機に備えられた出力電流設定用の目盛を備えた設定部を介して、出力電流値を調整することによって行われるのが一般的な形態である。因みに、この一般的な形態による調整作業は、外観的には溶接機側に備えられた出力電流値の設定部において設定電流値を調整することによって行われるが、前述のように実質的には溶接機の外部特性の調整を介して出力電流値の調整が行われていることにほかならない。
【0013】
【実施例】
以下、図面を用いて本発明の実施例に関して説明する。図1は本発明に使用される溶接装置の全体を例示した構成概念図である。図示のように、本装置の特徴は、溶接用ケーブル5の溶接銃3の近傍に電流計13を配設して、溶接銃3の近傍にて溶接電流値Ia,Ibを実測できるように構成した点にある。これ以外の構成においては、前述の図6に示した従来の溶接装置と格別異なるところはない。なお、前述のように電流計13に代えて、電流計を溶接銃2に組込んでもよいし、携帯型の電流計を使用するようにしてもよい。要は、溶接銃又はその近傍において溶接電流値Ia,Ibを実測できるものであればよい。本装置によれば、溶接位置が溶接機1から遠く離れた場合でも、手元で簡便かつ速やかに溶接電流値Ia,Ibを実測することが可能である。したがって、溶接機1と溶接銃3との間の溶接用ケーブル4,5や接地側ケーブル7が長くなり、それらのケーブル自体の抵抗値の変化や、途中にできるU字状ないしループ状のたるみ等によるインダクタンスの影響などによる、そのときどきの状態により生じる溶接電流値Ia,Ibの変動に対して迅速かつ的確に対応することができる。
【0014】
因みに、図中、1は交流又は直流の溶接機であり、一般的にSAP溶接法の場合には交流溶接機、アークスタッド溶接法の場合には直流溶接機が用いられる。溶接機1には、制御装置2を介して溶接銃3に接続された溶接用ケーブル4,5と、母材6に接続された接地側ケーブル7とが接続され、これらによって溶接電流供給回路を構成している。従来の場合と同様に、直流溶接機を用いる場合には、プラス側を母材6に接続される接地側ケーブル7に、マイナス側を溶接銃3に接続される溶接用ケーブル4,5に接続する。また、前記制御装置2は、制御用ケーブル8を介して溶接機1に、制御用ケーブル9を介して溶接銃3に、制御用ケーブル10を介して操作部11に接続されている。操作部11には溶接開始ボタンや緊急停止ボタン等が設置されており、制御装置2は、その操作部11からの動作指令に基づいて溶接銃3の動作を制御するように構成されている。また、制御装置2には溶接時間変更ダイヤルが設置されており、溶接時間を調整できるように構成されている。操作部11の溶接開始ボタンが押されると、前記溶接電流供給回路を通じて溶接銃3に対する溶接電流の供給が開始され、溶接銃3に保持されたスタッド12と母材6との間でアーク溶接が開始されることになる。その間、制御装置2において経過時間が計時され、制御装置2に設定された前記溶接時間が経過した時点でスタッド12を母材6側の溶融金属中に押込み、溶接電流の供給を停止して当該スタッドの溶接工程が終了することになる。
【0015】
ところで、幾多の実験を繰返し研究を進めた結果、スタッドの直径Dと溶接時に実際に流れる溶接電流値Ia,Ibとの間には、良質の溶接結果が安定的に得られるかに関して、図2及び図3に示した相関関係があることが明らかになった。すなわち、図2はSAP溶接法の場合を実験結果を基に示したものであり、Ia=20D(なお、IaはSAP溶接法における溶接電流値をアンペア単位で表した数値、Dはスタッドの直径をmm単位で表した数値である。)で示される下限許容溶接電流値ラインGaと、Ia=32Dで示される上限許容溶接電流値ラインHaとの間は、スタッドの直径Dに応じて良質の溶接結果が安定的に得られるSAP溶接法における溶接電流値Iaの許容範囲Jaを示している。因みに、溶接電流値Iaがその許容範囲Jaの範囲外の場合には、溶接時間等をいくら調整しても安定的に良質の溶接結果を得ることは困難であった。すなわち、溶接電流値Iaが下限許容溶接電流値ラインGaより低い場合には、当該スタッドの直径Dに必要なアーク状態が得られないため、良質の溶接結果を安定的に得ることはできなかった。逆に、溶接電流値Iaが上限許容溶接電流値ラインHaより高い場合には、当該スタッドの直径Dに対して過大なアーク状態になってしまい、同様に良質の溶接結果を安定的に得ることはできなかった。
【0016】
また、図3はアークスタッド溶接法の場合を実験結果を基に示したものであり、Ib=54D(なお、Ibはアークスタッド溶接法における溶接電流値をアンペア単位で表した数値である。)で示される下限許容溶接電流値ラインGbと、Ib=90Dで示される上限許容溶接電流値ラインHbとの間が、スタッドの直径Dに応じて良質の溶接結果が安定的に得られるアークスタッド溶接法における溶接電流値Ibの許容範囲Jbを示している。
【0017】
しかして、溶接作業に際して溶接銃3の近傍に配設した前記電流計13によって測定した溶接電流値Ia,Ibが前記許容範囲Ja,Jb内にあれば、良質の溶接結果が安定的に得られる。これに対して、実測した溶接電流値Ia,Ibが許容範囲Ja,Jbの範囲外にある場合には、良質の溶接結果が安定的に得られないことから、溶接機1の外部特性を再設定する必要がある。この点に着目して、電流計13によって測定した溶接電流値Ia,Ibが、SAP溶接法の場合にはIa=20Dで示される下限許容溶接電流値ラインGaとIa=32Dで示される上限許容溶接電流値ラインHaとの間に入るか否かにより、またアークスタッド溶接法の場合にはIb=54Dで示される下限許容溶接電流値ラインGbとIb=90Dで示される上限許容溶接電流値ラインHbとの間に入るか否かによって、溶接機1の外部特性に関する再設定の必要性を画一的に判断することも可能である。これにより作業者による個人差を解消して、良質の溶接状態を安定的に維持することできる。
【0018】
次に、溶接機1の外部特性に関する再設定について説明する。実測した溶接電流値Ia,Ibが前記許容範囲Ja,Jbの範囲外に出てしまった場合には、溶接機1の外部特性に関する再設定が必要となる。この再設定のために許容範囲Ja,Jb中に、溶接電流値Ia,Ibを設定する際の設定目標電流値をスタッドの直径Dに応じて定めておくと、設定作業にきわめて有効である。図2及び図3中のKa,Kbは、その設定目標電流値ラインを示したものである。この設定目標電流値ラインKa,Kbは、設定後の溶接電流値Ia,Ibの変動の傾向を考慮して、再設定の頻度が最も少なくなるように、最適の設定値を選定して定めたものである。因みに、図2のSAP溶接法の場合では、Ia=28Dを設定目標電流値ラインKaとした。また、図3のアークスタッド溶接法の場合では、Ib=78Dを設定目標電流値ラインKbとした。
【0019】
溶接機1の外部特性に関する再設定においては、実測された溶接電流値Ia,Ibが設定目標電流値ラインKa,Kbで示された当該スタッドの直径Dに対応した設定目標電流値と一致するように溶接機1の外部特性を調整することにより行われる。なお、溶接機1に備えられた出力電流値の設定部に表示された電流値と実際の溶接電流値Ia,Ibとが大きく異なることは普通に起ることである。したがって、溶接機1の電流設定部の表示自体に依存して再設定を実施することはできない。そこで、再設定作業に際しては、例えば、溶接機1側に表示されたそれまでの設定電流値から実測された溶接電流値Ia又はIbを引いて差分を求め、その差分を設定目標電流値である28D又は78Dに加えるとともに、前記差分を前記設定電流値で除して求めた設定電流1アンペア当りの変動率を同差分に乗じた結果を上乗せして再設定電流値を求め、その再設定電流値に基づいて溶接機1側の出力電流値を再設定することにより、溶接機1の外部特性に関するほぼ的確な再設定が可能である。なお、以上の溶接機1側の設定電流値と実測電流値との差分に対応する溶接機に対する再設定電流値を予め図表にして備えておけば、溶接機1の外部特性に関する再設定作業の標準化及び効率化にきわめて有効である。
【0020】
さらに、図2及び図3に示したように、前記許容範囲Ja,Jbを更に再設定要否区分ラインLaとMaあるいはLbとMbとにより、それらの両ラインLaとMaとの間あるいはLbとMbとの間の再設定の必要のない再設定不要領域Na,Nbと、それ以外の再設定が必要な再設定領域Pa,Pbに区分することも、再設定作業の要否判断にきわめて有効である。これらの再設定要否区分ラインLaとMaあるいはLbとMbは、前述の溶接電流供給回路の抵抗値やインピーダンス値の変動による溶接電流値Ia,Ibに関する通常の変動幅を考慮して設定したものであり、溶接電流値Ia,Ibが再設定不要領域Na,Nb内にあれば、通常の変動が生じても許容範囲Ja,Jb内に納るように設定したものである。すなわち、溶接電流値Ia,Ibが許容範囲Ja,Jb内であっても、再設定領域Pa,Pbに該当する場合には再設定を実施することにより、通常の変動が生じても許容範囲Ja,Jb内に納るようにカバーしたものであり、結果的には溶接電流値Ia,Ibの実測の頻度を減らすことも可能である。因みに、図2のSAP溶接法の場合では、Ia=26Dを下方再設定要否区分ラインLa、Ia=30Dを上方再設定要否区分ラインMaとした。図3のアークスタッド溶接法の場合では、Ib=72Dを下方再設定要否区分ラインLb、Ib=84Dを上方再設定要否区分ラインMbとした。しかして、溶接電流値Ia,Ibに関する変動が再設定不要領域Na,Nb内に納る場合には再設定の必要性はなく、それを越えて再設定領域Pa,Pbに至る変動があった場合に再設定を実施すればよいことになる。
【0021】
なお、図4はスタッドとしての鉄筋をSAP溶接法により溶接を行う場合の鉄筋の直径Dと溶接電流値Ia及び溶接時間Taとの概略的な対応関係を示した概略対応関係表である。例えば、鉄筋の直径Dが25mmの場合には、許容範囲Jaの範囲内の500〜800アンペアのうちの当該溶接電流値Iaに応じて25〜17秒から対応する溶接時間Taを選定してSAP溶接を実施すれば、良質の溶接結果を安定して得ることができることを示したものである。また、図5はスタッドとしてのスタッドジベルをアークスタッド溶接法により溶接を行う場合のスタッドジベルの直径φと溶接電流値Ib及び溶接時間Tbとの概略的な対応関係を示した概略対応関係表である。同様に例えば、スタッドジベルの直径φが13mmの場合には、許容範囲Jbの範囲内の710〜1170アンペアのうちの当該溶接電流値Ibに応じて1.4〜0.9秒から対応する溶接時間Tbを選定してアークスタッド溶接を実施すれば、良質の溶接結果を安定して得ることができることを示したものである。なお、以上の対応関係表においては、中間の溶接電流値Ia,Ibと溶接時間Ta,Tbとの対応関係に関しては省略して示したが、それらの中間の対応関係についてもきめ細かく対応関係を表示しておけば、手動による溶接電流値Ia,Ib及び溶接時間Ta,Tbに関する設定作業の標準化や効率化にきわめて有効である。溶接時間Ta,Tbの設定は、例えば前記制御装置2に設置された溶接時間変更ダイヤルにより行われる。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)溶接銃又はその近傍にて溶接電流値Ia,Ibを実測するようにしたことから、溶接位置が溶接機から離れた場合でも手元において簡便かつ速やかに溶接電流値Ia,Ibを測定することができ、そのときどきの溶接電流供給回路の置かれた状態に基づく溶接電流値Ia,Ibの変動に対して迅速かつ的確に対応することができる。
(2)しかも、溶接電流値Ia,Ibが予めスタッドの直径Dに応じて定めた範囲外にある場合に、溶接機の外部特性を再設定するという技術手段を採用したことから、作業者による個人差が大幅に低減され、良質の溶接結果をより安定的に維持することができる。
(3)したがって、フィードバック制御等の高価な自動制御システムを使用しない溶接機でも良質の溶接状態が得られ、また既存の溶接機を買換えずに済むことから、設備コストを抑えることが可能である。
(4)SAP溶接法による場合には、スタッドを母材に溶植するに際して実測した溶接電流値Ia[A]がスタッドの直径D[mm]に応じて26D〜30Dの範囲外にある場合に溶接機の外部特性を再設定するようにすれば、前記溶接電流供給回路の抵抗値やインピーダンス値に関する通常の変動をカバーしながら良好な溶接状態を安定的に維持することが可能である(請求項2)
(5)SAP溶接法における溶接機の外部特性に関する再設定において、溶接電流値がIa=28Dを満たすように設定すれば、再設定作業の頻度の少ない、より効率的な調整状態が得られる(請求項3)。
(6)アークスタッド溶接法による場合には、スタッドを母材に溶植するに際して実測した溶接電流値Ib[A]がスタッドの直径D[mm]に応じて72D〜84Dの範囲外にある場合に溶接機の外部特性を再設定するようにすれば、前記溶接電流供給回路の抵抗値やインピーダンス値に関する通常の変動をカバーしながら良好な溶接状態を安定的に維持することが可能である(請求項4)。
(7)アークスタッド溶接法における溶接機の外部特性に関する再設定において、溶接電流値がIb=78Dを満たすように設定すれば、再設定作業の頻度の少ない、より効率的な調整状態が得られる(請求項5)。
(8)溶接機の外部特性の再設定に際して、溶接機側の設定電流値から溶接銃又はその近傍において実測した前記溶接電流値Ia又はIbを引いた差分を28D又は78Dに加えるとともに、更に前記差分を前記設定電流値で除した設定電流値1[A]当りの変動率を前記差分に乗じた結果を上乗せして再設定電流値を求め、その再設定電流値に基づいて溶接機側の出力電流値を再設定するようにすれば、溶接機側の設定電流値に関する目盛を基準にした、より的確な外部特性の再設定が可能である(請求項6)。
(9)溶接機側の設定電流値と実測電流値との差分に対応する溶接機に対する再設定電流値を予め図表にして備えておけば、手動による再設定作業の標準化及び効率化に更に有効であり、より簡便に的確な溶接電流値が得られる(請求項7)。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に使用される溶接装置全体を示した構成概念図である。
【図2】 SAP溶接法の場合におけるスタッドの直径Dと溶接電流値Iaとの相関関係を示した関係図である。
【図3】 アークスタッド溶接法の場合におけるスタッドの直径Dと溶接電流値Ibとの相関関係を示した関係図である。
【図4】 SAP溶接法の場合における鉄筋の直径Dと溶接電流値Ia及び溶接時間Taとの対応関係を示した概略対応関係表である。
【図5】 アークスタッド溶接法の場合におけるスタッドジベルの直径φと溶接電流値Ib及び溶接時間Tbとの対応関係を示した概略対応関係表である。
【図6】 スタッドの溶接に使用される従来の溶接装置の全体を例示した構成概念図である。
【図7】 SAP溶接法に一般的に使用される溶接機の外部特性を例示した外部特性図である。
【図8】 アークスタッド溶接法に一般的に使用される溶接機の外部特性を例示した外部特性図である。
【符号の説明】
1…溶接機、2…制御装置、3…溶接銃、4,5…溶接用ケーブル、6…母材、7…接地側ケーブル、8〜10…制御用ケーブル、11…操作部、12…スタッド、13…電流計、A〜F…特性曲線、Ga,Gb…下限許容溶接電流値ライン、Ha,Hb…上限許容溶接電流値ライン、Ia,Ib…溶接時に流れる溶接電流値、Ja,Jb…許容範囲、Ka,Kb…設定目標電流値ライン、La,Lb…下方再設定要否区分ライン、Ma,Mb…上方再設定要否区分ライン、Na,Nb…再設定不要領域、Pa,Pb…再設定領域
Claims (7)
- スタッドを母材に溶植するに際して、溶接銃又はその近傍にて溶接電流値Ia,Ibを実測し、その溶接電流値Ia,Ib[A]が予めスタッドの直径D[mm]に応じて定めた範囲外にある場合には、溶接機の外部特性を手動にて再設定するようにしたことを特徴とするスタッドの溶接方法。
- SAP溶接法によりスタッドを母材に溶植するに際して実測した溶接電流値Ia[A]がスタッドの直径D[mm]に応じて26D〜30Dの範囲外にある場合に、前記溶接機の外部特性を再設定することを特徴とする請求項1に記載のスタッドの溶接方法。
- 前記溶接機の外部特性に関する再設定において、前記溶接電流値がIa=28Dを満たすように設定することを特徴とする請求項2に記載のスタッドの溶接方法。
- アークスタッド溶接法によりスタッドを母材に溶植するに際して実測した溶接電流値Ib[A]がスタッドの直径D[mm]に応じて72D〜84Dの範囲外にある場合に、前記溶接機の外部特性を再設定することを特徴とする請求項1に記載のスタッドの溶接方法。
- 前記溶接機の外部特性に関する再設定において、前記溶接電流値がIb=78Dを満たすように設定することを特徴とする請求項4に記載のスタッドの溶接方法。
- 前記溶接機の外部特性の再設定に際して、溶接機側の設定電流値から溶接銃又はその近傍にて実測した前記溶接電流値Ia又はIbを引いた差分を28D又は78Dに加えるとともに、更に前記差分を前記設定電流値で除した設定電流値1[A]当りの変動率を前記差分に乗じた結果を上乗せして再設定電流値を求め、その再設定電流値に基づいて溶接機側の出力電流値を再設定するようにしたことを特徴とする請求項3又は5に記載のスタッドの溶接方法。
- 前記溶接機側の設定電流値と実測電流値との差分に対応する溶接機に対する再設定電流値を予め図表にして備えることを特徴とする請求項6に記載のスタッドの溶接方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
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