JP3843857B2 - 電動工具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転打撃工具の騒音の低減に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
回転打撃工具は手に伝わる反力が小さく締付け能力が高いことなどを特徴とし、現在広く用いられている。しかし打撃を利用した機構ゆえに騒音が大きく問題となっている。
【0003】
図2に従来から使用されている一般的な回転打撃工具の打撃機構部の構造断面図を示す。モータの駆動力により打撃機構部を動作させ、アンビルを打撃することにより先端工具に回転打撃力を与える。
【0004】
以下、打撃機構部について説明する。モータ1の駆動力は遊星歯車機構2を経てスピンドル9を回転させる。スピンドル9とハンマ5は、カムボール10とV字型カム溝9aで構成されたカム機構により連結されている。さらに、ハンマ5はスプリング4により常に前方に付勢されている。このカム、スプリング4の働きはつぎのようである。すなわち、スピンドル9、ハンマ5間が相対的にねじられたとき、ハンマ5はV字形に切られたV字形カム溝9aの作用でモータ1側へ後退し、ねじれから解放されるとスプリング4により加速されながら回転・前進する。また、ハンマ5、アンビル14はそれぞれ、回転平面上の2ヶ所に対称的に配置されたハンマ凸部5a,アンビル凸部14aを持ち、ハンマ凸部5aとアンビル凸部14aは回転方向にかみ合う位置にある。この凸部同士のかみ合いにより回転打撃力が伝えられる。
以上の構成により、回転打撃の動作は次のように進行する。スピンドル9の回転力はカム機構を経てハンマ5に伝わり、一緒に回転しはじめる。半回転しないうちにハンマ5、アンビル9の凸部同志がかみ合う。スピンドル9、ハンマ5は相対的にねじられることになり、ハンマ5はスプリング4を縮めながら後退を始める。ついには凸部の高さを乗り越えかみ合いが解ける。ハンマ5は、スピンドル9の回転力に加え、スプリング4に貯えられた弾性エネルギーによって回転方向に加速され、かつ前進を始める。ハンマ5が加速されているうちに、再び凸部同志が嵌合することになるが、このとき強力な回転打撃力がアンビル14に加えられ、被締付け部材に伝わる。そして再びハンマ5は後退を始める。
【0005】
以上が回転打撃のサイクルである。このサイクルの中でハンマ5は回転運動と同時に、前後運動もするが、アンビル14、先端工具13,ねじ16を介して被締付け部材を軸方向に打撃し、大きな騒音を発する。
【0006】
さて、回転打撃工具の作業時の騒音には、工具本体から発生する分と被締付け部材から発生する分の2つがあり、そのうち、被締付け部材からの騒音エネルギーは大きな割合を占めることがわかっている。騒音を下げるためには被締付け部材に伝わる前記軸方向の打撃力を小さくすることが先決である。特開平7−237152ではアンビルを2分割にし、軸方向の力を緩衝する手段をもたせた。それは、2分割されたアンビルを,軸方向の摺動が可能であるように嵌合させ、緩衝材を2分割されたアンビルの間に配設するものであった。この方法により、被締付け部材に伝わる軸方向の加振力は低減し、被締付け部材からの騒音の低減が実現した。
【0007】
2分割したアンビル同士の嵌合は、図6に示すような正方形によるものであった。
【0008】
ここで重要な問題となるのは、2分割した2つのアンビルが嵌合しているトルク伝達部の耐久性である。アンビルに回転方向の打撃力が加わるのと軸方向の加振力が加わるのは同時である。すなわちトルク伝達部は高トルク下で摺動を繰り返すこととなる。このため、トルク伝達部は回転打撃力に耐える強度と、高い面圧の下での摩擦に耐える表面硬度が必要となる。一方近年では、回転打撃工具の締付け性能向上のため、回転打撃力をより大きくしていく傾向にある。このような状況にあって、トルク伝達部は材料の強度、硬度を向上させるだけでは十分な耐久性を確保できなくなっている。したがって、トルク伝達部の設計の際に、材料に与える負担を小さくする嵌合形状を考えることが必要となっている。
また、大量生産にあたって製造コストをなるべく押さえることも求められる。冷間鍛造が望ましいが、原理上、角部、隅部の形状が丸くなることが避けられず、例えばインボリュートスプラインのように細かい歯が多数あるような形状は造ることができない。
【0009】
また、嵌合形状の寸法管理をしやすくすることも重要である。 寸法の狂いによって接触状態が大きく変わり寿命等に影響するからである。 例えば、複数の歯形を用いた嵌合形状を用いた場合などは、寸法の狂いによって一部の歯形のみに過重が集中し、破損をまねく恐れが生ずる。 また2分割アンビル方式は、トルク伝達部が軸方向に滑らかに可動とすることによって、軸方向の力を緩和するものである。このためには、トルク伝達部の嵌合は適切なスキマを持つ必要がある。 以上のように強度の面、騒音低減の面から、嵌合形状の寸法管理は重要である。 大量生産品の嵌合部の寸法管理には、ゲージを用いた検査が一般的である。 これは、寸法許容範囲の上限で製作したゲージと、下限で製作したゲージを用意し、部品にゲージが通るか止まるかで、部品寸法が許容範囲に入っているか否かを検査するものである。 検査が単純な作業で済むことが長所であるが、寸法値そのものは測定できない。このため、部品が不合格になったとき、どの寸法要素がどれだけ外れているかを特定するには別の追加検査が必要となる。 ノギスで測定可能であれば寸法値を直接測定することができるが、そうでない場合は専用のゲージを用意しなければならないし、測定が間接的になり定量的に寸法値を把握するのが難しくなる。 したがって、嵌合形状はノギスで測定できる形状とすることが、製造コスト、寸法精度の点から望ましい。
図6の四角形による嵌合形状は形状が単純であり、冷間鍛造に向いていること、寸法管理が簡単であることから採用したものであるが、耐久性に難があった。長く使用しているうちに、2分割したアンビル同士が嵌合部で食い付いてしまい、軸方向の力を緩衝することができなくなることがあった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
2分割アンビル方式においては、耐久性の高い嵌合形状が要求される。 また、製造コストの面から、冷間鍛造可能であることが要求される。また、寸法精度を確保することも重要であり、寸法管理をしやすくすることが要求される。
【0011】
本発明の目的は、2分割アンビル方式を採用している回転打撃工具において、トルク伝達部の嵌合形状を耐久性の高いものにすること、冷間鍛造可能にすること、寸法管理をしやすくすることである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、モータと、該モータの駆動力によって回転するスピンドルと、該スピンドルにカム機構を介して回動及び往復動可能に連結されるハンマと、該ハンマを付勢するスプリングと、該ハンマの回動及び往復動によって打撃される第1アンビルと、嵌合部を介して該第1アンビルにトルク伝達可能で軸方向に移動可能にかみ合う第2アンビルと、該第1及び第2アンビルの間に設けられるダンパと、を有する電動工具において、該嵌合部は、該第1アンビルに設けられた複数の歯部と、該複数の歯部とかみ合うよう該第2アンビルに設けられた複数の歯溝とを有し、該第2アンビルは該第1アンビルとの間に空間部を有し、該第1アンビルは該空間部に通じる貫通穴を有し、グリースが該貫通穴を経て該空間部にたまり、該嵌合部の潤滑がなされるよう構成することを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1に本発明による実施例の一つを示す。従来技術の一般的な回転打撃工具に2分割アンビル方式を用いている。アンビルは第1アンビル6、第2アンビル8、ダンパ7、ワッシャ15より構成される。図4,5にそれぞれ第1アンビル6、第2アンビル8の立体図を示す。第1アンビル6、第2アンビル8はトルク伝達部6bにおいて歯部6c、歯溝8bでかみ合う。第1アンビル6と第2アンビル8の間にゴム製のダンパ7が配設され、第1アンビル6とダンパ7の間にはワッシャ15が配設される。第1アンビル6と第2アンビル8にはトルク伝達部6bと同軸の円筒部6dと円筒穴部8aが設けてあり、わずかのスキマではめ合っている。また、第1アンビル6には第1貫通穴6eがあり、第2アンビルの穴底には空洞部8c、第2貫通穴8dが設けてある。
【0014】
図3により、2分割アンビル方式の動作を説明する。ハンマ5は軸方向に前進しながら回転し、第1アンビル凸部6aを斜め方向に打撃する。この時、第1アンビル凸部6aに作用する力も斜め方向となる。この力は図のように、回転方向成分と軸方向成分にわけて考えることができる。回転方向成分はねじを回す働きをする。軸方向成分は被締付け材を打撃し騒音を発生させる原因となるものである。
【0015】
2アンビル方式によって、軸方向成分の力は次にように減衰される。すなわち、軸方向成分の力は第1アンビル凸部6aから、ワッシャ15に伝わり分散し、ダンパ7で減衰される。その結果、被締付け部材17を打撃する力は軽減する。
【0016】
その他にも、図1には寿命を向上させる効果を持つ構成も盛り込まれている。
【0017】
第1アンビル6の歯部6cの根元には円筒部6dを形成し、これとはめ合う円筒穴部8aを第2アンビルに8設けてある。これらがスキマなくはめ合うことで、第1アンビル6、第2アンビル8は芯がずれることがなく、寿命が向上する。
【0018】
また、第1アンビル6に第1貫通穴6eを設け、第2アンビル8の穴底に空間部8cを設けることで、ハンマケース3内のグリースが第1貫通穴6eを通って空間部8cにたまり、嵌合部への潤滑が滞ることがなく、寿命が向上する。
【0019】
次に、トルク伝達部6bの嵌合形状について説明する。2分割アンビル方式においては、耐久性の高い嵌合形状が要求される。 また、製造が安価な冷間鍛造に向いていること、寸法管理がしやすいことが求められる。
【0020】
図7に本発明による嵌合形状の1つの例を示す。滑らかな曲線からなる6個の歯形で構成されている。このような形状にすることで、冷間鍛造が可能となる。また、歯形で構成することによりドライブアングルを小さくでき、嵌合部の接触面の面圧を小さくし、接触面の損傷を小さくし、嵌合部の食い付きを防ぐことができる。また歯数を多くすることも、嵌合部の接触面の面圧を小さくする効果がある。これらの効果と、ドライブアングルの意味については、後で詳細を説明する。なお、図6の四角形との差については、図中に示した、接触面に作用する力Fの大きさの違いから、接触面圧の違いをみることができる。これについても、後で詳細を説明する。
【0021】
以下に、歯数を多くする効果と、ドライブアングルを小さくする効果について図7により説明する。
【0022】
まず歯数を多くする効果について説明する。接触面と中心軸との距離rが同じ場合、歯数nを多くすることにより、1個の歯が担う回転力fcを小さくすることができる。式で表すと、伝達トルクをTとして、次式のようになる。
【0023】
fc=T/(r・n)
次にドライブアングルの意味とそれを小さくする効果について、図7により説明する。図7において、Fは接触面に作用する力をベクトルで表したものである。矢印の方向は力の方向、長さは力の大きさを表す。このとき、グリースにより適切に潤滑され摩擦力は小さい状態のため、簡易的に摩擦は無視して計算してみる。Fは回転方向成分、径方向成分に分けて考えることができ、それぞれをfc、frとする。ここでfbは、1個の歯が第2アンビルを回転させようとする回転力を意味する。そして、Fとfbがなす角をドライブアングルθと呼ぶことにする。そうすると、回転力fcを一定としてθを大きくしたとすると、Fはどんどん大きくなってしまうのがわかる。これはすなわち、ドライブアングルθが大きい嵌合形状では、歯にかかる回転力fcは同じでも接触面に作用する力Fは大きくなり、接触面圧が大きくなってしまうことを意味している。したがって、ドライブアングルθを小さくすることは、接触面圧を小さくし、嵌合部の食い付きを防ぐ有効な手段である。上記の関係は次式のように表すことができる。図中のFの値は次式により計算したものである。
【0024】
F=fc/cosθ=T/(r・n・cosθ)
図8に本発明による嵌合形状のもう1つの例を示す。平行な2面を多用して構成した4個の歯形で構成されている。歯形の詳細は、側面形状については左右対称で平行な2平面からなり、歯底形状については軸を中心として対称位置にある歯底どうしが互いに平行となる2平面からなり、外周形状については回転軸を中心とする円弧からなり、これらの形状の交わる個所には丸みを持たせてある。
【0025】
歯形が比較的滑らかであり、冷間鍛造が可能である。また、複雑な嵌合形状でありながらも、平行な2面を多用することにより、対辺をノギスで測定可能となり寸法管理が簡単になる。 図中に示したB1、B2、φDは、嵌合形状を規定する主要な寸法であるが、これらは全てノギスにより測定可能である。
【0026】
接触面圧についても、図中の接触面に作用する力Fの大きさが示すように、図6の四角形と比べて小さくなっている。
【0027】
【発明の効果】
嵌合形状を、滑らかな曲線からなる歯形で構成することで、ドライブアングルを40°以下と小さくでき、嵌合部の接触面圧を小さくし、接触面の損傷を小さくし、嵌合部の食い付きを防ぐことができる。また、冷間鍛造が可能となり製造コストを安価にすることができる。
【0028】
また、嵌合形状の歯形を、側面形状については左右対称で平行な2平面からなり、歯底形状については軸を中心として対称位置にある歯底どうしが互いに平行となる2平面からなり、外周形状については回転軸を中心とする円弧からなり、これらの形状の交わる個所には丸みを持たせた歯形にすることにより、上記同様ドライブアングルを25°以下と小さくでき、嵌合部の接触面圧を小さくし、接触面の損傷を小さくし、嵌合部の食い付きを防ぐことができる。また、冷間鍛造が可能となり製造コストを安価にすることができる。また、嵌合形状の測定がノギスで可能となり、寸法管理が簡単になる。
第1アンビルと第2アンビルがはめあう円筒部を設けることで、歯部の芯ズレを防止でき寿命が向上する。
【0029】
また、第1アンビルの第1貫通穴とグリースのたまる空間部の効果で、高い面圧の作用する歯部に常にグリース潤滑が行われ、食い付き防止と寿命向上がはかれる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による2分割アンビル方式を備えた回転打撃工具の打撃機構部の1実施例を示す構造断面図である。
【図2】 従来技術となる一般的な回転打撃工具の打撃機構部の1例を示す構造断面図である。
【図3】 2分割アンビル方式に作用する力を示した図である。
【図4】 2分割アンビル方式による第1アンビルの立体図である。
【図5】 2分割アンビル方式による第2アンビルの立体図である。
【図6】 従来技術となる、嵌合形状に正方形を用いた例である。
【図7】 本発明となる、嵌合形状に滑らかな曲線で構成した歯形を用いた例である。
【図8】 本発明となる、嵌合形状に平行な2面を多用して構成した歯形を用いた例である。
【符号の説明】
1はモータ、2は遊星歯車機構、3はハンマケース、4はスプリング、5はハンマ、5aはハンマ凸部、6は第1アンビル、6aはアンビル凸部、6bはトルク伝達部、6cは歯部、6dは円筒部、6eは第1貫通穴、7はダンパ、8は第2アンビル、8aは円筒穴部、8bは歯溝、8cは空間部、8dは第2貫通穴、9はスピンドル、9aはV字型カム溝、10はカムボール、11はメタル、12はオイルシール、13は先端工具、14はアンビル、14aはアンビル凸部、15はワッシャ、16はねじ、17は被締付け部材である。

Claims (1)

  1. モータと、
    該モータの駆動力によって回転するスピンドルと、
    該スピンドルにカム機構を介して回動及び往復動可能に連結されるハンマと、
    該ハンマを付勢するスプリングと、
    該ハンマの回動及び往復動によって打撃される第1アンビルと、
    嵌合部を介して該第1アンビルにトルク伝達可能で軸方向に移動可能にかみ合う第2アンビルと、
    該第1及び第2アンビルの間に設けられるダンパと、
    を有する電動工具において、
    該嵌合部は、該第1アンビルに設けられた複数の歯部と、該複数の歯部とかみ合うよう該第2アンビルに設けられた複数の歯溝とを有し、
    該第2アンビルは該第1アンビルとの間に空間部を有し、該第1アンビルは該空間部に通じる貫通穴を有し、グリースが該貫通穴を経て該空間部にたまり、該嵌合部の潤滑がなされるよう構成したことを特徴とする電動工具。
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