JP3837534B2 - 釣り餌用昆虫由来の繭糸の分離方法、ならびにこの分離繭糸を用いた繊維製品およびその製造方法 - Google Patents

釣り餌用昆虫由来の繭糸の分離方法、ならびにこの分離繭糸を用いた繊維製品およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、釣り餌用昆虫由来の繭糸の分離方法、ならびにこの分離繭糸単独をまたはこの繭糸との複合素材を紡績した繊維製品およびその製造方法に関わる。この繊維製品とは紡績製品であり、紡績糸も含まれる。
【0002】
【従来の技術】
近年、釣りの趣味にも多様性が求められるようになり、淡水魚の釣りも産業として成立している。釣り用の餌である昆虫には、ブドウスカシバ幼虫、ハチミツガ幼虫、赤虫、サシ、クリ虫等がある。なかでも、渓流釣り用の餌としてはブドウスカシバ幼虫およびハチミツガ幼虫が好まれる。
【0003】
上記ブドウスカシバ幼虫(天然ブドウ虫)は、限られた季節にしか自然に発生しないので、入手可能な時期や供給量が限られており、幻の餌と呼ばれ珍重されている。必要なときに入手困難であるため、天然ブドウ虫の代わりに、疑似ブドウ虫(例えば、養殖ハチミツガ幼虫)が釣り用の生き餌として販売されている。このハチミツガ幼虫は、養殖できるため、需要に応じて生産量を増加することが容易である。そのため、現在では1年中いつでも手に入れることができ、従来の天然ブドウ虫よりも安価に提供されている。
【0004】
ブドウ虫(以下、疑似ブドウ虫および天然ブドウ虫を総称してブドウ虫と称す。)がつくる繭糸は繊維状であり、飼育過程で生じる繭糸は夾雑物が混じっている状態で存在する。ブドウ虫が釣り餌として重宝されるようになった現時点においてさえ、これらの生育・増殖の過程で生ずる繭糸にはその価値が全く認められておらず、繭糸は全て廃棄され、利用されていない。これは、多くの夾雑物が強く付着した繭糸から、繭糸だけを分離することが困難であるためである。すなわち、人工飼料で生育されたブドウ虫は、成熟後又は飼育中に飼育環境下で吐糸し、この吐糸された繭糸には、飼育のために使用した人工飼料、幼虫の糞、飼料の一部である餌カス、蛹、脱皮殻、水分等の夾雑物が多量に付着している。この夾雑物を含む繭糸から繭糸だけを分離することは極めて困難であり、従来、簡単な分離方法はなかった。そのため、ブドウ虫由来の繭糸を資源として利用しようとする技術開発が遅れたのである。なお、夾雑物中に含まれる幼虫をこのまま放置すると蛹となり、しかるのち成虫となって羽化するため、上記夾雑物に加えて脱皮殻や、成虫が羽化後死亡するとその死骸が残留し、夾雑物量が更に増加するので、繭を作った後の蛹に熱を加えて乾燥・死滅させなくてはならないという問題もある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、ブドウ虫を飼育する過程で副産物として生じる餌カス、糞等の多量の夾雑物が混じっている繭糸は廃棄せざるを得なかった。このため、衣料原料として利用価値のあるブドウ虫由来の繭糸を夾雑物から分離し、繭糸だけを取り出す技術の開発が望まれていた。
【0006】
上記したように、ブドウ虫繭糸は、これまで、資源としての価値が全く認められていなかったので、この繭糸を衣料分野の素材として利用しようとする技術開発は全く行われていなかった。そのため、夾雑物とブドウ虫繭糸とを効率的に分離し、この分離した繭糸の利用技術を開発することは産業の振興のために有意義なことである。
【0007】
本発明の課題は、上記したような従来技術の問題を解決することにあり、釣り餌用昆虫の繭糸を精製・分離する方法、ならびに夾雑物から分離した繭糸(以下、分離繭糸と呼ぶこともある。)を用いた繊維製品およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、人工飼料で飼育した釣り餌用昆虫、例えばブドウ虫(養殖ハチミツガ幼虫や天然ブドウ虫等)について、多量の餌カス、糞、脱皮殻等からなる夾雑物の混じった繭糸から、衣料素材として利用できる繭糸を分離する経済的で効率的な精製・分離方法を開発すべく鋭意検討していた。その結果、繭糸と多量の餌カス、糞、脱皮殻等からなる夾雑物との混合物に特定の成分を有する粉末分離材を均一にまぶし、これを金属製あるいは布製等の篩にかけて夾雑物を選択的に除去することにより、紡績用素材として利用できる繭糸を分離することができることを明らかにし、本発明を完成するに至った。また、この分離した繭糸をサンプルローラーカードにかけて繊維を引き揃えることにより、これを紡績機にかけて新しい機能を有する紡績糸を製造することができること、あるいは、所望によりこの分離繭糸のシルクウエブに第二の繊維素材のシルクウエブを複合し、この複合シルクウエブから複合シルクラップにした後、これを紡績機にかけて複合紡績糸を製造することができること、さらには、この複合紡績糸を用いて紡績織物等の繊維製品を製造することができることを明らかにした。
【0009】
請求項1によれば、本発明の繭糸の分離方法は、釣り餌用昆虫を飼育する過程で生ずる夾雑物が混じっている繭糸に粉末分離材を加え、これを篩処理し、該夾雑物を取り除いて繭糸を得ることを特徴とする。このようにして精製・分離された繭糸は紡績用の繊維素材として有用である。
上記繭糸の分離方法において、請求項2によれば、粉末分離材は、タルクとデンプンとを含んだものであることが好ましく、請求項3によれば、篩処理は、目の粗い篩を用いる第一の篩い段階および第一の篩より目の細かい篩を用いる第二の篩い段階により行われることが好ましく、また、請求項4によれば、釣り餌用昆虫はブドウ虫であることが好ましい。
請求項5によれば、上記夾雑物は、蛹、餌カス、脱皮殻、幼虫の糞、水分等である。
【0010】
請求項6によれば、本発明の繊維製品は、上記分離方法により分離した繭糸を単独で紡績してなるか、またはこの繭糸からなる第一繊維素材と第二繊維素材との複合素材を紡績してなることを特徴とする。この繊維製品は、各種衣料素材として有用なものである。
請求項7によれば、上記繊維製品は、上記第一繊維素材から得られた繭糸のシルクウエブを紡績してなるか、またはこのシルクウエブと予め一方向に引き揃えられた第二繊維素材のシルクウエブとを混ぜて複合シルクウエブとし、この複合シルクウエブから製造された複合紡績用シルクラップを紡績してなることを特徴とする。ここで、ウエブとはカードのドッファーからはぎ取られた繊維からなる薄膜であり、また、ラップとは繊維をシート状にしたものを円筒に巻いたものである。
【0011】
請求項8によれば、上記第二繊維素材は、綿蚕および家蚕から選ばれた蚕の繭層、繭糸、選除繭糸、毛羽、もしくは屑糸由来の素材であるか、または天蚕、柞蚕、エリサン、ムガ蚕、ヨナグニサン、アナフェサン、およびクリキュラサンから選ばれた野蚕の繭層、繭糸、選除繭糸、毛羽、もしくは屑糸由来の素材であることを特徴とする。
【0012】
請求項9によれば、本発明の繊維製品製造方法は、上記分離方法により分離された繭糸からなる第一繊維素材を単独で紡績するか、またはこの第一繊維素材に第二繊維素材を複合して紡績し、繊維製品を得ることを特徴とする。
請求項10によれば、上記繊維製品製造方法において、第一繊維素材をサンプルローラーカードにかけて繭糸のシルクウエブを得、このシルクウエブを紡績するか、またはこのサンプルローラーカードにかけて得られた繭糸のシルクウエブに、ハンドカードおよび電動式カードにかけて予め一方向に引き揃えた第二繊維素材のシルクウエブを混ぜて複合シルクウエブを得、この複合シルクウエブを再度サンプルローラーカードにかけて複合紡績用シルクラップを製造し、この複合紡績用シルクラップを機織して繊維製品を得ることを特徴とする。
請求項11によれば、第二繊維素材は、上記の通りである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係わる繭糸の分離方法、ならびにこの分離した繭糸を用いた繊維製品およびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の繭糸の分離方法によれば、釣り餌用昆虫を人工飼料で飼育する過程で生ずる蛹、餌カス、糞、脱皮殻、水分等からなる多量の夾雑物の混じった繭糸に、後述する粉末分離材を均一にまぶし、これを篩手段にかけることで夾雑物として多量に含まれる餌カス、糞等を取り除き、その結果、衣料材料として利用できる繊維だけを分離することが可能となった。すなわち、この粉末分離材を均一になるまで混ぜた後に、第一段階の目の粗い篩と、第一段階の篩よりも目の細かい第二段階の篩とにかけることで夾雑物を除去し、夾雑物を含まない釣り餌用昆虫由来の純粋な繭糸を得ることができる。
【0015】
本発明によれば、かくして得られた繭糸を単独で紡績して紡績糸を得、あるいはこの繭糸単独の第一繊維素材に綿蚕あるいは野蚕由来の繭綿等の天然生体素材等である第二繊維素材を複合させた後、紡績して複合紡績糸を得、そしてこの新しい機能を持った複合紡績糸を用いて紡績織物等の紡績製品を提供することができる。紡績製品を得るための紡績機械としては、少量の素材でも比較的手軽にしかも安価に紡績糸を製造することができる我が国独自の開発によるガラ紡績機を用いてもよい。例えば、上記のようにして分離した繭糸をサンプルローラーカードに好ましくは複数回(例えば、3回程度)繰り返してかけ、繊維を一方向に引き揃えて製造した嵩高な素材であるシルクウエブ(綿状試料)を、そのままガラ紡績機にかけて紡績糸を製造することができるし、また、上記サンプルローラーカードにかけた第一繊維素材に、予めハンドカード、次いで電動式カードにかけて繊維を一方向に引き揃えて製造した第二繊維素材のシルクウエブを複合し、その後、この複合シルクウエブを再度サンプルローラーカードに好ましくは複数回(例えば、2回程度)かけてできる複合シルクウエブ(綿状試料)を従来の紡績機や、簡便にはガラ紡績機にかけることで第一繊維素材と第二繊維素材とからなる複合紡績糸を製造することもできる。
【0016】
以下、釣り餌用昆虫、夾雑物、釣り餌用昆虫由来の繭糸、粉末分離材、篩手段、第二繊維素材、精練、紡績、カーディング等について詳細に説明する。
(釣り餌用昆虫)
本発明で用いる釣り餌用昆虫の幼虫は、そのライフサイクルの間に数回脱皮し、成熟して繭を作る。通常の繭は、そのサイズが短径7〜9mm、長径20〜22mmで、細長く小型で楕円球型をしており、繭層は堅くかつ薄く、かたくしまった繭層ではなく、ボカボカした繭層状態を呈する。この繭から繰糸されて得られる繭糸は直径が5μm程度で天然素材としては多分に細い素材である。通常、成熟した体重0.2〜0.3gの釣り餌用昆虫は、およそ25〜35mgの繭糸を吐き出す。後述の大型化した体重0.35〜0.4gの幼虫では、およそ50〜70mgの繭糸を吐き出す。
【0017】
(夾雑物)
釣り餌用昆虫を1匹ずつ別個に区分けし、繭糸に人工飼料やその他の夾雑物が付着しないように十分に配慮して繭を作らせると、人工飼料や糞等の夾雑物が付着していない繭糸を得ることができるが、飼育効率を高めるためには、飼料が入った飼育箱の中で釣り餌用昆虫を大密度で集団として飼育せざるを得ない。
釣り餌用昆虫を集団で人工飼料を用いて飼育すると、成熟して吐き出す繭糸には、水分、餌カス、幼虫の糞、脱皮殻、蛹等からなる夾雑物が多量に強く付着しており、この夾雑物から繭糸を分離することは困難である。例えば、人工飼料を300〜500g用いて釣り餌用昆虫を飼育した場合、通常200gの夾雑物が生じるが、この中には約5gの餌カスが含まれ、糞と餌カスの合計はおよそ50gである。大型化した釣り餌用昆虫の場合、夾雑物付着量は、通常の場合の約20〜80重量%増しとなる。これらの夾雑物が多量に混じった釣り餌用昆虫繭糸からどのようにして繭糸のみを除去するかが本発明の課題でもあり、本発明者らはこれに成功した。
また、繭の中で幼虫が蛹となり、蛹が蛾となり蛾が繭糸を溶かして発蛾すると、繭糸をいためる危険性や、脱皮殻が夾雑物に更に混じり夾雑物量が増加し繭糸分離が更に困難となるという問題がある。繭糸質が低下しないように繭を乾燥させて蛹を殺すことが望ましい。この乾燥により、以下述べるように繭質も安定化する。
【0018】
(釣り餌用昆虫由来の繭の乾燥)
釣り餌用昆虫繭の繭質を安定させるためには、一般に60〜90℃、好ましくは60〜85℃、より好ましくは65〜80℃で10〜30時間以上の時間をかけて乾燥するのがよい。乾燥効率を上げるために90℃を超えた温度で過度の乾燥処理を行うと、繭のセリシンの溶解性が低下して水不溶になってしまい、カード行程でうまく開綿できない等の問題が生ずる。また、60℃未満で乾燥すると、長時間乾燥しなければならず効率的でない。初め低い温度で乾燥率50%程度まで乾燥し、次いでそれより高い温度で十分に乾燥するという二段階工程を取ることが好ましい。例えば、予備乾燥として80℃程度で20時間継続して乾燥すると、原材料は50重量%まで減量し、引き続いて本乾燥で80℃で5日間かけて十分に乾燥させると、最初の重量の30%まで減量する。
【0019】
(釣り餌用昆虫繭の熱水処理)
釣り餌用昆虫繭を沸騰水中に所定の時間(例えば、20分間)入れると、繭糸が水を吸ってベトベトになり、繭の形態がくずれてしまうため、家蚕繭の場合と同じ方法で煮繭して、その繭糸を繰糸することは困難である。そこで考えられる方法は、釣り餌用昆虫が作る繭糸を引き揃えて紡績糸の原料としての利用を図ることである。
また、釣り餌用昆虫繭糸と第二繊維素材と複合させて紡績糸を製造する場合にも、複合紡績糸を製造する前の段階で精練することは困難であるので、少なくとも複合紡績糸にしてから所望により精練する方法をとる方がよい。そのため、釣り餌用昆虫繭糸から衣料用の紡績糸、織物を製造する際には、後練りをすることが好ましい。
【0020】
(繭糸の繊維長)
紡績糸を製造する原料としては、カード工程を効率的に行うために、繊維長が一定以上の長さを有する必要がある。また、紡績糸を用いる紡績製品等の繊維製品の特性は、原料の繊維長や繊維特性により決まる。綿蚕や野蚕の毛羽(繭の表面に多く局在する毛羽状の試料)や繭糸を素材にするには、試料作製条件によっても異なるが、繊維長は通常50mm以上あるため、これらは単独でも十分に紡績糸の原料となり得る。しかし、釣り餌用昆虫繭糸は、繊維が極めて細く、かつ有効繊維長がおよそ6mm以下であるため、繭糸単独の紡績糸を得るためには、サンプルローラーカードで十分にカーディング(開綿)する必要がある。
【0021】
(粉末分離材)
本発明で利用できる夾雑物除去のための粉末分離材としては、例えば、タルクとデンプンとを含む粉末分離材が望ましい。粉末分離材に含まれるタルクとデンプンとの割合は、以下の実施例10および表7から明らかなように、一般にタルクが50〜99重量%、デンプンが50〜1重量%であり、好ましくはタルクが75〜97重量%、デンプンが25〜3重量%であり、より好ましくはタルクが90〜97重量%、デンプンが10〜3重量%であれば、夾雑物を除去して繭糸を有効に分離することが可能である。タルクが99重量%を超えた粉末分離材を用いると、タルクが超微粉末であるため作業中に粉末が飛散し、作業環境を悪化するので好ましくない。そこで、吸湿性のあるデンプンを1〜50重量%添加すると、粉末分離材と繊維との親和性がよくなるので、タルクの飛び散り方も少なくなり、作業環境も良くなり、分離効率も高まる。デンプンが50重量%を超えると、吸湿性の高いデンプンの影響を受け、粉末分離材が空気中の水分を吸着してベト付いてしまい不都合であると同時に、飼料カスが多量に付着した繊維を分離する効率も悪くなる。
【0022】
タルクは非吸湿性素材として、また、デンプンは吸湿性素材として、両者を混ぜることにより、篩にかけた時に釣り餌用昆虫繭糸に混じった夾雑物を除去する役目を果たす。なお、夾雑物に多くの水分が含まれている場合には吸湿性に優れるデンプンの含有量を多めに適宜配合すればよく、夾雑物が乾燥している場合にはデンプン含量を少なめに適宜配合すればよい。
上記条件で十分に乾燥した繭糸に、例えばタルクとデンブンとを含む粉末分離材、簡便には幼児用の市販ベビーパウダーを均一にふりかけ、手で丁寧にまぶす。このベビーパウダーとして、例えばシッカロール(登録商標、和光堂株式会社製)として知られているベビーパウダーを用いることもできる。
【0023】
タルク(滑石)は、減摩剤として、また、薬、化粧、紡績等の分野で用いられているもので良く、市販品(例えば、和光純薬工業株式会社製、商品番号209-00015)をそのまま用いることができる。タルクは、葉片状、鱗状を呈し、やわらかく湾曲性あり、割れ口が不規則又は多片状のものはステアタイトまたは石けん石(soap stone)と呼ばれる。硬さ1〜1.5、比重2.7〜2.8である。本発明で用いる粉末分離材の成分として、タルク以外に、粒度が2μm以下の細かい無機物(例えば、シリカゲル等)であってもよく、その素材はタルクに限定されない。
【0024】
デンプンとしては、特に制限があるわけではないが、例えばトウモロコシデンプンを用いることができる。トウモロコシデンプンは、市販のものであってもよいし、例えば、次のようにして製造したものでもよい。先ず、原料のトウモロコシを3%の亜硫酸水に入れ、55℃で2昼夜かけて膨潤させる。これを圧砕機ですりつぶし、胚芽分離機にかけて、デンプン、グルテン、繊維質の混合物を調製する。この混合物を200メッシュの振動ふるいにかけ、次いでボーメ5〜7度に調節してテーブルにかけ、デンプンだけを沈殿させる。この沈殿物を集めて水洗、脱水してトウモロコシデンプンを得る。本発明では、上記トウモロコシデンプンの他にも、例えばコムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン等を利用できる。
粉末分離材の使用量は、特に制限があるわけではなく、乾燥した釣り餌用昆虫繭糸試料の状態を観察して適宜設定すればよいが、通常、等量使用するのが好ましい。
【0025】
(篩手段)
上記粉末分離材を均一にまぶした繭糸を、先ず、目の粗い金属製、プラスチック製、布製の篩(例えば、ステンレス製の篩目の大きさが4mm角形の篩)を用いた第一の篩い段階にかけ、繭糸に付着した夾雑物を除去し、次いで第二の篩い段階として、第一の篩よりも目の細かな金属製、プラスチック製、布製の篩(例えば、ステンレス製の篩目の大きさ1mm)を用いて繭糸中に残存する夾雑物を除去する。この篩い目のサイズは特に制限があるわけではなく、夾雑物の大きさを観察して適宜設定すればよく、また、この篩処理は、所望により複数回繰り返しても良い。
【0026】
(第二繊維素材)
本発明で用いることができる第二繊維素材としては、例えば、綿蚕および家蚕から選ばれた蚕の繭層、繭糸、選除繭糸、毛羽、もしくは屑糸由来の素材、または天蚕、柞蚕、エリサン、ムガ蚕、ヨナグニサン、アナフェサン、およびクリキュラから選ばれた野蚕の繭層、繭糸、選除繭糸、毛羽、もしくは屑糸由来の素材を挙げることができる。セリシンを取り除く前の未精練の毛羽でもよいし、毛羽を取り除いた後の繭層をアルカリ水溶液や酵素で処理してセリシンを除去した繊維状試料であってもよい。
【0027】
上記綿蚕は、柔らかい繭層を作る遺伝子的に特異的な蚕であり、かたくしまった繭層ではなく、ボカボカした繭層を作る。また、大造(だいぞう)と呼ぶカイコも同様の繭を作る。これら綿蚕や大造の毛羽および繭層は紡績糸製造に絶好の素材である。本件出願人である独立行政法人農業生物資源研究所(旧称:蚕糸・昆虫農業技術研究所)には、こうした目的で利用できる綿蚕品種が育種素材として多数保存されており、綿蚕や野蚕の系統としては、例えば、綿蚕「49」、綿蚕「17」や、大造等が保存されている。これらの系統の繭糸繊度は、およそ2.5〜2.9d(デニール)の値を示す。
【0028】
(セリシン除去率)
本発明によれば、釣り餌用昆虫繭糸から得られた紡績糸を用いて、また、所望により、この繭糸のシルクウエブに、綿蚕、野蚕等の第二繊維素材から製造したシルクウエブを混ぜた混紡素材の複合紡績糸を用いて紡績製品を製造する。このようにして得られた紡績糸、紡績製品の風合い感、特性は繊維素材のセリシン除去率、すなわち精練の度合いと関係する。
【0029】
以下、セリシンの除去率、セリシンの残留率について記述する。
繭糸の表面には繭糸重量基準で通常20%程度のセリシンが付着している。本発明において第二繊維素材原料として用いる、繭層がやわらかく、繭から糸が取り出しやすいエリサン繭および綿蚕繭や大造繭ならびに家蚕の毛羽は、セリシンを除去することなくそのままハンドカードで開綿してもよい。しかし、毛羽を除去した家蚕や、柞蚕、天蚕、ムガ蚕等の野蚕の繭層は、繭糸同士がセリシンでかたまり、相互に固着しているので、必ずアルカリ薬剤や酵素によりセリシンを除去して精練する必要がある。そして、いったん精練した家蚕、柞蚕、天蚕、ムガ蚕等の繊維は、かたくしまった繭層ではなく、ボカボカした繭層状態を呈するので、上記綿蚕繭や大造繭等と同様にハンドカード、電動式カードに順次かけて開綿し、シルクウエブにすることができる。また、所望により、こうして開綿した家蚕、野蚕のシルクウエブに開綿した釣り餌用昆虫繭糸のシルクウエブを複合し、サンプルローラーカード等にかけることで紡績用の複合糸原料を製造できる。
【0030】
また、綿蚕の場合、公知の技術でセリシンを除去した、あるいは必要最小量残した綿蚕繭糸と釣り餌用昆虫繭糸とを混紡することも可能である。セリシンを残す量を変えるには、精練状態を6歩練り、あるいは7部練りという具合にすればよい。
【0031】
(アルカリによる精練)
紡績繊維製品の性能は、原料繭糸の精練の程度と密接に関係する。また、上記したように、綿蚕繭糸、毛羽、野蚕繭糸等の表面のセリシンを除去する程度、すなわち精練度合いは、紡績用のラップならびに紡績繊維製品の製造効率とも密接に関連している。繭層の繭糸は繭糸間がセリシンで膠着されており、ハンドカード操作だけでは容易に開綿し難いため、ハンドカード操作を行う前に繭層をアルカリ水溶液で処理して精練しておく必要がある。しかし、過度な精練でセリシンを必要以上に除去してしまうと、カード操作工程で針布に植えた針の中に繊維が食い込み、その結果、埋め込まれてしまってうまく開綿できず、カーディング作業の効率が低下する。この素材を用いると紡績工程で仕上がる紡績糸に節状のネップが不均一に発生してしまい、商品価値が低下してしまう。
【0032】
(繭糸の精練)
綿蚕繭糸や野蚕繭糸を用いて製造した紡績糸(例えば、ガラ紡績糸)を後練り精練するには、例えば表1に記載の条件で通常の精練方法に従い、2度の精練(下練り、仕上げ練り)をするとよい。
Figure 0003837534
Figure 0003837534
表中:クレワットK(商品名、帝国化学産業株式会社製);スコアロール−400(商品名、花王株式会社製);モノゲン170−T(商品名、第一工業製薬株式会社製)。
【0033】
上記精練の後、更に35℃〜40℃で4回水洗いした後、フェルトカレンダーを用いて100℃で仕上げ、目的物を得る。
なお、紡績糸の原料として、綿蚕繭、家蚕繭、野蚕繭の毛羽を利用できるが、毛羽量は通常繭層重量の20%程度しかとれない。毛羽をとった繭はかたい繭層なので、このままでは紡績用原料とはならない。そのため、繭糸表面のセリシンを除去する精練作業が必要となる。石けんによる通常の精練でもよいが、糸を傷めないためには酵素精練が望ましい。
上記精練は、上記繭糸については紡績後に、あるいは紡績糸を用いて繊維製品を製造した後に行う必要がある。この精練により、紡績糸を構成する繊維間に空間が生じ、やわらかく風合にすぐれた繊維製品となる。
【0034】
また、エリサン、天蚕、アナフェサン、クリキュラサン等の野蚕が作った繭層は、硬すぎてハンドカードで素材を梳ることができない。そのため、カード工程に先立って原料をまず精練する必要がある。この精練には、石けん、アルカリ水溶液によるもののほか、アルカラーゼ、ラーゼンパワー等の酵素を用いる方法がある。通常、石けん、アルカリ水溶液(例えば、繭糸重量に対して50倍量の0.1%過酸化ナトリウム水溶液等)による精練は90〜95℃で、また、酵素精練は35〜45℃で所定の時間行うのがよい。
天蚕繭糸の表面には緑色色素があるため、温度の高い温湯で精練すると繭本来の色が脱色してしまう恐れがあるので、天然の色調を活かした繭糸を製造するには、酵素精練することが特に好ましい。
【0035】
上記綿蚕繭糸から粗綿あるいは精綿を製造するには、粗綿化工程の前にこの繭糸表面に付着しているセリシンを取り除いてもよいし、セリシンを残したまま粗綿、精綿をしてもよい。セリシンを取り除く精練は、通常、アルカリ水溶液で行うとよい。例えば、最初に40℃前後の温湯に繭糸を30分前後浸漬して、セリシンの膨潤・軟化をはかる(前処理または荒練り)。次に、15〜20%owf(繊維重量に対する濃度%)のセッケン溶液にて、97〜99℃で2時間程度精練して大部分のセリシンを溶解除去する(本練り)。さらに、必要に応じて精練浴を更新して本練りを行って、精練不足、精練ムラを是正するとともに均一な精練仕上がりに努める(仕上練り)。続いて、繊維に付着しているセッケンや溶出したセリシンを洗い落とすために、1%owf前後の炭酸ナトリウムで、約80〜90℃、10〜15分間かけて湯練りを行う(ソーダ返し)。最後に、約0.5%owfの炭酸ナトリウムを用い、50〜60℃にて洗浄を繰り返した後、湯洗、水洗を充分に行って精練を終了する。
ここで、ソーダ返しとは、精練に用いたアニオン界面活性剤が繊維に残留すると絹製品上問題となることが多いので、炭酸ナトリウムを用いて後処理することで残留アニオン界面活性剤を除去することを意味する。
【0036】
(紡績)
紡績糸を製造するには、カード工程により、原綿である繊維素材をできるだけ嵩高く一方向に引き延ばし、広げて真綿状にすることが必要である。通常、この工程は手持タイプのハンドカードで行う。ハンドカード操作だけでは、原綿は嵩高くはなるが、紡績用糸の原料として望まれるような一方向に十分に引き揃えることはできない。そのため、ハンドカードに加えて、電動式カードで原綿をできるだけ一方向に梳る操作が必要である。一方向に引き揃えた真綿状の紡績用ラップ(シルクウエブと呼ぶ場合もある)を公知の紡績機にかけることで紡績糸が製造できる。
【0037】
(カード用針の長さ)
綿蚕繭等のセリシンが付着した毛羽をハンドカード、電動式カードにかけるには、従来の針密度のカードでもよい。しかし、繊維が細い釣り餌用昆虫繭糸や精練済みの柔らかい毛羽をカードにかける際に、針密度が粗いハンドカードや電動式カードにかけると針布に植えた針の中に繊維が食い込み、その結果、埋め込まれてしまって、カードの効果が現れない。そのため、釣り餌用昆虫繭糸や毛羽は、比較的短い針で針の密度が高いサンプルローラーカードにより引き揃えるのがよい。
【0038】
(混紡による複合化)
本発明で用いる釣り餌用昆虫繭糸の繊維長は短いが単独で紡績糸を製造することもできるし、所望によっては、この繭糸に上記第二繊維素材を複合して紡績糸を製造することも可能である。この第二の繊維素材としては、上記したように、綿蚕、普通繭糸、選除繭糸、毛羽、屑糸の他、天蚕、柞蚕、エリサン、ヨナグニサン、アナフェサン、クリキュラ等の野蚕由来の繊維状態の繊維を用いることもできるし、その他に、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル等の合成繊維、ビスコース繊維、銅アンモニア繊維、酢酸繊維等を用いることもできる。また、木綿に代表されるセルロース繊維や、羊毛、羊毛由来のケラチン繊維、麻(亜麻、苧麻、大麻)等を用いることもできる。羊毛のように繊維表面に鱗状のスケールがあるものを第二繊維素材として用いると、複合糸の紡績性は向上する。なお、合成繊維等を複合する場合、できる限り繊度の小さい、細いものを用いると良い。
【0039】
(混紡割合)
複合紡績糸の触感やかたさ、やわらかさ等の力学的特性は、複合する綿蚕繭糸などの第二繊維素材の太さ(繊度)、繊維長、釣り餌用昆虫繭糸との複合率によって大きな影響を受ける。例えば、繊度が3〜4dの綿蚕繭糸を複合させるには、釣り餌用昆虫繭糸と綿蚕繭糸との量比(%)は90:10〜0:100の範囲で任意に選ぶことができるが、複合率30:70〜60:40付近が最も好ましい。
複合素材中の釣り餌用昆虫繭糸の割合が多くなると複合糸の繊度は細くなり、しなやかになるが、紡績性に欠け、また、割合が少なくなると、繊度の小さいこの繭糸の存在効果が薄くなる。
【0040】
(カード)
綿蚕や野蚕の繭糸を広げ、一方向に引き揃えるために行う工程がカーディングであり、通常簡便にはハンドカードが用いられる。本発明で用いるハンドカードは、髪を梳くブラシの形をしたものであり、針床に鋼鉄製の針を植え込んだ簡易なタイプであってもよい。このハンドカードには、一定の太さと長さの針が一定の密度でびっしりと植えられており、この針により繊維素材が梳られて繊維長が均一となり、ふくらみのある紡績素材に開綿できる。開綿を効率よく行うには針床に埋め込まれる針には十分しなやかさが必要であり、この針の太さがほぼ0.385mmを超えると、綿蚕等の繭糸は一方向に引き揃えられずに糸切れを起こすし、ほぼ0.20mm未満だと針がやわらかすぎてうまくカーディングできない。針の高さは、14mm程度でうまくカーディングできるが、短すぎるとカーディングはうまく行かない。釣り餌用昆虫繭糸の場合は、通常ハンドカードを用いないが、他の繊維素材と複合する際には、サンプルローラーカードの他にこのハンドカードを用いることもできる。
【0041】
本発明で最も好ましく用いられるハンドカードの構成仕様はつぎの通りである。針の太さ:0.385mm、高さ:14mm、針密度:17〜18本/cm
釣り餌用昆虫の繭糸をサンプルローラーカードにかけると、おおまかに一方向に引き揃えられる。次に、きれいに引き揃ったウエブを製造するには電動式カードを用いても良い。電動式カードの仕様は任意のものでよい。
【0042】
(紡績用ラップの調製)
紡績用素材を一方向に引き揃えて紡績糸の原料としての紡績用ラップにするには、カーディング操作を繰り返す必要がある。ハンドカードで大まかに繊維を一方向に引き揃え、次に電動式カードで一方向にきれいに引き揃えると良い。
釣り餌用昆虫繭糸のように極めて細い繊維の場合、針密度が粗いハンドカードや電動式カードでは繊維が針の中に入り込んでしまうので利用できない。そのため、この繭糸はサンプルローラーカードにかけて梳り、一方向に引き揃えるとよい。
釣り餌用昆虫繭糸と第二繊維素材とを複合して複合紡績用ラップを製造するには、上記の通りサンプルローラーカードで一方向に梳った繭糸の紡績用ラップに、ハンドカード、次いで電動式カードで十分に繊維を一方向に揃えて得た第二繊維素材の紡績用ラップを複合し、その後、再度サンプルローラーカードにかけることにより行う。
【0043】
(紡績機)
本発明で用いることができる紡績機としては、従来公知のミュール紡績機、フライヤー紡績機、ならびに我が国独自の発明品である和紡績機のミニガラ紡績機(ガラ紡績機)等がある。このガラ紡績機は、臥雲辰致氏が発明したものであり、糸のムラと太さとを調節する簡易な自動制御機構を備え、安易に紡績糸を製造できる装置であり、細糸を紡ぐことに優れている。工業的なスケールからすると、綿糸紡績に用いるハイドラフト精紡機やリング精紡機、ならびに紡毛紡績工程で用いられるパーロック式紡績機も利用できる。
釣り餌用昆虫繭糸のシルクラップと第二繊維素材のシルクラップとを複合して紡績糸を製造するには、従来公知の紡績機にかけて紡績すればよい。簡便には、上記ガラ紡績機を用いることができる。
【0044】
例えば、ガラ紡績機の場合は、次のようにして紡績される。すなわち、十分に開綿して一方向に引き揃えた繭綿約15gを竹製ささらで軽くつまみながら、アルミニウム製の綿つぼ(内径4cm、長さ25cm)に充填する。動力ベルトを介して綿つぼを回転させ、つぼの上端より糸を紡ぎ、装置上部のシリンダーに巻き取る。つぼの上下動と回転数とのバランスにより一定の撚りがかけられ、絹紡糸が紡がれる。この紡績糸ができるまでのプロセスは次の通りである。
繭層→粗綿(ハンドカード)→精綿(電動式カード等)→紡績機(ガラ紡績機等)→撚り止め→揚げ返し→乾燥→紡績用の原料糸
【0045】
(撚り止め)
衣料用素材をガラ紡績機にかけると、紡がれた紡績糸が木枠シリンダーに巻き取られる。何の処理もしないでこの木枠シリンダーから紡績糸を巻き取ると、紡績過程で加えられていた撚りが戻ってしまい、紡績糸の強度低下の原因となる。そのため、撚り止めが必要となる。撚り止めは、紡績糸が巻き取られた木枠シリンダーを、通常25〜30℃のぬるま湯に5時間浸漬して、水を紡績糸に浸透させることにより行われる。浸漬後、ぬるま湯から取り出した木枠の紡績糸を乾燥しないように配慮しながら別の枠に巻き返す。木枠から巻き返し(揚げ返し)した紡績糸を再度水中に1時間浸漬した後、取り出して室温で乾燥すればよい。この工程でガラ紡績機で加えられた撚りが止められ、紡績糸の強度が向上する。綿蚕から作製した紡績糸の強度は、102.5gfであるのに対して、撚り止め、揚げ返しした綿蚕紡績糸の強度は800gfにまで増大する。
【0046】
(ガラ紡績糸の品質)
繭層、粗綿、精綿、紡績工程を経て製造したガラ紡績糸の品質は、一般的には、細糸(繊度が細い)の程度、糸の太さやむらの程度、また、粗綿、精綿工程の引き揃えの程度等により決まる。かくして、所望の品質を得るためには、これらのファクターを適宜設定すればよい。
なお、望ましい紡績糸原料の特徴は次の通りである。
(1)原料が均一に嵩高く、十分に開綿されている。(2)繊維原料以外の異物が混入していない。(3)繊維原料の中に繊維切断工程で生じた異常に長い繊維が混入していない。
紡績糸の機械的特性や風合い特性は、原料繊維の太さ(デニール)、繊維長(カット長)、撚糸の太さ、および紡績方法により影響を受ける。
【0047】
【実施例】
次に、本発明を実施例および比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
以下の実施例で用いるカード装置は、用いる順序から列挙すると、ハンドカード、電動式カード、サンプルローラーカードである。
ハンドカード、電動式カード、サンプルローラーカードのごく一般的な仕様は表2に示す通りである。
Figure 0003837534
Figure 0003837534
【0048】
(実施例1)ブドウ虫繭糸量の測定
人工飼料で飼育したブドウ虫の繭糸には、糞、餌カス等の夾雑物が多量に混じっているので、昆虫一匹にどの程度の夾雑物が含まれるかを調べた。この昆虫は繭をつくり繭中で蛹化することから、繭を切開して蛹を取り出し、繭糸重量を測定した。得られた結果を表3に示す。本実施例で使用したブドウ虫は、バイオちゃん・レギュラー、バイオちゃん・ジャンボ、バイオちゃん・ゴールドレギュラー、バイオちゃん・ゴールドジャンボ(住友化学工業株式会社の登録商標)である。以下の実施例でも同様である。
【0049】
Figure 0003837534
Figure 0003837534
表3から明らかなように、4種類の幼虫が吐き出した繭の吐糸量を調べたところ、ジャンボ幼虫の平均体重がレギュラー幼虫に比べて86%程度増加しているのに対し、ジャンボ幼虫の吐糸量はレギュラー幼虫に比べて58%程度多く、また、ゴールドジャンボ幼虫の吐糸量は、ゴールドレギュラー幼虫に比べて13%程度多かったにすぎない。
【0050】
(比較例1)熱湯による浸漬処理で夾雑物の除去程度を評価
夾雑物を含んだブドウ虫繭糸を熱湯に浸漬して夾雑物が除去できるかを検討した。先ず、原材料を50℃の熱湯中に浸漬させた。繭層の中には熱湯が浸透し難かった。若干の餌粉末は熱湯の中に落下したが、残りの餌粉末その他の夾雑物を除去することはできなかった。
また、以下の温度の熱湯中にノニオン系界面活性剤であるスコアロール−400(商品名、花王株式会社製)を添加し、この中に原材料を浸漬し、夾雑物が除去できるか検討した。50℃の熱湯中に1時間浸漬すると、熱湯は繭層の中に次第に浸透するが、その浸透速度は遅く、餌は時間の経過と共に少しずつ落下するに過ぎず、繭糸中に熱湯が浸透するにつれて繭層のふくらみが見られるようになった。80℃の熱湯中に1時間浸漬後、手で絞るか濾紙でこしたが、夾雑物の除去は不良であった。90℃の熱湯中に浸漬した場合、餌に対しては十分に効果があり、液が茶色の溶液になったが、ブドウ虫繭糸はお粥状になってしまい、目的を達成できなかった。
【0051】
(比較例2)その他の方法による夾雑物除去
湯煎機内に入れた70℃の炭酸ナトリウム水溶液中に夾雑物を含んだブドウ虫繭糸を1昼夜漬けたが、夾雑物を完全には除去できなかった。また、酵素を用いた精練法によりこの繭糸を処理したが、夾雑物の除去はできなかった。
【0052】
(実施例2)ブドウ虫繭糸の乾燥処理工程
ブドウ虫繭糸は、幼虫を飼育するための飼料の断片や幼虫の糞を多量に含んでおり、含有水分の影響でベタベタした状態を呈した。また、この繭糸原料には昆虫の蛹が含まれ、保存中に蛹から成虫が羽化する恐れがある。これらの不都合さを除くため、乾燥工程で試料を乾燥する必要がある。この場合、繭糸のセリシンの溶解性を考慮して、できるだけ低温で乾燥する必要がある。80℃で20時間乾燥を行ったところ、この乾燥過程で、264.2gの繭糸重量は137.4gとなった。さらに、80℃で5日間乾燥を続けて乾燥させたところ、乾燥試料の重量は78.7g(原繭重量比29.8%)となった。
【0053】
(実施例3)篩によるブドウ虫繭糸の精製・分離
実施例2に従って乾燥したブドウ虫繭糸(餌カスおよび糞等の夾雑物を含む)30gにシッカロール(和光堂株式会社製、登録商標)50gをよく混ぜ合わせた。目の粗い金属篩(篩い全体の大きさ:20cm×25cm、金属ステンレス網:0.7mmの太さの丸型鋼、篩目の大きさ:4mm2角形)を用い、金属網の上でシッカロールを混合した繭糸を軽く手でこすり落とした。この過程である程度夾雑物を除去できた。さらに、篩に残った繭糸に30gのシッカロールを添加し、手で混ぜ合わせ、篩い網の上で軽くこすり夾雑物を除去した。続いて、目の細かい第2の篩(金属鋼丸型の篩い(ステンレス製0.3mmの太さ)網目の大きさ:1mm2角形)を用いて、添加したシッカロールを含んだ残りの夾雑物を全て除去し、繭糸を分離した。
以上の篩による2回の除去作業を繰り返して得られた繭糸をサンプルローラーカード機にかけてカーディングしたところ、処理終了時点で、7.7g(原繭重量比:25.7%)のスライバー状試料となり、何の夾雑物も含まないシルクウエブが得られた。
【0054】
(実施例4)ブドウ虫繭糸と第二繊維素材との混紡
ブドウ虫繭糸に複合できる第二繊維素材としては、表4に記載した素材が例示できる。この繭糸のシルクウエブと第二繊維素材のシルクウエブとを複合してできる複合紡績糸ならびに紡績繊維製品の特性は、これらの繊維の太さ(繊度)、繊維長、精練の程度により微妙に変化する。そこで各種の繊維素材の特性を調べた。得られた結果を表4に集約する。
【0055】
Figure 0003837534
Figure 0003837534
【0056】
上記ブドウ虫繭糸と第二繊維素材とを複合して上記方法により紡績して紡績糸を得た。複合紡績糸の細繊度のもの程、しなやかで風合い感のよい素材となった。また、紡績効率からすると繊維長の長いもの程好ましかった。表4から明らかなように、ブドウ虫繭糸は、天然繊維の中でも極めて細かく、かつ、サンプルローラーカードにかけた直後の繊維長は6mmとかなり短い繊維であるが、ブドウ虫繭糸単独を紡績して紡績糸とすることは可能である。しかし、この繭糸と表4記載の第二繊維素材とを複合することで、繭糸単独あるいは第二繊維素材単独のシルクウエブを用いた場合よりも、嵩高さとやわらかさに優れた紡績製品を製造できた。
【0057】
紡績用第二繊維素材として望ましいのは繊維長の長い綿蚕、柞蚕糸、天蚕糸等である。なかでも、柞蚕や天蚕等の野蚕由来の繊維は、その繊維長が長いため、第二繊維素材としては特に望ましかった。
繊維の太さに応じて、ハンドカード、電動式カードの針の太さ、針密度を適宜設計変更すればよい。細い繊維程、しなやかな糸、あるいは織物が製造できた。
(1)綿蚕毛羽単独、(2)絹紡糸単独、(3)ブドウ虫繭糸と綿蚕毛羽とを原料にしてガラ紡績装置で絹紡績糸を製造した後、公知の機織技術で各種の紡績織物を製造した。綿蚕毛羽の場合を綿蚕織物、絹紡糸の場合を絹紡績織物、ブドウ虫繭糸と綿蚕毛羽との場合を複合織物(繭糸と綿蚕糸からシルクウエブをつくり、それを素材として製造した紡績織物)として表5の試料の項に示す。
【0058】
Figure 0003837534
Figure 0003837534
【0059】
表中、糸の繊度における「たて446d:よこ300d」とは、たて糸に用いた綿蚕紡績糸の繊度が446デニール、よこ糸に用いた綿蚕紡績糸の繊度が300デニールであることを意味する。密度は、紡績布1cm当たりの糸の本数を意味し、たて方向、よこ方向について測定した。目付は、1mに換算した布の重量Wをグラム単位で表示した。見掛け比重は、縦方向a(cm)、横方向b(cm)を切断し、厚さt(cm)を求めた後、布の重量を化学天秤で測定して、W/(a×b×c)で算出した。防しわ率は、JIS規格の防しわ率測定法で求めた。また、剛軟度は、カンチレバー法で求めた。
表5から明らかなように、ブドウ虫繭糸と綿蚕糸との混紡糸から作出した複合織物は、防しわ率が綿蚕織物や絹紡績織物に比べて良好な数値を示し、剛軟度が絹紡績織物に比べて良好な数値を示しており、折り曲げたとき折り曲げ力を除重してもしわになりにくく、かつしなやかでやわらかい特長を持つ織物であることが分かる。
【0060】
(実施例5)紡績糸の製造
夾雑物を取り除いて得られたブドウ虫繭糸単独をサンプルローラーカードで梳って、シルクウエブを製造した。このシルクウエブと、上記のようにしてカードで引き揃えた第二繊維素材のシルクウエブとを複合し、簡便なガラ紡績機にかけて複合紡績糸を製造した。紡績糸、紡績製品を製造する一つの工程例を図1に示す。ガラ紡績機のかわりに従来公知の紡績機を用いることも可能である。図1に示すように、綿蚕・野蚕・毛羽等をカーディング(ハンドカード、電動式カード等)し、これにサンプルローラーカードにかけた上記繭糸を複合した後、サンプルローラーカードにかけて複合シルクウエブを得、次いでガラ紡績機を用いて紡績し、複合紡績糸を得た。この紡績糸を用いて複合織物を製造した。
この場合、ブドウ虫繭糸は、綿蚕や野蚕等のシルクウエブと複合する前にサンプルローラーカードに3回かけ、複合した後更にサンプルローラーカードに2回かけるため、この繭糸は紡績糸となるまでには合計5回のカード作業を繰り返すことになる。
【0061】
(実施例6)シルクウエブの混紡比と製品性能
粉末分離材を用いて夾雑物を取り除いたブドウ虫繭糸のシルクウエブに綿蚕シルクウエブを複合させ、表6に示すように、複合シルクウエブにおけるブドウ虫繭糸のシルクウエブ重量比が異なる複合シルクウエブを製造した。この繭糸シルクウエブの重量比が15.9%である複合シルクウエブとは、2gの繭糸シルクウエブに10.6gの綿蚕シルクウエブを複合させた後、サンプルローラーカードにかけて複合シルクウエブを製造したものを意味する。この繭糸シルクウエブの重量比が15.9%である複合シルクウエブをサンプルローラーカードにかけたところ、複合シルクウエブが針布の針の中に食い込んで埋め込まれることも無く、効率良くシルクウエブを製造できた。なお、複合シルクウエブ中の繭糸シルクウエブの重量比を変えたときの複合シルクウエブの性状あるいは製造状態について、サンプルローラーカード効率及びシルクウエブ形状を目視で評価した。得られた結果を表6に示す。
【0062】
Figure 0003837534
Figure 0003837534
【0063】
(注)
サンプルローラーカード効率
○:ブドウ虫繭糸と綿蚕繭糸との複合シルクウエブを良好に製造でき、針布の針の中にシルクウエブが食い込んで埋め込まれることはない。
△:複合シルクウエブを製造できるが、針布に埋め込んだ針に一部のシルクウエブが食い込んで、その結果、埋め込まれて、作業効率が悪化した。
×:ブドウ虫繭糸と綿蚕繭糸とは、カード工程を経てもブドウ虫繭糸が均一に分布することなく、塊状態となり、針布の針の中に繊維が食い込み、
その結果、埋め込まれてしまって、カード効率が極めて悪い。
【0064】
シルクウエブの形状
+:ブドウ虫繭糸と綿蚕繭糸とが均一で嵩高い良好な複合シルクウエブとなった。
±:複合シルクウエブ中、ブドウ虫繭糸が塊状態となって不均一に分布し、嵩高さのないシルクウエブとなった。
−:複合シルクウエブ中、ブドウ虫繭糸が塊状態で局在し、良好なシルクウエブとはならなかった。
表6から明らかなように、ブドウ虫繭糸シルクウエブの重量比が10重量%以上50重量%未満、好ましくは15〜45重量%の複合シルクウエブの場合、サンプルローラーカードにかけても針布の針の中に繊維が食い込んで埋め込まれてしまうという不都合さは見られず、複合シルクウエブを効率的に製造できた。この複合シルクウエブをガラ紡績機にかけたところ強度特性に優れた複合紡績糸を製造できた。
【0065】
(実施例7)タルクとデンブンとからなる粉末分離材
タルク(T)とデンブン(D)とからなり、組成比(重量%)を変えた粉末分離材を用いて、ブドウ虫繭糸に付着し、混在した夾雑物を取り除いた。シッカロール(和光堂株式会社製、登録商標)を用いて夾雑物を除去した場合と比較して繭糸の精製の状態を比べた。得られた結果を表7に示す。
【0066】
Figure 0003837534
Figure 0003837534
【0067】
表7から明らかなように、タルクとデンプンとの配合比率が、一般にはタルクが50〜99重量%、デンプンが50〜1重量%の範囲、好ましくはタルクが75〜99重量%、デンプンが25〜1重量%の範囲、さらに好ましくはタルクが90〜99重量%、デンプンが10〜1重量%の範囲であれば、夾雑物を除去して繭糸を分離することが可能であった。
【0068】
【発明の効果】
本発明の繭糸の分離方法によれば、人工飼料で飼育した釣り餌用昆虫について、飼育過程で生じる多量の餌カス、糞、脱皮殻等からなる夾雑物の混じった繭糸に特定の粉末分離材を均一にまぶし、これを篩手段にかけて夾雑物を選択的に除去することにより、紡績用素材として利用できる繭糸のみを経済的で効率的に精製・分離することができる。
【0069】
本発明の繊維製品製造方法によれば、上記分離繭糸を単独でカーディングして繊維を引き揃えてシルクウエブを得、これを紡績機にかけることにより、新しい機能を有する紡績糸を製造することができる。また、このカーディングして得た繭糸のシルクウエブに予めカーディングして一方向に引き揃えた第二繊維素材のシルクウエブを複合して複合シルクウエブを得、この複合シルクウエブを再度カーディングして混紡績用の複合ラップを得た後、これを紡績機にかけることにより、柔らかさを備えた新しい機能を有する混紡の紡績糸を製造することができる。また、この複合紡績糸を用いて有用な紡績繊維製品を製造することができる。
【0070】
第二繊維素材としての綿蚕や野蚕等の繭糸単独のシルクウエブから製造した紡績糸に比べ、複合シルクウエブから製造した混紡の紡績糸はソフトな風合・感触感となった。この諸特性は釣り餌用昆虫繭糸が極めて細いという特性に由来する。
この複合シルクウエブを原料にして製造した複合紡績糸は、嵩高く、空気を多く含み、柔軟性に富む。釣り餌用昆虫繭糸のシルクウエブと複合させる相手が綿蚕のシルクウエブである場合、綿蚕繭糸にセリシンが付着した状態であれば、紡績糸は少し堅めとなるが、この複合シルクウエブを紡績機にかけて製造した複合紡績糸を精練することにより、繭糸表面のセリシンが取り除かれ、その結果、糸間・繊維間の内部空隙が未精練時に比べ更に増大し、複合紡績糸は柔軟になる。すなわち、複合シルクウエブから製造できる複合紡績糸の精練度合いを変えることで風合い感を制御することができる。
【0071】
釣り餌用昆虫繭糸のシルクウエブと第二繊維素材のシルクウエブとを用いた複合紡績糸繊維製品の見掛け比重及び剛軟度は、絹紡績製品に比べて良好となるので、膨らみと柔軟性に富み、優れた光沢を有する紡績織物を提供できる。また、防しわ率が高くなり、縫製しやすく、通気性・保温性の優れた生地となるため、釣り餌用昆虫繭糸のシルクウエブを用いた紡績糸ならびに複合紡績製品は、背広地、ブラウス、ニット、作務衣、絹布団綿等にも適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第二繊維素材に綿蚕もしくは野蚕の毛羽を用いて、ブドウ虫繭糸と複合させ、ガラ紡績機を用いて、本発明に従い紡績糸、紡績製品を製造する工程例を示すフロー図。

Claims (11)

  1. 釣り餌用昆虫を飼育する過程で生ずる夾雑物が混じっている繭糸に粉末分離材を加え、これを篩処理し、該夾雑物を取り除いて繭糸を得ることを特徴とする繭糸の分離方法。
  2. 請求項1において、粉末分離材が、タルクとデンプンとを含んだものであることを特徴とする繭糸の分離方法。
  3. 請求項1または2において、篩処理が、目の粗い篩を用いる第一の篩い段階および第一の篩より目の細かい篩を用いる第二の篩い段階により行われることを特徴とする繭糸の分離方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかにおいて、釣り餌用昆虫がブドウ虫であることを特徴とする繭糸の分離方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかにおいて、夾雑物が、蛹、餌カス、脱皮殻、幼虫の糞、水分であることを特徴とする繭糸の分離方法。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の分離方法により分離された繭糸を単独で紡績してなるか、またはこの繭糸からなる第一繊維素材と第二繊維素材との複合素材を紡績してなることを特徴とする繊維製品。
  7. 請求項6において、第一繊維素材から得られた繭糸のシルクウエブを紡績してなるか、またはこの繭糸のシルクウェブと予め一方向に引き揃えられた第二繊維素材のシルクウエブとを混ぜて複合シルクウエブとし、この複合シルクウエブから製造された複合紡績用シルクラップを紡績してなることを特徴とする繊維製品。
  8. 請求項6または7において、第二繊維素材が、綿蚕および家蚕から選ばれた蚕の繭層、繭糸、選除繭糸、毛羽、もしくは屑糸由来の素材であるか、または天蚕、柞蚕、エリサン、ムガ蚕、ヨナグニサン、アナフェサン、およびクリキュラサンから選ばれた野蚕の繭層、繭糸、選除繭糸、毛羽、もしくは屑糸由来の素材であることを特徴とする繊維製品。
  9. 請求項1〜5のいずれかに記載の分離方法により分離された繭糸からなる第一繊維素材を単独で紡績するか、またはこの第一繊維素材に第二繊維素材を複合して紡績し、繊維製品を得ることを特徴とする繊維製品の製造方法。
  10. 請求項9において、第一繊維素材をサンプルローラーカードにかけて繭糸のシルクウエブを得、このシルクウエブを紡績するか、またはこのシルクウエブに、ハンドカードおよび電動式カードにかけて予め一方向に引き揃えた第二繊維素材のシルクウエブを混ぜて複合シルクウエブを得、この複合シルクウエブを再度サンプルローラーカードにかけて複合紡績用シルクラップを製造し、この複合紡績用シルクラップを機織し、繊維製品を得ることを特徴とする繊維製品の製造方法。
  11. 請求項9または10において、第二繊維素材が、綿蚕および家蚕から選ばれた蚕の繭層、繭糸、選除繭糸、毛羽、もしくは屑糸由来の素材であるか、または天蚕、柞蚕、エリサン、ムガ蚕、ヨナグニサン、アナフェサン、およびクリキュラサンから選ばれた野蚕の繭層、繭糸、選除繭糸、毛羽、もしくは屑糸由来の素材であることを特徴とする繊維製品の製造方法。
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