JP3831756B2 - 野草(アメリカフウロ:GeraniumcarolinianumL.)を利用した難防除土壌病害(青枯病、放線菌病)の防除剤およびその防除方法 - Google Patents

野草(アメリカフウロ:GeraniumcarolinianumL.)を利用した難防除土壌病害(青枯病、放線菌病)の防除剤およびその防除方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は野草(アメリカフウロ:Geranium carolinianum L.)を用いた難防除土壌病害(青枯病、放線菌病)の防除剤およびその防除方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
沖縄県の野菜、根茎菜生産地域では、難防除土壌病害が慢性的に発生し、その被害が問題となっている。特に、バレイショ、トマト、ナス、ニガウリ等では、病原細菌であるRalstonia solanacearumによる青枯病が、さらに、バレイショ、カンショにおいては、病原放線菌(Streptomyces属菌)による青枯病や立枯病が発生し、圃場によっては、それら病害で収穫皆無に陥ることもしばしば見うけられる。
【0003】
一般的にこれらの防除には化学薬剤による土壌消毒が行われているが、これら薬剤は人畜並びに周辺環境に与える影響が大きいため、環境に負荷を与えない持続的防除技術の開発が望まれている。
【0004】
植物の中には特殊な化学物質を含有するものがある。これらは天然物由来で、環境に対する負荷は極めて少ないと考えられるため、持続的病害防除技術の資材として利用できる可能性を有している。
【0005】
植物を利用した植物病害防除法に関する試験例は少ない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、野菜、根茎菜類に発生する青枯病、放線菌病の環境保全型防除技術の確立を目的とするものであり、沖縄県に自生し、群落を形成する野草から青枯病、放線菌病に対して抗菌活性を有する野草を探索し、その野草を利用した青枯病や放線菌病に有効な防除剤及びその野草の抗菌成分の抽出方法及びそれを用いた防除方法を実現することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、沖縄県に自生し、群落を形成する野草複数種から青枯病や放線菌病に対して抗菌活性を有する野草を探索した結果、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)がこれら病原菌に対して有効な防除作用があることを見出し、その効果的な利用方法を開発し、本発明を完成させたものである。
【0008】
アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)の抽出液及び抗菌成分を青枯病菌や病原放線菌の汚染土壌に潅注処理することにより、青枯病菌の土壌生息密度を検出できないレベルにまで減少させ、また、植物病原放線菌による被害を回避できる効果が得られるものである。
【0009】
アメリカフウロは、その地上部を用い、葉や茎を生草でもその乾燥物でもいずれでも良く、細断したものでも、破砕、磨砕したものでも良い。
【0010】
また、抽出媒体は、アルコールなどの一般的な抽出溶剤や水や熱水などでも良く、植物の有効成分を抽出できるものであればいずれでも良い。常温の水で抽出しても良い。
【0011】
抽出温度は、常温から100℃程度まで可能であり、温度が高いほど抽出しやすい。また、抽出時間は、温度によるが、乾燥物においても、1時間以上の抽出で十分に効果を発揮する。
【0012】
また、潅注処理は、汚染土壌に対して、土1g当たり、アメリカフウロの乾燥重量で0.01g相当量以上とし、0.1g相当量程度が好ましい。例えば、10a当たり2トン程度でも良い。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
病原細菌であるRalstonia solanacearumによる青枯病は、バレイショ、トマト、ナス、ニガウリ等のウリ科、ナス科作物他様々な作物を犯す多犯性の病害で、植物体を委ちょう・枯死させ、降雨により畑全面に広がり、甚大な被害をもたらす病害である。また、病原放線菌(Streptomyces sp.)は主に、バレイショやカンショに被害をもたらし、イモ表面にかさぶた、かいよう状の病班を形成し、商品価値を著しく損なわせる病害である。これら病害は、土壌病原菌で難防除土壌病害と位置づけられ、世界各地でその被害が問題となっており、その解決法を確立することは非常に重要である。また、近年、環境保全型農業が切望されていることからも、環境に優しい方法による防除方法を開発する必要がある。そこで、本発明ではまずジャガイモ青枯病に対して、抗菌活性を有する野草の探索を行った。
【0015】
野草栽培の効率化の面から、スクリーニング源として沖縄県に自生し、群落を形成する野草に着目して、複数種の野草の地上部、地下部を70%エタノールに浸漬処理し、その抽出物をジャガイモ半合成培地に添加し、これにジャガイモ青枯病菌の接種を行った結果、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)の地上部にのみ抗菌活性を有することを見出した(図1、図2)。
【0016】
次に、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)生草の葉、茎、根の70%エタノール抽出物を含有する培地にジャガイモ青枯病菌の接種を行い、菌の生育を調査した結果、葉の70%エタノール抽出物を含有する培地上で強い抗菌活性が確認されたことから、葉に抗菌成分が多く含有されていることを見出した(図3)。
【0017】
次に、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)生草の葉の70%エタノール抽出物を含有する培地上における各種植物病原菌(ジャガイモ軟腐病菌:Ervinia carotovora、サツマイモ立枯病菌:Streptomyces ipomoeae、ジャガイモそうか病:Streptomyces scabies ,Stereptomyces acidiscabies, Streptomyces turgidiscabies、ジャガイモ黒あざ病菌:Rhizoctonia solani、ジャガイモ菌核病菌:Sclerotinia sclerotiorum)の生育を調査した結果、病原放線菌であるサツマイモ立枯病菌、ジャガイモそうか病菌に対して抗菌活性を有することを見出した(図4)。
【0018】
次に、抗菌成分抽出の簡易化を図るために、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)生草地上部を35、 40、 45、 50、95度の水で一時間熱し、抗菌成分の水での抽出を検討した結果、どの温度の水の抽出物を添加した培地上においてもジャガイモ青枯病菌に対する抗菌活性が確認され、アメリカフウロに含有される抗菌成分は比較的低温度から高温度の水で抽出が可能であることを見出した(図5)。
【0019】
次に、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)利用の効率化を図るために、アメリカフウロを天日で一週間乾燥させた乾燥物を50℃の水で一時間熱し、その水抽出液中に抗菌成分が含有されているかを検討した結果、その抽出物を添加した培地上においてジャガイモ青枯病菌に対する抗菌活性が確認され、アメリカフウロ乾燥物中に抗菌成分は含有されていることを見出した(図6)。
【0020】
次に、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)乾燥物を95℃の水で60、90、120分間熱し、含有される抗菌成分の熱に対する安定性を検討した結果、60、90、120分間熱水処理して得られた抽出物を添加した培地上においてジャガイモ青枯病菌に対する抗菌活性が確認され、アメリカフウロ乾燥物中に含有される抗菌成分は熱に対して安定であることを見出した(図7)。
【0021】
次に、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)生草の乾燥処理の効率化を図るために、アメリカフウロ生草を40、50、60℃に調整した乾燥機で12時間処理し、得られた乾燥物中に抗菌成分が失活せずに含有されているかを検討した結果、40、50、60℃で12時間処理した乾燥物の70%エタノール抽出物を添加した培地上においてジャガイモ青枯病菌に対する抗菌活性が確認され、アメリカフウロ生草を40、50、60℃に調整した乾燥機で12時間処理することにより、乾燥処理が効率化することを見出した(図8)。
【0022】
次に、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)乾燥物の保存性を検討した結果、室温で一年間保存したアメリカフウロ乾燥物の70%エタノール抽出物を添加した培地上においてジャガイモ青枯病菌に対する抗菌活性が確認され、アメリカフウロ乾燥物は室温で一年間保存できることを見出した(図9)。
【0023】
【実 施 例】
次に本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。
【0024】
アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)乾燥物を水で50℃、一時間熱して得られた抽出液を土壌含水量で26, 33%になるように調整した後、ジャガイモ青枯病菌を汚染させた土壌(国頭マージ)を入れたビーカーに潅注処理し、7日後、土壌中の青枯病菌密度を原・小野培地を用いて調査した結果、土1g当たりアメリカフウロ乾燥物0.01, 0.1g相当量で処理した土壌(土壌含水量26, 33%)からは青枯病菌を検出することはできず、アメリカフウロに含有される抗菌成分は土壌中において青枯病菌に対して強い抗菌活性を示すを見出した(図10)。
【0025】
サツマイモ立枯病菌の汚染土壌をつめた1/2500aワグネルポットにアメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)乾燥物と水で50℃、一時間熱して得られた抽出液を1t/10aの量で処理した後、カンショ苗(品種:宮農36号)を植え付け、一ヶ月後調査を行った結果、乾燥物を混和した処理区においては、発病株率は50%で防除価が50であったのに対して、抽出液を処理した区においては、発病株率は0%で防除価は100で高い防除効果を示したことから、アメリカフウロ乾燥物の水抽出液の潅注処理がサツマイモ立枯病に対して、有効であることを見出した(図11、図12)。
【0026】
【発明の効果】
以上、詳細に説明した本発明では、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)に含有される抗菌成分の水による抽出方法及び熱に対する安定性、さらに、アメリカフウロの乾燥方法及び保存方法について明らかにしたことから、防除資材化が可能である。また、アメリカフウロの水抽出液及び抗菌成分を土壌中に潅注処理をすることにより、青枯病や放線菌病を防除することが可能である。
【0027】
また、アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)に含有される抗菌成分の水による抽出温度を提供でき、アメリカフウロに含有される抗菌成分の熱に対する安定性を提供できる。また、アメリカフウロの乾燥方法及び保存方法を提供できる。
【0028】
したがって、化学薬剤を用いない環境保全型の病害防除が可能となり、天然バイオマスを利用した新たな産業創出に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ジャガイモ青枯病菌に対して抗菌成分を有する野草のスクリーニング結果の表を示した図である。
【図2】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)の植物体を示す図である。
【図3】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)生草の各部位の70%エタノール抽出物がジャガイモ青枯病菌に与える影響の表を示した図である。
【図4】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)生草の葉の70%エタノール抽出物が他の植物病原菌に与える影響の表を示した図である。
【図5】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)生草地上部の水での抽出温度の検討の表を示した図である。
【図6】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)乾燥物の水抽出物(50℃、一時間)がジャガイモ青枯病に与える影響の表を示した図である。
【図7】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)乾燥物に含有される抗菌成分の95℃での熱耐性試験の表を示した図である。
【図8】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)生草の乾燥条件の表を示した図である。
【図9】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)乾燥物の保存方法の検討の表を示した図ある。
【図10】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)乾燥物の熱水抽出物(50℃、一時間)が土壌中の青枯病菌に与える影響の表を示した図である。
【図11】アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)のサツマイモ立枯病防除効果の表を示した図である。

Claims (5)

  1. アメリカフウロ(Geranium carolinianum L.)の抽出物の有効成分を利用した難防除土壌病害である青枯病及び放線菌病の防除方法。
  2. 前記のアメリカフウロは、乾燥物であることを特徴とする請求項1に記載の防除方法。
  3. 前記の抽出物は、アメリカフウロの地上部である葉と茎のいずれか又は両方を用いた抽出物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防除方法。
  4. 前記の抽出物は、水抽出又は抽出溶剤抽出による抽出物であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの項に記載の防除方法。
  5. アメリカフウロの抽出液及びその抗菌成分を土壌中に処理することにより、難防除土壌病害である青枯病及び放線菌病を防除することを特徴とする防除方法。
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