JP3819257B2 - スロットル弁駆動装置の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関のスロットル弁と、該スロットル弁を駆動する駆動手段とを備えるスロットル弁駆動装置の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば特開平9−72231号公報には、スロットル弁をモータで駆動するスロットル弁駆動装置の異常時においても、スロットル弁を所定の開度に維持する中間レバーストッパを設け、退避走行を可能とするスロットル弁駆動装置が示されている。
【0003】
この装置においては、スロットル弁駆動装置においては、中間レバーストッパの位置によって決まる所定開度の近傍では、スロットル弁に加わるばねの付勢力が急変するため、スロットル弁開度の制御性が低下するという課題がある。そのため、前記所定開度の学習値を算出し、スロットル弁開度が学習値の近傍にあるときは、モータの制御指令値を補正する手法が示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記公報に示された学習値の算出は、スロットル弁を駆動するモータとスロットル弁との間に介装されたクラッチの切断時、具体的にはイグニッションスイッチオンから機関始動開始までの期間に実行されるため、学習の頻度が少なく、学習値の精度が低いという問題があった。
【0005】
本発明は、この点に着目してなされたものであり、スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度を精度良く学習することができるスロットル弁駆動装置の制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関のスロットル弁と、該スロットル弁を駆動する駆動手段(6)とを備えるスロットル弁駆動装置(10)を制御し、前記スロットル弁の開度を目標開度に制御する制御装置において、前記スロットル弁駆動装置をモデル化した制御対象モデルのモデルパラメータを逐次型同定アルゴリズムにより同定する同定手段(21)と、該同定手段により同定されたモデルパラメータを逐次的に統計処理することにより、前記スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度(THDEF)の学習値(THDEF−thdefadp)を算出する学習値算出手段を備えることを特徴とする。
【0007】
ここで「スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度」は、下記のデフォルト開度だけでなく、特開平9−72231号公報に示されたように中間レバーストッパによって決まる所定のスロットル弁開度を含む。
この構成によれば、スロットル弁駆動装置をモデル化した制御対象モデルのモデルパラメータが逐次型同定アルゴリズムにより同定され、その同定されたモデルパラメータを逐次的に統計処理することにより、スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度の学習値が算出されるので、スロットル弁の駆動制御実行中に学習値の算出が行われ、前記学習値の算出頻度を高めて学習値の精度を向上させることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスロットル弁駆動装置の制御装置において、前記スロットル弁駆動装置(10)は、前記スロットル弁を閉弁方向に付勢する第1付勢手段(4)と、前記スロットル弁を開弁方向に付勢する第2付勢手段(5)とを備え、前記駆動手段(6)により前記スロットル弁を駆動しないときは、前記第1及び第2付勢手段により、前記スロットル弁をデフォルト開度(THDEF)に維持するものであり、前記学習値算出手段は、該デフォルト開度の学習値(THDEF−thdefadp)を算出することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第1付勢手段によりスロットル弁が閉弁方向に付勢され、、第2付勢手段により、スロットル弁が開弁方向に付勢され、駆動手段によりスロットル弁を駆動しないときは、第1及び第2付勢手段により、スロットル弁がデフォルト開度に維持され、このデフォルト開度の学習値が学習値算出手段により算出される。デフォルト開度の近傍でスロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するので、デフォルト開度の学習値を算出し、その学習値を制御に用いることにより、デフォルト開度近傍における制御性を向上させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のスロットル弁駆動装置の制御装置において、前記制御対象モデルは、前記スロットル弁駆動装置の出力に関わる第1のモデルパラメータ(a1,a2)と、前記スロットル弁駆動装置への制御入力に関わる第2のモデルパラメータ(b1)と、前記スロットル弁駆動装置の出力及び前記制御入力のいずれにも関わらない第3のモデルパラメータ(c1)とによって定義されることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、スロットル弁駆動装置をモデル化した制御対象モデルは、スロットル弁駆動装置の出力に関わる第1のモデルパラメータと、スロットル弁駆動装置への制御入力に関わる第2のモデルパラメータと、スロットル弁駆動装置の出力及び制御入力のいずれにも関わらない第3のモデルパラメータとによって定義される。この第3のモデルパラメータ(c1)を導入することにより、比較的非線形性の強いデフォルト開度近傍(駆動特性が変化するスロットル弁開度近傍)での、制御対象モデルと実対象であるスロットル弁駆動装置とのモデル化誤差(実際のスロットル弁駆動装置の特性と、モデル化した制御対象モデルの特性との差)を低減し、モデルパラメータの同定精度を向上させることができるため、学習値算出の精度を向上させることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のスロットル弁駆動装置の制御装置において、前記学習値算出手段は、前記第3のモデルパラメータ(c1)に応じて、前記スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度の学習値(THDEF−thdefadp)を算出することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、第3のモデルパラメータに応じて、スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度の学習値が算出される。検出したスロットル弁開度と、スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度(特性変化開度)との偏差量(DTH)を制御対象モデルの出力として用いる場合には、第3のモデルパラメータ(c1)は、特性変化開度のずれ(thdefadp)と外乱の和を示すので、第3のモデルパラメータに基づいて、特性変化開度ずれを算出し、その特性変化開度ずれから特性変化開度の学習値(THDEF−thdefadp)を算出することができる。したがって、特性変化開度、すなわちスロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度の学習値を、スロットル弁の駆動制御実行中に容易に算出することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れかに記載のスロットル弁駆動装置の制御装置において、前記同定手段(22)により同定されるモデルパラメータを用いて、スライディングモード制御により前記スロットル弁駆動装置を制御するスライディングモードコントローラ(21)を備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、同定手段により同定されるモデルパラメータを用いて、スライディングモード制御によりスロットル弁駆動装置が制御される。スライディングモード制御は、高いロバスト性を有するので、スロットル弁駆動装置の実際のむだ時間と、制御対象モデルのむだ時間とのずれによるモデル化誤差が生じた場合でも、安定して高い制御性を維持することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のスロットル弁駆動装置の制御装置において、前記スライディングモードコントローラ(21)による前記スロットル弁駆動装置への制御入力(Usl)は、適応則入力(Uadp)を含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、スロットル弁駆動装置への制御入力は適応則入力を含むので、外乱やモデル化誤差があっても、良好な制御性を実現することができる。
請求項7に記載の発明は、内燃機関のスロットル弁と、該スロットル弁を駆動する駆動手段(6)と、前記スロットル弁を閉弁方向に付勢する第1付勢手段(4)と、前記スロットル弁を開弁方向に付勢する第2付勢手段(5)とを備え、前記駆動手段(6)により前記スロットル弁を駆動しないときは、前記第1及び第2付勢手段により、前記スロットル弁をデフォルト開度(THDEF)に維持するスロットル弁駆動装置(10)を制御し、前記スロットル弁の開度を目標開度に制御する制御装置において、前記駆動手段(6)により前記スロットル弁を駆動しているときに、前記デフォルト開度のずれを示すパラメータ(c1)を算出し、該パラメータ(c1)に基づいて前記デフォルト開度の学習値(THDEF−thdefadp)を算出する学習値算出手段を備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、駆動手段によりスロットル弁を駆動しているときに、デフォルト開度のずれを示すパラメータが算出され、該パラメータに基づいてデフォルト開度の学習値が算出される。すなわち、スロットル弁の駆動制御実行中に学習値の算出が行われるので、学習値の算出頻度が高くなり学習値の精度を向上させることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかるスロットル弁制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下「エンジン」という)1の吸気通路2には、スロットル弁3が設けられている。スロットル弁3には、該スロットル弁3を閉弁方向に付勢する第1付勢手段としてのリターンスプリング4と、該スロットル弁3を開弁方向に付勢する第2付勢手段としての弾性部材5とが取り付けられている。またスロットル弁3は、駆動手段としてのモータ6によりギヤ(図示せず)を介して駆動できるように構成されている。モータ6による駆動力がスロットル弁3に加えられない状態では、スロットル弁3の開度THは、リターンスプリング4の付勢力と、弾性部材5の付勢力とが釣り合うデフォルト開度THDEF(例えば5度)に保持される。
【0020】
モータ6は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)7に接続されており、その作動がECU7により制御される。スロットル弁3には、スロットル弁開度THを検出するスロットル弁開度センサ8が設けられており、その検出信号は、ECU7に供給される。
【0021】
またECU7には、エンジン1が搭載された車両の運転者の要求出力を検出するアクセルペダルの踏み込み量ACCを検出するアクセルセンサ9が接続されており、その検出信号がECU7に供給される。
ECU7は、スロットル弁開度センサ8及びアクセルセンサ9の検出信号が供給される入力回路、入力信号をディジタル信号に変換するAD変換回路、各種演算処理を実行する中央演算ユニット(CPU)、CPUが実行するプログラムやプログラムで参照されるマップやテーブルなどを格納するメモリ、及びモータ6に駆動電流を供給する出力回路を備えている。ECU7は、アクセルペダルの踏み込み量ACCに応じてスロットル弁3の目標開度THRを決定し、検出したスロットル弁開度THが目標開度THRと一致するようにモータ6の制御量DUTを決定し、制御量DUTに応じた電気信号をモータ6に供給する。
【0022】
本実施形態では、スロットル弁3、リターンスプリング4、弾性部材5及びモータ6からなるスロットル弁駆動装置10を制御対象とし、該制御対象に対する入力をモータ6に印加する電気信号のデューティ比DUTとし、制御対象の出力をスロットル弁開度センサ8により検出されるスロットル弁開度THとする。
【0023】
スロットル弁駆動装置10の応答周波数特性を実測すると、図2に実線で示すゲイン特性及び位相特性が得られる。そこで、下記式(1)で定義されるモデルを制御対象モデルとして設定した。このモデルの応答周波数特性は、図2に破線で示すようになり、スロットル弁駆動装置10の特性に近似していることが確認されている。
ここで、kは離散化された時間を表すパラメータであり、DTH(k)は下記式(2)により定義されるスロットル弁開度偏差量である。
DTH(k)=TH(k)−THDEF (2)
ここで、THは検出したスロットル弁開度、THDEFは前記デフォルト開度である。
また式(1)のa1,a2,b1,c1は、制御対象モデルの特性を決めるモデルパラメータであり、dはむだ時間である。
【0024】
上記式(1)で定義されるモデルは、適応制御の適用を容易にするために採用した、離散時間系のDARXモデル(delayed autoregressive model with exogeneous input:外部入力を持つ自己回帰モデル)である。
式(1)においては、出力の偏差量DTHに関わるモデルパラメータa1,a2、入力のデューティ比DUTに関わるモデルパラメータb1の他に、入出力に関わらないモデルパラメータc1が設定されている。このモデルパラメータc1は、デフォルト開度THDEFのずれやスロットル弁駆動装置に加わる外乱を示すパラメータである。すなわち、モデルパラメータ同定器により、モデルパラメータa1,a2,b1と同時にモデルパラメータc1を同定することにより、デフォルト開度ずれや外乱を同定できるようにしている。
【0025】
図3は、ECU7により実現されるスロットル弁制御装置の機能ブロック図であり、この制御装置は、適応スライディングモードコントローラ21と、モデルパラメータ同定器22と、むだ時間dが経過した後の予測スロットル弁開度偏差量(以下「予測偏差量」という)PREDTH(k)(=DTH(k+d))を算出する状態予測器23と、アクセルペダル踏み込み量ACCに応じてスロットル弁3の目標開度THRを設定する目標開度設定部24とからなる。
【0026】
適応スライディングモードコントローラ21は、検出したスロットル弁開度THが目標開度THRと一致するように、適応スライディングモード制御によりデューティ比DUTを算出し、該算出したデューティ比DUTを出力する。
適応スライディングモードコントローラ21を用いることにより、スロットル弁開度THの目標開度THRへの追従応答特性を、所定のパラメータ(VPOLE)を用いて適宜変更することが可能となり、その結果スロットル弁3を開弁位置から全閉位置に移動させる際の衝撃(スロットル全閉ストッパへの衝突)の回避、及びアクセル操作に対するエンジンレスポンスの可変化が可能となる。また、モデルパラメータの誤差に対する安定性を確保することが可能となる。
【0027】
モデルパラメータ同定器22は、修正モデルパラメータベクトルθL(θLT=[a1,a2,b1,c1])を算出し、適応スライディングモードコントローラ21に供給する。より具体的には、モデルパラメータ同定器22は、スロットル弁開度TH及びデューティ比DUTに基づいて、モデルパラメータベクトルθを算出する。さらに、そのモデルパラメータベクトルθに対してリミット処理を行うことにより修正モデルパラメータベクトルθLを算出し、該修正モデルパラメータベクトルθLを適応スライディングモードコントローラ21に供給する。このようにしてスロットル弁開度THを目標開度THRに追従させるために最適なモデルパラメータa1,a2,b1が得られ、さらに外乱及びデフォルト開度THDEFのずれを示すモデルパラメータc1が得られる。
【0028】
リアルタイムでモデルパラメータを同定するモデルパラメータ同定器22を用いることにより、エンジン運転条件の変化への適応、ハードウエアの特性ばらつきの補償、電源電圧変動の補償、及びハードウエア特性の経年変化への適応が可能となる。
【0029】
状態予測器23は、スロットル弁開度TH及びデューティ比DUTに基づいて、むだ時間d後のスロットル弁開度TH(予測値)、より具体的には予測偏差量PREDTHを算出し、適応スライディングモードコントローラ21に供給する。予測偏差量PREDTHを用いることにより、制御対象のむだ時間に対する制御系のロバスト性を確保し、特にむだ時間が大きいデフォルト開度THDEF近傍での制御性を向上させることができる。
【0030】
次に適応スライディングモードコントローラ21の動作原理を説明する。
先ず下記式(3)により、目標値DTHR(k)を目標開度THR(k)とデフォルト開度THDEFとの偏差量として定義する。
DTHR(k)=THR(k)−THDEF (3)
ここで、スロットル弁開度偏差量DTHと、目標値DTHRとの偏差e(k)を下記式(4)で定義すると、適応スライディングモードコントローラの切換関数値σ(k)は、下記式(5)にように設定される。
ここで、VPOLEは、−1より大きく1より小さい値に設定される切換関数設定パラメータである。
【0031】
縦軸を偏差e(k)とし、横軸を前回偏差e(k-1)として定義される位相平面上では、σ(k)=0を満たす偏差e(k)と、前回偏差e(k-1)との組み合わせは、直線となるので、この直線は一般に切換直線と呼ばれる。スライディングモード制御は、この切換直線上の偏差e(k)の振る舞いに着目した制御であり、切換関数値σ(k)が0となるように、すなわち偏差e(k)と前回偏差e(k-1)の組み合わせが位相平面上の切換直線上に載るように制御を行い、外乱やモデル化誤差(実際のプラントの特性と、モデル化した制御対象モデルの特性との差)に対してロバストな制御を実現し、スロットル弁開度偏差量DTHを目標値DTHRに追従させるものである。
【0032】
また式(5)の切換関数設定パラメータVPOLEの値を変更することにより、図4に示すように、偏差e(k)の減衰特性、すなわちスロットル弁開度偏差量DTHの目標値DTHRへの追従特性を変更することができる。具体的には、VPOLE=−1とすると、全く追従しない特性となり、切換関数設定パラメータVPOLEの絶対値を小さくするほど、追従速度を速めることができる。
【0033】
スロットル弁制御装置においては、下記要求A1及びA2が満たされることが求められる。
A1)スロットル弁3を全閉位置に移動させる際にスロットル全閉ストッパへの衝突を回避すること
A2)デフォルト開度THDEF近傍における非線形特性(リターンスプリング4の付勢力と弾性部材5の付勢力とが釣り合うことに起因する弾性特性の変化、モータ6とスロットル弁3と間に介装されたギヤのバックラッシ、デューティ比DUTの変化してもスロットル弁開度が変化しない不感帯)に対する制御性を向上させること
そのため、スロットル弁の全閉位置近傍では、偏差e(k)の収束速度を低下させ、またデフォルト開度THDEFの近傍では、収束速度を高める必要がある。
【0034】
スライディングモード制御によれば、切換関数設定パラメータVPOLEを変更することにより、容易に収束速度を変更できるので、本実施形態では、スロットル弁開度TH及び目標値DTHRの変化量DDTHR(=DTHR(k)−DTHR(k-1))に応じて、切換関数設定パラメータVPOLEを設定するようにした。これにより、上記要求A1及びA2を満たすことができる。
【0035】
上述したようにスライディングモード制御では、偏差e(k)と前回偏差e(k-1)の組み合わせ(以下「偏差状態量」という)を切換直線上に拘束することにより、偏差e(k)を指定した収束速度で、かつ外乱やモデル化誤差に対してロバストに、0に収束させる。したがって、スライディングモード制御では、如何にして偏差状態量を切換直線に載せ、そこに拘束するかが重要となる。
【0036】
そのような観点から、制御対象への入力(コントローラの出力)DUT(k)(Usl(k)とも表記する)は、下記式(6)に示すように、等価制御入力Ueq(k)、到達則入力Urch(k)及び適応則入力Uadp(k)の和として構成される。
【0037】
等価制御入力Ueq(k)は、偏差状態量を切換直線上に拘束するための入力であり、到達則入力Urch(k)は、偏差状態量を切換直線上へ載せるための入力であり、適応則入力Uadp(k)は、モデル化誤差や外乱の影響を抑制し、偏差状態量を切換直線へ載せるための入力である。以下各入力Ueq(k),Urch(k)及びUadp(k)の算出方法を説明する。
【0038】
等価制御入力Ueq(k)は、偏差状態量を切換直線上に拘束するための入力であるから、満たすべき条件は下記式(7)で与えられる。
σ(k)=σ(k+1) (7)
式(1)並びに式(4)及び(5)を用いて式(7)を満たすデューティ比DUT(k)を求めると、下記式(9)が得られ、これが等価制御入力Ueq(k)となる。さらに、到達則入力Urch(k)及び適応則入力Uadp(k)を、それぞれ下記式(10)及び(11)により定義する。
【数1】
【0039】
ここで、F及びGは、それぞれ到達則制御ゲイン及び適応則制御ゲインであり、以下に述べるように設定される。またΔTは、制御周期である。
上記式(9)の演算には、むだ時間d経過後のスロットル弁開度偏差量DTH(k+d)及び対応する目標値DTHR(k+d+1)が必要である。そこで、むだ時間d経過後のスロットル弁開度偏差量DTH(k+d)として、状態予測器23により算出される予測偏差量PREDTH(k)を用い、目標値DTHR(k+d+1)として、最新の目標値DTHRを用いることとする。
【0040】
次に到達則入力Urch及び適応則入力Uadpにより、偏差状態量が安定に切換直線上に載せられるように、到達則制御ゲインF及び適応則制御ゲインGの決定を行う。
具体的には外乱V(k)を想定し、外乱V(k)に対して切換関数値σ(k)が安定であるための条件を求めることにより、ゲインF及びGの設定条件を求める。その結果、ゲインF及びGの組み合わせが、下記式(12)〜(14)を満たすこと、換言すれば図5にハッチングを付して示す領域内にあることが安定条件として得られた。
【0041】
F>0 (12)
G>0 (13)
F<2−(ΔT/2)G (14)
以上のように、式(9)〜(11)により、等価制御入力Ueq(k)、到達則入力Urch(k)及び適応則入力Uadp(k)を算出し、それらの入力の総和として、デューティ比DUT(k)を算出することができる。
【0042】
モデルパラメータ同定器22は、前述したように制御対象の入力(DUT(k))及び出力(TH(k))に基づいて、制御対象モデルのモデルパラメータベクトルを算出する。具体的には、モデルパラメータ同定器22は、下記式(15)による逐次型同定アルゴリズム(一般化逐次型最小2乗法アルゴリズム)により、モデルパラメータベクトルθ(k)を算出する。
θ(k)=θ(k-1)+KP(k)ide(k) (15)
θ(k)T=[a1’,a2’,b1’,c1’] (16)
【0043】
ここで、a1’,a2’,b1’及びC1’は、後述するリミット処理を実施する前のモデルパラメータである。またide(k)は、下記式(17)、(18)及び(19)により定義される同定誤差である。DTHHAT(k)は、最新のモデルパラメータベクトルθ(k-1)を用いて算出される、スロットル弁開度偏差量DTH(k)の推定値(以下「推定スロットル弁開度偏差量」という)である。KP(k)は、下記式(20)により定義されるゲイン係数ベクトルである。また、式(20)のP(k)は、下記式(21)により算出される4次の正方行列である。
【数2】
【数3】
【0044】
式(21)の係数λ1,λ2の設定により、式(15)〜(21)による同定アルゴリズムは、以下のような4つの同定アルゴリズムのいずれかになる。
λ1=1,λ2=0 固定ゲインアルゴリズム
λ1=1,λ2=1 最小2乗法アルゴリズム
λ1=1,λ2=λ 漸減ゲインアルゴリズム(λは0,1以外の所定値)
λ1=λ,λ2=1 重み付き最小2乗法アルゴリズム(λは0,1以外の所定値)
【0045】
一方本実施形態では、下記B1)、B2)、B3)の要求を満たすことが求められる。
B1)準静的動特性変化及びハードウエアの特性ばらつきに対する適応
「準静的動特性変化」とは、例えば電源電圧の変動やハードウエアの経年劣化といった変化速度の遅い特性変化を意味する。
B2)動的な動特性変化への適応
具体的には、スロットル弁開度THの変化に対応する動特性変化への適応を意味する。
B3)モデルパラメータのドリフト防止
モデルパラメータに反映すべきでない制御対象の非線形特性などに起因する同定誤差の影響によって、モデルパラメータの絶対値が増大するような不具合を防止する。
【0046】
先ず上記B1)及びB2)の要求を満たすために、係数λ1及びλ2をそれぞれ所定値λ及び「0」に設定することにより、重み付き最小2乗法アルゴリズムを採用する。
次にモデルパラメータのドリフトについて説明する。図6に示すように、モデルパラメータがある程度収束した後に、スロットル弁の摩擦特性などの非線形特性によって生じる残留同定誤差が存在したり、平均値がゼロでない外乱が定常的に加わるような場合には、残留同定誤差が蓄積し、モデルパラメータのドリフトを引き起こす。
【0047】
このような残留同定誤差は、モデルパラメータの値に反映すべきものではないので、図7(a)に示すような不感帯関数Fnlを用いて不感帯処理を行う。具体的には、下記式(23)により、修正同定誤差idenl(k)を算出し、この修正同定誤差idenl(k)を用いてモデルパラメータベクトルθ(k)の算出を行う。すなわち、上記式(15)に代えて下記式(15a)を用いる。これにより、上記要求B3)を満たすことができる。
idenl(k)=Fnl(ide(k)) (23)
θ(k)=θ(k-1)+KP(k)idenl(k) (15a)
【0048】
なお、不感帯関数Fnlは、図7(a)に示すものに限るものではなく、例えば同図(b)に示すような不連続不感帯関数、または同図(c)に示すような不完全不感帯関数を用いてもよい。ただし、不完全不感帯関数を用いた場合には、ドリフトを完全に防止することはできない。
【0049】
また、残留同定誤差は、スロットル弁開度THの変動量に応じてその振幅が変化する。そこで、本実施形態では、図7に示す不感帯の幅を定義する不感帯幅パラメータEIDNRLMTを、下記式(24)により算出される、目標スロットル弁開度THRの変化量の二乗平均値DDTHRSQAに応じて設定する(具体的には、二乗平均値DDTHRSQAが増加するほど、不感帯幅パラメータEIDNRLMTが増加するように設定する)ようにしている。これにより、モデルパラメータの値に反映させるべき同定誤差を、残留同定誤差として無視してしまうことを防止することができる。式(24)のDDTHRは、目標スロットル弁開度THRの変化量であり、下記式(25)により算出される。
【数4】
【0050】
ここで、スロットル弁開度偏差量DTHは目標値DTHRへ適応スライディングモードコントローラ21により制御されているため、同様に式(25)の目標値DTHRをスロットル弁開度偏差量DTHへ変更し、スロットル弁開度偏差量DTHの変化量DDTHを算出し、式(24)のDDTHRをDDTHに代えて得られる二乗平均値DDTHRSQAにより不感帯幅パラメータEIDNRLMTを変更することもできる。
【0051】
また制御系のロバスト性をさらに高めるためには、適応スライディングモードコントローラ21をより安定化させることが有効である。そこで本実施形態では、前記式(15)により算出されたモデルパラメータベクトルθ(k)の各要素a1’,a2’,b1’及びc1’についてリミット処理を施し、修正モデルパラメータベクトルθL(k)(θL(k)T=[a1,a2,b1,c1])を算出する。そして、適応スライディングモードコントローラ21は、修正モデルパラメータベクトルθL(k)を用いて、スライディングモード制御を実行する。なおリミット処理の詳細については、フローチャートを参照して後述する。
【0052】
次に状態予測器23による予測偏差量PREDTHの算出方法を説明する。
先ず下記式(26)〜(29)により、マトリクスA及びBと、ベクトルX(k)及びU(k)を定義する。
【数5】
これらのマトリクスA,Bと、ベクトルX(k),U(k)を用いて、制御対象モデルを定義する前記式(1)を書き直すと、下記式(30)が得られる。
X(k+1)=AX(k)+BU(k-d) (30)
【0053】
式(30)からX(k+d)を求めると、下記式(31)が得られる。
【数6】
ここで、リミット処理前のモデルパラメータa1’,a2’,b1’及びc1’を用いてマトリクスA’及びB’を下記式(32)及び(33)により定義すると、予測ベクトルXHAT(k+d)は、下記式(34)で与えられる。
【数7】
【0054】
予測ベクトルXHAT(k+d)の第1行の要素であるDTHHAT(k+d)が、予測偏差量PREDTH(k)であり、下記式(35)で与えられる。
ここで、α1はマトリクスA’dの1行1列要素、α2はマトリクスA’dの1行2列要素、βiはマトリクスA’d-iB’の1行1列要素、γiはマトリクスA’d-iB’の1行2列要素である。
【0055】
式(35)により算出される予測偏差量PREDTH(k)を、前記式(9)に適用し、さらに目標値DTHR(k+d+1),DTHR(k+d),及びDTHR(k+d-1)をそれぞれDTHR(k),DTHR(k-1),及びDTHR(k-2)に置き換えることにより、下記式(9a)が得られる。式(9a)により、等価制御入力Ueq(k)を算出する。
【数8】
【0056】
また、式(35)により算出される予測偏差量PREDTH(k)を用いて、下記式(36)により予測切替関数値σpre(k)を定義し、到達則入力Urch(k)及び適応則入力Uadp(k)を、それぞれ下記式(10a)及び(11a)により算出する。
【数9】
【0057】
次にモデルパラメータc1’は、前述したように、デフォルト開度THDEFのずれ及び外乱を示すパラメータである。したがって、図8に示すように、外乱によって変動するが、デフォルト開度ずれは比較的短い期間内でみればほぼ一定とみなせる。そこで、本実施形態では、モデルパラメータc1’を統計処理し、その変動の中心値をデフォルト開度ずれthdefadpとして算出し、スロットル弁開度偏差量DTH及び目標値DTHRの算出に用いることとした。
【0058】
統計処理の手法には、一般に最小2乗法が知られているが、この最小2乗法による統計処理は、通常、ある一定期間内のデータ、すなわち同定されたモデルパラメータc1’をすべてメモリに格納しておき、ある時点で一括演算を行うことによって実行される。ところが、この一括演算法では、すべてのデータを格納するために膨大な容量のメモリが必要となり、さらに逆行列演算が必要となって演算量の増大を招く。
【0059】
そこで本実施形態では、前記式(15)〜(21)で示される適応制御の逐次型最小2乗法アルゴリズムを、統計処理に応用し、モデルパラメータc1の最小2乗中心値を、デフォルト開度ずれthdefadpとして算出するようにしている。
【0060】
具体的には、前記式(15)〜(21)のθ(k)及びθ(k)Tをthdefadpに置換し、ζ(k)及びζ(k)Tを「1」に置換し、ide(k)をec1(k)に置換し、KP(k)をKPTH(k)に置換し、P(k)をPTH(k)に置換し、λ1及びλ2をそれぞれλ1’及びλ2’に置換することにより、下記式(37)〜(40)を得る。
【数10】
【0061】
係数λ1’及びλ2’の設定により、前述した4つのアルゴリズムの何れかを選択可能であるが、式(39)においては、係数λ1’を0または1以外の所定値に設定し、係数λ2’を1に設定することにより、重み付き最小2乗法を採用した。
【0062】
上記式(37)〜(40)の演算においては、記憶すべき値はthdefadp(k+1)及びPTH(k+1)のみであり、また逆行列演算は不要である。したがって、逐次型最小2乗法アルゴリズムを採用することにより、一般的な最小2乗法の欠点を克服しつつ、最小2乗法によるモデルパラメータc1の統計処理を行うことができる。
【0063】
統計処理の結果得られるデフォルト開度ずれthdefadpは、前記式(2)及び(3)に適用され、式(2)及び(3)に代えて下記式(41)及び(42)により、スロットル弁開度偏差量DTH(k)及び目標値DTHR(k)が算出される。
DTH(k)=TH(k)−THDEF+thdefadp (41)
DTHR(k)=THR(k)−THDEF+thdefadp (42)
【0064】
式(41)及び(42)を使用することにより、デフォルト開度THDEFが、ハードウエアの特性ばらつき、あるいは経時変化により、設計値からずれた場合でも、そのずれを補償して正確な制御を行うことができる。
【0065】
次に上述した適応スライディングモードコントローラ21、モデルパラメータ同定器22及び状態予測器23の機能を実現するための、ECU7のCPUにおける演算処理を説明する。
【0066】
図9は、スロットル弁開度制御の全体フローチャートであり、この処理は所定時間(例えば2msec)毎にECU7のCPUで実行される。
ステップS11では、図10に示す状態変数設定処理を実行する。すなわち、式(41)及び(42)の演算を実行し、スロットル弁開度偏差量DTH(k)及び目標値DTHR(k)を算出する(図10,ステップS21及びS22)。なお、今回値であることを示す(k)は、省略して示す場合がある。
【0067】
ステップS12では、図11に示すモデルパラメータ同定器の演算、すなわち前記式(15a)によるモデルパラメータベクトルθ(k)の算出処理を実行し、さらにリミット処理を実行して修正モデルパラメータベクトルθL(k)を算出する。
【0068】
続くステップS13では、図21に示す状態予測器の演算を実行し、予測偏差量PREDTH(k)を算出する。
次いでステップS12で算出した修正モデルパラメータベクトルθL(k)を用いて、図22に示す制御入力Usl(k)の演算処理を実行する(ステップS14)。すなわち、等価制御入力Ueq、到達則入力Urch(k)及び適応則入力Uadp(k)を算出し、それらの入力の総和として、制御入力Usl(k)(=デューティ比DUT(k))を算出する。
【0069】
続くステップS16では、図29に示すスライディングモードコントローラの安定判別処理を実行する。すなわち、リアプノフ関数の微分値に基づく安定判別を行い、安定判別フラグFSMCSTABの設定を行う。この安定判別フラグFSMCSTABは、「1」に設定されると適応スライディングモードコントローラ21が不安定となっていることを示す。安定判別フラグFSMCSTABが「1」に設定され、適応スライディングモードコントローラ21が不安定となったときは、切換関数設定パラメータVPOLEを安定化所定値XPOLESTBに設定する(図24、ステップS231,S232参照)とともに、等価制御入力Ueqを「0」とし、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpのみによる制御に切り換えることにより、制御の安定化を図る(図22、ステップS206,S208参照)。適応スライディングモードコントローラ21が不安定となったときは、さらに到達則入力Urch及び適応則入力Uadpの算出式を変更する。すなわち、到達則制御ゲインF及び適応則制御ゲインGの値を、コントローラ21を安定化させる値に変更するとともに、モデルパラメータb1を使用しないで、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpを算出する(図27,28参照)。以上のような安定化処理により、適応スライディングモードコントローラ21の不安定状態を早期に終息させ、安定な状態に戻すことができる。
ステップS17では、図30に示すthdefadp算出処理を実行し、デフォルト開度ずれthdefadpを算出する。
【0070】
図11は、モデルパラメータ同定器22の演算処理のフローチャートである。
ステップS31では、式(20)によりゲイン係数ベクトルKP(k)を算出し、次いで式(18)により推定スロットル弁開度偏差量DTHHAT(k)を算出する(ステップS32)。ステップS33では、図12に示すidenl(k)の演算処理を実行し、ステップS32で算出した推定スロットル弁開度偏差量DTHHAT(k)を、式(17)に適用して同定誤差ide(k)を算出するとともに、図7(a)に示す関数を用いた不感帯処理を行い、修正同定誤差idenlを算出する。
【0071】
続くステップS34では、式(15a)により、モデルパラメータベクトルθ(k)を算出し、次いでモデルパラメータベクトルθ(k)の安定化処理を実行する(ステップS35)。すなわち各モデルパラメータのリミット処理を行って修正モデルパラメータベクトルθL(k)を算出する。
【0072】
図12は、図11のステップS33で実行されるidenl(k)演算処理のフローチャートである。
ステップS51では、式(17)により同定誤差ide(k)を算出する。次いで、ステップS53でインクリメントされるカウンタCNTIDSTの値が、制御対象のむだ時間dに応じて設定される所定値XCNTIDST(例えば、むだ時間d=2に対応して、「3」に設定される)より大きいか否かを判別する(ステップS52)。カウンタCNTIDSTの初期値は「0」であるので、最初はステップS53に進み、カウンタCNTIDSTを「1」だけインクリメントし、同定誤差ide(k)を「0」に設定して(ステップS54)、ステップS55に進む。モデルパラメータベクトルθ(k)の同定を開始した直後は、式(17)による演算で正しい同定誤差が得られないので、ステップS52〜S54により、式(17)による演算結果を用いずに同定誤差ide(k)を「0」に設定するようにしている。
【0073】
ステップS52の答が肯定(YES)となると、直ちにステップS55に進む。
ステップS55では、同定誤差ide(k)のローパスフィルタ処理を行う。具体的には、ローパス特性を有する制御対象のモデルパラメータを同定する場合、最小2乗同定アルゴリズムの同定誤差ide(k)に対する同定重みは、図13(a)に実線L1で示すような周波数特性を有するが、これをローパスフィルタ処理により、破線L2で示すように高周波成分を減衰させた特性とする。これは、以下の理由による。
【0074】
実際の制御対象及びこれをモデル化した制御対象モデルの周波数特性は、それぞれ図13(b)に実線L3及びL4で示すようになる。すなわち、ローパス特性(高周波成分が減衰する特性)を有する制御対象について、モデルパラメータ同定器22によりモデルパラメータを同定すると、同定されたモデルパラメータは高周波域阻止特性に大きく影響されたものとなるため、低周波域での制御対象モデルのゲインが実際の特性より低くなる。その結果、スライディングモードコントローラ21による制御入力の補正が過補正となる。
【0075】
そこで、ローパスフィルタ処理により同定アルゴリズムの重みの周波数特性を、図13(a)に破線L2で示すような特性とすることにより、制御対象モデルの周波数特性を、同図(b)に破線L5で示すような特性とし、実際の周波数特性と一致させ、あるいは制御対象モデルのゲインが実際のゲインよりやや高くなるように修正することとした。これにより、コントローラ21による過補正を防止し、制御系のロバスト性を高めて制御系をより安定化させることができる。
【0076】
なお、ローパスフィルタ処理は、同定誤差の過去値ide(k-i)(例えばi=1〜10に対応する10個の過去値)をリングバッファに記憶し、それらの過去値に重み係数を乗算して加算することにより実行する。
さらに、同定誤差ide(k)は、前記式(17)、(18)及び(19)を用いて算出しているため、スロットル弁開度偏差量DTH(k)と、推定スロットル弁開度偏差量DTHHAT(k)とに同様のローパスフィルタ処理を行うこと、あるいは、スロットル弁開度偏差量DTH(k-1)及びDTH(k-2)と、デューティ比DUT(k-d-1)とに同様のローパスフィルタ処理を行うことによっても同様の効果が得られる。
【0077】
図12に戻り、続くステップS56では、図14に示す不感帯処理を実行する。図14のステップS61では、前記式(24)において例えばn=5として、目標スロットル弁開度THRの変化量の二乗平均値DDTHRSQAを算出し、次いで二乗平均値DDTHRSQAに応じて図15に示すEIDNRLMTテーブルを検索し、不感帯幅パラメータEIDNRLMTを算出する(ステップS62)。
【0078】
ステップS63では、同定誤差ide(k)が不感帯幅パラメータEIDNRLMTより大きいか否かを判別し、ide(k)>EIDNRLMTであるときは、下記式(43)により、修正同定誤差idenl(k)算出する(ステップS67)。
idenl(k)=ide(k)−EIDNRLMT (43)
【0079】
ステップS63の答が否定(NO)であるときは、さらに同定誤差ide(k)が不感帯幅パラメータEIDNRLMTに負号を付した値より小さいか否かを判別し(ステップS64)、ide(k)<−EIDNRLMTであるときは、下記式(44)により、修正同定誤差idenl(k)算出する(ステップS65)。
idenl(k)=ide(k)+EIDNRLMT (44)
また同定誤差ide(k)が±EIDNRLMTの範囲内にあるときは、修正同定誤差idenl(k)を「0」とする(ステップS66)。
【0080】
図16は、図11のステップS35で実行されるθ(k)の安定化処理のフローチャートである。
ステップS71では、この処理で使用されるフラグFA1STAB,FA2STAB,FB1LMT及びFC1LMTをそれぞれ「0」に設定することにより、初期化を行う。そして、ステップS72では、図17に示すa1’及びa2’のリミット処理を実行し、ステップS73では、図19に示すb1’のリミット処理を実行し、ステップS74では、図20に示すc1’のリミット処理を実行する。
【0081】
図17は、図16のステップS72で実行されるa1’及びa2’のリミット処理のフローチャートである。図18は、図17の処理を説明するための図であり、図17とともに参照する。
図18においては、リミット処理が必要なモデルパラメータa1’とa2’の組み合わせが「×」で示され、また安定なモデルパラメータa1’及びa2’の組み合わせの範囲がハッチングを付した領域(以下「安定領域」という)で示されている。図17の処理は、安定領域外にあるモデルパラメータa1’及びa2’の組み合わせを、安定領域内(「○」で示す位置)に移動させる処理である。
【0082】
ステップS81では、モデルパラメータa2’が、所定a2下限値XIDA2L以上か否かを判別する。所定a2下限値XIDA2Lは、「−1」より大きい負の値に設定される。所定a2下限値XIDA2Lは、「−1」に設定しても、安定な修正モデルパラメータa1,a2が得られるが、前記式(26)で定義される行列Aのn乗が不安定となる(これは、a1’及びa2’が発散はしないが振動することを意味する)場合があるので、「−1」より大きな値に設定される。
【0083】
ステップS81でa2’<XIDA2Lであるときは、修正モデルパラメータa2を、この下限値XIDA2Lに設定するとともに、a2安定化フラグFA2STABを「1」に設定する。a2安定化フラグFA2STABは「1」に設定されると、修正モデルパラメータa2を下限値XIDA2Lに設定したことを示す。図18においては、ステップS81及びS82のリミット処理P1によるモデルパラメータの修正が、「P1」を付した矢線(矢印を付した線)で示されている。
【0084】
ステップS81の答が肯定(YES)、すなわちa2’≧XIDA2Lであるときは、修正モデルパラメータa2はモデルパラメータa2’に設定される(ステップS83)。
ステップS84及びステップS85では、モデルパラメータa1’が、所定a1下限値XIDA1Lと所定a1上限値XIDA1Hできまる範囲内にあるか否かを判別する。所定a1下限値XIDA1Lは、−2以上且つ0より小さい値に設定され、所定a1上限値XIDA1Hは、例えば2に設定される。
【0085】
ステップS84及びS85の答がいずれも肯定(YES)であるとき、すなわちXIDA1L≦a1’≦XIDA1Hであるときは、修正モデルパラメータa1はモデルパラメータa1’に設定される(ステップS88)。
一方a1’<XIDA1Lであるときは、修正モデルパラメータa1を下限値XIDA1Lに設定するとともに、a1安定化フラグFA1STABを「1」に設定する(ステップS84,S86)。またa1’>XIDA1Hであるときは、修正モデルパラメータa1を上限値XIDA1Hに設定するとともに、a1安定化フラグFA1STABを「1」に設定する(ステップS85,S87)。a1安定化フラグFA1STABは、「1」に設定されると、修正モデルパラメータa1を下限値XIDA1Lまたは上限値XIDA1Hに設定したことを示す。図18においては、ステップS84〜S87のリミット処理P2によるモデルパラメータの修正が、「P2」を付した矢線で示されている。
【0086】
ステップS90では、修正モデルパラメータa1の絶対値と修正モデルパラメータa2の和が、所定安定判定値XA2STAB以下であるか否かを判別する。所定安定判定値XA2STABは、「1」に近く「1」より小さい値(例えば0.99)に設定される。
【0087】
図18に示す直線L1及びL2は、下記式(45)を満たす直線である。
a2+|a1|=XA2STAB (45)
したがって、ステップS90は、修正モデルパラメータa1及びa2の組み合わせが、図18に示す直線L1及びL2の線上またはその下側にあるか否かを判別している。ステップS90の答が肯定(YES)であるときは、修正モデルパラメータa1及びa2の組み合わせは、図18の安定領域内にあるので、直ちに本処理を終了する。
【0088】
一方ステップS90の答が否定(NO)であるときは、修正モデルパラメータa1が、所定安定判定値XA2STABから所定a2下限値XIDA2Lを減算した値(XIDA2L<0であるので、XA2STAB−XIDA2L>XA2STABが成立する)以下か否かを判別する(ステップS91)。そして修正モデルパラメータa1が(XA2STAB−XIDA2L)以下であるときは、修正モデルパラメータa2を(XA2STAB−|a1|)に設定するとともに、a2安定化フラグFA2STABを「1」に設定する(ステップS92)。
【0089】
ステップS91で修正モデルパラメータa1が(XA2STAB−XIDA2L)より大きいときは、修正モデルパラメータa1を(XA2STAB−XIDA2L)に設定し、修正モデルパラメータa2を所定a2下限値XIDA2Lに設定するとともに、a1安定化フラグFA1STAB及びa2安定化フラグFA2STABをともに「1」に設定する(ステップS93)。
【0090】
図18においては、ステップS91及びS92のリミット処理P3によるモデルパラメータの修正が、「P3」を付した矢線で示されており、またステップS91及びS93のリミット処理P4によるモデルパラメータの修正が、「P4」を付した矢線で示されている。
以上のように図17の処理により、モデルパラメータa1’及びa2’が図18に示す安定領域内に入るようにリミット処理が実行され、修正モデルパラメータa1及びa2が算出される。
【0091】
図19は、図16のステップS73で実行されるb1’のリミット処理のフローチャートである。
ステップS101及びS102では、モデルパラメータb1’が、所定b1下限値XIDB1Lと所定b1上限値XIDB1Hできまる範囲内にあるか否かを判別する。所定b1下限値XIDB1Lは、正の所定値(例えば0.1)に設定され、所定b1上限値XIDB1Hは、例えば「1」に設定される。
【0092】
ステップS101及びS102の答がいずれも肯定(YES)であるとき、すなわちXIDB1L≦b1’≦XIDB1Hであるときは、修正モデルパラメータb1はモデルパラメータb1’に設定される(ステップS105)。
一方b1’<XIDB1Lであるときは、修正モデルパラメータb1を下限値XIDB1Lに設定するとともに、b1リミットフラグFB1LMTを「1」に設定する(ステップS101,S104)。またb1’>XIDB1Hであるときは、修正モデルパラメータb1を上限値XIDB1Hに設定するとともに、b1リミットフラグFB1LMTを「1」に設定する(ステップS102,S103)。b1リミットフラグFB1LMTは、「1」に設定されると、修正モデルパラメータb1を下限値XIDB1Lまたは上限値XIDB1Hに設定したことを示す。
【0093】
図20は、図16のステップS74で実行されるモデルパラメータc1’のリミット処理のフローチャートである。
ステップS111及びS112では、モデルパラメータc1’が、所定c1下限値XIDC1Lと所定c1上限値XIDC1Hできまる範囲内にあるか否かを判別する。所定c1下限値XIDC1Lは、例えば−60に設定され、所定c1上限値XIDC1Hは、例えば60に設定される。
【0094】
ステップS111及びS112の答がいずれも肯定(YES)であるとき、すなわちXIDC1L≦c1’≦XIDC1Hであるときは、修正モデルパラメータc1はモデルパラメータc1’に設定される(ステップS115)。
一方c1’<XIDC1Lであるときは、修正モデルパラメータc1を下限値XIDC1Lに設定するとともに、c1リミットフラグFC1LMTを「1」に設定する(ステップS111,S114)。またc1’>XIDC1Hであるときは、修正モデルパラメータc1を上限値XIDC1Hに設定するとともに、c1リミットフラグFC1LMTを「1」に設定する(ステップS112,S113)。c1リミットフラグFC1LMTは、「1」に設定されると、修正モデルパラメータc1を下限値XIDC1Lまたは上限値XIDC1Hに設定したことを示す。
【0095】
図21は、図9のステップS13で実行される状態予測器の演算処理のフローチャートである。
ステップS121では、マトリクス演算を実行して前記式(35)の行列要素α1,α2,β1〜β2、及びγ1〜γdを算出する。
ステップS122では、式(35)により、予測偏差量PREDTH(k)を算出する。
【0096】
図22は、図9のステップS14で実行される、スロットル弁駆動装置10への制御入力Usl(=DUT)を算出する処理のフローチャートである。
ステップS201では、図23に示す予測切換関数値σpreの演算処理を実行し、ステップS202では、図26に示す予測切換関数値σpreの積算値の演算処理を実行する。ステップS203では、前記式(9)により、等価制御入力Ueqを算出する。ステップS204では、図27に示す到達則入力Urchの演算処理を実行し、ステップS205では、図28に示す適応則入力Uadpの演算処理を実行する。
【0097】
ステップS206では、後述する図29の処理で設定される安定判別フラグFSMCSTABが「1」であるか否かを判別する。安定判別フラグFSMCSTABは、「1」に設定されると、適応スライディングモードコントローラ21が不安定となっていることを示す。
【0098】
ステップS206でFSMCSTAB=0であって適応スライディングモードコントローラ21が安定であるときは、ステップS203〜S205で算出された制御入力Ueq,Urch及びUadpを加算することにより、制御入力Uslを算出する(ステップS207)。
【0099】
一方FSMCSTAB=1であって適応スライディングモードコントローラ21が不安定となっているときは、到達則入力Urch及び適応則入力Uadpの和を、制御入力Uslとして算出する。すなわち、等価制御入力Ueqを、制御入力Uslの算出に使用しないようにする。これにより、制御系が不安定化することを防止することができる。
【0100】
続くステップS209及びS210では、算出した制御入力Uslが所定上下限値XUSLH及びXUSLLの範囲内にあるか否かを判別し、制御入力Uslが所定上下限値の範囲内にあるときは、直ちに本処理を終了する。一方、制御入力Uslが所定下限値XUSLL以下であるときは、制御入力Uslを所定下限値XUSLLに設定し(ステップS209,S212)、制御入力Uslが所定上限値XUSLH以上であるときは、制御入力Uslを所定上限値XUSLHに設定する(ステップS210,S211)。
【0101】
図23は、図22のステップS201で実行される予測切換関数値σpreの演算処理のフローチャートである。
ステップS221では、図24に示す切換関数設定パラメータVPOLEの演算処理を実行し、次いで前記式(36)により、予測切換関数値σpre(k)の演算を実行する(ステップS222)。
【0102】
続くステップS223及びS224では、算出した予測切換関数値σpre(k)が所定上下限値XSGMH及びXSGMLの範囲内にあるか否かを判別し、予測切換関数値σpre(k)が所定上下限値の範囲内にあるときは、直ちに本処理を終了する。一方、予測切換関数値σpre(k)が所定下限値XSGML以下であるときは、予測切換関数値σpre(k)を所定下限値XSGMLに設定し(ステップS223,S225)、予測切換関数値σpre(k)が所定上限値XSGMH以上であるときは、予測切換関数値σpre(k)を所定上限値XSGMHに設定する(ステップS224,S226)。
【0103】
図24は、図23のステップS221で実行される切換関数設定パラメータVPOLEの演算処理のフローチャートである。
ステップS231では、安定判別フラグFSMCSTABが「1」であるか否かを判別し、FSMCSTAB=1であって適応スライディングモードコントローラ21が不安定となっているときは、切換関数設定パラメータVPOLEを安定化所定値XPOLESTBに設定する(ステップS232)。安定化所定値XPOLESTBは、「−1」より大きく「−1」に非常に近い値(例えば−0.999)に設定される。
【0104】
FSMCSTAB=0であって適応スライディングモードコントローラ21が安定であるときは、下記式(46)により目標値DTHR(k)の変化量DDTHR(k)を算出する(ステップS233)。
DDTHR(k)=DTHR(k)−DTHR(k-1) (46)
ステップS234では、スロットル弁開度偏差量DTH及びステップS233で算出される目標値の変化量DDTHRに応じてVPOLEマップを検索し、切換関数設定パラメータVPOLEを算出する。VPOLEマップは、図25(a)に示すように、スロットル弁開度偏差量DTHが0近傍の値をとるとき(スロットル弁開度THがデフォルト開度THDEF近傍の値をとるとき)増加し、0近傍以外の値ではスロットル弁開度偏差量DTHの変化に対してはほぼ一定の値となるように設定されている。またVPOLEマップは、同図(b)に実線で示すように、目標値の変化量DDTHRが増加するほど、VPOLE値が増加するように設定されているが、スロットル弁開度偏差量DTHが0近傍の値をとるときには、同図に破線で示すように目標値の変化量DDTHRが0近傍の値をとるときに増加するように設定されている。
【0105】
すなわち、スロットル弁開度の目標値DTHRが減少方向の変化が大きいときには、切換関数設定パラメータVPOLEは比較的小さな値に設定される。これにより、スロットル弁3がスロットル全閉ストッパに衝突することを防止することができる。また、デフォルト開度THDEF近傍においては、切換関数設定パラメータVPOLEが比較的大きな値に設定され、デフォルト開度THDEF近傍における制御性を向上させることができる。
【0106】
なお、同図(c)に示すように、スロットル弁開度THが全閉開度近傍または全開開度近傍にあるときは、切換関数設定パラメータVPOLEを減少させるように設定してもよい。これにより、スロットル弁開度THが全閉開度近傍または全開開度近傍にあるときは、目標開度THRに対する追従速度が遅くなり、スロットル弁3の全閉ストッパ(全開開度でもストッパとして機能する)への衝突防止をより確実にすることができる。
【0107】
続くステップS235及びS236では、算出した切換関数設定パラメータVPOLEが所定上下限値XPOLEH及びXPOLELの範囲内にあるか否かを判別し、切換関数設定パラメータVPOLEが所定上下限値の範囲内にあるときは、直ちに本処理を終了する。一方、切換関数設定パラメータVPOLEが所定下限値XPOLEL以下であるときは、切換関数設定パラメータVPOLEを所定下限値XPOLELに設定し(ステップS236,S238)、切換関数設定パラメータVPOLEが所定上限値XPOLEH以上であるときは、切換関数設定パラメータVPOLEを所定上限値XPOLEHに設定する(ステップS235,S237)。
【0108】
図26は、図22のステップS202で実行される、予測切換関数値σpreの積算値SUMSIGMAを算出する処理のフローチャートである。積算値SUMSIGMAは、後述する図28の処理で適応則入力Uadpの算出に使用される(前記式(11a)参照)。
【0109】
ステップS241では、下記式(47)により、積算値SUMSIGMAを算出する。下記式のΔTは、演算の実行周期である。
SUMSIGMA(k)=SUMSIGMA(k-1)+σpre×ΔT (47)
続くステップS242及びS243では、算出した積算値SUMSIGMAが所定上下限値XSUMSH及びXSUMSLの範囲内にあるか否かを判別し、積算値SUMSIGMAが所定上下限値の範囲内にあるときは、直ちに本処理を終了する。一方、積算値SUMSIGMAが所定下限値XSUMSL以下であるときは、積算値SUMSIGMAを所定下限値XSUMSLに設定し(ステップS242,S244)、積算値SUMSIGMAが所定上限値XSUMSH以上であるときは、積算値SUMSIGMAを所定上限値XSUMSHに設定する(ステップS243,S245)。
【0110】
図27は、図22のステップS204で実行される到達則入力Urchの演算処理のフローチャートである。
ステップS261では、安定判別フラグFSMCSTABが「1」であるか否かを判別する。安定判別フラグFSMCSTABが「0」であって適応スライディングモードコントローラ21が安定であるときは、制御ゲインFを所定通常ゲインXKRCHに設定し(ステップS262)、下記式(48)(前記式(10a)と同一の式)により、到達則入力Urchを算出する(ステップS263)。
Urch=−F×σpre/b1 (48)
【0111】
一方安定判別フラグFSMCSTABが「1」であって適応スライディングモードコントローラ21が不安定となったときは、制御ゲインFを、所定安定化ゲインXKRCHSTBに設定し(ステップS264)、モデルパラメータb1を使わない下記式(49)により到達則入力Urchを算出する(ステップS265)。
Urch=−F×σpre (49)
【0112】
続くステップS266及びS267では、算出した到達則入力Urchが所定上下限値XURCHH及びXURCHLの範囲内にあるか否かを判別し、到達則入力Urchが所定上下限値の範囲内にあるときは、直ちに本処理を終了する。一方、到達則入力Urchが所定下限値XURCHL以下であるときは、到達則入力Urchを所定下限値XURCHLに設定し(ステップS266,S268)、到達則入力Urchが所定上限値XURCHH以上であるときは、到達則入力Urchを所定上限値XURCHHに設定する(ステップS267,S269)。
【0113】
このように適応スライディングモードコントローラ21が不安定となったときは、制御ゲインFを所定安定化ゲインXKRCHSTBに設定するとともに、モデルパラメータb1を使用しないで到達則入力Urchを算出することにより、適応スライディングモードコントローラ21を安定な状態に戻すことができる。モデルパラメータ同定器22による同定が不安定となった場合に、適応スライディングモードコントローラ21が不安定となるので、不安定となったモデルパラメータb1を使わないことによって、適応スライディングモードコントローラ21を安定化することができる。
【0114】
図28は、図22のステップS205で実行される適応則入力Uadpの演算処理のフローチャートである。
ステップS271では、安定判別フラグFSMCSTABが「1」であるか否かを判別する。安定判別フラグFSMCSTABが「0」であって適応スライディングモードコントローラ21が安定であるときは、制御ゲインGを所定通常ゲインXKADPに設定し(ステップS272)、下記式(50)(前記式(11a)に対応する式)により、適応則入力Uadpを算出する(ステップS273)。
Uadp=−G×SUMSIGMA/b1 (50)
【0115】
一方安定判別フラグFSMCSTABが「1」であって適応スライディングモードコントローラ21が不安定となったときは、制御ゲインGを、所定安定化ゲインXKADPSTBに設定し(ステップS274)、モデルパラメータb1を使わない下記式(51)により適応則入力Uadpを算出する(ステップS275)。
Uadp=−G×SUMSIGMA (51)
【0116】
このように適応スライディングモードコントローラ21が不安定となったときは、制御ゲインGを所定安定化ゲインXKADPSTBに設定するとともに、モデルパラメータb1を使用しないで適応則入力Uadpを算出することにより、適応スライディングモードコントローラ21を安定な状態に戻すことができる。
【0117】
図29は、図9のステップS16で実行されるスライディングモードコントローラの安定判別処理のフローチャートである。この処理では、リアプノフ関数の微分項に基づく安定判別を行い、安定判別フラグFSMCSTABの設定を行う。
【0118】
ステップS281では下記式(52)により、切換関数変化量Dσpreを算出し、次いで下記式(53)により、安定性判別パラメータSGMSTABを算出する(ステップS282)。
Dσpre=σpre(k)−σpre(k-1) (52)
SGMSTAB=Dσpre×σpre(k) (53)
ステップS283では、安定性判別パラメータSGMSTABが安定性判定閾値XSGMSTAB以下か否かを判別し、SGMSTAB>XSGMSTABであるときは、コントローラ21が不安定である可能性があると判定して不安定検知カウンタCNTSMCSTを「1」だけインクリメントする(ステップS285)。また、SGMSTAB≦XSGMSTABであるときは、コントローラ21が安定であると判定して不安定検知カウンタCNTSMCSTのカウント値をインクリメントすることなく保持する(ステップS284)。
【0119】
ステップS286では、不安定検知カウンタCNTSMCSTの値が所定カウント値XSSTAB以下か否かを判別する。CNTSMCST≦XSSTABであるときは、コントローラ21は安定していると判定し、第1判定フラグFSMCSTAB1を「0」に設定する(ステップS287)。一方CNTSMCST>XSSTABであるときは、コントローラ21は不安定となっていると判定し、第1判定フラグFSMCSTAB1を「1」に設定する(ステップS288)。なお、不安定検知カウンタCNTSMCSTは、イグニッションスイッチオン時にそのカウント値が「0」に初期化される。
【0120】
続くステップS289では、安定判別期間カウンタCNTJUDSTを「1」だけデクリメントし、次いでその安定判別期間カウンタCNTJUDSTの値が「0」であるか否かを判別する(ステップS290)。安定判別期間カウンタCNTJUDSTは、イグニッションスイッチオン時に所定判別カウント値XCJUDSTに初期化される。したがって、最初はステップS290の答は否定(NO)となり、直ちにステップS295に進む。
【0121】
その後安定判別期間カウンタCNTJUDSTが「0」となると、ステップS290からステップS291に進み、第1判定フラグFSMCSTAB1が「1」であるか否かを判別する。そして、第1判定フラグFSMCSTAB1が「0」であるときは、第2判定フラグFSMCSTAB2を「0」に設定し(ステップS293)、第1判定フラグFSMCSTAB1が「1」であるときは、第2判定フラグFSMCSTAB2を「1」に設定する(ステップS292)。
【0122】
続くステップS294では、安定判別期間カウンタCNTJUDSTの値を所定判別カウント値XCJUDSTに設定するとともに、不安定検知カウンタCNTSMCSTの値を「0」に設定し、ステップS295に進む。
ステップS295では、安定判別フラグFSMCSTABを、第1判定フラグFSMCSTAB1と第2判定フラグFSMCSTAB2の論理和に設定する。第2判定フラグFSMCSTAB2は、ステップS286の答が肯定(YES)となり、第1判定フラグFSMCSTAB1が「0」に設定されても、安定判別期間カウンタCNTJUDSTの値が「0」となるまでは、「1」に維持される。したがって、安定判別フラグFSMCSTABも、安定判別期間カウンタCNTJUDSTの値が「0」となるまでは、「1」に維持される。
【0123】
図30は、図9のステップS17で実行されるデフォルト開度ずれthdefadpの算出処理のフローチャートである。
ステップS251では、下記式(54)により、ゲイン係数KPTH(k)を算出する。
KPTH(k)=PTH(k-1)/(1+PTH(k-1)) (54)
【0124】
ここでPTH(k-1)は、本処理の前回実行時にステップS253で算出されたゲインパラメータである。
ステップS252では、図11に示すモデルパラメータ同定器演算処理で算出されるモデルパラメータc1’及びステップS251で算出したゲイン係数KPTH(k)を下記式(55)に適用し、デフォルト開度ずれthdefadp(k)を算出する。
thdefadp(k)=thdefadp(k-1)
+KPTH(k)×(c1’−thdefadp(k-1))
(55)
【0125】
ステップS253では、下記式(56)によりゲインパラメータPTH(k)を算出する。
式(56)は、前記式(39)においてλ1’及びλ2’を、それぞれ所定値XDEFADPW及び「1」に設定したものである。
【0126】
図30の処理により、モデルパラメータc1’が逐次型重み付き最小2乗法により統計処理され、デフォルト開度ずれthdefadpが算出される。
本実施形態では、モデルパラメータ同定器22が同定手段に相当し、適応スライディングモードコントローラ21が学習値算出手段を構成する。より具体的には、図11の処理が同定手段に相当し、図30の処理が学習値算出手段に相当する。
【0127】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態におけるデフォルト開度THDEFは、第1付勢手段としてのリターンスプリング4の付勢力と、第2付勢手段としての弾性部材5の付勢力とが釣り合うスロットル弁開度として定義したが、先に示した特開平9−72231号公報に示されるような構造のスロットル弁駆動装置を制御対象とする場合には、スロットル弁を所定の開度に維持する中間レバーストッパによって決まるスロットル弁開度をデフォルト開度THDEFとして定義すればよい。
【0128】
【発明の効果】
以上詳述したように請求項1に記載の発明によれば、スロットル弁駆動装置をモデル化した制御対象モデルのモデルパラメータが逐次型同定アルゴリズムにより同定され、その同定されたモデルパラメータを逐次的に統計処理することにより、スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度の学習値が算出されるので、スロットル弁の駆動制御実行中に学習値の算出が行われ、前記学習値の算出頻度を高めて学習値の精度を向上させることができる。
【0129】
請求項2に記載の発明によれば、第1付勢手段によりスロットル弁が閉弁方向に付勢され、、第2付勢手段により、スロットル弁が開弁方向に付勢され、駆動手段によりスロットル弁を駆動しないときは、第1及び第2付勢手段により、スロットル弁がデフォルト開度に維持され、このデフォルト開度の学習値が学習値算出手段により算出される。デフォルト開度の近傍でスロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するので、デフォルト開度の学習値を算出し、その学習値を制御に用いることにより、デフォルト開度近傍における制御性を向上させることができる。
【0130】
請求項3に記載の発明によれば、スロットル弁駆動装置をモデル化した制御対象モデルは、スロットル弁駆動装置の出力に関わる第1のモデルパラメータと、スロットル弁駆動装置への制御入力に関わる第2のモデルパラメータと、スロットル弁駆動装置の出力及び制御入力のいずれにも関わらない第3のモデルパラメータとによって定義される。この第3のモデルパラメータ(c1)を導入することにより、比較的非線形性の強いデフォルト開度近傍での、制御対象モデルと実対象であるスロットル弁駆動装置とのモデル化誤差を低減し、モデルパラメータの同定精度を向上させることができるため、学習値算出の精度を向上させることができる。
【0131】
請求項4に記載の発明によれば、第3のモデルパラメータに応じて、スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度の学習値が算出される。検出したスロットル弁開度と、スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度(特性変化開度)との偏差量を制御対象モデルの出力として用いる場合には、第3のモデルパラメータは、特性変化開度のずれと外乱の和を示すので、第3のモデルパラメータに基づいて、特性変化開度ずれを算出し、その特性変化開度ずれから特性変化開度の学習値を算出することができる。したがって、特性変化開度、すなわちスロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度の学習値を、スロットル弁の駆動制御実行中に容易に算出することができる。
【0132】
請求項5に記載の発明によれば、同定手段により同定されるモデルパラメータを用いて、スライディングモード制御によりスロットル弁駆動装置が制御される。スライディングモード制御は、高いロバスト性を有するので、スロットル弁駆動装置の実際のむだ時間と、制御対象モデルのむだ時間とのずれによるモデル化誤差(実際のプラントの特性と、モデル化した制御対象モデルの特性との差)が生じた場合でも、安定して高い制御性を維持することができる。
【0133】
請求項6に記載の発明によれば、スロットル弁駆動装置への制御入力は適応則入力を含むので、外乱やモデル化誤差があっても、良好な制御性を実現することができる。
請求項7に記載の発明によれば、駆動手段によりスロットル弁を駆動しているときに、デフォルト開度のずれを示すパラメータが算出され、該パラメータに基づいてデフォルト開度の学習値が算出される。すなわち、スロットル弁の駆動制御実行中に学習値の算出が行われるので、学習値の算出頻度が高くなり学習値の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関のスロットル弁駆動装置と、その制御装置を示す図である。
【図2】図1に示すスロットル弁駆動装置の周波数特性を示す図である。
【図3】図1の電子制御ユニット(ECU)により実現される機能を示す機能ブロック図である。
【図4】スライディングモードコントローラの制御特性と、切換関数設定パラメータ(VPOLE)の値との関係を示す図である。
【図5】スライディングモードコントローラの制御ゲイン(F,G)の設定範囲を示す図である。
【図6】モデルパラメータのドリフトを説明するための図である。
【図7】同定誤差を修正する関数を示す図である。
【図8】スロットル弁のデフォルト開度ずれがモデルパラメータ(c1’)に反映されることを説明するための図である。
【図9】スロットル弁開度制御処理のフローチャートである。
【図10】図9の処理において状態変数の設定を行う処理のフローチャートである。
【図11】図9の処理においてモデルパラメータ同定器の演算を実行する処理のフローチャートである。
【図12】図11の処理において同定誤差(ide)の演算を実行する処理のフローチャートである。
【図13】同定誤差(ide)のローパスフィルタ処理を説明するための図である。
【図14】図12の処理における不感帯処理のフローチャートである。
【図15】図14の処理で使用されるテーブルを示す図である。
【図16】図11の処理におけるモデルパラメータベクトル(θ)の安定化処理のフローチャートである。
【図17】図16の処理におけるモデルパラメータ(a1’,a2’)のリミット処理のフローチャートである。
【図18】図16の処理によるモデルパラメータの値の変化を説明するための図である。
【図19】図16の処理におけるモデルパラメータ(b1’)のリミット処理のフローチャートである。
【図20】図16の処理におけるモデルパラメータ(c1’)のリミット処理のフローチャートである。
【図21】図9の処理において状態予測器の演算を実行する処理のフローチャートである。
【図22】図9の処理において制御入力(Usl)の演算を実行する処理のフローチャートである。
【図23】図22の処理において予測切換関数値(σpre)の演算を実行する処理のフローチャートである。
【図24】図23の処理において切換関数設定パラメータ(VPOLE)の演算を実行する処理のフローチャートである。
【図25】図24の処理で使用するマップを示す図である。
【図26】図22の処理において予測切換関数値(σpre)の積算値の演算を実行する処理のフローチャートである。
【図27】図22の処理において到達則入力(Urch)の演算を実行する処理のフローチャートである。
【図28】図22の処理において適応則入力(Uadp)の演算を実行する処理のフローチャートである。
【図29】図9の処理においてスライディングモードコントローラの安定判別を実行する処理のフローチャートである。
【図30】図9の処理においてデフォルト開度ずれ(thdefadp)の演算を実行する処理のフローチャートである。
【符号の説明】
1 内燃機関
3 スロットル弁
4 リターンスプリング(第1付勢手段)
5 弾性部材(第2付勢手段)
6 モータ(駆動手段)
7 電子制御ユニット
10 スロットル弁駆動装置
21 適応スライディングモードコントローラ(学習値算出手段)
22 モデルパラメータ同定器(同定手段)
24 目標開度設定部
Claims (7)
- 内燃機関のスロットル弁と、該スロットル弁を駆動する駆動手段とを備えるスロットル弁駆動装置を制御し、前記スロットル弁の開度を目標開度に制御する制御装置において、
前記スロットル弁駆動装置をモデル化した制御対象モデルのモデルパラメータを逐次型同定アルゴリズムにより同定する同定手段と、
該同定手段により同定されたモデルパラメータを逐次的に統計処理することにより、前記スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度の学習値を算出する学習値算出手段を備えることを特徴とするスロットル弁駆動装置の制御装置。 - 前記スロットル弁駆動装置は、前記スロットル弁を閉弁方向に付勢する第1付勢手段と、前記スロットル弁を開弁方向に付勢する第2付勢手段とを備え、前記駆動手段により前記スロットル弁を駆動しないときは、前記第1及び第2付勢手段により、前記スロットル弁をデフォルト開度に維持するものであり、前記学習値算出手段は、該デフォルト開度の学習値を算出することを特徴とする請求項1に記載のスロットル弁駆動装置の制御装置。
- 前記制御対象モデルは、前記スロットル弁駆動装置の出力に関わる第1のモデルパラメータと、前記スロットル弁駆動装置への制御入力に関わる第2のモデルパラメータと、前記制御入力及びスロットル弁駆動装置の出力のいずれにも関わらない第3のモデルパラメータとによって定義されることを特徴とする請求項1または2に記載のスロットル弁駆動装置の制御装置。
- 前記学習値算出手段は、前記第3のモデルパラメータに応じて、前記スロットル弁駆動装置の駆動特性が変化するスロットル弁開度の学習値を算出することを特徴とする請求項3に記載のスロットル弁駆動装置の制御装置。
- 前記同定手段により同定されるモデルパラメータを用いて、スライディングモード制御により前記スロットル弁駆動装置を制御するスライディングモードコントローラを備えることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のスロットル弁駆動装置の制御装置。
- 前記スライディングモードコントローラによる前記スロットル弁駆動装置への制御入力は、適応則入力を含むことを特徴とする請求項5に記載のスロットル弁駆動装置の制御装置。
- 内燃機関のスロットル弁と、該スロットル弁を駆動する駆動手段と、前記スロットル弁を閉弁方向に付勢する第1付勢手段と、前記スロットル弁を開弁方向に付勢する第2付勢手段とを備え、前記駆動手段により前記スロットル弁を駆動しないときは、前記第1及び第2付勢手段により、前記スロットル弁をデフォルト開度に維持するスロットル弁駆動装置を制御し、前記スロットル弁の開度を目標開度に制御する制御装置において、
前記駆動手段により前記スロットル弁を駆動しているときに、前記デフォルト開度のずれを示すパラメータを算出し、該パラメータに基づいて前記デフォルト開度の学習値を算出する学習値算出手段を備えることを特徴とするスロットル弁駆動装置の制御装置。
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