JP3802478B2 - 地すべり層変位の定量測定法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、地中に埋設した歪パイプ等長尺体の歪観測データから、長尺体の変形形状を再現し、すべり層の変位動態を定量的に評価する観測システムの構築のための地すべり層変位の定量測定法に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
地すべりの動態機構の解明にあたっては、地中土塊の挙動を明らかにする必要がある。特に、すべり層の変位を定量的、経時的に捉えることが極めて重要である。1960年代ころから地すべりの動態観測手法の研究開発が活発に進められ種々の方法が開発されている。現在は、パイプ歪計、伸縮計、孔内傾斜計などの観測手法が使われている。その中でも、パイプ歪計は約50年前に開発されて以来、観測感度が高いことや観測作業の簡便さから広く使われてきている。今日では観測の自動化や耐久性の向上がはかられ、信頼性の高い観測法の一つとなっている。
【0003】
パイプ歪計は、観測歪量の累積からすべり面(層)の判定は可能である。しかし、変形歪量と変位量とは線形関係が成りたたないことから、パイプの変位を直接的には捉えることはできない。「地すべり調査と対策講座2、地すべり面の性格とその調査法(山口真一編、全国地すべり対策協議会)」では、すでに30年前に「観測で得られた歪量とパイプの変形や地中土塊の移動量との関係が分からなければ、土塊の移動機構について定量的論議やすべり面の深さは解析できない。」と提言しているが、いまだ解決するまでには至っていない。
【0004】
このことに関して、これまでに幾つかの研究がなされている。たわみ曲線の微分方程式を基本式として、「地中歪計による地すべりすべり面判定の一考察(中村浩之・近藤政司・白石一夫著、地すべり Vol6.No1.pp1〜9)」では、境界条件として下端の不動点でたわみ角=0,たわみ=0と仮定してパイプの変位を求めている。「パイプ歪計により地すべり土塊の変形の姿を求める方法について、山口真一著(1972):地すべり、Vol.8、No.4、PP.8−11」では、各歪ゲージ間のパイプ(単位パイプ)の歪は一様とし、境界条件として各単位パイプ間は変位及び勾配が連続していると仮定して変位を求めている。「パイプ歪計による地すべり挙動の解析法 小島義孝・餞谷武司・山田寿政・速水博秀・館中隆志著(1992)地すべり学会研究発表講演集、PP.209−212.」では、境界条件としてたわみ、たわみ角、モーメント、せん断力が単位パイプ間で連続すると仮定して解析している。上記のたわみ曲線の微分方程式による解析法は現地の力学的境界条件をどのように扱うかが大きな課題として残っている。
【0005】
そこで、本発明は、これまで測定できなかったすべり層の変位を定量的かつ経時的に測定することが可能な地すべり層変位の定量測定法を提供することを目的とする。また、本発明は使用する硬質塩化ビニール等パイプの曲げ剛性が小さいことから、パイプの変形は土塊の変形に追従しているものとみて、パイプの変形歪から地すべり層変位の定量測定法を行ない、地中に埋設したパイプの変形歪からパイプの変形形状を再現し、すべりの変位動態を明かにすることを目標として進めている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、地中に埋設された可撓性の細長いパイプと、前記パイプ外面の上下方向に間隔をおいて複数配置される歪ゲージと、これら歪ゲージの歪測定量に基づいて変位を演算するデータ処理手段とを備え、前記パイプが変形した場合の任意(Jn)の単区間(Jn−Jn+1)の距離をL、水平変位をdn、接点回転角をZn、前記パイプの外周の半径をr、前記歪ゲージによる歪測定量をε、交角をθnとしたとき、前記データ処理手段により前記パイプにおける任意の点nにおけるすべり変位Dnを、
【0007】
【数式 A】
【0008】
但し、
【0009】
【数式 B】
【0010】
であって、
【0011】
【数式 C】
【0012】
【数式 D】
【0013】
【数式 E】
【0014】
かつ
【0015】
【数式 F】
【0016】
【数式 G】
【0017】
【数式 H】
【0018】
【数式 I】
【0019】
【数式 J】
【0020】
により地すべり層変位を算出することを特徴とする地すべり層変位の定量測定法である。
【0021】
この請求項1の構成によれば、歪ゲージの歪測定量に基づいて前記数式に各部位の変位を積算して総変位量を算出する。
【0022】
請求項2の発明は、前記長尺体はパイプであることを特徴とする請求項1記載の地すべり層変位の定量測定法であります。
【0023】
請求項3の発明は、請求項2の算出を用いて前記パイプの平面におけるX方向のすべり変位DNSnと、該X方向に直交するY方向のすべり変位DEWnとを算出し、最大変位Dmaxnを、
【0024】
【数式 K】
【0025】
により算出することを特徴とする地すべり層変位の定量測定法である。
【0026】
この請求項3の構成によれば、すべり変位DNSnとすべり変位DEWnの異なる歪ゲージの歪測定量に基づいて変位を積算して最大変位量を算出する。
【0027】
請求項4の発明は、請求項2の算出を用いて前記パイプの平面におけるX方向のすべり変位DNSnと、該X方向に直交するY方向のすべり変位DEWnとを算出し、最大変位の方向αを、
【0028】
【数式 L】
【0029】
により算出することを特徴とする地すべり層変位の定量測定法である。
【0030】
この請求項4の構成によれば、簡単に地すべり層変位の方向を算出することができる。
【0031】
請求項5の発明は、請求項2〜4のいずれか1項に記載の地すべり層変位の定量測定法において、前記パイプにロツドを介して水平移動し該パイプを回動自在に四方を接触して外嵌するホルダーとを備えたことを特徴とする。
【0032】
この請求項4の構成によれば、ホルダーは変形時に曲げ拘束がないようにパイプを回転可能にすることができる。
【0033】
【発明の実施形態】
以下、本発明の実施形態を添付図を参照して説明する。図1に示すように地中に埋設した細長い長尺体で曲げ剛性が小さい硬質塩化ビニールパイプ等のパイプ1を、その下端側を地中土塊不動部Yに固定するとともにその上方を地中土塊移動部Zに固定する。そして、パイプ1の下端側から該パイプ1の外周面に沿って上方へ第1の歪ゲージ2Aから第14の歪ゲージ2Nを一定の間隔Lをおいて固定する。これら歪ゲージ2A〜2Nはリード線3を介して歪演算装置4に接続される。この歪演算装置4はブリッジ回路などを備えて各歪ゲージ2A〜2Nの出力を入力として、各歪ゲージ2A〜2Nにおける各歪量を算出するものである。さらに歪演算装置4からの出力データは、地すべり変位演算・記憶手段及び表示手段たるコンピュータ5に入力され、さらにコンピュータ5にはプリンタなどの記録手段6を接続している。そして、前記歪演算装置4、コンピュータ5によりデータ処理手段7が構成される。尚、歪演算装置4からの出力データは無線或いは有線でコンピュータ5に接続するようにしたり、或いは歪演算装置4からの出力データをいったんメモリカードなどのメモリ手段に記憶させた後、このメモリ手段をコンピュータ5に入力して地すべり変位の演算・記憶手段及び表示手段を行なってもよい。また、下端側の歪ゲージ2A,2Bは地中土塊不動部Yに配置され、またその上方の歪ゲージ2C〜2Nは地中土塊移動部Zに配置される。
【0034】
そして、使用するパイプ1の変形は地中土塊移動部Zの変形に追従しているものとみて、歪一変形の関係から変形解析法は以下である。すなわち、地中に埋設したパイプ1が、地すべり活動に伴って生ずる地中土塊のせん断変形に追従して変形すると仮定するものである。鉛直方向に埋設したパイプ1の任意の区間における変形状態を図2(パイプの変形模式図)に示すように、すなわち、鉛直方向に埋設したパイプ1の作意の区間における変形模式図を図2で示す。歪ゲージ2と隣接する歪ゲージ2の中間点をそれぞれJn、Jn+1とする。この区間を単区間(区間距離L)とし、この中間点を以後は接点と呼ぶことにする。単区間は一定間隔で配置された歪ゲージ2A〜2Nのそれぞれの間の長さに等しくなり、そして単区間におけるパイプ1の水平方向の変位dnは接点J´n+1がJn+1に移動したときの水平距離である。但し、図2,3中、dn:水平変位、dzn:回転変位、dsn:歪変位、Θn:交角、Rn:パイプ1中立軸の曲率半径、Zn:接点回転角、L:パイプ1の区間距離、2A〜2N:第1〜14の歪ゲージ、r:パイプ1の外半径(パイプ1の中立軸から歪ゲージ2までの距離)、ε:パイプ1の外縁部の歪である。すなわち、単区間におけるパイプ1の水平方向の変位dnは接点J´n+1がJn+1に移動したときの水平距離である。そして、区間距離が小さい場合、次の3つの条件が成り立つものと仮定する。1.単区間内でのパイプ1の歪は−定(曲率半径が一定)、2.変形時においてパイプ1の孤長と弦長が等しい。3.接点で接続する両単区間のパイプは共通の接線で連続する。この3つの条件から変位解析を試みたものである。
【0035】
図2,3のようにパイプ1が変形した場合、任意の単区間(Jn―Jn+1)における水平方向の相対変位dnは接点J’n+1とJn+1の水平距離となる。変位dnは接点の回転によって生ずる変位dzn(以後は回転変位と呼ぶ)とパイプ1のたわみ変形によって生ずる変位dsn(以後は歪変位と呼ぶ)に分けて考える。すなわち、変位dnは上述の仮定から接点の回転によって生ずる変位dzn(以後は回転変位と呼ぶ)とパイプ1のたわみ変形によって生ずる変位dsn(以後は歪変位と呼ぶ)に分けて考えることができる。変位dnは(1)式となる。尚、図1のパイプの変形模式図及び図2のパイプ1の曲げ変形の図において、dnは任意の単区間(Jn―Jn+1)の水平変位、dznは鉛直軸yを基準として点Jnから点Jn+1にかけての回転変位、dsnは歪み変位であり、このdsnとdznによりdnが形成される。θnは単区間(Jn―Jn+1)の点Pにおける、Rnは点Jnと点Jn+1における点Pを中心とした曲率半径、Znは接点回転角であり、点Jnにおける鉛直軸yと、点Jnとdznの位置を結ぶ仮想線との間の角であり、Lはパイプ1の単区間(Jn―Jn+1)であり、これは歪みゲージ2nと該歪みゲージ2nの一段下方にある歪みゲージ2n-1の間の1/2の距離と、歪みゲージ2nと該歪みゲージ2nの一段上方にある歪みゲージ2n+1の間の1/2の距離とを加えたものであり、歪みゲージ2n-1、歪みゲージ2n、歪みゲージ2n+1を等間隔で設けた場合には、歪みゲージ2n-1と歪みゲージ2nの距離、ひいては歪みゲージ2nと歪みゲージ2n+1の距離となる。また、図3においてεはパイプ1の外縁部の歪み、θは点aと点bの間の交角、Rはパイプ1の中立軸の曲率半径、rはパイプ1の外半径、Lは前述の区間距離である。
【0036】
さらに詳述すると、水平変位dnは、鉛直軸yと点Jn+1との距離、回転変位dznは、水平変位dnのうちパイプ1の回転に伴う変位分、歪み変位dsnは、パイプ1の歪みに伴う変位分、交角θnは点Jnと点Jn+1を結ぶほぼ円弧状の単区間における一対の曲率半径Rnにおける交角、接点回転角Znは、点Jnにおける接線(大きさはdzn表されている)と鉛直軸yとの角である。交角θを形成する区間距離L,L´は円弧長さであり、点a、bはパイプ1の中立軸上に位置する。rはパイプ1の外半径で、パイプ1の中立軸とパイプ1の外周を結ぶ長さである。
【0037】
【数式1】
【0038】
ここで、回転変位dznと歪変位dsnは(2)式、(3)式になる。
【0039】
【数式2】
【0040】
【数式3】
【0041】
よって、(1)式は(2)式、(3)式から(4)式に整理する。
【0042】
【数式4】
【0043】
また、接点回転角Znは(5)式である。
【0044】
【数式5】
【0045】
次に、パイプ1の外縁に生ずる変形歪εと交角θとの関係を求める。図3に示すように直線パイプ1の単区間a−bが曲げ変形したとき、パイプ1の単区間距離Lとパイプ1の外縁部の区間距離L´は、L=Rθ、L´=(R+r)θである。よって、伸びΔLは、ΔL=L´ーL=rθとなる。
【0046】
また、歪εは、ε=ΔL/L=rθ/Lとなる。よって、交角θと歪εの関係は(6)式となる。
【0047】
【数式6】
【0048】
単区間の変位dnは(4)式と(6)式から(7)式に整理できる。
【0049】
【数式7】
【0050】
尚、(7)式における接点回転角Znは(8)式である。
【0051】
【数式8】
【0052】
よって、単区間の変位dnは、(7)式の単区間距離L及びパイプ外半径rは既定値であることから、歪の観測値から解析できる。以上が変位解析の基本式となる。
【0053】
次に、パイプ1の変形区間の分割を示した図4に示すように隣り合う単区間の接点での変形の緩和を考慮する。すなわち、隣り合う単区間の接点での変形の緩和を考慮し、接点の近傍の変形は隣り合う両区間の歪に関係するものとし(7)式を整理する。図4に示すように単区間を3つの区間に分けて解析する。尚、εnはゲージ2の歪(但し、単位なし)である。接点の近傍の変形は、隣り合う両区間の変形歪に影響されるものとし(7)式を整理する。この際単区間を、複数n、例えば3つの変形区間に分けて変形緩和の解析をする(n=3)。接点Jnから接点a及び接点bから接点Jn+1の緩和区間(区間距離L/4)の歪は、隣り合う区間の歪の平均値に近似させ、区間の中央部L/2の区間はこの単区間の歪として計算する。すなわち、接点Jnから接点a及び接点bから接点Jn+1の区間を緩和区間(区間距離L/4)とし、この区間の変形歪は隣り合う区間の測定歪の平均値に近似させる。区間の中央部L/2の区間(a−b)の変形歪はこの単区間の測定歪に近似させて解析する。
【0054】
区間(Jn−a)の交角をΘn1、区間(a−b)の交角をΘn2、区間(b-Jn+1)の交角をΘn3とすれば、(4)式から、図4の水平変位dn1、dn2、dn3は(9)式、(10)式、(11)式となる。すなわち、前記歪ゲージ2と隣接する前記歪ゲージ2の中間点と次に連なる中間点Jn、Jn+1の間を上下方向に3箇所(但しnは3よりも大きい整数であればよい)に分割するとともに、分割された中間部位(aーb)の上下方向長さに対して、該中間部位(aーb)の上下方向にある上、下部位の上下方向長さ(Jnーa,b−Jn+1)をそれぞれ1/2としている。
【0055】
【数式9】
【0056】
【数式10】
【0057】
【数式11】
【0058】
ここで、交角Θn1、Θn2、Θn3は(12)式、(13)式、(14)式である。
【0059】
【数式12】
【0060】
【数式13】
【0061】
【数式14】
【0062】
接点a及びbの接点回転角Zna、Znbは(15)式、(16)式である。
【0063】
【数式15】
【0064】
【数式16】
【0065】
よって、単区間の変位dnは(17)式から求まる。
【0066】
【数式17】
【0067】
任意の接点nにおける変位Dnは下位からの単区間変位の累積であり(18)式となる。
【0068】
【数式18】
【0069】
ここで求める変位は歪ゲージ2の方向となる平面上X方向たるNS(北南)方向と、該X方向(NS(北南)方向)に直交するY方向たるEW(東西)方向と同方向の変位である。
【0070】
次に、それぞれの位置の歪ゲージを、NS(北南)方向とEW(東西)方向の2方向に設けることによって、最大変位とその変位方向が求められる。すなわち、図5に示すようにの所定深さにおいて北南方向の歪を測定する歪ゲージ12A,12´Aをそれぞれ北、南方向にパイプ1に設け、東西方向の歪を測定する歪ゲージ12B,12´Bを東、西方向にパイプ1に設け、それらの最大変位とその変位方向が求められる。すなわち、前記歪ゲージ12A,12Bはパイプ1の中立軸を中心として直交の向きに設けられている。
【0071】
(18)式によって、NS方向の歪デ一夕から求めたNS方向の変位をDNSn、EW方向の変位をDEWnとすれとすれば、最大変位Dmaxnは、ピタゴラスの定理により(19)式で求まる。NS歪ゲージ方向に対する最大変位の方向(以後は変位方向と呼ぶ)角α。は(20)式となる。
【0072】
【数式19】
【0073】
【数式20】
【0074】
また、任意の接点nにおける単区間のすべり変位Dun(以後はすべり層変位と呼ぶ)は(21)式から求まる。
【0075】
【数式21】
【0076】
以上の変位解析法は、パイプ1の変形歪データから地すべり活動によって生じたパイプ1の変形形状を再現し、すべり層の変位動態を定量的に捉えることが可能となる。
【0077】
本変位解析法の整合性についてモデル実験で検証を行なった解析法の整合性の検証実験から以下のことが確認された。
【0078】
1.パイプ変形形状の再現性
変位解析法の変形形状の再現性は、変位の平均相対誤差が約5%以下、変位方向の解析誤差が3度以内でパイプ1の変形を高精度に求めている。また、直交したNS方向、EW方向の2方向の変形歪から最大変位とその変位方向を求めることが可能となる。
【0079】
2.すべり層変位の評価
すべり層変位の平均相対誤差は約7%以下であり、高い精度で算定できる。
【0080】
本変位解析法により、これまで測定できなかったすべり層の変位を定量的かつ経時的に測定することが可能になった。さらに、多様な地中土塊の動態を明らかにする新しい地すべり観測システムの構築が可能となる。
【0081】
以上のように、前記実施例では地中に埋設された可撓性のパイプ1と、前記パイプ1にそれぞれ複数配置される歪ゲージ2と、これら歪ゲージ2の歪測定量に基づいて変位を演算するデータ処理手段たるコンピュータ5等とを備え、前記歪ゲージ2間を複数に分割した各部位の変位dを積算して総変位量Dnをコンピュータ5等により算出することにより、歪ゲージ2の歪測定量に基づいて前記分割した各部位の変位を積算して総変位量Dnを正確に算出することができる。
【0082】
さらに、歪ゲージ2と隣接する前記歪ゲージ2の中間点Jnと次に連なる中間点Jn+1の間を上下方向に3箇所に分割するとともに、各部位の変位dを積算して総変位量Dnを前記コンピュータ5等により算出することにより、歪ゲージ2の歪測定量に基づいて前記分割した各部位の変位を積算して総変位量Dnを正確に算出することができる。
【0083】
また、隣接する前記中間点(JnーJn+1)間を上下方向に3箇所に分割し、分割された中間部位(aーb)の上下方向長さに対して、該中間部位(aーb)の上下方向にある上、下部位(bーJn+1, Jnーa)の上下方向長さをそれぞれ1/2としたことにより、上部位(bーJn+1)とこれに連なる下部位(Jn+1ーa´)の上下方向長さを、中間部位(aーb)の長さと同様に設定して算出することができる。
【0084】
しかも、前記中間点Jn+1の緩和区間(区間距離L/4)の歪は、隣り合う中間部位(aーb,a´ーb´)の歪の平均値に近似させたことにより、緩和区間の変位(dn3)も正確に算出することができる。
【0085】
また、前記歪ゲージ12A,12B等は、前記パイプ1の中立軸を中心として異なる向きに設けられ、これら向きの異なる歪ゲージ12A,12B等の変位をそれぞれ積算しこの積算変位量に基づいて最大変位量Dmaxnを前記コンピュータ5等により算出することにより、向きの異なる歪ゲージ12A,12B等の歪測定量に基づいて変位を積算して最大変位量Dmaxnを正確に算出する。
【0086】
さらに、前記歪ゲージ12A,12等Bは、前記パイプ1の中立軸を中心として異なる向きに設けられ、これら向きの異なる歪ゲージ12A,12B等の変位をそれぞれ積算しこの積算変位量に基づいて最大変位の方向を前記コンピュータ5により算出することにより、変位の方向を積算して最大変位Dnの方向を算出する。
【0087】
しかも、前記異なる向きに設けられる前記歪ゲージ12A,12B等は直交方向に配置されることにより、簡単に算出を行ない地すべり層変位を算出することができる。
【0088】
次に検証実験について説明する。
【0089】
検証実験
予備実験でパイプにおける歪ゲージ間隔25cm、50cm、100cmの実験を行い、その適合性の検討を行った。ゲージ間隔100cmは大変形のとき変位誤差が大きくなった。ゲージ間隔25cmと50cmでは精度の良い結果が得られている。本実験ではゲージ間隔を精度及び実用面から考慮し50cmとした。尚、パイプの曲げ剛性と地盤反力係数との関係から硬質塩化ピニールパイプ場合はゲージ間隔を約70cm以下とすることが好ましいことが周知であり、ことからもゲージ間隔50cmは妥当である。
【0090】
実験装置
実験装置は、地すべりの主要な動態形態である不動層、すべり層、移動層をモデル化し作製した。なお、ここでのすべり層は地すべりのせん断変形ゾーンを想定している。実験装置を図6に示している。使用パイプ1は硬質塩化ビニール製で、形状寸法は外半径48.Omm、内半径40.8mm、長さ8mである。このパイプ1に歪ゲージ2を50cm間隔に直交するNS方向とEW方向に接着した。使用した歪ゲージ2のゲージ率は2.18である。
【0091】
このパイプ1を、該パイプ1を回動自在に四方を接触して外嵌するパイプホルダー13にセットする。パイプホルダー13は変形時に曲げ拘束がないようにパイプ1を回転可能にしている。そして、パイプホルダー13はロツド14を介し水平移動するもので、その両端はロッドガイド15に遊挿して、ほぼ一定方向にロツド14が地盤と共に移動できるようになっている。
【0092】
パイプ1下部の1.57mの区間を不動層としてパイプホルダ−13のNo1、No2、No3を固定した。ホルダーNo4から上部の移動層のホルダーを動かすことによって後述のすべり変形をつくり、パイプ1に生ずる変形歪を測定した。
【0093】
実験方法
実験は、本変位解析法の適合性を確認することを目的としていることから、以下の変形形状と変位方向の組み合わせで行った。
(1)変位方向
変位方向は図7に示す以下の3種類である。
1.突験R0:変位方向とNS歪ゲージ軸方向が同じ 2.突験R20:変位方向に対してNS歪ゲージ軸を20°回転 3.突験R40:変位方向に対してNS歪ゲージ軸を40°回転(2)変形形状パイプの変形形状は不動層、すべり層、移動層を想定した図8と同9に示す実験Aと実験Bの2種類とした。尚、実験Bのすべり層の変形形状は、現地地すべりでは見られない挙動であるが本変位解析法の適合性を碓認するために試みた。
【0094】
実験A:ホルダー13のNo3〜No4の1mの区間をすべり層と仮定し、その上部のホルダー13のNo4〜No9の5m区間(移動層)を平行移動する。尚、移動距離(変位量)dは10cm〜60cmの範囲で10cm毎移動し観測を行った。
【0095】
実験B:ホルダー13のNo4を55cmで固定(d´=55cm)し、その上部のホルダー13のNo5〜No9の区間を逆方向に5cm毎平行移動する。
【0096】
実験の種類実験の種類は、変位方向、変形形状、変位量の組み合わせで表1に示すとおりである。
【0097】
【表1】
【0098】
観測については、歪測定は自動歪測定器で、パイプ3の変位量はスケールで手動測定をした。変位解析は、前述の変位解析式をプログラム化し観測データを入力し解析を実行した。
【0099】
変位解析の結果と考察変位解析図各実験における、測定歪及び変位・すべり層変位の解析値と実測値の結果の一部を図10〜図12で示した変位解析図に示す。変位図はパイプの変形形状を示している。すべり層変位は単間隔(50cm)のすべり変位(せん断変位)を示している。この変位解析図からも解析値と実測値とが良く整合していることが分かる。
【0100】
また、本変位解析図からすべり動態を容易に把握することができる。
【0101】
変位解析結果の評価変位解析結果の整合性の評価は変位の実測値との比較で検討する。パイプ1の変形の再現性評価は変位の平均相対誤差を求め検討を行った。変位の平均相対誤差は、次式に示すように各測点の実測変位と解析変位の誤差累計の実測変位累計に対する百分率で示す。
【0102】
【数式22】
【0103】
すべり変位の相対誤差は、次式に示すように解析すべり変位誤差の実測すべり変位に対する百分率である。尚、ここでのすべり変位は図8のすべり層区間の変位である。
【0104】
【数式23】
【0105】
変位方向角については実測値との誤差から検討を行った。
【0106】
実験は最大歪5000μ〜30000μの範囲で行った。最大歪はすべり層の上下面に近接している歪ゲージ2のNo2及びNo5に生じている。
【0107】
実験RO
本実験は変拉方向とNS歪ゲージ方向が同一の変位方向角0°の実験である。変位、すべり変位、変位方向角の解析値と実測値との誤差を表2に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
変位の平均相対誤差は、変形歪22000μまでは5%、27000μ歪で7%内であり、この歪範囲では高い精度でパイプ1の変形を再現している。歪が27000μより大きくなると歪の増加と共に誤差もやや大きくなる傾向がみられる。すべり変位の相対誤差は25000μ歪までは10%以内の高い整合性を示している。25000μ歪以上になると歪の増大と共に誤差も大きくなっている。変位方向角の誤差は全ての実験で3°以内に納まっている。
【0110】
実験R20
変位方何角が20°の実験の解析値と実験値との誤差を表3に示す。尚、実験R20及び実験R40ではパイプ1の移動方向と歪ゲージ2方向が同一でないため、測定歪はパイプの最大歪を示していない。よって、ここでは実験ROの測定歪を最大歪の近似値として検討する。
【0111】
【表3】
【0112】
変位の平均相対誤差は、全ての実験において(最大変形歪25000μ)6%以内であり、パイプ1の変形を高い精度で再現している。すべり変位の相対誤差は19000μ歪以下では13%以内である。19000μ歪以上になるとやや誤差も大きくなっている。変位方向角の誤差は2°以内で高い精度で算定している。
実験R40変位方向角が40°の実験の解析値と実測値との誤差を表4に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
変位の平均相対誤差は23000μ歪までは5%以内となっており、パイプの変形を良く再現している。すべり層変位の相対誤差は、変形歪19000μまでは12%以内であり、実測すべり変位と良く整合している。変位方向角の誤差は3°以内で高い精度を示している。
【0115】
まとめ
(1)パイプの変形形状の再現性本変位解析のパイプ1の変形形状の再現性は、変位方向と歪ゲージ方向角が20°以内(実験RO、実験R20)の場合で変形歪25000μ以下では変位の平均相対誤差7%以内の高い精度で変位が求められた。
(2)最大変位と変位方向
本変位解析は、直交したNS方向、EW方向の2方向の歪観測を行うことによって最大変位とその変位方を求めることが可能となった。最大変位方向角(すべり変位方向角)の解析結果は全ての実験で3°以内の方向角誤差に納まっている。
(3)すべり層変位
地すべりの動態解析にあたっては、すべり層のせん断変位(すべり層変位)を定量的かつ経時的に捉えることが重要である。本変位解析法はパイプの変形形状を再現できることから、すべり層変位を求めることが可能となる。本実験で検証したすべり層変位の解析精度は、変位方向と歪ゲージ方向が同一の場合(実験RO)で変形歪25000μ以下ではすべり層変位の相対誤差が10%以内に納まっている。歪ゲージ方向と変位方向とが異なっている場合(実験R20、実験R40)で変形ひずみ19000μ以下ではすべり層変位の相対誤差が13%以内の精度で算定でさた。
(4)歪ゲージの間隔
歪ゲージ2間隔は50cm間隔でパイプの変形形状を的確に再現できることが確認でさた。
(5)パイプの変形歪限界
現地観測への適応にあたってはパイプ1の変形限界を明らかにすることが重要である。変形歪約25000μまではパイプ断面形状に大きな変状が生じないことを碓認した。変形歪の解析限界値は、解析結果の信頼性等を考慮すれば、1.変位方向と歪ゲージ方向角が20°以内の場合では25000μ歪、2.変位方向と歪ゲージ方何が40°の場合で19000μ歪程度が目安となる。
【0116】
以上の結果より、本変位解析法によってパイプ1の変形歪デー夕からパイプ1の変形形状を精度良く再現できることが確認できた。これにより、すべり層変位及びすべり変位方向角を定量的に求めることが可能となった。
【0117】
本変位解析法による観測システムの構築は、すべり層変位(せん断変位)の定量的・経時的観測を可能にし、地中のすべり動態をより詳細に明らかにできる。
【0118】
尚、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形実施が可能である。
【0119】
【発明の効果】
請求項1の発明は、地中に埋設された可撓性の細長いパイプと、前記パイプ外面の上下方向に間隔をおいて複数配置される歪ゲージと、これら歪ゲージの歪測定量に基づいて変位を演算するデータ処理手段とを備え、前記パイプが変形した場合の任意(Jn)の単区間(Jn−Jn+1)の距離をL、水平変位をdn、接点回転角をZn、前記パイプの外周の半径をr、前記歪ゲージによる歪測定量をε、交角をθnとしたとき、前記データ処理手段により前記パイプにおける任意の点nにおけるすべり変位Dnを、
【0120】
【数式 A】
【0121】
但し、
【0122】
【数式 B】
【0123】
であって、
【0124】
【数式 C】
【0125】
【数式 D】
【0126】
【数式 E】
【0127】
かつ
【0128】
【数式 F】
【0129】
【数式 G】
【0130】
【数式 H】
【0131】
【数式 I】
【0132】
【数式 J】
【0133】
により地すべり層変位を算出することを特徴とする地すべり層変位の定量測定法であり、歪ゲージの歪測定量に基づいて前記変位を積算して変位量を算出して地すべり層を定量的かつ経時的に測定することができる。
【0134】
請求項2の発明においては、前記長尺体はパイプであることを特徴とする請求項1記載の地すべり層変位の定量測定法である。
【0135】
請求項3の発明は、請求項2の算出を用いて前記パイプの平面におけるX方向のすべり変位DNSnと、該X方向に直交するY方向のすべり変位DEWnとを算出し、最大変位Dmaxnを、
【0136】
【数式 K】
【0137】
により算出することを特徴とする地すべり層変位の定量測定法であり、簡単に地すべり層の最大変位を算出することができる。
【0138】
請求項4の発明は、請求項2の算出を用いて前記パイプの平面におけるX方向のすべり変位DNSnと、該X方向に直交するY方向のすべり変位DEWnとを算出し、最大変位の方向αを、
【0139】
【数式 L】
【0140】
により算出することを特徴とする地すべり層変位の定量測定法であり、簡単に地すべり層の最大変位の方向を算出することができる。
【0141】
請求項5の発明は、請求項2〜4のいずれか1項に記載の地すべり層変位の定量測定法において、前記パイプにロツドを介して水平移動し該パイプを回動自在に四方を接触して外嵌するホルダーとを備えたものであり、パイプを外嵌するホルダーにおいては変形時に曲げ拘束がないようにパイプを回転可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す一部を拡大して斜面図とした全体の正面図である。
【図2】本発明の一実施例を示すパイプの変形模式図である。
【図3】本発明の一実施例を示すパイプ曲げ変形の説明図であり、図3(A)は直線状の場合の説明図、図3(B)は曲線状の場合の説明図である。
【図4】本発明の一実施例を示すパイプの変形区間の説明図である。
【図5】本発明の一実施例を示す歪ゲージの取り付け状態を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施例の実験装置の概要説明図である。
【図7】本発明の一実施例の実験の変位方向の説明図である。
【図8】本発明の一実施例の実験の変形概要説明図である。
【図9】本発明の一実施例の実験の他の変形概要説明図である。
【図10】本発明の一実施例の実験の変位解析図である。
【図11】本発明の一実施例の他の実験の変位解析図である。
【図12】本発明の一実施例のさらに他の実験の変位解析図である。
【符号の説明】
1 パイプ(長尺体)
2 歪ゲージ
5 コンピュータ(データ処理手段)
13 ホルダー
14 ロツド
dn 変位量
Jn Jn+1 接点(中間点)
Claims (5)
- 地中に埋設された可撓性の細長い長尺体と、前記長尺体の外面の上下方向に間隔をおいて複数配置される歪ゲージと、これら歪ゲージの歪測定量に基づいて変位を演算するデータ処理手段とを備え、前記長尺体が変形した場合の任意(Jn)の単区間(Jn−Jn +1 )の距離をL、水平変位をdn、接点回転角をZn、前記長尺体の外周の半径をr、前記歪ゲージによる歪測定量をε、交角をθnとしたとき、前記データ処理手段により前記パイプにおける任意の点nにおけるすべり変位Dnを、
【数式A】
但し、
【数式B】
であって、
【数式C】
【数式D】
【数式E】
かつ
【数式F】
【数式G】
【数式H】
【数式I】
【数式J】
により地すべり層変位を算出することを特徴とする地すべり層変位の定量測定法。 - 前記長尺体はパイプであることを特徴とする請求項1記載の地すべり層変位の定量測定法。
- 前記パイプにロツドを介して水平移動し該パイプを回動自在に四方を接触して外嵌するホルダーとを備えたことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の地すべり層変位の定量測定法。
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