JP3784876B2 - アルミニウム押出形材の後面処理方法及び後面処理設備 - Google Patents

アルミニウム押出形材の後面処理方法及び後面処理設備 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム押出形材の後面処理方法及び設備に関するものであり、さらに詳しく述べるならば、建築構造にアルミニウム合金を使用した場合の該形材の熱処理方法を改善するとともに、各種形材をコンパクトな設備で能率的に後面処理する方法に関するものである。周知のようにアルミニウム合金は建材として使用されているが、戸建住宅、スポーツ設備、屋根構造、耐力壁、エクステリア市場などの構造材としての使用は研究が始まったばかりである。(「AL建」1995.Vol.1.No.2,P39)。
【0002】
【従来の技術】
建材用アルミニウム押出形材(以下「形材」と言う)としては押出性及び表面処理性に優れた6063合金(Si:0.2〜0.6%、Mg:0.45〜0.9%、その他不純物)が圧倒的割合で使用されている。
1985年の生産実績統計では形材の国内生産量が約90万トンであり、その内6000系合金の生産量が約78万トン、6063合金が約75万トン、6061合金が約2万トン、その他6101、6151合金などである(アルミニウム連盟の資料)。今後、建築構造材としてアルミニウムが一般的に使用されるようになれば、6101などの中強度アルミニウム合金形材の市場は急伸するであろう。
【0003】
6063の調質状態はT5 (高温加工から急冷した後180〜210℃人工時効)が代表的なものである。溶体化処理は押出中のファン冷却などにより行うことが多い。以下、押出形材の後面処理設備を図1を参照して説明する。
【0004】
図1はクーリングテーブルを2基有する従来の後面設備例を示し、図中、1は押出機、2はプラー、3はランナウトテーブル、4は第1クーリングテーブル、5は第2クーリングテーブル、6はストレッチャーヘッドストック、7はテールストック、8は第1移載テーブル、9はストレージテーブル、10は第2移載テーブル、11はソーチャージテーブル、12は切断機、13は定寸機、14はソーゲージテーブル、15は第3移載テーブル、16は検査テーブル、18はイニシャルテーブルである。
【0005】
6063合金の冷却曲線がMg2 Siの析出曲線(C曲線と言われる)と交差しないでMg及びSiの固溶化を図ることができる臨界冷却速度は約1℃/秒(図2参照)である。なお、図2は縦軸に形材の温度、横軸には押出後の時間(分)をとり、形材が位置する図1の設備名を併記したグラフである。
6063合金を約1℃/秒以上の速度で冷却するためには、イニシャルテーブル18にファンなどを設置すればよい。即ち約500℃から約350℃までを空冷により約1分間内に温度降下させると、その後はランナウトテーブル3及びクーリングテーブル4上で放冷もしくは空冷を行い冷却速度がやや遅くなっても冷却曲線がC曲線のノーズにかかることはない。
その後形材は上記した設備8、9、10、11、15、16を経て処理され、次に時効炉で熱処理される。
【0006】
一方、6061合金(Si:0.4〜0.8%;Cu:0.15〜0.40%;Mg:0.8〜1.2%、Cr:0.04〜0.35%、その他不純物としてFe,Mn,Zn,Tiなどを含有)や6N01合金(Si:0.4〜0.9%;Cu:0.35%以下;Mg:0.4〜0.8%、Mn:0.5%以下、その他不純物としてFe,Cr,Zn,Tiなどを含有)のC曲線は6063合金より左側に寄っている。
6061合金は図2に示すように臨界冷却速度が6063合金より高速側にあるので、6063合金と同様の冷却を行うと冷却曲線がC曲線のノーズと交差する。したがって、6061合金を押出設備内にてT6 処理するためにはダイスから出た直後に急冷するいわゆるダイクエンチ処理が行われており、このためにイニシャルテーブルでの冷却を強化している。
【0007】
具体的にはイニシャルテーブルに水による冷却装置を設けることが行われてきた。冷却装置は水をノズルから吹き出して形材を冷却するものであって、その冷却速度は図3に従来法として示すように非常に速く、形材の表面で約8℃/秒、中心で約3℃/秒に達していた。このような高速冷却を行うことによりC曲線のノーズとの交差を避けることが可能になった。
また、ランナウトテーブル上では形材内部の熱が表面に伝導わることにより内外温度差が小さくなるとともに表面温度が上昇し、その後クーリングテーブル上ではほぼ内外温度差が非常に少ない状態でC曲線の下側を冷却される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来法ではイニシャルテーブル上での冷却速度が極めて高速であるために、イニシャルテーブル上で形材の表面部と中心部での温度差が大きくなり表面は内部の高温のために引張応力を受け、中心部は圧縮応力を受ける。そして形材断面は角や円のような単純な形状でないために、上記の応力により形材の厚み方向で大きい曲りが起こる。この曲りに形材の高速移動が伴うので、形材はイニシャルテーブルやランナウトテーブル上で波打つように走行し、この結果作業性が悪くなりまた表面品質と歩留を低下させていた。
【0009】
従来の形材後面処理設備でランナウトテーブル3(図1)に続いて設けられたクーリングテーブル5の幅は形材を十分に冷却してストレッチにかける観点から、3〜10mと大きくとられており、後面設備全体の幅の50%〜70%を占めていた。このために従来の設備はコンパクト化の面では改善の余地があった。またクーリングテーブルは耐熱繊維ベルトや摺動・摩擦部品が多く使われているためにメンテナンスに手間がかかり、その面でもコスト増加要因となっていた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は6063合金より合金元素量が多い6061合金などの構造用材を使用した形材を、曲りなどの弊害を招くことなく、押出設備にて固溶化を図る方法につき鋭意研究した(下記(a)〜(c)参照)。
さらに6063合金を6061合金などと共用後面処理設備で処理する方法につき検討した(下記(d)参照)。
さらにまた、ランナウトテーブルとストレッチャー設備の間のクーリングテーブルを廃止する設備構造についても検討した(下記(e)参照)。
【0011】
(a)イニシヤルテーブルを形材が通過する時間(t)は約30秒であり、この期間6061合金形材が放冷されると、その温度(T)はC曲線のノーズを横断するように低下する。しかし、3〜4℃/秒以上の冷却速度(r1 )で急冷するとノーズとの交差を避けることができる。その一方冷却速度(r1 )が5℃/秒を超えると、押出直後の形材の温度は高いことと相まって、形材の表面と中心の温度差が大きくなり、波打ち、曲りなどが起こる。
【0012】
(b)イニシャルテーブル上での上記冷却速度(r1 )による温度降下は約100〜150℃と見込まれる。この温度(T)・時間(t)状態はC曲線のノーズの下部に接近しており、その後ランアウトテーブルで自然放冷を行うとやはり冷却曲線がC曲線のノーズと交差するので、強制冷却が必要である。ただしランナウトテーブルでの冷却速度(r2 )は前記の冷却速度(r1 )よりは小さくともC曲線との交差は起こらず、また一方、前段の冷却で形材の温度が低くなっているのでr2 >r1 でも形材の曲がりは起こらない。
【0013】
(c)上記したr1 及びr2 の冷却速度でそれぞれイニシャルテーブル及びランナウトテーブル上で冷却された形材が次にクーリングテーブルで自然放冷されると形材の冷却速度が約0.1〜0.5℃/秒に低下し、C曲線の下側と交差する可能性がある。よって従来の後面処理設備でランナウトテーブルとストレッチャーの間に設置されていたクーリングテーブルは溶体化処理を不完全にするおそれがある。この対策として(イ)クーリングテーブルを強制冷却式に改造する、(ロ)クーリングテーブルを廃止しストレッチャーに冷却機能をもたせて、ストレインマークが入らないように形材温度100℃以下、好ましくは70℃以下までの冷却を行う方法を検討したが、(イ)法では十分な冷却速度が得られない、曲がりが発生する危険があるなどの懸念があるので、(ロ)の方法が好ましいと判断した。また(ロ)法により後面処理設備をコンパクトにすることもできる。
【0014】
(d)形材の大半は現在でも6063合金であるので、6063合金と6061合金は同じ設備で生産する必要があり、6061合金専用生産設備はコスト面で成立しない。6061合金について十分な溶体化のための冷却速度は6063合金については十分すぎるほど速くなるので、形材の歪みとともに曲りが大きくなり、矯正作業性を大きく阻害する。このために押出直後の冷却速度は6063合金については必要以上に急冷するのはよくない。
ところで、従来は、イニシャルテーブルで空冷を行い、その後ランナウトテーブルで放冷もしくは空冷を行い、その後の十分の幅のクーリングテーブルで形材を空冷していた。しかし、6061合金と6063合金を共用設備で生産しかつ押出設備で溶体化処理しようとすると、十分の幅をもつクーリングテーブルを設置することはできない(6061合金では析出が起こる)。そこでクーリングテーブルなしの後面設備で処理される6061合金形材はストレッチ装置に移載される前に十分に冷却される必要がある。このためにはランナウトテーブルで強制冷却を行い、この冷却に続いてストレッチャー装置でも強制冷却を行うことが必要になる。
【0015】
(e)従来の形材後面処理設備においてランナウトテーブルとストレッチ装置の間に設けられたクーリングテーブルは、形材の移載機能と冷却機能をもつものであった。冷却は放冷もしくはチェーンコンベヤーの下側からの送風により行われ、ストレッチに十分な温度まで冷却することを意図していた。
図1に示される従来の6063合金の冷却曲線はイニシャルテーブルで空冷を行い、ランナウトテーブルは空冷もしくは放冷、クーリングテーブルは空冷を行うものであるが、この条件でクーリングテーブルを廃止するとストレッチ装置に入る形材の温度(図2、Ta)は約300℃となる。この温度からストレッチに適する100℃以下までストレッチ装置で冷却しようとすると、ストレッチ工程が後面処理のネックとなり実際上不可能であり、結局クーリングテーブルは廃止できないことになる。この解決法としてストレッチ装置に入る形材の温度を従来より低くすること、及びストレッチ装置に強制冷却機構を新設することを創案した。
【0016】
以上の検討結果(a)〜(c)に基づいて完成した本発明(以下「第1発明」という)は、アルミニウム合金6061 , 6151又は6N01からなる形材を押出した後イニシャルテーブル上で5℃/秒以下でかつ前記アルミニウム合金のC曲線のノーズと交差しない冷却速度(r1)で水冷またはミスト冷却し、続いてランナウトテーブルの実質的全長で前記アルミニウム合金のC曲線と交差しない冷却速度(r2)で水冷またはミスト冷却し、その後直ちに押出形材をストレッチャー装置に移載し次に該ストレッチャー装置において押出形材を水冷またはミスト冷却しかつ押出形材に100℃以下の温度で引張歪み付与して矯正することを特徴とする。
【0017】
また、検討結果(d)に基づいて完成した本発明(以下「第2発明」という)は、アルミニウム合金6063からなる形材を押出した後イニシャルテーブルに続くランナウトテーブルの実質的全長で前記アルミニウム合金のC曲線のノーズと交差しない冷却速度(r´2)で水冷またはミスト冷却し、直ちに押出形材をストレッチャー装置に移載し、次に該ストレッチャー装置において押出形材を水冷またはミスト冷却しかつ押出形材に100℃以下の温度で引張歪みを付与して矯正することを特徴とする。
【0018】
さらに、検討結果(e)より完成した本発明(以下「第3発明」という)は、押出機に付設されたイニシャルテーブルと、ランナウトテーブルと、形材の両端を把持して該形材に引張歪みを与えるストレッチャー装置とを含んでなる形材の後面処理設備において、イニシャルテーブル、ランナウトテーブル及びストレッチャー装置のそれぞれに付設された水冷もしくはミスト冷却装置と、ランナウトテーブルとストレッチャー装置の間に設けられ押出形材を実質的に冷却させることなく移載する移載装置とをさらに含んでなることを特徴とするアルミニウム押出形材後面処理設備である。より好ましくは、イニシャルテーブルの冷却装置を形材の種類により停止・作動させるスイッチ、電磁弁などの手段も設ける。
【0019】
以下、まず第1発明について説明する。
本発明が適用されるのは6063合金よりMg、Si、Cu、Fe、Cr、Mnなどの合金元素量が多い6061、6151、6N01である。C曲線はTTP曲線とも言われ、6061合金については図2に示したものである。その他の6000系合金のC曲線は350℃近傍にノーズがあるが、主にMg及びSi量、附加的にMn、Cr量などによって第2相の析出速度が異なる。一般に、Mg及びSi量が多いほどノーズが短時間側になり、焼入感受性が敏感になるので急速冷却する必要なある。
イニシャルテーブル上での冷却速度(r1)が>5℃/秒であると形材の表面と内部の温度差のために形材が蛇行、踊る、跳るような不規則挙動をして疵がつくのみならず、その後の矯正が困難になるために、イニシャルテーブル上での冷却速度(r1)≦5℃/秒に限定している。なお、イニシャルテーブル上での冷却速度(r1)は2〜3℃/秒が好ましい。
形材の冷却中に析出物は肉厚が厚い部分の内部に形成され、またこの部分と表面との温度差が大になり上記した不規則挙動が起こるために、本発明で言う冷却速度は肉厚が厚い部分のものである。この部分での冷却速度を規制すると、非常に薄いフィン部などでの析出や曲がりなども自動的に避けることができる。
【0020】
形材の押出温度をTf 、イニシャルテーブルの長さをLi (一般には3〜6m)、押出速度をa(一般には0.3〜1.5m/秒)とすると、イニシャルテーブルを形材の1点が通過する時間はLi /aとなり、その期間での温度降下はr1 ・Li /aとなり、イニシャルテーブルの出側での形材の温度(Ti)はTf −(r1 ・Li /a)となる。図4に示す6061合金冷却の具体例C1 では、Li/a=20sec 、Tf=480℃、Ti≒410℃である。図4のC1 に示すようにイニシャルテーブルでの冷却曲線がC曲線の下側にまで伸びるように行うことが好ましい。なお、冷却曲線C2 はイニシャルテーブルのみで約7℃/秒の急冷を行った冷却経過を示し、この場合は形材の表面と内部の温度差が大になる。
【0021】
また、ミスト冷却は、キャブレーター、アトマイズなどの原理を応用して形成した水滴と空気の微細混合物を形材に吹きつけることによる冷却方法であり、1〜8℃/secの範囲の冷却速度を作り出すことができる。一方、水冷は水を管やスリットなどからイニシャルテーブル上に流すもしくは吹き付けることによる冷却方法であり、5〜40℃/secの範囲の冷却速度を作り出すことができる。
【0022】
ランナウトテーブル上ではC曲線と交差しない冷却速度(r2)でミスト冷却もしくは水冷を行う。ランナウトテーブル入側の形材の温度はTf−(r1・Li/a)であるから、この温度から出発してどのような冷却速度(r2)を選択するとC曲線の左下側を通過するかは合金のC曲線を参照して計算することができる。図4に示す具体例では、ランナウトテーブル入側の形材の温度は約410℃であり、r2≒1.5℃/secであり、これにより所望の冷却を行うことができる。上述のようにランナウトテーブルでの冷却に先立つイニシャルテーブルでの冷却速度(r1)は5℃/sec以下に制限されているから、クーリングテーブル上で放冷を行うと形材の冷却曲線がC曲線と交差するおそれがあるために、第1発明法ではランナウトテーブルでミスト冷却または水冷を行い上記の冷却速度(r2)を確保する。またランナウトテーブルでの冷却速度(r2)は1〜3℃/秒であることが好ましい。
ランナウトテーブルでの冷却は、形材温度が高い入側ではミストもしくは水冷を行い、先端側では部分的に放冷することも可能であるが、全体でミストもしくは水冷を行うことが好ましい。また、この全体冷却方式において各ノズルの時間当り水量が一定であると、形材の先端は後端(押出機側)より冷却総水量が多くなる。一方この先端と後端では通常約100℃の押出温度差があり、後端の方が高くなる。このような状況によりランウトテーブルの長さ方向により各ノズルからの時間当り冷却水量を変化させて形材の長さ方向の温度分布を一定に近づけることもできる。
【0023】
形材押出後面設備のランナウトテーブルの長さをLr‐一般に30〜60mの範囲である‐とするとランナウトテーブル出側での形材の温度はTf−(r1・Li/a)−(r2・Lr/a)であり、図4に示す具体例では約230℃である。
本発明においてはランナウトテーブルに続いて移動中の形材を冷却するクーリングテーブルを設けず、直ちに形材を適当な移載装置によりランナウトテーブルからストレッチャー装置に移載する。その移載時間は数10秒以下であり、この間の形材が放冷状態になっても、冷却曲線はC曲線とは交差しない。
移載装置は、1本押出の場合は1本毎にもしくは数本まとめ形材を横方向に移動させ、また多本押出の場合はその全体を横方向に移動させる。
【0024】
続いてストレッチャー装置において冷却とストレッチを行う。ストレッチャー装置は本出願人の特許第1951228号に示されたものを使用することができ、この装置に強制冷却機構を付設することにより冷却・ストレッチ処理を行うことができる。
この工程における冷却速度が遅いと冷却ストレッチ工程が後面処理のネックになって後面処理全体の能率が低下するので、水冷もしくはミスト冷却を行う。これらの冷却は形材の全長につき行いできるだけ速やかに全体を100℃以下の所定温度TS 冷却するようにする。好ましい冷却速度は1〜2℃/秒である。
【0025】
冷却とストレッチの順序としては、(a)ストレッチャー装置の移載機構上で形材をTs≦100℃に冷却し、その後形材をストレッチャーヘッドストック及びテールストックで把持して永久変形をもたらす張力をかける、(b)ストレッチャー装置の移載装置上で形材をTsより高い温度Tcでストレッチャーヘッドストック及びテールストックで把持して形材の両端を固定して、次にTs以下に冷却し、次に永久変形をもたらす張力をかける、(c)移載機構上で形材をTsより高い温度Tcでストレッチャーヘッドストック及びテールストックで把持し形材両端に一定張力をかけてTs以下に冷却し、次に永久変形をもたらする、(d)前記の方法において永久変形をもたらす張力をかけながら室温まで冷却するなどの方法が可能である。
【0026】
冷却方法(b)及び(c)において形材をTs 温度以上で把持するときは、形材に下記条件の一定張力を加えることが好ましい。すなわち(イ)張力は所定温度での弾性限界以下として引張応力によるストレインマークを発生させない;(ロ)形材の収縮に追随してストレッチャーヘッドストックの間隔が減少する;(ハ)移載装置から浮かせるほどの張力をかけない、形材の自重による曲がりを妨げるなどである。なお(イ)が充足されないと、冷却途中に形材が大きく引き伸ばされストレインマークが発生し、(ロ)が充足されないと、形材の収縮が束縛されるので冷却後の形材に引張歪が残る。これらの条件を充たす一定張力を形材に加えると形材をTc (>Ts )からTs まで冷却するときに形材の温度・長さ変化に応じてストレッチャーヘッドストックの間隔が変化するので不必要で有害な歪を形材に発生させない。なお、ヘッドストックの間隔を一定にする方式も検討したが、この方式では最終冷却段階における収縮に対向して間隔を一定にするためにはかなり大きい張力を付与しなければならず、一方初期冷却段階では形材の耐力が低いからかなり小さい張力を付与しなければならず、このように冷却段階に応じて張力を変化させることは容易ではない。これに対して前記の条件(イ)〜(ハ)を満足する一定張力を見出すことは容易である。
【0027】
具体的数値例を挙げて上記方法がどのように選択されるかを説明すると、クーリングストレッチにて250℃(ランウトテーブルから移載される形材の温度)から100℃まで冷却するには約1〜2分を要し、一方形材の両端をヘッドストック及びテールストックで把持してから張力をかけ終わるまでのサイクルは約10秒であるとする。同時に移載された形材の本数が2本以上である場合に全本同時にクーリングストレッチする方法を用いて形材を(c)の方法で冷却する。もし、形材の本数が2本以上で同時にクーリングストレッチできない場合は移載装置でTs以下にして1本目から(a)の方法により形材把持後直ちに引張歪みを与える。2本以上の同時押出しでは形材が小型であると、冷却速度が速くなるためランナウトテーブル上では形材は150℃以下にまで冷却される。したがって(a)の方法でもストレッチャー処理が押出に遅れることはない。
【0028】
ストレッチ矯正のために形材に与えられる永久歪みは通常0.1〜5%である。なお、ストレッチ方法としては前掲特許に示された一定歪みを与える方法の他に一定張力を与える方法などがあり、何れの方法も採用することができる。
【0029】
以上のように処理された形材は切断され、次に時効処理される。これらの処理は通常の方法である。後面処理としては図1に示された設備を使用することができ、時効のための熱処理炉はガス加熱炉、電気炉などを使用することができる。上述した第1発明の方法は構造用アルミニウム合金を使用した形材の波打ちなどの不規則挙動を防止して該合金を溶体化処理をしかつ曲り矯正も可能とするので、品質及び生産性向上の面での効果が大きい。
【0030】
続いて一般的形材合金である6063を後面処理する第2発明について説明する。この方法においてはイニシャルテーブル上でのミスト冷却、水冷などの強制冷却は行なわず、好ましくは0.5〜3.5℃/secの冷却速度(r’1)の放冷を行う。r’1<0.5℃/secであると、ランナウトテーブル上で強制冷却を開始しても冷却曲線がC 曲線のノーズと交差するおそれがあり、r’1≧3.5℃/secであると形材の波打ちなどの不規則挙動が起こるおそれがある。押出直後の形材は温度が高いために薄肉材では冷却速度が比較的速いために、この範囲のr’1は放冷で難なく達成することができる。第2発明におけるランナウトテーブル上での冷却及びクーリング・ストレッチは第1発明と同じである。第2発明の方法によると、60603合金を6061合金と共用設備で後面処理することができ、またランナウトテーブルに続くクーリングテーブルを廃止することができる。
【0031】
続いて、第3発明について説明する。この発明においては、押出機に付設されたイニシャルテーブルと、ランナウトテーブルと、形材の両端を把持して該形材に引張歪みを与えるストレッチャー装置とを含んでなる後面処理設備において、イニシャルテーブル、ランナウトテーブル及びストレッチャー装置のそれぞれに水冷もしくはミスト冷却装置を付設することを一つの特徴としている。ここでイニシャルテーブルに付設された冷却装置は6061合金などを冷却する必要がある時に使用される。ランナウトテーブルに付設された冷却装置は、従来のクーリングテーブルでの冷却温度域での冷却を分担して、ストレッチャー装置に入る形材の温度を十分に下げるためのものである。この冷却装置だけでは100℃以下に形材を冷却することができないために、ストレッチャー装置にも冷却装置を付設している。
【0032】
第3発明の他の特徴はランナウトテーブルからストレッチャー置間での形材の移載装置は、コンベヤー、ウォーキングビーム、オーバーリフトトラスファなどの任意のものであってよいが、従来のクーリングテーブルのような実質的冷却機能は分担しない点にある。ランナウトテーブルとストレッチャー装置の間に移載装置が納まる最小間隔を置いて配列すると、その間隔は例えば1m未満となる。この間隔で形材をコンベヤーで移載するときの温度降下は数℃未満である。さらに空冷ファンを付設してもそれによる温度降下は十数℃である。このような温度降下は、従来のクーリングテーブルでの温度降下100℃以上と対比すると無視できる程度である。第3発明に係る後面設備ではアルミニウム合金の合金元素を完全に固溶する完全溶体化処理を行ってもよく、あるいは合金元素の一部を析出させて粗大析出物とし成形性向上をねらう不完全溶体化処理を行ってもよい。前者の場合の冷却方法は第1発明及び第2発明に関して説明したところによる。後者の場合はランナウトテーブルでの冷却速度を遅くしてMg2Siなどの析出物を生成する。第3発明に係る後面設備は従来の設備より敷地面積が小さくてすむために土地コストが低くかつ幅の狭い設備で従来と同等のラインスピードで稼動できるから生産能率が高い。一方、冷却設備コストと水を使用するためのランニングコストは高くなるが、6061合金などの生産量が増大すると本設備は品種・高能率生産の面で有利に立つ。
以下、実施例を示す図面を参照して第3発明に係る後面設備を具体的に説明する。
【0033】
図5は押出形材後面処理設備を押出方向前方から見た側面図であり、図6は同じ設備を形材搬送手段の高さから見た平面図である。図6においてイニシャルテーブル18に続いて多数のフリーローラー26を押出方向に配列したランナウトテーブル3が設置されている。形材はプラー(図1の2参照)によりランナウトテーブル3上を牽引され、その間に噴霧(ミスト吹き付け)もしくは噴水ノズル27(以下「噴霧ノズル27」という)により冷却される。噴霧ノズル27はフリーローラー26を回転可能に支持した枠体の両側に逆L字状に固着されており、形材の上面及び側面にミスト、水などを噴射する。
【0034】
図7はノズルを付設したイニシャルテーブル18を示す図面である。
図中45はローラー、46a,46bは冷却水の導管、47はノズルである。ノズル47は形材の両側から冷却水を噴霧するものであって、直進形フルコーン・シャワーノズル、円環形ホローコーンシャワーノズル、遠心力を利用して水を拡散させるタイプなどを使用することができる。
【0035】
再び図5に戻って、29a、bは支持用梁30に支持され押出方向に可動なダブルプラーであって、1基が形材牽引中は他が押出機側に接近して次の押出開始時に直ちに形材の牽引をできるように2基を1組としたものである。しかし、図1に示すような1基のみのプラーを使用する形式を採用することも可能である。プラー29はランナウトテーブル3の直上を走行するために、図5に示すように噴霧ノズル27を、プラー走行域から左右にずらして配置している。プラー29には所謂持ち逃げ機構をもたせ、イニシャルシヤーで形材の後端部を切断した後形材を数m牽引する持ち逃げを行う。しかしながらランナウトテーブル3のローラーを駆動式にしてランナウトテーブルに持ち逃げ機構をもたせてもよい。
【0036】
ランナウトテーブル3から形材をストレッチャー装置35に移載する際には、ランナウトテーブルと噴霧ノズル27を一体として、リフター32により、下降させることによって形材が噴霧ノズル27と干渉しないようにしている。
図8に示すように、上面に一定間隔で鋸刃状傾斜面を形成した台車48をレール上を走行可能に配置するとともに、該傾斜面上を車輪50が昇降することによりランナウトテーブル3のローラー26を上下するようにしてリフター32を構成している。49は台車48を牽引するシリンダーであって、台車48がシリンダー側に引寄せられると、リフターの車輪50が傾斜面を上向に移動する。51はランナウトテーブル3の枠体52の横方向の移動を拘束しつつ昇降を可能にする固定ロッドである。噴霧ノズル27をフリーローラー26より僅かに上方に位置させていると、リフター32の上下移動間隔を短くすることができる。
【0037】
再び、図5及び6において、34は揚動装置33により昇降される第1移載コンベヤー34である。この第1移載コンベヤー34はそのベルトが形材の下面と摺接するまで上昇され、形材をストレッチャー装置35の領域に移載する。
【0038】
ストレッチャー装置35はそれ自体例えば特公昭55−18568号公報などにて公知のものである。形材は第1移載コンベヤー34から第2移載コンベヤー37に受け渡され、次にヘッドストック6及びテールストック7により両端を把持され、テーブルで支えられた状態で引張られる。ストレッチャー装置35の上方には、梁30に固定された噴霧もしくは噴水ノズル36を配置して、第2移載コンベヤー37上に位置する形材の強制冷却を行う。またヘッドストック6及びテールストック7に把持されている形材も強制冷却することができる。
【0039】
クーリングストレッチされた形材は、図6において点線で示された長さまで延長されることもある第2移載コンベヤー37によりストレッチャー装置35の領域外に搬出され、第1ストックテーブル38にて所定本数溜められる。テーブルの下方に乾燥用エアーを吹き付ける装置を設けてもよい。第1ストックテーブル38はモーター40a、bにより駆動されるコンベヤーからなり、切断機や検査テーブルでの作業遅れの際に形材を待機させるものである。
第1ストックテーブル38で待機された形材は、切断機及びそれ以降の装置のタイミングに合わせて第2ストックテーブル42に移載され、次に第3移載コンベヤー44によりソーチャージテーブル11に移載される。
【0040】
以上図5〜7を参照して本発明に係る後面処理設備の実施例を説明したが、この設備において各装置毎の冷却速度をどのように制御するかは第1及び第2発明の説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の形材の後面処理設備の図である。
【図2】従来法において6063合金をイニシャルテーブル上にてミスト冷却して溶体化処理し、その後冷却を行う場合の冷却曲線と、6063合金のC曲線とを示したグラフである。さらに6061合金のC曲線も併せて示す。
【図3】従来法により6061合金をイニシャルテーブルだけで強制冷却して溶体化処理する場合の冷却曲線と6061合金のC曲線を示したグラフである。
【図4】本発明法により6061合金をイニシャルテーブル、ランナウトテーブル及びストレッチャー装置にて強制冷却して溶体化処理する場合の冷却曲線と、6061合金のC曲線とを示したグラフである。さらに6063合金をイニシャルテーブルだけで強制冷却して溶体化処理する場合の冷却曲線を併せて示す。
【図5】本発明の実施例に係る形材後面処理設備の側面図である。
【図6】図5の形材後面処理設備の平面図である。
【図7】図5、6の形材後面処理設備におけるイニシャルテーブルを示す図である。
【図8】ランナウトテーブルのリフターを示す図である。
【符号の説明】
1 押出機
2 プラー
3 ランナウトテーブル
4 第1クーリングテーブル
5 第2クーリングテーブル
6 ストレッチャーヘッドストック
7 テールストック
8 第1移載テーブル
9 第1ストレージテーブル
11 ソーチャーテーブル
12 切断機
18 イニシャルテーブル
26 フリーローラー
27 噴霧ノズル
29 プラー
32 リフター
34 第1移載コンベヤー
35 ストレッチャー装置
36 噴霧ノズル
37 第2移載コンベヤー

Claims (8)

  1. アルミニウム合金6061 , 6151又は6N01からなる形材を押出した後イニシャルテーブル上で5℃/秒以下でかつ前記アルミニウム合金のC曲線のノーズと交差しない冷却速度(r1)で水冷またはミスト冷却し、続いてランナウトテーブルの実質的全長で前記アルミニウム合金のC曲線と交差しない冷却速度(r2)で水冷またはミスト冷却し、その後直ちに押出形材をストレッチャー装置に移載し次に該ストレッチャー装置において押出形材を水冷またはミスト冷却しかつ押出形材に100℃以下の温度で引張歪み付与して矯正することを特徴とするアルミニウム押出形材の後面処理方法。
  2. 前記押出形材の冷却曲線が前記アルミニウム合金のC曲線の下側に伸びるように前記冷却速度(r1 )を定めることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム押出形材の後面処理方法。
  3. アルミニウム合金6063からなる形材を押出した後イニシャルテーブルに続くランナウトテーブルの実質的全長で前記アルミニウム合金のC曲線のノーズと交差しない冷却速度(r´2)で水冷またはミスト冷却し、直ちに押出形材をストレッチャー装置に移載し、次に該ストレッチャー装置において押出形材を水冷またはミスト冷却しかつ押出形材に100℃以下の温度で引張歪みを付与して矯正することを特徴とするアルミニウム押出形材の後面処理方法。
  4. イニシャルテーブル上で押出形材を放冷する請求項3記載のアルミニウム押出形材の後面処理方法。
  5. 前記押出形材の冷却曲線が前記アルミニウム合金のC曲線の下側に伸びるように前記冷却速度(r′2 )を定めることを特徴とする請求項3または4記載のアルミニウム押出形材の後面処理方法。
  6. ストレッチャー装置において前記引張歪み付与温度まで水冷もしくはミスト冷却されている押出形材に一定の張力をかけることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載のアルミニウム押出形材の後面処理方法。
  7. 押出機に付設されたイニシャルテーブルと、ランナウトテーブルと、形材の両端を把持して該形材に引張歪みを与えるストレッチャー装置とを含んでなる後面処理設備において、イニシャルテーブル、ランナウトテーブル及びストレッチャー装置のそれぞれに付設された水冷もしくはミスト冷却装置と、ランナウトテーブルとストレッチャー装置の間に設けられ押出形材を実質的に冷却させることなく移載する移載装置とをさらに含んでなることを特徴とするアルミニウム押出形材後面処理設備。
  8. イニシャルテーブルの冷却装置を押出形材の種類により作動させるスイッチ、電磁弁などの手段を含んでなる請求項7記載のアルミニウム押出形材後面処理設備。
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