JP3780469B2 - 金融資産の将来価値予測システム - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、金融資産の将来価値予測システムに係り、特に、確率分布の計算の前処理部分となる多次元乱数の作成手段に関する。
【0002】
各種金融資産を取引する機関では、種々の目的で保有する金融資産の全体の将来価値を確率的に評価する必要がある。金融資産の将来価値予測システムは、多種多用かつ相関を持ち得る複数の金融資産の将来価値を確率分布として算出するために利用される。
【0003】
例えば、リスク管理を目的とする場合には、金融資産の将来価値予測システムを用いて、所定の水準の確率の下で、保有する金融資産が全体として保有期間中に被る損失額を算出し、これを最大損失額と見做して、管理指標として使用する。この指標は、保有する金融資産の全体の将来価値の確率分布から計算する。確率分布を計算する手段としては、モンテカルロシミュレーションがあり、金融資産の組に対応した多次元乱数を使用する。
【0004】
多次元乱数とは、複数の事象の間で相関を考慮し、システムの確率的な挙動を計算機を用いてシミュレートするために必要となる乱数の組(事象の数に対応した次元数)である。
【従来の技術】
【0005】
金融市場における金融資産取引の損益評価に際して、複数の金融資産の間で相関を考慮し、乱数を用いて、金融資産全体の将来価値の確率的な分布を計算機でシミュレートする技術は、広く用いられており、モンテカルロシミュレーションと称されている。
【0006】
モンテカルロシミュレーションは、乱数の組(金融資産の数に対応した次元数)を用いて試行を繰り返し、金融資産の将来価値の確率的特性を統計的な量として明らかにする。金融資産の将来価値予測システムにおいては、シミュレーションに先立ち、必要な乱数を前処理の段階で作成し、シミュレーションに使用できる。
【0007】
モンテカルロシミュレーションの各試行の結果として得られる統計的な量のばらつき(分散)を抑えるために、試行の回数は膨大となり、計算の労力が大きくなりがちである。したがって、モンテカルロシミュレーションを効率的に実行するには、性質のすぐれた乱数を作成する技術が強く求められている。
【0008】
モンテカルロシミュレーションのための乱数作技術術としては、一次元の乱数を作成した後に、その平均,分散を所定の値に一致させるモーメント照合法(2次標本再抽出法)や、相関行列にコレスキー分解と称される演算処理を適用し、変換行列を求め、独立な乱数の組に適用し、所定の相関を持つ乱数の組を求める多変量乱数生成法がある。
【0009】
金融市場における金融資産価格の挙動にモンテカルロシミュレーションを応用した例としては、朝倉書店発行『コンピュテーショナルファイナンス』のpp.161−162において、モーメント照合法が紹介され、pp.142−144において、多変量乱数生成法が紹介されている。平均を0,分散を1とする正規乱数を作成するケースを例として、それらの従来技術を説明する。
【0010】
モーメント照合法では、まず、物理乱数または疑似乱数として、所定の数の正規乱数を作成する。次に、第1の補正項としてそれらの平均を計算し、第2の補正項として標準偏差(分散の正の平方根)を計算する。最後に、元の正規乱数の標本値のそれぞれから第1の補正項を差し引き、第2の補正項で除すると、所定の平均,分散を持つ正規乱数を作成できる。このような平均の補正は、分散の中に現れる(標本値−平均値)の値を変えないので、分散の補正と独立して実施できる。
【0011】
多変量乱数生成法では、まず、必要な次元数(乱数の組数)に対応して相異なる二つの次元の乱数(二組の乱数)の間の相関を要素とする相関行列を与える。次に、相関行列にコレスキー分解と称される演算処理を適用し、変換行列(下三角行列)を求める。さらに、物理乱数または疑似乱数として正規乱数を必要な次元数(乱数の組数)だけ作成し、乱数の組をベクトルとして変換行列を適用し、ベクトルとして所定の相関を持つ乱数を生成する。この操作を所定の回数だけ繰り返し、所定の正規乱数の組を作成する。この意味は、元の乱数の組が無相関の乱数の組に近づくにつれて、所定の相関を持つ乱数の組が得られるということである。
【0012】
上記参考文献には、モーメント照合法と多変量乱数生成法とを組み合わせることが示唆されている。この方法によれば、多変量乱数生成法により作成した乱数の組のそれぞれにモーメント照合法を適用すると、所定の平均,分散を持つ正規乱数を作成できるとされる。
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここでは、乱数として多次元乱数(乱数の組)を使用し、乱数の性質として、各次元の乱数の平均,分散だけではなく、相異なる二つの次元の乱数(二組の乱数)の間の共分散にも注目する。二組の乱数の間の相関は、共分散を各組の標準偏差の積で除した量として与えられる。
【0014】
次に、相関を持つ多次元正規乱数の作成を例として、モーメント照合法と多変量乱数生成法とを組み合わせた従来の多次元乱数作成方法の問題点を説明する。
【0015】
モンテカルロシミュレーションの目的に照らして、性質のすぐれた多次元乱数とは、標本数が限られた場合においても、平均,分散,共分散が所定の値に精度良く一致した乱数の組である。標本数を極限まで大きくできれば、従来技術によっても、平均,分散,共分散を所定の値に一致させることができ、理想的には、物理乱数または疑似乱数として多次元乱数(乱数の組)を作成した段階で、平均0,分散1,共分散0の無相関正規乱数の組が得られるので、多変量乱数生成法のみで、所定の多次元乱数が得られるはずである。
【0016】
しかし、モンテカルロシミュレーションを効率的に実行するため、現実的には乱数の標本数を抑制せざるを得ない。その結果、一般には、初めに物理乱数または疑似乱数として作成した正規乱数について、乱数の組の間の平均を0,分散を1に精度良く一致させること、正規乱数の組の間の共分散(相関)を0に精度良く一致させることは難しい。従来技術によって各組の平均を0,分散を1に一致させることはできても、正規乱数の組の間の相関を所定の値に一致させることはできない。
【0017】
その第1の理由としては、標本数が限られるため、統計誤差として初めに作成した乱数の組の間に相関を有すること、第2の理由としては、モーメント照合法により乱数の各組で分散を1に一致させる結果、乱数の組の間の相関(共分散)に影響を与えることが挙げられる。
【0018】
したがって、標本数が限られた場合には、従来技術では、所定の相関を有する乱数の組を精度良く作成することが困難であった。
【0019】
本発明の目的は、標本数が限られた場合においても、所定の相関を有する乱数の組を精度良く作成する手段を備えた金融資産の将来価値予測システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記目的を達成するために、複数の金融資産の全体の将来価値の確率分布を評価する確率分布評価手段を含むシミュレーション処理部と、前記シミュレーション処理部の前処理手段として評価すべき金融資産の組に対応した各次元の乱数の作成後に所定の相関行列に合わせて各次元の分散および各次元の間の共分散を一括して補正する多次元乱数作成手段とを有する金融資産の将来価値予測システムにおいて、前記多次元乱数作成手段が、各次元の乱数を所定の組だけ作成する初期乱数発生手順と、各次元の乱数の相関行列を求める初期相関計算手順と、求めた相関と所定の相関との関係より各次元の分散および各次元の間の共分散を補正するデータを算出する共分散補正データ算出手順と、各次元の乱数に共分散補正データを適用する乱数補正手順とを用いて、各次元の分散および各次元の間の共分散を補正する前処理手段である金融資産の将来価値予測システムを提案する。
【0021】
その場合、前記共分散補正データ算出手順は、無相関の乱数を初期相関の乱数に変換する第1の変換行列を求めさらにその逆行列を求める逆変換行列計算手順と、無相関の乱数を所定の相関を持つ乱数に変換する第2の変換行列と前記逆変換行列の積として第3の変換行列を求める変換行列合成手順とからなる。
【0022】
前記共分散補正データ算出手順は、また、無相関の乱数を初期相関の乱数に変換する第1の変換行列を求めさらにその逆行列を求める逆変換行列計算手順からなり、無相関の多次元乱数を得る前処理手順であるようにしてもよい。
【0023】
前記共分散補正データ算出手順は、さらに、各次元の乱数をグループに分け、各グループを修正する修正係数を変数とし、多次元乱数の分散・共分散の所定の値と修正係数を適用した値との偏差を表わす目的関数と、修正係数が所定の範囲の値になるための制約条件を含む関係式とを求める分散・共分散関係式作成手順と、制約条件を満たし目的関数である偏差を最小とする修正係数の値を求める修正係数計算手順とからなる前処理手順とすることもできる。
【0024】
本発明においては、初めに作成した乱数の組の間の相関を求め、相関を有する乱数の組から所定の相関を有する乱数の組を作成し、平均,分散,共分散を一括して補正する。
【0025】
課題解決のための一つ方策は、初めに作成した乱数の組の間の相関を求め、相関を有する乱数の組が所定の分散,共分散を有するように、乱数の組を補正することである。その結果、各次元の分散および各次元の間の共分散を一括して補正できる。平均の補正は、これらと独立にできる。
【0026】
課題解決のための他の方策は、多次元乱数をグループ化し、平均,分散,共分散が一致するように、各グループに対する修正係数を決定し、補正することである。その結果、各次元の分散および各次元の間の共分散を一括して補正できる。
【0027】
計算機で使用する多次元乱数の作成において、初期乱数の発生後に、乱数の各次元の分散および各次元の間の共分散を一括して補正すると、所定の相関を有する乱数の組を精度良く作成できる。そのために、共分散補正データを作成し、初期乱数に適用する。
【0028】
補正データとしては、作成した多次元乱数の相関行列を元に、各次元の分散および各次元の間の共分散を所定の相関行列に合わせて補正する変換行列を使用できる。
【0029】
別の補正データとしては、作成した多次元乱数を各次元でグループ化し、所定の相関行列に合わせて各グループに対する修正係数の間の関係式を満たす修正係数を使用できる。
【0030】
その結果、標本数が限られた場合においても、所定の相関を有する乱数の組を精度良く作成できるので、モンテカルロシミュレーションにより、多種多用かつ相関を持ち得る複数の金融資産の将来価値を確率分布として効率良く算出できることになる。
【発明の実施の形態】
【0031】
次に、図1〜図5を参照しながら、本発明による金融資産の将来価値予測システムの実施例を説明する。
【0032】
図1は、本発明による金融資産の将来価値予測システムの実施例の構成を示すブロック図である。本実施例の金融資産の将来価値予測システムは、大きく分けて、シミュレーション前処理部8と、シミュレーション処理部9と、シミュレーション後処理部10とからなる。
【0033】
シミュレーション前処理部8は、入力データファイルと、評価条件設定部1と、多次元乱数作成部2とを含んでいる。シミュレーション処理部9は、シミュレーション制御部3と、金融資産の現在価値評価部4と、個別資産シミュレーション部5と、金融資産の将来価値の確率分布評価部6とを含んでいる。シミュレーション後処理部10は、シミュレーション結果出力部7と、出力データファイルとを含んでいる。
【0034】
評価条件設定部1は、評価対象とする資産の組,現在の個別資産の価格,個別資産の間の相関,保有期間,保有期間中に派生するキャッシュフロー,個別資産の確率的変動の性質,価格ドリフトを決めるパラメータ,価格変動幅を決めるパラメータ,シミュレーションの試行回数などを設定する。本明細書では、保有期間の開始時点を現在と称し、保有期間の満期時点を将来と称する。
【0035】
評価条件設定部1においてパラメータなどを設定したら、多次元乱数作成部2が、シミュレーションの前処理を実行する。多次元乱数作成部2は、乱数作成条件指定部21と、多次元乱数発生部22と、多次元乱数分散・共分散補正部23とからなり、各次元に対応する個々の金融資産の価格変動をシミュレートする多次元乱数を作成する。評価条件設定部1で設定した個別資産の確率的変動の性質や個別資産の間の相関は、ここで作成した多次元乱数に反映されている。
【0036】
次いで、シミュレーション制御部3が起動し、シミュレーションの処理のフローを制御する。シミュレーション制御部3は、金融資産の現在価値評価部4を呼び出し、金融資産の現在価値を算出する。これは、評価条件設定部1で設定した個別資産の価格の総計として計算できる。
【0037】
シミュレーション制御部3は、評価条件設定部1で設定した個別資産毎に、個別資産シミュレーション部5を呼び出す。個別資産シミュレーション部5は、多次元乱数作成部2で作成した多次元乱数を用いて、個別資産シミュレーションを実行し、個別資産の将来価格を算出する。保有期間中に派生するキャッシュフローを考慮しやすいように、個別資産の将来価格および期間中のキャッシュフローを現在価格に換算する。個別資産の将来価格および期間中のキャッシュフローの現在価格換算値を集計して、資産全体の将来価値を算出し、一回の試行結果を記録する。一回の試行結果で得られた将来価値から金融資産の現在価値評価部4で算出した金融資産の現在価値を差し引いた値が、保有期間前後における取引の損益である。
【0038】
シミュレーション制御部3は、評価条件設定部1で設定したシミュレーションの試行回数だけ、上記処理を繰り返す。その結果、このような標本点が、試行回数だけ得られる。金融資産の将来価値の確率分布評価部6は、シミュレーション結果を集計し、保有期間前後での取引の損益の確率分布を計算する。
【0039】
シミュレーション結果出力部7は、金融資産の将来価値の確率分布評価部6で計算した保有期間前後での取引の損益の確率分布に関する情報を出力する。確率分布の指標値は、取引の期待収益または期待損失のうち、最大損失を表わすリスク指標として、確率分布の負側の95%分位または99%分位を出力することもできる。
【0040】
次に、本発明による金融資産の将来価値予測システムの特徴である多次元乱数作成部2を詳細に説明する。
【0041】
図2は、本発明による金融資産の将来価値予測システムの多次元乱数作成部2の処理手順を示すフローチャートである。図2において、点線の枠21,22,23は、図1の乱数作成条件指定部21,多次元乱数発生部22,多次元乱数分散・共分散補正部23の処理機能であることを示している。乱数作成条件指定ステップ11では、乱数の分布関数,平均,分散,次元数,標本数,相関を指定する。初期乱数発生ステップ12では、各次元の乱数を所定の標本数だけ生成する。初期相関計算ステップ13では、各次元の乱数の相関行列を求める。共分散補正データ算出ステップ14では、求めた相関と所定の相関との関係より、各次元の分散および各次元の間の共分散を補正するデータを算出する。乱数補正ステップ15では、各次元の乱数に補正のための変換行列を適用する。
【実施例1】
【0042】
本発明の実施例1では、金融資産の将来価値予測システムは、相関を持つ5資産を含むポートフォリオを対象として、標本数が100に限られたシミュレーションを実行することにする。そのために、5次元の相関を持つ標本数100の正規乱数を作成する。
【0043】
図3は、本発明の実施例1における多次元乱数作成部2の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順では、標本番号が同じ多次元乱数の組をベクトルとして、このベクトルに乗ずることにより相関を持つ多次元乱数の組のベクトルを得るための変換行列を用いる。
【0044】
乱数作成条件指定ステップ11において、
(1)正規乱数であること、すなわち平均が0,分散が1であること
(2)5次元であること
(3)標本数が100であること
(4)各次元の間の相関が次の相関行列で与えられること
{{1.0, 0.3, 0.2, 0.4, 0.3},
{0.3, 1.0, 0.5, 0.3, 0.1},
{0.2, 0.5, 1.0, 0.1, 0.2},
{0.4, 0.3, 0.1, 1.0, 0.3},
{0.3, 0.1, 0.2, 0.3, 1.0}}
したがって、次の共分散行列で与えられること
{{1.0, 0.3, 0.2, 0.4, 0.3},
{0.3, 1.0, 0.5, 0.3, 0.1},
{0.2, 0.5, 1.0, 0.1, 0.2},
{0.4, 0.3, 0.1, 1.0, 0.3},
{0.3, 0.1, 0.2, 0.3, 1.0}}
という条件を指定する。なお、{}で括ったリストで行ベクトルを表わし、行ベクトルのリストで行列を表わす。
【0045】
初期乱数発生ステップ12では、疑似乱数の発生手順を用いて、標本数100の正規乱数を5組作成する。
【0046】
初期相関計算ステップ13では、各次元の初期乱数の共分散行列を求める。共分散行列に基づいて、次のような相関行列
{{1.000, 0.1966, 0.2203, 0.4833, 0.4608},
{0.1966, 1.000, 0.5023, 0.3548, 0.1782},
{0.2204, 0.5023, 1.000, 0.1617, 0.2841},
{0.4833, 0.3548, 0.1617, 1.000, 0.3701},
{0.4608, 0.1782, 0.2841, 0.3701, 1.000 }}
を求める。この共分散行列に基づく相関行列を初期相関と称する。標本数が限られているため、目標の共分散行列とは、相違が認められる。
【0047】
共分散補正データ算出ステップ14は、無相関の乱数を初期相関の乱数に変換する第1の変換行列を求め、さらにその逆行列を求める逆変換行列計算ステップ24と、無相関の乱数を所定の相関を持つ乱数に変換する第2の変換行列および前記逆変換行列の積として、第3の変換行列を求める変換行列合成ステップ25とからなる。
【0048】
逆変換行列計算ステップ24では、無相関の乱数を初期相関の乱数に変換する第1の変換行列を求め、さらにその逆行列を求める。
【0049】
無相関の正規乱数の共分散行列は、念のために記すと、
{{1.0, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 1.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 1.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 1.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 0.0, 1.0}}
のようになる。
【0050】
厳密な意味で独立の乱数の組から初期相関を持つ乱数の組を生成すると想定した場合の変換行列は、
{{0.9950, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0 },
{0.1975, 0.9752, 0.0, 0.0, 0.0 },
{0.2215, 0.4702, 0.8484, 0.0, 0.0 },
{0.4857, 0.2655,−0.0833, 0.8226, 0.0 },
{0.4631, 0.0890, 0.1646, 0.1645, 0.8446}}
のようになる。この変換行列は、初期相関の相関行列にコレスキー分解と称される演算を適用すると、求められる。
【0051】
初期相関を生成する変換行列の逆行列は、例えば、ガウス−ジョルダンの消去法により計算でき、
{{ 1.0050, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0 },
{−0.2036, 1.0255, 0.0, 0.0, 0.0 },
{−0.1495,−0.5683, 1.1786, 0.0, 0.0 },
{−0.5428,−0.3884, 0.1193, 1.2156, 0.0 },
{−0.3948, 0.07840,−0.2530,−0.2367, 1.1839}}
のようになる。
【0052】
変換行列合成ステップ25では、無相関の乱数を所定の相関を持つ乱数に変換する第2の変換行列および前記逆変換行列の積として、第3の変換行列を求める。
【0053】
独立の乱数の組から所定の相関を持つ乱数の組を生成する第2の変換行列は、コレスキー分解を適用して求めると、
{{1.0, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0 },
{0.3, 0.9540, 0.0, 0.0, 0.0 },
{0.2, 0.4612, 0.8644, 0.0, 0.0 },
{0.4, 0.1887,−0.07754, 0.89354, 0.0 },
{0.3, 0.0105, 0.1564, 0.21284, 0.9166}}
のようになる。
【0054】
所定の相関と初期相関を考慮した第3の変換行列は、
{{ 1.0050, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0 },
{ 0.1073, 0.9782, 0.0, 0.0, 0.0 },
{−0.0221,−0.0182, 1.0188, 0.0, 0.0 },
{−0.1098,−0.1095, 0.0152, 1.0862, 0.0 },
{−0.2014,−0.0889,−0.0222, 0.0417, 1.0852}}
のようになる。
【0055】
乱数補正ステップ15では、各次元の乱数に第3の変換行列を適用する。その結果、本発明による多次元乱数の作成方法を用いて生成した乱数の組の相関行列は、
{{1.000, 0.2899, 0.1979, 0.4076, 0.3135},
{0.2899, 1.000, 0.4936, 0.3017, 0.1041},
{0.1979, 0.4937, 1.000, 0.1020, 0.2028},
{0.4076, 0.3017, 0.1020, 1.000, 0.3065},
{0.3135, 0.1041, 0.2028, 0.3065, 1.000 }}
のようになる。
【0056】
従来技術により作成した多次元正規乱数の組の相関行列を示すと、
{{1.000, 0.1966, 0.2203, 0.4833, 0.4608},
{0.1966, 1.000, 0.5023, 0.3548, 0.1782},
{0.2204, 0.5023, 1.000, 0.1617, 0.2841},
{0.4833, 0.3548, 0.1617, 1.000, 0.3701},
{0.4608, 0.1782, 0.2841, 0.3701, 1.000 }}
のようになる。
【0057】
これらの比較から、本発明による多次元乱数の作成方法を用いて生成した乱数は、所定の相関を精度良く再現できていることがわかる。
【実施例2】
【0058】
本発明の実施例2では、金融資産の将来価値予測システムは、相関を持たない5資産を含むポートフォリオを対象として、標本数100のシミュレーションを実行することにする。そのために、5次元の相関を持たない標本数100の正規乱数を作成する必要がある。
【0059】
図4は、本発明の実施例2における多次元乱数作成部2の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順では、標本番号が同じ多次元乱数の組をベクトルとして、このベクトルに乗ずることにより相関を持つ多次元乱数の組をベクトルを得るための変換行列を用いる。
【0060】
乱数作成条件指定ステップ11において、
(1)正規乱数であること、すなわち平均が0,分散が1であること
(2)5次元であること
(3)標本数が100であること、
(4)各次元の間の相関が次の相関行列で与えられること
{{1.0, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 1.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 1.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 1.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 0.0, 1.0}}
したがって、次の共分散行列で与えられること
{{1.0, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 1.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 1.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 1.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 0.0, 1.0}}
という条件を指定する。
【0061】
初期乱数発生ステップ12では、疑似乱数の発生手順を用いて、標本数100の正規乱数を5組作成する。
【0062】
初期相関計算ステップ13では、各次元の初期乱数の相関行列
{{ 1.000, −0.0800, 0.0748, 0.1857, 0.1623},
{−0.0800, 1.000, −0.0484, 0.0797, 0.0607},
{ 0.0748,−0.0484, 1.000, −0.0094, 0.0410},
{ 0.1857, 0.0797,−0.0094, 1.000, −0.0088},
{ 0.1623, 0.0607, 0.0410,−0.0088, 1.000 }}
を求める。
【0063】
共分散補正データ算出ステップ14は、厳密に無相関の乱数を初期相関の乱数に変換する第1の変換行列を求め、さらにその逆行列を求める逆変換行列計算ステップ24からなる。
【0064】
逆変換行列計算ステップ24では、厳密に無相関の乱数を初期相関の乱数に変換する第1の変換行列を求め、さらにその逆行列を求める。厳密に無相関の乱数の組から初期相関を持つ乱数の組を生成すると想定した場合の変換行列は、
{{ 0.9950, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0 },
{−0.0804, 0.9917, 0.0, 0.0, 0.0 },
{ 0.0752,−0.0428, 0.9912, 0.0, 0.0 },
{ 0.1866, 0.0955,−0.0196, 0.9725, 0.0 },
{ 0.1631, 0.0744, 0.0322,−0.0470, 0.9770}}
のようになる。
【0065】
初期相関を生成する変換行列の逆行列は、
{{ 1.0050, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0 },
{ 0.0815, 1.0083, 0.0, 0.0, 0.0 },
{−0.0727, 0.0435, 1.0089, 0.0, 0.0 },
{−0.2023,−0.0981, 0.0203, 1.0283, 0.0 },
{−0.1813,−0.0829,−0.0323, 0.0495, 1.0235}}
のようになる。
【0066】
これは、所定の相関(無相関)と初期相関とを考慮した共分散補正データとしての変換行列である。この場合、第2の変換行列は、単位行列となるので、第3の変換行列は、この変換行列に等しい。
【0067】
乱数補正ステップ15では、各次元の乱数に第3の変換行列を適用する。その結果、本発明による多次元乱数の作成方法を用いて生成した乱数の組の相関行列は、
{{ 1.000, −0.0081,−0.0008, 0.0155, 0.0065},
{−0.0081, 1.000, 0.0051,−0.0026,−0.0063},
{−0.0008, 0.0051, 1.000, −0.0017, 0.0011},
{ 0.01550,−0.0026,−0.0017, 1.000, 0.0025},
{ 0.00650,−0.0063, 0.0011, 0.0025, 1.000 }}
のようになり、初期相関と比較すると、所定の相関(無相関)を精度良く再現できていることがわかる。すなわち、本発明による多次元乱数の作成方法を用いて生成した乱数では、分散・共分散の精度が改善されていることがわかる。
【実施例3】
【0068】
本発明の実施例3では、金融資産の将来価値予測システムは、実施例1と同様、相関を持つ5資産を含むポートフォリオを対象として、標本数100のシミュレーションを実行することにする。そのために、5次元の相関を持つ標本数100の正規乱数を作成する。
【0069】
図5は、本発明の実施例3における多次元乱数作成部の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順では、乱数のある部分を修正する修正係数を変数とし、補正後の多次元乱数の平均,分散,共分散が所定の値または所定の範囲の値となるように修正係数を決定する。
【0070】
乱数作成条件指定ステップ11において、
(1)正規乱数であること、すなわち平均が0,分散が1であること
(2)5次元であること
(3)標本数が100であること、
(4)各次元の間の相関が次の相関行列で与えられること
{{1.0, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 1.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 1.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 1.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 0.0, 1.0}}
したがって、次の共分散行列で与えられること
{{1.0, 0.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 1.0, 0.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 1.0, 0.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 1.0, 0.0},
{0.0, 0.0, 0.0, 0.0, 1.0}}
という条件を指定する。
【0071】
初期乱数発生ステップ12では、疑似乱数の発生手順を用いて、標本数100の正規乱数を5組作成する。
【0072】
初期相関計算ステップ13では、各次元の初期乱数の共分散行列
{{ 0.812,−0.073, 0.061, 0.165, 0.137},
{−0.073, 1.005,−0.044, 0.079, 0.057},
{ 0.061,−0.044, 0.803,−0.008, 0.034},
{ 0.165, 0.079,−0.008, 0.954,−0.008},
{ 0.137, 0.057, 0.035,−0.008, 0.86 }}
を求める。
【0073】
共分散補正データ算出ステップ14は、各次元の乱数のある部分を修正する修正係数を変数とし、修正後の多次元乱数の平均,分散,共分散が所定の値または所定の範囲の値となるための関係式を求める分散・共分散関係式作成ステップ34と、分散・共分散関係式を制約条件として修正係数の値を求める修正係数計算ステップ35とからなる。この場合、初期相関計算ステップ13は、乱数の補正のためには必ずしも必要とはせず、乱数補正の効果を確認するためのものである。
【0074】
分散・共分散関係式作成ステップ34では、乱数のある部分を修正する修正係数を変数とし、修正後の多次元乱数の分散、共分散が所定の値または所定の範囲の値となるための分散・共分散関係式を求める。各次元の乱数を標本番号により10のグループに分割し、各グループに含まれる乱数に対しては、一つの修正係数を乗ずる。この場合、変数として全体で50の修正係数を用いることになる。分散・共分散関係式は、共分散行列の各要素が所定の値または所定の範囲の値となるための条件として表わされる。共分散行列の対称性から、15要素が対象となる。関係式は、変数の2次の項からなる等式または不等式である。
【0075】
ここでは、数式処理に基づいて次のような分散・共分散関係式
(1)修正係数自体が 0.7と1.3の間にあるという不等式
(2)修正係数の2次関数である共分散行列の各要素の相違が−0.1と0.1の間にあるという不等式を作成した。
【0076】
変数を修正係数自体から修正係数と1.0からの差に置き換えて、修正係数の2次関数である共分散行列の各要素を線形近似すると、2次の項を1次の項に変換できる。したがって、近似の範囲内で、分散・共分散関係式は、すべて1次の式となる。
【0077】
修正係数計算ステップ35では、分散・共分散関係式を制約条件として、これらを充足しかつ目的関数を最適とする形で、変数である修正係数の値を求める。これらの関係式を制約条件とし、修正係数の1.0からの差の絶対値の和を目的関数とし、線形計画法を用いて、目的関数を最小とするような修正係数の値を計算する。線形計画法では、非負の変数のみを扱うので、修正係数の1.0からの差は、二つの非負の変数として表わす。ここで求めた修正係数を、次元を行としグループを列とする行列
{{0.7,0.7,1.3, 1, 1.3,1.3, 1.3,0.7,0.814,1.3},
{1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1 },
{1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1.3,1.015,1 },
{1,0.780,1.124,1, 1, 0.7, 1.3,0.7,0.7, 1.3},
{1, 0.7, 0.7, 0.996,1, 1.067,1.3,1, 1, 1.3}}
で表わす。
【0078】
乱数補正ステップ15では、各次元の乱数に修正係数を適用する。この結果作成できた多次元乱数の共分散行列は、
{{ 0.957,−0.043, 0.083, 0.103, 0.098},
{−0.043, 1.005,−0.038, 0.089, 0.066},
{ 0.083,−0.037, 0.914,−0.029, 0.025},
{ 0.103, 0.088,−0.029, 0.951, 0.001},
{ 0.098, 0.065, 0.025, 0.001, 0.926}}
のようになる。
【0079】
本発明による多次元乱数の作成方法を用いて生成した乱数の良さは、初期乱数の共分散行列と比較しても、明らかである。
【0080】
本発明による金融資産の将来価値予測システムは、個別の金融資産の価格の変動をシミュレートすると、金融資産全体の将来価値を決定できるため、種々の目的で利用可能である。例えば、金融資産取引の損益評価,金融資産の市場リスク管理,金融資産の信用リスク管理,金融資産の価格決定,金融資産を組み合わせた金融商品の設計などに利用できる。
【発明の効果】
【0081】
本発明によれば、金融資産の将来価値予測システムの前処理において、初めに作成した多次元乱数に対して所定の相関を有するように、分散,共分散を一括補正するので、所定の相関を有する多次元乱数を精度良く作成できるため、金融資産の将来価値予測のためのシミュレーションを効率良く実行可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】 本発明による金融資産の将来価値予測システムの実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】 本発明による金融資産の将来価値予測システムの多次元乱数作成部2の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】 本発明の実施例1における多次元乱数作成部2の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】 本発明の実施例2における多次元乱数作成部2の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】 本発明の実施例3における多次元乱数作成部2の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
1 評価条件設定部
2 多次元乱数作成部
3 シミュレーション制御部
4 金融資産の現在価値評価部
5 個別資産シミュレーション部
6 金融資産の将来価値の確率分布評価部
7 シミュレーション結果出力部
8 シミュレーション前処理部
9 シミュレーション処理部
10 シミュレーション後処理部
11 乱数作成条件指定ステップ
12 初期乱数発生ステップ
13 初期相関計算ステップ
14 共分散補正データ算出ステップ
15 乱数補正ステップ
21 乱数作成条件指定部
22 多次元乱数発生部
23 多次元乱数分散・共分散補正部
24 逆変換行列計算ステップ
25 変換行列合成ステップ
34 分散・共分散関係式作成ステップ
35 修正係数計算ステップ
Claims (4)
- 複数の金融資産の全体の将来価値の確率分布を評価する確率分布評価手段を含むシミュレーション処理部と、前記シミュレーション処理部の前処理手段として評価すべき金融資産の組に対応した各次元の乱数の作成後に所定の相関行列に合わせて各次元の分散および各次元の間の共分散を一括して補正する多次元乱数作成手段とを有する金融資産の将来価値予測システムにおいて、
前記多次元乱数作成手段が、各次元の乱数を所定の組だけ作成する初期乱数発生手順と、各次元の乱数の相関行列を求める初期相関計算手順と、求めた相関と所定の相関との関係より各次元の分散および各次元の間の共分散を補正するデータを算出する共分散補正データ算出手順と、各次元の乱数に共分散補正データを適用する乱数補正手順とを用いて、各次元の分散および各次元の間の共分散を補正する前処理手段であることを特徴とする金融資産の将来価値予測システム。 - 請求項1に記載された金融資産の将来価値予測システムにおいて、
前記共分散補正データ算出手順が、無相関の乱数を初期相関の乱数に変換する第1の変換行列を求めさらにその逆行列を求める逆変換行列計算手順と、無相関の乱数を所定の相関を持つ乱数に変換する第2の変換行列と前記逆変換行列の積として第3の変換行列を求める変換行列合成手順とからなる前処理手順であることを特徴とする金融資産の将来価値予測システム。 - 請求項1に記載された金融資産の将来価値予測システムにおいて、
前記共分散補正データ算出手順が、無相関の乱数を初期相関の乱数に変換する第1の変換行列を求めさらにその逆行列を求める逆変換行列計算手順からなり、無相関の多次元乱数を得る前処理手順であることを特徴とする金融資産の将来価値予測システム。 - 請求項1に記載された金融資産の将来価値予測システムにおいて、
前記共分散補正データ算出手順が、各次元の乱数をグループに分け、各グループを修正する修正係数を変数とし、多次元乱数の分散・共分散の所定の値と修正係数を適用した値との偏差を表わす目的関数と、修正係数が所定の範囲の値になるための制約条件を含む関係式とを求める分散・共分散関係式作成手順と、制約条件を満たし目的関数である偏差を最小とする修正係数の値を求める修正係数計算手順とからなる前処理手順であることを特徴とする金融資産の将来価値予測システム。
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