JP3780361B2 - 熱流体caeシステム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は計算機を用いた熱流体CAEシステム、特に、回路網法によって機器や装置の熱解析や流体解析を行なう熱流体CAEシステムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電子機器を始めとする機器を設計する際に、放熱処理等のために機器内の熱拡散状態を知る必要がある。そのために、熱解析、流体解析が必要とされる。近年、機器の大容量化、高密度化、高速化の進展は目覚ましく、装置単位体積当りの消費電力は高まる一方である。従って、これまでのように勘と経験で熱解析、流体解析を行なうことが困難になりつつある。そこで、コンピュータを利用した設計解析計算、いわゆるCAEの普及に伴って、機器の温度分布や流量分布を計算によって予測することが行なわれるようになってきている。
ここで、熱解析とは機器各部の温度分布や熱流分布を予測することを意味し、流体解析とは熱解析を行なうために流体の流量分布、流速分布、圧力分布を予測することを意味している。
【0003】
機器の熱流体解析には、熱回路網法と呼ばれる手法および流体回路網法と呼ばれる手法が広く使用されている。熱回路網法では、機器内部が幾つかの領域に分割され、各領域の中央にノードと呼ばれる代表点が設けられる。そして、各領域間のエネルギバランスを表す連立方程式を解くことにより、ノード点の温度およびノード間の熱流が求められる。また、流体回路網法では、流体内部が幾つかの領域に分割され、各領域の中央にノードと呼ばれる代表点を設けられる。そして、各ノードの運動量を保存するようにノード間を流れる流量の質量バランスを表す連立方程式を解くことにより、ノード点の圧力およびノード間の流量が求められる。熱回路網法と流体回路網法とを併せて熱流体回路網法と呼ぶ。
【0004】
伝熱工学の分野において、熱伝達率や管路抵抗係数に関して、数多くの解析式や実験式が求められているので、熱伝達率や管路抵抗係数は容易に決定される。熱流体回路網法では、それらの熱伝達率や管路抵抗係数を用いて熱抵抗や管路抵抗を求め、それらの抵抗による回路網について熱流や流体の流量を求める。従って、流体の挙動を厳密に計算することなく温度や熱流を計算できる。このように、熱流体回路網法によれば、比較的小規模な計算処理で精度のよい結果が得られる。
【0005】
従来の熱流体回路網法を使用したCAEシステムとして、特開平4−7675号公報や特開平4−30270号公報に示されたものがある。図26は特開平4−7675号公報に示されたCAEシステムの構成を示すブロック図である。図において1はデータ入力や処理コマンド入力のための入力装置、2は入力データの表示や処理結果表示等のための表示装置、3は入力データを形状データ記憶部4に設定したり形状データ記憶部4の内容の更新を行ったりする形状データ処理部、5は外部にある3次元CADシステム、6は機器を小エリアに分割する処理を行うエリア分割処理部、7は各小エリアのノード座標を記憶するノード座標データ記憶部である。
【0006】
8は管路抵抗を計算して流体回路網を作成する流体回路生成部、9は管路圧損データ記憶部、10は熱抵抗値を計算して熱回路網を作成する熱回路生成部、11は熱伝達率データ記憶部、12は材料物性データ記憶部、13は流体回路網データおよび熱回路網データを記憶する回路網データ記憶部、14は圧力および流量の演算を行う流体回路演算処理部15および熱伝導による熱抵抗と流体の流れによる熱抵抗とを演算する熱回路演算処理部16を有する演算処理部、17は算出された圧力データを記憶する圧力流量データ記憶部、18は算出された温度データを記憶する温度データ記憶部、19は計算結果を表示する処理を行う計算結果表示処理部、20はファン特性データ記憶部である。
【0007】
次に動作について説明する。ここでは、図27に示す例を対象に各部の温度と流量分布を求める場合について説明する。図27に示す例は、直方体の金属板21の両端22、23間に電源24により一定の電圧Vがかけられるものである。金属板21には、I=V/Re で表される電流Iが通電し、Q=Re I2 のジュール熱が発熱する。また、ダクト25の内部をファン26により駆動されて流動する空気27が加熱される。なお、Re は金属板21の電気抵抗28の抵抗値を示す。
【0008】
以下、計算処理の流れを図28に示した計算フローを参照して説明する。形状データ処理部3は、図27に示す装置の形状を直線や円、円弧などの図形データとして取り込み、形状データ記憶部4に記憶したり、内容の更新を行ったりする。図形データは入力装置1から入力される。また、入力装置1には、関連する処理コマンドが入力される。そして、表示装置2は、入力データ等を表示している(ステップST1,ST2)。
【0009】
形状データ記憶部4に記憶されている形状データは、図27に示すような2次元あるいは3次元空間上の座標を示すデータから構成されている。なお、他の一般的な3次元CADシステム5から形状データを取り込むこともできる。
エリア分割処理部6は、形状データ記憶部4内の形状データを取り込み、図29に示すように機器全体を小エリア41に分割する(ステップST3)。そして、小エリア重心点座標を算出し、重心点をノード42とする。エリア分割処理部6は、ノード座標データをノード座標記憶部7に格納する(ステップST4)。
【0010】
次に、流体回路生成部8は、ノード座標データ記憶部7内のノード座標データと管路圧損データ記憶部9内の管路圧損データとを用いて流体部分の管路抵抗51の抵抗値を計算する(図30参照)。管路圧損データ記憶部9には、断面変化率と圧損係数との関係を示すテーブルや管路開口率と圧損係数との関係を示すテーブルなど、あらかじめ実験等により導出された数値のテーブルが記憶されている。流体回路生成部8は、管路抵抗51の値のうち、摩擦損失抵抗を、接続されている2つの圧力ノード52間の距離および接している面の面積などから決定する。圧力ノード52は、図29に示された各ノード42のうちダクト25内に設定されたノードに相当する。また、局所圧損抵抗を、管路圧損データ記憶部9の管路圧損データを参照して、隣合う2つの小エリアの断面積の変化などにもとづいて決定する(ステップST5)。
【0011】
形状データ処理部3によって図27に示すファン26が入力されている場合には、流体回路生成部8は、ファン特性データ記憶部20を参照して、ファン26を含む小エリア41に、種別に応じたファン特性データを付与する。すなわち、ファンによる圧力上昇すなわち流体駆動力が電池53の形で設定される。このようにして、管路抵抗51と電池53により流体回路網54が形成される。流体回路生成部8は、作成された流体回路網データを回路網データ記憶部13に格納する。
【0012】
次に、熱回路網生成部10は、図31に示すように、小エリア同士が面または線で接している固体中の温度ノード61間を熱伝導による熱抵抗62で接続するとともに、熱抵抗値を算出する。熱回路網生成部10は、熱抵抗値を、材料物性データ記憶部12の材料物性データを参照して、接続されている2つの温度ノード62間の距離、接している面積および固体の熱伝導率にもとづいて算出する(ステップST6)。温度ノード61,63は、図29に示された各ノード42に相当する。熱回路網生成部10は、熱伝導による熱抵抗62の値の計算結果を固体中における熱回路網データとして回路網データ記憶部13に格納する。
【0013】
演算処理部14において、まず、流体回路演算処理部15は、管路抵抗データを回路網データ記憶部13から読み込み、非線形連立方程式解法演算を行う。流体回路演算処理部15は、演算結果である圧力ノード52の圧力と圧力ノード52間の流量とを圧力流量データ記憶部17に格納する(ステップST7)。
【0014】
次に、熱回路演算処理部16は、圧力ノード52間の流量、圧力ノード52間の流速、熱伝達率データ記憶部11の熱伝達係数データ、および材料物性データ記憶部12の材料物性データをもとに、固体中の温度ノード61と流体中の温度ノード63間の熱伝達による熱抵抗64を、および、流体中の温度ノード63間の流体の流れによる熱抵抗65の値を計算する。このようにして、熱抵抗62,64,65による熱回路網66が形成される。熱回路演算処理部16は、熱回路網66中にある温度ノード61に成立するエネルギ保存式を表す熱抵抗係数行列を完成させる。そして、連立方程式演算によって、全てのノードの温度を算出する(ステップST8)。自然対流などのように、圧力ノード52の圧力がノードの温度に依存して決定されるような場合には、流体回路演算処理部15と熱回路演算処理部16とが交互に反復処理を行い、結果が収束するまで処理を繰り返される。
【0015】
熱回路演算処理部16は、このようにして得られた温度データを、温度データ記憶部18に格納する。圧力流量データ記憶部17内の圧力データおよび流量データならびに温度データ記憶部18内の温度データは、形状データ、ノード座標データおよび回路網データとともに、計算結果表示処理部19に取り込まれる。計算結果表示処理部19は、温度分布、流量分布などを視覚的に表示するために以下の処理を行う(ステップST9)。
【0016】
図32は計算結果表示処理部19の処理により表示装置1に表示された温度分布を示す図である。計算結果表示処理部19は、形状データ記憶部4から形状データを取り込み、装置の形状を表示装置2に表示する。システム利用者は対話的処理により、表示したいデータ(温度、圧力、流量)、その表示方式(等温線図による表示やベクトル図による表示等)および表示したい断面を指示する。温度および等温線図が指定された場合には、計算結果表示処理部19は、ノード座標データ記憶部7のノード座標データと温度データ記憶部18の温度データとを用いて、ノード間温度を補間処理することにより、装置形状上に等温線71を描く処理を行う。そして、表示装置2上に図32に示すように表示する(ステップST10)。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
従来の熱流体解析CAEシステムは以上のように構成されているので、次のような問題点があった。
(1)熱回路網あるいは流体回路網のいずれか一方の生成または両者の生成をシステム利用者が選択できない。
(2)熱回路生成部10、流体回路生成部8および演算処理部14しか備えられていないので、金属板21の電気伝導度の温度変化に起因する電気抵抗28(Re )の変化によって金属板21のジュール発熱量が変化すること、さらに、金属板21の温度や空気27の温度が変化することを考慮するための電気回路網と熱回路網および流体回路網とを連成させた場合には対応できない。また、金属板21の表面に薄い液膜が設けられた場合、液の蒸発により空気27が加湿されたときの空気27の温度変化や湿度変化を求めるための水分の移動を表す物質移動回路網と熱回路網および流体回路網とを連成させた場合には対応できない。
(3)形状データ以外の計算に必要なデータを入力装置から各記憶部に入力できる構成となっていないので、データの変更や追加をシステム利用者が自由に行うことができない。この結果、問題に最も適したデータを使用できない場合がある。
(4)境界条件など全ての計算パラメータをシステム利用者が関数や表の形で設定できないので、問題に最も適したパラメータ変化を採用できない場合がある。そのような場合には精度のよい計算ができない。
(5)システム利用者は、最大のノード数、初期条件、境界条件、回路条件に関するデータを選択できない。すなわち、所望のレベルのシミュレーションができない。すなわち、利用者が期待する精度以上の演算が実行されてしまう場合がある。その結果、不必要に大きな記憶領域が確保されたり、不必要なデータを入力しなければならない場合が生じたりして、システムの効率的な使用ができない。
(6)回路網として四角メッシュしかできない。そのために、固体中の熱伝導を計算する場合に、曲面などの任意の形状に対応しにくく計算精度が低下する。
(7)回路網を解く演算手法をシステム利用者が自由に選択できないため、問題に最も適した解法による高速で精度のよい計算ができない場合がある。
(8)回路網が入力できないないため、システム利用者が問題に最も適した回路網を設定できず、問題に最も適した回路網による精度のよい計算ができない場合がある。
(9)回路網図上に計算結果の表示が行えないので、計算結果の詳細な解析が困難な場合がある。
(10)CAEシステムから直接外部機器の温度や流量などを制御することはできない。
(11)回路網法による解法を使用しているため、特に、流体中の渦など、細かな流れを解析することが困難である。そのために、流れが複雑な場合には精度がよくない。
【0018】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、複雑な問題に適した解析モデルを自由に設定でき、精度がよい実用的なCAEシステムを得ることを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る熱流体CAEシステムは、機器の形状データから回路網図を作成し、その回路網図を用いて回路網に関する情報を作成するとともに、その回路網の抵抗値を計算する際に使用する抵抗計算式と機器の寸法の入力を受け付けて、その回路網に関する情報、その抵抗計算式及び機器の寸法を回路網生成装置に供給する回路網図形処理装置を備えたものである。
【0020】
この発明に係る熱流体CAEシステムは、回路網図形処理装置が作成した回路網図上に演算結果を表示する回路網図形上表示処理部を備えたものである。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による熱流体CAEシステムの構成を示すブロック図である。図において、1はデータ入力や処理コマンド入力のための入力装置、2は入力データの表示や処理結果表示等のための表示装置、101は入力データをデータベース処理装置105や関数式・表計算処理装置106に設定したり回路網生成装置102に供給したりする入力データ処理装置、102は各種回路網を生成する回路網生成装置、103は温度、圧力、電圧および濃度を演算する演算処理装置、104は演算結果を回路網とともに表示する制御を行う計算結果表示処理装置、105は各種のパラメータを記憶するとともに各パラメータを用いて熱伝導率等を算出して出力するデータベース処理装置、106は関数式や表計算法を記憶する関数式・表計算処理装置である。関数式・表計算処理装置106内の関数式や表計算法は、回路網生成装置102内の各生成部、演算処理装置103内の各演算処理部およびデータベース処理装置105内の各処理部によって利用される。
【0022】
図2は回路網生成装置102および演算処理装置103の構成を詳細に示すブロック図である。図に示すように、回路網生成装置102は、熱回路網を作成する熱回路網生成部111、流体回路網を作成する流体回路網生成部112、電気回路網を作成する電気回路網生成部113、および物質移動回路網を作成する物質移動回路網生成部114からなっている。
【0023】
演算処理装置103は、回路網生成装置102に接続された演算処理部122および具体的な回路網演算を行う回路網演算部119を有する。演算処理部122は、定常状態における演算を制御する定常計算処理部120および過渡状態における演算を制御する過渡計算処理部121を有する。回路網演算部119は、各ノードの温度および各ノード間の熱流を算出する熱回路網演算処理部115、各ノードの圧力および各ノード間の流体流量を算出する流体回路網演算処理部116、各ノードの電圧および各ノード間の電流を算出する電気回路網演算処理部117、ならびに各ノードにおける濃度および各ノード間の物質移動量を算出する物質移動回路網演算処理部118を有する。
【0024】
図3はデータベース処理装置105の構成を詳細に示すブロック図である。データベース処理装置105において、関数式・表計算処理装置106に格納されている関数や表計算法を利用して、熱伝達率処理部131が熱伝達率を、管路抵抗係数処理部132が管路抵抗係数を、物質伝達処理部133が物質伝達率を、ファン・ポンプ特性処理部134がファンやポンプの流量の関数としての圧力上昇を、材料物性処理部135が材料の熱伝導率、流体の比熱、粘性係数などの材料物性を、その他のパラメータ処理部136が液膜表面積など計算において変化させるパラメータを計算する。そして、必要なら計算結果を記憶する。
【0025】
データベース処理装置105は、熱伝達率、管路抵抗係数、物質伝達率、ファン・ポンプ特性、材料物性値のデータが設定されたデータベースを有する。データベース処理装置105における処理部が計算によってそれらを求める構成とすることもできる。その場合には、データベースがなくてもよい。あるいは、データベースと各処理部とを併用することもできる。
図に示すように、この場合には、データベース処理装置105は、熱伝達率の算出または熱伝達率データベースのアクセスを行う熱伝達率処理部131、管路抵抗係数の算出または管路抵抗係数データベースのアクセスを行う管路抵抗係数処理部132、物質伝達率の算出または物質伝達率データベースのアクセスを行う物質伝達率処理部133、ファン・ポンプ特性データベースのアクセスを行う特性処理部134、材料物性データベースのアクセスを行う材料物性処理部135、その他のパラメータ処理部136を有する。
【0026】
入力データ処理装置101は、図4に示すように、計算の種類や回路網の選択および入力データ処理部142に対する必要データの供給を行う計算制御条件処理部141と、回路網生成装置102、データベース処理装置105および関数式・表計算処理装置106にデータを供給する入力データ処理部142と、自動図面作成装置(CAD)や外部のCAEシステムに搭載された図形処理装置などの外部図形処理装置143に接続された形状データ処理部144と、形状データ処理部144が作成した形状データ記憶部145と、エリア分割処理およびノード設定処理を行う回路網データ処理部146とを有する。
【0027】
図5は計算結果表示処理装置104の構成を詳細に示すブロック図である。図に示すように、計算結果表示処理装置104は、計算結果処理部153と、計算結果表示処理部158とを有する。計算結果処理部153は、温度、圧力、電圧、水分などの濃度、加熱量、熱容量、流体重量、電気容量、物質重量などのスカラ値を表示できるようにするためのスカラ処理部151と、熱流、風量、風速、電流、物質移動量(例えば、水分移動量)などのベクトル値、および、熱抵抗、管路抵抗、電気抵抗、物質移動抵抗(例えば、水分移動抵抗)などのノード間に設定される値を表示できるようにするためのベクトル処理部152とを有する。なお、以下、熱抵抗等のノード間に設定される値もベクトル値に含めて扱う。計算結果表示処理部158は、スカラ値やベクトル値の時間変化や繰り返し回数による変化を表示するための変化表示処理部154と、空間分布を表示するための空間分布表示処理部155と、等高線表示をするための等高線表示処理部156と、ベクトル矢印線を表示するためのベクトル線表示処理部157とを有する。
【0028】
次に動作について説明する。
ここでは、図6に示す例を対象に各部の温度と流量分布を求める場合について説明する。図6に示す例は、直方体の金属板21の両端22、23間に電源24により一定の電圧Vがかけられるものである。金属板21には、I=V/Re で表される電流Iが通電し、Q=Re I2 のジュール熱が発熱する。また、ダクト25の内部をファン26により駆動されて流動する空気27が加熱され、かつ、液膜161の蒸発により加湿される。このとき、金属板21の電気伝導度が温度によって変化するので、金属板21の電気抵抗28(Re )が変化する。よって、金属板21を流れる電流Iも変化する。その結果、Re I2 で表される金属板21のジュール発熱量が変化する。また、加湿量も変化する。その結果、空気27の温度および湿度も変化する。
【0029】
入力装置1はデータの入力や処理コマンドの入力を行い、表示装置2は入力データの表示や処理結果の表示を行うことは従来例と同様である。図4に示すような入力データ処理装置101において、形状データ処理部144は、図6に示す機器形状を直線や円、円弧などの図形データとして取り込む。そして、形状データ記憶部145に図形データを記憶したり、形状データ記憶部145の内容の更新を行ったりする。ここで、形状データ記憶部145に記憶されている形状データは、2次元あるいは3次元空間上の座標を示すデータで構成されている。図4に示すように、他の一般的な3次元CADシステムなどの外部図形処理装置143から形状データを取り込むこともできる。
【0030】
回路網データ処理部146は、形状データ記憶部145内の形状データを、図7に示すように、小エリア171に分割する。さらに、分割線172同士の交点や物体の表面と分割線172との交点にノード173を生成し、ノード座標データを記憶しておく。ここでは、図7に示すように、固体の表面および液面にもノードが設定される。このとき、システム利用者が入力装置1から三角形状のエリアを作成するようにコマンドを入力した場合には、回路網データ処理部146は、四角形に対角線を引く等の方法によって、図7に示すように三角形状のエリアを生成する。曲線や曲面が存在していた場合に、システム利用者の指令があれば、外径線に沿った形にエリア分割する。また、回路網データ処理部146が物体の表面にもノードを発生するので、表面の温度などの表面の状況が、従来例に比べてより正確に求められる。
【0031】
システム利用者が最大ノード数を指定した場合には、回路網データ処理部146は、その数に従ってノードを設定する。例えば、三角形状のエリア生成を止めたりする。
【0032】
その後、入力データ処理装置101の計算制御条件処理部141は、計算制御条件の設定を行う。計算制御条件は、入力装置1を介したシステム利用者からの指令にもとづいて設定される。計算制御条件には、定常計算をするのか過渡計算をするのかの計算の種類の選択、計算に用いる回路網として、熱回路網、流体回路網、電気回路網、物質移動回路網のうちいずれの回路網を使用するのかの選択、入力データ処理部142が回路網生成装置102に与える必要データがある。
【0033】
また、システム利用者は、計算制御条件処理部141からの計算制御条件に応じて、計算における時間条件としての計算のスタート時間、終了時間、時間刻み幅、また初期条件(過渡計算の場合)あるいは仮定条件(定常計算の場合)としての温度、圧力、電圧、濃度、加熱量、風量、風速、電流、物質移動量(水分移動量)、境界条件としての温度、圧力、電圧、濃度、加熱量、風量、風速、電流、物質移動量、回路条件としての熱抵抗、管路抵抗、電気抵抗、物質(水分)移動抵抗、熱容量、流体重量、電気容量、物質量を計算するためのデータを入力する。それらのデータおよび回路網データ処理部146からのデータは、計算制御条件処理部141を介して入力データ処理部142に入力される。入力装置1からの各データおよび回路網データ処理部146からのデータは、さらに、回路網生成装置102に送られる。
【0034】
システム利用者は、今行おうとする回路網計算に適したデータをデータベース処理装置105内のデータベースに追加することもできる。また、データベースを修正することもできる。その場合には、熱伝達率、管路抵抗係数、物質伝達率、ファン・ポンプ特性、材料物性値、液膜の表面積など計算において変化させるパラメータなどを入力装置1に入力する。それらのデータは、入力データ処理部142を介してデータベース処理装置105に入力される。データベース処理装置105において、各処理部は、担当するデータベースを更新する。
【0035】
また、システム利用者は、今行おうとする回路網計算に適した関数式や表を追加することもできる。また、関数式や表を修正することもできる。その場合には、新たなまたは追加の関数式や表を入力装置1に入力する。それらのデータは、入力データ処理部142を介して関数式・表計算処理装置106に入力される。関数式・表計算処理装置106は、入力に応じて関数式や表を更新する。
システム利用者は、収束判定条件や計算結果の出力条件としての出力回数なども入力できる。それらのデータは、計算制御条件処理部141を介して入力データ処理部142に入力される。
【0036】
回路網生成装置102において、図2に示す熱回路網生成部111が熱回路網を、流体回路網生成部112が流体回路網を、電気回路網生成部113が電気回路網を、そして、物質移動回路網生成部114が物質移動回路網を生成する。
【0037】
まず、熱回路網の生成の仕方を説明する。熱回路網生成部111には、回路網データ処理部146が作成したデータが供給されている。熱回路網生成部111は、回路網データ処理部146によって設定された各ノードを図8に示すように固体温度ノード181、表面温度ノード183または流体温度ノード184と定義する。さらに、熱回路網生成部111は、図8に示すように、小エリア分割線で結ばれている固体温度ノード181間を熱伝導による熱抵抗182で接続するとともに、抵抗値を算出する。すなわち、接続ノード間の距離、ノード間の平均熱流断面積およびデータベース処理装置105内の材料物性処理部135から供給される固体の熱伝導率から熱伝導による熱抵抗値を算出する。材料物性処理部135は、熱回路網生成部111の要求に応じて、関数式・表計算処理装置106に記憶された関数式あるいは表を用いて固体の熱伝導率を算出しそれを供給する。
【0038】
次いで、熱回路網生成部111は、表面温度ノード183と流体温度ノード184との間の熱伝達による熱抵抗185の抵抗値を計算する。その際、熱回路網生成部111は、データベース処理装置105の熱伝達率処理部131から供給される熱伝達率と物体や液膜表面に生成された表面温度ノード183の表面積とを用いて熱抵抗185の抵抗値を計算する。熱伝達率処理部131は、熱回路網生成部111の要求に応じて、図9に示す流体圧力ノード191間の流速、データベース処理装置105の材料物性処理部135からの流体の熱伝導率、および、密度、比熱、粘性係数などのデータベース処理装置105に記憶されている材料物性データをもとに、関数式・表計算処理装置106内の関数式や表を利用して熱伝達率を計算する。
【0039】
熱回路網生成部111は、同様に、流体圧力ノード191間の流量およびデータベース処理装置105に記憶されている材料物性データをもとに、流体中の温度ノード184間の流体の流れによる熱抵抗186の値を算出する。このとき、流体圧力ノード191間の流量と流速とは、定常計算の場合は仮定値、過渡計算の場合は初期値で与えられる。または、後述する流体回路網演算処理部116の計算結果で与えられる。また、過渡計算の場合は、固体温度ノード181、流体温度ノード184、表面温度ノード183それぞれが代表する領域の熱容量187が計算される。
【0040】
次に、流体回路網の生成の仕方を説明する。流体回路網生成部112は、図9に示すように、回路網データ処理部146によって設定された各ノードのうち、ダクト25内のノードを流体圧力ノード191とする。流体回路網生成部112は、流体中の圧力ノード191間の管路抵抗192の値を次のように計算する。すなわち、管路抵抗のうち、摩擦損失による抵抗は、接続されている2つの圧力ノード191間の距離、接している面の断面積、データベース処理装置105の材料物性データをもとに計算される。また、断面積の変化などによる局所圧損抵抗は、隣合う2つの小エリアの断面積の変化などから、管路抵抗係数処理部132からの管路圧損データを参照して計算される。管路抵抗係数処理部132には、あらかじめ実験等により導出されあらかじめ設定されている数値やシステム利用者が入力データ処理装置101から入力した数値による、断面変化率と圧損係数との関係を示すテーブルや管路開口率と圧損係数との関係を示すテーブルなどがデータベースとして記憶されている。流体回路網生成部112は、データベース内のデータおよび関数式・表計算処理装置106内の関数式あるいは表計算法を用いて管路抵抗192を算出する。
【0041】
また、流体回路網生成部112は、ファンの部分について、データベース処理装置105のファン・ポンプ特性処理部134に記憶された流量の関数としての圧力上昇特性データベースを用いて、流体の駆動力としての圧力上昇を計算する。そして、流体回路網に圧力上昇を表わす電池193を設定する。
【0042】
次に、電気回路網の生成の仕方を説明する。電気回路網生成部113は、図10に示すように、回路網データ処理部146によって設定された各ノードのうち、金属板21および液膜161中の小エリア分割線で結ばれているノードを固体電圧ノード201とする。電気回路網生成部113は、固体電圧ノード201間を電気抵抗202で接続する。そして、2つの固体電圧ノード201間の電気抵抗値を算出する。電気抵抗値は接続ノード間の距離、ノード間の平均断面積および固体の電気伝導率から算出される。ここで、材料物性処理部135は、データベース処理装置105中の材料物性データと関数式・表計算処理装置106内の関数式あるいは表計算法を用いて電気伝導率を求め、それを電気回路網生成部113に供給する。なお、図10には、液膜の電気抵抗203も計算された例が示されている。
【0043】
次に、物質移動回路網の生成の仕方を説明する。物質移動回路網生成部114は、図11に示すように、回路網データ処理部146によって設定された各ノードのうち流体中に設定されたものを、流体中の水分の濃度を表す濃度ノード211と定義する。また、液表面に設定された各ノードを液表面における濃度ノード212と定義する。そして、濃度ノード211と濃度212の間に物質伝達に伴う物質移動抵抗213を、また、流体中の2つの濃度ノード211間に流れにともなう物質移動による物質移動抵抗214を設定する。物質移動回路網生成部114は、仮定値(定常計算の場合)あるいは初期値(過渡計算の場合)を用いて物質移動抵抗213,214を算出する。または、後述する流体回路網演算処理部116の計算結果である流体圧力ノード191間の流量および流速、ならびにデータベース処理装置105の物質伝達率処理部133からの物質伝達率データおよび液体表面濃度ノード212が代表する表面積をもとに物質移動抵抗214を計算する。過渡計算の場合は、流体の濃度ノード211、液表面の濃度ノード212それぞれが代表する領域の水分量などの物質量215が計算される。
【0044】
ここで、例えば、液膜161の表面積が時間とともに変化する場合、図11に示した物質移動回路中の物質伝達に伴う物質移動抵抗213が変化する。この場合、物質移動回路網生成部114が物質伝達に伴う物質移動抵抗213を計算する際に、データベース処理装置105中のその他のパラメータ処理部136からそれを考慮した液膜の表面積を出力させればよい。その他のパラメータ処理部136は、関数式・表計算処理装置106に記憶された関数式あるいは表により時間の関数として液膜の表面積を計算する。
回路網生成装置で計算されたすべての情報は計算結果表示処理装置104に伝達され表示される。
【0045】
また、回路網生成装置102の処理が終了した後、計算された回路網の情報は演算処理装置103に伝達される。演算処理装置103において、演算処理部122の過渡計算処理部121は、温度、圧力、電圧、濃度の時間変化を表わす過渡計算を、熱回路網演算処理部115、流体回路網演算処理部116、電気回路網演算処理部117または物質移動回路網演算処理部118に実行させる。定常計算処理部120は、温度、圧力、電圧、濃度の時間的に一定の定常状態での値を求める計算を、熱回路網演算処理部115、流体回路網演算処理部116、電気回路網演算処理部117または物質移動回路網演算処理部118に実行させる。
【0046】
過渡計算および定常計算のいずれの場合も、回路網演算部119の熱回路網演算処理部115は、熱回路網中の温度ノード181,183,184に対する熱エネルギ保存の式を表わす連立方程式を解き、各ノードの温度、各ノード間の熱流を算出する。流体回路網演算処理部116は、流体回路網中の圧力ノード191に対する質量保存の式を表わす連立方程式を解き、各ノードの圧力および各ノード間の流体流量を算出する。電気回路網演算処理部117は、電気回路網中の電圧ノード201に対する電気エネルギ保存の式を表わす連立方程式を解き、各ノードの電圧および各ノード間の電流を算出する。物質移動回路網演算処理部118は、物質回路網中の濃度ノード211,212に対する質量保存の式を表わす連立方程式を解き、各ノードの濃度および各ノード間の物質移動量を計算する。
【0047】
このとき、図8に示す熱回路網中の熱抵抗182,185,186、図9に示す流体回路網中の管路抵抗192、ファンやポンプによる圧力上昇を表わす電池193、図10に示す電気回路網中の電気抵抗202,203、図11に示す物質移動回路網中の物質移動抵抗213,214は、温度、圧力、電圧、濃度、熱流、流体流量、電流、物質移動量などの変化に応じて変化する。
図12に示すように、回路網生成装置102は、過渡計算を行う場合には、入力された初期値を用いて回路網生成装置102の各抵抗の計算を行う(ステップST13)。過渡計算を行う場合には、温度、圧力、電圧、濃度、熱流、流体流量、電流、物質移動量の初期値が入力されている(ステップST11,ST12)。回路網生成装置102における具体的な計算過程は、既に説明したとおりである。次いで、演算処理装置103中の回路網演算部119におけるそれぞれの回路網演算処理部115,116,117,118は、既に説明したような計算を行う(ステップST14)。次に、時間を1ステップ分増加させる(ステップST15)。
【0048】
時間が所定の最終時間に達していない場合には、回路網生成装置102は、1ステップ前の時間の計算値を用いて各抵抗の計算を行い、回路網演算処理部115、116、117、118は既に説明したような計算を行う(ステップST16,ST13,ST14)。時間が最終時間に達したら、計算結果表示処理装置104の処理に移行する。
【0049】
定常計算においては、温度、圧力、電圧、濃度、熱流、流体流量、電流、物質移動量の仮定値が入力されている。(ステップST11,ST12)。回路網生成装置102は、仮定された値を使用して各抵抗の計算を行う(ステップST13)。演算処理装置103中の回路網演算部119におけるそれぞれの回路網演算処理部115,116,117,118は、既に説明したような計算を行う(ステップST18)。具体的な計算過程は、既に説明したとおりである。定常計算処理部120は、計算された結果と仮定値との比較を行う(ステップST19)。その差が所定の収束判定条件と合っていなければ、温度、圧力、電圧、濃度、熱流、流体流量、電流、物質移動量の計算値を用いて仮定しなおす(ステップST20)。回路網生成装置102は各抵抗の計算を行い、回路網演算処理部115,116,117,118は既に説明したような計算を行う(ステップST13,ST18)。定常計算処理部120は、計算された結果と仮定値との比較を再び行う(ステップST19)。その差が所定の収束判定条件と合って段階で、計算結果表示処理装置104の処理へ移行する。すなわち、収束計算された温度、圧力、電圧、濃度、熱流、流体流量、電流、物質移動量は、計算結果表示処理装置104に送られる。
【0050】
計算結果表示処理装置104は、以下のような処理が行われる。すなわち、計算結果表示処理装置104中の計算結果処理部153のスカラ処理部151およびベクトル処理部152には、回路網生成装置102から加熱量、熱容量、流体重量、物質量などのスカラ値、熱抵抗、電気抵抗、管路抵抗、物質移動抵抗などのベクトル値が送られ、また演算処理装置103からは温度、圧力、電圧、濃度などのスカラ値、熱流、流体流量、電流、物質移動量などのベクトル値が送られる。計算結果表示処理装置104は、それらのデータを記憶する。
【0051】
計算結果表示処理部158における変化表示処理部154は、計算結果処理部153のスカラー処理部151に記憶されたスカラ値およびベクトル処理部152に記憶されたベクトル値の時間変化あるいは計算の繰返しによる変化を表示装置2に表示する。空間分布表示処理部155は、スカラ値あるいはベクトル値の空間変化を表示装置2に表示する。等高線表示処理部156は、入力データ処理装置101の形状データ記憶部145から送られた形状データ上にスカラ値を等高線の形で表示する。そして、ベクトル線表示処理部157は、入力データ処理装置101の形状データ記憶部145から送られた形状データ上にベクトル値を矢印の大小の形で表示する。もちろん等高線とベクトル線が同時に表示されることも可能である。
これらの表示は表示装置2を用いて行なわれるが、外部図形処理装置143にも送られ、外部図形処理装置143上に表示することも可能である。
以上のようにして、計算結果の表示が行なわれる。
なお、熱抵抗として放射熱伝達がある場合についても、熱伝導による熱抵抗と同様に扱える。
【0052】
ここでは、熱、流体、電気、物質移動の全ての回路網を使用する場合について説明したが、熱回路網だけを使用することもできる。回路網についての演算を選択的に行える。熱回路網だけを使用すればよい場合には、入力データ処理装置101における計算制御条件処理部141が熱回路網のみを選択する。そして、計算制御条件処理部141は、回路網生成装置102に対して熱回路網のみの生成を指示する。その指示に応じて、回路網生成装置102および演算処理装置103は、熱回路網を用いた処理のみを実行する。その場合には、他の回路網の計算をする経路を通らないため効率的な計算が行われる。同様に、流体回路網についての処理のみを行うこともできる。
【0053】
また、電気回路網および物質移動回路網についての処理を選択的に追加することもできる。例えば、計算制御条件処理部141は、入力装置1からの指示に応じて、熱、流体、電気の回路網を選択する。そして、計算制御条件処理部141は、回路網生成装置102に対して熱回路網、流体回路網および電気回路網の生成を指示する。その指示に応じて、回路網生成装置102は、熱回路網、流体回路網および電気回路網を生成する。また、演算処理装置において、熱回路網演算処理部115、流体回路網演算処理部116および電気回路網演算処理部117のみが起動される。同様に、計算制御条件処理部141が、熱、流体、物質移動の回路網を選択した場合には、回路網生成装置102は、熱回路網、流体回路網および物質移動回路網を生成する。そして、演算処理装置において、熱回路網演算処理部115、流体回路網演算処理部116および物質移動回路網演算処理部118のみが起動される。さらに、電気回路網または物質移動回路網のみについての処理を選択することもできる。
【0054】
以上の説明においては、演算処理装置103の定常計算および過渡計算における回路網演算において、すでにシステムに内蔵されている計算手法を使用する場合について述べた。しかし、計算法として、回路網の特性に合った手法を用いると計算時間の短縮や精度の向上がはかれる。図13はそのためのシステムの一構成例を示したものである。図13において、231は演算手法選択・処理装置であり、図14に示すように、オイラー陽解法計算処理部241、オイラー陰解法計算処理部242、ルンゲクッタ法計算処理部243、セミインプリシット−ルンゲクッタ法計算処理部244、および外部入力による計算手法処理部245から構成されている。システムにおけるその他の装置は図1に示すものと同様のものである。
【0055】
オイラー陽解法、オイラー陰解法、ルンゲクッタ法、セミインプリシット−ルンゲクッタ法は、それぞれ、回路網の時間変化計算を行なう数値積分の手法である。オイラー陽解法、オイラー陰解法、ルンゲクッタ法、セミインプリシット−ルンゲクッタ法の順で計算精度はよいが、その順で図12に示した1回の時間ステップに要する時間が長くかかるという特性を持っている。
【0056】
回路網中の熱抵抗などの抵抗Rと熱容量などの容量Cとの積RCはその系の時間変化の速さを表わす時定数τとなる。回路網中の抵抗Rと、抵抗Rに接続された各ノードが持つ容量Cとの積のそれぞれのうち、最小のものを最小時定数τmin と考える。すると、オイラー陽解法およびルンゲクッタ法では、計算の際の時間ステップ幅Δtと最小時定数τmin の比Δt/τmin が0.5より大きいと、計算が発散して正確な解が得られないという特性をもつ。すなわち、オイラー陽解法やルンゲクッタ法は計算速度は速いものの、最小時定数τmin が小さい回路網を解く場合には時間ステップ幅Δtを小さくする必要がある。よって、(計算の最終時間−初期時間)/(時間ステップ幅Δt)で与えられる計算のステップ数(くり返し回数)が多くなるという特性を持っている。また、逆にオイラー陰解法やセミインプリシット−ルンゲクッタ法は、1ステップの計算に要する時間はかかるものの、時間ステップ幅Δtを大きくとっても、解は発散せず安定な解が得られるという特性をもっている。
【0057】
図13,図14に示すように、演算手法選択・処理装置231は入力データ処理装置101および演算処理装置103に接続されている。入力データ処理装置において、システム利用者の指令により例えばルンゲクッタ法を使用して計算するよう指定された場合は、演算処理装置103の演算に代えて、演算手法選択・処理装置231中のルンゲクッタ法計算処理部243内の計算法による計算が行なわれる。そして、その結果が演算処理装置103に渡される。
【0058】
また、入力データ処理装置101に新たな計算手法が入力された場合には、演算手法選択・処理装置231中の外部入力による計算手法処理部245にその計算方法が記憶される。そして、その計算方法による計算が指令されると、演算手法選択・処理装置231中の外部入力による計算手法処理部245で計算が行なわれ、その結果が演算処理装置103に渡される。
【0059】
入力データ処理装置101において、どの計算手法を使用するか指定されず、最大ステップ数Nmax が指定された場合等には、演算処理装置103が自動的に計算方法を決定する。最大ステップ数Nmax が指定された場合、演算処理装置103は、計算の時間ステップ幅Δtを(計算の最終時間−初期時間)/(Nmax )の式から計算する。計算された時間ステップ幅Δtと最小時定数τmin との比が0.5より小さい場合には、解は発散しないため、計算時間が短くてすむルンゲクッタ法を選択する。また、時間ステップ幅Δtと最小時定数τmin との比が0.5より大きい場合には、この条件で解が発散しないセミインプリシット−ルンゲクッタ法を選択する。このようにして、指定された最大ステップ数Nmax の範囲内で計算に要する時間が短くしかも精度のよい計算が可能となる。
【0060】
以上の説明においては、図4に示す入力データ処理装置101において、計算対象である機器の外形情報から回路網のモデルへの変換が、形状データ処理部144、形状データ記憶部145、および回路網データ処理部146での一連の処理により行われた。ここでは、システム利用者が独自に回路網モデルを図形的に入力することにより、より精度の高い計算が簡便に行われるようにした例を示す。
【0061】
図15および図16において、251は入力装置1、外部図形処理装置143、計算結果表示処理装置104および計算制御条件処理部141に接続された回路網図形処理装置である。回路網図形処理装置251は、基本モデル処理部261、要素モデル処理部262、回路網モデル処理部263および回路網図形上表示処理部264から構成されている。システムにおけるその他の装置は図1または図13に示す各装置と同様のものである。
【0062】
以下、回路網図形処理装置251における回路網作成の手順について説明する。回路網図形処理装置251は、外部図形処理装置143から図6に示すような計算対象である機器の形状を取り込む。あるいは入力装置1を介してシステム利用者から形状の入力を受ける。このとき、この入力図形から機器の寸法を読みとることはしない。よって、入力される機器形状は、必ずしも実際の機器と同じサイズもしくは相似的な形状である必要はなく、概略形状でよい。その後、例えば熱回路網演算を行うのであれば、回路網図形処理装置251の基本モデル処理部261は、図17に示すように、基本となるいくつかの抵抗を表わす基本モデルを作成する。例えば、図17(A),(B)は、熱伝導による熱抵抗182の基本モデル271の例を表わしている。図17(C)は、熱伝達による熱抵抗185の基本モデル272の例を表わしている。図17(D)は、流体間の流れによる熱抵抗186の基本モデル273を表わしている。また、図中、a,b,c,・・・などで表わされた基本モデルの寸法から熱抵抗182、185、186を計算するための計算式も入力される。
【0063】
次に、回路網図形処理装置251の要素モデル処理部262は、基本モデル271,272,273を組み合わせた要素モデルを作成する。例えば、図18(A)に示すような金属板21の要素モデル281、図18(B)に示すような液膜161の要素モデル282、図18(C)に示すようなダクト内空気27の要素モデル283を作成する。この要素モデルに対して、機器の各要素の寸法、例えば金属板21の長さA、厚みB、液膜161の長さC、厚みD、ダクト25の長さE、厚みFなどが入力され、基本モデルで指定された寸法a,b,c,・・・をこれらの機器の寸法から求める式も同時に入力される。
【0064】
さらに、回路網図形処理装置251の回路網モデル処理部263は、要素モデル281,282,283の組合せにより図8に示した熱回路網を作成する。以上のようにして回路網図形処理装置251が作成した回路網情報は、計算制御条件処理部141および入力データ処理部142を通して回路網生成装置102に供給される。回路網生成装置102は、その回路網情報を記憶する。
【0065】
その後、既に説明した手順で計算がなされる。ここでは、回路網生成装置102による熱抵抗計算において、回路網図形処理装置251が作成した熱抵抗計算式が使用される。そして、計算結果は、計算結果表示処理装置104から回路網図形処理装置251の回路網図形上表示処理部264に渡される。回路網図形上表示処理部264は、図19に示すような回路網図上に温度291や熱流292が記入されたものを表示する。以上のようにして、システム利用者が問題に適した回路網を自由に設定でき、また、その回路網上に計算結果が表示されるので、より精度のよい計算がなされ、また計算結果の評価も行い易いなどの利点が得られる。また、要素モデル281、282、283の指定寸法A、B、C・・・を変更するだけで形状の変更ができるので、形状を変更した場合の計算も簡便に行うことができる。
【0066】
なお、ここでは、熱回路網の場合を例にとって説明したが、流体回路網、電気回路網、物質移動回路網の場合も同様に行うことができる。
【0067】
実施の形態2.
実施の形態1では熱流体CAEシステムを用いて計算を行う場合について示したが、本CAEシステムにより、外部機器の温度や湿度、流体流量などを制御することも可能である。
【0068】
そのような制御を行う場合のシステム構成を図20および図21に示す。図20において、301は温度や湿度、流体流量などの制御を必要としている外部機器である。外部機器301は、熱流体CAEシステムにおける入力処理データ処理装置101および計算結果表示処理装置104に接続されている。図21に示すように、計算結果表示処理装置104には、本CAEシステムの計算結果を用いて外部機器の制御するための制御式を記憶しかつ計算する外部機器制御処理部311が設けられている。外部機器制御処理部311は、入力データ処理装置101および外部機器301に接続されている。なお、図20および図21には明示されていないが、演算手法選択・処理装置231や回路網図形処理装置251を設けることもできる。
【0069】
例えば、制御を必要としている外部機器301として、図6に示した機器を例にとる。そして、ファン26から排出された空気27の温度を制御する場合を例にとって説明する。まず、入力データ処理装置101を通して、計算結果表示処理装置104の外部機器制御処理部311に、外部機器の温度を本CAEシステムでの計算値を用いて所定の値に制御するための制御式が入力される。外部機器制御処理部311は、その制御式を記憶する。
【0070】
外部機器301の温度をモニタしている熱電対、湿度をモニタしている湿度センサ、風量をモニタしている風量計および電源の電圧をモニタしている電圧計からの信号が、境界条件として、入力データ処理装置101に伝えられる。これらの境界条件を使用して、実施の形態1に示したように、熱回路網、流体回路網、電気回路網、物質移動回路網を用いた計算が実行される。計算によって、1ステップΔt後の時間の温度および湿度の値が予測されることになる。
【0071】
演算処理装置103は、演算結果すなわち予測結果を計算結果表示処理装置104に伝える。計算結果表示処理装置104は、結果を表示装置2に表示するとともに、外部機器制御処理部311に伝える。外部機器制御処理部311は、前もって入力し記憶していた外部機器の温度を制御するための制御式を用いて、例えば、外部機器301の電圧をどのように制御するかを計算する。外部機器制御処理部311は、計算結果に従って外部機器301の電圧を制御する。電圧制御によって温度が制御される。以上のようにして、外部機器301の温度を予測しながら制御することが可能となるので、精度のよい制御が可能となる。
なお、ここでは、外部機器301の温度を制御する場合について示したが、同様にして、外部機器301内の圧力、風量、湿度などを制御することもできる。
【0072】
実施の形態3.
実施の形態1では回路網法を用いた熱流体CAEシステムで計算を行う場合について示したが、回路網法以外の手法を使用した熱流体CAEシステムと併用することもできる。その場合には、それぞれの特徴を生かしたより精度の高い熱流体CAEシステムが得られる。そのように構成したシステムを図22に示す。図22において、321は、例えば、有限要素法、差分法、有限体積法などを使用して、流体の質量保存、エネルギ保存を表す方程式および運動量保存を表すナビエ−ストークス方程式を解く熱流体数値解析装置である。熱流体数値解析装置321は、入力データ処理装置101、演算処理部103および計算結果表示処理装置104と接続されている。なお、図22には明示されていないが、演算手法選択・処理装置231や回路網図形処理装置251を設けることもできる。
【0073】
例えば、図23に示すように、ダクト25中に置かれた物体331の周りに生じる渦332などの流体の微小部分の温度や流れの状況を計算する場合について説明する。以下、このように流体の微小部分の温度や流れの状況を計算することを、熱流体数値解析を行うという。図24に示すように、入力データ処理装置101の回路網演算処理部146で機器全体が小エリアに分割される。ただし、熱流体数値解析装置321による処理が選択された場合には、物体331の周囲部で渦332などの流体の微小部分の流れの状況を計算する部分、すなわち熱流体数値解析を行うエリア341を、例えば有限体積法などに適するように、回路網法の部分に比べて、細かく細分化する。そして、エリア情報が熱流体数値解析装置321に送られる。
【0074】
その後、図25に示すように、過渡計算を行う場合は、まず、入力された初期値を用いて、回路網生成装置102が生成した回路網における各抵抗の計算を行う(ステップST31,ST32,ST33)。具体的な計算過程は、既に説明したとおりである。続いて、演算処理装置103中の回路網演算部119におけるそれぞれの回路網演算処理部115,116,117,118は、既に説明したような計算を行う(ステップST34)。計算結果は熱流体数値解析装置321に伝達される。
【0075】
熱流体数値解析装置321は、回路網演算による計算結果、例えばファン26により駆動されて流入する風量を境界条件として、物体331周囲の流体中の微細な流れを計算する(ステップST35)。次に時間を1ステップ分増加させる(ステップST36)。時間が所定の最終時間に達していない場合には、回路網生成装置102が1ステップ前の時間の計算値を用いて各抵抗の計算を行い(ステップST33)、回路網演算部119が演算処理を行う(ステップST34)。そして、熱流体数値解析装置321が流体中の微細な流れを計算する(ステップST35)。時間が最終時間に達すると、計算結果表示処理装置104の処理に移行する。
【0076】
以上のようにして、物体331周囲の流れが、回路網についての計算の結果得られる熱、流体、電気、物質移動による変化を考慮して計算され、かつ全体の流量と同時に物体回りの微小な流れの状況が同時に計算される。よって、より精度がよく効率的な計算が可能になる。
【0077】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、機器の形状データから回路網図を作成し、その回路網図を用いて回路網に関する情報を作成するとともに、その回路網の抵抗値を計算する際に使用する抵抗計算式と機器の寸法の入力を受け付けて、その回路網に関する情報、その抵抗計算式及び機器の寸法を回路網生成装置に供給するように構成しているので、システム利用者が問題に適した回路網を自由に設定でき、精度のよい計算ができるものが得られる効果がある。また、形状の変更も簡便に行うことができる効果がある。
【0078】
この発明によれば、熱流体CAEシステムが、回路網図上に演算結果を表示する構成になっているので、演算結果の評価が行い易いものが得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1による熱流体CAEシステムの構成を示すシステム構成図である。
【図2】 回路網生成装置および演算処理装置の詳細構成を示す構成図である。
【図3】 データベース処理装置の詳細構成を示す構成図である。
【図4】 入力データ処理装置の詳細構成を示す構成図である。
【図5】 計算結果表示処理装置の詳細構成を示す構成図である。
【図6】 CAEの対象機器の一例を示す説明図である。
【図7】 対象機器のエリア分割を説明するための説明図である。
【図8】 熱回路網の一例を示す説明図である。
【図9】 流体回路網の一例を示す説明図である。
【図10】 電気回路網の一例を示す説明図である。
【図11】 物質移動回路網の一例を示す説明図である。
【図12】 この発明の実施の形態1による熱流体CAEシステムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】 この発明の実施の形態1による熱流体CAEシステムの構成を示すシステム構成図である。
【図14】 計算手法選択処理装置の詳細構成を示す構成図である。
【図15】 この発明の実施の形態1における入力データ処理装置の詳細構成を示す構成図である。
【図16】 この発明の実施の形態1における回路網図形処理装置の詳細構成を示す構成図である。
【図17】 この発明の実施の形態1における基本モデルを説明するための説明図である。
【図18】 この発明の実施の形態1における要素モデルを説明するための説明図である。
【図19】 この発明の実施の形態1による熱流体CAEシステムにおける表示例を示す説明図である。
【図20】 この発明の実施の形態2による熱流体CAEシステムの構成を示すシステム構成図である。
【図21】 この発明の実施の形態2における計算結果表示処理装置の詳細構成を示す構成図である。
【図22】 この発明の実施の形態3による熱流体CAEシステムの構成を示すシステム構成図である。
【図23】 この発明の実施の形態3における演算を説明するための説明図である。
【図24】 この発明の実施の形態3におけるエリア分割を説明するための説明図である。
【図25】 この発明の実施の形態3による熱流体CAEシステムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図26】 従来の熱流体CAEシステムの構成を示すシステム構成図である。
【図27】 従来の熱流体CAEシステムによる演算を説明するための説明図である。
【図28】 従来の熱流体CAEシステムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図29】 従来の熱流体CAEシステムにおける対象機器の小エリア分割を説明するための説明図である。
【図30】 従来の熱流体CAEシステムによる流体回路網の一例を示す説明図である。
【図31】 従来の熱流体CAEシステムによる熱回路網の一例を示す説明図である。
【図32】 従来の熱流体CAEシステムによる表示例を示す等温線図である。
【符号の説明】
101 入力データ処理装置、102 回路網生成装置、103 演算処理装置、104 計算結果表示処理装置、105 データベース処理装置、106 関数式・表計算処理装置、141 計算制御条件処理部、231 演算手法選択・処理装置、251 回路網図形処理装置、264 回路網図形上表示処理部、311 外部機器制御処理部、321 熱流体数値解析装置。
Claims (2)
- 熱流体解析の対象となる機器の形状データの入力を受け付けて、その機器の形状データをエリア分割してノードを生成するとともに、その熱流体解析の計算制御条件の設定を受け付ける入力データ処理装置と、前記入力データ処理装置により受け付けられた計算制御条件および前記ノードに応じて、前記機器に対する回路網を生成する回路網生成装置と、前記回路網生成装置により生成された回路網を対象に物理量を演算する演算処理装置と、前記演算処理装置の演算結果を表示する処理を行う計算結果表示処理装置とを備えた熱流体CAEシステムにおいて、前記入力データ処理装置は、前記機器の形状データから回路網図を作成し、その回路網図を用いて回路網に関する情報を作成するとともに、その回路網の抵抗値を計算する際に使用する抵抗計算式と前記機器の寸法の入力を受け付けて、その回路網に関する情報、前記抵抗計算式及び前記機器の寸法を回路網生成装置に供給する回路網図形処理装置を備え、前記回路網生成装置は、前記回路網図形処理装置から供給された回路網に関する情報、抵抗計算式及び機器の寸法から抵抗値を計算し、その回路網に関する情報と前記抵抗値から回路網を生成することを特徴とする熱流体CAEシステム。
- 回路網図形処理装置が作成した回路網図上に演算結果を表示する回路網図形上表示処理部を備えたことを特徴とする請求項1記載の熱流体CAEシステム。
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