JP3774764B2 - 有人飛行船 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、人間が乗って飛行する簡単な構造の小形の飛行船に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
空中を移動する手段としては、飛行機やヘリコプタ等のHTA(Heavier−Than−Air)航空機とよばれるエンジン等の推進手段を利用して移動と浮上を行うものや、飛行船等のLTA(Lighter−Than−Air)とよばれる、例えばヘリウム等の空気より軽い浮揚ガスを利用して浮上するものがある。
上記HTA航空機のうち、飛行機は、常に失速や飛行姿勢の適正な維持に注意するという高度な操縦技術が必要であるだけでなく、浮上のために長大な滑走路を必要とし、また、ヘリコプタは大形の回転翼を回転させて浮上するが、その回転翼の回転時に大きな騒音や振動が発生するため、いずれも自動車のような手軽な個人用あるいは自家用の移動手段としては問題を有する場合も多く、特に大都市での使用は不適な場合がある。さらに、上記HTA航空機は、推進手段によって浮力(揚力)と推進力とを生み出しているため、この推進手段が停止した場合には墜落に直結する危険性を常に有している。
一方、上記LTA航空機は、浮上のための滑走路を必要としないため、離着陸に関しては飛行機ほど場所的に制約されることがなく、また、浮上のために推進手段を特に必要としないため騒音や振動も生じない。さらに、基本的に浮力の発生と推進力の発生はそれぞれ独立した物理要因によって行われるので、この点においては、上記HTA航空機に比べて安全性が高いという利点を有している。
【0003】
上記LTA航空機としての有人の飛行船は、通常、浮揚ガスが充填される気嚢により形成される飛行船本体の下部に、搭乗者を乗せるためのゴンドラが設けられている。しかしながら、飛行船全体としては非常に大形で、全体としての構造も複雑であり、運動性能も鈍重であるため、個人用あるいは自家用としての利用には不適であった。
したがって、この点を解消し、個人用あるいは自家用として自動車感覚の移動手段として手軽に利用することできるようにすることができれば、自動車に代わる交通手段として、大都市の昨今の交通事情の改善に大きな効果をもたらすものと考えられる。
さらに、従来より、人間は空を自由に飛び回りたいという欲求が少なからずあり、HTA航空機が有する失速等の心配の無い飛行船を利用して、安全を確保した上で飛行船の運動性能を飛躍的に高めて自由な飛行とを実現すれば、娯楽的な意味においても、手軽にこの欲求を満たすことができると考えられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の技術的課題は、個人用にあるいは自家用の空中移動手段として手軽に利用することができ、また娯楽的な意味においても自由に且つ手軽に空中を飛行することができる有人飛行船を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明の有人飛行船は、浮揚ガスが封入され、該浮揚ガスの浮力によって浮揚する気嚢により形成された飛行船本体に、該飛行船本体の重心を通って上下に貫通しその上下に搭乗口として利用可能な大きさの外部に開放された開口を有する筒状空間を設け、上記筒状空間が、上記気嚢を構成する膜材によって気嚢内の浮揚ガスと仕切られ、該膜材によって仕切られた空間が上下方向に配設した複数の環状の保形部材によって保形されている筒状の空間であり、上記筒状空間内における上記飛行船本体の重心近傍に、操縦者を収容可能な操縦席を設け、上記気嚢を構成する膜材の全部または一部を、操縦席の操縦者が飛行船の外を視認可能な透明材で形成したことを特徴とするものである。
【0006】
上記構成を有する有人飛行船は、飛行船本体の内部に操縦席を設けて、従来の飛行船が備えているゴンドラの装備を排除して構造を簡略化したことにより、全体を可能な限り軽量化し且つコンパクト化することができ、これにより、個人用あるいは自家用の空中移動手段として手軽に利用することが可能である。
また、上記操縦席を飛行船本体の重心近傍に設けて、該飛行船本体の内部で操縦者が飛行制御をするようにしたことにより運動性能が高まり、飛行船と操縦者との一体感が増すため、飛行船による娯楽的な飛行感覚を得ることもできる。この場合、HTA航空機と異なり、失速や飛行姿勢等を気にすること無く飛行することができるため、安全を確保しながらもその飛行を楽しむことができる。
【0007】
本発明においては、上記保形部材が、上記筒状空間の操縦席付近では密に配設され、上記筒状空間の上下の開口付近では粗に配設されのが望ましい。
【0008】
また、本発明においては、上記有人飛行船が、上記操縦者の人力によって駆動するサイクロイダル・プロペラ等の推力方向可変の推進手段を備えているものとすることができる。ただし、動力による推進手設備を設けることもできる。
これにより、飛行船はより高度な運動性能を有することとなるため、操縦者が飛行船を自在に操縦することができ、結果として、飛行船との一体感が一層高まって自由な飛行感覚を気軽に楽しむことができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1乃至図4は、本発明の有人飛行船の一実施例を示すもので、この実施例の飛行船は、浮揚ガス(この実施例の場合、ヘリウム)が封入され、該浮揚ガスの浮力によって浮揚する気嚢により形成された飛行船本体1と、該飛行船本体1の内部におけるその飛行船本体1の重心近傍に設けられた、操縦者3を収容可能な操縦席2とを備えている。
【0010】
上記飛行船本体1は、全体として略回転楕円体状に成形されたもので、この飛行船本体1における気嚢を構成する膜材及び操縦席2の周囲の膜材の少なくとも一部は、操縦席2の操縦者3が飛行船の外を視認可能に透明材で形成されている。
また、上記飛行船本体1の後方には、尾翼安定板4が4枚設けられ、さらに、この飛行船本体1の重心から離れた該飛行船本体1の側方の前方寄りの部分には、人力で駆動する飛行船本体1の飛行制御手段も兼ねる一対の推進手段5,5が設けられている。
【0011】
上記飛行船本体1は、加圧した膜構造であり、補強のための固くて重い材料の使用は最小限度に抑えられている。
今、飛行船本体1内の内圧をΔpとすると、飛行船本体1の気嚢のフープ方向の張力Tは経線方向の張力の2倍となり、
T=Δp・r
で与えられる。ここで、rは飛行船本体1の半径である。したがってTMAXはrMAXの時に最大となるので、Δp=20(mmAq)=20(kgf/m)、rMAX=3(m)とすれば、TMAX=60(kgf/m)=0.6(kgf/cm)となる。
したがって、引張強度が3kgf/cmの膜材を使えば安全率は5となる。面密度40μmのナイロン・フィルムの破断強度はこの程度あるので、これと同等以上の膜材を使用すれば良い。
なお、膜材の接合部はテープ補強で接合強度の低下を補う。膜材の厚みを増すか目の荒い高強度繊維をラミネートすれば引張強度をさらに高め安全率を高めることができる。
【0012】
上記操縦席2は、飛行船本体1を上下に貫通し、且つ該飛行船本体1のほぼ中心に位置する重心を中心軸線が通る筒状空間となっていて、この操縦席2に搭乗している操縦者3が飛行船の上記推進手段5,5を駆動すると共に飛行制御、すなわち操縦を行うことができるようになっている。
この操縦席2は、搭乗する操縦者3が飛行船本体1の重心位置と浮心位置の双方に位置するようになっているのが望ましく、それにより操縦者3が飛行船の飛行姿勢を、上記推進手段5,5と操縦操作により自分の思う通りに自由に変えられ、宙返り等のアクロバット飛行も自在に行うことができる。
【0013】
上記操縦席2の空間は、図4に示すように、複数の円環状の保形部材6で保形されている。この操縦席2の空間の体積QPILは、空間の直径をDPILとすると、単純には、
PIL=π・(DPIL /4)・2b=π・DPIL ・b/2
であるが、前述の面積の場合と同様、飛行船本体1のガス圧により空間の曲面がその空間内に押し出されることになるため、この保形部材6で押し出された面を一定の径にまで押し返し、操縦席2全体として操縦者3の搭乗する適度なスペースを確保する必要がある。
【0014】
上記操縦席2の空間は、使用する保形部材6の数が多くなれば真の円筒状に近づいてくるが、保形部材6の数を可能な限り少なくして全体の重量を小さくするため、図4に示すように、操縦者3が位置する部分には、操縦者3のためのスペースをを確実に確保するために保形部材6を密に配置し、上下の開口付近は、下側の開口は操縦者3の搭乗口としての用を果たせばよく、上側は万一飛行船本体1から浮揚ガスが漏出した場合にそのガスが抜けるだけの空間があれば十分なので、全体として粗に配設する。
さらに、上記空間の軸線方向に上記保形部材6を所定の間隔で支持するため、骨材としてジュラルミン・パイプ等を用いることが望まれる。
【0015】
また、上記操縦席2の空間は、飛行船本体1の最大径に近い位置にあり、上記保形部材6で保形をしない限りは、上述のように、膜材が空間内に半円弧状に押し出される状態となる。
この空間の保形部材6が飛行船本体1に入り込み、隣接する保形部材6,6間の隙間にできるラッパ状の曲面部分が形成されるが、操縦者3とその座席や推進のための駆動機構の重量をまとめて、WCKPT=130(kgf)とすると、重力に打ち勝って円環を吊り下げる張力は膜材の強度を上回る可能性が大であるため、円筒状の側面にあるすべての保形部材6をケーブルで気嚢に多数懸架支持することが必要になる。
【0016】
上記尾翼安定板4は、単なる固定式のものであって、可動の制御翼の部分はない。また、この安定板4は、上記飛行船本体1と同様に、すべて加圧膜構造であり、飛行船全体の軽量化に資すると同時に、他の物体との接触した場合の安全性を考慮した点で有利である。
【0017】
この実施例では、飛行船本体1を推進させるための上記推進手段5,5として、図5及び図6に示すような、人力駆動のサイクロイダル・プロペラが適しているが、これに代えてベクタード・ダクテド・ファン(図示省略)を適用することができる。
上記ベクタード・ダクテド・ファンを用いた場合、該ダクテド・ファンをチルト機構で支持することにより上記飛行船本体1の推進方向や飛行制御を制御可能とするのが通常である。しかしながら、上記チルト機構は、ファンの回転からくるジャイロ効果や、方向を変化させる時の反力を受けるためにウォーム・ギア機構を用いることから、制御に対する応答が若干遅いといわれている。
これに対し、上記サイクロイダル・プロペラは、タグ・ボートや高速船等の海上船舶に使用され、慣性の大きな船体の速応性の高い制御に効果があるものであり、本発明においても好適に利用することができる。
【0018】
上記推進手段5,5として利用するサイクロイダル・プロペラは、例えば、回転軸12に90度間隔に取付けられた4本のアーム13の先端にそれぞれ回転翼を取付け、それらを上記回転軸12に対して対称に位置する2組の対称翼14,15として構成し、これらの対称翼14,15の迎え角を各回転翼の後部に連結したチルトリンク16により瞬時に変化させることにより、望む方向に大きな推力を得ることができるものである。例えば、図6に示すように、サイクロイダル・プロペラの回転時に、対称翼14を図示の位置で迎え角を変化させることによりF方向の推力が発生し、他方の対称翼15を同じ位置で迎え角を順次変化させることによりF方向の推力が持続することになる。
なお、サイクロイダル・プロペラを用いた場合、回転方向と反対の向きに反力が生じるので、これを打ち消すために重心位置を工夫したり、ヘリコプターのテール・ロータのような働きをするスラスタが必要である場合がある。また、上記サイクロイダル・プロペラの回転翼の数は4枚に限らず、任意の枚数に決定することができる
【0019】
これら推進手段5,5は、上記操縦者3が操縦席2において人力の駆動装置を駆動させることにより動作する。この駆動装置は、自転車の駆動部と同様のペダルを漕ぐことによって推進手段5,5であるサイクロイダル・プロペラの回転軸12と通じる駆動シャフト7,7を回転させるもので、操縦者3が座るサドル8と、該サドル8を操縦席2に支持するフレーム9と、該フレームに取付けられた上記ペダルとからなる操縦座と、ペダルからの伝達機構10と、該伝達機構10からの回転力を駆動シャフト7,7の回転力に変換して伝達するギア・ボックス11とを備えている。
上記実施例では、推進手段5,5を操縦者3の人力によって駆動するものとしているが、これに限らず、エンジンやモータ等の各種動力による推進設備を備えた推進手段とすることができる。
【0020】
ところで、浮揚ガスで満した飛行船本体1自体が持つ浮力Bは、上記操縦席2の空間分の体積を考慮しない場合の飛行船本体1の排除体積をQとし、空気密度と浮揚ガスであるヘリウムの密度をそれぞれρAIR、ρHEとすると次式で表される。
B=Q(ρAIR−ρHE
空気密度は標準大気でρAIR=1.225(kg/m)、ヘリウムの密度はは標準状態でρHE=0.179kg/mなので、排除体積Qで得られる全浮力BTOTは、BTOT=1.05Q(kgf)となる。
一方、飛行船本体1の排除体積Qは近似的に回転楕円体として、その長軸半径をa、短軸半径をbとすると次式で表される。
Q=(4/3)π・a・b
ヘリウムの温度は時々刻々と変わるので、この範囲をtMAX=40(℃)からtMIN=15(℃)とすると、温度変化Δtは、Δt=tMAX−tMIN=40−15=25(℃)となり、ガス膨張率ΔQ/Qは、
ΔQ/Q=25/(273+15)×100(%)=8.7(%)となる。Q=150mとし、ΔQ/Q=10(%)とすると、膨張・収縮するのは15mの体積となるので、これがバロネット体積となる。
したがって操縦席2のある部位を真の円筒形と見なし、その直径をDPILとした場合の飛行船本体1の排除容積の浮力BTOTは、10%のバロネット体積を考慮して、
Figure 0003774764
となる。全長、最大径が9m、6mの飛行船本体1を考えると、全浮力はBTOT=(170−4.7)・0.9=148.8(kgf)となる。
【0021】
ここで、上記浮力と関係して、飛行船本体1を構成する気嚢の膜材の重量を体積及び表面積の関係から算出する。今、飛行船本体1の細長比(全長/最大径)をfとして全長を10mと9m、最大径を6mから8mまでにし、表1にその間の代表値の試算を示す。
【表1】
Figure 0003774764
今、飛行船本体1の気嚢に使用する膜材の面積密度ρMEMを、ρMEM=50g/mとすると、全表面積STOTの重量WMEMは、膜材の補強を加味してほぼ15kgfとなる。
【0022】
そして、上記飛行船本体1、尾翼安定板4、操縦席2の空間の内周の曲面の各膜材を含め、駆動装置、推進手段5,5、保形部材6、操縦者3まで考慮した全備重量が上記全浮力以下になるかを確認する。全備重量と重量配分について次の表2に示す。
【表2】
Figure 0003774764
したがって、上記表2との関係から、全長9m、最大径6mの飛行船本体1でも、浮力が全備重量を上回っており、設計が成立することが分かる。
【0023】
上記構成を有する有人飛行船は、飛行船本体1の内部に操縦席2を設けて、従来の飛行船が備えているゴンドラの装備を排除して構造を簡略化したことにより、全体を可能な限り軽量化し且つコンパクト化することができるため、従来のものに比して小形で、個人用あるいは自家用の空中移動手段として手軽に利用することが可能である。
また、上記操縦席2を飛行船本体の重心近傍に設け、且つ浮心もほぼ同じ位置に設定されるようにすると共に、全方位推力可変の一対の推進手段5,5を重心から離して配置して、その重心位置における該飛行船本体1の内部で操縦者3が自由な飛行制御を可能としたことにより、推進手段5,5飛行船と操縦者3との一体感が増すだけでなく、高い運動性能を得て自由な飛行運動による娯楽的な飛行感覚を得ることができる。この場合、HTA航空機と異なり、失速や飛行姿勢等を気にすること無く飛行することができるため、安全を確保しながらもその飛行を楽しむことができる。
【0024】
【発明の効果】
以上に詳述したように、本発明の有人飛行船によれば、飛行船本体の内部に操縦席を設けたことにより、全体を可能な限り軽量化し且つコンパクト化することができ、これにより、個人用あるいは自家用の空中移動手段として手軽に利用することが可能である。また、上記操縦席を飛行船本体の重心近傍に設けて、該飛行船本体の内部で操縦者が飛行制御をするようにしたことにより、飛行船の運動性能が飛躍的に増大して操縦者との一体感が増すため、操縦者の安全性の向上を含めて、娯楽的な飛行感覚を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有人飛行船の一実施例を概略的に示す平面図である。
【図2】同側面図である。
【図3】同背面図である。
【図4】本発明の有人飛行船の操縦席を示す要部拡大側面図である。
【図5】サイクロイダル・プロペラの原理図である。
【図6】図5のサイクロイダル・プロペラの対称翼の迎え角を変化させた状態を示す原理図である。
【符号の説明】
1 飛行船本体
2 操縦席
3 操縦者
5 推進手段
6 保形部材

Claims (4)

  1. 浮揚ガスが封入され、該浮揚ガスの浮力によって浮揚する気嚢により形成された飛行船本体に、該飛行船本体の重心を通って上下に貫通しその上下に搭乗口として利用可能な大きさの外部に開放された開口を有する筒状空間を設け、
    上記筒状空間が、上記気嚢を構成する膜材によって気嚢内の浮揚ガスと仕切られ、該膜材によって仕切られた空間が上下方向に配設した複数の環状の保形部材によって保形されている筒状の空間であり、
    上記筒状空間内における上記飛行船本体の重心近傍に、操縦者を収容可能な操縦席を設け、上記気嚢を構成する膜材の全部または一部を、操縦席の操縦者が飛行船の外を視認可能な透明材で形成したことを特徴とする有人飛行船。
  2. 請求項に記載の有人飛行船において、上記保形部材が、上記筒状空間の操縦席付近では密に配設され、上記筒状空間の上下の開口付近では粗に配設されていることを特徴とするもの。
  3. 請求項1または2に記載の有人飛行船において、該有人飛行船が、上記操縦者の人力によって駆動する推進手段を備えていることを特徴とするもの。
  4. 請求項に記載の有人飛行船において、上記推進手段と該飛行船の飛行制御手段とがサイクロイダル・プロペラであることを特徴とするもの。
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