JP3768894B2 - 配向したビスフェノールaポリカーボネートの製造方法 - Google Patents

配向したビスフェノールaポリカーボネートの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、所定の方位に配向した結晶構造を有するビスフェノールAポリカーボネートの製造方法に関し、さらに詳しく述べると、本発明は、磁場を用いて、所定の方位に配向した結晶構造あるいは結晶前段階構造を有するビスフェノールAポリカーボネート(PC)成型体の製造方法に関する。結晶前段階構造については、後述する。
【0002】
【従来の技術】
ビスフェノールAポリカーボネート(PC)は熱処理では結晶化しにくく、かつ結晶化度の非常に低い高分子材料であり、通常は非晶性高分子に分類される。従って、結晶性高分子に比べ、磁場による結晶の配向が非常に起こりにくいと考えられている。PCの結晶化については、有機アルカリ金属塩を混合することにより、結晶化が促進することが報告されており、磁場により結晶が配向することも報告されている (H.Aoki,M.Yamato,T.Kimura,Chem.Lett.、2001,1140−1141)。一方、PCの溶液からは容易に結晶粒子が析出することも多数報告されている。しかし、このPC結晶粒子を単体で溶融磁場配向させる方法については知られていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、PC材料を結晶化することによって、PC材料の大きな固有複屈折を生かした新規な光学材料を開拓すべく鋭意研究を行った結果、本発明を完成させるに至った。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明のPC成型体の製造方法は、ビスフェノールAポリカーボネート(PC)の結晶粒子を準備し、該PC結晶粒子を所定の形状に成形し、或は所定の形状の容器に充填し、その後所定の強度、及び方位の分布を有する磁場を付与しつつ、所定の熱処理を行うことによって所定の方位に配向した結晶構造あるいは結晶前段階構造を有するビスフェノールAポリカーボネート(PC)成型体を製造することを特徴とする。
【0005】
ビスフェノールAポリカーボネート(PC)の構造式を式(1)に挙げる。
【化1】
Figure 0003768894
nについては、本発明の方法が適用できる限り特に制限がないが、実施例では、数平均分子量で160〜200(GPCの測定による)とした。しかしながら、実施上、nがあまり大きいと溶融粘度が高く配向に時間を要する。その観点から、好ましくはnが200以下とすることもできる。
【0006】
本発明者は、ポリ(エチレン−2、6−ナフタレンジカルボキシレート)、アイソタクチックポリスチレン、低分子量アイソタクチックポリプロピレン(メルトフローインデクス240g/10分程度)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレン−1、2−ジフェノキシエタン−p、p’−ジカルボキシレート)等の結晶性高分子が、結晶化する間に磁場を付与することによって所定の方向に配向するという、先行知見に着目した。即ち、本発明は、溶液状態から結晶として析出させたPCを磁場内で熱処理することにより、従来不可能であったPC単体での磁場配向を達成せしめるという、PC成型体の製造方法を提供するものである。
【0007】
PCは、他の結晶性高分子とは異なり、単体で完全に融解させると、昇温過程や溶融後の冷却過程では結晶化しない。本発明者らは、熱処理以外の方法で予め結晶化させておき、その後所定の磁場を印加し、元々ある結晶粒子を完全に融解(破壊)しない程度に加熱することによって、結晶粒子が元々もっていた秩序構造が残留している状態で該残留秩序構造を利用し配向させることができるという知見のもとに、本発明を完成した。なお、先行知見では、磁場内での熱処理にあたり、試料は非晶状態から開始し昇温過程で生成した結晶を溶融・結晶化させていた。
【0008】
【発明の実施の態様】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
(1)PC結晶粒子(出発材料)
PC結晶粒子(出発材料)は、例えば、PC溶液に対して貧溶媒を添加することにより析出したPC結晶粒子を乾燥して用いることができる。この方法では、貧溶媒を添加することにより精製されたPC結晶粒子が得られるという利点がある。本発明のPC成形体の製造方法では、PC結晶粒子を完全に融解させずに結晶状態を利用することを特徴とするので、非晶質粒子を用いることはできない。 溶媒析出の場合、PC溶液の溶媒(良溶媒)としてはジクロロメタンを挙げることができ、貧溶媒にはメタノールなどのアルコールが挙げられる。
【0009】
また、原材料は、PC溶液から溶媒を揮発させて析出させることによってPC結晶を得る溶解・熱処理法により製造することもできる。しかしながら、上記溶媒析出法は、PCを適切な有機溶媒の溶液とし、その後溶媒を加熱気化させることによってPC結晶を得る溶解・熱処理法による場合と比較して、はるかに容易に結晶を得ることができるという利点がある。
【0010】
PC結晶粒は次の条件を満たすことが好ましい。即ち(1)結晶粒に大きな磁気異方性を持たせるために、結晶粒の内部では、結晶ラメラが球晶等の対称性が高い構造を取らず、ラメラが異方性を維持した構造で存在すること、(2)結晶粒が半融解状態に至った時、結晶粒が周囲の粘性的環境下で速やかに回転できることが可能であるために、結晶粒の形は球形であること、が好ましい。粒径が大きい(mmオーダー)と、条件(1)を満たさない可能性が高い。また小さすぎる(nmオーダー)と、熱擾乱が大きく配向が乱される。μmオーダーが好ましい。
【0011】
(2)PC結晶粒子の成形体
PC結晶粒子は、圧縮成形等により所定の形状(例えば、シート状、フィルム状等)に成形或は所定の形状の容器に充填して、その後磁場印加、熱処理をする。
【0012】
(3)磁場
磁場の強さは1T以上あれば良いが、配向度、配向速度向上の為には磁場の強さは強い程良い。また、磁場の方向に分布を持たせれば、配向分布も制御できる。なお、磁場は、試料の内部にまで均等に透過するので試料の形状や厚みには依存しないので、用いる磁場の強さは試料の形状や厚みには依存しない。
【0013】
(4)熱処理
本発明における熱処理では、結晶粒子が完全には溶融状態(等方的)に達せず、結晶程ではないが、何らかの秩序構造(異方性)を保っているという所に特徴がある。この秩序構造に磁場が作用することにより秩序構造が回転するため、配向体が得られる。完全に溶融させてしまうと回転する構造が存在しなくなるので、配向体は得られない。
【0014】
nが異なることにより、そのPC結晶の融点も変動する。実施例においては、所定の加熱速度で室温から使用するPC結晶の融点付近の温度(240−255℃)に加熱し、この温度で融解が完全に進んでしまわない程度の時間保持した後、所定の冷却速度で冷却し、所定の結晶化温度において高分子材料の結晶が配向し、または配向した結晶前段階構造が達成されるまで保持する。
【0015】
より具体的には、所定の加熱速度を、例えば5℃/分とし、室温からPC結晶の融点(PC単体の融点:245℃)付近の240℃〜255℃の範囲の温度、好ましくは242℃に加熱し、この温度で所定の時間、例えば5分間保持した後、所定の冷却速度、例えば−5℃/分にて所定の結晶化温度Tc、例えば195℃〜220℃の範囲の温度、好ましくは200℃に冷却しその当該結晶化温度においてPCの粒子が相互に熱融着し、得られる成形体の構造が配向した結晶構造または配向した結晶前段階構造となるまで保持する。図1参照。
【0016】
(5)配向した結晶構造、結晶前段階構造
本発明に係る微細構造は、配向した結晶構造あるいは結晶前段階構造である。ここに、「配向した結晶構造」とは、X線回折により検出される結晶構造が配向した構造で、そのサイズ、含有量、配向度が該成型体の使用目的(透明性等)に応じた程度に結晶化した構造を意味する。また、「配向した結晶前段階構造」は、配向した非晶(いうなれば液晶的構造)或は、乱れた結晶構造を意味する。X線回折的には結晶的な構造は無く、分子鎖がローカルに並んだ構造である。このような構造がドメイン状に(等方的な)非晶中に浮かんでいると考える。従って、このような結晶前段階構造を有するドメインの相当量が磁場で配向すると、光学的に複屈折が生じる。結晶前段階構造は、等方的非晶質と広角X線回折法では区別がつかない。「磁場配向した目的に応じた程度に結晶化した構造」とは、結晶化していてもその進行度合いがわずかであり、十分に光を通すなどの目的に応じた程度であればよいということを意味する。
【0017】
ここで▲1▼完全結晶、▲2▼目的に応じた程度に磁場配向した結晶構造、▲3▼結晶前段階構造、▲4▼非晶質について述べる。▲1▼高分子においては低分子におけるような大きな完全結晶を得るのは不可能で、通常、非晶中に結晶ラメラが埋め込まれた形態を取る。ここでいう完全結晶とは、結晶ラメラが発達しかつその非晶に対する含量が高い状態をいう。▲2▼結晶ラメラが大きくなると光を乱反射し、透明性が下がり、光学用途には不適である。透明性を維持し、かつ配向を持たせるためには、光の波長より小さいサイズのラメラが等方的非晶中に所定の方向に配向している必要がある。ここでいう結晶構造とは、サイズ、含量、配向度が所定の性能を実現するのに適当であるような構造を意味する。▲3▼結晶前段階構造は▲1▼,▲2▼で言う結晶構造とは異なりX線回折を与えないが、局所的には高分子鎖が並んだような、いわば液晶的構造或は乱れた結晶的構造を言い、この構造を磁場により配向させることにより配向体を得る。この構造は結晶構造に比べると非晶との密度差が小さいので光の散乱も少なく、光学的性能、特に透明性を引き出すためには▲2▼の構造よりも優れている。▲4▼等方的な非晶を意味する。
▲1▼の構造は、PC溶液からの沈殿或は蒸発乾固により得られる。▲4▼の構造はPCを融点よりはるかに高い温度で融解した後、冷却固化することにより得られる。▲2▼及び▲3▼の構造は、多くの高分子において、融点より僅かに高い温度での溶融状態、或は、その状態から融点以下に冷却し結晶化を開始させたときの結晶化初期過程(結晶化誘導期)において実現できる。しかしながら実現のための条件は高分子の種類により大きく異なり、例えば低分子量アイソタクチックポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどは比較的広い条件を有する(T. Kawai and T.Kimura, Polymer, 41(1), 155-159 (2000); T.Kimura, T.Kawai, and Y.Sakamoto, Polymer, 41(2), 809-812 (2000); Y.Sakamoto, T.Kawai, and T.Kimura , Trans. MRS-J., 25(1), 73-76 (2000); T.Kawai, Y.Sakamoto, and T.Kimura , Mater.Trans.JIM, 48, 955-961 (2000))。しかしPCの場合にはこの条件が比較的狭い。
▲2▼,▲3▼の構造が生成するための条件は、磁場内での複屈折測定(例えばT.Kimura, H.Ezure, H.Sata, F.Kimura, S.Tanaka, and E.Ito, Mol. Cryst. Liq.Cryst.318, 141 (1998); H.Ezure, T.Kimura, S.Ogawa, E.Ito,Macromolecules, 30(12), 3600-3605 (1997))により確定することが可能である。即ち、▲2▼,▲3▼の構造が生成されていれば、複屈折の増大が観察される。
【0018】
なお、本発明の方法では、残留秩序構造が保持される程度に加熱(242℃)した後、所定の冷却速度で好ましくは200℃に冷却し、200℃で保持し、配向した残留秩序構造をもとに配向した結晶前段階構造が成長した状態で急冷している。
【0019】
配向した結晶構造を有するビスフェノールAポリカーボネート(PC)成形体および結晶前段階構造を有するビスフェノールAポリカーボネート(PC)成形体は、そのまま所定の用途に使用可能であり、その透明性が高いことを生かして、光学材料等に使う。なお、結晶前段階構造を有するビスフェノールAポリカーボネート(PC)成形体については、その後結晶化処理をすると不透明になり、光学材料には不向きとなる。
【0020】
(5)最終成形品
本発明の方法で得られるPC成型体の形状は、磁場・熱処理前の形状を実質的に維持する。
【0021】
【実施の態様】
1.溶媒結晶化PC試料の磁場配向性及び配向様式
(1−1)実施例
磁場内での熱処理試料の作製
溶媒結晶化PC粉末試料に対し磁場内熱処理装置により図1に示すような熱処理を行った。即ち、試料を室温から5℃/分で昇温し、242℃(Tmax)で5分間保持し溶融させた。その後−5℃/分で冷却し等温結晶化温度200℃(Tc)で12時間保持した。この操作を6T超伝導磁石内で行うことにより熱処理試料を得た。
【0022】
図2(b)に、磁場内熱処理して得られた試料の透過光方位角強度分布を示す。この分布の解析より、該フィルム(厚さ1.123 mm)のリタデーションは390 nmであった。
【0023】
(1−2)比較例
磁場外での熱処理試料の作製
実施例と同一の熱処理条件にて磁場外で試料の作製を行った。図2(a)に、得られた試料の透過光方位角強度分布を示す。この分布からは試料の配向は見て取れない。
【0024】
以上の結果から、溶液から結晶化させたPCの磁場による配向制御が可能であることが示された。
【0025】
【発明の効果】
本発明のPC成型体の製造方法によれば、ビスフェノールAポリカーボネート(PC)の溶液から溶媒を揮発させることによりPCの結晶を析出させた後、得られた結晶に対して所定の強度及び方位を有する磁場を付与しつつ、所定の熱処理を行い再度結晶化することによって、本来非晶と見なされ磁場配向が困難であったビスフェノールAポリカーボネート(PC)を、磁場中で任意の方向に結晶を配向させ、または結晶前段階構造とすることが可能となる。従って、PCの本来の透明性を確保しつつ、大きな固有複屈折値が得られ、新規な光学材料への応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 溶媒結晶化PCに対し磁場内熱処理装置により行う熱処理条件を示すグラフである。
【図2】 図2(a)及び図2(b)は、磁場外熱処理及び磁場内熱処理して得られた試料の透過光方位角強度分布である。

Claims (2)

  1. 結晶ラメラが異方性を維持した構造を有するビスフェノールAポリカーボネート(PC)単体からなる結晶粒子を、PC溶液に対して貧溶媒を添加して析出させることによって行うか、又はPC溶液から溶媒を揮発させて析出させることによって準備し、該PC結晶粒子を所定の形状に成形し、又は容器に充填し、その後前記PC結晶粒子に対して磁場を付与しつつ、熱処理を行うことによって、配向した結晶構造又は結晶前段階構造を有するビスフェノールAポリカーボネート(PC)成型体を得るPC成形体の製造方法。
  2. 前記熱処理を、前記PC 結晶粒子の構造が完全な溶融状態にならない程度に、該PC 結晶粒子の融点又は融点直上まで加熱することにより行う請求項1記載の方法。
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