JP3764222B2 - 角膜湿潤状態モニタ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ArFエキシマーレーザ等による角膜蒸散時における角膜の湿潤状態をモニタする角膜湿潤状態モニタ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、角膜蒸散を利用した精密な角膜矯正手術 PRK(Photorefractive Keratectomy)を行うための手術装置として、ArFエキシマーレーザ装置を用いたものがある。角膜矯正手術は、矯正量の制御性が良好である、手術が自動化されている、安定性が良い、術後の感染性副作用が少ない、角膜強度低下が少ない等の利点を有しており、急速な普及が予想されている。また、このArFエキシマレーザ装置を用いた手術装置は、角膜の矯正だけでなく、遺伝性の角膜上皮および実質浅部の疾患に対する治療 PTK(Photo-Therapeutic Keratoplasy)にも適用することができ、眼科手術装置としての有用性が高い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述したような眼科手術装置は、弱度近視と中程度近視に対する臨床試験結果は有効であるのに対し、ArFエキシマーレーザ装置により角膜中央部のレーザ照射回数を増加させると、生体液の角膜表面への浸出が顕著になり、角膜の蒸散が進まず、蒸散不足により角膜が島状に取り残されて(central island)予定した矯正量が得られないため、強度近視に対して臨床試験結果の成功率が悪くなるという問題があった。
【0004】
また、角膜にArFエキシマレーザ光を照射した場合に、蒸散時に角膜表面から発生するキノコ状の噴霧を取り除くべく窒素ガスを吹き付けると、表面が乾燥しすぎてしまい、蒸散面の平滑化が悪化するという問題があった。
【0005】
このように、術中における角膜表面の湿潤状態は蒸散の良否を左右する重要な要素となっており、術中の角膜表面の湿潤状態を実時間でモニタする必要があるが、角膜の湿潤状態をモニタする装置についての報告例はまだないのが現状である。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたもので、角膜表面の湿潤状態をモニタすることができる角膜湿潤状態モニタ装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明による角膜湿潤状態モニタ装置は、角膜に向けてパルス光を照射する波長200nm近傍の紫外線レーザ光源と、パルス光の照射により角膜から放射される赤外光を検出する赤外光検出手段と、赤外光検出手段で検出された検出信号に基づいて、赤外光の強度の時間変化をモニタするモニタ手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
この角膜湿潤状態モニタ装置によれば、波長200nm近傍の紫外線レーザ光源により角膜に向けてパルス光を照射すると、パルス光は角膜に吸収される。
【0009】
ところで、角膜は主としてコラーゲンと組織液とから構成され、コラーゲンの吸収係数は組織液の吸収係数に比べて1桁程度大きい。従って、蒸散による残存角膜から組織液が浸出した場合に角膜中の組織液の比率が変化すると、見かけの吸収係数は変化する。
【0010】
この見かけの吸収係数の変化に関する情報が角膜から放射される赤外光の強度の時間変化に表れる。従って、角膜から放射される赤外光の時間変化を赤外光検出手段により検出し、この赤外光検出手段で検出される検出信号に基づき、モニタ手段により赤外光の強度の時間変化をモニタすることで、角膜の湿潤状態常に把握されることになる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面と共に本発明による角膜湿潤モニタ装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、角膜湿潤モニタ装置20は、眼を配置させる眼固定位置Pを有しており、この眼固定位置Pに向けて所定の繰り返し周波数で短パルス光を照射するArFエキシマレーザ光源1を有している。このレーザ光源1は、その大きな光子エネルギーにより角膜2中の分子間の結合を切断し、角膜2の蒸散を行うことのできるものである。このレーザ光源1は、眼固定位置Pにパルス光が照射可能な位置に固定されている。また、角膜湿潤モニタ装置20には、パルス光の照射により角膜2から放射される赤外光を検出するための赤外光検出手段としての光伝導素子5が設けられ、この光伝導素子5は、赤外光の強度を、その強度に応じた電圧信号に変換するものである。なお、検出される赤外光に対応する角膜2の温度領域は、20〜100℃であり、長波長域(例えば、10〜16μm近傍)の赤外光が検出されるので、この波長域で感度の良いMCT(HgCdTe)を用いることが特に好ましい。
【0013】
この光伝導素子5と眼固定位置Pとの間には、眼を角膜湿潤モニタ装置20に配置した場合に角膜2から放射される赤外光が入射可能な位置に、焦点距離250mmの金からなる凹面鏡3が設けられており、その凹面3aは眼固定位置Pに向けられている。この凹面鏡3と光伝導素子5との間には、赤外光を受光して光伝導素子5に集光するZnSeレンズ4が設けられ、ZnSeレンズ4は、光伝導素子5からZnSeレンズ4の焦点距離2.5inchだけ離隔した位置に配置されている。
【0014】
光伝導素子5には、この光伝導素子5に電界を印加して、赤外光の吸収により発生するキャリアを電流として取り出すためのバイアス回路6が接続され、このバイアス回路6には、バイアス回路6により検出された赤外光強度に対応するキャリア電流による電圧信号に基づき、赤外光放射強度の時間変化を表す波形をモニタする波形測定処理装置7が接続されている。この波形測定処理装置7は、ArFエキシマレーザ光源1と同期されており、レーザ光源1でパルス光が照射される毎に、赤外光の放射強度の波形がモニタされる。そして、赤外光放射強度の各波形に対して、例えばパルス光照射時における最大電圧信号値の1/eになるまでの時間が測定される。
【0015】
次に、前述した構成に基づき、角膜湿潤モニタ装置20の動作について説明する。
【0016】
まず、患者の眼を角膜湿潤モニタ装置20の眼固定位置Pに配置させる。そして、固視灯などにより角膜2を一定の位置に固定させる。この状態で、ArFエキシマレーザ光源1を作動させて、角膜2に向けて所定の繰り返し周波数でパルス光を次々に照射すると、このパルス光は角膜2に次々に吸収される。このとき、角膜2の蒸散が行われる。
【0017】
ところで、角膜2は、主としてコラーゲンと組織液とで構成され、コラーゲンの吸収係数はArFエキシマレーザ光源1の193nmの波長に対して2700cm-1であり、角膜2の約80%を占める組織液の吸収係数より1桁程度大きい。角膜2中の組織液の比率は、術中、蒸散によって残存角膜から組織液が浸出することにより変化し、この組織液の比率の変化に伴って、見かけの吸収係数も変化する。パルス光照射直後、主として角膜2のコラーゲンに吸収された光エネルギーの一部は、コラーゲンの分子等の振動、回転エネルギーに変換され、温度の上昇を引き起こす。見かけの吸収係数が大きいほど、この温度上昇は大きくなる。このように角膜2の温度上昇が起こると、 Stefan=Bolzmann の法則によりこの温度の4乗に比例した強度の赤外光が放射される。
【0018】
一方、パルス光照射後は、熱拡散により角膜2の表面温度は時間の経過とともに下降し、角膜2の表面において温度勾配が形成される。単位時間中に単位面積を通過する熱量は、この温度勾配に比例するので、角膜2の表面温度の下降により全放射赤外光強度は減少する。従って、赤外光の放射強度も時間の経過とともに減少する。すなわち、赤外光の放射強度の波形は、時間と共に減少する時間変化波形を描く。
【0019】
この時間変化波形は、角膜2の見かけの吸収係数が大きいと温度上昇が大きくなるので角膜2内での温度勾配は大きくなり、単位時間中に単位面積を通過する熱量は多くなる。よって、表面の温度降下は速く、放射強度の時間変化も大きい。また、角膜2の見かけの吸収係数の変化が小さい場合には、角膜2の表面の温度降下は小さく、放射強度の時間変化は小さい。このように、角膜2の表面の見かけの吸収係数が変化すると、放射強度の時間変化も変わるので、見かけの吸収係数と赤外光の放射強度の波形とは相関関係を有している。
【0020】
そして、パルス光照射により角膜2から放射される赤外光は、凹面鏡3の凹面3aで反射され、ZnSeレンズ4で光伝導素子5に集光され、光伝導素子5で検出される。このとき、バイアス回路6により光伝導素子5から電圧信号が取り出され、この電圧信号が波形測定処理装置7に入力され、この波形測定処理装置7において、パルス光照射毎に、赤外光の放射強度の時間変化がモニタされる。そして、この赤外光放射強度の時間変化が角膜2の湿潤状態をモニタすることになる。
【0021】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、レーザ光源として、ArFエキシマレーザ光源1の代わりに、このレーザ光源1と同様に角膜2の蒸散が行える紫外線レーザ光源としてもよい。
【0022】
【実験例】
なお、前述した角膜2の湿潤状態モニタの有効性を確かめるために以下のような研究を行った。
【0023】
まず、この研究を行うに至った背景について述べる。
【0024】
研究者は、ArFエキシマレーザ蒸散を用いた角膜切除術(Photorefractive Keratectomy:以下PRK)の矯正量の安定性を高めるために、放射分析法を用いた蒸散モニタ法を提案した。PRKでは蒸散量が角膜表面の湿潤状態に極めて敏感である。したがって、安定性の高いPRKを行うには表面の湿潤モニタが必要である。本研究では、モニタ法に、簡便なパルス化放射分析法を適用し、その有用性に関して実験と理論両方から検討した。
【0025】
成人の約40%は近視を主体とする屈折率異常を持ち、何らかの屈折矯正を行っている。矯正量が小さい場合は眼鏡やコンタクトレンズで矯正可能であるが、大きい矯正量では視野が狭くなったり、周辺部視野が歪むなどの不具合を生じる。このような強度近視、最強度近視は各々近視患者の5%、2.5%存在する。この不具合を改善するために、手術による屈折率矯正法が検討、開発されてきた。
【0026】
眼の屈折力の約70%は角膜で担われている。これは、角膜表面が空気/水の大きい屈折率差を有する界面を形成しているためである。角膜形状を変化させれば大きい矯正量が得られることから、角膜を対象とした屈折率矯正手術の検討は古くから行われてきた。初めての実用的な手術として、1979年に角膜前面の切開創によって角膜形状変化を得るRadial Keratectomy(以下RK)が開発された。RKは世界的に普及したが、矯正量の制御性が悪いほか、角膜強度の低下、長期遠視化や創からの感染の副作用など種々の問題点があった。一方、1983年に波長193nmのArFエキシマレーザを用いた角膜の精度1μm以下の精密な蒸散が報告され、蒸散によって角膜表面の曲率半径を大きくして近視矯正を得るPRKが開発された。PRK はレーザの非接触精密蒸散の利点を活かし、矯正量制御性は著しく改善され±1D以内となった。また、角膜強度も保たれ、深い創が無く表面が早く上皮化することからRKで生じた問題点は生じない。これらの事から、 PRK は現在最も重要な角膜形成術になりつつある。
【0027】
ところで、 PRK では再生能の無い角膜実質に大きな侵襲を与えるので、術前の診断によって立てた計画通りの蒸散を行う必要がある。しかし現状では蒸散速度が角膜表面の湿潤状態により大きく変化するため、計画した蒸散量が達成されなかったり蒸散表面が平滑でなくなることがある。 PRK はまた角膜中央部分の瞳孔領に大きな侵襲を与えるので、わずかな副作用も視覚に対して重大な影響を与える。時に再生上皮下に出現する混濁は最も注意すべき副作用である。さらに、レーザ照射中の角膜の位置決め法は未成熟であり、照射中心が移動して乱視や単眼性複視を起こす危険もある。
【0028】
角膜の蒸散速度や蒸散表面の平滑さは、術中の角膜表面の湿潤状態に影響を受ける。表面が湿潤だと蒸散速度は減少し、表面が乾燥すると表面の平滑さは悪化する。術中角膜表面の湿潤状態は、蒸散プルームを吹き払うアシストガスによる乾燥や残存角膜からの生体液の浸出などにより常に変化している。角膜蒸散量を精密に制御するには、術中の角膜表面の湿潤状態を実時間でモニタする必要があるが、報告例はまだ無い。
【0029】
角膜の水以外の主たる構成成分であるコラーゲンのArFエキシマレーザの波長193nmに対する吸収係数は、80%を占める組織液の吸収係数より1桁程度高い。このため蒸散中の角膜実質表面での組織液の比率が大きくなれば、角膜表面近傍での見かけの吸収係数は減少する。そこで、蒸散中の角膜表面の見かけの吸収係数を測定して角膜表面の湿潤モニタを行うこととした。
【0030】
表面の吸収係数を得る具体的な方法として、パルス化励起放射分析法(Pulsed Photothermal Padiometry : 以下PPTR)を用いた。PPTRを用いると、試料に対し非接触、非破壊で吸収係数と熱伝導率に関する情報が得られる。PPTRでは、測定している放射光の時間変化に情報が含まれているので、外乱が多い系でも精度良い計測が可能である。PRK では蒸散治療用のArFエキシマレーザをPPTRの励起光として共用できるので、放射光の計測系を追加するだけで計測が可能となる。PPTRの欠点は、吸収係数と熱伝導率のどちらか一方が既知でないともう一方の値が求められないことである。しかし、生体軟組織は含水率が65〜80%と高率かつ変動幅が小さいことから、熱伝導率がほぼ水と等しいと考えて良く、PPTRで吸収変化の大まかな検知が可能となる。
【0031】
そこで、本研究では、PRK において矯正量の安定性を高めるために、PPTRを用いて角膜の表面放射赤外光を非接触経時的計測し、湿潤状態の検知による蒸散モニタ法の可能性について検討した。
【0032】
このような蒸散モニタ法の可能性について検討する前に、屈折率矯正について説明する。
【0033】
近視眼に対する屈折率矯正は、眼鏡またはコンタクトレンズの装着が一般的である。しかし、強度の近視眼では、矯正レンズが厚くなり、周辺部の像がゆがんだり、視野が狭くなるなどの不具合を生じる。このため、強度の近視眼に対しては、手術による矯正法が適用される。眼の光学系は、主として角膜、水晶体、眼軸長の3つの屈折要素からなる。このうち、眼の屈折力の80%が角膜で担われている。これは、角膜表面が空気(n=1.33)/角膜(n=1.37)の大きい屈折率差を有する界面を形成しているためである。角膜形状をわずかに変化するだけで屈折力を大きく変化できることから、角膜の形状を変化させる屈折率矯正手術の検討は古くから行われてきた。近視眼の場合、無調節状態の眼に平行光線が入射したとき、網膜の前方に像を結ぶので、矯正するためには角膜前面の曲率半径を大きくする、言い換えると角膜形状を平坦化すればよい。
【0034】
角膜の形状変化を得るための屈折率矯正手術は、これまでに様々なアイディアによる数多くの術式が検討、開発されてきた。それらを大別すると(1)角膜切開術、(2)角膜切除術、(3)角膜または人工物質の挿入、(4)熱凝固、(5)縫合に分けられる。この中でも特に実用的な方法は、角膜切開術と本研究の対象である角膜切除術である。角膜切開術は1979年に開発された。角膜前面をダイアモンドナイフを用いて放射状に切開し角膜を平坦化する方法で、Radioal Keratectomy (RK)といわれる。この方法は世界的に普及したが、矯正量の制御性が悪いほか、角膜強度の低下、長期遠視化や創からの感染の副作用などの問題がある。一方、角膜切除術 Photorefractive Keratectomy( PRK)は1983年にTrokelや紫外光蒸散機構の研究に携わっていた Srinivasanらによって開発された。この術式は、角膜前面をArFエキシマレーザを用いて精密に切除し、角膜形状を平坦化するという、極めて画期的かつ優れた治療法である。PRK は、矯正量制御性が良く、角膜強度は保たれ、深い創が無く表面が早く上皮化することからRKで生じた問題は生じない。これら多くの利点から、現在最も重要な屈折率矯正手術になりつつある。
【0035】
屈折率矯正手術にはこの他にも種々の方法が検討されている。いずれも興味深い方法であるので、ここで簡単に紹介する。keratophakiaは、角膜または人工物質を挿入する術式である。角膜を一度層状切開し、人工レンズあるいは冷凍旋盤でレンズ状に切削したドナー角膜を挿入し、再びその上に角膜をのせて縫合する。熱凝固を用いた方法には、Laser Thermal Keratoplasy (LTK) などがある。これは、波長2.06μmの Ho:YAG レーザや波長1.65〜2.25μmのCo:MgF2レーザを用いて、瞳孔領の周りに点状あるいはリング状の熱凝固を形成し、角膜形状を変化する方法である。内皮への熱障害が問題となっている。縫合による術式で代表的なlamellar keratoplasyは、幅1mmのリング状の角膜を切除し、中央の島状に残った角膜を層状剥離し、それを伸展させるようにして周囲へ縫合する。keratomileusisは、一度層状剥離した角膜を冷凍旋盤でレンズ状に切削し、再び縫合する方法である。
【0036】
なお、前述したArFエキシマレーザを用いた角膜蒸散機構は、PRK の基本原理となっている。本研究では、PRK の蒸散モニタ法に関して検討を行うので、蒸散機構を知ることは必要不可欠である。一般に、生体組織は金属や半導体のような固体とは異なり、空間的にも組織的にも不均一な非結晶であり、レーザ光との相互作用の解析は複雑である。そのうえ、生体試料に含まれる水分や有機成分は時間経過とともに減少する。こうした理由から、生体組織の蒸散機構は完全に解明されていないのが現状で、角膜の場合もまたそうである。ここでは、ArFエキシマレーザによる角膜蒸散機構に関して現在までに解明されている部分について述べる。
【0037】
193nmのArFエキシマレーザによる角膜蒸散は精度lμm以下と非常に精密で、周囲組織への熱損傷が極めて少ない。これは、193nmのArFエキシマレーザによる角膜蒸散では光解離が起こっているためと考えられている。光解離とは、光子の持つエネルギーが原子間の結合を切断して分子を分解消滅させる蒸散の過程である。波長193nm光の光子エネルギーは6.4eVであり、タンパク質内の炭素−炭素結合3.0eVや、角膜実質コラーゲンに見られるポリベプチド鎖を切断するために必要なエネルギー3.5eVを十分に持っている。よって、193nm光は角膜内タンパク質のべプチドを分解することができる。実際、ArFエキシマレーザによる蒸散飛散物中には、結合が切断された物質が含まれていることなどから、光解離による蒸散が起きていることは間違いないと考えられる。光解離では、光子エネルギーと切断した分子の結合エネルギーの差の余剰分は、並進エネルギーとして解離物の飛散に使われる。
【0038】
しかしながら、実際には光解離こよる蒸散量の理論的な見積もりより10倍程度多く蒸散が起こっているとの報告がある。また、繰り返し周波数を増やすと蒸散深度が増したとの報告もあり、熱による蒸散の可能性が言われている。Borらの報告では、蒸散はレーザの照射中15ns中は全く起きておらず、さらに蒸散が始まるとレーザのパルス幅よりも1000倍以上も長い時間の間起きていることから、含水率80%の角膜内の水が爆発的な蒸発を起こすことにより蒸散が起きる可能性も考えられている。これらのことから現在では、二次的に起こるにせよ、光−熱的あるいは光−機械的な過程が生じ、蒸散に重要な影響を及ぼしていると考えられている。例えば、光を吸収した領域で圧力が急激に上昇すると、破断応力の低い角膜組織は圧力により分解される可能性も考えられる。
【0039】
このような角膜切除術の歴史は、言い換えると屈折率矯正手術開発の歴史とエキシマレーザの医学応用の歴史である。以下にその歴史的流れを簡単に述べる。
【0040】
初めての近視矯正のための屈折率矯正手術は1950年わが国で開発された前後面放射状角膜切開術である。この方法は重篤な合併症である水泡性角膜症の発生とコンタクトレンズの出現により挫折した。初めての実用的な手術は、1974年に旧ソ連のFyodorovらによって開発されたRadial Keratectomy(RK)である。これは、角膜前面の切開創によって角膜形状変化を得る方法である。RKは世界的に普及したが、矯正量の制御性が悪いほか、角膜強度の低下、長期遠視化や創からの感染の副作用など種々の問題点があった。
【0041】
一方、1979年頃からエキシマレーザの医学分野への応用が始まった。1983年には、Trokelや紫外光蒸散の研究に従事していたSrinivasanらによって、波長193nmのArFエキシマレーザを用いた角膜の精密な蒸散が報告された。これにより、ArFエキシマレーザの角膜蒸散により角膜表面の曲率半径を大きくして近視矯正を得るPRK が開発された。PRK はレーザの非接触精密蒸散の利点を活かし、矯正量制御性はRKに比べて著しく改善され±1D以内となった。また、角膜強度も保たれ、深い創が無く表面が早く上皮化することからRKで生じた問題は生じない。これらのことから、PRK は現在最も重要な角膜形成術になりつつある。現在米国、ドイツを中心としたヨーロッパ、韓国、日本で臨床例が重ねられつつある。
【0042】
最も臨床試験が先行している米国では、PRK法、PTK法ともに最終治験段階phaseIIIが終了し、Food and Drug Administration(以下 FDA )において認可申請中である。以下に、これまでに近視矯正に関して行われてきたPRKの臨床試験結果を(1)弱度近視と中等度近視、(2)強度近視に分けて示す。
【0043】
(1)弱度近視と中等度近視近視に対するPRKの臨床試験結果
SUMMIT社、VISX社、CHIRON社の3社が開発した装置で行われた臨床試験結果は、PRK が弱度と中等度の近視矯正に有効であることを示した。PRK を受けた患者の92%以上が視力0.5以上に、74%以上が視力0.8以上に回復した。わずか4%ではあるが、矯正不良もまた認められた。手術の安全性、予測性は高く、患者の77%以上が予測した矯正量の1.0D以内に、44%以上が0.5D以内に治まり、結果は良好であった。術後六ケ月の追跡調査では安定性も確認された。これら3社の試験結果では、矯正量の不足や過矯正、角膜混濁やグレアなどの合併症は認められなかった。
【0044】
(2)強度近視に対するPRK の臨床試験結果
強度近視に対するPRK は弱度近視に対するPRK に比べて成功率が悪い。VISX社製の装置を用いた臨床試験結果では、術後6ヶ月で患者の40%が予測した矯正最の1D以内に、64%が2D以内に治まった。術後1年では患者の60%が視力0.5以上に回復した。また患者の23%は術後6〜16ヶ月の間に再手術を行い、そのうち47%が1D以内に、81%が2D以内に矯正量を得た。術後1年で患者の15%に矯正不良が認められた。強度近視では、弱度近視や中等度近視に比べて手術が長引くため、術中の角膜表面の含水率や中央位置の変化が起こりやすく、矯正量に重大な影響を与えていると考えられている。
【0045】
次に、前述した角膜切除術の現状の問題点について、工学的側面と医学的側面に分けて述べる。
【0046】
(1)エ学的側面
ビームの均一化 ビームの均一性は角膜表面の平滑さに影響を与え、術後の実質修復、上皮再生に大きく関係するため極めて重要である。ArFエキシマレーザビームの強度分布は均一でない。これは放電型のArFエキシマレーザは10〜15nsの時間内に非常に大きいレーザ利得を持つので、レーザ共振器内での反射可能回数も3回以内となり、ASE(Amplifiered Spontaneous Emission)として放射される成分が多いためである。これにより、共振器内電磁界モードよりもむしろ電カ注入密度の空間分布に依存した単峰性のピークをもつ空間強度分布と、なる。PRK で均一な大面積蒸散を行うためには、ビームの均一化が必要である。現在ではビーム整形法として均一大ロ径照射方式と矩形小ビーム走査方式が用いられており、両方式とも実用上問題は生じていない。しかしながら、大口怪蒸散方式では単発エネルギーを大きくする必要があることから大出力のレーザ装置の装備が必要となり、走査方式では反対に単発エネルギーが小さいため治療照射時間が長くなるという問題がある。
【0047】
ArFエキシマレーザは上述したような欠点があることから、YAG レーザや色素レーザなどを波長変換して遠紫外線領域のレーザを導こうと試みられた。しかし、エキシマレーザの照射時間は1パルスあたり10〜20nsと熱拡散時間よりも短かすぎるので、周囲組織への熱損傷が小さい。また1パルスあたりのエネルギーは十分許容範囲で、繰り返し周波数を1〜50Hzと大きく変化させることができる。さらに4〜7mmの径で角膜表面を切除するために必要なエネルギーを十分に供給できることから、エキシマレーザが角膜切除術に最も適しているとされた。
【0048】
蒸散形状 蒸散表面の平滑さに影響を与えるもう一つの要因は、立体的な角膜の整形を行うためのアルゴリズムである。現在では可変光学絞りにより照射領域を少しずつ変化させることによって立体的な角膜整形を行っている。各装置とも0.1mmきざみで照射直径を可変できる光学絞りを装備しているので、角膜の蒸散表面はより滑らかになった。
【0049】
中央の位置決め レーザのアライメントのずれや術中の患者の動きによって照射の中央位置を誤ると、乱視や単眼性複視といった視覚異常を引き起こす危険がある。現在中央の位置決めに関しては、固視灯による患者の協力と治療時間を短縮しようとする医者の努力に負うところが多い。角膜の動きを検知してレーザ照射を停止する誤照射防止装置や、角膜の動きに追尾して照射位置をずらす装置も考案されているが、応答速度や精度の問題から実用化には至っていない。
【0050】
角膜形状評価:角膜トポグラフィー 術前術後の角膜形状を評価するための方法として角膜トポグラフィーが用いられている。大変有効な評価法ではあるが、この方法では局所的な屈折力を知ることができない欠点がある。また、矯正量の制御性を高めるためには、術中の角膜トポグラフィーもまた必要である。
【0051】
(2)医学的側面
実質侵襲 PRKでの最大の問題点は、再生能のない実質に大きな侵襲を与えることである。このため、術前診断によって立てた蒸散計画通りの蒸散を行う必要がある。しかしながら、蒸散速度は蒸散パラメータや角膜の含水率に影響を受けたり、蒸散表面の平滑さは蒸散煙霧除去のためのアシストガスによる乾燥により悪化するなどの問題があり、現実には計画通りの蒸散を行うのは極めて困難である。この蒸散に関する問題はPRKにおいて最も重要で、また本研究のテーマとも深く関わるので、これについては後述する。
【0052】
瞳孔領侵襲 もうひとつ重要な問題点は、直接視野に影響する瞳孔領に侵襲を与えるため、わずかな副作用も許されないことである。よって長期予後の安全性確認が非常に重要となる。予後は術後の創傷治癒過程に委ねられ、角膜形状が安定するまで約3ヶ月必要である。
【0053】
また、先に述べたとおり、現在角膜切除術は臨床試験が着実に進められながらも、実際には様々な問題が指摘されている、この中でも特に蒸散に関する問題は、術後の矯正結果に大きく影響するため極めて重大である。手術の対象はひとであり、誤った矯正は取り返しのつかない重篤な事態を引き起こす。ここでは、すでに述べた問題点のうち蒸散に関するものに絞って話をすすめる。そして、それに関連して本研究の必要性ならびに研究目的を提示する。
【0054】
蒸散に関する問題点として、まずレーザの照射条件が最適化されていないことが挙げられる。照射フルエンスは、現在のところ熱の影響が少なく、効率の良い照射エネルギーとしては200mJ/cm2近傍が妥当といわれている。これよりフルエンスを高くすると、蒸散後の表面状態は平滑になると報告されているが、高すぎると音波による内膜障害や実質細胞の刺激によってはん痕化を引き起こす危険がある。繰り返し周波数は、実用には5〜10Hzが用いられている。傾向として、繰り返し周波数が低いと蒸散面は平滑になり、繰り返し周波数が高いと蒸散機構における熱過程の機序が大きくなるため蒸散効率が上がる。
【0055】
このように繰り返し周波数の蒸散に及ぼす影響は大きいので、慎重に設定する必要がある。蒸散径は、開発当初4.0〜5.0mmであったが、次第に大口径化し6.0mm程度まで用いられるようになった。これは、大ロ径蒸散では創傷治癒過程が良好に進むと報告されたほか、位置決めの精度に対する緩和、瞳の大きい若年者への治療への対応などに利点があったためである。しかし大ロ径蒸散では、同じ矯正量を得るための蒸散深度が大きくなり、強度近視の矯正では角膜強度の低下や、大深度蒸散による過剰な実質治癒が問題となる可能性が考えられる。この大深度蒸散を抑制するために蒸散領域を多重化する方法が考案された。この方法により、蒸散深さを30〜40%減少させることができたが、角膜の混濁や矯正量の後退に関しては効果が得られなかった。今後も検討の余地があるといえる。
【0056】
蒸散に関する問題点では、レーザをどのような条件で照射するかという問題だけではなく、蒸散中ならびに蒸散後の角膜表面がどのような状態にあるか、また表面状態をいかに最適な状態に保つか、という問題もまた重要である。ArFエキシマレーザによる角膜蒸散では、蒸散時に角膜表面からキノコ雲状の煙霧が発生する。これによリレーザパルスが妨げられると、中央部蒸散量が低下したり、平滑な蒸散面を得ることができない可能性がある。この問題を回避するだめに、これまでに蒸散煙霧を効率良く除去するための窒素ガスの吹き付けが試行された。しかし、かえって表面が乾燥したために蒸散面の平滑さは悪化した。現在のところ臨床試験では蒸散煙霧の除去を行わなくても問題は起こっていない。今後蒸散時に発生する煙霧が照射の均一性に影響を与えないかどうか検討する必要はある。
【0057】
また、術中角膜では、蒸散による残存角膜からの生体液の浸出によって角膜表面の湿潤状態は過剰になる。近視治療では角膜中央部分のレーザ照射回数が多くなるために生体液の浸出が顕著である。この生体液が原因で中央部の蒸散が進まないために、中央が切れず島状に残り矯正量が得られないことが現在非常に問題となっている。現在日本で行われている臨床試験でもこのCENTRAL ISLANDが頻発し、この問題は重要視されている。
【0058】
以上のような角膜切除術に関する問題に鑑み、治療中における蒸散モニタが必要とされている。
【0059】
すなわち、術中角膜表面の湿潤状態は、蒸散により残存角膜から浸出する生体組織液によって過剰になる。生体組織液の吸収係数は角膜に比べて1桁程度低いことから、生体組織液が浸出すると蒸散能が低下する。このことから術前に立てた計画通りの蒸散を行うことができなくなり、目標の矯正量が得られなかったり、誤った矯正量を得る可能性がある。手術の対象となるのは人であり、一度行った矯正はやり直しがきかない。そのために、術中に矯正量を予測したり蒸散を精密に制御するために、術中の角膜の蒸散状態を実時間で正確に把握する必要がある。
【0060】
しかしながら現在までのところ、この蒸散状態把握のためのモニタ法に関する報告例はない。
【0061】
本研究では、PRKにおいて矯正量の安定性を高めるために、術中の蒸散状態を把握できるモニタ法を考案した。角膜の水以外の主たる構成成分であるコラーゲンのArFエキシマレーザの波長193nmに対する吸収係数2700cm-1は、80%を占める組織液の吸収係数より1桁程度高い。このため蒸散中の角膜実質表面での組織液の比率が大きくなれば、角膜表面近傍での見かけの吸収係数は減少する。そこで、蒸散中の角膜表面の見かけの吸収係数を測定することにより角膜表面の湿潤モニタが可能であると考えた。
【0062】
具体的な方法として、試料に対し非接触、非破壊で吸収係数と熱伝導率に関する情報が得られるパルス化放射分析法(Pulsed Photothermal Radiometry:PPTR)を用いることを考えた。PPTRでは、測定している放射光の時間変化に情報が含まれているので、外乱が多い系でも精度良い計測が可能である。PRK では蒸散治療用のArFエキシマーレーザをPPTRの励起光として共用できるので、放射光の計測系を追加するだけで計測が可能となる。PPTRの欠点は、吸収係数と熱伝導率のどちらか一方が既知でないともう一方の値が求められないことである。しかし、生体軟組織は含水率が65−80%と高率かつ変動幅が小さいことから、熱伝導率がほぼ水と等しいと考えて良く、PPTRで吸収変化の大まかな検知が可能となる。
【0063】
本研究では、PRK において矯正量の安定性を高めるために、PPTRを用いて角膜の表面放射赤外光を非接触経時的計測し、湿潤状態の検知による蒸散モニタ法の可能性について検討することを目的とした。
【0064】
また、PRK は数ある屈折率矯正手術の中でも、極めて画期的で優れた術式として現在急速に検討開発されている。しかしPRK にはまだ多くの問題点があり、そのひとつである術中の角膜表面の湿潤状態は蒸散速度に影響を与え非常に問題となっている。そこで本研究では、PRK において矯正量の安定性を高めるために、湿潤状態の検知による蒸散モニタ法としてPPTRを適用することを提案し、その有用性について検討することを目的とした。
【0065】
ここで、パルス化放射分析法は、パルス光を試料に照射し、試料からの放射赤外光を計測して試料の表面温度の変化を計測し、試料の照射光に対する吸収係数と熱拡散率を見積もる方法である。
【0066】
パルス化放射分析法の歴史は1961年にParkerらによって開発された閃光法(flash method)に端を発する。これは、試料に熱的短パルスを照射し、試料後面 での温度変化を熱電対を用いて計測し、試料の熱拡散率を求める方法である。1962年にDeemとWoodは熱電対の代わりに試料後面からの赤外放射透過光を赤外線検出素子である硫化鉛を用いて計測し、熱拡散率を求めることに成功した。この閃光放射分析法により熱拡散率の非接触計測が可能となリ、真空中や高圧下にある試料に対しても計測が可能となった。また赤外線検出器の応答時間は熱電対に比べて速いので、物理特性が時間的に変化する試料に対しても有効であった。
【0067】
現在のPPTRの原形は1983年にTamらによって開発された赤外放射反射光を計測する方法である。これにより、試料に対し非接触非破壊で吸収係数と熱拡散率を見積もることができた。反射型の放射分析法は、それまでの透過型の計測法では計測不可能だった生体などでの計測に適している。これ以降1980年代前半にPPTRによる多くの研究が行われた。1980年代の開発当初に比べると、現在ではPPTRはほとんど用いられなくなっている。というのも、この方法では吸収係数と熱拡散率のどちらか一方が既知でないともう一方を求めることができないため、分析科学の見地からはあまり賛同できる方法ではなかったからである。
【0068】
次に、前述したパルス化放射分析法の理論について説明する。
【0069】
PPTRによる放射赤外光は、照射パルス光の吸収による試料内の温度上昇から得られる。試料内部のエネルギー分布は、試料の光学特性と照射位置によって決定される。ここでは試料の光学特性と熱特性は均一であると仮定し、また吸収された光エネルギーはすべて直接熱に変換されると仮定する。実際には光化学的あるいは光機械的な過程によって組織の一部が蒸散されていると考えられ、これらの過程は、励起光波長や試料の物性に基づいてエネルギー保存則から計算する必要がある。照射面積は吸収長に比べて十分に大きいと仮定し、周囲への放射による熱損失や試料内での横方向への熱伝導は無視できるとする。また試料は光学的にも熱的にも半無限であると仮定する。これより先の理論はLeungとTam(1984)の研究による。
【0070】
1次元の熱拡散方程式により試料内の温度は次式のように表せる。
【0071】
【数1】
Figure 0003764222
ここで、Tは温度、αは試料の熱拡散率、tは時間、zは座標で試料表面を原点にとり試料内部方向を正とする。試料表面での熱損失が無視できると仮定すると、グリーン関数とフーリエ変換を用いて試料内の温度に関して数1を解くことができる。
【0072】
【数2】
Figure 0003764222
ここで、T(z’,0)は試料の光学特性、熱的特性や照射フル工ンスによって決まる初期温度分布である。
【0073】
測定された放射信号Sは重みづけされたStefan−Boltzmannの放射則を積分した値として得られる。
【0074】
【数3】
Figure 0003764222
ここで、T0はレーザ照射前の一様な試料の温度、ηは検出器の感度と集光能率を合わせた検出能、aDは検出面積、εは試料の放射率、σはStefan−Boltzmann定数、μIRは検出赤外波長のすべての領域にわたって平均した試料の吸収係数である。μIRは測定信号に影響する試料内の深さを決定する。すなわち、μIR≫1ならば検出信号の大部分は表面に近いところから放射されている。そしてμIR→0となるにつれて信号は得られなくなる。というのは、試料は赤外において透過となるからである。温度上昇(T(z,t)−T0)が小さければ、数3の[T(z,t)4−T0 4)]は二項定理を用いて展開することができる。T0 2オーダ以下の項を無視すると、
【数4】
Figure 0003764222
となる。もしμIR→∞ならば、数4は
【数5】
Figure 0003764222
となり、信号は試料表面の温度上昇を直接測定していることを意味している。
【0075】
均一な吸収のみの試料内での光の分布はBeerの法則によって表される。照射フルエンスが蒸散しきい値以下であると仮定すると、
【数6】
Figure 0003764222
ここでE(z)は試料内のフルエンス、Eincは試料表面におけるフル工ンス(試料表面での反射損失によって照射光は減少する)、μaは照射光波長における吸収係数である。もし、吸収された光がすべで熱に変換されるとすると初期温度分布は
【数7】
Figure 0003764222
ここでρcは試料の体積比熱である。この分布を数2に代入して、その結果得られた温度分布を数4に代入すると、次式が得られる。
【0076】
【数8】
Figure 0003764222
ここでf(x)=exp(x)erfc(√x)、そしてerfc(x)はxの誤差関数である。数8における信号は試料の光学特性や熱特性によって決まり、時間が経過するにつれて単調に減少する。赤外域の吸収は試料からの遠赤外放射に影響し、また試料表面の温度を見積もるのに重要である。特に、t=Oでの初期の温度上昇に一致する信号の最大値
【数9】
Figure 0003764222
はμIRとμaの相対的な大きさによって影響される。μIRがμaに比べてそれほど大きくないとき、数9の最後の項は一定でなくなり、検出信号は結果的に減少する。さらにまた信号は、μIRとμaとの積(μIRμa)に依存し、どちらかのパラメータが小さくなるにしたがって減少する。
【0077】
一般に生体試料の場合試料が混濁媒質であることが多く、このため試料内での光の拡散を考慮しなければならない。しかし角膜の場合、試料の透明度が高いので拡散の効果を無視しても問題ないと考えられる。なお、理論の導出には多くの仮定が用いられているので、実験結果を解析する際には仮定の妥当性に関して十分に検討する必要がある。
【0078】
前述した角膜湿潤モニタ装置の角膜における有効性を調べるために、まず、モニタ法として用いるパルス化放射分析法が正確に行えるか検討し、続いて湿潤状態を模擬したモデル試料ならびに実際の角膜を用いて表面放射赤外光を経時的非接触的に測定し、パルス化放射分析法による術中角膜表面の湿潤モニタ法の可能性を検討した。
【0079】
次に、本研究における実験原理について説明する。
【0080】
角膜の水以外の主たる構成成分であるコラーゲンのArFエキシマレーザの発振波長193nmに対する吸収係数は2700cm-1である。これに対して、角膜の約80%を占める組織液の吸収係数は1桁ほど低い。これは、200nm光の水に対する吸収係数が0.0691cm-1で、さらに生体組織液中のCl-などの無機イオンでは紫外領域の吸収が数百cm-1であることから推定される。このため、蒸散中の残存角膜からの組織液の浸出により角膜実質表面での組織液の比率が大きくなれば、角膜表面近傍での見かけの吸収係数は減少すると考えられる。
【0081】
一方、温度を持つあらゆる物体は、その物体を構成している原子、分子の振動と回転により、その表面温度で決まるスペクトル分布を持った電磁波を放射する(黒体放射)。ある温度における放射赤外線波長と分光放射発散度の関係はプランクの放射則で次式のように与えられる。
【0082】
【数10】
Figure 0003764222
ここで、Mは分光放射発散度、λは波長、hはプランク定数、Tは絶対温度、kはボルツマン定数、cは光速である。図2に温度をパラメータとして放射赤外波長とスペクトルの関係を対数軸と線形軸を用いて示す。温度が高くなるに従い熱放射は増加し、放射赤外光の波長は短くなる。式を全波長について積分すると、温度と放射発散度の関係を表すStefan=Boltzmannの放射則式が得られる。
【0083】
【数11】
Figure 0003764222
ここでσはボルツマン定数で5.62×10-12[W/cm2/K4]である。数11より、放射強度は温度の4乗に比例することがわかる。また、温度とその温度において放射強度が最大となる波長の関係は Wien の変位則で次式のように与えられる。
【0084】
【数12】
Figure 0003764222
試料にレーザを照射すると、試料では光の吸収により温度上昇が起こり、その後の時間経過とともに試料内での熱伝導により表面温度が下がる。通常、物質系内で温度上昇が起こり温度勾配ができると、熱は伝導、対流、放射により高温部から低温部へ伝達されるが、ここでは、物質の移動はなく、分子個別の運動による熱エネルギーの伝達なので熱伝導のみを考えればよい。熱の流れは Fourier の法則により
【数13】
Figure 0003764222
で、単位時間中に単位断面積を通過する熱量qは温度勾配に比例する。
【0085】
表面温度が下がると、表面からの放射スペクトルはそれに対応して長波長側へ動き、全放射赤外光強度は減少する。この放射光強度の時間変化を赤外線検出器で検知することによって、表面での温度変化を観測できる。試料の吸収係数が大きいと温度上昇が大きくなるので試料内の温度勾配は大きくなり、単位時間中に単位断面積を通過する熱量は多くなる。よって、表面の温度降下は速く、放射スペクトルの時間変化は大きい。吸収係数が小さい場合は表面の温度降下は小さく、放射スペクトルの時間変化は小さい。これより、表面の見かけの吸収係数が変化すると、放射スペクトルの時間変化が変化するので、表面放射赤外光の経時的測定によって表面の湿潤状態をモニタすることが考えられる。
【0086】
次に、本研究における実験装置および方法について説明する。
【0087】
表面湿潤モニタのための表面放射赤外光の測定系として、図3のような実験装置を構築した。PPTRの励起光源にはPRKの治療用レーザであるArFエキシマレーザを用いた。使用したレーザ装置は、浜松ホトニクス社製ArFエキシマレーザC3470発振波長193nm、パルス幅13ns(FWHM)である。表1にArFエキシマレーザの特性を示す。
【0088】
【表1】
Figure 0003764222
放射光測定系はレーザ装置から約2mの位置に設置した。これはレーザ装置からの電磁ノイズを避け、放電時の蛍光を空間的フィルタの原理で除去するためである。レーザ光をシグマ光機社製焦点距離1000mm球面平凸レンズで集光し試料に照射した。フルエンスは20mJ/cm2と100mJ/cm2の2種類で、繰り返し周波数は2Hzとした。照射面積はシグマ光機社製手動X−Yスリットで0.1cm2に限定した。レーザ照射による試料からの放射赤外光をFOC社製焦点距離250mm金凹面鏡とFOC社製ZnSeレンズ焦点距離2.5inch透過波長域0〜22μmで反射集光し、MCTで検出した。
【0089】
赤外光の検出には浜松ホトニクス社製MCT(HgCdTe)光伝導型素子3257Pを用いた。試料からの放射赤外光を計測するためには、検出信号の信号対雑音比(S/N)の特性を表す比検出能D*、立ち上がり時間、分光感度特性が測定波形に対して十分でなければならない。ここで、D*は、1cm2の検知素子に1Wの赤外光を照射したとき、1Hzの周波数幅を有する増幅回路に規格化したS/Nで、
【数14】
Figure 0003764222
で与えられる。ただし、Sは信号電圧(V)、Nは雑音電圧(V)、Δfは測定系の帯域幅(Hz)、Pは検出器への放射エネルギー(W/cm2)、Aは検出素子の受光面積(cm2)である。MCTと同じく赤外光検出器である光伝導型金ゲルマニウム検出器の特性の比較と波形の見積もりを表2に、分光感度特性の比較を図4に示す。
【0090】
【表2】
Figure 0003764222
測定波形の見積もりから、検出可能放射量は1.45×10-5Wで、これを両検出器で検出したときのS/Nは両検出器とも十分で、波形の速さすなわち減衰時間25μsは両検出器の立ち上がり時間に十分である。また分光感度特性は、今回の測定温度領域は20〜100℃と予測できるので長波長域で感度の良いMCTが適していると思われる。よってこれらの比較からMCTを使用した。
【0091】
MCTの動作原理は、半導体の内部光電効果を利用したもので、検出器に対し有効な波長を有する光量子数に比例した出力信号電圧または電流が得られる。図5に半導体のエネルギーバンドを示す。外部から入射した赤外光の光子エネルギーが吸収されると、価電子帯の電子が励起される。入射光子エネルギーが半導体のバンドギャップ以上であれば、励起電子は伝導帯に飛び上がり、自由電子となり、価電子帯の電子の抜け穴は正孔となって電子と正孔の対になる。
【0092】
バイアス回路を用いて外部から電界をかけ、それぞれ逆方向に移動分離して電流のキャリアとした。図6に設計したバイアス回路を示す。電源は回路の安定性を保つためにSHOWA ELECTORONICS社製Model327B低電圧直流電源を使用し、電源電圧は9Vとした。MCTの抵抗は47Ωである。MCTを流れる電流が最大許容電流40mAを越えないように負荷抵抗をMCTに直列につなぎ、抵抗値はMCTを流れる電流を最適バイアス電流15mAとするために553Ωとした。
【0093】
電圧の変化分をオシロスコープで観測するために素子の両端電圧をコンデンサ0.18μF×1MΩ=180msで、これは先に見積もった波形の減衰時間25μsより十分長く、波形には影響ない。またコンデンサは波形の変化が25μsと予測されるので、インダクタンス成分が少ないことから高周波特性の良いマイラコンデンサを使用した。波形はTektroniks社製プロセッシング・オシロスコープ7854型で観測した。微弱な放射光量を考慮して、増幅器プラグインは感度の高い、帯域1MHz入力インピーダンス1MΩの7A22型とし、時間軸プラグインは7B92A型とした。トリガにはArFエキシマレーザの放電回路のトリガを用いた。
【0094】
波形の取り込みは、レーザ光照射による表面の湿潤状態の変化と測定ごとの波形のばらつきの影響を考慮して、4または8波形の平均をとった。ただし、角膜の場合は1波形のみとした。測定波形をコンピュータ解析用に数値データとしてファイルにおとすために、横河電気株式会社製アナライジングレコーダAR1100A Model7021A54を使用した。7854型オシロスコープで観測した電圧時間波形は、時間軸を1V/unit−of−time、電圧軸を0.5V/unitで電圧波形に変換され背面端子から出力される。これをアナライジングレコーダのX−Y掃引によって観測しデータを記録した。
【0095】
実験は3種類の試料を用いて行った。まず、今回構築した反射型の放射光測定系で、モニタ法として用いるパルス化放射分析法が正確に行えることを確認するために、単層均一モデルを用いて実験を行った。装置の性能評価のための基礎的な検討を行うので、試料は安定した均一試料とした。次に、パルス化放射分析法により表面湿潤状態の変化を検知できるか検討するために、2層モデルを用いて実験を行った。PRK中の角膜表面の湿潤状態を、角膜と水分層の2層構造として考えた。最後に、実際のPRK中の角膜表面の湿潤状態をモニタできるか検討するために、摘出角膜を用いてパルス化放射分析法を行った。いずれの実験もレーザ照射による表面からの放射赤外光の時間変化を観測し、測定波形のピーク電圧値と1/e減衰時間を求めて結果を解析した。
【0096】
単層均一モデルでは、試料にモデル角膜として適当なゼラチン水溶液の凝固体を用いた。モデル角膜の波長193nmにおける吸収係数は角膜の2700cm-1と同程度のものがよい。角膜の波長193nmにおける吸収は、角膜の水以外の主成分であるコラーゲン内のアミノ酸プロリン(ピロリジン−2−カルボン酸:C59NO2)によるといわれており、ゼラチンでのプロリン含量は約20%でタンパク質の中で最も多い。また、コラーゲン内のプロリンのモル数は、コラーゲンの主成分である全アミノ酸に対して約2%である。これより、ゼラチンの波長193nmにおける吸収係数はコラーゲンの吸収係数とほぼ同じオーダであることが予測できる。
【0097】
そこで、ゼラチンとコラーゲンの吸収係数がほぼ等しいとして、試料のゼラチン重量パーセントを、ウシ角膜の含コラーゲン重量パーセントと一致させ、それをモデル角膜とした。ウシ角膜のコラーゲン乾燥重量702g/kgと含水率80%から、約15%と求められる。表面の湿潤が増すと見かけの吸収係数は減少すると考えられるので、モデル吸収係数が小さい方に7種類変化させ、15、10、5、3、1.5、0.5、0.15%とした。吸収係数αと溶液のモル濃度cの関係は
【数15】
Figure 0003764222
で、吸光係数はモル濃度に比例する。ここでεはモル吸光係数で、1cmの吸収層に対する物質とくに溶液の吸光度とモル濃度の比である。濃度が5.0%以下の試料では、試料保持のため凝固作用のある寒天0.2%を混ぜた。寒天では図7に示すように波長193nmに対する吸収係数は小さく、レーザ光を照射しても放射赤外光は検出されないので、波形には影響しない。
【0098】
2層モデルでは、PRK中の表面湿潤状態を模擬した試料として、モデル角膜とモデル水分層の2層構造とした。角膜の吸収係数2700cm-1とほぼ等しいと考えられるゼラチン15%試料を用いた。モデル水分層には、ゼラチン0.15%と寒天0.5%の混合試料を用いた。ゼラチン濃度をモデル角膜の1/100とすることでモデル水分層の吸収係数を30cm-1とした。モデル水分層には試料の安定性を保つために、凝固作用のある寒天を付加した。寒天は波長193nmに対する吸収を持たないためPPTR波形に影響しない。モデル水分層はモデル角膜の上に1層ずつ塗り重ねた。モデル水分層厚みは、シグマケミカル社製フェノールレッド0.5%で赤く着色したモデル水分層の20層の断面を実体顕微鏡下で測定した。
【0099】
摘出後24時間以内のブタ眼球から切り取った角膜を使用した。表面の湿潤状態には波長193nmにおいてヒトの生体液とほぼ等しい吸収係数を持つ生理食塩水を使用し、表面に付着した。
【0100】
ところで、放射光測定系のMCTと反射集光のための光学素子には分光特性があるため、試料表面からの全放射赤外光を全波長域にわたって検出することはできない。実験を行う前に、黒体放射源を用いて測定系の分光特性が測定にどのくらい影響するか調べた。図8に示す装置の試料位置に黒体放射源として坂口電熱社製シリコンラバーヒータを設置した。黒体放射源の面積は厚紙で作成したアパーチャで1cm2に限定した。放射光をクリスタルスペクトラ社製オプティカルチョッパを用いて1kHzに切り、オシロスコープで熱源とチョッパのはねの放射スペクトルの差に相当する振幅を測定した。熱源の温度はOMEGA ENGINEERING社製銅−コンスタンタンT型熱電対を用いて測定した。熱源の温度を−10℃〜160℃まで変化させた時の観測波形の振幅を、 Stefan=Boltzmann の法則による放射強度の理論曲線と比較し、その結果を図9に示した。温度110℃までは分光特性の影響は無く、温度が120℃以上になると分光感度が低下することにより、放射スペクトルは少なめに観測されることが分かった。これより、測定温度領域が110℃までであれば分光特性による影響は全く無いといえる。
【0101】
次に、本実験についての結果および考察について述べる。
【0102】
まず、単層均一モデルを用いた予備実験について述べる。
【0103】
(1)放射光強度の時間変化と吸収係数の関係
図10及び図11は、試料にArFエキシマレーザ光を照射し、表面放射赤外光をMCT(HgCdTe光伝導型検出器)で受光した時に得られたMCT出力電圧の時間変化波形(PPTR波形)を示す。図10及び図11の波形は、MCT出力電圧をACカップリングしてオシロスコープで観測した波形で、MCT出力電圧の交流成分のみを表している。MCT出力電圧、受光した表面放射赤外光強度に対して線形な特性を持つので、図10及び図11の縦軸を表面放射赤外光強度の相対値と考えて良い。ただし、MCTの受光感度はピーク波長の12μmで103V/Wである。
【0104】
放射光強度はいずれもレーザ照射と同時に急激に上昇し、その後の時間経過とともに単調に減衰している。これより、試料表面ではレーザ光照射と同時に急激に温度が上昇し、その後の試料内での熱伝導により表面温度は低下していることが分かる。立ち上がりはレーザのパルス幅とほぼ同じ13ns程度と考えられるが、MCTの立ち上がり時間は1μsであることからこの立ち上がりには追従できていない。
【0105】
しかし、波形の1/e減衰時間は最も短いもので0.8ms(フルエンス20mJ/cm2、ゼラチン濃度15%)でこれにはMCTの立ち上がり時間による影響はなく、さらに1/e減衰時間は最も長いもので30ms(フルエンス20mJ/cm2、ゼラチン濃度0.15%)で、これはバイアス回路の時定数180msと比較して1/6と短いことから回路による影響も無いと考えられる。PPTR測定波形のMCT出力電圧値は最大でも2mVで、図9に示した黒体放射源を用いた放射スペクトルとMCT出力電圧の関係では黒体放射源の温度が100℃のときMCTの出力電圧が2.5mVであったことから、測定温度領域は100℃以内と推測できる。これより、測定系の分光特性の影響はほとんど無いといえる。
【0106】
図10及び図11ではわかりにくいが、時間軸を細かくとった場合PPTR波形の立ち上がりのピーク部分にノイズが観測された。これは、図12に示すようなレーザからのノイズと思われる。このノイズはバイアス回路を切って、さらにレーザの出射口を閉じたときにも観測される。このノイズはレーザのトリガ電圧測定時にも同様に観測されている。測定に用いたオシロスコープの電源はレーザとは別系統を使用していることから、この波形はレーザの放電時に発生し空間を伝わってきた電磁ノイズである可能性が高い。ノイズ波形の時間幅はトリガからおよそ5μsなので、以後PPTR波形の0〜5μsは無視することにする。
【0107】
以上より、PPTR測定波形は、波形のピークの絶対値とトリガから0〜5μsでの値は正確ではないが、波形の減衰時間は測定できることが分かった。続いて(2)で行う放射光強度の時間変化と吸収係数の関係の解析ではこれをふまえて考察を行う。
【0108】
(2)放射光強度の時間変化と吸収係数の関係
図10及び図11に示した濃度すなわち吸収係数の異なる7種類の試料に対して得られたPPTRによる表面放射赤外光強度の時間波形のそれぞれについて、その波形のピーク電圧値とそこからの1/e減衰時間を求めた。なお、図10の(a)〜(d)はフルエンスを20mJ/cm2に対する赤外光の強度の時間変化を示すものであり、図11の(a)〜(d)はフルエンス100mJ/cm2に対する赤外光の強度の時間変化を示すものである。
【0109】
この結果得られた試料の吸収係数と表面放射赤外光強度の1/e減衰時間との関係を図13に示す。ここで、ピーク電圧値は前項(1)で述べたノイズを考慮してt=5μsでの値とした。また、前項(1)で述べた通りピーク電圧値は放射光強度の絶対値とは異なるが、ここではピーク値の相対的な変化に注目しているのでMCTの出力電圧値で比較した。
【0110】
図13(b)でフルエンスを20mJ/cm2としたとき、試料の濃度すなわち吸収係数が減少するにつれて放射光強度の1/e減衰時間は長くなった。ゼラチン濃度15%と5%で比較すると、減衰時間は420μsから1msにほぼ2倍長くなった。濃度が3%より低くなると、減衰時間は30msと、15%の時の約100倍も長い。ここで試料内の熱拡散時間、すなわち試料表面の熱が波長193nmの吸収長3.7μsに拡散されるまでの時間は、α[cm-1]を吸収係数、D[cm2/s]を熱拡散率とすると
【数16】
Figure 0003764222
であり、熱拡散時間は吸収係数の2乗に反比例するので、吸収係数が小さくなるにつれて熱拡散時間は顕著に長くなる。熱拡散時間は長くなれば、放射光強度の1/e減衰時間が長くなるので、結果として吸収係数が小さくなれば1/e減衰時間は長くなると考えられる。フルエンスを100mJ/cm2としたとき、結果はフルエンスを20mJ/cm2とした時と同様に放射光強度の1/e減衰時間は試料の濃度すなわち吸収係数が減少するにつれて長くなった。
【0111】
同じく図13(a)に示したMCT出力ピーク電圧は、ゼラチンの濃度が5%までは濃度が高くなると増加する傾向を示した。これは、試料の濃度が高いほど吸収係数が大きく、そのため単位体積あたりに蓄積されるエネルギーが大きいので温度上昇が大きいと考えられる。ゼラチン濃度5%を越えるとピークは低下した。この低下はPPTR中に起こってた蒸散が原因と考えられる。これについては(3)で検討する。これより、フルエンスが20〜100mJ/cm2のとき、吸収係数が約1000cm-1以下の領域ではMCT出力ピーク電圧と吸収係数との間には、照射フルエンスが高いほど表面の温度上昇が大きいという予想通りの相関が見られるが、それ以上では予測とは逆の傾向を示した。つまり、MCT出力ピーク電圧と吸収係数との間には一定の相関は得られない。よって、PPTRでは波形のピーク値だけでは吸収係数を検知するのは難しいといえる。
【0112】
図14に放射光強度の1/e減衰時間の理論値を破線及び点線で示し、実験値と比較した。比較に用いた理論値は、前述した放射光強度を表す数6において、簡単のために試料の放射光赤外光波長における吸収係数μIRは試料の波長193nmにおける吸収係数μaより十分に大きいと近似した次式を用いた。
【0113】
【数17】
Figure 0003764222
理論値は、ゼラチンの吸収係数の正確な値が分かっていないので、試料のゼラチン濃度がウシ角膜の含コラーゲン重量パーセントと等しい15%を、角膜の吸収係数2700cm-1にほぼ等しい3000cm-1として、μaに3000〜30cm-1を代入した。熱拡散率Dと比熱cと密度ρは水で近似してそれぞれD=0.0013cm2/s、c=1.00g/cm3、ρ=4.18J/g/Kとし、さらに測定系の光学素子や検出立体角などすべての損失を考慮した損失係数ηは計算から求めて2.4×10-4、放射率は生体の0.98、検出面積aDは0.1cm2。試料の初期温度T0は室温と等しい20℃とし、これらの値を数13に代入して理論PPTR波形を求め、その波形の1/e減衰時間を理論値として実験値と比較した。パルス化放射分析法の理論の説明において述べたとおり、PPTRの理論では試料を半無限均一試料とし、熱の拡散は1次元のみと仮定している。これに対して実験では、試料は均一で、厚みは10mmで波長193nmの試料への吸収長3.7μmに比べて十分大きいので、試料の横方向への熱伝導はほぼ無視でき、1次元熱拡散の仮定もほぼ問題ないと思われる。比較の結果、実験から求めた吸収係数と1/e減衰時間の関係は、理論値と傾向が良く合っていることが分かった。結果と理論値との差異も認められるが、これはPPTR中の蒸散が関係していると思われる。このことに関しては(3)で検討する。
【0114】
以上より、吸収係数と PPTR 測定波形の1/e減衰時間の間には相関があり、これは理論値と良く合った傾向を示した。本実験装置でその相関を正確に検知できることを確認できた。
【0115】
(3)放射光強度の時間変化に対する蒸散の影響
PPTRの理論では、レーザ照射は蒸散しきい値以下を仮定しているが、実験中、すべての濃度の試料で蒸散は起こっていた。このことは、レーザ照射後の試料の表面状態の観察と照射中に発生する音によって確認した。PPTRは放射光計測なので蒸散時に発生するプルームの放射赤外光の影響でPPTR波形が測定できないことが最も懸念される。BorらによるArFエキシマレーザを用いてフルエンス10mJ/cm2で角膜を蒸散した報告では、レーザ照射後蒸散は70ns後に始まり25μs後に終わった。PuliafitoらによるArFエキシマレーザを用いてフルエンス900mJ/cm2で角膜を蒸散した報告では、レーザ照射後蒸散は5〜15μsの間中に起こった。PPTR波形の減衰時間は短くとも数ms程度であったことから、プルームの影響は問題ないと考えられる。
【0116】
蒸散による影響はまた、異なったフルエンスを用いたときの実験結果における差異や、実験結果と理論値との差異にも大きく関係すると考えられる。まず、図13でフルエンス20mJ/cm2と100mJ/cm2の実験結果を比較する。ゼラチン濃度に対するピーク電圧と1/e減衰時間の変化を見ると、ゼラチン濃度が5%までは、濃度が高い方が吸収係数が大きいので試料の温度上昇は大きくその後の熱拡散も速いというPPTRの理論から予測される結果が得られている。つまり、濃度5%まではゼラチン濃度が高くなるとMCT出力ピーク電圧は高くなり、1/e減衰時間は短くなっている。さらにフルエンスが高い方がピーク電圧は高く、1/e減衰時間は短くなっている。しかし、5%以上では、ピーク電圧は下がり、1/e減衰時間はフルエンスが小さい方が短くなっている。これは、濃度が5%より大きくなると吸収したエネルギーが蒸散時に発生するプルームの運動エネルギーに使われた可能性が高いことが考えられる。フルエンスが100mJ/cm2の方が蒸散時に発生するプルームへの熱エネルギーの受け渡しが大きく、このためピーク電圧の低下が顕著で1/e減衰時間も20mJ/cm2の時より長くなったと考えられる。
【0117】
PPTR波形の1/e減衰時間の実験結果と理論値を比較した図14では、フルエンスが100mJ/cm2のときと20mJ/cm2の時のいずれも、吸収係数1000cm-1を境に吸収係数が小さくなると1/e減衰時間は理論値より短く、吸収係数が大きくなると理論値より長くなっている。吸収係数が1000cm-1より小さい領域で、結果の方が理論値より全体的に短いのは、光解離による蒸散効率が悪いことを示唆している。
【0118】
つまり、光解離によって光吸収体積内の分子量が急激に増加すると、そこでの圧力が一気に高まる。このとき上層の分子の存在により飛散できない試料深部では、発生した圧力が熱に変換されて温度が高くなり、これにより試料内の熱拡散は速くなり波形の減衰時間が短くなったと考えられる。また、実験結果と理論値の差異は、吸収係数が小さいほど大きくなっている。この差異の割合を理論値を実験値で割って求めると、フルエンスが20mJ/cm2で吸収係数が30、100、300、600、1000cm-1のときそれぞれ、43.0、12.4、6.8、3.5、1.3である。フルエンスが100mJ/cm2の時もほぼ同じオーダである。これもまた、吸収係数が小さいほど、光解離による蒸散効率が悪いことを示唆していると思われる。
【0119】
つまり、吸収係数が小さいほど吸収長が長いので、光吸収体積内の分子が飛散するまでにその体積内で熱になる可能性が高いと考えられる。吸収係数が1000cm-1より大きい領域では、結果の方が理論値より全体的に長くなっている。これは、最初に考察したように蒸散時に発生するプルームへの熱の損失が大きいことによると考えられる。
【0120】
以上より、PPTRの理論では蒸散は起こらないと仮定しているので、実験結果との一致は不可能であるが、逆に結果や理論との差異から蒸散の影響を考慮することにより、蒸散機構に関する考察を行うことができた。
【0121】
ところで、これまでの結果に用いたPPTRの理論値の計算において、試料の放射赤外光波長における吸収係数が試料の波長193nmにおける吸収係数より十分に大きいという近似を用いた。本研究で用いた試料の193nm光に対する吸収係数は30〜3000cm-1で、6〜10μmの赤外光に対する試料の水に対する吸収係数は100〜1000cm-1とされる。よって、試料の193nm光に対する吸収係数が赤外光に対する吸収係数より大きくなる領域では近似は成り立たないので、理論値との差異は大きくなると考えられる。しかし、実際には蒸散が起こっているということはすでに理論とは異なっている。よって、近似による理論値との差異ではなく蒸散による差異を主に検討する方が妥当ではないかと考えた。
【0122】
次に、2層モデルを用いた実験について述べる。
【0123】
(1)放射光強度の時間変化とモデル水分層厚みの関係
図15(a)〜(d)は、試料にArFエキシマレーザを照射し、表面放射赤外光をMCTで受光した時に得られたMCT出力電圧の時間変化波形(PPTR波形)を示す。均一単層モデルを用いた実験と同様、図15の波形は、MCT出力電圧をACカップリングしてオシロスコープで観測した波形で、MCT出力電圧の交流成分のみを表している。MCT出力電圧、受光した表面放射赤外光強度に対して線形な特性を持つので、図10及び図11の縦軸を表面放射赤外光強度の相対値と考えて良い。波形の立ち上がり時間に関しても0〜5μsはノイズのため無視した。均一単層モデルのときと同様に放射光強度はレーザ照射と同時に急激に上昇し、その後の時間経過とともに単調に減少した。
【0124】
この測定波形からMCT出力ピーク電圧と1/e減衰時間を求め、これらとモデル水分層厚みの関係を図16に示した。放射光強度の1/e減衰時間は、モデル水分層厚みを増加させるにつれて長くなった。これは、上層のモデル水分層の吸収係数が下層のモデル吸収係数より小さいことによると考えられる。つまり、PPTR観測波形は、上層表面の温度降下による放射光強度と下層表面の温度降下による放射光強度の和に相当する波形であると考えられる。上層は吸収係数が小さいので1/e減衰時間は長く、そのため上層が厚くなれば観測される波形の1/e減衰時間は長くなると考えられる。
【0125】
下層のモデル角膜表面で発生した熱が上層のモデル水分層中を熱伝導するために、1/e減衰時間が減少した可能性も考えられるが、その寄与は前述した「単層均一モデルを用いた予備実験」で述べた理由から少ないと考える。上層での励起光の吸収により、下層に到達したエネルギーが減衰したと考えるのは難しいと思われる。それは、Beerの法則によるモデル水分層での吸収は
【数18】
Figure 0003764222
で、これよりほとんど照射光の強度は下層表面では減衰していないからである。1/e減衰時間は、モデル水分層の厚みが170μmの時に一番長く15msであった。これは、モデル水分層と同じゼラチン濃度の均一単層モデルでの減衰時間30msに比べて半分である。
【0126】
ここで、モデル角膜およびモデル水分層の波長193nmに対する吸収係数は3000cm-1、30cm-1とすると、吸収長はそれぞれ3.3μm、333μmである。モデル水分層の厚みは最大で170μmで、モデル水分層の吸収長333μmに比べて短いので、照射されたArFエキシマレーザ光はモデル角膜に到達し、しかも吸収はほとんどモデル角膜でおこっていると考えられる。このことから、2層合わせた表面近傍での吸収係数を、水分層、角膜層それぞれの吸収の厚さの比率で平均化することにより、それを見かけの吸収係数として以下の計算から求めた。
【0127】
【数19】
Figure 0003764222
表3に計算結果を示す。
【0128】
【表3】
Figure 0003764222
計算からもモデル水分層が厚くなると見かけの吸収係数が減少することがわかった。次に表3のそれぞれのモデル水分層厚みに対する見かけの吸収係数における1/e減衰時間を単層均一モデルの実験結果から求め、2層モデルの結果と比較した。これを図17に示す。傾向だけでなく、値も良く一致した。これより、モデル水分層の厚みの変化を見かけの吸収係数の変化として記述することが可能であると考えられる。なお、図17において、計算値は、モデル水分層厚みから計算した見かけの吸収係数での1/e減衰時間を単層均一モデルの実験結果から求めた値である。
【0129】
(2)2層試料のPPTRの解析
試料が2層構造の場合、励起光に対して上層より下層の方が吸収係数が高いと、PPTR波形はレーザ照射とほぼ同時に起きる下層表面の急激な温度上昇による赤外線のピークと、下層表面の熱が上層(厚さd、熱拡散率D)を熱伝導して上層表面から放射される遅れたピークが得られることがある。この遅れtは1次元熱拡散方程式より、
【数20】
Figure 0003764222
と表される。ここでd[cm]は上層試料厚さ、D[cm2/s]は熱拡散率である。
【0130】
Tamらの報告によると、下層試料に黒ゴム、上層試料に厚さ45μmのポリエステルを用いて反射型のPPTRを行ったところ、波長590nmのフラッシュランプ励起色素レーザ光照射直後に急峻なピークが得られ、それから8ms後に緩やかなピークが得られたという。これは、最初のピークは下層表面での温度上昇による放射赤外光が上層を透過したもので、8ms後のピークは下層表面の熱が上層を熱伝導して上層表面から遅れて放射されたものである。今回行った実験では、上層試料は厚さ20〜200μmで熱拡散率は水と近似してD=0.0013[cm2/s]で、励起光に対する吸収係数は2桁ほど下層の方が高くなっている。今回の2層モデル試料でPPTRを行った場合、(6)式から初期の温度上昇に続いて、上層中を熱伝導した波形が約1〜100ms遅れて観測されると予測できる。しかし、そのような遅れたピークは観測できなかった。よって、今回の結果は2層構造の試料として上層厚みを解析するのではなく、表面の見かけの吸収係数を先の計算により解析することにした。
【0131】
最後に、摘出角膜を用いた実験について述べる。
【0132】
図18は、角膜表面の湿潤状態と、PPTR波形の1/e減衰時間との関係を示し、図19は角膜表面の各湿潤状態に対応する実体顕微鏡写真を示し、図20は、各湿潤状態におけるPPTR波形を示すものである。湿潤状態は定量化することが非常に困難なため、各湿潤状態に乾燥している順に1〜4の状態番号で表すことにする。1は空気中で乾燥させた状態、2は乾燥も湿潤もしていないふつうの状態、3は生体液モデルの生理食塩水を多量に付着した状態である。なお、−1は空気中で乾燥させた状態を示している。
【0133】
波形は2層モデル実験とほぼ同じ波形が得られた。1/e減衰時間は水が多くなると長くなった。これは2層モデルの結果と同じ傾向を示した。生理食塩水は少ないときで2.5ms、多いときで4msで、2層モデルの実験結果と比較するとこれらはモデル水分層厚みの50〜80μmでの減衰時間に相当する。また、角膜の普通の表面状態では減衰時間は1.8msで、モデル角膜の減衰時間0.4msに比べて比較的長く、この事からモデル角膜の吸収係数はブタ角膜より高かったと考えられる。
【0134】
以上より、実際の角膜を用いてPPTRを行い、表面の生理食塩水の存在を測定波形の1/e減衰時間から定性的に求めることができた。これにより、角膜表面の湿潤状態のモニタ法としてPPTRが有効である可能性が示された。
【0135】
本実験では、3種類の試料を用いて表面放射赤外光を経時的非接触に測定した。単層均一モデルでは、試料の吸収係数とPPTR波形の減衰時間との間には吸収係数が小さいと減衰時間が長いという相関があり、それを本実験装置で検知できることを確認した。この相関は理論と良く合った傾向を示したことから、本実験装置の性能が湿潤モニタ法のためのPPTRに妥当であることが確認できた。2層モデルでは、模擬湿潤状態が表面近傍の見かけの吸収係数の変化として測定波形の1/e減衰時間から検知できることが分かった。摘出角膜を用いた実験でも、同様な結果が得られ、測定波形の1/e減衰時間から表面の湿潤状態に関する情報が得られることを確認した。以上よりPPTRが角膜表面の湿潤状態のモニタ法として適用できる可能性が示された。
【0136】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による角膜湿潤状態モニタ装置は、角膜に向けてパルス光を照射する波長200nm近傍の紫外線レーザ光源と、パルス光の照射により角膜から放射される赤外光を検出する赤外光検出手段と、赤外光検出手段で検出された検出信号に基づいて、赤外光の強度の時間変化をモニタするモニタ手段とを備える構成としたので、パルス光照射により角膜から放射される赤外光の強度の時間変化に基づいて、角膜の湿潤状態をモニタすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る角膜湿潤モニタ装置の好適な実施形態を示す概略図である。
【図2】黒体の放射発散度の波長依存性を示すグラフである。
【図3】 PPTRの実験に用いられる装置構成を示す概略図である。
【図4】赤外線検出器の分光感度特性を示すグラフ図である。(a)及び(b)は、それぞれMCT検出器及び金ゲルマニウム検出器についての分光感度特性を示すグラフである。
【図5】半導体の光伝導現象を模式的に示す概略図である。(a)、(b)及び(c)はそれぞれ真性半導体、n型センサ及びp型センサについての概略図である。
【図6】MCTのバイアス回路を示す回路図である。
【図7】寒天0.4%試料のPPTR波形を示すグラフ図である。(a)及び(b)はそれぞれフルエンス100mJ/cm2、20mJ/cm2の場合のグラフである。
【図8】温度較正に関する実験装置の構成を示す概略図である。
【図9】測定系の分光特性の影響を示すグラフである。
【図10】均一単層モデルのPPTR波形を示すグラフである。(a)〜(d)はフルエンス20mJ/cm2の場合のグラフであり、(a)〜(d)において、ゼラチン濃度は上から15、5.0、1.5、0.5%である。
【図11】均一単層モデルのPPTR波形を示すグラフである。(a)〜(d)はフルエンス100mJ/cm2の場合のグラフであり、(a)〜(d)において、ゼラチン濃度は上から15、5.0、1.5、0.5%である。
【図12】 PPTR波形立ち上がり時のノイズ波形を示すグラフである。(a)はArFエキシマレーザのトリガ回路の出力波形で、上は時間軸が500μs/unitで、下は500nsに拡大した波形を示している。(b)は上がArFエキシマレーザのトリガ回路の出力波形で下はPPTR観測波形である。
【図13】均一単層モデルのPPTR波形の解析結果を示すグラフである。(a)はゼラチン濃度とPPTR波形のピーク電圧の関係を示すグラフ図であり、(b)はゼラチン濃度とPPTR波形の1/e減衰時間の関係を示すグラフ図である。
【図14】均一単層モデルを用いて行ったPPTR波形の吸収係数と1/e減衰時間の関係を示すグラフ図である。
【図15】フルエンス20mJ/cm2の場合の2層モデルのPPTR波形を示すグラフ図である。
【図16】2層モデルに関する実験におけるモデル水分層厚みとPPTR波形のピーク電圧およびPPTR波形の1/e減衰時間の関係を示すグラフ図である。
【図17】2層モデルに関する実験におけるモデル水分層厚みと1/e減衰時間との関係を示すグラフ図である。
【図18】摘出ブタ角膜についてのPPTR波形の1/e減衰時間と、角膜の湿潤状態を示すグラフ図である。
【図19】図18の各湿潤状態に対応する角膜表面状態を示す実体顕微鏡写真である。(a)は初期状態、(b)は生理食塩水で湿ったガーゼで拭った状態、及び(c)は生理食塩水を表面に滴下した湿潤状態、をそれぞれ示す実体顕微鏡写真である。
【図20】図19の各実体顕微鏡写真に対応するPPTR波形を示すグラフ図である。(a)、(b)及び(c)は、それぞれ図19(a)、図19(b)及び図19(c)の実体顕微鏡写真に対応している。
【符号の説明】
1…ArFエキシマレーザ光源(波長200nm近傍の紫外線レーザ光源)、2…角膜、5…光伝導素子(赤外光検出手段)、7…波形測定処理装置(モニタ手段)。

Claims (1)

  1. 角膜に向けてパルス光を照射する波長200nm近傍の紫外線レーザ光源と、
    前記パルス光の照射により前記角膜から放射される赤外光を検出する赤外光検出手段と、
    前記赤外光検出手段で検出された検出信号に基づいて、前記赤外光の強度の時間変化をモニタするモニタ手段と、
    を備えることを特徴とする角膜湿潤状態モニタ装置。
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