JP3762350B2 - 変位計測方法及び変位計測装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、トンネル内若しくはその周辺の岩盤、地下に掘削若しくは開削された岩盤、土質若しくは覆工壁面、支保、地下構造物、斜面、地表露頭、盛土、ダム、又は地上構造物等の計測対象を撮影した写真画像により変位を計測する変位計測方法及び変位計測装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
例えば各種土木構造物を施工するに当たっては、設計値や設計方法の考察、施工技術へのフィードバック、更には安全管理を行うために、様々な物性値の計測が行われる。なかでも変位計測は、基礎地盤や構造物の挙動を明らかにするために重要な計測である。
【0003】
トンネル工事においてよく用いられるNATM工法(New Austrian Tunnelling Method)を例に挙げると、坑内観察調査、壁面の相対変位及び天端沈下の計測等、或いは地中変位の計測等は、A或いはB計測などと称され、トンネルと周辺地山の安定、施工法の改善、更には地表面沈下や近接構造物への影響を検討するためのものとして重要である。
【0004】
また、例えば市街地でのトンネル施工時では、地上の構造物への影響を考慮する必要があり、地下だけでなく地上の構造物の変位計測も土木構造物の施工には重要なものとなる場合が多い。
【0005】
更に、山留め工事や擁壁の工事でも山留め壁や擁壁の変形を計測することは盛んに行われており、道路盛土工事における盛土の変形や地盤の沈下などの変位、或いはダム施工時の構造物の変位計測など、各種地下及び地上構造物の工事における調査、設計、施工及び管理における変位計測の例を数多く挙げることができる。
【0006】
前記変位の計測には、沈下計、傾斜計、地中ひずみ計、伸縮計等が用いられ、更にNATMなどのトンネル工事や岩盤斜面の壁面の変位計測には、レベル、コンバージェンスメータ、エクステンションメータ、光波測距機、及びトータルステーションといった機器を用いた測量などが広く用いられている。
【0007】
これらの機器と計測手法を用いた変位計測においては、以下の項目が問題となっている。
▲1▼目的とする位置にて計測が可能か否か。すなわち、機器が実際に設置若しくは取り付け可能であるかどうかだけでなく、機器の耐久性や計測値に与える作業環境の影響がどの程度生じるかを検討する必要がある。例えば漏水や落雷などの不測の事態や、断線などの機器の故障が生じる危険性がないのかどうかを考慮に入れる必要がある。
【0008】
また、例えば落石を予測するための当該石の動態観測や、人が近づき得ない場所の対象物を計測する際には、計測機器が設置できず、測定不可能であることが多い。
▲2▼経済性の問題はないか。計測点が多数必要な場合は、特に計測機器のコストや計測に要する人的費用が高くなる場合が多い。また、自動的に計測値が得られるか否かも時間的、人的な経済性を左右する。NATM工事などにおいて前記計測機器を用いる場合、測定作業自体のコストも高くなるため、多数の計測点を安価・迅速に計測するのは困難である。
▲3▼計測値の精度が十分であるか否か。特定の計測点での精度が十分であっても、その地点のみの値であり、面的な広がりをもって計測される訳ではない。面的な広がりのある変位分布についてよい精度が要求される場合には、多数の計測点の変位を精度良く計測することが必要となり、経済性を考慮した場合、施工・管理に反映させる上で十分なものとはならない場合が多い。
【0009】
これまで用いられてきた計測機器や計測方法は、前記問題点の何れかを有している。例えば、内空変位測定に用いるコンバージェンスメジャは測定前のボルトの設置及び測定作業そのものに人的、経済的、時間的コストがかかる。また遠方からの天端沈下測定に用いる光波測距機は、機器費用が高く、移動などに難が多い。すなわち、岩盤等における任意の計測点を計測し得て面的な広がりのある変位分布を精度良く然も安価・迅速に計測できる変位計測方法及び変位計測装置は未だ開発されていないのが実状である。
【0010】
本発明は、従来技術に存した上記のような問題点に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、岩盤等の計測対象における計測点を任意に選ぶことができ、従来の機器では設置し難かった場所や人が近づくことのできない対象物でもその変位を求めることができ、低コストで計測対象における面的変位分布を容易且つ迅速に精度良く求めることができる変位計測方法及び変位計測装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の変位計測方法は、
計測対象の変位の前後それぞれにおいて、内部標定要素が未知の又は十分に検定されていないデジタルカメラを用いて複数の位置から各基準計測点を含む計測対象を撮影して複数の写真画像を得、
変位の前後における写真画像上の基準計測点の座標に基づき、標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出し、それらの標定要素及び基準計測点の三次元座標に基づき任意の変位計測点の三次元座標をそれぞれ算出してその変位を求める変位計測方法であって、
未知量の近似値にウエイトWを与え、DLT法等の解析法を用いて、標定要素及び基準計測点の三次元座標について精度の良い近似値を取得する工程Aと、
標定要素及び基準計測点の三次元座標の精度の良い近似値に基づき、セルフキャリブレーション法を使用したバンドル法を利用して最小二乗法を繰り返し実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出する工程Bを有し、
前記工程Aにおいては、収束計算により粗い近似値を取得し、その粗い近似値に基づく収束計算により精度の良い近似値を取得する2段階の近似値取得を行ない、
前記工程Bにおける最小二乗法実行の繰り返しにおいて、写真画像における基準計測点座標の観測値に対し、異常値を探索するためのウエイト関数によるウエイトPを与えて最小二乗法を実行し、その計算結果と写真画像における基準計測点座標の観測値との残差を計算し、しきい値を設定してそのしきい値より小さいウエイトPに対応する観測値を異常値と認定し、認定された異常値を除去して再度最小二乗法を実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標の精度を高める工程を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の変位計測方法は、
計測対象の変位の前後それぞれにおいて、内部標定要素が未知の又は十分に検定されていないデジタルカメラを用いて複数の位置から各基準計測点を含む計測対象を撮影して複数の写真画像を得、
変位の前後における写真画像上の基準計測点の座標に基づき、標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出し、それらの標定要素及び基準計測点の三次元座標に基づき任意の変位計測点の三次元座標をそれぞれ算出してその変位を求める変位計測方法であって、
未知量の近似値にウエイトWを与え、DLT法等の解析法を用いて、標定要素及び基準計測点の三次元座標について精度の良い近似値を取得する工程Aと、
標定要素及び基準計測点の三次元座標の精度の良い近似値に基づき、セルフキャリブレーション法を使用したバンドル法を利用して最小二乗法を繰り返し実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出する工程Bを有し、
前記工程Aにおいては、収束計算により粗い近似値を取得し、その粗い近似値に基づく収束計算により精度の良い近似値を取得する2段階の近似値取得を行なうことを特徴とする。
また、本発明の更に別の変位計測方法は、
計測対象の変位の前後それぞれにおいて、内部標定要素が未知の又は十分に検定されていないデジタルカメラを用いて複数の位置から各基準計測点を含む計測対象を撮影して複数の写真画像を得、
変位の前後における写真画像上の基準計測点の座標に基づき、標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出し、それらの標定要素及び基準計測点の三次元座標に基づき任意の変位計測点の三次元座標をそれぞれ算出してその変位を求める変位計測方法であって、
標定要素及び基準計測点の三次元座標の近似値に基づき、セルフキャリブレーション法を使用したバンドル法を利用して最小二乗法を繰り返し実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出する工程Bを有し、
前記工程Bにおける最小二乗法実行の繰り返しにおいて、写真画像における基準計測点座標の観測値に対し、異常値を探索するためのウエイト関数によるウエイトPを与えて最小二乗法を実行し、その計算結果と写真画像における基準計測点座標の観測値との残差を計算し、しきい値を設定してそのしきい値より小さいウエイトPに対応する観測値を異常値と認定し、認定された異常値を除去して再度最小二乗法を実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標の精度を高める工程を有することを特徴とする。
【0013】
計測対象は、例えば、トンネル内若しくはその周辺の岩盤、地下に掘削若しくは開削された岩盤、土質若しくは覆工壁面、支保、地下構造物、斜面、地表露頭、盛土、ダム、又は地上構造物等を任意に選択し得る。
【0014】
【発明の実施の形態】
岩盤等における変位の計測は、変位の前後における写真画像上の基準計測点の座標に基づき任意の変位計測点(基準計測点を含む)の三次元座標をそれぞれ算出することにより行い得る。基準計測点は、複数の位置(計測対象である被写体に対する角度の異なる複数の位置)から撮影したものであることを要する。この写真画像は、基準計測点及び変位計測点を含む被写体を撮影して得るものであってもよく、予め基準計測点及び変位計測点を含む被写体が撮影されたものを用いるものであってもよい。
【0015】
写真画像上の座標に基づく任意の変位計測点の三次元座標の算出は、
(1)写真画像座標の計測[写真画像における被写体上の所要の基準計測点の座標の計測]
(2)写真画像の近似解析[写真撮影の標定要素及び基準計測点の三次元座標についての精度の良い近似値の取得]
(3)写真画像の精密解析[標定要素及び基準計測点の三次元座標についての近似値に基づく写真画像の精密解析による標定要素及び基準計測点の三次元座標の算出、並びに必要な任意の変位計測点の三次元座標の算出]
の3段階からなる。
【0016】
標定要素としては、写真主点位置の二次元座標及び画面距離等の内部標定要素、写真画像の線形歪、並びに、被写体空間における適宜の座標系における写真撮影時の撮影機の位置及び傾きに関する3つの移動量及び3つの回転量等の外部標定要素を例として挙げることができる。内部標定要素が既知であれば、それ以外の標定要素を求めることとなる。
【0017】
変位計測(三次元座標算出)の対象は、岩盤に限られない。例えば種々の構造物を対象とすることもできる。
【0018】
写真画像は、例えばCCD(Charge Coupled Device)等を撮像素子とするデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラを用いた撮影等により得られるデジタル情報であることが最も望ましいが、例えばアナログスチルカメラやアナログビデオカメラを用いた撮影等により得られるアナログ情報をデジタル情報に変換したものを用いることもできる。デジタル情報として得た写真画像は、コンピュータで直接取り扱うことができる。なお、計測精度等の必要に応じ、前記デジタルカメラ等の撮影機の解像度、撮影距離、撮影角度及び1つの基準計測点を撮影する数等を任意に選択することができる。また、紙やプラスチックフィルム等に形成した写真画像のハードコピーを直接用いることもでき、そのようなハードコピーを画像スキャナ等によりデジタル情報化して用いることもできる。
【0019】
なお、これらのデジタル情報及びアナログ情報は、記録媒体に記録しておくことができることは勿論である。
(1)写真画像座標の計測[写真画像における被写体上の所要の基準計測点の座標(二次元座標)の計測]
写真画像における被写体上の所要の基準計測点の座標の計測は、写真画像に関するデジタル情報によって行うことが望ましい。複数の写真画像における同一の基準計測点の座標の計測を精度良く行うには、写真撮影の際に、例えば、種々の図形、記号及び色彩等の何れか若しくはそれらの組合せからなる標識を、被写体上の計測点に直接描いたり、板状体やシート状体等に描いて被写体上の基準計測点に固定することにより、写真画像における被写体上の基準計測点の位置を識別し易くすることが好ましい。このような標識は、変位の前後にわたり被写体に固定されていることが望ましい。なお、前記複数の写真画像というのは、例えば、変位前に撮影された同一の計測点を含む複数の写真画像、変位後に撮影された同一の基準計測点を含む複数の写真画像、及び変位前後にそれぞれ撮影された同一の基準計測点を含む複数の写真画像などが挙げられる。
【0020】
写真画像における被写体上の基準計測点の座標は、各写真画像において個別的に、例えば計測点を写真画像を表すディスプレイ上で確認して、計測することもできるが、被写体上の同一の基準計測点を写した重複写真の画像上の特徴から、各画像上で対応する基準計測点を自動的に探してその座標を計測することが望ましい。
【0021】
なお、紙やプラスチックフィルム等に形成した写真画像のハードコピーから座標測定装置(コンパレータ)などにより直接基準計測点の座標を計測することもできる。
(2)写真画像の近似解析[写真撮影の標定要素及び基準計測点の三次元座標についての精度の良い近似値の取得]
写真画像の精密解析における基礎方程式は非線形であるため、写真画像の標定要素や基準計測点の三次元座標は、それらの近似値を利用した繰り返し計算によって算出する。従って、解の安定性を上げるためには、なるべく精度の良い初期近似値を与える必要がある。
【0022】
写真画像の精密解析に用いる標定要素の精度の良い近似値及び基準計測点の三次元座標の精度の良い近似値は、ステレオ写真画像(例えば、少なくとも一部が重複した1対又はそれ以上の写真画像)において計測された被写体上の基準計測点の座標(二次元座標)、標定要素の近似値及び存在する場合には既知標定要素(例えば内部標定要素)、並びに、所要の基準計測点についての三次元座標の近似値に基づき求めることができる。すなわち、ステレオ写真画像の対応する光線の交会条件によりステレオモデルを構成し、モデル結合条件により隣接のステレオモデル同士を接続すると共に、所要の基準計測点について三次元座標の近似値に基づき対地標定を行い、標定要素及び基準計測点についての三次元座標の精度の良い近似値を求める。
【0023】
ステレオ写真画像としては、重複した部分をもつ2つの写真画像を用いることが多いが、重複した部分が3以上の写真画像に存在するようにした場合でも同様にして解析を行うことができる。重複した部分が3以上の写真画像に存在するようにした場合、1つ目と2つ目の写真画像から作られるモデル、2つ目と3つ目の写真画像から作られるモデルというように、同じ写真画像を用いて異なる2つのモデルを形成し、モデルを次々に接続していくことができる。このことを利用すると、3つの写真画像が重なった部分でモデルを形成し接続していくことで、被写体情報を使わずに統一モデルを形成することが可能である。統一モデルが形成できれば、その被写体空間内の5個の基準点によって、被写体空間の3次元測量が可能である。
【0024】
このような精度の良い近似値は、DLT法(Direct Linear Transformation Method)等の解析法を利用して算出することができる。なお、妥当な範囲で、標定要素の一部(例えば写真画像の線形歪等)を無視して計算することもできる。
【0025】
より具体的には、例えば次のa乃至dの4段階により、すなわちステレオモデルを基として相互標定と対地標定の二段階に分けて解析を行うことにより、標定要素及び基準計測点についての三次元座標の精度の良い近似値を求めることができる。なお、この場合、写真撮影は測定用カメラ(内部標定要素は既知であり、他の歪は無視できる)で行ない、外部標定要素(回転角、移動量などの求めるべき未知数)を標定して被写体座標を求めるものとする。
a)ステレオ写真画像の対応する光線の交会条件によるステレオモデルの構成
接続標定法により、ステレオ写真のうちの右写真(右写真に限らず何れか一方の写真)の5個の外部標定要素について解いてステレオモデルを構成する。実際には、含まれる誤差の調整を行うために、最小二乗法の未知量を持った条件付観測による調整法を使って解く。
b)モデル結合条件による隣接モデルの接続
1個の右写真の要素について最小二乗法の間接観測による調整法を利用して決定する。
c)地上基準点(被写体上の基準計測点の三次元座標の近似値)を使用した、三次元相似変換による対地標定
7個の対地標定(絶対標定)要素を求める。
d)標定要素と被写体座標の近似値の計算
各写真の外部標定要素の中で、3個の移動量要素は三次元相似変換式を用いて、3個の回転量要素は相互標定の回転量要素と対地標定の回転量要素より、また、被写体座標の近似値は三次元相似変換式を用いて計算する。
(2-1) 写真画像における基準計測点の座標(二次元座標)の異常値探索とその除去
写真解析では入力データとして写真画像座標の量はかなり多いので、写真画像における座標には、測定ミスや解析入力ミス等により異常値が含まれる可能性がある。このような異常値は、何れかの段階、好ましくは(2)(近似解析)の段階で、自動的に探索して除去することが望ましい。
【0026】
写真画像における基準計測点の座標の異常値についての(2)(近似解析)の段階での自動探索及び除去は、例えば次のように行うことができる。
▲1▼ ステレオモデルの構成時に、写真画像における基準計測点の座標の観測値うちy座標(二次元座標の何れか一方でよく、必ずしもy座標に限らない)に含まれる異常値の探索を行う。例えば、ロバスト推定法の中のウエイト関数法を用いて、対象となる座標の測定ミスや解析入力ミス等による異常値を以下のように自動探索することができる。
【0027】
すなわち、ウエイト関数pとして例えば次式
【0028】
【数1】
Figure 0003762350
を使用して、ア乃至カのように異常値を探索して除去することができる。
ア)写真画像座標測定量のウエイトをすべて1として最小二乗法を実行する。
イ)各写真画像座標の残差を計算する。
ウ)写真画像座標測定量に、上記式pより与えられるウエイトを与え、最小二乗法を実行する。
エ)各写真画像座標の残差を再計算する。
オ)しきい値を設定し、しきい値より小さいウエイトに対応する観測値を異常値と認定する。
カ)認定された異常値を取り除いて最小二乗法を実行する。
▲2▼ y座標(二次元座標の一方)の処理後、次の作業を行う。写真画像における基準計測点の座標の観測値うちx座標(二次元座標の他方)に含まれる異常値の探索はステレオモデルの構成時にはできないが、隣接モデルの接続時に行うことができる。例えば、隣接モデルにおける対応する同一の基準計測点に対して、統一モデルにおける座標値と各モデルにおける座標値が一致しない点のx座標の観測値を異常値と認定し、除去する。
(3)写真画像の精密解析[標定要素及び基準計測点の三次元座標についての近似値に基づく写真画像の精密解析による標定要素及び基準計測点の三次元座標の算出、並びに必要な任意の変位計測点の三次元座標の算出]
標定要素の精度の良い近似値及び基準計測点の三次元座標の精度の良い近似値を用いることにより、写真画像の精密解析を行って標定要素及び基準計測点の三次元座標をそれぞれ厳密に算出することができると共に、必要な任意の変位計測点の三次元座標を厳密に算出することができる。
【0029】
写真画像の精密解析は、バンドル法を利用して最小二乗法により行うのが好適である。その際、必要な繰り返し計算を行う。また、バンドル法を利用して最小二乗法により解析するにあたっては、例えば次のように、(a)計算時間の短縮、並びに(b)計測作業の容易化及び解析精度の向上を図ることが望ましい。
(a)計算時間の短縮
撮影により得た写真画像の解析に要する時間はできるだけ短いことが望ましい。斜面やトンネル等の岩盤構造物及びその他の構造物の安全性の判断に利用する場合は特にその要請が強い。
【0030】
しかしながら、一般には、バンドル法を用いる場合の未知量の数はかなり多い(例えば、写真画像数が10、基準計測点が100で、未知量の数は368)ので、最小二乗法で用いられる係数行列は大きくなり、直接逆行例を計算すると非常に時間がかかる。そこで、被写体における基準計測点の座標に関する係数行列の性質を利用し、縮約正規方程式を構成して計算時間の短縮を図る。具体的には、被写体における基準計測点の座標に関する係数行列が3*3小行列の形のバンド性を持つので、被写体における基準計測点の座標に関する係数行列の逆行列を求め、この逆行列を利用して正規方程式を縮約し、この縮約正規方程式を用いて標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出する。これによって、計算時間を大幅に短縮することができる。
【0031】
なお、他の各種数値計算法を利用して計算時間の短縮を図ることも可能である。
(b)計測作業の容易化及び解析精度の向上
バンドル法の適用においてセルフキャリブレーション(self calibration)法を使用すれば、DLT法において必要とされる被写体上の所要点の高精度な三次元座標の既知情報を必要とせずに内部標定要素を算出することができるので、様々な現場における内部標定要素が未知の又は十分に検定されていない撮影機を用いた計測作業が容易である。
【0032】
セルフキャリブレーション法の使用においては、最小二乗法の正規方程式の拘束条件として既知距離を導入することができる。これにより、解析精度を効果的に向上させることができる。
【0033】
既知距離の導入は、間の距離が既知である2以上の計測点を被写体に含めて撮影した写真画像を用い、その距離を拘束条件とすることにより行い得る。
【0034】
間の距離が既知である2以上の計測点を被写体に含む写真画像は、例えば、2以上の計測点を有し、それらのうち少なくとも2つの計測点の間の距離が既知である距離拘束体(例えば棒体)を被写体に含めて撮影することにより得ることができる。
【0035】
距離拘束体が棒体である場合、その棒体の長さが既知であるものを使用することができる。この場合、棒体の両端が計測点となる。
【0036】
既知距離を導入すると、被写体に既知距離の端点(例えば、本来の計測対象ではない棒体等の距離拘束体における既知距離の端点)を含めることになる。この場合、既知距離の端点に対応する正規方程式の係数行列の形が複雑になるので、被写体における基準計測点及び距離拘束体の端点等の計測点の座標に対する行列は対角行列ではなくなる(対角行列を含むあるバンド幅を持ったゼロの多い行列形式からスパース行列に変わる)。そのため、既知距離の端点の座標に関する拘束条件に対応する行列を並べ替え、既知距離の端点の座標と基準計測点の座標を分けて計算を行うことにより標定要素及び基準計測点の三次元座標について解を得ることが好ましい。
【0037】
なお、上記(1)、(2)及び(3)の何れか又は2以上或いは上記(1)、(2)及び(3)の何れかの一部又は2以上のうちの一部は、それを実行し得るコンピュータ利用装置により実行することが望ましい。このコンピュータ利用装置は、写真画像を得るための撮影機を備えたものとすることもできる。また、このようなコンピュータ利用装置(撮影機を備えたものも含む)により上記(1)、(2)及び(3)の何れか又は2以上或いは上記(1)、(2)及び(3)の何れかの一部又は2以上のうちの一部を実行するためのプログラムは、任意の記録媒体に記録しておくことができることは言うまでもない。
【0038】
【実施例】
実施例1
上記写真画像解析の中心部分である(3)写真画像の精密解析に関し、解析精度を検証するシミュレーションテストを実施した。
【0039】
シミュレーション条件は次のように設定した。
画像枚数:4
基準計測点数:49
撮影距離:20000mm
画像縮尺:1/400
制御点数:5
長さ既知の棒の数:7
画像距離:50mm
画像誤差:0.01mm
先ず、被写体空間に設定された各座標値に対して共線条件式を用いて写真画像上に座標を変換した。
【0040】
次に、この写真画像上の座標値に対してレンズ歪とランダムな測定誤差を加えることにより、基準計測点についての実測値に近い写真画像座標を生成した。
【0041】
そうして、被写体空間中の設定座標値にランダムな誤差を与えて被写体の基準計測点についての初期近似値とし、適切なウエイトを与えた上で、セルフキャリブレーション法を使用したバンドル法を利用して最小二乗法により被写体の基準計測点の三次元座標を厳密に計算した。
【0042】
このシミュレーションにおいては、画像測定誤差として平均10μmを与え、被写体の基準計測点についての初期近似値として真値から平均5cmのばらつきを与えた。これらの値の大きさは標識を用いないで写真画像における計測点の座標を計測する場合に妥当と認められるものである。
【0043】
シミュレーション解析結果は次の通りである。
写真画像座標の標準誤差:0.00116mm
内的誤差:5.4mm
外的誤差:3.9mm
解析精度の指標としては、計算により得られた被写体座標(三次元座標)の平均内的誤差(解の分散。共分散行列より計算し得、解の安定性を示す指標となる)、及び平均外的誤差(真値とのずれの二乗平均)を利用した。なお、このケースでの理論誤差は4mmである。
【0044】
被写体座標の平均内的誤差に注目すると、5.4mmであり、理想精度(4mm)より少し大きかった。従って、理想精度を得るためには、撮影写真画像数を増加させる等の工夫が必要であることが分かる。
【0045】
得られた結果と真値とのずれを表す平均外的誤差は3.9mmで、ほぼ理論値と一致していた。従って、画像測定誤差平均を現在の写真計測で可能なサブミクロン程度まで低下させれば、内的誤差を上記の10分の1、すなわち1mm以下に減少させることができる。また、上記写真画像解析の(2)写真画像の近似解析により得られる標定要素及び基準計測点の三次元座標についての近似値の精度を向上させれば、画像測定誤差平均がこのシミュレーションテストのケースと同様であっても1mm以下の精度を達成することが可能である。
実施例2
岩盤露頭上に3次元的に存在している不連続面を被写体(計測対象)とした場合の実施例を示す。但し、実際の岩盤露頭を用いるのではなく、建物の壁と板を用いた仮想露頭面を作成して本発明を実施した。
【0046】
本実施例における板は、実際の露頭面上に見られる、図1に実線で示すような亀裂と露出した面の2種類の不連続形状を表現するためのもので、図1に破線で示すようなものを用いた。板12は、縁部によって仮想亀裂10を表現しており、その仮想亀裂10の5箇所に設定した各基準計測点に、半径5mmの標識ラベルMを貼り付けた。また、これと別個の板16は、平面部分によって仮想不連続面14を表現しており、その仮想不連続面14の5箇所に設定した各基準計測点に、前記と同じ標識ラベルMを貼り付けた。このような、亀裂を模した仮想亀裂を有する板5枚と、露出した不連続面を模した仮想不連続面を有する板2枚を、建物の壁面に配置し、それを仮想露頭面18(図2)とした。また、長さが既知の棒として、両端に反射シール(レトロ)を貼り付けた測量用スタッフ12本(図示せず)を仮想露頭面18にできるだけ万遍なく配置した。
【0047】
次いで、デジタルスチルカメラを用い、5個以上の基準計測点及び1本以上の測量用スタッフを含む3つの写真画像を、前記仮想露頭面18から約11mの距離において、2m40cmの間隔おきの3個所で、カメラ高160mmでの平行写真撮影により得た(図2参照)。
【0048】
撮影時に何ら被写体上の座標計測作業を行っていないので、解析計算開始時の初期値を精度の良いものとはできない。解の安定性は未知量の近似値に設定されたウエイトの値に左右される。ウエイトは次式に従って与えた。
Weight=(1/[近似値に予想される外的誤差/スケール/画像精度])
本実施例では以下のような近似値を与えた。
【0049】
▲1▼写真画像座標を計測した写真対のうち、中央写真の写真画像座像を近似値計算の基礎データとして利用した。なお、一般に、2枚対の場合は左写真、3枚対の場合は中央写真を用いれば良いが、これに限らない。
【0050】
▲2▼適当な位置に座標原点を想定し、x,y座標に関しては画像上の2次元座標を縮尺倍し、z座標(奥行き)に関してはカメラから露頭面(計測対象)までのおおよその距離を与えた。すなわち、外部標定要素について比較的に粗い近似値を与えた。
【0051】
これによって、第1段階として、外部標定要素に関しては比較的に低いウエイトを与え、内部標定要素やレンズ歪係数等の歪に関しては比較的に高いウエイトを与え、あたかも内部標定要素が既知のカメラで撮影を行ったようにして、不安定な解に対して繰り返し計算により強制的に計算を収束させ、標定要素及び基準計測点についての解を得た。
【0052】
次に、第2段階として、第1段階で比較的に高いウエイトであった内部標定要素とレンズ歪等の歪に関して比較的に低いウエイトを与え、全ての変数(外部標定要素及び基準計測点)に対して適正なウエイトを与え、再度収束計算を行なって標定要素及び基準計測点についての精度の良い近似値を得た。
【0053】
つまり、粗い近似値の次に精度の良い近似値を取得する2段階の近似値取得を行なった。そして、この標定要素及び基準計測点の三次元座標の精度の良い近似値を用いて、セルフキャリブレーション法を使用したバンドル法を利用して最小二乗法により被写体の基準計測点の三次元座標を厳密に計算した。
【0054】
写真画像座標の標準誤差の推定量(ウエイト=1を与える観測値の標準誤差)と被写体座標の真値と解析値のずれの平均誤差である外的誤差は次の通りであった。すなわち、精度の良い計測を行うことができた。
【0055】
【数2】
Figure 0003762350
平均外的誤差=3.95mm(平均外的誤差は、各計測点をトランシットによって測量した値との差を用いた。)
【0056】
【発明の効果】
本発明においては、計測対象をカメラやビデオ等の撮影装置により撮影することによりその計測対象における計測点の変位を求めることが可能である。そのため、計測点を任意に選ぶことができ、従来の機器では設置し難かった場所や人が近づくことのできない対象物でも、その変位を求めることができる。また、変位計測のために現場で必要な機器はカメラやビデオ等の撮影装置であるから、携帯性に優れたものとすることができ、断線や機器の不良による計測作業の中断、或いは作業環境が計測値に与える悪影響等の不都合が生じることが防がれる。
【0057】
また、計測のための装置のコストは従来に比し安価であり、多数点を撮影して計測するのが容易であるため、計測点を増してもコスト増大が小さい。
【0058】
然も、計測対象における変位分布(面的広がりを有する変位分布)を容易且つ迅速に精度良く求めることができる。
【0059】
更に、変位算出のための写真画像は、特にそれがデジタル情報である場合、そのデータによりデータベースを作成して現場の状態を容易に再現し得、それにより解折結果の信頼性を高め得るものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】仮想亀裂線及び仮想不連続面の例を示す斜視図である。
【図2】仮想露頭面の撮影状況を示す概略図である。
【符号の説明】
10 仮想亀裂
12 板
14 仮想不連続面
16 板
18 仮想露頭面
M 標識ラベル

Claims (15)

  1. 計測対象の変位の前後それぞれにおいて、内部標定要素が未知の又は十分に検定されていないデジタルカメラを用いて複数の位置から各基準計測点を含む計測対象を撮影して複数の写真画像を得、
    変位の前後における写真画像上の基準計測点の座標に基づき、標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出し、それらの標定要素及び基準計測点の三次元座標に基づき任意の変位計測点の三次元座標をそれぞれ算出してその変位を求める変位計測方法であって、
    未知量の近似値にウエイトWを与え、DLT法等の解析法を用いて、標定要素及び基準計測点の三次元座標について精度の良い近似値を取得する工程Aと、
    標定要素及び基準計測点の三次元座標の精度の良い近似値に基づき、セルフキャリブレーション法を使用したバンドル法を利用して最小二乗法を繰り返し実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出する工程Bを有し、
    前記工程Aにおいては、収束計算により粗い近似値を取得し、その粗い近似値に基づく収束計算により精度の良い近似値を取得する2段階の近似値取得を行ない、
    前記工程Bにおける最小二乗法実行の繰り返しにおいて、写真画像における基準計測点座標の観測値に対し、異常値を探索するためのウエイト関数によるウエイトPを与えて最小二乗法を実行し、その計算結果と写真画像における基準計測点座標の観測値との残差を計算し、しきい値を設定してそのしきい値より小さいウエイトPに対応する観測値を異常値と認定し、認定された異常値を除去して再度最小二乗法を実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標の精度を高める工程を有することを特徴とする変位計測方法。
  2. 工程Aにおいて、外部標定要素に比較的に低いウエイトWを与え、内部標定要素及び歪に比較的に高いウエイトWを与えて、収束計算により粗い近似値を取得する請求項1記載の変位計測方法。
  3. 工程Aにおいて、内部標定要素及び歪に比較的に低いウエイトWを与え、外部標定要素に比較的に高いウエイトWを与えて、上記粗い近似値に基づく収束計算により精度の良い近似値を取得する請求項2記載の変位計測方法。
  4. 工程Aにおいて、外部標定要素と、内部標定要素及び歪のうち、一方に比較的に低いウエイトWを与え、他方に比較的に高いウエイトWを与えて、収束計算により粗い近似値を取得する請求項1記載の変位計測方法。
  5. 工程Aにおいて、上記一方に比較的に高いウエイトWを与え、上記他方に比較的に低いウエイトWを与えて、上記粗い近似値に基づく収束計算により精度の良い近似値を取得する請求項4記載の変位計測方法。
  6. ウエイトWを次式に従って与える請求項1乃至5の何れかに記載の変位計測方法。
    Weight=(1/[近似値に予想される外的誤差/スケール/画像精度])
  7. 上記セルフキャリブレーション法の使用において最小二乗法の正規方程式の拘束条件として既知距離を導入することにより精度を向上させる請求項1乃至6の何れかに記載の変位計測方法。
  8. 計測対象の変位の前後それぞれにおいて、内部標定要素が未知の又は十分に検定されていないデジタルカメラを用いて複数の位置から各基準計測点を含む計測対象を撮影して複数の写真画像を得、
    変位の前後における写真画像上の基準計測点の座標に基づき、標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出し、それらの標定要素及び基準計測点の三次元座標に基づき任意の変位計測点の三次元座標をそれぞれ算出してその変位を求める変位計測方法であって、
    未知量の近似値にウエイトWを与え、DLT法等の解析法を用いて、標定要素及び基準計測点の三次元座標について精度の良い近似値を取得する工程Aと、
    標定要素及び基準計測点の三次元座標の精度の良い近似値に基づき、セルフキャリブレーション法を使用したバンドル法を利用して最小二乗法を繰り返し実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出する工程Bを有し、
    前記工程Aにおいては、収束計算により粗い近似値を取得し、その粗い近似値に基づく収束計算により精度の良い近似値を取得する2段階の近似値取得を行なうことを特徴とする変位計測方法。
  9. 工程Aにおいて、外部標定要素に比較的に低いウエイトWを与え、内部標定要素及び歪に比較的に高いウエイトWを与えて、収束計算により粗い近似値を取得する請求項8記載の変位計測方法。
  10. 工程Aにおいて、内部標定要素及び歪に比較的に低いウエイトWを与え、外部標定要素に比較的に高いウエイトWを与えて、上記粗い近似値に基づく収束計算により精度の良い近似値を取得する請求項9記載の変位計測方法。
  11. 工程Aにおいて、外部標定要素と、内部標定要素及び歪のうち、一方に比較的に低いウエイトWを与え、他方に比較的に高いウエイトWを与えて、収束計算により粗い近似値を取得する請求項8記載の変位計測方法。
  12. 工程Aにおいて、上記一方に比較的に高いウエイトWを与え、上記他方に比較的に低いウエイトWを与えて、上記粗い近似値に基づく収束計算により精度の良い近似値を取得する請求項11記載の変位計測方法。
  13. ウエイトWを次式に従って与える請求項8乃至12の何れかに記載の変位計測方法。
    Weight=(1/[近似値に予想される外的誤差/スケール/画像精度])
  14. 計測対象の変位の前後それぞれにおいて、内部標定要素が未知の又は十分に検定されていないデジタルカメラを用いて複数の位置から各基準計測点を含む計測対象を撮影して複数の写真画像を得、
    変位の前後における写真画像上の基準計測点の座標に基づき、標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出し、それらの標定要素及び基準計測点の三次元座標に基づき任意の変位計測点の三次元座標をそれぞれ算出してその変位を求める変位計測方法であって、
    標定要素及び基準計測点の三次元座標の近似値に基づき、セルフキャリブレーション法を使用したバンドル法を利用して最小二乗法を繰り返し実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標を算出する工程Bを有し、
    前記工程Bにおける最小二乗法実行の繰り返しにおいて、写真画像における基準計測点座標の観測値に対し、異常値を探索するためのウエイト関数によるウエイトPを与えて最小二乗法を実行し、その計算結果と写真画像における基準計測点座標の観測値との残差を計算し、しきい値を設定してそのしきい値より小さいウエイトPに対応する観測値を異常値と認定し、認定された異常値を除去して再度最小二乗法を実行することにより標定要素及び基準計測点の三次元座標の精度を高める工程を有することを特徴とする変位計測方法。
  15. 上記セルフキャリブレーション法の使用において最小二乗法の正規方程式の拘束条件として既知距離を導入することにより精度を向上させる請求項14記載の変位計測方法。
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