(前提事項)
本発明の各実施形態を説明するに当たっての前提事項について説明する。
通常、フォトマスクは縮小投影型の露光機で使用されるため、マスク上のパターン寸法を議論する場合には縮小倍率を考慮しなければならない。しかし、以下の各実施形態を説明する際には、混乱を避けるため、形成しようとする所望のパターン(例えばレジストパターン)と対応させてマスク上のパターン寸法を説明する場合、特に断らない限り縮小倍率で該寸法を換算した値を用いている。具体的には、M分の1縮小投影システムにおいて、幅M×100nmのマスクパターンによって幅100nmのレジストパターンを形成した場合にも、マスクパターン幅及びレジストパターン幅は共に100nmであるとする。
また、本発明の各実施形態においては、特に断らない限り、M及びNAは露光機の縮小投影光学系の縮小倍率及び開口数をそれぞれ表し、λは露光光の波長を表し、φは斜入射露光における斜入射角を表すものとする。
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係るフォトマスクについて図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、第1の実施形態に係るフォトマスクの平面図であり、図1(b)は、図1(a)のI−I線における断面図の一例であり、図1(c)は、図1(a)のI−I線における断面図の他例である。
図1(a)及び(b)に示すように、透過性基板100の上には、露光により転写されるライン状の主パターン101が設けられている。主パターン101は、露光光を部分的に透過させる第1の透過率を有する第1の半遮光部101Aと、位相シフター101Bとから構成されている。第1の半遮光部101Aは、ライン状の位相シフター101Bを取り囲むように形成されている。言い換えると、位相シフター101Bは主パターン101の中心部に配置されている。位相シフター101Bは、例えば透過性基板100を掘り下げることによって形成される。透過性基板100上における主パターン101の両側には、露光光を回折させ且つ露光により転写されない一対の補助パターン102が、主パターン101との間に透光部を挟むように設けられている。補助パターン102は、露光光を部分的に透過させる第2の透過率を有する第2の半遮光部から構成されている。ここで、第1の半遮光部101A及び第2の半遮光部は、例えば、透過性基板100の上に形成された半遮光膜106である。尚、第1の半遮光部101A及び補助パターン102は遮光部であってもよい。
図1(a)及び(b)に示すフォトマスクにおいては、主パターン101と補助パターン102とからマスクパターンが構成されている。また、透過性基板100における該マスクパターンが形成されていない部分が透光部(開口部)である。
また、位相シフター101Bを透過する光と、透光部を透過する光とは反対位相の関係(具体的には両者の位相差が(150+360×n)度以上で且つ(210+360×n)度以下(但しnは整数)となる関係)にある。
また、第1の半遮光部101A及び第2の半遮光部(補助パターン102)のそれぞれを透過する光と、透光部を透過する光とは同位相の関係(具体的には両者の位相差が(ー30+360×n)度以上で且つ(30+360×n)度以下(但しnは整数)となる関係)にある。
第1の実施形態によると、主パターン101が第1の半遮光部(又は第1の遮光部)101Aと位相シフター101Bとから構成されているため、位相シフター101Bを透過した光(反対位相の光)によって透光部及び第1の半遮光部101Aを透過した光(同位相の光)の一部分を打ち消すことができ、それによって強い遮光性が実現される。この効果は、主パターン101が微細パターンとなって、その遮光性が減少する場合に特に顕著である。一方、補助パターン102は半遮光部から構成されているため、その遮光性は低いものとなる。よって、主パターン101と対応する遮光像における遮光度合いを通常の遮光パターンよりも高くしつつ、補助パターン102の遮光性を弱くすることができるので、本実施形態のマスク構成によって光強度分布のコントラストを強調できる。また、主パターン101とは別に、低透過率の補助パターン102が設けられているため、補助パターン102を適切な位置に配置することにより、主パターン101の位相シフター101Bを透過した光と干渉する回折光を発生させることができる。従って、主パターン101の転写像におけるデフォーカス特性が向上し、その結果、DOF特性が向上する。
以下、主パターンが位相シフターと半遮光部とによって構成されているものとして説明をするが、特に断らない限り、主パターンが位相シフターと遮光部とによって構成されていても同様の効果が得られるものとする。
すなわち、第1の実施形態によると、補助パターン102が、遮光性の弱い半遮光部であるため、露光により転写されにくくなり、補助パターン102が転写されないという制約条件下での補助パターン配置の自由度が向上する。このため、主パターン101を含めたパターン配置における周期性を高めることができるので、DOF特性がより一層向上する。また、補助パターン102が半遮光部であるため、露光により転写されないという条件下で補助パターン102を太くできるので、フォトマスクの加工が容易になると共に、補助パターン加工において寸法エラーが生じたとしても、主パターン101の転写像に及ぼす影響も小さくなる。さらに、本実施形態によれば、主パターン101の周縁部が半遮光部によって構成されている場合、マスク加工おける主パターン101の寸法誤差がパターン形成に及ぼす影響も小さくなるという効果が得られる。
また、第1の実施形態によると、位相シフター101Bが主パターン101の中心部に配置されているため、主パターン101と対応する遮光像の中心部における光強度分布のコントラストを強調できるので、デフォーカス特性を良好に保ちながら、例えば微細なラインパターンの形成を行なうことができる。
また、第1の実施形態によると、位相シフター101Bは、半遮光部(半遮光膜106)に開口部を作成し且つ該開口部内の透過性基板100を掘り下げることにより形成されている。このため、透過性の高い位相シフターを実現できる。また、主パターン内部(つまり位相シフター101B)を透過する反対位相の光の強度を、半遮光部における開口寸法によって調整できる。このため、主パターン101を透過する反対位相の光の最適化を容易に実現できるので、パターン形成において非常に優れたデフォーカス特性が発揮される。すなわち、位相シフターを取り囲む半遮光部の幅によってマスク寸法を調整できると共に、半遮光部の開口寸法によって反対位相の光の強度を調整できるので、マスク寸法と反対位相の光の強度とをそれぞれ独立に調整できるという特有の効果が得られる。その結果、反対位相の光を調整することによる効果、例えばフォーカス特性の向上効果、及び微細パターンのコントラストの向上効果を確実に実現しつつ、所望のパターン寸法も容易に実現できる。
尚、第1の実施形態において、主パターン101を構成する第1の半遮光部101Aの第1の透過率は15%以下であることが好ましい。このようにすると、パターン形成時において、半遮光部を透過する光が増加しすぎることによるレジスト膜の膜減りを防止できると共に、レジスト感度の最適化を達成できる。すなわち、それらの効果と、DOF向上効果及びコントラスト向上効果とを両立させることができる。
また、第1の実施形態において、補助パターン102(つまり第2の半遮光部)の第2の透過率は6%以上で且つ50%以下であることが好ましい。このようにすると、補助パターン102の遮光性が高すぎることによってレジストの非感光部が形成されてしまうことを防止しつつ、回折光によるDOF向上効果を確実に実現できる。
また、第1の実施形態において、第1の半遮光部101Aと、補助パターン102となる第2の半遮光部とは同一の半遮光膜106、例えば透過性基板100上に形成された金属薄膜から形成されていてもよい。この場合、各半遮光部を簡単に形成できるので、フォトマスクの加工を容易に行なうことができる。前述の金属薄膜としては、Cr(クロム)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニュウム)、Mo(モリブデン)若しくはTi(チタン)等の金属又はそれらの合金からなる薄膜(厚さ50nm程度以下)を用いることができる。具体的な合金材料としては、TaーCr合金、Zr−Si合金、Mo−Si合金又はTiーSi合金等がある。また、金属薄膜に代えて、ZrSiO、CrAlO、TaSiO、MoSiO又はTiSiO等のシリコン酸化物を含有する厚膜を用いてもよい。
また、第1の実施形態において、主パターン101の第1の半遮光部101Aのみを遮光部に置き換えた場合にも、主パターン101と補助パターン102とによるコントラストの向上効果が得られる。具体的には、例えば図1(c)に示すように、第1の半遮光部101Aを構成する半遮光膜106の上に遮光膜107がさらに堆積されているマスク構造を用いてもよい。
ここで、図2(a)〜(d)に、第1の実施形態に係るフォトマスクの構造におけるバリエーションを示す。すなわち、図1(b)に示すマスク構造に代えて、図2(a)に示す、透過性基板100の上に、透過率の高い材料からなる位相シフト膜108、及び半遮光膜106が順次積層された構造において、主パターン101内の位相シフター101Bの形成領域の位相シフト膜108が除去され且つ該位相シフター101Bの形成領域及び透光部形成領域の半遮光膜106が除去された構造を用いてもよい。この場合においても、図2(b)に示すように、主パターン101の第1の半遮光部101Aを構成する半遮光膜106の上に遮光膜107が堆積されていてもよい。尚、図2(a)及び(b)に示すマスク構造においては、透過性基板100の上に位相シフト膜108のみが形成されている領域が透光部となる。このような構造によれば、位相シフト膜108の膜厚によって位相シフター101Bの位相を制御できるので、位相シフター101Bの位相を精度良く制御することができる。
また、図1(b)に示すマスク構造に代えて、図2(c)に示す、透過性基板100の上に、半遮光膜106、及び透過率の高い材料からなる位相シフト膜108が順次積層された構造において、透光部形成領域の半遮光膜106が除去され且つ主パターン101内の位相シフター101Bの形成領域を除く他の領域の位相シフト膜108が除去された構造を用いてもよい。この場合、図2(d)に示すように、主パターン101の第1の半遮光部101Aを構成する半遮光膜106の上に、位相シフト膜108と遮光膜107との積層構造が形成されていてもよい。このような構造によれば、位相シフト膜108の膜厚によって位相シフター101Bの位相を制御できる。
次に、本願発明者により見出された、ライン状の遮光パターン(主パターン101)の中心部に位相シフター(位相シフター101B)が設けられた構造(以下、マスクエンハンサー構造と称する)によって、マスクパターンの遮光性を強調してラインパターンの解像度を向上させる方法(以下、中心線強調法と称する)について説明する。以下、ポジ型レジストプロセスにより微小ラインパターンを形成する場合を例として説明を行なう。但し、ネガ型レジストプロセスを用いる場合も、ポジ型レジストプロセスにおける微小ラインパターン(レジストパターン)を微小スペースパターン(レジスト除去パターン)と置き換えて考えれば、中心線強調法が同様に成り立つ。また、説明を簡単にするため、位相シフター部分以外の遮光パターンは遮光部から構成されているものとする。
マスクエンハンサーにおいて、遮光パターン周辺から遮光パターンの裏側に回り込む光の強度と、位相シフターを透過する光の強度とがちょうど釣り合うように、パターン幅と位相シフター幅とを調整すると、マスクエンハンサーを透過した光の振幅強度は、マスクエンハンサーの中心と対応する位置で0になるような分布を持つ。このとき、マスクエンハンサーを透過した光の強度(振幅強度の2乗)も、マスクエンハンサーの中心と対応する位置で0になるような分布を持つ。すなわち、マスクエンハンサーによって、コントラストの高い像が形成される。ここで、遮光部が、透光部(透過性基板)と同位相で光を透過させ且つ有限の透過率を持つ半遮光部であったとしても、同様の効果が得られる。すなわち、本来、遮光性の弱さを考慮すると、ライン状のマスクパターンとしては好ましくない半遮光部であるが、その内部に位相シフターを設けることによって、つまりマスクエンハンサー構造を用いることによって、コントラストの高い像を形成できる。言い換えると、半遮光部を微細パターン形成に利用することが可能となる。
尚、前述のように、中心線強調法はその原理から、マスク上において完全な遮光部のみからなるパターン(完全遮光パターン)の形成が困難になる状況で極めて有効である。すなわち、回折現象のために完全遮光パターンによって光を遮光することが困難になるマスクパターン幅、つまり0.8×λ/NA以下のマスクパターン幅において中心線強調法は効果を発揮し、回折現象による影響が大きくなる0.5×λ/NA以下のマスクパターン幅において中心線強調法はより効果を発揮する。さらに、完全遮光パターンを用いたパターン形成が極めて困難になる0.4×λ/NA以下のマスクパターン幅において中心線強調法は極めて顕著な効果を発揮する。よって、主パターンがマスクエンハンサー構造を有する本実施形態は、主パターンのマスク幅が上記のような微細寸法となる場合において特にその効果を発揮するので、微細パターン形成において極めて高い効果を持つ。但し、本願において、マスクエンハンサー構造におけるマスクパターン幅とは、位相シフターを含有した遮光部又は半遮光部の外形形状全体の幅を意味するものとする。
以下、補助パターンを伴う主パターンにマスクエンハンサー構造を用いることにより、マスクにおける寸法誤差がパターン形成に与える影響を小さくできることを説明する。
主パターンの近傍に補助パターンを付加すると、密に配置されたマスクパターンとなる。一般に、密に配置されたマスクパターンでは、マスクにおける寸法誤差がパターン形成に与える影響が大きくなる。しかし、主パターンにマスクエンハンサー構造を用いれば、この影響を小さくすることができる。
図3(a)は、位相シフター101B及び半遮光部101Aからなるマスクエンハンサー構造を持つ主パターン101と、半遮光部からなる補助パターン102とから構成されたマスクパターンを示す図である。具体的には、マスクパターンは、幅140nmの主パターン101と、主パターン101の中心から300nm離れた位置に中心を持つ幅90nmの補助パターン102とから構成されている。主パターン101のマスクエンハンサー構造において、位相シフター101Bの幅は70nmである。このとき、図3(b)に示すように、補助パターン102の構成が図3(a)のマスクパターンと同様であり且つ主パターン101が単純な遮光部(遮光パターン)109から構成されている場合、図3(a)のマスクエンハンサーと同程度の遮光性を実現するためには、幅180nmの遮光パターンが必要になる。
図3(c)及び(d)は、図3(a)及び(b)に示すマスクパターンの主パターン幅及び補助パターン幅が同時に10nmづつ変化した場合にパターン形成に生じる影響をシミュレーションした結果を示す図である。具体的には、図3(c)は、パターン露光時に図3(a)のIIIA−IIIA線(主パターン101の幅方向)と対応する位置に形成される光強度分布のシミュレーション結果を示し、図3(d)は、パターン露光時に図3(b)のIIIB−IIIB線(主パターン101の幅方向)と対応する位置に形成される光強度分布のシミュレーション結果を示す。但し、シミュレーションにおいては、光源の波長λを193nm(ArF光源の波長)とし、レンズ開口数NAを0.6とした。また、マスクパターンに用いられる全ての半遮光部の透過率を6%とした。尚、図3(c)及び(d)においては、各パターン幅(マスク寸法)が10nm増加した場合(+10nm)の結果を実線で示すと共に、各パターン幅が10nm減少した場合(ー10nm)の結果を点線で示す。また、図3(c)及び(d)において、主パターン101の中心位置と対応する位置を0としている。
図3(c)及び(d)に示すシミュレーション結果より、主パターンにマスエンハンサー構造を用いると、主パターン中心での光強度がマスク寸法の増減に対してほとんど変化していないことが分かる。また、形成されるパターンの寸法を用いて評価した場合、図3(a)のマスク構成を用いて幅100nmのパターンが形成される条件において主パターン幅及び補助パターン幅つまりマスク寸法が10nm増加すると、形成されるパターンの幅は106nmとなる。同様に、マスク寸法が10nm減少すると、形成されるパターンの幅は95nmとなる。すなわち、マスク寸法が10nm程度増減しても、形成されるパターンの寸法は5nm程度の影響しか受けない。
一方、図3(b)のマスク構成を用いて幅100nmのパターンが形成される条件において主パターン及び補助パターンのマスク寸法が10nm増加すると、形成されるパターンの寸法は116nmとなる。同様に、マスク寸法が10nm減少すると、形成されるパターン寸法は86nmとなる。すなわち、マスク寸法が10nm増減すると、形成されるパターンの寸法は15nm程度も増減する。言い換えると、図3(b)のマスク構成によると、マスク寸法の変動量以上にパターン寸法が変動しており、パターン形成においてマスク寸法誤差の影響が生じやすいことが分かる。
このように、補助パターンと近接する主パターンにマスクエンハンサー構造を用いることにより、従来技術にはない、パターン形成においてマスクの寸法変動の影響が生じにくくなるという効果が得られru。この効果は、主パターンが位相シフターと半遮光部とから構成されるマスクエンハンサー構造の場合に特に顕著になるが、主パターンが位相シフターと遮光部とから構成されるマスクエンハンサー構造によっても同様の効果が得られる。
尚、本実施形態において、補助パターンは必ずしも主パターンの両側に設けられている必要はない。具体的には、主パターンの片側に他の主パターンが近接する場合、主パターンにおける他の主パターンが近接する側とは反対の側のみに補助パターンが設けられていてもよい。
(第1の実施形態の第1変形例)
以下、本発明の第1の実施形態の第1変形例に係るフォトマスクについて図面を参照しながら説明する。
図4は、第1の実施形態の第1変形例に係るフォトマスクにおけるマスクパターンの平面図である。尚、図4において、図1(a)及び(b)に示す第1の実施形態に係るフォトマスクと同一の構成要素には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
本変形例の第1の特徴は、所定の斜入射角φに対して、補助パターン102(幅:D1)が、主パターン101(幅:L)の位相シフター101B(幅:W)の中心から(λ/(2×sinφ))離れた位置に設けられていることである。
また、本変形例の第2の特徴は、主パターン101の位相シフター101Bの中心から(λ/(2×sinφ))+(λ/(NA+sinφ))離れた位置に、言い換えると、補助パターン(以下、第1の補助パターンと称する)102の中心から(λ/(NA+sinφ))離れた位置に、露光光を回折させ且つ露光により転写されない第2の補助パターン103(幅:D2)が設けられていることである。尚、第1の補助パターン102と第2の補助パターン103との間には透光部が介在する。また、第2の補助パターン103は、第1の補助パターン102と同様の半遮光部から構成される。
本変形例によると、補助パターンを配置したことによるDOF向上効果を確実に実現できる。
尚、本変形例において、第1の補助パターン102及び第2の補助パターン103のうちのいずれか一方の補助パターンを配置しなくてもよい。
また、本変形例において、位相シフター101Bの中心と第1の補助パターン102の中心との間の距離が(λ/(2×sinφ))の近傍の値であっても前述の効果がある程度生じる。
また、本変形例において、位相シフター101Bの中心と第2の補助パターン103の中心との間の距離が(λ/(2×sinφ))+(λ/(NA+sinφ))の近傍の値であっても前述の効果がある程度生じる。
また、本変形例において、上記の斜入射角φは0.4×NA以上で且つ0.80×NA以下の値であることが好ましく、特に、0.58×NA以上で且つ0.7×NA以下であることが好ましい。また、輪帯照明を用いて露光を行なう場合には上記の斜入射角φは0.6×NA以上で且つ0.80×NA以下の値であることが好ましい。また、四重極照明を用いて露光を行なう場合には上記の斜入射角φは0.4×NA以上で且つ0.60×NA以下の値であることが好ましい(詳しくは第1の実施形態の第2変形例を参照)。
また、本変形例において、主パターン101の幅Lは位相シフター101Bの幅Wよりも少なくとも2×20nm(マスク上の実寸法)以上大きいことが好ましく、特に露光波長(露光光の波長)の4分の1の2倍以上大きいことが好ましい。すなわち、主パターンのマスクエンハンサー構造において、位相シフターと透光部とによって挟まれた半遮光部(又は遮光部)の幅は、少なくとも20nm(マスク上の実寸法)以上であることが好ましく、特に露光波長の4分の1以上であることが好ましい。但し、マスクエンハンサー構造を用いたフォトマスクであるため、主パターンの幅は0.8×λ/NA以下であることが好ましく、従って、位相シフターと透光部とによって挟まれた半遮光部(又は遮光部)の幅は0.4×λ/NAを越えないことが好ましい(詳しくは第1の実施形態の第3変形例を参照)。
また、本変形例において、第2の補助パターン103の幅D2は、第1の補助パターン102の幅D1よりも大きいことが好ましく、特にD2がD1の1.2倍以上であることがより好ましい(詳しくは第1の実施形態の第4変形例を参照)。
以下、マスクエンハンサー構造を持つ主パターン101に対して、上記の特定の位置に回折光発生パターン(補助パターン102)を配置することによって、マスクエンハンサー内の開口部(位相シフター101B)を透過した光と干渉する回折光を発生させ、それによってパターン形成時のデフォーカス特性を向上させることができる理由について説明する。
図5(a)は、パターンが周期的に配置されたマスクに対して露光を行なった場合に生じる回折現象を説明する図である。図5(a)に示すように、所定のピッチPで複数の遮光パターン(以下、ピッチパターン)151が実質的に無限周期的に配置されたマスク150に対して、光源140から光141が照射されている。ここで、実質的に無限周期的に配置されたとは、実際に無数のピッチパターンが周期的に配置されたとした場合に各ピッチパターンによって得られる効果と同様の効果が、マスク中央部のピッチパターン151によって得られることを意味する。言い換えると、マスク中央部のピッチパターン151からマスク端部のピッチパターン151までの距離が4×λ/NA程度以上になるようにピッチパターン151が配置されていることを意味する。
図5(a)は、斜入射露光を想定した回折現象を示している。すなわち、光源140は、レンズ152の中心を通る法線(図中の一点鎖線)から距離Sだけ離れた所に位置している。このとき、光源140からの光141のマスク150に対する入射角(斜入射角)φはsinφ=S×NAで表される。ここで、斜入射角φを規定するSを斜入射位置と呼ぶことにする。但し、光源140の座標を、開口数NAにより規格化された値を用いて表している。また、ピッチPで配置されたピッチパターン151を通過した光141のn次回折光(nは整数)の回折角θnはsinθn=n×λ/Pで表される。また、斜入射角φでマスク150に入射した光141の0次回折光142は、レンズ152上における座標(レンズ中心を原点とする1次元座標系上の座標。以下、同じ)r0=−sinφ=−S×NAで表される位置に到達する。また、光141の1次回折光(+1次回折光)143は、レンズ152上における座標r1=r0+sinθ1=r0+λ/Pで表される位置に到達する。一般に、レンズ152上におけるn次回折光が到達する位置は、座標rn=r0+sinθn=r0+n×λ/Pで表される。但し、rnの絶対値がNAを超えた場合、該n次回折光はレンズ152を通過する回折光とはならないため、ウェハ上に結像されることはない。
ところで、理想的なレンズの場合、該レンズを通過してウェハ上に結像する回折光におけるデフォーカス時の位相変化は、レンズにおける回折光の通過位置のレンズ中心からの距離(半径)のみによって決まる。光がレンズに対して垂直に入射する場合、0次回折光は常にレンズ中心を通過し、1次以上の回折光はレンズ中心から離れた位置を通過する。そのため、デフォーカス時には、レンズ中心を通過する0次の回折光と、レンズ中心から離れた位置を通過する高次の回折光との間に位相差が生じるため、像ボケが発生する。
図5(b)は、図5(a)に示すマスクに対して、0次回折光及び1次回折光のみがレンズを通過し且つr0=−r1となる条件下で斜入射露光を行なった場合に生じる回折現象を説明する図である。図5(b)に示すように、0次回折光142及び1次回折光143は共に、レンズ152の中心から同じ距離だけ離れた位置を通過する。そのため、デフォーカス時に受ける位相変化は、0次回折光142と1次回折光143との間で互いに一致する。すなわち、両方の回折光の間で位相差が生じないので、デフォーカスに起因する像ボケが生じなくなる。ここで、r0=−r1の条件を考慮して、r1=r0+sinθ1を変形すると、−2×r0=sinθ1となる。さらに、sinθ1=λ/P及びr0=−sinφの関係を考慮すると、2×sinφ=λ/Pが得られる。従って、sinφ=λ/(2×P)で表される斜入射角φの斜入射露光を行なうことにより、デフォーカス特性の優れたパターン形成が可能になる。言い換えると、斜入射角φの斜入射露光に対しては、P=λ/(2×sinφ)のピッチで周期パターンがマスク上に設けられている際に良好なデフォーカス特性が得られる。斜入射露光において、実質的に無限周期的に配置されたピッチパターンによってデフォーカス特性が向上する理由は以上の通りである。
しかしながら、前述のような良好なデフォーカス特性が得られるのは、ピッチPがλ/(2×sinφ)又はそれに近い値であるときのみである。また、このデフォーカス特性向上効果が得られるのは、レンズを通過する回折光が、0次回折光と、+1次回折光及びー1次回折光のうちのいずれか一方の回折光となる条件のときのみである。
図5(c)は、図5(a)に示すマスクに対して、0次回折光、+1次回折光及びー1次回折光がレンズを通過する条件下で斜入射露光を行なった場合に生じる回折現象を説明する図である。図5(c)に示すように、0次回折光142がレンズ152上における座標r0=ーsinφで表される位置を通過し且つ+1次回折光143がレンズ152上におけるr1=sinφで表される位置を通過する条件下であっても、−1次回折光144がレンズ152を通過する位置であるr0−sinθ1がレンズ152内に入ってしまう場合には良好なデフォーカス特性は得られない。ここで、−1次回折光144がレンズ152の外を通過する条件はr0−sinθ1<−NAで表される。また、r0=ーsinφ及びsinθ1=r1ーr0=2×sinφを考慮すると、−1次回折光144がレンズ152の外を通過する条件は、−sinφ−2×sinφ<−NA、つまり3×sinφ>NAとなる。
すなわち、斜入射角φに対して、+1次回折光及び−1次回折光の両方がレンズを通過する条件は3×sinφ<NAで表される。この条件に該当する斜入射角φでは、+1次回折光及び−1次回折光の両方がレンズを通過すると共に、+1次回折光及び−1次回折光のそれぞれがレンズを通過する位置におけるレンズ中心からの距離が異なるため、デフォーカス時に両方の回折光の間の位相差に起因して像ボケが発生してしまう。従って、デフォーカス特性の向上を実現できる斜入射角φの下限はsinφ>NA/3で定義される。尚、sinφがNAよりも大きくなると0次回折光がレンズを通過しなくなることを考慮すると、デフォーカス特性を向上させることができる斜入射角φの条件は、NA>sinφ>NA/3で表されることになる。
次に、図5(a)に示すマスクに対してピッチパターンのピッチを変えながら斜入射露光を行なった場合におけるDOF特性のシミュレーション結果について説明する。図6(a)はシミュレーションに用いた点光源を示す図であり、図6(b)はシミュレーションに用いたピッチパターンを示す図であり、図6(c)はDOF特性のシミュレーション結果を示す図である。DOF特性のシミュレーションにおいては、図6(a)に示す一対の光源(点光源)140、具体的には、レンズ152の中心を通る法線に対して垂直な平面(二次元座標系)における座標(光源座標)(−0.8,0)及び(0.8,0)にそれぞれ位置する一対の点光源140を用いた。ここで、点光源140はArF(波長λ=193nm)光源である。また、DOF特性のシミュレーションにおいては、レンズ開口数NAが0.6であり且つ斜入射角φがsinφ=0.48(つまり図5(a)の距離Sが0.8)である斜入斜露光を用いた。さらに、図6(b)に示すピッチパターン151、つまりピッチPで無限周期的に配置された各ピッチパターン151は、幅100nmのライン状の遮光パターンであって、該ピッチパターン151を用いて幅100nmのパターンを形成する場合についてシミュレーションを行なっている。尚、図6(c)に示すDOFの値は、幅100nmのパターンが寸法誤差10nm以下で形成されるデフォーカスのレンジである。図6(c)に示すように、ピッチパターン151のピッチPがλ/(2×sinφ)(つまり約0.20μm)である場合又はλ/(2×sinφ)に近い値である場合、非常に高いDOFが得られている。しかしながら、ピッチPがλ/(2×sinφ)より小さくなっても大きくなっても、DOFの値が急激に低下する。
ここで、本願発明者は、図6(c)に示すDOFのピッチ依存性において、ピッチPの変化に対して、DOFが局所的に向上するピッチPの値が等間隔で存在していることに着目した。また、本願発明者は、このDOFが局所的に向上するピッチPの値は、高次の回折光が結像に影響を及ぼすλ/(NA+sinφ)(つまり約0.18μm)の整数倍の値になっていることを、以下に説明するように見出した。
光の回折現象においては、隣り合う次数の回折光は互いに反対の位相を有する関係にある。図6(d)は、図5(a)に示すマスクに対して、0次回折光、1次回折光及び2次回折光がレンズを通過する条件下で斜入射露光を行なった場合に生じる回折現象を説明する図である。このとき、図6(d)に示す1次回折光143に対して、2次回折光145は反対の位相を有する。斜入射露光において0次回折光142及び1次回折光143により形成される像に、反対位相を持つ2次回折光145により形成される像が干渉すると、互いに相手の像の強度を打ち消してしまう現象が起こる。しかしながら、デフォーカス時においては両方の像の強度が減少する一方、1次回折光143及び2次回折光145のそれぞれの位相が反対であるので、それぞれの像におけるデフォーカスによる劣化は互いに打ち消される。すなわち、1次回折光143によって形成される像に反対位相の2次回折光145によって形成される像が干渉して生じる像におけるデフォーカス特性は向上し、その結果、DOF特性が向上する。
このようなDOF特性向上効果が生じる条件は、図6(d)に示すように、2次回折光145がレンズ152を通過する条件であって、それはsinθ2<NAーr0で表される。ここで、sinθ2=2×λ/P及びr0=−sinφを考慮すると、前述の条件は2×λ/P<NA+sinφで表される。従って、レンズ152において1次回折光143までが通過する状態から2次回折光145までが通過する状態に変化するピッチPは2×λ/(sinφ+NA)で表される。また、一般に、n次回折光がレンズを通過する条件はsinθn=n×λ/P<NAーr0=NA+sinφで表される。言い換えると、n次回折光はピッチPがn×λ/(sinφ+NA)以上になるとレンズ端を通過することができる。従って、ピッチP=n×λ/(sinφ+NA)(nは2以上の整数)のときに局所的にDOF特性が向上する。
以上に説明したように、斜入射露光においては反対位相の関係にある光同士が干渉することにより、デフォーカス特性の向上を実現できる。そこで、本願発明者は、1次回折光に対して反対位相となる2次回折光の強度を強めることと同等の作用を引き起こす操作により、デフォーカス特性の向上が可能になると考えた。具体的には、遮光性パターンを周期的に配置することにより形成される回折光に、1次回折光に対して反対位相となる0次回折光の成分を導入する操作によって、デフォーカス特性の向上が可能になる。これは、前述のマスクエンハンサーの構造を利用して実現できる。すなわち、マスクエンハンサーにおいては、その内部に設けられる位相シフター(開口部)の寸法を制御することによって、マスクエンハンサーによる遮光の程度を調整しながら且つレンズ内を通過する回折光の次数を変化させることなく、反対位相の光を制御できるからである。本願発明者は、マスクエンハンサーを用いれば、ピッチP=n×λ/(sinφ+NA)(nは2以上の整数)のときに局所的に僅かに向上していたDOF(図6(c)参照)が、マスクエンハンサーの位相シフターの寸法に比例して大幅に向上すると予測した。
そこで、次に、本願発明者が、ピッチパターンとしてマスクエンハンサーを用いて、図6(a)〜(c)に示すシミュレーションと同様のシミュレーションを行なった結果について説明する。図7(a)はシミュレーションにおいてピッチパターンとして用いたマスクエンハンサーを示す図であり、図7(b)は、図7(a)に示すピッチパターンによるDOF特性のシミュレーション結果を示す図である。尚、シミュレーションに用いた点光源は図6(a)に示す点光源と同様であり、他のシミュレーション条件も図6(a)〜(c)に示す場合と同様である。また、図7(b)においては、マスクエンハンサーの位相シフターの大きさ(開口幅)を変化させた場合の結果も示している。
図7(a)に示すように、所定のピッチPで複数のマスクエンハンサー110が実質的に無限周期的に配置されている。各マスクエンハンサー110は、その外形形状を有する半遮光部111と、マスクエンハンサー110の中央部に半遮光部111によって取り囲まれるように設けられた位相シフター112とから構成される。ここで、マスクエンハンサー110の幅(パターン幅)をL、位相シフター112の幅(開口幅)をWとする。
図6(c)に示すDOF特性と同様に、図7(b)に示すDOF特性においても、ピッチPがn×λ/(sinφ+NA)(nは2以上の整数)のときに、DOFが局所的に増大している。また、パターン幅Lに対する開口幅Wの比(W/L)が大きくなるに従ってDOFの向上効果が非常に大きくなっている。すなわち、マスクエンハンサー特有の効果として、マスクエンハンサーが周期的に配置されてなるパターンに対して斜入射露光を行なうと、ピッチPがλ/(2×sinφ)(シミュレーション条件では約0.20μm)又はその近傍の値のときだけではなく、ピッチPがn×λ/(sinφ+NA)(シミュレーション条件では約(n×0.18)μm。但しnは2以上の整数)という大きな寸法であるときにも、DOF特性に優れたパターン転写が可能となる。
さらに、本願発明者が、ピッチパターンとしてのマスクエンハンサーとして、図7(a)に示す実質的に無限周期的に配置されたマスクエンハンサーに代えて、並列的に配置された3個のマスクエンハンサーを用いて、図6(a)〜(c)に示すシミュレーションと同様のシミュレーションを行なった結果について説明する。図8(a)はシミュレーションにおいて用いたマスクエンハンサーを示す図であり、図8(b)は、図8(a)に示すマスクエンハンサーによるDOF特性のシミュレーション結果を示す図である。尚、シミュレーションに用いた点光源は図6(a)に示す点光源と同様であり、他のシミュレーション条件も図6(a)〜(c)に示す場合と同様である。すなわち、レンズ開口数NAが0.6であり、距離S(図5(a)参照)が0.8であり、斜入射角φがsinφ=S×NA=0.48である斜入斜露光を用いた。
図8(a)に示すように、3個のマスクエンハンサー110が等間隔(パターン間距離R)で並列的に配置されている。各マスクエンハンサー110は、その外形形状を有する半遮光部111と、マスクエンハンサー110の中央部に半遮光部111によって取り囲まれるように設けられた位相シフター112とから構成される。ここで、マスクエンハンサー110の幅(パターン幅)をL、位相シフター112の幅(開口幅)をWとすると、W/L=0.4である。
図8(b)においては、パターン間距離Rを変化させた場合における、3個のマスクエンハンサー110のうちの中央に位置するマスクエンハンサー110によるDOF特性を示している。図7(b)に示すDOF特性と同様に、図8(b)に示すDOF特性においても、ピッチP、つまりパターン間距離(正確には各マスクエンハンサー110の位相シフター112同士の間の距離)Rがλ/(2×sinφ)(シミュレーション条件では約0.20μm)又はその近傍の値のときに、DOF特性が局所的に良くなる。また、図8(b)に示すように、パターン間距離Rが、λ/(2×sinφ)(約0.20μm)にλ/(sinφ+NA)(約0.18μm)の倍数を加えた値である場合にもDOFの極大値が現れている。
すなわち、3個のマスクエンハンサー110が配置されてなるパターンに対して斜入射露光を行なう場合、パターン間距離Rがλ/(2×sinφ)(約0.20μm)であるとDOFの極大値が発生する。さらに、パターン間距離Rがλ/(2×sinφ)+n×λ/(sinφ+NA)(nは自然数)であってもDOFの極大値が得られる。これは、無限周期的に配置されたマスクエンハンサーからなるパターンに対して斜入射露光を行なう場合における、デフォーカスに起因して0次回折光及び1次回折光のそれぞれに生じる位相ズレ(位相変化)が同期する回折現象と、0次回折光及び1次回折光の結像に反対位相の高次回折光が干渉する現象とが原因となって起こると考えられる。従って、前述のDOFの極大値が得られるパターン間距離Rを表す関係式は一般的に成り立つものと推測される。
以上に説明したことから、本願発明者は、図1(a)に示す本実施形態のフォトマスクにおける主パターン101として、マスクエンハンサー110のように、位相シフターを有するパターンを用いる場合、補助パターン102として、露光により転写されず且つ回折光を発生させるパターン(回折光発生パターン)を所定の位置に配置することにより、露光によって主パターン101が転写されるときのDOF特性を大幅に向上させることができることを見出した。ここで、所定の位置とは、主パターン101の位相シフター101B(つまりマスクエンハンサー110の位相シフター112)の中心から、λ/(2×sinφ)だけ離れた位置とλ/(2×sinφ)+n×λ/(sinφ+NA)(nは正の整数)だけ離れた位置である。
図9(a)〜(c)は、マスクエンハンサーよりなる主パターンのDOF特性が大幅に向上するように回折光発生パターン(補助パターン)が配置されてなる本発明のマスクパターンをそれぞれ示す平面図である。
図9(a)に示すように、半遮光部111の内部に位相シフター112(幅:W)が設けられてなるマスクエンハンサー110(幅:L)における位相シフター112の中心から例えばλ/(2×sinφ)離れた位置に、露光により転写されない寸法を持つ半遮光部からなる第1次回折光発生パターン(第1の補助パターン)113(幅:D)を配置することによって、マスクエンハンサー110のDOF特性が向上する。
また、図9(b)に示すように、半遮光部111の内部に位相シフター112が設けられてなるマスクエンハンサー110における位相シフター112の中心から例えばλ/(2×sinφ)+λ/(sinφ+NA)離れた位置に、露光により転写されない寸法を持つ半遮光部からなる第2次回折光発生パターン(第2の補助パターン)114(幅:D)を配置することによって、マスクエンハンサー110のDOF特性が向上する。
さらに、本願発明者は、DOF向上効果が回折光によって発生するという理由から、図9(c)に示すように、図9(a)に示す補助パターンと図9(b)に示す補助パターンとを合成することによって、マスクエンハンサー110のDOF特性が大幅に向上することを見出した。すなわち、マスクエンハンサー110の位相シフター112の中心からλ/(2×sinφ)離れた位置に第1次回折光発生パターン113を配置すると共に位相シフター112の中心からλ/(2×sinφ)+λ/(sinφ+NA)離れた位置に第2次回折光発生パターン114を配置することによって、DOF特性の向上効果がより大きくなる。
すなわち、主パターンから第1の補助パターンまでの距離(X)と、第1の補助パターンから第2の補助パターンまでの距離(Y)とが等しい周期的な配置と比べて、前述のような、主パターンから第1の補助パターンまでの距離Xが、第1の補助パターンから第2の補助パターンまでの距離Yよりも長い非周期的な配置の方が、DOF特性の向上には優れている。ここで、XとYとの最適な比率はX/Y=(sinφ+NA)/(2×sinφ)で表される。これを、斜入射角φに対してsinφ=NA×Sの関係にある斜入射位置Sで表すと、X/Y=(sinφ+NA)/(2×sinφ)=(1+S)/(2×S)となり、NAに依存しない値となる。
尚、図示は省略しているが、第2の補助パターン114の中心から(マスクエンハンサー110から遠ざかる方向に)λ/(sinφ+NA)離れた位置に、露光により転写されない寸法を持つ半遮光部からなる第3の回折光発生パターン(第3の補助パターン)を配置することも好ましい。同様に、第3の補助パターンの中心からλ/(sinφ+NA)の倍数ずつ離れた位置に、露光により転写されない寸法を持つ半遮光部からなる第4、第5、第6・・・の回折光発生パターンを補助パターンとして配置することも好ましい。
以下、回折光発生パターンを前述の所定の位置に配置することの効果をシミュレーションによって確認していく。
まず、図9(a)〜(c)に示す位置に回折光発生パターンを配置することによって、マスクエンハンサーよりなる主パターンについて良好なDOF特性が得られることを、本願発明者がシミュレーションによって実証した結果について説明する。図10(a)は、シミュレーションにおいて用いたパターン(マスクパターン)を示す図である。具体的には、図10(a)に示すように、半遮光部111の内部に位相シフター112が設けられてなるマスクエンハンサー110における位相シフター112の中心から距離X離れた位置に、露光により転写されない寸法を持つ半遮光部からなる第1次回折光発生パターン(第1の補助パターン)113が配置されている。また、第1次回折光発生パターン113の中心から(マスクエンハンサー110から遠ざかる方向に)距離Y離れた位置に、露光により転写されない寸法を持つ半遮光部からなる第2次回折光発生パターン(第2の補助パターン)114が配置されている。ここで、マスクエンハンサー110の幅をL、位相シフター112の幅をW、第1次回折光発生パターン113及び第2次回折光発生パターン114の幅をDとする。図10(b)は、図10(a)に示すパターンによるDOF特性のシミュレーション結果を示す図である。具体的には、図10(b)は、図10(a)に示すパターンに対して距離X及び距離Yを色々変化させながら露光を行なった場合における、マスクエンハンサー110に対応して形成されるパターンのDOFをシミュレーションにより求め、その結果を距離X及び距離Yについてマッピングした図である。尚、シミュレーション条件は、L=100nm、W=60nm、D=70nm、光源(ArF光源)の波長λ=193nm、レンズ開口数NA=0.6、sinφ(φ:斜入射角)=0.8×NAとした。また、第1次回折光発生パターン113及び第2次回折光発生パターン114のそれぞれを構成する半遮光部の透過率を6%としていると共に、マスクエンハンサー110に対応して形成されるパターンの寸法(幅)を100nmとしている。また、図10(b)において、等高線はDOFを表していると共に、点Aは、距離X=λ/(2×sinφ)(約0.20μm)、距離Y=λ/(sinφ+NA)(約0.18μm)の点を表している。図10(b)に示すように、点AにおいてDOFのほぼ最大値が得られていることが分かる。すなわち、図4に示す本変形例のフォトマスクにより、良好なDOF特性が得られることが実証できた。
また、図4に示す位置に回折光発生パターンを配置することによってDOFを最大にできることが、任意の光学条件でも成り立つことを証明するために、本願発明者が図10(a)に示すパターンを用いて異なる光学条件で同様のシミュレーションを行なった結果について説明する。
図11(a)は、レンズ開口数NA=0.6、sinφ=0.7×NAの光学条件(その他の条件は図10(b)と同様)を用いた場合におけるDOF特性のシミュレーション結果を示す図である。図11(a)において、点Aは、距離X=λ/(2×sinφ)(約0.23μm)、距離Y=λ/(sinφ+NA)(約0.19μm)の点を表している。図11(a)に示すように、点AにおいてDOFのほぼ最大値が得られていることが分かる。
図11(b)は、レンズ開口数NA=0.6、sinφ=0.6×NAの光学条件(その他の条件は図10(b)と同様)を用いた場合におけるDOF特性のシミュレーション結果を示す図である。図11(b)において、点Aは、距離X=λ/(2×sinφ)(約0.268μm)、距離Y=λ/(sinφ+NA)(約0.20μm)の点を表している。図11(b)に示すように、点AにおいてDOFのほぼ最大値が得られていることが分かる。
図11(c)は、レンズ開口数NA=0.7、sinφ=0.7×NAの光学条件(その他の条件は図10(b)と同様)を用いた場合におけるDOF特性のシミュレーション結果を示す図である。図11(c)において、点Aは、距離X=λ/(2×sinφ)(約0.196μm)、距離Y=λ/(sinφ+NA)(約0.162μm)の点を表している。図11(c)に示すように、点AにおいてDOFのほぼ最大値が得られていることが分かる。
以上の説明においては、点光源を用いた場合を前提としてきたが、以下、面積を有する光源を用いた場合における、回折光発生パターンによるDOF特性の向上効果をシミュレーションにより評価した結果について説明する。図12(a)〜(c)はそれぞれ、シミュレーションにおいて用いたパターン(マスクパターン)を示す図である。
具体的には、図12(a)に示すマスクパターンは、幅Lのマスクエンハンサー110のみからなる。ここで、マスクエンハンサー110は、その外形形状を有する半遮光部111と、マスクエンハンサー110の中央部に半遮光部111によって取り囲まれるように設けられた位相シフター112(幅W)とから構成される。図12(b)に示すマスクパターンは、図12(a)に示すマスクエンハンサー110に、sinθ=2×sinφ(φ:斜入射角)で表される角度θで回折する回折光を発生させる第1次回折光発生パターン113が付加されたものである。ここで、第1次回折光発生パターン113は半遮光パターンであり、その幅はDである。図12(c)に示すマスクパターンは、図12(b)に示すマスクエンハンサー110及び第1次回折光発生パターン113に、sinη=2×(NA+sinφ)(φ:斜入射角、NA:レンズ開口数)で表される角度ηで回折する回折光を発生させる第2次回折光発生パターン114が付加されたものである。ここで、第2次回折光発生パターン114は半遮光パターンであり、その幅はDである。
図12(d)はシミュレーションに用いた光源、具体的には輪帯光源を示す図である。図12(d)に示すように、輪帯光源の外径及び内径はそれぞれ0.8及び0.6(レンズ開口数NAにより規格化している)である。この場合、斜入射角φに関して、0.6×NA<sinφ<0.8×NAの斜入射光が存在することなる。この場合、第1次回折光発生パターン113及び第2次回折光発生パターン114の最適な配置位置は、上記の光源の主成分となる斜入射角で決定できると考えられる。すなわち、上記の光源であれば、斜入射角φの平均値が光源の主成分であると考えることができるので、該主成分となる斜入射角φは、sinφ=NA×(0.6+0.8)/2=0.7×NAで表される。以下、この内容も含めて、シミュレーションによる確認結果について説明を続ける。
図12(e)は、図12(a)〜(c)のそれぞれに示すマスクパターンに対して所定の条件で露光を行なった場合に各マスクエンハンサー110に対応して生じる光強度分布のシミュレーション結果を示す図である。また、図12(f)は、図12(a)〜(c)のそれぞれに示すマスクパターンに対して所定の条件で露光を行なって、各マスクエンハンサー110と対応する幅0.1μmのパターンを形成した場合における該パターンのCDのデフォーカス特性をシミュレーションした結果を示す図である。ここで、CDとはクリティカルディメンジョンのことであって、パターンの仕上がり寸法を表している。尚、シミュレーションにおいては、L=180nm、W=60nm、D=90nmとし、回折光発生パターンの位置については、sinφ=0.7×NA=0.42となる斜入射角φに基づいて決定した。また、光源(ArF光源)の波長λを193nmとし、レンズ開口数NAを0.6とした。また、第1次回折光発生パターン113及び第2次回折光発生パターン114のそれぞれを構成する半遮光部の透過率を6%としている。尚、図12(e)及び図12(f)において、線の種類を示す(a)、(b)及び(c)はそれぞれ図12(a)、図12(b)及び図12(c)に示すマスクパターンと対応する。
図12(e)に示すように、図12(a)〜(c)に示す全てのマスクパターンによって、つまりマスクエンハンサー110を持つマスクパターンによって、非常にコントラストの高い像(光強度分布)が形成されている。また、各光強度分布における0.1μmのパターンの形成に関わる部分は、第1次回折光発生パターン113及び第2次回折光発生パターン114の影響を殆ど受けていない。このとき、0.1μm(100nm)のパターンの形成における臨界光強度は0.2程度であるので、第1次回折光発生パターン113及び第2次回折光発生パターン114が解像されてレジストに転写されないことが分かる。
また、図12(f)に示すように、第1次回折光発生パターン113及び第2次回折光発生パターン114をマスクパターンに付加することによって、マスクエンハンサー110のデフォーカス特性が飛躍的に向上する。すなわち、位相シフター112が設けられたマスクエンハンサー110を、第1次回折光発生パターン113及び第2次回折光発生パターン114と共に使用することによって、デフォーカス特性の優れたパターン形成が可能になる。
次に、前述のように理論的に導かれた、デフォーカス特性を最適化する回折光発生パターンの配置位置の算出方法が正しいことを、本願発明者がシミュレーションにより実証した結果について説明する。具体的には、図12(b)又は図12(c)に示すマスクパターンにおいて回折光発生パターン113又は114の位置を変化させた場合における、マスクエンハンサー110に対応して形成される幅0.1μmのラインパターンのDOFの値をシミュレーションにより求めた。ここで、DOFは、ラインパターンの幅が0.1μmから0.09μmまで変化するデフォーカス範囲である。また、シミュレーション条件は、図12(e)及び(f)の場合と同様である。
図13(a)は、図12(b)に示すマスクパターンにおいて第1次回折光発生パターン113が位相シフター112の中心から距離P1離れた位置に配置されている様子を示す図である。また、図13(b)は、図13(a)に示すマスクパターンに対して距離P1を変化させながら露光を行なった場合における、前述のDOFの変化を示す図である。図13(b)に示すように、距離P1が、理論式λ/(2×sinφ)により求められる約230nmのときにDOFの値がほぼピークになっている。
図13(c)は、図12(c)に示すマスクパターンにおいて第2次回折光発生パターン114が第1次回折光発生パターン113の中心から距離P2離れた位置に配置されている様子を示す図である。ここで、位相シフター112と第1次回折光発生パターン113との間の距離はλ/(2×sinφ)(約230nm)である。また、図13(d)は、図13(c)に示すマスクパターンに対して距離P2を変化させながら露光を行なった場合における、前述のDOFの変化を示す図である。図13(d)に示すように、距離P2が、理論式λ/(sinφ+NA)により求められる約190nmのときにDOFの値がほぼピークになっている。
以上に説明したように、位相シフター又はマスクエンハンサーに対して、光源(レンズ中心を通る法線から距離Sだけ離れている光源)の波長がλ、レンズ開口数がNAの露光機によって斜入射露光を行なう場合、回折光発生パターンを次のように配置することによって、位相シフター又はマスクエンハンサーに対応して形成されるパターンのDOF特性を最適化することが可能となる。すなわち、位相シフター又はマスクエンハンサーの中心(いずれにしても位相シフターの中心)からλ/(2×sinφ)離れた位置に第1次回折光発生パターンを配置すると共に、第1次回折光発生パターンの中心からλ/(sinφ+NA)離れた位置、つまり、位相シフターの中心から(λ/(2×sinφ))+(λ/(sinφ+NA))離れた位置に第2次回折光発生パターンを配置する。
以上の説明において、照明形状から決まる斜入射角φの主成分に対して回折光発生パターンの最適な配置位置を示してきたが、続いて、回折光発生パターンの配置位置の許容範囲について説明する。図8(b)に示すように、回折光発生パターンの最適配置位置同士の間にはDOFが最低となる位置(以下、最悪配置位置と称する)が存在する。ここで、最適配置位置と最悪配置位置との中間位置を、平均的なDOF向上効果が得られる位置(以下、平均配置位置と称する)と定義すると、最適配置位置を挟む一対の平均配置位置の間に回折光発生パターンが収まっていることが好ましい。あるいは、最適配置位置とそれを挟む一対の平均配置位置のそれぞれとの中間位置同士の間に回折光発生パターンの中心が収まっていることがさらに好ましい。
具体的に説明すると、第2次回折光発生パターンの最適配置位置は、位相シフターの中心からλ/(2×sinφ)+λ/(sinφ+NA)離れた位置である。この位置を点OPと呼ぶと、点OPの両側における最悪配置位置は、点OPから両側に(λ/(sinφ+NA))/2離れた位置である。また、点OPの両側における平均配置位置は、点OPから両側に(λ/(sinφ+NA))/4離れた位置である。この一対の平均配置位置に挟まれた領域に第2次回折光発生パターンが収まることが好ましいとすると、位相シフターの中心からの距離がλ/(2×sinφ)+(λ/(sinφ+NA))×(3/4)〜λ/(2×sinφ)+(λ/(sinφ+NA))×(5/4)の範囲に第2次回折光発生パターンが収まっていることが好ましい。図13(c)の場合と同様の条件下で数値換算を行なった場合、第1次回折光発生パターンの中心からの距離が143〜238nmの範囲に第2次回折光発生パターンが収まっていることが好ましい。
また、第2次回折光発生パターンの最適配置位置とそれを挟む一対の平均配置位置のそれぞれとの中間位置は、点OPから両側に(λ/(sinφ+NA))/8離れた位置である。ここで、第2次回折光発生パターンがレジストパターンを形成しない補助パターンであり、且つ最適配置位置を挟む前述の一対の中間位置同士の間に第2次回折光発生パターンの中心が存在することが最も好ましい。すなわち、位相シフターの中心からの距離がλ/(2×sinφ)+(λ/(sinφ+NA))×(7/8)〜λ/(2×sinφ)+(λ/(sinφ+NA))×(9/8)の範囲に第2次回折光発生パターンの中心が存在することが好ましい。図13(c)の場合と同様の条件下で数値換算を行なった場合、第1次回折光発生パターンの中心からの距離が166〜214nmの範囲に第2次回折光発生パターンの中心が存在することが好ましい。
第1次回折光発生パターンについても、第2次回折光発生パターンと同様に、第1次回折光発生パターンの最適配置位置の両側に(λ/(sinφ+NA))/4離れた一対の平均配置位置に挟まれた領域に第1次回折光発生パターンが収まることが好ましい。あるいは、第1次回折光発生パターンの最適配置位置とそれを挟む一対の平均配置位置のそれぞれとの中間位置、つまり第1次回折光発生パターンの最適配置位置の両側に(λ/(sinφ+NA))/8離れた一対の中間位置に挟まれた領域に第1次回折光発生パターンの中心が収まることが好ましい。
具体的には、第1次回折光発生パターンは、位相シフターの中心からの距離がλ/(2×sinφ)−(λ/(sinφ+NA))/4からλ/(2×sinφ)+(λ/(sinφ+NA))/4までの範囲に収まっていることが好ましい。図13(a)の場合と同様の条件下で数値換算を行なった場合、第1次回折光発生パターンは、位相シフターの中心からの距離が183〜278nmの範囲に収まっていることが好ましい。あるいは、第1次回折光発生パターンの中心は、位相シフターの中心からの距離がλ/(2×sinφ)−(λ/(sinφ+NA))/8からλ/(2×sinφ)+(λ/(sinφ+NA))/8までの範囲に存在することが好ましい。図13(a)の場合と同様の条件下で数値換算を行なった場合、第1次回折光発生パターンの中心は、位相シフターの中心からの距離が206〜254nmの範囲に存在することが好ましい。
尚、以上に述べた、第2次回折光発生パターンの配置位置の許容範囲についての考え方は、例えば図4に示すような第2次回折光発生パターンまでが存在している場合に限られるものではない。すなわち、第3次回折光発生パターンや第4次回折光発生パターン等が存在する場合には、第2次回折光発生パターンの場合と同様に定義される配置位置の許容範囲に第3次回折光発生パターンや第4次回折光発生パターン等が配置されることが好ましい。
(第1の実施形態の第2変形例)
以下、本発明の第1の実施形態の第2変形例として、第1の実施形態(又はその第1変形例)に係るフォトマスクに対しての好ましい斜入射角の範囲について説明する。ここまで、露光に用いる斜入射角に対して好ましい補助パターンの配置位置について説明をしてきたが、本変形例では、好ましい斜入射角が実際に存在することを示す。すなわち、その好ましい斜入射角に対して補助パターンを最適な位置に配置したフォトマスクが、最もパターン形成に優れたフォトマスクとなる。
ところで、実際の露光に用いられる照明は点光源ではなく、ある程度の面積を有するものである。そのため、露光においては複数の斜入射角φが同時に存在することになる。そこで、好ましい斜入射角を考えるに当たって、斜入射照明を、輪帯照明、二重極照明及び四重極照明等のグループに分類して考える。なぜなら、例えば輪帯照明においては、全ての照明成分がマスク面に対して斜入射成分となる一方、マスク上の各ラインパターンに対して実質的に斜入射成分とはならない照明成分が存在する。それに対して、二重極照明及び四重極照明においては、斜入射成分以外の照明成分は存在しない。
具体的には、輪帯照明においては、ラインパターンの延びる方向(以下、ライン方向と称する)に対して垂直な方向から入射する光は、そのラインパターンに対しては斜入射光となる一方、ライン方向に対して平行な方向から入射する光は、そのラインパターンに対しては実質的に垂直入射光となる。従って、このような垂直入射成分が存在する照明は、その形状によらず輪帯照明のグループと考えればよい。
一方、ライン方向に対して垂直な方向に分極した二重極照明においては、そのラインパターンに対して実質的に垂直入射成分の光が存在しなくなる。よって、このような斜入射成分のみが存在する照明は、その形状によらず二重極照明のグループと考えればよい。
また、四重極照明においては、ニ重極照明と同様に、ライン方向に対して平行な方向からの入射成分(つまり実質的な垂直入射光)が存在しなくなる。さらに、四重極照明においては、ライン方向に対して対角方向(ライン方向と成す角度が45度の方向)から入射する斜入射光のみが存在することになる。例えばライン方向に対して45度の対角方向から、開口数NAに対してsinφMAX =NAによって定義される最大斜入射角φMAX の光が入射した場合、この光をライン方向に対して垂直な方向に射影すると、実質的にはsinφ=NA×0.50.5 の斜入射成分と等価になる。このような特殊性から、四重極照明はニ重極照明とは異なる特性を持つ。
以下、補助パターンとして回折光発生パターンを主パターンに対して配置した場合における、DOFの斜入射角への依存性をシミュレーション結果を用いて説明する。ここで、シミュレーションには図9(a)〜(c)に示すマスクパターンを用いた。尚、図9(a)においては、第1の補助パターン113のみが配置されている。この第1の補助パターン113は半遮光部から構成されており、その幅はDである。図9(b)においては、第2の補助パターン114のみが配置されている。この第2の補助パターン114も半遮光部から構成されており、その幅はDである。図9(c)においては、前述の第1の補助パターン113と第2の補助パターン114とが共に配置されている。また、図9(a)〜(c)におけるマスクエンハンサー110は半遮光部111と位相シフター112とから構成されており、そのマスク幅はLであり、位相シフター幅はWである。
図9(a)〜(c)に示すマスクパターンに対して輪帯照明を用いて斜入射露光を行なうシミュレーションの結果を図14(a)〜(d)に示す。図14(a)は、シミュレーションに用いた輪帯照明を示す図である。図14(a)において、照明形状の内径をS1で表し、外径をS2で表す。また、図14(a)においては、XY座標系も合わせて示している。尚、図9(a)〜(c)の各ラインパターン(マスクエンハンサー110、第1及び第2の補助パターン113及び114)は、XY座標系のY軸に対して平行に配置されているものとする。また、DOFの斜入射角への依存性をシミュレーションするにあたって、図14(a)に示す照明を用いて露光を行なう場合は、S=(S1+S2)/2となるSを定義すると共に、sinφ=S×NAに基づいて図9(a)〜(c)の各補助パターン113及び114を配置し、その際のパターン形成特性のシミュレーションを行なう。ここで、シミュレーションにおいて、L=100nm、W=60nm、D=60nmとし、λ=193nm、NA=0.7とした。また、S2−S1=0.02となるように輪帯照明の形状を定めた。これらの条件の下で図9(a)〜(c)のそれぞれに示すマスクパターンを用いて幅80nmのパターンの形成を行なった場合におけるDOFの斜入射角φへの依存性(正確には斜入射位置S=sinφ/NAへの依存性)をシミュレーションした結果を図14(b)〜(d)に示す。尚、図14(b)〜(d)においては、比較のため、主パターンとして幅100nmの遮光パターンを用いた場合の結果も合わせて示している。すなわち、図14(b)〜(d)において、主パターンがマスクエンハンサー構造である場合の結果を実線で示すと共に、主パターンが遮光パターンである場合の結果を点線で示す。
図14(b)〜(d)に示す全ての結果において、S≒0.7となる照明条件を用いた場合のDOFが最大となっている。また、Sが0.58以上で且つ0.8以下の照明条件において、主パターンに遮光パターンを用いる場合と比べて、主パターンにマスクエンハンサー構造を用いることによりDOFが向上する。すなわち、マスクエンハンサーからなる主パターンに対して、sinφ及びNAにより定義される位置に補助パターンが配置された、図9(a)〜(c)のマスクパターンは、sinφ=0.7×NAを満たす斜入射角φを露光条件として用いることにより、最も優れたパターン形成特性を実現するマスクパターンとなる。尚、最適な照明条件は前述のように定められるが、主パターンにマスクエンハンサー構造を導入すると共にsinφが0.6×NA以上で且つ0.8×NA以下となる照明条件を用いることによっても、主パターンが遮光パターンから構成される場合と比べてDOFを向上させることができる。
前述のシミュレーション条件の場合を例として具体的に説明すると、次のようになる。すなわち、最適照明条件はsinφ=0.7×NAであってNA=0.7であるので、主パターンを構成する位相シフターの中心からλ/(2×sinφ)=0.193/(2×0.7×0.7)=197nm離れた位置に第1の補助パターン(正確にはその中心)を配置することにより、最適なフォトマスクが得られる。同様に、主パターンを構成する位相シフターの中心からλ/(2×sinφ)+λ/(NA+sinφ)=0.193/(2×0.7×0.7)+0.193/(0.7+0.7×0.7)=359nm離れた位置に第2の補助パターン(正確にはその中心)を配置することにより、最適なフォトマスクが得られる。
また、主パターンにマスクエンハンサー構造を導入すると共に、主パターンの位相シフターの中心からの距離が0.193/(2×0.8×0.7)=172nm以上で且つ0.193/(2×0.58×0.7)=238nm以下の範囲に第1の補助パターン(正確にはその中心)を配置することにより、DOFの向上効果が生じる。同様に、主パターンの位相シフターの中心からの距離が0.193/(2×0.8×0.7)+0.193/(0.7+0.8×0.7)=325nm以上で且つ0.193/(2×0.58×0.7)+0.193/(0.7+0.58×0.7)=412nm以下の範囲に第2の補助パターン(正確にはその中心)を配置することにより、DOFの向上効果が生じる。
次に、図9(a)〜(c)に示すマスクパターンに対してニ重極照明を用いて斜入射露光を行なうシミュレーションの結果を図15(a)〜(d)に示す。図15(a)は、シミュレーションに用いたニ重極照明を表す図である。図15(a)において、XY座標系も合わせて示している。また、図15(a)において、分極した照明形状の内側座標をx1で表し、外側座標をx2で表す。ここで、ニ重極照明の分極方向は、マスクエンハンサー110等のライン方向に対して垂直な方向であるとする。すなわち、ニ重極照明の分極方向はXY座標系のX軸に対して平行な方向であり、図9(a)〜(c)の各ラインパターンは、XY座標系のY軸に対して平行に配置されているものとする。また、DOFの斜入射角への依存性をシミュレーションするにあたって、図15(a)に示す照明を用いて露光を行なう場合は、S=(x1+x2)/2となるSを定義すると共に、sinφ=S×NAに基づいて図9(a)〜(c)の各補助パターン113及び114を配置し、その際のパターン形成特性のシミュレーションを行なう。ここで、シミュレーションにおいて、L=100nm、W=60nm、D=60nmとし、λ=193nm、NA=0.7とした。また、x2−x1=0.02となるようにニ重極照明の形状を定めた。図14(b)〜(d)に示す輪帯照明の場合と同様に、これらの条件の下で図9(a)〜(c)のそれぞれに示すマスクパターンを用いて幅80nmのパターンの形成を行なった場合におけるDOFの斜入射角φへの依存性(正確には斜入射位置S=sinφ/NAへの依存性)をシミュレーションした結果を図15(b)〜(d)に示す。尚、図15(b)〜(d)においては、比較のため、主パターンとして幅100nmの遮光パターンを用いた場合の結果も合わせて示している。すなわち、図15(b)〜(d)において、主パターンがマスクエンハンサー構造である場合の結果を実線で示すと共に、主パターンが遮光パターンである場合の結果を点線で示す。
図15(b)〜(d)に示す全ての結果において、S≒0.58となる照明条件を用いた場合のDOFが最大となっている。また、Sが0.5以上で且つ0.7以下の照明条件において、主パターンに遮光パターンを用いる場合と比べて、主パターンにマスクエンハンサー構造を用いることによりDOFが向上する。すなわち、マスクエンハンサーからなる主パターンに対して、sinφ及びNAにより定義される位置に補助パターンが配置された、図9(a)〜(c)のマスクパターンは、sinφ=0.58×NAを満たす斜入射角φを露光条件として用いることにより、最も優れたパターン形成特性を実現するマスクパターンとなる。尚、最適な照明条件は前述のように定められるが、主パターンにマスクエンハンサー構造を導入すると共にsinφが0.5×NA以上で且つ0.7×NA以下となる照明条件を用いることによっても、主パターンが遮光パターンから構成される場合と比べてDOFを向上させることができる。
次に、図9(a)〜(c)に示すマスクパターンに対して四重極照明を用いて斜入射露光を行なうシミュレーションの結果を図16(a)〜(d)に示す。図16(a)は、シミュレーションに用いた四重極照明を表す図である。図16(a)において、XY座標系も合わせて示している。尚、図9(a)〜(c)の各ラインパターン(マスクエンハンサー110、第1及び第2の補助パターン113及び114)は、XY座標系のY軸に対して平行に配置されているものとする。また、図16(a)において、四重極照明は、前記のラインパターンの方向(ライン方向)に対して対角方向の位置に分極したものであり、ライン方向(Y軸方向)に対して垂直な方向(X軸方向)における、分極した照明形状の内側座標をx1で表し、外側座標をx2で表す。また、DOFの斜入射角への依存性をシミュレーションするにあたって、図16(a)に示す照明を用いて露光を行なう場合は、図15(a)に示すニ重極照明の場合と同様に、S=(x1+x2)/2となるSを定義すると共に、sinφ=S×NAに基づいて図9(a)〜(c)の各補助パターン113及び114を配置し、その際のパターン形成特性のシミュレーションを行なう。ここで、シミュレーションにおいて、L=100nm、W=60nm、D=60nmとし、λ=193nm、NA=0.7とした。また、x2−x1=0.02となるように四重極照明の形状を定めた。図15(b)〜(d)に示すニ重極照明の場合と同様に、これらの条件の下で図9(a)〜(c)のそれぞれに示すマスクパターンを用いて幅80nmのパターンの形成を行なった場合におけるDOFの斜入射角φへの依存性(正確には斜入射位置S=sinφ/NAへの依存性)をシミュレーションした結果を図16(b)〜(d)に示す。尚、図16(b)〜(d)においては、比較のため、主パターンとして幅100nmの遮光パターンを用いた場合の結果も合わせて示している。すなわち、図16(b)〜(d)において、主パターンがマスクエンハンサー構造である場合の結果を実線で示すと共に、主パターンが遮光パターンである場合の結果を点線で示す。
図16(b)〜(d)に示す全ての結果において、つまり四重極照明においては、S≒0.50となる照明条件を用いた場合のDOFが最大となっている。すなわち、四重極照明においては、最適な斜入射角φはsinφ=0.50×NAで定められる。これは、四重極照明におけるX軸上に射影された位置が本来の斜入射位置を0.50.5 倍したものであることから、輪帯照明における最適条件であるsinφ=0.7を0.50.5 倍した値に対応する。また、好ましい斜入射角φは、0.4×NA≦sinφ≦0.6×NAで定められる。このとき、4つに分極した各照明領域の光源中心(XY座標系の原点)からの距離は0.4/(0.50.5 )×NA以上で且つ0.6/(0.50.5 )×NA以下である。
以上に説明したように、輪帯照明を用いる場合、好ましい斜入射位置Sは0.6以上で且つ0.8以下であり、S=0.7つまりsinφ=0.7×NAとなる条件が最適値となる。また、二重極照明を用いる場合、好ましい斜入射位置Sは0.5以上で且つ0.7以下であり、S=0.58つまりsinφ=0.58×NAとなる条件が最適値となる。また、四重極照明を用いる場合、好ましい斜入射位置Sは0.4以上で且つ0.6以下であり、S=0.5つまりsinφ=0.5×NAとなる条件が最適値となる。すなわち、輪帯照明及び二重極照明においては、好ましい斜入射位置Sの範囲に共通部分があり、斜入射位置Sが0.58以上で且つ0.7以下の値で定義されるような、図9(a)〜(c)に示すマスクパターンは、輪帯照明のグループ及びニ重極照明のグループに属するどのような照明に対しても、DOF特性に優れたマスクパターンとなる。また、図16(a)に示すような、理想的な四重極照明ではなく、ライン方向に対して45度に限られない広い角度方向に照明領域が分布するような、変形四重極照明については、実質的には輪帯照明のグループ及びニ重極照明のグループに属することになり、この輪帯照明及びニ重極照明の両方に共通して好ましい斜入射角と対応するように構成されたフォトマスクは、実用上最も好ましいフォトマスクとなる。
また、0.4以上で且つ0.8以下の斜入射位置Sと対応するように構成されたフォトマスクは、照明条件をそのフォトマスクに適合させることにより、DOF特性に優れたフォトマスクとなる。
尚、実用的に最も好ましい照明は輪帯照明である。なぜなら、ニ重極照明は、照明形状の分極方向に平行なラインパターンに対してはほとんど効果を有しないので、ニ重極照明の適用対象となるパターンが制限されるからである。また、四重極照明は、1つのラインが曲がることによって構成されたT型やL型等のパターンの形成において該パターンの形状がマスク形状に対して大きく変形する等の好ましくない現象を生じるからである。
(第1の実施形態の第3変形例)
以下、本発明の第1の実施形態の第3変形例として、第1の実施形態(又はその第1若しくは第2変形例)に係るフォトマスクのマスクエンハンサー構造がより好ましい効果を生じる補助パターンの配置について説明する。
ここまで、主パターンにマスクエンハンサー構造を導入することにより、様々な効果が得られることを示してきた。すなわち、マスクエンハンサー構造においては、主パターンのマスク幅と、その内部の位相シフターの幅とを調整することによって、DOFやコントラスト等のパターン形成特性を向上させることができる。
しかし、図1(b)、(c)及び図2(a)〜(d)のいずれの構造を用いるにしても、位相シフターを取り囲む半遮光部又は遮光部の幅はある程度の大きさを持つことが好ましい。なぜなら、位相シフターを取り囲む半遮光部又は遮光部が微細になりすぎると、マスク加工において、この微細部分の加工が困難になると共に、加工後に行なわれる洗浄等の後処理においてもパターンが剥がれる等の問題が発生する。また、位相シフターの透過率が透光部の透過率と同程度の高さになると、光の透過性を利用したマスク検査によって、位相シフターと透光部とを区別することができなくなる。それに対して、位相シフターと透光部との境界に、マスク検査装置が認識できる、透過率の低い半遮光部又は遮光部が存在すると、フォトマスクの検査を容易に行なうことができる。
尚、マスク加工の見地からは、マスクエンハンサー構造において、位相シフターを取り囲む半遮光部又は遮光部の幅は最低でも20nm(フォトマスク上の実寸)以上であることが好ましい。なぜなら、フォトマスク加工に用いられる電子ビーム露光装置において2回露光等の技術を駆使して実現できる解像限界が20nm程度と考えられるからである。
また、露光波長と同じ波長の光を用いてマスク検査を行なうことが理想的であるため、マスク検査装置が認識できる寸法は、露光波長の1/4倍以上の寸法(フォトマスク上の実寸)であることが好ましい。なぜなら、それ以下の寸法を、光によって認識することはできないからである。ここで、フォトマスク上の実寸とは、ウェハ上の寸法に対して、マスク倍率で換算されていない、フォトマスク上の実際の寸法を意味する。
但し、マスクエンハンサーとしての効果を得るためには、位相シフターを透過する光と、透光部を透過する光とが互いに干渉する必要があるので、位相シフターと透光部とに挟まれた半遮光部(又は遮光部)の寸法は、前記の2つの光が強く干渉し合う距離である0.3×λ/NA以下であることが好ましい。但し、これは、ウェハ上の転写像における距離であるので、マスク上では、この寸法にマスク倍率Mを乗じた距離である(0.3×λ/NA)×M以下であることが好ましい。
以下、本変形例に係る補助パターンの配置により好ましい効果を生じるマスクエンハンサー構造を用いて、優れたパターン形成特性を実現できることをシミュレーション結果に基づいて説明する。
図17(a)は、シミュレーションに用いるマスクパターンを示す図である。尚、図17(a)において、図1(a)に示す第1の実施形態に係るフォトマスクと同一の構成要素には同一の符号を付すことにより詳しい説明を省略する。
図17(a)に示すように、遮光部101A(第1の実施形態では第1の半遮光部101A)と位相シフター101Bとから構成されるマスクエンハンサー構造の主パターン101において、主パターン101の幅をLとし、位相シフター101Bの幅をWとする。また、主パターン101の両側には、露光光を回折させ且つ露光により転写されない一対の補助パターン102が設けられている。ここで、位相シフター101Bの中心から補助パターン102の中心までの距離はGである。また、補助パターン102は幅Dの半遮光部からなる。
図17(b)〜(d)は、L=90m、D=70nmとして、W及びGを変化させながら幅90nmのパターン形成を行なった場合におけるDOF及び露光マージンをシミュレーションによって評価した結果を示している。ここで、露光マージンとは、パターン寸法を10%変化させるために必要な露光量変化の割合(単位:%)を意味する。すなわち、露光マージンが大きいほど、露光量変化に対してパターン寸法が安定するので、実際のパターン形成工程における露光量変動に対してパターン寸法が変動しにくくなるという好ましい状況になる。また、シミュレーションにおいては、λ=193nm、NA=0.7とし、図16(a)に示す四重極照明を用いた。ただし、図16(a)の構成において、x1=0.45×NA、x2=0.6×NAとしている。
具体的には、図17(b)は、G=240nm及びG=500nmのそれぞれの場合におけるDOFのW(位相シフター幅)への依存性を示している。また、図17(c)は、G=240nm及びG=500nmのそれぞれの場合における露光マージンのW(位相シフター幅)への依存性を示している。
図17(b)及び(c)から分かるように、G=500nmのシミュレーション結果においては、W≒90nmのときに、つまり位相シフター幅Wがマスクパターン幅(主パターン101の幅)Lにほぼ等しくなったときに、DOFも露光マージンも最大となる。また、DOFは位相シフター幅Wに比例して緩やかにしか増加しないので、位相シフター幅Wをマスクパターン幅Lに対して細くしておくと、十分なマージンが得られない。
パターン形成において十分なマージンを得るためには、位相シフター幅Wをマスクパターン幅Lとほぼ同じ寸法に設定する必要があるが、この場合、位相シフターを取り囲む遮光部の幅が非常に微細になり、マスクエンハンサー構造としては好ましくない。
一方、図17(b)及び(c)から分かるように、G=240nmのシミュレーション結果においては、W≒60nmのときに、露光マージンが最大になると共に、DOFも、W=0の単純な遮光パターンと比べて十分に向上している。よって、90nmのマスクパターン幅Lと比べて位相シフター幅Wを30nm程度細くすることによって、パターン形成において十分なマージンが実現されることになる。この場合、位相シフターを取り囲む遮光部の幅は15nmとなる。これは、縮小倍率Mが4倍であるとして、マスク上の実寸に換算すると60nmとなるので、露光波長(193nm)の1/4倍以上の寸法が確保されている。尚、図17(b)及び(c)において、W=90nmは、主パターン101が位相シフターのみで構成されていることを意味する。
以上に説明した結果から、主パターンのマスク幅が同じである場合、主パターンに単純な位相シフターを用いる場合と比べて、主パターンにマスクエンハンサー構造を用いた方が、補助パターンを配置することによってフォトマスクの露光マージンが向上することが分かる。尚、NA×sinφ=(x1+x2)/2とすると、G=240nmは、第1の補助パターン(補助パターン102)の最適な配置位置であるλ/(2×sinφ)に相当する。説明は省略するが、本願発明者は、第2の補助パターン(最適配置位置であるλ/(2×sinφ)+λ/(NA+sinφ)に相当するG=440nmの場合)についても同様の結果を確認した。
また、図17(b)及び(c)から分かるように、露光マージンはその最大値に達するまでは位相シフター幅Wに比例して急激に増大する。一方、十分な露光マージンが確保できれば、位相シフター幅Wは必ずしも露光マージンを最大化する値でなくてもよい。よって、位相シフターを取り囲む半遮光部又は遮光部の幅を十分に確保しながら、パターン形成において十分なマージンを確保できるかどうかは、マスクエンハンサー構造にける位相シフター幅Wの増加に伴ってDOFが大きく向上するかどうかに依存して決まる。
図17(d)は、位相シフター幅Wと、位相シフターの中心から補助パターンの中心までの距離Gとのマトリックスに対するDOFの依存性をプロットした結果を示している。この結果から、G=240nm(0.24μm)及びG=440nm(0.44μm)の場合において、Wの値に比例してDOFが急激に向上していることが分かる。これらは、前述のように、本変形例における第1の補助パターンの最適位置及び第2の補助パターンの最適位置にそれぞれ相当する位置である。よって、これらの位置に補助パターンを配置することにより、マスクエンハンサー構造において位相シフターを取り囲む半遮光部又は遮光部の幅を十分に確保しながら、パターン形成において十分なマージンを確保することができる。
(第1の実施形態の第4変形例)
以下、本発明の第1の実施形態の第4変形例として、第1の実施形態(又はその第1〜第3変形例)に係るフォトマスクがより好ましい効果を生じる補助パターンの幅について説明する。
まず、図4に示すマスクパターンに対して露光を行なった場合における、補助パターンの幅に対するDOFや露光マージン等の依存性をシミュレーションした結果について説明する。シミュレーションにおいては、λ=193nm、NA=0.7とし、輪帯照明(内径:0.65、外径:0.75)を用いた。また、透光部及び位相シフターの透過率を1とし、位相シフター以外のマスクパターン部分は全て半遮光部(透過率:6%)から構成されているものとする。さらに、各補助パターンは、sinφ=0.7×NAに従って、図4に示す最適位置に配置されている。
一般に、補助パターンを太くすると、主パターンのDOFは増加する一方、露光マージンは減少する。そこで、この現象が、第1及び第2の補助パターン幅に実際にどのように依存しているかを、主パターン転写におけるDOF及び露光マージンをシミュレーションすることにより評価した。具体的には、L=140nm、W=80nmの主パターン101に対して第1及び第2の補助パターン102及び103の幅D1及びD2をそれぞれ40nmから100nmまで変化させた場合におけるDOF及び露光マージンを求めた。
図18(a)及び(b)は、D2を70nmに固定してD1を40nmから100nmまで変化させた場合におけるDOF及び露光マージンのシミュレーション結果を示している。また、図18(c)及び(d)は、D1を70nmに固定してD2を40nmから100nmまで変化させた場合におけるDOF及び露光マージンのシミュレーション結果を示している。尚、図18(a)〜(d)に示すDOF及び露光マージンは、いずれも幅90nmのパターンを形成する場合のものである。
図18(a)及び(b)に示す結果から、第1の補助パターン102の幅D1が増加するのに比例して、主パターン転写におけるDOFが大きく増加することが分かる。一方、幅D1が増加するのに伴って、主パターン転写における露光マージンが大きく減少することも分かる。すなわち、第1の補助パターン102を太くすると、DOFは向上するが露光マージンは減少する。そのため、両者をトレードオフするしかマージンを向上させる方法がない。
一方、図18(c)及び(d)に示す結果から分かるように、第2の補助パターン103の幅D2が増加するのに比例して、主パターン転写におけるDOFが大きく増加することは、第1の補助パターン102の場合と同様である。しかし、幅D2が増加しても、主パターン転写における露光マージンは僅かしか減少していない。そのため、幅D2を増加させることによって、露光マージンを低下させることなくDOFを向上させることができる。
以上に説明したように、第2の補助パターン幅D2を第1の補助パターン幅D1よりも大きくすることによって、露光マージンを高い状態に保ちながらDOFを向上させることが可能になる。また、本願発明者は、レジストの非感光部が形成されない範囲における第1の補助パターンの最大幅に対して、第2の補助パターンは、その1.2倍程度の太さになってもレジストの非感光部を形成しないことを経験的に得ている。よって、第2の補助パターンの太さを第1の補助パターンの1.2倍の太さにしても、レジストの非感光部が形成されるという現象は発生しない。従って、第2の補助パターン幅D2を第1の補助パターン幅D1の1.2倍以上にすることによって、第2の補助パターンがレジストの非感光部を形成するという現象を避けながら、前述の効果を確実に得ることができる。但し、補助パターンによるDOF向上効果を得るためには、補助パターン幅は、補助パターンが解像する最小寸法の半分以上であることが好ましい。すなわち、第1の補助パターン幅D1がDOF向上効果を生じる十分な大きさである場合、第2の補助パターンが解像しないためには、第2の補助パターン幅D2は第1の補助パターン幅D1の2倍以下であることが好ましい。
尚、本変形例において、回折光発生パターンとなる補助パターンが主パターンの両側に一対設けられていることを前提として説明してきた。しかし、主パターンの片側に他の主パターンが近接する場合、主パターンにおける他の主パターンが近接する側とは反対の側のみに補助パターンが設けられていても、本変形例と同様の効果が生じる。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係るフォトマスクについて図面を参照しながら説明する。
図19は第2の実施形態に係るフォトマスクの平面図である。
図19に示すように、透過性基板200の上には、露光により転写される主パターン201が設けられている。主パターン201は、露光光を部分的に透過させる第1の透過率を有する第1の半遮光部201Aと、位相シフター201Bとから構成されている。第1の半遮光部201Aは、主パターン201の外形形状を有している。位相シフター201Bは、主パターン201の周縁部に、第1の半遮光部201Aによって囲まれるように設けられている。位相シフター201Bは、例えば透過性基板200を掘り下げることによって形成される。透過性基板200上における主パターン201の位相シフター201Bの中心からλ/(2×sinφ)離れた位置には、露光光を回折させ且つ露光により転写されない第1の補助パターン202(幅:D1)が、主パターン201との間に透光部を挟むように設けられている。また、透過性基板200上における第1の補助パターン202の中心から(主パターン201から遠ざかる方向に)λ/(NA+sinφ)離れた位置には、露光光を回折させ且つ露光により転写されない第2の補助パターン203(幅:D2)が、第1の補助パターン202との間に透光部を挟むように設けられている。ここで、第1の補助パターン202及び第2の補助パターン203は、露光光を部分的に透過させる第2の透過率を有する第2の半遮光部から構成されている。
尚、本実施形態において、位相シフター201Bと第1の補助パターン202との間の距離が(λ/(2×sinφ))の近傍の値であってもよい(第1の実施形態の第1変形例を参照)。
また、本実施形態において、位相シフター201Bと第2の補助パターン203との間の距離が(λ/(2×sinφ))+(λ/(NA+sinφ))の近傍の値であってもよい(第1の実施形態の第1変形例を参照)。
また、本実施形態において、上記のsinφ(φ:斜入射角)は0.4×NA以上で且つ0.80×NA以下であることが好ましく、特に、0.58×NA以上で且つ0.7×NA以下であることが好ましい。また、輪帯照明を用いて露光を行なう場合、上記のsinφは0.6×NA以上で且つ0.80×NA以下であることが好ましい。また、四重極照明を用いて露光を行なう場合、上記のsinφは0.4×NA以上で且つ0.60×NA以下であることが好ましい(第1の実施形態の第2変形例を参照)。
また、本実施形態において、第2の補助パターン203の幅D2は第1の補助パターン202の幅D1よりも大きいことが好ましい。特に、D2がD1の1.2倍以上であることが好ましい(第1の実施形態の第4変形例を参照)。
ここで、本実施形態における位相シフター配置の特徴について説明する。まず、形成したいパターンの寸法が0.3×λ/NA以下である場合、該パターンと対応する半遮光部(半遮光パターン)の中心に位相シフターを配置することが好ましい。また、形成したいパターンの寸法がλ/NA以上である場合、該パターンと対応する半遮光パターンの周縁部に位相シフターを配置することが好ましい。また、形成したいパターンの寸法が0.3×λ/NAよりも大きく且つλ/NAよりも小さい場合、位相シフターを、該パターンと対応する半遮光パターンの中心に配置してもよいし又はその周縁部に配置してもよい。
λ/NA以上の寸法を持つパターンを形成するためのマスクパターン部分における周縁部に位相シフターを配置する理由は、後述する「輪郭強調法」によるパターン形成特性の向上効果を得るためであると共に、回折光発生パターンを最適な位置に配置できるようにするためである。具体的には、位相シフターは、半遮光パターンの外周からの距離がλ/(2×sinφ)以下の範囲に存在することが好ましい。すなわち、第1次回折光発生パターンを配置するためには、位相シフターが、半遮光パターン(主パターン)における外周からの距離がλ/(2×sinφ)以下の位置に存在する必要があるからである。また、sinφの最大値がNAであることを考慮すると、λ/NA以上の寸法を持つ半遮光パターンの場合、その周縁部に位相シフターを配置することが好ましいということになる。
図19に示すフォトマスクにおいては、主パターン201、第1の補助パターン202及び第2の補助パターン203からマスクパターンが構成されている。また、透過性基板200における該マスクパターンが形成されていない部分が透光部(開口部)である。
また、位相シフター201Bを透過する光と、透光部を透過する光とは反対位相の関係(具体的には両者の位相差が(150+360×n)度以上で且つ(210+360×n)度以下(但しnは整数)となる関係)にある。
また、第1の半遮光部201A及び第2の半遮光部(第1及び第2の補助パターン202及び203)のそれぞれを透過する光と、透光部を透過する光とは同位相の関係(具体的には両者の位相差が(ー30+360×n)度以上で且つ(30+360×n)度以下(但しnは整数)となる関係)にある。
第2の実施形態によると、主パターン201が第1の半遮光部201Aと位相シフター201Bとから構成されているため、位相シフター201Bを透過した光によって透光部及び第1の半遮光部201Aを透過した光の一部分を打ち消すことができる。このため、主パターン201と対応する遮光像における光強度分布のコントラストを強調できる。
また、第2の実施形態によると、主パターン201とは別に、低透過率の第1及び第2の補助パターン202及び203が設けられている。具体的には、主パターン201の位相シフター201Bの中心からλ/(2×sinφ)離れた位置に第1の補助パターン(第1次回折光発生パターン)202が設けられている。また、第1の補助パターン202の中心からλ/(NA+sinφ)離れた位置に第2の補助パターン(第2次回折光発生パターン)203が設けられている。このため、主パターン201の位相シフター201Bを透過した光と干渉する回折光を確実に発生させることができる。従って、主パターン201の転写像におけるデフォーカス特性が向上し、その結果、DOF特性が向上する。
但し、本実施形態において、位相シフター201Bと第1の補助パターン202との間の距離が(λ/(2×sinφ))の近傍の値であっても前述の効果がある程度生じる。同様に、位相シフター201Bと第2の補助パターン203との間の距離が(λ/(2×sinφ))+(λ/(NA+sinφ))の近傍の値であっても前述の効果がある程度生じる(第1の実施形態の第1変形例を参照)。また、上記のsinφ(φ:斜入射角)は0.4×NA以上で且つ0.80×NA以下であることが好ましく、特に、0.6×NA以上で且つ0.7×NA以下であることが好ましい(第1の実施形態の第2変形例を参照)。
また、本実施形態において、主パターン201の位相シフター201Bと透光部とによって挟まれた半遮光部(第1の半遮光部201A)の幅は、少なくとも20nm(マスク上の実寸法)以上であることが好ましく、特に露光波長の4分の1以上であることが好ましい(第1の実施形態の第3変形例を参照)。
また、本実施形態において、第2の補助パターン203の幅D2は、第1の補助パターン202の幅D1よりも大きいことが好ましく、特にD2がD1の1.2倍以上であることがより好ましい(詳しくは第1の実施形態の第4変形例を参照)。
また、第2の実施形態によると、第1及び第2の補助パターン202及び203が半遮光部であるため、補助パターン配置の自由度が向上し、それにより主パターン201を含めたパターン配置における周期性を高めることができるので、DOF特性がより一層向上する。また、第1及び第2の補助パターン202及び203が半遮光部であるため、露光により転写されないという条件下で各補助パターンを太くできるので、その加工が容易になる。
また、第2の実施形態によると、位相シフター201Bが主パターン201の周縁部に配置されているため、透光部を透過した光の像の主パターン201の近傍における光強度分布のコントラストを強調できるので、デフォーカス特性を良好に保ちながらパターン形成を行なうことができる。
また、第2の実施形態によると、位相シフター201Bが、透過性基板200を掘り下げることにより形成されているため、パターン形成において非常に優れたデフォーカス特性が発揮される。
尚、第2の実施形態において、第1及び第2の補助パターン202及び203のうちのいずれか一方だけを配置してもよい。
また、第2の実施形態において、主パターン201を構成する第1の半遮光部201Aの第1の透過率は15%以下であることが好ましい。このようにすると、パターン形成時におけるレジスト膜の膜減り防止又はレジスト感度の最適化を達成できる。但し、それらの効果と、DOF向上効果及びコントラスト向上効果とを両立させるには、第1の透過率は3%以上であることが好ましい。
また、第2の実施形態において、第1及び第2の補助パターン202及び203(つまり第2の半遮光部)の第2の透過率は6%以上で且つ50%以下であることが好ましい。このようにすると、各補助パターンの遮光性が高すぎることによってレジストの非感光部が形成されてしまうことを防止しつつ、回折光によるDOF向上効果を確実に実現できる。
また、第2の実施形態において、第1の半遮光部201Aと、第1及び第2の補助パターン202及び203となる第2の半遮光部とは同一の半遮光膜、例えば透過性基板200上に形成された金属薄膜から形成されていてもよい。この場合、各半遮光部を簡単に形成できるので、フォトマスクの加工を容易に行なうことができる。前述の金属薄膜としては、Cr(クロム)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニュウム)、Mo(モリブデン)若しくはTi(チタン)等の金属又はそれらの合金からなる薄膜(厚さ50nm程度以下)を用いることができる。具体的な合金材料としては、TaーCr合金、Zr−Si合金、Mo−Si合金又はTiーSi合金等がある。また、金属薄膜に代えて、ZrSiO、CrAlO、TaSiO、MoSiO又はTiSiO等のシリコン酸化物を含有する厚膜を用いてもよい。
また、第2の実施形態において、透過性基板200上に、透過率の高い材料からなる位相シフト膜を形成することにより、位相シフター201Bを形成してもよい。
次に、本願発明者により見出された、遮光パターン(主パターン201)の周縁部に位相シフター(位相シフター201B)が設けられた構造によって、孤立スペースパターンの解像度を向上させる方法(以下、輪郭強調法と称する)について説明する。ここで、「輪郭強調法」は、ポジ型レジストプロセスにおける微小スペースパターンであれば、その形状に関わらず全く同様に成り立つ原理である。以下、ポジ型レジストプロセスによりコンタクトパターンを形成する場合を例として説明を行なう。但し、ネガ型レジストプロセスを用いる場合も、ポジ型レジストプロセスにおける微小スペースパターン(レジスト除去パターン)を微小パターン(レジストパターン)と置き換えて考えれば、輪郭強調法が同様に成り立つ。また、以下の説明においては、特に断らない限り、位相シフター部分以外の遮光パターンは半遮光部から構成されているものとする。
例えば開口部を囲むように遮光パターンが設けられ且つ遮光パターンの周縁部に位相シフターが設けられたフォトマスク(以下、輪郭強調マスクと称する)において、遮光パターンの周縁部つまり開口部(透光部)の周辺に配置された位相シフターを透過した光は、開口部及び半遮光部を透過した光の一部を打ち消すことができる。従って、位相シフターを透過する光の強度を、開口部を囲む領域(輪郭部)の光が打ち消されるように調整すれば、輪郭部の光強度がほぼ0に近い値まで減少した光強度分布を形成できる。また、位相シフターを透過する光は、輪郭部の光を強く打ち消す一方、開口部の中央付近の光を弱く打ち消す。その結果、輪郭強調マスクを透過した光の強度分布における、開口部からその周辺にかけてのプロファイルの傾きが増大するという効果も得られる。従って、輪郭強調マスクを透過した光の強度分布はシャープなプロファイルを有するようになるので、コントラストの高い光強度の像(イメージ)が形成される。これが、輪郭強調法において光強度のイメージを強調できる原理である。すなわち、低い透過率を有する半遮光部からなるマスクパターンにおける開口部の近傍に位相シフターを配置することにより、フォトマスクによって形成される光強度の像の中に、開口部の輪郭と対応する非常に強い暗部を形成することが可能となる。これによって、開口部の光強度とその周辺部分の光強度との間でコントラストが強調された光強度分布を形成できる。
尚、輪郭強調法に用いる半遮光部の透過率は高い程好ましいが、半遮光部の存在に起因して、本来は遮光部となる領域に透過光が存在するようになるため、パターン形成時におけるレジスト膜(半遮光部と対応するレジストパターン)の膜減り防止又はレジスト感度の最適化等の観点から、半遮光部の透過率の最大値を15%程度にしておくことが好ましい。一方、輪郭強調法による効果を得るためには、半遮光部の透過率の最小値を3%程度にしておくことが好ましい。従って、輪郭強調マスクにおける半遮光部の透過率の最適値は3%以上で且つ15%以下であると言える。また、輪郭強調マスクにおいて、位相シフターは開口部と接すように配置されていてもよいし又は開口部との間に半遮光部を挟むように配置されていてもよい。また、位相シフターは開口部の輪郭全体に沿って配置されていてもよいし又は該輪郭の一部分のみに沿って配置されていてもよい。
また、遮光パターンとして、透光部と同じ位相で光を透過させる半遮光パターンを用いることにより、中心線強調法(第1の実施形態参照)と輪郭強調法とを同時に用いたマスクパターンの形成が可能となる。すなわち、微細なラインパターンを形成するための半遮光パターンには、その中心部に位相シフターを配置する。一方、大きなパターンを形成するための半遮光パターンには、その周縁部に位相シフターを配置する。これにより、大きなパターンの端部と対応する光強度の像のコントラストが輪郭強調法に従って向上するので、形成しようとする全てのパターンにおけるあらゆる部分について、光強度の像のコントラストが強調可能となる。このように、従来、パターン形成においてマスクパターンとして用いることが好ましくなかった半遮光パターン(透光部と同じ位相で光を透過させる半遮光部)によって、任意の形状のパターン形成が可能となる。また、半遮光パターンつまり半遮光膜を用いることによって次のようなメリットも生じる。すなわち、従来マスクにおいては、遮光性を確保するためにマスクパターンとして厚い金属膜を用いなければならなかった。それに対して、半遮光パターンは、半遮光性を持つ薄い金属膜により形成が可能となるので、言い換えると、マスクパターンを形成するための金属膜が薄くなるので、マスクの加工が容易になる。具体的には、Cr膜を用いる場合、従来マスクのマスクパターンとしては100nm程度の厚さが必要であったが、半遮光パターンとしては10nm程度の厚さで十分である。このため、エッチングにより微細なマスクパターンを形成する場合にも又はマスクパターン形成後に洗浄等を行なう場合にも剥離等の不良が発生しなくなる。
尚、第2の実施形態において、回折光発生パターン(第1及び第2の補助パターン202及び203)を用いて、マスクエンハンサー(主パターン201)内の開口部(位相シフター201B)を透過した光と干渉する回折光を発生させ、それによってパターン形成時のデフォーカス特性(DOF特性)を向上させることができる理由は、第1の実施形態と同様である。
すなわち、半遮光部(第1の半遮光部201A)の周縁部に位相シフター(位相シフター201B)が配置された、輪郭強調法のマスクエンハンサー構造(図19参照)において、位相シフターにより囲まれた半遮光部は、レジストが感光されない程度の光しか透過させないが、光学的には透光部と同じである。従って、輪郭強調法の位相シフターも中心線強調法の位相シフターと同様の作用を生じるので、中心線強調法の場合と同様に、位相シフターの中心からλ/(2×sinφ)離れた位置に第1次回折光発生パターンを配置し、さらに(又は)第1次回折光発生パターンの中心からλ/(NA+sinφ)離れた位置に第2次回折光発生パターンを配置することによってデフォーカス特性を向上させることが可能となる。但し、輪郭強調法における、位相シフターの位置を基準とする回折光発生パターンの配置位置の許容範囲は、第1の実施形態で説明した、中心線強調法における回折光発生パターンの配置位置の許容範囲と同様である。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態に係るフォトマスクについて図面を参照しながら説明する。
図20(a)は、第3の実施形態に係るフォトマスクの平面図であり、図20(b)は、図20(a)のXX−XX線における断面図である。また、図21(a)〜(c)は、図20(a)のXX−XX線における断面図のバリエーションである。
図20(a)及び(b)に示すように、透過性基板300の上には、露光により転写されるライン状の主パターン301が設けられている。主パターン301は第1の遮光部301Aと位相シフター301Bとから構成されている。第1の遮光部301Aは、ライン状の位相シフター301Bを取り囲むように形成されている。言い換えると、位相シフター301Bは主パターン301の中心部に配置されている。位相シフター301Bは、例えば透過性基板300を掘り下げることによって形成される。透過性基板300上における主パターン301の両側には、露光光を回折させ且つ露光により転写されない一対の補助パターン302が、主パターン301との間に透光部を挟むように設けられている。補助パターン302は第2の遮光部から構成されている。
尚、本実施形態においては、第1の遮光部301Aと、補助パターン302となる第2の遮光部とは同一の遮光膜307、例えば透過性基板300上に形成されたCr(クロム)膜等の金属膜から形成されている。
すなわち、第3の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、遮光部及び位相シフターから構成されるマスクエンハンサーを用いていると共に、遮光部のみから構成される補助パターン(回折光発生パターン)を用いていることである。尚、図20(a)及び(b)に示すフォトマスクにおいては、主パターン301と補助パターン302とからマスクパターンが構成されている。また、透過性基板300における該マスクパターンが形成されていない部分が透光部(開口部)である。また、位相シフター301Bを透過する光と、透光部を透過する光とは反対位相の関係(具体的には両者の位相差が(150+360×n)度以上で且つ(210+360×n)度以下(但しnは整数)となる関係)にある。
第3の実施形態によると、主パターン301が位相シフター301Bを有するため、位相シフター301Bを透過した光によって透光部を透過した光の一部分を打ち消すことができる。このため、主パターン301と対応する遮光像における光強度分布のコントラストを強調できる。また、主パターン301とは別に補助パターン302が設けられているため、補助パターン302を適切な位置に配置することにより、主パターン301の位相シフター301Bを透過した光と干渉する回折光を発生させることができる。従って、主パターン301の転写像におけるデフォーカス特性が向上し、その結果、DOF特性が向上する。
また、第3の実施形態によると、位相シフター301Bが、主パターン301の外形形状を持つ第1の遮光部301Aの中心部に配置されているため、主パターン301と対応する遮光像の中心部における光強度分布のコントラストを強調できるので、デフォーカス特性を良好に保ちながら、例えば微細なラインパターンの形成を行なうことができる。
また、第3の実施形態によると、位相シフター301Bが、透過性基板300を掘り下げることにより形成されているため、パターン形成において非常に優れたデフォーカス特性が発揮される。具体的には、遮光膜307(遮光部)に開口部を作成すると共にその開口部内の透過性基板300を掘り下げることにより、位相シフター301Bを形成しているため、位相シフター301Bが、透過性の高い位相シフターとなる。また、主パターン301の内部を透過する反対位相の光の強度を、遮光部の開口寸法によって調整できるため、主パターン301を透過する反対位相の光の最適化を容易に実現できるので、パターン形成において非常に優れたデフォーカス特性が発揮される。すなわち、マスク寸法(主パターン寸法)については、位相シフターを取り囲む遮光部の幅によって調整可能であり、主パターンを透過する反対位相の光の強度については、遮光部の開口寸法によって調整可能であるので、マスク寸法と反対位相の光の強度とをそれぞれ独立に調整できるという特有の効果が得られる。従って、第1の実施形態と同様に、反対位相の光を調整することによる効果、例えばフォーカス特性の向上効果、及び微細パターンのコントラストの向上効果を確実に実現しつつ、所望のパターン寸法も容易に実現できる。
尚、第3の実施形態において、例えば図21(a)に示すように、透過性基板300と遮光膜307との積層構造に対して、位相シフター形成領域及び透光部形成領域の遮光膜307を除去すると共に、透光部形成領域の透過性基板300を掘り下げることによっても、図20(b)に示すフォトマスクと同等の効果を生じるフォトマスクを実現できる。
また、第3の実施形態において、例えば図21(b)及び(c)に示すように、透過性基板300上に、透過率の高い材料からなる位相シフト膜308を挟んで遮光膜307が形成された構造を用いて、位相シフター301Bを有する主パターン301と、補助パターン302とを形成してもよい。具体的には、図21(b)に示すように、透過性基板300の上に高透過率の位相シフト膜308が堆積され且つその上に遮光膜307が堆積されたマスク構造において、位相シフター形成領域及び透光部形成領域の遮光膜307を除去すると共に位相シフター形成領域の位相シフト膜308を除去することによっても、図20(b)に示すフォトマスクと同等の効果を生じるフォトマスクを実現できる。また、図21(b)に示すフォトマスクによると、位相シフター301Bの位相を高精度で制御可できる。一方、図21(c)に示すように、図21(b)と同様の積層マスク構造において、位相シフター形成領域及び透光部形成領域の遮光膜307を除去すると共に透光部形成領域の位相シフト膜308を除去することによっても、図20(b)に示すフォトマスクと同等の効果を生じるフォトマスクを実現できる。
ここで、本実施形態のように、透過性基板上に金属膜からなる遮光部を形成すると共に透過性基板を掘り下げて位相シフターを形成することによりフォトマスクが形成されている場合、マスク検査の容易なフォトマスクが実現されることを簡単に説明しておく。光に対して透過性を有する材料の透過率は光の波長に依存して変化する。このため、マスク検査において露光光と同じ波長を持つ光を使用しなければマスク検査を行なえない場合が起こる。すなわち、露光光に対して低い透過率を持つ材料について、露光光よりも大きい波長を持つ光を用いて検査を行なった場合、例えば該材料が検査光の波長に対しては非常に高い透過率を持ってしまい、その結果、マスクパターンの遮光性を検査することができなくなる場合がある。しかしながら、本実施形態のように、遮光部として、ほぼ完全に光を遮光できる、十分な膜厚の金属膜を用いた場合、該金属膜は、X線領域の波長を除くほとんどの光に対してほぼ完全な遮光膜となる。よって、露光光の波長とマスク検査装置の光の波長とが異なる場合であっても、本実施形態のようなフォトマスクに対してはマスク検査を容易に行なうことができる。
(第3の実施形態の変形例)
以下、本発明の第3の実施形態の変形例に係るフォトマスクについて図面を参照しながら説明する。
図22は、第3の実施形態の変形例に係るフォトマスクにおけるマスクパターンの平面図である。尚、図22において、図20(a)及び(b)に示す第3の実施形態に係るフォトマスクと同一の構成要素には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
本変形例の第1の特徴は、補助パターン302(幅:D1)が、主パターン301(幅:L)の位相シフター301Bの中心から(λ/(2×sinφ))離れた位置に設けられていることである。
また、本変形例の第2の特徴は、主パターン301の位相シフター301B(幅:W)の中心から(λ/(2×sinφ))+(λ/(NA+sinφ))離れた位置に、言い換えると、補助パターン(以下、第1の補助パターンと称する)302の中心から(λ/(NA+sinφ))離れた位置に、露光光を回折させ且つ露光により転写されない第2の補助パターン303(幅:D2)が、第1の補助パターン302との間に透光部を挟むように設けられていることである。第2の補助パターン303は、第1の補助パターン302と同様の遮光部から構成される。
本変形例によると、第3の実施形態における回折光によるDOF向上効果を確実に実現できる。
尚、本変形例において、第1の補助パターン302及び第2の補助パターン303のうちのいずれか一方の補助パターンを配置しなくてもよい。
また、本変形例において、位相シフター301Bと第1の補助パターン302との間の距離が(λ/(2×sinφ))の近傍の値であっても前述の効果がある程度生じる。
また、本変形例において、位相シフター301Bと第2の補助パターン303との間の距離が(λ/(2×sinφ))+(λ/(NA+sinφ))の近傍の値であっても前述の効果がある程度生じる。
ここで、前述の効果がある程度生じるという、第1の補助パターン302又は第2の補助パターン303の配置位置に関する前述の「近傍の値」とは、第1の実施形態の第1変形例で説明した、回折光発生パターンの配置位置の許容範囲のことである。
また、本変形例において、上記の斜入射角φは0.4×NA以上で且つ0.80×NA以下の値であることが好ましく、特に、0.58×NA以上で且つ0.7×NA以下であることが好ましい。また、輪帯照明を用いて露光を行なう場合には上記の斜入射角φは0.6×NA以上で且つ0.80×NA以下の値であることが好ましい。また、四重極照明を用いて露光を行なう場合には上記の斜入射角φは0.4×NA以上で且つ0.60×NA以下の値であることが好ましい(第1の実施形態の第2変形例を参照)。
また、本変形例において、主パターン301の幅Lは位相シフター301Bの幅Wよりも少なくとも2×20nm(マスク上の実寸法)以上大きいことが好ましく、特に露光波長(露光光の波長)の4分の1の2倍以上大きいことが好ましい。すなわち、主パターンのマスクエンハンサー構造において、位相シフターと透光部とによって挟まれた半遮光部(又は遮光部)の幅は、少なくとも20nm(マスク上の実寸法)以上であることが好ましく、特に露光波長の4分の1以上であることが好ましい。但し、マスクエンハンサー構造を用いたフォトマスクであるため、主パターンの幅は0.8×λ/NA以下であることが好ましく、従って、位相シフターと透光部とによって挟まれた半遮光部(又は遮光部)の幅は0.4×λ/NAを越えないことが好ましい(詳しくは第1の実施形態の第3変形例を参照)。
また、本変形例において、第2の補助パターン303の幅D2は、第1の補助パターン302の幅D1よりも大きいことが好ましく、特にD2がD1の1.2倍以上であることがより好ましい(詳しくは第1の実施形態の第4変形例を参照)。
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態に係るフォトマスクについて図面を参照しながら説明する。
図23(a)は、第4の実施形態に係るフォトマスクの平面図であり、図23(b)は、図23(a)の XXIII−XXIII 線における断面図である。
図23(a)及び(b)に示すように、透過性基板400の上には、露光により転写されるライン状の主パターン401が設けられている。主パターン401は位相シフターから構成されている。該位相シフターは、例えば透過性基板400を掘り下げることによって形成される。透過性基板400上における主パターン401の両側には、露光光を回折させ且つ露光により転写されない一対の補助パターン402が、主パターン401との間に透光部を挟むように設けられている。補助パターン402は、露光光を部分的に透過させる透過率を有する半遮光部から構成されている。
すなわち、第4の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、主パターン401として、マスクエンハンサー構造に代えて位相シフターのみの構造を用いていることである。尚、図23(a)及び(b)に示すフォトマスクにおいては、主パターン401と補助パターン402とからマスクパターンが構成されている。また、透過性基板400における該マスクパターンが形成されていない部分が透光部(開口部)である。
また、主パターン401となる位相シフターを透過する光と、透光部を透過する光とは反対位相の関係(具体的には両者の位相差が(150+360×n)度以上で且つ(210+360×n)度以下(但しnは整数)となる関係)にある。
また、補助パターン402となる半遮光部を透過する光と、透光部を透過する光とは同位相の関係(具体的には両者の位相差が(ー30+360×n)度以上で且つ(30+360×n)度以下(但しnは整数)となる関係)にある。
第4の実施形態によると、主パターン401が位相シフターから構成されているため、該位相シフターを透過した光によって透光部を透過した光の一部分を打ち消すことができる。このため、主パターン401と対応する遮光像における光強度分布のコントラストを強調できる。また、主パターン401とは別に、低透過率の補助パターン402が設けられているため、補助パターン402を適切な位置に配置することにより、主パターン401である位相シフターを透過した光と干渉する回折光を発生させることができる。従って、主パターン401の転写像におけるデフォーカス特性が向上し、その結果、DOF特性が向上する。
また、第4の実施形態によると、補助パターン402が半遮光部であるため、補助パターン配置の自由度が向上し、それにより主パターン401を含めたパターン配置における周期性を高めることができるので、DOF特性がより一層向上する。また、補助パターン402が半遮光部であるため、露光により転写されないという条件下で補助パターン402を太くできるので、その加工が容易になる。
また、第4の実施形態によると、主パターン401となる位相シフターが、透過性基板400を掘り下げることにより形成されているため、パターン形成において非常に優れたデフォーカス特性が発揮される。
尚、第4の実施形態においては、主パターン401が位相シフターのみからなるため、第1〜第3の実施形態で用いたマスクエンハンサー構造による効果、つまり、マスクエンハンサーの寸法とそれに設けられる位相シフター(開口部)の寸法とを調整することによってコントラスト及びデフォーカス特性の両方を制御しつつパターン形成において所望の寸法を容易に実現するという特有の効果は得られない。しかしながら、デフォーカス特性を向上させるだけであれば、マスクエンハンサーを単純な位相シフターによって置き換えしてもよい。
また、第4の実施形態において、補助パターン402となる半遮光部の透過率は6%以上で且つ50%以下であることが好ましい。このようにすると、補助パターン402の遮光性が高すぎることによってレジストの非感光部が形成されてしまうことを防止しつつ、回折光によるDOF向上効果を確実に実現できる。
また、第4の実施形態において、図23(b)に示すマスク断面構造に代えて、図23(c)に示すマスク断面構造を用いてもよい。すなわち、図23(c)に示すように、透過性基板400上に半遮光膜406及び透過率の高い材料からなる位相シフト膜408が順次積層された構造において、位相シフター形成領域(主パターン形成領域)以外の位相シフト膜408が除去され且つ透光部形成領域の半遮光膜406が除去された構造を用いてもよい。図23(c)に示す構造によると、主パターン401となる位相シフターの透過率を補助パターン402となる半遮光部の透過率よりも低くすることを容易に実現できる。この場合、位相シフターの透過率を15%以下に設定すれば、微細パターンのみではなく、任意寸法の主パターンの全体を位相シフターによって構成することが可能になるので、主パターンとして任意の寸法のパターンが混在して配置されているフォトマスクを容易に形成することができる。
(第4の実施形態の変形例)
以下、本発明の第4の実施形態の変形例に係るフォトマスクについて図面を参照しながら説明する。
図24は、第4の実施形態の変形例に係るフォトマスクにおけるマスクパターンの平面図である。尚、図24において、図23(a)及び(b)に示す第4の実施形態に係るフォトマスクと同一の構成要素には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
本変形例の第1の特徴は、補助パターン402(幅:D1)が、主パターン401(幅:W)つまり位相シフターの中心から(λ/(2×sinφ))離れた位置に設けられていることである。
また、本変形例の第2の特徴は、主パターン401となる位相シフターの中心から(λ/(2×sinφ))+(λ/(NA+sinφ))離れた位置に、言い換えると、補助パターン(以下、第1の補助パターンと称する)402の中心から(λ/(NA+sinφ))離れた位置に、露光光を回折させ且つ露光により転写されない第2の補助パターン403(幅:D2)が、第1の補助パターン402との間に透光部を挟むように設けられていることである。第2の補助パターン403は、第1の補助パターン402と同様の半遮光部から構成される。
本変形例によると、第4の実施形態における回折光によるDOF向上効果を確実に実現できる。
尚、本変形例において、第1の補助パターン402及び第2の補助パターン403のうちのいずれか一方の補助パターンを配置しなくてもよい。
また、本変形例において、主パターン401となる位相シフターと第1の補助パターン402との間の距離が(λ/(2×sinφ))の近傍の値であっても前述の効果がある程度生じる。
また、本変形例において、主パターン401となる位相シフターと第2の補助パターン403との間の距離が(λ/(2×sinφ))+(λ/(NA+sinφ))の近傍の値であっても前述の効果がある程度生じる。
ここで、前述の効果がある程度生じるという、第1の補助パターン402又は第2の補助パターン403の配置位置に関する前述の「近傍の値」とは、第1の実施形態の第1変形例で説明した、回折光発生パターンの配置位置の許容範囲のことである。
また、本変形例において、上記の斜入射角φは0.4×NA以上で且つ0.80×NA以下の値であることが好ましく、特に、0.58×NA以上で且つ0.7×NA以下であることが好ましい。また、輪帯照明を用いて露光を行なう場合には上記の斜入射角φは0.6×NA以上で且つ0.80×NA以下の値であることが好ましい。また、四重極照明を用いて露光を行なう場合には上記の斜入射角φは0.4×NA以上で且つ0.60×NA以下の値であることが好ましい(第1の実施形態の第2変形例を参照)。
また、本変形例において、第2の補助パターン403の幅D2は、第1の補助パターン402の幅D1よりも大きいことが好ましく、特にD2がD1の1.2倍以上であることがより好ましい(詳しくは第1の実施形態の第4変形例を参照)。
また、本変形例において、各補助パターン402及び403に半遮光部を用いたが、これに代えて、遮光部を用いてもよい。この場合、補助パターンに半遮光部を用いた場合と比べて、主パターンと補助パターンとの間のコントラストが低下する一方、本変形例で説明した位置に補助パターンを配置することにより、大きなDOFを実現できるフォトマスクが得られることは言うまでもない。
また、本変形例のマスク構造に代えて、以下に説明するような、簡単化したマスク構造を用いた場合、本変形例と比べて、パターン形成におけるコントラストやDOFの強調効果は低下するものの、該強調効果を従来例よりも向上させることができる。
具体的には、本変形例の半遮光部よりなる補助パターン402及び403(図24参照)に代えて、図25(a)に示すように、遮光部よりなる補助パターン412及び413を用いた場合、補助パターンの遮光性が高くなるので、補助パターン配置における自由度は低下する。しかし、図25(a)に示すマスク構造においても、主パターン401が位相シフターから構成されているので、本変形例の補助パターン402及び403と同様の配置位置に補助パターン412及び413を配置することによって、DOFの向上効果が得られる。また、半遮光部を遮光部に置き換えたことにより、パターン形成におけるパフォーマンスは低下する一方、マスク検査等を確実に行なえるという効果が得られる(第3の実施形態参照)。
図25(b)及び(c)は、図25(a)の XXVーXXV 線における断面構成のバリエーションを示す図である。
図25(b)に示す構成においては、主パターン401となる位相シフターは、透過性基板400を掘り下げることにより形成されている。また、各補助パターン(第2の補助パターン413の図示は省略している)は、透過性基板400上に形成された遮光膜407から構成されている。図25(b)に示す構成によると、十分に高い透過率を持つ位相シフターを実現できるので、DOFの向上効果が十分に得られる。
また、図25(c)に示す構成は、透過性基板400上に位相シフト膜408及び遮光膜407が順次積層された構造に対して、補助パターン形成領域以外の遮光膜407を除去すると共に透光部形成領域の位相シフト膜408を除去することによって実現できる。すなわち、主パターン401は位相シフト膜408の単層構造からなり、各補助パターン412及び413(第2の補助パターン413の図示は省略している)は、位相シフト膜408と遮光膜407との積層構造からなる。図25(c)に示す構成において位相シフターの透過率を15%以下にすれば、微細パターンのみではなく、大きなパターンも位相シフターによって構成することが可能になるので、微細パターンから大きな寸法までの任意の寸法のパターンが主パターンとして混在して配置されているフォトマスクを容易に形成することができる。
また、本変形例の半遮光部よりなる補助パターン402及び403(図24参照)に代えて、図26に示すように、位相シフターよりなる補助パターン422及び423を用いた場合、補助パターンの遮光性を主パターンの遮光性よりも低下させるという効果は低くなる一方、DOF向上効果は十分に得られる。図26に示す構成は、透過性基板上の位相シフト膜をパターンニングするだけで実現できるので、フォトマスク加工が容易になる。
また、本変形例における、位相シフターよりなる主パターン401並びに半遮光部よりなる補助パターン402及び403(図24参照)に代えて、図27に示すように、遮光部よりなる主パターン411並びに遮光部よりなる補助パターン412及び413を用いてもよい。この場合、本変形例と比べて、主パターン411による遮光性強調効果及びDOF向上効果は低下する一方、ある程度のDOF向上効果は得られる。図27に示すマスク構成によると、マスクパターンが遮光部のみから構成されるため、フォトマスク加工及び検査等が非常に容易になる。
(第5の実施形態)
以下、本発明の第5の実施形態に係るパターン形成方法、具体的には第1〜第4の実施形態のいずれかに係るフォトマスク(以下、本発明のフォトマスク)を用いたパターン形成方法について図面を参照しながら説明する。
図28(a)〜(d)は第5の実施形態に係るパターン形成方法の各工程を示す断面図である。
まず、図28(a)に示すように、基板500上に、金属膜又は絶縁膜等の被加工膜501を形成した後、図28(b)に示すように、被加工膜501の上に、ポジ型のレジスト膜502を形成する。
次に、図28(c)に示すように、本発明のフォトマスク、例えば、図1(b)に示す第1の実施形態に係るフォトマスクに対して露光光503を照射し、該フォトマスクを透過した透過光504によってレジスト膜502を露光する。
尚、図28(c)に示す工程で用いるフォトマスクの透過性基板100上には、露光により転写されるライン状の主パターン101が設けられている。主パターン101は、露光光を部分的に透過させる第1の透過率を有する第1の半遮光部101Aと、位相シフター101Bとから構成されている。第1の半遮光部101Aは、ライン状の位相シフター101Bを取り囲むように形成されている。位相シフター101Bは、例えば透過性基板100を掘り下げることによって形成されている。透過性基板100上における主パターン101の両側には、露光光を回折させ且つ露光により転写されない一対の補助パターン102が、主パターン101との間に透光部を挟むように設けられている。補助パターン102は、露光光を部分的に透過させる第2の透過率を有する第2の半遮光部から構成されている。
図28(c)に示す露光工程では、斜入射露光光源を用いてレジスト膜502に対して露光を行なう。このとき、低い透過率を有する半遮光部がマスクパターンに用いられているため、レジスト膜502の全体が弱いエネルギーで露光される。しかし、図28(c)に示すように、現像工程でレジストが溶解するに足りる露光エネルギーが照射されるのは、主パターン101以外の領域と対応するレジスト膜502の潜像部分502aのみである。
次に、図28(d)に示すように、レジスト膜502に対して現像を行なって潜像部分502aを除去することにより、主パターン101と対応するレジストパターン505を形成する。
第5の実施形態によると、本発明のフォトマスク(具体的には第1の実施形態に係るフォトマスク)を用いたパターン形成方法であるため、第1の実施形態と同様の効果が得られる。具体的には、レジストが塗布された基板(ウェハ)に対して本発明のフォトマスクを介して斜入射露光を行なう。このとき、位相シフター(開口部)を有するマスクエンハンサー(主パターン101)は非常に強い遮光性を有するので、マスクエンハンサー以外の他の領域と対応するレジストのみに対して、現像工程で溶解するのに十分な露光エネルギーが照射される。また、マスクエンハンサーによって形成される遮光像のコントラストは非常に高いと共に該遮光像のデフォーカス特性は優れているため、DOFの高い微細パターン形成が可能となる。
尚、第5の実施形態において、第1の実施形態に係るフォトマスクを用いたが、これに代えて、第2〜第4の実施形態のいずれかに係るフォトマスクを用いた場合にも、各実施形態と同様の効果が得られる。
また、第5の実施形態において、ポジ型レジストプロセスを用いたが、これに代えて、ネガ型レジストプロセスを用いても、同様の効果が得られる。
また、第5の実施形態において、図28(c)に示す露光光503を照射する工程では斜入射照明法(斜入射露光法)を用いることが好ましい。このようにすると、本発明のフォトマスクを透過した光の光強度分布において、主パターン及び透光部のそれぞれと対応する部分の間でのコントラストが向上する。また、光強度分布のフォーカス特性も向上する。従って、パターン形成における露光マージン及びフォーカスマージンが向上する。言い換えると、デフォーカス特性に優れた微細パターン形成が可能となる。
次に、補助パターン(回折光発生パターン)を持つ本発明のフォトマスクを用いた斜入射露光において重要な役割を果たす斜入射角の算出方法について説明する。
斜入射露光光源として点光源を用いる場合、斜入射角は明確に定義される(図5参照)。しかしながら、面積を有する通常の光源による照明の場合、複数の斜入射角が存在することになる。
図29(a)〜(e)は、面積を有する光源による照明の場合にも回折光発生パターンの適切な配置位置を算出できるように本願発明者が定義した、斜入射角の主要な算出方法を示す図である。
図29(a)は、輪帯照明を行なう場合における斜入射角の算出方法を示している。図29(a)に示すように、輪帯照明においては、輪帯光源の内径S1が最小斜入射角φ1の光源に対応し、輪帯光源の外径S2が最大斜入射角φ2の光源に対応する。従って、回折光発生パターンの配置位置の算出に用いられる斜入射角φは、内径S1及び外径S2により算出されるS=(S1+S2)/2の位置から光を照射する光源に基づき定義される。すなわち、斜入射角φ=(φ1+φ2)/2である。また、S1及びS2がNAにより規格化された値であれば、第1〜第4の実施形態のフォトマスクにおける斜入射角φを、sinφ=S×NA=(S1+S2)×NA/2に基づいて設定してもよい。但し、輪帯照明を用いる場合には、パターン形成方法において、斜入射位置Sが0.6以上で且つ0.8以下となる照明及びフォトマスクを用いることが好ましく、特に、斜入射位置Sが0.7の近傍の値となる照明及びフォトマスクを用いることが最も好ましい(第1の実施形態の第2変形例を参照)。
尚、斜入射角φを、φ1以上で且つφ2以下の任意の値に設定してもよいことは言うまでもない。言い換えると、斜入射角φを、S1×NA≦sinφ≦S2×NAの関係を満たす任意の値に設定してもよいことは言うまでもない。
ところで、第1の実施形態で説明したように、斜入射露光においては、斜入射角φがsinφ<NA/3となる場合、デフォーカス特性の向上効果が得られない。よって、面積を有する光源による照明の場合にも、斜入射角φが、十分なデフォーカス向上効果の得られる値のみから構成されていることが望ましい。また、露光に使用する光源がsinφ<NA/3となる斜入射角φを含有している場合には、その部分からの斜入射光を無視して最適な回折光発生パターンを設けたマスクを用いて露光を行なった方が、前述の部分からの斜入射光を考慮して回折光発生パターンを設けた場合よりも、パターン形成において優れたデフォーカス特性が発揮される。従って、斜入射角φの最小角ξはsinξ=0.4×NAで定義される値であることが好ましい。すなわち、回折光発生パターンの配置位置の算出に用いられる斜入射角φは(ξ+φ2)/2である。言い換えると、斜入射角φはsinφ=(0.4+S2)×NA/2で定義される。
図29(b)〜(e)はそれぞれ、四重極照明を行なう場合における斜入射角の算出方法を示している。四重極照明の場合、各図に示すように、四重極光源(4眼光源)の中心(以下、光源中心と称する)を原点とするXY座標系を用いて斜入射角を算出する。具体的には、四重極照明の場合、このXY座標系におけるX軸及びY軸のそれぞれと平行な各パターンに対して斜入射角を最適化する。すなわち、斜入射角は光源中心から各光源までの距離によって定義されるのでなく、X軸上又はY軸上における各光源の座標値によって定義される。以下、Y軸と平行なパターンに対して斜入射角を最適化する場合について説明するが、X軸と平行なパターンに対して斜入射角を最適化する場合も同じことである。まず、最小斜入射角は、四重極光源の各光源におけるX座標の絶対値のうち最も原点に近い値によって定義される。すなわち、図29(b)〜(e)のそれぞれに示すx1によって最小斜入射角が定義される。同様に、四重極光源の各光源におけるX座標の絶対値のうち最も原点から遠い値、つまり図29(b)〜(e)のそれぞれに示すx2によって最大斜入射角が定義される。従って、四重極照明の場合、回折光発生パターンの配置位置の算出に用いられる斜入射角φを、sinφ=S×NA=(x1+x2)×NA/2に従って設定すればよい。但し、四重極照明を用いる場合には、パターン形成方法において、斜入射位置Sが0.4以上で且つ0.6以下となる照明及びフォトマスクを用いることが好ましく、特に、斜入射位置Sが0.5の近傍の値となる照明及びフォトマスクを用いることが最も好ましい(第1の実施形態の第2変形例を参照)。
尚、斜入射角φを、x1×NA≦sinφ≦x2×NAの関係を満たす任意の値に設定してもよいことは言うまでもない。
また、図29(b)〜(e)に示す四重極照明の場合も、図29(a)に示す輪帯照明の場合と同様に、斜入射角φの最小角ξはsinξ=0.4×NAで定義される値であることが好ましい。すなわち、回折光発生パターンの配置位置の算出に用いられる斜入射角φはsinφ=(0.4+x2)×NA/2で定義される。
(第6の実施形態)
以下、本発明の第6の実施形態に係るマスクデータ作成方法、具体的には、中心線強調法、輪郭強調法及び回折光発生パターンを用いた、第1〜第4の実施形態のいずれかに係るフォトマスク(以下、本発明のフォトマスク)のマスクデータ作成方法について図面を参照しながら説明する。尚、本実施形態において、フォトマスクの各構成要素の機能及び性質等は、特に断らない限り、既述の本発明のフォトマスクにおける対応する構成要素と同じである。
具体的な処理内容を説明する前に、本発明のフォトマスクのマスクデータ作成方法における重要なポイントについて説明する。本発明のフォトマスクにおいては、1つの孤立パターンを形成するにあたっても、位相シフター及びそれを囲む遮光部又は半遮光部、並びにその周辺に配置される回折光発生パターン(補助パターン)が関係する。そのため、パターン形成時のパターン寸法つまりCD(Critical Dimension)を所望の値にするためには、上記の位相シフターの幅、遮光部又は半遮光部の幅、並びに回折光発生パターンの位置及びその幅等の複数の要素の値を決定する必要がある。また、多くの場合、所望のCDを実現する上記の各要素の値の組み合わせは1つに限られるものではなく、複数存在する。そこで、本実施形態のマスクデータ作成方法では、パターン形成におけるマージンを最大するために重要な要素の値を優先的に決定し、続いて、パターン形成におけるマージンに及ぼす影響が小さい要素によってパターン寸法の調整を行なう。
具体的には、本実施形態においては、パターン形成におけるマージンへの影響度の高い要素として、第1に位相シフターの位置及び幅を決定し、第2に補助パターンの位置及び幅を決定し、最後に位相シフターを囲む遮光部又は半遮光部の幅、つまり位相シフターと透光部とによって挟まれた領域の幅を調整することによって、所望のCDを実現するマスクデータの作成を行なうことが好ましい。以下、具体的な処理内容について説明する。
図30は、第6の実施形態に係るマスクデータ作成方法、具体的には、微細な所望のパターンに基づき、マスク上で遮光パターンとなるLSI用マスクパターンを作成する方法のフロー図である。また、図31(a)〜(g)は、第6の実施形態に係るマスクデータ作成方法の各工程における具体的なマスクパターン作成例を示す図である。
図31(a)は、マスクパターンによって形成しようとする所望のパターンを示している。すなわち、図31(a)に示すパターン600が、本発明のフォトマスクを用いた露光においてレジストを感光させたくない領域に相当するパターンである。尚、本実施形態でパターン形成について説明する場合、特に断らない限り、ポジ型レジストプロセスの使用を前提として説明を行なう。すなわち、現像により、レジストの感光部が除去され且つレジストの非感光部がレジストパターンとして残存することを想定して説明を行なう。従って、ネガ型レジストプロセスの使用の場合には、レジストの感光部がレジストパターンとして残存し且つレジストの非感光部が除去されると考える他は全く同様である。
まず、ステップS1において、図31(a)に示す所望のパターン600を、マスクデータ作成に用いるコンピュータに入力する。
次に、ステップS2において、本実施形態に基づき作成されるフォトマスクに対して露光を行なう際にオーバー露光を用いるか又はアンダー露光を用いるかに応じて、図31(a)に示す所望のパターンを拡大し又は縮小するリサイズを行なう。或いは、パターン形成時における種々の工程で生じる寸法変化に対応して、意図的に寸法を調整するために所望のパターンのリサイズを行なってもよい。リサイズ後のパターンを、図31(b)に示すように、半遮光部から構成される主パターン601とする。
次に、ステップS3において、図31(c)に示すように、主パターン601における寸法が所定値以下の領域の中心部に配置される位相シフター602の形状(幅等。以下同じ)を決定する。このとき、位相シフター602が主パターン601つまり半遮光パターンの内部に完全に含有されるようにする。すなわち、主パターン601の最外エッジが半遮光パターンのエッジとなるようにする。
ここで、生成する位相シフターの幅については以下のように調整することが好ましい。すなわち、位相シフターを囲む半遮光部における位相シフターと透光部とに挟まれた領域の幅が、後に行なわれるCD調整のために変更され、その結果、該領域の幅が所定の幅以下とならないように、事前に位相シフター幅の調整を行なう。尚、前記の所定の幅としては、マスク上の実寸法で20nm以上又は露光波長の4分の1以上であることが好ましい。そのため、この時点で位相シフターと透光部とに挟まれた領域の幅として前記の所定の寸法以上を確保し且つその状態で予測されるCDが所望の値よりも太くならないように、位相シフター幅を設定する。具体的には、上記の状態で所望のCDを実現する位相シフター幅を最大位相シフター幅と定義すると共に、該最大位相シフター幅以下の位相シフター幅の範囲において、各パターンのコントラスト及びDOFを最適化できるように位相シフターを配置する。これにより、後の工程で位相シフター幅を変更してパターン寸法調整を行なう必要がなくなる。尚、ここまで、主パターンがマスクエンハンサー構造であることを前提として説明を行なってきたが、主パターンが位相シフターのみから構成されるようにマスクデータ作成を行なう場合には、上記の処理内容を省略してもよい。
次に、ステップS4において、図31(d)に示すように、主パターン601における寸法が所定値よりも大きい領域の周縁部に配置される位相シフター602の形状を決定する。このとき、位相シフター602が主パターン601つまり半遮光パターンの内部に完全に含有されるようにし、それにより主パターン601の最外エッジが半遮光パターンのエッジとなるようにする。
次に、ステップS5において、図31(e)に示すように、ステップS3及びステップS4で配置した位相シフター602からそれぞれ所定の距離(露光時に使用される光源による照明の斜入射角等に基づき定められる距離)離れた位置に、露光光を回折させる補助パターンとして、半遮光部から構成される第1次回折光発生パターン603及び第2次回折光発生パターン604を配置する。例えば位相シフター602がライン状のパターンである場合、ライン状の回折光発生パターンが位相シフター602から所定の距離離れた位置に位相シフター602と平行になるように配置される。但し、回折光発生パターンの配置位置に他のパターンが存在する場合、該他のパターンが存在する領域には回折光発生パターンを配置しない。
以上の処理によって、パターン形成におけるマージンに及ぼす影響の大きい位相シフターの位置及び幅、並びに回折光発生パターンの位置及び幅が最適値に決定されたことになる。
次に、ステップS6において、本発明のフォトマスクを用いて露光を行なったときにマスクパターンに対応して所望の寸法を持つパターンが形成されるようにマスクパターンの寸法調整を行なう処理の準備を行なう。すなわち、通常OPC(Optical Proximity Correction)処理と呼ばれる処理の準備を行なう。本実施形態では、パターン形成時の寸法つまりCDを予測して該結果に基づき寸法調整されるマスクパターン領域を、主パターン601のエッジつまり半遮光パターンのエッジのみに限定する。すなわち、図31(f)に示すように、主パターン601の最外エッジをCD調整用エッジ605に設定する。言い換えると、形成すべきパターンの寸法であるCDの調整を、主パターンを構成する半遮光部の最外エッジのみによって調整する。これにより、位相シフターが配置された主パターンについては、位相シフターと透光部とに挟まれた半遮光部の幅によってCDを調整することが可能になる。よって、位相シフター602並びにそれに対して最適な位置に配置された回折光発生パターン603及び604を変形することなく、所望のCDを実現できるマスクパターンの作成が可能となる。
次に、ステップS7において、マスクパターンに用いる半遮光部及び位相シフターのそれぞれの透過率を設定する。
次に、ステップS8、ステップS9及びステップS10において、OPC処理(例えばモデルベースOPC処理)を行なう。具体的には、ステップS8において、光学原理及びレジスト現像特性を考慮したシミュレーションによって、位相シフター602が配置された主パターン601と回折光発生パターン603及び604とにより形成されるレジストパターンの寸法を予測する。このとき、シミュレーションにおいては、リソグラフィー工程のみではなく、ドライエッチング等の他のパターン形成に係わる工程を考慮してもよい。続いて、ステップS9において、予測されたレジストパターンの寸法が所望の寸法と一致しているかどうかを調べる。所望の寸法と一致しない場合、ステップS10において、レジストパターンの予測寸法と所望の寸法との差に基づきCD調整用エッジ605を移動させ、それによって主パターン601の変形を行なう。
本実施形態の特徴は、ステップS6で設定されたCD調整用エッジ605のみを変化させることにより、所望の寸法を持つレジストパターンを形成できるマスクパターンを実現することである。すなわち、ステップS8〜S10を、レジストパターンの予測寸法と所望の寸法とが一致するまで繰り返すことにより、最終的に、ステップS11において、所望の寸法を持つレジストパターンを形成できるマスクパターンを出力する。図31(g)は、ステップS11で出力されたマスクパターンの一例を示している。
ところで、本来、本発明のフォトマスクにおけるパターン(レジストパターン)寸法に影響を及ぼすパラメータは、位相シフターの幅、マスクパターン(主パターン)の幅、並びに補助パターンの幅及び位置等と非常に多い。
それに対して、第6の実施形態によると、重要なパターン形成特性であるコントラスト及びデフォーカス特性等が優れたマスクを実現するために、まず、重要なパラメータである位相シフター602の幅並びに回折光発生パターン603及び604の配置位置を決定する。その後、CD調整用エッジ605として設定された、主パターン601の最外エッジのみを移動させてパターン寸法制御を行なうことにより、優れたパターン形成特性を持つマスクパターンを実現する。
従って、本実施形態の方法により作成されたマスクデータに基づきフォトマスク作成を行ない、さらに、そのフォトマスクを用いて斜入射露光を行なうことによって、微細パターンの形成においても又は微細スペースの形成においても、高いコントラストと、非常に優れたDOF特性とが得られる。
また、第6の実施形態によると、位相シフター602が、主パターン601における寸法が所定値以下の領域の中心部に配置されるため、より微細な所望のパターンを形成でき且つ優れたパターン形成特性を持つマスクパターンを実現できる。
また、第6の実施形態によると、位相シフター602が主パターン601の周縁部に配置されるため、任意の形状を持つ所望のパターンを形成でき且つ優れたパターン形成特性を持つマスクパターンを実現できる。
ここまで、回折光発生パターンを最適な回折光を発生できる位置に配置できるものとしてマスクデータ作成方法について説明してきたが、次に、主パターンに対して他の主パターンが近接する場合におけるマスクデータ作成方法(特に上記のステップS5の処理)について詳しく説明する。尚、以下の説明では、図31(g)に示すマスクパターン作成例に代えて、図32に示すマスクパターン作成例を用いる。図32において、701は着目する主パターンであり、702、703、704及び705はそれぞれ主パターン701に近接する他の主パターンである。また、以下の説明では、第1次回折光発生パターンの中心の最適な位置を、位相シフターの中心からG0の位置とすると共に、第1次回折光発生パターンの中心の許容できる位置範囲をG1からG2まで(但しG1<G0<G2)とする。このとき、G1及びG2を、第1の実施形態で詳細に説明した第1次回折光発生パターンの配置位置の許容範囲に一致させることが好ましい。また、第2次回折光発生パターンの中心の最適な位置を、位相シフターの中心からH0の位置とすると共に、第2次回折光発生パターンの中心の許容できる位置範囲をH1からH2まで(但しH1<H0<H2)とする。このとき、H1及びH2についても、第1の実施形態で詳細に説明した第2次回折光発生パターンの配置位置の許容範囲に一致させることが好ましい。
以下、着目する主パターン701と、それに近接する他の主パターン702〜705との関係を考慮して回折光発生パターンを生成する方法について詳細に説明する。尚、各主パターン701〜705はそれぞれマスクエンハンサー構造を持つ。すなわち、主パターン701は位相シフター701Bとそれを囲む半遮光部701Aとからなり、主パターン702は位相シフター702Bとそれを囲む半遮光部702Aとからなり、主パターン703は位相シフター703Bとそれを囲む半遮光部703Aとからなり、主パターン704は位相シフター704Bとそれを囲む半遮光部704Aとからなり、主パターン705は位相シフター705Bとそれを囲む半遮光部705Aとからなる。
図32に示すように、主パターン701と主パターン702とは、それぞれの中心間の距離p1がp1<2×G1となるように近接しているものとする。この場合、主パターン701と主パターン702との間には回折光発生パターンを配置しない。
また、主パターン701と主パターン703とは、それぞれの中心間の距離p2が2×G1≦p2<2×G2となるように近接しているものとする。この場合、主パターン701と主パターン703との間の中央に第1次回折光発生パターン801を配置する。
また、主パターン701と主パターン704とは、それぞれの中心間の距離p3が2×G2≦p3<2×H1となるように近接しているものとする。この場合、主パターン701と主パターン704との間には、主パターン701の中心からG0離れた位置に中心を持つ第1次回折光発生パターン802を配置すると共に、主パターン704の中心からG0離れた位置に中心を持つ第1次回折光発生パターン803を配置する。
さらに、主パターン701と主パターン705とは、それぞれの中心間の距離p4が2×H1≦p4<2×H2となるように近接しているものとする。この場合、主パターン701と主パターン705との間には、主パターン701の中心からG0離れた位置に中心を持つ第1次回折光発生パターン804を配置し、主パターン701と主パターン705との間の中央に第2次回折光発生パターン805を配置し、主パターン705の中心からG0離れた位置に中心を持つ第1次回折光発生パターン806を配置する。
尚、着目する主パターンの中心と、それに隣り合う他の主パターンの中心とが2×H2以上離れている場合には、各主パターンの間には、各主パターンの中心からG0離れた位置にそれぞれ中心を持つ一対の第1次回折光発生パターンを配置し、さらに、各主パターンの中心からH0離れた位置にそれぞれ中心を持つ一対の第2次回折光発生パターンを配置すればよい。
以上に説明した回折光発生パターン生成方法によれば、主パターンが他の主パターンと任意の寸法で近接している場合でも、好ましい回折光発生パターンを確実に生成できる。
尚、第6の実施形態において、半遮光部を用いたマスクエンハンサー構造を持つマスクパターンを対象として説明を行なったが、これに代えて、遮光部を用いたマスクエンハンサー構造を持つマスクパターンを対象としてもよい。具体的には、本実施形態で半遮光部として説明をしている箇所を全て遮光部に置き換えてもよい。また、この場合、ステップS4の、主パターン601の周縁部に位相シフター602を配置する工程を省略してもよい。尚、半遮光部に代えて遮光部を用いた場合、本実施形態の方法に従って作成されたマスクパターンによって所定の寸法以下のパターンを形成する場合にコントラスト又はDOFの大きな向上効果が得られる。具体的には、微小スペースの形成においては、コントラスト又はDOFの向上効果は少ない。しかしながら、例えば、高速動作を目的としたLSI回路のゲート層のパターン形成、つまり、トランジスタパターンの寸法のみが極めて微細であり且つ微小なスペースパターンを含まないパターンの形成等においては、前述の効果が極めて高い。
ところで、通常のLSI用のマスクパターンデータ作成においては、トランジスタパターン形成におけるマージンを増加させることが重要である。このため、主パターン同士が近接し、それにより両方の主パターンに対して回折光発生パターンを同時に最適な位置に配置できない場合、トランジスタ部分となる主パターンに対して最適な位置に回折光発生パターンを生成する一方、配線部分となる主パターンに対しては最適な位置にこだわらずに回折光発生パターンを生成すればよい。以下、図33に示すフロー図を参照しながら具体的に説明する。図33に示す改良処理フローが、図30に示す処理フローと異なっている点は、主パターンの位相シフターの配置位置に基づいて回折光発生パターンを配置する処理を2つのステップに分けて行なうことである。すなわち、具体的には、図30の処理フローにおけるステップS5の処理は、図33の処理フローにおいてステップS51及びS52の2つのステップに分けて行なわれる。具体的には、まず、ステップS51において、トランジスタ領域の主パターンの位相シフターに対して最適な回折光発生パターンを生成して配置する。次に、ステップS52において、トランジスタ領域以外の領域の主パターンの位相シフターに対して回折光発生パターンを生成する。この方法によれば、トランジスタ領域の主パターンとその他の領域(配線領域等)の主パターンとが互いに近接するために両方の主パターンに対して同時に最適な回折光発生パターンを配置できない状況が生じたとしても、トランジスタ領域の主パターンに対しては最適な回折光発生パターンを配置することが可能となる。尚、トランジスタ領域の主パターンの抽出は、例えばLSI設計データに基づいてゲート層と活性層との重なりを抽出する等の処理によって容易に行なうことができる。
図34は、図33に示す処理フローによる具体的な処理結果であるマスクパターン作成例を示している。図34に示すように、主パターン710〜712はそれぞれ位相シフター710B〜712Bと遮光部710A〜712Aとから構成されている。また、これらの主パターン710〜712に対して第1次回折光発生パターン811〜815が配置されている。ここで、位相シフター710Bは、トランジスタ領域に配置された位相シフターであり、他の位相シフター711B及び712Bはトランジスタ領域以外の領域に配置された位相シフターである。また、位相シフターに対して最適な第1次回折光発生パターンの配置位置は、位相シフターの中心からG0離れた位置であり、第1次回折光発生パターンの許容できる位置範囲はG1からG2までとする。また、主パターン710と主パターン711、及び主パターン711と主パターン712とは互い近接しており、互い近接した各主パターンの中心同士の間の距離はpであるとする。ここで、pは2×G1以上で且つ2×G2未満の値であるとする。さらに、回折光発生パターン812及び815は、互い近接する主パターン同士の間の領域に配置された回折光発生パターンである。他の回折光発生パターン811、813及び814は、他の主パターンと近接していない主パターンに対して配置された回折光発生パターンである。図34に示すように、トランジスタ領域以外の領域に配置された主パターン711及び712の間に配置される回折光発生パターン815は、該両方の主パターン間の中央に配置される。一方、トランジスタ領域に配置された主パターン710と、主パターン711との間に配置される回折光発生パターン812は、主パターン710の位相シフター710Bの中心からG0の位置に中心を持つように配置される。すなわち、トランジスタ領域に配置された位相シフターに対して優先的に回折光発生パターンが最適な位置に配置される。
図33に示す改良処理フローにおいては、図30の処理フローにおけるステップS5の処理を2つのステップに分けることにより、トランジスタ領域の主パターンに対して優先的に回折光発生パターンを最適位置に配置することを容易に実現している。しかし、トランジスタ領域及びその他の領域のそれぞれにおける回折光発生パターンの配置を1つのステップで同時に行なってもよいことは言うまでもない。また、パターン形成において重要な領域としてトランジスタ領域を想定して説明したが、パターン形成において重要な領域がトランジスタ領域以外の他の領域である場合には、上記の改良処理フローにおけるトランジスタ領域を他の領域と置き換えて考えればよい。
また、第6の実施形態において、主パターンがマスクエンハンサー構造であるフォトマスクのマスクデータ作成方法を主として説明してきた。しかし、上記の各処理によって、主パターンがマスクエンハンサー構造ではないフォトマスクのマスクデータ作成を行なうこともできる。すなわち、例えば主パターンが位相シフターのみから構成される場合、位相シフターのエッジが主パターンのエッジになるので、位相シフターの幅によってCD調整を行なってもよい。また、例えば主パターンが遮光パターンのみから構成される場合、遮光パターンのエッジが主パターンのエッジになるので、遮光パターンの幅によってCD調整を行なってもよい。この場合、図30の処理フローにおけるステップS3及びS4の一方又は両方を省略してもよい。
また、第1〜第6の実施形態において、透過型のフォトマスクを想定して説明してきた。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば透過率を反射率と読み替える等して、露光光の透過現象を全て反射現象に置き換えて考えれば、反射型マスクについても本発明は成り立つものである。