JP3756362B2 - 二相マイクロフローエレクトロスプレー質量分析法 - Google Patents

二相マイクロフローエレクトロスプレー質量分析法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マススペクトル装置におけるイオン源であるエレクトロスプレーイオン化装置に関する。本発明は、疎水性物質をマススペクトルを得るに充分な量のイオンにイオン化させるために、水相と有機相とをイオン化部へ同時に供給し得る供給路を設けることを特徴とした新規なエレクトロスプレーイオン化装置、それを用いたイオン化方法、及びそれを用いたマススペクトル装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
タンパク質等の生体関連物質やダイオキシン等の環境汚染物質試料の同定や材料構造の解明には質量分析計(MS)が有用である。液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーと組み合わせたMSが急速に発展してきている。MSは試料をイオン化して、イオン化された分子種を電場の中で分析するものである。
MSの装置は、主として試料供給部、イオン源、質量分析部及び検出部からなるものであり、質量分析部としては、四重極型、磁場型や飛行時間型(TOF)などが使用されている。また、質量分析部に試料を導入するには、試料の分子をイオン化する必要があり、試料はイオン源でイオン化される。イオン源におけるイオン化法としては、電子衝撃法(EI)、化学イオン法(CI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)などの種々のイオン化法がある。
【0003】
この内、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)や大気圧化学イオン化法(APCI)などの大気圧イオン化法は、試料溶液を大気圧下でソフトにイオン化でき、クロマトグラフィー等の各種液相分離装置と容易に接続できる利点があり、広く利用されている。
ESIもAPCIも質量分析部の真空系に入る前の段階でイオン化され1価あるいは多価のイオンを形成する。このとき陽イオンモードではプロトン化分子を、陰イオンモードでは脱プロトン化分子を生成し、このイオン化された分子種が測定にかけられる。
【0004】
エレクトロスプレー法、特に補助的に噴霧ガスを使用するエレクトロスプレーイオン法(ESI)においては、試料溶液が周囲に噴霧ガスの流路を有するステンレススチール製キャピラリー(内径70〜100μm)を通して流速1μL/分〜1mL/分でイオン源に導入される。キャピラリーの先端に3〜4kVの高電圧をかけると、キャピラリーから出てくる試料が帯電した霧状となってイオン源中に放出される。キャピラリーの周囲からは高速の噴霧ガスが放出されており、この噴霧ガスに乗って帯電した霧状物が真っ直ぐに広範囲に放出される。
イオン化された分子種はキャピラリーの先端のさらに先にあるオリフィスと呼ばれるピンホールを通って、中間の真空領域に導入され、さらに質量分析部に導入される。
【0005】
ESIは、溶液の状態からイオン化するものであり、その際の溶媒としては、イオン化を促進できる極性溶媒か水含有系の極性溶媒、例えば水/アセトニトリルや水/メタノールの1:1(v/v)溶液がもっともよく使用されている。
したがって、このような極性溶媒を用いた液体クロマトグラフィーと組み合わせれば、溶液状態のままMSを測定することができ、ESIと質量分析との組み合わせは微量溶存化学種の構造決定法として広く用いられている。
【0006】
しかし、ESI法は非極性溶媒の溶液は使用することができず、例えば蛋白質やダイオキシンなどの多くの有機化合物は親油性で非水溶性であることから、ESI法には適していないのが現状である。また、溶媒抽出系の有機相をそのままESI法の試料とすることができない。さらに、イオン化しない物質、即ち非導電性の不活性有機溶液もESI法を利用することはできないのが現状であった。
ESI法は大気圧下で溶液状態のままで、ソフトにイオン化することにより、そのまま質量分析することができる便利な測定方法であり、この適用範囲を拡大することが求められていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、質量分析器におけるエレクトロスプレーイオン化法(ESI)において、非水系の溶液をそのまま適用することが可能な新規なイオン化装置を提供するものである。また、本発明は、溶媒抽出で用いられる不活性溶媒の溶液や、水相と有機相の界面で生成する物質を分析することができる新規なイオン化装置を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
エレクトロスプレーイオン化法(ESI)において、目的物質をイオン化するに必要な過剰電荷は、主として溶媒の電気分解によるものであり、溶媒として電気分解し得るものを使用しなければならなかった。したがって、非導電性の不活性有機溶媒のみを使用する場合には目的物質をイオン化するに必要な電荷を得ることができなかった。また、溶媒として非導電性の不活性有機溶媒と電気分解できるものを使用することは可能であるが、両者が均一に混合されていないと、即ち両者が互いに溶解できるものでないと、スプレーの先端部のキャピラリーが通常70〜100μmと極めて細くなっているために、両溶媒を均一にスプレーすることができなかった。
【0009】
体積比で水相1000に対して有機相1程度の割合であるならば比較的安定な分散溶液を調製することができることが知られているが、使用する有機溶媒によって密度や分散溶液の安定度が異なるためにイオン化部に到達する前に有機液滴がキャピラリー内で大きくなったり、水との密度差によって滴が上下してキャピラリー内壁に吸着する可能性がある。さらに、有機液滴の大きさや時間的制御はできないので、汎用性はないことになる。
さらに、同様な理由により、液液界面に生成する化学種をイオン化することも不可能であった。
【0010】
本発明者らは、この問題点を解決するために、さらに研究した結果、水相と有機相とを別々に混合部に供給し、混合部において両者が同時に混合される方法を検討した。その結果、水相部の電気分解し得る溶媒が充分電気分解される状態で混合部に導入される場合には、質量分析スペクトルが得られることがわかった。さらに、驚くべきことに、水相と有機相との液液界面において生成される化学種の質量分析スペクトルも得られることがわかった。
【0011】
したがって、本発明は、水相と非水系の有機相とを混合部へ同時に供給し得る供給路と、水相が充分にイオン化され得る水相イオン化部と、当該水相と有機相が混合される混合部を有することを特徴とするエレクトロスプレーイオン化装置、当該装置を用いたエレクトロスプレーイオン化方法、及びそれを用いたマススペクトル装置に関する。本発明のエレクトロスプレーイオン化装置は、従来のエレクトロスプレーイオン化装置に使用されている各種装置、例えば噴霧ガスを供給するための噴霧ガス供給路やイオン化物を乾燥するための乾燥ガス供給装置をさらに設けることもできる。
【0012】
より詳細には本発明は、荷電可能なキャピラリー内に、有機相を供給するための非導電性のチューブを内蔵し、当該非導電性のチューブの先端が荷電可能なキャピラリーの先端部分よりも短くなっており、非導電性のチューブの先端とキャピラリーの先端との間において水相と有機相とが混合される混合部が設けられていることを特徴とするエレクトロスプレーイオン化装置、当該装置を用いたエレクトロスプレーイオン化方法、及びそれを用いたマススペクトル装置に関する。
【0013】
本発明のエレクトロスプレーイオン化装置によれば、有機相の供給路、即ち非導電性のチューブの先端部から噴霧された有機相の微小液滴は、噴霧されるとほぼ同時に混合部において、水相の供給路、即ち荷電可能なキャピラリーから供給された水で覆われ、水の電気分解により当該液滴が帯電され、イオン化されることになる。さらに、有機相が水で覆われた際に、液液界面が生じこの界面において生成した化学種がそのままイオン化されることになる。
【0014】
本発明のエレクトロスプレーイオン化装置(以下、ESI装置という。)の例を図1に示す。図1に示す本発明のESI装置1は水相の供給路であるキャピラリー2の内部に、有機相の供給路である非導電性のチューブ6が内包されている二相直接導入方式のものを示したものである。
有機相4が非導電性のチューブ6から導入され、水相5がキャピラリー2から導入される。キャピラリー2は荷電可能となっており高電圧がかけられている。非導電性のチューブ6の先端はキャピラリー2の先端よりも少し短く設計されており、非導電性のチューブ6の先端部から噴霧された有機相4は、キャピラリー2の内部の混合部3で水相5と混合される。このとき水相5はキャピラリー2にかけられている高電圧により電気分解又は帯電されており、電荷を持った水相が有機相4から噴霧された微少液滴を包むようにしてキャピラリー2の先端部から放出される。水相で覆われた微少液滴は、通常のESIと同様に乾燥されて徐々に溶媒を放出し、イオン化された化学種となってゆく。
【0015】
図1に示した本発明のESI装置を、水相及び有機相の供給口の部分からしめしたのが図2である。図1に示したESI装置1は支持部材を経てテフロンティーコネクター7に接続されており、キャピラリー2の内側の非導電性のチューブ6はテフロンティーコネクター7を貫通して有機相4の供給口9に至っている。テフロンティーコネクター7の他の一方の口は、水相5の供給口であるテフロンチューブ8に接続されている。
水相5はテフロンチューブ8から供給され、テフロンティーコネクター7でその進路を直角に曲げ、キャピラリー2の内側で非導電性のチューブ6の外側を通ってESI装置1の部分に供給される。一方、有機相4は供給口9から供給され、非導電性のチューブ6の内側を通ってESI装置1に供給される。ESI装置1によってイオン化された化学種は、インターフェイス又はオリフィス10を通過して質量分析部11に供給される。
【0016】
有機相をできるだけ小さい液滴で水相に送りこむためには非導電性のチューブ6(以下、単にキャピラリーともいう。)の先端を細くする必要がある。その加工のために図3に示すようなシリカキャピラリー先端加工装置系を構築した。炭酸ガスレーザー21から照射されるレーザーを集光レンズ22で集め、キャピラリー23に当てる。キャピラリー23には分銅24がとりつけられており、その後方には安全のために耐熱レンガ25を配置した。炭酸ガスレーザ−の電力供給とコントロールは、安定化直流電源装置26とファンクションジェネレーター27を用いて行なった。
キャピラリーは残したい側が下に来るように集光レンズの焦点距離から7〜10mm程度遠方にまた、耐熱レンガ25に直接レーザーを照射した焼け跡から位置を決め、適宜引き切れるまで位置調整をした。
【0017】
この装置系を用いて先端を細く加工したシリカキャピラリーを光学顕微鏡BX−60(オリンパス光学工業社)で観察した結果を図4及び図5に示す。図4に外径150μm、内径75μmのシリカキャピラリー(ジーエルサイエンス社)、図5に外径150μm、内径50μmのシリカキャピラリー(同前)をこの装置で加工した顕微鏡画像を示す。それぞれ図4は細くなり始める部分の10倍像、図5は先端部分の対物10倍像である。なお、図4及び図5はいずれも図面に代わる顕微鏡写真である。
先端径は内径75μmシリカキャピラリーでは外径約12μm、内径約8μm、内径50μmシリカキャピラリーでは外径約13μm、内径約7μm、また細くなり始める部分から先端までの長さは両キャピラリーとも約2mmであった。
【0018】
このようにして作成したシリカキャピラリーを非導電性のチューブ6として用いて図2に示す二相直接導入エレクトロスブレーイオン化装置を組み立てた。テフロン製のT字コネク夕7を用いてESIイオン化部側にはステンレスキャピラリー2(内径200μm、外径400μm)を取りつけた。有機相導入側は、このステンレスキャピラリーと一直線上になるようにし、残りの一方を水相導入側とした。
有機相と水相のミキシングはこのステンレスキャピラリー2の中で行なうようにするために、ESI側の端を前述の炭酸ガスレーザーで先端加工した約30cmのシリカキャピラリー(外径150μm、内径50μm、先端外径13μm、内径7μm)を入れ、コネク夕を通って有機相導入側まで突き出るようにした。この径のシリカキャピラリーにしたのは有機相の滴をできるだけ小さくして出したいということと、元のキャピラリーのガラス肉厚がある程度大きい方が先端の強度も強いと考えたからである。このシリカキャピラリーはステンレスキャピラリーの先端から導入して約1mm内側に細くした先端部がくるように固定した。この部分でシリカキャピラリー6の外側に流れる水相溶液中に有機相溶液の液滴が放出される。有機相溶液はこのシリカキャピラリーを介して直接導入した。一方、水相導入側には約30cmのテフロンチューブ8(外径1.58mm、内径0.25mm)を取りつけて水相溶液を導入した。
【0019】
質量分析装置には図2に示した本発明の二相直接導入エレクトロスプレーイオン化装置をとりつけたエレクトロスプレーイオン化部に用いた飛行時間型質量分析装置Jaguar(ESI−TOF−MS、Sensar Larson-Davis)を用いて測定を行なった。図6にJaguar本体を示す。TOF−MSはその特徴として測定質量範囲が広く、理論的には質量範囲の制限がない。しかし、従来は時間分解能が低く、イオン化部には最も適しているMALDIが用いられていた。しかし、JaguarはTOF−MSのメリットを損ねることなく1秒間に5000スペクトルと時間分解能の低さを改善し、イオン化部にESIを用いている。また、このESI装置部はシンプルな構造をしており、CE−MSやLC−MSといった他の分離装置とのジョイントを容易にしている。このことは今回、開発した二相直接導入装置を組み込む上での大きなメリットでもあった。作製した二相直接導入装置をエレクトロスプレーイオン化部にセットしたものが図6に示されている。
【0020】
有機相導入には不活性化シリカキャピラリーを介して、水相導入側にはテフロンチューブ(外径1.58mm、内径0.25mm)を取りつけてそれぞれ、ガスタイトシリンジとシングルマイクロプロセッサーシリンジポンプをつないだ。通常の測定条件は測定時間6分、積算51200、エレクトロスプレーイオン化部電圧4.4kV、インターフェース電圧600V、スキマー電圧は70V、ノズル電圧は100〜500Vで測定を行なった。試料の流速は水相0.1ml/hr、有機相0.001ml/hr〜0.02ml/hrに変化させた。なおキャリブレーションにはポリエチレングリコール(PEG)溶液を用いた。
【0021】
ここで作成した二相直接導入装置では図2のようにステンレスキャピラリーの径が大きいため、通常かけるESI電圧(2〜3kV)ではESIが不十分な可能性がある。そこでまず比較的脱溶媒しやすいPEG溶液を用いてスペクトルが取れるかどうかを調べた。測定は水相に水−メタノール1:1溶液、有機相にPEG溶液を用いて行った。図7にそのスペクトルを示す。このスペクトル測定はESI部電圧3.0kV、積算時間3分、水相流速0.1ml/hr、有機相流速0.05ml/hrで行った。この結果から作製した二相直接導入装置で正常にESIされイオンが検出できること、また有機相を流れるキャピラリーが正常に機能していることも確認された。
【0022】
次に試料溶液を使ってマススペクトル測定の可否を調べた。これはPEG溶液を使ったマススペクトル測定では溶媒が水相、有機相とも水−メタノール 1:1溶液でESI−MS測定に非常に適した溶媒であるのに対して、試料溶液の溶媒は水相にはトルエン飽和の酢酸水溶液、有機相はトルエンであることから帯電液滴の生成と脱溶媒化が起こりにくいと予想されるからである。その対策としてはESI電圧をあげて帯電液滴の生成を促進させることや有機相流速をできるだけ遅くし水相との体積比を大きくすることが考えられた。
そこでESI電圧を変化させて本発明のESI装置を用いたマススペクトルの測定を行った。水相には5.0×10−6mol dm−3トルエン飽和のCu(II)酢酸水溶液、有機相には1.0×10−3mol dm−3の次式(I)
【0023】
【化1】
Figure 0003756362
【0024】
で表される2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−ジエチルアミノフェノール(以下、5−Br−PADAPという。)トルエン溶液を用いた。この実験に使用した5−Br−PADAPはキレート試薬の1種であり、水にはほとんど不溶で、アルコールやクロロホルムには可溶の赤褐色の結晶である。その酸解離機構は次式、
【0025】
【化2】
Figure 0003756362
【0026】
で示されるとおりであり、それぞれのpKaの値は、pKaが0.1、pKaが2.02、pKaが11.3(いずれも50%エタノール中)である。この化合物は、N−N−Oで金属イオンに配位する3座配位子として働き、その可視部吸収スペクトルは錯生成によって鋭敏に変化し、シフトが大きいので様々な金属の高感度比色試薬として優れているため、分光学的手法からの直接アプローチが容易である。さらに、大きなモル吸光係数をもつ比色試薬として知られるポルフィリンに比べて錯生成反応が速い。また、銅は他の金属に比べて錯生成反応が速く、このような理由から、今回の二相直接導入時の錯生成反応の実験においてこの化合物と金属イオンにCu(II)イオンを用いた。
【0027】
以後、Cu(II)−5−Br−PADAP錯体の二相直接導入によるESI−TOF−MSの測定では特に指定がない限り、この濃度を用いた。流速はそれぞれ0.1ml/hr、0.001ml/hrとした。
ESI装置の電圧を3.8kV、4.0kV及び4.4kVとした場合の得られたマススベクトルを、それぞれ図8、図9及び図10に示す。
【0028】
3.5kVまでは液滴がスプレーされず、また3.8kVまでは帯電液滴の生成が不十分でスペクトルがうまく取れず、装置の設定限界近くの4.4kVであれば充分なマススペクトルが得られることがわかった。この結果から以後ESI電圧は4.4kVとして測定を行った。
図8、図9及び図10のマススペクトルはCu(II)−5−Br−PADAP錯体を測定したものであり、本発明の装置により有機化合物などのマススペクトルが得られることはわかったが、このスペクトルからは錯体や配位子に由来する特定のピークは確認できなかった。そこで、ノズル電圧をあげることで脱溶媒化を促進、溶媒由来のクラスターを分解させ、できるだけ錯体ピークを得ることを考えた。また、有機相の量的な不足という点から有機相の流速をあげて対応した。
【0029】
これらの点の改善によって錯体ピークがはっきりと現れたマススペクトルを得ることができた。これを図11に示す。主なCu(II)−5−Br−PADAP錯体として1:2錯体[CuL(HL)]と1:1錯体[CuL]が確認され、また5−Br−PADAPのプロトン付加体[HL]も確認された。また、スペクトルの中には2:3錯体[Cu、2:2錯体[Cu(I)Cu(II)Lの存在を示唆するピークも確認された。
【0030】
また図12にCu(II)濃度が1.0×10−5mol dm−3であること以外は条件の上で図11と同じにしたマススペクトルを示す。このように溶媒クラスターと見られるピークを分解、脱溶媒化することができないマススペクトルが得られ、2:3錯体[Cu2L、2:2錯体[Cu(I)Cu(II)Lは確認できなかった。しかし、1:2錯体[CuL(HL)]と1:1錯体[CuL]や5−Br−PADAPのプロトン付加体[HL]は捉えていることから、
結果として、この二相直接導入ESI法により、
1.ミキシングされた二相を介して錯体反応がおこり、その情報を捉えることができること。
2.有機相中の配位子ピークが検出されたことから従来使用が困難とされていた有機溶媒中試料のマススペクトルが可能であること。
が明瞭に示された。
【0031】
上記で指摘された問題を解決するために、ノズル電圧を大きくしたことと、有機相流速がスペクトルに大きく影響していることから、ここではノズル電圧の変化、つまり衝突活性の変化が主に得られたピーク[CuL(HL)]、[CuL]や[HL]に与える影響について検討を試みた。この検討には30〜1500(m/z)でカウントされた全イオンに対するピークのカウント数の割合、またはカウント数を使っておこなった。ノズル電圧を100V、200V、300V、400V及び500Vと変化したときに得られたマススペクトルの一例を図13に示す。図13はノズル電圧を400Vにしたときのものである。このときの有機相流速は0.02ml/hrである。また、このときスペクトルから[CuL(HL)]、[CuL]や[HL]ピークの強度とカウント数を取り出してノズル電圧との関係を比較したものを、それぞれ図14及び図15に示す。さらに、比較として有機相の流速が0.005ml/hrの時の関係図を、それぞれ図16及び図17に示す。これらの図から傾向として総カウント数はノズル電圧200Vの時が最大であるのに対して[CuL(HL)]、[CuL]や[HL]ピーク強度は総じてノズル電圧の増加に伴って増加もしくは現状維持している。このことは[CuL(HL)]、[CuL]や[HL]はノズル電圧の増加による衝突活性の増加に対して比較的安定であるのに対して、総カウント数は溶媒などピークを多分に含んでいるためにノズル電圧の増加に伴う衝突活性の増加によってデクラスタリゼーションされて、脱溶媒されることが示された。
【0032】
ここでは有機相の流速の変化について[CuL(HL)]、[CuL]や[HL]に与える影響について検討を試みた。有機相の流速を0.001ml/hr、0.005ml/hr、及び0.02ml/hr、変化させて得られたマススペクトルの一例を図18に示す。図18は流速が0.02ml/hrのものである。この時のCu(II)イオン濃度は5.0×10−6mol dm−3である。傾向として有機相の流速の増加により、[CuL(HL)]、[CuL]や[HL]は増加していることがわかった。このことは有機相の流速の増加による試薬量の増加によって錯体反応の機会が増加し、[CuL(HL)]、[CuL]を増加させたと考えられる。
【0033】
上記の結果である[CuL(HL)]、[CuL]のカウントの増加、つまり錯体反応の機会の増加は、単位時間あたりに水相溶液に放出される有機相の量に依存していると考えられる。このことは測定時間6分間の錯体カウント数の時間分解をとることで、有機相の流速が遅い、すなわち単位時間あたりの有機相量が少ない時には錯体のカウント数も少なく、逆に有機相流速が速い、すなわち単位時間あたりの有機相量が多い時には錯体のカウント数も多いはずである。そこで最も顕著にピークが得られた1:2錯体[CuL(HL)]について測定6分間のカウント数を時間分解による検討をおこなった。図19は、図18の流速の場合のマススペクトルにおける[CuL(HL)]のカウント数の時間分解の結果である。
【0034】
通常のESI測定では連続的な[CuL]のカウントが図20のように得られるが、この二相直接導入ESI−TOF−MSでは、いずれの有機相の流速においても錯体は間欠的に得られており、錯体が連続的にはスプレーされていないことがわかった。また、この時のピークの出現間隔は、有機相流速0.001ml/hrで約100秒、0.005ml/hrで約30秒、0.02ml/hrで約15秒と見積もることができ、[CuL]や[HL]でも同様の結果となった。これらの結果から
1.有機相は水相溶液中である大きさになるまでスプレーされない。
2.そのスプレーされない間、二相における錯生成物および有機相中の物質は水相溶液中には拡散しない。
ことが示唆された。
【0035】
ここではこれまでの結果を踏まえて、二相導入部での反応とマススペクトルから得られた[CuL(HL)]と[CuL]の由来について検討した。検討にあたり、二相直接導入ESI法とできるだけ濃度や体積条件を合わせた溶媒抽出を行い、水相、有機相両方の吸収スペクトルを測定した。この実験では、蓋つきの試験管に、1.0×10−3〜1.0×10−15mol dm−35−Br−PADAPトルエン溶液5mlとトルエン飽和の5.0×10−6mol dm−3酢酸銅水溶液25mlを混合した。これは、二相直接導入ESI−TOF−MSのCu(II)−5−Br−PADAP錯体測定で、マススペクトルがもっともよくとれた時の有機相の流速(0.02ml/hr)と水相流速(0.1ml/hr)の体積比とみなしたからである。この混合溶液を1時間攪拌して遠心分離器で有機相と水相に分離し、それぞれの吸収スペクトルを測定した。錯体の吸収のみ得るため、有機相、水相それぞれ差スペクトルを求めた。
【0036】
その結果を図21(有機相)及び図22(水相)に示す。二相直接導入ESI−TOF−MS測定の濃度と同じ有機相が、1.0×10−3mol dm−35−Br−PADAPの条件では、有機相、水相ともに錯体の吸収が見られ、錯体が有機相中に抽出されていることがわかった。一方、5−Br−PADAP濃度が1.0×10−4mol dm−3や1.0×10−5mol dm−3では、水相での錯体の吸収は見られたが有機相ではほとんど見られなかった。トルエン溶液中でのCu(II)−Br−PADAP錯体の組成は1:2錯体[CuL]と報告されている。また、水溶液中では存在するCu(II)−Br−PADAP錯体は1:1錯体である。したがって、二相直接導入ESI法による今回の濃度条件は、二相を介した錯体反応が起こる条件であり、かつ有機相中に錯体が抽出されることがわかった。
【0037】
以上のことを考慮して、二相導入部での反応は図23のように考えられた。水相溶液中に放出される有機相液滴はある大きさになるまでステンレスキャピラリー内に存在しており、錯体反応が起こると示唆された。この時1:1錯体[CuL]と1:2錯体[CuL]が生成しており、[CuL]は水相側の界面に吸着し、[CuL]は有機相側の界面に吸着、もしくは有機相中に抽出されていると考えられ、また、上記の結果からこれらの生成物の水相溶液中への拡散はほとんど起こっておらず、有機相液滴がある大きさになるとその一部もしくは全部が水相溶液とともにスプレーされ、帯電液滴の脱溶媒の後、気相イオンとして検出されたものと考えられた。
【0038】
以上のことから、本発明のESI装置によれば非極性有機溶媒中の物質もイオン化されマススペクトルが得られること、及び必要に応じて液液界面で生成する化学種のマススペクトルを得ることができることがわかった。
本発明のESI装置は、混合部において有機相と水相とを混合し、好ましくは有機相を包むように水相を混合し、その際に水相の一部又は全部が電気分解若しくは帯電できるように当該混合部に高電圧をかけておくことを特徴するものである。
【0039】
本発明のESI装置の混合部は、水相が電気分解又は帯電できるように荷電可能な材質でできている。荷電可能な材質としては、ステンレススチールなどの鉄、銅、ニッケル又は各種の合金などであってよい。前記の例ではステンレススチールが使用された。混合部の大きさは各種の大きさのものを使用することができるが、好ましくは通常のESIに使用されるステンレススチール製のキャピラリーの中程度の大きさがよい。混合部は混合部として別途設けることも可能であるが、通常のキャピラリーの中において混合するのが装置的にも好ましい。
混合部を荷電可能なキャピラリーの内部に設ける場合には、当該荷電可能なキャピラリーの先端部よりも有機相の供給路となる非導電性のチューブの先端部が少し短くすることにより、非導電性のチューブの先端部と荷電可能なキャピラリーの先端部との間を水相と有機相との混合部とすることができる。両先端部の距離は、混合部での滞留時間が0.1〜3秒、好ましくは0.5〜1.5秒程度になるようにすればよい。例えば、混合部での滞留時間を1秒とする場合に、有機相又は水相のいずれか早い方の流速が1mm/秒であれば、両先端の距離を1mmとすればよい。
【0040】
水相の供給路となるキャピラリーは、荷電可能なものであり、その材質としては、前記した混合部に使用されるものが好ましい。
有機相の供給路となる非導電性のチューブの材質としては、非導電性のものであれば特に制限はないが、シリカチューブ、ガラスチューブやプラスチックチューブなどであってよい。その内径も特に制限はないが、有機相の供給路を水相の供給路の内部に設ける場合には、水相の供給路の内部に入る大きさであり、水相の流通が充分に行える大きさが好ましい。有機相の供給路となる非導電性のチューブの先端部は有機相を噴霧することができる程度に細くするのが好ましい。有機相のチューブを前記したステンレススチール製のキャピラリーの中に設ける場合には、非導電性のチューブの先端部の内径はキャピラリーの内径の1/50〜1/2程度、好ましくは1/30〜1/2程度、さらに好ましくは1/30〜1/10程度であるが、特に制限されるものではない。
【0041】
本発明のESI装置に導入される水相としては、水のみであってもよいが、水と他の溶媒との混合溶媒、例えば、水/メタノール、水/アセトニトリルのような混合溶媒であってもよい。また、先の実験例に示したように溶媒だけでなく化学種を溶解した溶液とすることもできる。使用される水相は、予め有機相に使用される有機溶媒で飽和させておくのが好ましい。
本発明のESI装置における有機相としては、非極性溶媒であっても、極性溶媒であってもよいが、水に溶解しないものが好ましい。また、脱溶媒が容易なものが好ましい。有機相は精製されたものが好ましいが、未精製のものであってもよく、例えば、有機溶媒で抽出処理した有機相や液体クロマトグラフィーで溶出した有機相をそのまま使用することもできる。
【0042】
本発明の方法は、水や極性溶媒に溶解しない化学種を有機溶媒に溶解して使用することができ、その状態から必要なマススペクトルを得ることができる。また、本発明の方法は、2種又はそれ以上の化学種を水相と有機相に分けておき、本発明のESI装置の混合部において界面反応させることにより生成する化学種のマススペクトルを得るために使用することもできる。この場合には水溶性の化学種を水相にとり、疎水性の化学種を有機相にとり、両者を混合部で混合し、その場で生成した化学種をそのままマススペクトル化することも本発明の大きな特徴のひとつである。
【0043】
本発明のESI装置の荷電可能なキャピラリーにかけられる電圧は、通常のESIと同程度のものであってもよいが、それ以上であってもよい。イオン化の状況により適宜電圧を設定することができる。
また、ノズル電圧も通常のESIと同程度のものであってもよいが、それ以上であってもよい。使用する試料のイオン化の程度により適宜設定することができる。
【0044】
本発明ESI装置においては、必要に応じてさらに従来のESIに使用されている噴射ガスを使用してもよい。この場合には噴射ガスを噴射ガス用のチューブから導入してもよいが、本発明の荷電可能なキャピラリーのさらに外側に噴射ガス用のチューブを設けることもできる。
本発明のESI装置は、水相と有機相とを分けて導入し、これを荷電された混合部で混合してイオン化するという本発明の趣旨に沿っている範囲において種々の設計変更をすることができる。
【0045】
本発明のESI装置は従来のESIと同様に各種の質量分析器に取り付けることができる。質量分析器としては、磁場型、四重極型、飛行時間型などが挙げられる。好ましい質量分析器としては飛行時間型(TOF)が挙げられる。取付方法としては、イオン源をジョイントにより取り付けることもできるし、本発明のESI装置を一体化して組み込むこともできる。したがって、本発明は前記した本発明のESI装置を取り付けた質量分析装置を提供するものでもある。
【0046】
【実施例】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1(同軸キャピラリーの作製)
図3に示すシリカキャピラリー先端加工装置系を用いてシリカキャピラリーをレーザーで加熱、引き延ばしを行った。
図3中の炭酸ガスレーザー(シンラッド社製(SYNRAD))21には波長10.5μm、出力12.0W、ビーム径3mmのものを用い、集光レンズとして焦点距離30cmの平凸レンズ22(製品名Geレンズ;日本赤外線工業社製)を配置し、キャピラリー23をセットする後方に耐熱レンガ25を配置した。レーザーをあてたときに、重力によりキャピラリー23が伸びるようにキャピラリー23の下に分銅24を取り付けた。炭酸ガスレーザ−の電力供給とコントロールは安定化直流電源装置26(製品名GP035−15R;高砂製作所社製)、ファンクションジェネレーター27(製品名FG−273;ケンウッド社製)を用いて行なった。キャビラリーは残したい側が下に来るように平凸レンズの焦点距離から7〜10mm程度遠方にまた、耐熱レンガ25に直接レーザーを照射した焼け跡から位置を決め、適宜引き切れるまで位置調整をした。
外径150μm、内径75μmのシリカキャピラリー(ジーエルサイエンス社製)、次に外径150μm、内径50μmのシリカキャピラリー(ジーエルサイエンス社製)をキャピラリー23にセットしてレーザーを当てて、先端を細く加工したシリカキャピラリーを製造した。
【0048】
製造された先端を細く加工したシリカキャピラリーを光学顕微鏡BX−60(オリンパス光学工業社製)で観察した。画像は冷却CCDカメラ(製品名イメージポイント(Imagepoint);フォトメトリクス社製(Photometrics))を介してパソコンで取り込んだ。
図4に外径150μm、内径75μmのシリカキャピラリー(ジーエルサイエンス社製)、図5に外径150μm、内径50μmのシリカキャピラリー(ジーエルサイエンス社製)をこの装置で加工した顕微鏡画像を示す。それぞれ図4は細くなり始める部分の10倍像、図5は先端部分の対物10倍像である。なお、図4及び図5はいずれも図面に代わる顕微鏡写真である。
先端径は内径75μmシリカキャピラリーでは外径約12μm、内径約8μm、内径50μmシリカキャピラリーでは外径約13μm、内径約7μm、また細くなり始める部分から先端までの長さは両キャピラリーとも約2mmであった。
【0049】
次に、これらキャピラリーに水を流して通水試験を行なった。両キャピラリーとも先端での水滴を確認でき、その後の先端部分の観察でも大きな損傷は認められなかった。得られたシリカキャピラリーは物理的にも使用に耐えうるものであった。
ステンレスキャピラリー2(内径200μm、外径400μm)の中に、このようにして作成した約30cmのシリカキャピラリー(外径150μm、内径50μm、先端外径13μm、内径7μm)を入れ、このシリカキャピラリーがステンレスキャピラリーの先端から導入して約1mm内側に細くした先端部がくるように固定して、目的の同軸キャピラリーを製造した。
【0050】
実施例2(ESI装置の製造)
製造された二相直接導入同軸キャピラリーをテフロン製のT字コネクタ7に組み込んで、有機相導入側は、このステンレスキャピラリーと一直線上になるようにし、残りの一方を水相導入側とした。有機相溶液はこのシリカキャピラリーを介して直接導入した。一方、水相導入側には約30cmのテフロンチューブ8(外径1.58mm、内径0.25mm)を取りつけて水相溶液を導入した。
有機相導入には不活性化シリカキャピラリーを介して、水相導入側にはテフロンチューブ(外径1.58mm、内径0.25mm)を取りつけてそれぞれ、ガスタイトシリンジ(ハミルトン社製(Hamilton))とシングルマイクロプロセッサーシリンジボンプ(製品名ハーバード11;ハーバード社製(HARVARD))をつないだ。
こうして図2に示す二相直接導入エレクトロスプレーイオン化装置を製造した。
【0051】
実施例3(質量分析装置とマススペクトルの測定)
飛行時間型質量分析装置Jaguar(製品名ESI−TOF−MS;センサー ラーソン−デービス社製(Sensar Larson-Davis))のエレクトロスプレーイオン化部に実施例2で製造した図2に示される二相直接導入エレクトロスプレーイオン化装置をとりつけて、質量分析装置を製造した。図6にJaguar本体を示す。
この質量分析装置を用いてマススペクトルの測定を行った。通常の測定条件は測定時間6分、積算51200、エレクトロスプレーイオン化部電圧4.4kV、インターフェース電圧600V、スキマー電圧は70V、ノズル電圧は100〜500Vで測定を行なった。
試料溶液の導入は有機相、水相ともガスタイトシリンジ(ハミルトン社製(Hamilton))とシングルマイクロプロセッサーシリンジボンブ、ハーバード11(ハーバード社製(HARVARD))を用いて行ない、流速は水相0.1ml/hr、有機相0.001ml/hr〜0.02ml/hrに変化させた。なおキャリブレーションにはポリエチレングリコール(PEG)溶液を用いた。
【0052】
実施例4(PEG溶液のスペクトルの測定)
実施例3の質量分析装置を用いてPEG溶液のスペクトルの測定を行った。
測定は水相に水−メタノール1:1溶液、有機相にPEG溶液を用いた。
スペクトル測定はESI部電圧3.0kV、積算時間3分、水相流速0.1ml/hr、有機相流速0.05ml/hrで行った。
図7にそのスペクトルを示す。
【0053】
実施例5(5−Br−PADAPのマススペクトルの測定)
2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−ジエチルアミノフェノール(5−Br−PADAP)のトルエン溶液を有機相とし、酢酸銅水溶液を水相として実施例3に記載の質量分析装置を用いてマススペクトルを測定した。有機相の濃度は、1.0×10−3mol dm−3とし、水相は5.0×10−6moldm−3を含む1.0x10−3M酢酸水溶液(pH=4.0)(トルエン飽和)のCu(II)酢酸水溶液とした。流速はそれぞれ0.001ml/hr、0.1ml/hrとした。
ESI装置の電圧を3.8kV、4.0kV及び4.4kVとした場合の得られたマススペクトルを、それぞれ図8,図9及び図10に示す。
【0054】
ノズル電圧を400Vにし、有機相の流速を0.02ml/hrとしたときのマススペクトルを図13に示す。[HL](m/z=349)、[Cul](m/z=412)、[Cul(HL)](m/z=760)のピークが明瞭に観測された。これらのピークはシリカキャピラリー先端に生じる有機相液滴が10〜30秒後に間欠的に離脱するときに測定されることがわかった。これより、測定された錯体は水相に溶け出したものではなく、界面領域及び溶媒蒸発過程で生成したと考えられる。
さらに、Cu(II)イオン濃度は5.0×10−6mol dm−3とし、流速を0.02ml/hrとしたときのマススペクトルを図18に示す。
【0055】
実施例6(5−Br−PADAPの吸光スペクトルの測定)
水相、有機相両方の吸収スペクトルを測定した。
蓋つきの試験管に、1.0×10−3〜1.0×10−15mol dm−3の5−Br−PADAPトルエン溶液5mlとトルエン飽和の5.0×10−6mol dm−3の酢酸銅水溶液25mlを混合した。この混合溶液を1時間攪拌して遠心分離器で有機相と水相に分離し、それぞれの吸収スペクトルを測定した。錯体の吸収のみ得るため、有機相、水相それぞれ差スペクトルを求めた。
吸収スペクトル測定は、V−550型紫外可視分光光度計(日本分光社製)を使用した。測定波長範囲は200.0nm〜900.0nm、データ取りこみ間隔は0.5nmとし、スキャン速度は200nm/min、光源はタングステンヨウ素ランプおよび重水素ランプを使用した。吸収スペクトルの測定用セルは光路長10mmの石英製セルを使って実験をした。測定はすべて25±1.5℃の条件下で行った。
その結果を図21(有機相)及び図22(水相)に示す。
【0056】
【発明の効果】
本発明は、エレクトロスプレーイオン法における試料導入部を二相のフロー構造とすることにより、非水溶性の有機物質が極めて簡便に質量分析計にかけられることを可能とした。また、蛋白質や環境ホルモンなどの生体高分子や環境微粒子や金属錯体などの多数の化学種をそのままの形で極めて簡便に質量分析することができる。
このように、本発明のESI装置を用いることにより、非水系に存在する有機又は無機系などの化学種をそのまま質量分析することができる。
さらに、本発明のESI装置によれば、液液界面で生成する化学種を簡便に且つ高精度で質量分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のエレクトロスプレーイオン化装置の概要を例示したものである。
【図2】図2は、図1に示す本発明のエレクトロスプレーイオン化装置を組み立てたものを示す。
【図3】図3は、非導電性のチューブの先端部を製造するためのシリカキャピラリー先端加工装置系を示す。
【図4】図4は、外径150μm、内径75μmのシリカキャピラリーを図3に示す装置で加工した細くなり始める部分の10倍像の顕微鏡画像を示す、図面に代わる顕微鏡写真である。
【図5】図5は、外径150μm、内径50μmのシリカキャピラリーを図3に示す装置で加工した先端部分の対物10倍像の顕微鏡画像を示す、図面に代わる顕微鏡写真である。
【図6】図6は、本発明の二相直接導入装置をESI−TOF−MSのエレクトロスブレーイオン化部にセットした本発明の質量分析装置を示す。
【図7】図7は、本発明の二相直接導入装置をセットしたESI−TOF−MSによるポリエチレングリコール(PEG)溶液のマススペクトルである。
【図8】図8は、本発明のESI装置の電圧を3.8kVとした場合の得られたマススペクトルである。
【図9】図9は、本発明のESI装置の電圧を4.0kVとした場合の得られたマススペクトルである。
【図10】図10は、本発明のESI装置の電圧を4.4kVとした場合の得られたマススペクトルである。
【図11】図11は、本発明の二相直接導入装置をセットしたESI−TOF−MSによるCu(II)−5−Br−PADAP錯体のマススペクトルである。
【図12】図12は、本発明の二相直接導入装置をセットしたESI−TOF−MSによるCu(II)濃度が1.0×10−5mol dm−3である場合のCu(II)−5−Br−PADAP錯体のマススペクトルである。
【図13】図13は、本発明の二相直接導入装置をセットしたESI−TOF−MSによるノズル電圧を400VにしたときのCu(II)−5−Br−PADAP錯体のマススペクトルである。
【図14】図14は、[CuL(HL)]及び[CuL]のピークの強度とカウント数とノズル電圧との関係を比較したものを示したものである。
【図15】図15は、[HL]のピークの強度とカウント数とノズル電圧との関係を比較したものを示したものである。
【図16】図16は、有機相の流速が0.005ml/hrのときの、[CuL(HL)]及び[CuL]のピークの強度とカウント数とノズル電圧との関係を比較したものを示したものである。
【図17】図17は、有機相の流速が0.005ml/hrのときの、[HL]のピークの強度とカウント数とノズル電圧との関係を比較したものを示したものである。
【図18】図18は、本発明の二相直接導入装置をセットしたESI−TOF−MSによる流速が0.02ml/hrのときのCu(II)−5−Br−PADAP錯体のマススペクトルである。
【図19】図19は、本発明の二相直接導入装置をセットしたESI−TOF−MSによるマススペクトルにおける[CuL(HL)]のカウント数の時間分解の結果を示したものである。
【図20】図20は、従来のESI−TOF−MSによるマススペクトルにおける[CuL]のカウント数の時間分解の結果を示したものである。
【図21】図21は、Cu(II)−5−Br−PADAP錯体溶液の吸光スペクトルのトルエン相(有機相)の差スペクトルである。
【図22】図22は、Cu(II)−5−Br−PADAP錯体溶液の吸光スペクトルの水相の差スペクトルである。
【図23】図23は、本発明の二相直接導入法における混合部での反応例を模式的に示したものである。図23中のHLは有機相中の配位子を示す。
【符号の説明】
1 ESI装置
2 水相の供給路であるキャピラリー
3 混合部
4 有機相
5 水相
6 有機相の供給路である非導電性のチューブ
21 炭酸ガスレーザー
22 集光レンズ
23 キャピラリー
24 分銅
25 耐熱レンガ
26 安定化直流電源装置
27 ファンクションジェネレーター

Claims (8)

  1. 水相と非水系の有機相とを混合部へ同時に供給し得る供給路と、水相が充分にイオン化され得る水相イオン化部と、当該水相と有機相が混合される混合部を有し、当該混合部において非水系の有機相を微小な液滴として水相に放出することにより、水相と有機相とが液液界面を生成する水で覆われた水相及び有機相からなる微小液滴を形成させ、当該水相が水相イオン化部によりイオン化されていることを特徴とするエレクトロスプレーイオン化装置。
  2. 水相と非水系の有機相とを混合部へ同時に供給し得る供給路が、同軸の二相チューブである請求項1に記載のエレクトロスプレーイオン化装置。
  3. 水相と非水系の有機相とを混合部へ同時に供給し得る供給路が、有機相を供給する供給路を水相を供給する供給路の内部に設けられている同軸の二相である請求項1又は2に記載のエレクトロスプレーイオン化装置。
  4. 混合部が水相の供給路の内部である請求項1〜3のいずれかに記載のエレクトロスプレーイオン化装置。
  5. 有機相を供給する供給路の先端が、水相を供給する供給路の先端よりも短くなっており、両者の先端部の間が混合部となっている請求項4に記載のエレクトロスプレーイオン化装置。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のエレクトロスプレーイオン化装置を用いて、水相と非水系の有機相との液液界面で生成した化学種をイオン化する方法。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載のエレクトロスプレーイオン化装置をイオン源とするマススペクトル装置。
  8. マススペクトルが飛行時間型である請求項7に記載のマススペクトル装置。
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