JP3749304B2 - 光周波数コム発生装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は広帯域に光周波数基準を発生するための技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図16に従来の光周波数コム発生装置の構成を示す。従来の光周波数コム発生装置は光周波数コム発生器1と発振器21とから構成されていた。
所定周波数の正弦波状マイクロ波によって駆動可能な光周波数コム発生器1は、電気光学効果を利用した光位相変調器11の両側に少なくとも1枚ずつのミラー12a,12bを配置して光共振器12を構成したものである。このような光周波数コム発生器1では、入力された光が光共振器12内を往復する時間に同期したマイクロ波を発振器21から光位相変調器11への駆動入力とすることで、光位相変調器11を1回だけ通過する場合に比べ、数10倍以上の深い位相変調をかけることができる。この結果、より高次の側帯波を強く発生させることができ、隣接した側帯波の周波数間隔fm は全て入力されたマイクロ波の周波数fm に等しくなる。従って、周波数軸上で櫛の歯状に等間隔に並んだスペクトラムを光周波数の相対的な基準とすることができる。また、入力された光の周波数νが既知であれば、各側帯波の周波数は入力されたマイクロ波の周波数に側帯波次数を乗じたものを入力された光の周波数に加えたものとなり、絶対的な光周波数基準とすることができる。
【0003】
ところで、光周波数コム発生器が内包している光位相変調器が広帯域にわたり高い位相変調指数を維持できるものである場合、入力するマイクロ波の周波数を、入射光が光共振器内を1往復する時間の逆数(自由スペクトル域)の自然数倍にすると、光周波数コム信号を発生させることができる。通常の光周波数コム発生器では自由スペクトル域が1〜3GHz程度であり、広帯域な位相変調器の動作周波数範囲はDC〜20GHz程度である。従って、自由スペクトル域が2GHzである場合、駆動周波数として、2,4,6,・・・,20GHzを選ぶことが可能である。
【0004】
従来は、このような複数の周波数の中で特定の1つを選び、駆動信号を単一周波数のマイクロ波としてきた。なお、入力される光およびマイクロ波の電力を一定として、駆動周波数を上げると、光周波数コム信号の側帯波周波数間隔が広がるため、ほぼ周波数に比例して一定強度以上の側帯波が発生する周波数範囲は拡大する。
また、発生した側帯波は他の光源(以下、局発光源という。)からの光と合波して受光され、その受光信号(ヘテロダイン信号)の周波数から、側帯波と他の光源からの光の周波数差を検出する目的で利用される。この検出された周波数差に対応する信号は後述する光周波数オフセットロック制御に用いられ、光周波数コム発生装置の主な使途となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
光周波数コム発生装置に望まれる基本的な特性は、入力される光および駆動マイクロ波の電力が一定の条件下(光位相変調器に入力できるマイクロ波の電力には限度がある。)で、一定光量以上の側帯波が発生する周波数範囲が広いことである。この観点からは、広帯域で駆動可能な光位相変調器を内蔵した光周波数コム発生器では、より高い周波数で駆動することが望ましい。
【0006】
ところが、光周波数コム信号は、その中に含まれる側帯波と局発光源からの光とのヘテロダイン信号を利用する目的で利用されるため、駆動周波数を高くすることは、実用上、局発光源の光周波数を任意に設定する際の障害となる場合が多い。これは主に受光器の応答帯域による制限に由来する。通常、2GHz程度まで応答する受光器は安価であり、受光信号の増幅、分周等の処理に要する電気回路も取扱いが容易で、かつ安価である。このことから、実現が容易な受光帯域の2倍である4GHz程度以下の周波数で光周波数コム発生器を駆動することが望まれている。この場合、発生する側帯波は4GHz程度以下の周波数間隔で等間隔に多数存在するため、各々の側帯波から±2GHz程度の帯域で受光できれば、側帯波発生範囲の全域にわたって、局発光源の光周波数を任意に設定することができる。
【0007】
さらに、ヘテロダイン信号に基づいて局発光源の発振周波数を制御する場合、GHzオーダまでの信号を直接扱うことの困難から、プリスケーラによって分周した信号を、基準周波数を与える信号と位相比較して制御信号を得ることが多い。このような制御方法は、ヘテロダイン信号を生成する2つの光の周波数差が、位相比較のために与えた基準周波数に分周比を乗じた周波数(オフセット周波数)に固定されるため、光周波数オフセットロック制御と呼ばれており、光周波数コム発生装置の主な使途となっている。このとき、分周後の信号速度は位相比較器を構成するロジックICの動作速度で制限され(通常数10MHzが上限である)、ヘテロダイン信号の周波数が高いほど、分周比を上げる必要がある。分周比を上げることは、ヘテロダイン信号を生成する2つの光の周波数差に対して、位相比較時の周波数分解能を落とすことになる。このため、結果的に光周波数オフセットロック制御が施された2つの光の周波数差の安定度が劣化することになる。従って、この観点からも光周波数コム信号に含まれる側帯波の周波数間隔は狭いことが望まれる。
【0008】
ここで、側帯波発生範囲に関して典型的な数値を挙げて説明する。波長1.55μm帯の半導体レーザの発振可能な帯域幅は100nm程度に及び、エルビウム添加ファイバアンプの利得帯域でも40nm近くであることを考えると、側帯波発生範囲は10nm以上であることが望まれる。典型的な数値を挙げると、12GHz程度で駆動した場合、波長1.55μmの光入力10mW、マイクロ波入力2W程度で−70dBm以上の側帯波発生範囲が24nm(3THz)となる場合でも、駆動周波数を4GHz程度とすると、側帯波発生範囲は約1/3の8nm(1THz)程度となってしまう。
【0009】
以上述べたように、従来の光周波数コム発生装置では、光位相変調器に入力できるマイクロ波の電力に限度があることから、側帯波の周波数間隔を広げない限り、側帯波発生範囲を広げることはできず、受光帯域との関係で側帯波の周波数間隔を広げられないから、実用的な側帯波発生範囲は得られなかった。
この発明の目的は、実用上十分な狭い側帯波の周波数間隔を維持しながら、従来のものより実用にかなう広い側帯波発生範囲を得ることができる光周波数コム発生装置を実現することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明では、広帯域で駆動可能な光位相変調器を内蔵した光周波数コム発生器に入力するマイクロ波駆動信号として、側帯波の周波数間隔と等しい周波数成分(基本周波数を有する成分)が得られるような、基本波その高調波、または高調波同士を積極的に重畳したマイクロ波を利用する。
【0011】
すなわち、請求項1記載の光周波数コム発生装置は、光位相変調器を内蔵した光共振器からなる光周波数コム発生器と、該光周波数コム発生器を駆動する駆動装置とを有し、前記駆動装置が、前記光共振器の共振器長で定められる側帯波の周波数間隔と等しい周波数の自然数倍の周波数成分を二つ以上出力するための高調波発生手段と、該高調波発生手段から出力された周波数成分を二つ以上含む出力信号から前記光共振器の共振器長で定められる側帯波の周波数間隔と等しい周波数を基本周波数とする駆動信号を得る駆動信号発生手段とを備えている。
さらに、請求項2記載の光周波数コム発生装置は、光位相変調器を内蔵した光共振器からなる光周波数コム発生器と、該光周波数コム発生器を駆動する駆動装置とを有し、前記駆動装置が、前記光共振器の共振器長で定められる側帯波の周波数間隔と等しい周波数の信号を発生する発振器と、該発振器の出力信号から、前記光共振器の共振器長で定められる側帯波の周波数間隔と等しい周波数である基本周波数成分と該基本周波数の奇数次高調波成分とからなる駆動信号を得るリミッティングアンプとを備えている。
【0012】
【作用】
光周波数コム発生器は、共振器長が光の往復と同期してわずかに伸縮する光共振器と見なすことができる。従って、光が1往復する時間の整数倍の時間差をもって光共振器に入射した光は、通常の光共振器と同様の振る舞いをする。つまり、よく知られている通り、一定光量の単色光が常時入射されている場合、ある時刻に入射した光が1往復する際の位相推移が2πの整数倍であれば、共振を生じて、理想的には入射光量と等量の透過光が得られる。また、別の時刻に入射した光が1往復する際の位相推移が2πの整数倍からπ/(フィネス)以上離れたものであれば、透過光量は共振時の1/2以下となる。ここに、フィネスは共振時に共振器内を往復する光の平均往復回数であり、フィネスが高いほど光の往復位相推移に対する透過光量の変化は急峻となる。このように、光周波数コム発生器の動作は時間領域で観ると、一定光量の単色光から短光パルスを作り出すシャッターと見ることもできる。マイクロ波を入力しない状態で共振条件を満足している光周波数コム発生器に単一周波数のマイクロ波を入力する場合、シャッターの開閉周波数は駆動周波数の2倍であり、シャッターの開閉時間はフィネスと位相変調指数と駆動周波数の積に逆比例する。フィネスは光学的に決まる量であり、一定と考えられる。位相変調指数は電力の1/2乗に比例する。また、駆動周波数によっても変化するが、通常の広帯域で駆動可能な光位相変調器では15GHz程度まではほぼ一定と考えてもよい。したがって、駆動電力を一定とする場合、シャッターの開閉時間は駆動周波数に逆比例するものと考えられる。一般に時間的に短いパルスは周波数領域では幅の広いスペクトラムを有しており、周期的なパルス列は周波数領域ではパルス間隔の逆数の整数倍のみにスペクトラムをもつ(フーリエ級数に展開される)ことが知られている。つまり、シャッターの開閉時間が短いほど広範囲に強いスペクトラムを有し、駆動周波数と同じ間隔で側帯波が並ぶことになる。
【0013】
ところで、光共振器の共振条件から光の往復位相が2π/(フィネス)以上ずれると透過光量は微少となり、共振条件から往復位相がπずれるまでの間、透過光量はほとんど減少しない。従って、光共振器をシャッターとして使用する場合、シャッターの開閉時間を短縮するには共振条件の近傍±2π/(フィネス)程度で往復位相、つまりマイクロ波電界が急変するようにすればよく、共振条件から離れた時点では任意に変化しても透過光にはほとんど影響しない。このことから、光周波数コム発生器に入力するマイクロ波駆動信号は正弦波である必要はなく、矩形波に近い形状やパルス状のものであってもよいことがわかる。むしろ、正弦波とその正弦波の振幅をリミッター等で制限した波形を考えると、側帯波発生範囲は同一で、駆動電力は振幅制限した方が少ないことがわかる。
【0014】
より具体的に、所望の側帯波間隔と等しい周波数の基本波に対して、3次高調波を重畳した場合について、定量的な説明を加える。印加されるマイクロ波電界をE(t)、基本波の振幅をE1、角周波数をω、3次高調波の振幅をE3とし、時刻t=0において基本波と3次高調波の初期位相は(sin表示で)ともに0とする。また、総電力を1とする。
E(t)=E1sinωt+E3sin3ωt ………(1)
(E1の2乗)+(E3の2乗)=1 ………(2)
これまでの説明で、共振条件の近傍でマイクロ波電界の時間変化率を大きくとれば、より側帯波発生範囲を広げられることを示した。そこで、t=0で共振条件が満足されているものとして、この時刻でのE(t)の時間変化率を考えると、
E’(0)=ω・(E1+3・E3)(’は時間微分を示す)……(3)
となる。(2)、(3)式から、E1を消去し、q=E’(0)/ωとおくと、
q=√(1−(E3の2乗))+3・E3 ………(4)
を得る。0≦E3≦1に注意すると、1≦q≦3であることがわかる。このことは、3次高調波のみで駆動した場合、基本波のみで駆動した場合の3倍の側帯波発生範囲が得られることを示している。また、基本波と3次高調波を重畳した場合、基本波のみの場合と3次高調波のみの場合の中間的な側帯波発生範囲が得られることを示唆している。(4)式の右辺を基本波と3次高調波の電力P1、P3として書き改めると、
q=√(1−P3)+√(3・P3) ………(5)
である。P3=0.1、0.3として、それぞれqを概算すると、1.9、2.5となる。このことは基本波の1/10程度の電力の3次高調波を重畳するだけで、側帯波発生範囲は約2倍となり、大きな効果が得られることを示している。
【0015】
なお、時間領域で考えて、基本周波数が一定でパルス幅が狭まることは、光周波数コム信号の光量が低下することを意味するが、光入力がmWオーダで−70dBm程度までの側帯波を利用する通常の使用方法では、スペクトラムが広がる効果が支配的であり、光量低下の影響は少ない。
【0016】
また、基本波と高調波との位相差によって駆動信号波形は変化し、光周波数コム信号のスペクトラムが非対称となる場合も生じる。最も顕著な例は、基本波の1/4の電力の2次高調波を(sin表示で)初期位相0またはπで重畳した場合である(図5,図6)この場合、光周波数コム信号の下側帯波または上側帯波がほとんど発生しない。しかしながら、通常、光周波数コム信号の両側帯波を同時に利用することはなく、偶数次高調波が存在する場合や基本波と高調波の初期位相が0でない場合でも実用可能である。さらに光周波数コム発生器は駆動信号に対して非線形であるから、直流(バイアス)電界の影響も考慮する必要がある(図7)。しかし、バイアス電界を印加することは光共振器の往復位相を変化することと等価であるから、光周波数コム発生器の温度を変化して、共振器長を変化させても同等の効果が得られる。入射光の周波数が可変の場合には、これを変化してもよい。
【0017】
また、基本波を含まずに2次高調波と3次高調波のみが重畳された場合、(2次の)非線形性により、出力にはその差周波である基本波成分が現れる(図10(a),(b) )。以上のように、高調波の混合については振幅及び初期位相に大きな自由度があるが、原則的に基本周波数に相当する側帯波が十分な強度で発生することが必要である。このため、例えば、基本波と3次高調波を1:9で混合すること等は望ましくない。
【0018】
駆動信号の簡単な例を図8〜図11に示す。図8は基本波に2次高調波を重畳した例であり、図9は基本波に3次高調波を重畳した例、図10は2次高調波に3次高調波を重畳した例、図11は基本波に2次高調波と3次高調波を重畳した例である。これらの図で実線は信号波形を、破線は信号波形の1次微分を示している。また、鎖線はバイアスを示しており、実線との交点付近で光パルスが発生する。従って、この時点の1次微分の値が、出力されるスペクトラムの広がりを示している。1次微分の正負はそれぞれ上下側帯波に対応している。また、図12には全電力を2として、基本波と1つの高調波を重畳した場合の最大微係数を示した。当然、高次高調波ほど微係数つまりスペクトラムの広がりが大きくなる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の光周波数コム発生装置は、図1および図2に示すように、光周波数コム発生器1とその駆動装置(駆動信号源)2とから構成される。光周波数コム発生器1は光位相変調器11を内蔵した光共振器であり、マイクロ波駆動信号を入力として入射した光に変調をかけ、高次までの側帯波を発生する。また、光周波数コム発生器1は特定の周波数をもつマイクロ波で駆動できるとともに、この周波数の少なくとも1つの2以上の整数倍でも駆動可能なものである。例えば、4GHzでも12GHzでも駆動可能なもの等である。広帯域で駆動可能な光位相変調器を内蔵した光周波数コム発生器では、この条件は満足されている。これ以外に広帯域で駆動可能な光位相変調器の電極をマイクロ波共振を生じるように加工したものや、マイクロ波導波管を利用したものでも、この条件を満足するものは使用できる。
【0020】
駆動信号源2は光周波数コム発生器1を駆動するための周期的なマイクロ波駆動信号を発生するためのものであり、光周波数コム発生器1を駆動することができる周波数成分を含むものである。例えば、4、8、12、16GHzで駆動可能な光周波数コム発生器に対して、所望の側帯波間隔が4GHzであるとき、通常は4GHz成分を基本波とし、12GHzの周波数成分(3次高調波)等を含むものを利用する。この場合、2GHz成分を基本波とする駆動信号であっても、4、8GHz等の周波数成分を含んでいればよいことになるが、2、6GHz等の光周波数コム発生器の駆動に寄与しない不要な周波数成分を含むため、駆動電力一定の条件下では不利であり、実用的ではない。また、8GHzと12GHzを重畳した信号は、その最大公約数である4GHzを基本周波数とするため利用できる。このように、駆動信号は必ずしも基本波成分を含まなくともよい。そして、重畳する高調波を複数とし、三つ以上の周波数成分を重畳するようにしてもよい。
【0021】
このような駆動信号を発生する方法としては、基本波または高調波を重畳する方法(その構成を図1に示す。)と、基本波を歪ませる方法(その構成を図2に示す。)とがある。図1に示す構成は、第1の実施の形態であり、高調波発生手段3と駆動信号発生手段4とが分離できる構成のものである。図2に示す構成は、第2の実施の形態であり、高調波発生手段3と駆動信号発生手段4とが分離できない、一体となった構成のものである。
【0022】
いずれの方法による場合でも、基本波のみの駆動に対して十分に有為な効果が見られるのは、駆動信号の全電力一定の条件下で、駆動信号の歪率(高調波の総電力が全電力に占める割合)が3%〜100%(100%は高調波に次数の異なる高調波を重畳する場合)であり、かつ、入射光の往復位相推移が2πの整数倍となる時点付近で、この位相推移の時間変化率が基本波のみの駆動に対して1.5〜5倍程度の範囲にあるときである。このような条件下では、側帯波の周波数間隔を4GHzにした場合でも、16nm以上の側帯波発生範囲を容易に実現できる(従来は、前述のように8nm程度)。なお、位相推移の時間変化率を5倍以上に増加させても、出力される光パルスの時間幅が狭くなることによる平均出力光量の低下と、入射光が多数の側帯波に分散されることによる各側帯波の光量低下の影響が現れ、−70dBm以上の強度をもつ側帯波の発生範囲は僅かに増加するに過ぎず、10倍程度以上で減少に転じる。また、側帯波の周波数間隔を4GHzとする場合、5倍以上の位相推移の時間変化率を実現するためには20GHz以上の高調波を扱う必要が生じ、経済的にも有効とはいえない。
【0023】
図13は、規格化可検出レベルをパラメータとして、往復位相変調指数とフィネスの積に対する可検出レベル以上の最高側帯波次数(つまり、有効な側帯波発生範囲)を示している。(ここではフィネスは一定と考えているから、)往復位相変調指数が増加すると出力される光パルスの幅が狭まり、スペクトラムが広がると同時に平均出力光量も低下する。このことにより、非常に深い変調がかかると一定強度以上の側帯波は減少していく。
図14は、往復位相変調指数とフィネスの積を100として規格化したものである。高調波を重畳して実効的に往復位相変調指数とフィネスの積を5倍以上にできたとしても、規格化可検出レベル −55dBでは、可検出最高次数は増加しない。
【0024】
ここで、規格化可検出レベルは最大透過光量に対する受光系の検出限界光量であり、現状では、数mWの入射光量に対して1〜5%程度である0.1mW(−10dBm)前後が最大透過光量であり、受光系の検出限界光量は−60〜−65dBm程度である。従って、典型的な規格化可検出レベルは−55dB(−65−(−10))程度である。また、最大透過光量は入射光量に光周波数コム発生器の最大透過率(共振ピークでの透過率)をかけた光量、受光系の検出限界光量は所定のSN比(通常,25dB前後)が得られる最小光量、往復位相変調指数は非正弦波駆動の場合は共振点通過時の傾斜に対応する実効的な値である。そして、現状の正弦波駆動では、往復位相変調指数がπ〜2π(rad)程度である。フィネスは20〜30程度。従って、往復位相変調指数とフィネスの積は、60〜180程度である。
【0025】
【実施例】
ここでは光周波数コム発生器の駆動可能な周波数を2、4、6、8、10、12、14、16GHzとし、所望の側帯波間隔が4GHzである場合について説明する。これらの駆動周波数は、広帯域で駆動可能な導波路型光位相変調器を内蔵した光周波数コム発生器の典型的な値である。これ以外の場合でも、駆動信号源の実施は光周波数コム発生器の駆動可能な周波数に応じて自由に行うことできる。
【0026】
図3に基づいて本発明の第1の実施例(第1の実施の形態に対応する。)について説明する。本実施例は4GHz成分を基本波とし、3次高調波である12GHzを重畳した駆動信号を光周波数コム発生器1に入力するものである。
光周波数コム発生器1は入射光に対して、駆動信号源2からの駆動信号を受けて、変調動作を行い、多数の側帯波成分を含む光周波数コム信号を発生する。駆動信号源2は、発振器21、位相ロック発振器22、位相シフタ23、混合器24および増幅器25からなる。発振器21は基本波である4GHzの信号を出力する。位相ロック発振器22は、発振器21の出力する信号の一部を参照して、その3倍の周波数をもち、かつ参照した信号と位相が同期した信号を出力する。位相シフタ23は、最終的に得られる駆動信号に含まれる基本波と3倍波の位相差を所望の値とするために、発振器21から混合器24への信号経路の途中に設けられている。通常、この位相差は(1)式のように(sin表示で)0としておけばよい。混合器24は、発振器21と位相ロック発振器22の出力に基づく信号を混合する。増幅器25は混合器24からの出力を増幅して、光周波数コム発生器1の駆動信号を出力する。
【0027】
なお、駆動信号源2の内部構成には自由度が大きく、様々な形態が考えられる。例えば、位相ロック発振器22の代わりに周波数トリプラー(一般には周波数マルチプライヤー)を用いて、逓倍出力を増幅して利用すること等である。増幅器25の配置については、基本波と3倍波を独立に増幅した後に混合するようにしてもよい。図3に示した配置では、増幅器25は少なくとも4GHz、12GHzを増幅できることが要求され、一般には広帯域アンプが使用される。しかし、基本波と3倍波を独立に増幅する場合、それぞれのアンプは狭帯域のものでもよい。
【0028】
ここでは光周波数コム発生器1の応答帯域を16GHzとしているため、3次高調波を重畳する実施例を示したが、20GHz以上の応答帯域をもつ場合には5次高調波(20GHz)を重畳すれば、さらに、側帯波発生範囲を拡大することができる。また、煩雑にはなるが本実施例を拡張し、複数の高調波を重畳することも可能である。
【0029】
次に本発明の第2の実施例(第2の実施の形態に対応する。)として、駆動信号源2の部分を図4に示した。光周波数コム発生器1については、第1の実施例と同様であるため省略した。本実施例の駆動信号源2は、光周波数コム発生器1に入力する駆動信号を、4GHz成分を基本波とし、リミッティングアンプ26を介して発生するものである。
発振器21は基本波である4GHzの信号を発生する。リミッティングアンプ26は、この基本波信号を増幅しながら振幅制限するものである。さらに必要に応じて、リミッティングアンプ26の出力を増幅器25で増幅して、駆動信号を発生する。リミッティングアンプ26としては、ログアンプが代表的であるが、通常のアンプを飽和させて使用することや、増幅作用はないが、リミッターを利用すること等も可能である。このようにして発生した駆動信号は台形に近い波形となり、理想的な振幅制限が行われた場合には、奇数次高調波のみを含むものとなる。
同様に考えて、リミッティングアンプ26の代わりに、周波数トリプラーや電気信号のコム発生器のような周波数マルチプライヤーを利用して、その出力を直接増幅して駆動信号を得ることもできる。このような非線形性をもつ素子を利用した際に、基本波と高調波との位相差が問題となる場合には、主要な高調波に対して、位相シフタのような周波数分散をもつ素子や伝送路を付加して位相補償を行うことも可能である。
【0030】
図15に第1の実施例とほぼ同じ構成の光周波数コム発生装置を用いた実験結果を示す。図において、(a) は基本波(3.81GHz,200mW)のみ、(b) は3次高調波(25mW)のみ、(c) は基本波(3.81GHz,200mW)に3次高調波(25mW)を重畳させた重畳波、で駆動した場合の出力光スペクトラム(包絡線)を示す。この例においては、(c) の駆動電力は1.1倍強に過ぎないが、包絡線の傾斜は1.5倍程度緩やかとなっっている。
【0031】
【発明の効果】
本発明の光周波数コム発生装置は、マイクロ波駆動信号として、側帯波の周波数間隔と等しい周波数成分が得られるような、基本波その高調波、または高調波同士を積極的に重畳したマイクロ波を利用することとしたから、
実用上十分な狭い側帯波の周波数間隔を維持しながら、従来のものより実用にかなう広い側帯波発生範囲を得ることができる光周波数コム発生装置を実現することができた。
【0032】
このことは本発明の光周波数コム発生装置を利用したシステムにおいて、ヘテロダイン信号の取扱いを容易にし、かつシステムを安価に実現できるということにつながる。また、光周波数コム発生装置が主として利用される光周波数オフセットロック制御系においては、ヘテロダイン信号を生成する2つの光の周波数差の安定度が高まることにもなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施例の構成を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施例の構成を示す図である。
【図5】駆動信号(マイクロ波)をsinωt+(1/2)sin2ωtとしたときの例であり、(a)は光共振器の透過率−往復位相特性を示す図、(b)は重畳した波形を示す図、(c)は時間軸に沿った透過光量の変化を示す図、(d)は出力光のスペクトラム(包絡線)を示す図である。
【図6】駆動信号(マイクロ波)をsinωt−(1/2)sin2ωtとしたときの例であり、(a)は光共振器の透過率−往復位相特性を示す図、(b)は重畳した波形を示す図、(c)は時間軸に沿った透過光量の変化を示す図、(d)は出力光のスペクトラム(包絡線)を示す図である。
【図7】駆動信号(マイクロ波)をsinωt−(1/2)cos2ωtとしたときの例であり、(a)は光共振器の透過率−往復位相特性を示す図、(b)は重畳した波形を示す図、(c)は時間軸に沿った透過光量の変化を示す図、(d)は出力光のスペクトラム(包絡線)を示す図である。
【図8】基本波に2次高調波を重畳した駆動信号の例であり、(a)はy=sinx+sin2xの波形(実線)とその1次微分(点線)を示す図、(b)はy=sinx−cos2xの波形(実線)とその1次微分(点線)を示す図である。
【図9】基本波に3次高調波を重畳した駆動信号の例であり、(a)はy=sinx+sin3xの波形(実線)とその1次微分(点線)を示す図、(b)はy=sinx−cos3xの波形(実線)とその1次微分(点線)を示す図である。
【図10】2次高調波に3次高調波を重畳した駆動信号の例であり、(a)はy=sin2x+sin3xの波形(実線)とその1次微分(点線)を示す図、(b)はy=cos2x+cos3xの波形(実線)とその1次微分(点線)を示す図である。
【図11】基本波に2次高調波および3次高調波を重畳した駆動信号の例であり、y=cosx+cos2x+cos3xの波形(実線)とその1次微分(点線)を示す図である。
【図12】基本波にn次高調波を重畳したときの、規格化高調波電力と最大微係数との関係を示す図である。
【図13】規格化可検出レベルをパラメータとした(往復位相変調指数)×(フィネス)とコム信号の可検出最高次数(片側)との関係を示す図である。
【図14】規格化可検出レベルをパラメータとした(往復位相変調指数)×(フィネス)〔相対値〕とコム信号の可検出最高次数(片側)〔相対値〕との関係を示す図である。
【図15】本発明の光周波数コム発生装置の実験結果を示す図である。
【図16】従来の光周波数コム発生装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
1 光周波数コム発生器
2 駆動装置(駆動信号源)
3 高調波発生手段
4 駆動信号発生手段
11 光位相変調器
12 光共振器
12a ミラー
12b ミラー
21 発振器
22 位相ロック発振器
23 位相シフタ
24 混合器
25 増幅器
26 リミッティングアンプ
Claims (2)
- 入射光を受けて光周波数コム信号を発生する光周波数コム発生装置であって、光位相変調器を内蔵した光共振器からなる光周波数コム発生器(1)と、該光周波数コム発生器を駆動する駆動装置(2)とを有し、前記駆動装置が、前記光共振器の共振器長で定められる側帯波の周波数間隔と等しい周波数の自然数倍の周波数成分を二つ以上出力するための高調波発生手段(3)と、該高調波発生手段から出力された周波数成分を二つ以上含む出力信号から前記光共振器の共振器長で定められる側帯波の周波数間隔と等しい周波数を基本周波数とする駆動信号を得る駆動信号発生手段(4)とを含む、基本周波数の間隔でなる光周波数コム信号を出力する光周波数コム発生装置。
- 入射光を受けて光周波数コム信号を発生する光周波数コム発生装置であって、光位相変調器を内蔵した光共振器からなる光周波数コム発生器(1)と、該光周波数コム発生器を駆動する駆動装置(2)とを有し、前記駆動装置が、前記光共振器の共振器長で定められる側帯波の周波数間隔と等しい周波数の信号を発生する発振器(21)と、該発振器の出力信号から、前記光共振器の共振器長で定められる側帯波の周波数間隔と等しい周波数である基本周波数成分と該基本周波数の奇数次高調波成分とからなる駆動信号を得るリミッティングアンプ(26)とを含む、基本周波数の間隔でなる光周波数コム信号を出力する光周波数コム発生装置。
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