JP3745516B2 - 含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法 - Google Patents

含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法 Download PDF

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法に係り、特に、所定のノニオン界面活性剤を用いた含水性コンタクトレンズの洗浄と共に、その煮沸消毒に際して、かかる含水性コンタクトレンズの清浄性を高める技術に関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、コンタクトレンズは、大別して、含水性コンタクトレンズと非含水性コンタクトレンズとに区分されているが、それらの何れのコンタクトレンズにあっても、涙液や眼脂に由来する、蛋白質、脂質、無機質等の汚れが付着するようになるため、これを定期的に洗浄することが必要とされている。中でも、含水性コンタクトレンズでは、細菌等が付着し易いため、熱消毒や化学消毒等の方法によって消毒を行なうこととされている。
【0003】
そして、かかるコンタクトレンズに付着する脂質汚れを除去するために、通常は、毎日、レンズを目から外した後に、界面活性剤を含有する洗浄液を用いて、擦り洗いや浸漬等の洗浄処理が為されているのである。而して、界面活性剤含有洗浄液にて洗浄する場合、非含水性コンタクトレンズでは、特に問題はないが、含水性コンタクトレンズでは、界面活性剤がレンズ内部に吸着され易いところから、そのような洗浄操作と同時に乃至は洗浄後に、煮沸等の熱消毒を行なうと、レンズが白濁したり、膨潤したりする等、レンズに影響を与える問題が生じるようになる。
【0004】
このため、含水性コンタクトレンズを界面活性剤含有洗浄液によって洗浄した際には、従来では、界面活性剤の入っていない保存液等でレンズをよく濯ぎ、界面活性剤を完全に除去してからでないと、熱消毒を行なうことが出来なかったのである。また、そのために、使用者は、洗浄液と保存液とを持ち歩かなければならず、それら2種類の液剤を用いて、含水性コンタクトレンズの洗浄、消毒を、煩雑な操作で行なわなければならなかったのである。そして、間違って、洗浄液で熱消毒した場合には、コンタクトレンズが使えなくなってしまう恐れもあったのである。
【0005】
そこで、かくの如き事情に鑑み、近年、そのような熱消毒においてもコンタクトレンズに悪影響をもたらすことのない界面活性剤の幾つかが提案され、また、本発明者らにあっても、特開平6−118354号公報や特開平6−194610号公報等において、界面活性剤として、テトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビットを用いたコンタクトレンズ用洗浄保存液を提案し、そのような洗浄保存液に、含水性コンタクトレンズを浸漬し、80℃〜100℃に加熱することによって、かかるコンタクトレンズに付着する汚れを除去せしめると共に、熱消毒を行なうことにより、レンズに対する界面活性剤の影響がなく、安全性の高い、しかも洗浄効果の高い、含水性コンタクトレンズの効果的な洗浄・消毒方法を明らかにした。
【0006】
しかしながら、そのような界面活性剤を含有する洗浄消毒乃至保存液は、あくまでも、脂質汚れを対象とするものであるところから、含水性コンタクトレンズに付着した蛋白質汚れを充分に除去することが難しく、このため、含水性コンタクトレンズを長期に亘って使用するうちに、蛋白質汚れが含水性コンタクトレンズに蓄積されるようになるのであり、しかも、そのような洗浄消毒/保存液を用いた熱消毒操作を採用することによって、蛋白質の熱変性が惹起され、レンズ表面に汚れがより一層付き易く、また、付着せる蛋白質汚れは、より強固に付着することとなり、そのために、使用期間が長くなるにつれて、含水性コンタクトレンズの装用感が悪化することは、避けられないものであった。
【0007】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、上述の如きテトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビットを含む所定のノニオン界面活性剤を用いて、熱消毒法にて、含水性コンタクトレンズを洗浄、消毒するに際して、人体に対して安全であり、なお且つ、含水性コンタクトレンズへの汚れ、特に蛋白質の汚れの付着を低減乃至は防止するに有効な手法を提供することにある。
【0008】
【解決手段】
そして、そのような課題を解決すべく、本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、従来より、コンタクトレンズ用液剤における緩衝剤の1つとして知られているトロメタモール(遊離形態若しくは塩形態)が、所定のノニオン界面活性剤を用いて前述の如き洗浄と熱消毒を行なう方法において、含水性コンタクトレンズに対する汚れ、特に蛋白質汚れの付着を効果的に低減乃至は防止し得ることを見出したのであり、そして、そのような知見に基づいて、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、曇点が加熱処理温度未満であるノニオン界面活性剤を1ppm以上の割合において含有し、且つ生理的に許容され得る浸透圧並びにpHに調整されてなる処理液に、含水性コンタクトレンズを浸漬せしめた後、加熱し、最終的に80℃以上の温度に到達させることからなる加熱処理により、かかる含水性コンタクトレンズの洗浄、消毒を行なうに際して、前記処理液に、遊離形態乃至は塩形態のトロメタモールを0.3w/v%以上の割合において更に含有せしめたことを特徴とする含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法を、その要旨とするものである。
【0010】
要するに、このような本発明に従う含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法にあっては、含水性コンタクトレンズの汚れ、特に眼脂汚れは、安全性の高い所定のノニオン界面活性剤にて、効果的に洗浄、除去せしめられることとなるのであり、また、そのようなノニオン界面活性剤は、含水性コンタクトレンズに対して吸着され難く、白濁させるものでもないものであるところから、そのような界面活性剤を含む処理液中で、レンズの洗浄と同時に、熱消毒をも、有利に実施せしめ得て、それ故に含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒処理が、極めて簡便に行ない得るようになり、処理液の誤用によるコンタクトレンズの白濁や膨潤等の問題も、全く解消され得ることとなったのである。
【0011】
しかも、本発明にあっては、かかる所定のノニオン界面活性剤を含む処理液中に、更に、遊離形態乃至は塩形態のトロメタモールが、所定割合にて含有せしめられているところから、そのような処理液を用いて熱消毒される含水性コンタクトレンズに対する蛋白質汚れの付着を効果的に低減乃至は防止することが出来、以てそのような熱消毒を採用する洗浄、消毒操作を繰り返しても、含水性コンタクトレンズに対する蛋白質汚れの蓄積を、効果的に抑制乃至は阻止することが出来ることとなり、従来の蛋白質汚れの付着、蓄積、更には、それの熱消毒による変性等によって惹起される問題を、効果的に解消せしめ得ることとなったのである。
【0012】
なお、かくの如き本発明に従う含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法の好ましい態様の一つによれば、曇点が加熱処理温度未満である前記ノニオン界面活性剤が、テトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー誘導体、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれ、その中で、前記テトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビットとしては、下記化2:
【化2】
Figure 0003745516
(但し、a+b+c+d+e+f=20〜50、またR1 〜R6 の中の4つは炭素数12〜18の飽和又は不飽和の脂肪酸残基であり、残りの2つは水素原子である)にて示される化合物が、有利に用いられ、これによって、含水性コンタクトレンズの汚れ、特に脂質汚れを、何等の問題をも生じることなく、有利に除去せしめ得るのである。
【0013】
また、本発明に従う上記の処理液には、有利には、蛋白分解酵素、等張化剤、金属キレート剤及び防腐剤乃至は殺菌剤のうちの少なくとも1種が更に含有せしめられ、それによって、洗浄効果や消毒効果を高め、また多種の汚れの付着を阻止し、更には眼刺激が生じないようにされる。
【0014】
【発明の実施の形態】
ところで、かくの如き本発明に従う洗浄・消毒方法にて対象とされる含水性コンタクトレンズは、通常、約30%〜80%程度の含水率のものであり、イオン性材料からなるものと非イオン性材料からなるものとに区分されるが、その何れに対しても、本発明は適用され得るものである。なお、具体的には、含水性コンタクトレンズは、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ジメチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、メタクリル酸等のモノマーの中の1種若しくは2種以上を用いた重合体若しくは共重合体や、ポリビニルアルコール等の親水性重合体を主成分として、構成されてなるものである。
【0015】
また、本発明に従う含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法において用いられる処理液に、界面活性剤として含有せしめられるノニオン界面活性剤は、曇点が加熱処理温度未満、即ち後の熱消毒時の最高加熱温度未満のものである必要がある。けだし、ノニオン界面活性剤の曇点が、加熱消毒温度以上の温度となると、レンズを白濁させる等の問題を生じる恐れが高くなるからである。そして、そのような曇点が加熱処理温度未満のノニオン界面活性剤は、一般に、テトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー誘導体、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれることとなるのである。
【0016】
そのような本発明にて用いられるノニオン界面活性剤の中で、テトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビットは、よく知られているように、ソルビットのOH基にポリオキシエチレン鎖が結合せしめられてなる構造を呈すると共に、4つの脂肪酸単位が付加せしめられて、エステル結合にて連結せしめられてなる形態を有するものであって、下記化3にて示される如き構造を有し、本発明では、そのような構造を有する公知のものの中から適宜に選定されることとなる。
【0017】
【化3】
Figure 0003745516
【0018】
そして、本発明にあっては、かかる化3に示される構造において、R1 〜R6 のうちの4つが、炭素数12〜18の飽和又は不飽和の脂肪酸残基(RCO−:但し、Rは飽和又は不飽和の脂肪族基)であり、そしてR1 〜R6 のうちの残りの2つが、水素原子である種類のものの使用が、安全性が高く且つ洗浄効果が高い特徴を有しているところから望ましく、中でも、特にポリオキシエチレンの平均付加モル数(a+b+c+d+e+f)が20〜50、好ましくは約30〜約40のものが、有利に用いられるのである。何故なら、ポリオキシエチレンの平均付加モル数が20よりも少なくなると、溶解性が著しく低下するようになるからであり、一方、50よりも多くなると、レンズへの吸着が惹起され易く、含水性コンタクトレンズにおいて、白濁や膨潤等の悪影響を与える恐れがあるからである。
【0019】
なお、そのようなテトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビットの具体例としては、テトラオレイン酸ポリオキシエチレン(30)ソルビット、テトラオレイン酸ポリオキシエチレン(40)ソルビット、テトラステアリン酸ポリオキシエチレン(40)ソルビット、テトララウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビット等を挙げることが出来る。また、この種のノニオン界面活性剤は、「レオドール430」、「レオドール440」(花王株式会社製)、「NIKKOL GO−430」、「NIKKOL GO−440」(日光ケミカルズ株式会社製)等として、市販されており、それら市販品が、本発明において適宜に用いられることとなる。
【0020】
また、本発明において用いられるノニオン界面活性剤たるポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーとしては、疎水基ポリプロピレングリコール分子量が3500以下で且つ総分子中のエチレンオキシド量が50重量%以下、好ましくは35重量%以下のものが、有利に用いられ、更にエチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー誘導体(付加物)としては、疎水基ポリプロピレングリコール分子量が5000以下で、且つ総分子中のエチレンオキシド量が50重量%以下のものが、有利に用いられることとなる。なお、この種のノニオン界面活性剤は各種市販されており、本発明では、それら市販品の中から適宜に選択されるものであって、例えばアデカプルロニックL31、同L34、同L44、同L61、同L64、同L101、同P84、同P85、同P103;アデカテトロニック702、同704、同913R(以上、何れも旭電化株式会社製)等を挙げることが出来る。
【0021】
さらに、本発明において用いられるノニオン界面活性剤たるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等が挙げられ、例えば、NIKKOL TS−30、NIKKOL TO−10M、NIKKOL TO−30(日光ケミカルズ株式会社製);レオドールTW−L120、レオドールTW−S320、レオドールTW−O320(花王株式会社製);ノニオンLT−221、ノニオンST−221(日本油脂株式会社製)等の市販品の中から適宜に選択されることとなる。
【0022】
なお、かかるノニオン界面活性剤の含有量は、少なくとも1ppm以上、好ましくは0.01w/v%以上とされる一方、その上限としては、一般に10w/v%以下、好ましくは5w/v%以下とされることとなる。何故なら、界面活性剤の含有量が少ないと、洗浄力が不充分となるからであり、また、多過ぎても洗浄力が高まることはないからである。
【0023】
また、本発明に従って、含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒処理液中に、上記の所定のノニオン界面活性剤と共に含有せしめられるトロメタモールは、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、トロメタミン或いはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとも称され、安全性が高く、生化学分野において汎用されてきた緩衝剤の一つであって、コンタクトレンズ用液剤における緩衝剤として、しばしば用いられてきたものであるが、本発明にあっては、そのようなトロメタモールを、緩衝剤として用いるものではなく、その一定量以上の含有によって含水性コンタクトレンズの熱消毒に際しての蛋白質汚れの付着防止を図るために、添加せしめているものであって、これにより、熱消毒を繰り返す際の蛋白質汚れの蓄積を、著しく低減乃至は防止し得たのである。
【0024】
本発明においては、かくの如きトロメタモールを、少なくとも0.3w/v%以上の割合において、好ましくは0.4w/v%以上の割合において、処理液中に含有せしめるものであり、そのような特定量以上の含有量とすることによって、本発明の所期の目的が有利に達成され得るのである。なお、かかるトロメタモールの含有量の上限としては、一般に、4w/v%程度、好ましくは2w/v%程度とされることとなる。
【0025】
なお、本発明において用いられる処理液は、上述の如き、所定のノニオン界面活性剤及びトロメタモールを、所定割合において含有すると共に、生理的に許容し得る浸透圧並びにpHに調整されることとなるが、具体的には、浸透圧は、600mOsm/kg・水の範囲内に調整され、それによって、眼刺激を生じたりしないようにされる。このような浸透圧の調整に用いられる等張化剤としては、人体に対して安全なものであれば、何れをも使用し得るものであるが、一般には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、グリセリン等の中から1種以上が、選択されて用いられる。そして、これら等張化剤の添加濃度は、他の添加成分の添加量を加味した上で、目的とする浸透圧となるように決定されるのである。
【0026】
また、処理液のpHは、生理的に許容される範囲として、具体的には、pH6〜8程度の範囲内に調整されることとなる。そのために、かかる処理液には、必要に応じて、pH調整剤が、従来から公知の各種のものの中から適宜に選択されて、添加され、例えば硼酸系、クエン酸系、リン酸系等の各種の緩衝剤が添加されることなる。
【0027】
特に、本発明において、処理液中に含有せしめられるトロメタモールは、遊離形態若しくはその塩酸塩等の塩形態において供給されるものであるが、その遊離形態のものの水溶液は、アルカリ性を示し、逆に塩酸塩等の塩形態のものの水溶液は酸性を示すところから、かかるトロメタモールの添加と共に、酸或いはアルカリの1つ以上が適宜に選択されて、添加され、目的とする処理液のpHが調整されなければならない。なお、そのような酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、コハク酸、有機酸、硼酸、アミノ酸等を挙げることが出来、好ましくは塩酸が用いられることとなる。また、アルカリとしては、水酸化カリウム、硼砂等を挙げることが出来、好ましくは水酸化ナトリウムが用いられることとなる。
【0028】
また、本発明にあっては、トロメタモールの効果により、通常は蛋白分解酵素を用いる必要がないが、場合によっては、含水性コンタクトレンズに付着した蛋白質汚れの除去効果を更に向上させるために、蛋白質の汚れを分解する働きを有する酵素等を、処理液中に更に添加しても良く、そのような蛋白分解酵素が、本発明に従うところの必須の構成成分に加えて、添加されることにより、蛋白質汚れを一段と良く除去することが出来る。その蛋白分解酵素としては、従来よりコンタクトレンズの洗浄用に使用されているものなら、何れをも使用出来るものであるが、好ましくはセリン酵素であるズブチリシンや、チオール酵素であるパパイン等が添加せしめられ、また、その濃度は、所望の洗浄効果に応じて適宜に決定されることとなる。
【0029】
さらに、本発明に係る含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法において用いられる処理液を、多目的液剤として用いるには、その他、従来よりコンタクトレンズ用液剤に対して使用されてきた添加成分を、適宜に選択して添加せしめることが、より好ましいのである。そのようなその他の添加成分としては、例えば、前記した等張化剤や緩衝剤等に加えて、金属キレート化剤、防腐剤乃至は殺菌剤、更にはその他の界面活性剤等を挙げることが出来るが、それらは、生体に対して安全であり、且つ含水性コンタクトレンズの素材に対して悪影響を与えないものであれば、従来より公知の如何なるものをも用いることが出来、本発明における所定のノニオン界面活性剤や、トロメタモールに係る優れた効果を阻害しない量的範囲において、それらを必要に応じて組み合わせ、添加することが可能である。
【0030】
より具体的には、例えば、涙液からの汚れで、蛋白質及び脂質以外に、カルシウムがレンズに沈着する可能性があるが、そのようなカルシウム等の無機質汚れを洗浄するために、上記した金属キレート化剤を添加することが好ましいのである。なお、この金属キレート化剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ニトリロ三酢酸、及びそれらのナトリウム塩等を挙げることが出来るが、それらの中でも、特にEDTA及びそのナトリウム塩を用いることが好ましい。そして、その濃度は、0.001〜1w/v%、好ましくは0.01〜0.2w/v%、更に好ましくは0.01〜0.1w/v%とされる。このような金属キレート化剤の添加量が少なくなると、涙液由来のカルシウムが沈着する可能性が生じ、また多くなり過ぎると、それ以上の効果が得られることはなく、逆に生体に障害を与える恐れがあるからである。
【0031】
また、本発明に従って洗浄・消毒された含水性コンタクトレンズの品質を向上せしめて、保管中及び使用中における菌の増殖を抑制し、更には殺菌する等の目的をもって、処理液には、防腐剤乃至は殺菌剤を、所望の効果から適宜に決定されることとなる濃度において、更に添加、含有せしめることが出来る。そのような防腐剤乃至は殺菌剤としては、ソルビン酸や安息香酸、若しくはそれらの塩類、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)等のビグアニド類、クロルヘキシジン、4級アンモニウム塩(例えば塩化ベンザルコニウム、ポリクアテリウム1等)等の遊離化合物又はそれらの塩等の、公知のものの中より、適宜に選択されることとなる。
【0032】
そして、本発明にあっては、上述の如き添加成分を水性媒体中に添加して調整された処理液を用い、そこに、含水性コンタクトレンズを浸漬して、加熱することにより、目的とする洗浄・消毒操作が施されることとなるのであるが、その際の水性媒体としては、精製水や蒸留水等の、水そのものの他にも、水を主体とする溶液であれば、コンタクトレンズ用として用いられている公知の洗浄液、保存液、消毒液等の液剤を利用することも可能である。
【0033】
また、そのような処理液に、含水性コンタクトレンズを浸漬せしめて、加熱することにより、その洗浄・消毒を行なうに際しては、かかる処理液の温度を、最終的に80℃以上の温度に到達せしめることによって、目的とする洗浄操作と同時に熱消毒による消毒操作が実現され得ることとなるが、その際の処理時間としては、少なくとも80℃以上の温度で5分以上、好ましくは80〜110℃で5〜60分間の処理を行なうことにより、目的とする洗浄・消毒操作が行なわれ得るのである。
【0034】
なお、そのような洗浄・消毒操作は、具体的には、装用した含水性コンタクトレンズを、予め軽く本発明に従う処理液中等で擦り濯ぎした後、通常の市販のレンズケースを用い、該ケースに満たされた本発明に従う処理液中に、かかる装用レンズを浸漬し、次いでこのレンズケースを市販の適当なコンタクトレンズ用煮沸消毒器にセットした後、かかる煮沸消毒器において煮沸処理を行ない、更にその後、レンズを取り出し、本発明に従う処理液中等で濯いで、装用に供するようにするのである。なお、ここで用いられる煮沸消毒器としては、ライザーミニ(株式会社メニコン)、サーモライザー(株式会社メニコン)、マイクロバイオライザー(セイコーエプソン株式会社)、ヒートユニットII、III (オフテックス株式会社)、アセプトロンミニ(米国:ボッシュ・アンド・ロム社)等の市販品を適宜に用いることが出来る。
【0035】
かくして、かくの如き本発明に従う含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒操作にて、含水性コンタクトレンズの脂質汚れ等の洗浄処理と同時に、熱消毒による消毒処理が、一工程で行なわれることとなり、しかもトロメタモールの所定量の存在にて、蛋白質汚れの付着の低減乃至は防止が図られ得て、レンズ内への蛋白質汚れの蓄積を、効果的に阻止し得ることから、簡便な処理にて、含水性コンタクトレンズを、清浄な状態に効果的に維持することが出来たのである。
【0036】
特に、従来においては、煮沸消毒により変性した蛋白質汚れを除去するために、毎日の酵素液の併用による処理又は定期的な酵素液による処理、或いは酸化還元反応による処理を行なっているのであるが、本発明に従って含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒を行なうことによって、それら従来からの特別な処理を不必要としたり、或いはその処理までの期間の延長を図ることが可能となったのである。
【0037】
【実施例】
以下に、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の幾つかの実施例を示すこととするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0038】
実施例 1
ノニオン界面活性剤として、曇点が100℃未満のテトラオレイン酸ポリオキシエチレン(30)ソルビットを用い、これと、遊離形態のトロメタモールまたは他の緩衝剤、及び塩化ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸・2水和物(EDTA・2H2 O)を、下記表1に示される割合(単位:g)において量り取り、精製水に溶解せしめ、100mlに定容して、各種の洗浄・消毒処理液を調製した。なお、各処理液は、塩酸または水酸化ナトリウムにて、pHが約7.0となるように、調整されている。
【0039】
そして、このようにして得られた各種の処理液について、それぞれの脂質汚れ除去試験と蛋白質汚れ付着防止効果試験を、下記の如くして実施し、その結果を下記表1に併せ示した。
【0040】
−脂質汚れ除去試験−
先ず、人工汚れレンズを作製するために、ソルビタンモノオレイン酸エステル6g、ひまし油16g、ラノリン35g、オレイン酸5g、ソルビタントリオレイン酸エステル4g、エチルアルコール2g、コレステロール2g、及びコレステロールアセテート30gを混合し、加温して均一にした後、その1gを、エタノール:ヘキサン(1:1)の混合溶媒に溶解し、更に、同溶媒で100mlに定容して、人工涙液を調製した。そして、この人工涙液の3μlを、乾燥させた含水性コンタクトレンズ(株式会社メニコン製、メニコンソフトMA)の外面に広げて、乾燥させた後、該レンズを生理食塩水に浸漬し、人工汚れレンズを作製した。このレンズを暗視野式実体顕微鏡で観察すると、レンズ一面に脂質状の汚れが付着しているのが観察された。
【0041】
次いで、上記で調製された処理液のそれぞれを満たしたレンズケースに、上記の人工汚れレンズを浸漬し、続いて煮沸消毒器(株式会社メニコン製、サーモライザー)を用いて、各処理液中でコンタクトレンズを加熱せしめ、約100℃の温度において煮沸消毒せしめた。しかる後、コンタクトレンズを取り出し、暗視野式実体顕微鏡で観察することにより、それぞれのコンタクトレンズ表面の脂質汚れの部分について評価したところ、何れのレンズにおいても、脂質汚れが除去されており、レンズが綺麗になっていることを認めた。
【0042】
−蛋白質汚れ付着防止効果試験−
125 Iで放射標識したリゾチームを用い、リゾチーム:100μgあたり約10000cpmとなるように添加して調製した、1%リゾチーム溶液を、0.2mlの量において、レンズケースにそれぞれ添加し、更に、上記の各種処理液の1.8mlを、それぞれのレンズケースに添加した。そして、そのレンズケースに含水性コンタクトレンズ(株式会社メニコン製、メニコンソフトMA)の1枚を収容せしめた後、コンタクトレンズ用煮沸消毒器(株式会社メニコン製、サーモライザー)にて加熱して、約100℃の温度で煮沸消毒せしめた。
【0043】
そして、かかる煮沸消毒の後、コンタクトレンズをレンズケースから取り出して、生理食塩水で充分濯いだ後、レンズをガンマーカウンター用のバイアルに挿入し、オートウェルガンマーカウンターで、試験レンズの放射活性(Acpm)を測定した。別に、対照として、塩化リゾチーム100μgの放射活性(Bcpm)と空のバイアルからのバックグラウンド(BKcpm)を測定し、下記の式からコンタクトレンズに付着したリゾチーム量、換言すれば付着蛋白量を算出して、その結果を、下記表1に併せ示した。
コンタクトレンズに付着したリゾチーム量(μg)=(Acpm−BKcpm)×100÷(Bcpm−BKcpm)
【0044】
【表1】
Figure 0003745516
Figure 0003745516
【0045】
かかる表1の結果から明らかなように、本発明に従って、テトラオレイン酸ポリオキシエチレン(30)ソルビットと共に、トロメタモールを含有せしめてなる処理液を用いた場合においては、脂質汚れの効果的な除去に加えて、蛋白質の付着が著しく抑制されることとなるのである。従って、一般に、煮沸消毒を繰り返すことにより、涙液中の蛋白質が変性し、それがコンタクトレンズの汚れの原因となると言われているが、本発明に従って、更に、トロメタモールを含有せしめることによって、単なる界面活性剤を含むのみの処理液に比べて、蛋白質汚れの付着量を約1/10にまで低減せしめることが可能となったのである。
【0046】
実施例 2
ノニオン界面活性剤としてのテトラオレイン酸ポリオキシエチレン(30)ソルビット、遊離形態のトロメタモール、塩化ナトリウム、及びEDTA・2H2 Oを、下記の表2に示される割合(単位:g)において量り取り、それらを精製水に溶解して、100mlに定容することにより、トロメタモール濃度の異なる、各種の洗浄・消毒処理液を調製した。なお、それぞれの処理液は、塩酸の適量の添加により、pH値が約7.0となるように、調整されている。
【0047】
次いで、このようにして得られた各種の処理液について、それぞれの脂質汚れ除去試験を実施例1と同様にして行なうと共に、蛋白質汚れ付着防止効果試験については、下記の試験方法に従って実施し、その得られた結果を、下記表2に併せ示した。
【0048】
なお、ここで採用した蛋白質汚れの付着防止効果試験は、以下の通りである。即ち、レンズケース中で、各処理液の1.8mlと蛋白質汚れ成分としての1%リゾチーム溶液の0.2mlとを混合し、そこに含水性コンタクトレンズ(株式会社メニコン製、メニコンソフトMA)の1枚を浸漬した後、コンタクトレンズ用煮沸消毒器(株式会社メニコン製、サーモライザー)にて加熱して、約100℃の温度で煮沸消毒せしめた(n=2)。そして、かかる処理を3回繰り返した後、蛍光光度計により、各コンタクトレンズに対する蛋白質の付着量を測定することにより、行なった。
【0049】
【表2】
Figure 0003745516
【0050】
かかる表2の結果から明らかなように、含水性コンタクトレンズの脂質汚れの除去効果と共に、蛋白質汚れの付着防止効果を充分に発揮せしめるには、トロメタモールの濃度が重要であり、本発明に従って0.3w/v%以上の濃度を採用することによって、蛋白質汚れの付着の低減効果が認められるが、その濃度が低くなると、著しく、その効果が減少することが認められる。また、かかる処理液No.11の組成において、トロメタモールに代えて、ホウ酸を用い、0.4%濃度において同様な実験を繰り返したところ(但し、pH調整は水酸化ナトリウムを用いて行なった)、脂質汚れは認められなかったが、蛋白質汚れ量(強度)が6016となり、蛋白質汚れの付着の低減効果は認められなかった。
【0051】
実施例 3
ノニオン界面活性剤として、下記表3及び表4に示されるものを用いる他は、表1の処理液No.1と同様な添加成分及び使用量において、pH:7.0、浸透圧:290mOs/kg・水の各種の洗浄・消毒処理液を調製した。
【0052】
次いで、このようにして得られた各種の処理液について、それぞれの脂質汚れ除去試験を実施例1と同様にして実施したところ、何れの処理液を用いた場合にあっても、レンズの脂質汚れが除去されており、レンズが綺麗になっていることを認めた。また、蛋白質汚れ付着防止効果試験についても、実施例1と同様にして実施したところ、何れの処理液においても、トロメタモールが含有せしめられていることによって、蛋白質汚れの付着量を著しく低減せしめることが出来た。
【0053】
また、上記の各種の処理液を用いて、含水性コンタクトレンズ(株式会社メニコン製、メニコンソフトMA)に対する煮沸消毒の繰返し(サイクル)試験を実施した。この試験は、各処理液を満たしたレンズケースに含水性コンタクトレンズを収容し、続いて実施例1と同様な煮沸消毒器を用いて、該処理液を加熱した後、放冷し、そのまま6〜8時間保持することを1サイクルとし、これを30サイクル繰り返した後、レンズを取り出して、暗視野式実体顕微鏡にて外観変化を観察することにより、行なった。
【0054】
かかる煮沸消毒の繰返し試験の結果を、下記表3及び表4に併せて示すが、本発明に従って、曇点が加熱処理温度未満(ここでは100℃未満)のノニオン界面活性剤を用いた処理液においては、煮沸消毒を繰り返し実施しても、レンズが白濁する問題は何等惹起されなかった。
【0055】
【表3】
Figure 0003745516
【0056】
【表4】
Figure 0003745516
Figure 0003745516
【0057】
【発明の効果】
以上の説明から明らかな如く、本発明は、含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒処理を、安全性の高い所定のノニオン界面活性剤を含む処理液中への浸漬・加熱にて、行なうことにより、かかる含水性コンタクトレンズからの脂質汚れを効果的に除去せしめると共に、遊離形態乃至は塩形態のトロメタモールを、該処理液中に同時に存在せしめていることにより、含水性コンタクトレンズに対する蛋白質汚れの付着を、効果的に低減乃至は防止することが出来ることとなったのであり、これによって、蛋白質汚れの蓄積、更にはそれの熱消毒による変性等によって惹起される問題を、悉く解消せしめ得たのである。

Claims (4)

  1. 曇点が加熱処理温度未満であるノニオン界面活性剤を1ppm以上の割合において含有し、且つ生理的に許容され得る浸透圧並びにpHに調整されてなる処理液に、含水性コンタクトレンズを浸漬せしめた後、加熱し、最終的に80℃以上の温度に到達させることからなる加熱処理により、かかる含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒を行なうに際して、
    前記処理液に、遊離形態乃至は塩形態のトロメタモールを0.3w/v%以上の割合において更に含有せしめたことを特徴とする含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法。
  2. 前記ノニオン界面活性剤が、テトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー誘導体、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる請求項1記載の含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法。
  3. 前記テトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビットが、下記化1:
    Figure 0003745516
    (但し、a+b+c+d+e+f=20〜50、またR1 〜R6 の中の4つは炭素数12〜18の飽和又は不飽和の脂肪酸残基であり、残りの2つは水素原子である)にて示される化合物である請求項2記載の含水性コンタクトレンズの
    洗浄・消毒方法。
  4. 前記処理液が、蛋白分解酵素、等張化剤、金属キレート化剤及び防腐剤乃至は殺菌剤のうちの少なくとも1種を、更に含有する請求項1乃至請求項3の何れかに記載の含水性コンタクトレンズの洗浄・消毒方法。
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