JP3740993B2 - 管のねじ継手 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は管のねじ継手に関する。特に、本発明は、小径管をトルク管理で締結する場合に生じやすいハイショルダリング問題の発生を抑制し得る管のねじ継手に関する。
【0002】
【従来の技術】
今日、原油や天然ガスの探査や生産のために地中深く埋設される油井管を接続する手段としてねじ継手が広く用いられている。このように管の接続にねじ継手が用いられているのは、現地での接続・解体が迅速かつ容易に行えること、繰り返し使用に耐え得ること、管本体とほぼ同等の引張強度性能を有することなどによる。
【0003】
通常、油井やガス井の深さは3000〜6000m程度であるため、埋設される一続きの油井管についてのねじ継手による接続箇所は数十〜数百箇所に達する。このため、ねじ継手の締結作業は迅速に行われる必要がある。
【0004】
ねじ継手の締結作業を迅速に行うために、油井管のねじ継手は、パワートングと呼ばれる締結機械を用いて、締結時のトルクをモニターしながら締結作業を行い、締結トルクが締結目標トルク値に到達した時点で締結作業を完了させる、いわゆるトルク管理により締結作業が一般に行われている。
【0005】
上記締結目標トルク値は、継手メーカから推奨される値であり、継手種類、サイズ、材質が同一であれば、継手の製造公差によらずに一律に定められることが一般的である。
【0006】
図1は、代表的な油井管用ねじ継手の一例について締結状態を示す部分断面図である。図1において、一点鎖線は管軸を示し、前記管軸より図面上側に図面と平行な管軸を含む平面における断面形状を網掛で示す。
【0007】
本例においては、管10の先端部に、雄ねじ12、メタルタッチシール形成用のねじ無し面13およびトルクショルダ形成部14を備えるピン11と、カップリング20の内面に、前記ピンの各部位に対応する雌ねじ22、メタルタッチシール形成用ねじ無し面23およびトルクショルダ形成部24を備えるボックス21とを螺合することにより管のねじ継手が形成されている。
【0008】
メタルタッチシール形成用のねじ無し面の径は、ピン11の方がボックス21よりも僅かに大きくしてあり、継手締結時にピン11及びボックス21のメタルタッチシール形成用のねじ無し面によって形成されるメタルタッチシール部に嵌め合わせによる接触圧が発生し、気密性能を有するようにしてある。
【0009】
メタルタッチシール部とねじ部との接触嵌合の程度は、継手の螺合締結時にトルクショルダが当接することにより適正な状態になるようにコントロールされる。トルクショルダが当接してもなお過度の締め込みを行うと、トルクショルダに大きな塑性変形や座屈が生じてしまい、メタルタッチシール部の接触状態を適正にコントロールできなくなる。
【0010】
継手の螺合締結時にトルクショルダが当接した瞬間のトルクをショルダリングトルクといい、トルクショルダが塑性変形をきたすトルクをオーバートルクという。油井管用ねじ継手は、ショルダリングトルクとオーバートルクとの間のトルクで締結されることにより、適正に締結された状態となり、所期の継手性能を発揮する。したがって、上記締結目標トルク値は、ショルダリングトルクとオーバートルクとの間に設定されねばならない。
【0011】
しかし、特に小径サイズのねじ継手においては、実質的に管理しうる製造公差範囲内にある継手の全てについてショルダリングトルクとオーバートルクとの間となる共通の締結目標トルク値を設定することが困難であるという問題がある。これを、ハイショルダリング問題という。
【0012】
これは、小径サイズのねじ継手は、大径サイズのねじ継手に比べて、ショルダリングトルクからオーバートルクまでの間隔(以下、「オーバートルクのデルタトルク」という。)に対する、ねじ部およびメタルタッチシール部の嵌合しろの公差(以下、前記嵌合しろを「干渉量」といい、干渉量の公差を「干渉量公差」ともいう。)に起因するショルダリングトルクの変動量の割合が大きいことに起因する。
【0013】
このため、干渉量が大きい場合には、締結目標トルク値で締結を行ってもショルダリングしない、すなわち締め込み不足となる場合がある。また、ハイショルダリング問題が顕著である場合には、干渉量が最小の場合におけるオーバートルクが、干渉量が最大の場合におけるショルダリングトルクよりも小さく、適正な締結目標トルク値が存在しない場合がある。
【0014】
このようなハイショルダリング問題を回避するためには、ショルダリングトルクの変動量を小さくするか、ショルダリングトルクの変動量を吸収しうる程度にオーバートルクのデルタトルクを大きくする必要がある。
【0015】
前者の技術に関するものとしては、ねじの干渉量の製造公差を小さくする方法や、特開平8−229820号公報に開示されているように、ねじ部に表面処理を施すことによりねじ部の摩擦係数を低減させる方法がある。
【0016】
また、後者の技術に関するものとしては、特開平10−89554号公報に開示されているように、熱処理を施すことによりトルクショルダ形成部を高強度化する方法や、特開平10−267175号公報に開示されているように、金属接触面にコーティングする固体潤滑剤皮膜の分布を調整することにより、ねじ山の荷重面の摩擦係数を高くしてオーバートルクのデルタトルクを大きくする方法がある。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ねじの干渉量の製造公差を小さくすることは、直ちに製造コストの上昇を招くので好ましくない。さらに、実際に製造可能な製造公差には自ずと限界があり、ハイショルダリング問題を回避しうる管のサイズにも限界があることから有効な手段とは言い難い。
【0018】
また、ショルダリングトルクの変動の主要因は干渉量の製造公差に起因するものであり、締結作業において発生する摩擦力を大幅に変化させることができなければ、ハイショルダリング問題を効果的に抑制することはできない。したがって、特開平8−229820号公報や特開平10−267175号公報に開示されているような表面処理による工夫のみでは充分な効果が期待できない。
【0019】
また、熱処理によるトルクショルダ形成部の高強度化にも限界があることから、 ハイショルダリング問題を回避する有効な手段とは言い難い。
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑み、製造コストの大幅な上昇を伴うことなしに、ハイショルダリング問題を効果的に抑制しうる管のねじ継手を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、管のねじ継手についてハイショルダリング問題を効果的に抑制しうる実用に適したねじ継手形状について以下の詳細な検討を行った。
【0021】
上述したように、ハイショルダリング問題を回避するためには、ショルダリングトルクの変動量を小さくするか、ショルダリングトルクの変動量を吸収しうる程度にオーバートルクのデルタトルクを大きくする必要がある。
【0022】
ここで、オーバートルクのデルタトルクは、トルクショルダの剛性により概ね決定される。そして、このトルクショルダの剛性は、形状や表面処理などの工夫によりある程度高めることはできるものの、継手の外径に応じてトルクショルダの面積の上限が決定されるため、トルクショルダの剛性の上限も制約される。ハイショルダリング問題が生じやすい小径管のねじ継手においては、特にサイズ制約が厳しいことから、トルクショルダの剛性を向上させる工夫のみでは、オーバートルクのデルタトルクを飛躍的に大きくし、ショルダリングトルクの変動量を吸収することは困難である。
【0023】
そこで、本発明者らは、ハイショルダリング問題を回避するために、ねじの干渉量の製造公差に起因するショルダリングトルクの変動量を小さくする方法について検討した。
【0024】
ショルダリングトルクは、継手の螺合締結時にトルクショルダが当接した瞬間のトルクであるので、その成分は、▲1▼メタルタッチシール部の干渉量分の嵌合によるトルク、▲2▼ねじ山の頂と該ねじ山に対応するねじ溝の谷底との干渉量分の嵌合によるトルク、及び▲3▼ねじの荷重面の接触によるトルクからなり、トルクショルダ部におけるトルクはゼロである。
【0025】
ここで、例えば、油井管のねじ継手におけるねじのテーパは1/20〜1/6程度と緩やかであるので、ショルダリングトルクの大部分は、▲1▼メタルタッチシール部の干渉量分の嵌合によるトルクと▲2▼ねじ山の頂と該ねじ山に対応するねじ溝の谷底との干渉量分の嵌合によるトルクであり、▲3▼ねじの荷重面の接触によるトルクは相対的に小さいと考えられる。
【0026】
上記干渉量分の嵌合によるトルクは、嵌合部で発生している接触力をF、嵌合部の平均半径をr、摩擦係数をμとすると、単純にμrFで表すことができる。また、前記接触力Fは、干渉量にほぼ比例し、かつ嵌合部の接触面積にも概ね比例すると考えられる。
【0027】
したがって、ショルダリングトルクの変動量を小さくするには、干渉量公差を低減させるか、嵌合部の接触面積を低減させるか、もしくは摩擦係数を低減させる必要がある。
【0028】
これらのうち、干渉量公差を低減させるには、製造公差を小さくする必要があり、製造コスト等の観点から好ましくない。また、摩擦係数を低減させることは、表面処理の工夫によりある程度可能であると思われるが、ハイショルダリング問題を回避しうる程度に低減させることは期待できない。
【0029】
そこで、本発明者らは、嵌合部の接触面積を低減させる方法について検討した。
図2は、図1に示す油井管用ねじ継手の締結状態における要部を示す断面図である。図2において図1と同一の要素については同一の符号を付して示す。
【0030】
同図に示すように、本例において、ピン11のねじ部は、ピンを備える管の中央部側に位置する不完全ねじ部(以下、「ランアウト部」ともいう。)と、前記不完全ねじ部よりピンを備える管の端部側に位置する完全ねじ部とを備える。
【0031】
ここで、ピンを備える管の中央部側に位置する不完全ねじ部とは、管の外周面にテーパ雄ねじを刻設した場合に、前記管の外径の制約により完全ねじ部と同様のねじ山形状を確保できなくなる領域のねじ部のことである。
【0032】
図3は、APIバットレスねじ継手の締結状態におけるねじ山の螺合嵌合状態を模式的に示す断面図であり、図3(a)は完全ねじ部における嵌合状態を、図3(b)は不完全ねじ部における嵌合状態を示す。図3において図2と同一の要素については同一の符号を付して示す。
【0033】
図3(a)に示すように、締結状態の完全ねじ部においては、(i) ピン11のねじ山30の荷重面31とボックス21のねじ山40の荷重面41、(ii)ピン11のねじ溝50の谷底51とボックス21のねじ山40の頂42、(iii) ピン11のねじ山30の頂32とボックス21のねじ溝60の谷底61、の3組の面が接触する。
【0034】
そして、図3(b)に示すように、締結状態の不完全ねじ部においては、 (i)ピン11のねじ山30の荷重面31とボックス21のねじ山40の荷重面41、(ii)ピン11のねじ溝50の谷底51とボックス21のねじ山40の頂42、の2組の面が接触する。
【0035】
図3に示すAPIバットレスねじ継手に比較して、嵌合部の接触面積が小さいねじ継手として修正バットレスねじ継手がある。
図4は、修正バットレスねじ継手の締結状態におけるねじ山の嵌合状態を模式的に示す断面図であり、図4(a)は完全ねじ部における嵌合状態を、図4(b)は不完全ねじ部における嵌合状態を示す。図4において図3と同一の要素については同一の符号を付して示す。
【0036】
図4(a)に示すように、修正バットレスねじ継手は、ピン11のねじ山30の高さを、締結状態において対応するボックス21のねじ溝60の深さよりも小さくしてあるため、締結状態において、ピン11の完全ねじ部は、(i) ピン11のねじ山30の荷重面31とボックス21のねじ山40の荷重面41、(ii)ピン11のねじ溝50の谷底51とボックス21のねじ山40の頂42、の2組の面のみが接触し、(iii) ピン11のねじ山30の頂32とボックス21のねじ溝60の谷底61とは接触しない。
【0037】
このため、修正バットレスねじ継手は、ねじ部の干渉量公差が同一であれば、APIバットレスねじ継手よりもショルダリングトルクの変動は小さい。しかし、ハイショルダリング問題を回避するのに充分であるとは言い難い。
【0038】
これは、修正バットレスねじについても、全ねじ長さの概ね1/5〜1/2程度という大きな割合を占めるランアウト部における締結状態は、図4(b)に示すように、図3(b)に示すAPIバットレスねじ継手と同様に、(i) ピン11のねじ山30の荷重面31とボックス21のねじ山40の荷重面41、(ii)ピン11のねじ溝50の谷底51とボックス21のねじ山40の頂42、の2組の面が接触するためである。
【0039】
これら2組の面のうち、(i) ピン11のねじ山30の荷重面31とボックス21のねじ山40の荷重面41とによる面の組は、ねじ継手の引張強度を確保するために接触させる必要がある。
【0040】
そこで、本発明者らは、締結状態でのランアウト部において、実質的に(i) ピン11のねじ山30の荷重面31とボックス21のねじ山40の荷重面41の1組の面のみが接触するように構成することにより、嵌合部の接触面積を大幅に低減させ、ショルダリングトルクの変動を効果的に抑制することを着想した。
【0041】
上記構成は、ランアウト部と完全ねじ部とでねじ形状を変更すること、例えば、ピンのランアウト部に対応するボックスのねじ部のねじ山の高さを、ピンの完全ねじ部に対応するボックスのねじ部のねじ山の高さよりも小さくすること、或いは、ピンのランアウト部のねじ溝の深さをピンの完全ねじ部のねじ溝の深さよりも大きくすること等により実現することができる。
【0042】
しかしながら、このようにランアウト部と完全ねじ部とでねじ形状を変更することは、製造工程の増加に繋がり、コストアップを招くので好ましくない。
そこで、本発明者らは、大幅なコストアップ等の不利益を招くことなく、上記構成をほぼ通常の製造工程で実現可能とする製造方法を確立すべく、さらに検討を進めた。
【0043】
その結果、ピンの完全ねじ部のねじ山の高さを、前記完全ねじ部に対応するボックスのねじ部のねじ溝の深さよりも大きくすることを着想した。このような構成とすることにより、ランアウト部においては、(i) ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面のみが実質的に接触する。さらに、完全ねじ部においては、(i) ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面、(iii) ピンのねじ山の頂とボックスのねじ溝の谷底、の2組の面のみが実質的に接触することとなるので、干渉量公差に起因するショルダリングトルクの変動を一層抑制することができる。また、本構成は、ねじ切り工具の形状を僅かに変更することのみで、従来法と同一の製造工程で製造することができる。
【0044】
本発明は、上記検討結果を基に完成させたものであり、その要旨は下記(1)項及び(2)項に記載の管のねじ継手にある。
(1)テーパ雄ねじとトルクショルダ形成部とを有するピンを端部に備える管と、テーパ雌ねじとトルクショルダ形成部とを有するボックスを端部に備える管とを螺合してなる管のねじ継手において、前記ピンは前記ピンを備える管の中央部側に位置する不完全ねじ部を備え、前記不完全ねじ部と締結状態において前記不完全ねじ部に対応するボックスのねじ部とが、締結時に実質的にねじ山の荷重面同士のみが接触するように構成したことを特徴とする管のねじ継手。
【0045】
(2)テーパ雄ねじとトルクショルダ形成部とを有するピンを端部に備える管と、テーパ雌ねじとトルクショルダ形成部とを有するボックスを端部に備える管とを螺合してなる管のねじ継手において、前記ピンのねじ部は、前記ピンを備える管の中央部側に位置する不完全ねじ部と、前記不完全ねじ部より前記ピンを備える管の端部側に位置する完全ねじ部とを備え、前記完全ねじ部のねじ山の高さが、前記完全ねじ部に対応するボックスのねじ溝の深さよりも大なることを特徴とする管のねじ継手。
【0046】
なお、上記(1)項において「実質的に」とあるのは、ねじ山の荷重面同士以外の他の面が接触する場合であっても、その程度が小さく、ショルダリングトルクの変動を抑制するという所期の効果が得られる場合をも含むという意味である。
【0047】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の管のねじ継手は、テーパ雄ねじ及びトルクショルダ形成部を有するピンを端部に備える管と、テーパ雌ねじ及びトルクショルダ形成部を有するボックスを端部に備える管とを螺合してなる管のねじ継手において、前記ピンは前記ピンを備える管の中央部側に位置する不完全ねじ部を備え、前記不完全ねじ部と締結状態において前記不完全ねじ部に対応するボックスのねじ部とが、締結時に実質的にねじ山の荷重面同士のみが接触するように構成する。
【0048】
上記構成の管のねじ継手とすることにより、全ねじ長さの概ね1/5〜1/2程度という大きな割合を占めるランアウト部において、従来(i) ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面、(ii)前記ピンのねじ溝の谷底と前記ボックスのねじ山の頂、の2組の面が接触していたのを、実質的に上記(i) の1組の面のみが接触するように構成することにより、上記(ii)の組の面の接触に起因するショルダリングトルクの変動を抑制できる。
【0049】
もっとも一般的なAPIのバットレスねじでは、不完全ねじ部より端部側に位置する完全ねじ部においては、締結状態において、(i) ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面、(ii)前記ピンのねじ溝の谷底と前記ボックスのねじ山の頂、(iii) 前記ピンのねじ山の頂と前記ボックスのねじ溝の谷底、の3組の面が接触する。
【0050】
本発明の管のねじ継手においては、完全ねじ部において接触する面が上記(i) 〜(iii) の3組の面であってもよいが、嵌合部の接触面積を減少させてショルダリングトルクの変動を効果的に抑制するために、実質的に、上記(i) 及び(ii)の2組の面又は上記(i) 及び(iii) の2組の面のみが接触するように構成することが望ましい。
【0051】
ここで、「実質的に」とは、(i) 、(ii)及び(iii) の3組の面が接触する場合であっても、1組の面の接触の程度が他の2組の面の接触の程度に比して小さく、前記1組の面の接触に起因するショルダリングトルクの変動を抑制することができる場合を含むという意味である。
【0052】
通常、製造容易性の観点から、ピンのランアウト部に対応するボックスのねじ部は、ピンの完全ねじ部に対応するボックスのねじ部と略同形状とされる。したがって、ランアウト部において上記(i) の1組の面のみが接触するようにして、完全ねじ部において上記(i) 及び(iii) の2組の面のみが接触するように構成するには、ピンの完全ねじ部のねじ山の高さを前記完全ねじ部に対応するボックスのねじ溝の深さより大きくすればよい。
【0053】
図5は、本発明の管のねじ継手の一例について、締結状態におけるねじ山の嵌合状態を模式的に示す断面図であり、図5(a)は完全ねじ部における嵌合状態を、図5(b)は不完全ねじ部における嵌合状態を示す。図5において図3及び図4と同一の要素については同一の符号を付して示す。
【0054】
図5(a)に示すように、本例の管のねじ継手は、ピン11のねじ山30の高さを、締結状態において対応するボックス21のねじ溝60の深さよりも大きくしてあるため、締結状態において、ピン11の完全ねじ部は、(i) ピン11のねじ山30の荷重面31とボックス21のねじ山40の荷重面41、 (iii)ピン11のねじ山30の頂32とボックス21のねじ溝60の谷底61、の2組の面のみが接触し、(ii)ピン11のねじ溝50の谷底51とボックス21のねじ山40の頂42とは接触しない。
【0055】
このため、完全ねじ部における嵌合部の接触面積が小さくでき、上記(ii)の組の面の接触に起因するショルダリングトルクの変動を抑制できる。
さらに、全ねじ長さの概ね1/5〜1/2程度という大きな割合を占めるランアウト部における締結状態は、図5(b)に示すように、図3(b)に示すAPIバットレスねじ継手や図4(b)に示す修正バットレスねじ継手の場合と異なり、(i) ピン11のねじ山30の荷重面31とボックス21のねじ山40の荷重面41の1組の面のみが接触し、(ii)ピン11のねじ溝50の谷底51とボックス21のねじ山40の頂42の組の面が接触しない。
【0056】
このため、不完全ねじ部においても嵌合部の接触面積が小さくでき、上記(ii)の組の面の接触に起因するショルダリングトルクの変動を抑制できる。
ここで、ピンの完全ねじ部のねじ山の高さと締結状態においてピンの完全ねじ部に対応するボックスのねじ溝の深さとの差は、0.01mm以上0.5mm以下とすることが望ましい。
【0057】
ピンの完全ねじ部のねじ山の高さと締結状態においてピンの完全ねじ部に対応する他方の部材のねじ溝の深さとの差を0.01mm未満としたのでは、ねじ継手を締結する際にねじ表面に塗布する潤滑剤の粘性により大きな摩擦抵抗が生じる場合があるからである。また、ねじ継手の締結時の潤滑性を向上させるためにめっきやコーティング等の表面処理を施してある場合も同様の問題を生じる場合がある。また、ピンの完全ねじ部のねじ山の高さと締結状態においてピンの完全ねじ部に対応するボックスのねじ溝の深さとの差を0.5mm超としても、ショルダリングトルクの変動を抑制する効果が飽和してしまううえに、製造コストの上昇を招き、さらに、ランアウト部における噛み合いが悪くなり継手の引張強度に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。なお、より望ましくは、ピンの完全ねじ部のねじ山の高さと締結状態においてピンの完全ねじ部に対応するボックスのねじ溝の深さとの差を0.03mm以上0.2mm以下とする。
【0058】
本発明の管のねじ継手は、ねじの形状を限定するものであり、通常用いられる管のねじ継手と比較して、ねじテーパ、ねじピッチ、ねじ高さ、ねじ長さなどねじ部の大きさに特に制限がないため、現在用いられているあらゆる態様の油井管用ねじ継手として適用することが可能である。ねじ部に占めるランアウト部の割合が比較的大きいねじ継手に適用することが特に有効である。
【0059】
また、本発明の管のねじ継手によるショルダリングトルクの変動抑制効果は、任意のサイズの管の継手に適用しても奏されることから、適用される管のサイズは特に限定しない。外径が170mm以下である小径管のねじ継手においては、特にハイショルダリング問題が生じやすいので、このような小径管のねじ継手として適用することが好適である。
【0060】
本発明の管のねじ継手を、170mm以下の小径な石油産業用鋼管のねじ継手に適用する場合には、ねじ高さ、ねじテーパおよびねじピッチの取りうる範囲を、それぞれ0.5mm以上2mm以下、1/20以上1/6以下、2.54mm以上8.47mm以下とすればよい。
【0061】
なお、上記実施態様の説明においては、ピンのランアウト部に対応するボックスのねじ部が、ピンの完全ねじ部に対応するボックスのねじ部と同形状とされる場合について、締結状態において、ピンのランアウト部とランアウト部に対応するボックスのねじ部とが、実質的に荷重面のみが接触するようにした好適例について説明した。
【0062】
すなわち、ピンのねじ山の高さを対応するボックスのねじ溝の深さよりも大きくすることにより、締結状態において、ピンのランアウト部では、 (i)ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面の1組の面のみが接触し、ピンの完全ねじ部では、(i) ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面、 (iii)ピンのねじ山の頂とボックスのねじ溝の谷底の2組の面のみが接触するように構成した場合について説明した。
【0063】
しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
すなわち、本発明の別の態様によれば、ピンのランアウト部において実質的にピン及びボックスのねじ山の荷重面同士のみが接触するように構成すればよく、ピンの完全ねじ部においては、(i) ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面、 (ii) ピンのねじ溝の谷底とボックスのねじ山の頂の2組の面のみが接触するように構成したり、或いは、(i) ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面、 (ii) ピンのねじ溝の谷底とボックスのねじ山の頂、(iii) ピンのねじ山の頂とボックスのねじ溝の谷底の3組の面が接触するように構成してもよい。
【0064】
上記構成とするには、例えば、ピンのランアウト部に対応するボックスのねじ部のねじ山の高さを、ピンの完全ねじ部に対応するボックスのねじ部のねじ山の高さよりも小さくすることにより実現することができる。
【0065】
ピンのランアウト部に対応するボックスのねじ部のねじ山の高さを、ピンの完全ねじ部に対応するボックスのねじ部のねじ山の高さよりも小さくするには、例えば、予め、ピンのランアウト部に対応するボックスのねじ部を設けるボックスの内周のテーパ面を、その後ねじ切り工具でテーパねじを刻設した場合に当該部位において完全ねじ部を形成しえない程度に深く研削しておくことによって実現することができる。また、テーパねじの刻設工程の途中で、ねじ切り工具の形状を変更することによっても実現することができる。
【0066】
ピンの完全ねじ部における干渉量公差に起因するショルダリングトルクの変動量を抑制する観点からは、(i) ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面、 (ii) ピンのねじ溝の谷底とボックスのねじ山の頂の2組の面のみが接触するよう に構成するか、(i) ピンのねじ山の荷重面とボックスのねじ山の荷重面、(iii) ピンのねじ山の頂とボックスのねじ溝の谷底の2組の面のみが接触するように構成する方が好ましい。
【0067】
【実施例】
図1に示すねじ継手を基本構成とし、ねじ部の形状が異なる供試体を製造した。すなわち、ねじ部の形状としては、図5に示す本発明例であるねじであって、ピンのねじ山の高さ対応するボックスのねじ溝の深さとの差が異なる2種類のねじと、図3に示すAPIバットレスねじと、図4に示す修正バットレスねじとを刻設した4種類の供試体を製造した。
【0068】
全ての供試体に共通する鋼管の材料、サイズ、シール形状、トルクショルダ形状の諸元及びねじの共通諸元を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
ここで、ねじの荷重面及び挿入面の角度は、ねじの進行方向を基準とした値である。
また、供試体に刻設したねじの諸元について表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
これらの供試体を用いて、以下のオーバートルク試験と引張破断試験とを実施した。
(1)オーバートルク試験
表1に示すねじの干渉量及びシールの干渉量が、共に最大のものと共に最小のものとについての各々2体の供試体を準備し、各供試体について、トルクチャートすなわち負荷トルクとターン数を連続記録しながらパワートングを用いて締め付けた。締め付けはトルクチャートの傾きが緩やかになる点すなわちオーバートルク点を越える程度まで実施し、ショルダリングトルクとオーバートルクとを測定した。
(2)引張破断試験
表1に示すねじの干渉量及びシールの干渉量が共に最小の供試体を、締め付けトルク3500Nmで締結を行い、一軸の単純引張荷重による引張破断試験を行い、破断状況と破断荷重とを調査した。
【0073】
オーバートルク試験及び引張破断試験の結果を表3に併せて示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3に示すように、本発明の管のねじ継手である試験番号1及び2の供試体は、試験番号3及び4の供試体よりも、ショルダリングトルクの変動値が格段に小さい。また、干渉量最大の場合のオーバートルク値が干渉量最大の場合のショルダリングトルクよりも充分に大きく、適正な締結目標トルク値を容易に設定することができる。
【0076】
一方、試験番号3の供試体は、干渉量最大の場合のオーバートルク値が干渉量最大の場合のショルダリングトルクよりも小さく、適正な締結目標トルク値が存在しない。また、試験番号4の供試体は、干渉量最大の場合のオーバートルク値が干渉量最大の場合のショルダリングトルクよりも大きいものの、その差は小さく適正な締結目標トルク値を設定することが困難である。
【0077】
また、本発明の管のねじ継手である試験番号1は、ピンのねじ山の高さ対応するボックスのねじ溝の深さとの差が好適範囲にあるため、試験番号3及び4の供試体と同等の引張強度を有する。試験番号2は、ピンのねじ山の高さ対応するボックスのねじ溝の深さとの差が好適範囲から外れるため、他の供試体に比べて若干引張強度が劣る。
【0078】
【発明の効果】
本発明により、特に小径管をトルク管理で締結する場合に生じやすいハイトルクショルダリング問題の発生を抑制することができるので、適正な締結目標トルク値を設定することが容易にでき、これにより締結作業をより迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】代表的な油井管用ねじ継手の一例について締結状態を示す部分断面図である。
【図2】図1に示す油井管用ねじ継手の締結状態における要部を示す断面図である。
【図3】APIバットレスねじ継手の締結状態におけるねじ山の嵌合状態を模式的に示す断面図である。
【図4】修正バットレスねじ継手の締結状態におけるねじ山の嵌合状態を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の管のねじ継手の一例について、締結状態におけるねじ山の嵌合状態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
10:管 11:ピン 12:雄ねじ
13:ピン側メタルタッチシール形成用ねじ無し面
14:ピン側トルクショルダ形成部
20:カップリング 21:ボックス 22:雌ねじ
23:ボックス側メタルタッチシール形成用ねじ無し面
24:ボックス側トルクショルダ形成部
30:ピンのねじ山
31:ピンのねじ山の荷重面 32:ピンのねじ山の頂
40:ボックスのねじ山
41:ボックスのねじ山の荷重面 42:ボックスのねじ山の頂
50:ピンのねじ溝 51:ピンのねじ溝の谷底
60:ボックスのねじ溝 61:ボックスのねじ溝の谷底
Claims (2)
- テーパ雄ねじとトルクショルダ形成部とを有するピンを端部に備える管と、テーパ雌ねじとトルクショルダ形成部とを有するボックスを端部に備える管とを螺合してなる管のねじ継手において、前記ピンは前記ピンを備える管の中央部側に位置する不完全ねじ部を備え、前記不完全ねじ部と締結状態において前記不完全ねじ部に対応するボックスのねじ部とが、締結時に実質的にねじ山の荷重面同士のみが接触するように構成したことを特徴とする管のねじ継手。
- テーパ雄ねじとトルクショルダ形成部とを有するピンを端部に備える管と、テーパ雌ねじとトルクショルダ形成部とを有するボックスを端部に備える管とを螺合してなる管のねじ継手において、前記ピンのねじ部は、前記ピンを備える管の中央部側に位置する不完全ねじ部と、前記不完全ねじ部より前記ピンを備える管の端部側に位置する完全ねじ部とを備え、前記完全ねじ部のねじ山の高さが、前記完全ねじ部に対応するボックスのねじ溝の深さよりも大なることを特徴とする管のねじ継手。
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