JP3733500B2 - 軟弱地盤上の免震建物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、軟弱地盤の上に沈下修正工法で建設され、床下空間に不同沈下の計測装置及び修正機構を設置して成る不同沈下低減対策建物の技術分野に属し、更に云えば、前記建物の床下部分と基礎との間に摩擦型滑り支承、水平力伝達手段、及びエネルギー吸収手段が設置された免震又は制振構造建物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、軟弱地盤の上に建築する建物には沈下修正工法が実施されている。建物を不同沈下から守る手段として、予期せぬ不同沈下量を計測し、修正する必要のためである。その結果、建物の機能を損なうことなく、何時でも計測、修正できる空間の必要性から建物に床下空間が設けられ、該空間に不同沈下の計測装置と修正機構を設置することが行われている。また、建物は沈下修正の可能性を確保するために基礎とは縁切りした構造とされる。軟弱地盤上の建物を支持する基礎は、従来、支持杭形式が一般的であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来、軟弱地盤上の建物を沈下修正工法で建築することは実施されている。しかし、あくまでも不同沈下の修正を目的としたものでしかなく、床下に沈下修正用の作業空間(以下、床下空間と云う。)を設けているにもかかわらず、同床下空間を建物の免震、制震という目的では有効活用していない。先の阪神大震災において建物の被害が多数発生し、埋め立て地等の軟弱地盤上の建物に関しても杭や上部架構の被害が多く見られたことは、教訓として今後の建築技術に積極的に生かしてゆくべきである。また、床下空間の地震時の設計に関しても、縁切りされた建物の鉛直力伝達部(柱)と基礎との間の摩擦や滑りの影響を明快にしておらず、水平力伝達部材に全ての地震力を負担させることで事足りるとしているのは不満の点である。
【0004】
鋼板とゴムを交互に貼り合わせて積層した免震ゴムを使用した免震構造は、通常の地盤のもとでは上部架構の地震応答を低減することには効果的である。しかし、軟弱地盤の場合は同地盤の固有周期が免震ゴムの固有周期と近い値になるため、共振によって地震時の変形量が大きくなり、建物外周部や免震ゴム自体の設計、工夫は困難なものとなる。
【0005】
通常の地盤に使用する場合でも、意匠設計や配管設計に関しては、床下空間の変形を考慮する必要がある。
一方、最近増加している制振装置の適用について検討しても、建物に制振装置を設置する部分(設置スペースの確保)は、建物の機能上からくる制約により限られてしまうため、その制振効果を十分には期待し難い。
【0006】
従来、軟弱地盤上の基礎に採用されている支持杭形式は、軟弱地盤の性質として基礎周辺地盤の水平抵抗が小さいため、支持杭の変形が大きくなり、上部架構(建物)に大きな地震応答が発生するか、又は杭頭や杭中間部に破損を生ずることになり易い。
そこで本発明の目的は、軟弱地盤上に沈下修正工法で建築された建物の構造的特徴と床下空間とを有効に活用して比較的簡便に実施でき、免震効果の大きい免震構造建物を提供することである。
【0007】
本発明の本質的な目的は、地震時の損傷は全て建物の床下空間部分の要素に集中させ、地震後の補修を床下空間でのみ行えるように、床下空間に、水平力伝達手段のほか、基礎と縁切りされた建物の支持を兼ねた摩擦型滑り支承及びエネルギー吸収手段をそれぞれ集中的に設置した、軟弱地盤上の免震建物を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決する手段として、請求項1に記載した発明に係る軟弱地盤上の免震建物は、
軟弱地盤の表層部に基礎を構築し、該基礎の上に該基礎とは縁切りした建物を建築し、当該建物の床下空間に不同沈下の計測装置及び修正機構を設置して成る軟弱地盤上の建物において、
前記の基礎は、軟弱地盤の表層部のベタ基礎2と複数の沈下抑止杭5とを併用したパイルド・ラフト基礎であること、
基礎と縁切りした建物3の鉛直力支持部である柱6と、前記基礎との接合部位に、鉛直力を支持して一定以上の大きさの水平力で滑り始める摩擦型滑り支承7が、建物の鉛直力を伝達する柱6の下端と基礎との間に、摩擦係数が明快な滑り材の一方10を基礎に固定し、他方の滑り材11は建物の柱下端に固定して両者を略水平方向の滑りが可能に重ね合わせ、前記柱側の滑り材11は荷重−変形の関係が直線的で歪量の計算が明解な鉄鋼材料による弾性体12を仲介にして柱下端へ固定され、更に前記二つの滑り材10、11の間に前記柱6と基礎との間を鉛直方向に連結した張力導入部材13により面圧が付与された構成で設けられていること、
前記建物3の床下空間に、同建物と前記基礎との間を鉛直方向に剛に連結して水平力を負担する水平力伝達手段8が、建物側に固定した鋼部材8aと、基礎側に固定した鋼部材8bとを鉛直方向に突き合わせ継手8cにより剛接合した構成で設けられていること、
同じく前記建物3の床下空間に、前記建物と前記基礎との間をつなぎ地震時のエネルギーを吸収させるエネルギー吸収部材9が、建物3の床下面と基礎との間に、座屈防止効果の大きい二重管ブレース9cの両端をピン連結したブレース型の構成、又は建物3の床下 面に固定した摩擦部材9dと、基礎の上面に固定した摩擦部材9eとを垂直方向に重ね合わせ、ボルト締め等により適度な大きさの面圧を付与した摩擦ダンパー型の構成で設置されていること、をそれぞれ特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態及び実施例】
請求項1記載の発明に係る免震建物は、軟弱地盤1の表層部に基礎2を構築し、該基礎2の上に該基礎とは縁切りした建物3を沈下修正工法により建築し、当該建物3の床下空間4に図示を省略した不同沈下の計測装置及び修正機構を設置して成る軟弱地盤上の建物について好適に実施される。
【0010】
図1に示した基礎2は、複数の沈下抑止杭5を併用したベタ基礎から成る、所謂パイルド・ラフト基礎として構成されている。
図1に示した免震建物は、前記建物1の鉛直力支持部たる柱6の下端部と前記基礎2との接合部位に、水平移動を許容して鉛直力を支持する摩擦型滑り支承7が設けられ、同建物3の床下空間4には同建物と前記ベタ基礎2とを鉛直方向に剛に連結して水平力を負担する水平力伝達手段8が設けられ、更に同じ建物3の床下空間4に、建物と前記ベタ基礎2との間をつなぐエネルギー吸収手段(エネルギー吸収部材9)が設置された構成である。要するに、沈下修正工法を適用するが故に発生する床下空間4の有効利用を目的として構成されている。そして、地震時の損傷はすべて床下空間4内の前記各要素(手段)に集中させ、上部架構である建物3を補修する必要を無くし、建物3を供用しながら、床下空間4での補修を容易ならしめる構成である。
【0011】
軟弱地盤1上の建物3の基礎に、上記パイルド・ラフト基礎2、5を採用すると、沈下抑止杭5の水平変形量が小さくなり、建物3に大きな地震応答が発生することを防止でき、ひいては建物3の損傷を防ぐことができる。また、杭頭部や杭の中間部の破壊を防止することもできる。
上述した水平力伝達部材8の構造詳細を図2に示した。図示例はH形鋼等を利用して構成したものを示す。特に、沈下修正の目的を達成する必要上、建物3に上端部を固定した上半部材8aと、基礎2に下端部を固定した下半部材8bとを鉛直方向に一連に突き合せた配置とし、両材を中間部においてスプライスプレート等を利用したボルト継手8c等により剛接合した構成とされている。従って、この水平力伝達部材8は、地震時の水平力の全てを常に負担することとなり、地震後に変形が残留することもあり得る。しかし、エネルギー吸収部材9の働きと適正に組み組合せることにより、変形を弾性限度内に納める設計が容易に可能である。
【0012】
基礎2と縁切りされた建物3の柱6を、水平移動を許容してその鉛直力を支持する摩擦型滑り支承7は、具体的には図3のように構成されている。
摩擦係数が明快な鋼板の如き二つの滑り材10、11のうち一方の滑り材10は基礎2へ固定し、他方の滑り材11は建物3の柱6の下端に固定して両者は略水平方向の滑りが可能に重ね合わされている。もっとも、前記柱側の滑り材11は、荷重−変形の関係が直線的で歪量の計算が明解な鉄鋼材料による弾性体12を仲介にして柱下端へ固定されている。沈下量の計測、修正に寄与せしめるためである。前記柱6と基礎2との間には鉛直方向に連結した張力導入部材13が設置され、該張力導入部材13により前記二つの滑り材10、11の間に、摩擦型滑り支承の機能上必要とされる大きさの水平力(地震力)で滑り始める大きさの面圧(垂直力)が付与されている。前記弾性体12により、地震時の軸力(鉛直力)変動に対しても前記面圧は一定に保たれる。
【0013】
要するに、上記の張力導入部材13によって二つの滑り材10と11に適切な面圧を付与すると、二つの滑り材10と11の間の滑り摩擦の大きさを一義的に正確に容易に決めることができる。従って、この滑り材10と11の静止摩擦係数μ1と動摩擦係数μ2を適正に設定することで下記(i)、( ii )の性能を期待できる。
(i) 想定した地震の大きさよりも小さな地震時には、摩擦型滑り支承7を構成する滑り材10、11の摩擦面はすべらないので、床下空間4の過大な変形を防止できる。その結果、水平力伝達部材8とエネルギー吸収部材9が変形、損傷を生じないから、次の大地震時までその性能を維持できる。
( ii ) 大地震時に摩擦型滑り支承を構成する二つの滑り材10、11の摩擦面が滑り出すと、エネルギー吸収部材9がその性能を発揮し始めて、地震エネルギーを吸収し、建物3(上部架構)の損傷を防止する。この時は同時に、摩擦型滑り支承7もダンパーとして働き地震エネルギーを吸収する。
【0014】
次に、上記のエネルギー吸収部材9は、具体的には図4及び図5に示すように構成される。図4は、建物3の床下面に固定したブラケット9aと、基礎2の上面に固定したブラケット9bとの間に、座屈防止効果の大きい二重鋼管ブレース9cの両端をピン連結した、ブレース型のエネルギー吸収部材9の構成例を示している。また、図5は、建物3の床下面に固定した摩擦部材9dと、基礎2の上面に立ち上げた台14の上面に固定した摩擦部材9eとを相互に垂直方向に重ね合わせ、ボルト締め等により所定の大きさの面圧を付与した摩擦ダンパー型のエネルギー吸収部材9の例を示している。
【0015】
上記構成のエネルギー吸収部材9により、大地震時にエネルギー吸収させることで、建物3(上部架構)の損傷や、水平力伝達部材8の損傷を防止することができる。鉛直荷重の支持は摩擦型滑り支承7で行うので、この摩擦型滑り支承7が仮に損傷しても、その交換は容易であり、地震後には摩擦型滑り支承7を交換するだけで、建物3は再度の地震にも耐えられるようになる。
【0016】
水平力伝達部材8、摩擦型滑り支承7及びエネルギー吸収部材9は、いずれも地震時の水平力を負担できるが、各々の水平力負担率は、建物3や地盤1の性状に応じて設計者が設定でき、場合によっては水平力伝達部材8をなくすることも可能である。
【0017】
【本発明が奏する効果】
本発明に係る軟弱地盤上の免震建物は、大要、下記の効果を奏する。
(1) 沈下修正工法で建築した、軟弱地盤(主として埋立地)上の建物に好適に実施される。
(2) パイルド・ラフト基礎を採用したので、軟弱地盤でも、杭頭や杭の中間部の破損を防ぐことができる。
(3) 建物の床下空間内で地震時エネルギーを吸収させる構成なので、建物(上部架構)の地震による被害を軽微なものにすることができる。また、地震による損傷は床下空間内の要素にのみ集中させられるので、建物を使用したままでも補修を容易にできる。
(4) 地上階に制振装置を設置する場合に比べて、自由に免震構造を設計、配置して実施することができる。
(5) 免震ゴムによる免震構造と比べて、床下空間部の変形を小さくすることができる。従って、建物外周部のクリアランスを小さくすることができ、意匠設計や配管設計の面で簡略化を図れる。
(6) 建物3の鉛直荷重支持部(建物の柱6)の下の摩擦型滑り支承7の働きにより、エネルギー吸収手段9が過敏に反応することを防止し、エネルギー吸収手段を効果的に利用することができる。また、摩擦面での地震エネルギー吸収も可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る軟弱地盤上の免震建物の構造を概念的に示した立面図である。
【図2】 水平力伝達部材の一例を示した立面図である。
【図3】 摩擦型滑り支承の一例を示した立面図である。
【図4】 ブレース型エネルギー吸収部材の例を示した立面図である。
【図5】 摩擦ダンパー型エネルギー吸収部材の例を示した立面図である。
【符号の説明】
1 軟弱地盤
2 基礎
3 建物
4 床下空間
6 鉛直力支持部(柱)
7 摩擦型滑り支承
9 エネルギー吸収手段
8 水平力伝達手段
8a 下半部材
8b 上半部材
8c 継手
10、11 滑り材
12 弾性体
13 張力導入部材
Claims (1)
- 軟弱地盤の表層部に基礎を構築し、該基礎の上に該基礎とは縁切りした建物を建築し、当該建物の床下空間に不同沈下の計測装置及び修正機構を設置して成る軟弱地盤上の建物において、
前記の基礎は、軟弱地盤の表層部のベタ基礎(2)と複数の沈下抑止杭(5)とを併用したパイルド・ラフト基礎であること、
基礎と縁切りした前記建物(3)の鉛直力支持部である柱(6)と前記基礎との接合部位に、鉛直力を支持して一定以上の大きさの水平力で滑り始める摩擦型滑り支承(7)が、建物の鉛直力を伝達する柱(6)の下端と基礎との間に、摩擦係数が明快な滑り材の一方(10)を基礎に固定し、他方の滑り材(11)は建物の柱下端に固定して両者を略水平方向の滑りが可能に重ね合わせ、前記柱側の滑り材(11)は荷重−変形の関係が直線的で歪量の計算が明解な鉄鋼材料による弾性体(12)を仲介にして柱下端へ固定され、更に前記二つの滑り材(10)、(11)の間に前記柱(6)と基礎との間を鉛直方向に連結した張力導入部材(13)により面圧が付与された構成で設けられていること、
前記建物(3)の床下空間に、同建物と前記基礎との間を鉛直方向に剛に連結し水平力を負担する水平力伝達手段(8)が、建物側に固定した鋼部材(8a)と、基礎側に固定した鋼部材(8b)とを鉛直方向に突き合わせ継手(8c)により剛接合した構成で設けられていること、
同じく前記建物(3)の床下空間に、前記建物と前記基礎との間をつなぎ地震時のエネルギーを吸収させるエネルギー吸収部材(9)が、建物(3)の床下面と基礎との間に座屈防止効果の大きい二重管ブレース(9c)の両端をピン連結したブレース型の構成、または建物(3)の床下面に固定した摩擦部材(9d)と、基礎の上面に固定した摩擦部材(9e)とを垂直方向に重ね合わせ、ボルト締め等により適度な大きさの面圧を付与した摩擦ダンパー型の構成で設置されていること、
をそれぞれ特徴とする、軟弱地盤上の免震建物。
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1997
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