JP3726447B2 - ガスセンサ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はガスセンサに関する。本発明に係るガスセンサは、例えばにおい成分を測定するにおい測定装置に利用することができ、食品や香料の品質検査、悪臭公害の定量測定、焦げ臭検知による火災警報機、食品や香料の品質検査、更には、人物の追跡、識別、認証や薬物検査等の犯罪捜査等の、幅広い分野に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
においセンサは、空気(又は供給されたガス)中に含まれるにおい成分がセンサの感応面に付着することにより生ずる該センサの物理的変化を電気的(又は光学的)に測定するものである。
【0003】
上記においセンサとして、従来、感応膜に金属酸化物半導体を用い、その抵抗値変化を利用するものが実用化されている。また、このセンサを複数用いた「電子鼻」と呼ばれるものが、仏国プライムテック社にて商品化されている。この種のにおいセンサでは、感応膜を高温(350℃以上)に加熱し、該膜表面に付着したにおい成分との間で酸化還元反応を生じさせる。この過程で電子の移動が起こり、感応膜中の電子密度や空乏層の厚さが変化して電気抵抗が変化する。
【0004】
従って、金属酸化物半導体の感応膜を利用したにおいセンサでは、酸化還元反応を生じる物質のみしか検出することができず、また、上記温度で熱分解する物質は検出できない等、対象物質が極めて限定されていた。また、分析時にセンサが上記動作温度まで上昇して安定するのを待たなければならず、特に、繰り返し測定時に長い測定時間を要していた。更には、感応膜表面の状態が比較的不安定であるため、経時変化が大きく、信頼性に乏しいという問題もあった。
【0005】
これに対し、例えば特開昭61−147145号公報、或いはペルソード、ペロシによる「センサ・アレイズ・ユージング・コンダクティング・ポリマーズ・フォー・アン・アーティフィシャル・ノーズ」センサズ・アンド・センサリー・システムズ・フォー・アン・エレクトロニック・ノーズ(1992)(K.C.Persaud、P.Pelosi, "Sensor Arrays Using Conducting Polymers for an Artificial Nose", Sensors and Sensory Systems for an Electronic Nose, pp.237-256.(1992))等の文献には、導電性高分子を利用したガスセンサが提案されている。また、感応膜にポリピロールを主体とした導電性高分子を用い、その抵抗値変化を利用するにおいセンサが英国アロマスキャン社及びネオトロニクス社にて商品化されている。このようなセンサでは、感応膜を常温に維持したまま分析を行なうことができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記ペルソードらによる文献では、導電性高分子に適当なドーパントを導入して導電率を調整した感応膜が用いられている。しかしながら、このような感応膜は塩基性(又は酸性)ガスに対して高い感度を示すものの、ガス分子がドーパントと反応して塩化合物を生成してしまうため、分析を重ねる毎に導電性高分子の抵抗率が増加し、ひいては検出感度が変化する。また、トルエン等の極性の低い有機溶媒系のガスに対しては、電気伝導に関連する結合が原理的に生じにくいため、極めて検出感度が低い。
【0007】
一方、ロナーガンらの「アレイ−ベイスド・ベイパー・センシング・ユージング・ケミカリイ・センシティブ、カーボン・ブラック−ポリマー・レジスタズ」ケミカル・マテリアル、ボリューム8、No.9(1996)(Mark C.Lonergan,et al. "Array-Based Vapor Sensing Using Chemically Sensitive, Carbon Black-Polymer Resistors", Chem. Mater.. Vol.8, No.9,pp.2298-2312(1996))では、カーボンブラックと絶縁性の有機高分子とを混合して感応膜を形成したにおいセンサが提案されている。この感応膜では、微粒子状のカーボンブラックが電気伝導に寄与しており、カーボンブラックを取り囲む絶縁性高分子が有機溶媒系のガス分子を取り込んで膨潤した際に発生するパーコレーション効果による抵抗率の変化を検出することによりガスを検出している。このため、絶縁性高分子に膨潤を与えない塩基性又は酸性のガスに対しては極めて検出感度が低い。
【0008】
このように、従来知られているにおいセンサは、塩基性(又は酸性)のガスと有機溶媒系のガスのいずれかに対してしか、実用性のある高い検出感度をもたない。このため、より幅広い物質に対して高い検出感度を有するものが要望されている。本発明はこのような課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、有機溶媒系ガス及び塩基性(又は酸性)ガスともに高感度で検出することができ、且つ長期間に亘り安定した検出感度を維持することができるガスセンサを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明は、絶縁基板上に形成した二個以上の電極間に感応膜を設け、該感応膜にガス中の対象成分が付着した際の前記電極間の抵抗変化を測定するガスセンサにおいて、前記感応膜は、微粒子状の導電性物質と脱ドープ処理された又はドーパントが不活性化された導電性高分子との混合物から成ることを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に係るガスセンサでは、微粒子状の導電性物質(以下「導電性粒子」という)としては例えばカーボンブラックや粒子状の導電性高分子等を利用することができる。
【0011】
このガスセンサの感応膜中の導電性高分子は、電解重合法又は酸化重合法等の重合の過程で取り込まれるドーパントの多くが強制的に取り除かれ又は不活性化されている。このため、その導電性高分子の導電率は比較的低くなっている。従って、測定ガスに晒さない状態での感応膜の電気伝導は、導電性粒子の隣接粒子間の電子(キャリア)のホッピングが支配的である。
【0012】
この感応膜がトルエン等の有機溶媒系のガスに暴露されると、そのガス分子が導電性高分子に膨潤を与え、導電性高分子の体積が顕著に増加する。すると、隣接する導電性粒子間の距離が遠くなり、電子がホッピングしにくくなる。すなわち、パーコレーション効果により、電極間の抵抗が増加する。一方、この感応膜が塩基性(又は酸性)のガスに暴露されると、導電性高分子の空いているドーピングサイトにそのガス分子が入り込み、ドーパントとして作用する。このため、導電性高分子の導電率が高まり、電極間の抵抗が下がる。このように、有機溶媒系のガスと塩基性(又は酸性)のガスの両者に対して、それぞれ異なるメカニズムにより電気抵抗が変化するので、いずれのガスも高感度に検出することができる。
【0013】
なお、膨潤を与えたガス分子は、不活性なガスを感応膜表面に流すことにより比較的簡単に除去することができる。また、導電性高分子にドーパントとして入り込んだガス分子は比較的強く導電性高分子の主鎖に結合するが、感応膜の温度を上昇させつつ、不活性なガスを感応膜表面に流す又は中和するガスを作用させることにより、上記ガス分子を除去又は不活性化して感応膜を元の状態に復帰させることができる。
【0014】
【発明の効果】
このように、本発明に係るガスセンサでは、それぞれ異なるメカニズムによって、有機溶媒系のガス及び塩基性(又は酸性)のガスのいずれに対しても感応膜の抵抗変化が生じる。このため、従来よりも幅広い種類のガスを高い感度をもって検出することができる。また、一旦感応膜に取り込まれたガス分子は容易に離脱させることができるので、繰り返しの測定においても安定した検出感度を維持することができる。
【0015】
【実施例】
以下、本発明に係るガスセンサの一実施例を説明する。図1は、本実施例のガスセンサ10の構造の一例を示す平面図(a)、その平面図のA部分の拡大図(b)及び断面図(c)である。ガラス等の絶縁体材料から成る基板11上に金等の金属から成る厚さ約150nmの電極12a、12bが5μm間隔の櫛形状に形成されており、該電極12a、12bにリード線13a、13bが接続されている。基板11上には、電極12a、12bを被覆して後述のような方法により作成される感応膜14が設けられている。
【0016】
上記ガスセンサ10の製造方法の一例は次の通りである。まず、基板11上に周知のリフトオフ法によって電極12a、12bを形成する。次に、感応膜を構成する導電性高分子が溶解し且つ導電性粒子が混合している溶液を、その電極12a、12bを被覆するように塗布することにより感応膜14を形成する。
【0017】
具体的には、本実施例では、導電性粒子としてカーボンブラックを用い、導電性高分子にポリアルキルチオフェンの中でアルキル鎖長が6である物質(ポリ−3−ヘキシルチオフェン=以下「PAT」という)を用いる。このPATは、チオフェンC44Sの3位をヘキシル基C613に置換した3−ヘキシルチオフェン(東京化成社製)を酸化重合法で重合することにより作成する。この重合の過程で酸化剤がドーパントとしてPAT中に導入される。そこで、次にメタノールに通す等の方法により脱ドープ処理を行ない、PATに一旦導入されたドーパントを引き抜く。そして、この脱ドープされたPATをクロロホルム溶媒に溶解し、濃度0.1mol/Lの溶液を作成する。
【0018】
その後に、この溶液にカーボンブラック(Cabot社製BP2000)をPATに対する重量比が1/4となるように混入する。そして、これを充分に振動攪拌した後、直ちに基板11上にスピンコート法にて塗布し、膜厚約300nmの膜体を形成する。このような膜体を形成するには、例えば、回転数1500rpmで10秒間スピナーを作動させるとよい。その後、形成した膜体をアセトンで洗浄し、1時間真空乾燥を行なう。
【0019】
このようにして形成された感応膜の粒子レベルの構造の概念図を図2(a)に示す。すなわち、カーボンブラック粒子30をPAT集合体31が取り囲んでいる。このPATにはドーパントが殆ど残っていないので、PAT自体の導電率は比較的低くなっている。従って、この感応膜14の電気伝導は、主として、隣接するカーボンブラック粒子30の間を電子が移動してゆくことに依存している。カーボンブラック粒子30の隣接間距離dが短ければ電子が移動し易いから、PATに対してカーボンブラックの混入割合が多いほど導電率は高くなる。
【0020】
図2(a)のような構造を有する感応膜の表面に、有機溶媒系のガス分子が吸着されると、図2(b)に示すように、PAT集合体31がそのガス分子32を取り込んで膨潤し、その体積が顕著に増加する。すると、膨潤しPAT集合体31に押されてカーボンブラック粒子30の隣接間距離dが長くなる。このため、カーボンブラック粒子30間を電子が移動しにくくなり、抵抗率が上昇する。
【0021】
なお、導電性粒子の割合が多過ぎると、導電性高分子の膨潤の影響を受けにくく、上記のようなパーコレーション効果が発揮されない。通常、導電性粒子がほぼ球形である場合には、導電性粒子の割合が全体の約20%程度であるときに最もパーコレーション効果が有効である。また、導電性粒子の割合が全体の約10〜30%程度であれば、パーコレーション効果がかなり有効であると言える。更に、導電性粒子が鋭角形状等、種々の形状である場合には、パーコレーション効果の有効範囲が変化するので、概略的には導電性粒子の割合が全体の約5〜50%程度であれば、パーコレーション効果を利用した抵抗変化を検出することができる。
【0022】
一方、上記感応膜の分子レベルの構造の概念図を図3(a)に示す。すなわち、PATは脱ドープされているため、PAT主鎖40のドーピングサイトには殆どドーパント41が入っておらず、空き状態42になっている。このような感応膜に塩基性(又は酸性)のガス分子が吸着されると、図3(b)に示すように、そのガス分子43が空き状態42のドーピングサイトに導入され、ドーパントとして作用する。このため、PATの導電率が高まり、感応膜の抵抗は減少する。
【0023】
図4は、上記ガスセンサ10のガス応答を調べるための評価装置の構成図である。清浄空気の流路20には、バルブ21、フローセル23、ポンプ24が設けられ、該ポンプ24の吸引によって流路20に清浄空気が流通する。バルブ21には試料容器22に連なるガス流路が接続されており、バルブ21の操作により清浄空気中に適宜量の試料ガスが混入されるようにしている。フローセル23内には上記ガスセンサ10が配置され、該センサ10の電極の抵抗変化を抵抗計25にて測定する。
【0024】
まず、乾燥剤(シリカゲル)、活性炭及びモレキュラシーブスを通過した後の清浄空気を200mL/分の流速で10秒間流し、これによりセンサ10の感応膜に付着している不純物を脱離させて除去する。その後、清浄空気に試料成分を混入させたガスを同じ流速で30秒間流す。そして、最後に再び清浄空気のみを流す。上記手順の間に、ガスセンサ10の電極間の抵抗を抵抗計25により連続的に測定する。
【0025】
図5〜図7は、それぞれトルエン、トリメチルアミン及び酪酸を測定対象成分としたときのガスセンサ10の応答特性の実測結果を示すグラフである。前の2つはいわゆる有機溶媒系のガスであり、他の1つはいわゆる塩基性ガスである。図5及び図6に示したように、10秒経過後にトルエン及びトリメチルアミンガスが流れ始めると即座に抵抗値が上昇する。また、40秒経過後に清浄空気に切り替えた後には、抵抗値は速やかに減少に転じ、元の抵抗値に近いレベルに復帰する。つまり、検出の応答速度は極めて迅速である。また、試料成分の有無に対する抵抗値の差異は大きいので、検出感度も高く、微量成分の検出にも有効であることがわかる。
【0026】
一方、図7に示したように、10秒経過後に酪酸を含むガスが供給されると抵抗値は減少する。また、40秒経過後に清浄空気に切り替えた後には、抵抗値は上昇に転じる。この場合、清浄空気を供給し続けただけでは元の抵抗値に近いレベルにまで回復させることはむずかしい。そこで、測定時には約40℃程度である感応膜の温度を、100〜180℃程度の温度まで加熱した状態で清浄空気を流すとよい。これにより、PATの主鎖とドーパントとして導入されたガス分子との結合が弱まり、清浄空気により運び去られて元の状態に回復する。
【0027】
なお、上記実施例において、ガスセンサの形状や寸法等は適宜に変えることができる。また、製造時の濃度等の各数値も適宜に変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例であるガスセンサの構成図。
【図2】 本実施例の感応膜の粒子レベルの構造の概念図。
【図3】 本実施例の感応膜の分子レベルの構造の概念図。
【図4】 ガスセンサの評価装置の構成図。
【図5】 本実施例のガスセンサの応答特性を示すグラフ。
【図6】 本実施例のガスセンサの応答特性を示すグラフ。
【図7】 本実施例のガスセンサの応答特性を示すグラフ。
【符号の説明】
11…基板 12a、12b…電極
14…感応膜
30…カーボンブラック粒子 31…PAT集合体
32、43…ガス分子
40…PAT主鎖 41…ドーパント
42…空き状態のドーピングサイト

Claims (1)

  1. 絶縁基板上に形成した二個以上の電極間に感応膜を設け、該感応膜にガス中の対象成分が付着した際の前記電極間の抵抗変化を測定するガスセンサにおいて、前記感応膜は、微粒子状の導電性物質と脱ドープ処理された又はドーパントが不活性化された導電性高分子との混合物から成ることを特徴とするガスセンサ。
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