JP3706115B2 - ケイ素高分子の固定化方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ケイ素高分子を被固定化物に固定化する方法、およびその方法によってケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ケイ素(Si)によって形成された主鎖構造を有するケイ素高分子は、一般にポリシランと呼ばれ、機能性高分子として注目を集めている。ケイ素高分子は、主鎖を形成するSi−Si単結合のσ電子が主鎖全体に非局在化することにより種々の半導体特性を有する。また、ケイ素高分子は、シリコン結晶とは異なり、例えば、紫外領域に非常に鋭い発光を示すといった特性を有していることから、情報記録光媒体、分子デバイス、光学活性分子ナノセンサーシステム構築のための分子導線や分子トリガーとして期待されている。
【0003】
ケイ素高分子を分子導線や分子トリガーとして用いるには、例えば、ケイ素高分子を基板や電極等に固定化すればよい。
【0004】
ケイ素高分子を基板に固定化する方法としては、例えば、非特許文献1に開示されているように、試薬や紫外線を用いてケイ素高分子を化学修飾した後、基板に固定化する方法が知られている。
【0005】
【非特許文献1】
KAZUAKI FURUKAWA End-Grafted Polysilane-An Approach to Single Polymer Science Acc. Chem. Res. 2003, 36, 102-110
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記非特許文献1に開示の方法では、ケイ素高分子に対する多段階の化学修飾が必要である。また、取り扱いが困難で危険度の高い試薬や、紫外線を用いなければならない。したがって、上記非特許文献1の方法は煩雑であり、またコスト面および安全面から、工業的には非現実的な方法であるといえる。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、被固定化物にケイ素高分子を簡便かつ低コストで固定化する方法、およびその方法によってケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ケイ素高分子の末端基が反応性に富むSi−H構造であるという知見に基づき、フラスコ中、窒素雰囲気下、常圧下、ヒドロキシアルキルチオールで表面を処理した金(Au)を、ケイ素高分子を含むイソオクタン溶液中に室温にて数時間浸漬するだけで、金表面上にケイ素高分子を化学結合により固定化(グラフト固定化)できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法は、ケイ素高分子を被固定化物に固定化する方法において、被固定化物に、一般式(1)
HS−R−OH………(1)
(式中、Rは炭化水素基を示す)
で表されるヒドロキシアルキルチオールを接触させて、処理被固定化物を得る工程と、上記処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液を接触させる工程とを含むことを特徴としている。
【0010】
上記被固定化物にヒドロキシアルキルチオールを接触させることで、被固定化物の表面に水酸基(OH基)が結合する。本発明では、表面に水酸基が結合した被固定化物を、処理被固定化物という。この処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液を接触させると、ケイ素高分子の末端基のSi−H構造と被固定化物の表面の水酸基とが反応し、脱水素反応が起こる。この脱水素反応により、ケイ素高分子は、化学結合によって被固定化物に固定化される。この脱水素反応は1段階の工程で行われる。また、ヒドロキシアルキルチオールは、化学的に安定な物質であるため、特別な装置を用いなくても上記の処理を行うことができる。それゆえ、本発明によれば、ケイ素高分子を被固定化物に簡便かつ低コストで固定化することができる。
【0011】
本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法は、特に、金電極、金微粒子、金薄膜、金線、銀電極、銀微粒子、銀薄膜、銀線など、金や銀、または金と銀との合金を含んで構成される様々な形態の被固定化物に対してケイ素高分子を固定化する場合に特に有効である。
【0012】
したがって、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法は、上記被固定化物は、金および/または銀を含んで構成されていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法では、上記ヒドロキシアルキルチオールとして、メルカプトヘキサノール、メルカプトプロパノール、メルカプトエタノール、およびメルカプトブタノールよりなる群のうちの1または2以上を用いることを特徴としている。
【0014】
このようなヒドロキシアルキルチオールを用いることで、被固定化物の表面に水酸基を効率よく結合させることができる。
【0015】
また、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法では、ケイ素高分子は、一般式(2)
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、R1,R2は、それぞれ、炭化水素基を示し、nは整数を示す)
で表されることが好ましい。
【0018】
このとき、上記一般式(2)中、nで示される整数は、10以上、1,000,000以下であることが好ましい。
【0019】
一般式(2)における整数nが上記の範囲内であれば、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法によって得られる、ケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体を、例えば、分子導線や分子トリガーとして用いる場合に、ケイ素高分子の備える半導体特性等の諸物性を好適に利用することができる。
【0020】
また本発明では、ケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体を提供する。本発明にかかる構造体は、上記いずれかに記載の方法によって、ケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなることを特徴としている。
【0021】
一般に、高分子の諸物性は、主鎖構造やコンホメーションに依存することが知られている。本発明にかかる方法によれば、ケイ素高分子が固定化される際に、上述した脱水素反応に関与するのは、ケイ素高分子の末端基であり、上記主鎖構造が脱水素反応の影響を受けることはない。それゆえ、本発明にかかる方法によって得られる構造体では、ケイ素高分子の諸物性が損なわれていることはない。それゆえ、ケイ素高分子の持つ様々な物性を好適に利用可能な構造体を提供することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について以下に説明する。本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法は、被固定化物にヒドロキシアルキルチオールを接触させて、処理被固定化物を得る工程と、この処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液を接触させる工程を含む構成である。
【0023】
本実施の形態にかかるヒドロキシアルキルチオールは、一般式(1)
HS−R−OH………(1)
(式中、Rは炭化水素基を示す)
で表される構造を有している。
【0024】
一般式(1)中、Rで示される炭化水素基とは、具体的には、炭素数2〜12の炭化水素基を示しており、直鎖状でも枝分かれ状でもよいものとする。
【0025】
本実施の形態では、特に限定されるものではないが、上記一般式(1)で表されるヒドロキシアルキルチオールとして、例えば、メルカプトヘキサノール、メルカプトプロパノール、メルカプトエタノール、およびメルカプトブタノールよりなる群のうちの1または2以上を用いることが好ましい。
【0026】
また、本実施の形態にかかるケイ素高分子は、ケイ素(Si)によって形成された主鎖構造を有し、末端基として反応性に富むSi−H構造を有するものであれば、特に限定されるものではない。このようなケイ素高分子として、例えば、一般式(2)
【0027】
【化3】
【0028】
(式中、R1,R2は、それぞれ、炭化水素基を示し、nは整数を示す)
で表される構造を有するケイ素高分子を挙げることができる。
【0029】
一般式(2)中、R1,R2でそれぞれ示される炭化水素基とは、少なくとも1以上の炭素原子および水素原子を有していれば、特に限定されるものではない。また、上記炭化水素基は、直鎖状でも枝分かれ状でもよいものとする。
【0030】
上記R1,R2としての炭化水素基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、ビニル基、アリル基等の鎖状炭化水素基;シクロヘキシル基、シクロペンチル基等の環式飽和炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。
【0031】
なお、本実施の形態では、一般式(2)中、R1で示される炭化水素基に含まれる水素原子の一部がフッ素原子にて置換されることで、上記R1がフッ化炭化水素基となっていてもよい。
【0032】
なお、上記フッ化炭化水素基は、少なくとも1以上の炭素原子およびフッ素原子を有していればよいものとする。このようなフッ化炭化水素基としては、具体的には、ペンタフルオロフェニルプロピル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の直鎖状フッ化炭化水素基;アラルキル基等を挙げることができる。このうち、上記R1としてのフッ化炭化水素基としては、3,3,3−トリフルオロプロピル基(CF3CH2CH2−)が好ましい。
【0033】
上記一般式(2)中、R1がフッ化炭化水素基となることで構成されるケイ素高分子(このようなケイ素高分子を、以下、「フッ化アルキルケイ素高分子」と称する)は、ハロゲンイオンと相互作用することにより、主鎖構造に螺旋−螺旋転移およびコイル−ロッド転移が誘発され、立体構造に変化が生じる。これにより、フッ化アルキルケイ素高分子の光吸収波長、蛍光波長、励起波長(以下、光波長と総称する)や、光吸収強度、蛍光強度、励起強度(以下、光強度と総称する)が変化する。
【0034】
ここで、光吸収波長とは、吸収スペクトル測定によって吸収が見られる波長をいい、光吸収強度とは、光吸収波長での信号強度をいうものとする。また、蛍光波長とは、蛍光スペクトル測定によって発光が見られる波長をいい、蛍光強度とは、蛍光波長での信号強度をいうものとする。さらに、励起波長とは、励起スペクトル測定によって発光が見られる波長といい、励起強度とは、励起波長での信号強度をいうものとする。
【0035】
また、上記一般式(2)中、nで示すのは、繰り返し数であり、このnは整数であれば特に限定されるものでないが、本実施の形態では、nで示される整数は、10以上、1,000,000以下であることが好ましく、100以上、10,000以下であることがより好ましい。
【0036】
上記nが10を下回ると、一般式(2)で表されるケイ素高分子の吸収波長が250nmを下回り、蛍光強度が極めて弱くなる。そのため、このようなケイ素高分子が基板や電極といった被固定化物に固定化されてなる構造体を、例えば、情報記録光媒体、分子デバイス、光学活性ナノセンサーシステムの構築のための分子導線や分子トリガーとして用いる場合には、ケイ素高分子の備える諸物性を好適に利用できなくなる虞があり好ましくない。
【0037】
また上記nが1,000,000を上回ると、後述するように、ケイ素高分子を溶媒に溶解させるときに、ケイ素高分子の溶媒の溶解度が極めて低下するため好ましくない。
【0038】
本実施の形態では、上記一般式(2)で表されるケイ素高分子として、例えば、ポリ(デシル−イソ−ブチルシラン)、ポリ(デシル−3−メチル−ブチルシラン)、および、ポリ(デシル−4−メチル−メンチルシラン)、ポリ(イソブチル−デシルシラン)、ポリ(3,3,3−トリフルオロプロピル(メチル)シラン)等を用いることができるが、これらは特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すればよいものとする。
【0039】
また、本実施の形態における被固定化物とは、ケイ素高分子が固定化される固体を意味しており、その形状は特に限定されるものではない。したがって、本実施の形態では、上記被固定化物を、例えば、基板、粒子(微粒子)、薄膜、およびワイヤーのいずれかの形状とすることができる。なお、上記基板や粒子の大きさ、上記薄膜の膜厚、上記ワイヤーの長さは、特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すればよいものとする。
【0040】
また、本実施の形態では、上記被固定化物を構成する物質は、特に限定されるものではなく、例えば、金(Au)や銀(Ag)等の導電性物質、あるいは金と銀との合金を用いればよいが、好ましくは、上記被固定化物は、金を含んで構成されていることである。なお、被固定化物を占める金の割合は、特に限定されるものではないが、本実施の形態にかかる被固定化物は、金を1%以上含んでいることが好ましく、80%以上含んでいることがより好ましい。したがって、本実施の形態では、例えば金電極、金微粒子、金薄膜、金線、銀電極、銀微粒子、銀薄膜、銀線など、金および/または銀を含んだ様々な形態の被固定化物を用いることが好ましい。
【0041】
ここで、本実施の形態にかかるケイ素高分子を被固定化物に固定化させる方法について以下に具体的に説明する。
【0042】
本実施の形態では、まず、被固定化物に、上記一般式(1)で表されるヒドロキシアルキルチオールを接触させることで、表面に水酸基が結合した被固定化物、すなわち処理被固定化物を得る。本実施の形態において、被固定化物にヒドロキシアルキルチオールを接触させる方法は特に限定されるものではなく、例えば、上記ヒドロキシアルキルチオールを含む溶液(以下、ヒドロキシアルキルチオールを含む溶液を「ヒドロキシアルキルチオール溶液」という)を被固定化物上に滴下したり、上記ヒドロキシアルキルチオール溶液中に、被固定化物を浸漬したりすればよいものとする。
【0043】
上記ヒドロキシアルキルチオール溶液は、例えば、一般式(1)で表されるヒドロキシアルキルチオールを、エタノール等のアルコール溶媒に溶解させて調製すればよい。このとき、ヒドロキシアルキルチオール溶液中の、ヒドロキシアルキルチオールの濃度は、特に限定されるものではないが、0.1ミリモル/L〜100ミリモル/Lの範囲内とすることが好ましく、1ミリモル/L〜10ミリモル/Lの範囲内とすることがより好ましい。ヒドロキシアルキルチオールの濃度が上記好ましい範囲を下回る場合、被固定化物の表面に水酸基を結合させるのが困難になる虞があるため好ましくない。また、ヒドロキシアルキルチオールの濃度が上記好ましい範囲を上回る場合は、特に問題が生じることはない。
【0044】
次に、このようにして得られる処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液(以下、ケイ素高分子を含む溶液を、「ケイ素高分子溶液」という)を接触させる。
【0045】
本実施の形態において、処理被固定化物に、ケイ素高分子溶液を接触させる方法は特に限定されるものではなく、例えば、ケイ素高分子溶液を処理被固定化物上に滴下したり、ケイ素高分子溶液中に、処理被固定化物を浸漬したりすればよいものとする。
【0046】
上記ケイ素高分子溶液は、例えば、ケイ素高分子(好ましくは一般式(2)で表されるケイ素高分子)を溶媒に混合させて調製すればよい。このとき使用する溶媒は、ケイ素高分子を溶解させることができるものであれば特に限定されるものではなく、このような溶媒として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、アニソール、ベンゼン、キシレン、ピリジン等の芳香族炭化水素;ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメチレン、ジクロロエタン、n−デカン、n−オクタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等のパラフィン系炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の複素環式化合物;ジメチルホルムアミド等のアミド系化合物等が挙げられるが、これらは特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0047】
また、ケイ素高分子溶液中に含まれるケイ素高分子の濃度は、特に限定されるものではないが、10-10モル/L〜10-1モル/Lの範囲内とすることが好ましく、10-5モル/L〜10-2モル/Lの範囲内とすることがより好ましい。ケイ素高分子溶液中のケイ素高分子の濃度が上記好ましい範囲を下回る場合、ケイ素高分子を固定化するのが困難になる虞があるため好ましくない。また、ケイ素高分子溶液中のケイ素高分子の濃度が上記好ましい範囲を上回る場合は、溶解性が問題になる場合がある。
【0048】
処理被固定化物にケイ素高分子溶液を接触させる時間は特に限定されるものではなく、被固定化物の大きさや、用いるケイ素高分子の種類等に応じて、適宜設定すればよいが、1分〜48時間の範囲内とすることが好ましく、10分〜10時間の範囲内とすることがより好ましい。接触時間が上記好ましい範囲を下回る場合、被固定化物の表面にケイ素高分子を確実に固定化できなくなる虞があるため好ましくない。また接触時間が上記好ましい範囲を上回る場合には、特に問題が生じることはない。
【0049】
また、処理被固定化物にケイ素高分子溶液を接触させるときの温度は、特に限定されるものではないが、上記温度の下限値は、ケイ素高分子溶液中に含まれる溶媒の常圧での融点とすることが好ましい。また、上記温度の上限値は、ケイ素高分子溶液中の溶媒の常圧での沸点とすることが好ましい。温度が上記下限値を下回ると、ケイ素高分子溶液中の溶媒が固まってしまい、ケイ素高分子と処理被固定化物との脱水素反応が十分に行われなくなる虞がある。また温度が上記上限値を上回ると、ケイ素高分子溶液中の溶媒が飛散してしまい、ケイ素高分子と処理被固定化物との脱水素反応が十分に行われなくなる虞があるため好ましくない。
【0050】
本実施の形態によれば、ケイ素高分子の末端基のSi−H構造と被固定化物の表面の水酸基とが反応し、脱水素反応が起こる。そしてこの脱水素反応により、ケイ素高分子は、処理被固定化物の表面にある水酸基と化学結合を行い、これにより、被固定化物にケイ素高分子が固定化する。
【0051】
本実施の形態によれば、化学的に安定なヒドロキシアルキルチオールを用いてケイ素高分子を被固定化物に固定化することができるので、特別な装置を用いることなく、簡便かつ低コストでケイ素高分子を被固定化物に固定化することができる。
【0052】
また、一般に、高分子の諸物性は、主鎖構造やコンホメーションに依存することが知られているが、本実施の形態によれば、ケイ素高分子の固定化に関与するのはケイ素高分子の末端基であり、ケイ素高分子の主鎖構造は何ら影響を受けないので、固定化によってケイ素高分子の諸物性が損なわれる虞はない。それゆえ、本実施にかかる方法によって、ケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体、特に、本発明にかかる方法によってケイ素高分子が固定化された金電極や金微粒子、金薄膜、金線、銀電極、銀微粒子、銀薄膜、銀線等を、例えば、情報記録媒体、分子デバイス、光学活性分子ナノセンサーシステム構築のための分子導線や分子トリガーとして好適に用いることができる。このとき、上述したように、一般式(2)中、R1で示される炭化水素基に含まれる水素原子の一部がフッ素原子にて置換されることで、フッ化炭化水素基となっていれば、ケイ素高分子の光吸収強度、蛍光強度、励起強度の変化を利用可能な構造体を提供することができる。
【0053】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
Phyranha(H2O2/H2SO4=1:3)処理した水晶振動子(QCM)の金電極を、水酸基を持つメルカプトヘキサノール(SH−C6−OH)を5ミリモル/L含むエタノール溶液中に12時間浸漬することで、金電極の表面処理を行った。
【0055】
次に、表面処理後の金電極を、ケイ素高分子としてのポリ(イソブチル−デシルシラン)(数平均分子量;Mw=1.7×104,分子量分布;Mw/Mn=1.26)を10-2モル/L、および溶媒としてのイソオクタンを含むケイ素高分子溶液中に浸漬し、浸漬時間に対する、水晶振動子の振動数変化を調べた。その結果を図1に三角印で示す。図1の結果から、経時的に振動数の減少が観察された。
【0056】
また、上記ポリ(イソブチル−デシルシラン)を10-2モル/L含むイソオクタン中に金電極を所定時間浸漬した後、さらに金電極をイソオクタンのみを含む溶液中に10〜15分間浸漬することで、物理吸着などの非特異吸着したポリ(イソブチル−デシルシラン)を洗浄した。
【0057】
そして金電極を乾燥後、水晶振動子の振動数変化を測定することによって、金電極上へのポリ(イソブチル−デシルシラン)の固定化量を求めたところ、金電極上へのポリ(イソブチル−デシルシラン)の最大固定量は、約682ng/cm2であった。これより、1分子当たりの分子占有面積を計算すると、3.2nm2/分子となり、ポリ(イソブチル−デシルシラン)が金電極上に立って配向していることを示唆する結果が得られた。
【0058】
〔比較例1〕
実施例1のメルカプトヘキサノールの代わりに、水酸基を持たないドデカンチオール(C12SH)を用いた以外は実施例1と同様にして、浸漬時間に対する、水晶振動子の振動数の変化を調べた。その結果を図1中、丸印で示す。図1より、水酸基を持たないドデカンチオールを用いた場合には、振動数の変化がみられないことがわかった。
【0059】
【発明の効果】
本発明のケイ素高分子の固定化方法は、以上のように、被固定化物に、一般式(1)
HS−R−OH………(1)
(式中、Rは炭化水素基を示す)
で表されるヒドロキシアルキルチオールを接触させて、処理被固定化物を得る工程と、上記処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液を接触させる工程とを含む構成である。
【0060】
本発明にかかる方法は、金および/または銀を含んで構成される被固定化物、具体的には、例えば、金電極、金微粒子、金薄膜、金線、銀電極、銀微粒子、銀薄膜、銀線など、金および/または銀を含んだ様々な被固定化物にケイ素高分子を固定化する場合に特に有効である。
【0061】
本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法によれば、1段階の脱水素反応によりケイ素高分子を被固定化物に固定化することができる。また、特殊な装置を用いる必要がない。それゆえ、ケイ素高分子を被固定化物に簡便かつ低コストで固定化することができるという効果を奏する。
【0062】
また、本発明にかかる構造体は、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法によってケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなるものである。
【0063】
それゆえ、ケイ素高分子の持つ様々な物性を利用可能な構造体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1および比較例1において、金電極のポリ(イソブチル−デシルシラン)中への浸漬時間に対する、水晶発振子の振動数変化を示しており、図中、三角印で示すのが、実施例1で得られた結果を示し、丸印で示すのが、比較例1で得られた結果を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ケイ素高分子を被固定化物に固定化する方法、およびその方法によってケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ケイ素(Si)によって形成された主鎖構造を有するケイ素高分子は、一般にポリシランと呼ばれ、機能性高分子として注目を集めている。ケイ素高分子は、主鎖を形成するSi−Si単結合のσ電子が主鎖全体に非局在化することにより種々の半導体特性を有する。また、ケイ素高分子は、シリコン結晶とは異なり、例えば、紫外領域に非常に鋭い発光を示すといった特性を有していることから、情報記録光媒体、分子デバイス、光学活性分子ナノセンサーシステム構築のための分子導線や分子トリガーとして期待されている。
【0003】
ケイ素高分子を分子導線や分子トリガーとして用いるには、例えば、ケイ素高分子を基板や電極等に固定化すればよい。
【0004】
ケイ素高分子を基板に固定化する方法としては、例えば、非特許文献1に開示されているように、試薬や紫外線を用いてケイ素高分子を化学修飾した後、基板に固定化する方法が知られている。
【0005】
【非特許文献1】
KAZUAKI FURUKAWA End-Grafted Polysilane-An Approach to Single Polymer Science Acc. Chem. Res. 2003, 36, 102-110
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記非特許文献1に開示の方法では、ケイ素高分子に対する多段階の化学修飾が必要である。また、取り扱いが困難で危険度の高い試薬や、紫外線を用いなければならない。したがって、上記非特許文献1の方法は煩雑であり、またコスト面および安全面から、工業的には非現実的な方法であるといえる。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、被固定化物にケイ素高分子を簡便かつ低コストで固定化する方法、およびその方法によってケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ケイ素高分子の末端基が反応性に富むSi−H構造であるという知見に基づき、フラスコ中、窒素雰囲気下、常圧下、ヒドロキシアルキルチオールで表面を処理した金(Au)を、ケイ素高分子を含むイソオクタン溶液中に室温にて数時間浸漬するだけで、金表面上にケイ素高分子を化学結合により固定化(グラフト固定化)できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法は、ケイ素高分子を被固定化物に固定化する方法において、被固定化物に、一般式(1)
HS−R−OH………(1)
(式中、Rは炭化水素基を示す)
で表されるヒドロキシアルキルチオールを接触させて、処理被固定化物を得る工程と、上記処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液を接触させる工程とを含むことを特徴としている。
【0010】
上記被固定化物にヒドロキシアルキルチオールを接触させることで、被固定化物の表面に水酸基(OH基)が結合する。本発明では、表面に水酸基が結合した被固定化物を、処理被固定化物という。この処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液を接触させると、ケイ素高分子の末端基のSi−H構造と被固定化物の表面の水酸基とが反応し、脱水素反応が起こる。この脱水素反応により、ケイ素高分子は、化学結合によって被固定化物に固定化される。この脱水素反応は1段階の工程で行われる。また、ヒドロキシアルキルチオールは、化学的に安定な物質であるため、特別な装置を用いなくても上記の処理を行うことができる。それゆえ、本発明によれば、ケイ素高分子を被固定化物に簡便かつ低コストで固定化することができる。
【0011】
本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法は、特に、金電極、金微粒子、金薄膜、金線、銀電極、銀微粒子、銀薄膜、銀線など、金や銀、または金と銀との合金を含んで構成される様々な形態の被固定化物に対してケイ素高分子を固定化する場合に特に有効である。
【0012】
したがって、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法は、上記被固定化物は、金および/または銀を含んで構成されていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法では、上記ヒドロキシアルキルチオールとして、メルカプトヘキサノール、メルカプトプロパノール、メルカプトエタノール、およびメルカプトブタノールよりなる群のうちの1または2以上を用いることを特徴としている。
【0014】
このようなヒドロキシアルキルチオールを用いることで、被固定化物の表面に水酸基を効率よく結合させることができる。
【0015】
また、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法では、ケイ素高分子は、一般式(2)
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、R1,R2は、それぞれ、炭化水素基を示し、nは整数を示す)
で表されることが好ましい。
【0018】
このとき、上記一般式(2)中、nで示される整数は、10以上、1,000,000以下であることが好ましい。
【0019】
一般式(2)における整数nが上記の範囲内であれば、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法によって得られる、ケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体を、例えば、分子導線や分子トリガーとして用いる場合に、ケイ素高分子の備える半導体特性等の諸物性を好適に利用することができる。
【0020】
また本発明では、ケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体を提供する。本発明にかかる構造体は、上記いずれかに記載の方法によって、ケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなることを特徴としている。
【0021】
一般に、高分子の諸物性は、主鎖構造やコンホメーションに依存することが知られている。本発明にかかる方法によれば、ケイ素高分子が固定化される際に、上述した脱水素反応に関与するのは、ケイ素高分子の末端基であり、上記主鎖構造が脱水素反応の影響を受けることはない。それゆえ、本発明にかかる方法によって得られる構造体では、ケイ素高分子の諸物性が損なわれていることはない。それゆえ、ケイ素高分子の持つ様々な物性を好適に利用可能な構造体を提供することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について以下に説明する。本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法は、被固定化物にヒドロキシアルキルチオールを接触させて、処理被固定化物を得る工程と、この処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液を接触させる工程を含む構成である。
【0023】
本実施の形態にかかるヒドロキシアルキルチオールは、一般式(1)
HS−R−OH………(1)
(式中、Rは炭化水素基を示す)
で表される構造を有している。
【0024】
一般式(1)中、Rで示される炭化水素基とは、具体的には、炭素数2〜12の炭化水素基を示しており、直鎖状でも枝分かれ状でもよいものとする。
【0025】
本実施の形態では、特に限定されるものではないが、上記一般式(1)で表されるヒドロキシアルキルチオールとして、例えば、メルカプトヘキサノール、メルカプトプロパノール、メルカプトエタノール、およびメルカプトブタノールよりなる群のうちの1または2以上を用いることが好ましい。
【0026】
また、本実施の形態にかかるケイ素高分子は、ケイ素(Si)によって形成された主鎖構造を有し、末端基として反応性に富むSi−H構造を有するものであれば、特に限定されるものではない。このようなケイ素高分子として、例えば、一般式(2)
【0027】
【化3】
【0028】
(式中、R1,R2は、それぞれ、炭化水素基を示し、nは整数を示す)
で表される構造を有するケイ素高分子を挙げることができる。
【0029】
一般式(2)中、R1,R2でそれぞれ示される炭化水素基とは、少なくとも1以上の炭素原子および水素原子を有していれば、特に限定されるものではない。また、上記炭化水素基は、直鎖状でも枝分かれ状でもよいものとする。
【0030】
上記R1,R2としての炭化水素基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、ビニル基、アリル基等の鎖状炭化水素基;シクロヘキシル基、シクロペンチル基等の環式飽和炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。
【0031】
なお、本実施の形態では、一般式(2)中、R1で示される炭化水素基に含まれる水素原子の一部がフッ素原子にて置換されることで、上記R1がフッ化炭化水素基となっていてもよい。
【0032】
なお、上記フッ化炭化水素基は、少なくとも1以上の炭素原子およびフッ素原子を有していればよいものとする。このようなフッ化炭化水素基としては、具体的には、ペンタフルオロフェニルプロピル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の直鎖状フッ化炭化水素基;アラルキル基等を挙げることができる。このうち、上記R1としてのフッ化炭化水素基としては、3,3,3−トリフルオロプロピル基(CF3CH2CH2−)が好ましい。
【0033】
上記一般式(2)中、R1がフッ化炭化水素基となることで構成されるケイ素高分子(このようなケイ素高分子を、以下、「フッ化アルキルケイ素高分子」と称する)は、ハロゲンイオンと相互作用することにより、主鎖構造に螺旋−螺旋転移およびコイル−ロッド転移が誘発され、立体構造に変化が生じる。これにより、フッ化アルキルケイ素高分子の光吸収波長、蛍光波長、励起波長(以下、光波長と総称する)や、光吸収強度、蛍光強度、励起強度(以下、光強度と総称する)が変化する。
【0034】
ここで、光吸収波長とは、吸収スペクトル測定によって吸収が見られる波長をいい、光吸収強度とは、光吸収波長での信号強度をいうものとする。また、蛍光波長とは、蛍光スペクトル測定によって発光が見られる波長をいい、蛍光強度とは、蛍光波長での信号強度をいうものとする。さらに、励起波長とは、励起スペクトル測定によって発光が見られる波長といい、励起強度とは、励起波長での信号強度をいうものとする。
【0035】
また、上記一般式(2)中、nで示すのは、繰り返し数であり、このnは整数であれば特に限定されるものでないが、本実施の形態では、nで示される整数は、10以上、1,000,000以下であることが好ましく、100以上、10,000以下であることがより好ましい。
【0036】
上記nが10を下回ると、一般式(2)で表されるケイ素高分子の吸収波長が250nmを下回り、蛍光強度が極めて弱くなる。そのため、このようなケイ素高分子が基板や電極といった被固定化物に固定化されてなる構造体を、例えば、情報記録光媒体、分子デバイス、光学活性ナノセンサーシステムの構築のための分子導線や分子トリガーとして用いる場合には、ケイ素高分子の備える諸物性を好適に利用できなくなる虞があり好ましくない。
【0037】
また上記nが1,000,000を上回ると、後述するように、ケイ素高分子を溶媒に溶解させるときに、ケイ素高分子の溶媒の溶解度が極めて低下するため好ましくない。
【0038】
本実施の形態では、上記一般式(2)で表されるケイ素高分子として、例えば、ポリ(デシル−イソ−ブチルシラン)、ポリ(デシル−3−メチル−ブチルシラン)、および、ポリ(デシル−4−メチル−メンチルシラン)、ポリ(イソブチル−デシルシラン)、ポリ(3,3,3−トリフルオロプロピル(メチル)シラン)等を用いることができるが、これらは特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すればよいものとする。
【0039】
また、本実施の形態における被固定化物とは、ケイ素高分子が固定化される固体を意味しており、その形状は特に限定されるものではない。したがって、本実施の形態では、上記被固定化物を、例えば、基板、粒子(微粒子)、薄膜、およびワイヤーのいずれかの形状とすることができる。なお、上記基板や粒子の大きさ、上記薄膜の膜厚、上記ワイヤーの長さは、特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すればよいものとする。
【0040】
また、本実施の形態では、上記被固定化物を構成する物質は、特に限定されるものではなく、例えば、金(Au)や銀(Ag)等の導電性物質、あるいは金と銀との合金を用いればよいが、好ましくは、上記被固定化物は、金を含んで構成されていることである。なお、被固定化物を占める金の割合は、特に限定されるものではないが、本実施の形態にかかる被固定化物は、金を1%以上含んでいることが好ましく、80%以上含んでいることがより好ましい。したがって、本実施の形態では、例えば金電極、金微粒子、金薄膜、金線、銀電極、銀微粒子、銀薄膜、銀線など、金および/または銀を含んだ様々な形態の被固定化物を用いることが好ましい。
【0041】
ここで、本実施の形態にかかるケイ素高分子を被固定化物に固定化させる方法について以下に具体的に説明する。
【0042】
本実施の形態では、まず、被固定化物に、上記一般式(1)で表されるヒドロキシアルキルチオールを接触させることで、表面に水酸基が結合した被固定化物、すなわち処理被固定化物を得る。本実施の形態において、被固定化物にヒドロキシアルキルチオールを接触させる方法は特に限定されるものではなく、例えば、上記ヒドロキシアルキルチオールを含む溶液(以下、ヒドロキシアルキルチオールを含む溶液を「ヒドロキシアルキルチオール溶液」という)を被固定化物上に滴下したり、上記ヒドロキシアルキルチオール溶液中に、被固定化物を浸漬したりすればよいものとする。
【0043】
上記ヒドロキシアルキルチオール溶液は、例えば、一般式(1)で表されるヒドロキシアルキルチオールを、エタノール等のアルコール溶媒に溶解させて調製すればよい。このとき、ヒドロキシアルキルチオール溶液中の、ヒドロキシアルキルチオールの濃度は、特に限定されるものではないが、0.1ミリモル/L〜100ミリモル/Lの範囲内とすることが好ましく、1ミリモル/L〜10ミリモル/Lの範囲内とすることがより好ましい。ヒドロキシアルキルチオールの濃度が上記好ましい範囲を下回る場合、被固定化物の表面に水酸基を結合させるのが困難になる虞があるため好ましくない。また、ヒドロキシアルキルチオールの濃度が上記好ましい範囲を上回る場合は、特に問題が生じることはない。
【0044】
次に、このようにして得られる処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液(以下、ケイ素高分子を含む溶液を、「ケイ素高分子溶液」という)を接触させる。
【0045】
本実施の形態において、処理被固定化物に、ケイ素高分子溶液を接触させる方法は特に限定されるものではなく、例えば、ケイ素高分子溶液を処理被固定化物上に滴下したり、ケイ素高分子溶液中に、処理被固定化物を浸漬したりすればよいものとする。
【0046】
上記ケイ素高分子溶液は、例えば、ケイ素高分子(好ましくは一般式(2)で表されるケイ素高分子)を溶媒に混合させて調製すればよい。このとき使用する溶媒は、ケイ素高分子を溶解させることができるものであれば特に限定されるものではなく、このような溶媒として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、アニソール、ベンゼン、キシレン、ピリジン等の芳香族炭化水素;ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメチレン、ジクロロエタン、n−デカン、n−オクタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等のパラフィン系炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の複素環式化合物;ジメチルホルムアミド等のアミド系化合物等が挙げられるが、これらは特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0047】
また、ケイ素高分子溶液中に含まれるケイ素高分子の濃度は、特に限定されるものではないが、10-10モル/L〜10-1モル/Lの範囲内とすることが好ましく、10-5モル/L〜10-2モル/Lの範囲内とすることがより好ましい。ケイ素高分子溶液中のケイ素高分子の濃度が上記好ましい範囲を下回る場合、ケイ素高分子を固定化するのが困難になる虞があるため好ましくない。また、ケイ素高分子溶液中のケイ素高分子の濃度が上記好ましい範囲を上回る場合は、溶解性が問題になる場合がある。
【0048】
処理被固定化物にケイ素高分子溶液を接触させる時間は特に限定されるものではなく、被固定化物の大きさや、用いるケイ素高分子の種類等に応じて、適宜設定すればよいが、1分〜48時間の範囲内とすることが好ましく、10分〜10時間の範囲内とすることがより好ましい。接触時間が上記好ましい範囲を下回る場合、被固定化物の表面にケイ素高分子を確実に固定化できなくなる虞があるため好ましくない。また接触時間が上記好ましい範囲を上回る場合には、特に問題が生じることはない。
【0049】
また、処理被固定化物にケイ素高分子溶液を接触させるときの温度は、特に限定されるものではないが、上記温度の下限値は、ケイ素高分子溶液中に含まれる溶媒の常圧での融点とすることが好ましい。また、上記温度の上限値は、ケイ素高分子溶液中の溶媒の常圧での沸点とすることが好ましい。温度が上記下限値を下回ると、ケイ素高分子溶液中の溶媒が固まってしまい、ケイ素高分子と処理被固定化物との脱水素反応が十分に行われなくなる虞がある。また温度が上記上限値を上回ると、ケイ素高分子溶液中の溶媒が飛散してしまい、ケイ素高分子と処理被固定化物との脱水素反応が十分に行われなくなる虞があるため好ましくない。
【0050】
本実施の形態によれば、ケイ素高分子の末端基のSi−H構造と被固定化物の表面の水酸基とが反応し、脱水素反応が起こる。そしてこの脱水素反応により、ケイ素高分子は、処理被固定化物の表面にある水酸基と化学結合を行い、これにより、被固定化物にケイ素高分子が固定化する。
【0051】
本実施の形態によれば、化学的に安定なヒドロキシアルキルチオールを用いてケイ素高分子を被固定化物に固定化することができるので、特別な装置を用いることなく、簡便かつ低コストでケイ素高分子を被固定化物に固定化することができる。
【0052】
また、一般に、高分子の諸物性は、主鎖構造やコンホメーションに依存することが知られているが、本実施の形態によれば、ケイ素高分子の固定化に関与するのはケイ素高分子の末端基であり、ケイ素高分子の主鎖構造は何ら影響を受けないので、固定化によってケイ素高分子の諸物性が損なわれる虞はない。それゆえ、本実施にかかる方法によって、ケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体、特に、本発明にかかる方法によってケイ素高分子が固定化された金電極や金微粒子、金薄膜、金線、銀電極、銀微粒子、銀薄膜、銀線等を、例えば、情報記録媒体、分子デバイス、光学活性分子ナノセンサーシステム構築のための分子導線や分子トリガーとして好適に用いることができる。このとき、上述したように、一般式(2)中、R1で示される炭化水素基に含まれる水素原子の一部がフッ素原子にて置換されることで、フッ化炭化水素基となっていれば、ケイ素高分子の光吸収強度、蛍光強度、励起強度の変化を利用可能な構造体を提供することができる。
【0053】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
Phyranha(H2O2/H2SO4=1:3)処理した水晶振動子(QCM)の金電極を、水酸基を持つメルカプトヘキサノール(SH−C6−OH)を5ミリモル/L含むエタノール溶液中に12時間浸漬することで、金電極の表面処理を行った。
【0055】
次に、表面処理後の金電極を、ケイ素高分子としてのポリ(イソブチル−デシルシラン)(数平均分子量;Mw=1.7×104,分子量分布;Mw/Mn=1.26)を10-2モル/L、および溶媒としてのイソオクタンを含むケイ素高分子溶液中に浸漬し、浸漬時間に対する、水晶振動子の振動数変化を調べた。その結果を図1に三角印で示す。図1の結果から、経時的に振動数の減少が観察された。
【0056】
また、上記ポリ(イソブチル−デシルシラン)を10-2モル/L含むイソオクタン中に金電極を所定時間浸漬した後、さらに金電極をイソオクタンのみを含む溶液中に10〜15分間浸漬することで、物理吸着などの非特異吸着したポリ(イソブチル−デシルシラン)を洗浄した。
【0057】
そして金電極を乾燥後、水晶振動子の振動数変化を測定することによって、金電極上へのポリ(イソブチル−デシルシラン)の固定化量を求めたところ、金電極上へのポリ(イソブチル−デシルシラン)の最大固定量は、約682ng/cm2であった。これより、1分子当たりの分子占有面積を計算すると、3.2nm2/分子となり、ポリ(イソブチル−デシルシラン)が金電極上に立って配向していることを示唆する結果が得られた。
【0058】
〔比較例1〕
実施例1のメルカプトヘキサノールの代わりに、水酸基を持たないドデカンチオール(C12SH)を用いた以外は実施例1と同様にして、浸漬時間に対する、水晶振動子の振動数の変化を調べた。その結果を図1中、丸印で示す。図1より、水酸基を持たないドデカンチオールを用いた場合には、振動数の変化がみられないことがわかった。
【0059】
【発明の効果】
本発明のケイ素高分子の固定化方法は、以上のように、被固定化物に、一般式(1)
HS−R−OH………(1)
(式中、Rは炭化水素基を示す)
で表されるヒドロキシアルキルチオールを接触させて、処理被固定化物を得る工程と、上記処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液を接触させる工程とを含む構成である。
【0060】
本発明にかかる方法は、金および/または銀を含んで構成される被固定化物、具体的には、例えば、金電極、金微粒子、金薄膜、金線、銀電極、銀微粒子、銀薄膜、銀線など、金および/または銀を含んだ様々な被固定化物にケイ素高分子を固定化する場合に特に有効である。
【0061】
本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法によれば、1段階の脱水素反応によりケイ素高分子を被固定化物に固定化することができる。また、特殊な装置を用いる必要がない。それゆえ、ケイ素高分子を被固定化物に簡便かつ低コストで固定化することができるという効果を奏する。
【0062】
また、本発明にかかる構造体は、本発明にかかるケイ素高分子の固定化方法によってケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなるものである。
【0063】
それゆえ、ケイ素高分子の持つ様々な物性を利用可能な構造体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1および比較例1において、金電極のポリ(イソブチル−デシルシラン)中への浸漬時間に対する、水晶発振子の振動数変化を示しており、図中、三角印で示すのが、実施例1で得られた結果を示し、丸印で示すのが、比較例1で得られた結果を示す。
Claims (6)
- ケイ素高分子を被固定化物に固定化する方法において、
被固定化物に、一般式(1)
HS−R−OH………(1)
(式中、Rは炭化水素基を示す)
で表されるヒドロキシアルキルチオールを接触させて、処理被固定化物を得る工程と、
上記処理被固定化物に、ケイ素高分子を含む溶液を接触させる工程とを含むことを特徴とするケイ素高分子の固定化方法。 - 上記被固定化物は、金および/または銀を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のケイ素高分子の固定化方法。
- 上記ヒドロキシアルキルチオールとして、メルカプトヘキサノール、メルカプトプロパノール、メルカプトエタノール、およびメルカプトブタノールよりなる群のうちの1または2以上を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のケイ素高分子の固定化方法。
- 上記一般式(2)中、nで示される整数は、10以上、1,000,000以下であることを特徴とする請求項4に記載のケイ素高分子の固定化方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって、ケイ素高分子が被固定化物に固定化されてなる構造体。
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