JP3699514B2 - 架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルおよびその製造方法に関する。本発明において製造された電力ケーブルは低電圧(約6kV)から高電圧(約500kV)またはそれ以上に及ぶ広範囲の電力輸送に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルは、導体上に内部半導電層を介して絶縁耐力にすぐれ、誘電率や誘電損が低いポリエチレンを被覆し、該ポリエチレンを架橋して絶縁層として、その上に外部半導電層やシース層を被覆した電力ケーブルであるが、固形絶縁であるため、OFケーブル(油浸紙絶縁ケーブル)に必要な設置スペース、メンテナンスおよび油による火災対策等の費用が不要であるので、近年、OFケーブルに代わって使用されるようになってきた。
【0003】
架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブル(以下においてCVケーブルと呼称することもある)の半導電層は電位傾度の改善や同電位化を図り、耐電圧性質を向上させるためのものであり、高温使用時における変形防止や脆化温度の低減を図り、低温時における脆性破壊を防止する目的で、有機過酸化物により化学架橋されている。従って、半導電層用樹脂組成物は、架橋剤(有機過酸化物)を樹脂に混練する工程からケーブルに押出被覆する工程までの間に、架橋剤が架橋反応を起こさない温度以下に保って作業する必要があるが、半導電性とするために大量のカーボンブラックを配合しているので、混練時に溶融粘度が上昇し、発熱し、早期架橋を引き起こすので、これを回避するため、樹脂としてはなるべく溶融温度が低く、カーボンブラックの混和性にすぐれ、溶融粘度が低く、押出加工性が高いエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下においてEVAと呼称することもある)やエチレン−エチルアクリレート共重合体(以下においてEEAと呼称することもある)が使用されてきた。
【0004】
すなわち、上記従来の方法では、早期架橋を避けるため、EVAやEEA等を使用し、低温で被覆加工を行っているため、被覆速度が遅く、生産性が悪く、またEVAやEEA等は分子内に極性基を有するので、誘電率や誘電損が大きく、さらに、電力ケーブルを水中浸漬または導体注水状態に長期間放置した場合、水トリーの発生、交流破壊電圧の低下等が起こり、電力ケーブルの寿命が短くなり、またEVAやEEA等は融点が低いので、電力ケーブルの使用温度の上限が限られる等の問題点がある。
【0005】
また、半導電層用樹脂組成物に微量の異物が存在していると、該異物が微量であっても、半導電層と絶縁層の界面に不整が発生し、不整部で急所的な高電界部が形成され、コロナ放電やケーブル浸水時の水トリー劣化の原因となり、ケーブル寿命を短くし、望ましくない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルの従来の製造方法が有する問題点を解決するためになされたものであり、具体的には
(イ)早期架橋による電力ケーブル中における不整部の発生を防止し、ケーブル寿命を長くすること、
(ロ)早期架橋を回避するため、低温分解性の有機過酸化物を使用すると生産性が低下するが、これを解決すること、
(ハ)早期架橋を回避するため、EVAやEEA等の低融点の樹脂を使用すると、ケーブルの電気特性が低下し、ケーブルの寿命を縮めるが、これを解決すること、
(ニ)半導電層用樹脂組成物中の異物の存在による半導電層と絶縁層との界面における不整をなくし、ケーブル寿命を延長すること、
(ホ)内部半導電層は、外部からの加熱加圧架橋では外部からの熱が内部に及ぶまでに比較的長い時間を要し、生産性が悪化するので、誘電加熱を併用し、中心の導体側からも加熱し架橋速度を高められるが、そのためには設備費がかかり、操作コントロールが困難であり、コストアップにつながっていたが、これらの問題点を解決すること、
(ヘ)EVAやEEA等に代えて、電気特性が良好で、ケーブルの高温時使用に耐え、ケーブルの寿命を延ばすメタロセン触媒によるポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(例えばLLDPE、VLDPE)等を使用して製造した電力ケーブルを提供すること、
(ト)原料のエチレン系樹脂中に異物が存在していても、容易に除去される電力ケーブルの製造方法を提供し、コストダウンを図ること、
等を課題としてなされたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、従来の電力ケーブルの製造における上記した問題点を検討したところ、上記問題点は内部半導電層用エチレン系樹脂組成物中の有機過酸化物に起因するものであることを解明し、内部半導電層用エチレン系樹脂組成物に有機過酸化物を使用しないにもかかわらず、内部半導電層が従来の電力ケーブルの内部半導電層と同等に架橋され得ることを、有機過酸化物の高速分散性の現象を適用することにより見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、内部半導電層押出機、絶縁層押出機および外部半導電層押出機を配置した三層コモンクロスヘッドを有する三層コモン押出装置を用いて架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルを製造する方法において、有機過酸化物を含有しない内部半導電層用エチレン系樹脂組成物、有機過酸化物を含有する絶縁層用エチレン系樹脂組成物および有機過酸化物を含有する外部半導電層用エチレン系樹脂組成物を使用し、かつ、内部半導電層押出機のダイプレートには500メッシュ以上のスクリーンパックを設け、内部半導電層用エチレン系樹脂組成物を前記内部半導電層押出機中で150〜250℃に加熱溶融した後、前記スクリーンパックを通過させて異物を除去し、次いで前記の内部半導電層用エチレン系樹脂組成物、絶縁層用エチレン系樹脂組成物および外部半導電層用エチレン系樹脂組成物を導体外部に押出被覆した後、架橋筒内に導き、外部加熱架橋を行うことを特徴とする架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルの製造方法に関する。
本発明はまた、この本発明の方法により製造された架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルに関する。
【0009】
本発明において使用される三層コモン押出装置は、内部半導電層押出機、絶縁層押出機および外部半導電層押出機を配置した三層コモンクロスヘッドを有するものであり、これ自体は公知のものがそのまま使用できる。
【0010】
本発明において、内部半導電層用エチレン系樹脂組成物は、エチレン系樹脂100重量部に対して導電性付与剤を70重量部以上を配合したものであり、有機過酸化物は配合されていないことが必須要件である。その理由は有機過酸化物が配合されていると、早期架橋を引き起こすからである。なお、導電性付与剤とはカーボンブラック、例えばファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等である。
【0011】
エチレン系樹脂としては、EVA、EEA、高圧法低密度ポリエチレン(HP−LDPE)、低圧法高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度エチレン−αオレフィン共重合体(LLDPE)、直鎖状超低密度エチレン−αオレフィン共重合体(VLDPE)、メタロセン系シングルサイト触媒によって製造したエチレン−αオレフィン共重合体等が使用できる。
【0012】
本発明において、絶縁層用エチレン系樹脂組成物は有機過酸化物が配合されていることが必須要件である。
有機過酸化物としては、1分間半減期を得るまでの分解温度が150〜200℃のものが望ましく、例えば1,1−ビス−第三ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ビス−第三ブチルパーオキシブタン、第三ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−第三ブチルパーオキシヘキサン、第三ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−第三ブチルパーオキシヘキシン−3等を挙げることができ、特にジクミルパーオキサイドが好ましい。
【0013】
有機過酸化物の配合量はエチレン系樹脂100重量部に対して1.0〜5.0重量部であり、好ましくは2.0〜4.0重量部である。絶縁層用エチレン系樹脂組成物中の有機過酸化物は、溶融状態の内部半導電層用エチレン系樹脂組成物中に移行するので、その量を見込んで、内部半導電層と絶縁層とに必要な架橋度(ゲル分率)を考慮し、配合することが必要である。
【0014】
本発明において外部半導電層用エチレン系樹脂組成物は有機過酸化物を含有することを必須要件とする。その理由は有機過酸化物による架橋により外部半導電層の使用時における機械的強度、耐加熱変形耐力が得られるからである。
【0015】
絶縁層および外部半導電層に用いるエチレン系樹脂は内部半導電層用として列挙したエチレン系樹脂から選択され得る。また、外部半導電層用として用いる有機過酸化物は絶縁層用として列挙したものから選択され得る。
【0016】
絶縁層および外部半導電層のエチレン系樹脂組成物にもまた、導電性付与剤が配合されるが、導電性付与剤とはカーボンブラック、例えばファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等を意味する。ケッチェンブラックの場合は樹脂成分100重量部に対して15重量部以上を、その他のカーボンブラックの場合は40重量部以上を配合する。上記配合量未満では十分な導電性が得られない。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明においては、内部半導電層押出機のダイプレートに500メッシュ以上のスクリーンパックを設け、内部半導電層用エチレン系樹脂組成物を前記内部半導電層押出機中で150〜250℃、好ましくは200〜250℃の温度範囲で加熱溶融し、次いで150〜250℃、好ましくは200〜250℃の温度範囲で加熱溶融された絶縁層と一体化する。上記のように、内部半導電層用エチレン系樹脂組成物は高温でスクリーンパックを通過させるので、溶融粘度が低くなっており、目の細かいスクリーンパックを容易に低抵抗で通過でき、前記組成物中に異物が存在しても、スクリーンパックで除去することが可能となり、内部半導電層と絶縁層の界面に不整部を発生させないので、電力ケーブルの長寿命化を可能とする効果があり、また、内部半導電層と絶縁層を150〜250℃、好ましくは200〜250℃で溶融状態において一体化させるので、絶縁層に含有されている有機過酸化物が界面を横切って内部半導電層に高速で移行し、内部半導電層内に均一に分散するので、後の工程である架橋筒内で架橋反応を起こし、内部半導電層を架橋させ、従来の内部半導電層用樹脂組成物に予め有機過酸化物を配合させた場合より均一な架橋が起こり、高品質で長寿命の電力ケーブルを製造することができる。
【0018】
本発明においては、上記のように、内部半導電層を高温で被覆することができ、架橋反応も高温で行うことができるので、製造工程の速度を非常に高めることができ、コストダウンを図ることができる。また、従来の内部半導電層自体に有機過酸化物を予め含有させる架橋方法では、溶融粘度が高すぎて生産性が悪く、使用できなかったメタロセン系シングルサイト触媒によって製造されるエチレン−αオレフィン共重合体、LLDPE、VLDPE、HDPE等の使用が可能となり、電力ケーブルの高温使用時における劣化防止や変形防止の効果をより高めることも可能となる。
【0019】
本発明においては、上記した内部半導電層用エチレン系樹脂組成物、絶縁層用エチレン系樹脂組成物および外部半導電層用エチレン系樹脂組成物を、三層コモンクロスヘッドを有する三層コモン押出装置に供給し、上記3種の樹脂組成物を同時に押出被覆し、その後、架橋筒内に導入し、外部から加熱して架橋させて、電力ケーブルを製造する。
【0020】
【実施例】
次に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
A.内部半導電層用エチレン系樹脂組成物の準備
直鎖状低密度エチレン−ブテン−1共重合体(密度0.92g/ml,メルトインデックス3.7g/10分,融点121℃)100重量部に酸化防止剤〔イルガノックス1010(商品名,Irganox 1010)〕0.3重量部およびアセチレンブラック80重量部を150℃で10分間混練した後、ペレット(3mm×3mm)とし、内部半導電層用エチレン系樹脂組成物とした。
B.絶縁層用エチレン系樹脂組成物の準備
高圧法低密度ポリエチレン(密度0.92g/ml,メルトインデックス3.5g/10分,融点101℃)100重量部に酸化防止剤〔シーノックスBCS(商品名, Seenox BCS)〕0.18重量部を130℃で10分間混練した後、ペレット(3mm×3mm)とし、これに有機過酸化物(ジクミルパーオキサイド)3重量部を添加し、70℃で5時間ゆっくり攪拌して、ペレット内部まで有機過酸化物を均一に含浸させ、絶縁層用エチレン系樹脂組成物とした。
C.外部半導電層用エチレン系樹脂組成物の準備
高圧法エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量28重量%,メルトインデックス20g/10分,融点91℃)100重量部に酸化防止剤〔イルガノックス1010(商品名,Irganox 1010)〕0.3重量部およびアセチレンブラック80重量部を130℃で10分間混練した後、ペレット(3mm×3mm)とし、これに有機過酸化物〔2,5−ジメチル−2,5−ジ(第三ブチルパーオキシ)ヘキシン〕0.5重量部を添加し、70℃で5時間ゆっくり攪拌して、ペレット内部まで有機過酸化物を均一に含浸させ、外部半導電層用樹脂組成物とした。
【0021】
D.三層コモン押出装置
500メッシュ以上のスクリーンパックをダイプレートに設けた内部半導電層押出機、絶縁層押出機および外部半導電層押出機を順次配置した三層コモンクロスヘッドを有する押出装置を準備した。
【0022】
E.電力ケーブルの製造
上述した内部半導電層用エチレン系樹脂組成物、絶縁層用エチレン系樹脂組成物および外部半導電層用エチレン系樹脂組成物を上記押出装置のそれぞれの押出機に供給し、内部半導電層押出機では200℃で加熱混練し、絶縁層押出機では130℃で加熱混練し、外部半導電層押出機では110℃で加熱混練し、それぞれの押出機から押出し、三層コモンクロスヘッドのダイスより導体上に同時に押出被覆し、その下流に位置する230℃に加熱した架橋筒で架橋反応を行い、電力ケーブルを得た。
この電力ケーブルの各層の架橋度(ゲル分率)を測定したところ、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層はそれぞれ78%、82%および80%であり、各層の界面では不整は認められず、高品質の電力ケーブルが得られた。
【0023】
実施例2
実施例1において、直鎖状低密度エチレン−ブテン−1共重合体に代えて、メコロセン系シングルサイト触媒を用いて製造したエチレン−オクテン−1共重合体(密度0.910g/ml,メルトインデックス3.5g/10分,融点103℃)を使用した以外は実施例1と同様の実験を行ったところ、各層の架橋度(ゲル分率)は、内部半導電層が78%、絶縁層が82%、そして外部半導電層が80%であり、各層の界面では不整が認められない高品質の電力ケーブルが得られた。
【0024】
【発明の効果】
本発明の架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルおよびその製造方法は上に詳しく説明したような構成を採用したことにより、従来のものに比べ以下のような顕著な効果を奏する:
(a)内部半導電層用エチレン系樹脂組成物には有機過酸化物が配合されていないため、従来のものに比べ高温で押出被覆できるので、生産性を向上させることができ、異物の除去が容易で、しかも異物レベルの低下を図ることができる。
(b)内部半導電層および絶縁層を高温で押出被覆するため、絶縁層の有機過酸化物の一部が高速で内部半導電層側に移行し、内部半導電層を架橋させるので、内部半導電層用エチレン系樹脂組成物に有機過酸化物が配合されていないにもかかわらず、内部半導電層は架橋され、従来の電力ケーブルに比べ低コストで同等の性能の電力ケーブルを得ることができる。
(c)高温における押出加工性が悪く、従来生産性を犠牲にして使用せざるを得なかったポリエチレン系樹脂、例えばLLDPE、VLDPE、メタロセン系シングルサイト触媒によるポリエチレン等も、本発明によれば生産性を犠牲にすることなく、内部半導電層用樹脂として使用することができるので、電気的特性、機械的特性、耐熱性(高温時にても使用可)にすぐれた電力ケーブルを製造することができる。
(d)内部半導電層の押出被覆において、早期架橋が起こらないので、高品質の電力ケーブルが得られる。
(e)内部半導電層用押出機には、500メッシュ以上のスクリーンパックを取付け、高温操業が可能であるので、異物レベルを下げることができ、内部半導電層と絶縁層との界面における不整の発生を防止でき、界面の不整部(突起部)から発生するコロナ放電や水トリーを防止でき、電力ケーブルの寿命を長くすることができる。
(f)従来の外部加熱による架橋では、内部まで熱が伝導するために比較的長い時間を要し、生産性が悪かったが、本発明においては、内部半導電層の被覆温度を従来より高温とすることができるので、高い生産性で押出被覆が可能である。また、上記被覆温度が高温である程、有機過酸化物の半減期が短くなり、生産性の向上を図ることができる。
Claims (2)
- 内部半導電層押出機、絶縁層押出機および外部半導電層押出機を配置した三層コモンクロスヘッドを有する三層コモン押出装置を用いて架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルを製造する方法において、有機過酸化物を含有しない内部半導電層用エチレン系樹脂組成物、有機過酸化物を含有する絶縁層用エチレン系樹脂組成物および有機過酸化物を含有する外部半導電層用エチレン系樹脂組成物を使用し、かつ、内部半導電層押出機のダイプレートには500メッシュ以上のスクリーンパックを設け、内部半導電層用エチレン系樹脂組成物を前記内部半導電層押出機中で150〜250℃に加熱溶融した後、前記スクリーンパックを通過させて異物を除去し、次いで前記の内部半導電層用エチレン系樹脂組成物、絶縁層用エチレン系樹脂組成物および外部半導電層用エチレン系樹脂組成物を導体外部に押出被覆した後、架橋筒内に導き、外部加熱架橋を行うことを特徴とする架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルの製造方法。
- 請求項1記載の方法により製造された架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブル。
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