JP3689028B2 - 超伝導磁石装置における超伝導シム・デバイスの寸法設計方法、及び超伝導磁石装置 - Google Patents
超伝導磁石装置における超伝導シム・デバイスの寸法設計方法、及び超伝導磁石装置 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、少なくとも一つの超伝導磁石コイルと、少なくとも一つの超伝導シム・コイルを有するシム・デバイスと、一つ以上の付加的超伝導閉電流路(以下、単に、「付加的超伝導電流路」、「付加的電流路」、「超伝導閉電流路」、又は「電流路」ともいう)を備え、z軸上のz=0を中心に配される作業容積においてz軸方向に磁場を発生する超伝導磁石装置に関し、詳しくは、動作中に該付加的電流路に誘導される電流によって生ずるz軸方向の磁場が該作業容積において0.1テスラという大きさを超えず、該シム・デバイスがz軸に沿って偶数のべきk>0でzのk乗で変化する磁場を発生する超伝導磁石装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
このタイプのz2シム・デバイスを備えた超伝導磁石装置は、例えば、ブルーカー・マグネティクス社によって販売されているNMR磁石システム600 SB UltraShield (登録商標)の一部になっている(1999年5月15日付けの同社パンフレット)。
【0003】
米国特許第5,329,266号は、z2シム・デバイスを用いず、アクティブ・シールドされる磁石と付加的超伝導電流路を備えた超伝導磁石装置を記述している。
【0004】
超伝導磁石が用いられる応用分野はいろいろであるが、特に磁気共鳴法に応用する場合には通常、磁場の局所的均一性が重要になる。最も要求の厳しい応用分野は高分解能核磁気共鳴分光学(NMRスペクトロスコピー)である。超伝導磁石の基本的な均一性は、磁場を発生する磁石コイルの幾何的な配置によって最適化される。要求が厳しい応用分野では、生産における許容誤差によって設計からのずれが生じるために、磁石の基本的な均一性は、通常、不十分である。磁石に残留する不均一性を補償するために、磁石システムは、作業容積において一定の幾何的対称性を有する磁場不均一性を補償する自律的な超伝導コイル、いわゆるシム・デバイス、を備える。このようなシム・デバイスの例は、磁石の軸であるz軸に沿ってznのように変化する磁場を生ずるいわゆるZnシムである。本発明の主たる焦点は、例えば、外部磁場の変動を補償するためにアクティブ浮遊磁場シールドと付加的超伝導電流路を備えた磁石システムにおける超伝導Znシムの寸法設計方法にある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
作業容積における超伝導Znシムの磁場への寄与は、シム・コイル自身の寄与とシム・デバイスの充電時に超伝導磁石に誘導される電流さらに超伝導閉電流路に誘導される電流による磁場変化を考慮に入れて、シム・コイルの電流に関わりなく、z=0で実質的にゼロでなければならない。従来の方法によるZnシムの寸法設計では、場合によっては、シム・デバイス充電時に作業容積におけるz=0での磁場強度に望ましくないずれを生ずることがある。アクティブ・シールド磁石の場合、この挙動は特にシム・コイルが異なる半径に配分されるシム・デバイスで明らかである。それは、従来の超伝導シム・デバイスの寸法設計方法が超伝導体を非磁性物質として扱っているためである。本発明は、例えば、超伝導シム・デバイスの充電時に磁石体積で発生する可能性がある0.1テスラ未満の磁場変動に対して、超伝導体は実質的に反磁性体の挙動を示し、従ってその内部領域から小さな磁場変動を大部分排除してしまうということを考慮に入れている。これは磁石装置の中で磁場変動の磁束の再分配を生じ、それはさらに、シム・デバイスの電流変化に対する超伝導磁石の応答、さらに超伝導閉電流路の応答に影響する。この応答は、超伝導閉ループを通る磁束の保存という原理によって決定されるからである。
【0006】
これに対し、本発明の根底にある目的は、上記タイプの磁石装置における超伝導Znシムをできるだけシンプルな仕方で変更し、特に、シム・コイルの電流に関わりなく作業容積における磁場への寄与がz=0で実質的にゼロであるように、超伝導体の反磁性を考慮に入れながらシム・デバイスを正しく寸法設計することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、本発明に従って、変数(数式A)が、α=0のときに得られる変数(数式B)がゼロより大、特にアンペア当たり0.2ミリテスラより大である場合かつその場合に限り、ゼロとなるように、即ち、全くのゼロを内包するゼロ近傍を含む実質的にゼロ(以下、「実質的にゼロ」という場合も同様の意味である)であるようにシム・デバイスを設計することによって達成される。
【0008】
上記の変数は以下のように定義される。
(数式E):作業容積内のz=0における磁場へのシム・デバイスの電流1アンペア当たりの磁場寄与分であって、その際シム・コイル自身の磁場寄与分、及びシム・デバイスの充電時の超伝導磁石コイル系と超伝導短絡電流路とに誘導される電流による磁場変化の寄与分も考慮に入れた磁場寄与分、
−α :大きさ0.1Tを超えない磁場変動に関する磁石コイル系の体積での平均磁化率(0<α≦1)、
gT=(gM,gp1,…,gpj,…,gpn)、
gpj :電流路Pjの1アンペア当たりの作業容積における磁場であって、i≠jの電流路Pi及び磁石コイル系の磁場寄与分を含まず、シム・
デバイスの磁場寄与分を含まない磁場、
gM :磁石コイル系の1アンペア当たりの作業容積における磁場であって、付加的電流路の磁場寄与分を含まず、シム・デバイスの磁場寄与分を含まない磁場、
gS :シム・デバイスの1アンペア当たりの作業容積における磁場であって、付加的電流路の及び磁石コイル系の磁場寄与分を含まない磁場、
Lcl:磁石コイル系と付加的電流路の間及び付加的電流路間の誘導結合の行 列、
Lcor :インダクタンス行列Lclの補正であって、これは磁石コイル系の体積からの擾乱磁場の完全な反磁性的排除によって生ずる補正、
(数式C):シム・デバイスと磁石コイル系及び付加的電流路との誘導的結合のベクトル、
(数式D):結合ベクトル(数式C)の補正であって、これは磁石コイル系の体積からの擾乱磁場の完全な反磁性的排除によって生ずる補正。
【0009】
従来の方法では、Znシムの正しい寸法設計には、シム・デバイス、付加的超伝導電流路、及び磁石の(他の成分のそれぞれの反応は考慮に入れない)磁場効率gS、gp1、…、gpn、及びgM、及びシム・デバイス、付加的電流路、及び磁石の間の相互誘導結合、ならびに自己インダクタンス、の正しい計算を必要とし、シム・デバイスは、変数(数式B)が実質的にゼロとなるように設計される。本発明による装置のシム・デバイスの寸法設計は、上記のコイル性質の他に磁石コイル系の超伝導体積部分の磁気遮蔽挙動も考慮に入れる。このため、シム・デバイスは、変数
【0010】
【数15】
【0011】
(以下、「数式N」と略称する)ではなく変数(数式A)が実質的にゼロとなるように寸法設計される。超伝導体の上記の磁気遮蔽挙動は全ての超伝導磁石装置で存在するが、いくつかの場合にしか変数(数式E)に顕著な影響を及ぼさない。本発明は、そのような磁石装置でも、(数式E)が実質的にゼロであるというシム・デバイスに関する条件が満たされるという点で有利である。
【0012】
本発明の上記の利点は、主に作業容積における磁場の局所的均一性が特に重要であるシステムにおいて顕著になる。したがって、ある好ましい実施形態では、本発明の磁石装置は高分解能磁気共鳴分光学のための装置、例えばNMR、ICR、又はMRIの分野における装置の一部になる。
【0013】
この実施形態のさらに有利な発展例では、磁気共鳴装置は作業容積に発生される磁場を磁場ロックする手段を備える。
【0014】
さらに改良された発展例では、該磁石装置はまた磁場変調コイルも備える。
【0015】
本発明の磁石装置の特に好ましいある実施形態では、超伝導磁石コイル系は電気的に直列に結合された半径方向内側及び半径方向外側の二つの同軸コイル系を備え、これら二つのコイル系がそれぞれ、作業容積内に向きが反対のz軸方向の磁場を発生する。このような装置では、超伝導体の反磁性的遮蔽挙動が、普通、磁石コイル系におけるいくつかのシム・デバイスの作業容積内の実効磁場強度(数式E)に特に強い影響を及ぼす。
【0016】
この実施形態のさらに別の発展例では、半径方向内側のコイル系及び半径方向外側のコイル系がほぼ等しい大きさで反対方向の双極子モーメントを有する。これは磁石コイル系の浮遊磁場を最適に抑制するための条件である。アクティブ・シールド磁石は技術的に非常に重要であるから、磁石コイル系における超伝導体の上記磁場遮蔽挙動がシム・デバイスの作業容積における実効磁場強度(数式E)に顕著な影響を及ぼす場合、それらの磁石におけるシム・デバイスの正しい寸法設計は相当に重要である。
【0017】
上記のある実施形態のさらに有利な発展例では、磁石コイル系が動作時に超伝導的に短絡される第1の電流路を形成し、磁石コイル系とは電気的に結合されていない擾乱補償コイルが磁石コイル系と同軸的に配置されて動作時に超伝導的に短絡される別の電流路を形成する。擾乱補償コイル(以下、単に、「擾乱コイル」ともいう)の存在は、外部磁場変動の影響下における作業容積内の磁場の時間的な安定性を改善する。本発明の磁石装置のこの発展例は、シム・デバイスの作業容積内の実効磁場強度(数式E)に対する擾乱補正コイルの影響を考慮に入れている。
【0018】
別の有利な発展例では、少なくとも一つの付加的電流路は、超伝導スイッチで橋絡される磁石コイル系の一部である。この装置は、外部磁場変動の影響下における作業容積内の磁場の時間的な安定性を改善する。本発明の磁石装置のこの別の発展例は、磁石コイル系の一部を超伝導スイッチで橋絡することがシム・デバイスの作業容積内の実効磁場強度(数式E)に及ぼす影響を考慮に入れている。
【0019】
本発明の磁石装置の別の有利な発展例では、少なくとも一つの付加的電流路は、磁石コイル系のドリフトを補償するシステムの一部である。この装置は、作業容積内の磁場の時間的な安定性を改善する。本発明の磁石装置のこの別の発展例は、ドリフト補償がシム・デバイスの作業容積内の実効磁場強度(数式E)に及ぼす影響を考慮に入れている。
【0020】
別のある有利な発展例では、少なくとも一つの付加的電流路は別の超伝導シム・デバイスである。この装置は、いろいろな対称性を有する磁場不均一性を補償する。本発明の磁石装置のこの別の発展例は、付加的な超伝導シム・デバイスが第1のシム・デバイスの作業容積内の実効磁場強度(数式E)に及ぼす影響を考慮に入れている。
【0021】
本発明の磁石装置の特に好ましいある実施形態は、超伝導シム・デバイスが作業容積内にz軸に沿ってz2依存性を有する磁場を生ずることを特徴とする。超伝導磁石コイル系は、しばしば、作業容積内でz軸に沿ってz2依存性を有する磁場不均一性を示すので、このようなシム・デバイスは特に重要である。
【0022】
この磁石装置の特に有利な別の発展例では、この超伝導シム・デバイスはシム・デバイスのコンパクトな構成を可能にするように異なる半径で巻かれた部分コイルを備える。このような装置の磁石コイル系における超伝導体の磁場遮蔽挙動は、普通、シム・デバイスの作業容積における実効磁場強度(数式E)に特に強い影響を及ぼす。
【0023】
本発明の磁石装置の別の有利な発展例は、超伝導磁石コイル系の充電時又はクエンチ時にシム・デバイスに高電流が誘導されることを防ぐために、超伝導シム・デバイスが超伝導磁石コイル系から誘導的に分離されていることを特徴とする。
【0024】
この実施形態のさらに有利な発展例は、半径方向内側及び半径方向外側コイル系の異なる極性を利用して磁石コイル系とシム・デバイスを誘導的に分離するものであり、超伝導磁石コイル系は電気的に直列に結合された半径方向内側及び半径方向外側の同軸コイル系を有し、この二つのコイル系はそれぞれ、作業容積内にz軸に沿って反対方向の一つの磁場を発生する。異なる極性の半径方向内側及び半径方向外側コイル系を用いることによって、上記実施形態に係わる磁石装置の設計が容易になる。
【0025】
本発明はまた、シム・デバイスの寸法設計の方法であって、シム・デバイスの電流1アンペア当たりの作業容積におけるz=0での磁場変化に対応する変数(数式E)が磁石装置の他の部分に誘導される電流による磁場を考慮に入れて次のように計算されることを特徴とする方法を含む、すなわち、
【0026】
【数16】
【0027】
ここで、これらの変数は上記の定義を有する。シム・デバイスの寸法設計のためのこの方法は、磁石コイル系における超伝導体の磁気遮蔽挙動を有利に考慮に入れている。この方法は、シム・デバイスの充電時の磁石システムの挙動を計算し、それにより磁石コイル系及び付加的電流路に誘導される電流変化を考慮に入れて、本発明の全ての実施形態の寸法設計を可能にする。この方法は、付加的電流路の間の、磁石コイル系との、及びシム・デバイスとの誘導的結合並びに全ての自己誘導に関する、対応する量に重み因子αによって影響を及ぼす補正項の計算に基づいている。従来の方法に比べて、この方法は、シム・デバイスの作業容積における磁場強度(数式E)の計算値と測定値の間の対応を改善する。特に、(数式E)は実質的にゼロにすることができる。
【0028】
本発明の方法のある簡単な変形例では、パラメータαは磁石コイル系のコイル容積に対する超伝導体物質の体積比率に対応する。パラメータαを決定するこの方法は、超伝導体が磁場変動に関して(−1)という磁化率を有するという(理想的反磁性)仮説に基づく。
【0029】
このような仕方で決定されたαの値は、たいていのタイプの磁石で実験的に確認することができない。したがって、特に好ましい別の方法は、磁石コイル系のパラメータαが、磁石コイル系の体積内に実質的に均一な擾乱磁場を発生する擾乱コイルに応答する付加的電流路が存在しないときの磁石コイル系の変数(数式G)を測定し、変数βexpを式
【0030】
【数17】
【0031】
に代入することによって実験的に決定されることを特徴とする。
ここで、
(数式H):擾乱コイルの電流1アンペア当たりの磁石装置の作業容積で測定される磁場変化、
【0032】
【数18】
【0033】
gM:磁石コイル系の1アンペア当たりの作業容積における磁場、
gD:磁石コイル系の磁場寄与分がないときの擾乱コイルの1アンペア当たりの作業容積における磁場、
(数式J):磁石コイル系のインダクタンス、
(数式K):擾乱コイルと磁石コイル系との誘導的結合、
(数式L):磁気インダクタンス(数式I)の補正であって、これにより磁石コイル系の体積から擾乱磁場が完全反磁性的に排除される補正、
(数式M):擾乱コイルと磁石コイル系との誘導的結合の補正であって、これにより磁石コイル系の体積から擾乱磁場が完全反磁性的に排除される補正、
最後に、本発明の方法の特に好ましい変形例では、
【0034】
【数19】
【0035】
(以下、「数式O」と略称する)は次のように計算される。
【0036】
【数20】
【0037】
ここで、
Ra1:磁石コイル系の外径(アクティブ・シールド磁石コイル系の場合、メイン・コイルの外径)、
Ri1:磁石コイル系の内径、
R2 : アクティブ・シールド磁石コイル系の場合、シールディングの平均半径、それ以外の場合無限大、
Rpj:付加的コイルPjの平均半径、
【0038】
【数21】
【0039】
(以下、「数式P」と略称する)であり、指標1は、アクティブ・シールド磁石コイル系のメイン・コイル、それ以外の場合は磁石コイル系、を表し、指標2は、アクティブ・シールド磁石コイル系のシールディングを表し、それ以外の場合は指標2は省かれ、指標(X、red、R)は、コイルXの全ての巻き線が半径Rにある仮想コイルを表す。
【0040】
補正(数式O)を計算するためのこの方法の利点は、特に、補正がコイルの誘導的結合及び自己インダクタンスから導出され、関連するコイルの幾何的配置を考慮に入れていることにある。
【0041】
本発明のその他の利点は、以下の記述及び図面から明らかになる。上記の及び以下で述べる特徴は、本発明に従って、個別的にも、又は任意の組み合わせで集団的にも利用できる。図示され記述される実施形態は、全てを列挙するというものではなく、本発明を説明するための例示的な性格のものと理解すべきである。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態に係る超伝導磁石装置ついて図面を参照しながら詳細に説明する。
【0043】
図1は、本発明の実施の形態に係る超伝導磁石装置の片側を示す縦断面図である。
【0044】
図1において、超伝導磁石装置の超伝導磁石コイル系M、シム・デバイスS、及び付加的超伝導閉電流路P1は、それぞれ、いくつかの部分コイルを有してもよく、それらは半径の異なる円周上に分布してもよい。このような部分コイルは、異なる極性を有してもよい。全ての部分コイルは、作業容積AVのまわりでz軸に関しz=0の近くで同軸的に配置されている。
【0045】
シム・デバイスS及び付加的超伝導閉電流路P1のコイル断面は小さいので、シム・デバイスS及び付加的超伝導閉電流路P1は弱い磁場しか発生しない。一方、超伝導磁石コイル系Mの断面はシム・デバイスS及び付加的超伝導閉電流路P1のコイル断面よりも遥かに大きく、これによってメインの磁場が生じる。
少なくとも1つの付加的電流路(P1,..,Pn)は超伝導スイッチで短絡される磁石コイル(M)の一部で構成されてもよい。
【0046】
図2から4までは、シム・デバイスの一つの部分コイルに関する関数geff,clとgeffとを、部分コイルの半径への依存性によって示す図である。図2は、付加的超伝導閉電流路なしのアクティブ・シールド超伝導磁石コイル系におけるシム・デバイスの部分コイルに関して既存の方法で計算された電流1アンペア当たりの実効磁場強度geff,clを、その部分コイルの還元半径ρ(超伝導磁石コイル系のメイン・コイルの外径で規格化された半径)の関数として示す図である。図3は、付加的電流路なしのアクティブ・シールド超伝導磁石コイル系におけるシム・デバイスのある個別部分コイルに関して本発明の方法で計算された電流1アンペア当たりの実効磁場強度geffを、その部分コイルの還元半径ρ(超伝導磁石コイル系のメイン・コイルの外径で規格化された半径)の関数として示す図である。図4は、図2及び図3の変数geff,clとgeffとの差を、その部分コイルの還元半径ρ(超伝導磁石コイル系のメイン・コイルの外径で規格化された半径)の関数として示す図である。
【0047】
使用した部分コイルは、軸方向の長さが200mmであり、各400本の巻線を有する二つの層から成っている。その中心面は、作業容積内のz=0の高さにある。変数geff,clとgeff とは、部分コイルの電流1アンペア当たりの作業容積内のz=0における磁場寄与分に対応し、その際、部分コイル自身の磁場寄与分も、その部分コイルの充電時に超伝導磁石システムMに誘導される電流による磁場変化の磁場寄与分も考慮に入れられる。ここで、geff,clは従来技術の方法で計算され、geff は本発明の方法によって計算されたものである。これらの計算は、付加的超伝導電流路を含まないアクティブ・シールド超伝導磁石コイル系Mを有し、アクティブ・シールディングの半径が超伝導磁石システムMのメイン・コイルの外径の2倍である超伝導磁石装置について行われた。メイン・コイルとシールディング・コイルとの双極子モーメントは、大きさが等しく、向きが反対である。α=0.33という重みを付した本発明の方法による補正項は、従来の方法と比べて、シム・デバイスの部分コイルの大きな半径でのアンペア当たり実効磁場強度にほぼ40パーセントのずれを生ずる。変数α=0.33は、磁石コイル系のコイル体積の超伝導体含有量にほぼ相当する。
【0048】
以下の議論を分かり易くするために次の用語を導入する:
・ アクティブ・シールド超伝導磁石コイル系Mは、以下でメイン・コイルと呼ぶ半径方向内側コイル系C1と、以下でシールディング・コイルと呼ぶ半径方向外側コイル系C2を備える。これらのコイルは、z軸の周りで軸対称に配置され、z=0を中心に配された容積−以下で磁石の作業容積と呼ぶ−内に反対向きの磁場を発生する。シールドされない超伝導磁石コイル系Mは、外側コイル系C2が無視できるほどである特別なケースと見なされる。
【0049】
・ 擾乱磁場とは、超伝導磁石装置の外部で発生される電磁的擾乱か、又は磁石コイル系Mに属さない付加的コイル(例えば、付加的磁場発生コイル系のコイル)が生ずる磁場で、磁場寄与分が0.1Tを超えないものである。
【0050】
・ できるだけコンパクトで明瞭な式を得るために、以下の指標が実施形態において用いられる。
【0051】
1 メイン・コイル
2 シールディング・コイル
M 磁石コイル系C1,C2
S シム・デバイス
D 擾乱
P 付加的超伝導電流路
cl 従来の方法で計算された変数
cor 本発明による補正項
指標P1,P2は付加的超伝導電流路に用いられる。
【0052】
シム・デバイスの電流1アンペア当たりの実効磁場強度geffを計算するときは、シム・コイル自身の磁場寄与分と、シム・デバイスの充電時に超伝導磁石コイル系及び別の超伝導的に閉じた電流路に誘導される電流による磁場変化の寄与分も考慮に入れなければならない。従来のモデル(以下では古典的モデルと呼ぶ)によって超伝導磁石コイル系の誘導的応答を計算するとき、超伝導磁石コイル系の超伝導体は電気抵抗のない物質としてモデル化される。本発明の基礎となるモデルは、超伝導体の別の磁気的性質も考慮に入れる。全ての超伝導磁石コイル系がこの性質を有するが、アクティブ・シールド超伝導磁石において、磁石装置の付加的コイル系(例えば、シム・デバイス)の実効磁場強度に関してその影響が大きく、特にその付加的コイル系が異なる半径に分布する部分コイルを備えている場合、それが生ずる影響は最大になる。このような磁石装置では、付加的コイル系の(例えば、シム・デバイスの)実効磁場強度の測定値は、しばしば古典的に計算されたモデルに対応しない。その結果、古典的モデルによる方法を用いて寸法設計されたシム・デバイスは作業容積内で望ましくない磁場寄与分が生ずる。
【0053】
作業容積における超伝導磁石コイル系の磁場は付加的コイル系(例えば、シム・デバイス)の磁場より何桁も大きいので、付加的コイル系の磁場のうち磁石コイル系の磁場と平行な成分(本明細書でz成分と呼ぶ)だけが全磁場の大きさに影響がある。このため、以下ではBz場だけに注目する。
【0054】
擾乱コイルDが超伝導磁石コイル系Mの場所に擾乱磁場を発生すると(例えば、シム・デバイスの充電時)、ただちに超伝導的に短絡された磁石コイル系にレンツの法則にしたがって電流が誘導され、それが擾乱磁場に反対の補償磁場を生ずる。作業容積に生ずる磁場変化ΔBz,totalは、擾乱磁場ΔBz,Dと補償磁場ΔBz,Mの重ね合わせ、すなわち、ΔBz,total=ΔBz,D+ΔBz,Mである。擾乱コイルDの電流ΔID は磁石コイル系に電流
【0055】
【数22】
【0056】
を誘導する、ここで(数式J)は磁石コイル系の(古典的な)自己インダクタンスであり、(数式K)は磁石コイル系と擾乱コイルとの間の(古典的な)誘導的結合である。擾乱コイルDの電流1アンペア当たりの作業容積内の実効磁場強度
【0057】
【数23】
【0058】
は、その電流コイル自身の1アンペア当たりの磁場寄与分
【0059】
【数24】
【0060】
プラス擾乱電流1アンペア当たり超伝導磁石コイル系Mに誘導される電流による磁場変化との重ね合わせ、すなわち、
【0061】
【数25】
【0062】
である。ここで、gM は磁石コイル系Mの1アンペア当たりの作業容積内の磁場である。
【0063】
磁石装置に、磁石コイル系M及び擾乱コイルDの他に、さらに超伝導的に短絡される電流路P1,..,Pnが存在する場合(例えば、シム・デバイス)、上記の式は次のように一般化される:
【0064】
【数26】
【0065】
(以下、「数式Q」と略称する)ここで、
gT=(gM,gP1,..,gPj,..,gPn)である。
ここで、
gM:付加的電流路P1,...,Pnに誘導される電流の磁場寄与分がない場合の磁石コイル系Mの電流1アンペア当たりの作業容積内の磁場
gPj:電流路Pjの電流1アンペア当たりの作業容積内の磁場であって、他の付加的電流路P1,...Pn及び磁石コイル系Mに誘導される電流の磁場寄与分がない場合の磁場
【0066】
【数27】
【0067】
は、磁石コイル系Mと電流路P1,...,Pnの間、及び電流路P1,..,Pnの間の(古典的な)誘導的結合であり、
(Lcl)-1は、行列Lclの逆である。すなわち、
【0068】
【数28】
【0069】
である。ここで、
【0070】
【数29】
【0071】
は、電流路PjとコイルDとの(古典的な)誘導的結合であり、(数式K)は、磁石コイル系MとコイルDとの(古典的な)誘導的結合である。
【0072】
超伝導シム・デバイスSの磁場効率(数式N)を計算するために、擾乱コイルDに対して上で導出した式
【0073】
【数30】
【0074】
(以下、「数式R」と略称する)を用いることができる、ここでシム・デバイスSと磁石コイル系M及び付加的超伝導電流路P1,..,Pnとの誘導的結合が擾乱コイルDとの結合に取って代わる。
【0075】
超伝導体の上記の特別な磁気的性質を考慮に入れることにより、古典的な誘導的結合及び自己インダクタンスは付加的な寄与によって補われる。このため、磁石コイル系M及び付加的超伝導電流路P1,..,Pnに誘導される電流は、一般に古典的に計算される値と異なる値をとる。これらの補正を、以下で磁石コイル系における超伝導体に磁気的挙動のあるモデルに基づいて計算する。
【0076】
タイプI超伝導体はその内部から磁束を完全に排除することが知られている(マイスナー効果)。これは下方臨界磁場Hc1より上ではタイプII超伝導体に当てはまらない。Bean モデル(C. P. Bean, Phys. Rev. Lett. 8, 250 (1962), C. P. Bean. Rev. Mod. Phys. 36, 31 (1964))によると、磁力線はいわゆる「ピン止め中心(pinning centers)」に固着する。小さな磁束変化は超伝導体の表面で「ピン止め中心」にトラップされて超伝導体の内部に達せず、超伝導体の体積内部からの擾乱磁場の部分的排除が起こる。タイプII超伝導体は小さな磁場変動には反磁性的に応答するが、大きな磁場変化は実質的に超伝導体物質内部に入り込む。
【0077】
超伝導体体積内部からの小さな擾乱磁場の排除というこの効果を計算するために我々はいろいろな仮定をおく。第1に、磁石装置の超伝導体全体積の大部分はメイン・コイルに集中し、シールディング・コイル及びその他の超伝導コイル系の超伝導体体積は無視することができる、と仮定する。
【0078】
さらに我々は、メイン・コイルの体積内での全ての磁場変動は超伝導体の反磁性的遮蔽効果がなかった場合の値に比べて、一定因子(1−α)、0<α<1、だけ小さくなると仮定する。メイン・コイルの自由な内側ボア(半径Ri1)では超伝導体の反磁性による擾乱磁場の減少は何もないと仮定する。メイン・コイルから排除された磁力線は、メイン・コイルの外径Ra1の外側に累積してこの領域に過剰な擾乱磁場を生ずる。我々は、Ra1の外側のこの過剰擾乱磁場の強度は、磁石の軸からの間隔rの増加と共にRa1での最大値から(1/r3)のように減少する(双極子挙動)と仮定する。Ra1における最大値は、Ra1の外側の擾乱磁束の増加がメイン・コイルの超伝導体体積内の擾乱磁束の減少を正確に補償するように規格化される(磁束の保存)。
【0079】
小さな磁場変動に応答する超伝導体体積の反磁性挙動によって生ずる磁束の再配分は、超伝導体体積の領域におけるコイルの誘導的結合及び自己インダクタンスを変化させる。超伝導体の反磁性の影響を考慮して、擾乱コイルD(例えば、シム・デバイスの部分コイル)の実効磁場強度を計算する古典的モデルを拡張するためには、式(数式Q)の各結合項又は自己インダクタンス項に対する正しい補正項を決定すれば十分である。これらの補正項を、以下で全ての結合及び自己インダクタンスに対して導出する。
【0080】
補正項を計算する原理は、全ての場合で同じである、すなわち、別の(又は同じ)コイルにおける小さな電流変化によってあるコイルに生ずる磁束に、磁石コイル系のメイン・コイルに反磁性的に応答する超伝導体物質が存在することによって現れる減少を決定すること、である。第1及び第2のコイルの間の結合(又は自己インダクタンス)がそれに応じて減少する。補正項の大きさは、誘導的に応答するコイル内部でメイン・コイルの超伝導体物質で満たされている体積がそのコイルで囲まれる全体積の中で占める割合に依存する。コイル間の相対位置も相互誘導的結合の補正項に影響する。
【0081】
「還元コイル」を用いることが補正項の計算に有益であることが分かった。半径Rに還元されたコイルXとは、もしもコイルXの全ての巻き線が半径Rにあるとした場合に得られる仮想的なコイルである。指標“X,red,R”がこのコイルに対して用いられる。あるコイルを通る磁束が変化する場合、還元コイルは、このコイルの部分面積を通る磁束変化の全磁束変化に対する寄与分を計算することを可能にする。
【0082】
まず、ある擾乱コイルDと磁石コイル系(遮蔽される又はされない)のメイン・コイルC1との結合の補正項を計算する。
【0083】
メイン・コイルC1の体積内の擾乱磁場ΔBz,Dは、平均して量αΔBz,Dだけ減少する、ここで0<α<1はある未知パラメータである。したがって、メイン・コイルの内側ボアの擾乱磁場が因子(1−α)だけ減少すると扱われるならば、メイン・コイルを通る擾乱磁束、またその結果としてメイン・コイルと擾乱源との結合L1←Dは、古典的な値
【0084】
【数31】
【0085】
(以下、「数式S」と略称する)に対して因子(1−α)だけ減少する。我々は、擾乱磁束は磁石の内側ボアから排除されないと仮定する。このため、擾乱コイルとメイン・コイルの間の結合は、内側ボアから間違って差し引かれた分だけ補わなければならない。「還元コイル」の定義に従って、この量は
【0086】
【数32】
【0087】
であり、ここで
【0088】
【数33】
【0089】
は内径Ri1に還元されたメイン・コイルC1と擾乱の結合である。メイン・コイルと擾乱源との間の誘導的結合L1←D は、
【0090】
【数34】
【0091】
となる。ここではメイン・コイルの超伝導体体積からの擾乱磁場の排除を考慮に入れている。
【0092】
排除された磁束は、メイン・コイルの外径Ra1の半径方向外側に再び現れる。排除された磁場が双極子挙動((1/r3)で減少)を示すと仮定すると、メイン・コイルの外側で古典的な擾乱磁場の他に次の量:
【0093】
【数35】
【0094】
が得られる。この関数は、半径Rの大きなループを通る全擾乱磁束がR→∞でゼロになるように規格化される。擾乱磁場ΔBz,Dは円柱対称であると仮定された。
【0095】
アクティブ・シールド磁石コイル系では、シールディング・コイルC2を通る擾乱磁束も、メイン・コイルC1による擾乱磁束の排除によって減少する。さらに詳しく言うと、半径R2及び軸方向高さz0の巻き線を通る擾乱磁束は古典的な場合に対して次の量だけ減少する(領域r>R2にわたる(4式)の積分):
【0096】
【数36】
【0097】
ここで、
【0098】
【数37】
【0099】
は半径R2(Ri1のアナログ)の観測されるループと同じ軸方向高さz0にある半径Ra1のループを通る古典的な擾乱磁束を表す。シールディング・コイルの全ての巻き線(それらは全てほぼ同じ半径R2にある)にわたって加え合わせて、次のような擾乱コイルとシールディング・コイルの間の相互結合が得られる。
【0100】
【数38】
【0101】
ここで、
【0102】
【数39】
【0103】
は、擾乱コイルと半径Ra1(Ri1のアナログ)に「還元された」シールディングとの古典的な結合を表す。乗数因子Ra1/R2と合わせて、この「還元」は結合L2←Dの古典的な値
【0104】
【数40】
【0105】
に対する減少を、L1←Dの(数式S)に対する減少に比べてずっと小さくしている。メイン・コイルとシールディング・コイルは電気的に直列に結合しているので、擾乱に対する磁石コイル系の全体的な応答の中でシールディング・コイルの誘導的応答はメイン・コイルのそれより大きくなる。
【0106】
全体として、擾乱Dと磁石コイル系Mとの新しい結合は次の式で与えられる
【0107】
【数41】
【0108】
ここで、
【0109】
【数42】
【0110】
メイン・コイルと同様に、擾乱磁束はシールディングの超伝導体体積からも排除される。普通、この体積はメイン・コイルの超伝導体体積と比べて小さいので、この影響は無視することができる。
【0111】
擾乱磁場が磁石装置の内部又は外側の擾乱コイルによって発生されるか、磁石コイル系自身の小さな電流変化によって発生されるか、は磁束排除のメカニズムにとって重要ではない。したがって、磁石コイル系の自己インダクタンスも古典的な場合に比べて変化する。詳しくは、
【0112】
【数43】
【0113】
他のインダクタンスは次のように変化する。
【0114】
【数44】
【0115】
磁石コイル系の新しいインダクタンスは次のようになる。
【0116】
【数45】
【0117】
ここで、
【0118】
【数46】
【0119】
擾乱源Dの実効磁場効率に対し、古典的な誘導的結合(数式K)の代わりに(5式)にしたがって磁石と擾乱コイルの間の補正された結合LM←Dを代入し、古典的な自己インダクタンス(数式J)の代わりに(6式)にしたがって補正された自己インダクタンスLMを代入すると次の式が導かれる。
【0120】
【数47】
【0121】
上記の式はさらに付加的電流路P1,..,Pnがある場合には以下のように一般化される。
【0122】
方向M←Pj(Pjにおける電流変化がMに電流を誘導する)に関しては、磁石コイル系と付加的電流路(j=1,..,n)の間の結合は、磁石コイル系と擾乱コイルの間の対応する結合と同程度に減少する。
【0123】
【数48】
【0124】
ここで、
【0125】
【数49】
【0126】
新たな結合LPjM(Mにおける電流変化がPjに電流を誘導する)は次のように計算される。
【0127】
【数50】
【0128】
ここで、
【0129】
【数51】
【0130】
RPj>Ra1では、Ra1に「還元された」コイルPjとは、再び、全ての巻き線がより小さな半径Ra1に縮小したものと定義される(Ri1のアナログ)。しかし、もしもRi1<RPj<Ra1 ならば、Ra1に「還元された」コイルはコイルPjと同定される(巻き線はRa1に拡大されない)。 RPj< Ri1では、Ri1に「還元された」コイルはやはりコイルPjと同定される、すなわち、この場合、古典理論に対する補正は何もない。
【0131】
RPj>Ra1では、定数fPjは、範囲r> RPjで(4)を積分して計算される。RPj≦Ra1では、fPj=1である:
【0132】
【数52】
【0133】
したがって、超伝導体の性質による補正は非対称なインダクタンス行列を生ずる(LMPj≠LPjM!)。
【0134】
付加的超伝導電流路Pjと擾乱コイルDとの結合LPjDも、メイン・コイルの超伝導体物質からのコイルDの擾乱磁場の磁束の排除によって多少とも影響される。
【0135】
【数53】
【0136】
ここで、
【0137】
【数54】
【0138】
付加的超伝導電流路の間の結合も、同じ原理によって多少とも減少する(指標の順序に注意)。
【0139】
【数55】
【0140】
ここで、
【0141】
【数56】
【0142】
特に、付加的超伝導電流路の自己インダクタンス(j=k)も影響される。
【0143】
擾乱コイルDの電流1アンペア当たりの作業容積内の実際の磁場寄与分
【0144】
【数57】
【0145】
(以下、「数式T」と略称する)は、擾乱コイルDの古典的な磁場効率(数式R)に関する(2式)によって計算され、ここで結合LMD、LMPj、LPjM、LPjD、及びLPjPkに関する補正された値が(5式)、(8式)、(9式)、(10式)、及び(11式)にしたがって代入される。
【0146】
【数58】
【0147】
ここで、
(数式T):擾乱コイルDの電流1アンペア当たりの作業容積内のz=0における磁場寄与分であって、その際、擾乱コイル自身の磁場寄与分、及び超伝導磁石コイル系Mと超伝導的に閉じた電流路P1,..,Pnに擾乱コイルの充電時に誘導される電流とによる磁場変化の磁場寄与分を考慮に入れた磁場寄与分
−α: 大きさ0.1Tを超えない磁場変動に関する磁石コイル系Mの体積での平均磁化率。ここで、0<α≦1
gT=(gM,gp1,…,gpj,…,gpn)
gpj:電流路Pjの電流1アンペア当たりの作業容積における磁場であって、i≠jの電流路Pi及び磁石コイル系Mの磁場寄与分を含まず、擾乱コイルDの磁場寄与分を含まない磁場
gM :磁石コイル系Mの電流1アンペア当たりの作業容積における磁場であって、付加的電流路P1,..,Pnの磁場寄与分を含まず、擾乱コイルDの磁場寄与分を含まない磁場
gD :擾乱コイルDの電流1アンペア当たりの作業容積における磁場であって、付加的電流路P1,..,Pnの磁場寄与分を含まず、かつ磁石コイル系Mの磁場寄与分を含まない磁場
Lcl: 磁石コイル系Mと付加的電流路P1,..,Pnの間及び付加的電流路P1,..,Pn間の誘導結合の行列
Lcor:インダクタンス行列Lcl の補正であって、これは磁石コイル系Mの体積からの擾乱磁場の完全反磁性的排除によってもたらされる補正
【0148】
【数59】
【0149】
(以下、「数式U」と略称する):擾乱コイルDと磁石コイル系M及び電流路P1,..,Pnとの誘導的結合のベクトル
【0150】
【数60】
【0151】
(以下、「数式V」と略称する):結合ベクトル(数式U)の補正であって、これは磁石コイル系Mの体積からの擾乱磁場の完全反磁性的排除によってもたらされる補正
電流路Pjが異なる半径の部分コイルを備える場合、Pjに属する補正項Lcor及び(数式V)の行列要素は、各部分コイルを最初は個別電流路として扱い、その後全ての部分コイルの補正項を加えるという仕方で計算しなければならない。この和が電流路Pjの行列要素である。
【0152】
超伝導シム・デバイスSの磁場効率(数式E)を計算するには、(数式T)に関して上で導出した式を用いることができるが、そこでシム・デバイスSとの結合で、磁石コイル系M及び付加的超伝導電流路P1,..,Pnと擾乱コイルDとの結合を置き換えなければならない。
【0153】
超伝導シム・デバイスSの磁場効率(数式E)は、普通、実質的にゼロでなければならない。シム・デバイスによって作業容積内に磁場が生ずることはシム動作で問題を生じ、シム電流の導入後磁石コイル系の電流を再調整して作業容積内の磁場が再び所望の値になるようにする必要があるかもしれない。
【0154】
磁石コイル系M、シム・デバイスS、及び超伝導的に閉じた付加的電流路P1,..,Pnを備える多くの超伝導磁石装置M、S、P1,..,Pnにおいては、古典的に計算された磁場効率(数式N)と本発明の方法に従って計算された磁場効率(数式E)の間に大きな差はない。メイン・コイルC1,シールディング・コイルC2,及び部分コイルが二つの異なる半径に分配されているZ2シム・デバイスを備えたアクティブ・シールド磁石コイル系は、超伝導体物質の磁気遮蔽挙動が小さな磁場変化に関するシム・デバイスの磁場効率(数式E)に相当な影響を及ぼす磁石装置である。Z2シム・デバイスの半径方向内側部分コイルは、主に磁石の軸z方向にz2依存性を有する磁場を生ずる。半径方向外側部分コイルは実質的にz軸に沿って一定な磁場を生ずる。この磁場寄与分は、半径方向内側部分コイルの一定磁場寄与分を補償して、作業容積におけるシム・デバイスの全磁場効率(数式E)がゼロになるようにする。このシム・デバイスの半径方向内側部分コイルは普通アクティブ・シールド磁石コイル系のメイン・コイルC1の領域にあり、半径方向外側部分コイルはシールディングC2の領域にある。このようなシム・デバイスには、部分コイルが単一半径上にある装置と比べてよりコンパクトであり、その結果、磁石コイル系のためにより多くのスペースを提供できるという利点がある。
【0155】
図2から図4までに見られるように、シム・デバイスの部分コイルはアクティブ・シールド磁石コイル系のメイン・コイルC1の領域にある限り古典的な挙動を示す。しかし、それが半径方向でさらに外側に位置する場合、その実効磁場効率は磁石コイル系の超伝導物質の磁気遮蔽挙動によって増強される。それは、Z2シム・デバイスが二つの半径に配分されている場合、半径方向外側部分コイルの実効磁場効率は古典的モデルによって予期されるよりも大きいということを意味する。このようなシム・デバイスを古典的モデルにしたがって寸法設計すると(すなわち、(数式N)=0)、実際の実効磁場効率(数式E)はゼロと相当に異なることになる。
【0156】
第1近似では、パラメータαはメイン・コイルC1の体積の超伝導体部分である。パラメータαを決定する最も正確な仕方は、付加的超伝導電流路S、P1,..,Pnなしの磁石コイル系Mの擾乱実験に基づくものである。大きな半径を有する擾乱コイルが特に適当である。次の手順が勧められる。
【0157】
1.磁石コイル系において実質的に均一である擾乱(例えば、大きな半径の擾乱コイルによるもの)に関する磁石コイル系の変数(数式G)の実験的決定。ここで、
(数式H):擾乱コイルDの電流1アンペア当たり磁石装置の作業容積内で測定される磁場変化
gD :磁石コイル系Mの磁場寄与分なしでの擾乱コイルDの電流1アンペア当たりの作業容積内の磁場
2.同じ擾乱コイルに関する変数(数式I)の決定。ここで、
gM:磁石コイル系Mの電流1アンペア当たりの作業容積内の磁場
(数式J):磁石コイル系Mのインダクタンス
(数式K):擾乱コイルDと磁石コイル系Mとの誘導的結合
3.次式からのパラメータαの決定。
【0158】
【数61】
【0159】
ここで、
(数式L):磁気インダクタンス(数式J)の補正であって、磁石コイル系Mの体積からの擾乱磁場の完全反磁性的排除によって生ずる補正
(数式M):擾乱コイルDと磁石コイル系Mとの誘導的結合(数式K)の補正であって、磁石コイル系Mの体積からの擾乱磁場の完全反磁性的排除によって生ずる補正
以下、上記特許請求の範囲並びに詳細な説明で使用した数式の略称をリストとして列記する。
【0160】
【数62】
【0161】
【発明の効果】
シム・デバイスの寸法設計のための本発明の方法は、磁石コイル系における超伝導体の磁気遮蔽挙動を有利に考慮に入れている。この方法は、シム・デバイスの充電時の磁石システムの挙動を計算し、それにより磁石コイル系及び付加的電流路に誘導される電流変化を考慮に入れて、本発明の全ての実施形態の寸法設計を可能にする。この方法は、付加的電流路の間の、磁石コイル系との、及びシム・デバイスとの誘導的結合及び全ての自己誘導に関する、対応する量に荷重因子αによって影響を及ぼす補正項の計算に基づいている。従来の方法に比べて、この方法は、シム・デバイスの作業容積における磁場強度(数式E)の計算値と測定値の間の対応を改善する。特に、(数式E)は実質的にゼロにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る超伝導磁石装置の縦断面図である。
【図2】付加的超伝導閉電流路なしのアクティブ・シールド超伝導磁石コイル系におけるシム・デバイスの部分コイルに関して既存の方法で計算された電流1アンペア当たりの実効磁場強度geff,clを、その部分コイルの還元半径ρ(磁石コイル系のメイン・コイルの外径で規格化された半径)の関数として示す図である。
【図3】付加的電流路なしのアクティブ・シールド超伝導磁石コイル系におけるシム・デバイスのある個別部分コイルに関して本発明の方法で計算された電流1アンペア当たりの実効磁場強度geffを、その部分コイルの還元半径ρ(磁石コイル系のメイン・コイルの外径で規格化された半径)の関数として示す図である。
【図4】図2及び3の変数geff,clとgeffの差を、その部分コイルの還元半径ρ(磁石コイル系のメイン・コイルの外径で規格化された半径)の関数として示す図である。
【符号の説明】
C1,C2 同軸コイル系
M 磁石コイル系
P1,..,Pn 付加的超伝導閉電流路
S シム・デバイス
α 平均磁化率
gpj,gM,gS 磁場
Lcl 誘導結合の行列
Lcor インダクタンス行列Lclの補正
Claims (10)
- 少なくとも1つの電流が流れる超伝導磁石コイルを含む磁石コイル系(M)と、少なくとも1つの超伝導シム・コイルを含むシム・デバイス(S)と、オプションとして1つ以上の付加的超伝導閉電流路(P1,..,Pn)(以下、単に、「付加的電流路」又は「電流路」ともいう)を備え、z=0を中心に配置された作業容積内にz軸方向の磁場を発生する超伝導磁石装置(M、S、P1、..、Pn)であって、動作時に誘導される電流によって該付加的電流路(P1,..,Pn)により作業容積内に発生されるz軸方向の磁場が0.1テスラという大きさを超えず、該シム・デバイス(S)がz軸に沿って偶数のべきk>0でzのk乗で変化する磁場を発生する該超伝導磁石装置において、シム・デバイス(S)は、変数
−α:0.1Tという大きさを超えない磁場変動に関する磁石コイル系(M)
の体積における平均磁化率(0<α≦1)、
gT=(gM,gp1,…,gpj,…,gpn)、
gpj:電流路Pjの電流1アンペア当たりの作業容積における磁場であって
、i≠jの電流路Piの磁場寄与分及び磁石コイル系(M)の磁場寄与
分を含まず、シム・デバイス(S)の磁場寄与分も含まない磁場、
gM :磁石コイル系(M)の電流1アンペア当たりの作業容積における磁場
であって、付加的電流路(P1,..,Pn)の磁場寄与分を含まず、
シム・デバイス(S)の磁場寄与分も含まない磁場、
gS :シム・デバイス(S)の電流1アンペア当たりの作業容積における磁
場であって、付加的電流路(P1,..,Pn)の磁場寄与分及び磁石
コイル系(M)の磁場寄与分を含まない磁場、
Lcl: 磁石コイル系(M)と付加的電流路(P1,..,Pn)の間の及び
付加的電流路(P1,..,Pn)間の誘導結合の行列、
Lcor:インダクタンス行列Lclの補正であって、これは磁石コイル系(M)
の体積からの擾乱磁場の完全反磁性的排除によって生ずる補正、
及び付加的電流路(P1,..,Pn)との誘
導的結合のベクトル、
れは磁石コイル系(M)の体積からの擾乱磁場
の完全反磁性的排除によって生ずる補正、
を有することを特徴とする超伝導磁石装置。 - 前記絶対値はアンペア当たり0.2ミリテスラより大であることを特徴とする請求項1記載の磁石装置。
- 該超伝導磁石コイル系(M)が、電気的に直列に結合された半径方向内側及び半径方向外側の同軸コイル系(C1,C2)を備え、これら二つのコイル系がそれぞれ作業容積内にz軸方向に反対向きの1つの磁場を発生することを特徴とする請求項1又は2記載の磁石装置。
- 該磁石コイル系(M)が動作時に超伝導的に短絡される第1の電流路を形成し、該磁石コイル系(M)に電気的に結合されていない擾乱補償コイルが該磁石コイル系(M)と同軸的に配置されて動作時に超伝導的に短絡される別の電流路(P1)を形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁石装置。
- 少なくとも1つの付加的電流路(P1,..,Pn)は超伝導スイッチで橋絡される磁石コイル系(M)の一部であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の磁石装置。
- 該超伝導シム・デバイス(S)が作業容積の領域でz軸上でz 2 依存性を有する磁場を発生することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁石装置。
- 該超伝導シム・デバイス(S)が異なる半径に巻かれた部分コイルを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の磁石装置。
- 該超伝導シム・デバイス(S)が超伝導磁石コイル系(M)から誘導的に分離されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の磁石装置。
- 請求項1乃至8項のいずれかに記載の磁石装置における該超伝導シム・デバイス(S)の寸法を設計する方法であって、シム・デバイス(S)の電流1アンペア当たりの作業容積内のz=0における磁場変化に対応する変数
−α:0.1Tという大きさを超えない磁場変動に関する磁石コイル系(M)
の体積における平均磁化率(0<α≦1)、
gT=(gM,gp1,…,gpj,…,gpn)、
gpj:電流路Pjの電流1アンペア当たりの作業容積における磁場であって
、i≠jの電流路Piの磁場寄与分及び磁石コイル系(M)の磁場寄
与分を含まず、シム・デバイス(S)の磁場寄与分も含まない磁場、
gM :磁石コイル系(M)の電流1アンペア当たりの作業容積における磁場
であって、付加的電流路(P1,..,Pn)の磁場寄与分を含まず、
シム・デバイス(S)の磁場寄与分も含まない磁場、
gS :シム・デバイス(S)の電流1アンペア当たりの作業容積における磁
場であって、付加的電流路(P1,..,Pn)の磁場寄与分及び磁石
コイル系(M)の磁場寄与分を含まない磁場、
Lcl: 磁石コイル系(M)と付加的電流路(P1,..,Pn)の間の、及
び付加的電流路(P1,..,Pn)間の誘導結合の行列、
Lcor:インダクタンス行列Lclの補正であって、これは磁石コイル系(M)
の体積からの擾乱磁場の完全反磁性的排除によって生ずる補正、
(数式C):シム・デバイス(S)と磁石コイル系(M)及び付加的電流路(P
1,..,Pn)との誘導的結合のベクトル、
(数式D):結合ベクトル(数式C)の補正であって、これは磁石コイル系(M
)の体積からの擾乱磁場の完全反磁性的排除によって生ずる補正、を有することを特徴とする方法。 - パラメータαが、磁石コイル系(M)の体積内に均一な擾乱磁場を生ずる擾乱コイル(D)に応答する磁石コイル系(M)[電流路(P1,..,Pn)はなく、シム・デバイス(S)もない]の変数βexpの測定、及び次式、すなわち:
石装置の作業容積内で測定される磁場変化、
gM:磁石コイル系Mの電流1アンペア当たりの作業容積内の磁場、
gD:磁石コイル系(M)の磁場寄与分なしでの擾乱コイル(D)の電流1ア
ンペア当たりの作業容積内の磁場、
誘導的結合、
て、磁石コイル系(M)の体積からの擾乱磁
場の完全反磁性的排除によって生ずる補正、
誘導的結合(数式J)の補正であって、磁石
コイル系Mの体積からの擾乱磁場の完全反磁
性的排除によって生ずる補正、
(数式F)への該変数βexpの代入によって実験的に決定されることを特徴とする請求項9記載の方法。
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