JP3667324B2 - 農園芸用組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
低アミロ麦発生防止用農園芸用組成物及びそれを施用することによる低アミロ麦発生防止方法に関する発明である。
【0002】
【従来の技術】
子実性穀物と呼ばれる作物の一群に小麦、大麦、ライ麦、エン麦がある。これら麦類は米と異なってそのほとんどが製粉され、パン、麺、菓子などとして食用に供されるため加工に適した高品質の麦粉を得るための高品質な麦子実が求められている。しかし麦類では古来気象条件等により収穫時期に発芽が始まる、いわゆる穂発芽の発生が問題となっている。これは、穂発芽した麦を原料にした粉のアミログラフ最高粘度が低下しているため、パンや麺の品質を著しく低下させるためである。この最高粘度が一定値以下になった麦を低アミロ麦とよんでいる。このような低アミロ麦を避けるためには、いかにして発芽に際して増加するα−アミラーゼ活性を抑えるような栽培を行うかが重要であり、安全でしかも効果の高い低アミロ麦防止剤や栽培法の開発が生産、流通及び実需者から切望されている。
【0003】
世界で最も生産量が多い穀物である小麦では、穂発芽問題は古くから解決に向けて研究が進められてきた。世界各地で耐穂発芽性品種の開発が行われ、新しい品種ほど耐穂発芽性は向上しているものの、いかなる気象条件にあっても穂発芽しない品種はまだ開発されていない。
【0004】
栽培法上の対策として、穂発芽していない穀物を収穫するための栽培法が試みられてきた。一部では子実中のα−アミラーゼ活性を測定して、穂発芽した麦と健全な麦と隔離して管理・流通させる方策がとられている。
【0005】
穂発芽防止剤として、ポリエチレングリコールや植物ホルモン類(マレイン酸ヒドラジド、アブシジン酸)等の化学合成物質を収穫前に散布処理する方法が提案されているものの(特許文献1及び非特許文献1)、その効力は十分ではなく、麦生産現場での使用は行われていない。最近、本申請者らは亜リン酸およびその塩が低アミロ麦抑制剤として有効であることを明らかにした(特許文献2)。これらの亜リン酸およびその塩はそれ以前の穂発芽防止剤に比べて格段の効果を有している。
【0006】
【特許文献1】
特公昭63−40401号公報
【非特許文献1】
北農61巻4号50‐54ページ1994年
【特許文献2】
特開2002−348203号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの薬剤は全て実用上満足な効果であるとはいえない。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等はさらに検討を深め誠意研究した結果、亜リン酸エステルおよび、亜リン酸エステルのアンモニウム塩、第1級〜第4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および多価金属塩よりなる群から選択される1種又は2種以上の化合物が麦のα−アミラーゼ活性の発現を効果的にかつ、亜リン酸カリ以上に抑制することを見出し、本発明を完成させた。本発明に含まれる請求項2のトリス(エチルホスホナート)のアルミニウム塩は殺菌剤として公知(FR-2254276,CAS RN[39148-24-8]、農薬登録15548)の物質であるがα−アミラーゼ活性の発現を抑制する効果を有することはこれまで知られていなかった。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明における農園芸用組成物は、亜リン酸エステルおよび、亜リン酸エステルのアンモニウム塩、第1級〜第4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および多価金属塩よりなる群から任意に選択することができるが、好適には、アルミニウム=エチルホスホナート(以下ホセチル-Alと称す)である。
【0009】
本発明における農園芸用組成物は、農業に通常使用される、展着剤、殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤や他の農業用薬剤や肥料、例えば、尿素、亜リン酸塩、正リン酸塩、ポリリン酸塩系葉面散布肥料等と混合して同時に、又は単独で前後して施用することができる。
【0010】
本発明における農園芸用組成物の施用量は作物や品種、気象条件、施用時期、施用方法、施用機材によっても異なるが、通常P2O5換算で、10アール当たり25〜120 g である。本発明における農園芸用組成物の施用方法は、葉面散布が好ましい。本発明における農園芸用組成物の散布液の施用濃度は、P2O5換算で、通常、0.02〜0.2質量%である。本発明における農園芸用組成物の散布液の施用量は、通常、10アール当たり100〜200 L である。本発明における農園芸用組成物の施用可能な時期は全生育期間であるが、麦の生殖成長期前後に施用することが好ましい。
【0011】
以下に、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0012】
【実施例】
【0013】
【実施例1】
小麦(春まき小麦品種:ハルユタカ)を平成14年4月20日に播種し、北海道施肥標準および防除基準に拠った栽培基準(平成7年、北海道農務部)にしたがって栽培し、一区10m2の試験区を設けた。ホセチル-Al水溶液、亜リン酸カリ水溶液、リン酸カリ水溶液をそれぞれP2O5換算で0.1%濃度に調整し、10アール当たり100Lを下記の生育時期に合計3回葉面散布した。すなわち、散布は、第1回目(開花期)、第2回目(開花10日後)、第3回目(開花20日後)におこなった。収穫は収穫適期である平成14年8月9日(出穂後42日)に行い、試験区内9ヵ所から計4m2分を刈り取り収量調査用試料とした(以下適期収穫と表示)。また、試験区の一部を立毛状態のまま残し、6日後の平成14年8月15日に刈り取った(以下晩刈りと表示)。なお、適期収穫と晩刈りとの間に数回の降雨に遭遇した。対照区には慣行栽培基準に従った防除のみを行った。当年の春まき小麦の登熟期間中は降水量が多く、低アミロ小麦が多発する条件であった。
【0014】
適期収穫した小麦について、収量、α−アミラーゼ活性値、発芽粒割合、及びシャーレ上での発芽試験をおこなった。晩刈りした小麦ではα−アミラーゼ活性値のみを測定した。その結果を対照区の結果と共に、表1〜4に示す。
【0015】
収量は各処理区4m2分の小麦を収穫適期に刈り取り、天日で乾燥してから脱穀・調整の後、子実重、千粒重等の測定をおこなった。α−アミラーゼ活性値の測定は、北海道農政部指導参考事項「低アミロ小麦の迅速検定法の開発 北海道農業試験会議資料」(平成7年度(1995年)北海道立中央農業試験場、農産化学部穀物利用科)に記載のブルースターチ法にしたがって、乾麦の全粒粉について測定を行い、2反復測定の平均値を求めた。
【0016】
【表1】
適期収穫の小麦のα−アミラーゼ活性値を比較すると、ホセチル-Al区が最も低かった。亜リン酸カリ区も低い値を示したがホセチル-Al区に劣り、リン酸カリ区と対照区はほぼ同様の高水準であった。刈り取りを遅らせると小麦粒中のα−アミラーゼ活性は高まることが知られている。しかし、晩刈りした小麦での活性値もホセチル-Al区では亜リン酸カリ区以上に抑え、対照区、リン酸カリ区に比べて有意に低くかった。したがって、ホセチル-Alはこれまでの既知物質よりもα−アミラーゼ活性の発現を抑制していることが判る。
【0017】
【表2】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験区 適期に収穫した小麦の発芽粒割合
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ホセチル-Al区 3.9%
亜リン酸カリ区 4.1%
リン酸カリ区 15.7%
対照区 19.1%
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
農産物検査基準では、玄麦中の発芽粒割合は2%以下と定められているが、天候が悪くこれを満たした区はなかった。しかし、ホセチル-Al区と亜リン酸カリ区では発芽粒割合が対照区及びリン酸カリ区の1/4〜1/5に抑えられた。穂発芽が多発した条件下にあっても、大差をつけて4%程度の発芽粒割合にとどまった事実は、ホセチル-Alでも亜リン酸カリ(特開2002−348203)と同様の発芽抑制効果をもたらす物質であることが明白である。
【0018】
【表3】
【0019】
シャーレ上での発芽試験(方法は表3の注の通り)の結果を表3に示した。圃場における発芽粒割合と同様に、ホセチル-Al区および亜リン酸カリ区では完全発芽割合が低く経過した。特に注目すべきことは、試験開始3日目の完全発芽割合が、ホセチル-Al区および亜リン酸カリ区のそれは対照区の1/3弱にとどまっている点である。小麦の生産現場では収穫期の降雨で穂発芽をまねき、品質を低下させることが多い。種子が吸湿して発芽が開始する初期段階で発芽抑制が認められることは営農上非常に有益な現象である。
【0020】
【表4】
小麦の収量調査結果
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
試験区 精麦収量(kg/10a) リットル重(g) 千粒重(g)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ホセチル-A1区 441 795 39.1
亜リン酸カリ区 448 807 39.5
リン酸カリ区 430 776 38.4
対照区 438 786 39.1
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
穂発芽抑制に成功したとしても、収量減をもたらす農園芸用資材では生産現場では受け入れられない。表4では収量の比較を行った。粒厚2.2mm以上の精麦収量、リットル重および千粒重においても各区間に大差はなく、ホセチル-Alの施用によって収量減をもたらすことはなかった。
【0021】
【発明の効果】
本発明により、亜リン酸エステルおよび、亜リン酸エステルのアンモニウム塩、第1級〜第4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および多価金属塩および多価金属塩よりなる群から選択される1種又は2種以上の化合物を含有する農園芸用組成物を施用して低アミロ麦の発生を防止することができ、麦の安定生産と高品質維持に貢献すること大である。
Claims (4)
- 亜リン酸エステルおよび、亜リン酸エステルのアンモニウム塩、第1級〜第4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および多価金属塩よりなる群から選択される1種又は2種以上の化合物Aを有効成分として含有し、タンパク質、オリゴ糖、多糖、脂質、糖脂質、糖タンパク、ペプチド、植物材料若しくは菌類由来の細胞壁エキス、菌類、アシベンゾラル−S−メチル、酵母エキス、サリチル酸若しくはそのエステル、又は藻類のエキスを有効成分として含有しない、低アミロ麦発生防止用農園芸用組成物。
- 化合物Aがトリス(エチルホスホナート)のアルミニウム塩である、請求項1に記載の農園芸用組成物。
- 請求項1又は2に記載の農園芸用組成物を、麦類の全生育期間に施用し、その前後又は同時にタンパク質、オリゴ糖、多糖、脂質、糖脂質、糖タンパク、ペプチド、植物材料若しくは菌類由来の細胞壁エキス、菌類、アシベンゾラル−S−メチル、酵母エキス、サリチル酸若しくはそのエステル、又は藻類のエキスを施用しない、低アミロ麦の発生を防止する方法。
- 請求項1又は2に記載の農園芸用組成物を、麦類の生殖成長期に施用し、その前後又は同時にタンパク質、オリゴ糖、多糖、脂質、糖脂質、糖タンパク、ペプチド、植物材料若しくは菌類由来の細胞壁エキス、菌類、アシベンゾラル−S−メチル、酵母エキス、サリチル酸若しくはそのエステル、又は藻類のエキスを施用しない、低アミロ麦の発生を防止する方法。
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