JP3656695B2 - 骨計測方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は骨計測方法および装置に関し、詳しくは骨粗鬆症等の診断に有用な人体等の骨部組織の構造を、放射線画像に基づいて、定量的な指標値として求める方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
骨塩定量、すなわち骨の中のカルシウムの量を定量的に測定することは骨折予防の診断のために有用である。
【0003】
つまり、骨塩量は、骨の内部を構成する海綿質である骨梁の疎密、すなわち骨密度によってに定まるため、骨密度が疎であれば骨部画像における骨部の陰影の濃度が高くなり、骨密度が密であれば骨部画像における骨部の陰影の濃度は低くなる。
【0004】
したがって、骨中のカルシウムの微量変化を知ることは骨粗鬆症の早期発見を可能にし、骨折予防のうえでも重要な効果がある。
【0005】
そこで従来、MD法(Microdensitometry) 、SPA法(Single Photon Absorptiometry)、DPA法(Dual Photon Absorptiometry)、QDR法(Quantitative Digited Radiography)、QCT法(Quantitative Computer Tomography)、DQCT法(Dual energy Quantitative Computer Tomography)等、数々の骨塩定量の方法が提案され、実施されている。
【0006】
ところで、これらの各手法はいわゆる骨密度を計量するものであり、確かに骨粗鬆症の診断の指標値として従来から広く一般に用いられているが、最近は、この骨密度値の他に、骨構造状態を指標値として定量的に表すことが提案されている。
【0007】
すなわち、骨密度値は、単純には体積に対する質量の比の値であるから、荷重を支持する骨としての実体である骨梁の分布状態(骨構造)の差異が反映されるものではないが、骨粗鬆症は本来は骨の強度の問題であって、この強度は骨梁の分布状態に大きく依存するものであるから、骨構造状態を指標値化することは、骨粗鬆症の診断においては極めて有用な技術である。
【0008】
このような骨構造状態を表す指標値としては、例えば、スターボリューム(Star volume )、ノードストラット解析(Node-strut analysis )により得られる指標置などが知られている。
【0009】
なお、本明細書においては、説明の冗長を避けるため、指標値であるスターボリュームを算出する処理方法をスターボリューム法と、ノードストラット解析により指標値を算出する処理方法をノードストラット解析法と、それぞれ称するものとする。
【0010】
スターボリューム法では、図3に示すように、骨髄腔内の所定の点aから全ての方向について骨梁に遮られることなく見渡せる範囲の骨髄腔体積の平均を意味するVm(marrow space star volume)、およびこれと同様に骨梁の中の点bから全ての方向に骨梁の端に至る範囲の骨梁体積の平均を意味するVt(trabecular star volume)の2種類の指標値が定義されている。なお、図3においては斜線部が骨梁を、その他の部分が骨髄腔を示す。Star volume は、標本のサンプリング法の工夫により骨髄腔の骨梁の大きさをmm3 あるいはμm3 といった3次元の値として表す隔たりのない立体学的指標とされている。Vmは骨梁の連続性が高い場合は小さく、骨梁の消滅や穿孔が多いときは大きくなり、逆にVtは骨梁の連続性が高い場合は大きく、骨梁の消滅や穿孔が多いときは小さくなる。
【0011】
骨髄腔内の任意の点iにおけるVmiは以下の式(1)により定義される。
【0012】
Vmi=(π/3)×l0m 3 (1)
但し、点iを中心とする任意の方向において、骨髄腔が連続する長さをl0 としたとき、l0m 3 は点iを中心として放射状に全ての方向においてl0 3を求めた場合の平均値を表す。
【0013】
また、骨梁上の任意の点jにおけるVtjは以下の式(2)により定義される。
【0014】
Vtj=(π/3)×Σl1 4/Σl1 (2)
但し、l1 は点jを中心とする任意の方向において、骨梁が連続する長さを示す。また、l1 は点jを中心として放射状に全ての方向において求められ、Σはその全ての方向における和を求めることを表す。そして、VmiおよびVtjをサンプリング点ごとに算出し、その平均値をVmおよびVtとすればよい。
【0015】
なお、骨梁構造の指標値としては、VmとVtのいずれを用いてもよい。
【0016】
そして例えば図4に示すように、被検体の年齢、骨密度値およびVtを軸とする三次元座標系が形成され、入力された結果がこの三次元座標内のいずれの位置に存在するかに応じて、骨部組織の状態を判定する。すなわち、被検体の年齢、骨密度値およびVtが点P1で示す位置にあれば状態A(例えば、骨粗鬆症の疑いがある状態)にあり、点P2で示す位置にあれば状態B(注意を要する状態)にあり、点P3で示す位置にあれば状態C(正常な状態)にある、と判定するものである。
【0017】
一方、ノードストラット解析法は、骨梁の連続性を二次元的に評価する方法であり、3個以上の骨梁の結合点をNd(Node;ノード、図5における白点)、他の骨梁と結合していない終末点をTm(Terminus、図5における黒点)と定義する。そして、図5に示すように、これらをつなぐ骨梁の中心線(strut ;ストラット)を、NdNd(結合点同士をつなぐストラット)、NdTm(結合点と終末点とをつなぐストラット)、TmTm(終末点同士をつなぐストラット)、CtNd(皮質骨(Ct)と結合点とをつなぐストラット)、およびCtTm(皮質骨と終末点とをつなぐストラット)に分類し、各ストラットの長さを測定する。
【0018】
次いでこれらの各ストラットの長さと結合点Ndの数NNdおよびTmの数NTmに基づいて以下の指標値を定義する。
【0019】
(1)長さの指標値
すべてのストラットの長さの和TSLに対する各ストラットの長さの割合(%)
NdNd/TSL
NdTm/TSL
TmTm/TSL
CtNd/TSL
CtTm/TSL
(2)面積に対する長さの指標値
骨部組織(骨梁および皮質骨の和、または骨梁のみ)の面積TVに対するストラットの長さの割合(mm/mm2 )
TSL/TV
NdNd/TV
NdTm/TV
TmTm/TV
CtNd/TV
CtTm/TV
(3)数の指標値
NNd/TV;骨部組織の面積当たりの結合点の数(/mm2 )
NTm/TV;骨部組織の面積当たりの終末点の数(/mm2 )
NNd/NTm;結合点の数と終末点の数との比
以上の指標値は、結合点Nd関連の指標値が大きいほど骨梁の連続性が高く、終末点Tmの関連のパラメータが大きいほど骨梁の連続性が低いことを示す。
【0020】
このノードストラット解析法は、骨梁の連続性を直接かつ簡便に計測できる方法として有用性が高い。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述した骨構造の状態を表す指標値を求める方法は、骨のスライス試片という実体の標本を対象とするものであるため、被検体から非侵襲的に求めることができないという、実用上の問題があった。
【0022】
一方、上記骨部組織を含む放射線画像に基づいて上記骨部組織の構造状態を指標値化する試みもあるが、放射線画像における、軟部組織との重なり、濃度・コントラストの変動等の要因のため、実用上の計測精度を確保することができないという問題がある。
【0023】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、骨部組織の構造状態を、放射線画像に基づいて精度よく指標値化することを可能にした骨計測方法および装置を提供することを目的とするものである。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明の骨計測方法は、放射線画像を表す画像情報に対してモーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理を施すことにより、骨部組織の構造を抽出または強調処理し、その抽出または強調処理された骨部組織の構造を表す画像に基づいて、当該構造状態を表す指標値を算出するものである。
【0025】
すなわち本発明の骨計測方法は、骨部組織の構造の状態を表す指標値を取得する骨計測方法であって、
少なくとも前記骨部組織を含む被検体を被写体とする放射線画像に対してモーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理を施し、
前記強調処理された骨部組織の構造を表す骨部組織画像に対して、前記指標値を取得する処理を施すことを特徴とするものである。
【0026】
ここで、骨部組織とは、骨梁とそれ以外の空洞部分である骨髄腔、およびこれらの外周を覆う皮質骨等を意味し、骨部組織の構造の状態とは主として骨梁と骨髄腔との分布状態を意味する。
【0027】
骨部組織の構造の状態を表す指標値としては、前述したスターボリューム法によるVm若しくはVt、またはノードストラット解析法によるNdNd/TSL、NdTm/TSL、TmTm/TSL、CtNd/TSL、CtTm/TSL、TSL/TV、NdNd/TV、NdTm/TV、TmTm/TV、CtNd/TV、CtTm/TV、NNd/TV、NTm/TV、NNd/NTm等を適用することができる。
【0028】
また、モーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理としては、スケルトン処理を適用することができる。ここでモーフォロジー演算について説明する。
【0029】
モーフォロジー演算(以下、モーフォロジー処理ともいう)とは、原画像のうち異常な陰影等の特定の画像部分だけを選択的に抽出する、モーフォロジー(Morphology;モフォロジーまたはモルフォロジーとも称する)のアルゴリズムに基づく処理であり、特に乳癌における特徴的形態である微小石灰化像を検出するのに有効な手法として研究されているが、対象画像としてはこのようなマンモグラムにおける微小石灰化像に限るものではない。
【0030】
そしてこのモーフォロジー処理は、抽出しようとする画像部分の大きさ、形状に対応した構造要素Bを用いた処理を行なうものであり、複雑なバックグラウンド情報に影響されにくい、抽出した画像が歪まない、などの特徴がある。
【0031】
すなわち、この手法は一般の微分処理に比べて、石灰化像のサイズ・形状・濃度分布などの幾何学的情報をよりよく保って検出することができる。
【0032】
以下、このモーフォロジー処理の概要を、マンモグラムにおける微小石灰化像の検出に適用した例について説明する。
【0033】
(モーフォロジーの基本演算)
モーフォロジー処理は一般的にはN次元空間における集合論として展開されるが、直感的な理解のために2次元の濃淡画像を対象として説明する。
【0034】
濃淡画像を座標(x,y)の点が濃度値f(x,y)に相当する高さをもつ空間とみなす。ここで、濃度値f(x,y)は、濃度が低い(CRTに表示した場合には輝度が高い)程大きな画像信号値となる高輝度高信号レベルの信号とする。
【0035】
まず、簡単のため上記2次元の濃淡画像の断面に相当する1次元の関数f(x)を考える。モーフォロジー演算に用いる構造要素gは次式(3)に示すように、原点について対称な対称関数
【0036】
【数1】
【0037】
であり、定義域内で値が0で、その定義域Gが下記式(4)であるとする。
【0038】
【数2】
【0039】
このとき、モーフォロジー演算の基本形は式(5)〜(8)に示すように、非常に簡単な演算となる。
【0040】
【数3】
【0041】
すなわち、ダイレーション(dilation)処理は、注目画素を中心とした、±m(構造要素Bに応じて決定される値であって、図6中のマスクサイズに相当)の幅の範囲内の最大値を探索する処理であり(同図(A)参照)、一方、エロージョン(erosion )処理は、注目画素を中心とした、±mの幅の範囲内の最小値を探索する処理である(同図(B)参照)。また、オープニング(opening )処理はエロージョン処理後にダイレーション処理を行なう処理、すなわち最小値の探索の後に最大値を探索する処理であり、クロージング(closing )処理は、ダイレーション処理後にエロージョン処理を行なう処理、すなわち最大値の探索の後に最小値を探索する処理に相当する。
【0042】
つまりオープニング処理は、低輝度側から濃度曲線f(x)を滑らかにし、マスクサイズ2mより空間的に狭い範囲で変動する凸状の濃度変動部分(周囲部分よりも輝度が高い部分)を取り除くことに相当する(同図(C)参照)。
【0043】
一方、クロージング処理は、高輝度側から濃度曲線f(x)を滑らかにし、マスクサイズ2mより空間的に狭い範囲で変動する凹状の濃度変動部分(周囲部分よりも輝度が低い部分)を取り除くことに相当する(同図(D)参照)。
【0044】
なお、構造要素gが原点に対して対称ではない場合の、式(5)に示すダイレーション演算をミンコフスキー(Minkowski )和、式(6)に示すエロージョン演算をミンコフスキー差という。
【0045】
ここで、濃度の高いもの程大きな値となる高濃度高信号レベルの信号の場合においては、濃度値f(x)の画像信号値が高輝度高信号レベルの場合に対して大小関係が逆転するため、高濃度高信号レベルの信号に対するダイレーション処理と高輝度高信号レベルに対するエロージョン処理(同図(B))とは一致し、高濃度高信号レベルの信号に対するエロージョン処理と高輝度高信号レベルに対するダイレーション処理(同図(A))とは一致し、高濃度高信号レベルの信号に対するオープニング処理と高輝度高信号レベルに対するクロージング処理(同図(D))とは一致し、高濃度高信号レベルの信号に対するクロージング処理と高輝度高信号レベルに対するオープニング処理(同図(C))とは一致する。
【0046】
なお、本項では高輝度高信号レベルの画像信号(輝度値)の場合について説明する。
【0047】
(石灰化陰影検出への応用)
石灰化陰影の検出には、原画像から平滑化した画像を引き去る差分法が考えられる。単純な平滑化法では石灰化陰影と細長い形状の非石灰化陰影(乳腺、血管および乳腺支持組織等)との識別が困難であるため、東京農工大の小畑らは、多重構造要素を用いたオープニング処理に基づく下記式(9)で表されるモーフォロジーフィルターを提案している(「多重構造要素を用いたモルフォロジーフィルタによる微小石灰化像の抽出」電子情報通信学会論文誌 D-II Vol.J75-D-II No.7 P1170 〜1176 1992年7月、「モルフォロジーの基礎とそのマンモグラム処理への応用」MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY Vol.12 No.1 January 1994 等)。
【0048】
【数4】
【0049】
ここでBi (i=1,2,…,n)は、直線状の大きさがm画素でn個(例えば図7に示すものでは、9画素4方向でありm=9,n=4)の構造要素(これらを全体として以下、m画素n方向の多重構造要素という)である。構造要素Bi を検出対象である石灰化陰影よりも大きく設定すれば、上記オープニング演算による処理で、構造要素Bi よりも細かな信号変化部分(空間的に狭い範囲で信号が変動する画像部分)であって周囲よりも輝度値の大きい凸状の部分である石灰化陰影は取り除かれる。一方、細長い形状の乳腺の陰影等の非石灰化陰影はその長さが構造要素Bi よりも長く、その傾きが4つの構造要素Bi のいずれかに一致すればオープニング処理(式(9)の第2項の演算)をしてもそのまま残る。したがってオープニング処理によって得られた平滑化画像(石灰化陰影のみが取り除かれた画像)を原画像fから引き去ることで、小さな石灰化陰影のみが含まれる画像が得られる。これが式(9)の考え方である。
【0050】
なお、前述したように、高濃度高信号レベルの信号の場合においては、石灰化陰影は周囲の画像部分よりも濃度値が低くなり、石灰化陰影は周囲部分に対して濃度値の小さい凹状の信号変化部分となるため、オープニング処理に代えてクロージング処理を適用し、式(9)に代えて式(10)を適用する。
【0051】
【数5】
【0052】
なお、モーフォロジー演算の一例である式(10)のクロージング処理を具体的に説明する。
【0053】
すなわち、高濃度高信号レベルの画像信号である濃度値Sorg についてのモーフォロジー演算によれば、例えば図8(1)の実線に示すような濃度値Sorg の分布を有する画像データに対して、同図(2)に示すような直線状の3画素の構造要素Bで、最大値処理(ダイレーション処理)を行うことにより、ある注目画素の濃度値Si は、その注目画素を中心として互いに隣接する3画素(構造要素Bにより決定される)の中の最大値Si+1 を採用したSi ′に変換される。この演算を全画素について行うことにより、濃度値Sorg ′の分布を有する同図(1)の破線で示す最大値信号に変換される。
【0054】
次に、この最大値処理により得られた最大値信号に対してさらに構造要素Bによる最小値処理(エロージョン処理)を考えると、同図(1)の破線で示された注目画素の最大値信号Si ′は、その注目画素を中心として互いに隣接する3画素の中の最小値Si-1 ′を採用したSi ″(=Si )に変換される。この演算を全画素について行うことにより、最大値処理後の最小値信号Sorg ″の分布は同図(1)の一点鎖線で示すものとされる。この一点鎖線で示された画像信号は、もとの実線のオリジナルの画像データに対して、構造要素Bよりも空間的に狭い範囲で信号が変動する画像部分が消え、構造要素Bよりも空間的に広い範囲で変動する信号値の変化部分である画像部分や変動のない画像部分はもとの形状のまま残っていることを示している。すなわち、以上の処理(クロージング処理)は、画像濃度の分布を高濃度側から平滑化する処理として作用する。
【0055】
このようにクロージング処理で得られた値(Sorg に対して最大値処理を行なった後にさらに最小値処理を行なった値)を原画像信号Sorg から差し引くことにより得られた値Smor は、上記クロージング処理で消された空間的に狭い範囲で変動する信号値の変化部分である画像部分を表す。
【0056】
ここで、本来、画像信号は2次元の要素である位置(x,y)と、3次元目の要素である信号値f(x,y)を有するが、上記説明においては、理解の容易化のために、この2次元上に展開された画像の所定の断面に現れた、1次元状の画像信号分布曲線について説明した。
【0057】
したがって実際には、以上の説明を2次元画像に適用する必要があり、多重構造要素を用いるのも2次元画像に対応させるためである。
【0058】
次にモーフォロジー演算に基づくスケルトン処理について説明する。
【0059】
スケルトン処理とは一般に図形の骨格(skeleton)を抽出する処理であり、骨格とは図形に内接する円盤の中心の集合としてとらえることができる。すなわち例えば図9(A)〜(E)に示す各図形(中太の実線で表記)の骨格はそれぞれ太い実線で示すものとなる。
【0060】
以下、このスケルトン処理を、上述したモーフォロジー演算により行なう場合について説明する。この場合、スケルトン処理は下記式(11)または(12)で表すことができる。
【0061】
【数6】
【0062】
【数7】
【0063】
ここで式(11)と式(12)とは前述した、画像を高濃度高信号レベルの画像信号として表すか、または高輝度高信号レベルの画像信号として表すかの差異によるものであり、高濃度高信号レベルの画像信号で表された画像から低濃度(高輝度)の画像部分の骨格を抽出する場合は式(11)を適用し、一方、高輝度高信号レベルの画像信号で表された画像から低輝度(高濃度)の画像部分の骨格を抽出する場合は式(12)を適用するものであり、作用自体の実質的な差はない。
【0064】
例えばネガフイルム(高濃度高信号レベル)上においては骨部は他の画像部分に比べてその濃度は低いものとなり、骨梁の存在する部分は濃度が低く、存在しない部分は濃度が高くなる。したがって、周囲よりも濃度の低い部分となる骨梁を対象としてスケルトン処理を行なうことに該当するため式(11)を適用すればよい。
【0065】
ここで式(11)における構造要素Bを半径rの円とし、図10に示す図形に対してスケルトン処理を施した状態を示す。図10に示す図形は、その輪郭よりも外側領域が濃度の高い部分であり、内側が濃度の低い部分である。
【0066】
この図形に対してまず図示上段では構造要素Bによるエロージョン処理が施される。λ=0(構造要素Bによる0回のエロージョン処理)では図形は何ら変化がない。
【0067】
λ=1(構造要素Bによる1回のエロージョン処理)では図形が構造要素Bの半径r分だけ内側に埋め込められる。
【0068】
λ=2(構造要素Bによる2回のエロージョン処理)では図形の円から突出した部分が完全に消失する。
【0069】
同様の操作を繰り返すことにより、λ=N−1(構造要素BによるN−1回のエロージョン処理)で図形は半径r以下の円のみとなる。
【0070】
一方、図示中段は、この構造要素Bによる各回(λ=0,1,2,…,N−1,N)のエロージョン処理を施した画像に対して、さらにそれぞれ構造要素Bによるオープニング処理を施した図形である。
【0071】
この図示上段の図形から図示中段の図形を、処理の回数を対応させて差し引いた図形が図示下段である。
【0072】
λ=1において、元の図形の円から突出した部分の骨格要素が抽出され、λ=N−1において、元の図形の円の骨格要素が抽出されていることが分かる。
【0073】
このように元の図形に対してエロージョン処理を施し、さらにオープニング処理を施し、処理回数を対応させて差し引き、この結果の和集合を求めたものが式(11)の意味するところである。
【0074】
式(12)では濃度の高低が式(11)とは逆転した図形から骨格要素を抽出するのに有効であり、元の図形に対してダイレーション処理を施し、さらにクロージング処理を施し、処理回数を対応させて差し引き、この結果の和集合を求めることにより骨格要素を抽出することを意味する。
【0075】
なお上記式(11)、(12)中の和集合として、n1 の値が比較的大きいもののみの和集合、すなわち例えばn1 =0,1の場合を除いたλ=2,3,4,5等の和集合を採用し、この場合に得られる骨格要素を表示することにより、骨梁の変化をより見易くすることができ、好ましい。これは、λが0や1のときは特に、非常に空間周波数の高いノイズ成分も抽出されるため、和集合からこれらのノイズ成分を除外することによって、より読影性能の高い画像を得ることができるからである。
【0076】
以上がモーフォロジー演算およびスケルトン処理の内容である。
【0077】
なお、モーフォロジー演算に基づく強調処理の対象としては、骨部組織を含む被検体を被写体とした通常の放射線画像に代えて、エネルギーサブトラクション処理用の、放射線エネルギー分布が互いに異なる2つ以上の放射線画像に基づいて骨部組織が抽出又は強調処理されたエネルギーサブトラクション画像を適用することもできる。
【0078】
本発明の骨計測装置は、放射線画像を表す画像情報に対してモーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理を施すことにより、骨部組織の構造を抽出し、その抽出(強調処理)された骨部組織の構造を表す画像に基づいて、当該構造状態を表す指標値を算出するものである。
【0079】
すなわち本発明の骨計測装置は、骨部組織の構造の状態を表す指標値を算出する骨構造指標値算出手段を備えた骨計測装置であって、
少なくとも前記骨部組織を含む被検体を被写体とする放射線画像に対してモーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理を施すモーフォロジー演算手段をさらに備え、
前記骨構造指標値算出手段が、前記強調処理された骨部組織の構造を表す骨部組織画像に対して、前記指標値を取得する処理を施すものであることを特徴とするものである。
【0080】
ここで、骨部組織、骨部組織の構造の状態、指標値、モーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理、およびスケルトン処理については、上述した本発明の骨計測方法におけるものと同義である。
【0081】
【発明の効果】
本発明の骨計測方法および装置によれば、放射線画像を表す画像情報に対して、スケルトン処理等の、モーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理を施すことにより、被検体に非侵襲で骨部組織の構造状態を精度よく抽出または強調処理することができ、その抽出または強調処理された骨部組織の構造を表す画像に基づいて、スターボリューム法による指標値やノードストラット解析法による指標値等の、当該骨部組織の構造状態を表す指標値を算出することにより、特に骨粗鬆症の診断に有用な情報である骨部組織の構造状態を、定量的な指標値として提供することができる。
【0082】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の骨計測装置の具体的な実施の形態について図面を用いて説明する。
【0083】
図1は本発明の骨計測装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【0084】
図示の骨計測装置100 は、入力された、軟部組織Paと骨部組織Pbとを含む人体等を被写体とした放射線画像Pを表す画像信号(以下、放射線画像情報という)Sに対して、モーフォロジー演算に基づいたスケルトン処理を施すことにより当該骨部組織Pbに相当する画像(スケルトン画像)を表す画像情報Sbを抽出するモーフォロジー演算手段10と、このモーフォロジー演算手段10により抽出された画像情報Sbに対して、当該骨部組織Paの構造状態を表す指標値Vtを求める骨構造指標値算出手段20とを備えた構成である。
【0085】
ここで、上記本実施形態の骨計測装置 100に入力される画像情報Sは、例えば、放射線を照射するとこの放射線のエネルギーの一部が蓄積され、その後、可視光やレーザー光等の励起光を照射すると蓄積された放射線エネルギーに応じた輝尽発光を示す蓄積性蛍光体(輝尽性蛍光体)を利用して、人体等の少なくとも骨部組織を含む被写体の放射線画像情報を一旦、シート状の蓄積性蛍光体(蓄積性蛍光体シート)に記録し、この蓄積性蛍光体シートをレーザー光等の励起光で走査して輝尽発光光を生じせしめ、この輝尽発光光を光電的に読み取って得られた画像信号である。なお、この画像情報としては、単一の放射線画像に基づいて得られた画像情報だけでなく、同一被写体についての、エネルギー分布状態が互いに異なる2つのエネルギーサブトラクション処理用画像情報に基づいて得られる、骨部組織をある程度抽出した画像情報を適用することもでき、また、骨部組織の構造状態の指標値を求めようとする画像部分が、全体画像のうちの一部である場合は、当該画像部分にROI(region of interest;関心領域)設定を行ったうえで、当該ROI内の画像部分に対応する画像情報のみを適用してもよい。
【0086】
モーフォロジー演算手段10によるスケルトン処理は、具体的には図2に示すように、処理対象である画像情報Sに対して、ダイレーション処理を8回(n=0〜7)行い、各ダイレーション処理後の各画像情報A(0)、A(1)、…、A(7)に対してそれぞれエロージョン処理を施して画像情報B(0)、B(1)、…、B(7)を得、これらの各結果B(n)をそれぞれのダイレーション処理前の画像情報A(n−1)(ただし、A(−1)はSに等しい)から減じる演算を行って差分画像情報S(n)={A(n−1)−B(n)}を求める。
【0087】
そして得られた各差分画像情報S(n)をそれぞれ予め設定された閾値により2値化してスケルトン画像情報Skl(n)={Skl(0),Skl(1),Skl(2),Skl(3),Skl(4),Skl(5),Skl(6),Skl(7)}を得る。
【0088】
さらにこれらのスケルトン画像情報Skl(n)のうち、i≦n≦jなる(i,j)を用いて、論理和SUM(i,j)=Skl(i)+Skl(i+1)+…+Skl(j)が表すサムセット画像情報を得る。一例としては、SUM(0,1)、SUM(2,5)、SUM(3,6)、SUM(4,7)の4つが適当である。
【0089】
そしてこれらの4つのサムセット画像情報SUM(0,1)、SUM(2,5)、SUM(3,6)、SUM(4,7)と8つのスケルトン画像情報Skl(0),Skl(1),Skl(2),Skl(3),Skl(4),Skl(5),Skl(6),Skl(7)が、スケルトン処理の結果である骨部画像情報Sbとして、モーフォロジー演算手段10から出力される。
【0090】
また、骨構造指標値算出手段20による、骨部画像情報Sbが表す骨部組織Paの構造状態を表す指標値Vtを求める処理としては、本実施形態においては、前述したスターボリューム法が適用される。そして本実施形態のスターボリューム法では、骨梁の中の点から延ばす放射状の全方向として、例えば9度ごとの40方向を設定し、骨梁の中の点からこれらの全ての方向(40方向)について、骨梁の端に至る範囲(図3参照)の体積の平均を意味する、骨部組織の構造状態を表す1つの指標値Vtを求める。
【0091】
ここでまず、任意のサンプリング点jについての指標値Vtjを次式(2)にしたがって求める。
【0092】
Vtj=(π/3)×Σl1 4/Σl1 (2)
但し、l1 は点jを中心とする任意の方向において、骨梁が連続する長さを示す。また、l1 は点jを中心として放射状に全ての方向において求められ、Σはその全ての方向における和を求めることを表す。
【0093】
そして、Vtjを各サンプリング点ごとに算出し、それらの平均値を指標値Vtとすればよい。
【0094】
次に本実施形態の骨計測装置100 の作用について説明する。
【0095】
まず、前述した骨部画像情報Sbを含む放射線画像情報Sがモーフォロジー演算手段10に入力され、このモーフォロジー演算手段10は入力された画像情報Sに対してスケルトン処理(図2)を施して骨部画像情報Sbを抽出する。
【0096】
得られた骨部画像情報Sbは骨構造指標値算出手段20に入力され、骨構造指標値算出手段20は、入力された骨部画像情報Sbに基づき、骨部組織Paの構造状態を表す1つの指標値であるVt値を上記式(2)にしたがって算出する。
【0097】
このように算出された指標値Vtは骨計測装置100 から出力され、骨粗鬆症の診断等に供される。
【0098】
このように本実施形態の骨計測装置100 によれば、モーフォロジー演算に基づくスケルトン処理により、放射線画像中における骨部組織を軟部組織から精度よく分離した画像情報を得ることができ、そしてこのように精度よく抽出された骨部組織を表す画像情報に基づいて当該骨部組織の構造を表す指標値を求めることにより、骨構造の診断に有用な情報を定量的なものとして、かつ放射線画像から精度よく得ることができる。
【0099】
なお、上記実施形態における骨構造指標値算出手段20は、骨部組織の構造を表す指標値として骨梁体積の平均を意味するVt値を算出するものとしたが、本発明の骨計測装置はこの実施形態に限るものではなく、骨髄腔体積の平均を意味するVm値(式(1))や、ノードストラット解析法による、すべてのストラットの長さの和TSLに対する各ストラットの長さの割合(%)、骨部組織(ここでは、骨梁および皮質骨の和、または骨梁のみ)の面積に対するストラットの長さ、結合点または終末点の数等を骨部組織の構造を表す指標値として求める骨構造指標値算出手段を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の骨計測装置の一実施形態を示すブロック図
【図2】図1に示した骨計測装置におけるモーフォロジー演算手段10によるスケルトン処の流れを示すフローチャート
【図3】スターボリューム法による指標値を説明するための図
【図4】骨部組織の状態を判定する方法を示す図
【図5】ノードストラット解析法による指標値を説明するための図
【図6】モーフォロジー処理の基本的な作用を示す図、(A)ダイレーション(dilation)処理、(B)エロージョン(erosion )処理、(C)オープニング(opening )処理、(D)クロージング(closing )処理
【図7】モーフォロジー処理に用いる構造要素Bi の一例を示す図
【図8】クロージング処理を具体的に説明する図
【図9】種々の図形とその骨格(skeleton;スケルトン)を示す図
【図10】スケルトン処理を具体的に説明する図
【符号の説明】
10 モーフォロジー演算手段
20 骨構造指標値算出手段
100 骨計測装置
Claims (6)
- 骨部組織の構造の状態を表す指標値を取得する骨計測方法であって、
少なくとも前記骨部組織を含む被検体を被写体とする放射線画像に対してモーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理を施し、
前記強調処理された骨部組織の構造の状態を表す骨部組織画像にスターボリューム法に基づいた処理を施して前記指標値を取得することを特徴とする骨計測方法。 - 骨部組織の構造の状態を表す指標値を取得する骨計測方法であって、
少なくとも前記骨部組織を含む被検体を被写体とする放射線画像に対してモーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理を施し、
前記強調処理された骨部組織の構造の状態を表す骨部組織画像にノードストラット解析法に基づいた処理を施して前記指標値を取得することを特徴とする骨計測方法。 - 前記強調処理が、スケルトン処理であることを特徴とする請求項1または2記載の骨計測方法。
- 骨部組織の構造の状態を表す指標値を算出する骨構造指標値算出手段を備えた骨計測装置であって、
少なくとも前記骨部組織を含む被検体を被写体とする放射線画像に対してモーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理を施すモーフォロジー演算手段をさらに備え、
前記骨構造指標値算出手段が、前記強調処理された骨部組織の構造を表す骨部組織画像にスターボリューム法に基づいた処理を施して前記指標値を取得するものであることを特徴とする骨計測装置。 - 骨部組織の構造の状態を表す指標値を算出する骨構造指標値算出手段を備えた骨計測装置であって、
少なくとも前記骨部組織を含む被検体を被写体とする放射線画像に対してモーフォロジー演算に基づく骨部組織の強調処理を施すモーフォロジー演算手段をさらに備え、
前記骨構造指標値算出手段が、前記強調処理された骨部組織の構造を表す骨部組織画像にノードストラット解析法に基づいた処理を施して前記指標値を取得するものであることを特徴とする骨計測装置。 - 前記モーフォロジー演算手段による強調処理が、スケルトン処理であることを特徴とする請求項4または5記載の骨計測装置。
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