JP3653587B2 - 光応答性材料及び異性化処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、実質的にπ−π相互作用に基づく異性化を利用した光応答性材料及び異性化処理方法に関する。
【0002】
【従来技術】
光による構造変化を示す化合物は、光ディスクメモリーをはじめとする光デバイス等の用途に期待されており、その開発は増加の一途をたどっている。そして、その代表的なものとして、フォトクロミズムを利用するフォトクロミック化合物(フォトクロミック材料)が挙げられる。
【0003】
フォトクロミック化合物は、異なる吸収スペクトルをもつ2つの状態間を少なくとも一つの過程が光電磁波によって引き起こされる可逆的な変化を有する化合物であり、従来より4π電子系環化反応、6π電子系環化反応、10π電子系環化反応等によるフォトクロミズムを示す化合物が知られている。この中でも6π電子系環化反応を示す化合物が数多く報告されており、例えばスピロピラン類、スピロオキサジン類、フルギド類等が知られている。
【0004】
しかしながら、従来におけるフォトクロミック化合物は、上記のように電子環化反応を利用したものが主流である。これに対し、電子環化反応以外の反応機構によって光応答性、ひいてはフォトクロミズムを発現する材料が開発できれば、さらなる用途の拡大が期待できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる見地に基づきなされたものであり、電子環化反応以外の反応機構、特にπ−π相互作用に基づく異性化を利用した光応答性を発現する材料を提供することを主な目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、新規な光応答性材料を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、π−π相互作用を光照射により構造変化させることができることを見出し、ついに本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の光応答性材料及び異性化処理方法に係るものである。
1.式 cis−又は trans−[(M(A1)(A2))(E(R1)(R2)(R3))B]n+ (但し、Mは遷移金属元素;A1及びA2は、同一又は別異の芳香環を有する二座配位子であって置換基を有していても良いもの;EはS、P、Se又はAs;R1、R2及びR3は、同一又は別異で、O若しくはN、O若しくはNを介してEに結合する炭化水素基であって置換基を有していても良いもの又はEに直接結合する炭化水素基であって置換基を有していても良いもの;Bはアニオン基;nは整数を示す。)で示され、かつ、A1及びA2のいずれか一方とR3との間でπ−π相互作用が生じている錯体化合物を含む材料であって、
上記材料を光照射することにより生じる上記錯体化合物の異性化を利用することを特徴とする光応答性材料。
2.遷移金属元素Mが、Ru、Fe、Os又はReである上記第1項記載の光応答性材料。
3.炭化水素基R3が、芳香環を有する炭化水素基である上記第1項又は第2項に記載の光応答性材料。
4.炭化水素基R1及びR2の少なくとも一方のO又はN原子が、R3との間でπ−π相互作用が実質的に生じていない方の二座配位子の水素原子と水素結合している上記第1項〜第3項のいずれかに記載の光応答性材料。
5.上記第1項〜第4項のいずれかに記載の光応答性材料に光照射することにより、上記錯体化合物を異性化させることを特徴とする異性化処理方法。
6.光照射により、π−π相互作用を反発的なものに変化させることによって上記錯体化合物を異性化させる上記第5項記載の異性化処理方法。
7.上記第1項〜第4項のいずれかに記載の光応答性材料からなるフォトクロミック材料。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の光応答性材料は、式 cis−又は trans−[(M(A1)(A2)) (E(R1)(R2)(R3))B]n+(但し、Mは遷移金属元素;A1及びA2は、同一又は別異の芳香環を有する二座配位子であって置換基を有していても良いもの;EはS、P、Se又はAs;R1、R2及びR3は、同一又は別異で、O若しくはN、O若しくはNを介してEに結合する炭化水素基であって置換基を有していても良いもの又はEに直接結合する炭化水素基であって置換基を有していても良いもの;Bはアニオン基;nは整数を示す。)で示され、かつ、A1及びA2のいずれか一方とR3との間でπ−π相互作用が生じている錯体化合物を含む材料であって、
上記材料を光照射することにより生じる上記錯体化合物の異性化を利用することを特徴とする。
【0009】
上記Mは、遷移金属元素であれば特に限定されない。例えば、周期律表第VIII族の金属元素(すなわち、Ru、Rh、Pd、Fe、Co、Ni、Os、Ir又はPt)のほか、Re、Cu等を採用することができる。この中でも、特にRu、Fe、Os、Re等が好ましい。
【0010】
上記A1及びA2は、同一又は別異の芳香環を有する二座配位子であって置換基を有していても良いものである。すなわち、上記A1及びA2は、芳香環を有する二座配位子であって置換基を有していても良いものであれば、同一であっても別異であっても良い。2つの二座配位子のうち少なくとも一方は、R3との間でπ−π相互作用が生じ得るものを用いる。このような二座配位子としては、例えばビピリジン(bpy)(置換基を有していても良い。)、フェナントロリン(置換基を有していても良い。)等を好適に用いることができる。また、置換基としては、例えばアルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、アミド基、シアノ基のほか、ペプチド、糖又はこれらの誘導体等が挙げられる。置換基は、1つの二座配位子に1又は2以上結合していても良い。
【0011】
上記E(R1)(R2)(R3)で示される配位化合物において、EとしてはS、P、Se又はAsを採用できる。これら元素の配位化合物としては、例えばスルホキシド化合物、ホスファイト化合物、ホスフィン化合物、アルシン化合物、N−オキサイド化合物等が挙げられる。これらの中でも、ホスファイト化合物、ホスフィン化合物等が好ましい。
【0012】
また、R1、R2及びR3は、同一又は別異で、1)O若しくはN、2)O若しくはNを介してEに結合する炭化水素基であって置換基を有していても良いもの又は3)Eに直接結合する炭化水素基であって置換基を有していても良いものを示す。
【0013】
上記2)のO若しくはNを介してEに結合する炭化水素基、すなわち−O−R基、−N−R基としては、例えばRがアルキル基、シクロアルキル基、アリール基等であるものが例示される。上記3)のEに結合する炭化水素基としては、例えばアルキル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。置換基としては、例えばアルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、アミド基、シアノ基のほか、ペプチド、糖又はこれらの誘導体等が挙げられる。置換基は、1つのRに1又は2以上結合していても良い。
【0014】
本発明では、炭化水素基R1及びR2の少なくとも一方のO又はN原子が、R3との間でπ−π相互作用が実質的に生じていない方の二座配位子の水素原子と水素結合させることができる。この場合、炭化水素基R1及びR2の少なくとも一方がO及びN原子の少なくとも1つを含有することが条件となる。
【0015】
但し、本発明においては、R3は、二座配位子(A1及びA2)のいずれか一方(例えば、A1及びA2がともにビピリジンの場合は、いずれか一方のビピリジンのビピリジン環)とR3との間でπ−π相互作用を生じるようなものであることが必要である。このような結合状態が得られる炭化水素基R3としては、特に限定されないが、芳香環を有する炭化水素基を好適に用いることができる。このような炭化水素基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基等又はこれらに置換基が1又は2以上結合したもの等が挙げられる。
【0016】
これらE、R1、R2及びR3の中でも、EがP原子、R1及びR2が同一又は別異のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、R3がフェニル基という組み合わせ、特にR1及びR2がメトキシ基、R3がフェニル基という組み合わせが好ましい。
【0017】
上記Bは、アニオン基を示す。アニオン基としては特に限定されないが、例えばハロゲン(Cl、Br、F又はI)等が挙げられる。
【0018】
上記n(カチオン価数)は整数を示し、上記M及び上記アニオン基の種類等によって定まる。例えば、MとしてRu(II)、アニオン基としてClを採用した場合には、nは1となる。
【0019】
上記のカチオン錯体は、シス体(cis−)及びトランス体(trans−)のいずれも採用することができるが、特にシス体を用いることが好ましい。シス体として、二座配位子としてビピリジンを用いたもの、すなわち cis−[M(bpy)2(E(R1)(R2)(R3))B]n+(M、E、R1、R2、R3、B及びnは前記に同じ。bpyはビピリジンを示す。)を好適に用いることができる。より具体的には、cis−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2Cl]+ 等を用いることができる。その他にも、例えば下記に示されるような化合物を適宜用いることができる。
【0020】
【化1】
【0021】
本発明のカチオン錯体は、A1及びA2(芳香環を有する二座配位子)のいずれか一方とR3との間でπ−π相互作用が生じている。すなわち、上記二座配位子とR3との間でπ−π相互作用によって互いに引き付け合う状態で安定化している。かかる状態で安定化している限りは、π−π相互作用の程度(強さ等)は特に限定されない。
【0022】
上記カチオン錯体の製造方法としては、例えばシス体の場合は、式 cis−(M(A1)(A2))(B,B0)(M、A1、A2及びBは前記と同じ。B0はBと同一又は別異のアニオン基を示す。)で示される錯体化合物を、一般式E(R1)(R2)(R3)(EならびにR1、R2及びR3は前記と同じ。)で示される配位化合物と反応させることにより製造することができる。また、トランス体を製造する場合は、上記錯体化合物としてトランス体のものを使用するほかは、シス体の場合と同様にすれば良い。
【0023】
上記の錯体化合物としては、例えばRu(bpy)2Cl2、Ru(bpy)2Br2等を使用することができる。上記配位化合物としては、例えばスルホキシド化合物、ホスファイト化合物、ホスフィン化合物、アルシン化合物、N−オキサイド化合物等が挙げられ、好ましくはホスファイト化合物、ホスフィン化合物である。より具体的には(C6H5)(OCH3)2P等を使用することができる。
【0024】
上記錯体化合物と配位化合物との反応は、溶媒中で行うことができる。反応温度は、室温から溶媒の沸点までの間で適宜設定すれば良い。溶媒としては、例えばジメチルホルムアミド等の非プロトン性溶媒、アルコール類等の極性プロトン性溶媒、ジグライム等の非極性溶媒等を適宜採用することができる。また、上記錯体化合物と配位化合物との配合割合は、通常モル比で0.1/1〜1/0.1程度とすれば良い。
【0025】
この反応によって、上記カチオン錯体を定量的に得ることができる。例えば、ラセミ体(Λ体とΔ体の等量混合物)である cis−Ru(bpy)2Cl2(bpy:ビピリジン)とホスファイト化合物とを反応させると、ルテニウムビス(bpy)(ホスファイト)(クロライド)カチオンの錯体が得られる。
【0026】
本発明では、カチオン錯体は、Λ体とΔ体の混合物であっても良いし、両者のいずれか一方のみであっても良い。これらは、用途等に応じて適宜選択することができる。また、カチオン錯体の合成時に副生成物(例えば、カチオン錯体としてシス体を合成する場合のトランス体等)が混在することがあるが、本発明の効果を妨げない範囲内においてカチオン錯体中に副生成物が混在していても差し支えない。
【0027】
反応させた後は、生成した沈殿物を濾過、遠心分離等の公知の固液分離方法によって回収し、必要に応じて再結晶化、洗浄等の精製方法により適宜精製すれば良い。
【0028】
得られるカチオン錯体は、原料である錯体化合物を構成するアニオン基の種類、生成物の再結晶等の精製工程で使用するアニオン性物質の種類等を適宜変更することによって任意のアニオンとの結合状態で得ることができる。上記カチオン錯体の対アニオンとしては、例えばCl-、I-、PF6 -、ClO4 -等のハロゲン又はハロゲン含有アニオンが挙げられる。
【0029】
本発明の光応答性材料は、実質的にカチオン錯体のみからなるもののほか、カチオン錯体と他の材料を含むものも包含する。例えば、カチオン錯体を適当な溶媒又は高分子材料に溶解又は分散させたものも本発明材料として用いることができる。溶媒としては、公知の水系又は非水系溶媒を使用でき、カチオン錯体の構造、最終的な用途等に応じて適宜選択すれば良い。
【0030】
本発明の光応答性材料では、光照射することによって生じるカチオン錯体の異性化を利用する。この異性化は、主として、2つの二座配位子(A1及びA2)のいずれか一方とR3との間でのπ−π相互作用が反発的になることに基づくものである。すなわち、二座配位子のいずれか一方とR3との間でπ−π相互作用が反発的なもの(一種の励起状態)に変化させることにより、カチオン錯体を異性化させることができる。また、本発明の光応答性材料は、光異性化して準安定化状態とした後、加熱等の手段によってもとの最安定状態に戻すことも可能である。
【0031】
上記のような光照射によりカチオン錯体を異性化させる方法、すなわち本発明の光応答性材料に光照射することにより、上記カチオン錯体を異性化させることを特徴とする異性化処理方法も本発明に包含される。この方法においても、π−π相互作用を反発的なものに変化させることにより上記錯体化合物を異性化させる。
【0032】
本発明において、光照射の方法は特に限定的でなく、公知の方法によれば良い。例えば、太陽光、水銀灯、ガスレーザー等の光源を用いることができる。適用する光の波長も特に限定的でなく、通常は200〜500nm程度の範囲から適宜設定することができる。光照射の時間は、カチオン錯体の種類、適用する波長等に応じて適宜設定すれば良い。
【0033】
【発明の効果】
本発明の光応答性材料によれば、光照射による錯体化合物(カチオン錯体)の異性化を利用することから、従来の電子環化反応等を利用する材料とは異なる用途への応用が期待できる。特に、フォトクロミズムを利用したフォトクロミック材料への適用が期待できる。これにより、例えば光ディスクメモリー、調光材料、液晶、その他の光デバイス、電子材料等の各種用途に幅広く応用することが可能となる。
【0034】
また、本発明の異性化処理方法では、特に、光照射によってカチオン錯体のπ−π相互作用を変化させ、カチオン錯体を異性化させることができる。すなわち、電子環化反応等のような構造変化を伴うことなく、カチオン錯体を光照射により変化させることができる。
【0035】
【実施例】
以下、実施例を示し本発明の特徴をより具体的に説明する。但し、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0036】
製造例1
カチオン錯体 cis−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2)Cl]+を図1に示す工程に従って合成した。
【0037】
まず、Ru(bpy)2Cl2(1mmol)のメタノール(50ml)の懸濁液をN2雰囲気下75℃で0.5時間加熱することにより紫色の溶液を得た。これに(C6H5)(OCH3)2P(1mmol)の10mlエタノール溶液を添加し、10時間還流した。溶媒を蒸留回収し、残渣分にエーテル50mlを加えて沈殿を生じさせた。粗生成物をシリカ充填のカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶出液は、メタノール−アセトニトリル(メタノール:アセトニトリル=1:1(体積比))の混合溶媒を用いた。
【0038】
回収した分画を蒸熱乾燥させ、エーテルで洗浄した後、真空乾燥してビピリジン−ルテニウムカチオン錯体化合物を定量的に得た。この化合物を、アンモニウムヘキサフルオロホスフェートの存在下でのメタノール−アセトニトリル溶液からの再結晶処理することにより、赤色のPF6 -をアニオンとする上記カチオン錯体を得た。収率は89%であった。
【0039】
試験例1
製造例1で得たカチオン錯体0.1mgを3mlのアセトニトリルに溶解させて試験溶液を調製した。この試験溶液を用いて光照射(波長λ:293nm)によるUVスペクトル変化を調べた。その結果を図2に示す。図2中、実線は光照射前の状態、破線は光照射30時間後の状態をそれぞれ示す。
【0040】
図2によれば、光照射前における432nmのピークが、光照射30時間後では391nmの位置にシフトしており、光照射前後においてUVスペクトルが変化していることがわかる。
【0041】
また、(A)光照射前の試験溶液、(B)光照射30時間後の試験溶液、 (C)光照射30時間後、室温・暗所で24時間放置後の試験溶液の3種について、高速液体クロマトグラム(HPLC)にて分析を行った。その結果を図3に示す。HPLCは、カラム:SUMIPAX ODS C−05−4615、溶離液:0.1M NaPF6:CH3CN=50:50(体積比)混合液の条件で実施した。
【0042】
図3によれば、(A)では保持時間6.69分にカチオン錯体の単一ピークが認められる。(B)では保持時間6.69分のピークが減少する一方で、保持時間8.42分に新たなピークが出ていることがわかる。(C)では保持時間8.42分のピークが減少し、再び保持時間6.69分のピークが現れていることがわかる。
【0043】
なお、上記(C)の試験溶液をさらに室温・暗所で24時間放置(光照射後約48時間経過)したもの(D)は、8.42分のピークが消滅し、上記(A)と同じ状態に戻ることを確認した。すなわち、上記カチオン錯体は、可逆的に構造変化することから、フォトクロミック材料として使用し得ることがわかる。
【0044】
試験例2
製造例1で得られたカチオン錯体のX線構造解析を行った。その結果を図4に示す。上記カチオン錯体はシス体であることがわかる。また、図4中、C71〜76からなるフェニル基とN42及びC37〜41からなるビピリジン環とは互いに引き付け合っていることがわかる。
【0045】
また、このX線構造解析等に基づき、試験溶液中でのカチオン錯体の構造変化を解析した。その構造変化を図5に示す。図5に示すように、フェニル基の位置が立体的に変化して異性化していることがわかる。図5の9aが光照射前のカチオン錯体であり、P元素に結合するフェニル基(R3)が隣接するビピリジン環との間で主としてπ−π相互作用(π−πスタッキング)が生じる。また、メトキシ基(R1)のO原子と、π−π相互作用が働いていない方のビピリジンのビピリジン環の水素原子との間で水素結合が生じている。これらの弱い相互作用ネットワークによりカチオン錯体は最安定化構造をとる。
【0046】
これに対し、上記カチオン錯体に光照射した場合には、励起状態を経て図5の9bのような構造変化を起こす。すなわち、π−π相互作用が反発的に働き、フェニル基がビピリジン環から遠ざかり、もう一方のメトキシ基(R2)のO原子がR1のそれに代わって上記水素原子と水素結合した状態(準安定化状態)が一定時間保持される。
【0047】
試験例3
製造例1で得たカチオン錯体のNMR分析(1H NMR,CDCl3中)を行った。そのNMRスペクトルを図6に示す。図6のf(1)は9b(準安定化状態)、図6のf(2)は図5の9a(最安定化状態)のものをそれぞれ示す。
【0048】
また、図6のf(1)の試験溶液(すなわち、光照射された上記(B)の試験溶液)を約55℃で加熱したものを分析した結果、上記f(2)と同じ結果が得られた。このように、準安定化状態のものを加熱することにより再び異性化が起こる結果、もとの安定状態に可逆的に戻ることがわかる。
【0049】
試験例4
製造例1のカラム分離で得られた trans−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2)Cl]+のX線構造解析を行った。その結果を図7に示す。なお、カラム分離により、上記カチオン錯体のトランス体が約1重量%生成していたことが判明した。
【0050】
試験例5
製造例1で得たカチオン錯体について、さらにΛ体及びΔ体の二つの異性体を高速液体クロマトグラムにて分離し、両者の存在を確認した。その結果を図8に示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】 cis−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2)Cl]+ の合成スキームを示す図である。
【図2】 cis−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2)Cl]+ におけるアセトニトリル中におけるUVスペクトル変化を示す図である。
【図3】試験溶液を高速液体クロマトグラム(HPLC)で分析した結果を示す図である。図3(A)は光照射前の試験溶液、図3(B)は光照射30時間後の試験溶液、図3(C)は光照射30時間後、室温・暗所で24時間放置後の試験溶液について行った結果である。
【図4】 cis−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2)Cl]+ のX線構造解析結果を示す図である。
【図5】 cis−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2)Cl]+ の試験溶液中の構造変化を示す図である。
【図6】 cis−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2)Cl]+ のNMRスペクトルを示す図である。
【図7】 trans−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2)Cl]+のX線構造解析結果を示す図である。
【図8】 cis−[Ru(bpy)2(P(C6H5)(OCH3)2)Cl]+ のΛ体及びΔ体のUV・CDスペクトルを示す図である。
Claims (6)
- 式 cis−又は trans−[(M(A1)(A2))(E(R1)(R2)(R3))B]n+ (但し、Mは遷移金属元素;A1及びA2は、同一又は別異の芳香環を有する二座配位子であって置換基を有していても良いもの;EはS、P、Se又はAs;R1、R2及びR3は、同一又は別異で、O若しくはN、O若しくはNを介してEに結合する炭化水素基であって置換基を有していても良いもの又はEに直接結合する炭化水素基であって置換基を有していても良いもの;Bはアニオン基;nは整数を示す。)で示され、かつ、A1及びA2のいずれか一方とR3との間でπ−π相互作用が生じている錯体化合物を含む材料であって、
前記炭化水素基R 1 及びR 2 の少なくとも一方のO又はN原子が、R 3 との間でπ−π相互作用が実質的に生じていない方の二座配位子の水素原子と水素結合している材料を光照射することにより生じる上記錯体化合物の異性化を利用することを特徴とする光応答性材料。 - 遷移金属元素Mが、Ru、Fe、Os又はReである請求項1記載の光応答性材料。
- 炭化水素基R3が、芳香環を有する炭化水素基である請求項1又は2に記載の光応答性材料。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の光応答性材料に光照射することにより、上記錯体化合物を異性化させることを特徴とする異性化処理方法。
- 光照射により、π−π相互作用を反発的なものに変化させることによって上記錯体化合物を異性化させる請求項4記載の異性化処理方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の光応答性材料からなるフォトクロミック材料。
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