JP3649659B2 - 渦電流検査信号識別方法及びこの方法を用いる装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、蒸気発生器の伝熱管等に対する渦電流検査により得られる渦電流検査信号から、伝熱管等に存在する損傷を表す部分を自動的に判定する渦電流検査信号識別方法及びこの方法を用いる装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
導電性物体に対する非破壊検査である渦電流検査(以下、ECT検査という。)は、被検査体に渦電流を誘導させるとともに、センサを被検査体の表面に沿って移動させ、その際に生じるセンサのインピーダンスの変化を利用して被検査体の損傷を検出するものである。
【0003】
図11は、ECT検査により得られる信号(以下、ECT信号という。)の説明図である。ECT信号は、図11(a)に示すように、時間tの関数として複素数で表され、実数部Rと虚数部Iの信号成分の関係で検査対象の状態を検出することができる。また、時間tはセンサの位置に対応させることができるので、ECT信号を位置の関数として表すこともできる。
【0004】
更に、ECT信号は、図11(b)に示すように、リサージュ波形により表すこともできる。この場合、検査対象の状態は、リサージュ波形の最も長い部分の振幅vとその部分の位相角θで表される。なお、図11(a)の実数部信号Rと虚数部信号IのA〜F点は、図11(b)のリサージュ波形のA〜F点に対応する。
【0005】
また、ECT信号の特徴として、複数の探傷周波数を用いて検査を行い、探傷周波数分の検査データを得ることもできる。この場合は、1つの対象部位に対して探傷周波数の異なる信号同士の位相角の差や振幅比を求めることにより、対象部位に関するより詳細な情報を得ることができる。
【0006】
図12は、検査対象から1次元又は2次元のECT信号を取得する場合の説明図である。図12(a)は、検査対象52に対して、1つのセンサ51を直線的に移動することにより、1次元のECT信号を取得する例である。
【0007】
また、図12(b)は、検査対象52に対して、1つのセンサ51を平面的に移動することにより、2次元のECT信号を取得する例である。この場合は、検査対象52のx、y座標に対応して、ECT信号の実数部及び虚数部をそれぞれ2次元で表すことができる。
【0008】
また、図12(c)は、検査対象52に対して、複数のセンサ51a、51b等を直線的に移動することにより、2次元のECT信号を取得する例である。複数のセンサを伝熱管の管軸方向に直線的に移動することにより、伝熱管の軸方向と円周方向の2次元構造の中で、どこにきずがあるかを高速に検出することができる。
【0009】
次に、ECT信号からきずを表す部分を自動的に判定する処理について説明する。ECT信号からきずを表す部分を自動的に判定するには、まず、ECT信号全体から着目すべき信号部分を決定する。即ち、ECT信号自体、又はECT信号にフィルタ処理を行った信号に対して閾値処理を行い、信号振幅が所定の閾値より大きい部分を着目すべき信号部分として決定する。
【0010】
次に、着目した信号部分の信号特徴量を求める。この場合、信号特徴量として、ECT信号をリサージュ波形で表した場合の位相角と振幅をとることが一般的である。
【0011】
次に、求められた信号特徴量、例えば、位相角と振幅に基づき、着目した信号部分にきずが存在するか否かを判別する。この場合、最も基本的な判別方法は、閾値処理に基づく判別方法であり、求められた複数の信号特徴量A、Bに対して、例えば、信号特徴量Aの値がA1以上A2以下で、かつ、信号特徴量Bの値がB1以下ならばきずが存在すると判別する。
【0012】
図13は、位相角と振幅を信号特徴量としてきずを判別する場合の説明図である。図中の三角印は、ECT信号の着目部分の位相角と振幅を示す。図13(a)は、閾値処理によりきずを判別する例で、例えば、着目部分の信号の振幅がaボルト以上、かつ、位相角がb°以上の範囲をきずが存在する範囲とする。
【0013】
このように、ECT信号の位相角と振幅を閾値処理することにより、伝熱管のきずの存在を判別することができる。しかしながら、ECT信号は、きずの影響だけでなく、伝熱管周囲の管支持構造物等による影響も受けるため、単純な閾値処理では判別基準が設定しづらい場合もある。
【0014】
そのため、ニューラルネットや統計的識別手法により、多数のデータの分布や信号の変形を学習して識別精度を向上させることも行われる。この場合は、図13(b)に示すように、信号特徴量を表示する空間を、ニューラルネットや統計的識別手法により求めた識別超平面や2次曲面等で分離し、きずが存在すると判別する範囲を設定する。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
このように、ECT信号からきずが存在する部分を判別する場合、ECT信号の本質的な情報である位相角と振幅を信号特徴量とすることが一般的である。しかし、位相角と振幅は単位系が異なり、位相角の変動範囲が0度から360度であるのに対し、振幅の変動範囲は通常0ボルトから10ボルト程度である。
【0016】
このため、位相角と振幅のデータをグラフ上に記入した場合、図14(a)に示すように、位相角は広い範囲で分布するのに対し、振幅の分布範囲は狭くなる。従って、きずを表す範囲の境界を設定する場合、振幅方向の境界設定範囲が位相角方向の境界設定範囲に比べて極めて狭くなり、適切な境界を設定することが難しい。
【0017】
また、位相角の0度及び360度付近に分布するデータは、きずを表す信号として同じグループに属するが、図14(b)に示すように、グラフ上では離れて表示される。このため、グラフ上での距離が信号特徴量の類似関係と整合せず、ECT信号からきずを表す部分を判別する処理が複雑になっていた。
【0018】
また、前述のように、ECT信号の信号特徴量として、リサージュ波形の最も長い部分の振幅vと位相角θが用いられるが、例えば、伝熱管を支持する支持板からも、図15(a)に示すような振幅vと位相角θのデータが得られる場合がある。
【0019】
この場合、伝熱管の支持板の位置にきずが存在すると、図15(b)に示すように、きずを表す信号が支持板の信号の中に埋もれてしまい、支持板の信号の振幅vと位相角θのデータから、きずを表す信号が分離できないという問題がある。
【0020】
また、ECT信号の特徴として、リサージュ波形の形状、例えば、ふくらみをもっているとか、曲がっている等の形状も重要である。しかしながら、従来のように、リサージュ波形の最も長い部分の振幅と位相角を信号特徴量としたのでは、リサージュ波形の微妙な形状の違いが表現されず、きずの判別精度を向上させることができなかった。
【0021】
例えば、伝熱管の支持板(A)、きず(B)、及び伝熱管の外に付着する金属成分である付着物(C)等に対応するリサージュ波形は、図16に示すように、ともに振幅vと位相角θを持つため、振幅vと位相角θを信号特徴量としたグラフ上では同じ位置に分布し、それらを判別することができなかった。
【0022】
一方、ECT信号の特徴量として、特願昭62一154600号公報に記載されているように、リサージュ波形の面積を用いることもできる。しかし、きずの判別に有効な特徴量は、ECTセンサの特性に依存しており、ECTセンサの種類によっては、リサージュ波形の面積をECT信号の特徴量にできない場合もある。また、リサージュ波形の面積は、1次元のECT信号に対するものであり、2次元のECT信号にも拡張的に使えるものではないという問題点もある。
【0023】
そこで、本発明の目的は、渦電流検査により得られた渦電流検査信号から、被検査体に存在する損傷を表す部分を精度よく識別することができる渦電流検査信号識別方法及びこの方法を用いる装置を提供することにある。
【0024】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の渦電流検査信号識別方法の一つの側面は、渦電流検査により得られる渦電流検査信号から、被検査体の損傷を表す部分を識別する渦電流検査信号識別方法において、渦電流検査信号の大きさが所定の値以上の着目点を抽出する第1のステップと、着目点を含んだ信号範囲において、渦電流検査信号のリサージュ波形を求め、リサージュ波形から渦電流検査信号のx座標及びy座標を各々増減させて変化ベクトルを求める第2のステップと、変化ベクトルの大きさを、360°をn方向に分割したn次元の方向ベクトルの方向毎に加算してn次元の特徴ベクトルを求める第3のステップと、n次元の特徴ベクトルを、平滑化すべく加重平均してn次元より小さいm次元の特徴ベクトルに変換する第4のステップと、m次元の特徴ベクトルにより損傷を表す部分を識別する第5のステップとを有することを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、損傷を表す部分を識別するための特徴ベクトルは、渦電流検査信号から求められる変化ベクトルの大きさを、n次元の方向ベクトルの方向毎に加算して求められるので、渦電流検査信号の位相角と振幅の特徴を明確に表現することができる。従って、渦電流検査信号から損傷を表す部分の信号を精度よく識別することができる。
【0026】
また、n次元の特徴ベクトルは、n次元より小さいm次元の特徴ベクトルに変換されるので、量子化による特徴ベクトルの変動を低減し、渦電流検査信号から損傷を表す部分の信号を精度よく識別することができる。
更に、本発明の渦電流検査信号識別装置は、渦電流検査により得られた渦電流検査信号から、被検査体の損傷を表す部分を識別する渦電流検査信号識別装置において、渦電流検査信号のリサージュ波形を求め、リサージュ波形から渦電流検査信号のx座標及びy座標を各々増減させて変化ベクトルを求め、変化ベクトルの大きさを、360°をn方向に分割したn次元の方向ベクトルの方向毎に加算してn次元の特徴ベクトルを求め、n次元の特徴ベクトルを、平滑化すべく加重平均してn次元より小さいm次元の特徴ベクトルに変換し、m次元の特徴ベクトルにより損傷を表す部分を識別する信号処理手段を有することを特徴とする。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0028】
図lは,本発明の実施の形態の渦電流検出信号識別装置の構成ブロック図である。本実施の形態の渦電流検出信号識別装置は、センサ15により伝熱管等のECT検査を行う渦電流探傷器16からECT信号データを読み込むデータ読込部13と、読み込んだECT信号からきずを表す特徴量を算出する等の処理を行うCPU11と、ECT信号を処理するプログラム等を記憶するハードディスク14と、CPU11における処理データ等を一時記憶するメモリ12とを有する。
【0029】
本実施の形態の渦電流検出信号識別装置は、渦電流探傷器16で取得したECT信号データをデータ読込部13で読み込んできずを表す部分を識別するが、渦電流探傷器16を含んだ構成とすることも可能である。
【0030】
次に、ECT信号からきずを表す部分を自動的に識別する処理について説明する。ここでは、最初に全体の処理の流れをフローチャートにより説明し、次に、各ステップにおける処理を具体的に説明する。
【0031】
図2は、本実施の形態の渦電流検査信号識別方法の処理フローチャートである。本実施の形態の識別処理は、ECT信号から特徴量を抽出すべき着目点を計算する信号着目点計算処理(ステップS1)と、着目点を含んだ所定の範囲を処理すべき信号範囲と決定する信号範囲決定処理(ステップS2)と、その信号範囲のECT信号の振幅の変化分を量子化された方向毎に加算する信号方向成分加算処理(ステップS3)と、加算された信号方向成分から方向の量子化による影響を低減し、所定の次元数の特徴量を出力する信号方向平準化処理(ステップS4)と、所定の次元数の特徴量からきずを表す信号を識別する特徴量識別処理(ステップS5)とを有する。
【0032】
次に、フローチャートの各ステップの処理を、原子力プラントの蒸気発生器の伝熱管にECT検査を行う場合を例として説明する。また、ECT信号は、伝熱管の周方向と軸方向の2次元信号の場合について説明するが、例えば、軸方向だけの1次元信号に対しても、同様に適用することができる。
【0033】
図3は、信号着目点計算処理(ステップS1)の説明図である。信号着目点計算処理においては、渦電流探傷器16で取得したECT信号から、特徴量を算出する着目点が抽出される。例えば、ECT信号が1次元信号の場合は、図3(a)に示すように、伝熱管の軸方向にx座標をとった場合のECT信号の実数部R(x)、虚数部I(x)に対して、
(式1) abs(R(x)) >δ (absは絶対値をとる演算子、δは閾値)
となる信号点を着目点としたり、
(式2) abs(R(x)2+I(x)2)1/2 >δ
となる信号点を着目点とする。
【0034】
また、ECT信号が2次元信号の場合は、図3(b)に示すように、伝熱管の軸方向にx座標をとり、周方向にy座標をとった場合のECT信号の実数部R(x,y)に対して、
(式3) abs(R(x,y)) >δ
となる信号点を着目点とする。
【0035】
次に、特徴量を計算するための信号範囲を決定する信号範囲決定処理(ステップS2)が行われる。信号範囲決定処理は、着目点を含んだ所定の範囲を信号範囲とする処理であり、複数の着目点に対して独立に行われる。ここでは、図4に示すように、着目点として(x0,y0)が得られた場合について説明する。なお、(x0,y0)は、着目点のx、y座標である。
【0036】
信号範囲決定処理では、着目点(x0,y0)の周囲を探索し、ECT信号の実数部又は虚数部がなだらかになるところまでを信号範囲とする。具体的には、図4(a)に示す実数部信号に対して、着目点R(x0,y0)のy座標(周方向)をy0に固定し、x座標(軸方向)をx0、x0-1、x0-2、・・と変化させ、実数部信号の変化分△R(x,y0)が、
(式4) △R(x,y0)=abs(R(x,y0)-R(x-1,y0))<δx
となるxが所定数以上続いたら、そのx座標を軸方向の信号範囲の始点xsとし、更に、x座標をx0、x0+1、x0+2、・・と変化させ、
(式5) △R(x,y0)=abs(R(x,y0)-R(x+1,y0))<δx
となるxが所定数以上続いたら、そのx座標を軸方向の信号範囲の終点xeとする(図4(c)参照)。
【0037】
同様に、図4(b)に示す虚数部信号に対して、着目点I(x0,y0)のy座標(周方向)をy0に固定し、x座標(軸方向)をx0、x0-1、x0-2、・・と変化させ、虚数部信号の変化分△I(x,y0)が、
(式6) △I(x,y0)=abs(I(x,y0)-I(x-1,y0))<δx
となるxが所定数以上続いたら、そのx座標を軸方向の信号範囲の始点xsとし、更に、x座標をx0、x0+1、x0+2、・・と変化させ、
(式7) △I(x,y0)=abs(I(x,y0)-I(x+1,y0))<δx
となるxが所定数以上続いたら、そのx座標を軸方向の信号範囲の終点xeとする(図4(d)参照)。なお、図4(e)、図4(f)については後述する。
【0038】
また、図5(a)に示す実数部信号(図4(a)の場合と同じ)に対して、着目点R(x0,y0)のx座標(軸方向)をx0に固定し、y座標(周方向)をy0、y0-1、y0-2、・・と変化させ、実数部信号の変化分△R(x0,y)が、
(式8) △R(x0,y)=abs(R(x0,y)-R(x0,y-1))<δy
となるyが所定数以上続いたら、そのy座標を周方向の信号範囲の始点ysとし、更に、y座標をy0、y0+1、y0+2、・・と変化させ、
(式9) △R(x0,y)=abs(R(x0,y)-R(x0,y+1))<δy
となるyが所定数以上続いたら、そのy座標を周方向の信号範囲の終点yeとする(図5(c)参照)。
【0039】
同様に、図5(b)に示す虚数部信号(図4(b)の場合と同じ)に対して、着目点I(x0,y0)のx座標(軸方向)をx0に固定し、y座標(周方向)をy0、y0-1、y0-2、・・と変化させ、虚数部信号の変化分△I(x0,y)が、
(式10) △I(x0,y)=abs(I(x0,y)-I(x0,y-1))<δy
となるyが所定数以上続いたら、そのy座標を周方向の信号範囲の始点ysとし、更に、y座標をy0、y0+1、y0+2、・・と変化させ、
(式11) △I(x0,y)=abs(I(x0,y)-I(x0,y+1))<δy
となるyが所定数以上続いたら、そのy座標を周方向の信号範囲の終点yeとする(図5(d)参照)。なお、図5(e)、図5(f)については後述する。
【0040】
上記の説明では、実数部又は虚数部の信号がなだらかになるところまでを信号範囲としたが、信号範囲xs〜xe、又はys〜yeが基準値以上に大きい場合は、所定の範囲に制限してもよい。
【0041】
また、ECT信号の実数部R(x,y)と虚数部I(x,y)から振幅(R(x,y)2+I(x,y)2)1/2を計算し、その値がなだらかになるところまでを信号範囲とすることもできる。更に、
(式12) △R(x0,y)=abs(R(x0,y)-R(x0,y-1))<δy、かつ、
△I(x0,y)=abs(I(x0,y)-I(x0,y-1))<δy
のように実数部と虚数部の信号が共になだらかになるという条件で信号範囲を決定することもできる。
次に、求められた信号範囲においてECT信号のリサージュ波形を求める。図4(e)及び図4(f)は、図4(c)の縦軸の実数部R(x,y0)を横軸とし、図4(d)の縦軸の虚数部I(x,y0)を縦軸として描いたECT信号のリサージュ波形である。図4(c)及び図4(d)の始点xs(A点)及び終点xe(B点)は、図4(e)及び図4(f)のA点、B点に対応する。
次に、ECT信号のリサージュ波形からECT信号の変化ベクトルの大きさ及び方向を求める。即ち、図4(e)において、信号点(R(x,y0),I(x,y0))から信号点(R(x+1,y0),I(x+1,y0))に向かう変化ベクトル△vx(x,y0)を、
(式13) △vx(x,y0)=(R(x+1,y0),I(x+1,y0))-(R(x,y0),I(x,y0))
で求め、その方向θx(x,y0)を、
(式14) θx(x,y0)=angle(△vx(x,y0))
で求める。方向θx(x,y0)は図4(f)のようになる。但し、angleはベクトルの角度を求める演算子である。
同様に、図5(e)及び図5(f)は、図5(c)の縦軸の実数部R(x0,y)を横軸とし、図5(d)の縦軸の虚数部I(x0,y)を縦軸として描いたECT信号のリサージュ波形である。図5(c)及び図5(d)の始点ys(A点)及び終点ye(B点)は、図5(e)及び図5(f)のA点、B点に対応する。
図5(e)において、信号点(R(x0,y),I(x0,y))から信号点(R(x0,y+1),I(x0,y+1))に向かう変化ベクトル△vy(x0,y)は、
(式15) △vy(x0,y)=(R(x0,y+1),I(x0,y+1))-(R(x0,y),I(x0,y))
で求まり、その方向θy(x0,y)は、
(式16) θy(x0,y)=angle(△vy(x0,y))
で求まる。方向θy(x0,y)は図5(f)のようになる。
【0042】
このように求められたECT信号の変化ベクトルの大きさは、信号方向成分加算処理(ステップS3)において、量子化された方向毎に加算される。例えば、360°をn方向に分割した方向ベクトルを(d1,d2,…,dn)とし、i番目の方向ベクトルをdiとする。そして、変化ベクトル△vx(x,y0)の方向θx(x,y0)が、
(式17) i×360/n≦θx(x,y0)<(i+1)×360/n
の場合は、変化ベクトル△vx(x,y0)の方向ベクトルdi方向の電圧値をviとする。
(式18) vi=abs(△vx(x,y0))
そして、図5(e)の他の信号点間の変化ベクトルにおいても電圧値viが計算され、方向ベクトルdi方向の電圧値として加算される。
【0043】
同様に、変化ベクトル△vy(x0,y)の方向θy(x0,y)が、
(式19) i×360/n≦θy(x0,y)<(i+1)×360/n
の場合は、方向ベクトルdiの方向の電圧値viが、
(式20) vi=abs(△vy(x0,y))
とされ、方向ベクトルdi方向の電圧値として加算される。
【0044】
このように、信号範囲全体について、方向ベクトル(d1,d2,…,dn)毎にECT信号の変化ベクトルの電圧値viを加算すると、加算した結果は、n次元のベクトルv(v1,v2,…,vn)で表現される。なお、nは位相角を量子化する場合の量子化粗さであり、信号方向平準化処理(ステップS4)で説明する次元数mの倍数(n=a*m)に設定される。
【0045】
ここで、例えば、図6(a)に示すように、変化ベクトル△vx(x,y0)の大きさが2Vで、その方向θx(x,y0)が75°であり、図6(b)に示すように、変化ベクトル△vy(x0,y)の大きさが1.5Vで、その方向θy(x0,y)が270°の場合を考える。
【0046】
この場合、図6(c)に示すように、横軸に変化ベクトルの位相角をとり、縦軸に変化ベクトルの大きさをとって、変化ベクトルの大きさを位相角毎に加算すると、図6(a)に示した変化ベクトルの大きさ2Vは、位相角75°の電圧値に加算され、図6(b)に示した変化ベクトルの大きさ1.5Vは、位相角270°の電圧値に加算される。
【0047】
図6(c)の電圧値を対応する位相角の線上に描くと、図6(d)のグラフ(特徴ベクトル)が得られる。特徴ベクトルは、変化ベクトルの方向成分(大きさ)の加算値を位相角毎に示すことができ、ECT信号のリサージュ波形の特徴を明瞭に表現することができる。
【0048】
なお、ここでは変化ベクトルの方向成分を、360°をnで等分割して求めたが、ECT信号からきずを識別する場合、識別に重要な角度とそれほど重要でない角度があるため、必ずしも等分割する必要はない。
【0049】
次に、信号方向平準化処理(ステップS4)について説明する。信号方向平準化処理は、信号方向成分加算処理で求められたn次元の特徴ベクトルv(v1,v2,…,vn)の変動を平滑化し、更に、特徴ベクトルの次元数をm(m<nとする)に圧縮する。これにより、方向成分の量子化による変動、即ち、変化ベクトルの方向のわずかの違いで、特徴ベクトルの方向成分の値が変わることを防止することができる。
【0050】
n次元の特徴ベクトルv(v1,v2,…,vn)の変動を平滑化するには、まず、求められる平滑化の程度に応じて、式21に示す平準化フィルタfを設定する。
(式21) f=(f-k,f-k+1,…,f0,…,fk-1,fk)
平準化フィルタfは、ベクトルと積算されることにより、各ベクトル要素の前後k点の加重平均をとる演算子である。また、f-k,f-k+1等は、加重平均をとる場合の重みである。
【0051】
例えば、図7(a)に示すように、ベクトル要素viの前後k点のベクトル要素v(i-k)〜v(i+k)に、平準化フィルタfの重みf-k〜fkを積算し、その和を求めることにより、ベクトル要素viをベクトル要素wiに置き換えることができる。
【0052】
このような演算を、特徴ベクトルv(v1,v2,…,vn)の各ベクトル要素に行うことにより、例えば、図7(b)に示す特徴ベクトルv(v1,v2,…,vn)を平滑化した特徴ベクトルw(w1,w2,…,wn)を求めることができる。
【0053】
なお、例えば、平準化フィルタf=(1/3,1/3,1/3)は、各ベクトル要素の前後3点の平均をとるフィルタであり、f=(1)は、平準化を行わない、即ち、各ベクトル要素の値を変更しないフィルタである。
【0054】
このような平準化フィルタfと信号方向成分加算処理で求められたn次元の特徴ベクトルv(v1,v2,…,vn)が式22のように積算され、方向成分の量子化により変動を低減したn次元の特徴ベクトルw(w1,w2,…,wn)が求められる。
【0055】
次に、n次元の特徴ベクトルw(w1,w2,…,wn)をm次元の特徴ベクトルu(u1,u1,…um)に圧縮する。この場合、信号方向成分加算処理において、nがmの倍数(n=a*m)に設定されているため、
により、n次元の特徴ベクトルw(w1,w2,…,wn)を圧縮したm次元の特徴ベクトルu(u1,u1,…um)を求めることができる。
【0056】
図8は、n次元の特徴ベクトルをm次元の特徴ベクトルに圧縮する場合の説明図である。図8に示すように、a=5として、n=15次元の特徴ベクトルwに式23の演算を行うことにより、m=3次元の特徴ベクトルuを求めることができる。
【0057】
例えば、ベクトル要素u3は、式23より、
(式24) u2=1/5×(w6+w7+w8+w9+w10)
となる。
【0058】
このように、m次元数の特徴ベクトルu(u1,u2,…um)は、信号方向成分加算処理により求められたn次元数の特徴ベクトルv(v1,v2,…,vn)から、方向成分の量子化による変動を低減し、ECT信号のリサージュ波形の特徴を明確化したものである。従って、m次元数の特徴ベクトルu(u1,u2,…um)をECT信号の特徴量とすることにより、ECT信号からきずを表す信号を精度よく判別することができる。
【0059】
このことを図9により説明する。例えば、図9(a)、図9(b)に示すように、類似するきずから得られる特徴ベクトルv(v1,v2,…,vn)が、次元数nが大きいため、異なる方向成分を有する場合でも、次元数nより少ないm次元の特徴ベクトルu(u1,u2,…um)に圧縮することにより、図9(c)に示すように、同じ方向成分を有する特徴ベクトルにすることができる。このため、ECT信号のリサージュ波形の特徴が明確化され、きずを表す信号の判別精度を向上することができる。
【0060】
このように求められたm次元の特徴ベクトルu(u1,u2,…um)は、特徴量識別処理(ステップS5)に送られる。特徴量識別処理では、信号方向平準化処理で得られたm次元の特徴ベクトルu(u1,u2,…um)と、予め記憶しているm次元のきずベクトルU(U1,U2,…,Um)とのベクトル間の距離を求め、その距離が所定範囲内の場合に、特徴ベクトルuがきずを表す信号であると識別する。ベクトル間の距離dは、例えば次式で求められる。
(式25) d=sqrt((U1-u1)^2+(U2-u2)^2+…+(Um-um)^2)
ここで、sqrtは、平方根を求める演算子である。
【0061】
m次元の特徴ベクトルu(u1,u2,…um)の各成分は、前述のように、リサージュ波形の変化ベクトルから求められ、リサージュ波形の位相角の方向に大きな値が入る。このため、次元数が圧縮されたベクトル空間で、ECT信号の本質的な特徴を使った識別が可能である。
例えば、図10(a)に示すように、支持板から得られるリサージュ波形をm次元の特徴ベクトルu(u1,u2,…um)に変換する場合は、リサージュ波形が丸い形状なので、特徴ベクトルu(u1,u2,…um)には全ての方向成分が存在する。
一方、図10(b)に示すように、きずから得られるリサージュ波形をm次元の特徴ベクトルu(u1,u2,…um)に変換すると、そのリサージュ波形が斜め右方向を向いた直線的形状なので、特徴ベクトルu(u1,u2,…um)には、斜め右方向の成分だけが存在する。
このように、きずが存在する場合は、特徴ベクトルu(u1,u2,…um)の特定の方向にきずの成分が存在するので、伝熱管の支持構造物の位置にきずが存在し、きずと支持構造物が複合した信号が生成される場合にも、きずを表す信号を精度よく識別することができる。
また、図10(c)に示すように、曲がりやふくらみを有するリサージュ波形をm次元の特徴ベクトルu(u1,u2,…um)に変換すると、そのリサージュ波形の曲がり方に対応した成分が現れる。このため、リサージュ波形の曲がりやふくらみの形状も特徴量として表現することができ、識別精度を向上させることができる。
【0062】
本発明の保護範囲は、上記の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0063】
【発明の効果】
以上、本発明によれば、損傷を表す部分を識別するための特徴ベクトルは、渦電流検査信号から求められる変化ベクトルの大きさを、n次元の方向ベクトルの方向毎に加算して求められるので、渦電流検査信号の位相角と振幅の特徴を明確に表現することができる。従って、渦電流検査信号から損傷を表す部分の信号を精度よく識別することができる。
【0064】
また、n次元の特徴ベクトルは、n次元より小さいm次元の特徴ベクトルに変換されるので、量子化による特徴ベクトルの変動を低減し、渦電流検査信号から損傷を表す部分の信号を精度よく識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の渦電流検査信号識別装置の構成ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態の渦電流検査信号識別方法の処理フローチャートである。
【図3】信号着目点計算処理の説明図である。
【図4】信号範囲決定処理の説明図(1)である。
【図5】信号範囲決定処理の説明図(2)である。
【図6】信号方向成分加算処理の説明図である。
【図7】平準化フィルタの説明図である。
【図8】n次元ベクトルをm次元に圧縮する説明図である。
【図9】信号方向平準化処理の説明図である。
【図10】リサージュ波形の形状により特徴量が異なることの説明図である。
【図11】ECT信号の説明図である。
【図12】1次元及び2次元のECT信号の説明図である。
【図13】信号特徴量によりきずを判別する説明図である。
【図14】信号特徴量として位相角、振幅を用いる際の問題点の説明図(1)である。
【図15】信号特徴量として位相角、振幅を用いる際の問題点の説明図(2)である。
【図16】信号特徴量として位相角、振幅を用いる際の問題点の説明図(3)である。
【符号の説明】
11 CPU
12 メモリ
13 データ読込部
14 ハードディスク
15 センサ
16 渦電流探傷器
17 内部バス
Claims (4)
- 渦電流検査により得られる渦電流検査信号から、被検査体の損傷を表す部分を識別する渦電流検査信号識別方法において、
前記渦電流検査信号の大きさが所定の値以上の着目点を抽出する第1のステップと、
前記着目点を含んだ信号範囲において、前記渦電流検査信号のリサージュ波形を求め、前記リサージュ波形から渦電流検査信号のx座標及びy座標を各々増減させて変化ベクトルを求める第2のステップと、
前記変化ベクトルの大きさを、360°をn方向に分割したn次元の方向ベクトルの方向毎に加算してn次元の特徴ベクトルを求める第3のステップと、
前記n次元の特徴ベクトルを、平滑化すべく加重平均して前記n次元より小さいm次元の特徴ベクトルに変換する第4のステップと、
前記m次元の特徴ベクトルにより前記損傷を表す部分を識別する第5のステップとを有することを特徴とする渦電流検査信号識別方法。 - 請求項1において、前記変化ベクトルは、前記渦電流検査信号の大きさが所定の閾値以上の信号範囲において求められることを特徴とする渦電流検査信号識別方法。
- 請求項1において、前記変化ベクトルは、前記渦電流検査信号の実数部及び虚数部の変化分をベクトル要素とすることを特徴とする渦電流検査信号識別方法。
- 渦電流検査により得られた渦電流検査信号から、被検査体の損傷を表す部分を識別する渦電流検査信号識別装置において、
前記渦電流検査信号のリサージュ波形を求め、前記リサージュ波形から渦電流検査信号のx座標及びy座標を各々増減させて変化ベクトルを求め、前記変化ベクトルの大きさを、360°をn方向に分割したn次元の方向ベクトルの方向毎に加算してn次元の特徴ベクトルを求め、
前記n次元の特徴ベクトルを、平滑化すべく加重平均して前記n次元より小さいm次元の特徴ベクトルに変換し、前記m次元の特徴ベクトルにより前記損傷を表す部分を識別する信号処理手段を有することを特徴とする渦電流検査信号識別装置。
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