JP3641178B2 - 加圧浮上分離方法及びその装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は加圧浮上分離方法及びその装置に関し、詳しくは被処理原液の供給を所定に行うことにより原液中に含有する懸濁物等の浮上分離除去率を向上できる加圧浮上分離方法及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
上水、下水、中水、工場用水・廃水等の処理において、液中の油分や懸濁物質を分離除去するため、遠心力を利用する遠心分離や重力を利用する沈降分離及び浮上分離の技術は操作も簡便であり、経済性にも富むため幅広く適用されている。沈降分離は被処理原液(殆どの場合は水である)中の懸濁物質の沈降・沈澱により分離する方法であり、浮上分離は被処理原液の中に含まれる懸濁物質を液面上に浮上させて除去する方法である。原液より大きな比重を有する懸濁物質は沈降分離でき、また、原液より小さな比重を有する懸濁物質であれば自然浮上して浮上分離できる。しかし、藻類、活性汚泥等のフロック状に凝集した嵩高い懸濁物質は沈降分離も浮上分離も容易でないため、微細気泡を付着させたり包含させて見かけ比重を小さくして強制的に浮上させて分離する。この場合、微細気泡は、懸濁物質に容易に付着等するように、また、気泡上昇による乱れがフロックを破壊しないように、通常、平均粒径30〜150μmと小さくする。
【0003】
上記のような小さな粒径の微細気泡を発生させる方法としては、従来から各種の方式が採用されている。例えば、機械的せん断力によって微細化させたり、微細な多孔板等のスパージャーから噴出させる等の方式がある。しかし、最も好ましい方式としては、加圧水(液)に空気を溶解させた空気溶解加圧水を大気下の処理系内へ導入することで微細気泡を放出する方式であり、加圧浮上分離法としてよく知られている。また、分離除去しようとする懸濁物質に対しては、凝集剤を添加して凝集させより大きなフロックに成長させることで、微細気泡との接触効率を向上させると共に微細気泡の付着等合体が容易となるように処理される。被処理原液と空気溶解加圧水との接触方式としては各種方式がある。
【0004】
従来の一般的方式としては、例えば、図4に概要説明断面図を示したように、円筒形槽の加圧浮上分離槽40を用い被処理原液41に空気溶解加圧水42を混合して、加圧浮上分離槽40の中央給液筒43底部から上方向へ噴出して浮上させる方式がある。この場合、空気溶解加圧液から放出された微細気泡と被処理原液とは中央給液筒43内を共に上昇しながら並流接触し、被処理原液中の懸濁物質は気泡を付着又は包含して合体する。また、中央給液筒43頂部から流出する微細気泡と気泡と合体した懸濁物質は、更に上昇し処理液と分離され液面表面に到達して、スキマー44により掻き集められて浮上物排出部45に流入して排出口46より処理系外に排出される。一方、処理液は図中矢印にて示したように下方向に流下し加圧浮上分離槽40下部に配置された多孔板等の流出板を経て処理水流出口47から処理系外に流出する。
【0005】
また、図5に概要説明断面図を示したように、加圧浮上分離槽50を接触域51と分離域52とに分割して用い、被処理原液を接触域51の上部又は下部から供給し、処理水の一部を循環して加圧して空気を導入し空気溶解塔54において空気溶解加圧液として用いて接触域51下部に導入する方式がある。この方式において、図5において破線で示したように被処理原液53に空気溶解加圧液を混入して接触域51の上部への導入する場合は、上記図4の方式と同様に供給された被処理原液53と微細気泡とは並流混合接触であり、また、空気溶解加圧液を下部へ導入する場合は向流混合接触で接触効率は並流時より向上する。いずれの空気溶解加圧液の導入であっても、液表面に到達した分離懸濁物質と処理液とは隣接する分離域52に流入して所定時間保持され、液表面の分離懸濁物質をスキーマ等で回収して処理系外に排出すると同時に、分離域下方向に流下した処理水55を分離槽50外に回収する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記した加圧浮上分離方法における処理時間は、主に懸濁物質の移動時間であり気泡と合体したフロックの液表面到達に要する時間で、一般に、約10〜30分である。被処理原液と微細気泡とを効率よく接触させ、且つ、付着状態を上記の必要時間だけ維持する必要がある。しかしながら、特に、上記方式の並流接触方式では、被処理原液と同方向に移動するため向流接触に比し接触効率が低く微細気泡との合体が円滑に行われないおそれが有る。また、処理系内の液流に乱れ等が生じ一旦合体した気泡が乖離することも有り、被処理原液に含有される懸濁物質の多くは、一般に液より比重が大きく気泡が離れた懸濁物質は液表面に到達できない。通常、凝集フロック化した粗大懸濁物質は、微細気泡との接触率が増大し付着等気泡との合体が容易に行われる。また、凝集フロックは、通常、微細気泡より遥かに大きいので両者は容易に乖離しないと想定される。
【0007】
しかし、上記図4における向流接触方式の採用や攪拌等の流動状態を変化させることにより微細気泡と凝集フロック懸濁物質との接触効率を向上させようとしても、フロック破壊を生じないように制限される。また、微細気泡とフロック状懸濁物質との合体状態は単なる付着であり、また、両者の比重が被処理原液の比重に対して懸濁物質は重く微細気泡は軽いため、微細気泡合体フロック懸濁物質は遊離し易く、浮上分離槽内の液流の乱れや流体との間の剪断力によって容易に乖離する。更に、上記の浮上分離槽を接触域と分離域とに2分割する方式では分離域に移動するための時間を要するため、気泡と合体して液表面に到達した懸濁物質が再び沈降するおそれもある。被処理原液と微細気泡とを従来のいずれの方式で接触しても、上記したようなことから汚濁物質の系外への排出が円滑に行われないことがあり処理液の濁度上昇、即ち、懸濁物質除去率が低下するという問題があった。特に、上記の図4及び図5における並流接触方式では、処理水中に流出する懸濁物質の量は凝集沈殿法による処理水中の懸濁質の量よりも多いのが一般的である。
【0008】
上記の問題解決のために種々の工夫が既になされている。例えば、発生する微細気泡が懸濁物質フロックに付着しやすいように空気溶解加圧水に界面活性剤を添加し気泡表面の性質を改質する方法や、浮上フロックを速やかに系外へ排出するための機械的又は構造的改良等である。しかしながら、懸濁液の性状、懸濁物質の形態や挙動は複雑であり、それらの適用には対象とする被処理原液を用いて凝集試験や小型のパイロットプラントによる分離試験が必要であり、これらの改良は根本的な解決策とはなり得ていない。そのため、沈殿分離が困難な懸濁物質を含有する希薄懸濁液に対しても、凝集加圧浮上分離方法を採用せずに処理が簡便でないにも拘らず凝集沈殿法を採用する例が多い。
【0009】
一般的に微細気泡と合体した凝集フロックの上昇速度は凝集フロック単体の沈降速度に比し数倍速いことから、加圧浮上分離法は沈殿分離法に比し所要面積が約1/2〜1/5で懸濁物質の除去処理ができ工業的に好ましいとされる一方、懸濁物質の除去率が低いという欠点が指摘され、従来、懸濁物質含有液の清澄処理に広く適用されていない。また、上記のように向流式浮上分離法によれば、沈殿法と同等の懸濁質除去率を達成できると期待されていたが、向流式浮上分離槽はテスト装置や小規模装置にしか採用されてこなかった。このように加圧浮上分離方法は、現時点において、懸濁物質を含有する懸濁液の清澄処理の目的としては凝集沈殿法に比して広く普及することなく汚泥の濃縮技術として普及しているに過ぎない。本発明は、加圧浮上分離法の現状を鑑み、操作も簡便であり工業的に優れた加圧浮上分離を懸濁液の清澄処理に用い、懸濁物質の浮上分離除去率を向上させ、所望の濁度の処理水を得ることを目的に従来の加圧浮上分離法について鋭意検討した。
【0010】
その結果、例えば、市販されている浮上テスター、また、小規模の水処理においては回分式及び連続的な浮上分離で向流接触方式を採用して高い懸濁物質除去率が得られているにも拘らず、工業的に大規模な浮上分離方法においては、前記図5に示したような接触域と分離域とを分割した水平流式や、図4に示したような並流式の浮上分離装置が採用されている。大規模な工業的装置で向流式浮上分離装置が採用されていない原因について更に検討した結果、パイロットプラント等のテスト用の小規模な向流接触式浮上分離装置で得られる懸濁物質の高除去率を維持するように、スケールアップを適確に行うための十分な検討、研究及び考察が従来行われていないという実状を知見し、小型の加圧浮上分離装置から大規模な加圧浮上分離装置まで向流接触式で懸濁物質を高除去率で清澄処理できる設計方式を見出し本発明を完成した。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、加圧浮上分離槽の上方部から凝集剤を添加してなる被処理原液を供給すると共に下方部からガス溶解加圧水を導入して微細気泡を発生させ、前記原液と微細気泡とを向流接触させる加圧浮上分離方法であって、錘台体で底部を吐出部とし下記(1)〜(2)式で示される形態を有するノズルを、前記加圧浮上分離槽断面積10m当たり少なくとも1個配設して前記吐出部を上向きにして前記原液を供給することを特徴とする加圧浮上分離方法が提供される。但し、下記(1)〜(2)式において、Aが前記加圧浮上分離槽の断面積であり、aが前記ノズル吐出部の断面積であり、θが前記ノズルの開度である。
8≦A/a≦14 (1)
12°≦θ≦35° (2)
【0012】
本発明によれば、加圧浮上分離装置であって分離槽に錘台体でその形状の広い方の底部を吐出部とし下記(1)〜(2)式で示される形態を有する被処理原液供給ノズルを、前記吐出部を上向きにして前記加圧浮上分離槽断面積が最大で10m2の単位当たり1個、その単位の横断面中心部に配設し、前記ノズルの垂直下方部にガス溶解加圧水導入口及び阻流板を配置すると共に前記ガス溶解加圧水導入口がオリフィスノズルであり前記阻流板に向って噴射可能に配置されてなることを特徴とする加圧浮上分離装置が提供される。但し、下記(1)〜(2)式において、Aが前記加圧浮上分離槽の断面積であり、aが前記ノズル吐出部の断面積であり、θが前記ノズルの開度である。
8≦A/a≦14 (1)
12°≦θ≦35° (2)
【0013】
本発明の加圧浮上分離方法は上記のように構成され、懸濁物質、特に凝集され壊れ易い凝集フロック含有の被処理原液を浮上分離槽内に所定の錘台体底部を吐出口とするノズルを用いて一旦上向き吐出で流入させて供給し、その後被処理原液の比重により下降流に転じさせると同時に、浮上分離槽内の下方から空気加圧溶解液を所定に放出させ微細気泡を発生させて上昇させる。被処理原液と微細気泡とを向流接触させることから接触効率が大きく凝集フロック状懸濁物質に微細気泡を容易に付着、包含させ合体させることができる。
【0014】
更に、被処理原液を供給するノズル形態を浮上分離槽断面積に応じて設定して配置し、且つ、空気加圧溶解液を下方に配置する阻流板に当接させて微細気泡を上昇させることから、浮上分離槽内における被処理原液の下降流や微細気泡の上昇流に偏流や乱れが生じることがなく均等に保持され、被処理原液と微細気泡との接触が常に円滑に行われる。また、上記のように被処理原液と微細気泡とが浮上分離槽内を流通することから、気泡付着凝集フロック状懸濁物質が液面に到達するまで、更に、液面に浮上した後も、常時、凝集フロック状懸濁物質と微細気泡とが効果的に接触状態にあり、懸濁物質除去率が著しく向上した処理水を得ることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。先ず、発明者らが小型パイロットプラントからスケールアップのための検討を如何に行い本発明に到ったか説明する。即ち、発明者らは、第1に、加圧浮上分離方法における微細気泡と凝集フロックとの接触及び浮上距離ついて検討した。図1は、発明者らが試案した本発明の加圧浮上分離装置の縦断面概念図であり、加圧浮上分離は浮上分離槽を分割することなく単一槽として浮上懸濁物質の水平移動が伴わない設計とした。この場合、微細気泡と凝集フロックが接触する機会が多いほど即ち接触時間が長いほど望ましく、又、微細気泡と合体した凝集フロックが液表面まで移動する距離が短いほど望ましいことは明白である。
【0016】
従って、図1に示したように浮上分離槽10内の上方に凝集フロックを含有する被処理原液1を供給して降下原液流を生起させると同時に、下方に空気溶解加圧水2を導入して微細気泡3を発生させ上昇流を生起させることにより、被処理原液1の下降流4と微細気泡3の上昇流5とが分離槽のほぼ全域内で常に接触する状態となり、凝集フロックと微細気泡との合体が容易になされ液表面に円滑に浮上させることができる。また、微細気泡3と合体した凝集フロックが上昇途中で気泡と乖離した場合でも、常に上昇してくる微細気泡3に接触することから被処理原液中に含有される懸濁物質が粗大化された凝集フロックのほぼ100%を液表面に浮上分離させ得る。更に、液表面に浮上した凝集フロック状懸濁物質のスカム層は下方から連続的に上昇してくる微細気泡や浮上フロックにより常に支えられ押上げられる状態となり再沈降のおそれも殆どない。このため液面上のスカム層を数時間以上放置する場合でも浮上状態が保持でき、速やかな排出が困難な状態においても処理液の濁度が増大して懸濁物質の除去率が低下するおそれがない。
【0017】
発明者らは、次いで、前記したように従来法で懸濁液の清澄処理として工業的に加圧浮上分離方法が広く採用されていない原因を究明すると同時に工業的大型装置へのスケールアップの方法を探るべく、上記考察に基づく好適な構造の加圧浮上分離槽において採用すべき被処理原液の供給ノズルについて検討した。即ち、原液供給ノズルは、加圧浮上分離槽の中央部から供給した被処理原液が放射状に内壁周面方向に均等に広りつつ流れ降下流を生起することを企図する必要がある。そのため、前記図4に示した従来法での単なる円筒形供給ノズルに替えて、図3に断面説明図を示した外形状が円錐台体の中空錘台体形状で錘台体底部を吐出口とし、錐体頂部を切欠いた台部を原液送入口とする錘台体形状ノズルを使用することにした。即ち、原液供給管から錘台体形状ノズルに供給された被処理原液は、所定に設定された錐台形状ノズルの上方向へ広がる傾斜部に沿って上昇し、円形吐出口の円周部から均一に流出することになり、浮上分離槽内壁周面に向って放射状に均等に広がりながら流れ降下流となる。
【0018】
上記のような中空錘台体形状のノズルは水槽の越流ノズル等において公知であるが、加圧浮上分離装置等の原水導入において採用されたことはなく本発明において初めて採用されたものである。本発明において、被処理原液供給ノズルの中空錘台体形状とは外形状が錐体の頂部を切欠いた錘台体形状を意味し、所定の開度を有して外表面の面積が小さい程好ましい。下部から上昇してくる微細気泡がノズル外表面に付着するおそれがあるためであり、付着した気泡に更に他の気泡が接触して合体して粗大化するおそれもある。これら粗大化気泡がノズルから液表面に上昇すると浮上スカム層の破壊が生じることもあるためである。従って、中空円錘台体形状が好適に用いられるが、円錐台体形状に近似した正多角形等の中空角錘台体形状でもよい。本発明の中空錘台体形状ノズルは、頂台部と被処理原液の供給管とを連絡し底面部を上向きにして吐出口とする。吐出口が下向きでは供給被処理原液の下降流が周壁方向に広がらないため上昇微細気泡との接触が起こらない。
【0019】
上記本発明の加圧浮上分離方法において、前記(1)式がA/a=12であり、前記(2)式が15°≦θ≦30°であり、且つ、A≦4.0mであることが好ましく、また、前記ノズルが前記加圧浮上分離槽の横断面中心部に配置され、且つ、前記ガス溶解加圧水が前記ノズルの垂直下方部に配置された阻流板に向って下方向きに噴射導入することが好ましい。更に、前記加圧浮上分離槽の断面積が5.0m以上であって、前記分離槽の単位断面積2.0〜5.0m当たり1の比率で、前記請求項1又は2記載のAが前記単位断面積(即ち、A=2.0〜5.0m)であるとした前記ノズルを2以上配置して前記原液を分配供給することが好ましく、また、前記ノズルを配置する前記単位断面積が3.0〜4.0mであることがより好ましい。
【0020】
本発明において、加圧浮上分離槽内に被処理原液を供給する原液供給ノズルは以下の条件に基づき設計される。即ち、(1)浮上分離槽断面積10mで単位当たり少なくとも1個配設、(2)中空錘台体形状の底部を吐出口として上向き配置、(3)浮上分離槽断面積(A)と原液供給ノズル吐出口の断面積(a)の比率(A/a)=8〜14好ましくは11〜12、(4)原液供給ノズルの錘台部の開度θ=12〜35°好ましくは14〜25°である。ノズル形状が中空錘台体形状でなく従来法の円管ノズル等の場合は、液表面への噴流が生じ表面の浮上スカム層を乱したり、原水の均一な分配ができず偏流が生じたりする等の不都合がある。また、吐出口下向きは、上記のように微細気泡との接触が効果的に行われず好ましくない。また、A/a=8〜14の範囲を外れると分離槽内壁周面での微細気泡の流れが乱れ、混合循環流やショートパス流が生じ、被処理原液の下降流と微細気泡上昇流との向流接触が円滑に行えず処理水の濁度等の水質が低下する。θ=12〜35°の範囲を外れ、θが小さすぎると従来の円直管と同様となり、一方、θが大きすぎると上記のように下部より上昇してくる微細気泡の上昇を阻害しスカム層を乱すおそれもあるため好ましくない。
【0021】
また、A>5mである場合は、上記設計条件で分離槽断面積の単位断面積2.0〜5.0m当たり1の比率で被処理原液供給ノズルを2以上配置することにより同等の水処理を行うことができる。この場合、原液供給配管から中空錘台体形状ノズルの錘台部入口への原液の吐出速度は、凝集フロックが破壊されないように原液供給量との兼ね合いにより吐出圧を調整する。本発明においては、後記実施例に記載するように種々試行錯誤の結果、上記錘台体形状ノズルの好適な形態の設計条件を見出したものである。本発明の設計条件に従い形成された原液供給ノズルを加圧浮上分離槽に所定に設置して用いることにより、被処理原液の均一な降下流を生じさせることができ、下方からの微細気泡の上昇流との向流接触の接触効率を向上させると共に凝集フロックの沈降もなく処理水の濁度等の水質低下を防止することができるものである。なお、原液供給ノズル吐出口から液表面迄の距離を原液吐出口径より大きくすることにより、被処理原液の吐出流が浮上スカムに悪影響を与えることがない。
【0022】
【実施例】
以下、本発明について実施例に基づき更に詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
実施例1及び比較例1
第1に、油分を含む可能性のある厨房排水の処理設備を計画するに当たり、前処理設備として油分と懸濁物質を凝集させ、その後、加圧浮上分離して清澄処理するために、前記図1の加圧浮上分離槽の構造概念説明図に沿って図3に断面構造説明図を示したパイロットプラントを製作した。図3において、加圧浮上分離槽20は、透明プラスチック製の内径30cmφ、高さ3mの中空円筒形で上部外周面にオーバーフローにより水面上に浮上集積保持されたスカムを排出するスカム排出部21を配設した。被処理原液は、予め凝集槽22で凝集剤等を添加して含有懸濁物質を凝集粗大化しフロックを形成処理した後に、原液供給ノズル24と原液供給ラインL1を連絡し加圧浮上分離槽20の中央部の液面から下方約500mm位置に上向きに配置された吐出口23から分離槽20内に供給した。被処理原液の供給は、凝集槽22液面と分離槽20の液面のヘッド差を利用して行った。
【0023】
一方、分離槽20底部から上方約500mm位置に阻流板25を配置し、その上方約50mmに空気溶解加圧水導入ノズル26の放出口27を下向きにして配設した。放出口27は先端部をオリフィス状に細く絞って加圧液が噴出するようにした。この空気溶解加圧水導入ノズル26の放出口27は、特に制限されるものでなく、例えば、多数の噴出小孔を有する多孔板を配したものを用いてもよい。また、分離槽20下底部に流下貯留する処理液をポンプPで抜出し昇圧してガス溶解槽28に送入すると同時にコンプレサーCで空気をガス溶解槽28に送入し空気加圧溶解液とする。ガス溶解槽28の空気加圧溶解液は、ラインL2から空気溶解加圧水導入ノズル26に供給し、放出口27から阻流板25に向って放出されて分離槽20内に微細気泡を発生させた。分離槽20下底部の処理液はラインL3から液位調節堰29を経て系外に排出した。
【0024】
【表1】
Figure 0003641178
【0025】
上記パイロットプラントの原液供給ノズル24として、浮上分離槽20の中央部から供給した被処理原液が放射状に内周面方向に均等に広りつつ流降下することを企図して、図2に断面説明図を示した外形が円錐体頂部を切欠いた円錐台体の中空錘台体形状であるノズルを用い、円錐台体底部を吐出口23に、錘台部に原液供給ラインL1からの供給管とを接合した。形状形態は、原液供給管からノズル入口部に流入する原液流速が、凝集フロックが破壊せず且つ沈降しない流速(例えば約0.5m/秒)で表1に示した設計条件で形成した。一方、比較例1として、錘台体形状の原液供給ノズル24の代りに前記図4に示した従来法と同様の円管形ノズルを用い吐出口径を原液供給ラインと同一の50mmφとし、上部に阻流板を設置して下降流を生じさせると共に浮上スカムに影響を与えないようにした。また、上記のように構成したパイロットプラントの操作条件は下記表1の通りであった。懸濁度50度の厨房排水を清澄処理した結果、中空錘台体形状ノズルを用いた実施例1では1.5度であり、従来の円管形ノズルを用いた比較例1では2.8度であった。この結果から、円錐台形状ノズルを用いて被処理原液を分離槽内に供給する方式が加圧浮上分離法による懸濁水の清澄処理に優れることが分かる。
【0026】
検証実験1
次に、上記のパイロットプラントにおける結果に基づき、スケールアップに係る問題点等を的確に把握するために、同様の構造で同様に透明プラスチック製で、浮上分離槽20を直径1.2mφ、高さ3mHで直径を4倍(横断面積を16倍)にスケールアップした実装置と同等の試験プラントを建設した。この試験プラントを用いて、先ず、主に、空気溶解加圧水の放出による微細気泡の発生状態及び被処理原液と微細気泡の2流体の挙動を観察することにした。操作条件は、上記パイロットプラントと同様になるように調整した。最初に、空気溶解加圧水の供給方法について検討した。槽径が大きくなったことから、また、加圧水の設定圧が槽断面に対して複数個に分配できる圧力であることから、空気溶解加圧水を分配配置についても検討した。分配に当たっては供給する被処理原液量に対する加圧水の全導入量の比率と加圧水圧力をそれぞれパイロットプラントと同様に10重量%と3〜7kg/cmとして空気溶解加圧水導入ノズルを2個と3個に分配した2ケースについて微細気泡の発生及び上昇状態を観察した。各導入ノズルは、分離槽横断面円形の中心を通る直線を3等分する2点に2個、又は、分離槽横断面円形に内接する正三角形の各辺と頂点からの垂線との3交点に3個をそれぞれ配置した。また、ノズルの1個配置についても同様に観察した。この結果、何れの場合も微細気泡の発生及び上昇状態に顕著な変化はなく、スケールアップに伴い空気溶解加圧水の導入方法を特に問題にする必要がないことが明らかになった。
【0027】
検証実験2
次に、同じ試験プラントを用い供給原液降下流と微細気泡の上昇流との流体挙動を観察した。上記空気溶解加圧水導入観察から導入ノズルはパイロットプラントと同様に分離槽の下部中心部に1個設置した。また、原液供給ノズルとしては分離槽20のスケールアップの被処理原液処理量に合わせ、従来の経験則に基づき前記したようにノズル入口部に流入する原液流速が凝集フロックが破壊せず且つ沈降しないとされている約0.5m/秒となるように表2に示した形態条件で、パイロットプラントで好適となった円錐台形状の供給ノズルを形成し同様に設置して用いた。操作条件は表1に示したパイロットプラントと同様になるように原液供給量等を調整した。最初、原液の供給を停止し空気溶解加圧水のみを放出した。空気溶解加圧水の放出によりほぼ阻流板25位置から水表面に至る分離槽内全域にほぼ均一な濃度で安定した微細気泡の白濁層が形成された。白濁層において微細気泡が全体としてゆっくり上昇する状況が観察できた。この段階で被処理原液を供給した。当初、原液を供給することで下降流が生じるので、気泡の上昇速度が遅くなると予想した。しかし、それに反して分離槽の内壁周面部で微細気泡の上昇速度が速くなることが観察され通常と異なる上昇流が発生していることが明らかとなった。
【0028】
【表2】
Figure 0003641178
【0029】
検証実験3
次に、再び原液供給を停止し空気溶解加圧水のみを導入し安定な気泡白濁層を形成させた後、インクで着色した原液を供給した。着色原液の一部が分離槽の中心部において周辺の微細気泡を随伴しながら急速に下降し、分離槽内壁周面部の気泡が上昇を早めることが観察された。また、原液が下降するにつれ着色は上部から徐々に下方に移動して拡散するものと考えたが、着色が上部からだけでなく分離槽の中間部からも拡散する様子が観察された。これにより分離槽内の流体の流れが、向流接触する原液の下降流と微細気泡の上昇流だけでなく、部分的な循環混合流やショートパス流が生じていることも判明した。このため、実装置クラスの大規模な向流式加圧浮上分離法では、原液供給ノズルとして単に円錐台等の錘台形状を採用しても向流接触効率を必ずしも向上させることができず、原液供給方法に他の要因を加味して検討すべきことが判明した。
【0030】
前記パイロットプラントを用いて上記着色原液による同様の観察をした。その結果、上記のような混合循環流やショートパス流等の現象は観察されなかった。そのため、パイロットプラントと試験プラントにおける原液供給における差異について詳細に検討した。先ず第一に、浮上分離槽内における流下速度や滞留時間等の表1に示した操作条件が同一となるように、分離槽のスケールアップによる容量増大から原液供給量を調整して行っているが、原液供給ノズル吐出口から分離槽内に流出吐出する原液の吐出速度について検討した。即ち、パイロットプラントにおける原液供給ノズル吐出口からの原液吐出速度は、浮上する微細気泡量と凝集フロックを無視すれば、分離槽内における原液下降流量が原液供給量(Q)と等しいことから、分離槽断面積(A)及び原液供給ノズル吐出口面積(a)として、Lvi(原液の吐出速度)/Lvc(空塔速度)=Q/a/Q/Aで表すことができる。従って、Lvi=Lvc×A/aであり、パイロットプラントの流下線速度15m/時=Lvcとして、Lvi=15m/時×π(0.3/2)/π(0.088/2)=15m/時×11.6=174m/時である。これに対し、同様にして求めた試験プラントでの原液吐出速度Lviは960m/時であり、大幅に異なることが明らかとなった。
【0031】
検証実験4
上記の検討結果に基づき、パイロットプラントにおける原液吐出速度を大幅に変化させないように、分離槽大型化に伴う原液供給量の増大を複数の供給ノズルに分割させて対応することを試案し、2、3、4個に分割して原液供給した。分割供給用の各原液供給ノズルは円錘台形状で表3に示した形態条件で同一に形成した。これら分割供給ノズルの配置は、加圧浮上分離槽20の断面に対し、2個は直線形状、3個は正三角形状、4個は正方形状にそれぞれ配置した。検証実験1と同様に微細気泡観察と着色原液下降流観察をそれぞれ繰返し行った。その結果、2個分割配置でも着色拡散からショートパス流が大幅に改善され分離槽内壁周面部の微細気泡の乱れが少なく、3個及び4個に分割配置した場合は殆ど循環混合流もショートパス流も生じないことが明らかとなった。
【0032】
【表3】
Figure 0003641178
【0033】
しかし、所定供給量の被処理原液を設定した吐出速度値から大幅に変化させることなく複数に分割して供給するためには、被処理原液を均等に分配するために圧力損失を付加する必要があり、壊れやすい凝集フロック含有の被処理原液を複数の供給ノズルに分割して供給することは好ましくなく、実用上被処理原液の分割数は少ない程望ましい。このため分離槽径1.2mφの実装置プラントに対しても上記パイロットプラントと同様に1個の供給ノズルで実施するべく、下記実施例に示すようにノズル形態についてパイロットプラントで用いた原液供給ノズル形態を参照して種々試行錯誤にて試験検討した。
【0034】
実施例2
前記試験分離槽と同一の分離槽に、下記表4に示した形態条件で製作した原液供給ノズルをセットしてパイロットプラントで処理した同様の厨房排水である油分含有懸濁水を処理した。各供給ノズルを用いて得られた処理水の濁度を表2に示した。なお、パイロットプラントで使用した原液供給ノズルの形態条件で形成したノズルを表4にノズル番号1として示した。また、前記試験プラントの検証実験2及び3で用いた表2に示した原液供給ノズルの形態条件を表4にノズル番号12として併せて示した。これらの結果から、ノズル番号が1(パイロットプラントと同一形態条件)、2、4及び5の原液供給ノズルを用いた場合は、処理水の濁度が低くスカム層も安定し向流式加圧浮上分離法により懸濁水の清澄処理が効果的に行われたことが明らかである。ノズル番号3及び7のノズルでは処理水の濁度は低く良好であり、スカム層にやや乱れを生じたが、特に適用に支障はなかった。ノズル番号8〜10のノズルは、処理水の濁度がやや上昇気味でスカム層も乱れが見られたが適用できる範囲内と判定できる。一方、ノズル番号6、11及び12のノズルを用いた場合は、処理水の濁度が高くなりスカム層も乱れ加圧浮上分離処理による清澄処理が十分に行えないことがが分かる。また、錘台体開度(θ)が12°未満ではノズル吐出口径と原液供給部径との兼ね合いから錘台体高さが分離槽深さに比し極めて大きくなりすぎることから実用的でないことも明らかになった。
【0035】
【表4】
Figure 0003641178
【0036】
実施例3
上記試験プラントの円筒形加圧浮上分離槽を2.0m四方の角筒形状とし、外形状が円錘台体形状の中空円錘台体で、表5に示した形態条件でA/a=9.8で形成した原液供給ノズルを設置した以外は、全く同様に向流接触式加圧浮上分離処理プラントを設計製作した。このプラントを下記表5に示した操作条件で、試験プラントで処理した同一の厨房排水を処理した。その結果、得られた処理水の濁度は1.0〜1.5度であり所期の性能が得られた。
【0037】
【表5】
Figure 0003641178
【0038】
【発明の効果】
本発明の加圧浮上分離法及びその装置は、外形が錘台体形状の原液供給ノズルを用い、それら錘台体形状の開度、原液供給管に接続する錘台頂部面積及び錘台部高さ、また、ノズル吐出口となる底部面積と分離槽断面積との関係等を所定に特定することで、浮上分離槽内水平断面に対し供給した比重の大きな被処理原液の均等な放射状の流出と分散広がりと降下流を可能とする。また、液表面に浮上したスカム層を乱すことなく、また、スカム層下方の近距離に被処理原液を供給させることにより微細気泡と結合合体した凝集フロックの液表面までの移動距離を短くすることができ、確実な浮上を可能とする。更に、上昇する微細気泡群に対してラットホール流や偏流等の不均一な変則的下降流を生じさせないことから供給被処理原液と上昇微細気泡群との接触効率が向上し、また、微細気泡の上昇によって生じる随伴上昇流と下降原液流との接触摩擦抵抗を最少にできる。更にまた、液表面上に浮上したスカム層を乱すことなく安定して長時間保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の加圧浮上分離装置の縦断面概念図
【図2】 本発明の加圧浮上分離装置に用いる外形状が円錐台体の中空錘台体形状で錘台体底部を吐出口とし、錐体頂部を切欠いた頂台部を原液送入口とする錘台体形状ノズルの断面説明図
【図3】 本発明の加圧浮上分離装置パイロットプラントの断面構造説明図
【図4】従来の並流接触式加圧浮上分離装置の断面説明図
【図5】従来の水平移動式加圧浮上分離装置の断面説明図
【符号の説明】
10、20、40、50 加圧浮上分離槽
53 被処理原液
2、42 空気溶解加圧液
24 被処理原液供給ノズル
23 吐出口
25 阻流板
26 空気溶解加圧液導入ノズル
27 放出口

Claims (2)

  1. 加圧浮上分離槽内の被処理液供給部から被処理原液を供給すると共に、該被処理液供給部の下方に配置するガス溶解加圧水導入部からガス溶解加圧水を導入して微細気泡を発生させ、前記原液と微細気泡とを向流接触させる加圧浮上分離方法であって、前記ガス溶解加圧水を前記ガス溶解加圧水導入部の下方に配置する阻流板に当接させて微細気泡を上昇させ、且つ、中空錘台体形状で底部を吐出部とし下記(1)〜(2)式で示される形態を有するノズルを、前記加圧浮上分離槽断面積10m2の単位当たり少なくとも1個配設して前記吐出部を上向きにして前記原液を供給することを特徴とする加圧浮上分離方法。但し、下記(1)〜(2)式において、Aが前記加圧浮上分離槽の断面積であり、aが前記ノズル吐出部の断面積であり、θが前記ノズルの開度である。
    8≦A/a≦14 (1)
    12°≦θ≦35° (2)
  2. 加圧浮上分離装置であって、分離槽に中空錘台体形状でその形状の広い方の底部を吐出部とし下記(1)〜(2)式で示される形態を有する被処理原液供給ノズルを、前記吐出部を上向きにして前記加圧浮上分離槽断面積が最大で10m2の単位当たり1個、その単位の横断面中心部に配設し、前記ノズルの垂直下方部にガス溶解加圧水導入口及び阻流板を配置すると共に前記ガス溶解加圧水導入口がオリフィスノズルであり、該ガス溶解加圧水導入口の下方に配置する前記阻流板に向って噴射可能に配置されてなることを特徴とする加圧浮上分離装置。但し、下記(1)〜(2)式において、Aが前記加圧浮上分離槽の断面積であり、aが前記ノズル吐出部の断面積であり、θが前記ノズルの開度である。
    8≦A/a≦14 (1)
    12°≦θ≦35° (2)
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