JP3628425B2 - 分光立体角反射率を利用した牧草地内の広葉雑草の識別方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、牧草地内において分光立体角反射率測定器を移動させて圃場面の被識別物体の分光立体角反射率を連続的に測定することにより、葉幅の比較的小さな牧草と、これよりも葉幅の遙に大きな広葉雑草とを識別する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
本出願人は、被識別物体と、該被識別物体の分光放射輝度を測定するための測定ヘッドとの間の距離が変化する状態において、両者を相対移動させて被識別物体の分光立体角反射率を測定することにより、該被識別物体を光学的に識別する技術を完成させて、特願平7-111231, 同7-111232として特許出願を行った。
【0003】
この技術を利用して、牧草地内の雑草のみを検出して、これに除草剤を選択的に散布しようとする場合、対象である雑草の分光立体角反射率と、牧草のそれとがほぼ同じであると、両者の分光立体角反射率をスポット的に測定するのみでは、識別が困難となる。本発明者は、分光立体角反射率を利用して2以上の物体を識別する研究を重ねた結果、異なる2つの物体を停止状態で測定した分光立体角反射率はほぼ同じであっても、この2つの物体の幅が大きく異なる場合には、その前後の分光立体角反射率を連続して測定すると、両者の識別が可能になるとの知見を得た。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したことを背景にして、牧草地内において分光立体角反射率測定器を移動させてその分光立体角反射率を連続して測定することにより、葉幅の比較的小さな牧草と、これよりも葉幅の遙に大きな広葉雑草とを識別することを課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するための本発明は、分光立体角反射率測定器を牧草地の地表面に沿って移動させながら被識別物体の分光放射輝度を連続的に測定して、演算装置により分光立体角反射率を演算により算出することにより、葉幅の比較的小さな牧草と、これよりも葉幅の遙に大きな広葉雑草とを識別するための方法であって、前記分光立体角反射率測定器は、光源と、設定波長の光のみを検出可能な光検出器と、該検出器と被識別物体との距離を検出可能な距離センサとを備え、前記演算装置には、基準となる物体の基準測定距離における前記設定波長に対する分光放射輝度と、該基準物体の測定距離に対する分光放射輝度の変化に関する関係式と、複数の被識別物体について基準測定距離における前記設定波長に対する基準分光立体角反射率とがそれぞれ入力されていて、識別すべき広葉雑草と牧草との各葉の平均幅に基づいた前記分光立体角反射率測定器の最適な測定エリアと、最適な測定速度とを予め定めておいて、前記測定ヘッドの移動中において、測定エリアに含まれる牧草地の前記特定波長における分光放射輝度と、前記距離センサにより検出された測定距離と、前記関係式と、前記基準分光立体角反射率とに基づいて前記設定波長における被識別物体の分光立体角反射率を前記演算装置により算出することにより、特定の波長における牧草地の被識別物体の分光立体角反射率を連続して測定して、測定された分光立体角反射率が、予め設定された広葉雑草と見做される分光立体角反射率の範囲内に連続して既定回数だけ含まれた場合においてのみ、被識別物体を広葉雑草であると判別することを特徴としている。
【0006】
まず、牧草と広葉雑草とを識別するのに分光立体角反射率測定器の最適な測定エリアと測定速度とを予め定めておく。被識別物体である牧草及び広葉雑草の各幅に対して測定エリアが小さ過ぎる場合には、測定エリアよりも葉の幅が広くなってしまうので測定速度を速くする必要がある。また、測定エリアが大き過ぎる場合には、殆どの部分で牧草及び広葉雑草の合成分光立体角反射率が検出されて、いずれも閾値よりも小さくなってしまい、測定速度とは無関係に判別不能となる。このため、牧草と広葉雑草とを識別するのに分光立体角反射率測定器の最適な測定エリアと測定速度とに基づいて、該測定器を移動させて、移動中の測定エリアに識別対象である牧草と広葉雑草以外の被識別物体(例えば土壌)が含まれる場合には、測定エリアが牧草或いは広葉雑草を通過する前後において牧草或いは広葉雑草を含む複数の被識別物体の合成分光立体角反射率が検出される。従って、葉幅の小さい牧草の前後を測定エリアが通過する場合には、牧草の分光立体角反射率は、合成分光立体角反射率の影響を受けて、連続的に測定される分光立体角反射率は、牧草のみをスポット的に測定した分光立体角反射率よりも小さくなる。これに対して、葉幅の大きい広葉雑草の場合には、測定エリアがその中心部を通過する場合には、広葉雑草の前後に存在している被識別物体の影響を殆ど受けなくて、広葉雑草の本来の分光立体角反射率がそのまま測定される。これにより、葉幅の小さな牧草と、葉幅がこれよりも遙に大きな広葉雑草との識別が可能となり、測定された分光立体角反射率が、予め設定された広葉雑草と見做される分光立体角反射率の範囲内に連続して既定回数だけ含まれた場合においてのみ、被識別物体を広葉雑草であると判別すると、その識別精度が高まる。
【0007】
そして、特定の1波長のみならず、複数の異なる波長における分光立体角反射率を上記のようにして測定して、複数の波長のいずれにおいても被識別物体が広葉雑草と見做された場合において、はじめてこれを広葉雑草と判別すると、その識別精度が一層に高められる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。最初に、分光立体角反射率測定器の概略について説明し、その後に、この分光立体角反射率測定器を用いた本発明に係る牧草地内の広葉雑草の識別方法について説明する。図1は、分光立体角反射率測定器を用いた物体の光学的識別方法の原理図であり、図2は、複数の検出器C1 〜C6 と、超音波センサ2と、光源3との配置を説明するために、測定ヘッドHを底面から見た図である。図1及び図2において、測定器は、測定器本体Bと測定ヘッドHとで構成される。測定ヘッドHは、被識別物体Mの分光放射輝度を検出するためのものであって、装備した干渉フィルター1の作用によって、被識別物体Mで反射された互いに異なる複数の各設定波長の光のみをそれぞれ検出可能な6種類の検出器C1 〜C6 と、被識別物体Mと該測定ヘッドHとの間の距離(h)を検出するための超音波センサ2と、ハロゲンランプから成る光源3とを備えている。なお、実施例の検出器C1 〜C6 は、シリコンフォトダイオードによる光学素子から成る。図1に示される測定ヘッドHでは、その中心部に円形の超音波センサ2と、同じく円形の光源3とが同心に配設されて、それらの回りに6種類の円形の検出器C1 〜C6 が配設されている。
【0009】
各検出器C1 〜C6 では、これに装備した干渉フィルター1に対応した設定波長の光のみが検出され、この複数種類の光は、ケーブル4を介して測定器本体Bに導かれて、この測定器本体B内において、各設定波長の光の分光放射輝度はアナログ量として算出され、この分光放射輝度に関するアナログ量は、A/D変換器5によりディジタル信号に変換された後に、パソコンなどの演算装置Dに入力される。一方、超音波センサ2によって被識別物体Mと測定ヘッドHとの間の距離(h)が検出され、この測定距離(h)に関するアナログ量もアンプ6により増幅された後に、A/D変換器5によりディジタル信号に変換されて演算装置Dに入力される。
【0010】
次に、演算装置Dについて説明する。この演算装置Dには、白色面のような基準となる物体の基準測定距離における各設定波長に対する分光放射輝度と、この基準物体の測定距離に対する分光放射輝度の変化に関する関係式が入力されている。
【0011】
ここで、物体の分光立体角反射率の測定方法について簡単に説明する。まず、被識別物体のサンプルと、分光立体角反射率の測定の基準となる白色面のような基準物体を用意して、この基準物体に対して基準測定距離から標準光源を照射して、その時の分光放射輝度を任意の波長毎に測定する。更に、その基準測定距離から、+(プラス)及び−(マイナス)の両方向に一定距離ずつ前記基準物体を移動させて、上記と同様にしてその距離における分光放射輝度を測定する。以上の測定を繰り返し行って、測定器の測定ヘッドと基準物体との間の測定距離と分光放射輝度との関係式を、任意の波長毎に求めておく。次に、被識別物体のサンプルに関しても、上記基準物体と同様にして、任意の波長毎に、しかもこのサンプルと測定ヘッドとの距離を上記のように変化させて、その分光放射輝度の測定を行う。基準物体、或いは被識別物体のサンプルと測定ヘッドとの距離の測定は、超音波センサにより容易に行える。そして、測定距離が同一の状態のものにおいて、被識別物体のサンプルの分光放射輝度を基準物体のそれと比較すると、その測定距離における該サンプルの分光立体角反射率が算出される。
【0012】
図3は、オーチャードグラス(牧草)、エゾノギシギシ(広葉雑草)、乾燥土壌、及び湿潤土壌に関して、波長に対する分光立体角反射率の測定波形を示す図である。植物体の分光立体角反射率は、それぞれの波長において大きさそのものは異なるが、その波形の変化はほとんど同じ形態であることがわかる。その波形の特徴として、550nm 付近に山、 670〜680nm 付近に谷がそれぞれあって、700 〜750nm にかけて急激に上昇し、以後小さなうねりを示しながら下降し、1400nmと1900nm付近において再度大きな谷が存在している。また、土壌に関しては、植物体に比較して山や谷がほとんどなくて分光立体角反射率も低く、緩やかに右上がりに上昇してゆく波形となっている。なお、含水率の高い湿潤土壌は、その傾きが一層緩やかになる。このため、植物体の分光立体角反射率の山と谷である550nm 付近と、670nm 付近との2箇所において、被識別物体の分光立体角反射率をそれぞれ測定して、その大小を比較することにより、被識別物体が植物体であるか、土壌であるかは、判別可能となる(550nm 付近の分光立体角反射率が 670nm付近のそれよりも高い場合には、被識別物体は植物体であり、その逆の場合には土壌となる)。
【0013】
このため、上記演算装置Dには、識別すべき牧草と広葉雑草と、土壌に関して、図4に示されるような550 〜1300nmの波長範囲内の異なる複数(図1に示される測定ヘッドHの場合には6種類)の設定波長(G1 〜G6)における各基準分光立体角反射率がそれぞれ入力されている。なお、この基準分光立体角反射率は、前述の方法によって、サンプルとして採取した各植物体及び土壌と、測定ヘッドとの間の距離を基準測定距離に設定して、算出したものである。
【0014】
また、上記した光学的識別方法においては、測定器の測定ヘッドと被識別物体とが両者の間の測定距離が変化する状態においてこの両者が相対移動する。このように、測定ヘッドと被識別物体との間の測定距離が変化すると、被識別物体の分光放射輝度も変化するので、上記演算装置Dには、測定器の測定ヘッドと白色面のような基準物体との測定距離の変化に対する分光放射輝度の変化に関する関係式が入力されている。この関係式は、上記方法により測定距離を変化させて白色面のような基準物体の分光放射輝度を測定する際において種々のデータが得られているので、このデータを使用することにより簡単に算出される。例えば、図5に示されるように、各設定波長(G1 〜G6)において、基準測定距離(h0)の前後における分光放射輝度の変化に関する関係式〔R1 =F1(h)〜R6 =F6(h)〕を求めて、これを上記演算装置Dに入力しておく。
【0015】
そして、図6に示されるように、上記測定器本体B、測定ヘッドH及び演算装置Dを作業車7に載せて牧草地を走行させて、比較的葉幅の小さな牧草(オーチャードグラス)と広葉雑草(エゾノギシギシ)とを識別する場合について説明する。なお、作業車7には、測定エリアの直前の植物体を鎮圧して二次元状態(平面状)に近づけるための鎮圧装置8を備えている。この鎮圧装置8によって植物体(牧草及び広葉雑草)を鎮圧して二次元状態に近づけても、多少の起伏が残ると共に、土壌にも多少の凹凸があるために、この牧草、広葉雑草及び土壌と測定器の測定ヘッドHとの間の測定距離が変化するが、該測定ヘッドHには、牧草、広葉雑草及び土壌との距離を測定するための超音波センサ2が備え付けられていると共に、演算装置Dには、白色面のような基準となる物体に関して、測定距離に対する分光放射輝度の変化に関する関係式〔R1 =F1(h)〜R6 =F6(h)〕が予め入力されていて、牧草、広葉雑草及び土壌の各設定波長(G1 〜G6)における各分光立体角反射率は、測定ヘッドHを構成する複数の検出器C1 〜C6 によりそれぞれ検出された各設定波長における分光放射輝度と、前記超音波センサ2により検出された測定距離と、前記関係式とに基づいて算出される。そして、被識別物体の算出分光立体角反射率を以下の方法により演算処理して、牧草と広葉雑草とを識別するのである。
【0016】
ここで、測定ヘッドHを移動させて、被識別物体の分光立体角反射率を測定する際の測定ヘッドHの測定エリアの大きさと、測定ヘッドHの移動速度との関係について実験例を挙げて説明する。図7に示されるように、幅1cmの短冊状のオーチャードグラスOGと、幅5cmの同じく短冊状のエゾノギシギシXとの間に土壌Sを設けた模式的牧草地を作り、半径rの円からなる測定エリアAを有する測定ヘッドHを速度Vで移動させて、模式的牧草地内のオーチャードグラスOGとエゾノギシギシXと土壌Sとの各分光立体角反射率を連続して測定した。分光立体角反射率が同じでも識別可能であることを示すためにオーチャードグラスOGとエゾノギシギシXの分光立体角反射率は、いずれもほぼ50%(これらは780nmに近い波長での分光立体角反射率にほぼ等しい)の場合について検討し、土壌の分光立体角反射率は10%とした。また、図8に示されるように、測定エリアAがエゾノギシギシXと土壌Sとの双方に跨がった場合には、土壌の分光立体角反射率RSを10%、エゾノギシギシの分光立体角反射率RXを50%、測定エリアがエゾノギシギシXと土壌Sとの双方に跨がった状態での合成分光立体角反射率をRR、測定エリアの面積をAA、土壌の面積をAS、エゾノギシギシの面積をAXとすると、合成分光立体角反射率RRは、式〔RR=RS×(AS/AA)+RX×(AX/AA)〕で表される。例えば、図示のように測定エリアが土壌SとエゾノギシギシXの双方に跨がっている面積が同一である場合には、合成分光立体角反射率RRは、30%と算出される。
【0017】
そして、上記した模式的牧草地内において測定ヘッドHの測定エリアAと、その移動速度Vとを種々変えて、分光立体角反射率を連続的に測定することにより、分光立体角反射率がほぼ同一であるオーチャードグラスOGとエゾノギシギシXとの識別が可能であるか否かの実験を行い、その結果が図9ないし図32に示されている。なお、下側の閾値は45%と仮定した。ここで、図9ないし図16は、測定ヘッドHの移動速度V=0.2cm/s と固定しておいて、測定エリア半径rを0.2cm から5.0cm まで順次大きくした場合における被識別物体の分光立体角反射率を連続的に測定した結果を示すグラフである。なお、測定エリア半径rと移動速度Vとの組み合わせにおいて、オーチャードグラスとエゾノギシギシとの判別が可能なもの、及び不可能なものについては、それぞれ各グラフの上部に○印及び×印を付してある。この結果から、測定エリア半径r=0.2cm と小さい場合(図9参照)には、オーチャードグラスとエゾノギシギシとの双方を検出してしまい、両植物体の識別が困難であり、測定エリア半径r=0.5 〜2.0cm の範囲においては、エゾノギシギシの分光立体角反射率が一定した直線状となって現れると共に、オーチャードグラスの分光立体角反射率のみが閾値以下となって、両植物体の識別が可能であり、更に、測定エリア半径rが3.0cm を超えると、エゾノギシギシの分光立体角反射率までもが閾値以下となって、両植物体の識別が困難であることが判明した。エゾノギシギシの分光立体角反射率が一定した直線状となって現れることにより、測定された分光立体角反射率が、エゾノギシギシと見做される分光立体角反射率の範囲内に既定回数だけ含まれたことを意味し、これにより当該部分にエゾノギシギシが存在することが判る。
【0018】
また、図17ないし図24は、測定ヘッドHの移動速度V=0.6cm/s と固定しておいて、測定エリア半径rを0.2cm から5.0cm まで順次大きくした場合における被識別物体の分光立体角反射率を連続的に測定した結果を示すグラフである。この結果から、測定エリア半径r=0.2 〜1.5cm の範囲においては、オーチャードグラスの部分の分光立体角反射率が鋭い山型か、或いは閾値以下となると共に、エゾノギシギシの部分の分光立体角反射率に直線状部分が存在していて、両植物体の識別が可能であるが、測定エリア半径rが2.0cm を超えた部分から、エゾノギシギシの部分の分光立体角反射率まで鈍い山型となるか、或いは閾値以下となって、両植物体の識別が困難であることが判明した。
【0019】
更に、図25ないし図32は、測定ヘッドHの移動速度V=1.0cm/s と固定しておいて、測定エリア半径rを0.2cm から5.0cm まで順次大きくした場合における被識別物体の分光立体角反射率を連続的に測定した結果を示すグラフである。この結果から、測定エリア半径r=0.2 〜1.0cm の範囲においては、オーチャードグラスの部分の分光立体角反射率が閾値以下となると共に、エゾノギシギシの部分の分光立体角反射率に直線状部分が存在していて、両植物体の識別が可能であるが、測定エリア半径rが2.0cm を超えた部分から、エゾノギシギシの部分の分光立体角反射率まで鈍い山型となるか、或いは閾値以下となって、両植物体の識別が困難であることが判明した。
【0020】
上記した各測定結果から、以下のことが言える。測定エリアが一定値を超えて小さい場合には、該測定エリアが、幅の狭いオーチャードグラスの幅よりも小さくなるために、移動速度を速くしないと識別困難であることが判り、逆に、測定エリアが一定以上大きい場合には、測定エリア内に被識別植物体のみならず、その前後の土壌も常時含まれる結果、どちらの植物体の分光立体角反射率も閾値以下となって、識別不能となり、移動速度とは無関係に識別不能であることが判る。この結果、移動速度が0.2cm と遅い場合には、測定エリア半径が0.7 〜2.0cm 程度でオーチャードグラスとエゾノギシギシとの識別が可能であり、移動速度がこれよりも若干速くなっても、ほぼ同様の傾向を示すが、測定エリア半径が2.0cm を超えると、エゾノギシギシの部分の測定波形が山型になって、両植物体の識別が難しくなった。また、移動速度が1.0cm/s と速い場合には、測定エリア面積が小さい方が識別の可能性が高くなり、更に、測定エリア半径が1.5cm に至ると、識別がやや困難になった。これらのことを総合すると、幅1cmと5cm程度の植物体の葉を識別するには、測定エリア半径は、0.7 〜1.2cm 程度が妥当であると思われ、両植物体の分光立体角反射率がほぼ同じであっても、葉の大きさが異なれば、測定ヘッドHの測定エリアと、その移動速度との組み合わせが適切であれば、両者の識別が可能であることが判る。
【0021】
また、上記した例は、判別すべき2種類の植物体の分光立体角反射率がほぼ同じであるので、閾値も同じ値となったが、分光立体角反射率がそれぞれ異なる場合には、各分光立体角反射率に対応した閾値をそれぞれ設ける必要があり、アカクローバなどのマメ科牧草の780nm 前後(近赤外)の分光立体角反射率は、葉が重なるとエゾノギシギシよりも高くなることがあり、このような場合には、下側の閾値のみではなくて、上側の閾値も設ける必要がある。また、上記したことは、測定エリアの大きさと、その速度を被識別物体であるイネ科牧草(オーチャードグラス)と広葉雑草(エゾノギシギシ)の葉幅に対応させて最適なものを選択すると、両者の分光立体角反射率が近似していても識別可能であることの理論説明であるが、現実の牧草地では、牧草或いは広葉雑草の葉は任意の方向に伸びており、これに対応させて、測定エリアを任意の方向に移動させれば、現実の牧草地に対応して、広葉雑草のみの識別が可能となる。
【0022】
上記した例は、特定の一つの波長における分光立体角反射率を連続的に測定して、分光立体角反射率が互いに近い関係にあって、葉の大きさが大きく異なる2種類の植物体を識別するものであるが、異なる複数の波長における各分光立体角反射率を組み合わせると、精度の高い識別が可能となる。例えば、(a)550nm(緑)、(b)670nm (赤)、(c)780nm(近赤外)の3種類の波長を使用した識別方法について述べる。上記と全く同様にして、作業車7を移動させながら、その測定ヘッドHにより上記した3種類の各波長における分光立体角反射率を測定する。まず、図33のフローチャートに示されるように、(a)と(b)における各波長の分光立体角反射率を比較して、(a)の方が高ければ、測定エリアのうち植物体の方が土壌よりも広い面積を占めていると判定して次の計算工程に移り、逆の場合には、土壌又は枯れた葉が殆どを占めていると判定して元に戻る。イネ科牧草を刈取った後は、株元に枯れた葉が残っていることが多いので、かなりこの操作で振り落とされることになる。実際の圃場試験において1波長ではイネ科牧草も検出したが、3波長について測定すると検出しなくなった。
【0023】
そして、(a)の波長における分光立体角反射率が(b)の波長におけるそれよりも高くて、測定エリア内において植物体の占める割合が高いと判定された場合には、1波長の場合と同様にして計算を進める。(c)の波長における分光立体角反射率が閾値内に入っているか否かについて判定して、入っていればエゾノギシギシであるために「1」を出力して、入っていなければ「0」を出力して元に戻る。元に戻った場合には、同様の計算を引き続いて行い、(c)の波長における分光立体角反射率が閾値内に入っていれば出力された「1」を加えて「2」にする。この操作を連続して繰り返して、エゾノギシギシは判定された回数が既定値(例えば5回)に至った場合においてのみ、最終的に被識別物体がエゾノギシギシであると判定して信号を出力する。逆に、エゾノギシギシからそれ以外の被識別物体(イネ科牧草、土壌など)に移動する場合は、これとは逆の操作を行って、連続してエゾノギシギシを既定値(例えば5回)だけ検出しなければ、上記信号を止める操作を行う。図34は、上記した(a),(b),(c)の各波長における分光立体角反射率を牧草地で連続して測定した場合のグラフであって、(a)の波長における分光立体角反射率の方が(b)の波長におけるそれよりも大きくて、しかも(c)の波長における分光立体角反射率が45%を超えるデータ番号の部分においてエゾノギシギシが検出されていることが分かる。
【0024】
このため、測定エリアのパターンとしては、以下の3つに分類される。〔1〕(a)の波長における分光立体角反射率が(b)の波長におけるそれよりも大きくて、しかも(c)の波長における分光立体角反射率が閾値内に入っている場合には、測定エリア内はエゾノギシギシである。〔2〕(a)の波長における分光立体角反射率が(b)の波長におけるそれよりも大きくて、しかも(c)の波長における分光立体角反射率が閾値の下側よりも小さいか、或いは閾値の上側よりも大きい場合には、測定エリア内はエゾノギシギシ以外の植物である。〔3〕(a)の波長における分光立体角反射率が(b)の波長におけるそれよりも小さい場合には、測定エリア内は土壌である。
【0025】
また、上記した3種類のパターンが連続して現れるかどうかによって、信号の出力の有無は以下のような各場合に分けられる。(1)前回まで連続して既定値を超えてエゾノギシギシで、今回もエゾノギシギシの場合には、引き続いて信号が出力される。(2)前回まで連続して既定値を超えてエゾノギシギシで、今回は他の植物の場合には、引き続いて信号が出力される。(3)前回まで連続して既定値を超えてエゾノギシギシで、今回は土壌の場合には、引き続いて信号が出力される。(4)前回までは連続して土壌又は他の植物で今回はエゾノギシギシの場合には、信号は出力されない。(5)前回まで連続して土壌又は他の植物で、今回も土壌又は他の植物の場合には、信号は出力されない。(6)前回まで連続して既定値以下でエゾノギシギシで、今回もエゾノギシギシで既定値を超えた場合には、信号が出力される。
【0026】
【発明の効果】
本発明は、分光立体角反射率測定器に備えつけた距離センサによって、光検出器と被識別物体との距離を検出して、該検出距離に基づいて補正された被識別物体の分光立体角反射率を算出し、測定された分光立体角反射率が、予め設定された広葉雑草と見做される分光立体角反射率の範囲内に連続して既定回数だけ含まれた場合においてのみ、被識別物体を広葉雑草であると判別する方法であるので、牧草と広葉雑草との葉幅に一定以上の差がある場合には、両者の分光立体角反射率が互いに近くても、両者の識別を行うことが可能となる。この場合において、複数の異なる波長において分光立体角反射率をそれぞれ測定すると、識別精度が一層に高まる。
【図面の簡単な説明】
【図1】分光立体角反射率測定器を用いた物体の光学的識別方法の原理図である。
【図2】測定ヘッドHの底面図である。
【図3】オーチャードグラス(牧草)、エゾノギシギシ(広葉雑草)、乾燥土壌、及び湿潤土壌に関して、波長に対する分光立体角反射率の測定波形を示す図である。
【図4】演算装置Dに入力しておくためのオーチャードグラス、エゾノギシギシ、乾燥土壌及び湿潤土壌の特定の複数の設定波長(G1 〜G6)に対する基準分光立体角反射率を示す図である。
【図5】特定の設定波長における測定距離の変化に対する分光放射輝度の変化を示す図である。
【図6】作業車7を走行させて牧草地の分光立体角反射率を連続して測定する状態を示す模式図である。
【図7】模式的牧草地の平面図である。
【図8】合成分光立体角反射率の算出原理を示す図である。
【図9】測定エリア半径r=0.2 cm ,移動速度V=0.2cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図10】測定エリア半径r=0.5 cm ,移動速度V=0.2cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図11】測定エリア半径r=0.75cm ,移動速度V=0.2cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図12】測定エリア半径r=1.0 cm ,移動速度V=0.2cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図13】測定エリア半径r=1.5 cm ,移動速度V=0.2cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図14】測定エリア半径r=2.0 cm ,移動速度V=0.2cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図15】測定エリア半径r=3.0 cm ,移動速度V=0.2cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図16】測定エリア半径r=5.0 cm ,移動速度V=0.2cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図17】測定エリア半径r=0.2 cm ,移動速度V=0.6cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図18】測定エリア半径r=0.5 cm ,移動速度V=0.6cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図19】測定エリア半径r=0.75cm ,移動速度V=0.6cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図20】測定エリア半径r=1.0 cm ,移動速度V=0.6cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図21】測定エリア半径r=1.5 cm ,移動速度V=0.6cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図22】測定エリア半径r=2.0 cm ,移動速度V=0.6cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図23】測定エリア半径r=3.0 cm ,移動速度V=0.6cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図24】測定エリア半径r=5.0 cm ,移動速度V=0.6cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図25】測定エリア半径r=0.2 cm ,移動速度V=1.0cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図26】測定エリア半径r=0.5 cm ,移動速度V=1.0cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図27】測定エリア半径r=0.75cm ,移動速度V=1.0cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図28】測定エリア半径r=1.0 cm ,移動速度V=1.0cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図29】測定エリア半径r=1.5 cm ,移動速度V=1.0cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図30】測定エリア半径r=2.0 cm ,移動速度V=1.0cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図31】測定エリア半径r=3.0 cm ,移動速度V=1.0cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図32】測定エリア半径r=5.0 cm ,移動速度V=1.0cm/s における模式的牧草地の経過時間に対する分光立体角反射率の変化を示す図である。
【図33】3種類の波長を用いてオーチャードグラス(牧草)とエゾノギシギシ(広葉雑草)とを識別するためのフローチャートである。
【図34】3種類の波長を用いて牧草地の分光立体角反射率を連続して測定した図である。
【符号の説明】
A:測定エリア
B:測定器本体
D:演算装置
H:測定ヘッド
OG:オーチャードグラス(牧草)
S:土壌
V:測定ヘッドの移動速度
X:エゾノギシギシ(広葉雑草)
r:測定エリアの半径
7:作業車
Claims (2)
- 分光立体角反射率測定器を牧草地の地表面に沿って移動させながら被識別物体の分光放射輝度を連続的に測定して、演算装置により分光立体角反射率を演算により算出することにより、葉幅の比較的小さな牧草と、これよりも葉幅の遙に大きな広葉雑草とを識別するための方法であって、
前記分光立体角反射率測定器は、光源と、設定波長の光のみを検出可能な光検出器と、該検出器と被識別物体との距離を検出可能な距離センサとを備え、
前記演算装置には、基準となる物体の基準測定距離における前記設定波長に対する分光放射輝度と、該基準物体の測定距離に対する分光放射輝度の変化に関する関係式と、複数の被識別物体について基準測定距離における前記設定波長に対する基準分光立体角反射率とがそれぞれ入力されていて、
識別すべき広葉雑草と牧草との各葉の平均幅に基づいた前記分光立体角反射率測定器の最適な測定エリアと、最適な測定速度とを予め定めておいて、
前記測定ヘッドの移動中において、測定エリアに含まれる牧草地の前記特定波長における分光放射輝度と、前記距離センサにより検出された測定距離と、前記関係式と、前記基準分光立体角反射率とに基づいて前記設定波長における被識別物体の分光立体角反射率を前記演算装置により算出することにより、
特定の波長における牧草地の被識別物体の分光立体角反射率を連続して測定して、測定された分光立体角反射率が、予め設定された広葉雑草と見做される分光立体角反射率の範囲内に連続して既定回数だけ含まれた場合においてのみ、被識別物体を広葉雑草であると判別することを特徴とする分光立体角反射率を利用した牧草地内の広葉雑草の識別方法。 - 分光立体角反射率測定器を牧草地の地表面に沿って移動させながら被識別物体の分光放射輝度を連続的に測定して、演算装置により分光立体角反射率を演算により算出することにより、葉幅の比較的小さな牧草と、これよりも葉幅の遙に大きな広葉雑草とを識別するための方法であって、
前記分光立体角反射率測定器は、光源と、牧草と広葉雑草と土壌とが識別可能な3種類以上の波長の光を検出可能な光検出器と、該検出器と被識別物体との距離を検出可能な距離センサとを備え、
前記演算装置には、基準となる物体の基準測定距離における3種類以上の前記各波長に対する分光放射輝度と、該基準物体の測定距離に対する3種類以上の前記各波長に光の分光放射輝度の変化に関する関係式と、複数の被識別物体について基準測定距離における3種類以上の前記各波長に対する基準分光立体角反射率とがそれぞれ入力されていて、
識別すべき広葉雑草と牧草との各葉の平均幅に基づいた前記分光立体角反射率測定器の最適な測定エリアと、最適な測定速度とを予め定めておいて、
前記測定ヘッドの移動中において、測定エリアに含まれる牧草地の3種類以上の前記各波長における分光放射輝度と、前記距離センサにより検出された測定距離と、前記関係式と、前記基準分光立体角反射率とに基づいて前記各波長における被識別物体の分光立体角反射率を前記演算装置によりそれぞれ算出することにより、
特定の2種類の波長における分光立体角反射率の比較によって被識別物体が土壌であるか否かを判別し、土壌でないと判別された場合において、残り波長の全部或いは一部における被識別物体の分光立体角反射率が連続して既定回数だけ広葉雑草のものであると見做された場合においてのみ、該被識別物体を広葉雑草であると判別することを特徴とする分光立体角反射率を利用した牧草地内の広葉雑草の識別方法。
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