JP3622926B2 - ペプチド又はアミノ酸の分離方法及びキット - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はペプチド又はアミノ酸の簡便、高感度な分離方法に関し、特に詳細には、N末端をブロックされたタンパク質由来のN末端部分フラグメントの効率良い分離方法に関する。
本発明はまた、この様な分離方法のための分離用キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
大多数のタンパク質は、生合成の途上、N末端において種々のプロセッシングを受け、アシル化、アルキル化等により、N末端がブロックされる。これらのタンパク質(以下N末端をブロックされたタンパク質と称する)にはエドマン法を原理とするプロテインシーケンサーによるN末端アミノ酸配列の解析を適用することができない。これらのタンパク質の分析方法としては、質量分析装置を用いる方法〔フェブス レターズ(FEBS Lett.) 第128巻、第37頁(1981)〕、HPLCとアシルアミノ酸遊離酵素を用いる方法(酵素法)〔ジャーナル
オブ バイオケミストリー(J.Biochem.) 、第92巻、第607頁(1982)〕、本発明者らによる、アシルアミノ酸遊離酵素を用いたN−α−アシル化タンパク質のN末端アミノ酸配列分析方法(特開昭60−305253号)、N−α−アシルアミノ酸のカルボキシル基に疎水基を導入する方法(特開平4−72559号)が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これらの方法においては、N末端をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントを分離するために、化学的又は酵素的に該タンパク質を切断してフラグメント化し、該フラグメント化されたタンパク質の混合物からN末端部分フラグメントを分離する工程が含まれている。
しかし、いずれの方法においても、操作が煩雑であること、また多量の分析試料を必要とすること、目的とするN末端部分フラグメントの分離が不十分であるなどの問題点を有していた。また、アシルアミノ酸遊離酵素を用いる方法においては、該方法が適用できるのはN末端がホルミル、アセチル、プロピルの低級アシル基でブロックされているタンパク質に限られている。
本発明の目的は、N末端をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントの簡便な分離方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、N末端部分をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントであるペプチド及び/又はアミノ酸を分離する方法であって、下記の各工程:
(1)N末端部分がブロックされたタンパク質をリジルエンドぺプチダーゼ及びカルボキシペプチダーゼBで処理してペプチド及び/又はアミノ酸の混合物を調製する工程、
(2)前記ペプチド及び/又はアミノ酸中の遊離の1級アミノ基、ピロリジン核のNH基、又はモノアルキル化アミノ基を有するペプチド及び/又はアミノ酸にビオチン又はその反応性誘導体を結合させて結合体を形成させる工程、
(3)工程(2)で生じた結合体をアビジン又はその反応性誘導体を有する担体に結合させて混合物から分離する工程、
を含有することを特徴とするN末端部分をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントであるペプチド及び/又はアミノ酸の分離方法に関する。
また、本発明の第2の発明は、本発明の第1の発明の方法を用いてN末端部分をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントであるペプチド及び/又はアミノ酸を分離するためのキットであって、リジルエンドぺプチダーゼ及びカルボキシペプチダーゼBと、ビオチン又はその反応性誘導体と、並びにアビジン又はその反応性誘導体を含有することを特徴とする分離用キットに関する。
【0005】
以下、本明細書において、「ペプチド及び/又はアミノ酸」を、「P/A」と略記し、「遊離の1級アミノ基、ピロリジン核のNH基、又はモノアルキル化アミノ基」を、総称する場合に「窒素含有基」と略記し、前記「混合物」を、「P/A混合物」と略記する。
【0006】
本発明において遊離の1級アミノ基とは、例えばペプチドのN末端の遊離の1級アミノ基、アミノ酸の遊離のα−アミノ基やリジンの側鎖の1級アミノ基やオルニチンの側鎖の1級アミノ基等のビオチン又はその反応性誘導体と反応しうる1級アミノ基を示し、アルギニンのグアニジノ基、ヒスチジンのイミダゾール基、トリプトファンのインドール基、アスパラギン又はグルタミン側鎖の酸アミド等は含まれない。
また本発明においてピロリジン核のNH基を有するP/Aとは、プロリン又はオキシプロリンを含むP/Aを示す。
また本発明においてモノアルキル化アミノ基とは、N−α−モノメチルアミノ基等の、ビオチン又はその反応性誘導体と反応しうるモノアルキル化アミノ基を示す。
【0007】
本発明において用いられるビオチン又はその反応性誘導体としては、上記の窒素含有基と反応性を有する物であればよく、N−ヒドロキシスクシニルイミドビオチン(NHS−ビオチン)、スルホスクシニルイミドビオチン(スルホ−NHS−ビオチン)等を用いることができる。
【0008】
N末端部分をブロックされたタンパク質の解析において、N末端部分をブロックされたタンパク質に適当な処理を行うことにより、N末端部分フラグメントを窒素含有基を有さないP/Aとして、またN末端以外の部分由来のフラグメントを窒素含有基を有するP/Aとして含むこれらのフラグメントの混合物として調製し、試料として用いることができる。ビオチン又はその反応性誘導体を、この試料中の窒素含有基を有するP/Aに結合させて結合体を形成させ、生じた結合体をアビジン又はその反応性誘導体を有する担体に結合させて試料から分離することにより、N末端以外の部分由来のフラグメントを試料から分離することができる。N末端部分フラグメントは、ビオチン又はその反応性誘導体に結合しない画分から簡便に分離することができる。
【0009】
以下、本発明を用いるN末端をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントの分離の例を具体的に説明する。
【0010】
(1)試料の調製
N末端をブロックされたタンパク質を含む試料としては、例えば、天然の微生物や動物由来の、若しくは遺伝子組換えにより生産されたタンパク質を用いることができる。
【0011】
(a)リジルエンドペプチダーゼを用いる方法
例えば、N末端をブロックされたタンパク質を、リジン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を特異的に切断するリジルエンドペプチダーゼであるアクロモバクタープロテアーゼI(以下APIと称する)で消化し、種々の長さのフラグメントの混合物を得る。次いで、例えばカルボキシペプチダーゼBを作用させ、それぞれのフラグメント(但し、C末端に由来するフラグメントを除く)のC末端のリジン残基を遊離させる。
この場合、試料中には少なくとも遊離のリジン残基と目的とするN末端をブロックされたタンパク質由来のリジンを含まないN末端部分フラグメント及びそれ以外の部分のリジンを含まないフラグメントが含まれている。
N末端部分フラグメントは目的とするタンパク質中のリジン残基の位置により種々の長さとなりうるが、例えば、目的とする、N末端をブロックされたタンパク質のN末端から2番めのアミノ酸がリジンである場合には、N末端のアミノ酸由来の、α−アミノ基をブロックされたアミノ酸となる。
【0012】
(b)化学修飾による方法
N末端をブロックされたタンパク質の遊離の1級アミノ基例えばリジン残基のε−アミノ基を特異的に化学修飾しうる試薬を用いて、これらの遊離の1級アミノ基を化学修飾した後、適当なエンド型プロテアーゼ、例えばトリプシン、又はアルギニルエンドペプチダーゼ等を用いて消化を行ってもよい。化学修飾の方法としては、後に述べるフェニレンジイソチオシアネート(DITC)を固定化した担体(DITC−グラス)、及び上述のビオチン又はその反応性誘導体と反応しない試薬を用いるものであればよく、例えばイソチオシアン酸フェニル化(PITC化)、スクシニル化等が挙げられる。
この場合、試料中には少なくとも目的とするN末端をブロックされたタンパク質由来のN末端部分フラグメント及びそれ以外の部分のフラグメントが含まれており、それぞれのフラグメントのN末端以外の遊離の1級アミノ基は化学修飾されている。N末端部分フラグメントはエンド型プロテアーゼの作用位置により種々の長さとなりうるが、例えば、N末端のアミノ酸由来の、α−アミノ基もブロックされたアミノ酸となっている場合もある。
また方法(b)において、例えばアシルアミノ酸遊離酵素等の、N末端をブロックされたフラグメントからN末端部分のアミノ酸を切り出す作用を持つ酵素を適当なエンド型プロテアーゼによる処理と組合せるか、又は単独で用いて消化を行うと、少なくともN末端部分フラグメントとして、N末端のアミノ酸由来の、α−アミノ基がブロックされたアミノ酸を含む試料を調製することができる。
また、方法(b)において、例えばカルボキシペプチダーゼP、又はカルボキシペプチダーゼY等の、ペプチドのC末端からアミノ酸を順次遊離させる作用を持つ酵素を単独で、又は適当なエンド型プロテアーゼによる処理と組合せて用いて消化を行うと、少なくとも種々の長さのN末端部分フラグメントを含む試料を調製することができる。この場合、試料中には、少なくとも各フラグメントのC末端側から切り出された遊離のアミノ酸が含まれている。
【0013】
次いで、ビオチン又はその反応性誘導体による処理工程を行うが、該工程に先立って、(1)で調製した試料に対し、例えばDITC−グラス等の、窒素含有基を有するP/Aと反応しうる担体を用いて窒素含有基を有するP/Aを除去する前処理を行ってもよい。これらの操作により、後の工程で用いるビオチン及びアビジン又はそれぞれの反応性誘導体の量を節約することができ、有利である。
【0014】
(2)ビオチン又はその反応性誘導体による処理
(1)で得られた試料を、遊離のアミノ基を有さない緩衝液、例えばリン酸ナトリウム緩衝液、(pH7.5〜9が好ましい)に溶解し、試料中の窒素含有基の合計モル量の10倍〜20倍量のビオチン又はその反応性誘導体、例えばNHS−ビオチン、スルホ−NHS−ビオチン等を加えて反応させる。反応は20℃〜30℃で行うのが好ましい。
この処理により、試料中の窒素含有基を有するP/Aはビオチン又はその反応性誘導体に結合する。試料中の、N末端をブロックされたタンパク質由来のN末端部分フラグメントは窒素含有基を有さないのでビオチン又はその反応性誘導体には結合しない。
【0015】
(3)アビジン又はその反応性誘導体を有する担体による処理
(2)で得られた試料をアビジン又はその反応性誘導体を有する担体、例えばイムノピュアイモビライズドアビジンと混合し、非吸着画分を集める。加えるアビジン又はその反応性誘導体の量は、(2)で用いたビオチン又はその反応性誘導体の5〜10倍量が好ましい。この工程においてはカラムクロマトグラフィーを用いるのが効果的で、カラムクロマトグラフィーの条件としては0.2〜0.5M程度の塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(pH7.0〜8.0)を用いるのが好ましい。非吸着画分より、N末端をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントを回収し、分離することができる。該フラグメントは直接、質量分析法、例えばLC/MS/MS法によるN末端ブロック基やアミノ酸配列等の解析に供することができる。
【0016】
本発明に用いられるビオチン又はその反応誘導体と、アビジン又はその反応誘導体とを試薬として含むキットを構成することができ、このキットを用いて本発明の分離方法を簡便に行うことができる。またキット中に、例えばペプチドをフラグメント化するためのプロテアーゼ、例えばリジルエンドペプチダーゼ、又はカルボキシペプチダーゼB等の酵素や、DITCガラスやPITC等の遊離のアミノ基に結合する試薬や、緩衝液、クロマトグラフィー用のカラム等を入れておいてもよい。
【0017】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0018】
実施例1
馬心臓シトクロームcのN末端アセチル化ペプチドの単離
1nmol馬心臓シトクロームc(ジグマ社製)を50mM N−エチルモルホリン緩衝液(pH 8.5)中にてリジルエンドペプチダーゼ(和光純薬社製)により、6時間酵素消化を行った。続いて、同緩衝液中で、カルボキシペプチダーゼB(ベーリンガー社製)を用いて37℃で2時間酵素消化を行った。消化物を濃縮乾固した後、10%メタノールを含む50mM N−エチルモルホリン緩衝液(pH 10)に溶解し、570nmol DITCを固定化したガラスビーズ3.8mgを添加し、40℃、2時間かくはんした。反応上清を回収し、濃縮乾固し、乾固物を50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.8)に溶解し、50nmolのN−ヒドロキシスクシニルイミドビオチン(ピアス社製)を溶解したジメチルスルホキシドを添加し、遊離のα−アミノ基を有するペプチドと反応させた。反応溶液を、あらかじめ20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.5)で平衡化しておいたイムノピュアイモビライズドアビジンを有するカラムに添加し、非吸着画分を回収した。非吸着画分をODSカラム(コスモシール5C18−ARパックドカラム、ナカライテスク社製)を有するHPLCに供試し、0.1% TFA中、0〜60%のアセトニトリルの濃度勾配溶出(流速 0.5ml/分)によりピークを示す画分を分取した。検出は215nmの紫外吸収で行った。図1にその結果を示す。すなわち図1は、馬心臓由来シトクロームcのN末端アセチル化ペプチドを含むアビジン固定化アガロース非吸着画分をODSカラムを用いたHPLCにより分析した結果を示すクロマトグラムであり、縦軸は吸光度(215nm)、横軸は保持時間(分)を示す、矢印は、N末端部分ペプチドのピークを示す。分取した画分を質量分析、LC/MS/MS分析に供し、N末端がアセチル化されたペプチドであることを確認し、アミノ酸配列を決定した。決定したアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。
【0019】
実施例2
鶏卵々白由来リボフラビン結合タンパク質のN末端ピログルタミル化ペプチドの単離
1nmol鶏卵々白由来 リボフラビン結合タンパク質〔ジャーナル オブ
バイオケミストリー、第95巻、第1633〜1644頁(1984)〕を実施例1と同様の条件でリジルエンドペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼBにより酵素消化した。消化物を濃縮乾固した後、10%メタノールを含む50mM
N−エチルモルホリン緩衝液に溶解し、450nmol DITCを固定化したガラスビーズ3.0mgを添加し、40℃、2時間かくはんした。反応上清を回収し、濃縮乾固し、乾固物を50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.8)に溶解し、50nmolのN−ヒドロキシスクシニルイミドビオチンと実施例1と同様の条件で反応させた。反応溶液を実施例1と同様の条件で、イムノピュアイモビライズドアビジンを有するカラムに添加し、非吸着画分を回収した。非吸着画分を実施例1と同様の条件でHPLCに添加し、ピーク画分を分取した。図2にその結果を示す。すなわち、図2は、鶏卵々白由来リボフラビン結合タンパク質のN末端ピログルタミル化ペプチドを含むアビジン固定化アガロース非吸着画分をODSカラムを有するHPLCにより分析した結果を示すクロマトグラムであり、縦軸は吸光度(215nm)、横軸は保持時間(分)、矢印はN末端部分のペプチドのピークを示す。分取した画分を質量分析、LC/MS/MS分析に供し、N末端がピログルタミル化されたペプチドであり、配列表の配列番号2に示すアミノ酸配列を有することを確認した。
【0020】
【発明の効果】
本発明により、P/A混合物の簡便かつ迅速な分離方法が提供される。
【0021】
【配列表】
【0022】
【0023】
【図面の簡単な説明】
【図1】馬心臓由来シトクロームcのN末端アセチル化ペプチドの分析結果を示す図である。
【図2】鶏卵々白由来リボフラビン結合タンパク質の分析結果を示す図である。
Claims (2)
- N末端部分をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントであるペプチド及び/又はアミノ酸を分離する方法であって、下記の各工程:
(1)N末端部分がブロックされたタンパク質をリジルエンドぺプチダーゼ及びカルボキシペプチダーゼBで処理してペプチド及び/又はアミノ酸の混合物を調製する工程、
(2)前記ペプチド及び/又はアミノ酸中の遊離の1級アミノ基、ピロリジン核のNH基、又はモノアルキル化アミノ基を有するペプチド及び/又はアミノ酸にビオチン又はその反応性誘導体を結合させて結合体を形成させる工程、
(3)工程(2)で生じた結合体をアビジン又はその反応性誘導体を有する担体に結合させて混合物から分離する工程、
を含有することを特徴とするN末端部分をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントであるペプチド及び/又はアミノ酸の分離方法。 - 請求項1記載の方法を用いてN末端部分をブロックされたタンパク質のN末端部分フラグメントであるペプチド及び/又はアミノ酸を分離するためのキットであって、リジルエンドぺプチダーゼ及びカルボキシペプチダーゼBと、ビオチン又はその反応性誘導体と、並びにアビジン又はその反応性誘導体を含有することを特徴とする分離用キット。
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