JP3612545B2 - ロボットの関節装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、少なくとも2つのリンクを相対回転可能に結合した関節部を有するロボットの関節装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ロボットの関節装置は、例えば特許第2592340号公報で知られている。この関節装置には電動モータとその出力を減速増力できるハーモニックドライブ減速機が組み合わされて使われている。ロボットの減速機は必ずしもこの形式である必要はないが、軽量であり大きな減速比が得られ、なおかつ伝達効率も納得できるレベルであることが要求される。
【0003】
前記特許第2592340号公報に開示された構成では、ロボットが起立しているときには地球の引力に抗して脚の関節を起立位置に保持するべく、当該関節を駆動するモータに電流を流しつづける所謂サーボロックをかけておく必要がある。関節の起立位置が物理的に不安定な点になっているからである。
【0004】
また起立している時以外でも、例えば歩行中に体重を支えている方の脚(以下これを立脚と言い、支えている期間を立脚期と定義する)の膝関節は真っ直ぐに伸ばした状態でサーボロックされている。立脚期が終わるころ、サーボロックは解除され、その後はこの脚は体重を支えない遊脚期に入る。立脚期の膝関節は上記の起立時と同じ理由で電流の消費を継続していることになる。
【0005】
このようなサーボロックは外部に対して仕事をしていないにも関わらず、電気エネルギーを消費していることになる。サーボロックを行うことなく脚関節を所望の位置に固定する技術も他の先行技術の中にみることができる。例えば米国の企業が開発した6本足のロボット「オデックス」はモータで駆動されるねじによって関節を動かしている。この構成によるときは、モータを駆動すれば関節は角度を変えることができるのに対して、ロボットの体重による外力ではねじが変位を許さず、機械的にセルフロックされて関節角度は保持されるから、モータに流す電流を止めてもその関節角度は維持される。
【0006】
しかし、ねじをモータ減速機に使った場合には、内部摩擦が大きく、減速機の伝達効率が極めて悪いと言う副作用を覚悟しなければならない。このねじを内部摩擦の少ないボールねじに交換してみると、最大の特徴であった機械的なロックと言う利点まで失われてしまうから、関節角度の維持には電流を継続して流す必要が生じてしまう。
【0007】
更に、他の先行技術の中に、関節にブレーキをかけてロックする技術がある。産業用ロボットでは、電源が切れたときにロボットが落下してきて人身事故になることを防止する目的で、関節構造と並列に電磁クラッチを用意する。通常は電流を流して電磁クラッチを切っておき、停電などで電源が故障したときには電磁クラッチがバネの力で関節をロックする、という概念である。
【0008】
この概念が歩行ロボットの省エネ対策には使えないことは、正常時に無駄な電流を流しておかなければいけないことや、電磁クラッチそのものが大変に重いことなどを想起すれば自明だろう。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前述したように、従来の技術では体重に抗して関節を所望の角度に保持するために、移動では使わなくてもよいエネルギーを消費しており、このために一度充電した後のロボットの稼働時間を著しく短いものに縮めている。車輪式の移動機構の場合、単に止まっているときにはエネルギーを全く消費していない事実を考えれば、歩行ロボットの持つハンディの大きさが良く理解できよう。
【0010】
移動ロボットは移動そのものが目的ではなく、目的地に到達した後、所定の作業をこなすことが使命であり、作業時の姿勢としては起立姿勢をとる時間が長いことから、起立姿勢での消費エネルギーを削減することは非常に重要な課題である。
【0011】
更に、現在の人工知能の技術水準では、移動中でさえ、現在自分が何処に居るのかを知るのに、回りの環境を認識する長い時間が必要であり、その間起立姿勢を維持することになり起立時の消費エネルギーの削減の課題は益々重要性を帯びている。
【0012】
前述のような問題は、ロボットのアーム部にもついて回る。アームは移動中には作業を行わないので、環境にある他の構造物や人と接触しないようにできるだけ折り畳んでいることが望ましい。このために従来公知となった歩行ロボットではアームを肘部分で曲げて歩行している。この姿勢では前腕部の重量が肘関節にかかり、モータはこの重量によるモーメントに抗して肘角度を維持しなければならないから電力の消費を必ず伴っていた。
【0013】
肘関節を曲げることは、肩関節や手首関節のモータにとっても重力モーメントに抗して電流の消費を強いていたため、アーム全体では相当な量のエネルギー消費を伴っている。これらの消費エネルギーが全体として現在の移動ロボットの稼働時間を著しく短いものにしてきた。
【0014】
次に、従来のロボットの関節が有する欠点について歩行ロボットの膝関節を例にとり、起立時に電力を消費する理由を制御の立場から説明する。
【0015】
図9(a)は特許第2592340号公報に開示されたロボットを側面から見た図である。起立したロボット全体の重心Gから下ろした鉛直線が膝関節の回転軸aと交わるとき、重力に起因する膝関節を曲げるモーメントは発生しない。
【0016】
しかし、図9(a)に示した如く重心から下ろした鉛直線が膝関節の回転軸aと微小量δxだけ変位したとしよう。ロボットの質量をMとすれば、重力はMgであるから、これにδxを乗じた量が膝関節を回転させるモーメントになる。このモーメントによって関節角度は目標とする角度から次第にずれていき、ロボットの姿勢を崩す。モータはこの崩れた姿勢角度を元の正常な角度に戻すべくトルクを発生させなければならないから、電流を消費することになる。
【0017】
本発明は、前記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、付勢手段によって関節角度を特定姿勢角度に保持し、消費エネルギーを低減できるロボットの関節装置を提供することにある。
【0018】
更に、ロボットがアームを所定の姿勢にとるとき、エネルギーの消費を基本的に伴わないか、消費するにしても著しく節約できる新規なロボットの関節装置を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために、請求項1の発明は、少なくとも第1のリンクと第2のリンクを相対回転可能に結合した関節部を有するロボットの関節装置において、前記関節部がモータの駆動力により回転運動するように構成するとともに、前記関節部における前記第2のリンクに、前記第1のリンクに対して相対回動するカムを設け、前記第1のリンクに前記カムの外周部に対して弾性的に押圧力を付与し、前記第1と第2のリンクが所望の姿勢角度になるように付勢する付勢手段を設けた。関節部に関節の角度が所望の角度になるように物理的に付勢する付勢手段を付加し、その付勢力によって所望の関節角度が維持されるように構成した。付勢力はバネ等の機械的な力であるので、基本的にエネルギーの消耗が抑えられ、ロボットの稼働時間を大幅に延長できる。
【0020】
請求項2の発明は、脚式の歩行ロボットの関節に当該付勢手段を付加し、所望の角度を維持するのにエネルギーの消費を伴わないように構成したから、歩行ロボットが目的地についた後で作業を行うような場合、又は移動中に経路探索等で立ち止まるような場合にエネルギーの消費を基本的に抑えることができ、歩行ロボットの行動半径を拡大できる。
【0021】
請求項3の発明は、少なくとも1つの関節を含むアームを有するロボットの当該関節部に当該付勢手段を付与したから、移動中などアームを使わないときにアーム角度を所望の角度に維持するのにエネルギー消費を抑え、ロボットの稼働時間を延長できる。
【0022】
請求項4の発明は、前記関節角度が前記所望の角度に近づくとき、この両者の差分が極めて微小であっても十分な付勢力が得られるように初期保持力を与えたから、外部から当該関節角度を変位させるモーメントが加えられた場合でも正確に当該所望の角度を維持することができ、エネルギーの消費を0にできるか、消費するにしても著しく節約できる。
【0023】
請求項5の発明は、前記付勢手段が決める所望の関節角度と制御システムが決める所望の関節角度との間の誤差を解消するために、制御システムが決める所望の角度と付勢手段の決める角度が一致するように調節可能な調節手段を付け加えた。
【0024】
請求項6の発明は、少なくとも第1のリンクと第2のリンクを相対回転可能に結合した関節部を有するロボットの関節装置において、前記関節部がモータの駆動力により回転運動するように構成するとともに、前記関節部における前記第2のリンクに、前記第1のリンクに対して相対回動する第 1 の磁石を設け、前記第1のリンクに前記第 1 の磁石に対して磁気吸引力を発生させ、前記第1と第2のリンクが所望の姿勢角度になるように付勢する第2の磁石を設けた。付勢力は電磁力のポテンシャル力であるので、基本的にエネルギーの消耗が抑えられ、ロボットの稼働時間を大幅に延長できる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1〜図3は第1の実施形態を示し、図1は移動ロボットとしての2足歩行ロボットの骨格を示す斜視図である。図1に示すように、歩行ロボット1は左脚2L、右脚2Rに6個の関節軸を備えている。左脚2L、右脚2Rは同一構造であり、一方について説明すると、6個の関節軸は上から順に、脚部回転用関節軸3、股部ピッチ方向関節軸4、同ロール方向関節軸5、膝部ピッチ方向関節軸6、足首部ピッチ方向関節軸7、同ロール方向関節軸8となっており、その下部には力センサ9を介して足部10が設けられている。
【0027】
脚2L、2Rの最上部には人体の骨盤に相当する腰板リンク12が設けられている。腰板リンク12には関節の制御に必要な電源やアンプ(増幅器)、及び歩行空間に対するロボットの傾斜を検知して電気信号として出力する傾斜計13などが図示しない手段で搭載されている。
【0028】
脚部回転用関節軸3、股部ピッチ方向関節軸4及び同ロール方向関節軸5によって股関節部14が構成されている。更に、膝部ピッチ方向関節軸6によって膝関節部15が構成されている。更に、足首部ピッチ方向関節軸7と同ロール方向関節軸8によって足関節部16が構成されている。
【0029】
股関節部14と膝関節部15とは大腿リンク17によって結合され、また膝関節部15と足関節部16とは脛リンク18によって結合されている。
【0030】
図2は膝関節部15の具体的構成を示し、図1の右脚2Rの膝関節部15を前方から見た図であり、説明の都合上、一部を断面で示している。図2に示すように、大腿リンク17の上方には膝関節駆動用のモータ(図示しない)が設けられ、その出力はタイミングベルト19を介して膝部ピッチ方向関節軸6と同軸に配置されたプーリー20に伝えられている。プーリー20の回転はハーモニック減速機21で減速・増力されて脛リンク18をピッチ方向に回動するようになっている。脛リンク18は大腿リンク17に対して自由な回転運動ができるように、2つの軸受22,23で支持されている。
【0031】
脛リンク18の上端部には足部10の足首部ピッチ方向関節軸7を駆動するためのモータ24が収納され、その出力はタイミングベルト25を介して足首部ピッチ方向関節軸7へ伝達されている。モータ24には公知のようにその右半分には関節角度を知ることができる角度計(エンコーダ)が設けられ、この角度計のパルス数によって、足部10の脛リンク18に対するピッチ方向の角度が分かる。前述の大腿リンク17の駆動用のモータやその他の関節駆動用のモータにも同じように関節角度計が装着されている。
【0032】
また膝部ピッチ方向関節軸6と同軸に脛リンク18側の右側面には複数本のねじ26で結合された円筒カム27が設けられ、大腿リンク17に対して脛リンク18が相対的に回動すると、この円筒カム27も大腿リンク17に対して相対回動するようになっている。
【0033】
大腿リンク17の右側面には、複数本のねじ28によってシリンダ29が固定されている。このシリンダ29の内部には軸方向に摺動自在にカムフォロア30が挿入されている。カムフォロア30は公知のものであり、前記円筒カム27の表面を転動するローラ31と、このローラ31を回転自在に支持するローラ軸32を備えている。カムフォロア30の上部には初期荷重を与えられたバネ33がシリンダ29に内挿され、シリンダ29の上部にはねじ込み用のねじ部を持つプラグ34が設けられている。すなわち、プラグ34のねじ込み量によって円筒カム27とローラ31とを適切な押し付け力に設定している。
【0034】
そして、円筒カム27とカムフォロア30及びシリンダ29等は大腿リンク17と脛リンク18を図示位置に保持しようとする付勢力を生み出しており、この付勢力を生み出す装置を、以下、付勢手段と言い、前記初期荷重によって作られた図示位置への保持力を、以下、初期保持力と言う。
【0035】
図3は付勢手段を示し、図2の矢印A方向から見た概略的構成図である。図3に示すように、シリンダ29は大腿リンク17に3本のねじ28で固定されている。円筒カム27の外周にはローラ31を迎え入れる凹部27aが設けられ、図示位置ではローラ31がバネ33によってこの凹部27a押し付けられている。従って、大腿リンク17と脛リンク18とが図示位置から相対回転しようとする場合にこれを妨げて、図示位置に両者の関係位置を保持しようとする初期保持力を発揮する。
【0036】
本実施形態では、凹部27aは円筒カム27の円周上の限られた部分にのみ設けられているから、大腿リンク17に対して脛リンク18が図示位置からある角度回転すると、ローラ31は一定の半径を持つ円筒上を転がることになり、前記付勢力は消滅して、両者の相対回転運動の妨げにはならない。
【0037】
本実施形態では、図示位置を歩行ロボット1の直立起立姿勢とした。このときの膝関節部15の角度を制御プログラムが正しく起立位置であることを認識していないと、付勢手段が起立位置であること指定する位置は、制御プログラムが起立位置であると認識している角度と異なることになり、制御システムは自分の考えている角度を実現するべく、付勢手段の付勢力に抗してエネルギーを費やし、結果的に本発明の省エネ目的に反することになる。
【0038】
しかし、本発明は、次のような調節手段を設けている。すなわち、円筒カム27側のねじ26と嵌合する穴35(図2参照)は長穴であるため、円筒カム27を脛リンク18に固定するねじ26を少し緩めれば、起立位置では自然にバネ33の押し付け力によって円筒カム27とローラ31との相対位置が図示位置に調節される。その後、ねじ26を再度締め付ければ、前記部品精度に基づくエラーを吸収・調節できる。
【0039】
図4及び図5は第2の実施形態を示し、第1の実施形態と同一構成部分は同一番号を付して説明を省略する。
【0040】
図4は膝関節部15の具体的構成を示し、膝部ピッチ方向関節軸6と同軸に脛リンク18側の右側面には複数本のねじ26で結合された円筒カム27が設けられ、大腿リンク17に対して脛リンク18が相対的に回動すると、この円筒カム27も大腿リンク17に対して相対回動するようになっている。
【0041】
円筒カム27には大腿リンク17と脛リンク18を図示位置に付勢する付勢手段としての板ばね35,36がベース37を介して大腿リンク17に取付けられている。
【0042】
図5は図4の付勢手段を矢印Bの方向から見た概略的構成図である。板ばね35,36はバネ鋼で作られ、ベース37には4本のねじ38で固定されている。板ばね35,36の自由な状態での形状は、図5に2点鎖線に示す如く湾曲しており、円筒カム27の2面幅を抱え込むように装着されると、円筒カム27を図示位置に保持する力が生ずる。
【0043】
この力の大きさは、自由状態における板ばね35,36の湾曲度にもよるが、板の厚みによっても変わる。板の厚みの変更以外にも板の枚数を図示の1枚から複数枚に増やすことでも保持力を変えることができる。つまり保持力の設定の自由度は大変に大きい。更に保持力を増やしたければ、板ばね35,36の下部にコイルばね39を付け加えることもできる。
【0044】
本実施形態でも図示位置から大腿リンク17,脛リンク18が相対回転を始めようとすると、初期保持力があるので、所定のトルクを越えない限り相対回転は起きない。所定のトルク以上のトルクが加わると始めて相対回転が始まるが、絶えず図示位置に戻される力が働くことになる。従って大腿リンク17と脛リンク18の間には図示位置への付勢力が働いている。
【0045】
また、板ばね35,36が円筒カム27の外周の半径一定の円筒面に乗り上げた後は、この付勢力は消滅するのであるが、板ばね35,36と円筒カム27の円筒面とは擦れ合うので、一種の摩擦力が発生する。この摩擦力は歩行時の抵抗となって消費エネルギーを増大させる方向に働くので、両者間の摩擦係数を下げる必要がある。摩擦係数を低下させるには、摺動面にモリブデン系統のグリースを塗ることも良い解決策である。また板ばね35,36の表面に低い摩擦係数を持つ材料、例えばグリースを塗布したゴム材で覆うことも良い解決策である。
【0046】
図6及び図7は第3の実施形態を示し、第1の実施形態と同一構成部分は同一番号を付して説明を省略する。図6は膝関節部15の具体的構成を示し、膝部ピッチ方向関節軸6と同軸に脛リンク18側の右側面には複数本のねじ40によって非磁性材料からなる軸受部材41に固定されている。
【0047】
大腿リンク17と脛リンク18はアルミニウム等の非磁性体の材料で作られている。その相対回転運動が、図示しないモータの出力を伝達するタイミングベルト19と、このタイミングベルト19で駆動されるハーモニック減速機21によって引き起こされる。
【0048】
軸受部材41には第1の磁石42が接着剤などの適切な手段によって固定されている。軸受部材41の外周には磁性体からなる円筒体43が設けられ、この円筒体43には第1の磁石42と協調して前記大腿リンク17と脛リンク18を図示位置に付勢する第2の磁石44,45が接着剤などの適切な方法で固定されている。更に、磁石の吸引力によって塵埃などが付着することがないように、膝関節部15の全体を覆う樹脂などの非磁性体のカバー46が設けられている。
【0049】
第1の磁石42及び第2の磁石44,45に図示のような極性を与えるとき、大腿リンク17と脛リンク18は互いに引き寄せられて、図示位置を保とうとする。その力の大きさは磁石の強さによっても変えることができるが、第1の磁石42と第2の磁石44,45との間の隙間Tによっても変えることができる。隙間Tを小さくするにつれ、図示位置に保持しようとする力は飛躍的に強まる。
【0050】
なお、本実施形態の付勢手段は大腿リンク17と脛リンク18にそれぞれ固定された第1の磁石42と第2の磁石44,45であるが、原理的にはこの内の片方の磁石は、鉄などの磁性材料であれば、必ずしも磁石である必要はない。
【0051】
本実施形態では第1及び第2の実施形態に比べて付勢手段が機能する付勢力に初期保持力はない。すなわち、図示位置から僅かな外部トルクが加えられても、大腿リンク17と脛リンク18はそのときのトルクに応じた変位を示すようになる。もし初期荷重が欲しければ、大腿リンク17と脛リンク18が磁石で引き寄せられる図示の位置に到達する直前に、当該リンクの相対変位を止めるストッパーを別に設けておき、そのストッパーで停止した位置を起立位置となるように調整すればよい。
【0052】
前記円筒体43は、図7に示すように、外周壁には複数個の穴47a,47b……が設けられ、当該穴47a,47b……に挿入されたボルト48a,48b……によって大腿リンク17に固定されている。この穴47a,47b……の大きさはボルト48a,48b……の径に比べて十分に大きく、その結果、微小量ではあるが、軸受部材41と大腿リンク17との相対位置、言い換えれば第1の磁石42と第2の磁石44,45との相対位置を調節可能にしている。ロボットの組み立て調整の段階では、サーボモータが膝を起立の位置に保持したときに当該ボルトを締め付けることで、このときの関節角度が制御の基準関節角度となるように調整する。
【0053】
図8には膝関節部15を目標値になるように制御するためのブロック図である。本実施形態ではコンピュータが時系列的に関節角度を記憶しており、その関節角度になるようにサーボシステムが作られているものとする。このようなサーボシステムは公知であり、本発明の主たる構成要素ではないために、以下簡潔に述べる。
【0054】
制御工学の分野では公知のように、ラプラス変換を施した量でブロック図を書くのが決まりである。図8はこの決まりに従って書いてある。図8に記入された大文字の記号は、変換前の量に直すと小文字の量である。例えば変換後の量Ω(s)は、本来はω(t)を表している。以下の説明は変換前の量でなされている。
【0055】
時刻t=iのときの関節角度をθiとする。そのうちコンピュータの記憶している時系列の関節角度をθid、実際の関節角度をθirとして区別する。コンピュータはθidとθirとの差分を計算して、その差分をK1倍したものを改めて関節角速度ωidとして計算する。このωidと実際の関節の回転速度ωirとを比較して、その差分にK2倍した量をモータトルクTmとして出力する。
【0056】
モータアンプはこの出力を受けてモータに電流を供給するのでモータは回転して出力ωirを発生する。この回転速度ωirを積分器で積分したもの(カウンターで数えたもの)が回転角度θirである。この回転角度θirはモータと一体に装着した前述の角度計(エンコーダ)で検出され、再びコンピュータにフィードバックされる。この制御ループは公知であり、以上の情報の流れを制御工学の決まりに従って示したものが図8である。
【0057】
図8の要点は、角度指令値であるθidと実際の関節角度との間に存在する差分に比例したトルクをモータに供給するのがサーボ制御の基本であるという点であり、この差分が小さくできれば、それだけモータに流す電流値が小さくできることを示していることである。なぜならば、公知のようにモータのトルクとは流す電流値に比例するからである。
【0058】
以上、本発明を歩行ロボットの膝関節に適用した場合について説明してきたが、本発明は膝関節に限定されるべきではなく、全ての脚関節に適用できるのは自明だろう。
【0059】
更にロボットの上体についても歩行中にはアームが環境にある他の物体と触れるのを避けるために、アームに所定の姿勢を取らせておくことは現在の技術水準では必要なことである。アームが環境側の物体と干渉しない自然な姿勢はアームの肘を凡そ90°に曲げた上体で保持することだとされている。この場合にも本発明を肘関節に適用し、肘の関節角度が所望の角度になるように本発明の付勢手段を付加すればよい。
【0060】
次に本発明の要点を同じ制御工学の立場から説明する。膝関節に図9(b)に概念的に示したような関節角度の保持装置がある場合を考えてみる。当該保持装置はバネbで押圧された硬球cと、この硬球cを受け入れるV字型の溝dを外周面上に持つ円柱eとからなり、バネbと硬球cとは大腿リンク側に、前記円柱eは脛リンク側に組付けられているものとすれば、例え上記のモーメントが発生して膝関節を座屈させようとしても、この保持装置が発生する保持力によって関節の相対角度はほとんど影響も受けないことになる。
【0061】
ロボットの関節の制御則は関節の相対角度について、目標とする角度から現在の実際の角度を引いた差分に応じて訂正動作を行うように構成されるのが公知の方法であるから、上記保持力によって目標角度と現在の角度とが一致している限り訂正動作は行われない。つまりエネルギーの消費を伴うことなくロボットは起立姿勢を取ることができることを意味している。また仮に微小な差分が生じていても前記保持力がモータの行うべき訂正動作のトルクの一部または全てを負担するから、結果的にモータは少ないトルクを負担するか、或いは全くトルク負担をしないかのいずれかになり、省エネが図られる。これが本発明の概念の基本である。
【0062】
本発明の実施にあたって付随する問題を次に述べる。上記の説明から分かるとおり、関節角度の目標値と現在値との間には、僅かな差分が生じても、その差分を解消するべくモータには電流が流れ、エネルギーの消費が始まる。付勢手段の発揮する付勢力が前記所望の関節角度において0か、又は著しく小さいものであれば、当該付勢力があるにも係わらず、その効果が低くなる。
【0063】
この問題を解消するには、2つの方法がある。一つは制御的に前記所望の角度の近辺では角度変位に対する不感帯を設ける手法と、もう一つは前記の差分が生じなければモータに電流が流れることがないのであるから、差分を生じにくくする手法である。差分を生じにくくする手段を追加しなければ、本発明の効果は半減する。本発明に課せられた課題の一つは、関節角度が所望の位置に強く保持されるような構造を、軽くコンパクトな形態で提供することである。
【0064】
更にまた、脚関節での前記所望の関節角度の設定に当たっては、制御上の指定角度と機械設計上の所望の角度とが一致する必要がある。なぜならば、起立時の制御プログラムが指定する角度と、当該付勢手段が決める角度との間に微小な偏差が生じている場合を想定するに、モータにはその微小な偏差を解消する方向にトルクを発生させる制御則が働き、結局電流が流れるから、本発明の効果を半減させることになる。
【0065】
この解決方法も前述のように制御上の不感帯を設ける手法でも解決できるが、不感帯を設ければ遊脚期の制御が不正確になると言った別の問題を生み出す。従って本発明に課せられた課題の一つは制御上の指定角度と機構的に設定する指定角度との間の偏差を吸収できる新奇な方法を提案することにある。
【0066】
更にまた、歩行ロボットの脚部関節に本発明を適用しようとする場合に、脚関節の持つ特殊性を考慮しなければならない。脚は地面に着地して体重を支える立脚期と、地面から離れて空中を移行する遊脚期とに別れる。立脚期では体重が関節を座屈させ、曲げようとする方向に働くが、遊脚期には体重のこのような作用はない。
【0067】
言い換えれば、遊脚期の関節にとって前記付勢力は、起立姿勢に関節を伸ばそうとして働くモーメントになるから、関節のモータはこのモーメントに抗して関節を曲げると言う余計な仕事をしなければならない。つまり歩行中に限って本発明の功罪を問えば、効果は相殺されて小さくなる。
【0068】
このようなジレンマを解消するには、本発明の効果を前記所望の角度の近辺に限定し、通常使う角度範囲では実質的に作用しないような構造にする必要がある。これも本発明に課せられた課題の一つである。
【0069】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項記載の発明によれば、付勢手段によって関節角度は特定姿勢角度を保持する方向に付勢されているから、その特定姿勢角度をとるときは指令値と実際の角度との間の差分が実質的に0になる。差分が0になれば図8に示した原理に従ってモータに供給する電流値は0となるので、この姿勢をとる間の消費エネルギーを原理的に0にできる。
【0070】
更に、当該特定姿勢角度から微小量δθ変位した場合を考えるに、その変位δθに比例した大きさの付勢力が復元力として作用し、付勢力がない場合に必要なモータトルクよりも少ないモータトルクでその変位δθを保持できるから、消費エネルギーを低減できる。
【0071】
更に、制御システムが設定している姿勢角度の所望値と付勢手段の決める角度の所望値とが一致するように調節手段を備えている。これによって製作上の誤差による両者の不一致を無くして最大の省エネ効果が得られる。
【0072】
本発明は付勢手段がいずれも物理的な原理に従っており従来の電磁ブレーキなどによる関節ロックがエネルギーの消費を前提に設計されるものとは違い、基本的にエネルギーの消費を伴わない。また、従来の電磁ブレーキ方式を改良して姿勢角度の保持に使おうとすれば、電磁ブレーキそのものが持つ重量・体積が実用化の上で大きな妨げとなるが、本発明に示されたいずれの実施形態でも明らかなように、小型軽量であり、移動ロボットにとって最も忌み嫌う重量増加を最小限に抑えることができる。
【0073】
更に、もし従来の電磁ブレーキ方式を改良して姿勢角度の保持に使おうとすれば、次に動きだすときにブレーキを解除しつつモータのトルクを高めると言う離れ業を行わねばならなくなり、制御が煩雑となるが、本付勢手段はモータ制御に一切の制約を及ぼさないから、極めて自然に次の運動動作に入ることができる。
【0074】
また、当該特定姿勢角度から離れた場所では、この付勢手段は何らの効果も発揮することがなく、従来の関節運動のための制御方法に変更を求めない。このことは従来から蓄積してきた技術体系を変更することなく本発明が適用できることを示しており、その適用範囲を広げるものである。
【0075】
更に、本実施形態では、起立静止時について説明したが、歩行中においても立脚期には膝を真っ直ぐ伸ばしている時間が立脚期の相当な部分を占めるので、体重を支えるのに本発明に基づく付勢手段の付勢力を利用でき、省エネルギーの効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す2足歩行ロボットの骨格を示す斜視図。
【図2】同実施形態のロボットの膝関節部の具体的構成を示す一部断面した正面図。
【図3】同実施形態を示し、図2の矢印A方向から見た図。
【図4】本発明の第2の実施形態を示し、ロボットの膝関節部の具体的構成を示す一部断面した正面図。
【図5】同実施形態を示し、図4の矢印B方向から見た図。
【図6】本発明の第3の実施形態を示し、ロボットの膝関節部の具体的構成を示す一部断面した正面図。
【図7】同実施形態を示し、図6の矢印C−C線に沿う断面図。
【図8】関節駆動制御ブロック図。
【図9】(a)(b)は関節型の移動ロボットが起立時に何故エネルギーを消費するのか、その原理を説明するための図。
【符号の説明】
15…膝関節部
17…大腿リンク
18…脛リンク
27…円筒カム
33…バネ

Claims (6)

  1. 少なくとも第1のリンクと第2のリンクを相対回転可能に結合した関節部を有するロボットの関節装置において、
    前記関節部がモータの駆動力により回転運動するように構成するとともに、前記関節部における前記第2のリンクに、前記第1のリンクに対して相対回動するカムを設け、前記第1のリンクに前記カムの外周部に対して弾性的に押圧力を付与し、前記第1と第2のリンクが所望の姿勢角度になるように付勢する付勢手段を設けたことを特徴とするロボットの関節装置。
  2. 少なくとも第1のリンクと第2のリンクからなる2本の脚を持ち、当該脚を動かすことによって移動を行う形式の歩行ロボットであり、前記関節部を少なくとも一つ当該脚の関節部の中に含むことを特徴とする請求項1に記載のロボットの関節装置。
  3. 前記ロボットが少なくとも1本のアームを持ち、当該アームに少なくとも1つの前記関節部を組み込んだことを特徴とする請求項1に記載のロボットの関節装置。
  4. 前記付勢手段の付勢力は、前記2つのリンクを前記所望の姿勢角度から変位させようとするとき、所定の力以上の力が働くように初期保持力が付与されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のロボットの関節装置。
  5. 前記所望の姿勢角度と、前記付勢手段の付勢力がバランスする角度とが一致しないとき、両者を一致させるための調整手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のロボットの関節装置。
  6. 少なくとも第1のリンクと第2のリンクを相対回転可能に結合した関節部を有するロボットの関節装置において、
    前記関節部がモータの駆動力により回転運動するように構成するとともに、前記関節部における前記第2のリンクに、前記第1のリンクに対して相対回動する第 1 の磁石を設け、前記第1のリンクに前記第 1 の磁石に対して磁気吸引力を発生させ、前記第1と第2のリンクが所望の姿勢角度になるように付勢する第2の磁石を設けたことを特徴とするロボットの関節装置。
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