JP3606628B2 - Smf伝送路を用いた光伝送システム - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、光伝送システムに関し、特にシングルモード光伝送路の波長分散特性を最適に補償する光伝送システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
将来のマルチメディアネットワークを構築するため、さらなる大容量の光通信システムが要求されている。これまでに超大容量化を実現する多重化方式として、時分割(Time−Division Multiplexing:TDM)方式、光領域での時分割多重(Optical Time−Division Multiplexing:OTDM)方式、波長多重(Wavelength−Division−Multiplexing:WDM)方式等の研究が盛んに行われている。
【0003】
かかる方式において使用されるプリアンプ、ポストアンプ及び中継増幅器として1.5μm帶に広い利得帯域を有するエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)が実用段階にある。上記の各種方式の中で、WDM方式は、光レベルでのクロスコネクトや分岐挿入、異種サービスの多重化を行う柔軟な光波ネットワークの実現手段として期待されている。
【0004】
また、WDM方式は、現在世界的に最も普及している既設の1.3μm帯零分散シングルモードファイバ(以下SMF)によるネットワークを用いて、超大容量伝送を行う場合に他の方式と比較して有利である。これは、各光キャリア当たりの伝送速度が低いため、波長分散許容値や光ファイバの非線形効果で制限される光入力パワーの許容値を比較的大きく設定することができるためである。
【0005】
しかし、1波あたり10Gb/s程度以上の高速信号を光信号により伝送する場合は、SMFの波長分散特性あるいは分散特性と非線形効果の相互作用で伝送波形が歪み伝送速度、伝送距離が制限される。
【0006】
ここで、波長分散特性とは、波長依存性を有する屈折率により波長毎に速度が変わり、したがって、波長毎に遅延量が異なるものとなり、この遅延量により、波形歪みを生じる特性をいう。
【0007】
かかる波長分散を抑圧する方法としては、伝送路で発生する分散と逆符号の分散を有する分散補償器を挿入し、伝送路分散を相殺する方法が一般的である。分散補償器としては、▲1▼グレーティングを用いたもの、▲2▼光干渉計を用いたもの、▲3▼光ファイバを用いたもの、等様々な方法が提案されている。
【0008】
また、送信部で予めプリチャープ(ベースバンド信号で変調されている強度信号成分以外に波長分散による広がりを抑圧する様に位相または、周波数変調を意図的に施すこと)をかける方法やSMF中の非線形効果により、パルス圧縮を行い波形を整形する方法等が提案されている。
【0009】
種々の分散補償器の中で、広帯域動作、分散補償量の制御性、安定性の点で優れているものとして分散補償ファイバ(DCF)が有望である。一例として、SMF伝送路を用いた一般的な波長多重(WDM)多中継伝送システムの構成例が図13に示される。
【0010】
図13のシステムは、3中継、16波、70Km×4=280Kmの波長多重伝送(WDM)を行うものである。
【0011】
更に図13において、1はレーザダイオードLDであり、16種のキャリア対応に16個のレーザダイオード(LD)を有する。
【0012】
2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3:以下LNと呼称する)外部変調器であり、それぞれ信号に応じて強度変調された異なるキャリア波長を発光する。
【0013】
光カプラ3では、16個のレーザダイオード(LD)1からのそれぞれ異なる波長の発光を入力し、これを合成して出力する。4は、10:1の分岐比を持つ分岐回路であり、光カプラ3の合波出力の1/10を分岐出力して波長安定化回路5に入力する。
【0014】
波長安定化回路5は、それぞれのキャリア波長の信号が所定の波長に設定されるように、各々のレーザダイオード(LD)1の駆動回路を帰還制御する。
【0015】
更に上記外部変調器(LN)2及び光カプラ3において、それぞれ減衰が生じる。したがって発光レベルを元に戻すためにポストアンプ6が備えられる。ポストアンプ6は、上記したエルビウム添加光ファイバで構成される。
【0016】
更に、7は、例えば、1.3μm帯零分散シングルモードファイバ(以下SMF)である。約70Kmの長さを有する。
【0017】
更に、9は分岐回路であり、光伝送路を送られた光信号は分岐回路9により分岐された光信号は、0.3nmの中心波長を有する帯域フィルタ11を通り、光/電気変換回路12に入力し、電気信号に変換される。
【0018】
更に図13において、分散補償回路8が光伝送路途中に挿入される。分散補償回路8は、分散補償ファイバ(DCF)80、プリアンプ81、ポストアンプ82を有して構成される。
【0019】
尚、図において、1波伝送の場合は、レーザダイオード(LD)1は、一つであり、光カプラ、光選択フィルは除かれる。
【0020】
更に、分散補償ファイバ(DCF)80は、分散の絶対値が大きくSMF7の分散値と反対符号を有して分散補償を与えるものである。
【0021】
ここで、分散補償ファイバ(DCF)80は、分散補償を与えるものであるが、このファイバは本質的にコア径が小さく、非線形屈折率が大きいために通常のSMFや分散シフトファイバに比べ非線形効果が大きい。
【0022】
この場合、顕著に現れる非線形効果は、信号光源が1波長の場合(TDM、OTDM)には、自己位相変調効果(SPM)であり、多波長の場合(WDM)の場合は、自己位相変調効果(SPM)とともに、相互位相変調効果(XPM)である。
【0023】
いずれの場合も信号光波に波長チャープを起こさせるもので伝送波形を歪ませ伝送特性を劣化させる。分散補償ファイバ(DCF)80での非線形効果を低減させる最も簡単な方法は、DCF80の入力パワーを下げることである。
【0024】
しかし、DCF80の入力パワーを下げると、DCF80での損失でSN比が悪くなる。あるいは、SMF7の入力パワーを上げなければならなくなり、SMF7内での非線形効果が顕著になる。
【0025】
いずれにしても分散補償ファイバ(DCF)80の非線形効果がない時に比べると許容入力パワーの範囲、伝送距離、伝送速度が制限される。これによりSMFでの伝送を困難にするという問題がある。
【0026】
更に、前記した分散補償器の種々の形態、送信部でのプリチャープをかける方法やSMF中の非線形効果により、パルス圧縮を行い波形を整形する方法においても、これらの方法を単独で使用する場合は、波形整形が効果的に行われるSMF7への入力パワーのトレランス(余裕幅)が狭いという問題がある。
【0027】
1波を伝送する場合は、波形整形が可能な、SMF7への入力パワーとなるように光増幅器の出力を調整することも可能である。
【0028】
しかし、WDM伝送の場合は、▲1▼光源の光出力パワーや光部品の損失のばらつきが生じ、各チャンネルの出力パワーを一定に保つことが困難であること、▲2▼光増幅器の増幅特性に波長依存性(ゲインチルト)があり、波長が異なると増幅度も異なるため、チャンネル間の光出力にばらつきが発生すること、等の問題があり、WDM信号をSMF伝送路中を安定に伝送するのは困難であった。
【0029】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は先に例えば、電子通信学会、信学技報OCS−94−28(1994─06)に上記の分散補償について最適化の検討を報告している。
【0030】
したがって、本発明の目的は、更なる最適化の検討に基づき、分散補償器8を構成する分散補償ファイバ(DCF)80の非線形効果による影響を考慮して、分散補償量を最適化した光伝送システムを提供することにある。
【0031】
更に、本発明は、SMF7の入力パワーの許容範囲を増大することができる送信部でのプリチャープと受信部での分散補償の最適値を提供することを目的とする。
【0032】
更にまた、本発明の目的は、波長多重光伝送において、送信部でのプリチャープとSMF7の出力側での分散補償を組み合わせることでSMF7の入力パワーの許容範囲を増大することができるシステムを提供することにある。
【0033】
【課題を解決するための手段及び作用】
本発明にしたがう第一の基本的構成は、請求項1に記載され、光波長に送信信号を光強度変調して送出し、光増幅多中継伝送する光伝送システムにおいて、
チャーピングパラーメータαが−0.65〜−1.3に設定された、送信光に光位相変調もしくは光周波数変調する変調手段と、変調手段により変調された光信号を伝送する波長分散値が16〜21ps/nm/kmである伝送路と、伝送路の波長分散を補償する分散補償手段を有し、分散補償手段の入力光パワーが−5dBm以上において、分散補償残量を+500〜+1200ps/nm近傍に設定される。かかる条件において、ペナルティを最小にすることが出来る。
【0034】
また、波長多重伝送システムに向けられた本発明にしたがう、第二の基本的構成は、請求項13に記載され、送信信号を光強度変調して送出する光波長多重伝送システムにおいて、送信部に送信光に位相変調もしくは周波数変調する変調手段と、受信部に伝送路の波長分散を補償する分散補償手段を有し、この変調手段におけるチャーピングパラーメータαと、該分散補償手段における分散補償残量の組み合わせが、想定される多重化の最大波長数で最適値となるように設定される。
【0035】
また具体的には、1.55μmでの分散値が16〜21ps/nm/kmである1.3μm零分散ファイバを伝送路とし、前記変調手段におけるチャーピングパラーメータαが−0.65〜−1.3に設定され、且つ、前記受信部の分散補償手段の分散補償残量が600±300ps/nmに設定される。
【0036】
このように、チャーピングパラーメータαと分散補償残量の組み合わせを最適化することにより、波長多重伝送システムにおいて、想定している全ての波長数が分散補償残量を最適化できる。
【0037】
【実施例】
以下、本発明にしたがう好適な光伝送システムの実施例を説明する。本発明の光伝送システムは、再度の表示になるので図示省略するが、基本的に図13において示したWDM伝送システムの構成と同様である。
【0038】
そして、1波伝送の場合は、図13においてレーザダイオード(LD)1が一つのみであり、カプラ3、8及び帯域フィルタ11が省略される他は同様である。
【0039】
本発明の特徴は、分散補償器8を構成する分散補償ファイバ(DCF)80の非線形効果による影響を新たに考慮して、分散補償量を最適化することにある。したがって本発明者によって見いだした分散補償量の最適化を実現する測定データを専ら用いて本発明の内容を以下に説明する。
【0040】
図1は、DCF入力パワーに対する分散補償残量の最適値の関係を示す図である。具体的には、1波長、伝送速度10Gb/s、300km伝送(3中継、75km×4区間)、αパラメータ(送信部でのプリチャープの方向と量を示す指標)を−1に設定した場合を示している。尚、αパラメータは、本発明の実施例において、−0.65〜−1.3の範囲を含むものである。
【0041】
横軸に分散補償残量が示され、縦軸にペナルテイ(損失)が示される。この分散補償残量とは、300kmのSMFの全分散量は17ps/nm/km×300km=5100ps/nmなので、例えば分散補償残量が+800ps/nmとすると5100−800=4300ps/nmを補償していることを意味している。
【0042】
ここでは分散補償残量は、各中継器と受信部に配置した4箇所の分散補償器80で均等に割り振っているとしている(例えば分散補償残量が+800ps/nmの場合は、各分散補償器の分散補償残量は200ps/nmとしている)。また、SMF入力パワーを+13dBmとし、点線AはDCFの非線形効果が無い時のものである。
【0043】
DCFの非線形効果が有る場合、DCF入力パワーを上げていくとDCFの非線形効果のため最小のペナルティとなる分散補償残量が大きくなっていく。ペナルティが最小となる点を最適値とすると、非線形効果が無い場合(A)は+600ps/nm、非線形効果が有る場合でDCF入力パワーが+3dBmの時(B)は+800ps/nmとなる。
【0044】
DCF入力パワーが+3dBmで分散補償残量を+600ps/nmと設定した場合、DCFの非線形効果により大きなペナルティが発生し伝送不能になるが、+800ps/nmにするとペナルティが無い状態で伝送可能になる。
【0045】
このように本発明にしたがい分散補償残量をDCFの非線形効果を考慮し最適化すると、DCFの非線形効果の影響が無く伝送可能である。また、DCFへの入力パワーが−5dBm以上では、概ね+500〜+1200ps/nmに設定すればよい。
【0046】
更に、本発明にしたがい図1の関係からDCF入力パワーが+3dBmで最も高い受信感度を得るには、分散補償残量は+800ps/nm付近に設定し、受信ペナルティの許容量が1dB以下の場合には、+650〜+1250ps/nm付近に設定する。
【0047】
分散補償残量の設定バラツキ等がある場合には設定トレランス(+650〜+1250ps/nm)の中心(+950ps/nm)付近に設定することが好ましい。
【0048】
図2は、1波伝送について、SMF入力パワーとペナルティの関係を示す図であり、DCF入力パワーを+3dBmとしSMF入力パワー(横軸)を変化させた時の測定値を示す。
【0049】
分散補償残量が+700〜+1200ps/nm付近ではSMF入力パワーの広い範囲でペナルティが無く伝送できることが分かる。
【0050】
したがって、本発明にしたがい図1、図2から広いSMF入力パワーの範囲およびDCF入力パワーの範囲で小さなペナルティで伝送させるためには+700〜+1200ps/nmに設定すればよい。
【0051】
次に波長多重伝送(WDM)の時の検討結果を図3に示す。即ち、図3は16波伝送について、DCF入力パワーに対する分散補償残量の最適値の関係を示す図である。
【0052】
図3において、横軸に分散補償残量、縦軸にペナルティを示し、図1の構成で16波、チャンネル間隔0.8nm、伝送速度10Gb/s(1波)、300km伝送(3中継75km×4)、αパラメータを−1に設定し、全てのチャンネルの変調信号は同一とした場合を示している。
【0053】
SMF入力パワーは相互位相変調(XPM)の影響が顕著になるように+13dBm/chと高くした。また、点線Aは分散補償器(DCF)の非線形効果が無い時のものである。
【0054】
DCFの非線形効果が有る場合、DCF入力パワーを上げていくとDCFの非線形効果のため最小のペナルティとなる分散補償残量は大きくなっていく(図のB参照)。
【0055】
ペナルティが最小となる点を最適値とすると、非線形効果が無い場合は+600ps/nm、有る場合でDCF入力パワーが+3dBm/chの時(B)は+800ps/nm付近となる。
【0056】
DCF入力パワーが+3dBm/chの時、分散補償残量を+600ps/nmと設定すると大きなペナルティが発生し伝送不能となるが、+800ps/nmとする小さなペナルティで伝送可能となる。
【0057】
このように、1波伝送時と比べ相互位相変調(XPM)の影響が付加されるため、最適値でも若干ペナルティはあるが、本発明にしたがい分散補償残量をDCFの非線形効果を考慮し最適化すると、DCFの非線形効果の影響は大きく抑圧される。
【0058】
DCFへの入力パワーが−5dBm以上では、概ね+500〜+900ps/nmに設定する。また、DCF入力パワーが0dBm/chで受信ペナルティの許容値を1dB以下と仮定すると+600〜+900ps/nm付近に全チャンネルを設定する。この時、全チャンネル一括補償してもよいし、各チャンネルあるいは複数のチャンネル毎に補償してもよい。
【0059】
また、波長多重信号の中心付近のチャンネルを設定トレランス(+600〜+900ps/nm)の中心(+750ps/nm)付近に設定すれば全チャンネルに対して大きなペナルティを払うことなく伝送可能となる。
【0060】
図4は、SMF入力パワーとペナルティの関係測定値を示す図であり、具体的には、DCF入力パワーを0dBm/chとしSMF入力パワーを変化させた時の検討結果である。
【0061】
分散補償残量が+700〜+900ps/nmではSMF入力パワーの広い範囲でペナルティが無く伝送できることが分かる。したがって、本発明にしたがい図3、図4の関係から広いSMF入力パワーの範囲およびDCF入力パワーの範囲で小さなペナルティで伝送させるためには+700〜+900ps/nmに設定する。
【0062】
図5は、各波長数に対する分散補償残量の最適値の関係を示す図であり、波長数が1〜16波の時の検討結果を示す。横軸は分散補償残量、縦軸はペナルティである。図より波長数により相互位相変調(XPM)による影響が変化し、最小のペナルティとなる分散補償残量は変化することが理解出来る。
【0063】
4(C)、8波(B)の場合は+880ps/nm付近、16波(A)の場合は+800ps/nm付近が最小のペナルティとなる。したがって、本発明にしたがい波長数に応じて分散補償残量を設定することが好ましい。
【0064】
将来伝送容量の拡大等で波長数が変化すると予想される場合は、想定される最大の波長数、あるいは全ての波長数で大きなペナルティの無い値に設定する。16波が最大波長数とすると+800ps/nm付近が適当な値となる。
【0065】
ここで、波長多重伝送時の波形劣化は、1波伝送時の非線形効果である自己位相変調(SPM)効果に相互位相変調(XPM)効果が加わって引き起こされる。XPMは、各チャンネルの変調パターンの相関関係に依存する。
【0066】
最もXPMの影響が大きい状態は、光パワーが大きい伝送路の入口付近で各チャンネルの信号が同時に発光/非発光する状態、即ち同一の変調パターンが伝送路に入射する場合と考えられる。
【0067】
従って、最適分散補償残量を決定する場合は、各チャンネルが同時に変調された場合を想定して検討すれば良い。図6は、分散補償残量の最適値の変調パターンの依存性を示す図であり、16波伝送の場合の変調パターン依存性の検討結果を示す。
【0068】
相互位相変調(XPM)の影響を顕著に示すため、SMF入力パターンは+10dBm/ch、DCF入力パワーは0dBm/chと高くしている。
【0069】
変調パターンは各チャンネル同一の場合(I)、受信チャンネル以外は反転の場合(II)の2つとした。受信チャンネル以外は反転の変調パターンは最もXPMの影響が小さい場合と考えられる。
【0070】
図6より各チャンネル同一の場合(I)、トレランスが小さく最適値を得やすいことが分かる。また、ランダムの場合(II)でも同じ値が得られるため、最適化は可能であるし、同一、反転、ランダムの全ての場合で最適化してもよい。
【0071】
次に波長多重伝送システムにおいて、送信部におけるプリチャープとSMFの出力側における分散補償を組み合わせることでSMFの入力パワーの許容範囲を増大する本発明の実施例について説明する。
【0072】
図7は、送信部のプリチャープと受信部でのSMF7の出力側分散補償を組み合わせた場合のSMF入力パワー(横軸)と受信ペナルティ(縦軸)の関係を示す図である。
【0073】
この図は、10Gb/sの1波を180kmのSMF7で無中継伝送した場合のαパラメータ(送信部でのプリチャープの方向と量を示す指標)を−1に設定した場合を示している。
【0074】
分散補償残量(Residual dipersion)が+600ps/nm(180kmのSMF7の全分散量は18ps/nm/km×180km=3240ps/nmなので、残量が+600ps/nmということは、2640ps/nm/kmを補償していることを意味する。)の場合に、非常に広いSMF入力パワーの許容値が得られていることが理解出来る。
【0075】
この様に本発明にしたがい上記の2種類の手段(即ち、プリチャープと分散補償残量)を組み合わせることは、WDM伝送方式において有効な分散補償手段であることが理解出来る。
【0076】
但し、1波を伝送する場合と複数の波長を使用したWDM伝送時では、上記の2種類のパラメータの最適値が異なる。また、多重化する波長多重数によってもこれらのパラメータの最適値は異なる。これは、1波伝送時の非線形効果である自己位相変調に加え、WDM伝送時には、相互依存変調の効果も受けるためである。
【0077】
図8は、無中継伝送実施例の分散補償残量の最適値の関係を示す図であり、無中継のWDM伝送時の本発明にしたがう最適分散補償残量を従来例との比較において示す。
【0078】
1波の場合は、図7に示した様に+600ps/nm/kmが最適分散補償残量である。しかし、WDM伝送の場合には、別の値に最適値がある。
【0079】
即ち、図8は、分散補償残量を横軸にし、本発明者により見いだされた多重化する波長数とペナルティ(縦軸)の関係を示している。このペナルティを与える分散補償残量が所定値(例えば1dB)以下である時の残留分散値の余裕幅(トレランス)は、多重化する波長数が大きくなる程狭くなることが図より明かである。
【0080】
したがって、図8に示した最大伝送波長数時(16波:A)の最適分散補償残量に合わせて分散補償量を設定すれば、それ以下の波長数および1波伝送時においても殆どペナルティの無い状態で伝送可能である。
【0081】
図8の場合では、最大波長数16(A)の場合、+400ps/nmが最適分散補償残量である。8波(B)、4波(C)の場合の残留分散値のトレランスは16波の場合より広い。このため16波(A)時に最適化すると8波及び4波伝送時でも殆ど受信ペナルティの無い状態で伝送することが可能である。
【0082】
図9は、分散補償残量と16波で最適化した場合のSMF入力パワーと受信ペナルティの関係を示す図であり、分散補償残量を16波〔図8の(A)〕時の最適値である+400ps/nmに設定した場合のSMF入力パワー(横軸)と受信ペナルティ(縦軸)の関係を示す。
【0083】
16波(A)の場合には+13dBm/chを越えたあたりから受信ペナルティの劣化が発生している。また、1波(D)伝送時では+18dBm程度から劣化が始まっている。
【0084】
図10は、分散補償残量と1波で最適化した場合のSMF入力パワーと受信ペナルティの関係を示す図である。比較のため図10においては、1波の最適分散補償残量である+600ps/nmの場合(図7参照)のSMF入力パワー(横軸)と受信ペナルティ(縦軸)の関係を示す。
【0085】
この場合、16波(A)伝送時では、約+10dBm/chから受信ペナルティの劣化が起こり始めており、16波で最適化した+400ps/nmにくらべ、約3dB低いパワーから劣化し始めている。
【0086】
8波(B)、4波(C)の場合でも16波(A)で最適化した場合(図9参照)の方が、SMFの入力パワーの上限が高くなっており、本発明による改善効果は明らかである。なお、1波伝送時は分散補償残量のトレランスが広いため、図9、図10ともほぼ同じ入力パワーから劣化している。
【0087】
次に、光増幅器を用いた多中継伝送時の分散補償残量(横軸)と受信ペナルティ(縦軸)の関係の測定値を図11に示す。この図は、波長間隔0.8nmで1〜16波の信号を75kmの中継間隔で300km伝送した場合の測定結果である。
【0088】
プリチャープパラメータαは−1であり、横軸の分散補償残量は、各中継器と受信部に配置された分散補償器で均等に割り振っている(例えば分散補償残量が+800ps/nmの場合は、3つの中継器と受信部の分散補償残量は各200ps/nmずつとしている)。
【0089】
この図では、1波(D)伝送時の最適分散補償残量は+800ps/nm付近にある。また、16波(A)伝送時の最適分散補償残量は+650ps/nmである。分散補償残量をこの+650ps/nmの値に設定すると、これより波長数が少ない場合においても受信ペナルティをほぼ最小の状態に保つことが可能となる。
【0090】
以上の様に、想定している最大波長数で分散補償残量を最適化するという本発明の方式を採用すると、これより少ない波長数を伝送する場合でも受信ペナルティをほぼ最小の状態に保つことが可能である。更にこれは、無中継伝送時、光増幅多中継伝送時を問わず当てはまるものであることがわかる。
【0091】
波長多重伝送時の波形劣化は、光ファイバ中の非線形効果により主として生じる。波長多重伝送時には、1波伝送時の非線形効果である自己位相変調(SPM)に加え、相互依存変調(XPM)の効果も影響する。
【0092】
相互依存変調(XPM)は、既に説明したように各チャンネルの光パワーや各チャンネルの変調パターンに依存すると考えられるが、最も影響が大きいのは、光パワーが最も大きい伝送路の入口で各チャンネルの信号が同時に発光/非発光する状態、即ち変調パターンが同一の場合で伝送路に入射する場合と考えられる。
【0093】
従って、本発明の波長多重伝送システムにおいても上記の最適分散補償残量を決定する場合は、各チャンネルが同時に変調された場合を想定して検討すれば良い。変調ビットシーケンスと受信ペナルティの関係即ち、各チャンネル間の変調パターンの依存性の検討結果を図12に示す。
【0094】
この図12は、4〜16波伝送時において受信チャンネル(中央チャンネル)に対して残りの全てのチャンネルの変調ビットシーケンスを同時にずらした場合(横軸)のパワーペナルティ(縦軸)の測定例である。相互移相変調(XPM)の影響を顕著に示すため、光パワーは+15dBm/ch.と高くしている。
【0095】
また、16波(A)伝送時にランダムにビットシーケンスをずらした場合の測定値も示している。横軸はビットシフト量を示しており、0は全てのチャンネルの信号シーケンスが一致している場合を示している。4波(C)伝送時ではXPMの影響が小さく、ペナルティの変化は小さい。8波(B)、16波(A)伝送時ではXPMの影響が現れる。
【0096】
図より明らかなように、全チャンネルの信号シーケンスが一致している場合(横軸のビットシフト量が0の場合)が最悪であり、16波(A)伝送時では約10dBのペナルティを生じる。また、数タイムスロットずらすとペナルティは一定の値に収束することが理解出来る。
【0097】
しかし、16波伝送時にランダムにビットシーケンスをずらした場合(AA)では、パワーペナルティは、−1dB〜+4dBの間に分布し、パワーペナルティはビットシーケンスに依存することが分かる。
【0098】
このように、パワーペナルティはビットシーケンスに依存するが、変調パターンが同一の場合の場合が最悪評価になることを本発明者は、測定により見いだした。従って、WDM伝送システムの非線形効果に対する設計を行う場合は、各チャンネルが同一信号で変調されていることを想定すればよい。
【0099】
陸上の光伝送システムでは、中継間隔は、定まっておらずルートの都合により、最大中継伝送距離より短い範囲で中継間隔が変化する。このため、各中継区間での分散補償量(あるいは、分散補償残量)も中継距離に合わせて最適化する必要がある。
【0100】
このために、分散補償器は分散補償量が異なる幾つかのユニットを組み合わせることで所望の分散補償量を得る様な構成が望ましい。組み合わせる各分散補償ユニットの補償量は等比数列的に変化させたものが少ないユニットで全ての分散量を補償するのに都合がよい。
【0101】
一例として、総伝送路長を最大280kmとし、最大75km毎に3中継するシステムを考える。各区間毎の分散補償残量を最適分散補償残量から±100ps/nm以内になるように設定することを仮定する。伝送路の分散値を18ps/nm/kmとすると以下に示す分散補償ユニットを組み合わせることで対応可能である。
【0102】
すなわち、想定している各区間毎の分散許容偏差(全幅)を最小の分散補償量とし、公比2の等比率数列で分散補償器を用意することが分散補償器の種類を最小にする観点からは良いことになる。表1は、かかる観点からの伝送距離と分散補償器の分散補償残量の関係を示す図である。
【0103】
【表1】
【0104】
【発明の効果】
以上実施例にしたがい説明したように、本発明により、分散補償手段の非線形効果による影響を抑圧することができ、超長距離大容量の安定な伝送が可能になる。
【0105】
また、波長多重伝送システムにおいて、想定している全ての波長数が分散補償残量を最適化でき、分散補償ユニットの種類を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】DCF入力パワーに対する分散補償残量の最適値の関係を示す図である。
【図2】1波伝送について、SMF入力パワーとペナルティの関係を示す図である。
【図3】16波伝送について、DCF入力パワーに対する分散補償残量の最適値の関係を示す図である。
【図4】SMF入力パワーとペナルティの関係測定値を示す図である。
【図5】各波長数に対する分散補償残量の最適値の関係を示す図である。
【図6】分散補償残量の最適値の変調パターンの依存性を示す図である。
【図7】プリチャープと受信側での分散補償を組み合わせた場合のSMF入力パワーと受信ペナルティの関係を示す図である。
【図8】無中継伝送実施例の分散補償残量の最適値の関係を示す図である。
【図9】分散補償残量と16波で最適化した場合のSMF入力パワーと受信ペナルティの関係を示す図である。
【図10】分散補償残量と1波で最適化した場合のSMF入力パワーと受信ペナルティの関係を示す図である。
【図11】光増幅器を用いた多中継伝送時の分散補償残量と受信ペナルティの関係を示す図である。
【図12】変調ビットシーケンスと受信ペナルティの関係を示す図である。
【図13】一般的な波長多重伝送システム構成を示す図である。
【符号の説明】
1 レーザダイオード
2 ニオブ酸リチウム外部変調器
3、9 カプラ
4 分岐回路
5 波長安定化回路
10、81 プリアンプ
6、82 ポストアンプ
7 シングルモードファイバ(SMF)
8 分散補償回路
80 DCF
11 帯域フィルタ
12 光/電気変換回路
Claims (20)
- 光波長に送信信号を光強度変調して送出し、光増幅多中継伝送する光伝送システムにおいて、
チャーピングパラーメータαが−0.65〜−1.3に設定された、送信光に光位相変調もしくは光周波数変調する変調手段と、
該変調手段により変調された光信号を伝送する波長分散値が16〜21ps/nm/kmである伝送路と、
該伝送路の波長分散を補償する分散補償手段を有し、
該分散補償手段の入力光パワーが−5dBm以上において、分散補償残量を+500〜+1200ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光伝送システム。 - 請求項1において、
前記伝送路への光入力パワーが0〜+15dBmにおいて、前記分散補償残量を+700〜+1200ps/nmに設定されたことを特徴とする光伝送システム。 - 請求項1または2において、
前記分散補償手段は、送信部、伝送路途中、又は受信部に置かれ、その入力光パワーを−3、0、+3dBm近傍とする時、前記分散補償残量が該入力光パワーに対応して+700、+700、+800ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光伝送システム。 - 請求項1または2において、
前記分散補償手段の入力光パワーを−3、0、+3dBm近傍とする時、前記分散補償残量が該入力光パワーに対応して+500〜+1200、+550〜+1250、+650〜+1250ps/nmの範囲に設定されたとを特徴とする光伝送システム。 - 請求項1または2において、
前記分散補償手段の入力光パワーを−3、0、+3dBm近傍とする時、前記分散補償残量が該入力光パワーに対応して+850、+900、+950ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光伝送システム。 - 送信信号を光強度変調して送出し光増幅多中継伝送する光波長多重伝送システムにおいて、
チャーピングパラーメータαが−0.65〜−1.3に設定された、送信光に光位相変調もしくは光周波数変調する変調手段と、
該変調手段により変調された光信号を伝送する波長分散値が16〜21ps/nm/kmである伝送路と、
該伝送路の波長分散を補償する分散補償手段を有し、
該分散補償手段の入力光パワーが−5dBm以上において、分散補償残量を+500〜+900ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項6において、
前記伝送路への光入力パワーが0〜+15dBm/chとする時、前記分散補償残量が該入力光パワーに対応して+700〜+900ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項6または7において、
信号光の波長数を4、8、16波とする時、前記分散補償残量が該波長数に対応して+880、+880、+800ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項6または7において、
信号光の波長数が1〜16波とする時、、前記分散補償残量が+800ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項6において、
全チャンネルの前記分散補償残量が+500〜+900ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項7において、
全チャンネルの前記分散補償残量が+700〜+900ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項6において、
中心付近のチャンネルの前記分散補償残量が+700〜+800ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項7において、
中心付近のチャンネルの前記分散補償残量が+800ps/nm近傍に設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 送信信号を光強度変調して送出する光波長多重伝送システムにおいて、
送信部に送信光に位相変調もしくは周波数変調する変調手段と、
受信部に伝送路の波長分散を補償する分散補償手段を有し、
該変調手段におけるチャーピングパラーメータαと、該分散補償手段における分散補償残量の組み合わせが、想定される多重化の最大波長数で最適値となるように設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項14において、
前記変調手段及び分散補償手段の設定値を最適化する際に、各チャンネルの信号を同一信号として送信させて行うことを特徴とした光波長多重伝送システム。 - 請求項14または15において、
光信号を伝送する分散値が16〜21ps/nm/kmである光ファイバを伝送路とし、
前記変調手段におけるチャーピングパラーメータαが−0.65〜−1.3に設定され、且つ、前記受信部の分散補償手段の分散補償残量が600±300ps/nmに設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項14または15において、
光信号を伝送する分散値が16〜21ps/nm/kmである光ファイバを伝送路とし、
前記変調手段におけるチャーピングパラーメータαが−0.65〜−1.3に設定され、且つ、
前記受信部の分散補償手段の分散補償残量が400±100ps/nmに設定されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項1乃至17において、
前記各光増幅中継区間及び前記受信部に置かれる分散補償手段は、異なる分散量を持つ複数の分散補償ユニットから構成され、該分散補償ユニットの組み合わせにより最適な分散補償量が選択されたことを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項18において、
前記伝送路の各中継区間に許容される最大分散補償残量を前記分散補償手段の最小値(初項)とし、公比を2とする間隔で分散値を与え、
該伝送路の分散値に合わせて最適な分散補償量が選択されることを特徴とする光波長多重伝送システム。 - 請求項18、19において、
光増幅中継区間に置かれる分散補償手段による分散補償の不完全量が、受信部もしくは送信部に別途置かれる分散補償手段で補償されることを特徴とする光波長多重伝送システム。
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