JP3605484B2 - 真空誘導溶解炉の炉内焼成方法およびその装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属精錬用高周波誘導溶解炉に関し、とくに高純度の金属を溶製しようとするときに問題となる酸素や水蒸気による酸化を防ぐために、精錬に先立ち炉内を焼成する方法およびこの方法の実施に用いる装置についての提案である。
【0002】
【従来の技術】
近年、高純度の金属・合金を真空誘導溶解炉を使って精錬する技術の研究が進んでいる。その真空誘導溶解炉の構造は、内部に高周波誘導溶解式るつぼ、すなわち、高周波誘導加熱式るつぼを収容したものが一般的である。
【0003】
かかるるつぼの多くは、アルミナやマグネシア, カルシアの如き耐火物製のるつぼ (炉本体) と、その外側に所定の間隔をおいて捲回配設した誘導加熱コイルとで構成されており、この耐火物製るつぼ内の上記コイルに高周波電流を通電して、るつぼ内被溶解金属中を流れる誘導渦電流と該金属の抵抗とによって、これを溶解するようになっている。
【0004】
図1は、高純度金属・合金を精錬する際に用いられる高周波真空誘導溶解装置の概略を示すものである。この装置は、真空容器101 内に耐火物製るつぼ102 を配設し、このるつぼ102 のまわりを包囲するように配設した高周波誘導加熱コイル103 を使ってるつぼ内被溶解金属を真空誘導加熱するものである。この真空誘導溶解装置において、真空容器101 内に配設されているるつぼ102 は、一般に、金属酸化物 (Al, MgO, CaO など) を成形焼結したものであり、このるつぼ102 の外側の誘導加熱コイル103 に高周波電流を通電することにより、このるつぼ102 内の材料 (金属・合金) を誘導加熱して溶解するようになっている。なお、この誘導加熱コイル103 は、水冷銅パイプの外側をアスベストテープやガラステープにて絶縁した構造を有し、水冷ケーブル104 を介して外部の高周波電源105 からの高周波電流を通電できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記した従来装置, とくに耐火物製るつぼによって、高純度金属・合金を真空精錬しようとすると、このるつぼ表面からマグネシアやアルミナのような無機化合物が被溶解金属溶湯中へ溶出し、場合によってはかえって不純物濃度が上がるという問題点があった。このような現象は、とくに高純度の金属・合金を真空精錬しようとする場合に不可避に起こり、むしろ元の被溶解材料の純度さえ維持できないという問題点があった。
【0006】
そこで、発明者らは、耐火物製るつぼに代えて金属製るつぼに着目した。それは、るつぼ本体が金属であれば、前述の不純物やガスの発生がなく高純度の金属・合金を溶解し精錬するのに好都合だからである。ただし、るつぼ本体をたとえば、銅のような金属で製作するには、▲1▼るつぼの冷却が必要になること、▲2▼二次側の誘導電流が金属製るつぼ壁に集中することで被溶解金属に電磁場を形成することができず誘導損失を誘発すること、そして▲3▼炉内壁やるつぼあるいはコイルやケーブル等の表面から水分が発生して、HO, O リッチな雰囲気となり、金属の汚染を招く、という問題があった。
【0007】
これらの問題点について発明者らは、▲1▼については、るつぼ本体を水冷ジャケット構造にすることで対処することとし、▲2▼については、るつぼの周方向の複数個所に絶縁材を介挿して、るつぼ内被溶解金属に電磁界を生じさせて加熱できるようにした。即ち、まずるつぼ壁の円周方向を分割して複数の柱状セグメントとし、かつ各セグメント相互間にはスリットを設け、絶縁材を介在させる構造として対処できることがわかった。
【0008】
しかしながら、前記▲2▼については問題ないとしても、前記▲1▼の構造については効果的な冷却手段が必要であり、▲3▼の問題については効果的な炉内焼成手段の確立が必要であることがわかった。
【0009】
本発明の目的は、高純度金属・合金を溶製するのに適した真空誘導溶解炉の炉内焼成方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、水蒸気や酸素, 一酸化炭素, ガスなどの発生の少ない溶解炉の焼成方法およびその装置を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、焼成のための加熱構造, 制御方法が容易で金属の汚染の少ない焼成技術を提案することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を実現するべく鋭意研究した結果、上記課題解決の手段として、発明者らは、下記の要旨構成にかかる焼成方法とこの方法の実施に用いる装置を開発した。
即ち、本発明は、真空容器と、その内部に配設した誘導加熱式金属製るつぼ、および外部に配設した温水供給装置にて構成された真空誘導溶解炉の炉内焼成に当たり、通水可能な二重ジャケット構造である真空容器のジャケット内,金属製るつぼおよびこのるつぼに付帯して設けた誘導加熱コイルの各通水空間内に、上記温水供給装置から、炉内焼成時には高温水を、るつぼによる被溶解材料誘導加熱時には低温水を循環供給してこれらを加熱または冷却すると共に、前記るつぼと前記誘導加熱コイルの通水空間内に供給する循環水については、それの高温水から低温水あるいは低温水から高温水への切替え時に、配管内に圧縮空気を導入して管内の残水を排出することにより、溶解炉内の焼成を行うことを特徴とする真空誘導溶解炉の炉内焼成方法である。
【0011】
本発明において焼成は、循環させる温水の温度を60℃以上に保持することによって行うことを特徴とする。
【0012】
また本発明は、上記の方法の実施において用いる装置として、真空容器と、その内部に配設した誘導加熱式金属製るつぼおよび外部に配設した温水供給装置にて構成された真空誘導溶解炉の炉内焼成装置であって、上記真空容器を通水可能な二重ジャケット構造とし、金属製るつぼおよびその外側にスパイラル状に配設した誘導加熱コイルにはそれぞれ通水空間を設け、前記ジャケットおよび前記通水空間と温水供給装置とを高温水もしくは低温水を通水する配管にて接続すると共に、該金属製るつぼと誘導加熱コイルの各通水空間にはさらに圧縮空気配管と通水配管とを切換え可能に接続してなることを特徴とする真空誘導溶解炉の炉内焼成装置を開発した。
【0013】
本発明において、金属製るつぼが、円周方向を複数に分割して得られる各セグメントの相互間に絶縁材を介挿して側部としたものであることを特徴とする。
本発明において、温水供給装置は、内部にヒーターを収容すると共に、側壁が冷却水を通水できる水冷ジャケット構造を有することを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
図2は、本発明にかかる炉内焼成装置の好適実施形態の一例を示すものである。
この装置は、主として金属精錬用高周波誘導溶解用るつぼ炉に用いる真空容器1と、この容器内部に配設される誘導加熱式金属製るつぼ2と、この容器外部に配設される温水供給装置3とから構成されている。
【0015】
前記真空容器1は、器壁全体が通水ジャケツト1aとなっている2重壁構造からなり、その通水ジャケットの内部には温水供給装置3からの温水 (≧60℃) が循環供給される。
このように、真空容器1の外壁を二重壁ジャケット構造とし、その通水ジャケット1a内に温水を流すことで炉内焼成を行うようにした理由は、以下の考え方に基づく。即ち、この種の焼成 (ベーキング) において重要なことは、全体を一様に加熱することである。そのためには、このような2重ジャケット構造とすることが最適である。それは、もし加熱が一様でないと、温度の低い部分の脱ガスができないばかりか、他の場所で放出したガスがその部分に再吸着することにもなりかねないからである。
【0016】
前記高周波誘導溶解用るつぼ炉2は、前記真空容器1内に配設されるものであって、るつぼ本体2aおよびこのるつぼ本体の周囲に巻回配設された誘導加熱コイル2bはともに、通水空間を有する構造からなり、これらの通水空間内には温水供給装置3からの温水 (≧60℃) もしくは冷水、または圧縮空気を、それぞれの使用目的に応じて循環供給する。
なお、このるつぼ本体2aは、水冷式金属製であり、円周方向が複数に分割されていると共に、その分割位置に絶縁材を介挿した構造として、被溶解金属に電磁場を形成しやすく工夫したものを用いることが好ましい。
【0017】
前記温水供給装置3は、温水タンク3aとその外側 (側壁部) を囲む冷水タンク3bとからなる同心環状の2重構造で構成されており、その温水タンク3a内には温水 (ただし、60℃を超える温水では管路内にカルシウムの沈積が起きるので、工業用水ではなく純水を用いることが好ましい) が収容される。その温水中にはこれを所定の温度に加熱保持するためのヒータ4が配設してあり、このヒーター4には熱電対5および温度調節器6が取付けてある。なお、図示の7はポンプ、8, 8′は温水配管、9と10は温水配管8′中の循環温水の温度監視用の熱電対, 温度表示器、11は温水系圧力の監視のための圧力計である。
【0018】
なお、前記温水供給装置3は、循環系がクローズドシステムによって構成されており、これを温水回路をクローズにしておくことで 100℃以上の高い温度を確保して、ベーキング効率を高める上で有効に作用する。ただし、通常の湯沸器のような開放型のものを使用してもよいが、高い温度の熱水が得られにくいという問題点が残る。
【0019】
前述した炉内焼成装置は、真空容器1内部装置品や器内壁の焼成により水分を除去するために用いられるものであり、そのために、上記真空容器1の温水ジャケット1内に温水供給装置3からの温水が温水配管8′を通じて供給され、該真空容器1内を所定の温度(max 120℃位まで) にする。
ただし、max120℃としたのは、この時の蒸気圧が1.95kgf/cmとなり、これに供給ポンプの押込圧約2kgf/cmを加えた3.95kgf/cmが真空容器1に加わることになり、通常の真空容器ではこのあたりが実用的な限度である。
【0020】
これにより真空容器1の内表面あるいは内部装置品 (るつぼ, コイル) に吸着していたガス(HOなど) が放出される。この間、真空容器1は図示していない真空ポンプで排気を行い、離脱した酸化性ガスを排出する (脱ガス) 。十分に脱ガスが行われた後、ヒータ4への通電を止める。そして、温水供給装置3の冷水タンク3bに冷却水を通水することで、温水の温度を下げ、真空容器1の冷却を行うことで、該真空容器1内表面のガス放出がおさまり、ひいては超高真空を得ることができるようになる。その後、誘導加熱式るつぼ2で溶解を行うことで、超高真空下での金属の溶解精錬を実現する。
【0021】
なお、真空容器1を単に温水で加熱し、更にるつぼ2を焼成する方法としては、次のような方法も考えられるが、種々の問題点が残る。
(1) 真空容器1を焼成している間、るつぼ2の通水空間に流している冷却水を止め、このるつぼ2を加熱された容器1の輻射熱で昇温する方法がある。しかし、この方法では、るつぼ2の方は真空容器1に比べて昇温速度がかなり遅くなり、該容器1の脱ガスが済んだころに、るつぼ2が所望の温度に到達するようなことになりかねない。しかも、容器1に比べ、るつぼ2の到達する温度は低く、十分な脱ガスができない。
(2) なお、温水回路8をるつぼ2にも接続する方法が考えられるが、溶解時に数百kWの冷却が必要となるため、新たに温水回路にこの容量に間に合う冷却装置をつける必要が生じる。
(3) 上記(1), (2)の方法では、材料に吸着している水分を十分に除去することができない。
【0022】
そこで、発明者らは、真空容器1の脱ガスと同時にるつぼ2の脱ガスをもでき、しかも、特別な冷却装置を必要とせず、真空容器1内の焼成時には温水回路を接続し、るつぼの誘導溶解時には冷却水を接続し、真空容器1とるつぼ2の焼成時の誘導加熱により被溶解材料 (金属) の焼成をも行うことのできる方法と装置の開発につき検討した。
【0023】
そのために本発明では、真空容器1, るつぼ2aの誘導加熱コイル2bと前記温水供給装置3とを、温水配管8, 8′にて接続すると共に、るつぼ2aおよび誘導加熱コイル2bについては同時に冷却水配管12と置換ガス配管13ともそれぞれバルブを介して接続し、装置内水蒸気の排出を目的とする焼成時には温水を供給し、一方、るつぼ2a内被溶解金属を加熱するときは、このるつぼ2aとコイル2bとには冷却水を供給し、とくにその温水と冷却水との切り換え時に、管路およびそれぞれの通水空間内に圧縮空気を導入して、温水, 冷却水の追い出しを図って置換を迅速に行うようにした。
【0024】
即ち、溶解に先立つ装置内乾燥, 焼成時には、バルブV,Vを開き、バルブV, V, Vを閉じることにより、温水供給装置からの温水を真空容器1, るつぼ2およびコイル2bに供給すると同時に真空排気を行って脱ガスする。その後、脱ガスが完了したら、ヒーター4による加熱を停止すると同時に温水供給装置3の冷水タンク3b中に冷却水を導入して温水タンク3a内の温水を冷却し、温度が低下したらその温水 (≦60℃の冷水) を真空容器1の通水ジャケット1a内に供給する。
【0025】
次に、温水配管8, 8′中のバルブV,Vを閉じ、バルブV, VおよびVを開いてるつぼ2aとコイル2bの通水空間2c,2d内に圧縮空気を送り込んで管内の残水を温水タンク3a内に回収排出し、その後、バルブVを閉じバルブVを開いて、るつぼ2aおよびコイル2bの該通水空間2c,2d中に冷却水 (工業用水) を導入してこれらを冷却する。
そして、コイル2bに高周波電圧を印加して、るつぼ2a内被溶解金属を誘導加熱して溶解する。
【0026】
その後、次の焼成を開始する前には、バルブVを閉じると共にVを開けて、圧縮空気でるつぼとコイルの通水空間内の冷却水 (工業用水) を十分追い出した後、バルブVを閉じ、さらにバルブVを閉じた後、バルブV,Vを開けて再び温水を通水する。このような処理によって温水 (純水) と工業用水とを切換え通水することで、焼成と溶解を行う。
なお、温水は純水あるいは高温時にカルシウムなどの沈着が起こらないものを使用することが好ましいが、上述の如き切換え作業時、工業用水との混合は最小限に抑えることが必要である。また、温水タンク3aへの補水が最小になるよう、圧縮空気による追い出しを行うが、これは必ずしも必要な作業ではない。
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、るつぼ2aやコイル2bのような冷却水が流れる部分にも温水を通水することができるので、装置全体を極めて均一な温度に焼成することが可能であり、このような構成は温水を用いた焼成には最適である。
【0028】
【発明の効果】
かくして本発明によれば、真空容器の脱ガス時にこの装置全体の脱ガスが同時に行える。しかも、特別な冷却装置を必要とせず、溶解を行いかつ温水により全体を均一に焼成することができ、水冷金属るつぼによる溶解炉の焼成法としては最適な方法が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】真空誘導溶解装置の略線図である。
【図2】本発明にかかる真空誘導溶解装置の断面模式図である。
【図3】るつぼ周辺部の詳細を示す断面図である。
【符号の説明】
1 真空容器
2 るつぼ
2a るつぼ本体
2b 誘導加熱コイル
3 温水供給装置
4 ヒーター
5 熱電対
6 温度調節器
7 ポンプ
8, 8′ 温水配管
9 熱電対
10 温度表示器
11 圧力計

Claims (5)

  1. 真空容器と、その内部に配設した誘導加熱式金属製るつぼ、および外部に配設した温水供給装置にて構成された真空誘導溶解炉の炉内焼成に当たり、通水可能な二重ジャケット構造である真空容器のジャケット内,金属製るつぼおよびこのるつぼに付帯して設けた誘導加熱コイルの各通水空間内に、上記温水供給装置から、炉内焼成時には高温水を、るつぼによる被溶解材料誘導加熱時には低温水を循環供給してこれらを加熱または冷却すると共に、前記るつぼと前記誘導加熱コイルの通水空間内に供給する循環水については、それの高温水から低温水あるいは低温水から高温水への切替え時に、配管内に圧縮空気を導入して管内の残水を排出することにより、溶解炉内の焼成を行うことを特徴とする真空誘導溶解炉の炉内焼成方法。
  2. 焼成は、循環させる温水の温度を60℃以上に保持することによって行うことを特徴とする請求項1に記載の焼成方法。
  3. 真空容器と、その内部に配設した誘導加熱式金属製るつぼおよび外部に配設した温水供給装置にて構成された真空誘導溶解炉の炉内焼成装置であって、上記真空容器を通水可能な二重ジャケット構造とし、金属製るつぼおよびその外側にスパイラル状に配設した誘導加熱コイルにはそれぞれ通水空間を設け、前記ジャケットおよび前記通水空間と温水供給装置とを高温水もしくは低温水を通水する配管にて接続すると共に、該金属製るつぼと誘導加熱コイルの各通水空間にはさらに圧縮空気配管と通水配管とを切換え可能に接続してなることを特徴とする真空誘導溶解炉の炉内焼成装置。
  4. 金属製るつぼは、その円周方向を複数に分割して得られる各セグメントの相互間に絶縁材を介挿して側部としたもので構成したことを特徴とする請求項に記載の装置。
  5. 温水供給装置は、内部にヒーターを収容すると共に、側壁に冷却水を通水できる水冷ジャケット構造であることを特徴とする請求項に記載の装置。
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