JP3601787B2 - 量子コンピュータおよびこの制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、量子ビットを用いた量子コンピュータおよびこの制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
「P.W.Shor」が、1995年に、大きな数の因数分解が、量子計算を使うと古典計算機に比べて圧倒的な速さで計算できることを示して以来、量子計算機の研究は理論,実験ともに急激に進んで来ている。量子コンピュータでは,量子ビットが古典的なコンピュータのビットに対応する。また、古典的なコンピュータにおける入力,演算,出力は、量子コンピュータにおける系の、初期状態の準備、系の時間発展、系の読み出しに対応する。量子コンピュータの一般的な解説は、文献1「細谷暁夫著、『量子コンピュータの基礎』、サイエンス社(1999年)」に述べられている。
【0003】
量子コンピュータにおける基本要素となる量子ビットは、量子力学的な|0>状態と|1>状態の重ね合わせ状態で表される。この状態は、実験的には、量子的な二準位系にあたり、様々な量子的な二準位系を使った量子コンピュータが提案されている。これらの提案は、固体素子を用いたものと固体素子を用いないものとに分けることができる。固体素子は集積化が容易な点で有利であるが、素子周辺の環境による影響のため、量子的な状態を保つことが難しい。逆に、固体素子でないものは、集積化は難しいが周辺の環境の影響を受けにくい。
【0004】
磁束量子ビットは、固体素子を用いた量子ビットの一種ではあるが、素子に超伝導体を使っており、超伝導ギャップの存在のため環境の影響を受けにくいと考えられている。また、同じく超伝導体を使った電荷量子ビットも提案されているが、磁束のノイズは電荷のノイズに比べて少ないので、この点においても磁束量子ビットは有利である。このため、磁束量子ビットは、集積化に有利でかつ環境の影響も受けにくい理想的な量子ビットであると考えられる。
【0005】
量子コンピュータにおける演算は、量子系の時間発展になる。1つの量子ビットの演算である位相シフタと呼ばれる演算と、2つの量子ビットの演算である制御NOTと呼ばれる演算ができれば、原理的にすべて演算が可能であることが示されている。2つの量子ビットの演算のためには、2つの量子ビットが量子もつれ合い状態(entangled state)にある必要がある。このためには、2つの量子ビット間に相互作用が必要となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、いままでに提案されている量子コンピュータでは、通常この相互作用を随意に切ったり入れたりすることができない。例えば、現在最も多くの量子ビット数で実現されているNMR量子コンピュータにおいては、量子ビットは核スピンであり、量子ビット間の相互作用は核スピン同士の相互作用である。この相互作用は、素子としてどのような分子を選んだかによって決定されてしまい、核スピン同士の相互作用は常に存在している。
【0007】
このため、上記NMR量子コンピュータにおいて、量子ビット間は常に相互作用がある状態にある。量子コンピュータにおける演算がその系の時間発展であることを考えれば、常に相互作用が存在することは、常にビット間で演算を行っていることになる。これは任意の演算をさせるには好ましいことではなく、任意の演算を行うためには、常に行われている量子ビット間での相互作用を打ち消す別の操作が必要となる(文献1第5章参照)。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、量子コンピュータの演算における量子ビット間の相互作用を、任意に制御できるようにすることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の一形態における量子コンピュータは、2つの磁束量子ビットと、この2つの磁束量子ビット間に相互作用を作用させる磁束転送器とを備え、加えて、磁束転送器に流れる超伝導電流をオンオフする切り換え手段を備えるようにしたものである。
この量子コンピュータによれば、切り換え手段による磁束転送器のオンオフにより、超伝導電流が流れることにより相互作用を持つ2つの磁束量子ビット間の相互作用が制御される。
【0010】
上記量子コンピュータにおいて、切り換え手段は、ジョセフソン接合電界効果トランジスタ、または磁束転送器の一部を加熱する加熱手段、または磁束転送器の一部に設けられた超伝導体から構成された機械スイッチのいずれかであればよい。
【0011】
また、本発明の一形態における量子コンピュータの制御方法は、2つの磁束量子ビットと、この2つの磁束量子ビット間に相互作用を作用させる磁束転送器とを備えた量子コンピュータの演算を、磁束転送器に流れる超伝導電流をオンオフすることにより制御するようにしたものである。
この制御方法によれば、磁束転送器のオンオフにより、超伝導電流が流れることにより相互作用を持つ2つの磁束量子ビット間の相互作用が制御される。
【0012】
上記量子コンピュータの制御方法において、磁束転送器に流れる超伝導電流のオンオフは、例えば、ジョセフソン接合電界効果トランジスタ、または磁束転送器の一部を加熱すること、または、磁束転送器の一部に設けた機械スイッチのいずれかにより行うようにすればよい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態における量子コンピュータの一部構成の例を示す平面図である。図1中に付けた符号について説明すると、まず、101は超伝導体から構成された磁束転送器(フラックストランスフォーマー)、102はジョセフソン接合電界効果トランジスタ(JOFET:切り換え手段)であり、磁束転送器101の電極部101a,101bに接続している。
【0014】
また、103はジョセフソン接合電界効果トランジスタ(JOFET)のゲート電極に接続するゲート配線、104a,104bは磁束量子ビット、105は磁束量子ビットの状態を読み出すSQUID(Superconducting Quantum Interference Device:読み出し手段)、106a,106bは、磁場を作り出すことで各々の磁束量子ビットの状態を制御する制御ラインである。
【0015】
また、114,115は、トンネル絶縁部からなるジョセフソン接合である。これらは、図示していない半導体基板上に絶縁膜を介して形成され、磁束量子ビット104a,104bおよびSQUID105は、例えばアルミニウムやニオブなどの、低温にすることで超伝導製を示す材料から構成すればよい。。同様に、磁束転送器101も、ニオブから構成すればよい。また、磁束量子ビット104a,104bは、例えば、約5μm角に形成されている
【0016】
このように構成することで、磁束量子ビット104a,104bが作り出す磁束をSQUID105で読み出し、磁束量子ビット104a,104bの状態が、|0>状態と|1>状態とのどちらの状態となっているかを検出することができる。
【0017】
なお、3つのジョセフソン接合を用いた1つの磁束量子ビットについては、文献2「J.E.Mooij,T.P.Orlando,L.Levitov,Lin Tian,Caspar H.van der Wal,Seth LIoyd,“Josephson Persistent−Current Qubit”,Science 285(1999)1036」、文献3「T.P.Orlando,J.E.Mooij,Lin Tian,Caspar H.van der Wal,L.S.Levitov,Seth Lloyd,J.J.Mazo,“Superconducting persistent−current qubit”,Physical Review B60(1999)15398」、文献4「Caspar H.van der Wal,A.C.J.ter Haar,F.K.Wilhelm,R.N.Schouten,C.J.P.M.Hrmans,T.P.Orlando,Seth Lloyd,J.E.Mooij,”Quantum Superposition of Macroscopic Persistent−Current States”,Science 290(2000)773」に記載されている。
【0018】
磁束量子ビット104a,104bの状態は、磁場依存性を示す(文献4のFig.1参照)。このため、外から加える磁場により、1つの磁束量子ビットの状態を、|0>状態と、|1>状態と、またはこれらの量子力学的な重ね合わせ状態とに制御できる。磁束量子ビット104a,104bの状態に対する制御は、制御ライン106a,106bに電流を流し、この周りに磁場を発生させるにより行うことができる。
【0019】
制御ライン106aおよび制御ライン106bの周りに発生する磁場は、制御ライン106aおよび制御ライン106bに流れる電流に比例し、かつ制御ライン106aおよび制御ライン106bからの距離に反比例するので、磁束量子ビット104aおよび磁束量子ビット104bの状態を個別に操作性良く制御できる。
【0020】
図1では、磁束量子ビット104a,104bとして3つのジョセフソン接合を用いたもので示しているが、本発明におけるJOFETを使用した磁束転送器101の作用は、他の磁束量子ビット場合でも同様である。他の磁束量子ビットに関しての一例として、1つのジョセフソン接合を用いた磁束量子ビットがある。これは文献5「JonathAN R.Fried−man,Vijay Patel,W.Chen,S.K,Tolpygo,J.E.Lukens,“Quantum superposition macro−scopic states”,Nature406(2000)43」に詳しく述べられている。
【0021】
2つの磁束量子ビット104a,104bは、磁束転送器101を流れる電流を通じて磁気的な相互作用を持ち、2つの磁束量子ビット104a,104bの量子もつれ合い状態(entangled state)を実現することができる。図2は、この磁気的な相互作用を模式的に説明するものである。図2では、超伝導体から構成された磁束転送器101を、2つの磁束量子ビット104a,104bで挾んだ状態を、等価的に示している。
【0022】
磁束量子ビット104a、磁束量子ビット104b、磁束転送器101の自己インダクタンスを各々L1,L2,LTとする。また、磁束量子ビット104aと磁束転送器101との相互インダクタンスをM1とし、磁束量子ビット104bと磁束転送器101との相互インダクタンスをM2とする。
【0023】
以下に、磁束量子ビット104aと磁束量子ビット104bとの磁気的な相互作用について考察する。
いま、磁束量子ビット104aでの磁束がΔΦ1変化したとすると、この磁束の変化は、磁束量子ビット104aの自己インダクタンスL1により、磁束量子ビット104aに電流の変化ΔI1=ΔΦ1/L1を引き起こす。
【0024】
この磁束量子ビット104aにおける電流の変化ΔI1は、磁束量子ビット104aと磁束転送器101との相互インダクタンスM1により、磁束転送器101に磁束の変化ΔΦT=M1ΔI1を引き起こす。この磁束転送器101での磁束の変化ΔΦTは、磁束転送器101の自己インダクタンスLTにより、磁束転送器101に電流の変化ΔIT=ΔΦT/LTを引き起こす。
【0025】
この磁束転送器101における電流の変化ΔITは、磁束転送器101と磁束量子ビット104bの相互インダクタンスM2により、磁束量子ビット104bに磁束の変化ΔΦ2=M2ΔITを引き起こす。従って、磁束量子ビット104aでの磁束の変化ΔΦTは、磁束転送器101に電流が流れることにより、磁束量子ビット104bにおいて、磁束の変化ΔΦ2=M1M2ΔΦ1/L1LTを引き起こすことになる。
【0026】
このことは、磁束量子ビットの状態が磁場依存性を示すことを考えると、磁束量子ビット104aの状態は、磁束量子ビット104bの状態に変化を与え、相互作用を持つことを意味する。すなわち、磁束量子ビット104aの状態が、|0>状態か|1>状態によって、磁束量子ビット104bの状態も影響を受ける。この逆も同様であり、2つの磁束量子ビット104a,104bは、相互作用を持つことになる。
【0027】
ここで、磁束量子ビット104aと磁束量子ビット104bの直接の相互インダクタンスは、考慮する必要はない。なぜなら、この直接の相互インダクタンスの大きさは、磁束量子ビット104aと磁束量子ビット104bとを充分遠くに離せば、小さな値となるからである。この時、直接の相互作用は、磁束転送器101を通した相互作用の大きさに比べて小さく無視できる。
【0028】
図1において、磁束転送器101は、2つの磁束量子ビット104a,104bを囲むように配置している。しかし、図2の模式図からも分かるように、磁束転送器101と各々の磁束量子ビットとの相互インダクタンスを通し、磁束量子ビット104aと磁束量子ビット104bとが磁気的に相互作用していれば、磁束転送器は、どのような配置,形状であろうと、同様の相互作用の効果が得られる。
【0029】
図1に示す量子コンピュータにおける磁束転送器101を使った磁束量子ビット104a,104bの系においては、相互作用のエネルギーは、磁束転送器101の自己インダクタンスLTと、磁束量子ビット104a,104bとの相互インダクタンスM1,M2の大きさと、磁束量子ビット104a,104bを流れる電流I1,I2により決まる。
【0030】
磁束量子ビット104aでの磁束の変化ΔΦは、磁束量子ビット104bにおける磁束の変化ΔΦ2=M1M2ΔΦ1/L1LTを引き起こす。よって、磁束量子ビット104bが受けた仕事(エネルギー)は、
I2ΔΦ2=M1M2I2ΔΦ1/L1LT=M1M2I2ΔI1/LT,ΔΦ1=L1ΔI1
である。
また、磁束量子ビット104bが受けた仕事(エネルギー)は、相互作用のエネルギーと考えられ、相互作用のエネルギーをJとおくと、J=M1M2I2I1/LTで表される。
【0031】
量子コンピュータの演算には、量子もつれ合い状態(entangled state)が必要になる。本実施の形態の磁束量子ビット104a,104bにおいては、上述した磁気的な相互作用により、量子もつれ合い状態が実現できる。相互作用で結ばれた磁束量子ビット104a,104bが、時間発展することにより、量子もつれ合い状態になる。
いまz軸方向のパウリのスピン行列をσzとし、相互作用のハミルトニアンをHintとすると、相互作用のエネルギーJを使って、
【0032】
【数1】
【0033】
となる。ここで、σ1zは磁束量子ビット104aの磁束のz成分,σ2zは磁束量子ビット104bの磁束のz成分であり、Hintは、σ1zとσ2zの直積に、相互作用のエネルギーJを乗じたものである。
この相互作用で結ばれた2つの磁束量子ビットが、時間発展する。
【0034】
磁束量子ビット104aの状態を|a>とし、磁束量子ビット104bの状態を|b>とする。まずはじめに、磁束転送器101が超伝導電流を流さない状態にあり、磁束量子ビット104aと磁束量子ビット104bとの間には相互作用がないとする。磁束量子ビット104aと磁束量子ビット104bの初期状態を、|0>状態と|1>状態とが等しく存在する状態とし、各々の状態を、
|I>=(|0>+|1>)/√2,|II>=(|0>+|1>)/√2
とする。これらは、X軸方向のパウリのスピン行列σxの固有ベクトルである。
【0035】
この時の2つの量子ビットの状態は、
|I>|II>=(|0>|0>+|0>|1>+|1>|1>)/2
となる。時刻t=0に磁束転送器101が、超伝導電流を流せる状態に変わり、2つの磁束量子ビット104a,104bの状態が、相互作用を持つ状態に変わり、これらによる系が時間発展していく。
【0036】
つぎに、時刻tでの2つの磁束量子ビット104a,104bの状態を|Ψ(t)>とする。状態|Ψ(t)>は、相互作用の影響を受けて時間発展していき、この時間依存性は、
|Ψ(t)>=exp(−2πiHintt/h)|Ψ(0)>,|Ψ(0)>=|I>|II>
となる。
【0037】
上記時間依存性の式に相互作用のハミルトニアンを代入すると、
|Ψ(t)>={exp(−2πiJt/h)|0>|0>+exp(2πiJt/h)|0>|1>+exp(2πiJt/h)|1>|0>+exp(−2πiJt/h)|1>|1>}/2
となる。
いま、時刻t=h/(8J)を考える。この時刻の系の状態は、
|Ψ(t)>={(1−i)|0>|0>+(1+i)|0>|1>十(1+i)|1>|0>+(1−i)|1>|1>}/2√2
となる。
【0038】
このままでは、この系の状態が、直観的には分からない。このため、初期状態に使ったx軸方向のパウリのスピン行列σxの固有ベクトルで、この系を書き直してみる。x軸方向のパウリのスピン行列σxの固有ベクトルは、
|x+>=(|0>+|1>)/√2,|x−>=(|0>−|1>)/√2
である。
これを用いて|Ψ(t)>を書き直すと、
|Ψ(t)>=(|x+>|x+>−i|x−>|x−>}/√2
となる。
【0039】
時刻t=h/(8J)においては、各々の量子ビットの状態からだけでは、2つの量子ビットの系全体を表すことができない。これは、系の状態が各々の量子ビットの状態で分離して表示することができず、古典的な状態ではあり得ない量子力学的な状態である。この状態が、前述した、量子がもつれ合いした状態(entangled state)である。
2つの磁束量子ビット104a,104bの間に、磁束転送器101によって相互作用を与えることで、上述した量子コンピュータの演算に必要な量子もつれ合い状態が実現できる。
【0040】
本実施の形態の磁束転送器101の場合、実際の試料の形状や配置から、この相互作用の大きさを見積もると、J=0.34[GHz]=1.41[μeV]程度になる。このときの2つの磁束量子ビット系が、量子もつれ合い状態になる時間は、0.37[nS]程度である。これは、1秒間に最大27億回(2.7GHz)の演算ができることに対応する。
【0041】
前述したように、磁束転送器101に流れる電流を通し、磁束量子ビット104aと磁束量子ビット104bは、相互作用する。ここで、磁束転送器101に流れる電流のオンオフを制御できれば、2つの磁束量子ビット104aと磁束量子ビット104bとの間の相互作用の発生を制御できる。これらの制御が可能になれば、任意の時刻に磁束量子ビット間で相互作用させることができる。
【0042】
また、任意の時刻に相互作用を切り、個別に磁束量子ビット104a,104bの状態を制御ライン106a,106bにより制御することもできる。このように任意に磁束量子ビット間の相互作用を制御できる点は、他の量子ビット系と異なり、制御可能な磁束転送器101を利用した、磁束量子ビット104a,104b系における大きな利点である。
【0043】
本実施の形態では、超伝導体から構成された磁束転送器101に、超伝導電流が流れうる状態と流れない状態とを切り換える(超伝導電流をオンオフする)、切り換え手段を設けるようにした。この切り換え手段としては、例えば、上述したジョセフソン接合電界効果トランジスタ(JOFET)102または以降に示す熱ヒータ(加熱手段)または超伝導から構成された機械スイッチのいずれかを用いるようにすればよい。
はじめに、JOFET102により磁束転送器101を制御する手法について説明する。
【0044】
<実施の形態1>
本実施の形態1では、超伝導体から構成された磁束転送器101に超伝導電流が流れうる状態と流れない状態と(オンオフ)を、JOFET102により作り出すことについて説明する。JOFET102のゲート電極にかかる電圧を変化させれば、超伝導電流のオンオフ制御ができる。JOFET102の具体的な構造やゲート電圧操作については、文献6「Tatsushi Akazaki,Hideaki Takayanagi,Junsaku Nitta,Takatomo Enoki,“A Josehson field effect transistor using an InAs−inserted−channel In0.52Al0.48As/In0.53Ga0.47As inverted modulation−doped structre”,Appl.Phys.Lett,68(1996)418」に述べられている。
【0045】
図3は、JOFET102(図1)の構成例を概略的に示す斜視図である。図3に示す符号について説明すると、まず、307はニオブからなる超伝導体から構成されたソース電極、308はニオブからなる超伝導体から構成されたドレイン電極である。ソース電極307は、図1に示す電極部101aに対応し、ドレイン電極308は、図1に示す電極部101bに対応している。
【0046】
また、309はInAsから構成されたチャネル層であり、チャネル層309に二次元電子ガスが形成される。310は、ゲート電極であり、図1のゲート配線103に接続している。また、311はn形不純物が導入されたInAlAsからなるキャリヤ供給層、312はノンドープInA1As層、313はノンドープInGaAs層、314はノンドープInAlAs層、315はInPからなる半導体基板である。
【0047】
チャネル層309には、キャリヤ供給層311から、ノンドープInA1As層312,ノンドープInGaAs層313を介して電子が供給され、供給された電子により二次元電子ガスが形成される。ゲート電極310にゲート電圧をかけると、チャネル層309に形成されている二次元電子ガスのキャリヤー濃度が変化する。このキャリヤー濃度の変化が、二次元電子ガス層に流れる超伝導電流を変化させる。図4は、JOFET102のゲート電圧特性を示す。グラフの横軸は電圧であり、縦軸は電流である。ゲート電圧Vgが0Vの時は、電圧が0mVの状態で超伝導電流が約5.5μA流れている。
【0048】
これに、マイナス方向のゲート電圧を印加していくと、流れうる超伝導電流は少なくなり、Vg=−1.1Vまで印加すると、JOFET102のソース・ドレイン間には電流がまったく流れなくなる。このようにJOFET102の簡便なゲート電圧操作だけで、磁束転送器101に流れる超伝導電流を操作でき、磁束量子ビット104a,104b間の相互作用を簡便に制御することが可能である。また、JOFET102の二次元電子ガスが形成されるチャネル層309にはInAsを使っているため、ゲート電圧操作によるJOFET102の応答速度は早く、高速での相互作用の切り換えが可能である。
【0049】
<実施の形態2>
つぎに、磁束転送器101のオンオフ制御を、磁束転送器101を加熱することで制御する場合について説明する。
図5は、本発明の他の形態における量子コンピュータの一部構成を示す平面図である。ここでは、磁束転送器101のオンオフ制御を、熱ヒータ(加熱手段)502により行うようにした。他の部分は、図1の量子コンピュータと同様である。
【0050】
熱ヒータ502に通電せずに非加熱状態とした状態では、磁束転送器101はすべて超伝導状態となり、超伝導電流が流れうる状態となる。これに対し、熱ヒータ502に通電して過熱状態として磁束転送器101の一部を超伝導転移温度以上に加温し超伝導状態を壊せば、超伝導電流が流れない状態となる。
このように、熱ヒータ502の非加熱/加熱切り換え動作により、磁束転送器101のオンオフ制御が可能となり、磁束量子ビット104a,104b間の相互作用を簡便に制御することが可能となる。
【0051】
<実施の形態3>
つぎに、磁束転送器101のオンオフ制御を、機械的な動作により行う機械スイッチにより作り出す場合について説明する。
図6は、本発明の他の形態における量子コンピュータの一部構成を示す平面図である。ここでは、磁束転送器101のオンオフ制御を、超伝導体から構成された機械スイッチ602により行うようにした。他の部分は、図1の量子コンピュータと同様である。機械スイッチ602は、例えば、ピエゾ素子などにより動作させればよい。
【0052】
機械スイッチ602がONで、磁束転送器101の回路が閉じている時には、機械スイッチ602が超伝導体であるため、超伝導電流が流れうる状態を作り出せる。機械スイッチ602をOFFにし、磁束転送器101の回路を切断すると、超伝導電流が流れない状態を作り出せる。このように、機械スイッチ602の動作により、磁束量子ビット104a,104b間の相互作用を簡便に制御することが可能である。
【0053】
量子コンピュータにおける演算は、先に述べたように量子ビットから構成された系の時間発展である。通常の量子コンピュータでは、量子ビット間の相互作用は切ることができず、この相互作用も各々の量子ビットとともに常に時間発展をする。従って、量子ビット間での演算が、好むと好まざるとによらず常に行われてしまう。このため、通常の相互作用を切れない量子ビットの系では、相互作用を打ち消すための別の操作を必要とする。
【0054】
これに対し、上述した実施の形態における量子コンピュータでは、オンオフ制御を可能とした磁束転送器101を利用し、磁束量子ビット104aと磁束量子ビット104b間の相互作用を随意の時間で切れるようにした。このため、相互作用を打ち消すための他の操作は必要なく、磁束転送器101をオンオフする各々の切り換え手段の簡便な動作を行うのみでよい。このため、本実施の形態によれば、量子コンピュータの演算において、より簡便で柔軟な演算が可能となる。
【0055】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明では、切り換え手段による磁束転送器のオンオフにより、超伝導電流が流れることにより相互作用を持つ2つの磁束量子ビット間の相互作用を制御するようにした。この結果、本発明によれば、量子コンピュータの演算における量子ビット間の相互作用を、任意に制御できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態における量子コンピュータの一部構成の例を示す平面図である。
【図2】磁束量子ビットと磁束転送器との等価的な回路を示す構成図である。
【図3】JOFET102(図1)の構成例を概略的に示す斜視図である。
【図4】JOFET102のゲート電圧特性を示す特性図である。
【図5】本発明の他の形態における量子コンピュータの一部構成を示す平面図である。
【図6】本発明の他の形態における量子コンピュータの一部構成を示す平面図である。
【符号の説明】
101…磁束転送器(フラックストランスフォーマー)、102…ジョセフソン接合電界効果トランジスタ(JOFET:切り換え手段)、103…ゲート配線、104a,104b…磁束量子ビット、105…SQUID(Superconducting Quantum Interference Device)、106a,106b…制御ライン。
Claims (8)
- 2つの磁束量子ビットと、この2つの磁束量子ビット間に相互作用を作用させる磁束転送器とを備えた量子コンピュータにおいて、
前記磁束転送器に流れる超伝導電流をオンオフする切り換え手段を備えたことを特徴とする量子コンピュータ。 - 請求項1記載の量子コンピュータにおいて、
前記切り換え手段は、ジョセフソン接合電界効果トランジスタであることを特徴とする量子コンピュータ。 - 請求項1記載の量子コンピュータにおいて、
前記切り換え手段は、前記磁束転送器の一部を加熱する加熱手段であることを特徴とする量子コンピュータ。 - 請求項1記載の量子コンピュータにおいて、
前記切り換え手段は、前記磁束転送器の一部に設けられた超伝導体から構成された機械スイッチであることを特徴とする量子コンピュータ。 - 2つの磁束量子ビットと、この2つの磁束量子ビット間に相互作用を作用させる磁束転送器とを備えた量子コンピュータにおいて、
前記磁束転送器に流れる超伝導電流をオンオフすることにより前記量子コンピュータの演算を制御する
ことを特徴とする量子コンピュータの制御方法。 - 請求項5記載の量子コンピュータの制御方法において、
前記磁束転送器に流れる超伝導電流のオンオフは、ジョセフソン接合電界効果トランジスタにより行う
ことを特徴とする量子コンピュータの制御方法。 - 請求項5記載の量子コンピュータの制御方法において、
前記磁束転送器に流れる超伝導電流のオンオフは、前記磁束転送器の一部を加熱することにより行う
ことを特徴とする量子コンピュータの制御方法。 - 請求項5記載の量子コンピュータの制御方法において、
前記磁束転送器に流れる超伝導電流のオンオフは、前記磁束転送器の一部に設けた機械スイッチにより行う
ことを特徴とする量子コンピュータの制御方法。
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