JP3584924B2 - 新規ベクターにより作成される遺伝子導入植物 - Google Patents

新規ベクターにより作成される遺伝子導入植物 Download PDF

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  • Breeding Of Plants And Reproduction By Means Of Culturing (AREA)

Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、新規なベクターを用いて目的遺伝子が導入された植物に関する。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子工学技術を利用した微生物、培養細胞などの形質転換は、現在、医薬品として有用な生理活性物質の生産等の目的に応用され、実産業においても多大の貢献をなしている。植物育種の分野においては、植物のライフサイクルが微生物等に比較してはるかに長いこと等の理由から、遺伝子工学技術の実産業への応用はやや遅れているが、この技術は、目的とする遺伝子を直接、育種の対象となる植物に導入することを可能とするため、(a)改変すべき形質のみが導入できる、(b)植物以外の種(微生物等)の形質も植物に導入できる、(c)育種期間の大幅な短縮ができるなど、交配を重ねて行う古典的な育種と比べて多くのメリットを有し、その応用は、植物育種の飛躍的進歩をもたらすものと期待され、またこの期待は現実のものとなりつつある。
【0003】
具体的に、目的遺伝子を対象植物に導入し、遺伝子導入植物を作成するには(1)目的遺伝子の植物細胞への導入(染色体、核等に導入される場合も含む。)、(2)目的遺伝子が導入された細胞のみからなる植物組織の選抜、(3)選抜された植物組織からの植物体の再生、の3段階を必ず経ることになる。このうち目的遺伝子導入組織の選抜にあたっては、一般に、目的遺伝子の発現している組織(目的遺伝子が発現している組織は、当然これが導入された細胞からなる組織である。)を、植物体を再生することなく、しかも肉眼で確認することが困難なことから、目的遺伝子は、細胞培養の段階でその発現が容易に検出できるマーカー遺伝子と共に植物細胞に導入され、マーカー遺伝子の発現の有無(すなわちマーカー遺伝子の導入の有無)が目的遺伝子導入の指標として用いられるのが普通である。例えば、このようなマーカー遺伝子としては、抗生物質耐性を付与するカナマイシン抵抗性遺伝子(NPTII;ネオマイシンリン酸化酵素遺伝子)やハイグロマイシン抵抗性遺伝子(HPT;ハイグロマイシンリン酸化酵素遺伝子)、アミノ酸合成に関与するノパリン合成酵素遺伝子(NOS)やオクトピン合成酵素遺伝子(OCS)、農薬耐性を付与するスルフォニルウレア系抵抗性遺伝子(ALS;アセトラクテート合成酵素遺伝子)などがある。
【0004】
しかしマーカー遺伝子の発現はまた、このような遺伝子導入植物を食用等に供することを目的とした場合、重大な障害となる。つまり、かかるマーカー遺伝子が発現することによって生ずる遺伝子産物の、人体への安全性を担保することが非常に困難だからである。従って、これらマーカー遺伝子を指標として作成された遺伝子導入植物を食品として販売する場合には、その遺伝子産物の人体への影響について詳細な調査が必要とされる。例えば、NPTII遺伝子は、すでに1980年代前半から、マーカー遺伝子として実験室レベルでは盛んに用いられて来たが、1994年になってようやく、その遺伝子産物が米国食品衛生局(FDA)により食品添加物として認可され、これをマーカー遺伝子として用い、形質転換された遺伝子導入植物が食用等に供されるようになった。しかし、実際にこれを口にすることになる肝心の消費者レベルでは、このようなNPTII遺伝子産物への不安感は、依然として拭い去り難く存在し続けている。
【0005】
また現在、マーカー遺伝子として実用化されているのは、このNPTII遺伝子をはじめ、植物細胞に対する成長阻害物質の解毒作用に寄与する遺伝子のみであり、それ故、目的遺伝子導入組織の選抜にあたっては、これら成長阻害物質を含む培地でその培養を行い、マーカー遺伝子の発現の有無、つまりはかかる物質に対する耐性を評価し、これを指標とすることになる。しかしこの場合、耐性がある、すなわちかかる物質の存在下で植物組織が増殖するといっても、これは程度の問題であり、このような阻害物質の存在下での培養が、植物細胞にとって好ましからぬ影響を与えることは避け難く、現実に、植物細胞の活性低下に伴う遺伝子導入組織の増殖、再分化率の低下等の副作用が問題となっている。
【0006】
さらに、遺伝子導入組織選抜後の植物細胞におけるマーカー遺伝子の発現は、遺伝子導入による植物育種を行うにあたっても、大きな障害を与える。すなわち、あるマーカー遺伝子を用いて作成された遺伝子導入植物に対して、さらに別の遺伝子を新たに導入しようとする場合には、二度と、同一のマーカー遺伝子を用いて遺伝子導入を行うことができない。すでにその植物にはこのマーカー遺伝子が存在しているため、再びこれを新たな目的遺伝子と共にその同じ植物に導入しても、新たな目的遺伝子が導入されようがされまいが、その植物の細胞や組織ではこのマーカー遺伝子が常に発現し、これを目的遺伝子導入の指標とすることはもはやできないからである。従って、このような遺伝子の多重導入は、各導入過程を繰り返す毎に異なるマーカー遺伝子を用いることになる。しかし、植物種によりマーカー遺伝子の有効性は異なり、それぞれのマーカー遺伝子の使用に際しては、その都度条件設定のための予備実験が必要となる(例えば、イネではNPTII遺伝子よりHPT遺伝子の方が有効であると報告されている(K.Shimamoto et al.、Nature(London)、338:274、1989)。また、そもそもマーカー遺伝子の種類には限りがあるため、マーカー遺伝子を換えるだけでは、遺伝子の多重導入を無制限に繰り返すことは不可能である。つまり、ある植物に対して遺伝子導入を繰り返すことのできる回数は、その植物に用いることのできるマーカー遺伝子の種類数によって、自ずから制約を受けることとなる。しかも、現在実用できるマーカー遺伝子の種類は、上記したようにごく限られているのである。従って、遺伝子導入植物組織の選抜後、その際用いたマーカー遺伝子を、それが存在し、機能する染色体等のDNAから除去するなどして、これによる影響をその細胞、組織、さらには植物体から排除する技術は、遺伝子工学技術を用いた植物育種の新たな展開に必須のものである、と言うことができる。
【0007】
現在、マーカー遺伝子の影響を排除するためのこうした技術としては、マーカー遺伝子と植物のトランスポゾンを一体として用い、このトランスポゾンと共にこれを、その導入された植物染色体から除去する方法(国際公開WO92/01370号公報)、及びこのトランスポゾンに代えてP1ファージの部位特異的組換え系を用いる方法(国際公開WO93/01283号公報)の二つが報告されている。これらの方法によれば、確率的にはかなり低いが、遺伝子導入後にある一定の割合でマーカー遺伝子が植物染色体から除去された細胞、すなわち目的遺伝子だけが染色体に残留して発現し、マーカー遺伝子の機能は消失した遺伝子導入植物細胞を得ることができる。
【0008】
もっとも、これらの方法により、マーカー遺伝子がその染色体から除去された植物細胞が生じたとしても、この細胞は、これがなおそこに存在して発現している細胞中に点在しており、しかも、これら2種類の細胞は肉眼での識別が不可能なことから、これらをそのままで分離することはできない。目的遺伝子導入時のように、マーカー遺伝子が発現している細胞を選抜しようとする場合には、これが植物細胞に付与する薬剤耐性・栄養要求性等を指標とする選抜を行うこともできるが、この選抜の際、そのマーカー遺伝子の発現がない細胞は重度の成長障害を起こし、多くは死に至らしめられるので、マーカー遺伝子が除去された細胞を得る、というここでの目的には、かかる選抜方法は到底適用することができない。
【0009】
そこで、これらの方法により、染色体からマーカー遺伝子が除去され、目的遺伝子だけが残留した植物を得るためには、マーカー遺伝子が染色体から除去された細胞と、これがなおそこに存在している細胞とを混在させたまま、ある程度培養して増殖させた後、その培養組織を再分化させて得られた植物体の組織を、サザンハイブリダイゼーション法、またはポリメラーゼ連鎖反応法などの手法を用いて解析することにより、選抜を行うことが考えられる。この場合において前提となるのは、このような再分化個体は単一の細胞に由来し、それ故これを構成する細胞はすべて等しい性質を持つ、例えば、マーカー遺伝子が除去された細胞に由来する個体は、すべてこうした細胞のみからなる、という仮定であることは言うまでもない。しかし多くの場合、かかる再分化個体を構成する細胞は必ずしも均一ではないことが既に良く知られており、マーカー遺伝子にしても、これが染色体から除去された細胞と、なおそこに存在している細胞とは、再生された植物の同一個体内、さらには同一組織内においてすら、全く不規則に共存・分布することとなる。従ってこれらの方法では、培養組織を再分化して植物個体を再生しただけの段階で、マーカー遺伝子が染色体から除去された細胞のみからなる個体を得ることは非常に困難である。また、これを選抜するための解析においては、たとえどのような手法であっても、上記の解析手法を始め現在知られている手法ではすべて、その適用に際し、共試試料としてその個体全体でも単一細胞でもなく、適当なマスを有する組織、例えば一枚の葉、を用いるため、その結果は、その葉一枚におけるマーカー遺伝子の存在状況等について、全体的傾向を測定・解析するものに止まる。従って、同一個体・組織内において、マーカー遺伝子が除去された細胞とこれが存在している細胞とが、混在しているのがむしろ普通の状態であるこのような場合において、仮にマーカー遺伝子が染色体から除去された細胞のみからなる個体が偶発的に生じたとしても、この解析結果をもってその個体を選抜することは到底不可能であると言わざるを得ない。この結果においてマーカー遺伝子の存在等が検出されなかったとしても、その同じ個体の他の部位の組織もそうであるとする保証は全くなく、また、そもそもマーカー遺伝子の存在等が検出されなかったからといって、これはその存在量等が単に検出限界以下であることを示すに過ぎず、その試料中に、マーカー遺伝子の存在する細胞が全く含まれていないとは、この場合には言い切れないからである。
【0010】
結局のところ、このような場合には、花粉、卵細胞等の生殖細胞を経由することにより初めて、マーカー遺伝子の影響が排除された個体が得られることとなる。すなわち、これらの生殖細胞は単細胞であるので、例えばこれが、その細胞の染色体からマーカー遺伝子が除去された卵細胞であるならば、これを用いて自家受粉を行った場合、古典的遺伝法則に従う一定の確率で、マーカー遺伝子をその染色体に含まない受精卵が得られ、さらにこの受精卵からは、これと同一の特性を有する細胞のみからなる個体が生ずるであろう。サザンハイブリダイゼーション法等の解析手法による選抜は、この個体を対象として行えばよい。つまり、ここで挙げた報告に記載の方法による場合、マーカー遺伝子が染色体から除去された細胞が得られたとしても、これが存在する培養組織から植物体を再分化し、さらにこの再分化した植物体を用いて交配を行い、F1またはその後代の子孫を得て初めてかかる細胞のみからなる個体が得られ、そしてそれをマーカー遺伝子の影響が排除された個体として、選抜することができるようになるのである。
【0011】
なお特開平6−276872では、やはりマーカー遺伝子の影響を排除するため、遺伝子導入の際、マーカー遺伝子を目的遺伝子とは別個のプラスミドベクターに組込んで用いることにより、導入後にマーカー遺伝子のみを細胞から除去する技術を報告しているが、これにしても、その除去のためには交配過程を必ず経なければならず、その点では上記の2報と同様である。
【0012】
しかしこのような方法では、生長の遅い木本植物、不稔個体、もしくはF1であること自体に価値がある雑種個体への適用は難しい。またそうでなくとも、トランスポゾン等の脱離能を有するDNA因子は、これらがその存在し、機能する染色体DNAやウィルスベクターDNA等から除去される確率が極めて低いことが多いため、その除去、つまりはマーカー遺伝子の機能の消失は、実用上、少なくとも培養組織の段階で容易に検出できることが要求される。培養組織の再分化、そしてその再分化個体の交配による後代の作出を経なければ確実にこれを検出できないのであれば、その実用化は殆ど不可能である。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、新規ベクターを用い、植物細胞の活性を低下させる植物細胞成長阻害物質等を用いることなく作成される遺伝子導入植物を提供することにある。
【0014】
さらに本発明は、新規ベクターを用い、交配によるF1もしくはその後代の作出過程を経ることなく作成される、マーカー遺伝子の影響が排除された遺伝子導入植物、更には、マーカー遺伝子の影響が排除され、かつ、多重に遺伝子が導入された植物を提供することをも目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、マーカー遺伝子として形態異常誘導遺伝子、脱離能を有するDNA因子として部位特異的組換え系に由来するDNA因子を用い、形態異常誘導遺伝子が脱離能を有するDNA因子と挙動を一つにする位置に存在し、また、目的遺伝子は、脱離能を有するDNA因子と挙動を一つにすることのない位置に存在するベクターを用いることにより、達成することができる。
【0016】
ここで形態異常誘導遺伝子とは、植物の組織に、例えば、矮化、頂芽優勢の崩壊、色素の変化、根頭癌腫、毛状根、葉の波打ち等の、通常と異なる形態分化を引き起こす遺伝子を意味する。例えば、これらの形態異常誘導遺伝子としては、すでに、ipt遺伝子(A.C.Smigocki、L.D.Owens、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:5131、1988)、iaaM(tryptophan monooxygenase)遺伝子(H.J.Klee et al.、GENES & DEVELOPMENT、1:86、1987)、gene 遺伝子(H.koerber et al.、EMBO Journal、10:3983、1991)、gene 6b遺伝子(P.J.J.Hooyaas et al.、Plant Mol.Biol.、11:791、1988)、及びrolArol遺伝子群(F.F.White et al.、J.Bacteriol.、164:33、1985)等、それぞれ特異的な遺伝子が、各種の植物に癌腫、奇形腫(すなわち不定芽・不定根等の形成)を引き起こす細菌である、アグロバクテリウム等に存在していることが報告されており、また、シュードモナス・シリンガエの亜種(Ps eudomonas syringae subsp.savastanoi)ではiaaL(indoleacetic acid−lysine synthetase)遺伝子(A.Spena et al.、Mol.Gen.Genet.、227:205、1991)の存在が、さらに種々の植物からもホメオボックス遺伝子やフィトクローム遺伝子等の存在が報告されている。
【0017】
これらの遺伝子は、いずれも本発明において使用することができるが、中でも特に、頂芽優勢の崩壊を引き起こすipt遺伝子や、毛状根の形成、及び毛状根から再生した植物の矮化や葉の波打ち等を引き起こすrol遺伝子群は、種々の形態異常誘導遺伝子の中でも特徴的な形態の異常を引き起こすことから、本発明に使用するマーカー遺伝子として好ましい。さらに、これらはまた、それを組み合わせることにより、それが導入された特定の植物に、不定芽・不定根等の特定の構造を再分化させるよう設計することも可能である。本発明においては、このような遺伝子の組み合わせを利用し、遺伝子導入のターゲットとなる植物の種類等、遺伝子導入植物の作成条件に応じて形態異常誘導遺伝子を構築し、用いることもできる。
【0018】
かかる形態異常誘導遺伝子の細胞への導入により生じた、異常な形態をした組織は、この遺伝子を有する細胞のみからなっているので、これをマーカー遺伝子として目的遺伝子と共にベクターを構築し、このベクターを植物細胞に導入してこの細胞を培養しさえすれば、これから生じる異常な形態を示す組織を肉眼で選抜することのみにより、マーカー遺伝子、つまりは目的遺伝子が導入された細胞だけからなる組織を選抜できることになる。なお、ここでベクターとは、外来遺伝子を宿主細胞に導入する目的に用いられるDNA配列であって、この外来遺伝子を宿主細胞内で発現させるために必要な機能を備えているものを指し、外来遺伝子は多くの場合、これに組み込まれた形で宿主細胞に導入される。
【0019】
すなわち本発明のベクターを用いて遺伝子導入を行えば、遺伝子導入後の細胞をMS培地等の通常の培地を用い、通常の培養条件で培養するだけで、目的遺伝子が導入された細胞のみからなる植物組織の肉眼による選抜が可能となる。従って、その選抜にあたっては、植物細胞成長阻害物質等、遺伝子導入組織選抜のための特別な物質を使用する必要がないので、作業が簡略化されるばかりではなく、これらの影響により植物細胞の活性が低下するおそれもない。
【0020】
一方、脱離能を有するDNA因子とは、これらが存在し、機能する染色体DNA等から、それ自身が脱離し得る能力を有するDNA配列をいう。かかるDNA因子としては、部位特異的組換え系( site-specific recombination system )に由来するものが知られている。
【0023】
この部位特異的組換え系は、特徴的なDNA配列を有する組換え部位(本発明の脱離能を有するDNA因子にあたる。)、及びこのDNA配列に特異的に結合して、その配列が2以上存在したとき、その配列間の組換えを触媒する酵素、という2つの要素からなり、そして、このDNA配列が同一DNA分子上に、同一方向を向いてある一定の間隔で2か所存在している場合には、これに挟まれた領域がこのDNA分子(プラスミド、染色体等)から脱離し、またこの配列が対向する方向を向いて2か所存在している場合には、この領域が反転する、という挙動を示す。本発明では、この前者の脱離作用を利用するが、このような組換え部位内部の脱離・反転は、部位特異的組換え系によるいわゆる相同的組換えの結果として生ずるものであり、これが、転移の過程としてその脱離を起こす、トランスポゾンを用いた場合の機構ともっとも異なる点である。なお組換え酵素をコードする遺伝子は、必ず組換え部位と同一のDNA分子上に存在する必要はなく、これと同一細胞内に存在し、発現していさえすれば、このDNA配列間の脱離・反転を生ぜしめ得ることが知られている(N.L.Craig、Annu.Rev.Genet.、22:77、1988)。
【0024】
現在、部位特異的組換え系はファージ、細菌(例えば大腸菌)、酵母等の微生物から分離されたCre/lox系、pSR1系、FLP系、cer系、fim系等が知られているが(総説として、N.L.Craig、Annu.Rev.Genet.、22:17、1988)、高等生物ではまだその存在を知られていない。しかし、これらの微生物から分離された部位特異的組換え系も、前記した国際公開WO93/01283号公報において、P1ファージ由来のCre/lox系が植物への遺伝子導入用ベクターに利用されているように、その由来する生物種と異なる生物種(植物を含む)に導入された場合でも、そのそもそもの生物内における挙動と同一の挙動をとることが明らかとなっている。ちなみに本発明の一実施例では、酵母(Zygosaccharomyces rouxii)の部位特異的組換え系であるpSR1系(H.Matsuzaki et al.、J.Bacteriology、172:610、1990)を、その組換え部位間に組換え酵素を挿入して利用したが、このpSR1系もまた、高等植物においてその本来の機能を維持することがすでに報告されている(H.Onouchi et al、Nucleic Acid Res.、19:6373、1991)。
【0025】
また本発明において、形態異常誘導遺伝子を挿入する場所は、脱離能を有するDNA因子と共に、これが脱離し得る位置でありさえすればよい。例えば、脱離能を有するDNA因子として、部位特異的組換え系のpSR1系を用いた場合には、組換え部位に挟まれた領域内で、組換え酵素の発現を阻害しない位置でありさえすれば、これをどこにでも挿入することができる。
【0026】
形態異常誘導遺伝子を脱離能を有するDNA因子とこのようにして組合せてベクターを構築すれば、このベクターを用いて植物に遺伝子を導入した場合、導入後、マーカー遺伝子として用いた形態異常誘導遺伝子は、脱離能を有するDNA因子と共に、植物の染色体等、それらが導入され機能していたDNA上から脱離し、その頻度に差はあるものの、ある一定の確率でその機能を失う一方、これとは挙動を一つにしない目的遺伝子は、おなじDNA上に残留し続けることになる。それ故このベクターは、導入しようとする目的遺伝子に関する構成を変更するのみで、ある一つの植物体へ遺伝子の多重導入を行うために、何度でも無制限に繰り返して用いることができる。しかもこの形態異常誘導遺伝子の機能の消失は、遺伝子導入の際と同様に、遺伝子導入組織の培養中に起こる、その形態の変化として肉眼で検出できるので、目的遺伝子だけが染色体等に残留してその機能を保持している細胞のみからなる組織を、何ら特別な操作を行うことなく、その組織を培養するだけで確実・容易に選抜できることとなる。従って、たとえかかる細胞が実際に生ずる確率は低くとも、このベクターは十分に実用に供することができ、これを用いた遺伝子の多重導入も、ただ何回でも繰り返せるばかりではなく、完全な植物体を再生する前の培養組織の段階でこれを繰り返せるため、効率良く行うことができる。また、かかる細胞だけからなる遺伝子導入個体を得るためには、上記のようにして選抜した組織から植物体を再生するだけでよく、交配過程を経る必要もない。そしてこのようにして得られた遺伝子導入個体はまさに、マーカー遺伝子の遺伝子産物がもたらすかもしれない人体への悪影響に対する危惧から、完全に解放されたものなのである。加えてこのベクターは、マーカー遺伝子として形態異常誘導遺伝子を用いたことから由来する他の特徴、すなわち、遺伝子導入組織の選抜過程で、細胞活性の低下を招くおそれがある細胞成長阻害物質等を用いる必要がないという、前述したメリットをも合わせ持つことは言うまでもない。
【0027】
本発明のベクターは、遺伝子工学的手法により遺伝子導入が可能な、いかなる植物においても用いることができ、また、本発明のベクターにより植物に導入できる目的遺伝子は、農業的に優れた形質を付与できる遺伝子、農業的に優れた形質を付与するとは限らないが、遺伝子発現機構の研究に必要とされる遺伝子等、目的に応じて種々選択することができる。
【0028】
なお一般に、遺伝子から酵素等のタンパク質が産生されるには、これらポリペプチドの情報をコードしている構造遺伝子配列の他に、構造遺伝子のプロモーター配列(発現開始配列)、ターミネーター配列(発現終結配列)などの調節配列が必要とされ、例えば、植物で機能するプロモーター配列としては、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(J.T.Odell et al.、Nature(London)、313:810、1985)、ノパリン合成酵素のプロモーター(W.H.R.Langridge et al.、Plant Cell Rep.、4:355、1985)、リブロース2リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ小サブユニットのプロモーター(R.Fluhret al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、83:2358、1986)等が、またターミネーター配列としては、ノパリン合成酵素のポリアデニル化シグナル(A.Depicker et al.、J.Mol.Appl.Gen.、1:561、1982)、オクトピン合成酵素のポリアデニル化シグナル(J.Gielen et al.、EMBO J.、3:835、1984)等が知られている。従って、本発明において単に遺伝子とした場合には、構造遺伝子及び遺伝子発現調節配列を指す。ちなみに、本発明においては、実施例で使用した遺伝子発現調節配列に限ることなく、上記のような種々の遺伝子発現調節配列を使用することができる。さらに、遺伝子、すなわちDNAは、cDNAまたはゲノムDNAのクローニングにより得ることができるが、あらかじめそのシーケンスが明らかにされているものであれば、これを化学合成して得ることもできる。
【0029】
本発明のベクターは、植物に感染するウイルスや細菌を介して、植物細胞に間接的に導入することができる(I.Potrykus、Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.、42:205、1991)。この場合、例えば、ウイルスとしては、カリフラワーモザイクウイルス、ジェミニウイルス、タバコモザイクウイルス、ブロムモザイクウイルス等が使用でき、細菌としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(以下、A.ツメファシエンスと略す。)、アグロバクテリウム・リゾジェネス(以下、A.リゾジェネスと略す。)等が使用できる。なおアグロバクテリウム属は、一般に単子葉植物には感染せず、双子葉植物にのみ感染するとされているが、最近では、これらを単子葉植物へ感染させて遺伝子導入を行った例も報告されている(例えば、国際公開WO94/00977号公報)。
【0030】
本発明のベクターはまた、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、融合法、高速バリスティックベネトレーション法等の物理的・化学的手法によっても、植物細胞に直接導入することができる(I.Potrykus、Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.、42:205、1991)。単子葉植物の多くやアグロバクテリウムの感染しにくい双子葉植物に対しては、遺伝子導入法として汎用されているアグロバクテリウムを用いた間接導入法が使用できないため、これらの直接導入法が有効である。
【0031】
【作用】
本発明において、マーカー遺伝子として用いた形態異常誘導遺伝子は、これが発現することにより、その導入された植物細胞において、植物成長ホルモンの異常生産等、それぞれ、その細胞内の生理状態に異常をもたらし、結果としてその増殖・分化の方向を狂わせて様々な形態異常を引き起こす。つまり、ここで生じる異常な形態をした組織、例えば頂芽優勢の崩れた無秩序な芽の集合体(多芽体)や毛状根等は、こうした形態異常誘導遺伝子が導入された細胞に由来し、これが異常な増殖・分化をした結果生じたものであるので、この遺伝子を有する細胞のみからなっている。従って、これをマーカー遺伝子として目的遺伝子と共に植物細胞に導入してこの細胞を培養すれば、これから生じる異常な形態を示す組織を肉眼で選抜することのみにより、マーカー遺伝子、つまりは目的遺伝子が導入された細胞だけからなる組織を選抜できることとなるので、植物細胞成長阻害物質の培地中への添加等、特別な操作は何等行うことなく、肉眼による遺伝子導入組織の選抜が可能となる。
【0032】
さらに本発明では、脱離能を有するDNA因子をこの形態異常誘導遺伝子と組合せ、形態異常誘導遺伝子が脱離能を有するDNA因子と挙動を一つにする位置に組み込んで用いる。かかる構成を有するベクターを用いて植物に遺伝子を導入すれば、導入後、マーカー遺伝子である形態異常誘導遺伝子は、脱離能を有するDNA因子と共に、それらが導入され機能していたDNA上から、一定の確率で脱離してその機能を失う一方、これとは挙動を一つにしない目的遺伝子は同じDNA上に残留して機能を保持し続けることとなる。それ故このベクターは、導入しようとする目的遺伝子に関する構成を変更するのみで、マーカー遺伝子を始めとする他の構成に何等変更を加えることなく、ある一つの植物体へ遺伝子の多重導入を行うために、何度でも無制限に繰り返して用いることができる。マーカー遺伝子が機能を失った遺伝子導入組織等では、そのマーカー遺伝子の発現はもはや起こり得ないので、同じマーカー遺伝子の発現を何度でも繰り返して、新たな目的遺伝子導入の指標とすることができるからである。
【0033】
しかもこのマーカー遺伝子、つまり形態異常誘導遺伝子の機能の消失は、遺伝子導入の際と同様に、遺伝子導入組織の形態の変化として肉眼で検出できることから、この機能の消失した細胞だけからなる組織、換言すれば、目的遺伝子のみがその染色体等に残留して機能を保持している細胞だけからなる組織は、確実・容易に選抜できることとなる。すなわち、かかる細胞だけからなる組織を得るためには、まず、遺伝子導入処理後の細胞を培養して、形態異常誘導遺伝子の発現により生じてくる多芽体、毛状根等、異常な形態を示す組織を肉眼で選抜し、これを分離してさらに培養を続け、次いでこれらの形態異常を示す組織から生じてくる、今度は正常な形態を示す組織をやはり肉眼で選抜すればよい。つまり、選抜のための特別な操作は何等行わなくとも、培養と肉眼による選抜、そして分離を繰り返すだけでよいので、遺伝子の多重導入も効率良く行うことができる。さらに、かかる細胞だけからなる植物体も、得られた遺伝子導入組織から植物体を再生するだけで、交配過程を経ることなく取得することができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例において、更に詳細な実験操作は、特に述べる場合を除き、モレキュラー・クローニング第2版(Sambrook et al.eds.、Cold Spring Harbar Laboratory Press、New York、1989)、又は製造業者の取扱い説明書に従い行われた。
【0035】
【実施例】
参考例1]
I.ベクターの作成
病原性A.ツメファシエンスPO22株のT−DNA(我彦広悦、植物の化学調節、24:35、1989、(図1参照))上に存在するipt遺伝子を制限酵素PstIで切り出し、これをプラスミドpUC7(モレキュラー・クローニング第2版、第1巻、4.10)のPstI制限酵素部位と連結することにより、組換えプラスミドpIPT1を得た。このプラスミドから、プロモーター及びポリアデニル化シグナルを含むipt遺伝子を制限酵素BamHI及びPstIで切り出し、これをプラスミドpUC119(宝酒造(株)より購入)のBamHI−PstI制限酵素部位間に連結することにより、プラスミドpIPT2を得、次いで、このipt遺伝子の内、構造遺伝子とポリアデニル化シグナルを制限酵素RsaIで切り出し、これをプラスミドpUC119のSmaI制限酵素部位と連結することにより、組換えプラスミドpIPT3を得た。そしてさらに、pIPT3に挿入されたipt遺伝子を制限酵素BamHI及びSacIで切り出し、植物への遺伝子導入用ベクタープラスミドpBI121(CLONTECH社より購入)のBamHI−SacI制限酵素部位間に連結することにより、プラスミドpIPT4を作成した。このプラスミドを有するA.ツメファシエンスを植物に感染させた場合、その構造の内、いわゆるT−DNA領域と呼ばれるLBサイトとRBサイトの内側、ここではNPTII遺伝子とipt遺伝子を有する約5kbの領域が植物染色体に組み込まれることになる。
【0036】
なお、このプラスミドpIPT4は、大腸菌(Escherichia coli)JM109株に導入し、この大腸菌をE.coli JM109(pIPT4)(受託番号:FERM BP−5063号)として、国際寄託に付した。
【0037】
pIPT4の作成スキムを図2〜4に、また、そのT−DNA領域の制限酵素地図を図5に示す。図2〜4及び図5中、丸で囲ったP、Tはそれぞれ、ipt遺伝子自身のプロモーター及びポリアデニル化シグナルを、また35S−Pはカリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーターを、Nos−Pはノパリンシンターゼ遺伝子のプロモーターを示し、T(図4)またはNos−T(図5)は、ノパリンシンターゼ遺伝子のポリアデニル化シグナルを示す。
【0038】
参考例では、図5より明らかなように、マーカー遺伝子として形態異常誘導遺伝子のうち、頂芽優勢の崩壊を引き起こして多芽体形成に寄与するipt遺伝子を、また、目的遺伝子としてNPTII遺伝子をモデル的に用いた。ipt遺伝子は病原性A.ツメファシエンスが保持する腫瘍化遺伝子の一員であり、この遺伝子を導入された植物細胞は、植物ホルモンの一種であるサイトカイニンの過剰発現により、分化の方向が多芽体形成に向かうことになる。
【0039】
また本参考例では、ipt遺伝子の発現調節配列として、プロモーター配列はカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターを、ターミネーター配列はipt遺伝子自身のポリアデニル化シグナルを用いた。
【0040】
II.アグロバクテリウムへのpIPT4の導入
A.ツメファシエンスLBA4404株(CLONTECH社より購入)を、10mlのYEB液体培地(ビーフエキス5g/l、酵母エキス1g/l、ペプトン1g/l、ショ糖5g/l、2mM MgSO、22℃でのpH7.2(以下、特に示さない場合は、22℃でのpHとする。))に接種し、OD630が0.4から0.6の範囲に至るまで、28℃で培養した。培養液を、6900×g、4℃、10分間遠心して集菌した後、菌体を20mlの10mM Tris−HCl(pH8.0)に懸濁して、再度6900×g、4℃、10分間の遠心で集菌し、次いでこの菌体を200μlのYEB液体培地に懸濁して、これをプラスミド導入用菌液とした。
【0041】
15mlチューブ(ファルコン社)内で、プラスミド導入用菌液200μlとIで作成したプラスミドpIPT4 6μgを混合し、これを、あらかじめ液体窒素中で30〜40分間冷却しておいたエタノールにチューブごと5分間浸して冷却した後、29℃の水浴中に25分間置き、次いで、750μlのYEB液体培地を加えて29℃で1時間振盪して培養した。この菌液を、50mg/lカナマイシン添加YEB寒天培地(寒天1.2w/v%、他の組成は上記に同じ。)に播種して28℃で2日間培養し、得られた菌コロニーをYEB液体培地に移植してさらに培養した後、その菌体からアルカリ法でプラスミドを抽出した。抽出したプラスミドを制限酵素PstI、BamHI及びEcoRIを用いて切断し、これをアガロースゲル電気泳動にて分析することにより、このA.ツメファシエンスLBA4404株にプラスミドpIPT4が導入されていることを確認した。
【0042】
III.アグロバクテリウムからタバコへのpIPT4の導入
温室内で成育させたタバコ(Nicotiana tabacum cv.xanthi、特に記載する場合を除き、以下同じ。)の成葉を、1v/v%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に5分間浸漬して殺菌し、滅菌水で3回洗浄した後、中脈を取り除いて約8mm角の葉片となるよう調製した。このタバコ葉片を、IIにおいてpIPT4を導入したA.ツメファシエンスLBA4404株の菌液(OD630=0.25、YEB液体培地にて一夜培養後、滅菌水で稀釈して菌体濃度を調製。)に約1分間浸してこれに感染させた後、滅菌した濾紙の上に置いて余分な菌液を除いてから、アセトシリンゴン50mg/lを添加した植物ホルモンを含まない(ホルモンフリー)MS寒天培地(T.Murashige and F.Skoog、Physiol.Plant.、15:473、1962、但し、寒天0.8w/v%を添加。)に、葉の裏が上になるように置床した。これを25℃、全明(特に記載されない限り、外植片及び植物組織・植物体の培養はこの条件で行った。)で3日間培養後、カルベニシリン500mg/lのみを含むホルモンフリーMS寒天培地に移植して培養を続けたところ、不定芽22個が再分化し、この不定芽を分離してさらに同組成の培地で培養した結果、多芽体6系統が得られた。これらは1か月ごとに同培地に継代し、さらに3か月目からはカルベニシリンを含まないホルモンフリーMS寒天培地で数回継代して、アグロバクテリウムの増殖がないことを確認した後、カナマイシン耐性試験およびPCR分析に供した。
【0043】
IV.遺伝子導入を行ったタバコの解析
A.カナマイシン耐性試験
IIIにおいて得られた6系統の多芽体を、継代せずにそのまま培養することにより、これから展開してきた葉を切り取り、これを約3mm角に調製して、カナマイシン200mg/lを含むMS寒天培地(BA1mg/l、NAA0.2mg/l添加)に置床し、培養1か月後に観察を行った。その結果、同培地においてもこれら多芽体の系統より得た葉片からはすべて、多芽体形成が認められた。
【0044】
B.PCR分析
IIIにおいて得られた多芽体6系統のすべてより染色体DNAを抽出し、PCR法にて導入遺伝子の確認を行った。
【0045】
染色体DNAの抽出は、以下の改良CTAB法を用いて行った。
まず、多芽体の葉、約1gを液体窒素下で乳鉢を用いて粉砕し、これをあらかじめ60℃に保温しておいた、2w/v% CTAB(hexadecyltrimethylammonium bromide)、1.4M NaCl、0.2v/v% β−メルカプトエタノール、20mM EDTA、100mM Tris−HCl(pH8.0)よりなる緩衡液5mlに懸濁した。この懸濁液を60℃で30〜60分間、緩やかに振盪させながら加温し、次いで室温まで冷却した後、これに等容のクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)を加えて穏やかに混和した。続いて、1600×gで5分間の遠心分離を行って上清を回収し、この上清に2/3容のイソプロピルアルコールを加え、再び穏やかに混和した後、氷上に10分間静置して染色体DNAを析出させ、これを1600×gで10分間の遠心により沈殿させた。沈殿させた染色体DNAは、70v/v%エタノールで洗浄した後、真空乾燥し、300μlのTE(10mM Tris−HCl、1mM EDTA)に溶解した。
【0046】
一方、ipt遺伝子をPCR法にて検出するため、ipt遺伝子に結合した場合、2つのプライマー間の間隔が約800bpとなるように、用いるプライマー(オリゴヌクレオチド)をDNA合成機(Applied Biosystems社製)にて合成した。ipt遺伝子の増幅のために、抽出した染色体DNA1μgを、このプライマー0.2μMを含む、10mM Tris−HCl(25℃でのpH8.8)、50mM KCl、1.5mM MgCl、1w/v%TritonX−100、0.1mM dNTP、及び1.25ユニットのTaqポリメラーゼ(CETUS社より購入)という組成を有する混合液50μl中に溶解し、これを94℃で1分30秒間加温した後、94℃で1分、55℃で2分、72℃で3分の加温サイクルを30回繰り返して反応させた。得られた反応混合物をアガロースゲル電気泳動を用いて分析し、染色体DNA中のipt遺伝子の存在を、これに由来する約800bpの遺伝子が増幅されたことにより確認した。
【0047】
その結果を図6に示すが、図より明らかなように、この約800bpの遺伝子増幅は6系統の多芽体すべてにおいて認められた。なお図中、左に示した数値は、DNAサイズマーカーを泳動した際に検出される各バンド成分の塩基数を表す。
【0048】
参考比較例1]
参考例1のIIIにおいて、A.ツメファシエンス感染葉より再分化した不定芽から得られた、多芽体形成能のない芽、16系統についても解析を行った。すなわち、同IIIで不定芽22個を分離して培養した結果、多芽体6系統が選抜された時点で、多芽体ではなく正常な芽の形態(以下、正常体という)をしていたものについても、同III、IVで多芽体の系統にて行ったのと同様に、除菌し、カナマイシン耐性試験を行い、さらに、そのうちの9系統につきPCR分析を行った。しかし、これら正常体の系統では、カナマイシン添加培地に置床した葉片は約3か月程度ですべて褐変して枯死に至り、またPCR分析においても、ipt遺伝子の存在を示す約800bpのDNA断片の増幅は、分析した9系統のいずれからも検出することができなかった。
PCR分析の結果を図6に示す。
【0049】
参考例2]
I.ベクターの作成
プラスミドpHSG398(宝酒造(株)より購入)を制限酵素BamHIで切断し、その切断により生じた突出末端をT4DNAポリメラーゼI(大サブユニット)にて平滑化した後、この末端を再び連結してプラスミドpNPI100を得た。すなわちこのpNPI100は、pHSG398のBamHI制限酵素部位を消失させたものである。また一方、プラスミドpCKR97(T.Izawa et al.、Mol.Gen.Genet.、227:391、1991)を制限酵素PstIで切断し、トウモロコシのトランスポゾンAcを切り出して、これをpNPI100のPstI制限酵素部位に挿入し、プラスミドpNPI102を得た。
【0050】
次に、参考例1で作成したプラスミドpIPT4(図5)から、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターとそれに連結されたipt遺伝子を、制限酵素HindIII及びSacIで切り出し、その突出末端をT4DNAポリメラーゼIにて平滑化した後、これをプラスミドpUC119のHincII制限酵素部位に挿入して、プラスミドpNPI101を得た。このプラスミドpNPI101から、再びカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターとipt遺伝子を、今度は制限酵素PstI及びEcoRIで切り出し、その突出末端をT4DNAポリメラーゼIにより平滑化した後、これを、制限酵素BamHIで切断して突出末端を同様に平滑化したプラスミドpNPI102と連結させ、プラスミドpNPI103を得た。すなわちこのプラスミドpNPI103において、35Sプロモーターに連結されたipt遺伝子は、トランスポゾンAc内部の旧BamHI制限酵素部位に存在することとなる。
【0051】
目的とするベクターは、このプラスミドpNPI103から、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター及びipt遺伝子を含むトランスポゾンAcを、制限酵素PstIで切り出し、これを植物への遺伝子導入用ベクタープラスミドpBI121のSseI制限酵素部位に挿入することにより得られ、これをプラスミドpNPI106とした。
【0052】
なお、このプラスミドpNPI106もまた、大腸菌JM109株に導入し、この大腸菌をE.coli JM109(pNPI106)(受託番号:FERMBP−5064号)として、国際寄託に付した。
【0053】
プラスミドpNPI106の作成スキムを図7〜9に、また、そのT−DNA領域の制限酵素地図を図10に示す。図7〜9及び図10中、トランスポゾンAcの範囲は対向する黒三角形で示した。また図10中、Ac−PはAcに内在するプロモーターを示す。その他の記号は図2〜5と同様である。
【0054】
図10より明らかなように、このプラスミドはT−DNA領域、すなわち植物染色体に組み込まれることになる領域内に、マーカー遺伝子としてipt遺伝子を、目的遺伝子のモデルとしてNPTII遺伝子及びGUS(β−ガラクトシダーゼ)遺伝子を有しており、かつ、ipt遺伝子はトランスポゾンAcの内部に挿入された形で存在している。なおこのGUS遺伝子は、これを有する細胞が特殊な基質を代謝し、青色の色素を生産することから、これを検出して遺伝子の発現を知ることができるので、植物における遺伝子発現の解析に汎用されている遺伝子である。
【0055】
II.タバコへのpNPI106の導入及び遺伝子導入を行ったタバコの解析
A.タバコへのpNPI106の導入及び導入遺伝子の発現試験
参考例1のII、IIIと同様に、pNPI106をA.ツメファシエンスLBA4404株に導入して、このA.ツメファシエンスをタバコ葉片に感染させた後、感染葉を、アセトシリンゴン50mg/l添加ホルモンフリーMS寒天培地にて培養し、次いでカルベニシリンのみ500mg/lを添加した同培地で培養して、その培養2か月目に多芽体63系統を分離した。
【0056】
これらをさらに、同組成の培地(カルベニシリン500mg/l添加ホルモンフリーMS寒天培地)に移植して培養を続け、1か月後に、やや伸長した多芽体のシュート(以下、多芽体において発生する個々の芽のことを、シュートと呼ぶこととする。)の中から、他のシュートと比べて2倍程度以上の大きさに伸長し、かつ、側芽の発達も認められず、ipt遺伝子の影響が弱まっていると思われるシュートを肉眼により9個選抜し、そのシュートについた葉を用いて、参考例1のIV−Aと同様のカナマイシン耐性試験、及びJeffersonらの方法に準拠したGUS遺伝子の発現試験(GUS活性試験)を行った。また、葉を切り出した後のシュートについても、ホルモンフリーMS寒天培地に移植してさらに培養を続け、その1か月後の形態を観察し、そのシュートの多芽体形成能、すなわちipt遺伝子の発現を検定した。
【0057】
結果を表1に示す。
【表1】
Figure 0003584924
【0058】
表1から明らかなように、No.8のシュートでは、これより得られた葉がカナマイシン耐性及びGUS活性を有しているにもかかわらず、これ自体を1か月培養しても多芽体を形成しない。これは、ここで用いたベクターpNPI106において、多芽体の形成に寄与するipt遺伝子はトランスポゾンAcの内部に挿入された形で存在しているため、このベクターを保持するA.ツメファシエンスをタバコ葉片に感染させてその培養を始めた当初は、タバコ染色体中に導入され、発現していたipt遺伝子が、その後の培養中に、このAcの働きにより、これと共に脱離してその機能を消失したためであると考えられる。一方、同じベクター上でも、NPTII遺伝子とGUS遺伝子は、Acと挙動を一つにすることのない位置に挿入されているので、これらはNo.8のシュートにおいてもなお、その染色体中に残留して発現しているのである。
【0059】
また、表1中、No.3、5及び6のシュートでは、カナマイシン耐性、多芽体形成能が認められるにもかかわらず、GUS活性のみが陰性を示している。すなわち、これらのシュートではpNPI106を用いて導入した遺伝子のうち、GUS遺伝子のみが発現していないことになるが、これは、これらの遺伝子が植物染色体に導入される時に起こった組込みミスによるものと考えられる。つまり、A.ツメファシエンスを介して遺伝子導入を行った場合、pNPI106のような構造を有するプラスミドでは、本来、T−DNA領域、すなわちRBサイトとLBサイトの内側領域全体が植物染色体に組み込まれるはずであるが、時としてこの組込みが完全には行われず、これがLB末端側のある部分で千切れたような状態で組み込まれることがある。ここで用いたpNPI106では、そのT−DNA領域に挿入した遺伝子の中でGUS遺伝子が、最もLBサイトに近い位置に存在していることから、このような遺伝子導入時の組込みミスにより、これが千切れてその機能を失った状態で染色体に組み込まれたか、あるいは全く組み込まれなかったため、これらのシュートではGUS遺伝子の発現がなく、その活性も認められないものと考えられる。
ここで、No.2及びNo.8のシュートの1か月培養後の形態を図11、12に示す。
【0060】
なお、この時No.8のシュートから得られ、カナマイシン耐性試験に供した葉について、試験後も培養を続けたところ、5個の不定芽がこの葉から得られたが、これらはすべて正常体であった。
【0061】
B.PCR分析
表1におけるNo.1〜9のシュートにつき、その多芽体形成能を観察した後、参考例1のIV−Bと同様にしてPCR分析を行い、染色体中のipt遺伝子の存在等についてさらに検討を加えた。ただしここでは、参考例1のIV−Bで用いたプライマーに加えて、NPTII遺伝子とGUS遺伝子上に結合すべく設計されたプライマーも使用したが、これを用いてPCRを行うと、pNPI106のT−DNA領域から、Ac、及びその内部に挿入されたipt遺伝子の脱離が起こった場合、約3kbのDNA断片が増幅されるため、この増幅を指標として、Ac及びipt遺伝子の染色体DNAからの脱離を検出できることとなる。
ここで行ったPCR分析のうち、No.8のシュートについての結果を図13に示す。なお図中、左に示した数値については図6と同様である。
【0062】
これより明らかなように、No.8のシュートより抽出した染色体DNAにおいては、ipt遺伝子とAcの脱離を示す約3kbのDNA断片の増幅が認められる一方、ipt遺伝子の存在を示す約800bpのDNA断片の増幅は認められない。これは、ipt遺伝子がAcと共に、このシュートの染色体DNAから脱離・消失したことを意味するものである。
【0063】
なお、これに対してNo.1〜7、及び9のシュートでは、このとき、その染色体DNA試料のいずれからも約3kbのDNA増幅は検出されず、その一方で、約800bpの増幅はすべてにおいて検出された。従って、これらのシュートにおいてはipt遺伝子がなお、Acと共にその染色体DNA中に存在しているものと考えられる。
【0064】
参考比較例2]
参考例2のII−AのA.ツメファシエンス感染葉の培養において、多芽体と共に分化してきた正常体のうち3個を分離し、これらについて参考例2のIIと同様に、カナマイシン耐性試験、GUS活性試験、及び培養1か月後の形態観察、さらにPCR分析を行った。
【0065】
結果を表1に示すが、これらはいずれもカナマイシン耐性、GUS活性、及び多芽体形成能を有さず、さらにPCR分析においても、約800bp及び約3kbのDNA断片は、いずれもその増幅が検出されなかった。
【0066】
参考例3]
参考例2で分離した多芽体63系統のそれぞれ一部を、さらにホルモンフリーMS寒天培地に植え継いで培養を継続し、約2か月後に、2系統の多芽体から肉眼で識別できる正常な形態、すなわち頂芽優勢を示すシュート、No.13−1〜3、14−1〜4の計7個を得た。このシュートを分離して同組成の培地に移植すると正常な形態の伸長発根個体が得られ、そのうち、シュートNo.13−1及び14−1より得られた個体について、参考例2のII−Bと同様にPCR分析を行ったところ、約800bpのDNA断片の増幅はどちらからも検出されず、その一方、約3kbのDNA断片の増幅は両者で共に検出され、ipt遺伝子がAcと共に、これらの個体の染色体DNAから脱離・消失していることが確認された。結果を図14に示す。図中、左に示した数値については図6と同様である。またGUS遺伝子の発現は、7個のシュートより得られたすべての個体において検出された。
なお、ここで多芽体から正常なシュートが分化してきた状態を図15に示す。
【0067】
参考例4]
参考例2で選抜した9個のシュートのうち、表1においてNo.7としたシュートより得られた葉を、ホルモンフリーMS寒天培地で約1か月培養し、そこから分化してきた6個の不定芽より、正常体1個を肉眼により選抜・分離した。これを同組成の培地に移植すると正常な形態の伸長発根個体が得られ、さらに、これについて参考例2のII−Bと同様にPCR分析を行ったところ、約800bpのDNA断片の消失と約3kbの同断片の増幅により、その染色体DNAからipt遺伝子がAcと共に脱離・消失したことが確認された。結果を図16に示す。図中、左に示した数値については図6と同様である。また同じ個体について、GUS遺伝子の発現も確認された。
【0068】
[実施例
I.酵母からの部位特異的組換え系(pSR1系)の分離
酵母(Zygosaccharomyces rouxii、(財)発酵研究所より購入)を5mlのYPAD液体培地(酵母エキス10g/l、ポリペプトン20g/l、アデニン0.4g/l、グルコース20g/l)に接種し、30℃で一昼夜培養した。培養液を、6900×g、20℃、3分間遠心して集菌(以下、菌体の回収はすべて同条件で行なった。)し、得られた菌体を2mlの0.2M Tris−HCl(pH8.0)−5v/v% β−メルカプトエタノールに懸濁して、時折軽く撹拌しつつ25℃で30分間放置した後、回収した。この菌体に、ザイモリエイス−20T(生化学工業(株)より購入)2.5mg/mlを含む10w/v% ソルビトール−5w/v% KPO4(pH6.8)1mlを加えて懸濁し、30℃、90分間放置し、再び遠心分離により集菌した後、これを1mlの溶解液(0.2M NaCl、0.1M EDTA、5w/v% SDS、50mM Tris−HCl、pH8.5)に懸濁し、さらにProteinaseK(20mg/ml)を加え混合して、60℃で1時間放置した。次いでこの混合液を室温に戻し、フェノール:クロロホルム、クロロホルム抽出により順次精製した後、得られた上清にイソプロパノールを等量加え、染色体DNA及びプラスミドpSR1を析出させ、6900×g、4℃、10分間遠心してこれを沈殿させた。沈殿させたDNAは、70v/v%エタノールで洗浄した後、真空乾燥し、100μlのTEに溶解した。
【0069】
このようにして抽出したDNA(染色体DNA及びプラスミドpSR1の両方を含む)より、PCR法を用い、プラスミドpSR1に存在している部位特異的組換え系(これをpSR1系という。)のみを増幅した。pSR1系は、組換え酵素遺伝子であるR遺伝子と、組換え配列Rsとから構成され、その塩基配列もすでに明らかとなっている(H.Araki et al.、J.Mol.Biol.、182:191、1985)。本発明においては、R遺伝子の増幅のため、プラスミドpSR1の配列中、5596〜5617番目に当たる22塩基の5′位に、XbaI制限酵素部位を付加したプライマー(5′−CCTCTAGAATGCAATTGACCAAGGATACTG−3′)と、4126〜4147番目に当たる22塩基の5′位に、SacI制限酵素部位を付加したプライマー(5′−CCGAGCTCTTAATCTTGTCAGGAGGTGTCA−3′)を合成して使用し、一方、Rsの増幅には、2セット各30塩基(計4種類)のプライマーを合成・使用した。すなわち1セットは、プラスミドpSR1の塩基配列中、287〜316番目に当たる配列のうち3塩基を置換して、SseI制限酵素部位を導入した塩基配列を有するプライマー(5′−AGGATTGAGCTACTGGACGGGAATCCTGCA−3′)と、690〜719番目に当たる配列のうち4塩基を置換して、HindIII制限酵素部位とXhoI制限酵素部位を導入したものであるプライマー(5′−CAACTCGAGCAATCAAAGCTTCTCGTAGTC−3′)とからなり(このプライマーセットで増幅されるRsをRs1と呼ぶ。)、もう1セットは、同じくプラスミドpSR1の塩基配列中、287〜316番目に当たる配列のうち3塩基を置換して、XhoI制限酵素部位とEcoRI制限酵素部位を導入した塩基配列を有するプライマー(5′−AGGATTGAGCTACTCGAGGGGAATTCTGGA−3′)と、688〜717番目に当たる配列のうち5塩基を置換して、SseI制限酵素部位を導入したものであるプライマー(5′−ACTGGACCAATCCCTGCAGGTCGTAGTCAA−3′)とからなっている(このプライマーセットで増幅されるRsをRs2と呼ぶ。)。
【0070】
R遺伝子とRsの増幅のため、TE溶液とした抽出DNA100μlの内1μlを、それぞれのプライマーセット0.2μMを含む、参考例1のIV−Bで使用した混合液各50μl中に混合し、これらを、95℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 1分30秒の加温サイクル30回で反応させた。得られた反応混合物をアガロースゲル電気泳動を用いて分析し、R遺伝子とRsの増幅を確認した。
【0071】
II.ベクターの作成
PCR法により増幅したRs1を、制限酵素pstI及びXhoIで切断し、これをpSL1180(ファルマシア バイオテク(株)より購入)のPstI及びXhoI制限酵素部位に挿入し、プラスミドpNPI126を得た。
【0072】
次に、pHSG398のEcoRI制限酵素部位、及びHindIII制限酵素部位を消失させるため、これらの制限酵素による切断、T4ポリメラーゼI(大サブユニット)による切断末端の平滑化、さらにその平滑末端の再連結を順次繰り返し、これらの制限酵素部位が消失したプラスミドpNPI121を得、そのSalI及びPstI制限酵素部位に、PCR法により増幅したRs2を制限酵素XhoI及びPstIで切断して挿入し、プラスミドpNPI127を作成した。
【0073】
そしてこのpNPI127のSmaI及びXbaI制限酵素部位に、pNPI126から制限酵素SmaI及びSpeIで切り出されたRs1を挿入して、プラスミドpNPI128を得た。
【0074】
R遺伝子は、PCR法により増幅したその断片を、制限酵素XbaI及びSacIで切断して、pHSG398のXbaI及びSacI制限酵素部位に挿入した。これにより得られたプラスミドをpNPI124とした。
【0075】
次に、pBI221(CLONTECH社より購入)を制限酵素pstIで切断し、常法によりその切断末端を平滑化・連結して、そのSseI及びPstI制限酵素部位の消失したプラスミドpNPI111を得た。続いて、このpNPI111のXbaI及びSacI制限酵素部位に、そのGUS遺伝子と置換する形で、pNPI124より制限酵素XbaI及びSacIで切り出されたR遺伝子を挿入して、プラスミドpNPI125を作成し、さらに、これから、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターとそれに連結されたR遺伝子、及びノパリンシンターゼのポリアデニル化シグナルを制限酵素HindIII及びEcoRIで切り出して、これをpNPI128のHindIII及びEcoRI制限酵素部位に挿入することにより、プラスミドpNPI129を得た。
【0076】
また、pNPI101は制限酵素SmaIで切断し、その切断部位に5′リン酸化HindIIIリンカー(宝酒造(株)より購入)を挿入し、プラスミドpNPI122とした。すなわちこのpNPI122は、pNPI101のSmaI制限酵素部位をHindIII制限酵素部位に置換したものである。さらに、このpNPI122を制限酵素PstIで切断し、常法によりその切断末端を平滑化・連結して、そのSseI及びPstI制限酵素部位が消失した、プラスミドpNPI123を作成し、次いでこれから、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターとそれに連結されたipt遺伝子を、制限酵素HindIIIで切り出して、pNPI129のHindIII制限酵素部位に挿入し、プラスミドpNPI130を得た。
【0077】
目的とするベクターは、このpNPI130から、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターにそれぞれ連結されたipt遺伝子とR遺伝子、及びこれらの両端にあるRsを、制限酵素PstIで切り出して、pBI121のSseI制限酵素部位に挿入することにより得られ、これをプラスミドpNPI132と命名した。
【0078】
なお、このプラスミドpNPI132もまた、大腸菌JM109株に導入し、この大腸菌をE.coli JM109(pNPI132)(受託番号:FERMBP−5065号)として、国際寄託に付した。
【0079】
pNPI132の作成スキムを図17〜19に、また、そのT−DNA領域の制限酵素地図を図20に示す。図17〜19、及び20中、網かけした三角形は酵母のプラスミドpSR1に由来する組換え配列Rsと、その配列方向を表す。その他は図2〜5と同様である。
【0080】
図20より明らかなように、このプラスミドは、T−DNA領域にマーカー遺伝子としてipt遺伝子を、目的遺伝子のモデルとしてNPTII遺伝子及びGUS遺伝子を有している点では、pNPI106と同様である。しかしこの場合、脱離能を有するDNA因子として機能するのは、酵母の部位特異的組換え系であるpSR1系の組換え配列、Rs間の領域であり、従って、ipt遺伝子は、同一方向を向いたこの二つの組換え配列Rsに挟まれた形で挿入されている。
【0081】
III.タバコへのpNPI132の導入及び遺伝子導入を行ったタバコの解析
参考例1のII、IIIと同様に、pNPI132をA.ツメファシエンスLBA4404株に導入して、このA.ツメファシエンスをタバコ葉片(ここでは、Nicotiana tabacum cv. SR1を材料として用いた。)に感染させた後、感染葉を、アセトシリンゴン50mg/l添加ホルモンフリーMS寒天培地にて培養し、次いでカルベニシリンのみ500mg/lを添加した同培地で培養した。これを1か月後に同組成の培地に植え継いでさらに1か月培養を続け、多芽体48系統を分離した。
【0082】
これらを再び同組成の培地に移植してなお培養を続けたところ、約1か月後(すなわちA.ツメファシエンス感染後、約3か月)に、その48系統のうち7系統から、肉眼で見て正常な形態を示すシュートが生じ、これを分離してやはり同組成の培地に移植すると、結局10株の正常個体を得ることができた。
【0083】
これらについて、参考例2のII−Bと同様にPCR分析を行った結果を図21〜23、及び表2に示す。但しここでは、参考例2のII−Bで用いたプライマーの他に、GUS遺伝子の存在を確認できるプライマーも併せて使用した。これらを用いてPCR分析を行うことにより、ipt遺伝子が存在する場合には約800bp、ipt遺伝子がpNPI132のT−DNA領域から、Rsに挟まれた部分もろとも脱離した場合には約3kb(ここまでは、参考例2のII−Bで分析を行った場合と同様である。)、そしてGUS遺伝子が存在している場合には約1.7kbのDNA断片が増幅されることとなる。なお図21〜23中、左に示した数値については図6と同様である。
【0084】
【表2】
Figure 0003584924
【0085】
表2より明らかなように、ここで、肉眼によりその形態を観察することのみで選抜された個体の染色体からはいずれも、マーカー遺伝子であるipt遺伝子の存在は検出されず、かわってその脱離を示すDNA断片の増幅が検出された。一方、目的遺伝子として用いたGUS遺伝子の存在は、すべての個体において検出された。
【0086】
一方、ここで多芽体48系統とほぼ同時に生じた正常体(正常な芽の形態をしたもの)から得られ、正常な伸長・発根を示した個体についても、その頂芽を用いてカナマイシン耐性を検定したところ(カナマイシン200mg/l添加ホルモンフリーMS寒天培地使用)、その16個体のうち2個体がカナマイシン耐性を有することが判明した。
【0087】
そこで、このカナマイシン耐性個体についてさらに検討を加えるため、他のカナマイシン非耐性14個体のうちの3個体と共に、多芽体より得られたものの場合と同様にしてPCR分析を行った。この結果を図24に示す。図中の左に示した数値については、図6と同様である。
【0088】
図24より明らかなように、カナマイシン耐性を示す2個体では、それぞれ、ipt遺伝子を含むRsに挟まれた領域の脱離、及びGUS遺伝子の存在を示すDNA断片の増幅が検出され、これらの染色体には、pNPI132に由来すると考えられる遺伝子が組込まれていることを確認した。なお、カナマイシン非耐性の3個体ではかかる増幅は全く検出されず、また、ipt遺伝子の存在を示すDNA断片の増幅は、いずれの個体からも検出されなかった。
【0089】
本来、多芽体形成能のない系統より得られたこれらの個体は、そもそもA.ツメファシエンス感染時に、pNPI132が染色体中に導入されなかった細胞を起源とするはずであるが、そう仮定する以上、このベクターに由来する遺伝子がその染色体に存在することは考えられない。ましてや、その染色体中に、これに由来する遺伝子のうち、ipt遺伝子のみが存在せず、NPTII遺伝子(これらの個体がカナマイシン耐性を示すことより、その存在は明らかである。)、GUS遺伝子は完全な形で存在する個体が、かかる頻度で出現することはまず有り得ないことである。
【0090】
従って、これらの個体では、pNPI132が染色体に導入されなかったのではなく、一旦は導入されたと考えるのが妥当である。つまり、pNPI132のT−DNA領域は、A.ツメファシエンスの感染によってこれらの染色体に導入されたが、ここでマーカー遺伝子の脱離に利用したpSR1系の性能が良すぎたため、そのA.ツメファシエンスの感染後、多芽体を形成する前に、その働きによってipt遺伝子が染色体から脱離し、結局、NPTII遺伝子、GUS遺伝子だけが、そのままそこに残留し続けることになったのであろう。PCR分析により、かかるカナマイシン耐性個体において、GUS遺伝子の存在と同時に認められたipt遺伝子を含むRsに挟まれた領域の脱離も、これを裏付けるものである。
【0091】
[実施例
I.ベクターの作成
pBluescriptII SK+(東洋紡績(株)製)のEcoRI制限酵素部位に挿入された、rolArolB、及びrolCを含む、全長7.6kbのrol遺伝子群(S.Kiyokawa、Plant Physiol.、104:801、1994)を制限酵素EcoRIで切り出し、これをpNPI129のEcoRI制限酵素部位に挿入して、プラスミドpNPI700を作成した。
【0092】
次いでこのpNPI700から、rol遺伝子群、及びカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターとそれに連結されたR遺伝子、及びこれらの両端にあるRsを、制限酵素SseIで切り出し、これをpBI121のSseI制限酵素部位に挿入して、目的とするプラスミドpNPI702を得た。
【0093】
なお、このプラスミドpNPI702もまた、大腸菌JM109株に導入し、この大腸菌をE.coli JM109(pNPI702)(受託番号:FERMBP−5066号)として、国際寄託に付した。
【0094】
pNPI702の作成スキムを図25に、また、そのT−DNA領域の制限酵素地図を図26に示す。なおこれらの図中、用いた記号は図2〜5と同様である。
【0095】
図26より明らかなように、このプラスミドはマーカー遺伝子をpNPI132のipt遺伝子から、rol遺伝子群に置き換えたものである。なお、本実施例で用いたrol遺伝子群は、天然にはA.リゾジェネスのT−DNA上に存在し、これが植物細胞に導入されると、その植物組織に毛状根を発生させ、またこれから再生した植物体においても矮化等の形態異常を引き起こすことが知られている。
【0096】
II.タバコへのpNPI702の導入及び遺伝子導入を行ったタバコの解析
参考例1のII、III と同様に、pNPI702をA.ツメファシエンスLBA4404株に導入して、このA.ツメファシエンスをタバコ葉片に感染させ、感染葉をアセトシリンゴン50mg/l添加ホルモンフリーMS寒天培地にて3日間暗所で培養した。次いでチカルシリンのみ400mg/lを添加した同培地で培養したところ、毛状根の分化が培養開始後15日過ぎ頃より認められたので、この毛状根を順次分離し、シュート誘導培地(α−ナフタレン酢酸0.1mg/l、ベンジルアデニン2.0mg/l、チカルシリン400mg/l添加MS寒天培地)に置床・培養して不定芽を分化させ、そのうち正常な形態をしていると思われるもの18個体を肉眼で選抜した。これらについて参考例2のII−Bと同様にPCR分析を行い、そのうちの9個体について、その染色体から、rol遺伝子を含むRsで挟まれた領域が脱離していることを確認した。なお、ここではプライマーとして、かかる脱離が検出されるプライマー(実施例1、参考例2〜4及び参考比較例2で用いたものと同じ。すなわち、約3kbのDNA断片の増幅により検出。)と、rol遺伝子の存在を検出するためのプライマー(約1.1kbのDNA断片の増幅により検出)を用いた。
【0097】
参考
参考例2で作成したベクター、pNPI106を用いて、木本植物である交雑ヤマナラシ(ポプルス・シーボルディ×ポプルス・グランディデンタータ:Populus Sieboldii×Populus grandidentata)への遺伝子導入を行った。
【0098】
交雑ヤマナラシY63株(秋田十條化成(株)内実験林より採取)の無菌フラスコ苗の茎を、節を含まないように長さ5mmに切断し、これをさらに縦に二つ割りにして材料として用い、pNPI106を導入したA.ツメファシエンスを参考例1のIIIと同様にして感染させた。感染後、この茎切片を、アセトシリンゴン40mg/lを添加したホルモンフリー修正MS寒天培地(シュークロース2w/v%、寒天0.8w/v%)に置床して3日間培養し、次いでカルベニシリンのみ500mg/lを添加した同培地に移植して培養を続けた。なお、ここで用いた修正MS培地とは、通常のMS培地の組成のうち、アンモニア態窒素、及び硝酸態窒素の濃度を、それぞれ10mM、30mMに変更したものである。
【0099】
約2か月後、この切片から生じた不定芽を分離し、さらに2か月間培養を行うことにより多芽体6系統が得られたが、これらについて引き続き継代培養を行ったところ、約4か月経過後(A.ツメファシエンス感染より約8か月後)から、この多芽体より伸長する、正常な形態のシュートが認められ始めた。これらのシュートは、IBA0.05mg/lを添加した2/3倍稀釈MSジェランガム培地(シュークロース2w/v%、ジェランガム0.3w/v%)に移植して培養することにより、正常な発根個体となすことができ、結局、A.ツメファシエンス感染10か月目までには、2系統の多芽体より、合わせて7個の正常個体を得ることができた。
【0100】
これらについて、実施例1のIIIと同様にPCR分析を行ったところ、ipt遺伝子はその全ての個体において検出されず、またGUS遺伝子に関しては、このうち2個体においてその存在が検出され、本発明のベクターが、木本植物においても有効に機能することが確認された。なお、残りの5個の正常個体については、GUS遺伝子はその一部分の存在のみしか検出されなかったが、かかる個体は、ここで用いたベクター、pNPI106により導入されたトランスポゾンAcが、ipt遺伝子と共にその染色体より脱離する際に、その近辺にあったGUS遺伝子をも巻き込み、これを引き千切るようにして脱離してしまった結果、生じたものであると考えられる。
ここで、多芽体から正常なシュートが分化してきた状態を図27に示す。
【0101】
[実施例
実施例において、pNPI132により遺伝子を導入された正常個体(多芽体を経由したもの)に対し、さらに本発明のベクターを用いて遺伝子導入を行った。
【0102】
pNPI132のGUS遺伝子のみをHPT遺伝子(ハイグロマイシン抵抗性遺伝子)に置き換え、これ(pNPI140、図28)を用いて上記正常個体に対し、参考例1のII、IIIと同様に遺伝子導入操作を行った。多芽体は、このベクターを導入したA.ツメファシエンスの感染から40日後に10系統を得ることができ、これを分離し、同組成の培地(カルベニシリン500mg/l添加ホルモンフリーMS寒天培地)に移植してなお培養を続けたところ、20日後(すなわち、A.ツメファシエンスの感染から約2か月後)には、そのうち1系統で、肉眼で見て正常な形態を示すシュートの分化が認められた。
【0103】
この分化してきた正常なシュートのうちの1個について、参考例1のIV−Bと同様にPCR分析を行った結果を図29に示す。但しここでは、参考例1のIV−Bで用いたプライマーの他に、ipt遺伝子を含むRsに挟まれた領域の染色体DNAからの脱離を検出するため、NPTII遺伝子とHPT遺伝子上に結合すべく設計されたプライマー、及びHPT遺伝子の存在を検出するためのプライマーを併せて使用した(それぞれ、約4kb及び約1kbのDNA断片の増幅により検出。)。なお図中、左に示した数値については図6と同様である。
【0104】
図29より明らかなように、このシュートから抽出した染色体DNAのPCR分析においては、Rsに挟まれた領域と共にipt遺伝子が脱離したことを示す約4kbのDNA断片、及びHPT遺伝子の存在を示す約1kbのDNA断片の増幅が認められる一方、ipt遺伝子の存在を示す約800bpのDNA断片の増幅は認められない。これは、このシュートの染色体DNA中に、一旦は導入されたipt遺伝子が、その後、Rsに挟まれた領域と共にそこから脱離・消失した一方、HPT遺伝子はそのDNA中に残留していること、つまり、先にpNP1132により目的遺伝子(NPTII遺伝子及びGUS遺伝子)を導入された個体に対し、その構成のうち目的遺伝子に関する構成のみを変えたベクターにより、ipt遺伝子という同じ遺伝子をマーカーとして、新たな目的遺伝子(HPT遺伝子)が重ねて導入されたこと、さらには再び同じマーカー遺伝子を用いて、第3、第4、あるいはそれ以上の目的遺伝子の導入が可能であることを示すものである。
【0105】
以上の実施例及び参考例より明らかなように、ここで得られた多芽体の系統は、必ずipt遺伝子をその染色体中に有し(図6)、また、この多芽体という、肉眼で識別可能な顕著な形態異常を示す組織はすべて、ipt遺伝子と共に導入したモデル的な目的遺伝子である、NPTII遺伝子の発現によるカナマイシン耐性を例外なく示した。これは、かかる形態異常誘導遺伝子が、植物へ遺伝子導入を行う際のマーカー遺伝子として十分に適用可能であり、これをマーカー遺伝子とする本発明のベクターもまた、植物への遺伝子導入用ベクターとして有用であることを証明するものである。
【0106】
また、このipt遺伝子をトランスポゾンAcの内部に組み込んだベクター、pNPI106を用いて植物への遺伝子導入を行うと、遺伝子導入操作を行った直後の培養当初には多芽体を形成した組織から、目的遺伝子(NPTII遺伝子及び/またはGUS遺伝子)により付与される特性は保持したまま、ipt遺伝子が染色体から消失して多芽体形成能を失ったシュート等が得られ(表1、図13、14、16)、しかも、かかるシュート等の形態は肉眼で識別可能であり(図15、27)、これらを選抜・分離して培養することにより、正常な形態をした伸長発根個体が得られた。また、このシュートより得られた組織からさらに再分化した組織も、すべて多芽体形成能はなく正常な形態を示し、このようなシュート等が均一な細胞からなることを明示した。
【0107】
さらに同様の結果は、脱離能を有するDNA因子として部位特異的組換え系に由来するものを用いた場合、形態異常誘導遺伝子としてrol遺伝子を用いた場合にも観察された。すなわち、かかるベクターを用いて植物への遺伝子導入を行った場合(実施例)でも、遺伝子導入操作後ある時期までは異常な形態を形成した組織から、目的遺伝子は保持したまま、形態異常誘導遺伝子がその染色体から消失し、正常な形態を示す組織、そして個体が得られ(図21〜23、表2)、しかもこの同じ個体に対し、目的遺伝子に関する構成のみを変えたベクターにより、同じ形態異常誘導遺伝子をマーカーとして、遺伝子導入操作・培養・肉眼による選抜を繰り返すことにより、目的遺伝子を多重に導入することも可能であった(実施例、図29)。
【0108】
従って、マーカー遺伝子として形態異常誘導遺伝子、脱離能を有するDNA因子として部位特異的組換え系に由来するDNA因子を用い、この形態異常誘導遺伝子が脱離能を有するDNA因子と挙動を一つにする位置に組込んだ、かかるベクターを用いれば、まず、遺伝子導入操作後の細胞を培養して生じてくる異常な形態を示す組織を肉眼で選抜し、これを分離してさらに培養を続け、次いで生じてくる今度は正常な形態を示す組織をやはり肉眼で選抜するだけで、目的遺伝子のみが染色体等に残留してその機能を保持している細胞のみからなる組織、さらには植物体が得られることとなる。
【0109】
しかも脱離能を有するDNA因子として、部位特異的組換え系を用いると、かなり高い確率で形態異常組織から正常個体が得られる。加えて、その脱離も速やかに起こるため、正常な形態をした組織もまた、より速やかに効率よく検出可能となるのである。
【0110】
脱離能を有するDNA因子として、トランスポゾンを用いた場合、及び部位特異的組換え系に由来するものを用いた場合に、生じた形態異常組織から目的遺伝子を保持した正常個体が得られる効率を、表3に比較して示す。
【0111】
【表3】
Figure 0003584924
【0112】
なお、実施例1及び参考例1においてはいずれの場合にも、植物ホルモン無添加の条件で、遺伝子導入細胞を含む組織は増殖し、不定芽を分化し、さらには植物体を再生したが、これは、マーカー遺伝子として遺伝子導入細胞の染色体に組込まれた、ipt遺伝子の働きによるものと考えられる。つまり、これらの遺伝子の発現により、その連結されたプロモーターの働きによる多少はあるものの、植物ホルモンがその細胞内で過剰に生産されるため、その細胞自体が多芽体等の組織を分化するだけではなく、これが隣接する組織にもその産生する植物ホルモンがある程度作用し、結局、培地中に植物ホルモンを人為的に添加したのと同様な状態になったのである。
【0113】
【発明の効果】
本発明で使用するベクターは、マーカー遺伝子として形態異常誘導遺伝子を使用したものである。このため、これを用いて植物への遺伝子導入を行った場合、目的遺伝子導入組織の選抜にあたっては、遺伝子導入操作後の細胞を通常の培地を用い、通常の培養条件で培養して、生じてくる異常な形態をした組織を肉眼により識別するだけでよく、選抜のため化学物質等を培地中へ添加する必要がないため、作業が簡略化され、またその選抜中に植物細胞の活性低下を招くおそれもない。
【0114】
また、この形態異常誘導遺伝子としてipt遺伝子を用いた場合には、その働きにより、遺伝子導入細胞を含む組織は増殖し、不定芽等を分化するので、通常は植物細胞の培養において、その増殖・分化のために必須とされる、培地中への植物ホルモン添加も不要とすることができる。
【0115】
加えて、このベクターは、形態異常誘導遺伝子を、部位特異的組換え系に由来する脱離能を有するDNA因子と挙動を一つにする位置に組み込んで使用する。すると、このマーカー遺伝子は、植物細胞への遺伝子導入後に一定の確率で、かかるDNA因子と共に、これが存在し機能するDNA上から脱離してその機能を失い、同時に導入されたこれとは挙動を一つにしない位置に存在する目的遺伝子のみが、同じDNA上に発現可能な状態で残留することとなる。このため、このような構成をとった場合、このベクターは、導入しようとする目的遺伝子に関する部分を変更するのみで、マーカー遺伝子を始めとする他の構成に何らの変更をも加えることなく、ある一つの植物体へ遺伝子の多重導入を行うために、何度でも無制限に繰り返して用いることができる。
【0116】
しかもこの場合も、マーカー遺伝子である形態異常誘導遺伝子の機能の消失は、遺伝子導入の際と同様に、遺伝子導入組織の形態の変化として肉眼で検出できるので、目的遺伝子のみが染色体等に残留してその機能を保持している細胞だけからなる組織を、確実・容易に選抜できることとなる。従って、遺伝子の多重導入も効率良く行え、また、かかる細胞だけからなる遺伝子導入個体、すなわちマーカー遺伝子の影響が排除され、その遺伝子産物がもたらす危惧から完全に解放された個体も、交配過程を経ることなく得ることができる。
【0117】
つまり、マーカー遺伝子の影響が排除され、その遺伝子産物がもたらす危惧から完全に解放され、かつ、遺伝子導入に用いたベクターに由来する構成以外の部分が、遺伝子導入の対象となった親植物と同一の遺伝子構成を有する個体が作成されるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】Tiプラスミドの一般的構造、及びA.ツメファシエンスPO22株T−DNA領域のPstI断片制限酵素地図を含む概念図である。
【図2】pIPT4作成スキムのうち、pIPT2の作成までを示す図である。
【図3】pIPT4作成スキムのうち、pIPT2からpIPT3の作成までを示す図である。
【図4】pIPT4作成スキムのうち、pIPT3からpIPT4の作成までを示す図である。
【図5】pIPT4の構造のうち、T−DNA領域の制限酵素地図である。
【図6】pIPT4を用いて遺伝子導入を行ったタバコより生じた、多芽体のPCR分析結果を示す図である。
【図7】pNPI106作成スキムのうち、pNPI102の作成までを示す図である。
【図8】pNPI106作成スキムのうち、pIPT4及びpNPI102からpNPI103の作成までを示す図である。
【図9】pNPI106作成スキムのうち、pNPI103からpNPI106の作成までを示す図である。
【図10】pNPI106の構造のうち、T−DNA領域の制限酵素地図である。
【図11】生物の形態を示す写真であり、参考例2におけるNo.2のシュートの1か月培養後の状態を示している。
【図12】生物の形態を示す写真であり、参考例2におけるNo.8のシュートの1か月培養後の状態を示している。
【図13】参考例2におけるNo.8のシュートのPCR分析結果を示す図である。
【図14】参考例3におけるNo.13−1、14−1のシュートより得られた正常個体のPCR分析結果を示す図である
【図15】生物の形態を示す写真であり、参考例3においてタバコの多芽体から正常なシュートが分化してきた状態を示している。
【図16】参考例4において、参考例2におけるNo.7のシュートより生じた葉から得られた、正常個体のPCR分析結果を示す図である。
【図17】pNPI132作成スキムのうち、pNPI128の作成までを示す図である。
【図18】pNPI132作成スキムのうち、pNPI128からpNPI129の作成までを示す図である。
【図19】pNPI132作成スキムのうち、pNPI101及びpNPI129からpNPI132の作成までを示す図である。
【図20】pNPI132の構造のうち、T−DNA領域の制限酵素地図である。
【図21】実施例において、系統No.15〜21のシュートより得られた正常個体のPCR分析結果を示す図のうち、ipt遺伝子の存在が検出されるプライマーを使用して行った結果を示すものである。
【図22】実施例において、系統No.15〜21のシュートより得られた正常個体のPCR分析結果を示す図のうち、ipt遺伝子を含むRsに挟まれた領域の脱離が検出されるプライマーを使用して行った結果を示すものである。
【図23】実施例において、系統No.15〜21のシュートより得られた正常個体のPCR分析結果を示す図のうち、GUS遺伝子の存在が検出されるプライマーを使用して行った結果を示すものである。
【図24】実施例において、多芽体形成能のない系統より生じた正常個体のPCR分析結果を示す図である。
【図25】pNPI702の作成スキムを示す図である。
【図26】pNPI702の構造のうち、T−DNA領域の制限酵素地図である。
【図27】生物の形態を示す写真であり、参考において交雑ヤマナラシの多芽体から正常なシュートが分化してきた状態を示している。
【図28】pNPI140の構造のうち、T−DNA領域の制限酵素地図である。
【図29】実施例において、遺伝子の多重導入後、多芽体より分化してきた正常なシュートのPCR分析結果を示す図である。

Claims (2)

  1. 次の過程(A)、(B)、(C)、(D)を経ることにより、交配過程なしに作成される、マーカー遺伝子の影響が排除された遺伝子導入植物。
    (A)目的遺伝子、マーカー遺伝子として形態異常誘導遺伝子、及び部位特異的組換え系に由来する脱離能を有するDNA因子を含み、かつ、形態異常誘導遺伝子はこの脱離能を有するDNA因子と挙動を一つにする位置に存在し、また目的遺伝子は、この脱離能を有するDNA因子とは挙動を一つにすることがない位置に存在する、植物への遺伝子導入用ベクターを植物細胞に導入する過程
    (B) このベクターにより遺伝子導入された植物細胞を培養し、その培養中に生ずる、植物組織の形態異常を検出し、この形態異常を示す組織を選抜する過程
    (C) 前記(B)で選抜した形態異常を示す組織を培養し、その培養中に出現する、正常な形態を有する組織を検出して選抜する過程
    (D) 前記(C)で選抜した正常な形態を有する組織を培養し、植物体を再生する過程
  2. 次の過程(A)、(B)、(C)、(D)を経ることにより、交配過程なしに作成される、2以上の目的遺伝子が導入された遺伝子導入植物。
    (A)目的遺伝子、マーカー遺伝子として形態異常誘導遺伝子、及び部位特異的組換え系に由来する脱離能を有するDNA因子を含み、かつ、形態異常誘導遺伝子はこの脱離能を有するDNA因子と挙動を一つにする位置に存在し、また目的遺伝子は、この脱離能を有するDNA因子とは挙動を一つにすることがない位置に存在する、植物への遺伝子導入用ベクターを植物細胞に導入する過程
    (B) このベクターにより遺伝子導入された植物細胞を培養し、その培養中に生ずる、植物組織の形態異常を検出し、この形態異常を示す組織を選抜する過程
    (C) 前記(B)で選抜した形態異常を示す組織を培養し、その培養中に出現する、正常な形態を有する組織を検出して選抜する過程
    (D) 前記(A)〜(C)の過程を1回以上繰り返した後、(C)で選抜した正常な形態を有する組織を培養し、植物体を再生する過程
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