JP3576263B2 - 異方性薄膜の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
【0002】
本発明は、機能性薄膜及びその製膜技術に関し、詳しくは、電子写真感光体、太陽電池などに有用な異方導電性膜(異方導電性膜、異方光導電性膜など)や光メモリー、カラーフィルターなどに有用な光学的異方性膜の製造方法に関する。
【従来の技術】
【0003】
機能性薄膜には多くの種類のものが知られているが、その中で、特開昭62−281310号、特開平5−253466号などに開示されている磁気異方性薄膜は磁気異方性や加工特性を利用し、磁気記録材料、電磁波吸収体、電流変換素子などの広範な分野に使用されている。
【0004】
しかし、これら文献に記載された技術は常磁性を有する磁気異方性薄膜の製造法の紹介であり、そこに記述された内容は、反磁性の異方性秩序配向(高次構造制御)により薄膜化させた異方性(光学的、電気的、光導電性、熱的、機械的など)を有する薄膜とは本質的に異なるものである。もっともPhysica B 164(1990)222−228、North−Holland(YAMAGISHI等)においては、反磁性の異方性を利用してポリマー繊維を磁場中で配向させることが開示されている。この技術内容は方法論的には本発明と同じであるが、ここには薄膜化の手段については何等触れられていない。
【課題が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、反磁性の異方性を有する粒子を磁場中で配向させて薄膜化することにより異方性のある薄膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、反磁性の異方性を有する粒子が一定の秩序をもって配向され、前記粒子1個当りの反磁性の異方性Δxが
Δx>10 −28 [erg・G −2
である異方性薄膜の製造方法であって、磁場中に存在する前記粒子を
Δx・H >1.5kT
H:磁束密度[G]
k:Boltzmann定数(1.381×10 −16 [erg・K −1 ])
T:絶対温度[K]
の条件下で、ミセル電解法を用いて薄膜化することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、反磁性の異方性を有する粒子が一定の秩序をもって配向され、前記粒子1個当りの反磁性の異方性Δxが
Δx>10 −28 [erg・G −2
である異方性薄膜の製造方法であって、磁場中に存在する前記粒子を
Δx・H >1.5kT
H:磁束密度[G]
k:Boltzmann定数(1.381×10 −16 [erg・K −1 ])
T:絶対温度[K]
の条件下で、光電気化学的ミセル薄膜形成法を用いて薄膜化することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、反磁性の異方性を有する粒子が一定の秩序をもって配向され、前記粒子1個当りの反磁性の異方性Δxが
Δx>10 −28 [erg・G −2
である異方性薄膜の製造方法であって、磁場中に存在する前記粒子を
Δx・H >1.5kT
H:磁束密度[G]
k:Boltzmann定数(1.381×10 −16 [erg・K −1 ])
T:絶対温度[K]
の条件下で、電着法を用いて薄膜化することを特徴とする。
【発明の実施の形態】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために、いろいろな角度から研究・検討を重ねてきた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば(1)第一に、反磁性の異方性を有する粒子が一定の秩序をもって配向してなることを特徴とする異方性薄膜、及び(2)第二に、磁場中に存在する前記(1)の粒子を
Δx・H>1.5kT
Δx:粒子1個当りの反磁性の異方性[erg・G −2
H:磁束密度[G]
k:Boltzmann定数1.381×10−16[erg・K−1
T:絶対温度[K]
の条件下で薄膜化することを特徴とする異方性薄膜の製造方法、が提供される。
【0010】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。先にあげたYAMAGISHI等によれば、反磁性の異方性Δxを有する粒子(分子、高分子、微結晶、凝集体などで、微粒子を含む)が磁束密度Hの磁場中に置かれた場合、Δxが10−27[erg・G−2]程度の通常のπ電子系有機分子では、300K(室温)において、約1000[T](10G)の超強磁場下まで、その配向の度合を表すオーダーパラメータ〈m〉は、〈m〉=Δx・H/15kTで表わされる。
【0011】
ところが、一般に形成できる磁場は、定常磁場で約20[T]まで、ハイブリッド等の特殊な構成によっても約40[T]までであり、パルス磁場の場合には、非破壊で約100[T]まで、破壊型で約1000[T]までという報告がある。従って、粒子が配向したと認める基準として、〈m〉>0.1を設定すると、Δx>10−28[erg・G−2]が導かれる。これは最低の条件であり、通常は、H=10[T]程度、〈m〉≒1が最も実用的であり、この場合はΔx>10−23[erg・G−2]といった条件が導き出されてくる。これは、1個の粒子中に、10−27[erg・G−2]程度の反磁性の異方性を有する分子が、10個以上、一定の秩序をもって含まれていることを意味する。本発明の異方性薄膜は反磁性の異方性を有する粒子が一定の秩序をもって配向されたものから形成されているが、このものは望ましくは、異方性固体薄膜である。
【0012】
一方、薄膜化の条件としては、〈m〉>0.1の条件下では、Δx・H>1.5kTであるが、最も有用な〈m〉≒1.0を実現する為には、Δx・H>15kTが必要となる。例えば、前述のH=10[T]、Δx=10−23[erg・G−2]の場合、左辺は10−13、右辺は6.2×10−13となり、Δxをもう一桁大きくする(粒子中の分子数を多くする、即ち、もう少し大きな微結晶を使う)必要がある。
【0013】
薄膜化の方法については、磁場中で使用可能な手段であれば何でも良いが、磁場が限られた空間にのみ形成されることを考慮すれば、気相法は装置が大がかりになり具合が悪く、液相法が適している。簡単には、磁場中で溶媒を蒸発させて薄膜を作製する溶媒蒸発法がある。薄膜を作製する方法としては、電解重合法やLB法等があるが、これらの方法は、複数の分子からなる粒子(例えば微結晶)には不向きである。
【0014】
この様な粒子(例えば顔料粒子)を薄膜化する方法としては、ミセル電解法(EMD法)、光電気化学的ミセル薄膜形成法(PMD法)、電着法が挙げられる。その他、反磁性の異方性を有する粒子を光重合性モノマーに分散させて、モノマーを光重合させる方法も効果的である。ここで、EMD法とは、特殊なミセル分散液中に顔料結晶等の粒子を分散させ、このミセルを電気化学的に分解することにより、ミセル分散液中に担持された粒子を電極上にデポジションさせる方法である。また、PMD法とは上記の反応を光のアシストで行う方法であり、光によるパターニングが可能になる。
【0015】
粒子としては、本発明の異方性薄膜の応用を考えると、フタロシアニンやペリレン系等の顔料結晶等の使用が望ましいが、これに限定されず、前記の条件を満足する微結晶、凝集体、高分子などが選択される。
【実施例】
【0016】
次に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
【0017】
実施例1
T.Saji等の方法(J,Amer,Chem.,113(1991)450−456)を用いてX型フタロシアニン顔料のミセル分散溶液を調製した。このフタロシアニン顔料分散ミセル溶液を、超電導磁石により発生させた15[T]の磁場中にて電解した。その際、陽極には酸化スズ透明電極、陰極にはPt板を用いた。その結果、透明電極上にはX型フタロシアニン薄膜が得られた。なお、磁場は電極に垂直に印加した。比較として、磁場を存在させない(H=0[T])こと以外は同様にして、X型フタロシアニンのミセル電解薄膜を作製した。
【0018】
この様にして、得られた薄膜の吸収スペクトルから、775nmの吸光度を測定すると、A(H=15[T])/A(H=0[T]) = 0.5となった。これは、ミセル中に分散したX型フタロシアニン微結晶が、磁場の印加により、反磁性の異方性に起因する力を受け、平均的に、フタロシアニン環平面を磁場に並行する方向に秩序配列して薄膜化した為と考えられる。(反磁性磁化率は、フタロシアニン分子の場合、フタロシアニン平面に垂直の方向に大きく、平面に平行な方向との差Δx(分子)=0.9×10−27[erg・G−2]である。)
SEM TEMによる観察の結果、この場合、フタロシアニン粒子は、長軸が1000[Å]程度、短軸が100[Å]程度の微結晶から成っている。フタロシアニン微結晶の密度を近似的に1.0と仮定すると、この中には少なくとも10個のフタロシアニン分子が含まれている。従って、この微結晶のΔxは10−21[erg・G−2]程度となり、H=15[T]=1.5×10[G]を用いて、Δx・H〜2×10−11>15kTとなる。この薄膜は、ミセル電解法により得られ、H=0場合とH≠0の場合の吸光度の違いから、明らかに磁場が存在する場合、微粒子は、フロシアニン環平面を磁場に平行な方向、即ち、反磁性の異方性に起因する力により、粒子が安定化する方向に秩序配列することがわかる。
【0019】
さらに、この磁場中で得られた薄膜の電気電導度を測定し、H=0の場合と比べてみたところσ(H=15[T])/σ(H=0[T]) ≧ 10と10倍以上の異方性を示した。
【0020】
実施例2
1,3,5−トリフェニルベンゼン50[mg]を10[ml]のアセトンに溶解させ、直径40[mm]のシャーレに入れ、H=8[T]の磁場中で溶媒を蒸発させた。なお、磁場は、液面に平行に(重力方向に垂直に)印加した。磁場の無い場合、シャーレの底に幅0.5〜1.5[mm]、長さ3〜5[mm]の柱状結晶が一様に析出した。一方、H=8[T]の場合、幅0.2[mm]程度、長さ1〜2[mm]の針状(拡大すると柱状に見える)結晶が、その長軸を磁場に垂直に向けて秩序配列して析出した。H=8[T]の場合、更にこの針状結晶が長軸を重力方向に向けやはり磁場に垂直に、即ちシャーレの壁面に沿って析出した。
【0021】
1,3,5−トリフェニルベンゼンのΔxmolは6×10−5[cm/mol]程度と予想され、分子1個当りのΔxは10−28[erg・G−2]である。磁場がH=8[T]の場合の単結晶粒子の大きさを0.1mm×0.1mm×1mm(10−5cm)程度とすると、この中には1018個以上の1,3,5−トリフェニルベンゼン分子が一定の秩序(結晶構造)をもって含まれている。従って、この微粒子の反磁性の異方性Δxは1010[erg・G−2]程度と考えられる。H=8[T](8×10[G])なので、Δx・Hの値は0.64となり、15kTをはるかに越えている。従って、この場合溶媒蒸発に伴って生成した微結晶は、反磁性の異方性に起因する力を受け、一定の秩序(結晶長軸を磁場に垂直に向ける)をもって配向したものと考えられる。
【0022】
実施例3
Y.Harima等の方法(Thin Solid Films,224(1993)101−104)に従い、ITO上のTiO薄膜のうえに、PMD法により銅フタロシアニン薄膜をパターン状に形成した。磁場はTiO電極面に垂直に印加し、その強さはH=10[T]であった。得られた銅フタロシアニンの薄膜パターンの一部を濃度計を用いて測定したところ、 O・D(H=10[T])/O・D(H=0[T]) = 0.1なる結果が得られた。これは、反磁性の異方性により、磁場印加時に銅フタロシアニン微結晶が一定の秩序をもって配向した結果と考えられる。
【0023】
実施例4
β型フタロシアニン0.5[g]、水溶性ポリエステルアルキド0.2[g]、水100[ml]をロールミルで分散した後、ITO平行平板電極を陽極とし、白金電極を陰極として電着を行なった。印加電圧は40[V]、約1[μm]厚の電着膜を得た。その際、磁場の印加は電極に対し垂直に行なった。
【0024】
【数1】
Figure 0003576263
となって、磁気異方性に基づく力により、異方性が発現された。
【0025】
実施例5
光重合性メタクリル酸メチルモノマー液(MMA)10[g]に、非線形光学材料として知られている2−メチル−4−ニトロアニリン(MNA、粒径4[μm]以下)1[g]を分散させ、H=15[T]の磁場中に1時間放置した後、光重合した。構成は、2枚の石英ガラス板間(ギャップ1[mm])に上記分散液をはさみ、紫外線を照射する。得られたポリマー薄膜のSHG(第二高調波)は次のように測定された。
2ω(H=15[T])/I2ω(H=0[T]) > 10(I2ω:SHG強度ω=1064[nm]2ω=532[nm])
これは、反磁性の異方性に基づくトルクにより、磁場中でMNA微結晶が一定の配向を持って配列した状態(単結晶に近づいた状態)で固体化した為と考えられる。同様な実施例は、ガラスキャピラリーを用いても可能であった。即ち、内径0.5[mm]のガラスキャピラリーに毛細管現象を利用して、上記分散液を充填する。これを磁場中に約1時間放置後、紫外アルゴンレーザーを用いて、磁場中光重合した。このようにして得られた試料に、Nd−YAGレーザーの1064[nm]のパルス光を照射し、532[nm]のSH光を観測した結果、 I2ω(H=15[T])/I2ω(H=0[T]) ≧ 10であった。
【0026】
本発明によれば、従来H=10[T]の磁場が使えることを想定して、〈m〉=0.1以上のオーダーパラメータを持もつ異方性(電気的、光学的、熱的など)有機薄膜が得られる。また本発明によれば、粒子が強磁性や常磁性を示す場合は意味をなさないが、π電子系を有する有機分子や長鎖アルキル基を有する有機分子の利用に特に好適である。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、反磁性の異方性を有する粒子を磁場中で配向させて薄膜化することにより異方性のある薄膜の製造方法を提供することができる。

Claims (3)

  1. 反磁性の異方性を有する粒子が一定の秩序をもって配向され、前記粒子1個当りの反磁性の異方性Δxが
    Δx>10 −28 [erg・G −2
    である異方性薄膜の製造方法であって、
    磁場中に存在する前記粒子を
    Δx・H >1.5kT
    H:磁束密度[G]
    k:Boltzmann定数(1.381×10 −16 [erg・K −1 ])
    T:絶対温度[K]
    の条件下で、ミセル電解法を用いて薄膜化することを特徴とする異方性薄膜の製造方法。
  2. 反磁性の異方性を有する粒子が一定の秩序をもって配向され、前記粒子1個当りの反磁性の異方性Δxが
    Δx>10 −28 [erg・G −2
    である異方性薄膜の製造方法であって、
    磁場中に存在する前記粒子を
    Δx・H >1.5kT
    H:磁束密度[G]
    k:Boltzmann定数(1.381×10 −16 [erg・K −1 ])
    T:絶対温度[K]
    の条件下で、光電気化学的ミセル薄膜形成法を用いて薄膜化することを特徴とする異方性薄膜の製造方法。
  3. 反磁性の異方性を有する粒子が一定の秩序をもって配向され、前記粒子1個当りの反磁性の異方性Δxが
    Δx>10 −28 [erg・G −2
    である異方性薄膜の製造方法であって、
    磁場中に存在する前記粒子を
    Δx・H >1.5kT
    H:磁束密度[G]
    k:Boltzmann定数(1.381×10 −16 [erg・K −1 ])
    T:絶対温度[K]
    の条件下で、電着法を用いて薄膜化することを特徴とする異方性薄膜の製造方法。
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