JP3571033B2 - 魚の養殖方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、ブリ、ハマチ、カンパチ、ヒラマサの養殖方法に関する。更に詳しくは、これら養殖魚を照明下に飼育する養殖方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、生殖腺刺激ホルモンなどのホルモン類、ステロイド類の投与、光や水温などの外部環境要因を人為的に調節する事により、水産動物についての産卵の抑制、停止、遅延させる等の研究が進められている。魚を養殖しているところでは、これらの技術を利用して、卵や仔稚魚を任意の時期に購入・飼育して養殖効率を高める周年採苗技術が検討されており、サケ、マス、アユ、コイ、マダイ等では既に一部実用の段階に入っている。
特に、サケ、マスの類は、日長時間を変動させて産卵時期をずらし、年間を通して同じサイズの魚を入手できる方法が実用化されている(「魚の養殖最前線−精と成熟のコントロール」、裳華房、「魚介類の成熟・産卵の制御(水産学シリーズNo.41、日本水産学会編、恒星社厚生閣出版等))。
【0003】
一方、ブリ、ハマチ、カンパチ、ヒラマサ等の養殖は、人工孵化でなく、毎年自然海で捕獲された野生の仔稚魚を沿岸の養殖用網生簀内に放ち、成魚に至るまで養殖して出荷されており、サケ、マス類やアユ、コイの如く周年採苗技術は未だ確立されていない。ハマチの場合、この仔稚魚(モジャコ)は体重1〜20gのものを、通常5〜6月頃に捕獲、早くて翌年の6月、通常7〜8月に3kg程度まで成長したものが出荷されている。
【0004】
ハマチは、通常翌年の5〜6月頃には成魚に達し、この頃成長が略停止する。この時期、雌魚の場合卵巣の、雄魚の場合精巣の成熟期に当たり、その終期に雌は産卵をし、オスは精子を水中に放出する。即ち、養殖の観点からは、この1〜2ヶ月の期間は、多少の餌は与える必要があるが、魚の成長は殆どなく、よって漁獲量も減少し、出荷量も減少し、飼料効率も悪い。
ハマチ、ブリ、カンパチ、ヒラマサの養殖農家からは、この生殖器官の成熟と産卵、放精の期間に生起している魚の成長の停滞ないし減退がなく、定常的に魚が成長し、出荷を停滞させることの無い養殖方法の確立が期待されている。しかしながら、一部産卵時期を遅延させる方法は取られているものの、目下のところ完全にこの問題を解決する方法は見出されてはいない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ハマチ、ブリ、カンパチ、ヒラマサの養殖に当たって、生殖器官の成熟と産卵、放精の期間に生起している魚の成長の停滞ないし減退がなく、定常的に魚が成長し、出荷を停滞させる事の無い養殖方法を提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、8月から翌年の5月までの期間、遅くとも10月から翌年の5月までの期間、水面下に一定の照度の電灯を夕方から翌朝までの間照明しながらハマチ、ブリ、カンパチ、ヒラマサを養殖したときは、これらの魚の生殖器官の成長が殆ど抑えられ、通常5〜6月に起こる産卵と精子の水中への放出が起こらず、この期間にも魚は成長を持続することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
即ち、本発明は、ハマチ、ブリ、カンパチ、ヒラマサの1種の養殖魚を遅くとも10月から翌年の5月まで、より好ましくは、8月から5月までの期間、夕刻から翌朝まで照明しながら飼育することを特徴とする魚の養殖方法に関する。かくすることによって、通常5〜6月に起こる産卵と精子の水中への放出が起こらず、この期間にも魚は成長を持続し、収獲も確保され、飼料効率も大きく向上する。
【0007】
本発明を実施するに当たっては、沿岸網生簀に放った仔稚魚を含む養殖魚を、遅くとも10月から翌年の5月までの期間、より好ましくは8月から翌年の5月までの期間、夕刻から翌朝まで、より具体的には、午後4時頃より翌朝6〜7時頃までの間、水中に吊るした電灯で照明しながら養殖する。 この間、自然光及び人口光合わせて1日20時間以上を照明するのが好ましい。
このとき、水温の調節はしても、しなくても良い。
【0008】
本発明における照明の方法は、縦横10m、深さ8mの金網生簀の場合、生簀の中央付近、水面から凡そ5メートルの深度に、電球からの距離1メートル範囲が100〜1500ルックスの照度(光度)となるよう、100〜1、000ワットの電球を1〜3個、1〜2メートル間隔で懸架して照明する。
【0009】
使用する電球には特に制限はなく、水中において充分な照明(光度)を供給できるものであれば良く、通常の白熱電球、蛍光ランプ、高圧放電ランプ、例えば蛍光水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ、キセノンランプ等が使用される。中でもメタルハライドランプは、便利に使用できる。これらの電球及びジョイントは、ゴム製のマウントで水漏れしないよう、又漏電しないように密閉して使用できるように工夫して使用する。
電力は、公共電力でも、自家発電でもよく、通常、100V、50−60Hz、220−240V、50Hzの電力を使用して照明する。
【0010】
かくして飼育する事によって、ハマチ、ブリ、カンパチ、ヒラマサはその成熟の過程においてその卵巣又は精巣が殆ど成熟せず、一方体重の増加は停滞することなく成長する。このことは、通常5〜6月に起こる産卵と精子の水中への放出が起こらず、この期間にも魚は成長を持続し、所定のサイズの魚を停滞させることなく収穫、ハマチの場合、5月には出荷できる。この結果、飼料の効率も高まる。
【0011】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
愛媛県南宇和郡城辺町久良の竹芳養漁場において、次の養殖試験を5試験区併行して行った。平成12年5月1日、縦10m×横10m×深さ8mの金網の生簀内に1年ものの若いハマチ稚魚(体重約40から50g)を放ち、自然光の下で飼育を開始した。
本発明区1及び2区には、図1及び図2に示した400ワットの英国アクアビーム社製メタルハライドランプ(Aquabeam LTD)を各1個、生簀の中央で水面下5mの深さに懸架し、10月1日より毎日午後4時から翌朝7時まで、翌年5月31日まで点灯・照明して飼育した。
一方、対照区3、4、5は、年間を通して自然光にて飼育した。
各生簀のハマチには、市販EP飼料(ヤマハニュートレコアクアテック株式会社製、「ビーンズウインター」、「ビーンズロイヤル」)を投与、随意に摂食させた。したがって、栄養的には、充分量の餌料を給与した。
【0012】
使用したメタルハライドランプの仕様の1例:
・海岸に設置した220―240V,50/60Hzの電源から、水中ケーブルに接続する。
・重量:11kg
・水中重量:3.5kg
・ピーク負荷:0.5kVA
・初発電流:3.1アンペア
・使用時電流の強さ:2.0アンペア
・光度:33900ルーメン(100時間)
・色温度:3700K
【0013】
各試験区から、5月23日、6月21日、10月12日、12月11日、1月11日、2月26日、3月8日、4月10日、5月1日、6月1日に大型引き網を用いてランダムに40尾宛各生簀からサンプリングを行い、即時麻酔した後屠殺した。
各魚の体重、身長、魚高を測定、腹を裂き、以下の項目をチェックした。
・性別:雄、雌
・生殖腺体重比(GSI):総体重に対する生殖腺の重量(%)
・比肝臓重量値(HSI):総体重に対する肝臓の重量(%)
・綿抜き魚体重(総体重マイナス内臓重量)
・切り身重量(切り身二切れ)
・血液中ホルモン量(エストラジオール−17β、又は1−ケトテストステロン)
【0014】
又、3月8日、4月10日、5月1日及び6月1日採取サンプルについては、照明下飼育区間の違いを生殖腺重量、血中のエストラジオール−17β(雌の場合)、又は1−ケトテストステロン(雄の場合)レベルをチェックして評価した。
結果を表1〜4に示した。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
表1及び表2に示した如く、本発明の光照射した試験区1、2においては、3月以降5月にかけてもハマチの体重は着実に増加し、体重増加の停滞期間が無いまま6月初旬には出荷に適したほぼ3kgに達した。一方、自然光の下で飼育した区では、いずれも5月以降約2ヶ月間殆ど体重増加が見られなかった。
【0018】
【表3】
【0019】
【表4】
【0020】
表3及び4に示す如く、夜間照明下に飼育したとき、翌年の4月から5月にかけてハマチの生殖腺の成長は大きく停滞し、6月始めには成熟は殆ど抑えられており、雌の場合顕著にこの現象が見られる。
【0021】
【発明の効果】
本発明の飼育方法によって、ハマチ、ブリ、カンパチ、ヒラマサにおいて通常5〜6月に起こる産卵と精子の水中への放出が起こらず、この期間にも魚は成長を持続し、所定のサイズの魚を停滞させることなく収穫、出荷できる。この結果、飼料の効率も大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において夜間照明のために用いたメタルハライドランプの写真である。
【図2】本発明において夜間照明のために用いたメタルハライドランプの断面図である.
Claims (5)
- 10月から翌年5月までの期間、夕方から翌朝まで水面下にランプで照明しながらハマチ、ブリ、カンパチ、ヒラマサの内の少なくとも1種を飼育することを特徴とする魚の養殖方法。
- ランプで照明する時間が午後4時から翌朝7時までの間であることを特徴とする請求項1記載の魚の養殖方法。
- 8月から5月までの期間、午後4時から翌朝7時までの間照明しながら飼育することを特徴とする請求項1記載の魚の養殖方法。
- 照明用のランプが、メタルハロゲンランプである請求項1乃至3のいずれかの請求項に記
載の魚の養殖方法。 - ハマチ、ブリ、カンパチの1種の養殖魚を8月から翌年5月までの期間、夕刻から翌朝まで
照明しながら飼育することによって、5〜6月の間にも魚の成長を持続させ、出荷を停滞
させることの無い請求項1〜4のいずれかの請求項に記載の魚の養殖方法。
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