JP3570344B2 - ポリブチレンテレフタレートの劣化度の測定方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の劣化度の測定方法に関し、さらに詳しくは、PBTの熱劣化および/または光劣化により発生する酸無水物を定量分析することにより、PBTの劣化度を評価する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
PBTは、機械的特性と電気的特性のバランスに優れ、かつ高温使用にも耐えられることなどから、小型軽量化が進む自動車部品、例えばコネクターの材料として広く用いられている。しかし、高温環境や、屋外などの過酷な使用環境においては、熱分解、熱酸化および光酸化劣化による材料劣化が進行する。従って、その劣化過程を評価する方法が必要となる。
【0003】
最近、光酸化劣化に関して、Rivatonらは、その反応過程において、中間体として無水物が形成された後、分子鎖が切断され、最終的に末端に主として−COOHまたは−COHを有する物質が生成し、試料の深さ方向のその濃度プロファイルをとると、最表面層から13μmの深さで濃度が最も高く、その後急激に低下すると報告している(Rivaton, A., Polym. Degrad. Stab., 1993, 41, 297、Rivaton, A., Die Angewandte Macromol, Chemie, 1994, 216, 155、Rivaton, A., Serre, F. and Gardette, J. L., Polym. Degrad. Stab., 1998, 62, 127)。 Rivatonらの方法は、厚み13μmのフィルムを多層に重ねてプレスした試料中に、光酸化反応により生じた多種のカルボニル基を、試薬SF4あるいはNH3等を用いて煩雑な前処理をすることにより、選択的に反応させ、その誘導体生成物をFT‐IRで測定する方法である。
【0004】
一方、PBTの熱分解に関する報告は多くあり(例えば、McNeil, I. C. and Bounekhel, M., Polym. Degrad. Stab., 1991, 34, 187、Passalacqua, V., Piloti, F., Zambou, V., Fortunato, B. and Manaresi, P.,Polymer, 1976, 17, 1044、Tanaka, M. and Nakazawa, S., 繊維学会誌, 1987, 45, 370)、報告された方法によれば、分子鎖の切断による末端COOH基量や分子量の変化を測定することにより、PBTの劣化過程を容易に評価できる。しかし、熱酸化劣化に関しては、エーテル酸素に対してα位のメチレン基にヒドロペルオキシドが生成された後の詳細な反応メカニズムに関する報告は見当たらない。
また、Montaudoらは、直接熱分解質量分析計を用いPBT及びPETの初期熱劣化メカニズムを検討した結果、分子内反応により無水物として、−CO−Ph−CO−O−CO−Ph−が生成すると、報告している(Montaudo, G., Puglish, C. and Samperi, F. Polym. Degrad. Stab., 1993, 42, 13)。しかし、高真空中、600℃の高温下での熱分解反応であるため、Montaudoらの方法は実用性に乏しい。
【0005】
以上のことより、光劣化については、試料の最表面層十数μm中に存在する末端COOH基量を測定することが重要であることが分かる。
COOH基量の測定方法としては、古くはPohlの滴定法があり、また最近の分析装置の発展に伴い、顕微FT‐IR、SEC(size exclusion chromatography)が挙げられる。しかし、これらの測定方法は、試料の量や形状などに制限されるので実用的でない。。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、PBT中に形成された無水物を分析できる、FT‐IR法に替わる新規な方法を見出し、PBTの劣化度を評価できる方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、ポリブチレンテレフタレートの劣化により発生する酸無水物を、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)の存在下に、熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析装置により定量することにより、ポリブチレンテレフタレートの劣化度を測定する方法により解決される。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、次のような知見に基づき完成されたものである。
PBTの分解生成物を、TMAHの存在下、熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)法に付すと、反応生成物として4−メトキシ酪酸メチルが得らる。このことにより、酸無水物の検出あるいは分析が可能であることが分かる。
上記のような分析方法を用いて、実用的な使用温度である140℃から高温の200℃までの温度で所要時間熱劣化させたダンベル試験片の引張強さと反応生成物量及び末端COOH量との関係を求める。
また、同条件下で熱劣化した、あるいは4ヶ月間屋外暴露したコネクター成型品のロックの深さ方向の反応生成物量の濃度プロファイルとロックの曲げ試験による折損割合との関係を求める。
【0009】
本発明の測定方法で用いる熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析装置は、従来から使用されている装置であってよい。
また、分析条件自体も、このよう装置を用いて行なう分析において採用されている条件でよい。具体的な条件は、下記実施例に記載するとおりである。
【0010】
本発明で用いるTMAHは、市販のものでよいが、その純度は特に制限されない。また、TMAHの使用量は、他の測定条件により、適宜定めることができる。
【0011】
【実施例】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
実施例1
1.PBT材料及び試料の作製
PBT材料として、大日本インキ化学株式会社製「BT1000‐S01」を用いた。
1.1 熱劣化試料の作製
PBT材料を120℃で3時間予備乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製PS60E9ASE)を用いて成形し、JIS‐K7113‐1996に準拠した1(1/2)号形ダンベル試験片を作製した。
試験片をギヤオーブン中において、表1に示すような温度と時間の組み合わせで熱劣化させた。尚、各条件毎にダンベル試験片8本を熱劣化し、その内、3本を引張試験に、4本を末端COOH量測定に、1本を熱分解GC/MS測定に用いた。
【0012】
【表1】
【0013】
また、上記と同じPBT材料から、上記の射出成形機を用いて、図1に示すようなコネクター成型品を成形した。表1の各条件毎に5個ずつ熱劣化させ、これを後述のロック曲げ試験及び熱分解GC/MS測定に用いた。
【0014】
1.2 屋外曝露試料の作製:
上記の射出成形機で作製した図1に示すコネクターを、屋外に4ヶ月間放置した。コネクターは毎月5個ずつサンプリングし、後述のロックの曲げ試験、熱分解GC/MS測定及び末端COOH基量測定に供した。
【0015】
2.熱分解GC/MS装置
ヤナコ製熱分解装置GP−1028(落下式縦型熱分解炉)を横河電気株式会社製GC装置(HP−6890)の注入口に取り付けた測定システムを使用し、また検出器として横河電気株式会社製MS(質量分析)装置(5973型)を使用した。試料カップには、容量4μlの白金製カップを用いた。カラムには、Hewlett Packard製Ultra−1(0.2mmφ×25m,膜厚0.33μmの架橋型ジメチルシロキサンフィルム)を用いた。
分解炉の温度は250℃に設定し、分解炉とGC注入口間の温度は250℃に、また注入口温度は280℃に保った。オーブン温度は、まず50℃で2分保持した後、280℃まで10℃/minで昇温し、同温度で5分保持した。キャリヤガスにはヘリウムを用い、スプリット比は100:1、カラム流量は0.5ml/minとした。
【0016】
3.測定手順
3.1 引張試験
1.1で作製したダンベル試験片につき、引張試験機(島津製作所株式会社製AGS−100B)を用い、JIS−K7113−1996に準拠して引張速度20mm/minで引張試験を行なった。
3.2 コネクターのロック曲げ試験
相手コネクターとの嵌合時にロック部に曲げの力が加わる。そこで、図1に示すように、ロック部の片端に一定荷重10Nを加えた時にロックR部が折損したコネクターの個数を、同条件で熱劣化した全コネクター数に対する割合(%)で示した。
【0017】
3.3 末端COOH基の定量
1.1で作製したダンベル試験片及び屋外曝露したコネクターから、約1gを切り出し、PBTの良溶媒であるヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)100ml(セントラル硝子株式会社製)に溶解した後、貧溶媒のメタノールをHFIPの3倍量加え、PBT樹脂を沈殿させ、0.5μmのメンブランフィルターで濾過した。
フィルターケーキを室温で乾燥後、100℃で1時間乾燥し、デシケーター中で保管した。この試料を用いて、Pohlの方法(Pohl, H. A. Anal. Chem., 1954, 26, 1614)に準じて末端COOH量を測定した。尚、コネクターについては試料量が不足するので、ロック部以外よりサンプリングした。
【0018】
3.4 熱分解GC/MS測定
反応試薬TMAH(25重量%メタノール溶液(ナカライテクス株式会社))の存在下、熱分解GC/MS法により、PBT及びPBTの分解により生じる酸無水物の加水分解を行なった。
ダンベル試験片を冷凍粉砕後、0.1mgを試料カップに秤取し、TMAH4μlを加えて熱分解GC/MS測定に供した。
【0019】
3.5 試料の深さ方向の劣化の評価
コネクターのロック部をミクロトーム(CRYOSTAT HM500−0, MICROM Company)で表面より厚み15μm毎に切削した。その内0〜15μm(最表面層)、15〜30μm、30〜45μm、100〜115μm、および200〜215μmの深さに相当する各薄片試料より0.1mgを秤取し、TMAH4μlを加えて熱分解GC/MS測定に付した。
【0020】
測定結果と評価
1.無水物とTMAHとの反応生成物の同定
図2に、180℃で750時間熱劣化させたダンベル試験片について、TMAH存在下での熱分解GC/MSでスキャンモードで測定して得た全イオンクロマトグラム(TIC)を示す。
【0021】
保持時間5.76分のMSスペクトルを図3(a)に示す。これは、分子イオンの(M)+132、(M−31)+を示すm/z101のアシリウム(acylium)イオン(CH3OCH2CH2CH2C≡O+)、アシリウムイオンからメタノールが脱離したm/z69、マクラファーティ(McLafferty)転移で生じたm/z74(CH3O−C(=O+H)=CH2)、m/z59(CH3O≡O+)、更にメチル基が脱離したm/z117、m/z45から、メチルエステルに特徴的なMSスペクトルが得られた。
そこで、標準試料として4−メトキシ酪酸メチル(Aldrich Chemical Company, Inc)を用いて確認したところ、図3(b)に示すようにMSスペクトルは一致した。
以上の結果から、PBTの分解により生成した酸無水物とTMAHとが反応し、反応生成物として4−メトキシ酪酸メチル(以下、「反応生成物」と記す。)が生成していることが分かった。
【0022】
Revatonらは無水物をアンモニアを用いて前処理した後、FT‐IRで測定していた(Rivaton, A., Polym. Degrad. Stab., 1993, 41, 297、Rivaton, A., Die Angewandte Macromol, Chemie, 1994, 216, 155、Rivaton, A., Serre, F. and Gardette, J. L., Polym. Degrad. Stab., 1998, 62, 127)。しかし、本発明によれば、TMAH存在下での熱分解GC/MS法を用いることにより、極微量の試料量で容易にかつ迅速にPBT分解生成物の測定が可能になった。また、PBTの熱酸化反応においても、光酸化反応と同様に酸無水物が形成されていることが明らかになった。
【0023】
2.反応生成物の検量線の作成
反応生成物の定量は、フラグメントイオンm/z45について、選択イオン測定(SIM)を行って得られたピーク面積に基づいて行った。
図4に、m/z45についてSIM測定を行って得た、ピーク面積と標準試料4−メトキシ酪酸メチルの量との関係を示す。この検量線の相関係数は0.998であり、良好な直線関係を示した。また、反応生成物量の単位は末端COOH基量の単位と同じ試料重量106g当たりのモル数に換算し、以後それを用いた。
【0024】
3.熱酸化劣化における末端COOH基量及び反応生成物と引張強さの関係
表1の加熱条件で熱酸化劣化させた試料について、図5〜7に、引張強さ、反応生成物量および末端COOH量と劣化時間との関係をそれぞれ示した。
劣化時間に対する反応生成物量と末端COOH基量は同じ傾向を示した。全ての温度について、正の傾きを有する直線関係が得られ、熱酸化劣化における加熱温度が高くなるほどその傾きも大きくなり、特に200℃で傾きは顕著であった。
引張強さは、初期値と比べて、180℃×500時間までは低下していないが、反応生成物量及び末端COOH基量は増加していることより、化学的劣化が進行していることが分かった。また、引張強さが低下し始めた180℃×750時間における反応生成物量は、引張強さが大きく低下した200℃×150時間のそれより少し大きいが、末端COOH基量は引張強さの低下していない200℃×100時間と同じであり、初期値に対して各々約2.6倍、46倍であった。引張強さが初期値の半分(半減期)あるいはそれ以下になった時点での反応生成物量及び末端COOH基量は、初期値に対して、各々40〜75倍、3.1〜5.1倍であり、著しく劣化が進行していた。
【0025】
図8に、各温度別に末端COOH基量と反応生成物との関係を示した。
全ての温度において、正の傾きを有する直線関係が得られ、熱分解と熱酸化が並行して起こっていることを示している。140〜180℃までは温度が高くなると共にその傾きも大きくなっていることにより、熱酸化が熱分解よりも優位に進行していることが分かる。しかし、200℃での傾きは180℃でのそれに対して逆転した。これは、Revatonらの光酸化反応メカニズムから無水物が分解して末端基が一部COOHに変化したことも考えられるが、温度が高いために熱分解が熱酸化よりも優先的に進行したためと推定される。
以上の結果から、PBTの熱劣化過程を、従来の末端COOH基量に加えて反応生成物を定量することにより、評価が可能であることが分かった。
【0026】
4.熱酸化及び熱分解の反応速度
図9に、反応生成物及び末端COOH基の生成速度と絶対温度の逆数とのアレニウス・プロットを示す。反応生成物に関するアレニウス・プロットは、本来なら無水物とTMAHとの反応生成物の生成速度の温度依存性を表しているが、ここでは、熱酸化により形成された酸無水物の生成速度を表していると解釈できる。
無水物の生成速度と温度の逆数との間には一つの直線関係が得られた。
また、試料106g当たりの生成速度は、140℃で1.51×10−4モル/時間に対して、180℃ではその約47倍の7.11×10−3モル/時間、200℃では約280倍の4.21×10−2モル/時間であり、温度依存性が大きく、活性化エネルギーは155kJmol−1であった。この値は、ポリプロピレンについてStivalaらが温度(120〜150℃)と酸素濃度を変えた条件で求めた活性化エネルギー92kJmol−1と比べると高い。これは、主として、ポリプロピレンの一次構造が易酸化性であることによる。
【0027】
一方、末端COOH基の生成速度と温度の逆数との間では、180℃で変曲線を有する2つの直線関係が得られた。これは、末端COOH基の生成速度が180℃までと200℃では何らかの原因により異なることを示している。
試料106g当たりの末端COOH基量の生成速度は、140℃で4.20×10−3モル/時間に対して、180℃ではその約7倍、200℃ではその約68倍の2.86×10−1モル/時間であった。また、180℃までの活性化エネルギーは75kJmol−1であり、180から200℃の間では約2倍であった。
180℃までの値は、Passalacqua、Tanakaら(Tanaka, M. and Nakazawa, S., 繊維学会誌, 1987, 45, 370)が不活性ガス中あるいは密閉系で温度を240〜280℃まで変えて行った加速劣化試験より求めた活性化エネルギー172kJmol−1と比べると小さいが、180から200℃のそれとはほぼ一致した。
【0028】
以上の結果より、反応速度論的な見地から、PBTの劣化過程における熱酸化反応及び熱分解反応は共に温度依存性があることが分かった。また、3.で述べたように、140〜180℃では酸化反応が、200℃では熱分解反応が優先的に進行することが示唆された。
【0029】
5.コネクターのロックの機械的強度と深さ方向の劣化特性の関係
コネクターのロックの折損割合は、屋外曝露品の場合、初期品及び1ヶ月暴露品では0%であったが、2ヶ月、3ヶ月及び4ヶ月暴露後では、それぞれ20%、60%および80%であった。
熱劣化の場合、180℃×1000時間、200℃×150又は200時間劣化後の折損割合は、それぞれ40%、60%及び100%であり、これ以外の条件ではロックは折損しなかった。
また、屋外曝露においても、反応生成物として4−メトキシ酪酸メチルが検出されたことより、酸無水物が光酸化反応により形成されていることが確認できた。
【0030】
折損したロックと、高温下の条件(1)180℃×750時間、(2)220℃×100時間の熱劣化でも折損しなかったロックについて、表面から深さ方向へ反応生成物を定量した。それぞれの結果を図10及び図11に示す。
屋外曝露試験では、暴露月数の増加と共に、厚み15μmの最表面層での反応生成物量が増加した。また、いずれの月数においても、深さ方向に対する反応生成物の濃度のプロファイルが同じであった。即ち、反応生成物は最表面層(厚み15μm)で最も多いが、45μmまでに急激に減少し、それ以上の深さではほぼ一定の低い値を示した。
【0031】
また、4ヶ月屋外曝露したコネクターの末端COOH基量は、初期品の約3割しか増加していなかった。光酸化における機械的強度の低下は最表面層(厚み15μm)の反応生成物量と相関関係にあることより、折損メカニズムは、著しい劣化によるクラックが最表面層に入り、ノッチ効果により折損するものと推定される。
【0032】
熱酸化に関する反応生成物の濃度プロファイルは、最表面層(厚み15μm)で最も多く、深さ45μmまでの低下が小さく、それ以上の深さでは一層緩やかに低下している。この濃度プロファイルは最近、Gillenら(Clough, R. L. and Gillen, K. T., Polym. Degrad. Stab., 1993, 41, 11)が提案した酸素透過速度の低下による酸素浸透律速効果による不均質酸化現象と一致した。しかし、Barmardら(Barmard, D. and Lewis P.M., In Natural Rubber Science and Technology、A. D. Roberts, Oxford University Press, New York, 1988)、 Mattsonら(Mattson, B. and Stenberg, B., Rubber Chem. Le Tech., 1990, 63, 23)の酸化層の深さは劣化温度が高いほど浅くなるという報告とは、必ずしも一致しなかった。200℃×100時間の表面の酸化層は180℃×750時間のそれより浅くなっていない。機械的強度の低下が大きい200℃×150時間で急激に表面の酸化層の強さが大きくなると共にその厚みも浅くなったが、200時間では厚み方向全体に亘り著しく酸化が進行している。
【0033】
尚、光酸化における濃度プロファイルと比べると、最表面層の濃度が最も多いという点では同じであったが、その後の深さ方向の濃度の低下が少ないという点で著しく異なっていた。よって、熱酸化は光酸化に比べると試料の深さ方向全体にほぼ一様に劣化が進行していることが分かった。
また、200℃×150時間または200時間では、ロックの折損割合が高かった。これは、深さ方向全体の熱酸化による劣化も寄与しているが、主に末端COOH基量の増加に示されるように熱分解により分子の主鎖が切断され機械的強度が低下したことが原因と考えられる。
【0034】
以上のように、光劣化と熱劣化では、機械的強度の低下メカニズムは異なることが分かった。従って、本発明の方法は、光劣化に関しては、機械的強度の低下に与えるその影響を知る上で非常に有効であり、熱劣化では、従来の末端COOH基量を併用することにより、PBTの劣化過程を評価することが可能になる。
【0035】
【発明の効果】
本発明の方法は、試料形態、配合剤などに制限されずに、少量の試料で簡易に迅速に精度よくPBTの劣化度を測定できるため、小型化の進行しているPBT成形品の光及び熱による劣化過程の評価に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で製造したコネクターの斜視図である。
【図2】180℃で750時間熱劣化させたダンベル試験片について、TMAH存在下での熱分解GC/MSでスキャンモードで測定して得た全イオンクロマトグラム(TIC)である。
【図3】(a)は実施例でのPBT分解生成物のMSスペクトルであり、(b)は4−メトキシ酪酸メチル(標準試料)のMSスペクトルである。
【図4】実施例における反応生成物のSIM測定におけるピーク面積と4−メトキシ酪酸メチルの量との関係を示すグラフである。
【図5】実施例において熱劣化させた試料についての、引張強さと劣化時間との関係を示すグラフである。
【図6】実施例において熱劣化させた試料についての、反応生成物量と劣化時間との関係を示すグラフである。
【図7】実施例において熱劣化させた試料についての、末端COOH量と劣化時間との関係を示すグラフである。
【図8】各温度における反応生成物量と末端COOH量との関係を示すグラフである。
【図9】反応生成物及び末端COOH基の生成速度と絶対温度の逆数とのアレニウス・プロットである。
【図10】屋外暴露後のコネクターのロックにおける反応生成物量と厚さとの関係を示すグラフである。
【図11】高温下の条件の熱劣化後のコネクターのロックにおける反応生成物量と厚さとの関係を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の劣化度の測定方法に関し、さらに詳しくは、PBTの熱劣化および/または光劣化により発生する酸無水物を定量分析することにより、PBTの劣化度を評価する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
PBTは、機械的特性と電気的特性のバランスに優れ、かつ高温使用にも耐えられることなどから、小型軽量化が進む自動車部品、例えばコネクターの材料として広く用いられている。しかし、高温環境や、屋外などの過酷な使用環境においては、熱分解、熱酸化および光酸化劣化による材料劣化が進行する。従って、その劣化過程を評価する方法が必要となる。
【0003】
最近、光酸化劣化に関して、Rivatonらは、その反応過程において、中間体として無水物が形成された後、分子鎖が切断され、最終的に末端に主として−COOHまたは−COHを有する物質が生成し、試料の深さ方向のその濃度プロファイルをとると、最表面層から13μmの深さで濃度が最も高く、その後急激に低下すると報告している(Rivaton, A., Polym. Degrad. Stab., 1993, 41, 297、Rivaton, A., Die Angewandte Macromol, Chemie, 1994, 216, 155、Rivaton, A., Serre, F. and Gardette, J. L., Polym. Degrad. Stab., 1998, 62, 127)。 Rivatonらの方法は、厚み13μmのフィルムを多層に重ねてプレスした試料中に、光酸化反応により生じた多種のカルボニル基を、試薬SF4あるいはNH3等を用いて煩雑な前処理をすることにより、選択的に反応させ、その誘導体生成物をFT‐IRで測定する方法である。
【0004】
一方、PBTの熱分解に関する報告は多くあり(例えば、McNeil, I. C. and Bounekhel, M., Polym. Degrad. Stab., 1991, 34, 187、Passalacqua, V., Piloti, F., Zambou, V., Fortunato, B. and Manaresi, P.,Polymer, 1976, 17, 1044、Tanaka, M. and Nakazawa, S., 繊維学会誌, 1987, 45, 370)、報告された方法によれば、分子鎖の切断による末端COOH基量や分子量の変化を測定することにより、PBTの劣化過程を容易に評価できる。しかし、熱酸化劣化に関しては、エーテル酸素に対してα位のメチレン基にヒドロペルオキシドが生成された後の詳細な反応メカニズムに関する報告は見当たらない。
また、Montaudoらは、直接熱分解質量分析計を用いPBT及びPETの初期熱劣化メカニズムを検討した結果、分子内反応により無水物として、−CO−Ph−CO−O−CO−Ph−が生成すると、報告している(Montaudo, G., Puglish, C. and Samperi, F. Polym. Degrad. Stab., 1993, 42, 13)。しかし、高真空中、600℃の高温下での熱分解反応であるため、Montaudoらの方法は実用性に乏しい。
【0005】
以上のことより、光劣化については、試料の最表面層十数μm中に存在する末端COOH基量を測定することが重要であることが分かる。
COOH基量の測定方法としては、古くはPohlの滴定法があり、また最近の分析装置の発展に伴い、顕微FT‐IR、SEC(size exclusion chromatography)が挙げられる。しかし、これらの測定方法は、試料の量や形状などに制限されるので実用的でない。。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、PBT中に形成された無水物を分析できる、FT‐IR法に替わる新規な方法を見出し、PBTの劣化度を評価できる方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、ポリブチレンテレフタレートの劣化により発生する酸無水物を、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)の存在下に、熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析装置により定量することにより、ポリブチレンテレフタレートの劣化度を測定する方法により解決される。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、次のような知見に基づき完成されたものである。
PBTの分解生成物を、TMAHの存在下、熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)法に付すと、反応生成物として4−メトキシ酪酸メチルが得らる。このことにより、酸無水物の検出あるいは分析が可能であることが分かる。
上記のような分析方法を用いて、実用的な使用温度である140℃から高温の200℃までの温度で所要時間熱劣化させたダンベル試験片の引張強さと反応生成物量及び末端COOH量との関係を求める。
また、同条件下で熱劣化した、あるいは4ヶ月間屋外暴露したコネクター成型品のロックの深さ方向の反応生成物量の濃度プロファイルとロックの曲げ試験による折損割合との関係を求める。
【0009】
本発明の測定方法で用いる熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析装置は、従来から使用されている装置であってよい。
また、分析条件自体も、このよう装置を用いて行なう分析において採用されている条件でよい。具体的な条件は、下記実施例に記載するとおりである。
【0010】
本発明で用いるTMAHは、市販のものでよいが、その純度は特に制限されない。また、TMAHの使用量は、他の測定条件により、適宜定めることができる。
【0011】
【実施例】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
実施例1
1.PBT材料及び試料の作製
PBT材料として、大日本インキ化学株式会社製「BT1000‐S01」を用いた。
1.1 熱劣化試料の作製
PBT材料を120℃で3時間予備乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製PS60E9ASE)を用いて成形し、JIS‐K7113‐1996に準拠した1(1/2)号形ダンベル試験片を作製した。
試験片をギヤオーブン中において、表1に示すような温度と時間の組み合わせで熱劣化させた。尚、各条件毎にダンベル試験片8本を熱劣化し、その内、3本を引張試験に、4本を末端COOH量測定に、1本を熱分解GC/MS測定に用いた。
【0012】
【表1】
【0013】
また、上記と同じPBT材料から、上記の射出成形機を用いて、図1に示すようなコネクター成型品を成形した。表1の各条件毎に5個ずつ熱劣化させ、これを後述のロック曲げ試験及び熱分解GC/MS測定に用いた。
【0014】
1.2 屋外曝露試料の作製:
上記の射出成形機で作製した図1に示すコネクターを、屋外に4ヶ月間放置した。コネクターは毎月5個ずつサンプリングし、後述のロックの曲げ試験、熱分解GC/MS測定及び末端COOH基量測定に供した。
【0015】
2.熱分解GC/MS装置
ヤナコ製熱分解装置GP−1028(落下式縦型熱分解炉)を横河電気株式会社製GC装置(HP−6890)の注入口に取り付けた測定システムを使用し、また検出器として横河電気株式会社製MS(質量分析)装置(5973型)を使用した。試料カップには、容量4μlの白金製カップを用いた。カラムには、Hewlett Packard製Ultra−1(0.2mmφ×25m,膜厚0.33μmの架橋型ジメチルシロキサンフィルム)を用いた。
分解炉の温度は250℃に設定し、分解炉とGC注入口間の温度は250℃に、また注入口温度は280℃に保った。オーブン温度は、まず50℃で2分保持した後、280℃まで10℃/minで昇温し、同温度で5分保持した。キャリヤガスにはヘリウムを用い、スプリット比は100:1、カラム流量は0.5ml/minとした。
【0016】
3.測定手順
3.1 引張試験
1.1で作製したダンベル試験片につき、引張試験機(島津製作所株式会社製AGS−100B)を用い、JIS−K7113−1996に準拠して引張速度20mm/minで引張試験を行なった。
3.2 コネクターのロック曲げ試験
相手コネクターとの嵌合時にロック部に曲げの力が加わる。そこで、図1に示すように、ロック部の片端に一定荷重10Nを加えた時にロックR部が折損したコネクターの個数を、同条件で熱劣化した全コネクター数に対する割合(%)で示した。
【0017】
3.3 末端COOH基の定量
1.1で作製したダンベル試験片及び屋外曝露したコネクターから、約1gを切り出し、PBTの良溶媒であるヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)100ml(セントラル硝子株式会社製)に溶解した後、貧溶媒のメタノールをHFIPの3倍量加え、PBT樹脂を沈殿させ、0.5μmのメンブランフィルターで濾過した。
フィルターケーキを室温で乾燥後、100℃で1時間乾燥し、デシケーター中で保管した。この試料を用いて、Pohlの方法(Pohl, H. A. Anal. Chem., 1954, 26, 1614)に準じて末端COOH量を測定した。尚、コネクターについては試料量が不足するので、ロック部以外よりサンプリングした。
【0018】
3.4 熱分解GC/MS測定
反応試薬TMAH(25重量%メタノール溶液(ナカライテクス株式会社))の存在下、熱分解GC/MS法により、PBT及びPBTの分解により生じる酸無水物の加水分解を行なった。
ダンベル試験片を冷凍粉砕後、0.1mgを試料カップに秤取し、TMAH4μlを加えて熱分解GC/MS測定に供した。
【0019】
3.5 試料の深さ方向の劣化の評価
コネクターのロック部をミクロトーム(CRYOSTAT HM500−0, MICROM Company)で表面より厚み15μm毎に切削した。その内0〜15μm(最表面層)、15〜30μm、30〜45μm、100〜115μm、および200〜215μmの深さに相当する各薄片試料より0.1mgを秤取し、TMAH4μlを加えて熱分解GC/MS測定に付した。
【0020】
測定結果と評価
1.無水物とTMAHとの反応生成物の同定
図2に、180℃で750時間熱劣化させたダンベル試験片について、TMAH存在下での熱分解GC/MSでスキャンモードで測定して得た全イオンクロマトグラム(TIC)を示す。
【0021】
保持時間5.76分のMSスペクトルを図3(a)に示す。これは、分子イオンの(M)+132、(M−31)+を示すm/z101のアシリウム(acylium)イオン(CH3OCH2CH2CH2C≡O+)、アシリウムイオンからメタノールが脱離したm/z69、マクラファーティ(McLafferty)転移で生じたm/z74(CH3O−C(=O+H)=CH2)、m/z59(CH3O≡O+)、更にメチル基が脱離したm/z117、m/z45から、メチルエステルに特徴的なMSスペクトルが得られた。
そこで、標準試料として4−メトキシ酪酸メチル(Aldrich Chemical Company, Inc)を用いて確認したところ、図3(b)に示すようにMSスペクトルは一致した。
以上の結果から、PBTの分解により生成した酸無水物とTMAHとが反応し、反応生成物として4−メトキシ酪酸メチル(以下、「反応生成物」と記す。)が生成していることが分かった。
【0022】
Revatonらは無水物をアンモニアを用いて前処理した後、FT‐IRで測定していた(Rivaton, A., Polym. Degrad. Stab., 1993, 41, 297、Rivaton, A., Die Angewandte Macromol, Chemie, 1994, 216, 155、Rivaton, A., Serre, F. and Gardette, J. L., Polym. Degrad. Stab., 1998, 62, 127)。しかし、本発明によれば、TMAH存在下での熱分解GC/MS法を用いることにより、極微量の試料量で容易にかつ迅速にPBT分解生成物の測定が可能になった。また、PBTの熱酸化反応においても、光酸化反応と同様に酸無水物が形成されていることが明らかになった。
【0023】
2.反応生成物の検量線の作成
反応生成物の定量は、フラグメントイオンm/z45について、選択イオン測定(SIM)を行って得られたピーク面積に基づいて行った。
図4に、m/z45についてSIM測定を行って得た、ピーク面積と標準試料4−メトキシ酪酸メチルの量との関係を示す。この検量線の相関係数は0.998であり、良好な直線関係を示した。また、反応生成物量の単位は末端COOH基量の単位と同じ試料重量106g当たりのモル数に換算し、以後それを用いた。
【0024】
3.熱酸化劣化における末端COOH基量及び反応生成物と引張強さの関係
表1の加熱条件で熱酸化劣化させた試料について、図5〜7に、引張強さ、反応生成物量および末端COOH量と劣化時間との関係をそれぞれ示した。
劣化時間に対する反応生成物量と末端COOH基量は同じ傾向を示した。全ての温度について、正の傾きを有する直線関係が得られ、熱酸化劣化における加熱温度が高くなるほどその傾きも大きくなり、特に200℃で傾きは顕著であった。
引張強さは、初期値と比べて、180℃×500時間までは低下していないが、反応生成物量及び末端COOH基量は増加していることより、化学的劣化が進行していることが分かった。また、引張強さが低下し始めた180℃×750時間における反応生成物量は、引張強さが大きく低下した200℃×150時間のそれより少し大きいが、末端COOH基量は引張強さの低下していない200℃×100時間と同じであり、初期値に対して各々約2.6倍、46倍であった。引張強さが初期値の半分(半減期)あるいはそれ以下になった時点での反応生成物量及び末端COOH基量は、初期値に対して、各々40〜75倍、3.1〜5.1倍であり、著しく劣化が進行していた。
【0025】
図8に、各温度別に末端COOH基量と反応生成物との関係を示した。
全ての温度において、正の傾きを有する直線関係が得られ、熱分解と熱酸化が並行して起こっていることを示している。140〜180℃までは温度が高くなると共にその傾きも大きくなっていることにより、熱酸化が熱分解よりも優位に進行していることが分かる。しかし、200℃での傾きは180℃でのそれに対して逆転した。これは、Revatonらの光酸化反応メカニズムから無水物が分解して末端基が一部COOHに変化したことも考えられるが、温度が高いために熱分解が熱酸化よりも優先的に進行したためと推定される。
以上の結果から、PBTの熱劣化過程を、従来の末端COOH基量に加えて反応生成物を定量することにより、評価が可能であることが分かった。
【0026】
4.熱酸化及び熱分解の反応速度
図9に、反応生成物及び末端COOH基の生成速度と絶対温度の逆数とのアレニウス・プロットを示す。反応生成物に関するアレニウス・プロットは、本来なら無水物とTMAHとの反応生成物の生成速度の温度依存性を表しているが、ここでは、熱酸化により形成された酸無水物の生成速度を表していると解釈できる。
無水物の生成速度と温度の逆数との間には一つの直線関係が得られた。
また、試料106g当たりの生成速度は、140℃で1.51×10−4モル/時間に対して、180℃ではその約47倍の7.11×10−3モル/時間、200℃では約280倍の4.21×10−2モル/時間であり、温度依存性が大きく、活性化エネルギーは155kJmol−1であった。この値は、ポリプロピレンについてStivalaらが温度(120〜150℃)と酸素濃度を変えた条件で求めた活性化エネルギー92kJmol−1と比べると高い。これは、主として、ポリプロピレンの一次構造が易酸化性であることによる。
【0027】
一方、末端COOH基の生成速度と温度の逆数との間では、180℃で変曲線を有する2つの直線関係が得られた。これは、末端COOH基の生成速度が180℃までと200℃では何らかの原因により異なることを示している。
試料106g当たりの末端COOH基量の生成速度は、140℃で4.20×10−3モル/時間に対して、180℃ではその約7倍、200℃ではその約68倍の2.86×10−1モル/時間であった。また、180℃までの活性化エネルギーは75kJmol−1であり、180から200℃の間では約2倍であった。
180℃までの値は、Passalacqua、Tanakaら(Tanaka, M. and Nakazawa, S., 繊維学会誌, 1987, 45, 370)が不活性ガス中あるいは密閉系で温度を240〜280℃まで変えて行った加速劣化試験より求めた活性化エネルギー172kJmol−1と比べると小さいが、180から200℃のそれとはほぼ一致した。
【0028】
以上の結果より、反応速度論的な見地から、PBTの劣化過程における熱酸化反応及び熱分解反応は共に温度依存性があることが分かった。また、3.で述べたように、140〜180℃では酸化反応が、200℃では熱分解反応が優先的に進行することが示唆された。
【0029】
5.コネクターのロックの機械的強度と深さ方向の劣化特性の関係
コネクターのロックの折損割合は、屋外曝露品の場合、初期品及び1ヶ月暴露品では0%であったが、2ヶ月、3ヶ月及び4ヶ月暴露後では、それぞれ20%、60%および80%であった。
熱劣化の場合、180℃×1000時間、200℃×150又は200時間劣化後の折損割合は、それぞれ40%、60%及び100%であり、これ以外の条件ではロックは折損しなかった。
また、屋外曝露においても、反応生成物として4−メトキシ酪酸メチルが検出されたことより、酸無水物が光酸化反応により形成されていることが確認できた。
【0030】
折損したロックと、高温下の条件(1)180℃×750時間、(2)220℃×100時間の熱劣化でも折損しなかったロックについて、表面から深さ方向へ反応生成物を定量した。それぞれの結果を図10及び図11に示す。
屋外曝露試験では、暴露月数の増加と共に、厚み15μmの最表面層での反応生成物量が増加した。また、いずれの月数においても、深さ方向に対する反応生成物の濃度のプロファイルが同じであった。即ち、反応生成物は最表面層(厚み15μm)で最も多いが、45μmまでに急激に減少し、それ以上の深さではほぼ一定の低い値を示した。
【0031】
また、4ヶ月屋外曝露したコネクターの末端COOH基量は、初期品の約3割しか増加していなかった。光酸化における機械的強度の低下は最表面層(厚み15μm)の反応生成物量と相関関係にあることより、折損メカニズムは、著しい劣化によるクラックが最表面層に入り、ノッチ効果により折損するものと推定される。
【0032】
熱酸化に関する反応生成物の濃度プロファイルは、最表面層(厚み15μm)で最も多く、深さ45μmまでの低下が小さく、それ以上の深さでは一層緩やかに低下している。この濃度プロファイルは最近、Gillenら(Clough, R. L. and Gillen, K. T., Polym. Degrad. Stab., 1993, 41, 11)が提案した酸素透過速度の低下による酸素浸透律速効果による不均質酸化現象と一致した。しかし、Barmardら(Barmard, D. and Lewis P.M., In Natural Rubber Science and Technology、A. D. Roberts, Oxford University Press, New York, 1988)、 Mattsonら(Mattson, B. and Stenberg, B., Rubber Chem. Le Tech., 1990, 63, 23)の酸化層の深さは劣化温度が高いほど浅くなるという報告とは、必ずしも一致しなかった。200℃×100時間の表面の酸化層は180℃×750時間のそれより浅くなっていない。機械的強度の低下が大きい200℃×150時間で急激に表面の酸化層の強さが大きくなると共にその厚みも浅くなったが、200時間では厚み方向全体に亘り著しく酸化が進行している。
【0033】
尚、光酸化における濃度プロファイルと比べると、最表面層の濃度が最も多いという点では同じであったが、その後の深さ方向の濃度の低下が少ないという点で著しく異なっていた。よって、熱酸化は光酸化に比べると試料の深さ方向全体にほぼ一様に劣化が進行していることが分かった。
また、200℃×150時間または200時間では、ロックの折損割合が高かった。これは、深さ方向全体の熱酸化による劣化も寄与しているが、主に末端COOH基量の増加に示されるように熱分解により分子の主鎖が切断され機械的強度が低下したことが原因と考えられる。
【0034】
以上のように、光劣化と熱劣化では、機械的強度の低下メカニズムは異なることが分かった。従って、本発明の方法は、光劣化に関しては、機械的強度の低下に与えるその影響を知る上で非常に有効であり、熱劣化では、従来の末端COOH基量を併用することにより、PBTの劣化過程を評価することが可能になる。
【0035】
【発明の効果】
本発明の方法は、試料形態、配合剤などに制限されずに、少量の試料で簡易に迅速に精度よくPBTの劣化度を測定できるため、小型化の進行しているPBT成形品の光及び熱による劣化過程の評価に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で製造したコネクターの斜視図である。
【図2】180℃で750時間熱劣化させたダンベル試験片について、TMAH存在下での熱分解GC/MSでスキャンモードで測定して得た全イオンクロマトグラム(TIC)である。
【図3】(a)は実施例でのPBT分解生成物のMSスペクトルであり、(b)は4−メトキシ酪酸メチル(標準試料)のMSスペクトルである。
【図4】実施例における反応生成物のSIM測定におけるピーク面積と4−メトキシ酪酸メチルの量との関係を示すグラフである。
【図5】実施例において熱劣化させた試料についての、引張強さと劣化時間との関係を示すグラフである。
【図6】実施例において熱劣化させた試料についての、反応生成物量と劣化時間との関係を示すグラフである。
【図7】実施例において熱劣化させた試料についての、末端COOH量と劣化時間との関係を示すグラフである。
【図8】各温度における反応生成物量と末端COOH量との関係を示すグラフである。
【図9】反応生成物及び末端COOH基の生成速度と絶対温度の逆数とのアレニウス・プロットである。
【図10】屋外暴露後のコネクターのロックにおける反応生成物量と厚さとの関係を示すグラフである。
【図11】高温下の条件の熱劣化後のコネクターのロックにおける反応生成物量と厚さとの関係を示すグラフである。
Claims (1)
- ポリブチレンテレフタレートの劣化により発生する酸無水物を、水酸化テトラメチルアンモニウムの存在下に、熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析装置により定量することにより、ポリブチレンテレフタレートの劣化度を測定する方法。
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