JP3562825B2 - 殺菌殺藻剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、トリス(ヒドロキシプロピルまたはブチル)アルキルホスホニウム塩を有効成分とする殺菌殺藻剤に関するものである。
【0002】
【従来技術】
現在、医療用としては勿論のこと、工業、農業、食品等の様々な分野で実に多種類の殺菌剤が使用されている。
従来から使用されてきた殺菌剤の大部分は、高い毒性を持った殺菌剤であったが、最近では、環境汚染の問題および経済性の問題から、使用濃度が低くても充分な抗菌活性を示す殺菌剤の開発が望まれている。
また、従来よりホスホニウム塩化合物を、抗菌製剤の活性成分として使用することは知られており、細菌類、真菌類、藻類に対して広い活性スペクトルを持っている。これらは一般工業材料や工業用水、あるいはパルプや紙の製造の工程水や用水等の殺菌剤として利用されており、例えば米国特許第3281365号明細書、特開昭57−204286号公報、特開昭62−114903号公報、特開昭63−60903号公報、特開平2−240090号公報等がある。なかでもテトラキスヒドロキシメチルホスホニウムサルフェート(以下、THPSと略す)は、水処理用殺菌剤(商標:トルサイドPS)として市販されている。
また、ホスホニウム塩化合物と構造的に似ている含窒素化合物、特に第四級アンモニウム塩やアミン塩も殺菌剤としてよく知られており、例えばアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム)やジn−デシルジメチルアンモニウムクロライド等が主に用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記ホスホニウム塩化合物は、短時間の接触での殺菌殺藻効果が未だ充分でない。特に有機物が高濃度で存在する系では殺菌殺藻効果が著しく低下してしまい、その用途も極めて限定してしまう欠点を有している。
また、前記の第四級アンモニウム塩化合物は、ある程度の殺菌効果を有しているものの、ある使用濃度において泡立ちやすいという性質を有しているために、その用途も限定される。しかも、第四級アンモニウム塩化合物は、特にマイナスに帯電した物質表面に吸着されやすい性質があるため、吸着による薬剤濃度の低下やそれによる殺菌効果の低下という欠点を有している。
本発明者らは、上記のような課題を解決し、広い殺菌殺藻スペクトルを有し、且つ短時間の接触で十分な殺菌殺藻効果を有し、医療用を含めた幅広い分野に適用できる殺菌殺藻剤を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ある種のヒドロキシアルキルホスホニウム塩化合物が、近縁のホスホニウム塩化合物や第四級アンモニウム塩と比較して極めて強力な殺菌殺藻力と広い殺菌殺藻スペクトルを有し、さらに冷却塔のように激しく攪拌される場合でも、泡立ちが少なく、且つ臭いの少ないことを知見し本発明を完成した。
すなわち、本発明が提供しようとする殺菌殺藻剤は、下記一般式(1)
(HOR
(式中、Rプロピレン基またはブチレン基、Rは炭素原子数12〜18の直鎖または分岐状のアルキル基、Xは無機酸または有機酸の陰イオンを示す)で表されるトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩を有効成分とすることを特徴として構成するものである。
【0005】
以下、本発明を更に説明する。
本発明の殺菌殺藻剤の有効成分である(1)式において、式中Rは、プロピレン基またはブチレン基である。また、Rはドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等の炭素原子数12〜18のアルキル基である。
【0006】
は、無機または有機の陰イオンであり、例えばフッ素、塩素、臭素またはヨウ素のハロゲンイオン、ギ酸、酢酸、蓚酸等のカルボキシルイオン、硫酸イオン、リン酸イオン、メチルまたはジメチルリン酸イオン、エチルまたはジエチルリン酸イオン、フッ化アンチモンイオン、フッ化リンイオン、フッ化ヒ素イオン、フッ化ホウ素イオン、過塩素酸イオン等が挙げられ、中でもハロゲンイオンが好ましい。
【0007】
かかるトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩としては、例えば、
トリス(3−ヒドロキシプロピル)n−テトラデシルホスホニウムクロライド、
トリス(3−ヒドロキシプロピル)n−ヘキサデシルホスホニウムクロライド、
トリス(3−ヒドロキシプロピル)n−オクタデシルホスホニウムクロライド、
トリス(4−ヒドロキシブチル)n−ヘキサデシルホスホニウムブロマイド、
トリス(3−ヒドロキシプロピル)n−ヘキサデシルホスホニウムブロマイド、
トリス(3−ヒドロキシプロピル)n−ドデシルホスホニウムクロライド、
トリス(3−ヒドロキシプロピル)n−ヘキサデシルホスホニウムフロリド、トリス(4−ヒドロキシブチル)n−ヘキサデシルホスホニウムクロライドなどが挙げられる。
【0008】
上記(1)式に係るトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩において、例えば式中Rプロピレン基、Rの炭素数16〜18のアルキル基の組み合わせが優れた殺菌殺藻力を示し、特にトリス(3−ヒドロキシプロピル)n−ヘキサデシルホスホニウムクロライドの殺菌殺藻効果が最も高い。
【0009】
本発明の殺菌殺藻剤の製造方法
本発明の殺菌殺藻剤であるトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩は、いかなる方法で製造してもよいが、工業的な製法として以下にその一例を示す。
一般式(2)
(HOR
(式中Rは前記と同義を示す。)で表されるトリス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンと、一般式(3)

(式中Rは前記と同義を示し、Xはハロゲンを示す)で表されるハロゲン化アルカンとを反応させることにより、本発明の殺菌殺藻剤を得ることができる。
上記一般式(2)と(3)の反応は、溶媒存在下で溶媒の還流温度で15〜48時間反応を行うのがよい。
また、ハロゲン化アルカンは、トリス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンに対して等モルから5倍モル使用するのがよい。
【0010】
適当な有機溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
本発明に係る殺菌殺藻剤は、必要に応じて他の殺菌殺藻剤を組み合わせて使用しても差し支えない。例えば、ジメチルジn−デシルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルn−ドデシルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルn−テトラデシルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、1,5−ペンタンジオール、フェノール、クロルヘキシジン、ポピドンヨード、塩化アルキルポリアミノエチレングリシン、塩素剤等有機系殺菌剤及び銀置換ゼオライト、銀置換アパタイト等の無機系抗菌剤等の1種又は2種以上を併用してもかまわない。
【0011】
また、その製剤においては、必要に応じて、界面活性剤、結合剤、色剤、分散剤、湿潤剤等の助剤を配合しても差し支えない。特に界面活性剤は、洗浄効果を上げるために添加することができるが、その界面活性剤はノニオン系界面活性剤が好ましく、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のポリエチレングリコール、ソルビタン酸脂肪エステル等の多価アルコール、脂肪酸アルキロールアミド等のアミド等が挙げられる。
本発明に係る殺菌殺藻剤は、その製剤の形態によって各種の産業分野、例えば製紙におけるスライム防止又はコントロール剤、水、油脂、エマルジョン、紙、ゴム、プラスチックス、繊維、フィルム、塗料等の防腐、殺菌性の機能を付与させることができる。
【0012】
【作用】
本発明の殺菌殺藻剤は、様々な細菌類、真菌類、藻類、ウィルス等に有効な幅広い活性スペクトルを示し、とくに耐性黄色ブドウ状球菌(MRSA)に対しても優れた殺菌力を示し、例えば細菌類に対しては殺菌及び生育抑制効果を、藻類に対しては殺藻及び防藻効果を示す。
その最小殺菌濃度(MIC)は、トリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩の種類、製剤あるいは各種菌の種類や環境によって一様ではないけれども、トリス(ヒドロキシプロピルまたはブチル)アルキルホスホニウム塩の濃度が0.1ppm以上で発揮され、一般に近縁のホスホニウム塩や第四級アンモニウム塩系の周知殺菌剤に比べて殺菌活性は極めて高い。
しかも、本発明に係るトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩は、熱に対して第四級アンモニウム塩化合物や他の有機化合物と比較して安定であり、例えば分解温度が350℃付近と高いものであり、また化学的にも安定性があるものである。
【0013】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに説明する。
実施例1 トリス(3−ヒドロキシプロピル)n−ヘキサデシルホスホニウムクロライドの合成
300ml容フラスコを十分に窒素置換しながらトリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィン28.9g(0.115mol)、次いで1−クロロヘキサデカン(95.0%)34.9gを加える。
フラスコ内の液温が約150℃になるようにして10時間攪拌し、反応を行った。
反応終了は、未反応のトリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンと二硫化炭素との呈色反応によって確認を行った。
反応終了後、室温まで冷却し結晶を析出させた。析出した結晶を濾過し、(アセトン+メタノール)混合溶媒で溶解させて、さらに5℃まで冷却し結晶を再析出させた。同様な再結晶操作を数回繰り返した後、得られた結晶を室温で真空乾燥(5Torr、5時間)を行った結果、白色の結晶のトリス(3−ヒドロキシプロピル)n−ヘキサデシルホスホニウムクロライドを30.6g(純度96.8%、収率54.9%)を得た。なお、純度測定は、過塩素酸滴定法によって行った。化合物の確認は、H−NMR及びFAB/MASSで行った。
【0014】
実施例 2〜7及び比較例 1〜4
実施例1におけるトリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンの代わりに各種トリス(ヒドロキシアルキル)ホスフィンを、また1−クロロヘキサデカンの代わりに各種ハロゲン化アルカンを用いて実施例1と同様な操作を行って実施例2〜のトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩を得た。
表1に実施例1〜及び比較例1〜4の化合物を示す。
【0015】
【表1】
Figure 0003562825
【0016】
試験 1(細菌、糸状菌に対する殺菌試験)
実施例1〜及び比較例1〜4で得られたトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩について殺菌力試験を行った。試験に用いた菌株の種類及びその試験方法、結果を以下に示す。
(1)供試菌株
産業上及び衛生上特に障害となる細菌類7、糸状菌2種類を選択し、以下に示す9種類の菌株を供試した。
Figure 0003562825
【0017】
(2)試験方法及びその結果
(2−1)試験方法
実施例1〜及び比較例1〜4の試料を正確に秤量し、200μg/mlの水溶液をそれぞれ調製した。この調製液を用い、200、100、50、25、10、5、2.5、1μg/ml濃度に各々希釈して試料液とした。次に、試験管に保存した供試菌株を普通ブイヨン培地(肉エキス3g、ペプトン10gおよび塩化ナトリウム5gを水1000mlに溶解したもの)10mlに1白金耳摂取し、30℃にて48時間振盪培養した後、20℃で保存した液を供試菌の培養液とした。得られた試料液9mlを滅菌した10ml容L字試験管に取り、これに上記の供試菌の培養液1mlを摂取して30℃で30分間作用させた。作用後、この液1mlを滅菌水100ml中に投入し均一に希釈後、この希釈液1mlを採取して作用液とした。これらの作用液中の菌株をそれぞれ以下に示す方法によりさらに培養し、各々の試料における殺菌力を判定した。
【0018】
(2−2)細菌培養
細菌:作用液10μlを滅菌シャーレに取り、細菌用培地(日水製薬トリプトソーヤ寒天培地)15mlを流し固め30℃にて2日間培養した。
糸状菌:滅菌シャーレに糸状菌用(日水製薬ポテトデキストロース寒天培地)15mlを流し固めた後、作用液10μlを加え30℃で4日間培養した。
(2−3)細菌力判定方法及び結果
細菌力の評価は、肉眼で各々の細菌類および糸状菌のコロニーの観察を行い、培地が透明でコロニーが判定できないものを死滅とした。菌が死滅した試料液のうち最も低い濃度をその化合物の最小細菌濃度(MIC)とし、その結果を表1に示す。
また、薬剤濃度1ppmでの30分後の生菌数を測定した結果を表2に示す。
【0019】
【表2】
Figure 0003562825
【0020】
試験 2(藻類に対する殺藻力試験)
実施例1〜及び比較例1〜4で得られたトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩について殺藻力試験を行った。試験に用いた藻の種類及びその試験方法、結果を下記に示す。
(1)供試藻類
緑藻類 Chlorella vulagaris
藍藻類 Oscillatoria chlorina
(2)試験方法及びその結果
上記の緑藻類および藍藻類をDetmer培地に植菌し、25℃の人工気象機内にて培養し供試液とする。
次に、Detmer培地の1/3希釈液[Ca(NO1.0g、KCl0.25g、MgSO・7HO0.25g、KHPO0.25g、FeCl0.002g/HO3L]に、所定濃度になるように薬液と試供液を加え、25℃の人工気象機内にて培養する。培養はスターラーにて常時攪拌を続けて行う。48時間後の藻類の脱色状態を観察し、最も低い濃度を最小殺藻濃度とする。
表3に各薬剤の最小殺藻濃度を示す。
【0021】
【表3】
Figure 0003562825
【0022】
【発明の効果】
本発明に係る殺菌殺藻剤は、使用濃度が低くても十分な殺菌殺藻力を示し、少なくとも0.1ppmの濃度でその効果を示す。しかも、従来のホスホニウム塩化合物や第四級アンモニウム塩化合物と比較して気泡性が少なく、例えば冷却塔のような激しく撹拌される場合でも、泡立ちが少なく、且つ臭いの少ない殺菌殺藻剤である。
本発明の殺菌殺藻剤は、近時、院内感染因子として注目されている耐性黄色ブドウ状球菌(MRSA)に対して殺菌力があるので、この対策上有効な手段を提供することができる。またその他、医療用は勿論のこと、工業用水、パルプや紙の製造の工程水、農業、食品用等の分野に幅広く適用することができる。

Claims (4)

  1. 下記一般式(1)
    (HOR
    (式中、Rプロピレン基またはブチレン基、Rは炭素原子数12〜18の直鎖または分岐状のアルキル基、Xは無機酸または有機酸の陰イオンを示す)で表されるトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩を有効成分とする殺菌殺藻剤。
  2. 一般式(1)における陰イオンがハロゲンイオンである請求項1に記載の殺菌殺藻剤。
  3. トリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩はトリス(3−ヒドロキシプロピル)n−オクタデシルホスホニウムクロライドである請求項1記載の殺菌殺藻剤。
  4. トリス(ヒドロキシアルキル)アルキルホスホニウム塩を少なくとも0.1ppm含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の殺菌殺藻剤。
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