JP3562595B2 - スパッタ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はスパッタ装置に関し、特に、半導体デバイスや電子部品等で素子や配線となる薄膜を形成するスパッタ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図4を参照して従来の一般的なスパッタ装置の構成と作用を説明する。処理室11を形成する真空容器12の下壁の孔13の箇所に、絶縁性の真空シール部材14を介してカソード電極機構15を設ける。カソード電極機構15は、裏板16を備えたカソード本体17と、裏板16上に配置されたターゲット18と、裏板16の背面外側に設けられたマグネット19を備える。マグネット19は、棒状の中心磁石(上面がN極)と中心磁石を囲むように配置された環状の周囲磁石(上面がS極)とによって構成される。ターゲット18は、下壁の孔13から処理室11内に臨む。カソード本体17と接地20との間には直流電源21が接続され、これによりカソード本体17、裏板16、ターゲット18は所定の負電位に保持される。
【0003】
カソード電極機構15のターゲット18の上方位置には、図示しない基板搬入・搬出機構によって処理室11内に導入された基板22が、ターゲット表面に対向する状態で配置される。基板22は基板トレイ23で支持されている。また処理室11内にはガス導入機構24によってプロセスガスが導入される。さらにターゲット18と基板22の間には、例えばリング板形状のアノード電極25が配置され、アノード電極25は直流電源26によって所定の正電位に保持される。また真空容器12は接地27に接続され、接地電位に保持されている。28はアノード電極25に電圧を印加する導線29を通すための端子部である。
【0004】
処理室11内にプロセスガスを導入し、ターゲット18を負電位に保持した状態において、ターゲット18の上にはマグネット19によって生成される磁界に対応してプラズマが生成される。プラズマ内のイオンが負電位のターゲット18に衝突すると、ターゲット18から電子が放出され、放出された電子の一部がターゲット18の負電位により反発・加速されて、基板22に衝突する。
【0005】
またターゲット18の上では、直交する電界と磁界の作用で電子にローレンツ力が加わり、電子の運動軌道がサイクロイド状の軌道をとる。その結果、ターゲット18の近傍で、磁界がない場合に比較してより多くの衝突・電離を繰り返す。その際、アルゴンイオン(Ar)、電子、ターゲットが酸化物かまたは酸素を用いるリアクティブスパッタの場合には酸素イオン(O,O 等)が発生し、これらがプラズマを形成する。アルゴンイオンは、負電位にあるターゲット18中の金属原子または酸化物原子をはじき飛ばす。そして、はじき飛ばされた原子は基板22に付着し、薄膜が形成される。また電子や酸素負イオンは、ターゲット18の負電位(Vcath)により反発され、加速され、浮遊電位(V) または接地電位(V) にある基板22にV−VcathまたはV−Vcathの電圧差で入射し、成膜された薄膜を再スパッタする。
【0006】
負イオン等に関する再スパッタついては、次のような問題が提起される。
【0007】
基板上の薄膜が化合物の場合には、組成比を変えてしまう等のダメージを与えるという報告がなされている。例えば、酸化物超電導膜であれば、YBa Cu Oの例がS.M.Rossnagel and J.J.Cuomo, American Institute of Physics, 1988, PP106−113 、透明電導膜であれば、S.Ishibashi,etc., ”Proc,1st Int´l Symp, on ISSP ´91 Tokyo, 1991, PP153−158に報告されている。
【0008】
また、成膜時にはターゲットに衝突したArがその電荷を失い、スキャッタして高速度のAr原子として基板上に成膜した薄膜を再びスパッタする現象も報告されている。例えば、D.W.Hoffman and J.S.Badgley, J.Vac.Sci.Technol. A6(3),May/June,1988, PP1691−1692にはターゲットからのスキャッタ原子の再スパッタが報告されている。またアルゴンイオン(Ar)は、基板上の薄膜にプラズマ電位と浮遊電位の差(V−V)のエネルギで衝突するので、Arも膜特性に関与していると考えられる。例えば大見忠弘、NIKKEI MICRODEVICES, 10 月号,1990,PP108−114 にはSi成膜で、良好な膜の特性を得るために最適のイオンエネルギがある等の報告がある。
【0009】
以上に述べたように、従来のスパッタ装置では、高エネルギ電子や高エネルギ負イオンや高エネルギ反跳中性原子が再スパッタによって、基板上の薄膜の膜質に影響するという報告がなされている。従って膜質を改善するには、(1)高エネルギの負の荷電粒子を取り除く、(2)基板に衝突する高エネルギ粒子のエネルギを低下させる、(3)Arイオンエネルギ量を最適にコントロールする等の改善法が考えられる。上記の(1)と(2)の改善法は、基板上の薄膜における高エネルギ粒子による膜のダメージを軽減することによって膜質を改善する。(3)の改善法は、最適なイオンエネルギを有するイオンを基板へ照射することによって膜質を改善する。
【0010】
また特開平4−254579号公報には、基板とターゲット間にアノード電極を配置し、アノード電極に、ターゲットの印加電位よりも高い正電位を印加する構成を有した成膜装置が開示される。この成膜装置によれば、従来のスパッタ装置に比較して、低抵抗のITO膜を得ることができる。アノード電極を基板とターゲットの間に配置することにより、(1)負の荷電粒子を集め、高エネルギの負の荷電粒子の数を減らせる、(2)ターゲット上の放電インピーダンスを低くできる、(3)プラズマ電位を制御できる、(4)基板近傍のプラズマ密度を増加できる等の効果を生じさせることができる。このようにして基板とターゲットの間にアノード電極を設けることにより、膜特性を改善できる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、図4に示した従来装置の構成を有するインライン装置において、基板とターゲットの間にアノード電極を挿入し、ターゲットにITOターゲット(Inと10%wtSnO)を使用し、プロセスガス(ArとO)を用いて、成膜実験を行った。その結果、アノード電極に正電圧を印加すると、搬送中の基板トレイや基板の上にアーク状の異常放電が継続的に発生し、基板に成膜される薄膜において膜厚変化や抵抗率等の膜特性に変化が生じたり、基板がガラス基板である場合には異常放電によるキズが基板に生じたりして、成膜の再現性、信頼性に関して問題を生じた。また異常放電の際に膜剥れが発生し、パーティクルの発生原因の一つとなった。このように、従来装置の構成によるインライン装置ではアノード電極を設けるだけでは各種の問題が生じ、実際の生産装置としては実用性が極めて低いという不具合がある。
【0012】
本発明の目的は、上記問題を解決するため、基板とターゲットの間にアノード電極を挿入した構成において、基板トレイとアノード電極の間または基板とアノード電極の間での異常放電の発生を防止し、再現性、信頼性、安定性の優れた薄膜を量産できる実用性の高いスパッタ装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るスパッタ装置は、上記の目的を達成するために、ターゲットとこのターゲット上に磁界を生成するマグネットとを含むカソード電極機構と、プロセスガスを導入するガス導入機構と、カソード電極機構に電圧を印加する電源を備え、磁界および電圧によりプロセスガスをプラズマ化し、このプラズマによってターゲットをスパッタし、ターゲットに対向して配置された基板に薄膜を作製するスパッタ装置であり、ターゲットと基板の間に正電圧が印加された第1電極(アノード電極)を配置し、この第1電極と基板の間に接地電位の第2電極(接地電極)を配置するように構成される。
【0014】
前記の構成において、好ましくは、第1電極と第2電極はリング板形状で形成され、かつ第1電極と第2電極は少なくとも一部が重なるように平行に配置される。
【0015】
【作用】
本発明では、正電位に保持される第1電極によって高エネルギの負の荷電粒子を吸収し基板に衝突する負の荷電粒子の数を低減すると共に、接地電位に保持される第2電極によって第1電極と基板または基板トレイとの間に生じる異常放電を抑制する。異常放電の発生を防止することにより、作製される薄膜の再現性、信頼性、安定性を高め、膜剥れの発生を抑制する。
【0016】
【実施例】
以下に、本発明の好適実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は本発明に係るスパッタ装置の第1の実施例を示す。図1において、図4で説明した要素と実質的に同一の要素には同一の符号を付している。
【0018】
処理室11を形成する真空容器12の下壁の孔13に真空シール部材(絶縁部材)14を介してカソード電極機構15を設ける。カソード電極機構15は、裏板16を備えたカソード本体17とターゲット18とマグネット19を備える。ターゲット18は、ITO膜を作製するためには、例えばInと10%wtSnOで形成される。マグネット19は棒状の中心磁石と環状の周囲磁石によって構成される。ターゲット18は孔13から処理室11内に臨む。カソード本体17と接地20との間には直流電源21が接続され、カソード本体17、裏板16、ターゲット18は負電位に保持される。ターゲット18の上方位置には、基板トレイ23に支持された基板22が対向状態で配置される。処理室11内にはガス導入機構24によってプロセスガス(ArとO)が導入される。また真空容器12は接地27に接続され、接地電位に保持されている。
【0019】
ターゲット18の表面上にはマグネット19によって磁力線30が分布しており、磁界が生成される。マグネット19によってターゲット表面上に生成される磁界は環形状またはドーナツ形状を有している。なおマグネット19として、ターゲット上でターゲット面に平行な磁界強度が約1000Gauss 以上となるものが使用されることが好ましい。
【0020】
ターゲット18と基板22の間には、直流電源26によって所定の正電位に保持された例えばリング板形状のアノード電極25が配置される。アノード電極25に電圧を印加する導線29は電流導入端子部28を通って配線される。
【0021】
またアノード電極25と基板22の間には、さらに、例えばリング板形状の接地電極31が配置される。接地電極31はアノード電極25に対して平行に配置され、かつ好ましくは接地電極31の一部がアノード電極25と重なるように配置される。接地電極31は導線32によって真空容器12に接続される。真空容器12は接地されているので、接地電極31も接地電位に保持される。ターゲット18とアノード電極25の間、およびアノード電極25と接地電極31の間には、例えばリング形状の絶縁部材33a〜33dが介設され、ターゲット18、アノード電極25、接地電極31のそれぞれの位置関係を保持している。絶縁部材33a〜33dには、例えば耐熱性の高いセラミックス、例えばアルミナセラミックス等が使用される。
【0022】
上記のスパッタ装置の動作を説明する。図示しない排気機構によって真空容器12内の処理室11を排気する。処理室11を所望の圧力まで排気した後、ガス導入機構24によってプロセスガスを所定の圧力まで導入する。その後、アノード電極25に対し直流電源26から端子部28および導線29を通して所望の正の直流電圧を印加する。基板トレイ23に支持された基板22をターゲット18上に移動させながら、ターゲット18から飛び出したスパッタ原子を基板22に付着させて薄膜を作製する。またアノード電極25と基板22の間に挿入・配置された接地電極31により、異常放電の発生を防止することができる。
【0023】
上記に対して、接地電極31の代わりに正電位のアノード電極を配置した場合には、「発明が解決しようとする課題」の箇所で説明した通り、基板22、基板上の薄膜、アノード電極25、基板トレイ23の各々の上にアーク状の異常放電が発生し、正常な成膜を行うことが困難であることが実験的に見出された。
【0024】
接地電極31を設けない図4に示した構成で、安定放電状態にてアノード電極25に正電圧Vを印加し、Inと10%wtSnOを含むターゲット18を用いてターゲット電圧、ターゲット電流、アノード電極電流(I)への効果を調べてみると、アノード電極電流Iのアノード電極電圧Vに対する依存特性において、IはVの増加に伴って単調に増加し、Iの増加に伴ってターゲット電流が増加するという結果が得られた。すなわち、アノード電極25からの電力投入より放電インピーダンスが小さくなり、プラズマがターゲット18の上方に広がりかつ高密度化され、増加したイオンがターゲット18に流入するために、ターゲット電流が増加し、ターゲット電圧が減少するという現象が見られた。なお上記の場合、ターゲット電力を0.45KW、圧力を1〜5mTorr 、アルゴン/酸素流量を105/0.5sccmとした。
【0025】
以上のことから、明細書の「従来の技術」の箇所で記述した高エネルギの負の荷電粒子を、次の2つの理由により抑制できる。第1に、ターゲットの放電インピーダンスを減少し、ターゲット電圧を低くすること、第2に、アノード電極が負の荷電粒子を吸収し、基板に入射される高エネルギの負の荷電粒子量を減少することである。従って、アノード電極25を設けることにより基板22における負の荷電粒子の衝突エネルギを減少させることができる。実際に目視ではあるが、アノード電極25の電位を高めると、プラズマがシールド間全体に広がり基板22近傍のプラズマ密度が増大することが確認できた。そのため、基板22に衝突するArイオンの数が増大し膜質を変えることが確認された。
【0026】
本実施例では、図1に示すように、前述のアノード電極25をターゲット18と基板22の間に配置し、さらにアノード電極25の上に複数のリング状絶縁部材33a〜33dを介して接地電極31を配置するようにしたため、異常放電の発生を防止することが可能となり、成膜の再現性を良好にし、異常放電のない安定な状態で低抵抗の薄膜を得ることができる。ターゲット18がInと10%wtSnOからなる材料で作られ、プロセスガスにArとOが使用された場合、作製される薄膜はITO膜となる。
【0027】
ターゲット18の材料は、(In+10%wtSnO)に限定されるものではない。また、接地電極31とアノード電極25の形状は、ターゲットのエロージョン部を囲むような前述のリング状電極でもよく、あるいは平板状の2本の電極を平行に配置してもよい。各電極の形状等は、プラズマ分布を考慮して、最適形状とする。この場合、接地電極31とアノード電極25の配置関係は任意に設定することができる。
【0028】
図2および図3は他の実施例を示す。図2および図3で、接地電極およびアノード電極については図1と同様な符号を付す。図2の実施例では、リング板形状の接地電極31の内縁および外縁がアノード電極25の内縁および外縁よりも内方または外方へ延設され、アノード電極25を安全に覆った実施例を示す。接地電極31はアノード電極25よりも広い幅を有する。33eは例えばリング状(棒状またはブロック状)の絶縁部材である。図3の実施例では、リング形状の接地電極31とアノード電極25の電極幅を等しくしている。
【0029】
また本発明によるスパッタ装置ではターゲットの取付位置を特に限定しない。すなわち、ターゲット18の取付位置が上置または横置等であっても、ターゲット、アノード電極、接地電極、基板の相対位置が上記実施例と同様な位置関係に維持されれば、本発明を適用することができる。
【0030】
以上のように、アノード電極25を設けることにより、プラズマ電位の低減、カソード電極のインピーダンスの低減、負の高エネルギ荷電粒子の基板入射量の制御を行えると共に、アノード電極25の上方に接地電極31を設けることにより、基板トレイ23とアノード電極25の間、基板22とアノード電極25の間の異常放電を防止し、薄膜作製における再現性および信頼性を高め、パーティクルの発生を低減することができる。
【0031】
前記実施例ではスパッタ装置に関して説明したが、本発明による電極構造はCVD装置、エッチング装置等の成膜装置に適用することができる。
【0032】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように本発明によれば、正電圧を印加した第1電極(アノード電極)と基板の間に負電位の第2電極(接地電極)を設けたため、異常放電の発生を防止し、安定性、再現性、信頼性の優れた膜質を有する薄膜を量産することができ、膜剥れを低減することができ、実用性の高い成膜装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るスパッタ装置の第1実施例を示す縦断面図である。
【図2】アノード電極と接地電極の配置構造の他の実施例を示す縦断面図である。
【図3】アノード電極と接地電極の配置構造の他の実施例を示す縦断面図である。
【図4】従来のスパッタ装置の縦断面図である。
【符号の説明】
11 処理室
12 真空容器
15 カソード電極
17 カソード本体
18 ターゲット
19 マグネット
22 基板
23 基板トレイ
24 ガス導入機構
25 アノード電極
31 接地電極
33a〜33e 絶縁部材

Claims (2)

  1. ターゲットとこのターゲット上に磁界を生成するマグネットとを含むカソード電極機構と、プロセスガスを導入するガス導入機構と、前記カソード電極機構に電圧を印加する電源を備え、前記磁界および前記電圧により前記プロセスガスをプラズマ化し、このプラズマによって前記ターゲットのターゲット物質をスパッタし、前記ターゲットに対向して配置された基板上に薄膜を作製するスパッタ装置において、
    前記ターゲットと前記基板の間に正電圧が印加された第1電極を配置し、この第1電極と前記基板の間に接地電位の第2電極を配置したことを特徴とするスパッタ装置。
  2. 請求項1記載のスパッタ装置において、前記第1電極と前記第2電極はリング板形状で形成され、かつ前記第1電極と前記第2電極は少なくとも一部が重なるように平行に配置されることを特徴とするスパッタ装置。
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